(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-16
(45)【発行日】2022-05-24
(54)【発明の名称】積層体
(51)【国際特許分類】
H01M 50/417 20210101AFI20220517BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20220517BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20220517BHJP
H01M 50/426 20210101ALI20220517BHJP
H01M 50/451 20210101ALI20220517BHJP
【FI】
H01M50/417
B32B27/30 D
H01M10/0566
H01M50/426
H01M50/451
(21)【出願番号】P 2016123055
(22)【出願日】2016-06-21
【審査請求日】2019-03-19
【審判番号】
【審判請求日】2020-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127498
【氏名又は名称】長谷川 和哉
(74)【代理人】
【識別番号】100146329
【氏名又は名称】鶴田 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】緒方 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】吉丸 央江
(72)【発明者】
【氏名】村上 力
【合議体】
【審判長】池渕 立
【審判官】佐藤 陽一
【審判官】井上 猛
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-150972(JP,A)
【文献】特開2015-120835(JP,A)
【文献】特開2005-343936(JP,A)
【文献】国際公開第2012/090632(WO,A1)
【文献】川西勝次,表面技術,1997年,48(8),811-814
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M50/40-50/497
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン系樹脂を主成分とする多孔質基材と、前記多孔質基材の少なくとも一方の面に積層された、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を含有する多孔質層と、を含むセパレータであって、
前記多孔質基材は、3重量%の水を含むN-メチルピロリドンに含浸させた後、周波数2455
MHzのマイクロ波を出力1800Wで照射したときの、単位面積当たりの樹脂量に対する温度上昇収束時間が2.9~5.7秒・m
2/gであり、かつ
前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂における、α型結晶とβ型結晶との含有量の合計を100モル%とした場合の、前記α型結晶の含有量が、36モル%以上である、セパレータ。
(ここで、α型結晶の含有量は、前記多孔質層のIRスペクトルにおける765cm
-1付近の吸収強度から算出され、β型結晶の含有量は、前記多孔質層のIRスペクトルにおける840cm
-1付近の吸収強度から算出される。)
【請求項2】
前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂が、フッ化ビニリデンのホモポリマー、および/または、フッ化ビニリデンと、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、トリクロロエチレン、およびフッ化ビニルから選択される少なくとも1種類のモノマーとの共重合体である、請求項1に記載のセパレータ。
【請求項3】
前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂の重量平均分子量が、20万以上、300万以下である、請求項1または2に記載のセパレータ。
【請求項4】
前記多孔質層が、フィラーを含んでいる、請求項1~3の何れか1項に記載のセパレータ。
【請求項5】
前記フィラーの体積平均粒子径が、0.01μm以上、10μm以下である、請求項4に記載のセパレータ。
【請求項6】
正極、請求項1~5の何れか1項に記載のセパレータ、および負極がこの順で配置されてなる、非水電解液二次電池用部材。
【請求項7】
請求項1~5の何れか1項に記載のセパレータを含む、非水電解液二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体、より詳細には、非水電解液二次電池用セパレータとして使用することができる積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池等の非水電解液二次電池は、エネルギー密度が高いので、パーソナルコンピュータ、携帯電話、携帯情報端末等の機器に用いる電池として広く使用され、また最近では車載用の電池として開発が進められている。
【0003】
非水電解液二次電池では、充放電に伴って電極が膨張収縮を繰り返すために、電極とセパレータの間で応力が発生し、電極活物質が脱落するなどして内部抵抗が増大し、サイクル特性が低下する問題があった。そこで、セパレータの表面にポリフッ化ビニリデンなどの接着性物質をコーティングすることでセパレータと電極の密着性を高める手法が提案されている(特許文献1、2)。しかしながら、接着性物質をコーティングした場合、セパレータのカールが顕在化する問題があった。セパレータにカールが発生すると、製造時のハンドリングが悪くなるため、捲回不良や組み立て不良等、電池の作製に問題が生じる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5355823号(2013年11月27日発行)
【文献】特開2001-118558号(2001年4月27日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、セパレータのカールの発生を十分抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明者は鋭意検討し、ポリオレフィン系樹脂を主成分とする多孔質基材と当該多孔質基材上に積層されたポリフッ化ビニリデン系樹脂(以下、PVDF系樹脂とも称する)を含有する多孔質層を含む積層体であって、前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂の結晶形が適度に制御された積層体をセパレータとして使用することによって、カールの発生を十分抑制できるセパレータを製造することができるという知見を見出した。また、前記多孔質基材は、3重量%の水を含むN-メチルピロリドンに含浸させた後、周波数2455MHzのマイクロ波を出力1800Wで照射したときの、単位面積当たりの樹脂量に対する温度上昇収束時間が2.9~5.7秒・m2/gであることを特徴としている。
【0007】
本発明の積層体では、前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂が、フッ化ビニリデンのホモポリマー、および/または、フッ化ビニリデンと、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、トリクロロエチレン、およびフッ化ビニルから選択される少なくとも1種類のモノマーとの共重合体であることが好ましい。
【0008】
本発明の積層体では、前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂の重量平均分子量が、20万以上、300万以下であることが好ましい。
【0009】
本発明の積層体では、前記多孔質層が、フィラーを含んでいることが好ましい。
【0010】
本発明の積層体では、前記フィラーの体積平均粒子径が、0.01μm以上、10μm以下であることが好ましい。
【0011】
本発明の非水電解液二次電池用部材は、正極、本発明の積層体、および負極がこの順で配置されてなる。
【0012】
本発明の非水電解液二次電池は、本発明の積層体をセパレータとして含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、カールの発生を抑制することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上B以下」を意味する。
【0015】
〔1.積層体〕
本実施形態の積層体は、ポリオレフィン系樹脂を主成分とする多孔質基材と、前記多孔質基材の少なくとも一方の面に積層された、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を含有する多孔質層と、を含む積層体であって、前記多孔質基材は、3重量%の水を含むN-メチルピロリドンに含浸させた後、周波数2455MHzのマイクロ波を出力1800Wで照射したときの、単位面積当たりの樹脂量に対する温度上昇収束時間が2.9~5.7秒・m2/gであることを特徴とし、かつ、前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂における、α型結晶とβ型結晶の含有量の合計を100モル%とした場合の、前記α型結晶の含有量が、36モル%以上であることを特徴としている(ここで、α型結晶の含有量は、前記多孔質層のIRスペクトルにおける765nm付近の吸収強度から算出され、β型結晶の含有量は、前記多孔質層のIRスペクトルにおける840nm付近の吸収強度から算出される。)。
【0016】
以下では、各構成について説明する。
【0017】
〔1-1.多孔質基材〕
本発明の一実施形態に係る多孔質基材は、非水電解液二次電池において正極と負極との間に配置される膜状の多孔質フィルムである。
【0018】
多孔質基材は、ポリオレフィン系樹脂を主成分とする多孔質かつ膜状の基材(ポリオレフィン系多孔質基材)であればよく、その内部に連結した細孔を有し、一方の面から他方の面に気体や液体が透過可能であるフィルムである。
【0019】
なお、「主成分」とは、「多孔質基材全体の50体積%以上」を意図する。
【0020】
多孔質基材は、電池が発熱したときに溶融して、非水電解液二次電池用セパレータとして機能する積層体を無孔化することにより、該非水電解液二次電池用セパレータとして機能する積層体にシャットダウン機能を付与するものである。多孔質基材は、1つの層からなるものであってもよいし、複数の層から形成されるものであってもよい。
【0021】
