IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 旭硝子株式会社の特許一覧

特許7074139組成物および物品ならびに組成物を製造する方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-16
(45)【発行日】2022-05-24
(54)【発明の名称】組成物および物品ならびに組成物を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 65/336 20060101AFI20220517BHJP
   C08K 5/56 20060101ALI20220517BHJP
   C08L 71/00 20060101ALI20220517BHJP
【FI】
C08G65/336
C08K5/56
C08L71/00 Z
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019536444
(86)(22)【出願日】2018-07-12
(86)【国際出願番号】 JP2018026363
(87)【国際公開番号】W WO2019035297
(87)【国際公開日】2019-02-21
【審査請求日】2021-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2017158077
(32)【優先日】2017-08-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】高尾 清貴
【審査官】中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-327820(JP,A)
【文献】特表2014-505114(JP,A)
【文献】特開2012-037896(JP,A)
【文献】特表2008-537557(JP,A)
【文献】特表2008-534696(JP,A)
【文献】特開2014-210831(JP,A)
【文献】特開平04-106157(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 65/336
C08K 5/56
C08L 71/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素原子に結合した加水分解性基およびケイ素原子に結合した水酸基の少なくとも一方とポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖とを有する含フッ素エーテル化合物、および鉄原子含有化合物を含む組成物であって、
前記鉄原子含有化合物に含まれる鉄原子の含有量が、前記含フッ素エーテル化合物に対して、15~1,500質量ppmであり、
前記鉄原子含有化合物が、芳香環を有する配位子が鉄原子に配位した化合物であることを特徴とする組成物。
【請求項2】
前記含フッ素エーテル化合物が、前記ケイ素原子に結合した加水分解性基を2つ以上有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記含フッ素エーテル化合物が、前記加水分解性基が結合したケイ素原子からなる基を2つ以上有する、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記含フッ素エーテル化合物が、下記式(1)で表される化合物である、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
[A-O-Z-(RO)-][-SiR3-n (1)
ただし、Aは、ペルフルオロアルキル基または-Q[-SiR3-nであり、Aが-Q[-SiR3-nである場合jは1であり、
Qは(k+1)価の連結基であり、kは1~10の整数であり、
は、単結合、1個以上の水素原子がフッ素原子に置換された炭素数1~20のオキシフルオロアルキレン基(ただし、オキシペルフルオロアルキレン基を除く。上記オキシフルオロアルキレン基中の酸素原子は、(RO)に結合する。)、または、1個以上の水素原子がフッ素原子に置換された炭素数1~20のポリ(オキシフルオロアルキレン)基((RO)に結合するオキシフルオロアルキレン基中の酸素原子は、(RO)に結合する。(RO)に結合するオキシフルオロアルキレン基は、1個以上の水素原子を含む。ポリ(オキシフルオロアルキレン)基には、全ての水素原子がフッ素原子に置換されたオキシペルフルオロアルキレン基と、1個以上の水素原子を含むオキシフルオロアルキレン基との両方が含まれていてもよい。)であり、
はペルフルオロアルキレン基であり、mは、2~200の整数であり、(RO)において炭素数の異なる2種以上のROが存在する場合、各ROの結合順序は限定されず、
は(j+q)価の連結基であり、Rは水素原子または1価の炭化水素基であり、Lは加水分解性基または水酸基であり、j、qはそれぞれ1以上の整数であり、nは0~2の整数である。
【請求項5】
前記Aが炭素数1~6のペルフルオロアルキル基であり、前記qが2~4である、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
Lが炭素数1~4のアルコキシ基であり、nが0または1である、請求項4または5に記載の組成物。
【請求項7】
前記SiR3-nがSi(OCHである、請求項4~6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
前記芳香環がシクロペンタジエニル環、ピリジン環及びベンゼン環の少なくともいずれかである、
請求項1~7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
液状媒体をさらに含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
前記液状媒体が、フッ素系有機溶媒である、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
基材と、前記基材の表面に、請求項1~10のいずれか1項に記載の組成物から形成されてなる表面層と、を有することを特徴とする物品。
【請求項12】
ケイ素原子に結合した加水分解性基およびケイ素原子に結合した水酸基の少なくとも一方とポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖とを有する含フッ素エーテル化合物、および鉄原子含有化合物を含む組成物であって、
前記鉄原子含有化合物に含まれる鉄原子の含有量が、前記含フッ素エーテル化合物に対して、15~1,500質量ppmであり、
前記鉄原子含有化合物はヒドロシリル化触媒であることを特徴とする組成物。
【請求項13】
ヒドロシリル化触媒の存在下、ポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖およびω-アルケニル基を有する化合物と、ケイ素原子に結合した加水分解性基およびケイ素原子に結合した水酸基の少なくとも一方とケイ素原子に結合した水素原子とを有するケイ素化合物とを反応させることで請求項1~10のいずれか1項に記載の組成物を製造する方法であって、
前記ヒドロシリル化触媒は前記鉄原子含有化合物であり、
前記鉄原子含有化合物に含まれる鉄原子の含有量を、前記含フッ素エーテル化合物に対して、15~1,500質量ppmとする、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物および物品に関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素化合物は、高い潤滑性、撥水撥油性等を示すため、表面処理剤に好適に用いられる。表面処理剤によって基材の表面に撥水撥油性を付与すると、基材の表面の汚れを拭き取りやすくなり、汚れの除去性が向上する。上記含フッ素化合物の中でも、ペルフルオロアルキレン鎖の途中にエーテル結合(-O-)が存在するポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖を有する含フッ素エーテル化合物は、柔軟性に優れる化合物であり、特に油脂等の汚れの除去性に優れる。
【0003】
