(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-16
(45)【発行日】2022-05-24
(54)【発明の名称】ポリビニルアルコール系樹脂、分散剤及び懸濁重合用分散剤
(51)【国際特許分類】
C08F 16/06 20060101AFI20220517BHJP
C08F 2/20 20060101ALI20220517BHJP
【FI】
C08F16/06
C08F2/20
(21)【出願番号】P 2018526265
(86)(22)【出願日】2018-05-15
(86)【国際出願番号】 JP2018018826
(87)【国際公開番号】W WO2018212207
(87)【国際公開日】2018-11-22
【審査請求日】2020-12-11
(31)【優先権主張番号】P 2017097160
(32)【優先日】2017-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村松 雄介
(72)【発明者】
【氏名】山内 芳仁
【審査官】中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-189889(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 16/06
C08F 2/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子径が1000μmより大きく1680μm以下のポリビニルアルコール系樹脂と粒子径が212μmより大きく500μm以下のポリビニルアルコール系樹脂とを少なくとも含むポリビニルアルコール系樹脂であって、
前記ポリビニルアルコール系樹脂の0.1重量%水溶液の280nmでの吸光度が
0.35以上であり、かつ以下の式(1)を満足するポリビニルアルコール系樹脂。
0.9≦X
1/Y
1≦1.2 (1)
(式(1)中、X
1は粒子径が1000μmより大きく1680μm以下のポリビニルアルコール系樹脂の0.1重量%水溶液の320nmでの吸光度、Y
1は粒子径が212μmより大きく500μm以下のポリビニルアルコール系樹脂の0.1重量%水溶液の320nmでの吸光度を示す。)
【請求項2】
さらに、以下の式(2)を満足する、請求項1記載のポリビニルアルコール系樹脂。
0.8≦X
2/Y
2≦1.1 (2)
(式(2)中、X
2は粒子径が1000μmより大きく1680μm以下のポリビニルアルコール系樹脂の0.1重量%水溶液の280nmでの吸光度、Y
2は粒子径が212μmより大きく500μm以下のポリビニルアルコール系樹脂の0.1重量%水溶液の280nmでの吸光度を示す。)
【請求項3】
前記ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度が60~99モル%である、請求項1又は2記載のポリビニルアルコール系樹脂。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のポリビニルアルコール系樹脂からなる分散剤。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載のポリビニルアルコール系樹脂からなる懸濁重合用分散剤。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項に記載のポリビニルアルコール系樹脂の製造方法であって、
分子内にカルボニル基を有したポリビニルアルコール系樹脂を熱処理し、脱水または脱酢酸反応を起こすことを含み、前記熱処理の前に乾燥を行
い、乾燥の後に140~180℃で、0.5~6時間熱処理を行う、ポリビニルアルコール系樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアルコール系樹脂(以下、ポリビニルアルコールをPVAと略記することがある。)に関し、更に詳しくは、ポリ塩化ビニルの製造において塩化ビニルを懸濁重合する際に用いる分散剤として好適なPVA系樹脂、及び、かかるPVA系樹脂からなる分散剤、懸濁重合用分散剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、PVA系樹脂は、各種分散剤として用いられて、単量体の重合時の分散剤(例えば、乳化重合用分散剤、懸濁重合用分散剤等)としても用いられている。
また、工業的に塩化ビニル樹脂を製造する方法として、塩化ビニル単量体または塩化ビニル単量体と当該塩化ビニル単量体と共重合し得る単量体との混合物を懸濁重合する方法が知られている。そしてその重合時にはPVA系樹脂、メチルセルロース、酢酸ビニル-無水マレイン酸共重合物、ゼラチン等の分散剤(分散安定剤ともいう。)が用いられる。中でも、得られる塩化ビニル系重合体(樹脂)粒子の嵩密度、粒度分布、ポロシティ、可塑剤吸収性、残存モノマー等の物性改善に合わせて、各種のPVA系分散安定剤が検討されている。該PVA系分散安定剤の中でも、PVA系分散安定剤の界面活性能を向上させるという観点からPVA分子内のカルボニル基とこれに隣接したビニレン基に着目したPVA系樹脂の分散安定剤が提案されている。
【0003】
PVA系樹脂は、熱処理することにより、脱水または脱酢酸反応を起こし、主鎖中にビニレン基を生じ、ポリ塩化ビニル製造時の懸濁用分散安定剤、保水材などの用途に用いられている。また、フィルム状や繊維状のPVA系樹脂を熱処理することにより強度を向上させることも知られている。
