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特許7075898B細胞集団の製造方法、及びそれを用いたモノクローナル抗体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-18
(45)【発行日】2022-05-26
(54)【発明の名称】B細胞集団の製造方法、及びそれを用いたモノクローナル抗体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/07 20060101AFI20220519BHJP
   C12N 5/0781 20100101ALI20220519BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20220519BHJP
【FI】
C12N15/07 100
C12N5/0781
C12P21/08
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018561437
(86)(22)【出願日】2018-01-15
(86)【国際出願番号】 JP2018000757
(87)【国際公開番号】W WO2018131698
(87)【国際公開日】2018-07-19
【審査請求日】2020-12-17
(31)【優先権主張番号】P 2017004860
(32)【優先日】2017-01-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「平成28年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、[医療分野研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)]「ヒトB細胞由来の完全ヒト抗体作製技術の実用性検証」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの」
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(73)【特許権者】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】馬渡 達也
(72)【発明者】
【氏名】中石 智之
(72)【発明者】
【氏名】北 寛士
(72)【発明者】
【氏名】北野 光昭
(72)【発明者】
【氏名】北村 大介
【審査官】林 康子
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-092142(JP,A)
【文献】特開2012-029685(JP,A)
【文献】国際公開第2016/002760(WO,A1)
【文献】Immunology, 2012, Vol.137, Suppl.1, p332, P0445
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/0781
C12P 21/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
B細胞を含む細胞集団を、CD40及びBAFF受容体を介した刺激を付与しながら、IL-4及びIL-2の存在下で培養する工程a;
工程aで得られたB細胞を含む細胞集団を、CD40及びBAFF受容体を介した刺激を付与しながら、IL-21及びIL-2の存在下で培養する工程b;
工程bで得られたB細胞を含む細胞集団を、CD40及びBAFF受容体を介した刺激を付与しながら、IL-21の非存在下、IL-4の非存在下、かつIL-2の存在下において特定抗原と共に培養する工程c;
工程cで得られたB細胞を含む細胞集団を、Fasを介した刺激を付与しながら培養し、前記特定抗原を認識するB細胞を含むB細胞集団を得る工程d;及び
工程dで得られたB細胞を含む細胞集団を、CD40及びBAFF受容体を介した刺激を付与しながら、IL-2及びIL-21の存在下で培養する工程e;
を含む、B細胞集団の製造方法。
【請求項2】
工程dにおいて、Fasを介した刺激を付与しながらIL-21の存在下又はIL-21及びIL-2の存在下で前記B細胞を含む細胞集団を培養する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程dを、特定抗原の非存在下で行う、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記工程cが、CD40L、BAFF及び特定抗原を提示した担体を用いてB細胞を含む細胞集団を培養する工程である、請求項1からの何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