上記含フッ素エーテル化合物を含む表面処理剤は、指で繰り返し摩擦されても撥水撥油性が低下しにくい性能(耐摩擦性)および拭き取りによって表面に付着した指紋を容易に除去できる性能(指紋汚れ除去性)が長時間維持されるのが求められる用途、たとえば、タッチパネルの指で触れる面を構成する部材の表面処理剤として用いられる。
上記含フッ素エーテル化合物としては、白金等を含むヒドロシリル化触媒の存在下、ポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖を有する化合物と、アルコキシシランと、を反応させて得られる、ポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖を有し、末端に加水分解性シリル基を有する化合物が広く用いられている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-199906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、含フッ素エーテル化合物を含む組成物を用いて形成されてなる表面層に求められる物性はさらに向上している。
本発明者らが特許文献1に記載の含フッ素エーテル化合物を含む組成物を用いて基材の表面に表面層を形成したところ、組成物に含まれる成分によっては、表面層の耐摩擦性が不充分である場合、または、凝集物に起因する粒状物が発生して、表面層の外観特性が劣る場合があるのを知見した。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みて、耐摩擦性に優れ、かつ、粒状物の発生が抑制された表面層を形成できる組成物、および、これを用いて形成された表面層を有する物品の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記[1]~[11]の構成を有する組成物および物品を提供する。
[1] ケイ素原子に結合した加水分解性基およびケイ素原子に結合した水酸基の少なくとも一方とポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖とを有する含フッ素エーテル化合物、および鉄原子含有化合物を含む組成物であって、前記鉄原子含有化合物に含まれる鉄原子の含有量が、前記含フッ素エーテル化合物に対して、15~1,500質量ppmであることを特徴とする組成物。
[2] 前記含フッ素エーテル化合物が、前記ケイ素原子に結合した加水分解性基を2つ以上有する、[1]の組成物。
[3] 前記含フッ素エーテル化合物が、前記加水分解性基が結合したケイ素原子からなる基を2つ以上有する、[1]または[2]の組成物。
【0008】
[4] 前記含フッ素エーテル化合物が、下記式(1)で表される化合物である、[1]~[3]のいずれかの組成物。
[A-O-Z-(RO)-][-SiR3-n (1)
ただし、Aは、ペルフルオロアルキル基または-Q[-SiR3-nであり、Aが-Q[-SiR3-nである場合jは1であり、
Qは(k+1)価の連結基であり、kは1~10の整数であり、
は、単結合、1個以上の水素原子がフッ素原子に置換された炭素数1~20のオキシフルオロアルキレン基(ただし、オキシペルフルオロアルキレン基を除く。上記オキシフルオロアルキレン基中の酸素原子は、(RO)に結合する。)、または、1個以上の水素原子がフッ素原子に置換された炭素数1~20のポリ(オキシフルオロアルキレン)基((RO)に結合するオキシフルオロアルキレン基中の酸素原子は、(RO)に結合する。(RO)に結合するオキシフルオロアルキレン基は、1個以上の水素原子を含む。ポリ(オキシフルオロアルキレン)基には、全ての水素原子がフッ素原子に置換されたオキシペルフルオロアルキレン基と、1個以上の水素原子を含むオキシフルオロアルキレン基との両方が含まれていてもよい。)であり、
はペルフルオロアルキレン基であり、mは、2~200の整数であり、(RO)において炭素数の異なる2種以上のROが存在する場合、各ROの結合順序は限定されず、
は(j+q)価の連結基であり、Rは水素原子または1価の炭化水素基であり、Lは加水分解性基または水酸基であり、j、qはそれぞれ1以上の整数であり、nは0~2の整数である。
【0009】
[5] 前記Aが炭素数1~6のペルフルオロアルキル基であり、前記qが2~4である、[4]の組成物。
[6] Lが炭素数1~4のアルコキシ基であり、nが0または1である、[4]または[5]の組成物。
[7] 前記SiR3-nがSi(OCHである、[4]~[6]のいずれかの組成物。
[8] 前記鉄原子含有化合物が、芳香環を有する配位子が鉄原子に配位した化合物である、[1]~[7]のいずれかの組成物。
[9] 液状媒体をさらに含む、[1]~[8]のいずれかの組成物。
[10] 前記液状媒体が、フッ素系有機溶媒である、[9]の組成物。
[11] 基材と、前記基材の表面に、[1]~[10]のいずれかの組成物から形成されてなる表面層と、を有することを特徴とする物品。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、耐摩擦性に優れ、かつ、粒状物の発生が抑制された表面層を形成できる組成物、および、これを用いて形成された表面層を有する物品を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において、式(1)で表される化合物を化合物1と記す。他の式で表される化合物も同様に記す。式(1)で表される基を基1と記す。他の式で表される基も同様に記す。
本明細書において、「アルキレン基がA基を有していてもよい」、「A基を有していてもよいアルキレン基」とは、アルキレン基中の炭素原子-炭素原子間にA基を有していてもよいし、アルキレン基-A基-のように末端にA基を有していてもよいことを意味する。
本発明における用語の意味は以下の通りである。
「エーテル性酸素原子」とは、炭素原子-炭素原子間においてエーテル結合(-O-)を形成する酸素原子を意味する。
「2価のオルガノポリシロキサン残基」とは、下式で表される基である。下式におけるRは、アルキル基(好ましくは炭素数1~10)、または、フェニル基である。また、g1は、1以上の整数であり、1~9の整数が好ましく、1~4の整数が特に好ましい。
【0012】
【化1】
【0013】
「シルフェニレン骨格基」とは、-Si(RPhSi(R-(ただし、Phはフェニレン基であり、Rは1価の有機基である。)で表される基である。Rとしては、アルキル基(好ましくは炭素数1~10)が好ましい。
「ジアルキルシリレン基」は、-Si(R-(ただし、Rはアルキル基(好ましくは炭素数1~10)である。)で表される基である。
「表面層」とは、基材の表面に形成される層を意味する。
含フッ素エーテル化合物の「数平均分子量」は、NMR分析法を用い、下記の方法で算出される。
H-NMRおよび19F-NMRによって、末端基を基準にしてオキシペルフルオロアルキレン基の数(平均値)を求めることによって算出される。
【0014】
〔組成物〕
本発明の組成物(以下、「本組成物」ともいう。)は、ケイ素原子に結合した加水分解性基およびケイ素原子に結合した水酸基の少なくとも一方とポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖とを有する含フッ素エーテル化合物(以下、「特定含フッ素エーテル化合物」ともいう。)、および鉄原子含有化合物を含む組成物であって、鉄原子含有化合物に含まれる鉄原子の含有量が、特定含フッ素エーテル化合物の全質量に対して、15~1,500質量ppmである。
なお、以下、加水分解性基が結合したケイ素原子からなる基を「加水分解性シリル基」といい、ケイ素原子に結合した水酸基を「シラノール基」ともいう。
【0015】
本組成物によれば、耐摩擦性に優れ、かつ、粒状物の発生が抑制された表面層を形成できる。この理由の詳細は、未だ明らかになっていないが概ね以下の理由によると推測される。
すなわち、表面層を形成する際に、特定含フッ素エーテル化合物に対する鉄原子の含有量が15質量ppm以上である本組成物を用いると、鉄原子含有化合物が特定含フッ素エーテル化合物に含まれる加水分解性シリル基の加水分解反応触媒としての機能を発揮して、表面層と基材とが強固に結合すると推測される。その結果、耐摩擦性に優れた表面層を形成できたと考えられる。
また、特定含フッ素エーテル化合物に対する鉄原子の含有量が1,500質量ppm以下であると、本組成物の保存時における特定含フッ素エーテル化合物の加水分解・縮合が抑制されて、本組成物中に特定含フッ素エーテル化合物に由来する凝集物が発生しにくいと考えられる。その結果、本組成物を用いて得られる表面層は、凝集物に起因する粒状物の発生が抑制されたと考えられる。