本発明者らは、多孔質基材は、3重量%の水を含むN-メチルピロリドンに多孔質基材を含浸させた後、周波数2455MHzのマイクロ波を出力1800Wで照射したときの昇温が収束するまでの時間(温度上昇収束時間)が、初期レート特性および充放電を繰り返したときのレート特性の低下と関係していることを見出した。
【0022】
非水電解液二次電池の充放電を行うと、電極が膨張する。具体的には、充電時には負極が膨張し、放電時には正極が膨張する。そのため、多孔質基材の内部の電解液は、膨張する電極側から対向する電極側に押し出される。このような機構により、充放電サイクル中、電解液は、多孔質基材の内外を移動する。ここで、多孔質基材は上述したように細孔を有しているため、電解液は、当該細孔の内外を移動することとなる。
【0023】
多孔質基材の細孔内を電解液が移動するとき、細孔の壁面は当該移動に伴う応力を受ける。当該応力の強さは、細孔の構造、すなわち、連結した細孔における毛細管力および細孔の壁の面積に関係している。具体的には、細孔の壁面が受ける応力は、毛細管力が強いほど増大するとともに、細孔の壁面の面積が大きいほど増大すると考えられる。加えて、当該応力の強さは、細孔内を移動する電解液の量とも関係し、移動する電解液量が多い、すなわち、電池を大電流条件で作動させた場合に、大きくなると考えられる。そして、当該応力が増大すると、壁面が応力によって細孔を閉塞するように変形し、結果として電池出力特性を低下させることになる。そのため、電池の充放電を繰り返したり、大電流条件で作動させることにより、徐々にレート特性が低下することになる。
【0024】
また、多孔質基材から押し出される電解液が少ないと、電極表面当たりの電解液の減少、もしくは、電極表面における局所的な電解液の枯渇箇所の発生が起こり、電解液分解生成物の発生増加を招くことが考えられる。このような電解液分解生成物は、非水電解液二次電池のレート特性の低下の原因となる。
【0025】
このように、多孔質基材の細孔の構造(細孔内の毛細管力および細孔の壁の面積)、および、多孔質基材から電極への電解液の供給能は、電池の充放電を繰り返したり、大電流条件で作動させたときのレート特性の低下と関係している。そこで、本発明者らは、多孔質基材を3重量%の水を含むN-メチルピロリドンに含浸させ、周波数2455MHzのマイクロ波を出力1800Wで照射したときの、多孔質基材の温度変化に着目した。
【0026】
水を含むN-メチルピロリドンを含む多孔質基材にマイクロ波を照射すると、水の振動エネルギーにより発熱する。発生した熱は、水を含むN-メチルピロリドンが接触している多孔質基材の樹脂に伝わる。そして、発熱速度と樹脂への伝熱による放冷速度とが平衡化した時点で温度上昇が収束する。そのため、昇温が収束するまでの時間(温度上昇収束時間)は、多孔質基材に含まれる液体(ここでは水を含むN-メチルピロリドン)と、多孔質基材を構成する樹脂との接触の程度と関係する。多孔質基材に含まれる液体と多孔質基材を構成する樹脂との接触の程度は、多孔質基材の細孔内の毛細管力および細孔の壁の面積と密接に関係しているため、上記の温度上昇収束時間により多孔質基材の細孔の構造(細孔内の毛細管力および細孔の壁の面積)を評価することができる。具体的には、温度上昇収束時間が短いほど、細孔内の毛細管力が大きく、細孔の壁の面積が大きいことを示している。
【0027】
また、多孔質基材に含まれる液体と多孔質基材を構成する樹脂との接触の程度は、液体が多孔質基材の細孔内を移動しやすいときほど大きくなるものと考えられる。そのため、温度上昇収束時間により、多孔質基材から電極への電解液の供給能を評価することができる。具体的には、温度上昇収束時間が短いほど、多孔質基材から電極への電解液の供給能が高いことを示している。
【0028】
本発明の多孔質基材は、単位面積当たりの樹脂量(目付)に対する上記の温度上昇収束時間が2.9~5.7秒・m2/gであり、好ましくは2.9~5.3秒・m2/gである。
【0029】
単位面積当たりの樹脂量に対する温度上昇収束時間が2.9秒・m2/g未満である場合、多孔質基材の細孔内の毛細管力および細孔の壁の面積が大きくなりすぎ、充放電サイクル中や、大電流条件での作動時に電解液が細孔内を移動するときの細孔の壁が受ける応力が増大することにより細孔が閉塞し、電池出力特性が低下する。
【0030】
また、単位面積当たりの樹脂量に対する温度上昇収束時間が5.7秒・m2/gを超えると、多孔質基材の細孔内を液体が移動しにくくなるとともに、多孔質基材を非水電解液二次電池用のセパレータとして使用した場合の、多孔質基材と電極との界面付近における電解液の移動速度が遅くなるため、電池のレート特性が低下する。加えて、電池の充放電を繰り返した際、セパレータ電極界面や多孔質基材の内部に局所的な電解液枯渇部発生し易くなる。その結果、電池内部の抵抗増大を招き、非水電解液二次電池の充放電サイクル後のレート特性が低下する。
【0031】
これに対し、単位面積当たりの樹脂量に対する温度上昇収束時間を2.9~5.7秒・m2/gとすることにより、後述する実施例で示されるように、初期レート特性に優れ、さらに、充放電サイクル後のレート特性の低下を抑制することができる。
【0032】
多孔質基材の膜厚は、非水電解液二次電池を構成する非水電解液二次電池用部材の膜厚を考慮して適宜決定すればよく、4~40μmであることが好ましく、5~30μmであることがより好ましく、6~15μmであることがさらに好ましい。
【0033】
多孔質基材の体積基準の空隙率は、電解液の保持量を高めると共に、過大電流が流れることをより低温で確実に阻止(シャットダウン)する機能を得ることができるように、20~80体積%であり、30~75体積%であることが好ましい。また、多孔質基材が有する細孔の平均径(平均細孔径)は、セパレータとして用いたときに、充分なイオン透過性を得ることができ、かつ、正極や負極への粒子の入り込みを防止することができるように、0.3μm以下であることが好ましく、0.14μm以下であることがより好ましい。
【0034】
多孔質基材におけるポリオレフィン成分の割合は、多孔質基材全体の50体積%以上であり、90体積%以上であることが好ましく、95体積%以上であることがより好ましい。多孔質基材のポリオレフィン成分には、重量平均分子量が5×105~15×106の高分子量成分が含まれていることが好ましい。特に多孔質基材のポリオレフィン成分として重量平均分子量100万以上のポリオレフィン成分が含まれることにより、多孔質基材及び非水電解液二次電池用のセパレータ全体の強度が高くなるため好ましい。
【0035】
多孔質基材を構成するポリオレフィン系樹脂としては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセンなどを重合した高分子量の単独重合体又は共重合体を挙げることができる。多孔質基材は、これらのポリオレフィン系樹脂を単独にて含む層、及び/又は、これらのポリオレフィン系樹脂の2種以上を含む層、であり得る。特に、エチレンを主体とする高分子量のポリエチレンが好ましい。なお、多孔質基材は、当該層の機能を損なわない範囲で、ポリオレフィン以外の成分を含むことを妨げない。
【0036】
当該ポリエチレン系樹脂としては、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状ポリエチレン(エチレン-α-オレフィン共重合体)、重量平均分子量が100万以上の超高分子量ポリエチレン等が挙げられ、このうち、重量平均分子量が100万以上の超高分子量ポリエチレンがさらに好ましい。
【0037】
多孔質基材の透気度は、通常、ガーレ値で30~500秒/100ccの範囲であり、好ましくは、50~300秒/100ccの範囲である。多孔質基材が、前記範囲の透気度を有すると、セパレータとして用いた際に、十分なイオン透過性を得ることができる。
【0038】
多孔質基材の目付は、強度、膜厚、ハンドリング性及び重量、さらには、非水電解液二次電池のセパレータとして用いた場合の当該電池の重量エネルギー密度や体積エネルギー密度を高くできる点で、4~20g/m2であることが好ましく、4~12g/m2であることがより好ましく、5~12g/m2であることがさらに好ましい。
【0039】
上記の多孔質基材の物性値は、多孔質基材と多孔質層とを含む積層体から、当該多孔質層を取り除いて測定することができる。積層体から多孔質層を取り除く方法としては、N-メチルピロリドンまたはアセトン等の溶剤によって多孔質層を構成する樹脂を溶解除去する方法などが挙げられる。
【0040】
次に、多孔質基材の製造方法について説明する。ポリオレフィン系樹脂を主成分とする多孔質基材の製法は、例えば、多孔質基材が超高分子量ポリエチレンおよび重量平均分子量1万以下の低分子量ポリオレフィンを含むポリオレフィン樹脂から形成されてなる場合には、以下に示すような方法により製造することが好ましい。
【0041】
すなわち、(1)超高分子量ポリエチレンと、重量平均分子量1万以下の低分子量ポリオレフィンと、炭酸カルシウム又は可塑剤等の孔形成剤とを混練してポリオレフィン樹脂組成物を得る工程、(2)前記ポリオレフィン樹脂組成物を圧延ロールにて圧延してシートを成形する工程(圧延工程)、(3)工程(2)で得られたシート中から孔形成剤を除去する工程、(4)工程(3)で得られたシートを延伸して多孔質基材を得る工程、を含む方法により得ることができる。
【0042】
ここで、多孔質基材の細孔の構造(細孔の毛細管力、細孔の壁の面積、多孔質基材内部の残応力)は、工程(4)における延伸時の歪速度、および、延伸後フィルム単位厚み当たりの延伸後の熱固定処理(アニール処理)の温度(延伸後フィルム単位厚み当たりの熱固定温度)に影響される。そのため、当該歪速度および延伸後フィルム単位厚み当たりの熱固定温度を調整することで、多孔質基材の細孔の構造を上記の単位面積当たりの樹脂量に対する温度上昇収束時間を制御することができる。
【0043】
具体的には、歪速度をX軸、延伸後フィルム単位厚み当たりの熱固定温度をY軸としたグラフ上の(500%毎分,1.5℃/μm)、(900%,14.0℃/μm)、(2500%,11.0℃/μm)3点を頂点とする三角形の内側の範囲で、当該歪速度と延伸後フィルム単位厚み当たりの熱固定温度を調整することで、本願発明の多孔質基材を得られる傾向がある。好ましくは、頂点が(600%毎分,5.0℃/μm)、(900%,12.5℃/μm)、(2500%,11.0℃/μm)の3点である三角形の内側の条件に、当該歪速度と延伸後フィルム単位厚み当たりの熱固定温度を調整する。
【0044】
〔1-2.多孔質層〕
多孔質層は、必要に応じて、多孔質フィルムである多孔質基材の片面または両面に積層される。多孔質層を構成する樹脂は、電池の電解液に不溶であり、また、その電池の使用範囲において電気化学的に安定であることが好ましい。多孔質基材の片面に多孔質層が積層される場合には、当該多孔質層は、好ましくは、非水電解液二次電池としたときの、多孔質基材における正極と対向する面に積層され、より好ましくは正極と接する面に積層される。
