(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-16
(45)【発行日】2022-05-24
(54)【発明の名称】組成判定方法、組成判定装置
(51)【国際特許分類】
G01N 27/72 20060101AFI20220517BHJP
【FI】
G01N27/72
(21)【出願番号】P 2018063192
(22)【出願日】2018-03-28
【審査請求日】2020-12-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】吉田 智大
(72)【発明者】
【氏名】槙 孝一郎
【審査官】小澤 瞬
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-96329(JP,A)
【文献】特開2012-83247(JP,A)
【文献】特開昭61-053561(JP,A)
【文献】特表2002-510988(JP,A)
【文献】国際公開第2015/068681(WO,A1)
【文献】特開昭59-043349(JP,A)
【文献】国際公開第2018/168580(WO,A1)
【文献】S. R. Liu et al.,Estimation of cation distribution in spinel ferrites Co1+xFe2-xO4(0.0<x<2.0) using the magnetic moments measured at 10K,Journal of Alloys and Compounds,2013年,581,pp.616-624
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/72 - G01N 27/9093
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定物の磁気モーメントを測定する測定工程と、
前記被測定物について予め定めておいた磁気モーメントの基準値と、前記測定工程で測定した前記被測定物の磁気モーメントの測定値とを対比し、前記被測定物が目的組成になっているかを判定する、対比・判定工程と、を有する組成判定方法。
【請求項2】
前記基準値として、前記被測定物の組成から算出した磁気モーメントを用いる請求項1に記載の組成判定方法。
【請求項3】
被測定物の磁気モーメントを測定する磁気モーメント測定部と、
前記被測定物について予め定めておいた磁気モーメントの基準値と、前記磁気モーメント測定部で測定した前記被測定物の磁気モーメントの測定値とを対比し、前記被測定物が目的組成になっているかを判定する、対比・判定部と、を有する組成判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成判定方法、組成判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から各種化合物が実験的、または工業的に製造されているが、例えば製造時の温度や、原料の混合比等の条件に変動が生じると、得られる化合物の組成にも変動が生じる場合がある。
【0003】
このため、製造した化合物を任意のタイミングでサンプリングし、目的組成になっているかを評価、判定することが従来からなされていた。
【0004】
製造した化合物の組成を評価する方法として、例えばICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析法が知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ICP発光分光分析法によれば、分析用の溶液を調製したり、検量線を作成する等の前処理が必要であり、分析に多くの時間を要していた。
【0007】
そこで上記従来技術が有する問題に鑑み、本発明の一側面では、被測定物が目的組成であるかを容易に判定することができる組成判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため本発明の一態様によれば、
被測定物の磁気モーメントを測定する測定工程と、
前記被測定物について予め定めておいた磁気モーメントの基準値と、前記測定工程で測定した前記被測定物の磁気モーメントの測定値とを対比し、前記被測定物が目的組成になっているかを判定する、対比・判定工程と、を有する組成判定方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、被測定物が目的組成であるかを容易に判定することができる組成判定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係る組成判定方法のフロー図。
【
図2】本発明の実施形態に係る組成判定装置の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
[組成判定方法]
本実施形態の組成判定方法について以下に説明する。
【0012】
本発明の発明者は、被測定物が目的組成であるかを容易に判定することができる組成判定方法について鋭意検討を行った。
【0013】
被測定物の有する磁気モーメントの大きさの逆数の温度依存性は、被測定物の組成が変化するとその傾きaが変化する。これは、係る傾きaは、被測定物のもつスピンの大きさSとa∝[S(S+1)]―1の関係があり、被測定物の組成が変化することで、被測定物のスピンの状態が変化するためである。
【0014】
そこで、被測定物について磁化測定を行い、被測定物の組成、具体的には被測定物のスピンの状態を反映した磁気モーメントを評価し、該磁気モーメントを用いることで被測定物が目的組成になっているかを判定できることを見出し、本発明を完成させた。
【0015】
そこで、本実施形態の組成判定方法は、
図1に示したフロー図に沿って実施することができ、以下の工程を有することができる。
【0016】
被測定物の磁気モーメントを測定する測定工程(S11)。