【0016】
(特定含フッ素エーテル化合物)
本組成物における特定含フッ素エーテル化合物は、加水分解性シリル基またはシラノール基とポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖とを有する。
【0017】
ポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖としては、表面層の撥水撥油性がより優れる点から、(RO)(ただし、Rはペルフルオロアルキレン基であり、mは2~200の整数であり、炭素数の異なる2種以上のROからなるものであってもよい。)が好ましい。
(RO)の定義は、後段で詳述する。
【0018】
特定含フッ素エーテル化合物は、化合物の保存安定性がより優れる点から、加水分解性シリル基を有するのが好ましく、表面層の耐摩擦性がより優れる点から、加水分解性シリル基を2つ以上有するのが好ましい。加水分解性シリル基の数は6以下が好ましく、4以下がより好ましい。
【0019】
特定含フッ素エーテル化合物の数平均分子量は、500~20,000が好ましく、800~10,000がより好ましく、1,000~8,000が特に好ましい。数平均分子量が該範囲内であれば、表面層の耐摩擦性に優れる。
【0020】
特定含フッ素エーテル化合物としては、表面層の撥水撥油性がより優れる点で、化合物1が好ましい。
[A-O-Z-(RO)-][-SiR3-n (1)
【0021】
Aは、ペルフルオロアルキル基または-Q[-SiR3-nである。
ペルフルオロアルキル基中の炭素数は、表面層の耐摩擦性がより優れる点から、1~20が好ましく、1~10がより好ましく、1~6がさらに好ましく、1~3が特に好ましい。
ペルフルオロアルキル基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。
ただし、Aが-Q[-SiR3-nである場合、jは1である。
【0022】
ペルフルオロアルキル基としては、CF-、CFCF-、CFCFCF-、CFCFCFCF-、CFCFCFCFCF-、CFCFCFCFCFCF-、CFCF(CF)-等が挙げられる。
ペルフルオロアルキル基としては、表面層の撥水撥油性がより優れる点から、CF-、CFCF-、CFCFCF-が好ましい。
【0023】
Qは、(k+1)価の連結基である。kは1~10の整数である。よって、Qとしては、2~11価の連結基が挙げられる。
Qとしては、たとえば、エーテル性酸素原子または2価のオルガノポリシロキサン残基を有していてもよいアルキレン基、炭素原子、窒素原子、ケイ素原子、2~8価のオルガノポリシロキサン残基、および、後述する式(2-1)、式(2-2)、式(2-1-1)~(2-1-6)からSiR3-nを除いた基が挙げられる。
【0024】
Rは、水素原子または1価の炭化水素基である。
Rは、1価の炭化水素基が好ましく、1価の飽和炭化水素基が特に好ましい。1価の炭化水素基の炭素数は、1~6が好ましく、1~3がより好ましく、1~2が特に好ましい。
【0025】
Lは、加水分解性基または水酸基である。Lが加水分解性基であるSiR3-nは、加水分解性シリル基である。
Lの加水分解性基は、加水分解反応により水酸基となる基である。すなわち、加水分解性シリル基の加水分解性基は、加水分解反応によりシラノール基となる。シラノール基は、さらにシラノール基間で反応してSi-O-Si結合を形成する。また、シラノール基は、基材の表面の水酸基(基材-OH)と脱水縮合反応して、化学結合(基材-O-Si)を形成できる。
【0026】
Lとしては、アルコキシ基、ハロゲン原子、アシル基、イソシアナート基(-NCO)等が挙げられる。アルコキシ基としては、炭素数1~4のアルコキシ基が好ましい。ハロゲン原子としては、塩素原子が好ましい。
Lとしては、工業的な製造が容易な点から、炭素数1~4のアルコキシ基またはハロゲン原子が好ましい。Lとしては、塗布時のアウトガスが少なく、化合物の保存安定性がより優れる点から、炭素数1~4のアルコキシ基が好ましく、化合物の長期の保存安定性が必要な場合にはエトキシ基が特に好ましく、塗布後の反応時間を短時間とする場合にはメトキシ基が特に好ましい。
【0027】
nは、0~2の整数である。
nは、0または1が好ましく、0が特に好ましい。Lが複数存在することによって、表面層の基材への密着性がより強固になる。
nが0または1である場合、1分子中に存在する複数のLは互いに同じであっても異なっていてもよい。原料の入手容易性や製造容易性の点からは、互いに同じであることが好ましい。nが2である場合、1分子中に存在する2つのRは互いに同じであっても異なっていてもよい。
【0028】
加水分解性シリル基(SiR3-n)としては、-Si(OCH、-SiCH(OCH、-Si(OCHCH、-SiCl、-Si(OC(O)CH、-Si(NCO)が好ましい。工業的な製造における取扱いやすさの点から、-Si(OCHが特に好ましい。
【0029】
は、単結合、1個以上の水素原子がフッ素原子に置換された炭素数1~20のオキシフルオロアルキレン基(ただし、オキシペルフルオロアルキレン基を除く。上記オキシフルオロアルキレン基中の酸素原子は、(RO)に結合する。)、または、1個以上の水素原子がフッ素原子に置換された炭素数1~20のポリ(オキシフルオロアルキレン)基((RO)に結合するオキシフルオロアルキレン基中の酸素原子は、(RO)に結合する。(RO)に結合するオキシフルオロアルキレン基は、1個以上の水素原子を含む。ポリ(オキシフルオロアルキレン)基には、全ての水素原子がフッ素原子に置換されたオキシペルフルオロアルキレン基と、1個以上の水素原子を含むオキシフルオロアルキレン基との両方が含まれていてもよい。)である。オキシフルオロアルキレン基またはポリ(オキシフルオロアルキレン)基の炭素数は1~10が好ましい。
【0030】
としては、化合物を製造しやすい点から、単結合、-CHFCFOCHCFO-、-CFCHFCFOCHCFCFO-、-CFCFCHFCFOCHCFO-、-CFCFOCHFCFOCHCFO-、-CFCFOCFCFOCHFCFOCHCFO-、-CFCHOCHCFO-、-CFCFOCFCHOCHCFO-が好ましい(ただし、左側がA-Oに結合する。)。Zとしては、単結合、-CHFCFOCHCFO-が特に好ましい。
【0031】
は、ペルフルオロアルキレン基である。
ペルフルオロアルキレン基の炭素数は、表面層の撥水撥油性がより優れる点から、1~6が好ましい。
ペルフルオロアルキレン基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよいが、表面層の撥水撥油性により優れる点から、直鎖状が好ましい。
なお、複数のRは、同一であっても異なっていてもよい。つまり、(RO)は、炭素数の異なる2種以上のROから構成されていてもよい。
【0032】
mは、2~200の整数であり、5~150の整数が好ましく、10~100の整数が特に好ましい。mが上記範囲の下限値以上であれば、表面層の撥水撥油性がより優れる。mが上記範囲の上限値以下であれば、表面層の耐摩擦性がより優れる。
【0033】
(RO)において、炭素数の異なる2種以上のROが存在する場合、各ROの結合順序は限定されない。たとえば、2種のROが存在する場合、2種のROがランダム、交互、ブロックに配置されてもよい。
(RO)としては、表面層の撥水撥油性がより優れる点から、{(CFO)m11(CFCFO)m12(CFCFCFO)m13(CFCFCFCFO)m14}、(CFCFO)m16、(CFCFCFO)m17、(CFCFO-CFCFCFCFO)m15(CFCFO)、(CFO-CFCFCFCFCFO)m18(CFO)または(CFCFO-CFCFCFCFCFCFO)m19(CFCFO)が好ましく、{(CFO)m11(CFCFO)m12(CFCFCFO)m13(CFCFCFCFO)m14}、(CFCFO-CFCFCFCFO)m15(CFCFO)、(CFO-CFCFCFCFCFO)m18(CFO)、(CFCFO-CFCFCFCFCFCFO)m19(CFCFO)が特に好ましい。
