(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-16
(45)【発行日】2022-05-24
(54)【発明の名称】光導波路素子
(51)【国際特許分類】
G02F 1/01 20060101AFI20220517BHJP
G02B 6/12 20060101ALI20220517BHJP
G02B 6/14 20060101ALI20220517BHJP
G02B 6/125 20060101ALI20220517BHJP
G02F 1/035 20060101ALI20220517BHJP
G02F 1/03 20060101ALI20220517BHJP
【FI】
G02F1/01 F
G02B6/12 363
G02B6/14
G02B6/125 301
G02F1/035
G02F1/03 505
(21)【出願番号】P 2018138188
(22)【出願日】2018-07-24
【審査請求日】2021-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098383
【氏名又は名称】杉村 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100155860
【氏名又は名称】藤松 正雄
(72)【発明者】
【氏名】加藤 圭
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 徳一
【審査官】林 祥恵
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-015538(JP,A)
【文献】特開平02-126205(JP,A)
【文献】特開平08-062555(JP,A)
【文献】特開2016-191820(JP,A)
【文献】特開2012-078376(JP,A)
【文献】特開2006-106372(JP,A)
【文献】米国特許第05581642(US,A)
【文献】中国特許出願公開第102156324(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00-1/125
G02F 1/21-1/39
G02B 6/12-6/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光導波路が形成された基板と、
該光導波路に光波を入力する光ファイバーと該基板との接続を補強するために該基板上に配置された
補強部材とを有する光導波路素子において、
該光導波路は、該光導波路を伝搬する光波のモードを変換して分岐するモード変換分岐部
として、光波進行方向の最上流にある第1のモード変換分岐部と、該第1のモード変換分岐部の下流にある第2のモード変換分岐部とを含み、
該
補強部材は、該基板を平面視した際に、
該第1のモード変換分岐部の全部を覆う一方で該第2のモード変換分岐部を全く覆わないように配置されることを特徴とする光導波路素子。
【請求項2】
請求項1に記載の光導波路素子において、
該光導波路を伝搬する光波を制御するための電極が、該第2のモード変換分岐部を全く覆わないように配置されることを特徴とする光導波路素子。
【請求項3】
請求項
1に記載の光導波路素子において、
該光導波路を伝搬する光波を制御するための電極が、該第2のモード変換分岐部の全部を覆うように配置されることを特徴とする光導波路素子。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の光導波路素子において、
該基板は、20μm以下の厚さの薄板であり、補強基板を接着して補強されていることを特徴とする光導波路素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光導波路が形成された基板と、該基板上に配置されたオブジェクトとを有する光導波路素子に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信分野において、入力された光波に送信データ等に応じた光変調を施して出力する光変調器が利用されている。
図1には、従来の光変調器に内蔵される光導波路素子の構造を示してある。
図1の上段は、光導波路素子の一部(光波入力側の部分)の平面図であり、下段は、その断面図である。
【0003】
光導波路素子は、電気光学効果を有する基板10の表面側に、光変調を行うためのマッハツェンダー型導波路を含む光導波路20を形成して構成される。光導波路20は、複数のマッハツェンダー型導波路を入れ子状に組み込んだネスト型導波路としてもよい。
図1では、基板10として非常に薄い基板(すなわち、薄板)が用いられており、これに接着剤11で補強基板12を接着して補強した多層構造となっている。なお、光導波路素子は、このような多層構造に限られず、十分な厚みのある基板を用いて単層構造としてもよい。
