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特許7074258樹脂フィルム付きナノ結晶合金薄帯の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-16
(45)【発行日】2022-05-24
(54)【発明の名称】樹脂フィルム付きナノ結晶合金薄帯の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/02 20060101AFI20220517BHJP
   H01F 1/153 20060101ALI20220517BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20220517BHJP
   C21D 6/00 20060101ALI20220517BHJP
【FI】
H01F41/02 B
H01F1/153 133
C22C38/00 303S
C21D6/00 C
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021520851
(86)(22)【出願日】2020-05-21
(86)【国際出願番号】 JP2020020159
(87)【国際公開番号】W WO2020235643
(87)【国際公開日】2020-11-26
【審査請求日】2021-12-23
(31)【優先権主張番号】P 2019095278
(32)【優先日】2019-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019095279
(32)【優先日】2019-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】栗山 安男
【審査官】井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/157526(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/062310(WO,A1)
【文献】特開昭61-227156(JP,A)
【文献】特開2005-529233(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 41/02
H01F 1/153
C22C 38/00
C21D 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノ結晶化が可能な非晶質合金薄帯を用意する工程と、
前記非晶質合金薄帯に張力を付与した状態でナノ結晶化の熱処理を行い、ナノ結晶合金薄帯を得る工程と、
樹脂フィルム上に接着層を介して前記ナノ結晶合金薄帯を保持させる工程と、
を備え、前記ナノ結晶合金薄帯の128kHzにおける交流比透磁率μrは、100以上2000以下である、樹脂フィルム付きナノ結晶合金薄帯の製造方法。
【請求項2】
前記樹脂フィルム上に、前記ナノ結晶合金薄帯を複数積み重ねる工程を備える、請求項1に記載の樹脂フィルム付きナノ結晶合金薄帯の製造方法。
【請求項3】
前記複数積み重ねられたナノ結晶合金薄帯間に接着層を備える、請求項2に記載の樹脂フィルム付きナノ結晶合金薄帯の製造方法。
【請求項4】
前記非晶質合金薄帯は、ロール冷却により製造された長尺の非晶質合金薄帯であり、
前記ナノ結晶合金薄帯を得る工程は、前記非晶質合金薄帯に、前記非晶質合金薄帯の長手方向に張力を付与しつつ、前記非晶質合金薄帯を前記長手方向に進行させて、前記非晶質合金薄帯に対してナノ結晶化の熱処理を連続的に行う工程を備える、請求項1~請求項のいずれか1項に記載の樹脂フィルム付きナノ結晶合金薄帯の製造方法。
【請求項5】
前記ナノ結晶合金薄帯にクラックを形成する工程を備える、請求項1~請求項のいずれか1項に記載の樹脂フィルム付きナノ結晶合金薄帯の製造方法。
【請求項6】
前記ナノ結晶合金薄帯にクラックを形成する工程は、前記ナノ結晶合金薄帯に直接外力を付与する工程を有する請求項に記載の樹脂フィルム付きナノ結晶合金薄帯の製造方法。
【請求項7】
前記ナノ結晶合金薄帯は、一般式:(Fe1-a100-x-y-z-α-β-γCuSiM’αM”βγ(原子%)により表される組成を有し、前記一般式中、MはCo及び/又はNiであり、M’はNb、Mo、Ta、Ti、Zr、Hf、V、Cr、Mn及びWからなる群から選ばれた少なくとも1種の元素であり、M”はAl、白金族元素、Sc、希土類元素、Zn、Sn、及びReからなる群から選ばれた少なくとも1種の元素であり、XはC、Ge、P、Ga、Sb、In、Be、及びAsからなる群から選ばれた少なくとも1種の元素であり、a、x、y、z、α、β及びγはそれぞれ0≦a≦0.5、0.1≦x≦3、0≦y≦30、0≦z≦25、5≦y+z≦30、0≦α≦20、0≦β≦20及び0≦γ≦20を満たす、請求項1~請求項のいずれか1項に記載の樹脂フィルム付きナノ結晶合金薄帯の製造方法。
【請求項8】
前記一般式において、a、x、y、z、α、β及びγは、それぞれ0≦a≦0.1、0.7≦x≦1.3、12≦y≦17、5≦z≦10、1.5≦α≦5、0≦β≦1及び0≦γ≦1である、請求項に記載の樹脂フィルム付きナノ結晶合金薄帯の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、樹脂フィルム付きナノ結晶合金薄帯の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年急速にスマートフォン、タブレット型情報端末、あるいは携帯電話等の電子機器が普及している。特に、携帯電話(例えば、スマートフォン)、Web端末、ミュージックプレイヤー等は携帯機器としての利便性のため、長時間の連続使用が可能であることが求められている。これら小型携帯機器では電源としてリチウムイオン電池などの二次電池が使用されている。この二次電池の充電方法には受電側の電極と給電側の電極とを直接接触させて充電を行う接触充電方式と、給電側と受電側の両方に伝送コイルを設け、電磁誘導を利用した電力伝送によって充電する非接触充電方式とがある。非接触充電方式は給電装置と受電装置を直接接触させるための電極が必要ないため、同じ給電装置を用いて異なる受電装置に充電することも可能である。また、非接触充電方式は、携帯機器のみならず、その他の電子機器や電気自動車やドローン等でも利用されうる技術である。
【0003】
非接触充電方式において、給電装置の一次伝送コイルに発生した磁束は給電装置と受電装置の筐体を介して受電装置の二次伝送コイルに起電力を発生させることで給電が行われる。高い電力伝送効率を得るためには、伝送コイルに対して、給電装置と受電装置の接触面とは反対側にコイルヨークとして磁性シートが設置される。かかる磁性シートには以下のような役割がある。
第一の役割は、磁気シールド材としての役割である。例えば、非接触充電装置の充電作業中に発生した漏れ磁束が二次電池を構成する金属部材などの他の部品に流れると、これらの部品が渦電流によって発熱する。磁性シートは、磁気シールド材としてこの発熱を抑制できる。
磁性シートの第二の役割は、充電中にコイルで発生した磁束を還流させるヨーク部材として作用することである。
【0004】
従来、非接触充電装置の磁性シートに用いられる軟磁性材料はフェライト材が主流であったが、最近では、特開2008-112830号公報に示されるように、アモルファス合金やナノ結晶合金からなる軟磁性合金薄帯も適用され始めている。