CD40L、BAFF及び特定抗原を提示した担体が、CD40L、BAFF及び特定抗原を提示したフィーダー細胞である、請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記工程dが、CD40L、BAFF及びFasLを提示した担体を用いてB細胞を含む細胞集団を培養する工程である、請求項1からの何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
CD40L、BAFF及びFasLを提示した担体が、CD40L、BAFF及びFasLを提示したフィーダー細胞である、請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記B細胞が、ヒトB細胞である、請求項1からの何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
請求項1からの何れか一項に記載の製造方法によりB細胞集団を得る工程、及び得られたB細胞集団を培養することによってモノクローナル抗体を製造する工程を含む、モノクローナル抗体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、B細胞集団の製造方法、及びそれを用いたモノクローナル抗体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特定の抗原に対して高い選択性を示すモノクローナル抗体は、抗体医薬としての開発が期待され、特に癌細胞を標的とする抗体医薬の開発が進んでいる。モノクローナル抗体を有効成分とする医薬をヒトの治療に適用するには、異種抗原の量が少ないヒトの抗体を投与することが、拒絶反応回避の観点から最も理想的である。このため多くのキメラ抗体やヒト化抗体が開発されている。
【0003】
一般にヒト治療用のキメラ抗体やヒト化抗体は、抗原をマウス等に複数回免疫した後に、脾臓やリンパ節の細胞をミエローマ細胞と融合してハイブリドーマを形成し、ハイブリドーマが産生するマウスIgG抗体を基に、組換え技術を用いて作製している。しかしながら、マウス等の動物個体を用いることや、高い親和性を示す抗体を産生するハイブリドーマを選択することには時間がかかり、組換え技術により得られた抗体の活性を確認する必要がある。このため、上記の方法では、目的とする抗体の作製に時間がかかる上に、その効果はヒトに投与するまで確定できない。また、免疫抗原が個体毒性を示す場合には個体への免疫は困難である。さらに、動物種間で保存性の高いタンパク抗原を抗原とする場合、免疫学的寛容のために抗体が産生されにくい。
【0004】
B細胞は、骨髄に由来する細胞で表面にB細胞レセプター(BCR)をもつ免疫細胞であり、抗体を産生する細胞である。B細胞は、造血幹細胞から発生し、プロB細胞及びプレB細胞を経て、B細胞へと分化する。抗原に対する高い親和性を示す抗体を産生するB細胞は胚中心で選択されることが知られているが、この選択の機構は充分には解明されていない。特定の抗原に対して高い親和性を示す抗体を産生するB細胞を人為的に増殖させて濃縮することができれば、特定の抗原に対して高い親和性を示すモノクローナル抗体をより短時間で作製できる。
【0005】
特許文献1には、特定抗原に特異的なIgG陽性B細胞を含む抗原特異的B細胞集団の製造方法であって、IgG陽性B細胞を、IL-21の存在下で、CD40、BAFF受容体、Fasを介した刺激を付与しながら、前記特定抗原と共に培養して前記特定抗原に特異的な抗原特異的B細胞を選別し、前記特定抗原に特異的なIgG陽性B細胞を含む抗原特異的B細胞集団を得ることを含む当該製造方法が記載されている。
【0006】
特許文献2には、Bach2遺伝子の発現が上昇しているB細胞を、CD40及び/又は BAFF受容体に対する作用手段の存在下において培養する工程を含む、B細胞集団の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5550132号
