(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-16
(45)【発行日】2022-05-24
(54)【発明の名称】ワイヤハーネス
(51)【国際特許分類】
H01B 7/40 20060101AFI20220517BHJP
H01B 7/00 20060101ALI20220517BHJP
【FI】
H01B7/40 307Z
H01B7/00 301
(21)【出願番号】P 2018112616
(22)【出願日】2018-06-13
【審査請求日】2021-01-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】特許業務法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 幸雄
(72)【発明者】
【氏名】二ツ森 敬浩
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-046616(JP,A)
【文献】実開昭50-017792(JP,U)
【文献】特開昭61-161913(JP,A)
【文献】特開2008-171597(JP,A)
【文献】実開平05-001617(JP,U)
【文献】特開2006-014569(JP,A)
【文献】特開2006-066193(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/40
H01B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電線、及び前記複数の電線を一括して覆うシースを有するケーブルと、
前記シースの端部及び当該シースの端部から延出された前記複数の電線を覆うように形成されており、前記複数の電線の延出方向を固定する電線固定部と、
前記ケーブルを被固定対象に固定する固定部材と、を備え、
前記電線固定部は、樹脂モールドにより形成されており、前記ケーブルと共に前記固定部材の一部を覆うように形成されており、
前記固定部材が前記電線固定部に一体に設けられて
おり、
前記固定部材は、前記電線固定部に埋め込まれるアンカー部と、前記電線固定部の外部に配置され前記被固定対象に固定される固定部と、前記アンカー部と前記固定部とを連結する連結部と、を有し、
前記アンカー部は、前記複数の電線が延出される側の前記シースの端部と離間して設けられており、前記シースの一部を把持するように構成されており、
前記複数の電線が延出される側の前記シースの端部と前記アンカー部との間における前記シースは、前記電線固定部に覆われており前記電線固定部と接触している、
ワイヤハーネス。
【請求項2】
前記シースは、前記アンカー部よりも前記複数の電線の延出側に延びるように設けられている、
請求項1に記載のワイヤハーネス。
【請求項3】
前記複数の電線が延出される側の前記シースの端部と前記アンカー部との間における前記シースは、前記電線固定部と溶着している、
請求項1または2に記載のワイヤハーネス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤハーネスに関する。
【背景技術】
【0002】
車両用のワイヤハーネスとして、複数の電線をシースで一括して覆ったケーブルを用い、シースから延出した複数の電線を分岐させて異なる配線先へと配索するように構成されたものが知られている。このようなワイヤハーネスでは、複数の電線の分岐部において、各電線の延出方向を固定する電線固定部が設けられている。
【0003】
特許文献1では、電線固定部と、ケーブルを車体等に固定するブラケット(固定部材)が取り付けられるブラケット取付部と、をウレタンにより一体に成型したワイヤハーネスが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のワイヤハーネスでは、樹脂モールドの成形後に、ブラケット取付部(成形後の樹脂モールド)に固定部材を取り付ける作業を行う必要があった。
【0006】
そこで、本発明は、樹脂モールドの成形後に固定部材を取り付ける作業を低減することが可能なワイヤハーネスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、複数の電線、及び前記複数の電線を一括して覆うシースを有するケーブルと、前記シースの端部及び当該シースの端部から延出された前記複数の電線を覆うように形成されており、前記複数の電線の延出方向を固定する電線固定部と、前記ケーブルを被固定対象に固定する固定部材と、を備え、前記電線固定部は、樹脂モールドにより形成されており、前記ケーブルと共に前記固定部材の一部を覆うように形成されており、前記固定部材が前記電線固定部に一体に設けられている、ワイヤハーネスを提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、樹脂モールドの成形後に固定部材を取り付ける作業を低減することが可能なワイヤハーネスを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施の形態に係るワイヤハーネスが用いられた車両の構成を示す模式図である。