特開2008-112830号公報は、シート基材上に接着層を介して薄板状磁性体(合金薄帯)を接着して磁性シートを形成する工程と、上記合金薄帯を上記シート基材に接着された状態を維持しつつ、Q値の向上又は渦電流損の低減のために外力により複数に分割する工程とを具備する磁性シートの製造方法について、開示している。また、特開2008-112830号公報は、合金薄帯に外力を加えて複数に分割することで、磁性シートを例えばインダクタ用磁性体として用いる場合にQ値の向上を図ることができることを、開示している。また、特開2008-112830号公報は、磁性シートを磁気シールド用磁性体として用いる場合には、合金薄帯の電流路を分断して渦電流損を低減できることを、開示している。さらには、特開2008-112830号公報は、合金薄帯を複数に分割する場合において、分割した磁性体片は、その面積が0.01mm以上25mm以下の範囲であることが好ましいことを、開示している。
また、国際公開第2014/157526号には、Fe基アモルファスを熱処理し、500kHzでの透磁率μrが220以上770以下の薄帯を用いた磁性シートが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
複数に分割した合金薄帯を用いた磁性シートを非接触充電装置に用いる場合、その分割の状態を定量化するための特性として、透磁率が代用されることが多い。普及が進む携帯電話等で使用される場合、128kHzにおける交流比透磁率μrが100以上2000以下の磁性シートが要望される。
しかし、この透磁率の数値を有する磁性シートとするには、軟磁性合金薄帯を1mm程度の間隔で細かく分割する必要がある。
合金薄帯は、一般的には5μm以上50μm以下の薄さであるが、磁性シートの樹脂フィルムは弾性力が大きいため、樹脂フィルムを介して外力を与えても、内部の軟磁性合金薄帯を細かく複数に分割することは非常に難しい。
国際公開第2014/157526号に記載されるFeアモルファスを用いた磁性シートでは、アモルファス合金を僅かに結晶化させることで、アモルファス状態で10オーダーの透磁率を、220以上770以下にしている。しかし、ナノ結晶合金では透磁率が一桁大きく、交流比透磁率μrを100以上2000以下まで低下させることが難しい。また、ナノ結晶合金では、ナノ結晶化熱処理をして微結晶組織を形成しているため、国際公開第2014/157526号のような熱処理による透磁率の低下は大きくなく、仮に、上記範囲まで透磁率を下げる熱処理を行うと薄帯が脆くなり、シート基材に接着する際の取り扱いが困難となる。
【0006】
従って、発明が解決しようとする課題は、128kHzにおける交流比透磁率μrが100以上2000以下のナノ結晶合金薄帯を簡易に製造可能とし、そのナノ結晶合金薄帯を用いた樹脂フィルム付きナノ結晶合金薄帯の製造方法を提供することである。
樹脂フィルム付きナノ結晶合金薄帯は、例えば、磁性シートに適用することができる。なお、この樹脂フィルム付きナノ結晶合金薄帯は、磁性シート以外の用途にも適用することができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための具体的手段には、以下の態様が含まれる。
<1> ナノ結晶化が可能な非晶質合金薄帯を用意する工程と、上記非晶質合金薄帯に張力を付与した状態でナノ結晶化の熱処理を行い、ナノ結晶合金薄帯を得る工程と、樹脂フィルム上に接着層を介して上記ナノ結晶合金薄帯を保持させる工程と、を備える、樹脂フィルム付きナノ結晶合金薄帯の製造方法。
<2> 上記ナノ結晶合金薄帯の128kHzにおける交流比透磁率μrは、100以上2000以下である、<1>に記載の樹脂フィルム付きナノ結晶合金薄帯の製造方法。
<3> 上記樹脂フィルム上に、上記ナノ結晶合金薄帯を複数積み重ねる工程を備える、<1>又は<2>に記載の樹脂フィルム付きナノ結晶合金薄帯の製造方法。
<4> 上記複数積み重ねられたナノ結晶合金薄帯間に接着層を備える、<3>に記載の樹脂フィルム付きナノ結晶合金薄帯の製造方法。
<5> 上記非晶質合金薄帯は、ロール冷却により製造された長尺の非晶質合金薄帯であり、上記ナノ結晶合金薄帯を得る工程は、上記非晶質合金薄帯に、上記非晶質合金薄帯の長手方向に張力を付与しつつ、上記非晶質合金薄帯を上記長手方向に進行させて、上記非晶質合金薄帯に対してナノ結晶化の熱処理を連続的に行う工程を備える、<1>~<4>のいずれか1つに記載の樹脂フィルム付きナノ結晶合金薄帯の製造方法。
<6> 上記ナノ結晶合金薄帯にクラックを形成する工程を備える、<1>~<5>のいずれか1つに記載の樹脂フィルム付きナノ結晶合金薄帯の製造方法。
<7> 上記ナノ結晶合金薄帯にクラックを形成する工程は、上記ナノ結晶合金薄帯に直接外力を付与する工程を有する<6>に記載の樹脂フィルム付きナノ結晶合金薄帯の製造方法。
<8> 上記ナノ結晶合金薄帯は、一般式:(Fe1-aMa)100-x-y-z-α-β-γCuxSiyBzM’αM”βXγ(原子%)により表される組成を有し、上記一般式中、MはCo及び/又はNiであり、M’はNb、Mo、Ta、Ti、Zr、Hf、V、Cr、Mn及びWからなる群から選ばれた少なくとも1種の元素であり、M”はAl、白金族元素、Sc、希土類元素、Zn、Sn、及びReからなる群から選ばれた少なくとも1種の元素であり、XはC、Ge、P、Ga、Sb、In、Be、及びAsからなる群から選ばれた少なくとも1種の元素であり、a、x、y、z、α、β及びγはそれぞれ0≦a≦0.5、0.1≦x≦3、0≦y≦30、0≦z≦25、5≦y+z≦30、0≦α≦20、0≦β≦20及び0≦γ≦20を満たす、<1>~<7>のいずれか1つに記載の樹脂フィルム付きナノ結晶合金薄帯の製造方法。
<9> 上記一般式において、a、x、y、z、α、β及びγは、それぞれ0≦a≦0.1、0.7≦x≦1.3、12≦y≦17、5≦z≦10、1.5≦α≦5、0≦β≦1及び0≦γ≦1である、<8>に記載の樹脂フィルム付きナノ結晶合金薄帯の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、128kHzにおける交流比透磁率μrが100以上2000以下のナノ結晶合金薄帯を簡易に製造可能とし、そのナノ結晶合金薄帯を用いた樹脂フィルム付きナノ結晶合金薄帯の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本開示のナノ結晶合金薄帯を得る工程の一実施形態を示すインラインアニール装置の模式図である。
図2図2は、本開示の樹脂フィルム上に接着層を介してナノ結晶合金薄帯を保持させる工程の一実施形態を示すラミネート工程の模式図である。
図3図3は、外力を加えられた箇所を概念的に示した本開示の実施形態のナノ結晶合金薄帯の平面図である。
図4図4は、クラックが形成されたナノ結晶合金薄帯を樹脂フィルム上に複数積層する本開示の実施形態の製造装置を示す図である。
図5図5は、本開示の樹脂フィルム付きナノ結晶合金薄帯の一例を示す平面図(a)と断面図(b)である。
図6図6は、本開示の樹脂フィルム付きナノ結晶合金薄帯の別の一例を示す平面図(a)と断面図(b)である。
図7図7は、本開示の樹脂フィルム付きナノ結晶合金薄帯のクラックの様子を示す平面図である。
図8図8は、本開示の実施形態の樹脂フィルム付きナノ結晶合金薄帯の応用製品の一例として、非接触充電装置の一例の回路構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施形態によって、本開示を具体的に説明するが、本開示はこれら実施形態により限定されるものではない。
