(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-16
(45)【発行日】2022-05-24
(54)【発明の名称】シアン含有水の処理方法および処理装置
(51)【国際特許分類】
C02F 1/58 20060101AFI20220517BHJP
C02F 1/70 20060101ALI20220517BHJP
【FI】
C02F1/58 N
C02F1/70 Z
(21)【出願番号】P 2020138789
(22)【出願日】2020-08-19
【審査請求日】2021-08-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】桃井 謙太朗
(72)【発明者】
【氏名】石森 智大
【審査官】佐々木 典子
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-083590(JP,A)
【文献】特開昭53-087561(JP,A)
【文献】特開2014-223579(JP,A)
【文献】米国特許第04250030(US,A)
【文献】中国特許出願公開第110950502(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/58- 1/64
C02F 1/70- 1/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属シアノ錯体を含み、かつ無機炭素を、JIS K0102 22項に記載されたTOC計によるTIC計測値として100mg-C/L以上含むシアン含有水に、pH調整剤を添加してpH7.5以下にpH調整した後、還元剤として第一鉄塩を添加すると共に、銅化合物を添加することにより生成したシアンの不溶性塩を分離するシアン含有水の処理方法。
【請求項2】
金属シアノ錯体を含み、かつ無機炭素を、JIS K0102 22項に記載されたTOC計によるTIC計測値として100mg-C/L以上含むシアン含有水に、pH調整剤を添加してpH7.5以下にpH調整するpH調整手段と、該pH調整手段でpH調整された水
が導入される反応槽であって、導入された該pH調整された水に還元剤として第一鉄塩を添加すると共に、銅化合物を添加して反応させる反応槽と、該反応槽で生成したシアンの不溶性塩を分離する固液分離手段とを備えるシアン含有水の処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属シアノ錯体を含み、かつ無機炭素を多く含むシアン含有水を安定かつ効率的に、高度に処理して全シアン濃度が十分に低減された高水質の処理水を得るシアン含有水の処理方法および処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、遊離シアンや金属シアノ錯体を含むシアン含有水の処理法としては、アルカリ条件下での次亜塩素酸ソーダ(NaClO)による処理(以下「アルカリ-次亜処理」と称す。)、硫酸第一鉄を用いる紺青法、銅(I)イオンを用いて難溶性塩を生成させる処理(以下「全シアン法」と称す。)等が行われてきた(非特許文献1)。
【0003】
アルカリ-次亜処理は、下記反応式に示すように、遊離シアンにまずアルカリ条件下でNaClOを添加してシアン酸ナトリウムとし(1段目)、さらにNaClOを添加することで最終的に窒素ガスに分解する(2段目)処理方法である。
1段目:NaCN+NaOCl→NaCNO+NaCl
2段目:2NaCNO+3NaOCl→N2+3NaCl+2NaHCO3
(NaHCO3⇔NaOH+CO2)
この方法は、遊離シアンについては処理効果があるが、フェロシアンなどの金属シアノ錯体については十分な処理効果は得られない。
【0004】
紺青法は、フェロシアンを含むシアン含有水に硫酸第一鉄を添加することで、下記反応式に示すように、水難溶性の金属シアノ錯体を形成させて除去する方法である。