【
図2】ワイヤハーネスに用いるケーブルの断面図である。
【
図3】(a)はワイヤハーネスの分岐部を示す平面図であり、(b)は、その固定部材の斜視図である。
【
図4】(a)は他の実施の形態に係るワイヤハーネスの分岐部を示す平面図であり、(b)は、その固定部材の斜視図である。
【
図5】(a)は他の実施の形態に係るワイヤハーネスの分岐部を示す平面図であり、(b)は、その固定部材の平面図である。
【
図6】(a)は他の実施の形態に係るワイヤハーネスの分岐部を示す平面図である。
【
図7】(a)は他の実施の形態に係るワイヤハーネスの分岐部を示す平面図であり、(b)は、そのA-A線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0011】
(ワイヤハーネスを適用する車両の説明)
図1は、本実施の形態に係るワイヤハーネスが用いられた車両の構成を示す模式図である。
【0012】
車両1は、車体10に4つのタイヤハウス100を有し、2つの前輪11及び2つの後輪12がそれぞれのタイヤハウス100内に配置されている。本実施の形態では、車両1が前輪駆動車であり、前輪11がエンジンや電動モータからなる図略の駆動源の駆動力を受けて駆動される。すなわち、本実施の形態では、前輪11が駆動輪であり、後輪12が従動輪である。
【0013】
また、車両1は、2つの電動パーキングブレーキ装置130と、制御装置14とを有している。電動パーキングブレーキ装置130は、2つの後輪12のそれぞれに対応して設けられ、制御装置14から供給される電流によって作動して、後輪12に制動力を発生させる。制御装置14は、車室内に設けられたパーキングブレーキ作動スイッチ140の操作状態を検出可能であり、運転者は、このパーキングブレーキ作動スイッチ140をオン/オフ操作することで、電動パーキングブレーキ装置130の作動状態と非作動状態とを切り替えることが可能である。
【0014】
例えば、停車時おいて運転者がパーキングブレーキ作動スイッチ140をオフ状態からオン状態にすると、制御装置14は、所定時間(例えば1秒間)にわたって電動パーキングブレーキ装置130を作動させるための作動電流を出力する。これにより、電動パーキングブレーキ装置130が作動し、後輪12に制動力を発生させる。この電動パーキングブレーキ装置130の作動状態は、制御装置14から電動パーキングブレーキ装置130を非作動状態にするための電流が出力されるまで維持される。このように、電動パーキングブレーキ装置130は、主として車両1の停止後に制動力を発生させる。
【0015】
制御装置14は、運転者の操作によってパーキングブレーキ作動スイッチ140がオン状態からオフ状態にされた場合に、電動パーキングブレーキ装置130を非作動状態にするための電流を出力する。なお、制御装置14は、パーキングブレーキ作動スイッチ140がオフ状態にされた場合の他、例えばアクセルペダルが踏込操作された場合にも、電動パーキングブレーキ装置130を非作動状態にするための電流を出力する。
【0016】
また、前輪11及び後輪12には、車輪速を検出するための車輪速センサ(ABSセンサ)131が設けられている。車輪速センサ131は、それ自体は周知のものであり、前輪11又は後輪12と共に回転する環状の磁気エンコーダの磁界を検出する磁界検出素子を有し、この磁界の向きが変化する周期によって車輪速(前輪11又は後輪12の回転速度)を検出する。
【0017】
制御装置14と、前輪11の車輪速センサ131とは、複数の電線からなる前輪用電線群151、及び前輪用ワイヤハーネス152によって電気的に接続されている。前輪用電線群151と前輪用ワイヤハーネス152とは、車体10に固定された中継ボックス153内で接続されている。中継ボックス153は、左右一対の前輪11のそれぞれの近傍に配置されている。
【0018】
また、制御装置14と、後輪12の電動パーキングブレーキ装置130及び車輪速センサ131とは、複数の電線からなる後輪用電線群154、及び本実施の形態に係るワイヤハーネス2によって電気的に接続されている。後輪用電線群154とワイヤハーネス2とは、車体10に固定された中継ボックス155内で接続されている。中継ボックス155は、左右一対の後輪12のそれぞれの近傍に配置されている。