【0011】
本開示の実施形態について図面を参照して説明する場合、図面において重複する構成要素、及び符号については、説明を省略することがある。図面において同一の符号を用いて示す構成要素は、同一の構成要素であることを意味する。図面における寸法の比率は、必ずしも実際の寸法の比率を表すものではない。
【0012】
本開示において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ下限値及び上限値として含む範囲を示す。本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0013】
本開示において、序数詞(例えば、「第1」、及び「第2」)は、構成要素を区別するために使用する用語であり、構成要素の数、及び構成要素の優劣を制限するものではない。
【0014】
本開示において、「工程」との用語には、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0015】
本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0016】
本開示の一実施形態に係る樹脂フィルム付きナノ結晶合金薄帯の製造方法は、ナノ結晶化が可能な非晶質合金薄帯を用意する工程と、上記非晶質合金薄帯に張力を付与した状態でナノ結晶化の熱処理を行い、ナノ結晶合金薄帯を得る工程と、樹脂フィルム上に接着層を介して上記ナノ結晶合金薄帯を保持させる工程と、を備える。
【0017】
まず、本実施形態のナノ結晶化が可能な非晶質合金薄帯を用意する工程について、記載する。
ナノ結晶化が可能な非晶質合金薄帯とは、熱処理することによりナノ結晶が生成される非晶質状態の合金薄帯であり、例えば、ナノ結晶合金となる合金組成に配合された溶湯を急冷凝固させて製造することができる。溶湯を急冷凝固させる方法には、単ロール法又は双ロール法と呼ばれる方法を用いることができる。これらはロール冷却を用いた方法である。このロール冷却を用いた方法は、よく知られた方法を適用することができる。このロール冷却を用いた方法では、溶湯を連続して急冷し、長尺の非晶質合金薄帯が得られる。薄帯状に急冷凝固されたものは、ナノ結晶は備えておらず、非晶質状態のものであり、その後、熱処理を行うことで、ナノ結晶を生成(ナノ結晶化)させ、ナノ結晶合金薄帯となるものである。なお、この長尺の非晶質合金薄帯は巻き軸に巻き取られ、ロール状の巻回体として、搬送されることが多い。なお、ナノ結晶化が可能な非晶質合金薄帯には、微細結晶が存在している場合もある。その場合、微細結晶は熱処理によりナノ結晶となる。
【0018】
このナノ結晶合金薄帯は、例えば、一般式:(Fe1-aMa)100-x-y-z-α-β-γCuxSiyBzM’αM”βXγ(原子%)により表される組成を有する。上記一般式中、MはCo及び/又はNiであり、M’はNb、Mo、Ta、Ti、Zr、Hf、V、Cr、Mn及びWからなる群から選ばれた少なくとも1種の元素、M”はAl、白金族元素、Sc、希土類元素、Zn、Sn、及びReからなる群から選ばれた少なくとも1種の元素、XはC、Ge、P、Ga、Sb、In、Be、及びAsからなる群から選ばれた少なくとも1種の元素、a、x、y、z、α、β及びγはそれぞれ0≦a≦0.5、0.1≦x≦3、0≦y≦30、0≦z≦25、5≦y+z≦30、0≦α≦20、0≦β≦20及び0≦γ≦20により表される組成を有するものを使用することができる。好ましくは、上記一般式において、a、x、y、z、α、β及びγは、それぞれ0≦a≦0.1、0.7≦x≦1.3、12≦y≦17、5≦z≦10、1.5≦α≦5、0≦β≦1及び0≦γ≦1を満たす範囲である。
なお、ナノ結晶化が可能な非晶質合金薄帯を用意する工程とは、ナノ結晶化が可能な非晶質合金薄帯を製造してもよいし、購入してもよい。
【0019】
次に、本実施形態の非晶質合金薄帯に張力を付与した状態でナノ結晶化の熱処理を行い、ナノ結晶合金薄帯を得る工程について、記載する。
ナノ結晶化が可能な非晶質合金薄帯に張力を付与した状態で、ナノ結晶化の熱処理を行うことで、ナノ結晶合金薄帯の交流比透磁率μrを調整することが可能である。そして、この工程により、交流比透磁率μrが100以上2000以下のナノ結晶合金薄帯を得ることが好ましい。なお、ナノ結晶合金とは、粒径が100nm以下の微結晶組織を有する合金である。
【0020】
交流比透磁率μrの測定においては、インピーダンス(Z)と直列等価回路のインダクタンス(L)をインピーダンスアナライザ(キーサイト・テクノロジー社製E4990A、測定治具:16454A)にて、OSCレベルを0.03Vとし、25℃の温度で128kHzの周波数で測定し、以下の式に基づいて交流比透磁率μrを算出する。評価サンプルは、外径20mm、内径9mmのリング状に打ち抜いたシートを10~20層重ねたものを使用する。
μr=2π×Z/(2π×μ0×f×t×n×ln(OD/ID))
Z:インピーダンスの絶対値
f:周波数(Hz)
t:薄帯厚み(m)
n:層数
μ0:真空透磁率(4×π×10-7H/m)
OD:外径(m)
ID:内径(m)
【0021】
本実施形態では、例えば、非晶質合金薄帯を張力が加わる状態で連続走行させ、その非晶質合金薄帯の一部の領域をナノ結晶化させる。ナノ結晶化は、結晶化開始温度以上の熱が付与されることで行われ、例えば、非晶質合金薄帯を熱処理炉の中を通過させたり、非晶質合金薄帯を伝熱媒体に接触させたりする手段を採用できる。具体的な本実施形態では、張力が加わった状態の非晶質合金薄帯を、伝熱媒体との接触を維持しながら連続走行させる。連続走行する非晶質合金薄帯に接触する伝熱媒体は、非晶質合金薄帯の走行経路の途中に配置されている。そして、非晶質合金薄帯は、伝熱媒体を通過することにより、熱処理され、ナノ結晶合金薄帯となる。
【0022】
上記のような非晶質合金を連続走行させながら熱処理する方法において、非晶質合金薄帯に加わっている張力の方向は、伝熱媒体に接触する直前の非晶質合金薄帯の走行方向、伝熱媒体に接触している時の非晶質合金薄帯の走行方向、及び、伝熱媒体から離れた直後のナノ結晶合金薄帯の走行方向と同一であり、いずれも直線状である。このように、非晶質合金薄帯を走行させて熱処理する場合の非晶質合金薄帯は、長尺の非晶質合金薄帯であり、その非晶質合金薄帯の長手方向と付与される張力の方向とは同一となる。なお、非晶質合金薄帯に付与される張力の方向は、非晶質合金薄帯をロール冷却で製造する場合のロールの回転方向に沿う方向と同じである。ロールの回転方向に沿う方向を鋳造方向ともいい、非晶質合金薄帯に付与される張力の方向はその鋳造方向と同じである。上記のように、ナノ結晶合金薄帯を得る工程は、非晶質合金薄帯に、上記非晶質合金薄帯の長手方向に張力を付与しつつ、上記非晶質合金薄帯を上記長手方向に進行させて、上記非晶質合金薄帯に対してナノ結晶化の熱処理を連続的行う工程を有していてもよい。
但し、非晶質合金薄帯は、「伝熱媒体に接触する直前」よりも走行方向上流側においては、搬送ローラー等を経由しながら蛇行走行していてもよい。同様に、非晶質合金薄帯から得られたナノ結晶合金薄帯は、「伝熱媒体から離れた直後」よりも走行方向下流側においては、搬送ローラー等を経由しながら蛇行走行していてもよい。
非晶質合金薄帯に付与される張力としては、1.0N~50.0Nが好ましく、2.0N~40.0Nがより好ましく、3.0N~35.0Nが特に好ましい。
張力が1.0N以上であると、透磁率を十分に低下することができる。
張力が50.0N以下であると、非晶質合金薄帯又はナノ結晶合金薄帯の破断をより抑制できる。
【0023】
また、本実施形態のナノ結晶化の熱処理では、非晶質合金薄帯の温度を結晶化温度Tc1以上(例えば430℃以上)の到達温度まで昇温させる。これにより、合金薄帯の組織において、ナノ結晶化が進行する。
到達温度は、430℃~600℃が好ましい。
到達温度が600℃以下である場合(特に、Bの含有量が10原子%以上20原子%以下である場合)には、例えば、ナノ結晶合金薄帯の軟磁気特性(Hc、Bs等)を劣化させ得るFe-B化合物の析出頻度をより低減できる。
また、設定する到達温度と、伝熱媒体の温度とを同一温度としておくことが好ましい。
【0024】
また、ナノ結晶化の熱処理に伝熱媒体を用いる場合、伝熱媒体としては、例えば、プレート、ツインロール等が挙げられるが、非晶質合金薄帯と接触する面積が大きい、プレート状の伝熱媒体が好ましい。プレート状の伝熱媒体の接触面は、平面であることが好ましいが、多少の曲面が設けられていてもよい。また、伝熱媒体の合金薄帯との接触面に吸引孔を設け、吸引孔において減圧吸引することを可能としてもよい。これにより、合金薄帯を伝熱媒体の吸引孔を有する面に吸引吸着させることができ、合金薄帯の伝熱媒体への接触性が向上し、熱処理の効率を向上できる。
【0025】
また、伝熱媒体の材質としては、例えば、銅、銅合金(青銅、真鍮等)、アルミニウム、鉄、鉄合金(ステンレス等)などが挙げられる。このうち、銅、銅合金、又はアルミニウムが、熱伝導率(熱伝達率)が高く好ましい。
伝熱媒体は、Niめっき、Agめっき等のめっき処理が施されていてもよい。
また、この伝熱媒体を加熱する手段を別途設けておき、加熱された伝熱媒体と非晶質合金薄帯とを接触させて、非晶質合金薄帯を加熱して、熱処理することができる。また、伝熱媒体の周りを任意の部材で囲ってもよい。
また、本実施形態では、上記した到達温度まで昇温後、伝熱媒体上にて、ナノ結晶合金薄帯の温度を一定時間保持してもよい。
また、本実施形態では、得られたナノ結晶合金薄帯を(好ましくは室温まで)冷却することが好ましい。
また、本実施形態は、得られたナノ結晶合金薄帯(好ましくは上記冷却後のナノ結晶合金薄帯)を巻き取ることにより、ナノ結晶合金薄帯の巻回体を得ることを含んでもよい。
【0026】
本実施形態の非晶質合金薄帯の厚さは、10μm~50μmの範囲が好ましい。10μm未満では、合金薄帯自体の機械的強度が低いため、安定して長尺の合金薄帯を鋳造することが困難である。また、50μmを超えると合金の一部が結晶化しやすくなり、特性が劣化する場合がある。非晶質合金薄帯の厚さは、より好ましくは11μm~30μmであり、さらに好ましくは12μm~27μmである。
また、非晶質合金薄帯の幅は特に制限はないが、5mm~300mmであることが好ましい。非晶質合金薄帯の幅が5mm以上であると、非晶質合金薄帯の製造適性に優れる。非晶質合金薄帯の幅が300mm以下であると、ナノ結晶合金薄帯を得る工程において、ナノ結晶化の均一性がより向上する。非晶質合金薄帯の幅は、200mm以下であることが好ましい。
【0027】
なお、本実施形態では、非晶質合金薄帯で構成されたロール状の巻回体から非晶質合金薄帯を巻き出し、その非晶質合金薄帯に張力を加えながら、非晶質合金薄帯を走行させ、その走行する非晶質合金薄帯を伝熱媒体に接触させて加熱し、その加熱による熱処理によりナノ結晶化し、ナノ結晶合金薄帯を得て、そのナノ結晶合金薄帯をロール状の巻回体に巻き取る、連続ラインを設けてナノ結晶合金薄帯を作製することもできる。
【0028】
連続ラインを設けてナノ結晶合金薄帯を作製する方法の一実施形態を、図1を用いて説明する。図1に示すのは、インラインアニール装置150であり、巻き出しローラー112から巻き取りローラー114に亘って、長尺の非晶質合金薄帯に対して昇温工程~降温(冷却)工程を含む連続した熱処理工程を施し、ナノ結晶合金薄帯を得るインラインアニール工程を行う装置である。
【0029】
インラインアニール装置150は、非晶質合金薄帯の巻回体111から合金薄帯110を巻き出す巻き出しローラー112(巻き出し装置)と、巻き出しローラー112から巻き出された合金薄帯110を加熱する加熱プレート(伝熱媒体)122と、加熱プレート122によって加熱された合金薄帯110を降温する冷却プレート(伝熱媒体)132と、冷却プレート132によって降温された合金薄帯110を巻き取る巻き取りローラー114(巻き取り装置)と、を備える。図1では、合金薄帯110の走行方向を、矢印Rで示している。
【0030】
巻き出しローラー112には、非晶質合金薄帯の巻回体111がセットされている。
巻き出しローラー112が矢印Uの方向に軸回転することにより、非晶質合金薄帯の巻回体111から合金薄帯110が巻き出される。
この一例では、巻き出しローラー112自体が回転機構(例えばモーター)を備えていてもよいし、巻き出しローラー112自体は回転機構を備えていなくてもよい。
巻き出しローラー112自体は回転機構を備えていない場合でも、後述の巻き取りローラー114による合金薄帯110の巻き取り動作に連動し、巻き出しローラー112にセットされた非晶質合金薄帯の巻回体111から合金薄帯110が巻き出される。
【0031】
図1中、丸で囲った拡大部分に示すように、加熱プレート122は、巻き出しローラー112から巻き出された合金薄帯110が接触する第1平面122Sを含む。この加熱プレート122は、第1平面122Sに接触しながら第1平面122S上を走行している合金薄帯110を、第1平面122Sを介して加熱する。これにより、走行中の合金薄帯110が、安定的に急速加熱され、ナノ結晶化される。
加熱プレート122は、不図示の熱源に接続されており、この熱源から供給された熱によって所望とする温度に加熱されている。加熱プレート122は、熱源に接続されることに代えて、又は、熱源に接続されることに加えて、加熱プレート122自身の内部に熱源を備えていてもよい。
加熱プレート122の材質としては、例えば、ステンレス、Cu、Cu合金、Al合金等が挙げられる。
【0032】
加熱プレート122は、加熱室120に収容されている。
加熱室120は、加熱プレート122に対する熱源とは別に、加熱室の温度を制御するための熱源を備えていてもよい。
加熱室120は、合金薄帯110の走行方向(矢印R)の上流側及び下流側のそれぞれに、合金薄帯が進入又は退出する開口部(不図示)を有している。合金薄帯110は、上流側の開口部である進入口を通って加熱室120内に進入し、下流側の開口部である退出口を通って加熱室120内から退出する。
【0033】
また、図1中、丸で囲った拡大部分に示すように、冷却プレート132は、合金薄帯110が接触する第2平面132Sを含む。この冷却プレート132は、第2平面132Sに接触しながら第2平面132S上を走行している合金薄帯110を、第2平面132Sを介して降温する。
冷却プレート132は、冷却機構(例えば水冷機構)を有していてもよいし、特段の冷却機構を有していなくてもよい。
冷却プレート132の材質としては、例えば、ステンレス、Cu、Cu合金、Al合金等が挙げられる。
冷却プレート132は、冷却室130に収容されている。
冷却室130は、冷却機構(例えば水冷機構)を有していてもよいが、特段の冷却機構を有していなくてもよい。即ち、冷却室130による冷却の態様は、水冷であってもよいし、空冷であってもよい。