【0004】
PVA系樹脂中のビニレン基は、特に0.1重量%水溶液の紫外線吸収スペクトルにより、測定することが出来る。なお、215nm付近のピークは[-CO-CH=CH-]の構造に帰属し、280nm付近のピークは[-CO-(CH=CH)2-]の構造に帰属し、320nm付近のピークは[-CO-(CH=CH)3-]の構造に帰属するものである。
【0005】
懸濁重合用安定剤としては、種々の熱処理PVA系樹脂が検討されている。
例えば、カルボニル基を有するPVA系樹脂にさらに2~3価の金属を含有させた懸濁重合用分散安定剤が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。また、特定のブロックキャラクターのPVAも提案されている(例えば、特許文献2参照。)。更に近年では、カルボニル基、ブロックキャラクター、吸光度、全ての条件を満たすPVAも提案されている(例えば、特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】日本国特開平08-269112号公報
【文献】日本国特開平08-283313号公報
【文献】日本国特開2004-250695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1では、ケン化後のPVA系樹脂に金属化合物含有溶液を添加し、金属の塩又は水酸化物を含有させた後、溶剤の振り切りを行い、振り切り後のPVA系樹脂(通常、振り切り後ではケン化時の溶剤を40重量%以上含有している。)を、110℃の高温で一気に熱処理しているため、樹脂の表面付近に存在している溶剤が急激に揮発し、樹脂の内部は乾いていない状態であるおそれがあった。また、熱処理の初期では、熱が溶剤の揮発に使われ、揮発した部分からPVA系樹脂に熱がかかるため、樹脂の内部の溶剤が揮発されきっていないうちに、表面付近から熱がかかり、熱のかかり方にムラができ、粒子間、粒子内の熱処理の度合いに分布ができるおそれがあった。
また、特許文献2では、乾燥して得られたPVA系樹脂を60℃で熱処理しているが、一般的なPVA系樹脂の乾燥では溶剤を3~10重量%程度含むものであるため、乾燥が充分ではなく、特許文献1と同様に、粒子間、粒子内への熱のかかり方に分布ができ、特許文献1と比較して程度は低いものの、同様に粒子間、粒子内の熱処理の度合いに分布ができるおそれがあった。
特許文献3では、押出機による溶融熱処理は、熱処理の粒子間、粒子内の熱処理度合いの分布に関しては問題にならないが、通常、溶融樹脂は水浴で冷却するが、PVA系樹脂は水溶性であり、高温で処理した溶融樹脂の冷却が困難であり、生産性が悪くなるという問題点があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
しかるに、本発明者らがかかる事情に鑑み鋭意検討した結果、粒子径の大きいPVA系樹脂と粒子径の小さいPVA系樹脂の特定波長での吸光度の比を1に近づけることにより、熱処理の度合いが粒子径に依存しないような熱処理の度合いの分布が小さいPVA系樹脂が得られることを見出し、本発明の完成に至った。
【0009】
即ち、本発明の要旨は、以下の<1>~<7>である。
<1>粒子径が1000μmより大きく1680μm以下のポリビニルアルコール系樹脂と粒子径が212μmより大きく500μm以下のポリビニルアルコール系樹脂とを少なくとも含むポリビニルアルコール系樹脂であって、前記ポリビニルアルコール系樹脂の0.1重量%水溶液の280nmでの吸光度が0.3以上であり、かつ以下の式(1)を満足するポリビニルアルコール系樹脂。
0.9≦X1/Y1≦1.2 (1)
(式(1)中、X1は粒子径が1000μmより大きく1680μm以下のポリビニルアルコール系樹脂の0.1重量%水溶液の320nmでの吸光度、Y1は粒子径が212μmより大きく500μm以下のポリビニルアルコール系樹脂の0.1重量%水溶液の320nmでの吸光度を示す。)
<2>さらに、以下の式(2)を満足する、前記<1>記載のポリビニルアルコール系樹脂。
0.8≦X2/Y2≦1.1 (2)
(式(2)中、X2は粒子径が1000μmより大きく1680μm以下のポリビニルアルコール系樹脂の0.1重量%水溶液の280nmでの吸光度、Y2は粒子径が212μmより大きく500μm以下のポリビニルアルコール系樹脂の0.1重量%水溶液の280nmでの吸光度を示す。)
<3>前記ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度が60~99モル%である、前記<1>又は<2>記載のポリビニルアルコール系樹脂。
<4>前記<1>~<3>のいずれか1つに記載のポリビニルアルコール系樹脂からなる分散剤。
<5>前記<1>~<3>のいずれか1つに記載のポリビニルアルコール系樹脂からなる懸濁重合用分散剤。
<6>前記<1>~<3>のいずれか1つに記載のポリビニルアルコール系樹脂の製造方法であって、分子内にカルボニル基を有したポリビニルアルコール系樹脂を熱処理し、脱水または脱酢酸反応を起こすことを含み、前記熱処理の前に乾燥を行う、ポリビニルアルコール系樹脂の製造方法。