3[Fe(CN)6]4-+4Fe3+→Fe4[Fe(CN)6]3
フェリフェロ形 (ブルシアンブルー)
2[Fe(CN)6]3-+3Fe2+→Fe3[Fe(CN)6]2
フェロフェリ形 (ターンブルブルー)
[Fe(CN)6]4-+2Fe2+→Fe2[Fe(CN)6]
フェロフェロ形 (ベルリンホワイト)
紺青法では、水のpHが6.0より高いと、硫酸第一鉄中のFe2+イオンが不安定となり、下記反応式のようにFe(OH)3の水酸化物となりやすいため、pH6.0以下で処理する必要があるとされている。
Fe4[Fe(CN)6]3+12OH-
→3[Fe(CN)6]4-+4Fe(OH)3
また、紺青法は、その反応メカニズムから、鉄以外の金属シアノ錯体(亜鉛、銅、銀、ニッケルなどの金属シアノ錯体)に対しては効果が低いと言われている。
【0005】
全シアン法としては、例えば、シアン含有水に銅化合物およびマグネシウム化合物を添加し、重亜硫酸ソーダなどの還元剤の存在下に下記反応式に従ってシアンの不溶性塩を生成させて除去する方法がある(特許文献1)。
【0006】
【0007】
この方法によれば、いずれの金属シアノ錯体であっても、Cuとの難溶性塩を形成させて、シアンを安定的に処理できる。
【0008】
また、鉄化合物と銅化合物とを併用したシアン含有水の処理方法としては、以下の方法が提案されている。
特許文献2:銀シアノ錯体含有水に硫酸第一鉄などの鉄化合物と硫酸銅などの銅化合物とを添加すると共にpHを3~8に調整し、生成する難溶性銀シアノ錯体を分離する方法。
特許文献3:鉄シアノ錯体含有水に第一鉄塩と銅塩とを、第一鉄塩および銅塩以外の還元剤の存在下、pH9~11のアルカリ性条件で難溶性塩を生成させて分離する方法。
特許文献4:シアン含有水に、第二鉄塩および第一銅塩を添加した後、pH6~8に調整し、生成した水不溶性塩を除去する方法。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2013-226510号公報
【文献】特公昭64-3553号公報
【文献】特開平1-30693号公報
【文献】特開2005-313112号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】惠藤 良弘、中原 敏次著、「現場で役立つ 無機排水処理技術」初版2刷、株式会社工業調査会、2007年5月13日、p.151-157
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記従来のいずれの処理方法でも、金属シアノ錯体を含み、かつ無機炭素を多く含むシアン含有水に対しては、十分なシアン除去効果を得ることはできなかった。
【0012】
本発明は、金属シアノ錯体を含み、かつ無機炭素を多く含むシアン含有水を安定かつ効率的に、高度に処理して全シアン濃度が十分に低減された高水質の処理水を得るシアン含有水の処理方法および処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、金属シアノ錯体を含み、かつ無機炭素を多く含むシアン含有水に、pH調整剤を添加して、予めpH7.5以下にpH調整した後、第一鉄塩と銅化合物を添加して反応させることにより、シアンの不溶性塩を効率的に生成させて全シアン濃度が十分に低減された高水質の処理水を得ることができることを見出した。
本発明はこのような知見に基づいて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0014】
[1] 金属シアノ錯体を含み、かつ無機炭素を、JIS K0102 22項に記載されたTOC計によるTIC計測値として100mg-C/L以上含むシアン含有水に、pH調整剤を添加してpH7.5以下にpH調整した後、還元剤として第一鉄塩を添加すると共に、銅化合物を添加することにより生成したシアンの不溶性塩を分離するシアン含有水の処理方法。