冷却室130は、合金薄帯110の走行方向(矢印R)の上流側及び下流側のそれぞれに、合金薄帯が進入又は退出する開口部(不図示)を有している。合金薄帯110は、上流側の開口部である進入口を通って冷却室130内に進入し、下流側の開口部である退出口を通って冷却室130内から退出する。
【0034】
巻き取りローラー114は、矢印Wの方向に軸回転する回転機構(例えばモーター)を備えている。巻き取りローラー114の回転により、合金薄帯110が所望とする速度で巻き取られる。
【0035】
インラインアニール装置150は、巻き出しローラー112と加熱室120との間に、合金薄帯110の走行経路に沿って、ガイドローラー41、ダンサーローラー60(引張応力調整装置の一つ)、ガイドローラー42、並びに、一対のガイドローラー43A及び43Bを備えている。引張応力の調整は、巻き出しローラー112及び巻き取りローラー114の動作制御によっても行われる。
ダンサーローラー60は、鉛直方向(図1中の両側矢印の方向)に移動可能に設けられている。このダンサーローラー60の鉛直方向の位置を調整することにより、合金薄帯110の引張応力を調整できる。
これにより、非晶質合金薄帯に張力を付与した状態でナノ結晶化の熱処理を行うことができる。
【0036】
巻き出しローラー112から巻き出された合金薄帯110は、これらのガイドローラー及びダンサーローラーを経由して、加熱室120内に導かれる。
インラインアニール装置150は、加熱室120と冷却室130との間に、一対のガイドローラー44A及び44B、並びに、一対のガイドローラー45A及び45Bを備えている。
加熱室120から退出した合金薄帯110は、これらのガイドローラーを経由して冷却室130内に導かれる。
【0037】
インラインアニール装置150は、冷却室130と巻き取りローラー114との間に、合金薄帯110の走行経路に沿って、一対のガイドローラー46A及び46B、ガイドローラー47、ダンサーローラー62、ガイドローラー48、ガイドローラー49、並びに、ガイドローラー50を備えている。
ダンサーローラー62は、鉛直方向(図1中の両側矢印の方向)に移動可能に設けられている。このダンサーローラー62の鉛直方向の位置を調節することにより、合金薄帯110の引張応力を調整できる。
冷却室130から退出した合金薄帯110は、これらのガイドローラー及びダンサーローラーを経由して、巻き取りローラー114に導かれる。
【0038】
インラインアニール装置150において、加熱室120の上流側及び下流側に配置されたガイドローラー(43A、43B、44A、及び44B)は、合金薄帯110と加熱プレート122の第1平面とを全面的に接触させるために、合金薄帯110の位置を調整する機能を有する。
インラインアニール装置150において、冷却室130の上流側及び下流側に配置されたガイドローラー(45A、45B、46A、及び46B)は、合金薄帯110と冷却プレート132の第2平面とを全面的に接触させるために、合金薄帯110の位置を調整する機能を有する。
【0039】
本実施形態の樹脂フィルム上に接着層を介してナノ結晶合金薄帯を保持させる工程を、図2を用いて説明する。
図2は、ラミネート工程の一例であり、ナノ結晶合金薄帯101、接着層102及び樹脂フィルム103の各々をロールから引き出し、所定の間隔を設けて配置された一対の加圧ローラー104で挟んで積層し、一体化して樹脂フィルム付きナノ結晶合金薄帯105を作製している。ラミネート工程は、樹脂フィルム上に接着層を介してナノ結晶合金薄帯を保持させる工程の具体例である。ここで、ナノ結晶合金薄帯を多層とする場合は、例えば、樹脂フィルム上にナノ結晶合金薄帯を複数積み重ねる工程によってナノ結晶合金薄帯の多層体を作製することができる。例えば、樹脂フィルム付きナノ結晶合金薄帯105の上にさらに接着層102とナノ結晶合金薄帯101を所要数積み重ねて、ナノ結晶合金薄帯の多層体を作製することができる。例えば、図2に示されるラミネート工程において、複数のナノ結晶合金薄帯101、複数の接着層102、及び樹脂フィルム103を一対の加圧ローラー104によって一体化することで、ナノ結晶合金薄帯の多層体を作製することもできる。また、ナノ結晶合金薄帯の樹脂フィルム103とは反対の面に、樹脂フィルムを積層し、ナノ結晶合金薄帯が樹脂フィルムで挟まれる構成としてもよい。また、接着層102の代わりに、両面テープ等の、接着層が形成されている樹脂フィルムを用いてラミネートすることもできる。
【0040】
この樹脂フィルム付きナノ結晶合金薄帯105は、必要な形状及び大きさに切断して、使用用途に合わせた形状の樹脂フィルム付きナノ結晶合金薄帯としてもよい。この場合、回転刃式のスリッター又は剪断刃式のカッターを用いて、樹脂フィルム付きナノ結晶合金薄帯105を切断してもよい。また、プレスダイ等を用いて樹脂フィルム付きナノ結晶合金薄帯105を打抜いて切断してもよい。
【0041】
本実施形態において、樹脂フィルムには変形容易であって、曲げ性に富む材質、厚みが選択される。例えば、厚みが10μm~100μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムなどの樹脂フィルムが好適である。他に、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド等のポリイミド、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル等からなる樹脂フィルムでもよい。その他、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、フッ素樹脂、アクリル樹脂、セルロース等を用いることができる。耐熱性及び誘電損失の観点から、ポリアミド及びポリイミドが特に好ましい。
【0042】
樹脂フィルムの厚みが増すと変形し難くなり、曲面又は屈曲面に倣って樹脂フィルム付きナノ結晶合金薄帯を配置するのを阻害することがある。また、厚さが10μm未満であると、樹脂フィルム自体の変形が一層起こりやすくなるので扱いが難しくなり、ナノ結晶合金薄帯を支持する機能も十分に得られない場合がある。
樹脂フィルムとナノ結晶合金薄帯とを貼り合わせるための接着層には、アクリル樹脂、シリコーン樹脂等の液状、シート状、又はテープ状で供される接着剤を適用することができる。液状の接着剤を樹脂フィルムの一面側に薄く塗布して接着層としたり、予め両面テープが貼付された樹脂シートを用いたりしてもよい。樹脂フィルムのナノ結晶合金薄帯が貼付される側の一面とは反対の面、もしくは非晶質合金薄帯と樹脂フィルムとの間に、電磁波シールドの機能を付与する目的で5μm~30μm程度の厚みのCu箔又はAl箔などの導電体を設けてもよい。
【0043】
ナノ結晶合金薄帯は、ナノ結晶合金薄帯を樹脂フィルムに保持した状態でローラー等の部材で加圧するなどして外力を加えるクラック処理を施すことができる。これにより、ナノ結晶合金薄帯を定形、あるいは不定形に複数の個片に分割しても構わない。この場合、クラック処理されたナノ結晶合金薄帯の個片等が樹脂フィルムから脱落しない様に、クラック処理されたナノ結晶合金薄帯を他の樹脂フィルムや接着層等の被覆層で覆って、挟み込むのが好ましい。ナノ結晶合金薄帯は、脆化し加圧によって比較的容易にクラックを生じさせることが出来るものの、従来は透磁率を十分に低下させることができなかった。しかし本開示では、張力を付与した状態でナノ結晶化の熱処理を行ったナノ結晶合金薄帯を用いており、このナノ結晶合金薄帯は透磁率が小さいため、128kHzでの交流比透磁率μrを100以上2000以下の範囲に簡易に調整できる。本開示におけるクラックとは、合金薄帯に形成される磁気的なギャップを指し、例えば、合金薄帯の割れ及び/又はひびが包含される。