<7>前記<6>に記載のポリビニルアルコール系樹脂の製造方法により得られたポリビニルアルコール系樹脂。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、熱処理度合いの分布の小さいPVA系樹脂が得られる。よって、かかるPVA系樹脂を用いることによって、塩化ビニル懸濁重合時に有効に作用するPVA系樹脂の量が増える、塩化ビニル粒子に対する吸着点の数が増える、反応が均一になるといった効果が得られるものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、これらの内容に特定されるものではない。
なお、本発明において、(メタ)アリルとはアリルあるいはメタリル、(メタ)アクリルとはアクリルあるいはメタクリル、(メタ)アクリレートとはアクリレートあるいはメタクリレートをそれぞれ意味する。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0012】
本発明のPVA系樹脂は、粒子径が1000μmより大きく1680μm以下のPVA系樹脂と粒子径が212μmより大きく500μm以下のPVA系樹脂とを少なくとも含み、0.1重量%水溶液の280nmでの吸光度が0.3以上であり、かつ以下の式(1)を満足するものである。
0.9≦X1/Y1≦1.2 (1)
(式(1)中、X1は粒子径が1000μmより大きく1680μm以下のPVA系樹脂の0.1重量%水溶液の320nmでの吸光度、Y1は粒子径が212μmより大きく500μm以下のPVA系樹脂の0.1重量%水溶液の320nmでの吸光度を示す。)
【0013】
PVA系樹脂は、ケン化工程における撹拌条件や、乾燥工程における粉砕条件などにより、得られるPVA系樹脂の粒子径にバラつきが生じる。本発明においては、PVA系樹脂の粒子径は10~3000μm程度であり、少なくとも粒子径が1000μmより大きく1680μm以下のPVA系樹脂と粒子径が212μmより大きく500μm以下のPVA系樹脂とを含む。
【0014】
本発明のPVA系樹脂は、0.1重量%水溶液としたときの紫外線吸収スペクトルにおける280nmの吸光度が0.3以上である。0.1重量%水溶液の280nmでの吸光度が0.3以上であると、塩化ビニル粒子への吸着性が向上する。0.1重量%水溶液の280nmでの吸光度は、0.35以上が好ましく、0.4以上がより好ましく、また、上限は特に制限されないが、0.8以下が好ましく、0.7以下がより好ましい。
【0015】
280nmにおける吸光度を0.3以上にするためには、例えば、分子内にカルボニル基を有したPVA系樹脂を熱処理し、脱水または脱酢酸反応を起こす方法等が挙げられる。前記方法により、PVA系樹脂中に共役二重結合が導入されるため、280nmにおける吸光度を0.3以上とすることができる。
【0016】
PVA系樹脂の0.1重量%水溶液の紫外線吸収スペクトルを測定することにより、PVA系樹脂中のビニレン基を測定することができる。なお、215nm付近のピークは[-CO-CH=CH-]の構造に帰属し、280nm付近のピークは[-CO-(CH=CH)2-]の構造に帰属し、320nm付近のピークは[-CO-(CH=CH)3-]の構造に帰属するものである。
PVA系樹脂中にビニレン基を導入する方法としては、例えば、分子内にカルボニル基を有したPVA系樹脂を熱処理し、脱水または脱酢酸反応を起こすことで、PVA系樹脂の主鎖中に、ビニレン基が導入される。
【0017】
PVA系樹脂の紫外線吸収スペクトルは、紫外可視近赤外分光光度計(例えば、日本分光株式会社製「V-560」)を用いて、波長215nm、280nm、320nmにおいて、PVA系樹脂の0.1重量%水溶液の吸光度を測定することにより得ることができる。なお、厚さ1cmの試料容器(セル)を用いて、測定する。
【0018】
また、本発明のPVA系樹脂は、下記式(1)を満足する。
0.9≦X1/Y1≦1.2 (1)
式(1)において、X1は粒子径が1000μmより大きく1680μm以下のPVA系樹脂の0.1重量%水溶液の320nmでの吸光度、Y1は粒子径が212μmより大きく500μm以下のPVA系樹脂の0.1重量%水溶液の320nmでの吸光度を示す。上記X1/Y1は、小さすぎても大きすぎても、熱処理度合いの分布が大きくなる。
上記の式(1)は、好ましくは0.92≦X1/Y1≦1.1であり、特に好ましくは0.95≦X1/Y1≦1.05である。かかるX1/Y1の値は1.0に近いほど、熱処理度合いの分布が小さいことを表し、最も好ましい値は1.0である。
【0019】
粒子径が1000μmより大きく1680μm以下のPVA系樹脂の0.1重量%水溶液の320nmでの吸光度(X1)と、粒子径が212μmより大きく500μm以下のPVA系樹脂の0.1重量%水溶液の320nmでの吸光度(Y1)は、PVA系樹脂をJIS Z8801-1:2000「標準ふるい」で篩分けし、上述の方法により、吸光度を測定する。
【0020】
また、本発明のPVA系樹脂は、以下の式(2)を満足することが好ましい。
0.8≦X2/Y2≦1.1 (2)
(式(2)中、X2は粒子径が1000μmより大きく1680μm以下のポリビニルアルコール系樹脂の0.1重量%水溶液の280nmでの吸光度、Y2は粒子径が212μmより大きく500μm以下のポリビニルアルコール系樹脂の0.1重量%水溶液の280nmでの吸光度を示す。)
かかる吸光度は上述の方法で求めることが出来る。
【0021】