【0004】
光導波路20は、複数のマッハツェンダー型導波路を並列に配置するために、光導波路を伝搬する光波を均等なパワー比に分配する複数のY分岐導波路部21を有している。また、各Y分岐導波路部21の光波進行方向の上流側には、光波を分岐する前に光波モードを変換するためのモード変換部22が配置されている。モード変換部22は、例えば、1本の光導波路を2本に分岐させるために光導波路幅を徐々に広げた構造(テーパー構造)とされる。
【0005】
基板10には光入力用の光ファイバー(不図示)が接続されており、基板10の光ファイバーとの接続部分は、基板10の表面に補強部材31を配置して補強される。また、基板10の表面には、光導波路20を伝搬する光波を制御するための制御電極32も配置される。制御電極32としては、高周波信号(変調信号)が印加される変調電極やこれを取り巻く接地電極、DC電圧(バイアス電圧)が印加されるバイアス制御電極などがある。
【0006】
基板10に使用されるLN(ニオブ酸リチウム)などの材料は優れた圧電効果を有しているので、基板10が外力を受けたり、基板10内に応力が生じると、その部分の屈折率が変化する。基板10の表面に配置される補強部材31や制御電極32などのオブジェクト(配置物)は、温度変動により熱収縮が起きるが、それぞれ線膨張係数やヤング率が異なるので、熱収縮の程度も異なる。このため、各オブジェクトには熱収縮差に伴う応力が発生し、その結果、各オブジェクトの応力によって基板10の屈折率が変化する。特に、オブジェクトの配置領域の端部(境界部分)では応力変化が大きくなり易く、基板10に屈折率分布が生じる原因となる。なお、各オブジェクトの熱応力は、下記(式1)により算出することができる。
熱応力E[Pa]=線膨張係数[/K]×温度変化[K]×ヤング率[Pa] …(式1)
【0007】
Y分岐導波路部21やその直前のモード変換部22の範囲において屈折率が変化して屈折率分布が生じると、Y分岐導波路部21での伝搬光の分岐比(パワー比)が均等にならない。
図1に示すように、従来は、Y分岐導波路部21及びモード変換部22を含むモード変換分岐部23の範囲内に、補強部材31や制御電極32といったオブジェクトの配置領域の端部が位置する配置となっていた。
【0008】
このような配置だと、モード変換分岐部23の範囲内で応力変化による屈折率分布が生じるので、Y分岐導波路部21における伝搬光の分岐比に差が生じてしまう。その結果、各マッハツェンダー型導波路でのOn/Off消光比の劣化や、分岐導波路部(マッハツェンダー型導波路のアーム部)間でのロス差が発生し、伝送特性の劣化につながるという問題がある。さらに、優れた圧電効果を有するLN基板などでは、外力を受けると圧力に比例した分極も同時に起こり、圧力を受けた部分の屈折率がより顕著に変化してしまう。
【0009】
上記の問題は、線膨張係数あるいはヤング率が大きく異なる異種材料の基板を貼り合わせた多層構造の場合、特に、LN薄板などを補強基板で補強した構造の場合により顕在化し易い。これは、熱収縮による応力が、光導波路のある薄板の方に生じやすいためである。また、上記の問題は、十分な厚みのある基板を用いた単層構造の場合にも生じ得るので、その対策を講じて伝送特性の更なる改善を図ることが期待される。
【0010】
なお、Y分岐構造における分岐比の安定化を図るための構造に関しては、これまでにも種々の検討がなされている。例えば、特許文献1には、Y分岐構造の前段に3分岐構造やスラブ導波路を配置する構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、上述したような問題を解決し、基板上に配置されたオブジェクトの熱収縮に起因する伝送特性の劣化を抑制することが可能な光導波路素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明の光導波路素子は、以下のような技術的特徴を備えている。
(1) 光光導波路が形成された基板と、該光導波路に光波を入力する光ファイバーと該基板との接続を補強するために該基板上に配置された補強部材とを有する光導波路素子において、該光導波路は、該光導波路を伝搬する光波のモードを変換して分岐するモード変換分岐部として、光波進行方向の最上流にある第1のモード変換分岐部と、該第1のモード変換分岐部の下流にある第2のモード変換分岐部とを含み、該補強部材は、該基板を平面視した際に、該第1のモード変換分岐部の全部を覆う一方で該第2のモード変換分岐部を全く覆わないように配置されることを特徴とする。
【0014】
(2) 上記(1)に記載の光導波路素子において、該光導波路を伝搬する光波を制御するための電極が、該第2のモード変換分岐部を全く覆わないように配置されることを特徴とする。
【0015】
