(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-16
(45)【発行日】2022-05-24
(54)【発明の名称】ポリアミド界面重合用組成物およびそれを用いた水処理分離膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 69/28 20060101AFI20220517BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20220517BHJP
B01D 71/56 20060101ALI20220517BHJP
C02F 1/44 20060101ALI20220517BHJP
【FI】
C08G69/28
B01D69/12
B01D71/56
C02F1/44 A
(21)【出願番号】P 2020545143
(86)(22)【出願日】2019-06-14
(86)【国際出願番号】 KR2019007201
(87)【国際公開番号】W WO2019240533
(87)【国際公開日】2019-12-19
【審査請求日】2020-09-03
(31)【優先権主張番号】10-2018-0068926
(32)【優先日】2018-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】チョイ、ラクウォン
(72)【発明者】
【氏名】リー、ヨンジュ
(72)【発明者】
【氏名】ビュン、ウンキョン
(72)【発明者】
【氏名】シン、チョン キュ
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-194672(JP,A)
【文献】特開2004-025102(JP,A)
【文献】特表2014-510822(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G69/00-69/50
B01D69/12
B01D71/56
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミン化合物と、
1つ以上のアミノ基、および炭素原子に結合された2つ以上のヒドロキシ基を含有する鎖状構造の添加剤と、を含
むポリアミド界面重合用組成物であって、
前記アミン化合物は、m-フェニレンジアミン(mPD)、p-フェニレンジアミン(PPD)、1,3,6-ベンゼントリアミン(TAB)、4-クロロ-1,3-フェニレンジアミン、6-クロロ-1,3-フェニレンジアミン、3-クロロ-1,4-フェニレンジアミン、またはこれらの混合物であり、
前記添加剤が、下記化学式1または2で表されるものであり、
前記添加剤の含量は、前記ポリアミド界面重合用組成物100wt%を基準として、0.01wt%~1wt%である、ポリアミド界面重合用組成物。
[化学式1]
【化11】
[化学式2]
【化12】
(前記化学式1および2中、
mおよびn1~n3は、1~10の整数であり、
X1~X3は、それぞれヒドロキシ基;またはアルキル基であって、X1~X3の少なくとも2つはヒドロキシ基である。)
【請求項2】
前記X1~X3はそれぞれヒドロキシ基である、請求項
1に記載のポリアミド界面重合用組成物。
【請求項3】
前記添加剤が、D-グルカミン(D-glucamine)およびトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(Tris(hydroxymethyl)aminomethane)から選択される1種以上である、請求項1
または2に記載のポリアミド界面重合用組成物。
【請求項4】
前記アミン化合物の含量は、前記ポリアミド界面重合用組成物100wt%を基準として、0.001wt%~10wt%である、請求項1から
3の何れか一項に記載のポリアミド界面重合用組成物。
【請求項5】
多孔性支持体を準備するステップと、
請求項1から
4の何れか一項に記載のポリアミド界面重合用組成物とアシルハライド化合物を界面重合することで、前記多孔性支持体上にポリアミド活性層を形成するステップと、を含む、水処理分離膜の製造方法。
【請求項6】
多孔性支持体と、
前記多孔性支持体上に備えられ、下記化学式3または4で表される構造を
層全体にわたって含むポリアミド活性層と、を含む、水処理分離膜。
[化学式3]
【化13】
[化学式4]
【化14】
(前記化学式3および4中、
mおよびn1~n3は、1~10の整数であり、
X1~X3は、それぞれヒドロキシ基;またはアルキル基であって、X1~X3の少なくとも2つはヒドロキシ基であり、