ただし、m11およびm12は、それぞれ1以上の整数であり、m13およびm14は、それぞれ0または1以上の整数であり、m11+m12+m13+m14は2~200の整数であり、m11個のCFO、m12個のCFCFO、m13個のCFCFCFO、m14個のCFCFCFCFOの結合順序は限定されない。m16およびm17は、それぞれ2~200の整数であり、m15、m18およびm19は、1~99の整数である。
【0034】
は、(j+q)価の連結基である。
は、たとえば、エーテル性酸素原子または2価のオルガノポリシロキサン残基を有していてもよいアルキレン基、炭素原子、窒素原子、ケイ素原子、2~8価のオルガノポリシロキサン残基、および、後述する式(2-1)、式(2-2)、式(2-1-1)~(2-1-6)からSiR3-nを除いた基が挙げられる。
【0035】
jは、1以上の整数であり、表面層の撥水撥油性がより優れる点から、1~5の整数が好ましく、化合物を製造しやすい点から、1が特に好ましい。
qは、1以上の整数であり、表面層の撥水撥油性がより優れる点から、2~4の整数が好ましく、2または3がより好ましく、3が特に好ましい。
【0036】
化合物1は、表面層の撥水撥油性がより優れる点から、化合物1-1が好ましい。
A-O-Z-(RO)-Z (1-1)
式(1-1)中、A、Z、Rおよびmの定義は、式(1)中の各基の定義と同義である。
【0037】
は、基2-1または基2-2である。
-Rf7-Q-X(-Q-SiR3-n(-R (2-1)
-Rf7-Q71-[CHC(R71)(-Q72-SiR3-n)]-R72 (2-2)
【0038】
式(2-1)および(2-2)中、R、Lおよびnの定義は、式(1)中の各基の定義と同義である。
【0039】
f7は、ペルフルオロアルキレン基である。
ペルフルオロアルキレン基の炭素数は、1~30が好ましく、1~6が特に好ましい。 ペルフルオロアルキレン基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。
f7としては、化合物を製造しやすい点から、-CFCFCFCF-または-CFCFCFCFCF-が好ましい。
【0040】
は、単結合または2価の連結基である。
2価の連結基としては、たとえば、2価の炭化水素基(2価の飽和炭化水素基、2価の芳香族炭化水素基、アルケニレン基、アルキニレン基であってもよい。2価の飽和炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状または環状であってもよく、たとえば、アルキレン基が挙げられる。炭素数は1~20が好ましい。また、2価の芳香族炭化水素基は、炭素数5~20が好ましく、たとえば、フェニレン基が挙げられる。それ以外にも、炭素数2~20のアルケニレン基、炭素数2~20のアルキニレン基であってもよい。)、2価の複素環基、-O-、-S-、-SO-、-N(R)-、-C(O)-、-Si(R-および、これらを2種以上組み合わせた基が挙げられる。ここで、Rは、アルキル基(好ましくは炭素数1~10)、または、フェニル基である。Rは、水素原子またはアルキル基(好ましくは炭素数1~10)である。
なお、上記これらを2種以上組み合わせた基としては、たとえば、-OC(O)-、-C(O)N(R)-、アルキレン基-O-アルキレン基、アルキレン基-OC(O)-アルキレン基、アルキレン基-Si(R-フェニレン基-Si(Rが挙げられる。
【0041】
Xは、単結合、アルキレン基、炭素原子、窒素原子、ケイ素原子または2~8価のオルガノポリシロキサン残基である。
なお、上記アルキレン基は、-O-、シルフェニレン骨格基、2価のオルガノポリシロキサン残基またはジアルキルシリレン基を有していてもよい。アルキレン基は、-O-、シルフェニレン骨格基、2価のオルガノポリシロキサン残基およびジアルキルシリレン基からなる群から選択される基を複数有していてもよい。
Xで表されるアルキレン基の炭素数は、1~20が好ましく、1~10が特に好ましい。
2~8価のオルガノポリシロキサン残基としては、2価のオルガノポリシロキサン残基、および、後述する(w+1)価のオルガノポリシロキサン残基が挙げられる。
【0042】
は、単結合または2価の連結基である。
2価の連結基の定義は、上述したQで説明した定義と同義である。
【0043】
は、水酸基またはアルキル基である。
アルキル基の炭素数は、1~5が好ましく、1~3がより好ましく、1が特に好ましい。
【0044】
Xが単結合またはアルキレン基の場合、hは1、iは0であり、
Xが窒素原子の場合、hは1~2の整数であり、iは0~1の整数であり、h+i=2を満たし、
Xが炭素原子またはケイ素原子の場合、hは1~3の整数であり、iは0~2の整数であり、h+i=3を満たし、
Xが2~8価のオルガノポリシロキサン残基の場合、hは1~7の整数であり、iは0~6の整数であり、h+i=1~7を満たす。
(-Q-SiR3-n)が2個以上ある場合は、2個以上の(-Q-SiR3-n)は、同一であっても異なっていてもよい。Rが2個以上ある場合は、2個以上の(-R)は、同一であっても異なっていてもよい。
【0045】
71は、単結合、アルキレン基、または、炭素数2以上のアルキレン基の炭素原子-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基であり、化合物を製造しやすい点から、単結合が好ましい。
アルキレン基の炭素数は、1~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
炭素数2以上のアルキレン基の炭素原子-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基の炭素数は、2~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
【0046】
71は、水素原子または炭素数1~10のアルキル基であり、化合物を製造しやすい点から、水素原子が好ましい。
アルキル基としては、メチル基が好ましい。
【0047】
72は、単結合またはアルキレン基である。アルキレン基の炭素数は、1~10が好ましく、1~6が特に好ましい。化合物を製造しやすい点から、Q72は、単結合または-CH-が好ましい。
【0048】
72は、水素原子またはハロゲン原子であり、化合物を製造しやすい点から、水素原子が好ましい。
【0049】
yは、1~10の整数であり、1~6の整数が好ましい。
2個以上の[CHC(R71)(-Q72-SiR3-n)]は、同一であっても異なっていてもよい。
【0050】
基2-1としては、基2-1-1~2-1-6が好ましい。
-Rf7-(X-Q-SiR3-n (2-1-1)
-Rf7-(X-Q21-N[-Q22-SiR3-n (2-1-2)
-Rf7-Q31-G(R)[-Q32-SiR3-n (2-1-3)
-Rf7-[C(O)N(R)]-Q41-(O)-C[-(O)-Q42-SiR3-n (2-1-4)
-Rf7-Q51-Si[-Q52-SiR3-n (2-1-5)
-Rf7-[C(O)N(R)]-Q61-Z[-Q62-SiR3-n (2-1-6)
なお、式(2-1-1)~(2-1-6)中、Rf7、R、L、および、nの定義は、上述した通りである。
【0051】
は、-O-、または、-C(O)N(R)-である(ただし、式中のNはQに結合する)。
の定義は、上述した通りである。
pは、0または1である。
【0052】
は、アルキレン基である。なお、アルキレン基は、-O-、シルフェニレン骨格基、2価のオルガノポリシロキサン残基またはジアルキルシリレン基を有していてもよい。アルキレン基は、-O-、シルフェニレン骨格基、2価のオルガノポリシロキサン残基およびジアルキルシリレン基からなる群から選択される基を複数有していてもよい。
なお、アルキレン基が-O-、シルフェニレン骨格基、2価のオルガノポリシロキサン残基またはジアルキルシリレン基を有する場合、炭素原子-炭素原子間にこれらの基を有することが好ましい。
【0053】
で表されるアルキレン基の炭素数は、1~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
【0054】
としては、pが0の場合は、-CHOCHCHCH-、-CHOCHCHOCHCHCH-、-CHCH-、-CHCHCH-、-CHOCHCHCHSi(CHOSi(CHCHCH-が好ましい。(Xが-O-の場合は、-CHCHCH-、-CHCHOCHCHCH-が好ましい。(Xが-C(O)N(R)-の場合は、炭素数2~6のアルキレン基が好ましい(ただし、式中のNはQに結合する)。Qがこれらの基であると化合物が製造しやすい。