【0045】
本発明における多孔質層は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を含有する多孔質層であって、前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂中の、α型結晶とβ型結晶の含有量の合計を100モル%とした場合の、前記α型結晶の含有量が、36モル%以上であることを特徴とする。
【0046】
ここで、α型結晶の含有量は、前記多孔質層のIRスペクトルにおける765cm
-1
付近の吸収強度から算出され、β型結晶の含有量は、前記多孔質層のIRスペクトルにおける840cm
-1
付近の吸収強度から算出される。
【0047】
本発明における多孔質層は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂(PVDF系樹脂)を含む。多孔質層は、内部に多数の細孔を有し、これら細孔が連結された構造となっており、一方の面から他方の面へと気体或いは液体が通過可能となった層である。また、本発明における多孔質層が非水電解液二次電池用のセパレータを構成する部材として使用される場合、前記多孔質層は、当該セパレータの最外層として、電極と接着し得る層となり得る。
【0048】
PVDF系樹脂としては、例えば、フッ化ビニリデンのホモポリマー(すなわちポリフッ化ビニリデン);フッ化ビニリデンと他の共重合可能なモノマーとの共重合体(ポリフッ化ビニリデン共重合体);これらの混合物;が挙げられる。フッ化ビニリデンと共重合可能なモノマーとしては、例えば、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、トリクロロエチレン、フッ化ビニル等が挙げられ、1種類または2種類以上を用いることができる。PVDF系樹脂は、乳化重合または懸濁重合で合成し得る。
【0049】
PVDF系樹脂は、その構成単位としてフッ化ビニリデンが通常、85モル%以上、好ましくは90モル%以上、より好ましくは95モル%以上、更に好ましくは98モル%以上含まれている。フッ化ビニリデンが85モル%以上含まれていると、電池製造時の加圧や加熱に耐え得る機械的強度と耐熱性とを確保し易い。
【0050】
また、多孔質層は、例えば、ヘキサフルオロプロピレンの含有量が互いに異なる2種類のPVDF系樹脂(下記第一の樹脂と第二の樹脂)を含有する態様も好ましい。
・第一の樹脂:ヘキサフルオロプロピレンの含有量が0モル%を超え、1.5モル%以下であるフッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、またはフッ化ビニリデン単独重合体(ヘキサフルオロプロピレンの含有量が0モル%)。
・第二の樹脂:ヘキサフルオロプロピレンの含有量が1.5モル%を超えるフッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体。
【0051】
前記2種類のPVDF系樹脂を含有する多孔質層は、何れか一方を含有しない多孔質層に比べて、電極との接着性が向上する。また、前記2種類のPVDF系樹脂を含有する多孔質層は、何れか一方を含有しない多孔質層に比べて、非水電解液二次電池用のセパレータを構成する他の層(例えば、多孔質基材層)との接着性が向上し、これら層間の剥離力が向上する。第一の樹脂と第二の樹脂との混合比(質量比、第一の樹脂:第二の樹脂)は、15:85~85:15の範囲が好ましい。
【0052】
PVDF系樹脂は、重量平均分子量が20万~300万の範囲であることが好ましい。重量平均分子量が20万以上であると、多孔質層が電極との接着処理に耐え得る力学物性を確保することができ、十分な接着性が得られる傾向がある。一方、重量平均分子量が300万以下であると、塗工成形するときの塗工液の粘度が高くなり過ぎずに成形性に優れる傾向がある。重量平均分子量は、より好ましくは20万~200万の範囲であり、さらに好ましくは50万~150万の範囲である。
【0053】
PVDF系樹脂のフィブリル径は、前記多孔質層を含む非水電解液二次電池のサイクル特性の観点から、10nm~1000nmの範囲であることが好ましい。
【0054】
本発明における多孔質層は、PVDF系樹脂以外の他の樹脂を含んでいてもよい。他の樹脂としては、例えば、スチレン-ブタジエン共重合体;アクリロニトリルやメタクリロニトリル等のビニルニトリル類の単独重合体または共重合体;ポリエチレンオキサイドやポリプロピレンオキサイド等のポリエーテル類;等が挙げられる。
【0055】
本発明における多孔質層は、フィラーを含み得る。前記フィラーは、無機フィラーまたは有機フィラーであり得る。本発明における多孔質層がフィラーを含む場合、前記フィラーの含有量は、前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂および前記フィラーの総量に占める前記フィラーの割合が、1質量%以上、99質量%以下であることが好ましく、10質量%以上、98質量%以下であることがより好ましい。フィラーを含有することで、前記多孔質層を含むセパレータの滑り性や耐熱性を向上し得る。フィラーとしては、非水電解液に安定であり、かつ、電気化学的に安定な無機フィラーまたは有機フィラーであれば特に限定されない。電池の安全性を確保する観点からは、耐熱温度が150℃以上のフィラーが好ましい。
【0056】
有機フィラーとしては、例えば、架橋ポリアクリル酸、架橋ポリアクリル酸エステル、架橋ポリメタクリル酸、架橋ポリメタクリル酸メチル等の架橋ポリメタクリル酸エステル;架橋ポリシリコーン、架橋ポリスチレン、架橋ポリジビニルベンゼン、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体架橋物、ポリイミド、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ベンゾグアナミン-ホルムアルデヒド縮合物等の架橋高分子微粒子;ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリアラミド、ポリアセタール、熱可塑性ポリイミド等の耐熱性高分子微粒子;等が挙げられる。
【0057】
有機フィラーを構成する樹脂(高分子)は、前記例示した分子種の混合物、変性体、誘導体、共重合体(ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体)、架橋体であってもよい。
【0058】
また、有機フィラーとしては、具体的に、スチレン、ビニルケトン、アクリロニトリル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、アクリル酸メチル等の単量体の単独重合体或いは2種類以上の共重合体;ポリテトラフルオロエチレン、4フッ化エチレン-6フッ化プロピレン共重合体、4フッ化エチレン-エチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン等の含フッ素樹脂;メラミン樹脂;尿素樹脂;ポリエチレン;ポリプロピレン;ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸;等からなるフィラーも挙げられる。
【0059】
無機フィラーとしては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化クロム、水酸化ジルコニウム、水酸化ニッケル、水酸化ホウ素等の金属水酸化物;アルミナ、ジルコニア等の金属酸化物、およびその水和物;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩;硫酸バリウム、硫酸カルシウム等の硫酸塩;ケイ酸カルシウム、タルク等の粘土鉱物;等が挙げられる。難燃性付与等の電池安全性向上の観点から、金属水酸化物、金属酸化物の水和物、炭酸塩が好ましく、絶縁性ならびに耐酸化性の観点から金属酸化物が好ましい。
【0060】
また、無機フィラーとしては、具体的に、炭酸カルシウム、タルク、クレー、カオリン、シリカ、ハイドロタルサイト、珪藻土、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、窒化チタン、アルミナ(酸化アルミニウム)、窒化アルミニウム、マイカ、ゼオライト、ガラス等の無機物からなるフィラーも挙げられる。
【0061】
前記フィラーは、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよく、或いは有機フィラーおよび無機フィラーを組み合わせて使用してもよい。
【0062】
前記フィラーの体積平均粒子径は、良好な接着性と滑り性の確保、および積層体の成形性の観点から、0.01μm~10μmの範囲であることが好ましい。その下限値としては0.05μm以上がより好ましく、0.1μm以上がさらに好ましい。その上限値としては5μm以下がより好ましく、1μm以下がさらに好ましい。
【0063】
前記フィラーの形状は、任意であり、特に限定されない。前記フィラーの形状は、粒子状であり得、例えば、球形状、楕円形状、板状、棒状、不定形状の何れでもよい。電池の短絡防止の観点から、前記フィラーは、板状の粒子や、凝集していない一次粒子であることが好ましい。
【0064】
フィラーは、多孔質層の表面に微細な凹凸を形成することで滑り性を向上させ得るものであるが、フィラーが板状の粒子や凝集していない一次粒子である場合には、フィラーによって多孔質層の表面に形成される凹凸がより微細になり、多孔質層と電極との接着性がより良好となる。
【0065】
本発明における多孔質層における平均膜厚は、電極との接着性および高エネルギー密度を確保する観点から、多孔質基材の片面において0.5μm~10μmの範囲であることが好ましく、1μm~5μmの範囲であることがより好ましい。
【0066】
<PVDF系樹脂の結晶形>
本発明における多孔質層に含まれるPVDF系樹脂において、α型結晶およびβ型結晶の含有量の合計を100モル%とした場合のα型結晶の含有量は、36モル%以上であり、好ましくは39モル%以上であり、より好ましくは40モル%以上であり、より好ましくは50モル%以上であり、より好ましくは60モル%以上であり、さらに好ましくは70モル%以上である。また、好ましくは95モル%以下である。前記α型結晶の含有量が36モル%以上であることによって、前記多孔質層を含む積層体が、カールの発生が抑制された非水電解液二次電池用のセパレータ等の非水電解液二次電池を構成する部材として利用され得る。
【0067】