【0015】
[2] 金属シアノ錯体を含み、かつ無機炭素を、JIS K0102 22項に記載されたTOC計によるTIC計測値として100mg-C/L以上含むシアン含有水に、pH調整剤を添加してpH7.5以下にpH調整するpH調整手段と、該pH調整手段でpH調整された水に還元剤として第一鉄塩を添加すると共に、銅化合物を添加して反応させる反応槽と、該反応槽で生成したシアンの不溶性塩を分離する固液分離手段とを備えるシアン含有水の処理装置。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、金属シアノ錯体を含み、かつ無機炭素を多く含むシアン含有水を安定かつ効率的に、高度に処理して全シアン濃度が十分に低減された高水質の処理水を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明のシアン含有水の処理装置の実施の形態の一例を示す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明のシアン含有水の処理方法および処理装置の実施の形態を詳細に説明する。
【0019】
本発明のシアン含有水の処理方法は、金属シアノ錯体を含み、かつ無機炭素を、JIS K0102 22項に記載されたTOC計によるTIC計測値として100mg-C/L以上含むシアン含有水に、pH調整剤を添加してpH7.5以下にpH調整した後、還元剤として第一鉄塩を添加すると共に、銅化合物を添加し、生成したシアンの不溶性塩を分離することを特徴とする。
【0020】
本発明のシアン含有水の処理装置は、金属シアノ錯体を含み、かつ無機炭素を、JIS K0102 22項に記載されたTOC計によるTIC計測値として100mg-C/L以上含むシアン含有水に、pH調整剤を添加してpH7.5以下にpH調整するpH調整手段と、該pH調整手段でpH調整された水に還元剤として第一鉄塩を添加すると共に、銅化合物を添加して反応させる反応槽と、該反応槽で生成したシアンの不溶性塩を分離する固液分離手段とを備えることを特徴とする。
【0021】
[メカニズム]
金属シアノ錯体を含み、かつ無機炭素を、JIS K0102 22項に記載されたTOC計によるTIC計測値(以下、単に「TIC値」と称す。)として100mg-C/L以上含むシアン含有水(以下、「本発明の処理対象水」と称す場合がある。)に対しては、従来法では十分なシアン除去効果が得られなかった。
【0022】
これに対して、本発明の処理対象水は、通常pH8~10の弱アルカリ性~アルカリ性であるが、このようなシアン含有水に、予めpH調整剤を添加してpH7.5以下にpH調整した後、還元剤としての第一鉄塩と銅化合物を添加することにより、Fe2+が安定化して、第一鉄塩の還元作用を有効に発揮させてシアンの不溶性塩を安定かつ確実に生成させることができるようになり、良好なシアン除去効果を得ることができる。
【0023】
鉄化合物と銅化合物とを併用したシアン含有水の処理方法としては、特許文献2には、銀シアノ錯体含有水に硫酸第一鉄などの鉄化合物と硫酸銅などの銅化合物とを添加すると共にpHを3~8に調整し、生成する難溶性銀シアノ錯体を分離する方法が提案されているが、特許文献2では、鉄化合物と銅化合物を添加すると同時にpH調整を行っている。このように、鉄化合物及び銅化合物の添加とpH調整とを同時に行う方法では、Fe2+が安定化せず、第一鉄塩を還元剤として作用させることができないため、本発明のような効果を得ることはできず、シアンが残留する。
【0024】
なお、本発明に到る検討の過程で、本発明者は、後掲の比較例1~3に示されるように、シアン除去処理を行って得られた処理水の全シアン濃度を測定する場合、試料水中に全シアン分析の妨害成分(例えば、次亜硫酸ソーダ等)が含まれていると、正しい分析値を得ることができないことを知見した。