【0019】
前輪用電線群151は、束ねられた状態で車体10に設けられた配線路150に配置されている。また、後輪用電線群154も、前輪用電線群151と同様に、束ねられた状態で車体10に設けられた配線路150に配置されている。
【0020】
前輪用ワイヤハーネス152は、一端部が前輪11の車輪速センサ131に接続され、他端部が中継ボックス153に収容されている。後輪用のワイヤハーネス2は、一端部が後輪12の電動パーキングブレーキ装置130及び車輪速センサ131に接続され、他端部が中継ボックス155に収容されている。
【0021】
(ワイヤハーネス2に用いるケーブルの説明)
図2は、ワイヤハーネス2に用いるケーブル3の断面図である。ケーブル3は、複数の電線30をシース33で一括被覆して構成されている。本実施の形態では、複数の電線30は、一対の電源線31と一対の信号線32の合計4本の絶縁電線からなる。
【0022】
より詳細には、ケーブル3では、一対の信号線32は、互いに撚り合わせられている。ケーブル3では、撚り合わせた一対の信号線32と、一対の電源線31と、介在34とが撚り合わせられており、その周囲に螺旋状に押さえ巻きテープ35を巻き付けられている。押さえ巻きテープ35の外周には、シース33が被覆されている。
【0023】
一対の電源線31の一端部には、電動パーキングブレーキ装置130との接続のための第1電源コネクタ(不図示)が取り付けられ、一対の電源線31の他端部には、中継ボックス155内における後輪用電線群154との接続のための第2電源コネクタ(不図示)が取り付けられている。
【0024】
一対の信号線32には、一端部に車輪速センサ131が取り付けられ、他端部には中継ボックス155内における後輪用電線群154との接続のための信号線接続コネクタ(不図示)が取り付けられている。
【0025】
一対の電源線31は、電動パーキングブレーキ装置130に電流を供給するために用いられる。一対の信号線32は、車輪速センサ131の検出信号を制御装置14に伝送するために用いられる。つまり、一対の信号線32は、車両1の走行時に、車両1の走行状態を示す車両状態量の検出信号を制御装置14に伝送する。
【0026】
一対の電源線31は、銅等の良導電性の導線からなる中心導体310を絶縁性の樹脂からなる絶縁体311で被覆した絶縁電線である。中心導体310は、複数の素線からなる撚線である。絶縁体311は、例えば架橋PE(ポリエチレン)又は難燃架橋PE(ポリエチレン)からなる。
【0027】
信号線32は、銅等の良導電性の導線からなる中心導体320を絶縁性の樹脂からなる絶縁体321で被覆した絶縁電線である。中心導体320は、複数の素線からなる撚線である。絶縁体321は、例えば架橋PE(ポリエチレン)又は難燃架橋PE(ポリエチレン)からなる。信号線32の外径は、電源線31の外径よりも小さい。このように、本実施の形態では、ケーブル3は、外径の異なる電線30を含んでいる。
【0028】
電源線31及び信号線32は、シールド導体により被覆されていない。つまり、電源線31と信号線32との間には、電磁波を遮蔽する導電性の部材が配置されていない。これは、電源線31に電流が流れるのは主として車両1の停車中であり、信号線32が電気信号を伝送するのは主として車両1の走行中であるため、信号線32と電源線31との間には、シールド導体を設ける必要がないことに着目したものである。つまり、一対の電源線31に電流が流れた場合、この電流により発生する電磁波は、一対の信号線32の電位差に影響を及ぼし得るが、制御装置14は、車速がゼロである車両1の停車中には、信号線32の電気信号を無視することができ、車両1の走行に悪影響を及ぼさないようにすることができる。また、信号線32がシールド導体に被覆されていないことにより、ケーブル3の柔軟性が増し、屈曲性が高まると共に、ケーブル3の軽量化ならびに低コスト化にも寄与することができる。
【0029】
シース33は、絶縁性の樹脂からなる。本実施の形態では、シース33は、柔軟性及び耐久性に優れた軟質の熱可塑性ウレタンからなる。
【0030】
(分岐部の構成)
図3(a)は、ワイヤハーネス2の分岐部を示す平面図であり、(b)は、その固定部材の斜視図である。
図3に示すように、本実施の形態に係るワイヤハーネス2では、ケーブル3は、シース33から延出された複数の電線30を分岐する分岐部3aを有している。本実施の形態では、分岐部3aは、一対の電源線31と、一対の信号線32とを分岐するように構成されている。