被測定物について予め定めておいた磁気モーメントの基準値と、測定工程で測定した被測定物の磁気モーメントの測定値とを対比し、被測定物が目的組成になっているかを判定する、対比・判定工程(S12)。
【0017】
(測定工程)
測定工程では、被測定物の磁気モーメントを測定することができる。
【0018】
磁気モーメントを測定する方法は特に限定されるものではなく、各種磁化測定装置を用いて測定することができる。例えば振動試料型磁力計や、SQUID(Superconducting QUantum Interference Device)磁力計、磁気天秤等を用いて測定することができる。特にコストを低減する観点から、測定工程では振動試料型磁力計、または磁気天秤を用いることが好ましい。
【0019】
また、磁気モーメントは、被測定物の温度により変化する場合がある。このため、対比・判定工程で用いる基準値の評価温度にあわせて被測定物の磁化測定を行う際の温度を設定することが好ましい。
【0020】
なお、測定工程で被測定物について、複数の温度で磁気モーメントを測定しておくこともできる。この場合、例えば対比・判定工程では測定工程で被測定物を測定した温度に対応する複数の基準値を用いて対比・判定することができる。
【0021】
(対比・判定工程)
対比・判定工程では、被測定物について予め定めておいた磁気モーメントの基準値と、測定工程で測定した被測定物の磁気モーメントの測定値とを対比することができる。そして、対比の結果から、被測定物が目的組成になっているか否かを判定できる。
【0022】
具体的には、被測定物の磁気モーメントの測定値が基準値と等しい場合、もしくは基準値(基準範囲)の範囲内にある場合に、被測定物が目的組成になっていると判定することができる。また、被測定物の磁気モーメントの測定値が基準値と等しくない場合、もしくは基準値(基準範囲)の範囲内にない場合には、被測定物が目的組成になっていないと判定することができる。
【0023】
被測定物について予め定めておいた磁気モーメントの基準値の設定方法は特に限定されるものではない。
【0024】
例えば、予めICP等を用いて目的組成になっていることが分かっている試料について磁気モーメントを測定し、該測定値を基準値とすることができる。また、例えば過去に良品とされた試料について磁気モーメントを測定し、測定した試料の測定値が分布している領域を基準値とすることもできる。
【0025】
また、基準値として、被測定物の組成から算出した磁気モーメントを用いることもできる。
【0026】
目的組成の化合物が有する磁気モーメントの大きさは、理論的に計算可能である。計算方法について、非水系電解質二次電池用正極活物質として用いられている、リチウム金属複合酸化物の一種であるLiNi0.8Mn0.1Co0.1O2を例に説明する。
【0027】
係るリチウム金属複合酸化物において、遷移金属元素は酸素の八面体に囲まれているために結晶場によるエネルギー分裂を受け、5つの3d軌道はegとtgの2つに分裂する。これにより、Niは高エネルギーのeg軌道にスピン1個が残り、1.1μBの磁気モーメントをもつ。そして、Mnが3個のスピンを平行にもち、隣のNiは高スピン状態で2個のスピンをもつ。Mnから電子が供給されるため、一部のNiの磁気モーメントは1.7μBに上昇している。
【0028】
常磁性状態での試料の磁気モーメントは、各元素の磁気モーメントに組成比をかけ、足し合わせたものとなる。上記のように、Niの磁気モーメントは組成により1.1μBから1.7μBの間の値をとる。そのため、NiとMnの組成比をNi:Mn=n:mとすると、リチウム金属複合酸化物の常磁性状態の磁気モーメントは1.1μB(n―m)+(3.1μB+1.7μB)mと表すことが可能である。
【0029】
従って、既述のリチウム金属複合酸化物の場合、理論上の磁気モーメントは1.1μB×(0.8-0.1)+(3.1μB+1.7μB)×0.1=1.25μBとなり、係る値を基準値として用いることができる。
【0030】
なお、化合物を製造する場合、組成について一定の幅を有することが許容されるのが一般的である。このため、基準値についても1点の数値に限定されるものではなく、幅をもった数値とすることもできる。そこで、被測定物の組成から理論上の磁気モーメントを算出した場合、係る値のみではなく、製造上許容できる組成の数値範囲を基準値として用いることもできる。
【0031】
この様に基準値に幅をもたせる場合、対比・判定工程では、測定工程で測定した被測定物の磁気モーメントの測定値が、基準値として定めた範囲内にあれば、被測定物が目的組成になっていると判定することができる。
【0032】
本実施形態の組成判定方法により評価する被測定物は特に限定されるものではないが、例えば非水系電解質二次電池用正極活物質であるリチウム金属複合酸化物等、組成の変動により特性に大きな変化が生じる化合物等を被測定物とすることが好ましい。
【0033】
以上に説明した本実施形態の組成判定方法によれば、被測定物の磁気モーメントを測定し、測定値と基準値とを対比、判定するのみで被測定物が目的組成であるかを容易に判定することができる。
【0034】
また、測定工程(S11)では磁気モーメントを測定するものであり、他の磁気特性等を評価する場合と比較して、非常にコンパクトな装置を用いることができる。また、測定時に要する磁場も過度に大きくする必要が無いため、電気代等も低減でき、低コストで評価、判定することができる。
[組成判定装置]
次に、本実施形態の組成判定装置の構成例について説明する。
【0035】
本実施形態の組成判定装置では、既述の組成判定方法を実施し、被測定物が目的組成であるかを判定することができる。このため、既に説明した事項については一部説明を省略する。
【0036】
【0037】
図2に示すように、本実施形態の組成判定装置20は、磁気モーメント測定部21と、対比・判定部22とを有することができる。
【0038】
磁気モーメント測定部21では、被測定物の磁気モーメントを測定することができる。
【0039】
