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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-16
(45)【発行日】2022-05-24
(54)【発明の名称】機器の洗浄方法
(51)【国際特許分類】
   C23G 5/02 20060101AFI20220517BHJP
   B08B 9/032 20060101ALI20220517BHJP
   B08B 3/08 20060101ALI20220517BHJP
【FI】
C23G5/02
B08B9/032 321
B08B3/08 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018055803
(22)【出願日】2018-03-23
(65)【公開番号】P2019167577
(43)【公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 豪
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 少謙
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-061470(JP,A)
【文献】特開平11-241194(JP,A)
【文献】特開2012-017483(JP,A)
【文献】特開2013-136822(JP,A)
【文献】特開2003-055783(JP,A)
【文献】特開昭49-023778(JP,A)
【文献】特開昭59-208084(JP,A)
【文献】特開平05-023648(JP,A)
【文献】特開2014-097442(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23G、B08B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素系スラッジが付着した機器を洗浄液で洗浄する方法において、
前記洗浄液が、水と水溶性有機溶剤を含む機器の洗浄方法であって、
前記水溶性有機溶剤が水溶性ケトンであり、
前記洗浄液中に含まれる水及び水溶性有機溶剤の合計の割合が、90重量%以上であり、
前記洗浄液に含まれる水と水溶性有機溶剤の重量比が10/90~60/40であることを特徴とする機器の洗浄方法。
【請求項2】
前記水溶性ケトンがアセトンである請求項に記載の機器の洗浄方法。
【請求項3】
前記炭化水素系スラッジ中の無機成分の割合が、1~30重量%である請求項1又は2に記載の機器の洗浄方法。
【請求項4】
前記炭化水素系スラッジ中の有機成分が、芳香族成分を50~99重量%含む請求項1~の何れか1項に記載の機器の洗浄方法。
【請求項5】
前記機器が、配管又はストレーナである請求項1~の何れか1項に記載の機器の洗浄方法。
【請求項6】
前記機器が、配管である請求項に記載の機器の洗浄方法。
【請求項7】
前記洗浄液による洗浄速度が、線速1~120cm/sである請求項1~の何れか1項に記載の機器の洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素系スラッジが付着した機器を洗浄する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油精製プラントにおいて、重質炭化水素系の原料を処理する装置である減圧蒸留装置、流動接触分解装置、コーキング装置等に組み込まれる熱交換器、ストレーナ、送出配管等の機器では、その内部のチューブ等の内表面に高粘性の油分を含む重質炭化水素系の付着物(以下、炭化水素系スラッジとする。)が付着する。この炭化水素系スラッジが付着した機器類では、送出量などが低下し、プラント全体の生産効率にも影響を及ぼすため、定期的にプラントを一定期間停止して、機器類の洗浄を実施している。
【0003】
従来、この機器類の洗浄は、物理的に汚れを落とす機械洗浄法や、化学的に汚れを落とす化学洗浄法によって実施されている。機械洗浄法には、高圧水を小径ノズルにより連続的に噴射し、水の衝突力によりスラッジを除去するジェット洗浄法、砂、アルミナ、鋼球などの研削材を高速で噴射し、その衝突力でスラッジを除去するブラスト洗浄法、管内にピグを水や空気で圧送しスラッジを除去するピグ洗浄法、カッターやブラシを回転させてスラッジを除去する切削洗浄法などがある。化学洗浄法には、界面活性剤を主とする化学薬品を用いてスラッジを溶解させて除去する洗浄方法と、プラント内余剰油を用いて溶解させて除去する洗浄方法がある。