上記X2/Y2は小さすぎても大きすぎても、熱処理度合いの分布が大きくなってくる。上記の式(2)は、好ましくは0.92≦X2/Y2≦1.1であり、特に好ましくは0.95≦X2/Y2≦1.05である。かかるX2/Y2の値は1.0に近いほど、熱処理度合いの分布が小さいことを表し、最も好ましい値は1.0である。
【0022】
また、本発明のPVA系樹脂を0.1重量%水溶液としたときの280nmの吸光度に対する320nmの吸光度の比(320nm/280nm)は、0.3以上であることが好ましく、より好ましくは0.4以上であり、更に好ましくは0.5以上である。前記吸光度比が小さすぎると、懸濁重合用分散剤として用いた場合に、界面活性能が低くなり懸濁重合安定性が低下する傾向がある。また上限は特に限定されないが、生産性の観点から、通常3程度である。
【0023】
本発明において、PVA系樹脂の製造方法としては、例えば、上述したとおり、分子内にカルボニル基を有したPVA系樹脂を熱処理し、脱水または脱酢酸反応を起こす方法が挙げられる。
【0024】
まずは、カルボニル基の導入方法について説明する。かかる方法としては、以下の方法が挙げられる。
(i)ビニルエステル系単量体を重合し、得られた重合体をケン化し、得られたPVA系樹脂を過酸化水素等の酸化剤で酸化処理する方法
(ii)ビニルエステル系単量体の重合の際にアルデヒド類やケトン類等連鎖移動剤の共存下に重合を行い、得られた重合体をケン化する方法
(iii)1-メトキシ-ビニルアセテート等の共存下でビニルエステル系単量体を重合し、得られた重合体をケン化する方法
(iv)ビニルエステル系単量体の重合時にエアを吹き込んで重合し、得られた重合体をケン化する方法
工業的には上記(ii)の方法が好ましく、とりわけ、酢酸ビニル単量体をアルデヒド類やケトン類等の連鎖移動剤の共存下で重合を行い、更にケン化してカルボニル基を含有するPVA系樹脂を得る方法が特に有利である。以下、この方法について更に詳述する。
【0025】
ビニルエステル系単量体としては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニルおよびその他の直鎖または分岐状の飽和脂肪酸ビニルエステルがあげられる。実用的観点から、酢酸ビニルが好ましく、通常、酢酸ビニルが単独でまたは酢酸ビニルと酢酸ビニル以外の脂肪酸ビニルエステル化合物とを組み合わせて使用される。
【0026】
該方法に用いられる連鎖移動剤のアルデヒド類としては、例えば、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、ベンズアルデヒドなどが挙げられ、ケトン類としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ヘキサノン、シクロヘキサノンなどが挙げられる。中でもアルデヒド類が好ましく、溶剤回収などの生産性の点から特にアセトアルデヒドが好ましい。連鎖移動剤の添加量は、添加する連鎖移動剤の連鎖移動定数や目的とするPVA系樹脂の重合度などにより多少異なるが、通常、ビニルエステル系単量体に対して0.1~5重量%であり、好ましくは0.5~3重量%である。また、連鎖移動剤の仕込み方法は、初期の一括仕込みでもよく、又重合反応時に仕込んでもよく、任意の方法で仕込むことにより、PVA系樹脂の分子量分布のコントロールを行うことができる。
【0027】
ビニルエステル系単量体、とりわけ酢酸ビニルを重合するに当たっては特に制限はなく公知の重合方法が任意に用いられるが、通常メタノール、エタノールあるいはイソプロピルアルコール等のアルコールを溶媒とする溶液重合が実施される。勿論、バルク重合、乳化重合、懸濁重合も可能である。かかる溶液重合においてビニルエステル系単量体の仕込み方法は、分割仕込み、一括仕込み等任意の手段を用いることができる。重合反応は、アゾビスイソブチロニトリル、アセチルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、アゾビスジメチルバレロニトリル、アゾビスメトキシバレロニトリルなどの公知のラジカル重合触媒を用いて行われる。又、反応温度は40℃~沸点程度の範囲から選択される。
【0028】
このとき必要であればビニルエステル系単量体と重合可能な単量体を共重合させた変性PVA系樹脂を用いることができる。かかる単量体としては、例えばエチレン、プロピレン、イソブチレン、α-オクテン、α-ドデセン、α-オクタデセン等のオレフィン類、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいはモノ又はジアルキルエステル等、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル類、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸あるいはその塩、アルキルビニルエーテル類、N-アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアリルビニルケトン、N-ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ポリオキシエチレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシプロピレン(メタ)アリルエーテル等のポリオキシアルキレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリルアミド等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシエチレン(1-(メタ)アクリルアミド-1,1-ジメチルプロピル)エステル、ポリオキシエチレンビニルエーテル、ポリオキシプロピレンビニルエーテル、ポリオキシエチレンアリルアミン、ポリオキシプロピレンアリルアミン、ポリオキシエチレンビニルアミン、ポリオキシプロピレンビニルアミン、3-ブテン-1-オール、4-ペンテン-1-オール、5-ヘキセン-1-オール等のヒドロキシ基含有α-オレフィン類及びそのアシル化物などの誘導体等が挙げられ、0.1~10モル%程度、共重合させることが可能である。
【0029】
また、3,4-ジヒドロキシ-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-1-ブテン、3-アシロキシ-4-ヒドロキシ-1-ブテン、4-アシロキシ-3-ヒドロキシ-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-2-メチル-1-ブテン、4,5-ジヒドロキシ-1-ペンテン、4,5-ジアシロキシ-1-ペンテン、4,5-ジヒドロキシ-3-メチル-1-ペンテン、4,5-ジアシロキシ-3-メチル-1-ペンテン、5,6-ジヒドロキシ-1-ヘキセン、5,6-ジアシロキシ-1-ヘキセン、グリセリンモノアリルエーテル、2,3-ジアセトキシ-1-アリルオキシプロパン、2-アセトキシ-1-アリルオキシ-3-ヒドロキシプロパン、3-アセトキシ-1-アリルオキシ-2-ヒドロキシプロパン、グリセリンモノビニルエーテル、グリセリンモノイソプロペニルエーテル、ビニルエチレンカーボネート、2,2-ジメチル-4-ビニル-1,3-ジオキソラン等のジオールを有する化合物なども挙げられる。かかるモノマーについても、0.1~10モル%共重合してもよい。
【0030】
ケン化に当たっては上記で得られるビニルエステル重合体をアルコールに溶解し、アルカリ触媒又は酸触媒の存在下に行われ、該アルコールとしてはメタノール、エタノール、ブタノール等が挙げられる。アルコール中の重合体の濃度は20~50重量%の範囲から選ばれる。アルカリ触媒としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート等のアルカリ金属の水酸化物やアルコラートの如きアルカリ触媒を用いることができ、酸触媒としては、例えば、塩酸、硫酸等の無機酸水溶液、p-トルエンスルホン酸等の有機酸を用いることができる。
かかる触媒の使用量はビニルエステル系単量体に対して1~100ミリモル当量にすることが必要である。かかる場合、ケン化温度は特に制限はないが、通常10~70℃、好ましくは20~50℃の範囲から選ぶのが望ましい。反応は通常2~3時間にわたって行われる。
【0031】
かくして得られたPVA系樹脂は、その分子内にカルボニル基を含有するものであるが、その含有量は0.05モル%以上が好ましく、更に好ましくは0.1モル%以上であり、該含有量が少なすぎると、ビニレン基の生成量が不十分となる傾向がある。なお、上限は通常3モル%である。
【0032】
また、該PVA系樹脂のケン化度(JIS K 6726に準拠して測定。)は、60~99モル%が好ましく、65~99モル%がより好ましく、更に好ましくは67~90モル%、特に好ましくは69~88モル%である。該ケン化度が低すぎると、PVA系樹脂の水への溶解性が低下したり、融点が低くなって熱処理時に樹脂同士が凝集してブロッキングしたりする傾向があり、逆に高すぎると界面活性能が低下して塩化ビニルモノマーの分散性が低下する傾向があり、懸濁重合時にブロックを生成し易くなる傾向がある。
【0033】
該PVA系樹脂の平均重合度(JIS K 6726に準拠して測定。)は、100~4000が好ましく、更に好ましくは150~3000、特に好ましくは200~1000である。該平均重合度が小さすぎると保護コロイド性が低くなりすぎて懸濁重合時に凝集を起こし易くなる傾向があり、逆に大きすぎるとPVA系樹脂末端のビニレン基量が低下して界面活性能が低下する傾向がある。
【0034】
PVA系樹脂に、2~3価の金属の塩又は水酸化物を含有することが脱酢酸反応の促進の点で好ましい。該2~3価の金属としては、例えば、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、アルミニウム等を例示することができ、これら金属の塩又は水酸化物の具体例としては、例えば、酢酸マグネシウム4水和物、酢酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム、酪酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、酢酸亜鉛、水酸化アルミニウム等が挙げられる。中でも水及び/又はメタノール等に溶解して工業的に取り扱い易いという点で酢酸マグネシウム4水和物や酢酸カルシウムが好適に用いられる。これらの化合物は、上記のPVA系樹脂中に含有されていればよく、特にその添加方法は限定されず、上記の化合物をケン化前のペーストやケン化後のスラリー等に直接添加してもよいが、好ましくはメタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール、又は水に溶解させて3~15重量%程度の濃度の溶液状で、ケン化後のPVA系樹脂スラリーに添加し、PVA系樹脂に分配させる方法が好ましい。また、PVA系樹脂中における該化合物の含有量としては、PVA系樹脂に対して30~300μmol/gが好ましく、更に好ましくは40~200μmol/gで、該含有量が少なすぎると、ビニレン基の生成量が低下し、逆に多すぎると、PVA系樹脂の着色や分解が激しくなる傾向がある。