(3) 上記(1)に記載の光導波路素子において、該光導波路を伝搬する光波を制御するための電極が、該第2のモード変換分岐部の全部を覆うように配置されることを特徴とする。
【0016】
(4) 上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の光導波路素子において、該基板は、20μm以下の厚さの薄板であり、補強基板を接着して補強されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、光導波路が形成された基板と、該光導波路に光波を入力する光ファイバーと基板との接続を補強するために基板上に配置された補強部材とを有する光導波路素子において、補強部材の熱収縮に起因する伝送特性の劣化を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】従来の光変調器に内蔵される光導波路素子の構造を示す図である。
【
図2】本発明の第1実施例に係る光導波路素子の構造を示す図である。
【
図3】本発明の第2実施例に係る光導波路素子の構造を示す図である。
【
図4】本発明の第3実施例に係る光導波路素子の構造を示す図である。
【
図5】本発明の第4実施例に係る光導波路素子の構造を示す図である。
【
図6】モード変換分岐部の一部を覆うように電極を配置する例を示す図である。
【
図7】モード変換分岐部の構造の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る光導波路素子について、好適例を用いて詳細に説明する。なお、以下で示す例によって本発明が限定されるものではない。
本発明に係る光導波路素子は、
図2~
図7に示すように、光導波路(20)が形成された基板(10)と、該基板上に配置されたオブジェクト(31,32)とを有する光導波路素子において、該光導波路は、該光導波路を伝搬する光波のモードを変換して分岐するモード変換分岐部(23,24)を含み、該オブジェクトは、該基板を平面視した際に、該モード変換分岐部の一部又は全部を覆うように、或いは該モード変換分岐部を全く覆わないように、配置される。なお、該モード変換分岐部の一部を覆うように該オブジェクトを配置する場合は、光波の進行方向において所定値以上の長さの区間を連続して覆わないように該オブジェクトが配置される。
【0020】
このように、基板上のオブジェクト(配置物)をモード変換分岐部の一部又は全部を覆うように、或いはモード変換分岐部を全く覆わないように配置することで、モード変換分岐部の範囲内では、基板上のオブジェクトの熱収縮に起因する応力変化による屈折率分布が生じにくくなる。したがって、基板上のオブジェクトの熱収縮によって伝搬光の分岐比に差が生じることを抑制できる。その結果、各マッハツェンダー型導波路でのOn/Off消光比の劣化や、分岐導波路部間でのロス差の発生を軽減できるので、伝送特性の劣化を抑制することが可能となる。本発明は、LN基板のように優れた圧電効果を有する基板を用いた光変調器に特に好適であるが、圧力が加わると屈折率変化が生じる他の基板(ガラスや結晶等の基板)を用いた光変調器にも本発明は有効である。
【0021】
モード変換分岐部には、例えば、光波のモードを変換するモード変換部(22)と、モード変換された光波を分岐するY分岐導波路部(21)とが含まれる。また、Y分岐導波路部の直後に導波路幅が変化する区間がある場合には、その区間もモード変換分岐部に含まれ得る。すなわち、本発明に係るモード変換分岐部は、一例として、Y分岐導波路部およびその前後の光波のモードが変化する区間(モードが不安定な区間)で構成される。このようなモード変換分岐部で屈折率変化が生じると、光導波路を伝搬する光波の分布の中心位置がずれたり、分布が非対称となったり、あるいは所望する以外のモードに結合したりして、光導波路を伝搬する光波の分布が不安定となる。そこで、本発明では、基板上のオブジェクトの配置を工夫することで、モード変換分岐部における屈折率変化を抑制し、光導波路を伝搬する光波の分布の不安定化の解消を図っている。
【0022】
モード変換分岐部は、幾つかの例を
図7に示すように、種々の構造で実現することができる。
図7(a)は、Y分岐構造によるモード変換分岐部の例であり、分岐部に至る過程で幅を徐々に広げた形状(テーパー形状)となっている。このような構造の場合には、分岐後の2つの光導波路部分の全体の幅L2が通常の光導波路の幅L1(テーパー形状ではない部分の幅)の3倍以下(L2≦L1×3)の区間S1が、モード変換分岐部に該当する。
図7(b)は、MMI(マルチモード干渉計)構造によるモード変換分岐部の例であり、分岐部の前の所定区間をマルチモード導波が可能な幅に広げた形状となっている。このような構造の場合には、幅を広げた区間S2が、モード変換分岐部に該当する。