【0004】
しかしながら、炭化水素系スラッジを洗浄対象にした場合、従来の機械洗浄法、化学洗浄法では、以下のような課題があった。
即ち、機械洗浄法では、いずれの方法を採用しても、高粘性のスラッジを除去するには多大な時間と費用がかかった。例えば、石油精製プラントの常圧蒸留装置あるいは減圧蒸留装置の塔底油とその供給原料油との熱交換器のチューブでは、内外面の汚れを除去するために、プラント全体の補修のための運転停止時やプラント運転中に一部の機器のみを停止させて遮断した後に機器解放し、水ジェット洗浄を行っていた。機器開放とは、機器内部の内容物を抜き出してシェルカバーを取り外し、チューブバンドルを引き出す作業のことである。この機器開放および洗浄後の機器設置には大型建機を必要とし、さらにチューブバンドルの挿入には細心の注意を必要とする。しかも、機器開放時には、引火物質が所定濃度以下であることの確認等が必要であり、これらの作業を行う場合には多大な時間と費用が必要であった。また、これら作業時の重量物の移動、清掃作業、廃水処理作業、高圧ジェット作業等による作業員への危険性の問題もあった。また、機器開放作業によりプラントを停止させる必要があり、そのために操業効率が低下するという問題もあった。
【0005】
また、化学洗浄法では、一般に炭化水素系スラッジの溶解除去効率は十分ではなく、従来の化学薬品を用いる場合、除去効率を上げるために、例えば、洗浄処理温度を80℃程度に保持しなければならなかった。また、従来の化学薬品を用いた洗浄液には環境汚染の危険性があり、洗浄処理後の洗浄廃液を環境汚染の危険がないように処理しなければならず、そのための費用がかかった。その上、これらの化学薬品は高価なものであるため全体のコストが高くなってしまうという問題もあった。
また、プラント内余剰油を用いる洗浄では溶解度が不十分であり、さらに無機系の固形物を洗浄除去できないため、配管洗浄時には閉塞などが懸念される。
【0006】
特開2001-139604号公報、特開2004-83569号公報では、付着物を溶解させるための溶剤と、物理的に剥離させるための固形物質とを併用しているが、この方法では添加した固形物質の除去が課題となる。
特開平11-207275号公報では水溶性溶剤を用いているが、温度制御が必要であり、ある温度以下では油水分離するため、排水への悪影響を考慮する必要がある。また、洗浄対象が界面活性剤を含む水溶性油脂に限られる。
特開平11-241194号公報では石油系炭化水素と含酸素極性有機化合物を有効成分とする混合物を用いて洗浄を実施しているが、この混合物を用いて無機系物質を含有するスラッジを洗浄しても、析出物が多く配管やフィルターの閉塞原因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2001-139604号公報
【文献】特開2004-83569号公報
【文献】特開平11-207275号公報
【文献】特開平11-241194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記従来技術の課題を解決し、プラント内の重質油が通過する配管やストレーナなどの機器に付着した炭化水素系スラッジを効率的に洗浄除去することができ、無機成分を含む炭化水素系スラッジであっても効果的な洗浄を行える機器の洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題を解決すべく検討を重ね、水と水溶性有機溶剤を含む洗浄液を用いることで機器類に付着した炭化水素系スラッジを効率的に洗浄除去できることを見出した。
即ち、本発明は以下を要旨とする。
【0010】
[1] 炭化水素系スラッジが付着した機器を洗浄液で洗浄する方法において、前記洗浄液が、水と水溶性有機溶剤を含むことを特徴とする機器の洗浄方法。
【0011】
[2] 前記水溶性有機溶剤が水溶性ケトンである[1]に記載の機器の洗浄方法。
【0012】
[3] 前記水溶性ケトンがアセトンである[2]に記載の機器の洗浄方法。
【0013】
[4] 前記洗浄液中に含まれる水及び水溶性有機溶剤の合計の割合が、90重量%以上である[1]~[3]の何れかに記載の洗浄方法。
【0014】
[5] 前記洗浄液に含まれる水と水溶性有機溶剤の重量比が、10/90~60/40である[1]~[4]の何れかに記載の機器の洗浄方法。
