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特許7074502潤滑油組成物、潤滑油組成物を備える機械装置および潤滑油組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-16
(45)【発行日】2022-05-24
(54)【発明の名称】潤滑油組成物、潤滑油組成物を備える機械装置および潤滑油組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C10M 141/10 20060101AFI20220517BHJP
   C10M 133/06 20060101ALN20220517BHJP
   C10M 133/08 20060101ALN20220517BHJP
   C10M 137/00 20060101ALN20220517BHJP
   C10M 135/00 20060101ALN20220517BHJP
   C10N 20/00 20060101ALN20220517BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20220517BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20220517BHJP
   C10N 40/08 20060101ALN20220517BHJP
   C10N 40/30 20060101ALN20220517BHJP
   C10M 133/04 20060101ALN20220517BHJP
【FI】
C10M141/10
C10M133/06
C10M133/08
C10M137/00
C10M135/00
C10N20:00 A
C10N30:06
C10N40:04
C10N40:08
C10N40:30
C10M133/04
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018034476
(22)【出願日】2018-02-28
(65)【公開番号】P2019147903
(43)【公開日】2019-09-05
【審査請求日】2020-12-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100114409
【弁理士】
【氏名又は名称】古橋 伸茂
(74)【代理人】
【識別番号】100128761
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 恭子
(74)【代理人】
【識別番号】100194423
【弁理士】
【氏名又は名称】植竹 友紀子
(72)【発明者】
【氏名】成田 恵一
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-144045(JP,A)
【文献】国際公開第2011/080970(WO,A1)
【文献】特開平10-008081(JP,A)
【文献】特開平09-235581(JP,A)
【文献】国際公開第2008/038571(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
C10N 10/00- 80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑性基油(A)、中性リン系化合物(B)、酸性リン系化合物(C)、硫黄系化合物(D)および2級アミン化合物(E)を含み、引火点が172℃以上であり、
2級アミン化合物(E)が下記式(1)で表される化合物であ潤滑油組成物。
【化1】
(式中、RおよびRはそれぞれ独立に、置換基を有してもよい炭素数1~18のアルキル基または置換基を有してもよい炭素数2~18のアルケニル基である。)
【請求項2】
およびRはそれぞれ独立に、下記式(2)で表される基である、請求項に記載の潤滑油組成物。
-(CH)n-OH (2)
(式中、nは1~8の整数である。)
【請求項3】
2級アミン化合物(E)の含有量が、潤滑油組成物全量基準で0.01質量%以上0.5質量%以下である、請求項1または2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
前記潤滑性基油(A)の引火点が172℃以上である、請求項1~のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
請求項1~のいずれかに記載の潤滑油組成物であって、 機械装置に使用される潤滑油組成物。
【請求項6】
請求項に記載の潤滑油組成物であって、 前記機械装置が油圧装置、定置変速装置、自動車変速装置またはモーター・バッテリーの冷却装置である潤滑油組成物。
【請求項7】
請求項1~のいずれかに記載の潤滑油組成物を備える機械装置。
【請求項8】
請求項に記載の機械装置であって、前記機械装置が油圧装置、定置変速装置、自動車変速装置またはモーター・バッテリーの冷却装置である機械装置。
【請求項9】
潤滑性基油(A)、中性リン系化合物(B)、酸性リン系化合物(C)、硫黄系化合物(D)および2級アミン化合物(E)を混合する工程を含
2級アミン化合物(E)が下記式(1)で表される化合物であり、
【化2】
(式中、R およびR はそれぞれ独立に、置換基を有してもよい炭素数1~18のアルキル基または置換基を有してもよい炭素数2~18のアルケニル基である。)
引火点が172℃以上である潤滑油組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は潤滑油組成物、潤滑油組成物を備える機械装置および潤滑油組成物の製造方法