本発明の積層体がカール状に変形することを抑制することができる理由としては、多孔質基材との密着性が強いβ型結晶のPVDF系樹脂の含有量が少なくなることにより、多孔質基材の変形に対する追従性が適度に小さくなること、剛性のあるα型結晶のPVDF系樹脂の含有量が多くなることにより、変形に対する耐性の向上といったこと等が考えられる。
【0068】
α型結晶のPVDF系樹脂は、PVDF系樹脂を構成する重合体に含まれるPVDF骨格において、前記骨格中の分子鎖にある1つの主鎖炭素原子に結合するフッ素原子(または水素原子)に対し、一方の隣接する炭素原子に結合した水素原子(またはフッ素原子)がトランスの位置に存在し、かつ、もう一方(逆側)に隣接する炭素原子に結合する水素原子(またはフッ素原子)がゴーシュの位置(60°の位置)に存在し、その立体構造の連鎖が2つ以上連続する。
【0069】
【0070】
であることを特徴とするものであって、分子鎖が、
【0071】
【0072】
型でC-F2、C-H2結合の双極子能率が分子鎖に垂直な方向と平行な方向とにそれぞれ成分を有している。
【0073】
α型結晶のPVDF系樹脂は、IRスペクトルにおいて、1212cm-1付近、1183cm-1付近および765cm-1付近に特徴的なピーク(特性吸収)を有し、粉末X線回折分析において、2θ=17.7°付近、18.3°付近および19.9°付近に特徴的なピークを有する。
【0074】
β型結晶のPVDF系樹脂は、PVDF系樹脂を構成する重合体に含まれるPVDF骨格において、前記骨格中の分子鎖の1つの主鎖炭素に隣り合う炭素原子に結合したフッ素原子と水素原子がそれぞれトランスの立体配置(TT型構造)、すなわち隣り合う炭素原子に結合するフッ素原子と水素原子とが、炭素-炭素結合の方向から見て180°の位置に存在することを特徴とする。
【0075】
β型結晶のPVDF系樹脂は、PVDF系樹脂を構成する重合体に含まれるPVDF骨格において、前記骨格全体が、TT型構造を有していてもよい。また、前記骨格の一部がTT型構造を有し、かつ、少なくとも4つの連続するPVDF単量体単位のユニットにおいて前記TT型構造の分子鎖を有するものであってもよい。何れの場合もTT型構造の部分がTT型の主鎖を構成する炭素-炭素結合は、平面ジグザグ構造を有し、C-F2、C-H2結合の双極子能率が分子鎖に垂直な方向の成分を有している。
【0076】
β型結晶のPVDF系樹脂は、IRスペクトルにおいて、1274cm-1付近、1163cm-1付近および840cm-1付近に特徴的なピーク(特性吸収)を有し、粉末X線回折分析において、2θ=21°付近に特徴的なピークを有する。
【0077】
なお、γ型結晶のPVDF系樹脂は、PVDF系樹脂を構成する重合体に含まれるPVDF骨格において、TT型構造とTG型構造が交互に連続して構成された立体構造を有しており、IRスペクトルにおいて、1235cm-1付近、および811cm-1付近に特徴的なピーク(特性吸収)を有し、粉末X線回折分析において、2θ=18°付近に特徴的なピークを有する。
【0078】
<PVDF系樹脂におけるα型結晶、β型結晶の含有率の算出方法>
PVDF系樹脂におけるα型結晶、β型結晶の含有率は、例えば、以下の(i)~(iii)に記載の方法にて算出され得る。
【0079】
(i)計算式
Beerの法則:A=εbC …(1)
(式中、Aは吸光度、εはモル吸光定数、bは光路長、Cは濃度を表す)
前記式(1)において、α型結晶の特性吸収の吸光度をAα、β型結晶の特性吸収の吸光度をAβ、α型結晶のPVDF系樹脂のモル吸光定数をεα、β型結晶のPVDF系樹脂のモル吸光定数をεβ、α型結晶のPVDF系樹脂の濃度をCα、β型結晶のPVDF系樹脂の濃度をCβとすると、α型結晶とβ型結晶のそれぞれの吸光度の割合は、
Aβ/Aα=(εβ/εα)×(Cβ/Cα) …(1a)
となる。
【0080】
ここで、モル吸光定数の補正係数(εβ/εα)をEβ/αとすると、α型結晶およびβ型結晶の合計に対するβ型結晶のPVDF系樹脂の含有率F(β)=(Cβ/(Cα+Cβ))は、以下の式(2a)で表される。
【0081】
F(β)={(1/Eβ/α)×(Aα/Aβ)}/{1+(1/Eβ/α)×(Aα/Aβ)}
=Aβ/{(Eβ/α×Aα)+Aβ} …(2a)
従って、補正係数Eβ/αを決定すれば、実測したα型結晶の特性吸収の吸光度Aα、β型結晶の特性吸収の吸光度Aβの値から、α型結晶およびβ型結晶の合計に対するβ型結晶のPVDF系樹脂の含有率F(β)を算出することができる。また、算出したF(β)からα型結晶およびβ型結晶の合計に対するα型結晶のPVDF系樹脂の含有率F(α)を算出することができる。
【0082】
(ii)補正係数Eβ/αの決定方法
α型結晶のみからなるPVDF系樹脂のサンプルとβ型結晶のみからなるPVDF系樹脂のサンプルとを混合して、β型結晶のPVDF系樹脂の含有率F(β)が判っているサンプルを調製し、IRスペクトルを測定する。得られるIRスペクトルにおいて、α型結晶の吸光特性の吸光度(ピーク高さ)Aα、β型結晶の吸光特性の吸光度(ピーク高さ)Aβを測定する。
【0083】
続いて、式(2a)をEβ/αに関して解いた、以下の式(3a)に代入して補正係数Eβ/αを求める。
【0084】
Eβ/α={Aβ×(1-F(β))}/(Aα×F(β)) …(3a)
混合比を変更した複数のサンプルに関して、IRスペクトルの測定を行い、前記方法にて、それぞれのサンプルに関して補正係数Eβ/αを求め、それらの平均値を算出する。
【0085】
(iii) 試料中のα型結晶、β型結晶の含有率の算出
前記(ii)にて算出した補正係数Eβ/αの平均値と、試料のIRスペクトルの測定結果とに基づいて、各試料におけるα型結晶およびβ型結晶の合計に対するα型結晶のPVDF系樹脂の含有率F(α)を算出する。
【0086】
具体的には、後述する作製方法にて前記多孔質層を含む積層体を作製し、当該積層体を切り出して測定用の試料を作製した後、室温(約25℃)下、FT-IRスペクトロメーター(ブルカー・オプティクス株式会社製;ALPHA Platinum-ATRモデル)を用いて、前記試料に関して、分解能4cm-1、スキャン回数512回で、測定領域である波数4000cm-1~400cm-1の赤外線吸収スペクトルを測定する。ここで、切り出される測定用試料は、好ましくは80mm×80mm角の正方形である。しかしながら、上記赤外線吸収スペクトルを測定することができる大きさであれば足りるので、測定用試料の大きさ、形はこれに限定されない。そして、得られたスペクトルから、α型結晶の特性吸収である765cm-1の吸収強度(Aα)とβ型結晶の特性吸収である840cm-1の吸収強度(Aβ)とを求める。前記波数に対応する各ピークを形成する開始の点と終了の点とを直線で結び、その直線とピーク波数との長さを吸収強度とする。α型結晶は、波数775cm-1~745cm-1の範囲内で取り得る吸収強度の最大値を765cm-1の吸収強度(Aα)とし、β型結晶は、波数850cm-1~815cm-1の範囲内で取り得る吸収強度の最大値を840cm-1の吸収強度(Aβ)とする。なお、本明細書においては、前記補正係数Eβ/αの平均値は、1.681(特開2005-200623号公報の記載を参考)として、前記α型結晶の含有率F(α)(%)を算出している。その算出式は、以下の式(4a)である。
【0087】
F(α)(%)=〔1-{840cm-1の吸収強度(Aβ)/(765cm-1の吸収強度(Aα)×補正係数(Eβ/α)(1.681)+840cm-1の吸収強度(Aβ))}〕×100 …(4a)。
【0088】
<多孔質層の製造方法>
本発明における多孔質層は、例えば、本発明における積層体、多孔質基材の製造方法と同様の方法にて製造され得る。
【0089】
<多孔質層、積層体の製造方法>
本発明における多孔質層および積層体の製造方法としては、特に限定されず、種々の方法が挙げられる。
【0090】
例えば、多孔質基材となるポリオレフィン系樹脂微多孔膜の表面上に、以下に示す工程(1)~(3)の何れかの1つの工程を用いて、PVDF系樹脂および任意でフィラーを含む多孔質層を形成する。工程(2)および(3)の場合においては、多孔質層を析出させた後にさらに乾燥させ、溶媒を除去することによって、製造され得る。なお、工程(1)~(3)における塗工液は、フィラーを含む多孔質層の製造に使用する場合には、フィラーが分散しており、かつ、PVDF系樹脂が溶解している状態であることが好ましい。
【0091】
本発明における多孔質層の製造方法に使用される塗工液は、通常、本発明における多孔質層に含まれる樹脂を溶媒に溶解させると共に、本発明における多孔質層に含まれる微粒子を分散させることにより調製され得る。
【0092】
(1)前記多孔質層を形成するPVDF系樹脂の微粒子および任意でフィラーの微粒子を含む塗工液を、多孔質基材上に塗工し、前記塗工液中の溶媒(分散媒)を乾燥除去することによって多孔質層を形成させる工程。
【0093】
(2)前記多孔質層を形成するPVDF系樹脂の微粒子および任意でフィラーの微粒子を含む塗工液を、前記多孔質基材の表面に塗工した後、その多孔質基材を前記PVDF系樹脂に対して貧溶媒である、析出溶媒に浸漬することによって、前記PVDF系樹脂および任意で前記フィラーを含む多孔質層を析出させる工程。
【0094】
(3)前記多孔質層を形成するPVDF系樹脂の微粒子および任意でフィラーの微粒子を含む塗工液を、前記多孔質基材の表面に塗工した後、低沸点有機酸を用いて、前記塗工液の液性を酸性にすることによって、前記PVDF系樹脂および任意で前記フィラーを含む多孔質層を析出させる工程。
【0095】
前記塗工液における溶媒(分散媒)は、多孔質基材に悪影響を及ぼさず、PVDF系樹脂を均一かつ安定に溶解または分散し、前記フィラーを均一かつ安定に分散させることができればよく、特に限定されるものではない。前記溶媒(分散媒)としては、例えば、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、アセトン、および水が挙げられる。
【0096】
前記析出溶媒には、例えば、塗工液に含まれる溶媒(分散媒)に溶解し、かつ、塗工液に含まれるPVDF系樹脂を溶解しない他の溶媒(以下、溶媒Xとも称する)を使用することができる。塗工液が塗布されて塗膜が形成された多孔質基材を前記溶媒Xに浸漬し、多孔質基材上または支持体上の塗膜中の溶媒(分散媒)を溶媒Xで置換した後に、溶媒Xを蒸発させることにより、塗工液から溶媒(分散媒)を効率よく除去することができる。析出溶媒としては、例えば、イソプロピルアルコールまたはt-ブチルアルコールを用いることが好ましい。
【0097】
前記工程(3)において、低沸点有機酸としては、例えば、パラトルエンスルホン酸、酢酸等を使用することができる。
【0098】