【0031】
ワイヤハーネス2は、シース33の端部及び当該シース33の端部から延出された複数の電線30を覆うように形成されており、複数の電線30の延出方向を固定する電線固定部4と、ケーブル3を車体10等の被固定対象に固定する固定部材5と、を備えている。
【0032】
電線固定部4は、分岐部3aを覆うように形成されており、各電線30の延出方向を固定する役割と、シース33内に水分が浸入することを抑制する役割とを果たすものである。以下、シース33の端部近傍の部分の電線30を、電線30の延出部分と呼称する。本実施の形態では、電線固定部4は、略直方体状に形成されているが、電線固定部4の具体的な形状はこれに限定されない。たとえば、電線固定部4は、略円柱状等に形成されていてもよい。
【0033】
電線固定部4は、樹脂モールドにより形成されている。電線固定部4は、シース33と同じ樹脂材料である熱可塑性ウレタンからなるものを用いた。これにより、電線固定部4の樹脂モールド時に、電線固定部4とシース33とが溶融一体化(溶着)し、シース33内へ水分が侵入するのが抑制され防水性が向上する。また、電線固定部4とシース33とが溶着することにより、ケーブル3の長手方向に電線固定部4が移動することを抑制できる。
【0034】
本実施の形態では、一対の電源線31の電線固定部4からの延出方向は、電線固定部4内におけるシース33の長手方向と平行である。また、一対の信号線32の電線固定部4からの延出方向は、一対の電源線31の電線固定部4からの延出方向に対して傾斜(交差)している。一対の信号線32は、この傾斜の角度に応じて電線固定部4内で屈曲されている。そして、この延出方向の傾斜により、車両1のタイヤハウス100内での一対の電源線31及び一対の信号線32の配索が容易化されている。ここでは、一対の信号線32の電線固定部4からの延出方向を、一対の電源線31の電線固定部4からの延出方向に対して垂直な方向としている。
【0035】
本実施の形態では、電線固定部4は、ケーブル3の分岐部3aと共に固定部材5の一部を覆うように形成されており、これにより、固定部材5が電線固定部4に一体に設けられている。つまり、固定部材5は、電線固定部4の樹脂モールドの際にインサートされ、その一部が分岐部3aと共に樹脂に埋め込まれている。これにより、樹脂モールド後に固定部材5を設ける作業を別途行う必要がなくなり、ワイヤハーネス2の組立作業の作業性を向上させることが可能になる。
【0036】
固定部材5は、電線固定部4に埋め込まれるアンカー部51と、電線固定部4の外部に配置され被固定対象に固定される固定部53と、アンカー部51と固定部53とを連結する連結部52と、を有している。本実施の形態では、アンカー部51は、板状に形成されている。連結部52は、円柱の棒状に形成され、アンカー部51から、アンカー部51と直交する方向(アンカー部51の表面に対する法線方向)に延びるように形成されている。連結部52のアンカー部51側の一部は、電線固定部4に埋め込まれている。アンカー部51は、
図3(a)における平面視において、連結部52よりもその幅が大きい。これにより、固定部材5が電線固定部4から抜けてしまうことが抑制されている。
【0037】
固定部53は、連結部52と同軸の円錐状に形成されており、連結部52から離れるにしたがって縮径されるように(先細に)形成されている。連結部52を、被固定対象に設けられた係止溝(不図示)に挿入し、固定部53(より詳細には固定部53と連結部52との段差部分)を係止溝の周縁に係止させることで、固定部材5が被固定対象に係止され、電線固定部4及びケーブル3が、固定部材5を介して被固定対象に固定される。固定部材5としては、用途に応じて、比較的安価に製造可能な樹脂からなるものを用いてもよいし、機械的強度の高い金属からなるものを用いてもよい。また、固定部材5として、金属に樹脂を被覆したものを用いることもできる。固定部材5と電線固定部4とは互いに溶融一体化(溶着)されていなくともよい。
【0038】
固定部材5は、シース33の端部と離間して設けられていることが望ましい。これは、シース33の端部と接触して固定部材5が設けられていると、固定部材5を伝ってシース33内に水分が侵入してしまうおそれがあるためである。固定部材5をシース33の端部と離間して設けることで、シース33の端部が電線固定部4と溶融一体化した状態となり、固定部材5を伝ってシース33内に水分が侵入してしまうことが抑制される。
【0039】