【化15】
は、前記ポリアミド活性層のポリアミド高分子と結合する部位である。)
【請求項7】
前記水処理分離膜の表面に、4L/minの流速で流れる100ppmのIPA(Isopropyl Alcohol)を含有する水溶液を、25℃で110psiの圧力で60分以上加えた場合に、IPA除去率が90%以上である、請求項
6に記載の水処理分離膜。
【請求項8】
請求項
6または
7に記載の水処理分離膜を1つ以上含む、水処理モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2018年6月15日付で韓国特許庁に提出された韓国特許出願第10‐2018‐0068926号の出願日の利益を主張し、そのすべての内容は本明細書に組み込まれる。
本明細書は、ポリアミド界面重合用組成物およびそれを用いた水処理分離膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半透過性膜により隔離された2つの溶液の間で、溶質の濃度が低い溶液から高い溶液の方に分離膜を通過して溶媒が移動する現象を浸透現象といい、この際、溶媒の移動により溶質の濃度が高い溶液側に作用する圧力を浸透圧という。ところで、浸透圧よりも高い外部圧力をかけると、溶媒は、溶質の濃度が低い溶液の方に移動することになるが、この現象を逆浸透という。逆浸透の原理を利用して、圧力勾配を駆動力とし、半透過性膜を介して各種塩や有機物質を分離することができる。
【0003】
かかる逆浸透現象を利用した水処理分離膜は、分子レベルの物質を分離し、塩水または海水から塩を除去した後、家庭用および建築用、産業用水を供給するのに用いられている。このような水処理分離膜の代表的な例としては、ポリアミド系水処理分離膜が挙げられる。ポリアミド系水処理分離膜は、微細多孔性支持体上にポリアミド活性層を形成する方法により製造されており、より具体的には、不織布上にポリスルホン層を形成して微細多孔性支持体を形成し、この微細多孔性支持体をm-フェニレンジアミン(m-Phenylene Diamine、mPD)水溶液に浸漬させてmPD層を形成し、これをさらにトリメソイルクロリド(Trimesoyl Chloride、TMC)有機溶媒に浸漬させてmPD層をTMCと接触させ、界面重合させることでポリアミド層を形成する方法により製造されている。
前記水処理分離膜において、不純物の除去率は、膜の性能を示す重要な指標として用いられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本明細書は、ポリアミド界面重合用組成物およびそれを用いた水処理分離膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書の一実施態様は、
アミン化合物と、
1つ以上のアミノ基、および炭素原子に結合された2つ以上のヒドロキシ基を含有する鎖状構造の添加剤と、を含むポリアミド界面重合用組成物を提供する。
【0006】
また、本明細書の一実施態様は、
多孔性支持体を準備するステップと、
前記ポリアミド界面重合用組成物とアシルハライド化合物を界面重合することで、前記多孔性支持体上にポリアミド活性層を形成するステップと、を含む、水処理分離膜の製造方法を提供する。
また、本明細書の一実施態様は、
多孔性支持体と、
前記多孔性支持体上に備えられ、下記化学式3または4で表される構造を含むポリアミド活性層と、を含む水処理分離膜を提供する。
【0007】
【0008】
【0009】
前記化学式3および4中、
mおよびn1~n3は、1~10の整数であり、
X1~X3は、それぞれヒドロキシ基;またはアルキル基であって、X1~X3の少なくとも2つはヒドロキシ基であり、
【化3】
は、前記ポリアミド活性層のポリアミド高分子と結合する部位である。
【0010】
また、本明細書の一実施態様は、前記水処理分離膜を1つ以上含む水処理モジュールを提供する。
【発明の効果】
【0011】
本明細書の一実施態様に係るポリアミド界面重合用組成物を用いて水処理分離膜を製造する場合、ポリアミド活性層に多数のヒドロキシ基が含まれているため、アルコール除去率および塩除去率が向上する効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本明細書の一実施態様に係る水処理分離膜を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本明細書についてより詳細に説明する。