【0035】
本発明においては、上記の如く2~3価の金属の塩又は水酸化物を含有させることが好ましいが、これらの化合物以外の例えば酢酸ナトリウム等の1価の金属化合物を本発明の効果を阻害しない範囲(2~3価の金属の塩又は水酸化物に対して1重量%以下)で併用することも可能である。
本発明では、上記の如くカルボニル基をあらかじめ含有したPVA系樹脂に上記の2~3価の金属の塩又は水酸化物を含有させることがビニレン基の導入効率の点からは好ましいが、カルボニル基を含有しないPVA系樹脂に上記の2~3価の金属の塩又は水酸化物を含有させた後、熱処理等によりカルボニル基を含有させることも可能である。
【0036】
(予備乾燥)
上記のように得られたPVA系樹脂は、ケン化後に乾燥され、粉末状のPVA系樹脂となる。本発明においては、PVA系樹脂を乾燥する際、まず予備乾燥を行うことが好ましい。予備乾燥の乾燥方法としては、例えば、減圧乾燥、常圧乾燥、熱風乾燥などが挙げられる。かかる乾燥時間は、通常、10分~20時間、好ましくは1時間~15時間であり、乾燥温度は、通常、40~120℃、さらに好ましくは40~100℃、特に好ましくは50℃以上80℃未満である。
かかる乾燥後に、PVA系樹脂には、通常、1~10重量%のケン化時に用いた溶剤(例えば、メタノール、エタノール等)を含有していることが多い。
【0037】
(熱処理前乾燥)
上記予備乾燥で得られたPVA系樹脂を熱処理することにより、分子内に二重結合が生成するが、本発明においては、予備乾燥後、かかる熱処理の前にさらに乾燥、即ち熱処理前乾燥をすることが好ましい。
かかる熱処理前乾燥の方法としては、通常の上述の乾燥方法が挙げられ、乾燥効率の点から、特に減圧乾燥が好ましい。
またかかる熱処理前乾燥後には、PVA系樹脂には、上記の溶剤が、1重量%未満になるまで乾燥することが好ましい。
【0038】
減圧乾燥の場合の圧力は通常20kPa以下、好ましくは17.0kPa以下、特に好ましくは13.0kPa以下である。上記圧力が高すぎると熱処理前乾燥に時間がかかり、製造工程として好ましいものではない。なお、上記圧力の下限は0kPaに近いほどよい。
上記乾燥工程での乾燥条件としては、温度は通常40~120℃であり、好ましくは50~120℃、さらに好ましくは60~120℃、特に好ましくは80℃以上120℃未満である。
また、上記熱処理前乾燥の時間は、上記温度および圧力条件、さらには処理対象物の重量等を考慮して適宜選択されるものであるが、通常30~1200分の範囲内にて設定することが好ましい。
【0039】
本発明のPVA系樹脂は、上記の熱処理前乾燥の後に、熱処理を施すことにより、脱水または脱酢酸反応が起き、二重結合が生成することによって得られる。熱処理の方法については、特に限定されないが、通常はPVA系樹脂を特定の熱処理に供する方法が挙げられる。該熱処理の温度条件は120~180℃が好ましく、更に好ましくは140~155℃で、該温度条件が低すぎると所望のビニレン基量が得られない傾向があり、逆に高すぎると、熱処理による分解が激しくなり、樹脂の融解が生じ缶内の付着が大きくなる傾向がある。
また熱処理の時間としては0.5~6時間が好ましく、更に好ましくは1.5~5時間である。該処理時間が短すぎるとビニレン基の生成量が低下する傾向があり、逆に長すぎるとPVA系樹脂の着色の原因や水に対する不溶解分生成の原因となる傾向がある。
【0040】
また、上記の熱処理は、酸素濃度が20容量%以下の酸素雰囲気下で行うのが好ましく、更に好ましくは3~12容量%の雰囲気下である。該酸素濃度が多すぎると、PVA系樹脂の着色が激しくなったり、又不溶化の原因となったりする傾向がある。かかる熱処理においては、公知の方法で得られたPVA系樹脂に上記に示した金属塩を含有させたものを用いることができるが、良好な界面活性能を得るために十分な量のビニレン基を生成せしめるためには、熱処理前のPVA系樹脂のカルボニル基の含有量は、0.03~2.5モル%であることが好ましい。
【0041】
上記の熱処理は、いかなる装置を用いてもよく(1)加熱可能な混合装置、例えばナウターミキサーやコニカルドライヤーで処理する方法、(2)一般的な静置乾燥器で処理する方法、(3)熱媒により加熱したフラスコを用いる方法、例えばエバポレーターを用いる方法、などが挙げられる。中でも本発明では熱処理の分布が小さくなる点で加熱可能な混合装置が好ましい。
【0042】
かくして得られたPVA系樹脂は、0.1重量%水溶液の紫外線吸収スペクトルによる吸光度は215nm[-CO-CH=CH-の構造に帰属]が0.1以上、好ましくは0.3以上、280nm[-CO-(CH=CH)2-の構造に帰属]が0.3以上、好ましくは0.35以上、320nm[-CO-(CH=CH)3-の構造に帰属]が0.1以上、好ましくは0.2以上であり、320nm/280nmで表される吸光度比が0.3以上、好ましくは0.4以上である。低すぎると塩化ビニルなどのビニル系化合物の懸濁重合時の発泡抑制効果が低くなる傾向がある。