【0055】
基2-1-1の具体例としては、以下の基が挙げられる。
【0056】
【化2】
【0057】
は、-O-、-NH-、または、-C(O)N(R)-である。
の定義は、上述した通りである。
【0058】
21は、単結合、アルキレン基、または、炭素数2以上のアルキレン基の炭素原子-炭素原子間にエーテル性酸素原子、-C(O)-、-C(O)O-、-OC(O)-もしくは-NH-を有する基である。
21で表されるアルキレン基の炭素数は、1~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
21で表される炭素数2以上のアルキレン基の炭素原子-炭素原子間にエーテル性酸素原子、-C(O)-、-C(O)O-、-OC(O)-または-NH-を有する基の炭素数は、2~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
【0059】
21としては、化合物を製造しやすい点から、-CH-、-CHCH-、-CHCHCH-、-CHOCHCH-、-CHNHCHCH-、-CHCHOC(OCHCH-が好ましい(ただし、右側がNに結合する。)。
【0060】
rは、0または1(ただし、Q21が単結合の場合は0である。)である。化合物を製造しやすい点から、0が好ましい。
【0061】
22は、アルキレン基、または、炭素数2以上のアルキレン基の炭素原子-炭素原子間に、2価のオルガノポリシロキサン残基、エーテル性酸素原子もしくは-NH-を有する基である。
22で表されるアルキレン基の炭素数は、1~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
22で表される炭素数2以上のアルキレン基の炭素原子-炭素原子間に、2価のオルガノポリシロキサン残基、エーテル性酸素原子または-NH-を有する基の炭素数は、2~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
【0062】
22としては、化合物を製造しやすい点から、-CHCHCH-、-CHCHOCHCHCH-が好ましい(ただし、右側がSiに結合する。)。
【0063】
2個の[-Q22-SiR3-n]は、同一であっても異なっていてもよい。
【0064】
基2-1-2の具体例としては、以下の基が挙げられる。
【0065】
【化3】
【0066】
31は、単結合、アルキレン基、または、炭素数2以上のアルキレン基の炭素原子-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基であり、化合物を製造しやすい点から、単結合が好ましい。
31で表されるアルキレン基の炭素数は、1~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
31で表される炭素数2以上のアルキレン基の炭素原子-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基の炭素数は、2~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
【0067】
Gは、炭素原子またはケイ素原子である。
は、水酸基またはアルキル基である。Rで表されるアルキル基の炭素数は、1~4が好ましい。
G(R)としては、化合物を製造しやすい点から、C(OH)またはSi(R3a)(ただし、R3aはアルキル基である。アルキル基の炭素数は1~10が好ましく、メチル基が特に好ましい。)が好ましい。
【0068】
32は、アルキレン基、または、炭素数2以上のアルキレン基の炭素原子-炭素原子間にエーテル性酸素原子もしくは2価のオルガノポリシロキサン残基を有する基である。 Q32で表されるアルキレン基の炭素数は、1~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
32で表される炭素数2以上のアルキレン基の炭素原子-炭素原子間にエーテル性酸素原子または2価のオルガノポリシロキサン残基を有する基の炭素数は、2~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
32としては、化合物を製造しやすい点から、-CHCH-、-CHCHCH-、-CHCHCHCHCHCHCHCH-が好ましい。
【0069】
2個の[-Q32-SiR3-n]は、同一であっても異なっていてもよい。
【0070】
基2-1-3の具体例としては、以下の基が挙げられる。
【0071】
【化4】
【0072】
式(2-1-4)中のRの定義は、上述した通りである。
sは、0または1である。
41は、単結合、アルキレン基、または、炭素数2以上のアルキレン基の炭素原子-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基である。
41で表されるアルキレン基の炭素数は、1~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
41で表される炭素数2以上のアルキレン基の炭素原子-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基の炭素数は、2~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
tは、0または1(ただし、Q41が単結合の場合は0である。)である。
-Q41-(O)-としては、化合物を製造しやすい点から、sが0の場合は、単結合、-CHO-、-CHOCH-、-CHOCHCHO-、-CHOCHCHOCH-、-CHOCHCHCHCHOCH-が好ましく(ただし、左側がRf7に結合する。)、sが1の場合は、単結合、-CH-、-CHCH-が好ましい。
【0073】
42は、アルキレン基であり、上記アルキレン基は-O-、-C(O)N(R)-〔Rの定義は、上述した通りである。〕、シルフェニレン骨格基、2価のオルガノポリシロキサン残基またはジアルキルシリレン基を有していてもよい。
なお、アルキレン基が-O-またはシルフェニレン骨格基を有する場合、炭素原子-炭素原子間に-O-またはシルフェニレン骨格基を有することが好ましい。また、アルキレン基が-C(O)N(R)-、ジアルキルシリレン基または2価のオルガノポリシロキサン残基を有する場合、炭素原子-炭素原子間または(O)u1と結合する側の末端にこれらの基を有することが好ましい。
42で表されるアルキレン基の炭素数は、1~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
【0074】
uは、0または1である。
-(O)-Q42-としては、化合物を製造しやすい点から、-CHCH-、-CHCHCH-、-CHOCHCHCH-、-CHOCHCHCHCHCH-、-OCHCHCH-、-OSi(CHCHCHCH-、-OSi(CHOSi(CHCHCHCH-、-CHCHCHSi(CHPhSi(CHCHCH-が好ましい(ただし、右側がSiに結合する。)
【0075】
3個の[-(O)-Q42-SiR3-n]は、同一であっても異なっていてもよい。
【0076】
基2-1-4の具体例としては、以下の基が挙げられる。
【0077】
【化5】
【0078】
51は、アルキレン基、または、炭素数2以上のアルキレン基の炭素原子-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基である。
51で表されるアルキレン基の炭素数は、1~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
51で表される炭素数2以上のアルキレン基の炭素原子-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基の炭素数は、2~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
51としては、化合物を製造しやすい点から、-CHOCHCHCH-、-CHOCHCHOCHCHCH-、-CHCH-、-CHCHCH-が好ましい(ただし、右側がSiに結合する。)。
【0079】
52は、アルキレン基、または、炭素数2以上のアルキレン基の炭素原子-炭素原子間にエーテル性酸素原子もしくは2価のオルガノポリシロキサン残基を有する基である。 Q52で表されるアルキレン基の炭素数は、1~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