本明細書の一実施態様は、アミン化合物と、
1つ以上のアミノ基、および炭素原子に結合された2つ以上のヒドロキシ基を含有する鎖状構造の添加剤と、を含む、ポリアミド界面重合用組成物を提供する。
【0014】
本発明に係るポリアミド界面重合用組成物を用いてポリアミド活性層を製造する場合、当該組成物が有機層のモノマーと反応性を有し、ポリアミドの形成に関与するため、ポリアミド活性層中に多数のヒドロキシ基が生成される。これは、アルコール類との水素結合エネルギーの増加に繋がり、アルコール除去率の向上に繋がるだけでなく、ポリアミド活性層の形成過程で生じた空き空間にヒドロキシ基が位置することになるため、塩除去率の上昇効果も得ることができる。
【0015】
具体的に、アミノ基(-NH2)は、水素の位置に化学結合が形成され得るため、ポリアミド活性層の形成時に反応に関与し、ポリアミド鎖に含まれた形態で存在することができ、炭素原子に結合されたヒドロキシ基は、他の官能基に比べてアルコールと強い水素結合を形成するため、アルコール除去率を高める効果に優れる。
【0016】
本明細書において、「鎖状構造」とは、環を含まない構造を意味するが、鎖状化合物は、環を含む構造に比べて自由な回転が可能であるため、官能基の活動半径が広い。したがって、環状化合物に比べてアルコール除去率を向上させる効果に優れる。
【0017】
また、本発明に係るポリアミド界面重合用組成物を界面重合に用いる場合、添加剤が全ての領域に拡散されることができるため、添加剤が一部の領域にコーティングされた方式に比べて大きい効果を得ることができる。
【0018】
本明細書において、ある部材が他の部材「上に」位置しているとしたときに、これは、ある部材が他の部材に接している場合だけでなく、2つの部材の間にさらに他の部材が存在する場合も含む。
【0019】
本明細書において、ある部分がある構成要素を「含む」としたときに、これは、特に反対される記載がない限り、他の構成要素を除くのではなく、他の構成要素をさらに含み得ることを意味する。
【0020】
本明細書において、前記アルキル基は、直鎖状または分岐状であってもよく、炭素数は特に限定されないが、1~50であることが好ましい。具体的な例としては、メチル、エチル、プロピル、n-プロピル、イソプロピル、ブチル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、sec-ブチル、1-メチルブチル、1-エチルブチル、ペンチル、n-ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、tert-ペンチル、ヘキシル、n-ヘキシル、1-メチルペンチル、2-メチルペンチル、4-メチル-2-ペンチル、3,3-ジメチルブチル、2-エチルブチル、ヘプチル、n-ヘプチル、1-メチルヘキシル、シクロペンチルメチル、シクロヘキシルメチル、オクチル、n-オクチル、tert-オクチル、1-メチルヘプチル、2-エチルヘキシル、2-プロピルペンチル、n-ノニル、2,2-ジメチルヘプチル、1-エチル-プロピル、1,1-ジメチル-プロピル、イソヘキシル、2-メチルヘキシル、4-メチルヘキシル、および5-メチルヘキシルなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0021】
本明細書の一実施態様において、前記添加剤は、下記化学式1または2で表されるものである。
【0022】
【0023】
【0024】
前記化学式1および2中、
mおよびn1~n3は、1~10の整数であり、
X1~X3は、それぞれヒドロキシ基;またはアルキル基であって、X1~X3の少なくとも2つはヒドロキシ基である。
【0025】
本明細書の一実施態様において、前記mは1~5の整数である。
本明細書の一実施態様において、前記mは2である。
【0026】
本明細書の一実施態様において、前記n1~n3は、それぞれ1~5の整数である。
本明細書の一実施態様において、前記n1~n3は、それぞれ1である。
本明細書の一実施態様において、前記X1~X3は、それぞれヒドロキシ基である。
【0027】
本明細書の一実施態様において、前記添加剤は、D-グルカミン(D-glucamine)およびトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(Tris(hydroxymethyl)aminomethane)から選択される1種以上である。
【0028】