【0015】
[6] 前記炭化水素系スラッジ中の無機成分の割合が、1~30重量%である[1]~[5]の何れかに記載の機器の洗浄方法。
【0016】
[7] 前記炭化水素系スラッジ中の有機成分が、芳香族成分を50~99重量%含む[1]~[6]の何れかに記載の機器の洗浄方法。
【0017】
[8] 前記機器が、配管又はストレーナである[1]~[7]の何れかに記載の機器の洗浄方法。
【0018】
[9] 前記機器が、配管である[8]に記載の機器の洗浄方法。
【0019】
[10] 前記洗浄液による洗浄速度が、線速1~120cm/sである[1]~[9]の何れかに記載の機器の洗浄方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、従来の芳香族炭化水素系有機溶剤よりも炭化水素系スラッジの溶解性が高く、有機物・無機物の両方に対して高い溶解性を示す洗浄液を用いて、各種プラントの機器類に付着した炭化水素系スラッジを効率的に洗浄除去することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明の機器の洗浄方法の実施の形態を詳細に説明する。
【0022】
<洗浄液>
本発明で用いる洗浄液(以下、「本発明の洗浄液」と称す場合がある。)は、水と水溶性有機溶剤とを含むものである。
【0023】
本発明の洗浄液に含まれる水溶性有機溶剤は水溶性であればどのようなものでもよいが、特に水溶性ケトンが好ましい。その中でもアセトン、メチルエチルケトンが好ましく、さらに好ましいのはアセトンである。水溶性有機溶剤は1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0024】
アセトン等の水溶性有機溶剤は、純度95%以上の高純度品であることが好ましい。また、水についても、純度95%以上の水が好ましい。
【0025】
本発明では、水溶性有機溶剤及び水として、上記の通り高純度品を用い、洗浄液中の水と水溶性有機溶剤との合計の割合が90重量%以上、特に93重量%以上、とりわけ95重量%以上の洗浄液を用いることが、洗浄効果の面で好ましい。なお、この割合の上限は100重量%であるが、実用上95重量%程度である。
【0026】
また、本発明の洗浄液に含まれる水と水溶性有機溶剤の重量比(水/水溶性有機溶剤)は10/90~60/40、特に12/88~55/45、とりわけ15/85~35/65の範囲であることが好ましい。上記範囲内であれば、水と水溶性有機溶剤との混合溶液を用いることによる炭化水素系スラッジの洗浄除去効果を有効に発揮させることができる。
【0027】
<洗浄対象機器>
本発明の洗浄液で洗浄する機器は、炭化水素系スラッジが付着した機器であり、例えば、石油精製プラントの重質炭化水素系スラッジが付着した常圧蒸留装置、減圧蒸留装置、流動接触分解装置、コーキング装置等に組み込まれる熱交換器などの機器、特にストレーナや配管等が挙げられるが、何らこれらに限定されるものではない。
【0028】
これらの洗浄対象の配管は、通常、炭素鋼またはSUS製であり、その径は1~10インチ程度である。これらの配管は直管に限らず曲管であってもよい。また、途中に高低差が存在するものであってもよい。ストレーナも同様に通常炭素鋼またはSUS製である。
【0029】
これらの機器に付着した炭化水素系スラッジは、通常、有機成分と無機成分から構成され、有機成分は芳香族成分を含む。無機成分は主にアルカリ金属化合物やアルカリ土類金属化合物から構成されるが、特にナトリウム化合物である場合が多い。
【0030】
本発明で洗浄除去とする炭化水素系スラッジは、無機成分を1~30重量%、特に1.5~20重量%含むものであることが固形物析出と油水分離を抑える観点から好ましい。
また、炭化水素系スラッジ中に含まれる有機成分のうちの50~99重量%、特に60~95重量%が芳香族成分(即ち、ナフタレン等の芳香族化合物)であると高い洗浄効果が得られる。
【0031】
<洗浄方法>
本発明の洗浄液による洗浄方法については特に制限はないが、例えば洗浄対象が配管の場合は、配管内に本発明の洗浄液を流通させる方法が挙げられる。
この場合、本発明の洗浄液を調製容器(例えばドラム缶)又はローリー車にて直接調製し、調製した洗浄液をポンプでノズルや注入口から配管内に注入する。必要に応じて洗浄液を循環洗浄してもよい。
【0032】