本実施の形態では、固定部材5は、シース33と離間して設けられている。ここでは、固定部材5のアンカー部51がシース33と離間して設けられており、このアンカー部51からシース33と反対側に延びるように連結部52(及び固定部53)が設けられている。これにより、シース33と固定部材5の間に樹脂が入り込み、ケーブル長手方向において長い範囲でシース33と電線固定部4とが溶着されることになる。その結果、電線固定部4のケーブル長手方向に沿った長さを短くしても、十分な防水性の確保及び電線固定部4のケーブル長手方向に沿った移動を抑制可能となり、電線固定部4の小型化(ケーブル長手方向にける小型化)が可能になる。電線固定部4を小型とすることにより、使用する樹脂材料の量を削減して低コスト化が図れると共に、ワイヤハーネス2の配策もしやすくなる。
【0040】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明したように、本実施の形態に係るワイヤハーネス2では、電線固定部4は、樹脂モールドにより形成されており、ケーブル3と共に固定部材5の一部を覆うように形成されており、固定部材5が電線固定部4に一体に設けられている。換言すれば、本実施の形態では、固定部材5の一部が樹脂モールドからなる電線固定部4に埋め込まれ一体化されている。
【0041】
これにより、樹脂モールドにより電線固定部4を形成した後に固定部材5を別途取り付けるといった工程を省略でき、ワイヤハーネス組立作業の作業性を向上することができる。
【0042】
(他の実施の形態)
図4(a)は、本発明の他の実施の形態に係るワイヤハーネス2aの分岐部3aを示す平面図であり、(b)は、その固定部材5aの斜視図である。ワイヤハーネス2aは、上述のワイヤハーネス2において、アンカー部51の形状が異なる固定部材5aを用いたものである。
【0043】
ワイヤハーネス2aでは、アンカー部51は、シース33を把持するように構成されている。アンカー部51は、シース33の外周に沿う円弧状に形成されている。固定部材5aは、アンカー部51の把持によりケーブル3に固定されている。これにより、樹脂モールド時に樹脂の流れにより固定部材5aが移動してしまう(位置ずれが生じてしまう)ことを抑制可能となる。また、この形態では、樹脂モールドに用いる金型に固定部材5aを固定する構造を設ける必要性を低減できる。その結果、金型の形状を簡単化することが可能になり、金型の低コスト化と、金型の寿命の延長が可能になる。
【0044】
ワイヤハーネス2aでは、アンカー部51の内周面がシース33の外周面に接触している。そのため、シース33をアンカー部51よりも複数の電線30の延出側に延びるように設けている。つまり、アンカー部51をシース33の分岐部3a側の末端部から離間させている。これにより、シース33の分岐部3a側の末端部とアンカー部51との間におけるシース33の端部を電線固定部4と溶融一体化(溶着)させることが可能となり、固定部材5aを伝ってシース33内に水分が侵入することを抑制するとよい。
【0045】
図5(a),(b)に示すワイヤハーネス2bは、金属板に曲げ加工を施した固定金具からなる固定部材5bを用いたものである。固定部材5bでは、金属板の一方の端部をシース33の外径に沿うように円弧状に湾曲させることで、アンカー部51が形成されている。また、金属板の他方の端部にボルト固定用のボルト穴54を形成することで、固定部53が形成されている。金属板におけるアンカー部51と固定部53の間の中間部分が、連結部52となる。金属製の固定部材5bを用いることで、固定部材5bの機械的強度をより向上させ、ケーブル3と電線固定部4の被固定対象への固定をより強固とすることができる。
【0046】
図6に示すワイヤハーネス2cは、シース33の端部及び複数の電線30の延出部を覆うように熱収縮チューブ6を設けたものである。熱収縮チューブ6としては、熱収縮性を有する樹脂チューブの内周面にホットメルト接着剤からなる接着剤層を設けた接着剤付熱収縮チューブを用いる。樹脂チューブは、例えばポリエチレンからなり、接着剤層を構成するホットメルト接着剤は、例えばポリアミドとポリエチレンからなる。
【0047】
接着剤層を構成するホットメルト接着剤は、熱収縮チューブ6を収縮させる際の熱により溶融して樹脂チューブ、電源線31、信号線32、及びシース33間の隙間に入り込み、収縮後に硬化して樹脂チューブ、電源線31、信号線32、及びシース33間の隙間を封止する。これにより、シース33内に水分が侵入することをより確実に抑制できる。
【0048】