52で表される炭素数2以上のアルキレン基の炭素原子-炭素原子間にエーテル性酸素原子または2価のオルガノポリシロキサン残基を有する基の炭素数は、2~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
52としては、化合物を製造しやすい点から、-CHCHCH-、-CHCHOCHCHCH-が好ましい(ただし、右側がSiR3-nに結合する。)。
【0080】
3個の[-Q52-SiR3-n]は、同一であっても異なっていてもよい。
【0081】
基2-1-5の具体例としては、以下の基が挙げられる。
【0082】
【化6】
【0083】
式(2-1-6)中のRの定義は、上述の通りである。
vは、0または1である。
【0084】
61は、アルキレン基、または、炭素数2以上のアルキレン基の炭素原子-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基である。
61で表されるアルキレン基の炭素数は、1~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
61で表される炭素数2以上のアルキレン基の炭素原子-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基の炭素数は、2~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
61としては、化合物を製造しやすい点から、-CHOCHCHCH-、-CHOCHCHOCHCHCH-、-CHCH-、-CHCHCH-が好ましい(ただし、右側がZに結合する。)。
【0085】
は、(w+1)価のオルガノポリシロキサン残基である。
wは、2~7の整数である。
(w+1)価のオルガノポリシロキサン残基としては、下記の基が挙げられる。ただし、下式におけるRは、上述の通りである。
【0086】
【化7】
【0087】
62は、アルキレン基、または、炭素数2以上のアルキレン基の炭素原子-炭素原子間にエーテル性酸素原子もしくは2価のオルガノポリシロキサン残基を有する基である。
62で表されるアルキレン基の炭素数は、1~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
62で表される炭素数2以上のアルキレン基の炭素原子-炭素原子間にエーテル性酸素原子または2価のオルガノポリシロキサン残基を有する基の炭素数は、2~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
62としては、化合物を製造しやすい点から、-CHCH-、-CHCHCH-が好ましい。
【0088】
w個の[-Q62-SiR3-n]は、同一であっても異なっていてもよい。
【0089】
特定含フッ素エーテル化合物の含有量は、本組成物の全質量に対して、0.01~99.8質量%が好ましく、0.1~50質量%がより好ましく、0.1~20質量%が特に好ましい。
特定含フッ素エーテル化合物は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0090】
<特定含フッ素エーテル化合物の製法>
特定含フッ素エーテル化合物の製造方法の具体例としては、ヒドロシリル化触媒の存在下、ポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖およびω-アルケニル基(たとえば、アリル基、ビニル基、3-ブテニル基)を有する化合物と、ケイ素原子に結合した加水分解性基およびケイ素原子に結合した水酸基の少なくとも一方とケイ素原子に結合した水素原子とを有するケイ素化合物とを反応させて、特定含フッ素エーテル化合物を得る方法が挙げられる。
【0091】
特定含フッ素エーテル化合物の合成時にヒドロシリル化触媒として鉄原子含有化合物を用いる場合には、特定含フッ素エーテル化合物の合成によって、特定含フッ素エーテル化合物とともに鉄原子含有化合物を含む混合物が得られる。このようにして得られた混合物は、そのまま本組成物として使用できる。また、得られた混合物に後述する他の成分を添加して、本組成物として用いてよい。
一方、特定含フッ素エーテル化合物の合成時のヒドロシリル化触媒に鉄原子含有化合物を用いない場合には、特定含フッ素エーテル化合物の合成後、特定含フッ素エーテル化合物と、鉄原子含有化合物と、必要に応じて他の成分とを混合して、本組成物が得られる。
【0092】
(鉄原子含有化合物)
鉄原子含有化合物は、後述する触媒であることが好ましい。たとえば、特定含フッ素エーテル化合物は、ヒドロシリル化触媒の存在下で製造される。そのため、ヒドロシリル化触媒として鉄原子を含む触媒を用いると、組成物中には、特定含フッ素エーテル化合物とともに、ヒドロシリル化触媒における鉄原子が含まれる。
また、表面層の形成時における、特定含フッ素エーテル化合物が有する加水分解性シリル基の加水分解反応を促進するために、組成物中には、加水分解触媒が含まれる場合がある。このとき、鉄原子を含む加水分解触媒を用いれば、組成物中に加水分解触媒における鉄原子が含まれる。
なお、鉄原子含有化合物が、ヒドロシリル化触媒および加水分解触媒の両方を兼ねてもよい。
【0093】
鉄原子含有化合物がヒドロシリル化触媒である場合、鉄原子含有化合物としては鉄原子にカルボニル、シクロペンタジエニル、テルピリジン、ビストリメチルシリルメチル、ビスイミノピリジン、ビスイミノキノリン、イソシアニド等が配位した化合物が挙げられる。鉄原子に配位する配位子としては、芳香環(シクロペンタジエニル環、ピリジン環、ベンゼン環等)を有するものが好ましい。配位子は1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。ヒドロシリル化触媒の具体例としては、カルボニル配位子を有する鉄錯体(Fe(CO)、Fe(CO)12)、カルボニル配位子とシクロペンタジエニル配位子とを有する鉄錯体(例えば国際公開第2010/016416号公報に記載のC-Fe-CH(CO)。)、テルピリジン配位子を有する鉄錯体、テルピリジン配位子とビストリメチルシリルメチル配位子とを有する鉄錯体、ビスイミノピリジン配位子を有する鉄錯体、ビスイミノキノリン配位子を有する鉄錯体、イソシアニド配位子を有する鉄錯体(特開2016-41414号公報、国際公開第2016/024607号公報等)、カルボニル配位子とイソシアニド配位子とを有する鉄錯体、国際公開第2016/027819号公報に記載のヒドロシリル化鉄触媒が挙げられる。
鉄原子含有化合物が加水分解触媒である場合、加水分解触媒の具体例としては、ステアリン酸鉄が挙げられる。
鉄原子含有化合物は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0094】
鉄原子含有化合物に含まれる鉄原子の含有量は、特定含フッ素エーテル化合物に対して、15~1,500質量ppmであり、20~1,500質量ppmが特に好ましい。鉄原子の含有量が上記範囲の下限値以上であれば、表面層の耐摩擦性に優れる。また、鉄原子の含有量が上記範囲の上限値以下であれば、粒状物の発生が抑制された表面層が得られる。
【0095】
(鉄原子を含まない触媒)
本組成物は、鉄原子含有化合以外の触媒(すなわち、鉄原子を含まない触媒)を含んでいてもよい。鉄原子を含まない触媒としては、鉄原子を含まないヒドロシリル化触媒、および、鉄原子を含まない加水分解触媒が挙げられる。
【0096】
鉄原子を含まないヒドロシリル化触媒は、鉄原子以外の遷移金属を含む遷移金属触媒が好ましく、鉄原子以外の第8族~10族遷移金属を含む遷移金属触媒がより好ましく、白金(Pt)触媒、ルテニウム(Ru)触媒、ロジウム(Rh)触媒がさらに好ましく、ヒドロシリル化反応がより進行する点から、白金触媒が特に好ましい。なお、第8~10族とは、IUPAC無機化学命名法改訂版(1989年)による族番号である。
白金触媒の具体例としては、1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンのPt錯体、ジビニルテトラメチルジシロキサンのPt錯体、テトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサンのPt錯体、塩化白金酸、酸化白金が挙げられる。
【0097】