本明細書の一実施態様において、前記添加剤の含量は、前記ポリアミド界面重合用組成物100wt%を基準として、0.01wt%~1wt%、好ましくは0.05wt%~0.5wt%、より好ましくは0.05wt%~0.15wt%である。
【0029】
添加剤の含量が0.01wt%未満である場合には、添加剤による効果が微少であり、1wt%を超える場合には、ポリアミド鎖が短く形成され、活性層の形成に悪影響を与え得る。
【0030】
本明細書の一実施態様において、前記アミン化合物は、ポリアミドの重合に使用可能なものであれば制限されないが、m-フェニレンジアミン(mPD)、p-フェニレンジアミン(PPD)、1,3,6-ベンゼントリアミン(TAB)、4-クロロ-1,3-フェニレンジアミン、6-クロロ-1,3-フェニレンジアミン、3-クロロ-1,4-フェニレンジアミン、またはこれらの混合物であってもよく、好ましくは、m-フェニレンジアミン(mPD)であってもよい。
【0031】
本明細書の一実施態様において、前記アミン化合物の含量は、前記ポリアミド界面重合用組成物100wt%を基準として、0.001wt%~10wt%であってもよく、好ましくは1wt%~8wt%、より好ましくは3wt%~7wt%であってもよい。
【0032】
アミン化合物の含量が上記の範囲である場合、均一なポリアミド層が製造可能である。
【0033】
本明細書の一実施態様において、前記ポリアミド界面重合用組成物は、界面活性剤をさらに含むことができる。
【0034】
ポリアミド活性層の界面重合時に、水溶液層と有機溶液層の界面でポリアミドが速く形成されるが、この際、界面活性剤は、その層を薄く、且つ均一にし、水溶液層に存在するアミン化合物が容易に有機溶液層に移動して、均一なポリアミド活性層が形成されるようにする。
【0035】
本明細書の一実施態様において、前記界面活性剤は、ノニオン性、カチオン性、アニオン性、および両性界面活性剤から選択されてもよい。本明細書の一実施態様によると、前記界面活性剤は、ラウリル硫酸ナトリウム(SLS);アルキルエーテルサルフェート類;アルキルサルフェート類;オレフィンスルホネート類;アルキルエーテルカルボキシレート類;スルホサクシネート類;芳香族スルホネート類;オクチルフェノールエトキシレート類;エトキシ化ノニルフェノール類;アルキルポリ(エチレンオキシド);ポリ(エチレンオキシド)およびポリ(プロピレンオキシド)の共重合体;オクチルグルコシドおよびデシルマルトシドなどのアルキルポリグルコシド類;セチルアルコール、オレイルアルコール、コカミドMEA、コカミドDEA、アルキルヒドロキシエチルジメチルアンモニウムクロリド、セチルトリメチルアンモニウムブロミド、セチルトリメチルアンモニウムクロリド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド、およびヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリドなどの脂肪酸アルコール類;およびアルキルベタイン類から選択されるものであってもよい。具体的に、前記界面活性剤は、SLS、オクチルフェノールエトキシレート類、またはエトキシ化ノニルフェノール類であってもよい。
【0036】
特に、前記界面活性剤としてラウリル硫酸ナトリウム(SLS)を用いる場合、SLSは親水性-親油性バランス(Hydrophile-Lipophile Balance、HLB)が高くて水に溶けやすく、臨界ミセル濃度(Critical Michelle Concentration、CMC)も高いため、過量で投入してもポリアミド活性層の形成を阻害しない。
【0037】
本明細書の一実施態様において、前記界面活性剤の含量は、前記ポリアミド界面重合用組成物100wt%を基準として、0.005wt%~0.5wt%であってもよい。
【0038】
界面活性剤が上記の範囲で含まれる場合、水溶液層と有機溶液を含む有機層間の界面エネルギーが低くなって反応性が高くなり、コーティング効率が改善される効果がある。
【0039】
本明細書の一実施態様において、前記ポリアミド界面重合用組成物は、溶媒として水を含んでもよく、組成物中のアミン化合物、添加剤、および界面活性剤を除いた残部は、全て水であってもよい。
【0040】
本明細書の一実施態様は、多孔性支持体を準備するステップと、前記ポリアミド界面重合用組成物とアシルハライド化合物を界面重合することで、前記多孔性支持体上にポリアミド活性層を形成するステップと、を含む水処理分離膜の製造方法を提供する。
【0041】