に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境保護の観点から二酸化炭素削減が強く求められており、そのため自動車の分野では省燃費技術の開発に力が注がれている。省燃費化の自動車にはハイブリッド車や電気自動車が挙げられ、これらの車は今後急速に普及すると予測されている。ハイブリッド車や電気自動車は電動モーターや発電機、インバータ、蓄電池などを備え、電動モーターの力を利用して走行する。
このようなハイブリッド車や電気自動車における電動モーターや発電機の冷却には、主に既存のオートマチックトランスミッションフルード(以下、ATF)や連続可変トランスミッションフルード(以下、CVTF)が使用されている。また、ハイブリッド車や電気自動車では歯車減速機を有する形式のものもあることから、潤滑油組成物として冷却性と潤滑性の双方を兼ね備えることが必要とされる。
【0003】
そこで、基油、中性リン系化合物、所定の構造の酸性リン酸エステルアミン塩および所定の構造の酸性亜リン酸エステルからなる群から選択される少なくとも一つの酸性リン系化合物、ならびに、硫黄系化合物を配合してなる潤滑油組成物が提案されている(特許文献1:WO11/080970)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】WO11/080970
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の潤滑油組成物においては、体積抵抗率、金属間の耐摩耗性及び溶解性が改善されたものの、より高い次元での耐摩耗性、耐焼付き性および低フリクション性の全てを満たす潤滑油組成物が求められている。また、さらに冷却性能が高い潤滑油組成物も求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明の発明者らは、基油、中性リン系化合物、酸性リン系化合物および硫黄系化合物を含む潤滑油組成物に、さらに2級アミン化合物を配合することによって、本発明の課題を解決するに至った。
【0007】
本発明には以下の態様の発明が含まれる。
[1]
潤滑性基油(A)、中性リン系化合物(B)、酸性リン系化合物(C)、硫黄系化合物(D)および2級アミン化合物(E)を含み、引火点が172℃以上である、潤滑油組成物。
[2]
2級アミン化合物(E)が下記式(1)で表される化合物である[1]に記載の潤滑油組成物。
【化1】
(式中、RおよびRはそれぞれ独立に、置換基を有してもよい炭素数1~18のアルキル基または置換基を有してもよい炭素数2~18のアルケニル基である。)
[3]
およびRはそれぞれ独立に、下記式(2)で表される基である、[2]に記載の潤滑油組成物。
-(CH)n-OH (2)
(式中、nは1~8の整数である。)
[4]
[1]~[3]のいずれかに記載の潤滑油組成物を備える機械装置。
[5]
潤滑性基油(A)、中性リン系化合物(B)、酸性リン系化合物(C)、硫黄系化合物(D)および2級アミン化合物(E)を混合する工程を含む、引火点が172℃以上である潤滑油組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様に係る潤滑油組成物は、耐摩耗性、耐焼付き性および低フリクション性のいずれも優れた特性を示す。また、本発明の一態様に係る潤滑油組成物はさらに優れた冷却性能を有する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施することができる。なお、本明細書に記載した全ての文献および刊行物は、その目的にかかわらず参照によりその全体を本明細書に組み込むものとする。
【0010】
本発明の潤滑油組成物は、潤滑性基油(A)、中性リン系化合物(B)、酸性リン系化合物(C)、硫黄系化合物(D)および2級アミン化合物(E)を含むものである。以下、潤滑油組成物に含まれる各成分について詳細に説明する。
【0011】
[潤滑性基油(A)]
潤滑油組成物に含まれる潤滑性基油(A)(以下、単に「基油」ともいう)は潤滑性を有する油であれば特に限定されず、鉱油でも合成油でもよい。これらの潤滑油基油の種類については特に制限はなく、従来、自動車用変速機用潤滑油の基油として使用されている鉱油や合成油の中から任意のものを適宜選択して用いることができる。
鉱油としては、例えば、原油を常圧蒸留して得られる常圧残油を減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製等のうちの1種以上の処理を行って精製した鉱油やワックスやGTL WAX(ガストゥリキッドワックス)を異性化することによって製造される鉱油等が挙げられる。これらのうち後述する%C、粘度指数の点から、水素化精製により処理した鉱油やGTL WAXを異性化することによって製造される鉱油が好ましい。
合成油としては、例えば、ポリブテン;α-オレフィン単独重合体、α-オレフィン共重合体(例えば、エチレン-α-オレフィン共重合体)等のポリα-オレフィン;ポリオールエステル、二塩基酸エステル、リン酸エステル等の各種のエステル;ポリフェニルエーテル等の各種のエーテル;ポリグリコール;アルキルベンゼン;アルキルナフタレン,等が挙げられる。これらの合成油のうち、ポリα-オレフィン、エステルが好ましい。これらの合成油は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、前記基油は、鉱油を1種含んでも、2種以上を含んでもよい。また、基油は、合成油を1種用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。さらに、前記基油は、鉱油1種以上および合成油1種以上を含んでもよい。
【0012】
基油は潤滑油組成物の主成分であり、通常、基油の含有量は、組成物全量基準で、好ましくは65~97質量%、より好ましくは70~96質量%、さらに好ましくは75~95質量%である。
【0013】