【0044】
クラック処理を施してナノ結晶合金薄帯を複数の個片に分割すれば、渦電流損失の低減効果を得ることができる。但し、そのようにして分割された個片が過度に不定形であると、ナノ結晶合金薄帯内の領域に応じて特性が変わるなどの不具合を生じる恐れがあるため、なるべく定形の個片に分割することが望ましい。個片の形状は、好ましくは1辺が1mm~10mmの矩形である。
【0045】
クラック処理を施す場合において、個片を定形に近付けるためには、樹脂フィルム上に接着層を介してナノ結晶合金薄帯を保持させる工程(例えば図2に示すラミネート工程)の後、ナノ結晶合金薄帯の面上の複数箇所に外力を加える工程(クラック起点処理)と、その樹脂フィルム付きナノ結晶合金薄帯をロールで巻き取ることにより、外力を加えた箇所を起点としたクラックを生じさせてナノ結晶合金薄帯を複数の個片に分割する工程(クラック処理)とを備えることが考えられる。樹脂フィルム上に接着層を介してナノ結晶合金薄帯を保持させる工程(例えば図2に示すラミネート工程)を経たナノ結晶合金薄帯にクラック起点処理を施すことで、ロールで巻き取って曲げ応力を作用させたときにクラックが適度な間隔で形成され、個片の定形化に資する。
【0046】
[クラック処理]
クラックは、例えば、凸状部材を、ナノ結晶合金薄帯の表面に押しつけて形成することができる。凸状部材の形状は、例えば、棒状、又は錐状でもよい。凸状部材の端部の先端は、平坦、錐状、中央が窪む逆錐状、又は筒状でもよい。
クラックの形成において、複数の凸状部材が規則的に配置されたプレス部材を用いることができる。例えば、複数の凸状部材を周面に配置したロール(以後、クラッキングロールという)を用いてクラックの形成を行うことができる。例えば、長尺のナノ結晶合金薄帯をクラッキングロールに張力等で押し付けたり、又は長尺のナノ結晶合金薄帯をクラッキングロール同士の間に搬送したりすることで、連続的にクラックを形成できる。また、複数のクラッキングロールを用いてクラックを形成することもできる。
【0047】
図3は、複数の凸状部材によって規則的に外力を加えられた箇所を概念的に示した樹脂フィルム付きナノ結晶合金薄帯の平面図である。模様の形状は、外力が加えられた部分の凸状部材の先端形状に相当する。
図3(a)は、端部の断面形状が円状の凸状部材を用いた場合の、外力が加えられる箇所を概念的に示すものである。
図3(b)は、端部の外形が十字状の凸状部材を用いた場合の、外力が加えられる箇所を概念的に示すものである。
図3(c)は、端部の外形が図形縦方向に線状の凸状部材と、横方向に線状の凸状部材をそれぞれ用いた場合の、外力が加えられる箇所を概念的に示すものである。本図においては、外力が加えられる箇所は、それぞれ不連続、かつ、マトリクス状になるように配置されている。
【0048】
図3(d)は、端部の外形が図形縦方向に対してθ°傾いた(図3(d)では45°傾いた)線状の凸状部材と、-θ°傾いた(図3(d)では-45°傾いた)線状の凸状部材を用いた場合の、外力が加えられる箇所を概念的に示すものである。本図においては、外力が加えられる箇所は、それぞれ不連続、かつ、一方の線状の外力が加えられる箇所は、その延長線上において、他方の外力が加えられる箇所の両端の間で交差するように、配置されている。
図3(e)は、端部の外形が図形縦方向に対してθ°傾いた(図3(e)では45°傾いた)線状の凸状部材と、-θ°傾いた図3(e)では-45°傾いた)線状の凸状部材を用いた場合の、外力が加えられる箇所を概念的に示すものである。本図においては、外力が加えられる箇所は、それぞれ不連続、かつ、傾いたマトリクス状になるように配置されている。
図3(f)は、端部の外形が図形縦方向に線状の凸状部材と、横方向に線状の凸状部材をそれぞれ用いた場合の、外力が加えられる箇所を概念的に示すものであり、図3(c)に対し、位置関係を変えたものである。凸状部材の配置は、図に示すものに限られず、適宜設定することができる。
これらの外力が加えられる箇所は、この外力が加えられる箇所と全く同一の形態のクラックが形成されることが望ましい。しかしながら、その他のクラックが形成される場合や、同一形態のクラックが形成されない(部分的にしかクラックが形成されない)場合があってもよい。
また、クラックを線状のものとし、複数のクラックを連続的に繋がるように形成しても良い。
【0049】
図3(c)、図3(d)、図3(e)、又は図3(f)のクラックを形成する場合、一方の凸状部材をクラッキングロールに配置し、他方の凸状部材を別のクラッキングロールに配置し、両方のクラッキングロールで、順次、合金薄帯に直接外力を付与してクラックを形成することができる。
【0050】
凸状部材でナノ結晶合金薄帯に直接外力を付与してクラックを形成した後、ナノ結晶合金薄帯を湾曲したり、巻き取ったりする等の手段によって第2の外力を付与できる。これにより、クラックを脆性破壊や亀裂破壊の起点として、クラック同士を繋ぐ割れ及び/又はひび(クラック同士を繋ぐ磁気的なギャップ)を形成することができる。以後、このクラック同士を繋ぐ割れ及び/又はひび(磁気的なギャップ)をネットワーククラックということがある。
【0051】
本実施形態の樹脂フィルム付きナノ結晶合金薄帯において、ナノ結晶合金薄帯にクラックを形成し、そのクラックを形成したナノ結晶合金薄帯を多層に積層する場合の実施形態について、図4を用いて説明する。
【0052】
まず、ナノ結晶化が可能な非晶質合金薄帯に張力を付与した状態でナノ結晶化の熱処理を行い、ナノ結晶合金薄帯を形成しておく。以下に説明する工程は、このナノ結晶合金薄帯を用いて行われる。
ナノ結晶合金薄帯がロール状に巻かれたロール状の巻回体を4つ用意する。なお、4つに限定されるものではなく、巻回体の個数は適宜設定できる。
そして、以下の工程を行う。以下に示される具体的な品名及び数値は、工程を詳細に説明するための例である。
・工程(1)「接着層と、上記接着層から剥離が可能なリリースフィルムとを有するクラック用テープの接着層に、ナノ結晶合金薄帯を接着する工程」
先ず、両面テープ2Aを巻き付けたロールが4箇所に配置される。ロールの数は、ロール状に巻かれたナノ結晶合金薄帯の巻回体の数と合わせておく。その後、両面テープ2Aがロールから引き出される。両面テープ2Aは、リリースフィルム1A(25μm)と、接着層(5μm)と、リリースフィルム1B(25μm)の3層構造である。リリースフィルム1Aとリリースフィルム1Bは同じ材質(PET)であり、引張弾性力が3.9GPaである。接着層は、基材フィルムの両面にアクリル系の接着剤が被覆されている。リリースフィルム1A、及びリリースフィルム1Bは、接着層から剥離が可能である。
リリースフィルム1Aは両面テープ2Aから剥離される。この剥離が、両面テープ2Aがロールから引き出されるのとほぼ同じタイミングで行われる。本実施形態では、これにより得られた接着層とリリースフィルム1Bからなるテープを、クラック用テープとして用いる。なお、リリースフィルム1Bは樹脂フィルムの一種である。
その後、ナノ結晶合金薄帯4がロール状の巻回体から引き出され、圧着ロールにより、クラック用テープの接着層に接着される。ナノ結晶合金薄帯4はFe-Cu-Nb-Si-B系のナノ結晶合金からなる合金薄帯(日立金属株式会社製FT-3)である。
【0053】
ここで、リリースフィルムは、弾力性を有する樹脂製のリリースフィルムであることが好ましい。