本明細書の一実施態様において、前記多孔性支持体を準備するステップは、不織布上に高分子材料をコーティングすることで行われることができ、不織布の種類、厚さ、および気孔度は、必要に応じて多様に変更可能である。
【0042】
前記高分子材料としては、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリエチレンオキシド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリメチルクロリド、およびポリビニリデンフルオリドなどが使用できるが、必ずこれらに制限されるものではない。
【0043】
本明細書の一実施態様において、前記高分子材料はポリスルホンであってもよい。
【0044】
本明細書の一実施態様において、前記ポリアミド活性層を形成するステップは、前記多孔性支持体上に、ポリアミド界面重合用組成物を含む水溶液層を形成するステップと、前記水溶液層上に、アシルハライド化合物および有機溶媒を含む有機溶液を接触させるステップと、を含んでもよい。
【0045】
前記ポリアミド界面重合用組成物を含む水溶液層と前記有機溶液を接触させる際に、前記多孔性支持体の表面にコーティングされたアミン化合物とアシルハライド化合物が反応しながら界面重合によりポリアミドを生成し、微細多孔性支持体に吸着されて薄膜が形成される。前記接触方法としては、浸漬、スプレー、またはコーティングなどの方法を用いることができる。
【0046】
本明細書の一実施態様において、前記多孔性支持体上に、前記ポリアミド界面重合用組成物を含む水溶液層を形成する方法は特に限定されず、支持体上に水溶液層を形成することができる方法であれば制限されずに用いることができる。具体的に、噴霧、塗布、浸漬、または滴下などが挙げられる。
【0047】
本明細書の一実施態様において、前記水溶液層は、必要に応じて、過剰のアミン化合物を含む水溶液を除去するステップをさらに経てもよい。前記多孔性支持体上に形成された水溶液層は、支持体上に存在する水溶液が多すぎる場合、不均一に分布し得るが、水溶液が不均一に分布する場合、後での界面重合により、不均一なポリアミド活性層が形成される恐れがある。したがって、前記支持体上に水溶液層を形成した後、過剰の水溶液を除去することが好ましい。前記過剰の水溶液を除去することは、特に制限されないが、例えば、スポンジ、エアナイフ、窒素ガス吹き込み、自然乾燥、または圧縮ロールなどを用いて行うことができる。
【0048】
前記アシルハライド化合物としては、ポリアミドの重合に使用可能なものであれば制限されないが、2個または3個のカルボン酸ハライドを有する芳香族化合物、例えば、トリメソイルクロリド(TMC)、イソフタロイルクロリド、およびテレフタロイルクロリドからなる化合物群から選択される1種または2種以上の混合物が好ましく使用でき、好ましくは、トリメソイルクロリド(TMC)が使用可能である。
【0049】
本明細書の一実施態様において、前記有機溶媒は、界面重合反応に関与しないことが好ましく、脂肪族炭化水素溶媒、例えば、フレオン類と炭素数5~12のアルカンおよびアルカン混合物質であるイソパラフィン系溶媒から選択される1種以上を含んでもよい。具体的に、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、シクロヘキサン、IsoPar(Exxon)、IsoPar G(Exxon)、ISOL-C(SK Chem)、およびISOL-G(Exxon)から選択される1種以上が使用できるが、これらに制限されるものではない。
【0050】
前記アシルハライド化合物の含量は、前記有機溶液100wt%を基準として、0.05wt%~1wt%、好ましくは0.08wt%~0.8wt%、より好ましくは0.05wt%~0.6wt%であってもよい。
【0051】
アシルハライド化合物の含量が上記の範囲である場合、均一なポリアミド層が製造可能である。
【0052】
本明細書の一実施態様は、多孔性支持体と、
前記多孔性支持体上に備えられ、下記化学式3または4で表される構造を含むポリアミド活性層と、を含む水処理分離膜を提供する。
【0053】
【0054】
【0055】
前記化学式3および4中、
mおよびn1~n3は、1~10の整数であり、
X1~X3は、それぞれヒドロキシ基;またはアルキル基であって、X1~X3の少なくとも2つはヒドロキシ基であり、
【化8】
は、前記ポリアミド活性層のポリアミド高分子と結合する部位である。
【0056】
本明細書の一実施態様において、前記化学式3および4は、ポリアミド高分子と結合し、-NHCO-形態の化学的結合を形成することができる。