従って、このような試料水に対しては、これを希釈して妨害成分による影響力を低減した上で分析を行い、得られた分析値に希釈倍数を乗じて全シアン濃度を求めることが、正しい全シアン濃度の把握に有効であると考え、後掲の実施例及び比較例では、希釈した試料水についての分析も行うこととした。
【0025】
[シアン含有水の処理方法]
<本発明の処理対象水>
本発明の処理対象水は、金属シアノ錯体を含み、無機炭素の含有量がTIC値として100mg-C/L以上であるシアン含有水である。無機炭素の含有量がTIC値として100mg-C/L未満のシアン含有水では、本発明を適用せずとも十分なシアン除去効果を得ることができる。本発明の効果をより有効に得る上で、本発明の処理対象水のTIC値は好ましくは200mg-C/L以上である。一方、TIC値が過度に高いとH2SO4などのpH調整剤を多く必要とし、経済的な問題があるため、本発明の処理対象水のTIC値は500mg-C/L以下であることが好ましい。
【0026】
このようなTIC値の本発明の処理対象水のMアルカリ度は通常400mg-CaCO3/L以上であり、好ましくは400~5000mg-CaCO3/L、より好ましくは400~1000mg-CaCO3/Lである。本発明の処理対象水のMアルカリ度は、後掲の実施例の項に記載される方法で測定される。
【0027】
なお、本発明の処理対象水に含まれる無機炭素とは、炭酸イオン(CO3
2-)、炭酸水素イオン(HCO3
-)、炭酸(H2CO3)である。
【0028】
本発明の処理対象水に含まれる金属シアノ錯体としては特に制限はなく、鉄シアノ錯体、銀シアノ錯体、ニッケルシアノ錯体、銅シアノ錯体、亜鉛シアノ錯体等が挙げられる。
本発明の処理対象水はこれらの金属シアノ錯体の1種のみを含むものであってもよく、2種以上を含むものであってもよい。
【0029】
本発明の処理対象水は、金属シアノ錯体の他に遊離シアンを含むものであってもよい。
【0030】
本発明の処理対象水中の金属シアノ錯体含有量には特に制限はない。本発明の処理対象水の金属シアノ錯体含有量は、シアン換算濃度として通常0.5~30mg/L程度であり、遊離シアン等の金属シアノ錯体以外のシアンを含めて、本発明の処理対象水の全シアン濃度は通常0.5~10mg/L程度である。本発明の処理対象水の全シアン濃度は、後掲の実施例の項に記載される方法で測定される。
【0031】
このような本発明の処理対象水としては、例えば、メッキ工場排水、選鉱製錬処理工場排水、都市ガス製造工場排水、化学工場排水、石油工場排水、ガス工場排水、金属精錬工場排水、クロメート処理などを行う金属表面処理工場排水、石油・石炭熱分解プロセス排水、写真工場排水、医薬品工場排水、貴金属鉱業排水、鍍金排水、鍍金用治具洗浄排水、エッチング排水、金属表面処理工場排水、アンモニア合成工場排水等が挙げられる。
【0032】
これらの本発明の処理対象水のpHは通常8~12程度であり、pH7.5以下とするためには、pH調整剤の添加が必要となる。
【0033】
<pH調整>
本発明においてはまず、本発明の処理対象水にpH調整剤を添加してpH7.5以下にpH調整する。前述の通り、本発明の処理対象水のpHは通常8~12であるので、pH7.5以下とするために、pH調整剤として通常酸を添加する必要がある。
【0034】
pH調整に用いる酸としは特に制限はなく、硫酸、塩酸等の無機酸を用いることができる。
【0035】
調整pH値は、シアン除去効果の面からは低い方が好ましく、好ましくはpH7以下であるが、pH調整剤のコストの観点、pHが低すぎると遊離シアンがガス化するという安全性の観点から、調整pH値は5以上であることが好ましく、より好ましくは5.5以上である。
【0036】