図4に示されるように、ある実施形態において、樹脂フィルム付きナノ結晶合金薄帯の製造方法は、接着層と接着層から剥離が可能なリリースフィルムとを有するクラック用テープに、ナノ結晶合金薄帯を接着する工程(工程(1))と、ナノ結晶合金薄帯に直接外力を付与してクラックを形成する工程(後述する工程(2))と、を有する。この場合、リリースフィルムが樹脂製であると、リリースフィルムの弾性力により、ナノ結晶合金薄帯の表面の凹凸の発生自体が抑制される。また、もしナノ結晶合金薄帯の表面に凹凸が発生しても、その弾性力により、凹凸が平坦になるように変形される。これにより、良好な平面状態のナノ結晶合金薄帯とすることができ、磁気特性の経時変化が小さい樹脂フィルム付きナノ結晶合金薄帯を得ることができる。
例えば、リリースフィルムの樹脂としては、引張弾性率の下限が、0.1GPaの樹脂を使用できる。引張弾性率が0.1GPa以上であれば、上記の効果が十分に得られやすい。引張弾性率の下限は、0.5GPaが好ましく、1.0GPaがさらに好ましい。引張弾性率の上限は10GPaとすることが好ましい。10GPaを超えると、クラックを形成する際、合金薄帯の変形を抑制してしまうことがある。引張弾性率の上限は7GPaが好ましく、5GPaがさらに好ましい。
【0054】
また、リリースフィルムとしては、厚みが1μm~100μmの樹脂を用いることが好ましい。リリースフィルムの厚みが増すと変形し難くなる。また、厚さが1μm未満であると、リリースフィルム自体の変形が一層容易となるので扱いが難しくなる。
【0055】
接着層は、樹脂フィルムの接着層と、同じものを用いることができる。例えば、接着層は、既知のものを使用でき、例えば、感圧性接着剤を用いることができる。感圧性接着剤としては、例えば、アクリル系、シリコーン系、ウレタン系、合成ゴム、天然ゴム等の感圧性接着剤を用いることができる。
【0056】
・工程(2)「ナノ結晶合金薄帯に直接外力を付与してクラックを形成する工程」
クラック用テープに接着されたナノ結晶合金薄帯4に、クラッキングロール5により、直接外力が付与されてクラックが形成される。クラッキングロール5においては、凸状部材が周面に規則的に配置されている。クラックを形成する際、クラッキングロールからの外力を逃がさないよう、リリースフィルム1B側に、ナノ結晶合金薄帯4をクラッキングロール側に押し付ける圧縮ロールを配置することもできる。
【0057】
・工程(3)「リリースフィルムを接着層から剥離し、接着層とクラックが形成されたナノ結晶合金薄帯とを有するシート部材を形成する工程」
クラック用テープから、リリースフィルム1Bを剥離し、接着層を露出させる。これにより、接着層とクラックが形成されたナノ結晶合金薄帯とを有するシート部材を形成する。リリースフィルム1Bを剥離する際に発生するナノ結晶合金薄帯4への外力を利用して、ネットワーククラックを形成することもできる。
図4では、工程(1)から工程(3)の機構を4つ備えている。しかし、4つに限定されるものではなく、目的により、5つ以上としてもよいし、3つ以下としてもよい。
なお、ナノ結晶合金薄帯を多層の積層する場合、最下層となるナノ結晶合金薄帯については、リリースフィルムをそのままとし、そのリリースフィルムを樹脂フィルム付きナノ結晶合金薄帯の樹脂フィルムとして用いてもよい。
【0058】
・工程(4)「樹脂フィルム付きナノ結晶合金薄帯を形成する工程」
樹脂フィルム6Aにシート部材を圧着ロールにより積層し、接着させる。樹脂フィルムにシート部材の接着層が当接するように積層する。さらに、その上に、次のシート部材を圧着ロールで積層し、接着させる。これを繰り返し、接着層とナノ結晶合金薄帯とが交互になるように積層される。これにより、樹脂フィルム6A付きナノ結晶合金薄帯が形成される。
さらに、図4では、積層されたナノ結晶合金薄帯の上に、樹脂フィルム6aが接着される。樹脂フィルム6aは、別の両面テープ2Bの接着層を介して、ナノ結晶合金薄帯の積層体に接着される。両面テープ2Bは、リリースフィルム1Cと、接着層(5μm)と、リリースフィルム1Dの3層構造である。リリースフィルム1C、及びリリースフィルム1Dは、接着層から剥離可能である。両面テープ2Bからリリースフィルム1Cが剥離され、露出された接着層とナノ結晶合金薄帯4が圧着ロールにより接着される。その後、リリースフィルム1Dが剥離される。さらにその後、樹脂フィルム6aが、両面テープ2Bの接着層に圧着される。樹脂フィルム6aは厚さ25μmのPET製保護フィルムである。
なお、樹脂フィルム6Aは、厚さ5μmの接着層と、厚さ75μmの樹脂フィルムの2層構造である。なお、この樹脂フィルムは接着層から剥離可能である。シート部材の接着層と、樹脂フィルムの接着層が、圧着ロールにより接着される。樹脂フィルムが剥離される接着層が露出し、ナノ結晶合金薄帯を電子機器等に貼り付けることが可能になる。
【0059】
その後、樹脂フィルム付きナノ結晶合金薄帯がカッター7によって必要な大きさに切断され、トレー8に搬送される。カッター7の代わりに、打抜き型等によって所望の形状に加工することもできる。
【0060】
樹脂フィルム6Aにシート部材を積層した樹脂フィルム付きナノ結晶合金薄帯を模式的に示す平面図(a)と断面図(b)を図5に示す。ここで、断面図(b)は、平面図(a)のA-A断面図である。樹脂フィルム6Aに接着層6bを介してナノ結晶合金薄帯4’が積層し、接着されている。また、ナノ結晶合金薄帯4’には、クラック9’が形成されている。クラック9’は、線状の凸状部材が周面に規則的に配置されているクラッキングロールを押しつけて形成されたものであり、線状のクラック9’が断続的に形成されている。
【0061】
樹脂フィルム6Aにナノ結晶合金薄帯を複数積層した樹脂フィルム付きナノ結晶合金薄帯を模式的に示す平面図(a)と断面図(b)を図6に示す。ここで、断面図(b)は、平面図(a)のD-D断面図である。
図6(a)に示すように、樹脂フィルム6Aに接着されたナノ結晶合金薄帯4’に、シート部材10c1~シート部材10c3が、積層されている。第1のシート部材10c1~第3のシート部材10c3にそれぞれ形成されたクラック9、9-1、9-2と、樹脂フィルム6Aに接着されたナノ結晶合金薄帯4’に形成されたクラック9’が、積層方向に見て、異なる位置に形成されている。このように、本開示の好ましい実施形態では、それぞれのナノ結晶合金薄帯に直接外力を付与してクラックを形成しているため、複数のナノ結晶合金薄帯に同時にクラックを形成する従来の製造方法と異なり、ナノ結晶合金薄帯の層毎でクラックの位置を変えることができるので、磁気ギャップが均等に形成された樹脂フィルム付きナノ結晶合金薄帯にすることができる。そのため、この樹脂フィルム付きナノ結晶合金薄帯に対し、さらに所望の形状に打ち抜いたり、切断したりする加工を施しても、加工位置による透磁率の変動が少なく、安定したシールド特性を有する樹脂フィルム付きナノ結晶合金薄帯を製造することができる。
この樹脂フィルム付きナノ結晶合金薄帯は、積層方向で、樹脂フィルム6Aとは反対側の面に、別の樹脂フィルムを積層することができる。どちらの樹脂フィルムも、接着層(例えば、両面テープ)を介して接着させることができる。
【0062】