塗工液は、所望の多孔質層を得るのに必要な樹脂固形分(樹脂濃度)や微粒子量等の条件を満足することができれば、どのような方法で形成されてもよい。塗工液の形成方法としては、具体的には、例えば、機械攪拌法、超音波分散法、高圧分散法、メディア分散法等が挙げられる。また、例えば、スリーワンモーター、ホモジナイザー、メディア型分散機、圧力式分散機等の従来公知の分散機を使用して微粒子を溶媒(分散媒)に分散させてもよい。さらに、樹脂を溶解若しくは膨潤させた液、或いは樹脂の乳化液を、所望の平均粒子径を有する微粒子を得るための湿式粉砕時に、湿式粉砕装置内に供給し、微粒子の湿式粉砕と同時に塗工液を調製することもできる。つまり、微粒子の湿式粉砕と塗工液の調製とを一つの工程で同時に行ってもよい。また、上記塗工液は、本発明の目的を損なわない範囲で、上記樹脂および微粒子以外の成分として、分散剤や可塑剤、界面活性剤、pH調整剤等の添加剤を含んでいてもよい。尚、添加剤の添加量は、本発明の目的を損なわない範囲であればよい。
【0099】
塗工液の多孔質基材への塗布方法、つまり、必要に応じて親水化処理が施された多孔質基材の表面への多孔質層の形成方法は、特に制限されるものではない。多孔質基材の両面に多孔質層を積層する場合においては、多孔質基材の一方の面に多孔質層を形成した後、他方の面に多孔質層を形成する逐次積層方法や、多孔質基材の両面に多孔質層を同時に形成する同時積層方法を行うことができる。多孔質層の形成方法、すなわち積層体の製造方法としては、例えば、塗工液を多孔質基材の表面に直接塗布した後、溶媒(分散媒)を除去する方法;塗工液を適当な支持体に塗布し、溶媒(分散媒)を除去して多孔質層を形成した後、この多孔質層と多孔質基材とを圧着させ、次いで支持体を剥がす方法;塗工液を適当な支持体に塗布した後、塗布面に多孔質基材を圧着させ、次いで支持体を剥がした後に溶媒(分散媒)を除去する方法;塗工液中に多孔質基材を浸漬し、ディップコーティングを行った後に溶媒(分散媒)を除去する方法;等が挙げられる。多孔質層の厚さは、塗工後の湿潤状態(ウェット)の塗工膜の厚さ、樹脂と微粒子との重量比、塗工液の固形分濃度(樹脂濃度と微粒子濃度との和)等を調節することによって制御することができる。尚、支持体としては、例えば、樹脂製のフィルム、金属製のベルト、ドラム等を用いることができる。
【0100】
上記塗工液を多孔質基材または支持体に塗布する方法は、必要な目付や塗工面積を実現し得る方法であればよく、特に制限されるものではない。塗工液の塗布方法としては、従来公知の方法を採用することができ、具体的には、例えば、グラビアコーター法、小径グラビアコーター法、リバースロールコーター法、トランスファロールコーター法、キスコーター法、ディップコーター法、ナイフコーター法、エアドクターブレードコーター法、ブレードコーター法、ロッドコーター法、スクイズコーター法、キャストコーター法、バーコーター法、ダイコーター法、スクリーン印刷法、スプレー塗布法等が挙げられる。
【0101】
溶媒(分散媒)の除去方法は、乾燥による方法が一般的である。乾燥方法としては、自然乾燥、送風乾燥、加熱乾燥、減圧乾燥等が挙げられるが、溶媒(分散媒)を充分に除去することができるのであれば如何なる方法でもよい。また、塗工液に含まれる溶媒(分散媒)を他の溶媒に置換してから乾燥を行ってもよい。溶媒(分散媒)を他の溶媒に置換してから除去する方法としては、例えば、塗工液に含まれる溶媒(分散媒)に溶解し、かつ、塗工液に含まれる樹脂を溶解しない他の溶媒(以下、溶媒X)を使用し、塗工液が塗布されて塗膜が形成された多孔質基材または支持体を上記溶媒Xに浸漬し、多孔質基材上または支持体上の塗膜中の溶媒(分散媒)を溶媒Xで置換した後に、溶媒Xを蒸発させる方法が挙げられる。この方法は、塗工液から溶媒(分散媒)を効率よく除去することができる。尚、多孔質基材または支持体に形成された塗工液の塗膜から溶媒(分散媒)或いは溶媒Xを除去するときに加熱を行う場合には、多孔質基材の細孔が収縮して透気度が低下することを回避するために、多孔質基材の透気度が低下しない温度、具体的には、10~120℃、より好ましくは20~80℃で行うことが望ましい。
【0102】
溶媒(分散媒)の除去方法としては、特に、塗工液を基材に塗布した後、当該塗工液を乾燥させることによって多孔質層を形成することが好ましい。上記構成によれば、多孔質層の空隙率の変動率がより小さく、また、皺の少ない多孔質層を実現することができる。
【0103】
上記乾燥には、通常の乾燥装置を用いることができる。
【0104】
多孔質層の塗工量(目付)は、電極との接着性およびイオン透過性の観点から、多孔質基材の片面において、通常、固形分で0.5~20g/m2であることが好ましく、0.5~10g/m2であることがより好ましく、0.5g/m2~1.5g/m2の範囲であることが好ましい。すなわち、得られる積層体および多孔質基材における多孔質層の塗工量(目付)が上述の範囲となるように、前記多孔質基材上に塗布する前記塗工液の量を調節することが好ましい。
【0105】
また、前記積層体に、さらに耐熱層などの他の層を積層する場合には、多孔質層を構成する樹脂の代わりに前記耐熱層を構成する樹脂を用いること以外は、上述した方法と同様の方法を行うことにより、耐熱層を積層させることができる。
【0106】
本実施形態では、前記工程(1)~(3)において、多孔質層を形成する樹脂を溶解または分散させた溶液中の樹脂量を変化させることにより、電解液に浸漬した後の多孔質層1平方メートル当たりに含まれる、電解液を吸収した樹脂の体積を調整することができる。
【0107】
また、多孔質層を形成する樹脂を溶解または分散させる溶媒量を変化させることにより、電解液に浸漬した後の多孔質層の空隙率、平均細孔径を調整することができる。
【0108】
<PVDF系樹脂の結晶形の制御方法>
また、本発明における積層体は、上述の方法における乾燥条件(乾燥温度、乾燥時の風速および風向、など)および/または析出温度(PVDF系樹脂を含む多孔質層を析出溶媒または低沸点有機酸を用いて析出させる場合の析出温度)を調節することによって、得られる多孔質層に含まれるPVDF系樹脂の結晶形を制御して製造される。具体的には、前記PVDF系樹脂において、α型結晶とβ型結晶の含有量の合計を100モル%とした場合の、α型結晶の含有量が36モル%以上(好ましくは39モル%以上であり、より好ましくは40モル%以上であり、より好ましくは50モル%以上であり、より好ましくは60モル%以上であり、さらに好ましくは70モル%以上である。また、好ましくは95モル%以下)となるように、前記乾燥条件および前記析出温度を調節して、本発明における積層体が製造され得る。
【0109】
前記PVDF系樹脂において、α型結晶とβ型結晶の含有量の合計を100モル%とした場合の、α型結晶の含有量を36モル%以上とするための前記乾燥条件および前記析出温度は、前記多孔質層の製造方法、使用する溶媒(分散媒)、析出溶媒および低沸点有機酸の種類等によって適宜変更され得る。
【0110】
前記工程(1)のような析出溶媒を使用せず、単に塗工液を乾燥させる場合には、前記乾燥条件は、塗工液における、溶媒、PVDF系樹脂の濃度、および、フィラーが含まれる場合には、含まれるフィラーの量、並びに、塗工液の塗工量などによって適宜変更され得る。上述した工程(1)にて多孔質層を形成する場合は、乾燥温度は30℃~100℃であることが好ましく、乾燥時における熱風の風向は塗工液を塗工した多孔質基材または電極シートに対して垂直方向であることが好ましく、風速は0.1m/s~40m/sであることが好ましい。具体的には、PVDF系樹脂を溶解させる溶媒としてN-メチル-2-ピロリドン、PVDF系樹脂を1.0質量%、無機フィラーとしてアルミナを9.0質量%含む塗工液を塗布する場合には、前記乾燥条件を、乾燥温度:40℃~100℃とし、乾燥時における熱風の風向:塗工液を塗工した多孔質基材または電極シートに対して垂直方向とし、風速:0.4m/s~40m/sとすることが好ましい。
【0111】
また、上述した工程(2)にて多孔質層を形成する場合は、析出温度は-25℃~60℃であることが好ましく、乾燥温度は20℃~100℃であることが好ましい。具体的には、PVDF系樹脂を溶解させる溶媒としてN-メチルピロリドンを使用し、析出溶媒としてイソプロピルアルコールを使用して、上述した工程(2)にて多孔質層を形成する場合は、析出温度は-10℃~40℃とし、乾燥温度は30℃~80℃とすることが好ましい。
【0112】
〔2.非水電解液二次電池用部材、非水電解液二次電池〕
本発明に係る非水電解液二次電池用部材は、正極、積層体、および負極がこの順で配置されてなる非水電解液二次電池用部材である。また、本発明に係る非水電解液二次電池は、積層体を、セパレータとして備える。以下、非水電解液二次電池用部材として、リチウムイオン二次電池用部材を例に挙げ、非水電解液二次電池として、リチウムイオン二次電池を例に挙げて説明する。尚、上記積層体以外の非水電解液二次電池用部材、非水電解液二次電池の構成要素は、下記説明の構成要素に限定されるものではない。
【0113】
本発明に係る非水電解液二次電池においては、例えばリチウム塩を有機溶媒に溶解してなる非水電解液を用いることができる。リチウム塩としては、例えば、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3、Li2B10Cl10、低級脂肪族カルボン酸リチウム塩、LiAlCl4等が挙げられる。上記リチウム塩は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。上記リチウム塩のうち、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、およびLiC(CF3SO2)3からなる群から選択される少なくとも1種のフッ素含有リチウム塩がより好ましい。
【0114】
非水電解液を構成する有機溶媒としては、具体的には、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、4-トリフルオロメチル-1,3-ジオキソラン-2-オン、1,2-ジ(メトキシカルボニルオキシ)エタン等のカーボネート類;1,2-ジメトキシエタン、1,3-ジメトキシプロパン、ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3-テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン等のエーテル類;ギ酸メチル、酢酸メチル、γ-ブチロラクトン等のエステル類;アセトニトリル、ブチロニトリル等のニトリル類;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド類;3-メチル-2-オキサゾリドン等のカーバメート類;スルホラン、ジメチルスルホキシド、1,3-プロパンサルトン等の含硫黄化合物;並びに、上記有機溶媒にフッ素基が導入されてなる含フッ素有機溶媒;等が挙げられる。上記有機溶媒は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。上記有機溶媒のうち、カーボネート類がより好ましく、環状カーボネートと非環状カーボネートとの混合溶媒、または、環状カーボネートとエーテル類との混合溶媒がさらに好ましい。環状カーボネートと非環状カーボネートとの混合溶媒としては、作動温度範囲が広く、かつ、負極活物質として天然黒鉛や人造黒鉛等の黒鉛材料を用いた場合においても難分解性を示すことから、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネートおよびエチルメチルカーボネートを含む混合溶媒がさらに好ましい。