ここでは、一対の電源線31と一対の信号線32とを有する4心のケーブル3を用いているため、例えば2心のケーブル等と比較して各電線間の隙間が大きくなる。そこで、本実施の形態では、各電線30間の隙間を確実に封止できるように、熱収縮チューブ6の接着剤層に加えて別途接着剤を追加している。追加する接着剤としては、例えば、円環状に形成され、各電線30の周囲を囲うように配置可能なものを用いることができる。この円環状の接着剤は、熱収縮チューブ6を収縮させる際の熱により溶融し、樹脂チューブ内の空間を封止する。円環状の接着剤としては、熱収縮チューブ6の接着剤層と同じ成分のものを用いるとよく、ポリアミドとポリエチレンからなるものを用いることができる。
【0049】
熱収縮チューブ6を用いる場合、固定部材5bのアンカー部51は、シース33を覆う部分の熱収縮チューブ6をシース33側に押し付けることで、熱収縮チューブ6をシース33に固定するように構成されることが望ましい。これにより、高温時の熱収縮チューブ6の位置ずれを抑制し、熱収縮チューブ6がシース33から脱落して防水性が低下することを抑制可能になる。
【0050】
図7(a),(b)に示すワイヤハーネス2dは、
図5のワイヤハーネス2bにおいて、固定部材5bを一対の電源線31に取り付けるようにしたものである。この場合、アンカー部51は、金属板の一方の端部を湾曲させることで、当該端部を、並んで配置された一対の電源線31の周囲を一括して覆う長円形状(角丸長方形状)、あるいは楕円形状に形成するとよい。このように、アンカー部51は、シース33を把持するだけでなく、複数の電線30の一部又は全部を把持するように構成されていてもよい。
【0051】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0052】
[1]複数の電線(30)、及び前記複数の電線(30)を一括して覆うシース(33)を有するケーブル(3)と、前記シース(33)の端部及び当該シース(33)の端部から延出された前記複数の電線(30)を覆うように形成されており、前記複数の電線(30)の延出方向を固定する電線固定部(4)と、前記ケーブル(3)を被固定対象に固定する固定部材(5)と、を備え、前記電線固定部(4)は、樹脂モールドにより形成されており、前記ケーブル(3)と共に前記固定部材(5)の一部を覆うように形成されており、前記固定部材(5)が前記電線固定部(4)に一体に設けられている、ワイヤハーネス(2)。
【0053】
[2]前記固定部材(5)は、前記シース(33)の端部と離間して設けられている、[1]に記載のワイヤハーネス(2)。
【0054】
[3]前記固定部材(5)は、前記電線固定部(4)に埋め込まれるアンカー部(51)と、前記電線固定部(4)の外部に配置され前記被固定対象に固定される固定部(53)と、前記アンカー部(51)と前記固定部(53)とを連結する連結部(52)と、を有する、[1]または[2]に記載のワイヤハーネス(2)。
【0055】
[4]前記固定部材(5)は、前記シース(33)と離間して設けられている、[1]乃至[3]の何れか1項に記載のワイヤハーネス(2)。
【0056】
[5]前記アンカー部(51)は、前記シース(33)、あるいは前記複数の電線(30)の一部又は全部を把持するように構成されている、[3]に記載のワイヤハーネス(2a)。
【0057】
[6]前記アンカー部(51)は、前記シース(33)を把持しており、前記シース(33)は、前記アンカー部(51)よりも前記複数の電線(30)の延出側に延びるように設けられている、[5]に記載のワイヤハーネス(2a)。
【0058】
[7]前記シース(33)の端部及び当該シース(33)の端部から延出された前記複数の電線(30)を覆う熱収縮チューブ(6)を有し、前記アンカー部(51)は、前記シース(33)を覆う部分の前記熱収縮チューブ(6)を前記シース(33)側に押し付けることで、前記熱収縮チューブ(6)を前記シース(33)に固定するように構成されている、[3]に記載のワイヤハーネス。
【0059】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【0060】
また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。例えば、一対の信号線32の周囲に熱可塑性ウレタンからなる内部シースを設けて信号ケーブルを構成してもよい。これにより、内部シースと電線固定部4とが溶融一体化(溶着)して防水性をより向上できる。
【0061】
また、上記実施の形態では、1つの電線固定部4を備えている場合を説明したが、ケーブル3に複数の電線固定部4を設けてもよい。
【符号の説明】
【0062】
2…ワイヤハーネス
3…ケーブル
3a…分岐部
30…電線
31…電源線
32…信号線
33…シース
4…電線固定部
5…固定部材
51…アンカー部
52…連結部
53…固定部
54…ボルト穴
6…熱収縮チューブ