【0043】
本発明のPVA系樹脂のケン化度(JIS K 6726に準拠して測定。)は、60~99モル%が好ましく、65~99モル%がより好ましく、更に好ましくは67~90モル%、特に好ましくは69~88モル%である。該ケン化度が小さすぎると、水分散性が低下する傾向があり、逆に大きすぎると界面活性能が低下して塩化ビニルモノマーの分散性が低下する傾向があり、懸濁重合時にブロックを生成し易くなる傾向がある。
【0044】
また、本発明のPVA系樹脂の平均重合度(JIS K 6726に準拠して測定。)は、100~4000が好ましく、更に好ましくは150~3000、特に好ましくは200~1000である。該平均重合度が小さすぎると保護コロイド性が低くなりすぎて懸濁重合時に凝集を起こし易くなる傾向があり、逆に大きすぎるとPVA系樹脂末端のビニレン基量が低下して界面活性能が低下する傾向がある。
【0045】
本発明のPVA系樹脂は、固体微粒子を液体中に安定して分散させるための分散剤として有用であり、とりわけ、懸濁重合用分散剤として有用である。
次に、本発明のPVA系樹脂を分散剤として用いたビニル系化合物(塩化ビニル)の懸濁重合方法について説明する。
懸濁重合する際には、通常水又は加熱水媒体に本発明のPVA系樹脂を分散剤として添加し、塩化ビニルモノマーを分散させて油溶性触媒の存在下で重合を行う。該PVA系樹脂(分散剤)は、粉末のまま或いは溶液状で添加することができる。また、該PVA系樹脂が、ケン化度が低く、水分散体となる場合には、水分散液として添加することができる。特に溶液状においては、該PVA系樹脂が水溶性の場合には、水溶液で、又水溶性が低い場合でもアルコール、ケトン、エステル等の有機溶媒又はこれら有機溶媒と水との混合溶媒に溶解させて溶液として添加することができる。水分散液においては、ケン化度が低くても、該PVA系樹脂が水への自己分散性をもつ場合は、そのまま水分散液に添加することができる。
【0046】
該分散剤は重合の初期に一括仕込みしても、又重合の途中で分割して仕込んでもよい。又、使用される触媒は油溶性の触媒であればいずれでもよく、例えばベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、α,α’-アゾビスイソブチロニトリル、α,α’-アゾビス-2,4-ジメチル-バレロニトリル、アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキサイドあるいはこれらの混合物が使用される。重合温度は、当業者周知の範囲から任意に選択される。
また、本発明のPVA系樹脂以外の公知の安定剤、例えば高分子物質を併用することも可能である。高分子物質としては、平均重合度100~4,000、ケン化度30~95モル%のPVA又はその誘導体が挙げられる。該PVAの誘導体としては、PVAのホルマール化物、アセタール化物、ブチラール化物、ウレタン化物、スルホン酸、カルボン酸等とのエステル化物などが挙げられる。更に、前述の変性PVA系樹脂が挙げられる。しかし必ずしもこれに限定されるものではない。
【0047】
又、上記のPVA以外の高分子物質としてはメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アミノメチルヒドロキシプロピルセルロース、アミノエチルヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース誘導体類、デンプン、トラガント、ペクチン、グルー、アルギン酸又はその塩、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸又はその塩、ポリメタアクリル酸又はその塩、ポリアクリルアミド、ポリメタアクリルアミド、酢酸ビニルとマレイン酸、無水マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、クロトン酸等不飽和酸との共重合体、スチレンと上記不飽和酸との共重合体、ビニルエーテルと上記不飽和酸との共重合体及び前記共重合体の塩類又はエステル類が挙げられる。重合時に助剤として各種界面活性剤あるいは無機分散剤等を適宜併用することも可能で、更には本発明のPVA系樹脂を助剤として使用することも可能である。
【0048】
更に塩化ビニルの単独重合のみではなく、これと共重合可能な単量体との共重合も行われる。共重合可能な単量体としてはハロゲン化ビニリデン、ビニルエーテル、酢酸ビニル、安息香酸ビニル、アクリル酸、メタクリル酸及びそのエステル、マレイン酸又はその無水物、エチレン、プロピレン、スチレン等が挙げられる。また、塩化ビニルの重合時には、適宜使用される重合調整剤、連鎖移動剤、ゲル化改良剤、帯電防止剤、pH調整剤等を添加することも任意である。以上、主として塩化ビニルの重合について説明したが、本発明の分散剤は必ずしも塩化ビニル用に限定されるものではなく、スチレン、メタクリレート、酢酸ビニル等任意のビニル系化合物の懸濁重合用にも使用することができる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下「%」、「部」とあるのは、特にことわりのない限り、重量基準を意味する。
【0050】
(実施例1)
<PVA系樹脂の製造>