また、潤滑性基油(A)の引火点は限定されないが、引火点が高い潤滑油基油を用いると、得られる潤滑油組成物の引火点も高くなる傾向があるので好ましい。具体的には、潤滑性基油(A)の引火点は好ましくは172℃以上、さらに好ましくは引火点が174℃以上、特に好ましくは引火点が176℃以上であることが好ましい。潤滑性基油(A)が複数の鉱油または合成油等を含む場合、これらの全ての鉱油または合成油等の引火点が172℃以上である必要はなく、これらを混合して得られた潤滑性基油(A)の引火点が172℃以上であれば足りる。
【0014】
基油の粘度については特に制限はなく、潤滑油組成物の用途に応じて異なるが、温度100℃における動粘度が好ましくは2~30mm/s、より好ましくは2~15mm/s、さらに好ましくは2~10mm/sである。100℃における動粘度が2mm/s以上であれば蒸発損失が少なく、30mm/s以下であれば、粘性抵抗による動力損失が小さく、燃費改善効果が得られる。
基油の40℃における動粘度は、特に制限はないが、好ましくは5~65mm/s、より好ましくは8~40mm/s、さらに好ましくは10~25mm/sである。40℃における動粘度が5mm/s以上であれば蒸発損失が少なく、65mm/s以下であれば、粘性抵抗による動力損失が小さく、燃費改善効果が得られる。
本明細書において、「100℃での動粘度」および「40℃での動粘度」は、JIS-K-2283:2000に準拠した方法により測定することができる。なお、潤滑性基油(A)が2種類以上の油を含む場合には、「100℃での動粘度」及び「40℃での動粘度」は混合基油全体の動粘度を意味する。
さらに、基油の粘度指数は、特に制限はないが、好ましくは70以上、より好ましくは80以上、さらに好ましくは90以上である。当該粘度指数が70以上の基油は、温度の変化による粘度変化が小さい。基油の粘度指数が当該範囲であることで、潤滑油組成物の粘度特性を良好なものとしやすく、燃費改善効果が得られる。本明細書において、「粘度指数」は、JIS-K-2283:2000に準拠した方法により測定することができる。
【0015】
基油の環分析よる芳香族分(%C)および硫黄分の含有量は、特に制限はないが、%Cが3.0以下で、硫黄分の含有量が10質量ppm以下のものか好ましく用いられる。ここで、環分析による%Cは、ASTM D 3238に従って測定される環分析n-d-M法にて算出した芳香族分の割合(百分率)を示す。当該%Cが3.0以下で、硫黄分が10質量ppm以下の基油は、良好な酸化安定性を有し、酸価の上昇やスラッジの生成を抑制しうる潤滑油組成物を提供することができる。より好ましい%Cは1.0以下、さらに好ましくは0.5以下である。より好ましい硫黄分は7質量ppm以下であり、さらに好ましい硫黄分は5質量ppm以下である。
【0016】
基油の環分析によるパラフィン分(%C)は、特に制限はないが、好ましくは70以上で、より好ましくは75以上、さらに好ましくは79以上である。当該%Cを70以上とすることで、基油の酸化安定性が良好になる。上限は特に制限されないが、例えば98以下である。ここで、環分析による%Cとは、ASTM D 3238に従って測定される環分析n-d-M法にて算出したパラフィン分の割合(百分率)を示す。
【0017】
基油のNOACK蒸発量は、特に制限はないが、好ましくは15.0質量%以下であり、より好ましくは14.0質量%以下であり、より好ましくは13.0質量%以下である。NOACK蒸発量は、ASTM D 5800(250℃、1時間)に従って測定することができる。
【0018】
[中性リン系化合物(B)]
中性リン系化合物(B)は金属間の耐摩耗性向上の目的で添加される。中性リン系化合物(B)が用いられなければ、金属間の耐摩耗性を向上させることができない。
中性リン系化合物(B)は、中性でリン原子を含む化合物であれば特に限定されないが、好ましくは下記一般式(3)または(4)で表される化合物が用いられる。
【0019】
【化3】
【0020】
前記一般式(3)および(4)において、R、RおよびRの炭化水素基としては、炭素数6~30のアリール基、炭素数1~30のアルキル基または炭素数2~30のアルケニル基を示し、好ましくは炭素数8~28のアリール基、炭素数2~28のアルキル基、炭素数4~28のアルケニル基、さらに好ましくは炭素数10~26のアリール基、炭素数4~26のアルキル基、炭素数6~26のアルケニル基、特に好ましくは炭素数12~24のアリール基、炭素数6~24のアルキル基、炭素数6~24のアルケニル基を示す。R、RおよびRは同一でもよく、異なってもよい。
【0021】
中性リン系化合物(B)としては、例えば、トリクレジルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリクレジルフェニルホスフェート、トリクレジルチオスフェート、トリフェニルチオホスフェートなどの芳香族中性リン酸エステル;トリブチルホスフェート、トリ-2-エチルヘキシルホスフェート、トリブトキシホスフェート、トリブチルチオホスフェートなどの脂肪族中性リン酸エステル;トリフェニルホスファイト、トリクレジルホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、ジフェニルモノ-2-エチルヘキシルホスファイト、ジフェニルモノトリデシルホスファイト、トルクレジルチオホスファイト、トリフェニルチオホスファイトなどの芳香族中性亜リン酸エステル;トリブチルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリスデシルホスファイト、トリストリデシルホスファイト、トリオレイルホスファイト、トルブチルチオホスファイト、トリオクチルチオホスファイトなどの脂肪族中性亜リン酸エステルが挙げられる。これらの中性リン系化合物の中でも、金属間の耐摩耗性の観点から、芳香族中性リン酸エステル、脂肪族中性リン酸エステルなどを用いることが好ましい。また、これらの中性リン系化合物は単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0022】