図7(c)は、方向性結合器によるモード変換分岐部の例であり、2本の光導波路を所定区間に亘って近接させている。このような構造の場合には、Y分岐構造の場合と同様に、2つの光導波路が近接している部分の全体の幅L2が通常の光導波路の幅L1の3倍以下(L2≦L1×3)の区間S3が、モード変換分岐部に該当する。
なお、L2≦L1×3という条件は、本発明の適用に好適な条件例の1つを挙げたものであり、本条件に限定されることを意図するものではない。
【0023】
以下、本発明に係る光変調器の具体的な構成について、実施例を挙げて説明する。
図2~
図5には、第1実施例~第4実施例に係る光導波路素子の構造をそれぞれ示してある。各図の上段は、光導波路素子の一部(光波入力側の部分)の平面図であり、下段は、その断面図である。各実施例に係る光変調器の基本的な構造は、
図1を参照して説明した従来例と同様である。
【0024】
[第1実施例]
第1実施例に係る光導波路素子は、
図2に示すように、基板10として非常に薄い基板(すなわち、薄板)が用いられており、これに接着剤11で補強基板12を接着して補強した多層構造となっている。基板10は、LN(ニオブ酸リチウム)などの優れた圧電効果を有する材料で形成される。基板10の厚さは20μm程度、接着剤11の厚さは20~100μm程度、補強基板12の厚さは400~1000μm程度である。
【0025】
基板10に形成された光導波路20は、光導波路を伝搬する光波のモードを変換して分岐するモード変換分岐部23,24を含んでいる。モード変換分岐部23は、光波進行方向の最も上流にあるモード変換分岐部であり、モード変換分岐部24は、光波進行方向において上流から2番目のモード変換分岐部である。なお、これらより下流に更なるモード変換分岐部を有する構造であってもよい。
【0026】
基板10の表面には、光導波路20に光波を入力する光ファイバー(不図示)と基板10との接続を補強するための補強部材31や、光導波路20を伝搬する光波を制御するための制御電極32が配置される。これらのオブジェクトは、熱膨張係数やヤング率が基板10とは大きく異なっており、熱収縮により基板10に応力を生じさせて光導波路20の屈折率を変化させる原因となる。
【0027】
第1実施例では、
図2の下段の断面図に示すように、モード変換分岐部23よりも上流側に補強部材31を配置すると共に、モード変換分岐部23とモード変換分岐部24の間およびモード変換分岐部24よりも下流側に制御電極32を配置してある。すなわち、補強部材31および制御電極32を、モード変換分岐部23,24を全く覆わないように配置してある。
【0028】
このような構造によれば、モード変換分岐部23,24の範囲内では、基板10上のオブジェクト(補強部材31および制御電極32)の熱収縮に起因する応力による屈折率分布が生じにくくなる。したがって、光波を分岐する際に伝搬光の分岐比が安定し、各マッハツェンダー型導波路でのOn/Off消光比の劣化や、分岐導波路部間でのロス差を軽減することができるので、伝送特性の劣化を抑制することが可能となる。
なお、モード変換分岐部を全く覆わないようにオブジェクトを配置するとは、基板の幅方向(光波の伝搬方向に直交する方向)の全域においてオブジェクトが存在しないことまでを要求するものではない。すなわち、基板の長さ方向(光波の伝搬方向)の位置がモード変換分岐部と重複する領域であっても、基板の幅方向の位置がモード変換分岐部とは異なる領域であれば、オブジェクトが存在しても構わない。
【0029】
[第2実施例]
第2実施例では、
図3の下段の断面図に示すように、補強部材31を、モード変換分岐部23の全部を覆うように配置してある。また、制御電極32を、モード変換分岐部24の全部を覆うように配置してある。
このような構造によっても、モード変換分岐部23,24の範囲内では、基板10上のオブジェクトの熱収縮に起因する応力による屈折率分布が生じにくくなる。その結果、光波を分岐する際の伝搬光の分岐比を安定させて、伝送特性の劣化を抑制することが可能となる。
なお、モード変換分岐部の全部を覆うようにオブジェクトを配置するとは、基板の幅方向の全域においてオブジェクトが存在することを要求するものではない。すなわち、基板の長さ方向の位置がモード変換分岐部と重複する領域であっても、基板の幅方向の位置がモード変換分岐部とは異なる領域であれば、オブジェクトが存在しなくても構わない。
【0030】
[第3実施例および第4実施例]
図4に示す第3実施例は、
図2に示した第1実施例の変形例である。また、
図5に示す第4実施例は、
図3に示した第2実施例の変形例である。第1実施例および第2実施例の光導波路素子は多層構造であり、非常に薄く形成した基板10の裏面に補強基板12を接着して補強してあるが、第3実施例および第4実施例の光導波路素子は単層構造であり、基板10を十分な強度が得られる程度に厚く形成してある。
【0031】
光導波路素子が単層構造の場合でも、基板10上のオブジェクトの熱収縮に起因する応力による屈折率分布が生じ得る。そこで、