【文献】国際公開WO2016/002760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、特定抗原を認識するB細胞を含むB細胞集団を効率良く製造する方法を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、CD40及びBAFF受容体を介した刺激を付与しながら、IL-21の非存在下、IL-4の非存在下、かつIL-21及びIL-4以外のサイトカインの存在下において特定抗原と共にB細胞を含む細胞集団を培養し、次いで、Fasを介した刺激を付与しながら前記B細胞を含む細胞集団を培養することによって、特定抗原を認識するB細胞を含むB細胞集団を効率良く製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明によれば以下の発明が提供される。
[1] CD40及びBAFF受容体を介した刺激を付与しながら、IL-21の非存在下、IL-4の非存在下、かつIL-21及びIL-4以外のサイトカインの存在下において特定抗原と共にB細胞を含む細胞集団を培養する工程c;及び
Fasを介した刺激を付与しながら前記B細胞を含む細胞集団を培養し、前記特定抗原を認識するB細胞を含むB細胞集団を得る工程d、
を含む、B細胞集団の製造方法。
[2] 前記サイトカインが、IL-21及びIL-4以外のインターロイキンである[1]に記載の方法。
[3] 前記サイトカインが、IL-2、IL-10ファミリー及びIL-12ファミリーから選択される少なくとも1種のサイトカインである、[1]又は[2]に記載の方法。
[4] 前記サイトカインが、IL-2、IL-20、IL-24及びIL-27から選択される少なくとも1種である、[1]から[3]の何れか一に記載の方法。
[5] 工程dにおいて、Fasを介した刺激を付与しながらIL-21の存在下又はIL-21及びIL-2の存在下で前記B細胞を含む細胞集団を培養する、[1]から[4]の何れか一に記載の方法。
[6] 工程dを、特定抗原の非存在下で行う、[1]から[5]の何れか一に記載の方法。
[7] 工程cに先立って、B細胞を含む細胞集団を、CD40及びBAFF受容体を介した刺激を付与しながら、IL-4の存在下又はIL-4及びIL-2の存在下で培養する工程aをさらに含む、[1]から[6]の何れか一に記載の方法。
[8] 工程aと工程cとの間に、B細胞を含む細胞集団を、CD40及びBAFF受容体を介した刺激を付与しながら、IL-21の存在下又はIL-21及びIL-2の存在下で培養する工程bをさらに含む、[7]に記載の方法。
[9] 前記工程cが、CD40L、BAFF及び特定抗原を提示した担体を用いてB細胞を含む細胞集団を培養する工程である、[1]から[8]の何れか一に記載の方法。
[10] CD40L、BAFF及び特定抗原を提示した担体が、CD40L、BAFF及び特定抗原を提示したフィーダー細胞である、[9]に記載の方法。
[11] 前記工程dが、CD40L、BAFF及びFasLを提示した担体を用いてB細胞を含む細胞集団を培養する工程である、[1]から[10]の何れか一に記載の方法。
[12] CD40L、BAFF及びFasLを提示した担体が、CD40L、BAFF及びFasLを提示したフィーダー細胞である、[11]に記載の方法。
[13] 前記B細胞が、ヒトB細胞である、[1]から[12]の何れか一に記載の方法。
[14] [1]から[13]の何れか一に記載の製造方法により得られたB細胞集団を培養することによってモノクローナル抗体を製造する工程を含む、モノクローナル抗体の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、特定抗原を認識するB細胞を含むB細胞集団を簡便に効率良く製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の実施例におけるB細胞集団の選別工程の培養スケジュールである。
図2図2は、本発明の実施例におけるB細胞選別工程後の細胞集団の、抗CD19抗体及びAlexa647標識Her2-Tag2を用いた二次元染色の結果を示す。
図3図3は、本発明の実施例及び比較例におけるB細胞選別方法の選択効率を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について説明する。