潤滑油組成物における中性リン系化合物(B)の含有量は、組成物全量基準で2.5質量%以下であることが好ましく、0.12質量%以上であり2.5質量%以下であることがより好ましく、0.25質量%以上であり1.3質量%以下であることが特に好ましい。リン系化合物(B)の含有量が組成物全量基準で0.12質量%以上であると、潤滑油組成物における金属間の耐摩耗性をより向上させることができる。また、中性リン系化合物(B)の含有量が組成物全量基準で2.5質量%以下であると、中性リン系化合物(B)の潤滑油基油への溶解性を向上させることができる。また、中性リン系化合物(B)由来のリン量は、組成物全量基準におけるリン量換算で2000質量ppm以下であることが好ましく、100質量ppm以上であり2000質量ppm以下であることがより好ましく、200質量ppm以上であり、1000質量ppm以下であることが特に好ましい。 中性リン系化合物(B)の含有量が組成物全量基準におけるリン量換算で2000質量ppm以下であると、中性リン系化合物(B)の潤滑油基油への溶解性を向上させることができる。中性リン系化合物(B)の含有量が組成物全量基準におけるリン量換算で100質量ppm以上であると、潤滑油組成物における金属間の耐摩耗性をさらに向上させることができる。なお、ここでリンの含有量はJPI-5S-38-92に準拠して測定する。
【0023】
[酸性リン系化合物(C)]
酸性リン系化合物(C)は耐焼付き性向上の目的で添加される。酸性リン系化合物(C)が用いられなければ、耐焼付き性を向上させることができない恐れがある。
酸性リン系化合物(C)は、酸性でリン原子を含む化合物であれば特に限定されないが、好ましくは、下記一般式(5)で表される酸性リン酸エステルからなる群および下記一般式(6)で表される酸性亜リン酸エステルからなる群から選択される少なくとも一つの酸性リン系化合物である。
【0024】
【化5】
【0025】
前記一般式(5)および前記一般式(6)において、RおよびRは水素または炭素数8~30の炭化水素基を示す。また、RおよびRは同一でもよく、異なってもよい。さらに、RおよびRのうちの少なくとも一方は炭素数8~30の炭化水素基であるが、好ましくは両方が炭素数8~30の炭化水素基であり、さらに好ましくは10~28であり、特に好ましくは12~26である。前記炭化水素基の炭素数が8以上とすることで、潤滑油組成物の酸化安定性が向上し、他方、前記炭化水素基の炭素数が30以下とすることで、金属間の耐摩耗性が十分となる。さらに、RおよびRにおける炭化水素基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基などが挙げられる。
【0026】
前記一般式(5)で表される酸性リン酸エステルおよびそのアミン塩としては、例えば、ジ-2-エチルヘキシルアシッドホスフェート、ジラウリルアシッドホスフェート、ジオレイルアシッドホスフェートなどの脂肪族酸性リン酸エステル;ジフェニルアシッドホスフェート、ジクレジルアシッドホスフェートなどの芳香族酸性リン酸エステル;S-オクチルチオエチルアシッドホスフェート、S-ドデシルチオエチルアシッドホスフェートなどの硫黄含有酸性リン酸エステルなどが挙げられる。これらの酸性リン酸エステルおよびそのアミン塩は単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0027】
前記一般式(6)で表される酸性亜リン酸エステルおよびそのアミン塩としては、例えば、ジブチルハイドロゲンホスファイト、ジ-2-エチルヘキシルハイドロゲンホスファイト、ジラウリルハイドロゲンホスファイト、ジオレイルハイドロゲンホスファイトなどの脂肪族酸性亜リン酸エステル;ジフェニルハイドロゲンホスファイト、ジクレジルハイドロゲンホスファイトなどの芳香族酸性亜リン酸エステル;S-オクチルチオエチルハイドロゲンホスファイト、S-ドデシルチオエチルハイドロゲンホスファイトなどの硫黄含有酸性亜リン酸エステルなどを挙げられる。また、潤滑油組成物においては、これらの酸性亜リン酸エステルをそのアミン塩として含有していてもよい。これらの酸性亜リン酸エステルおよびそのアミン塩は単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0028】
潤滑油組成物において、酸性リン系化合物(C)の含有量は、組成物全量基準で0.8質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上であり0.8質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以上であり0.5質量%以下であることが特に好ましい。酸性リン系化合物(C)の含有量が組成物全量基準で0.8質量%以下であると、潤滑油組成物の体積抵抗率を十分なものとすることができる。また、酸性リン系化合物(C)の含有量が組成物全量基準で0.1質量%以上であると、潤滑油組成物における金属間の耐摩耗性をさらに向上させることができる。また、酸性リン系化合物(C)由来のリン量は、組成物全量基準におけるリン量換算で400質量ppm以下であることが好ましく、50質量ppm以上であり400質量ppm以下であることがより好ましく、50質量ppm以上であり250質量ppm以下であることが特に好ましい。酸性リン系化合物(C)由来のリン量は、組成物全量基準におけるリン量換算で400質量ppm以下であると、潤滑油組成物の体積抵抗率を十分なものとすることができる。また、酸性リン系化合物(C)由来のリン量は、組成物全量基準におけるリン量換算で50質量ppm以上であると、潤滑油組成物における金属間の耐摩耗性をさらに向上させることができる。なお、ここでリンの含有量はJPI-5S-38-92に準拠して測定する。