鉄原子を含まない加水分解触媒の具体例としては、ジブチル錫オクトエート、オクタン酸鉛、チタン酸テトライソプロピル、チタン酸テトラブチル、アセチルアセトナト・チタンが挙げられる。
【0098】
(他の成分)
本組成物は、上記以外の成分(以下、「他の成分」ともいう。)を含んでいてもよい。他の成分としては、特定含フッ素エーテル化合物を製造する際に不可的に含まれる化合物、および、液状媒体が挙げられる。
本組成物が液状媒体を含む場合、本組成物は、溶液であってもよく、分散液であってもよい。
【0099】
本組成物は、特定含フッ素エーテル化合物の製造工程で生成した副生成物等の不純物を含んでもよい。また、本組成物に含まれる特定含フッ素エーテル化合物は、加水分解性シリル基の一部が加水分解反応した状態で含まれていてもよく、さらに加水分解反応で生成したシラノール基が部分的に縮合した状態で含まれていてもよい。
【0100】
液状媒体の具体例としては、有機溶媒が挙げられる。有機溶媒の具体例としては、フッ素系有機溶媒および非フッ素系有機溶媒が挙げられ、フッ素系有機溶媒を用いることが好ましく、フルオロアルキルエーテルがより好ましい。有機溶媒は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0101】
フッ素系有機溶媒の具体例としては、フッ素化アルカン、フッ素化芳香族化合物、フルオロアルキルエーテル、フッ素化アルキルアミン、フルオロアルコールが挙げられる。
フッ素化アルカンは、炭素数4~8の化合物が好ましく、たとえば、C13H(AC-2000:製品名、旭硝子社製)、C13(AC-6000:製品名、旭硝子社製)、CCHFCHFCF(バートレル:製品名、デュポン社製)が挙げられる。
フッ素化芳香族化合物の具体例としては、ヘキサフルオロベンゼン、トリフルオロメチルベンゼン、ペルフルオロトルエン、1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、1,4-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンが挙げられる。
フルオロアルキルエーテルは、炭素数4~12の化合物が好ましく、たとえば、CFCHOCFCFH(AE-3000:製品名、旭硝子社製)、COCH(ノベック-7100:製品名、3M社製)、COC(ノベック-7200:製品名、3M社製)、CCF(OCH)C(ノベック-7300:製品名、3M社製)が挙げられる。
フッ素化アルキルアミンの具体例としては、ペルフルオロトリプロピルアミン、ペルフルオロトリブチルアミンが挙げられる。
フルオロアルコールの具体例としては、2,2,3,3-テトラフルオロプロパノール、2,2,2-トリフルオロエタノール、ヘキサフルオロイソプロパノールが挙げられる。
【0102】
非フッ素系有機溶媒としては、水素原子および炭素原子のみからなる化合物、および、水素原子、炭素原子および酸素原子のみからなる化合物が好ましく、具体的には、炭化水素系有機溶媒、ケトン系有機溶媒、エーテル系有機溶媒、エステル系有機溶媒が挙げられる。
炭化水素系有機溶媒の具体例としては、ヘキサン、へプタン、シクロヘキサンが挙げられる。
ケトン系有機溶媒の具体例としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンが挙げられる。
エーテル系有機溶媒の具体例としては、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラエチレングリコールジメチルエーテルが挙げられる。
エステル系有機溶媒の具体例としては、酢酸エチル、酢酸ブチルが挙げられる。
【0103】
液状媒体の含有量は、本組成物の全質量に対して、0.01~99.99質量%が好ましく、1~90質量%が特に好ましい。
【0104】
〔物品〕
本発明の物品は、基材と、基材の表面に本組成物から形成されてなる表面層と、を有する。
【0105】
表面層には、特定含フッ素エーテル化合物の加水分解反応および縮合反応を介して得られる化合物が含まれる。
表面層の膜厚は、1~100nmが好ましく、1~50nmが特に好ましい。表面層の膜厚は、薄膜解析用X線回折計(ATX-G:製品名、RIGAKU社製)を用いて、X線反射率法によって反射X線の干渉パターンを得て、この干渉パターンの振動周期から算出できる。
【0106】
基材は、撥水撥油性の付与が求められている基材であれば特に限定されない。基材の材料の具体例としては、金属、樹脂、ガラス、サファイア、セラミック、石、および、これらの複合材料が挙げられる。ガラスは化学強化されていてもよい。基材は、SiO等で表面処理されていてもよい。
基材としては、タッチパネル用基材およびディスプレイ基材が好ましく、タッチパネル用基材が特に好ましい。タッチパネル用基材は、透光性を有するのが好ましい。「透光性を有する」とは、JIS R3106:1998(ISO 9050:1990)に準じた垂直入射型可視光透過率が25%以上であるのを意味する。タッチパネル用基材の材料としては、ガラスまたは透明樹脂が好ましい。
【0107】
上記物品は、たとえば、下記の方法で製造できる。
・本組成物を用いたドライコーティング法によって基材の表面を処理して、上記物品を得る方法。
・ウェットコーティング法によって本組成物を基材の表面に塗布し、乾燥させて、上記物品を得る方法。
【0108】
ドライコーティング法の具体例としては、真空蒸着法、CVD法、スパッタリング法が挙げられる。これらの中でも、特定含フッ素エーテル化合物の分解を抑える点、および、装置の簡便さの点から、真空蒸着法が好適である。真空蒸着時には、鉄や鋼等の金属多孔体に本組成物を含浸させたペレット状物質を使用してもよい。
ウェットコーティング法の具体例としては、スピンコート法、ワイプコート法、スプレーコート法、スキージーコート法、ディップコート法、ダイコート法、インクジェット法、フローコート法、ロールコート法、キャスト法、ラングミュア・ブロジェット法、グラビアコート法が挙げられる。
【実施例
【0109】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。ただし本発明はこれらの実施例に限定されない。なお、各成分の配合量は、質量基準を示す。例1~8のうち、例1~4、8が実施例、例5~7が比較例である。
【0110】
〔評価方法〕
(外観特性)
評価サンプルの表面層を目視にて観察して、表面層における粒状物の有無に基づいて外観特性の評価を実施した。評価基準は次の通りである。
A:表面層に100μm程度の粒状物が無い。
B:表面層に100μm程度の粒状物が有る。
【0111】
(耐摩擦性)
耐摩擦性の試験前後の評価サンプルについて、水接触角を測定して、以下の式に従って耐摩擦性試験後の水接触角の低下率を算出した。低下率の値が小さいほど、摩擦による性能の低下が小さく、耐摩擦性に優れる。
耐摩擦性試験後の水接触角の低下率(%)=100-{100×(耐摩擦性試験後の水接触角)/(耐摩擦性試験前の水接触角)}
<水接触角の測定方法>
表面層の表面に置いた約2μLの蒸留水の接触角(水接触角)を、接触角測定装置(DM-500:製品名、協和界面科学社製)を用いて測定した。表面層の表面における異なる5箇所で測定し、その平均値を算出した。接触角の算出には2θ法を用いた。
<耐摩擦性の試験方法>
表面層について、JIS L0849:2013(ISO 105-X12:2001)に準拠して往復式トラバース試験機(ケイエヌテー社製)を用い、スチールウールボンスター(#0000)を圧力:98.07kPa、速度:320cm/分で1万回往復させた。
【0112】
〔例1〕
(例1-1)
国際公開第2014/163004号公報の例1-1および例1-2に記載の方法に従って、下記化合物B-1を得た(単位数n1の平均値は21、単位数n2の平均値は20、数平均分子量は4,200。)。
CF-CFCF-O-CHFCF-O-CHCF-O{(CFO)n1(CFCFO)n2}-CFCH-O-CH-CH=CH (B-1)
【0113】
(例1-2)