本発明のB細胞集団の製造方法は、CD40及びBAFF受容体を介した刺激を付与しながら、IL-21の非存在下、IL-4の非存在下、かつIL-21及びIL-4以外のサイトカインの存在下において特定抗原と共にB細胞を含む細胞集団を培養する工程c;及びFasを介した刺激を付与しながら前記B細胞を含む細胞集団を培養し、前記特定抗原を認識するB細胞を含むB細胞集団を得る工程dを含む、方法である。本発明の方法で製造される特定抗原を認識するB細胞は、特定抗原に特異的なB細胞であることが好ましい。
【0014】
<工程cについて>
本発明における工程cは、CD40及びBAFF受容体を介した刺激を付与しながら、IL-21の非存在下、IL-4の非存在下、かつIL-21及びIL-4以外のサイトカインの存在下において特定抗原と共にB細胞を含む細胞集団を培養する工程である。
【0015】
本発明に用いられるB細胞を含有する細胞集団は、一般には末梢血細胞、骨髄細胞又は、リンパ系臓器、例えば脾臓細胞などに由来する細胞集団であれば良く、特に限定されない。またB細胞としては、抗原未反応のナイーブB細胞であっても、抗原接触後の記憶B細胞であってもよい。ここで本明細書における「ナイーブB細胞」とは、抗原未反応の成熟B細胞を一般に指し、CXCR5陽性且つCD40陽性の表面抗原を示す細胞が該当する。
【0016】
また、本発明に用いられる細胞集団は、CD40、BAFF受容体(BAFF-R)及びFasを有し且つ抗原を認識可能なB細胞受容体(BCR)を発現しているものであればよく、本発明を妨げない範囲であれば、分化段階における他のステージのB細胞が含まれていてもよい。培養の選択効率の観点から、CD138陽性(プラズマ)細胞や、B細胞以外の細胞、例えば、T細胞、単球、NK細胞等を除去することが好ましい。
【0017】
本発明において用いられる細胞集団は、免疫系が確立された生物由来の細胞集団であればよく、哺乳動物の霊長類、例えばヒト、サルなど、有蹄類、例えばブタ、ウシ、ウマなど、小型哺乳類の齧歯類、例えばマウス、ラット、ウサギなど、鳥類、例えばニワトリ、ウズラなどが含まれる。本細胞集団の由来としては霊長類であることが好ましく、ヒトを例示することができる。即ち、本発明で用いるB細胞は好ましくはヒトB細胞である。脾臓等の生体組織から細胞集団を調整する方法は、通常のB細胞集団を調製する条件をそのまま適用すればよい。また、生体由来の細胞集団に限定されず、確立されたB細胞株であってもよい。
【0018】
B細胞集団の培養は、通常、B細胞の培養に用いられる培地による通常の培養条件であればよい。このような培地としては、例えば、ダルベッコ改変イーグル培地(D-MEM)やRPMI-1640などを挙げることができる。これらの培地に対しては、通常、血清、各種ビタミン、各種抗生物質等、通常の細胞培養に適用可能な各種添加剤を添加してもよい。
【0019】
培養温度などの培養条件は、一般的なB細胞に対して用いられる培養条件をそのまま適用することができ、例えば、37℃、5%(v/v)CO2の条件が挙げられる。
【0020】
細胞集団の培地への播種密度は、細胞集団の由来や組織から調製した細胞の状態、また同一培養系内で行う培養日数によって異なるが、一般に、1×102個~1×107個/cm2、好ましくは1×103個~1×106個/cm2とすればよく、特にヒトB細胞は高密度で培養を開始した場合の増殖率がよいことから、好ましくは1×104個~1×106個/cm2とすればよい。この範囲であれば、3日間程度の培養後に増殖状態になることを予防できる。
【0021】
本発明に用いられるB細胞は、特定の抗原に対して刺激を行う段階で、CD40、BAFF受容体、及びFasを介した刺激により細胞内シグナルを生じさせるために、CD40、BAFF受容体(BAFF-R)及びFasを有することを要する。これらの分子に対する刺激は、これらの分子を外部から認識してCD40、BAFF受容体及びFasを有するB細胞の内部に細胞内シグナルを生じさせるものであれば制限はなく、これらの分子の全部又は一部を認識する抗体又は抗体断片、CD40リガンド(CD40L)、BAFF及びFasリガンド(FasL)を挙げることができる。なお、CD40及びBAFF受容体を介した刺激は、CD40L及びBAFFのうち1つ以上を、CD40又はBAFF受容体に対する抗体又は抗体断片に代えて与える形態も可能である(特許文献1参照)。
【0022】