【0029】
[硫黄系化合物(D)]
硫黄系化合物(D))は耐焼付き性向上の目的で添加される。硫黄系化合物(D)が用いられなければ、耐焼付き性を向上させることができない恐れがある。
硫黄系化合物(D)は、硫黄原子を含む化合物であれば特に限定されない。硫黄系化合物(D)としては、公知のものが使用可能であるが、具体的には、チアジアゾール系化合物、ポリサルファイド系化合物、チオカーバメイト系化合物、硫化油脂系化合物、硫化オレフィン系化合物などが挙げられる。これらの硫黄系化合物の中でも、金属の耐焼付き性および金属間の耐摩耗性の観点から、チアジアゾール系化合物、ポリサルファイド系化合物が好ましい。これらの硫黄系化合物は単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0030】
前記チアジアゾール系化合物としては、適宜公知のものが使用可能であるが、例えば、下記一般式(7)で表されるものが挙げられる。
【化7】
【0031】
前記一般式(7)において、RおよびR10は、それぞれ炭素数1~30のアルキル基を示すが、好ましくは炭素数が6~20のアルキル基、さらに好ましくは8~18のアルキル基である。また、アルキル基は直鎖状でもよく、分岐状でもよい。また、RおよびR10は同一でもよく、異なってもよい。さらに、X1およびX2はそれぞれ1~3の整数を示し、硫黄原子の数を示すが、硫黄数が2のものを用いることが好ましい。前記一般式(7)で表されるチアジアゾール系化合物としては、2,5-ビス(n-ヘキシルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール、2,5-ビス(n-オクチルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール、2,5-ビス(n-ノニルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール、2,5-ビス(1,1,3,3-テトラメチルブチルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール、3,5-ビス(n-ヘキシルジチオ)-1,2,4-チアジアゾール、3,6-ビス(n-オクチルジチオ)-1,2
,4-チアジアゾール、3,5-ビス(n-ノニルジチオ)-1,2,4-チアジアゾール、3,5-ビス(1,1,3,3-テトラメチルブチルジチオ)-1,2,4-チアジアゾール、4,5-ビス(n-オクチルジチオ)-1,2,3-チアジアゾール、4,5-ビス(n-ノニルジチオ)-1,2,3-チアジアゾール、および4,5-ビス(1,1,3,3-テトラメチルブチルジチオ)-1,2,3-チアジアゾールが好ましく、2,5-ビス(n-ヘキシルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール、2,5-ビス(n-オクチルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール、2,5-ビス(n-ノニルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール、2,5-ビス(1,1,3,3-テトラメチルブチルジチオ)-1,3,4-チアジアゾールがより好ましく、2,5-ビス(1,1,3,3-テトラメチルブチルジチオ)-1,3,4-チアジアゾールが特に好ましい。
【0032】
前記ポリサルファイド系化合物としては、適宜公知のものが使用可能であるが、例えば、下記一般式(8)で表されるものが挙げられる。
11-(S)-R12 ・・・(8)
前記一般式(8)において、R11およびR12は、それぞれ炭素数1~24のアルキル基または炭素数3~20のアリール基、炭素数7~20のアルキルアリール基を示し、アルキル基として、好ましくは3以上20以下、更に好ましくは6以上16以下のものが挙げられる。アリール基として、好ましくは4以上20以下、更に好ましくは6以上16以下のものが挙げられる。アルキルアリール基として、好ましくは8以上20以下、更に好ましくは9以上18以下のものが挙げられる。また、R11およびR12は同一でもよく、異なってもよい。また、Yは硫黄原子の数を示し、耐摩耗性、疲労寿命、また入手のしやすさ、腐食等を考慮すると、Yは2以上8以下の整数が好ましく、2以上7以下の整数がより好ましく、2以上6以下の整数が更に好ましい。R11およびR12で表される基としては、フェニル基、ナフチル基、ベンジル基、トリル基、キシル基などのアリール基;メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基などのアルキル基が挙げられる。これらの基は直鎖状でもよく分岐状でもよい。また、これらの基は、単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。前記一般式(6)で表されるポリサルファイド系化合物の中でも、ジベンジルポリサルファイド、ジ-tert-ノニルポリサルファイド、ジドデシルポリサルファイド、ジ-tert-ブチルポリサルファイド、ジオクチルポリサルファイド、ジフェニルポリサルファイド、ジシクロヘキシルポリサルファイドなどがより好ましく、これらのジサルファイドが特に好ましい。
【0033】