このpH調整は、本発明の処理対象水にpH調整剤を添加して実施されるが、本発明の処理対象水を所定のpH値に安定にかつ均一に調整する観点から、例えばpH調整槽を設け、pH調整槽において本発明の処理対象水とpH調整剤とを十分に撹拌混合し、その後、次の第一鉄塩と銅化合物による反応工程に供することが好ましい。本発明の処理対象水のpH値を均一かつ安定させるために、例えば、pH調整槽を設ける場合、pH調整槽内の滞留時間は5~60分程度とすることが好ましい。混合時間を十分に確保できる場合には、本発明の処理対象水にpH調整剤をライン混合してpH調整することもできる。
【0037】
<第一鉄塩および銅化合物による反応>
本発明では、上記の通り、予めpH調整してpH値を安定させた本発明の処理対象水に還元剤として第一鉄塩を添加すると共に銅化合物を添加してシアンの不溶性塩を生成させる。
【0038】
第一鉄塩としては、硫酸第一鉄、塩化第一鉄、硝酸第一鉄、臭化第一鉄、リン酸第一鉄、炭酸水素第一鉄、炭酸第一鉄等の無機第一鉄塩の1種又は2種以上が挙げられるが、これらのうち、硫酸第一鉄、塩化第一鉄を用いることが、商業的に安価に入手できる観点から好ましい。
【0039】
銅化合物は還元剤の存在下に銅(I)イオンを生成するものであり、一般的には水溶性の塩が用いられる。このような銅化合物としては、銅(I)の化合物でも、銅(II)の化合物でもよいが、一般に銅(I)の化合物は難溶性で入手が困難であるため、銅(II)の化合物を還元剤である第一鉄塩とともに用い、銅(I)の化合物に還元して、金属シアノ錯体や遊離シアンと反応させるのが好ましい。このような銅(II)の化合物としては、水溶性の硫酸銅(II)、塩化銅(II)、硝酸銅(II)などの2価の銅塩が利用可能である。なお、銅(I)の化合物としては、塩化銅(I)、硫酸銅(I)などを用いることができる。これらの銅化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0040】
pH調整した本発明の処理対象水への第一鉄塩の添加量は、被処理水を還元雰囲気にするのに必要な量、具体的には溶存酸素が0.5mg/L以下となるような条件で添加することが好ましい。例えば、JIS K0102 32.3で示される溶存酸素が6mg/Lであるような被処理水に対しては、第一鉄塩が硫酸第一鉄の場合、純分として50~100mg/L程度、塩化第一鉄の場合、純分として50~80mg/L程度とすることが好ましい。
【0041】
銅化合物の添加量は、本発明の処理対象水中のシアン含有量に対して通常当量以上であるが、シアン除去率を高くするためには、過剰量を添加するのが好ましく、一般的にはシアン含有量に対して1.05~1.5当量、好ましくは1.1~1.3当量添加するのが好ましい。
【0042】
銅化合物を過剰添加した場合、反応後、残留する銅化合物を除去するために、ジチオカルバミン酸やピペラジン等の重金属捕集剤を添加して銅を錯体として不溶化させ、シアンの不溶性塩と共に除去することが好ましい。
【0043】
pH調整後に第一鉄塩と銅化合物を添加してシアンの不溶性塩を生成させる反応は、例えば反応槽に、pH7.5以下にpH調整した本発明の処理対象水を導入し、第一鉄塩と銅化合物を添加して行うことができる。シアンの不溶性塩を確実に生成させてシアンを高度に除去するために、この反応槽の滞留時間は1分以上、例えば1~10分程度確保することが好ましい。
【0044】
<固液分離>
上記の反応後は、生成したシアンの不溶性塩を固液分離して処理水を得る。
【0045】
この固液分離に先立ち、反応液にポリ塩化アルミニウム等の無機凝集剤及び/又は高分子凝集剤を添加して凝集処理を行ってもよい。ただし、本発明において還元剤として添加した第一鉄塩は還元反応によりFe(OH)3の汚泥となってフロックの核となるため、無機凝集剤の添加は必須ではなく、凝集状態に応じて添加することとし、高分子凝集剤を添加して撹拌混合することで、フロックを粗大化することが好ましい。
【0046】
固液分離手段としては通常沈殿槽が用いられるが、何ら沈殿槽に限定されるものではない。
【0047】
[シアン含有水の処理装置]
次に、
図1を参照して本発明のシアン含有水の処理装置について説明する。