本開示の好ましい実施形態では、ナノ結晶合金薄帯を積層した後ではなく、合金薄帯を積層する前で、かつ、合金薄帯に直接外力を付与してクラックを形成している。このため、付与する外力が、合金薄帯に直接加える上、合金薄帯1層分にクラックを入れる強さのみとなる。したがって、複数の合金薄帯に同時にクラックを形成する方法、又は保護フィルムの上から外力を付与してクラックを形成する方法より、小さい外力でクラックを形成することができる。クラックを形成するための外力が小さいので、クラックが形成されたナノ結晶合金薄帯の表面の凹凸を抑制することができ、ナノ結晶合金薄帯の平面状態を良好とすることができる。
【0063】
本開示において、ナノ結晶合金薄帯に直線状のクラックを形成する場合、例えば図7に示すとおり、ナノ結晶合金薄帯の鋳造方向(ロール冷却により、連続的に鋳造(急冷凝固)する場合の長手方向に相当し、ロールの回転方向に沿う方向である)に平行に形成することが好ましい。なお、図7に示す矢印が鋳造方向を示す。
【0064】
本開示に係る樹脂フィルム付きナノ結晶合金薄帯の一例である磁性シート(図4で説明したもの)の交流比透磁率μr(128kHz)を評価した結果を表1に示す。ここでは、2つの試料を評価した結果を示す。本開示に係る樹脂フィルム付きナノ結晶合金薄帯の製造方法によって得られる磁性シートでは、300日後の変化率は3%程度もしくはそれ以下であった。
従来の磁性シート(接着層を介して積層された4層の合金薄帯を2層の樹脂フィルムの間にはさみ、樹脂フィルムの上から外力を付与してクラックを形成した磁性シート)では、100時間経過で7~10%程度変化していたが、本実施形態では、300日後(7200時間後)でも3%程度もしくはそれ以下であり、本開示の実施例によれば、透磁率の変化が小さい磁性シートが得られている。
【0065】
【表1】
【0066】
本実施形態の樹脂フィルム付きナノ結晶合金薄帯は磁性シートに適用することができる。その磁性シートの応用製品の一例として、非接触充電装置の一例の回路構成を図8に示す。給電装置200は、交流電流を供給する給電部207と、交流電流を直流電流に整流するために給電部207に接続された整流回路202と、直流電流を入力して所定周波数の高周波電流に変換するスイッチング回路203と、高周波電流が流れるようにスイッチング回路203に接続された一次伝送コイル201と、スイッチング回路203と同じ周波数で共振するように一次伝送コイル201に並列接続された共振用コンデンサ206と、スイッチング回路203に接続された制御回路204と、制御回路204に接続された制御用一次コイル205と、を具備する。制御回路204は、制御用一次コイル205から得られる誘導電流に基づきスイッチング回路203の動作を制御する。
【0067】
受電装置300は、一次伝送コイル201から発生した磁束を受ける二次伝送コイル301と、二次伝送コイル301に接続された整流回路302と、整流回路302に接続された二次電池303と、二次電池303の電圧から蓄電状況を検出するために二次電池303に接続された電池制御回路304と、電池制御回路304に接続された制御用二次コイル305とを具備する。二次伝送コイル301には共振用コンデンサ(図示せず)を並列接続してもよい。整流された電流は、二次電池303に蓄電される他、例えば、電子回路及び駆動部材(図示せず)等に利用される。電池制御回路304は、二次電池303の蓄電状況に応じて最適な充電を行うための信号を制御用二次コイル305に流す。例えば、二次電池303が完全に充電された場合、その情報の信号を制御用二次コイル305に流し、制御用二次コイル305に電磁結合する制御用一次コイル205を介して信号を給電装置200の制御回路204に伝える。制御回路204はその信号に基づきスイッチング回路203を停止する。
【0068】
磁性シートは、上記した非接触充電装置において、一次伝送コイル201のコイルヨークとして、一次伝送コイル201の二次伝送コイル301に対向する側の反対側に設けられ、一次伝送コイル201と二次伝送コイル301との結合性を向上させるとともに、一次伝送コイル201と他の部品等とのシールドの役目も果たす。また、本実施形態の磁性シートは、二次伝送コイル301の一次伝送コイル201に対向する側の反対側に設けられ、一次伝送コイル201と二次伝送コイル301との結合性を向上させるとともに、二次伝送コイル301と他の部品(二次電池)等とのシールドの役目も果たす。
また、本実施形態の樹脂フィルム付きナノ結晶合金薄帯は、ブロック状の積層体、又はトロイダル状に形成して用いることもできる。例えば、樹脂フィルム付きナノ結晶合金薄帯は、誘導素子などとして使用することができる。
【実施例
【0069】
以下、実施例により本開示を詳細に説明する。ただし、本開示は、以下の実施例に制限されるものではない。
【0070】
<実施例1>
[ナノ結晶合金薄帯の製造]
図1に示される構成要素を有する製造装置を用いて、長尺の非晶質合金薄帯(Fe-Cu-Nb-Si-B系合金)に張力を付与した状態で熱処理を行い、長尺のナノ結晶合金薄帯(Fe-Cu-Nb-Si-B系合金)を製造した。非晶質合金薄帯に付与した張力は、40MPaであった。熱処理における非晶質合金薄帯の到達温度は、600℃であった。ナノ結晶合金薄帯の厚さは、16μmであった。
【0071】
[樹脂フィルム付きナノ結晶合金薄帯の製造]
次に、図4に示される構成要素を有する製造装置を用いて、PET製樹脂フィルムと接着層とを含む2層構造を有する樹脂フィルム上に、ナノ結晶合金薄帯と接着層とを含む2層構造を有する4つのシート部材を順次積層した。以上の手順によって樹脂フィルム付きナノ結晶合金薄帯を製造した。樹脂フィルム付きナノ結晶合金薄帯に含まれる各ナノ結晶合金薄帯には、クラックが形成されてい。樹脂フィルム付きナノ結晶合金薄帯を用いて測定したナノ結晶合金薄帯の交流比透磁率μrは表1で示したとおりである。
【0072】
<比較例1>
張力をかけないで熱処理したこと以外は、実施例1と同様の手順によって、ナノ結晶合金薄帯、及び樹脂フィルム付きナノ結晶合金薄帯をそれぞれ作製した。樹脂フィルム付きナノ結晶合金薄帯を用いて測定したナノ結晶合金薄帯の交流比透磁率μrは約12000であった。
【0073】
2019年5月21日に出願された日本国特許出願2019-095278号の開示、及び2019年5月21日に出願された日本国特許出願2019-095279号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記載された場合と同程度に、本明細書に参照により取り込まれる。
【符号の説明】
【0074】
1、105:樹脂フィルム付きナノ結晶合金薄帯
1A、1B、1C、1D:リリースフィルム
2A、2B:両面テープ
3、6b、102:接着層
4、4’、101、110:ナノ結晶合金薄帯
5:クラッキングロール
6A、6a、103:樹脂フィルム
7:カッター
8:トレー
9、9’、9-1、9-2:クラック
10c1、10c2、10c3:シート部材
41、42、43A、43B、44A、44B、45A、45B、46A、46B、47、48、49、50:ガイドローラー
112:巻き出しローラー
114:巻き取りローラー
122:加熱プレート(伝熱媒体)
132:冷却プレート(伝熱媒体)
60、62:ダンサーローラー
104:加圧ローラー
150:インラインアニール装置
200:給電装置
201:一次伝送コイル
202:整流回路
203:スイッチング回路
204:制御回路
205:制御用一次コイル
206:共振用コンデンサ
207:給電部
300:受電装置
301:二次伝送コイル
302:整流回路
304:電池制御回路
305:制御用二次コイル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8