潤滑油組成物において、硫黄系化合物(D)の含有量は、組成物全量基準で0.3質量%以下であることが好ましく、0.03質量%以上であり0.3質量%以下であることがより好ましく、0.03質量%以上であり0.15質量%以下であることが特に好ましい。硫黄系化合物(D)の含有量が組成物全量基準で0.3質量%以下であると、潤滑油組成物の体積抵抗率は維持できることが期待できる。硫黄系化合物(D)の含有量が組成物全量基準で0.03質量%以上であると、潤滑油組成物における金属間の耐焼付き性をさらに向上させることができる。また、硫黄系化合物(D)由来の硫黄量は、組成物全量基準における硫黄量換算で1000質量ppm以下であることが好ましく、125質量ppm以上であり1000質量ppm以下であることがより好ましく、さらに、潤滑油組成物の体積抵抗率と耐焼付き性との両立という観点から、125質量ppm以上であり500質量ppm以下であることが特に好ましい。硫黄系化合物(D)由来の硫黄量は、組成物全量基準における硫黄量換算で1000質量ppm以下であると、潤滑油組成物の体積抵抗率は維持できることが期待できる。硫黄系化合物(D)由来の硫黄量は、組成物全量基準における硫黄量換算で125質量ppm以上であると、潤滑油組成物における金属間の耐焼付き性をさらに向上させることができる。なお、ここで硫黄の含有量はJIS K 2501に準拠して測定する。
【0034】
[2級アミン化合物(E)]
潤滑油組成物は、潤滑性基油(A)、中性リン系化合物(B)、酸性リン系化合物(C)および硫黄系化合物(D)に加えて、さらに2級アミン化合物(E)を含むことを特徴とする。これによって、潤滑油組成物は耐焼付き性および耐摩耗性に加えて、低フリクション性を実現できる。2級アミン化合物(E)が用いられなければ、低フリクション性を実現させることができない恐れがある。
【0035】
潤滑油組成物に含まれる2級アミン化合物(E)は、2級アミンの構造を有する化合物であれば特に限定されない。2級アミン化合物(E)は式(1)の構造を有することが好ましい。式(1)中のRおよびRはそれぞれ独立に、置換基を有してもよい炭素数1~18のアルキル基または置換基を有してもよい炭素数2~18のアルケニル基であり、好ましくは、置換基を有してもよい炭素数1~14のアルキル基または置換基を有してもよい炭素数2~14のアルケニル基、さらに好ましくは置換基を有してもよい炭素数1~8のアルキル基または置換基を有してもよい炭素数2~8のアルケニル基、特に好ましくは置換基を有してもよい炭素数1~4のアルキル基または置換基を有してもよい炭素数2~4のアルケニル基である。これらのアルキル基およびアルケニルは直鎖状でもよく、分岐状でもよい。また、前記アルキル基およびアルケニルが有し得る置換基としては、水酸基、エステル基、カルボキシル基、アミド基、アルキン基、トリメチルシリル基、トリメチルシリルエチニル基、アリール基、アミノ基、ホスホニル基、チオ基、カルボニル基、ニトロ基、スルホ基、イミノ基、ハロゲノ基、アルコキシ基、ハロゲン原子(例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)又はシリル基などを挙げることができるが、好ましくは水酸基、エステル基、カルボキシル基、アミド基、アリール基、アミノ基であり、さらに好ましくは水酸基であり、特に好ましくは水酸基である。置換基は、置換可能な位置に1個以上導入されていてもよく、好ましくは1個~4個導入されていてもよい。置換基数が2個以上である場合、各置換基は互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0036】
また、式(1)中のRおよびRは式(2)で表される基であることが好ましい。式(2)中のnは1~8の整数であるが、好ましくは1~6の整数、さらに好ましくは1~3の整数である。
【0037】
潤滑油組成物において、2級アミン化合物(E)の含有量は、潤滑油組成物の低フリクション実現の観点から、潤滑油組成物全量基準で0.01質量%以上0.5質量%以下であることが好ましく、0.03質量%以上0.4質量%以下であることがさらに好ましく、0.07質量%以上0.3質量%以下であることが特に好ましい。
【0038】
[添加剤]
潤滑油組成物には、発明の効果を阻害しない範囲で、粘度指数向上剤、清浄分散剤、酸化防止剤、金属不活性剤、防錆剤、界面活性剤・抗乳化剤、消泡剤、腐食防止剤、油性剤および酸捕捉剤などを適宜配合して使用することができる。
【0039】
粘度指数向上剤としては、例えば、非分散型ポリメタクリレート、分散型ポリメタクリレート、オレフィン系共重合体、分散型オレフィン系共重合体、およびスチレン系共重合体等が挙げられる。これら粘度指数向上剤の質量平均分子量は、例えば分散型および非分散型ポリメタクリレートでは5000以上300000以下が好ましい。また、オレフィン系共重合体では800以上100000以下が好ましい。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。粘度指数向上剤の配合量は、特に限定されないが、組成物全量基準で、0.5質量%以上15質量%以下が好ましく、1質量%以上10質量%以下がより好ましい。
【0040】
清浄分散剤としては、無灰分散剤、金属系清浄分散剤を用いることができる。
無灰分散剤としては、例えば、コハク酸イミド化合物、ホウ素系イミド化合物、マンニッヒ系分散剤、酸アミド系化合物が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。無灰系分散剤の配合量は、特に限定されないが、組成物全量基準で、0.1質量%以上20質量%以下であることが好ましい。
金属系清浄分散剤としては、例えば、アルカリ金属スルホネート、アルカリ金属フェネート、アルカリ金属サリシレート、アルカリ金属ナフテネート、アルカリ土類金属スルホネート、アルカリ土類金属フェネート、アルカリ土類金属サリシレート、アルカリ土類金属ナフテネートが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。金属系清浄分散剤の配合量は、特に限定されないが、組成物全量基準で、0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。
【0041】