本発明の洗浄液による洗浄速度は、線速で1~120cm/s、特に2~100cm/sであることが好ましい。この洗浄速度が上記下限以上であればより高い洗浄能力が得られ、上記上限以下であれば、洗浄中の剥離により、炭化水素系スラッジが沈降しても、この沈殿物がその場にとどまり易くなり、後段で上昇配管など抵抗が生じやすい箇所での凝縮による閉塞が抑えられ好ましい。
【0033】
本発明の洗浄液による洗浄後は、窒素等の気流で乾燥させるか、或いはアセトン等の洗浄液に用いた水溶性有機溶剤を流通させて置換洗浄することで水分を除去する。
【0034】
本発明の洗浄液による洗浄の終点、即ち、本発明の洗浄液の洗浄力の終点は、洗浄に用いた洗浄液、例えば配管系の排出口から排出された洗浄液の炭化水素成分の溶解濃度から確認することができる。
【実施例
【0035】
以下に実験例及び実施例を挙げる。
【0036】
なお、以下の実験例において、炭化水素系スラッジは、石油プラントの送出配管の内壁の付着物を採取して用いた。この炭化水素系スラッジは、芳香族成分(ナフタレン等)を80重量%含む有機成分を主体とし、ナトリウム、硫黄等の無機成分を5重量%含む有機・無機混合スラッジであることを熱分解GC-MS、XRFにより確認している。
【0037】
また、この炭化水素系スラッジの溶解度は、それぞれの供試液(混合溶液又は重質油)を用いて炭化水素系スラッジを溶解して調製した濃度既知の複数種類のサンプル(具体的には、炭化水素系スラッジ濃度0.005、0.01、0.025、0.05、0.1重量%のサンプル)のUV吸光度から予め作成した検量線を用いて求めた。
【0038】
また、アセトンとしては純度99%のものを用い、水としては純度99%の純水を用いた。
【0039】
[実験例1]
50mlのサンプル瓶に10gの炭化水素系スラッジを入れ、スパチュラで平らにならした。重量比にてアセトン70重量%、水30重量%の混合溶液を10g加え、上記サンプル瓶のふたを閉め、水平にして振とう器に設置し、一時間振とうさせた。振とう後遠心分離をかけた上澄み液を濾過し、濾液を重量比にて1000倍に希釈してUV吸光度から炭化水素系スラッジの溶解度を求めたところ、20重量%(1000倍希釈で0.02重量%)であった。即ち、アセトン70重量%、水30重量%の混合溶液に対する炭化水素系スラッジの飽和溶解度は20重量%であることが確認された。
再度50mlのサンプル瓶に2gの炭化水素系スラッジを入れ、スパチュラで平らにならした。重量比にてアセトン70重量%、水30重量%の混合溶液を8g加え、上記サンプル瓶のふたを閉め、水平にして振とう器に設置し、一時間振とうさせ、飽和溶液を調製した。この飽和溶液は油水分離せず、固形分の析出はなかった。
【0040】
[実験例2~5]
実験例1において、表1に示すアセトンと水の混合割合の混合溶液を用いて同様にそれぞれの混合溶液に対する炭化水素系スラッジの飽和溶解度を調べたところ、表1に示す飽和溶解度であることを確認した。
次いで、実験例1と同様に、それぞれの混合溶液の飽和溶液を調製して油水分離および固形物析出の有無を確認したところ、表1に示す通りであり、いずれの混合溶液も、飽和溶液の状態でも溶解性に問題がないことから、機器に付着した炭化水素系スラッジの洗浄除去に有効に使用できることが確認された。
【0041】
[比較実験例1]
50mlのサンプル瓶に10gの炭化水素系スラッジを入れ、スパチュラで平らにならした。芳香族系重質油を10g加え、上記サンプル瓶のふたを閉め、水平にして振とう器に設置し、一時間振とうさせた。振とう後遠心分離をかけた上澄み液を濾過し、濾液を重量比にて1000倍に希釈しUV吸光度から溶解度を求めたところ5重量%で、殆ど溶解しなかった。また、上澄み液には固形分の析出が見られ、その量は実験例5における飽和溶液よりも多いことを目視で確認した。
この結果から、重質油は炭化水素系スラッジの洗浄には不適当であることが分かる。
【0042】
【表1】
【0043】
[実施例1]
実験例2で調製したアセトン75重量%、水25重量%の混合溶液を用いて実際にプラントから切り取ってきた配管の洗浄を実施した。
洗浄は配管内をこの混合溶液で満たして循環させることにより行った。循環流の線速は4.4cm/sとした。溶解度が1時間でほぼ恒量に達したため、循環を停止し内部を観察したところ、付着物は一掃され金属肌を確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の機器の洗浄方法によれば、石油精製プラント等における炭化水素系スラッジが付着した機器類を効果的に洗浄することができ、プラント操業の安定化に貢献できる。