図4、
図5に示すように、基板10上のオブジェクトの配置を工夫することで、光波を分岐する際の伝搬光の分岐比を安定させて、伝送特性の更なる改善を図ることが可能となる。
【0032】
ここで、上記の各実施例では、基板上の各オブジェクトを、モード変換分岐部の全部を覆うように、或いは全く覆わないように配置していたが、モード変換分岐部の一部を覆うように配置する構成であってもよい。但し、光波の進行方向において所定値以上の長さの区間を連続して覆わないようにオブジェクトを配置する必要がある。具体的な条件について、
図6を参照して説明する。ここでは、一般的な通信帯であるC-Band(1530~1565nm)又はL-Band(1565~1625nm)の波長域の光波を使用することを想定している。
【0033】
図6では、モード変換分岐部50の一部を覆うように2つの制御電極51,52を配置してある。この場合、制御電極51,52のそれぞれの幅w1,w2は、いずれも40μm以下とすることが好ましい。このように、モード変換分岐部の一部を覆うようにオブジェクトを配置する場合には、光波の進行方向において40μm以上の区間を連続して覆わないようにオブジェクトを配置する必要がある。光波の進行方向において40μm以上の区間を連続して覆うようにオブジェクトを配置すると、光変調器の性能に影響する程度の光ロス差(分岐比の差)が生じるためである。
【0034】
更に、制御電極51と制御電極52の間隔dは、20μm以上とすることが好ましい。このように、不連続な複数の区間を覆うようにオブジェクトを配置する場合は、各区間の間に20μm以上の間隔を設ける必要がある。モード変換分岐部の範囲内に設ける各オブジェクトの間隔が十分に広い場合には応力変化の影響が小さいが、間隔が20μm以下に狭くなると応力変化が連続的に見えるようになり、光変調器の性能に影響する程度の光ロス差(分岐比の差)が生じるためである。
なお、上記の条件(幅w1,w2及び間隔d)は、モード変換分岐部の一部を覆うようにオブジェクトを配置する際に、光波の進行方向において所定値以上の長さの区間を連続して覆わないようにする場合の好適例の一つとして挙げたものである。すなわち、上記の条件は、光変調器の性能に及ぼす影響を無視できる程度(つまり、実用上有効な程度)に緩和されてもよい。
【0035】
これまでの説明では、光波進行方向の上流から1番目と2番目のモード変換分岐部を対象にして、その範囲内で基板上のオブジェクトの熱収縮による応力変化が生じにくくする工夫について説明したが、より下流にあるモード変換分岐部についても同様のことが言える。ただし、光導波路を伝搬する光波のパワーが大きい上流側のモード変換分岐部から順に本発明を適用した方が、より優れた効果が得られるので好ましい。また、複数のモード変換分岐部に本発明を適用する場合には、全てのモード変換分岐部でオブジェクトの配置を同様にする必要性はなく、或るモード変換部はオブジェクトで覆う一方で、別のモード変換部はオブジェクトで覆わない構成としてもよい。なお、下流側のモード変換分岐部に本発明を適用する場合は、パターニングにより制御電極を形成するか、形成しないかのいずれかなので、既存の製造プロセスを流用することができる。
【0036】
以上、実施例に基づいて本発明を説明したが、本発明は上述した内容に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更することが可能である。例えば、
図2,3では、薄板である基板に接着剤で補強基板を貼り合わせて多層構造化しているが、ベース基板上に結晶成長させて多層構造の基板を形成してもよい。
【0037】
また、上記の説明は、モード変換分岐部におけるオブジェクトの配置について言及したものであるが、光導波路素子が、分岐導波路部を伝搬するそれぞれの光波のモードを変換して合波するモード変換合波部を有する場合には、モード変換合波部についても同様のことが言える。
すなわち、基板に形成された光導波路がモード変換合波部を含む場合には、基板を平面視した際に、モード変換合波部の一部又は全部を覆うように、或いはモード変換合波部を全く覆わないように、オブジェクトを配置することが好ましい。また、モード変換合波部の一部を覆うようにオブジェクトを配置する場合は、光波の進行方向において所定値以上の長さの区間を連続して覆わないようにオブジェクトを配置することが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明によれば、基板上に配置されたオブジェクトの熱収縮に起因する伝送特性の劣化を抑制することが可能な光導波路素子を提供することができる。
【符号の説明】
【0039】
10 基板
11 接着剤
12 補強部材
20 光導波路
21 Y分岐導波路部
22 モード変換部
23,24,50 モード変換分岐部
31 補強部材
32,51,52 制御電極