酸化防止剤としては、例えば、アミン系の酸化防止剤、フェノール系の酸化防止剤、硫黄系の酸化防止剤が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。酸化防止剤の配合量は、特に限定されないが、組成物全量基準で、0.05質量%以上7質量%以下であることが好ましい。
【0042】
流動点降下剤としては、ポリメタクリレート、エチレン-酢酸ビニル共重合体、塩素化パラフィンとナフタレンとの縮合物、塩素化パラフィンとフェノールとの縮合物、ポリアルキルスチレン、ポリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。 流動点降下剤の質量平均分子量(Mw)は、20,000~100,000であることが好ましく、30,000~80,000であることがより好ましく、40,000~60,000であることが更に好ましい。また、分子量分布(Mw/Mn)は、5以下が好ましく、3以下がより好ましく、2以下が更に好ましい。 流動点降下剤の含有量は、所望のMRV粘度等に応じて適宜決定すればよく、組成物全量基準で、0.01質量%以上5質量%以下が好ましく、0.02質量%以上2質量%以下がより好ましい。
【0043】
金属不活性剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系金属不活性剤、トリルトリアゾール系金属不活性剤、チアジアゾール系金属不活性剤、およびイミダゾール系金属不活性剤が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。金属不活性剤の配合量は、特に限定されないが、組成物全量基準で、0.01質量%以上3質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以上1質量%以下であることがより好ましい。
【0044】
防錆剤としては、例えば、石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、および多価アルコールエステルが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。防錆剤の配合量は、特に限定されないが、組成物全量基準で、0.01質量%以上1質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以上0.5質量%以下であることがより好ましい。
【0045】
界面活性剤・抗乳化剤としては、例えば、ポリアルキレングリコール系非イオン性界面活性剤が挙げられる。具体的には、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテルが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。界面活性剤の配合量は、特に限定されないが、組成物全量基準で、0.01質量%以上3質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以上1質量%以下であることがより好ましい。
【0046】
消泡剤としては、例えば、フルオロシリコーン油、フルオロアルキルエーテルが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。消泡剤の配合量は、特に限定されないが、組成物全量基準で、0.005質量%以上0.5質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以上0.2質量%以下であることがより好ましい。
【0047】
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系腐食防止剤、ベンズイミダゾール系腐食防止剤、ベンゾチアゾール系腐食防止剤、チアジアゾール系腐食防止剤が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。腐食防止剤の配合量は、特に限定されないが、組成物全量基準で、0.01質量%以上1質量%以下の範囲であることが好ましい。
油性剤としては、例えば、脂肪族モノカルボン酸、重合脂肪酸、ヒドロキシ脂肪酸、脂肪族モノアルコール、脂肪族モノアミン、脂肪族モノカルボン酸アミド、多価アルコールと脂肪族モノカルボン酸との部分エステルが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。油性剤の配合量は、特に限定されないが、組成物全量基準で、0.01質量%以上10質量%以下の範囲であることが好ましい。
【0048】
酸捕捉剤としては、エポキシ化合物を用いることができる。具体的には、フェニルグリシジルエーテル、アルキルグリシジルエーテル、アルキレングリコールグリシジルエーテル、シクロヘキセンオキシド、α-オレフィンオキシド、エポキシ化大豆油が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。酸捕捉剤の配合量は、特に限定されないが、組成物全量基準で、0.005質量%以上5質量%以下の範囲であることが好ましい。
【0049】
[潤滑油組成物の性状等]
潤滑油組成物の動粘度はJIS-K-2283:2000に準拠した方法により測定することができる。
潤滑油組成物の100℃における動粘度としては、潤滑性能、粘度特性、および省燃費性の向上の観点から、好ましくは14.0mm/s以下であり、より好ましくは12.5mm/s以下であり、さらに好ましくは10.0mm/s以下であり、また、好ましくは2.0mm/s以上、より好ましくは2.2mm/s以上、さらに好ましくは2.5mm/s以上である。
潤滑油組成物の40℃における動粘度としては、潤滑性能、粘度特性、および省燃費性の向上の観点から、好ましくは80.0mm/s以下であり、より好ましくは70.0mm/s以下であり、さらに好ましくは65.0mm/s以下であり、また、好ましくは5.0mm/s以上、より好ましくは7.0mm/s以上、さらに好ましくは10.0mm/s以上である。