【0115】
正極としては、通常、正極活物質、導電材および結着剤を含む正極合剤を正極集電体上に担持したシート状の正極を用いる。
【0116】
上記正極活物質としては、例えば、リチウムイオンをドープ・脱ドープ可能な材料が挙げられる。当該材料としては、具体的には、例えば、V、Mn、Fe、Co、Ni等の遷移金属を少なくとも1種類含んでいるリチウム複合酸化物が挙げられる。上記リチウム複合酸化物のうち、平均放電電位が高いことから、ニッケル酸リチウム、コバルト酸リチウム等のα-NaFeO2型構造を有するリチウム複合酸化物、リチウムマンガンスピネル等のスピネル型構造を有するリチウム複合酸化物がより好ましい。当該リチウム複合酸化物は、種々の金属元素を含んでいてもよく、複合ニッケル酸リチウムがさらに好ましい。さらに、Ti、Zr、Ce、Y、V、Cr、Mn、Fe、Co、Cu、Ag、Mg、Al、Ga、InおよびSnからなる群から選択される少なくとも1種の金属元素のモル数とニッケル酸リチウム中のNiのモル数との和に対して、上記少なくとも1種の金属元素の割合が0.1~20モル%となるように当該金属元素を含む複合ニッケル酸リチウムを用いると、高容量での使用におけるサイクル特性に優れるので特に好ましい。中でもAlまたはMnを含み、かつ、Ni比率が85%以上、さらに好ましくは90%以上である活物質が、当該活物質を含む正極を備える非水電解液二次電池の高容量での使用におけるサイクル特性に優れることから、特に好ましい。
【0117】
上記導電材としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス類、カーボンブラック、熱分解炭素類、炭素繊維、有機高分子化合物焼成体等の炭素質材料等が挙げられる。上記導電材は、1種類のみを用いてもよく、例えば人造黒鉛とカーボンブラックとを混合して用いる等、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0118】
上記結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデンの共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレンの共重合体、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテルの共重合体、エチレン-テトラフルオロエチレンの共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレンの共重合体、熱可塑性ポリイミド、ポリエチレン、及びポリプロピレン等の熱可塑性樹脂、アクリル樹脂、並びに、スチレンブタジエンゴムが挙げられる。尚、結着剤は、増粘剤としての機能も有している。
【0119】
正極合剤を得る方法としては、例えば、正極活物質、導電材および結着剤を正極集電体上で加圧して正極合剤を得る方法;適当な有機溶剤を用いて正極活物質、導電材および結着剤をペースト状にして正極合剤を得る方法;等が挙げられる。
【0120】
上記正極集電体としては、例えば、Al、Ni、ステンレス等の導電体が挙げられ、薄膜に加工し易く、安価であることから、Alがより好ましい。
【0121】
シート状の正極の製造方法、即ち、正極集電体に正極合剤を担持させる方法としては、例えば、正極合剤となる正極活物質、導電材および結着剤を正極集電体上で加圧成型する方法;適当な有機溶剤を用いて正極活物質、導電材および結着剤をペースト状にして正極合剤を得た後、当該正極合剤を正極集電体に塗工し、乾燥して得られたシート状の正極合剤を加圧して正極集電体に固着する方法;等が挙げられる。
【0122】
負極としては、通常、負極活物質を含む負極合剤を負極集電体上に担持したシート状の負極を用いる。シート状の負極には、好ましくは上記導電材、及び、上記結着剤が含まれる。
【0123】
上記負極活物質としては、例えば、リチウムイオンをドープ・脱ドープ可能な材料、リチウム金属またはリチウム合金等が挙げられる。当該材料としては、具体的には、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス類、カーボンブラック、熱分解炭素類、炭素繊維、有機高分子化合物焼成体等の炭素質材料;正極よりも低い電位でリチウムイオンのドープ・脱ドープを行う酸化物、硫化物等のカルコゲン化合物;アルカリ金属と合金化するアルミニウム(Al)、鉛(Pb)、錫(Sn)、ビスマス(Bi)、シリコン(Si)などの金属、アルカリ金属を格子間に挿入可能な立方晶系の金属間化合物(AlSb、Mg2Si、NiSi2)、リチウム窒素化合物(Li3-xMxN(M:遷移金属))等を用いることができる。上記負極活物質のうち、電位平坦性が高く、また平均放電電位が低いために正極と組み合わせた場合に大きなエネルギー密度が得られることから、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛材料を主成分とする炭素質材料がより好ましく、黒鉛とシリコンの混合物であって、そのCに対するSiの比率が5%以上のものがより好ましく、10%以上である負極活物質がさらに好ましい。
【0124】
負極合剤を得る方法としては、例えば、負極活物質を負極集電体上で加圧して負極合剤を得る方法;適当な有機溶剤を用いて負極活物質をペースト状にして負極合剤を得る方法;等が挙げられる。
【0125】
上記負極集電体としては、例えば、Cu、Ni、ステンレス等が挙げられ、特にリチウムイオン二次電池においてはリチウムと合金を作り難く、かつ薄膜に加工し易いことから、Cuがより好ましい。
【0126】
シート状の負極の製造方法、即ち、負極集電体に負極合剤を担持させる方法としては、例えば、負極合剤となる負極活物質を負極集電体上で加圧成型する方法;適当な有機溶剤を用いて負極活物質をペースト状にして負極合剤を得た後、当該負極合剤を負極集電体に塗工し、乾燥して得られたシート状の負極合剤を加圧して負極集電体に固着する方法;等が挙げられる。上記ペーストには、好ましくは上記導電材、及び、上記結着剤が含まれる。
【0127】
上記正極と、積層体と、負極とをこの順で配置して本発明に係る非水電解液二次電池用部材を形成した後、非水電解液二次電池の筐体となる容器に当該非水電解液二次電池用部材を入れ、次いで、当該容器内を非水電解液で満たした後、減圧しつつ密閉することにより、本発明に係る非水電解液二次電池を製造することができる。非水電解液二次電池の形状は、特に限定されるものではなく、薄板(ペーパー)型、円盤型、円筒型、直方体等の角柱型等のどのような形状であってもよい。尚、非水電解液二次電池の製造方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の製造方法を採用することができる。
【実施例】
【0128】
<多孔質基材の各種物性の測定方法>
以下の製造例および比較例に係る多孔質基材の各種物性を、以下の方法で測定した。
【0129】
(1)マイクロ波照射時の温度上昇収束時間
多孔質基材から8cm×8cmの試験片を切り出し、重量W(g)を測定した。そして、目付(g/m2)=W/(0.08×0.08)の式に従って目付を算出した。
【0130】
次に、上記の試験片を3wt%の水を添加したN-メチルピロリドン(NMP)に含浸させた後、テフロン(登録商標)シート(サイズ:12cm×10cm)の上に広げ、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)で被覆された光ファイバー式温度計(アステック株式会社製、Neoptix Reflex 温度計)を挟むように半分に折り曲げた。
【0131】
次に、ターンテーブルを備えたマイクロ波照射装置(ミクロ電子社製、9kWマイクロ波オーブン、周波数2455MHz)内に温度計を挟んだ状態の水添加NMP含浸試験片を固定した後、1800Wで2分間マイクロ波を照射した。
【0132】
そして、マイクロ波の照射を開始してからの試験片の温度変化を、上記の光ファイバー式温度計で、0.2秒ごとに測定した。当該温度測定において、1秒以上温度上昇がなかったときの温度を昇温収束温度とし、マイクロ波の照射を開始してから昇温収束温度に到達するまでの時間を温度上昇収束時間とした。このようにして得られた温度上昇収束時間を上記の目付で除算することにより、単位面積当たりの樹脂量に対する温度上昇収束時間を算出した。
【0133】
(2)初期レート特性
後述のようにして組み立てた非水電解液二次電池を、25℃で電圧範囲;4.1~2.7V、電流値;0.2C(1時間率の放電容量による定格容量を1時間で放電する電流値を1Cとする、以下も同様)を1サイクルとして、4サイクルの初期充放電を行った。
【0134】
初期充放電を行った非水電解液二次電池に対して、55℃で充電電流値;1C、放電電流値が0.2Cと20Cの定電流で充放電を各3サイクル行った。そして、放電電流値が0.2Cと20Cにおける、それぞれ3サイクル目の放電容量の比(20C放電容量/0.2C放電容量)を初期レート特性として算出した。
【0135】
(3)充放電サイクル後のレート特性の維持率
初期レート特性測定後の非水電解液二次電池を、55℃で電圧範囲;4.2~2.7V、充電電流値;1C、放電電流値;10Cの定電流を1サイクルとして、100サイクルの充放電を行った。
【0136】
100サイクルの充放電を行った非水電解液二次電池に対して、55℃で充電電流値;1C、放電電流値が0.2Cと20Cの定電流で充放電を各3サイクル行った。そして、放電電流値が0.2Cと20Cにおける、それぞれ3サイクル目の放電容量の比(20C放電容量/0.2C放電容量)を100サイクルの充放電後のレート特性(100サイクル後レート特性)として算出した。
【0137】
上記のレート試験結果から、次式
レート特性維持率=(100サイクル後レート特性)/(初期レート特性)×100
に従い、充放電サイクル前後のレート特性の維持率(%)を算出した。
【0138】
<多孔質基材の作製>