【0057】
本明細書の一実施態様において、前記水処理分離膜のIPA(Isopropyl Alcohol)除去率は、90%以上、好ましくは92%以上、より好ましくは94%以上である。
【0058】
前記IPA除去率は、前記水処理分離膜の表面に、4L/minの流速で流れる100ppmのIPA(Isopropyl Alcohol)を含有する水溶液を、25℃で110psiの圧力で60分以上加えた場合に測定された値を基準とする。
【0059】
前記水処理分離膜の各構成は、上述のポリアミド界面重合用組成物および水処理分離膜の製造方法についての説明を引用することができる。
【0060】
図1は、本明細書の一実施態様に係る水処理分離膜を示した図である。具体的に、
図1は、不織布100、多孔性支持層200、およびポリアミド活性層300が順に備えられた水処理分離膜を示した図であり、ポリアミド活性層300に不純物を含む原水400が流入され、精製水500が不織布100を介して排出される。濃縮水600は、ポリアミド活性層300を通過せずに外部に排出される。但し、本明細書の一実施態様に係る水処理分離膜は、
図1の構造に限定されず、追加の構成をさらに含んでもよい。
【0061】
本明細書の一実施態様において、前記水処理分離膜は、精密濾過膜(Micro Filtration)、限外濾過膜(Ultra Filtration)、ナノ濾過膜(Nano Filtration)、または逆浸透膜(Reverse Osmosis)であってもよく、具体的には逆浸透膜であってもよい。
【0062】
本発明の一実施態様は、上述の水処理分離膜を少なくとも1つ以上含む水処理モジュールを提供する。
【0063】
前記水処理モジュールの具体的な種類は特に制限されず、その例としては、板状(plate&frame)モジュール、管状(tubular)モジュール、中空糸状(Hollow&Fiber)モジュール、または渦巻状(spiral wound)モジュールなどが含まれる。また、前記水処理モジュールは、上述の本明細書の一実施態様に係る逆浸透膜を含む限り、それ以外の他の構成および製造方法などは特に限定されず、当該分野において公知の一般的な手段を制限されずに採用してもよい。
【0064】
一方、本明細書の一実施態様に係る水処理モジュールは、塩除去率およびホウ素除去率に優れるため、家庭用/産業用浄水装置、下水処理装置、海水淡水処理装置などのような水処理装置に有用に使用できる。
【0065】
以下、本明細書を具体的に説明するために、実施例を挙げて詳細に説明する。しかし、本明細書に係る実施例は、種々の他の形態に変形可能であり、本明細書の範囲が、以下に詳述する実施例によって限定されると解釈されない。本明細書の実施例は、当業界における平均的な知識を有する者に本明細書をより完全に説明するために提供されるものである。
【0066】
[実施例]
<実施例:水処理分離膜の製造>
比較例1.
DMF(N,N-ジメチルホルムアミド)溶液に18wt%のポリスルホン固形分を入れ、80℃~85℃で12時間以上溶かし、均一な液状を得た。この溶液を、ポリエステル製の厚さ95μm~100μmの不織布上に、150μmの厚さでキャストした。その後、キャストされた不織布を水に入れ、気孔度が70%である多孔性ポリスルホン支持体を製造した。
【0067】
前記支持体上に、組成物100wt%を基準として、m-フェニレンジアミン(mPD)5wt%、界面活性剤としてラウリル硫酸ナトリウム(SLS、Sodium Lauryl Sulphate)0.06wt%、および残部の水を含むポリアミド界面重合用組成物を塗布して水溶液層を形成した。
【0068】
次いで、トリメソイルクロリド(TMC)0.25wt%およびIsopar-G99.75wt%を含む有機溶液を前記水溶液層上に塗布して有機層を形成し、界面重合を行うことでポリアミド活性層を形成することにより、水処理分離膜を製造した。
【0069】
比較例2.
前記比較例1において、ポリアミド界面重合用組成物に0.08wt%の2,5-ジアミノベンゼンスルホン酸(2,5-diaminobenzenesulfonic acid)を添加したこと以外は、前記比較例1と同様の過程で水処理分離膜を製造した。
【0070】
[2,5-diaminobenzenesulfonic acid]
【化9】
【0071】
比較例3.
前記比較例2において、2,5-ジアミノベンゼンスルホン酸の含量を0.24wt%に変更したこと以外は、前記比較例2と同様の過程で水処理分離膜を製造した。
【0072】
比較例4.