【0050】
潤滑油組成物の粘度指数はJIS-K-2283:2000に準拠した方法により測定することができる。潤滑油組成物の粘度指数(Vscosity Index)は、温度変化による粘度変化を抑え、省燃費性の向上の観点から、好ましくは90以上、より好ましくは100以上、さらに好ましくは103以上である。
【0051】
[引火点]
潤滑油組成物の引火点が172℃未満であると、潤滑油組成物が用いられる機械装置を冷却する能力が低下する恐れがある。潤滑油組成物の引火点を高くするためには、例えば、潤滑性基油(A)を構成する各油に引火点が高い油を用いることで達成できる。
潤滑油組成物の引火点は172℃以上であり、好ましくは174℃以上、さらに好ましくは176℃以上である。
【0052】
[潤滑油組成物の用途]
上述した本発明の潤滑油組成物は、引火点が所定の範囲であり、潤滑性(耐摩耗性、耐焼付性、低フリクション性)を発揮できるようになる。そのため、油圧装置、定置変速装置、自動車変速装置、モーター・バッテリーの冷却装置などの機械装置に好ましく適用することができる。
【0053】
[潤滑油組成物の製造方法]
本発明の潤滑油組成物の製造方法は、特に制限されない。潤滑性基油(A)、中性リン系化合物(B)、酸性リン系化合物(C)、硫黄系化合物(D)および2級アミン化合物(E)は、いかなる方法で配合されてもよく、その手法は限定されない。
【0054】
[機械装置]
潤滑油組成物は機械装置における潤滑性を向上させるものであり、油圧装置、定置変速装置、自動車変速装置またはモーター・バッテリーの冷却装置である機械装置に用いることができる。例えば、潤滑油組成物はハイブリッド自動車、電気自動車などに搭載されるモーター、ディーゼルエンジン用またはガソリンエンジンに搭載されるエンジン、自動車等の変速機械などに用いることができる。特に、ハイブリッド自動車、電気自動車などに搭載される変速機械に用いることが好ましい。
【実施例
【0055】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によっては制限されない。
【0056】
実施例および比較例における性状および性能は以下のとおりに測定した。
(1)動粘度
JIS-K-2283:2000に準拠し、ガラス製毛管式粘度計を用いて、40℃における動粘度および100℃における動粘度を測定した。
(2)粘度指数(Viscosity Index)
JIS-K-2283:2000に準拠した方法により測定した。
(3)引火点
JIS-K-2265に準拠し、C.O.C法により測定した。
(4)耐摩耗性
耐摩耗性はシェル四球摩耗試験によって評価した。具体的には、ASTM D4172に記載の方法に準拠して、回転数1800rpm、試験温度80℃、荷重392N、試験時間30分間の試験条件における摩耗痕径を測定することにより、金属間の耐摩耗性を評価した。なお、摩耗痕径が小さいほど金属間の耐摩耗性が優れている。
(5)耐焼付き性
ASTM D2783-03(2014)に準拠し、回転数1800rpm、室温の条件で行い、融着荷重WL(N)を測定した。この値が大きいほど、耐焼付性に優れている。
(6)フリクション性
JASO法(高荷重法)M358:2005に準拠したLFW-1試験によって、金属間摩擦係数を測定した。この値が小さいほど、耐焼付性に優れている。
【0057】
[実施例1~3、比較例1~6]
以下に示す潤滑性基油(A)、中性リン系化合物(B)、酸性リン系化合物(C)、硫黄系化合物(D)、アミン化合物等を用いて、表1に示す組成にしたがって潤滑油組成物を調製した。潤滑油組成物を構成する表1に記載の各成分は以下のとおりである。
[潤滑性基油(A)]
鉱油-1:100℃動粘度が2.4mm/s、粘度指数は110、引火点が186℃である鉱油
鉱油-2:100℃動粘度が2.4mm/s、粘度指数は105、引火点が176℃である鉱油
鉱油-3:100℃動粘度が2.4mm/s、粘度指数は100、引火点が170℃である鉱油
合成油-1:100℃動粘度が2.4mm/s、粘度指数は110、引火点が186℃である合成油
[中性リン系化合物(B)]
トリクレジルホスフェート(TCP)
[酸性リン系化合物(C)]
ジオレイルアシッドホスフェート
[硫黄系化合物(D)]
2,5-ビス(1,1,3,3-テトラメチルブチルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール
[2級アミン化合物(E)]
ジエタノールアミン(式(1)においてR,Rが式(2)であり、式(2)のnが2である。)
[1級アミン化合物]
リン酸エステルアミン塩
【0058】
また、実施例および比較例の組成物に含まれるその他添加剤(残部)は粘度指数向上剤、酸化防止剤、清浄分散剤、流動点降下剤、消泡剤等からなる。
【0059】
【表1】
【0060】
表1に示すとおり、実施例1~3と比較例2~6とを比較すると、潤滑性基油(A)、中性リン系化合物(B)、酸性リン系化合物(C)、硫黄系化合物(D)および2級アミン化合物(E)を全て含む潤滑油組成物が、耐摩耗性、耐焼き付き性およびフリクション性のいずれについても優れた性能を有することがわかった。
また、実施例1~3と比較例5~6とを比較すると、2級アミン化合物(E)を用いると、得られる潤滑油組成物のフリクション性を向上することがわかった。
実施例1~3と比較例1とを比較すると、潤滑性基油として引火点が高い基油を用いると、得られる潤滑油組成物の引火点が高くなることがわかった。また、実施例1~3では、潤滑性基油(A)に引火点が高い基油を用いると、潤滑油組成物の引火点が高くなり。特に、実施例1および3は潤滑性基油(A)に引火点が186℃以上であるため、得られる潤滑油組成物の引火点も高くなった。