以下のようにして、多孔質基材として用いられる、製造例1~4および比較例2~3に係る多孔質フィルムを作製した。
【0139】
(製造例1)
超高分子量ポリエチレン粉末(GUR2024、ティコナ社製、重量平均分子量497万)を68重量%、重量平均分子量1000のポリエチレンワックス(FNP-0115、日本精鑞社製)32重量%、この超高分子量ポリエチレンとポリエチレンワックスの合計を100重量部として、酸化防止剤(Irg1010、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)0.4重量%、(P168、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)0.1重量%、ステアリン酸ナトリウム1.3重量%を加え、更に全体積に対して38体積%となるように平均孔径0.1μmの炭酸カルシウム(丸尾カルシウム社製)を加え、これらを粉末のままヘンシェルミキサーで混合した後、二軸混練機で溶融混練してポリオレフィン樹脂組成物とした。該ポリオレフィン樹脂組成物を表面温度が150℃一対のロールにて圧延し、シートを作成した。このシートを塩酸水溶液(塩酸4mol/L、非イオン系界面活性剤0.5重量%)に浸漬させることで炭酸カルシウムを除去し、続いて100~105℃、歪速度1250%毎分の速度で、6.2倍に延伸し、膜厚10.9μmのフィルムを得た。さらに126℃で熱固定処理を行い製造例1の多孔質基材を得た。
【0140】
(製造例2)
超高分子量ポリエチレン粉末(GUR4032、ティコナ社製、重量平均分子量497万)を70重量%、重量平均分子量1000のポリエチレンワックス(FNP-0115、日本精鑞社製)30重量%、この超高分子量ポリエチレンとポリエチレンワックスの合計を100重量部として、酸化防止剤(Irg1010、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)0.4重量%、(P168、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)0.1重量%、ステアリン酸ナトリウム1.3重量%を加え、更に全体積に対して36体積%となるように平均孔径0.1μmの炭酸カルシウム(丸尾カルシウム社製)を加え、これらを粉末のままヘンシェルミキサーで混合した後、二軸混練機で溶融混練してポリオレフィン樹脂組成物とした。該ポリオレフィン樹脂組成物を表面温度が150℃一対のロールにて圧延し、シートを作成した。このシートを塩酸水溶液(塩酸4mol/L、非イオン系界面活性剤0.5重量%)に浸漬させることで炭酸カルシウムを除去し、続いて100~105℃、歪速度1250%毎分の速度で、6.2倍に延伸し、膜厚15.5μmのフィルムを得た。さらに120℃で熱固定処理を行い製造例2の多孔質基材を得た。
【0141】
(製造例3)
超高分子量ポリエチレン粉末(GUR4032、ティコナ社製、重量平均分子量497万)を71重量%、重量平均分子量1000のポリエチレンワックス(FNP-0115、日本精鑞社製)29重量%、この超高分子量ポリエチレンとポリエチレンワックスの合計を100重量部として、酸化防止剤(Irg1010、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)0.4重量%、(P168、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)0.1重量%、ステアリン酸ナトリウム1.3重量%を加え、更に全体積に対して37体積%となるように平均孔径0.1μmの炭酸カルシウム(丸尾カルシウム社製)を加え、これらを粉末のままヘンシェルミキサーで混合した後、二軸混練機で溶融混練してポリオレフィン樹脂組成物とした。該ポリオレフィン樹脂組成物を表面温度が150℃一対のロールにて圧延し、シートを作成した。このシートを塩酸水溶液(塩酸4mol/L、非イオン系界面活性剤0.5重量%)に浸漬させることで炭酸カルシウムを除去し、続いて100~105℃、歪速度2100%毎分の速度で、7.0倍に延伸し、膜厚11.7μmのフィルムを得た。さらに123℃で熱固定処理を行い製造例3の多孔質基材を得た。
【0142】
(製造例4)
超高分子量ポリエチレン粉末(GUR4032、ティコナ社製、重量平均分子量497万)を70重量%、重量平均分子量1000のポリエチレンワックス(FNP-0115、日本精鑞社製)30重量%、この超高分子量ポリエチレンとポリエチレンワックスの合計を100重量部として、酸化防止剤(Irg1010、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)0.4重量%、(P168、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)0.1重量%、ステアリン酸ナトリウム1.3重量%を加え、更に全体積に対して36体積%となるように平均孔径0.1μmの炭酸カルシウム(丸尾カルシウム社製)を加え、これらを粉末のままヘンシェルミキサーで混合した後、二軸混練機で溶融混練してポリオレフィン樹脂組成物とした。該ポリオレフィン樹脂組成物を表面温度が150℃一対のロールにて圧延し、シートを作成した。このシートを塩酸水溶液(塩酸4mol/L、非イオン系界面活性剤0.5重量%)に浸漬させることで炭酸カルシウムを除去し、続いて100~105℃、歪速度750%毎分の速度で、6.2倍に延伸し、膜厚16.3μmのフィルムを得た。さらに115℃で熱固定を行い製造例4の多孔質基材を得た。
【0143】
(比較例1)
市販品のポリオレフィン多孔質フィルム(オレフィンセパレータ)を比較例1の多孔質基材として用いた。
【0144】
(比較例2)
超高分子量ポリエチレン粉末(GUR4032、ティコナ社製、重量平均分子量497万)を70重量%、重量平均分子量1000のポリエチレンワックス(FNP-0115、日本精鑞社製)30重量%、この超高分子量ポリエチレンとポリエチレンワックスの合計を100重量部として、酸化防止剤(Irg1010、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)0.4重量%、(P168、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)0.1重量%、ステアリン酸ナトリウム1.3重量%を加え、更に全体積に対して36体積%となるように平均孔径0.1μmの炭酸カルシウム(丸尾カルシウム社製)を加え、これらを粉末のままヘンシェルミキサーで混合した後、二軸混練機で溶融混練してポリオレフィン樹脂組成物とした。該ポリオレフィン樹脂組成物を表面温度が150℃一対のロールにて圧延し、シートを作成した。このシートを塩酸水溶液(塩酸4mol/L、非イオン系界面活性剤0.5重量%)に浸漬させることで炭酸カルシウムを除去し、続いて100~105℃、歪速度2000%毎分の速度で、6.2倍に延伸し、膜厚16.3μmのフィルムを得た。さらに123℃で熱固定を行い比較例2の多孔質基材を得た。
【0145】
(比較例3)
超高分子量ポリエチレン粉末(GUR4032、ティコナ社製、重量平均分子量497万)を71重量%、重量平均分子量1000のポリエチレンワックス(FNP-0115、日本精鑞社製)29重量%、この超高分子量ポリエチレンとポリエチレンワックスの合計を100重量部として、酸化防止剤(Irg1010、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)0.4重量%、(P168、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)0.1重量%、ステアリン酸ナトリウム1.3重量%を加え、更に全体積に対して37体積%となるように平均孔径0.1μmの炭酸カルシウム(丸尾カルシウム社製)を加え、これらを粉末のままヘンシェルミキサーで混合した後、二軸混練機で溶融混練してポリオレフィン樹脂組成物とした。該ポリオレフィン樹脂組成物を表面温度が150℃一対のロールにて圧延し、シートを作成した。このシートを塩酸水溶液(塩酸4mol/L、非イオン系界面活性剤0.5重量%)に浸漬させることで炭酸カルシウムを除去し、続いて100~105℃、歪速度750%毎分の速度で、7.1倍に延伸し、膜厚11.5μmのフィルムを得た。さらに128℃で熱固定を行い比較例3の多孔質基材を得た。
【0146】
製造例1~4、および比較例2~3における延伸歪速度、延伸後フィルム厚み、熱固定温度、および熱固定温度/延伸後フィルム厚み(延伸後フィルム単位厚み当たりの熱固定温度)を以下の表1に示す。
【0147】
【0148】
<非水電解液二次電池の作製>
次に、上記のようにして作製した製造例1~4および比較例1~3の多孔質基材の各々を用いて非水電解液二次電池を以下に従って作製した。
【0149】
(正極)
LiNi0.5Mn0.3Co0.2O2/導電材/PVDF(重量比92/5/3)をアルミニウム箔に塗布することにより製造された市販の正極を用いた。上記正極を、正極活物質層が形成された部分の大きさが45mm×30mmであり、かつその外周に幅13mmで正極活物質層が形成されていない部分が残るように、アルミニウム箔を切り取って正極とした。正極活物質層の厚さは58μm、密度は2.50g/cm3、正極容量は174mAh/gであった。
【0150】
(負極)
黒鉛/スチレン-1,3-ブタジエン共重合体/カルボキシメチルセルロースナトリウム(重量比98/1/1)を銅箔に塗布することにより製造された市販の負極を用いた。上記負極を、負極活物質層が形成された部分の大きさが50mm×35mmであり、かつその外周に幅13mmで負極活物質層が形成されていない部分が残るように、銅箔を切り取って負極とした。負極活物質層の厚さは49μm、密度は1.40g/cm3、負極容量は372mAh/gであった。
【0151】
(組み立て)
ラミネートパウチ内で、上記正極、多孔質基材、および負極をこの順で積層(配置)することにより、非水電解液二次電池用部材を得た。このとき、正極の正極活物質層における主面の全部が、負極の負極活物質層における主面の範囲に含まれる(主面に重なる)ように、正極および負極を配置した。
【0152】
続いて、上記非水電解液二次電池用部材を、アルミニウム層とヒートシール層とが積層されてなる袋に入れ、さらにこの袋に非水電解液を0.25mL入れた。上記非水電解液は、濃度1.0モル/リットルのLiPF6をエチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネートおよびエチレンカーボネートの体積比が50:20:30の混合溶媒に溶解させた25℃の電解液を用いた。そして、袋内を減圧しつつ、当該袋をヒートシールすることにより、非水電解液二次電池を作製した。非水電解液二次電池の設計容量は20.5mAhとした。