酢酸ビニル100部、アセトアルデヒド1.2部、メタノール4.7部及び酢酸ビニルに対して0.0092%のアセチルパーオキサイド(APO)を重合缶に仕込み、窒素で置換した。その後、加熱して沸点下で重合を開始させ、5.7時間後に重合率91.8%に達した時点で重合を停止した。次いで未重合の酢酸ビニルを除去し、得られた重合体を水酸化ナトリウムで常法によりケン化して樹脂分12%のPVA系樹脂(重合度650、ケン化度72.0モル%、カルボニル基量0.16モル%)のケン化スラリー(酢酸メチル/メタノール=8/2(重量比)の溶媒)を調製した。
次に上記で調製したPVA系樹脂に金属化合物として酢酸マグネシウム4水和物の10%メタノール溶液をPVA系樹脂1kgに対して350gの割合で添加し、25℃で1時間撹拌した。その後、ヌッチェで振り切り、送風乾燥機にて70℃で12時間乾燥を行って(予備乾燥)、酢酸マグネシウム177μmol/gを含有したPVA系樹脂を得た。
次いで、熱処理缶内で、圧力5.33kPaの減圧下、110℃で2時間乾燥させた後(熱処理前乾燥)、窒素:空気=1:1(容積比)のガスを100L/hrの速度で熱処理缶内に流し込んで、酸素濃度を10%に保ちつつ145℃で3時間熱処理を行った。熱処理後のPVA系樹脂の特性は以下の通りであった。重合度;650(JIS K 6726に準拠して測定)、ケン化度;72.0モル%(JIS 6726に準拠して測定))、酢酸マグネシウム;177μmol/g(含有マグネシウム量より算出)を含有するものであった。
【0051】
〔篩分け〕
得られたPVA系樹脂を、公称目開き212μm、500μm、1,000μm及び1,680μmの篩(JIS Z8801-1:2000「標準ふるい」)で篩分けした。
【0052】
〔吸光度の測定〕
上記で篩分けされたPVA系樹脂粉末の各粒子径範囲での吸光度の測定は、紫外可視近赤外分光光度計(日本分光株式会社製「V-560」)を用いて、波長215nm、280nm、320nmにおいて、PVA系樹脂の0.1重量%水溶液の吸光度を測定した。なお、厚さ1cmの試料容器(セル)を用いて、測定した。粒子径が212μmより大きく500μm以下のPVA系樹脂の0.1重量%水溶液の320nmでの吸光度Y1に対する粒子径が1000μmより大きく1680μm以下のPVA系樹脂の0.1重量%水溶液の320nmでの吸光度X1(X1/Y1)、粒子径が212μmより大きく500μm以下のPVA系樹脂の0.1重量%水溶液の280nmでの吸光度Y2に対する粒子径が1000μmより大きく1680μm以下のPVA系樹脂の0.1重量%水溶液の280nmでの吸光度X2(X2/Y2)を算出した。結果を表1に示す。
【0053】
(実施例2)
実施例1において、熱処理後のケン化度が71.5モル%(JIS 6726に準拠して測定)のPVA系樹脂を用いた以外は実施例1と同様に処理を行い、同様に篩分けをして吸光度を測定し、実施例1と同様に、吸光度比X1/Y1及びX2/Y2を算出した。結果を表1に示す。
【0054】
(比較例1)
実施例1において振り切り後の乾燥(予備乾燥)を実施しない以外は実施例1と同様に処理を行い、同様に篩分けをして吸光度を測定し、実施例1と同様に、吸光度比X1/Y1及びX2/Y2を算出した。結果を表1に示す。
【0055】
【0056】
上記表1の実施例1、2において、320nm、280nmでの粒子間吸光度比(1000-1680μm/212-500μm)の値は1に近く、粗大粒子と微粒子の320nmの吸光度が同程度であることを示しており、粒子径による差が少ないことを意味している。一方、比較例1では粒子間吸光度比は実施例1、2に比べて小さく、粒径による吸光度の差が大きいことを意味しており、粒子径間で熱処理の度合いに分布が生じていることがわかる。
【0057】
実施例1、2においては、吸光度比が小さく、二重結合が3つ連続した構造よりも2つ連続した構造が多く、一方、比較例1は、二重結合が2つ連続した構造も3つ連続した構造も同数程度含まれることが分かった。
【0058】
従って、PVA系樹脂のケン化、振り切り後、まず予備乾燥でゆっくりと乾燥させ、続いて、温度を上げて再度しっかりと乾燥をさせた後にPVA系樹脂に熱処理を施すことによって、PVA系樹脂の粒子間熱処理の度合いを均一にすることができ、それにより塩化ビニルの懸濁重合時に有効に作用するPVA系樹脂の量が増える、ポリ塩化ビニル粒子に対する吸着点の数が増える、反応が均一になるといった効果が得られると推測される。
【0059】
本発明を詳細にまた特定の実施形態を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は、2017年5月16日出願の日本特許出願(特願2017-097160)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明のPVA系樹脂は、分散剤として有用であり、とりわけ、塩化ビニル等のビニル系化合物の懸濁重合用分散剤に供したとき、得られた塩化ビニル系重合体(樹脂)粒子の分散性に優れ、かつ着色も少なくビニル系化合物の懸濁重合用分散剤として大変有用性が高く、又助剤として使用することも可能である。そして、かかる分散剤を用いて懸濁重合されたポリ塩化ビニルは、フィルム、ホース、シート、ビニルレザー、ビニル鋼板、防水帆布、塗装布、工業用手袋、印刷用ロール、靴底、発泡体、人形、クッション等の用途に利用することができる。