図1は本発明のシアン含有水の処理装置の実施の形態の一例を示す系統図である。
【0048】
このシアン含有水の処理装置では、原水である本発明の処理対象水をpH調整槽1に導入してpH調整剤として酸を添加し、撹拌機1Bにより撹拌してpH7.5以下の所定のpHにpH調整する。
図1では、pH計1AによりpH調整槽1内の液のpHを測定し、この測定値に基づいて酸の添加量を制御して所定のpH値に調整する。
【0049】
pH調整槽1において、pH7.5以下の所定のpH値に調整されたpH調整水は、次いで反応槽2に送給され、撹拌機2Bによる撹拌下に第一鉄塩と銅化合物が添加され、還元条件で銅化合物と金属シアノ錯体等が反応することで、シアンの不溶性塩が生成する。
【0050】
反応槽2の反応液は、次いで沈殿槽3で固液分離され、分離水が処理水として取り出される。分離汚泥は系外へ抜き出され、脱水機等で処理される。3Aは攪拌機である。
なお、反応槽2からの反応液にはその凝集状態に応じて無機凝集剤を添加してもよく、更に高分子凝集剤を添加して凝集処理を行ってもよい。この場合、反応槽2と沈殿槽3との間に凝集槽を設けてもよい。
【実施例】
【0051】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0052】
[水質の測定]
以下の実施例及び比較例において、原水と処理水の水質は、次のようにして測定した。
【0053】
<全シアン(CN)>
JIS K0102-38に記載された方法で測定した。
シアン処理水についての測定は、希釈なしでの測定と、蒸留水で10倍に希釈した希釈水での測定とを行った。原水については10倍希釈した希釈水での測定のみ行った。前述の通り、希釈水での測定は、水中の全CN分析の妨害成分による影響を低減するためであり、10倍希釈水で得られた値を「計測値」とし、この計測値を10倍した値を「測定値」として表記した。
【0054】
<溶解性イオン>
Fe2+,Cu,Znについては、検水(原水、処理水)を0.45μmフィルターでろ過したろ液について、Fe2+はo-フェナントロリン比色法で、Cu,ZnについてはJIS K0102:2013 52-4および53-3に記載されたICP発光分析にて分析を行った。
【0055】
<TIC値>
JIS K0102:2013 22.1に記載の燃焼酸化-赤外線式TOC分析法を用いてTOC計により測定した。
【0056】
<Mアルカリ度>
JIS K0102:2013 15-1に記載のpH4.8酸消費量により測定した。
【0057】
[実施例1~6]
下記水質のシアン含有水(遊離シアンを含む)を原水として本発明に従って処理を行った。
【0058】
<原水水質>
pH:8.0
金属シアノ錯体(フェロシアン、亜鉛シアン錯塩、銅シアン錯塩):2.8mg/L(シアン換算含有量)
全CN:4.0mg/L
Fe2+:0.8mg/L
Zn:1.4mg/L
Cu:1.2mg/L
TIC値:220mg-C/L
Mアルカリ度:2400mg-CaCO3/L
【0059】
まず、pH調整槽において、原水に硫酸を添加して表1に示すpHに調整した後、pH調整水を反応槽に送給し、反応槽において還元剤として表1に示す第一鉄塩を表1に示す添加量で添加すると共に、硫酸銅(CuSO4)を130mg/L添加して撹拌下に反応させてシアン処理水を得た。pH調整槽の滞留時間は5分、反応槽の滞留時間は5分とした。表1に示す第一鉄塩の添加量は、JIS K0102 32.3により測定される水中の溶存酸素濃度が0.5mg/Lとなる添加量である。また、硫酸銅の添加量は、原水中のシアンに対して0.7当量となる添加量である。
【0060】
シアン処理水について、前述の方法で水質の測定を行い、結果を表1に示した。
【0061】
なお、実施例1~6及び以下の比較例1~6において、硫酸銅(CuSO4)はCuSO4・5H2Oの20%溶液として添加し、硫酸第一鉄(FeSO4)は、20%溶液として添加し、塩化第一鉄(FeCl2)は32%溶液として添加し、重亜硫酸ソーダ(NaHSO3)は10%溶液として添加し、表1には、これらの溶液としての原水に対する添加量を示す。