【0153】
<各種物性の測定結果>
製造例1~4および比較例1~3の多孔質基材についての、各種物性の測定結果を表2に示す。
【0154】
【0155】
表2に示されるように、単位面積当たりの樹脂量(目付)に対する温度上昇収束時間が2.9~5.7秒・m2/gの製造例1~4の多孔質基材は、初期レート特性に優れ、且つ、レート特性の維持率低下を抑制でき、目付に対する温度上昇収束時間が2.9~5.7秒・m2/gの範囲外である比較例1~3に比べて優れていることがわかった。
【0156】
[積層体物性各種測定方法]
以下の各実施例および比較例において、α比算出法、カール特性等の物性は、以下の方法で測定した。
【0157】
(1)α比算出法
以下の実施例および比較例において得られた積層体における多孔質層に含まれるPVDF系樹脂のα型結晶とβ型結晶との合計の含有量に対する、α型結晶のモル比(%)を、α比(%)とし、以下に示す方法にてそのα比を測定した。
【0158】
積層体を80mm×80mm角の正方形に切り出し、室温(約25℃)下、FT-IRスペクトロメーター(ブルカー・オプティクス株式会社製;ALPHA Platinum-ATRモデル)を用いて、分解能4cm-1、スキャン回数512回で、測定領域である波数4000cm-1~400cm-1の赤外線吸収スペクトルを得た。得られたスペクトルから、α型結晶の特性吸収である765cm-1の吸収強度とβ型結晶の特性吸収である840cm-1の吸収強度とを求めた。前記波数に対応する各ピークを形成する開始の点と終了の点とを直線で結び、その直線とピーク波数との長さを吸収強度とし、α型結晶は、波数775cm-1~745cm-1の範囲内で取り得る吸収強度の最大値を765cm-1の吸収強度とし、β型結晶は、波数850cm-1~815cm-1の範囲内で取り得る吸収強度の最大値を840cm-1の吸収強度とした。
【0159】
α比算出は、前記の通りにα型結晶に対応する765cm-1の吸収強度およびβ型結晶に対応する840cm-1の吸収強度を求め、特開2005-200623号公報の記載を参考に、α型結晶の吸収強度に補正係数1.681を乗じた数値を用いて、以下の式(4a)によって算出した。
【0160】
α比(%)=〔1-{840cm-1の吸収強度/(765cm-1の吸収強度×補正係数(1.681)+840cm-1の吸収強度)}〕×100 …(4a)
(2)カール測定
積層体を8cm×8cm角の正方形に切り出し、室温(約25℃)下、露点-30℃で一日保持した後、外観を以下の基準で判断した。なお、Cは完全にカールした状態を示し、AおよびBの状態が好ましく、Aが最も好ましい状態とする。
・A:端部の持ち上がりなし。
・B:端部の持ち上がりはあるが、端部以外の大部分は持ち上がりがなく、平坦な状態。
・C:両端部が近づき、筒状に巻き込んだ状態。
【0161】
[実施例1]
PVDF系樹脂(ポリフッ化ビニリデン―ヘキサフルオロプロピレンコポリマー)のN-メチル-2-ピロリドン(以下「NMP」と称する場合もある)溶液(株式会社クレハ製;商品名「L#9305」、重量平均分子量;1000000)を塗工液とし、製造例1で作製した多孔質基材上に、ドクターブレード法により、塗工液中のPVDF系樹脂が1平方メートル当たり6.0gとなるように塗布した。得られた塗布物を、塗膜が溶媒湿潤状態のままで2-プロパノール中に浸漬し、25℃で5分間静置させ、積層多孔質フィルム(1-i)を得た。得られた積層多孔質フィルム(1-i)を浸漬溶媒湿潤状態で、さらに別の2-プロパノール中に浸漬し、25℃で5分間静置させ、積層多孔質フィルム(1-ii)を得た。得られた積層多孔質フィルム(1-ii)を65℃で5分間乾燥させて、積層体(1)を得た。得られた積層体(1)の評価結果を表3に示す。
【0162】
[実施例2]
多孔質基材に製造例2で作製した多孔質基材を用いた以外は、実施例1と同様の方法を用いることで、積層体(2)を作製した。得られた積層体(2)の評価結果を表3に示す。
【0163】
[実施例3]
多孔質基材に製造例3で作製した多孔質基材を用いた以外は、実施例1と同様の方法を用いることで、積層体(3)を作製した。得られた積層体(3)の評価結果を表3に示す。
【0164】
[実施例4]
多孔質基材に製造例4で作製した多孔質基材を用いた以外は、実施例1と同様の方法を用いることで、積層体(4)を作製した。得られた積層体(4)の評価結果を表3に示す。
【0165】
[実施例5]
実施例1と同様の方法で得られた塗布物を、塗膜が溶媒湿潤状態のままで2-プロパノール中に浸漬し、0℃で5分間静置させ、積層多孔質フィルム(5-i)を得た。得られた積層多孔質フィルム(5-i)を浸漬溶媒湿潤状態で、さらに別の2-プロパノール中に浸漬し、25℃で5分間静置させ、積層多孔質フィルム(5-ii)を得た。得られた積層多孔質フィルム(5-ii)を30℃で5分間乾燥させて、積層体(5)を得た。得られた積層体(5)の評価結果を表3に示す。
【0166】
[実施例6]
実施例2と同様の方法で得られた塗布物を、実施例5と同様の方法で処理することによって積層体(6)を作製した。得られた積層体(6)の評価結果を表3に示す。
【0167】
[実施例7]
実施例3と同様の方法で得られた塗布物を、実施例5と同様の方法で処理することによって積層体(7)を作製した。得られた積層体(7)の評価結果を表3に示す。
【0168】
[実施例8]
実施例4と同様の方法で得られた塗布物を、実施例5と同様の方法で処理することによって積層体(8)を作製した。得られた積層体(8)の評価結果を表3に示す。
【0169】
[実施例9]
実施例1と同様の方法で得られた塗布物を、塗膜が溶媒湿潤状態のままで2-プロパノール中に浸漬し、-5℃で5分間静置させ、積層多孔質フィルム(9-i)を得た。得られた積層多孔質フィルム(9-i)を浸漬溶媒湿潤状態で、さらに別の2-プロパノール中に浸漬し、25℃で5分間静置させ、積層多孔質フィルム(9-ii)を得た。得られた積層多孔質フィルム(9-ii)を30℃で5分間乾燥させて、積層体(9)を得た。得られた積層体(9)の評価結果を表3に示す。
【0170】
[実施例10]
実施例2と同様の方法で得られた塗布物を、実施例9と同様の方法で処理することによって積層体(10)を作製した。得られた積層体(10)の評価結果を表3に示す。
【0171】
[実施例11]
実施例3と同様の方法で得られた塗布物を、実施例9と同様の方法で処理することによって積層体(11)を作製した。得られた積層体(11)の評価結果を表3に示す。
【0172】
[実施例12]
実施例4と同様の方法で得られた塗布物を、実施例9と同様の方法で処理することによって積層体(12)を作製した。得られた積層体(12)の評価結果を表3に示す。
【0173】
[実施例13]
実施例2と同様の方法で得られた塗布物を、塗膜が溶媒湿潤状態のままで2-プロパノール中に浸漬し、-10℃で5分間静置させ、積層多孔質フィルム(13-i)を得た。得られた積層多孔質フィルム(13-i)を浸漬溶媒湿潤状態で、さらに別の2-プロパノール中に浸漬し、25℃で5分間静置させ、積層多孔質フィルム(13-ii)を得た。得られた積層多孔質フィルム(13-ii)を30℃で5分間乾燥させて、積層体(13)を得た。得られた積層体(13)の評価結果を表3に示す。
【0174】
[実施例14]
実施例3と同様の方法で得られた塗布物を、実施例13と同様の方法で処理することによって積層体(14)を作製した。得られた積層体(14)の評価結果を表3に示す。
【0175】
[実施例15]
実施例4と同様の方法で得られた塗布物を、実施例13と同様の方法で処理することによって積層体(15)を作製した。得られた積層体(15)の評価結果を表3に示す。
【0176】
[比較例4]
実施例1と同様の方法で得られた塗布物を、塗膜が溶媒湿潤状態のままで2-プロパノール中に浸漬し、-78℃で5分間静置させ、積層多孔質フィルム(16-i)を得た。得られた積層多孔質フィルム(16-i)を浸漬溶媒湿潤状態で、さらに別の2-プロパノール中に浸漬し、25℃で5分間静置させ、積層多孔質フィルム(16-ii)を得た。得られた積層多孔質フィルム(16-ii)を30℃で5分間乾燥させて、積層体(16)を得た。得られた積層体(16)の評価結果を表3に示す。
【0177】
[比較例5]
実施例2と同様の方法で得られた塗布物を、比較例4と同様の方法で処理することによって積層体(17)を作製した。得られた積層体(17)の評価結果を表3に示す。
【0178】
[比較例6]
実施例3と同様の方法で得られた塗布物を、比較例4と同様の方法で処理することによって積層体(18)を作製した。得られた積層体(18)の評価結果を表3に示す。
【0179】
[比較例7]
実施例4と同様の方法で得られた塗布物を、比較例4と同様の方法で処理することによって積層体(19)を作製した。得られた積層体(19)の評価結果を表3に示す。
【0180】
【0181】
[結果]
積層体における多孔質層に含まれる、α型結晶およびβ型結晶からなるPVDF系樹脂のうち、α型結晶の含有率(α比)が36%以上である、実施例1~15にて製造された積層体(1)~(15)においては、測定結果からカールの発生が抑制されていることが観測された。一方、前記α比が36%未満である、比較例4~7にて製造された積層体(16)~(19)においては、強いカールが発生していることが観測された。
【0182】
上述の事項から、前記α比が36%以上である本発明における積層体において、カールの発生が抑制されることが示された。
【0183】
なお、積層体を構成する多孔質基材の細孔の構造(細孔内の毛細管力および細孔の壁の面積)、および、多孔質基材から電極への電解液の供給能が、電池の充放電を繰り返したり、大電流条件で作動させたときのレート特性の低下と関係している。つまり当該積層体におけるレート特性は、多孔質基材の特性に依存している。ここで、実施例1~15にて製造された積層体は、製造例1~4のいずれかで製造された多孔質基材を用いて製造されている。表2に示される通り、製造例1~4のいずれかで製造された多孔質基材を備える非水電解液二次電池は優れたレート特性を示している。このため、実施例1~15にて製造された積層体を備える非水電解液二次電池もまた同様に、優れたレート特性を示すことが理解される。
【0184】
それゆえに、上述の製造例、実施例、比較例の結果から、本発明に係る積層体である、実施例1~15にて製造された積層体は、当該積層体をセパレータとして備える非水電解液二次電池に優れたレート特性を付与することができ、かつ、カールの発生を抑制することができることが理解できる。
【産業上の利用可能性】
【0185】
本発明の積層体は、カールの発生を抑制できることから、非水電解液二次電池の製造に好適に利用することができる。