スクリューバイアルに、例1-1で得た化合物B-1の2g(0.5mmol)、国際公開第2016/027819号公報の合成例1に記載の方法に従って合成した[Fe(mesityl)(μ-mesityl)]の1.5mg(0.0025mmol)、tert-ブチルイソシアニド(tBuNC)の1μL(0.10mmol)、トリメトキシシランの0.12g(1.0mmol)を加え、密閉後80℃で16時間撹拌した。H-NMRスペクトルを測定して、化合物B-1の消失を確認した後、減圧留去によって低沸成分を除去することで、鉄原子含有化合物(ヒドロシリル化触媒)および化合物B-2(単位数n1の平均値は21、単位数n2の平均値は20、数平均分子量は4,300。)を含み、化合物B-2に対して鉄原子の含有量が150質量ppmである組成物1を2g得た。
CF-CFCF-O-CHFCF-O-CHCF-O{(CFO)n1(CFCFO)n2}-CFCH-O-CHCHCH-Si(OCH (B-2)
【0114】
(例1-3)
例1-2で得た組成物1を、国際公開第2017/022437号公報の実施例1に記載の方法に従って、得られた化合物B-2を、濃度20質量%になるように、ノベック-7200(スリーエム社製)に溶解させて、組成物1-1の10gを得た。
【0115】
〔例2〕
(例2-1)
化合物B-1の代わりに、特開2015-199906号公報の合成例1に記載の方法に従って合成した化合物C-1を用いた以外は例1と同様にして、鉄原子含有化合物(ヒドロシリル化触媒)および化合物C-2を含み、化合物C-2に対して鉄原子の含有量が150質量ppmである組成物2の2gを得た。
【0116】
【化8】
【0117】
(例2-2)
例2-1で得た組成物2を、国際公開第2017/022437号公報の実施例1に記載の方法に従って、得られた化合物C-2を、濃度20質量%になるように、ノベック-7200(スリーエム社製)に溶解させて、組成物2-1の10gを得た。
【0118】
〔例3~6〕
[Fe(mesityl)(μ-mesityl)]の使用量を表1のように変更した以外は例2と同様にして、鉄原子含有化合物(ヒドロシリル化触媒)、化合物C-2、および、ノベック-7200(スリーエム社製)を含む組成物を得た。
【0119】
〔例7〕
(例7-1)
WO2013/121984の例6に記載の方法に従って、含フッ素エーテル化合物A-1(単位数nの平均値は7、数平均分子量は2,900。)の96g、含フッ素エーテル化合物A-2(単位数nの平均値は7、数平均分子量は2,722。)の3g、メタノールの1gからなる混合液を得た。
CF-O-(CFCFO-CFCFCFCFO)-CFCFO-CFCFCFC(=O)NHCHCHCH-Si(OCH (A-1)
CF-O-(CFCFO-CFCFCFCFO)-CFCFO-CFCFCFC(=O)OCH (A-2)
【0120】
(例7-2)
例7-1で得た混合液の1gと、ジブチルスズジラウレートの0.80mgを混合して、スズ原子含有化合物(ヒドロシリル化触媒)、化合物A-1および化合物A-2を含み、化合物A-1および化合物A-2の合計量に対して、スズ原子の含有量が150質量ppmである組成物7の1gを得た。
【0121】
(例7-3)
例7-2で得た組成物7を、国際公開第2017/022437号公報の実施例1に記載の方法に従って、得られた化合物A-1および化合物A-2の合計量が、濃度20質量%になるように、ノベック-7200(スリーエム社製)に溶解させて、組成物7-2の10gを得た。
(例8)
(例8-1)
スクリューバイアルに、例1-1で得た化合物B-1の2g(0.5mmol)、Bull.Chem.Soc.Jpn.2016,89,394-404に記載の方法に従って合成したN-([2,2’-bipyridin]-6-ylmethylene)-2,4,6-trimethylbenzenamine iron(II) bromideの1.3mg(0.0025mmol)、トリメトキシシランの0.12g(1.0mmol)、sodium triethylborohydride(1.0M in toluene、0.01mmol)を加え、密閉後30度で24時間撹拌した。H-NMRスペクトルを測定して、化合物B-1の消失を確認した後、減圧留去によって低沸成分を除去することで、鉄原子含有化合物(ヒドロシリル化触媒)および化合物B-2(単位数n1の平均値は21、単位数n2の平均値は20、数平均分子量は4,300。)を含み、化合物B-2に対して鉄原子の含有量が60質量ppmである組成物8を2g得た。
CF-CFCF-O-CHFCF-O-CHCF-O{(CFO)n1(CFCFO)n2}-CFCH-O-CHCHCH-Si(OCH (B-2)
(例8-2)
例8-1で得た組成物8を、国際公開第2017/022437号公報の実施例1に記載の方法に従って、得られた化合物B-2を、濃度20質量%になるように、ノベック-7200(スリーエム社製)に溶解させて、組成物8-1の10gを得た。
【0122】
〔評価サンプルの作製〕
各例によって最終的に得られた組成物を用いて、以下のウェットコーティング法にて基材の表面処理を行い、基材(化学強化ガラス)の表面に表面層が形成されてなる評価サンプルを得た。
すなわち、各例によって最終的に得られた組成物と、ノベック-7200(スリーエム社製)とを混合して、含フッ素エーテル化合物の濃度が0.05質量%であるウェットコーティング用の組成物を得た。
各組成物に基材をディッピングし、30分間放置後、基材を引き上げた(ディップコート法)。塗膜を200℃で30分間乾燥させ、AK-225にて洗浄することによって、基材の表面に表面層を有する評価サンプル(物品)を得た。
【0123】
得られた評価サンプルを用いて、上述の評価試験を実施し、その結果を表1に示す。
表1中で略号で示したヒドロシリル化触媒は以下の通りである。
CAT1:[Fe(mesityl)(μ-mesityl)]とtBuNCとの反応生成物
CAT2:N-([2,2’-bipyridin]-6-ylmethylene)-2,4,6-trimethylbenzenamine iron(II) bromide
CAT3:ジブチルスズジラウレート
【0124】
【表1】
【0125】
表1の通り、鉄原子の含有量が含フッ素エーテル化合物の全質量に対して15~1,500質量ppmの組成物を用いると、耐摩擦性に優れ、かつ、粒状物の発生が抑制された表面層を形成できることを確認した。
一方、鉄原子の含有量が含フッ素エーテル化合物の全質量に対して15質量ppm未満であると、これを用いて形成される表面層の耐摩擦性が劣ることを確認した(例5)。
また、鉄原子の含有量が含フッ素エーテル化合物の全質量に対して1,500質量ppmを超えると、これを用いて形成される表面層に粒状物が発生することを確認した(例6)。
また、スズ原子を含む組成物を用いた場合、これを用いて形成される表面層に粒状物が発生することを確認した(例7)。この理由としては、含フッ素エーテル化合物の加水分解がスズ原子によって進行しすぎたためと推測される。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明の含フッ素エーテル化合物は、潤滑性や撥水撥油性の付与が求められている各種の用途に用いることができる。たとえば、タッチパネル等の表示入力装置のコート、透明なガラス製または透明なプラスチック製部材の表面保護コート、キッチン用防汚コート、電子機器、熱交換器、電池等の撥水防湿コートや防汚コート、トイレタリー用防汚コート、導通しながら撥液が必要な部材へのコート、熱交換機の撥水・防水・滑水コート、振動ふるいやシリンダ内部等の表面低摩擦コート等に用いることができる。より具体的な使用例としては、ディスプレイの前面保護板、反射防止板、偏光板、アンチグレア板、あるいはそれらの表面に反射防止膜処理を施したもの、携帯電話、携帯情報端末等の機器のタッチパネルシートやタッチパネルディスプレイ等の人の指または手のひらで画面上の操作を行う表示入力装置を有する各種機器のコート、トイレ、風呂、洗面所、キッチン等の水周りの装飾建材のコート、配線板用防水コーティング、熱交換機の撥水・防水・滑水コート、太陽電池の撥水コート、プリント配線板の防水・撥水コート、電子機器筐体や電子部品用の防水・撥水コート、送電線の絶縁性向上コート、各種フィルタの防水・撥水コート、電波吸収材や吸音材の防水性コート、風呂、厨房機器、トイレタリー用防汚コート、振動ふるいやシリンダ内部等の表面低摩擦コート、機械部品、真空機器部品、ベアリング部品、自動車部品、工具等の表面保護コート等が挙げられる。
なお、2017年08月18日に出願された日本特許出願2017-158077号の明細書、特許請求の範囲および要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。