CD40Lは、CD40に対するリガンドであり、CD40Lのアミノ酸配列は公知となっている(例えば、Nature, Vol.357, pp.80-82 (1992)及び、EMBO J., Vol.11, pp.4313-4321 (1992)参照)。本発明では、CD40Lの配列のうち、受容体結合能に関与する活性ドメインの結合能が失われない程度に保存されていればよく、例えば、活性ドメインの80%以上のアミノ酸配列相同性があれば、本発明において利用可能である。このようなCD40Lは、自然に発現する細胞から単離したものであってもよく、既知のアミノ酸配列に基づいて合成したものであってもよい。また、CD40Lは、培養系中のB細胞に対してCD40Lの存在に対応したシグナルを与えることができる形態であればよく、遊離型であっても、膜結合型であってもよい。
【0023】
遊離型CD40LなどのCD40の刺激因子は、IgG陽性B細胞を含む細胞集団を形成するためには、B細胞が増殖を維持可能な濃度で培養系に存在すればよく、例えば、10ng/ml~10μg/mlだが、B細胞の増殖に伴う相対的な減少を考慮して好ましくは50ng/ml~10μg/mlとすることができる。
【0024】
BAFF(B細胞活性化因子:B cell activation factor belonging to the tumor necrosis factor family)は、TNF類縁分子であって抗原と反応したB細胞の増殖、分化等に関与していることが知られている分子であり、BAFFのアミノ酸配列は既に公知となっている(例えば、J Exp Med, Vol.189, pp.1747-1756 (1999)及び、Science, Vol. 285, pp.260-263 (1999)及び、J Bio Chem, Vol.274, pp.15978-15981, (1999))。本発明では、BAFFの配列のうち、受容体結合能に関与する活性ドメインの結合能が失われない程度に保存されていればよく、例えば、活性ドメインの80%以上のアミノ酸配列相同性があれば、本発明において利用可能である。このようなBAFFは、自然に発現する細胞から単離したものであってもよく、既知のアミノ酸配列に基づいて合成したものであってもよい。また、BAFFは、培養系中のIgG陽性B細胞に対してBAFFの存在に対応したシグナルを与えることができる形態であればよく、遊離型(即ち、分泌型)であっても、膜結合型であってもよい。
【0025】
遊離型BAFFなどのBAFF受容体の刺激因子は、IgG陽性B細胞を含む細胞集団を形成するためには、B細胞が増殖を維持可能な濃度で培養系に存在すればよく、例えば、10ng/ml~10μg/ml、高濃度であればより生存支持活性が期待できるとの観点から好ましくは50ng/ml~10μg/ml濃度とすることができる。
【0026】
なお、CD40L、BAFFの由来としては、上述した細胞集団と同様に、哺乳動物の霊長類、有蹄類、小型哺乳類の齧歯類、鳥類などが挙げられ、好ましくは、齧歯類及び哺乳類由来のものであり、マウス、ヒトを例示する事ができる。また提示対象となる上記細胞集団と同一の主に由来するものであってもよく、異なる主に由来するものであってもよい。
【0027】
CD40又はBAFF受容体に対する抗体又は抗体断片は、当業界で既知の方法に従って得ることができる。CD40又はBAFF受容体に対して結合能を有する抗体であれば、特に制限はない。
これらの抗体又は抗体断片は、担体の表面に提示された形態であっても、抗体表面に固定化されていない遊離型又は可溶化形態であってもよい。
【0028】
工程cにおいては、IL-21の非存在下、IL-4の非存在下、かつIL-21及びIL-4以外のサイトカインの存在下において特定抗原と共にB細胞を含む細胞集団を培養する。
【0029】
IL-21及びIL-4以外のサイトカインとしては、B細胞活性化因子(B細胞を活性化及び/又は分化させることが知られる、任意の各種サイトカイン又は成長因子)を使用することができる。具体的には、特には限定されないが、インターロイキン(現在までにIL-1~IL-38およびIL-17B~IL-17Dなどのサブファミリー、OSM(オンコスタチンM)、LIF(白血球遊走阻止因子)、CNTF(毛様体神経栄養因子)、CT-1を含む)、IFN-α、IFN-β、IFN-δ、IFN-γ、C型ケモカインXCL1およびXCL2、C-C型ケモカイン(現在までにCCL1~CCL28を含む)、CXC型ケモカイン(現在までにCXCL1~CXCL17を含む)、TNFスーパーファミリーメンバー(現在までにTNFSF1~TNFSF18を含む)、Toll様受容体作動薬(LPSおよびCpGを含む)、TGF-βスーパーファミリー(TGF-βおよびアクチビンを含む)および細胞増殖因子(SCF、Flt3リガンド、M-CSF、GM-CSF、インスリンなどの受容体型チロシンキナーゼを介してシグナルを伝達するものを含む)などを挙げることができ、上記の中からB細胞表面にその受容体が発現しているものを使用することができる。