【0062】
[比較例1]
硫酸によるpH調整を行わず、還元剤として重亜硫酸ソーダ(NaHSO3)のみを1000mg/L添加して5分反応を行った。得られたシアン処理水の水質測定結果を表1に示す。
【0063】
[比較例2]
比較例1において、重亜硫酸ソーダと共に硫酸銅を130mg/L添加したこと以外は同様に反応を行った。得られたシアン処理水の水質測定結果を表1に示す。
【0064】
[比較例3]
比較例2において、重亜硫酸ソーダと硫酸銅の添加に先立ち硫酸を添加してpH5.5に調整したこと以外は同様に反応を行った。得られたシアン処理水の水質測定結果を表1に示す。
【0065】
[比較例4]
硫酸によるpH調整を行わなかったこと以外は実施例1と同様に反応を行った。得られたシアン処理水の水質測定結果を表1に示す。
【0066】
[比較例5]
硫酸銅を添加しなかったこと以外は実施例3と同様に反応を行った。得られたシアン処理水の水質測定結果を表1に示す。
【0067】
[比較例6]
原水に還元剤として硫酸第一鉄を400mg/Lと硫酸銅130mg/Lを添加すると共に、硫酸を添加してpH6.5に調整して5分反応を行った。得られたシアン処理水の水質測定結果を表1に示す。
【0068】
【0069】
[考察]
表1の結果から以下のことが分かる。
比較例1は重亜硫酸ソーダを添加しただけの系であり、一見すると重亜硫酸ソーダのみでも全CNが低減できたかのように見えるが、希釈操作をすると処理水の全CN濃度は原水と同じであり、重亜硫酸ソーダではシアン除去はできないと言える。このように希釈の有無でCN分析値が異なるのは、重亜硫酸ソーダに含まれる亜硫酸ガスにより全CNの分析が妨害を受けているが、希釈操作により重亜硫酸ソーダの濃度が低下し、亜硫酸ガスの影響を受けなくなると、本来のCN濃度が分析されることによると考えられる。
【0070】
比較例2,3は、重亜硫酸ソーダを還元剤として添加して硫酸銅を銅(I)イオンに還元することで処理を行う従来法であるが、処理水を希釈して重亜硫酸ソーダの影響が低減されると、全CN濃度が上昇する現象が見られ、全CNが残留していることが分かる。
【0071】
比較例4では、pH8.0のアルカリ条件のまま、硫酸第一鉄と硫酸銅を添加したが、pHアルカリ条件では十分なCN除去効果は得られないことが分かる。
比較例6のように、pH6.5にpH調整しても、硫酸第一鉄及び硫酸銅の添加と同時に行うpH調整では、やはり十分なCN除去効果は得られないことが分かる。
【0072】
これに対して、実施例1~6では、予めpH7.5以下にpH調整することで、pHが低いほどCN除去効果が向上し、特に7.0以下では良好なCN到達水質となった。また、重亜硫酸ソーダを還元剤に用いた場合のように、全CNの分析が妨害されることもなく、希釈の有無により全CN分析値が大きく変化する現象も見られず、ほぼ同等の値が得られた。
【0073】
また、比較例4においては残留Fe2+イオンが見られないのに対し、実施例1~6においてはFe2+の残留が見られることから、pHアルカリ条件下ではFe2+としては安定せず、添加した第一鉄塩のFe2+はFe3+となり、Fe(OH)3となっていると考えられる。即ち、pHを下げていくことで、Fe2+イオンとして安定し、Cu1+の還元剤として働き、処理水CN到達水質を良好に維持することができる。
【0074】
比較例5は、従来の紺青法であるが、pH6.5では十分なシアン到達水質を得ることは困難であった。
【0075】
これらの結果から、本発明によれば、金属シアノ錯体を含み、かつ無機炭素を多く含むシアン含有水中のシアンを高度に除去して全CN濃度が十分に低減された高水質処理水を得ることができることが分かる。
【符号の説明】
【0076】
1 pH調整槽
2 反応槽
3 沈殿槽