対比・判定部22では、被測定物について予め定めておいた磁気モーメントの基準値と、磁気モーメント測定部で測定した被測定物の磁気モーメントの測定値とを対比し、被測定物が目的組成になっているかを判定することができる。
【0040】
以下、各部について説明する。
(磁気モーメント測定部)
磁気モーメント測定部21では、被測定物の磁気モーメントを測定することができる。磁気モーメント測定部21は、被測定物について磁化測定を行い、磁気モーメントを測定できる手段であればよく、その具体的な構成は特に限定されるものではない。磁気モーメント測定部21は、例えば振動試料型磁力計や、SQUID(Superconducting QUantum Interference Device)磁力計、磁気天秤等の各種磁化測定装置から選択された1種以上を有することができる。特にコストを低減し、装置をコンパクトにする観点から、磁気モーメント測定部21は振動試料型磁力計、または磁気天秤を有することが好ましい。
【0041】
なお、磁気モーメント測定部21では、後述する対比・判定部22で対比する際に用いる基準値に対応した温度で被測定物の磁気モーメントを測定できることが好ましい。このため、磁気モーメント測定部21は、被測定物の温度を調整する温調部や、温調部の温度を制御する制御部を有することが好ましい。ただし、これらの部材は既述の磁化測定装置に備えられた物を用いることもできる。
【0042】
磁気モーメント測定部21は、化合物の製造ラインから、被測定物をサンプリングするサンプリング手段を有することもできる。この場合、磁気モーメント測定部21は、例えば化合物の製造ライン近傍に配置しておき、製造ラインで製造した化合物をサンプリング手段によりサンプリングし、自動的に被測定物の磁気モーメントを評価できるように構成することが好ましい。
(対比・判定部)
対比・判定部22では、既述の様に被測定物について予め定めておいた磁気モーメントの基準値と、磁気モーメント測定部で測定した被測定物の磁気モーメントの測定値とを対比し、被測定物が目的組成になっているかを判定することができる。
対比・判定部22は、例えばコンピュータの一種であり、CPU(Central Processing Unit)221と、記憶装置222とを有することができる。なお、記憶装置222としては、例えばRAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、NVRAM(Non-Volatile RAM)、HDD(Hard Disk Drive)等が挙げられる。
【0043】
図2に示すように対比・判定部22は、被測定物の磁気モーメント測定部21での測定結果について、磁気モーメント測定部21とデータのやり取りができるように、磁気モーメント測定部21と、各種ケーブル23により接続しておくことができる。なお、係るケーブルは入力インターフェース223を介して対比・判定部22に接続しておくことができる。そして、磁気モーメント測定部21における被測定物についての測定結果と、記憶装置222に予め記憶されていた被測定物について予め定めておいた磁気モーメントの基準値とをCPU221において対比することができる。
【0044】
そして、CPU221は、磁気モーメント測定部21で測定した被測定物の磁気モーメントの測定値が、被測定物について予め定めておいた磁気モーメントの基準値と等しい場合、もしくは基準値(基準範囲)の範囲内にある場合に、被測定物が目的組成を満たしていると判定することができる。また、CPU221は、磁気モーメント測定部21で測定した被測定物の磁気モーメントの測定値が、被測定物について予め定めておいた磁気モーメントの基準値と等しくない場合、もしくは基準値(基準範囲)の範囲内にない場合には、被測定物が目的組成を満たしていないと判定することができる。
【0045】
基準値について組成判定方法で既に説明したため、ここでは説明を省略する。
【0046】
基準値として被測定物の組成から算出した磁気モーメントを用いる場合、CPU221が被測定物の組成から磁気モーメントの値、すなわち理論値を算出することもできる。この場合、例えば入力インターフェース223に接続されたキーボード等から入力された被測定物の組成、及び記憶装置222に記憶されているデータベースを用いて、CPU221が、組成判定方法で説明した計算方法等により理論値を算出できる。
【0047】
上述のように基準値として被測定物の組成から算出した磁気モーメント、すなわち理論値を用いる場合、例えば該理論値をそのまま基準値とすることもできる。また、該理論値に対して、定めた一定の割合の範囲を基準値(基準範囲)とすることもできる。
【0048】
対比・判定部22は、既述の外部機器からの信号を受けるための入力インターフェース223や、判定結果を外部に出力するための出力インターフェース224等を有することもできる。出力インターフェース224は、例えば化合物の製造装置の制御装置等と接続しておき、対比・判定部22での判定結果を、該化合物の製造装置にフィードバック等することができる。
【0049】
また、対比・判定部22は表示装置24と接続しておき、表示装置24に判定結果等を出力、表示させることもできる。
【0050】
以上に説明した本実施形態の組成判定装置によれば、磁気モーメント測定部21で磁気モーメントを測定し、対比・判定部22において測定値と基準値とを対比、判定するのみで被測定物が目的組成であるかを容易に判定することができる。
【0051】
また、磁気モーメント測定部21では磁気モーメントを測定するものであり、他の磁気特性等を評価する場合と比較して、非常にコンパクトな装置を用いることができる。また、磁気モーメントを測定する場合、測定時に要する磁場も過度に大きくする必要が無いため、電気代等も低減でき、低コストで評価、判定することが可能な装置とすることができる。
【符号の説明】
【0052】
S11 測定工程
S12 対比・判定工程
20 組成判定装置
21 磁気モーメント測定部
22 対比・判定部