【0030】
IL-21及びIL-4以外のサイトカインとしては、IL-21及びIL-4以外のインターロイキンであることが好ましい。
IL-21及びIL-4以外のサイトカインとしては、IL-2、IL-10ファミリー及びIL-12ファミリーから選択される少なくとも1種のサイトカインであることが好ましい。
【0031】
IL-10ファミリー及びIL-12ファミリーに属するサイトカインは、天然由来のものであってもよく、生物工学的に得られた組換え体のものであってもよい。IL-10ファミリー及びIL-12ファミリーに属するサイトカインの由来としては、上述した細胞集団と同様に、哺乳動物の霊長類、有蹄類、小型哺乳類の齧歯類、鳥類などが挙げられる。これらの分子はそれぞれ、好ましくは、齧歯類及び哺乳類由来のものであり、例えばマウス、ヒトなどを挙げることができる。また、提示対象となる上記細胞集団と同一の種に由来する分子であってもよく、異なる種に由来する細胞であってもよい。
【0032】
IL-10サイトカインファミリーには、IL-10、IL-19、IL-20、IL-22、IL-24、IL-26が含まれる。B細胞に対する作用機序はまだ全て明らかになっていないが、B細胞の分化を抑制することが報告されている。(非特許文献:Blood, 115(9):1718-26 (2010))
【0033】
IL-12サイトカインファミリーには、IL-12、IL-23、IL-27、IL-30、IL-35が含まれる。B細胞に対する作用機序はまだ全て明らかになっていないが、シグナル伝達兼転写活性化因子STAT1およびSTAT3を介してヒトB細胞を活性化させることが報告されている。(非特許文献:Journal of Immunology, 176(10):5890-7 (2006))
【0034】
IL-21及びIL-4以外のサイトカインの具体例としては、IL-2、IL-20、IL-24及びIL-27から選択される少なくとも1種を挙げることができる。
【0035】
IL-21及びIL-4以外のサイトカイン(IL-10ファミリー又はIL-12ファミリーに属するサイトカインなど)の濃度は、特定抗原に対して親和性を有するB細胞を増殖可能な量であればよく、一般に、10ng/mL~1μg/mLとすることが好ましく、10ng/mL~100ng/mLとすることが更に好ましい。
【0036】
また、IL-21及びIL-4以外のサイトカインがIL-2の場合には、1unit/mL~1000unit/mLとすることが好ましく、10unit/mL~500unit/mLとすることが更に好ましい。
IL-2の1unitとは、サイトカインの比活性(unit/mg)で定義され、そのサイトカインの反応容量曲線がシグモイド曲線を描く場合にのみ適用される単位である。比活性は、
比活性(unit/mg)=1×106/ED50(ng/mL)
で算出されるため、ED50(ng/mL)に依存する。ED50(ng/mL)は最大反応の50%の反応を引き起こすサイトカイン濃度として定義され、通常、標準化されたバイオアッセイの結果によって決定される。IL-2の場合、マウスCTLL-2アッセイによって算出されたED50(ng/mL)が採用されている。
【0037】
工程cにおいては、特定抗原と共にB細胞を含む細胞集団を培養する。
工程cにおいて、B細胞に対して提示される特定抗原は、B細胞が親和性を示す抗原を意味し、目的に応じて適宜選択される。抗原の種類としては、抗原性を示すものであれば特に制限はなく、DNA、RNAなどの核酸、糖鎖、脂質、アミノ酸、ペプチド、タンパク、ハプテン、低分子化合物などを挙げることができる。これらの物質は、B細胞が認識できる形態で提示されていればよく、遊離型であっても、担体固定型であってもよい。B細胞への確実な提示の観点から、抗原は担体に固定された形態であることが好ましい。
【0038】
B細胞による抗原認識性を高めるために、用いられる抗原には、抗原単独で用いられる形態の他に、既知の補助分子を付加した形態、抗体分子との結合形態など、当業界で既知の抗原性を高める形態を適用してもよい。
【0039】
抗原の提示に抗体分子との結合形態を適用した場合あるいはタンパク抗原と抗体Fc領域との融合タンパクを適用した場合には、担体表面に抗原を展示させるための足場、例えばFc受容体分子又はプロテインAやプロテインG、プロテインLなどを更に用いればよい。