前記比較例1において、ポリアミド界面重合用組成物に0.01wt%の4-アミノレゾルシノールヒドロクロリド(4-Aminoresorcinol hydrochloride)を添加したこと以外は、前記比較例1と同様の過程で水処理分離膜を製造した。
【0073】
[4-Aminoresorcinol hydrochloride]
【化10】
【0074】
比較例5.
前記比較例4において、4-アミノレゾルシノールヒドロクロリドの含量を0.1wt%に変更したこと以外は、前記比較例4と同様の過程で水処理分離膜を製造した。
【0075】
実施例1.
前記比較例1において、ポリアミド界面重合用組成物に0.1wt%のD-グルカミンを添加したこと以外は、前記比較例1と同様の過程で水処理分離膜を製造した。
【0076】
実施例2.
前記比較例1において、ポリアミド界面重合用組成物に0.1wt%のトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンを添加したこと以外は、前記比較例1と同様の過程で水処理分離膜を製造した。
【0077】
<実験例:水処理分離膜の性能評価>
(1)アルコール除去率の評価
前記実施例および比較例により製造された水処理分離膜のIPA除去率および透過流量(GFD)を測定するために、平板型透過セル、高圧ポンプ、貯蔵槽、および冷却装置を含んで構成された水処理モジュールを利用した。前記平板型透過セルはクロス-フロー(cross-flow)方式であり、有効透過面積は28cm2であった。前記水処理分離膜を透過セルに設けた後、評価装備の安定化のために、三次蒸留水を用いて1時間程度十分に予備運転を実施した。
【0078】
その後、100ppmのIPAを110psi、4L/minの流速条件で、装備運転を1時間程度実施して安定化されたことを確認した後、25℃で10分間透過される水の量を測定し、伝導度計(Conductivity Meter)を用いて透過前と後のアルコール濃度を分析した。アルコール除去率を計算した結果は、下記表1のとおりであった。
【0079】
(2)塩除去率の評価
前記実施例および比較例により製造された水処理分離膜の塩除去率および透過流量(GFD)を測定するために、平板型透過セル、高圧ポンプ、貯蔵槽、および冷却装置を含んで構成された水処理モジュールを利用した。前記平板型透過セルはクロス-フロー(cross-flow)方式であり、有効透過面積は28cm2であった。前記水処理分離膜を透過セルに設けた後、評価装備の安定化のために、三次蒸留水を用いて1時間程度十分に予備運転を実施した。
【0080】
その後、32,000ppmのNaCl水溶液を150psi、4L/minの流速条件で、装備運転を1時間程度実施して安定化されたことを確認した後、25℃で10分間透過される水の量を測定し、透過流量(flux:gfd(gallon/ft2/day))を計算し、伝導度計(Conductivity Meter)を用いて透過前と後の塩濃度を分析した。塩除去率を計算した結果は、下記表1のとおりであった。
【0081】
【0082】
前記表1の結果を参照すると、本発明に係る添加剤を含む実施例1および2は、ポリアミド活性層の形成時に生成されるヒドロキシ基により、比較例1~3に比べて塩除去率およびIPA除去率が向上していることを確認することができる。
【0083】
具体的に、ヒドロキシ基が、炭素原子ではなく硫黄に結合されている添加剤を使用した比較例2および3と、鎖状構造ではなく、環を含む構造の添加剤を使用した比較例4および5は、添加剤を含んでいない比較例1よりも塩除去率およびIPA除去率が減少しているのに対し、炭素原子に結合されたヒドロキシ基を含む鎖状構造の添加剤を使用した実施例1および2は、添加剤を含んでいない比較例1に比べて塩除去率およびIPA除去率が何れも上昇した。
【0084】
すなわち、本明細書の一実施態様に係るポリアミド界面重合用組成物を用いて水処理分離膜を製造する場合、塩除去率およびIPA除去率が何れも向上する効果があることが立証された。
【符号の説明】
【0085】
100 不織布
200 多孔性支持層
300 ポリアミド活性層
400 不純物を含む原水
500 精製水
600 濃縮水