【0040】
また担体の構成成分に対して結合するタンパク質と、抗原蛋白の融合タンパク質を用いてもよい。また、抗原としての膜型タンパク質を提示する場合は、その遺伝子を発現ベクターの形で担体としての細胞に導入して発現させてもよい。それ以外のタンパクの場合には、適当なシグナルペプチド(分泌タンパクの場合は不要)と適当な膜貫通領域(例えばMHC classIのもの)との融合タンパクとして発現させることのできる発現ベクターを担体としての細胞に導入して発現させてもよい。
【0041】
工程cにおいては、CD40L、BAFF及び特定抗原を提示した担体を用いてB細胞を含む細胞集団を培養することが好ましい。
【0042】
CD40L及びBAFFは、培養系中のB細胞に対して確実に細胞内シグナルを与える観点から、担体の表面に提示された形態であることが好ましい。
【0043】
各分子を表面に提示するために用いられる担体としては、細胞、人工脂質二重膜、ポリスチレンもしくはポリエチレンテレフタラートなどのプラスチック、コラーゲン、ナイロン、ニトロセルロース、寒天、アガロース、セファロースなどの多糖、紙、ガラスなどを、上記分子を表面に提示するために通常用いられるものであれば、特に制限される事なく挙げる事ができる。担体の形状には特に制限はなく、シート状、平板状、球状、スポンジ状、繊維状などのいずれの形状としてもよい。担体としては、細胞の確実な選択性の観点から、細胞であることが好ましい。担体として使用可能な細胞としては、線維芽細胞(例えば3T3細胞やL細胞など)、上皮細胞(例えばHeLa細胞)、胎児腎臓細胞(例えばHEK293細胞など)、濾胞樹状細胞などを挙げる事ができる。なかでも、増殖速度が速く、細胞表面積が大きい、フィーダー細胞の除去が簡便である観点から、線維芽細胞が好ましい。
【0044】
CD40L、BAFF及び特定抗原を提示した担体は、CD40L、BAFF及び特定抗原を提示したフィーダー細胞であることが好ましい。
CD40L、BAFF及び特定抗原を細胞表面に提示されたフィーダー細胞は、CD40L、BAFF及び特定抗原の既知の配列に基づいて、当業者であれば遺伝子組み換え技術等を用いて作製することができる。
【0045】
フィーダー細胞の由来としては、上述した細胞集団と同様に、哺乳動物の霊長類、有蹄類、小型哺乳類の齧歯類、鳥類などが挙げられ、好ましくは、齧歯類及び哺乳類由来のものであり、マウス、ヒトなどを例示する事ができる。また、フィーダー細胞は、提示対象となる上記細胞集団と同一の種に由来する細胞であってもよく、異なる種に由来する細胞であってもよい。
なお、CD40L、BAFF及び特定抗原は、B細胞に対して細胞内シグナルを生じさせることができれば、必ずしも同一のフィーダー細胞状に存在していなくてもよい。
【0046】
<工程dについて>
本発明における工程dは、Fasを介した刺激を付与しながらB細胞を含む細胞集団を培養し、特定抗原を認識するB細胞を含むB細胞集団を得る工程である。
【0047】
Fasを介した刺激は、Fasリガンド(FasL)により付与することができる。Fasを介した刺激は、Fasに対する抗体又は抗体断片与える形態も可能である(特許文献1参照)。
【0048】
Fasリガンド(FasL)は、TNFファミリーに属するデス因子、即ちアポトーシス誘導活性を示すサイトカインであり、そのアミノ酸配列は公知となっている(例えば、Cell, Vol.75, pp.1169-1178 (1993))参照。本発明では、FasLの配列のうち、受容体結合能に関与する活性ドメインの結合能が失われない程度に保存されていればよく、例えば、活性ドメインの80%以上のアミノ酸配列相同性があれば、本発明において利用可能である。このようなFasLは、自然に発現する細胞から単離したものであってもよく、既知のアミノ酸配列に基づいて合成したものであってもよい。また、FasLは、培養系中のIgG陽性B細胞に対してFasの存在に対応したシグナルを与えることができる形態であればよく、細胞内シグナルを生じさせることができれば遊離型であっても、膜結合型であってもよい。
【0049】
FasLは、一般的にB細胞に対してアポトーシスを誘導可能な濃度で培養系に存在していればよく、例えば、10ng/ml~10μg/ml、また抗原刺激による細胞死の抑制を誘導する観点から、好ましくは10ng/ml~1μg/mlの濃度とすることができる。
【0050】
なお、FasLの由来としては、上述した細胞集団と同様に、哺乳動物の霊長類、有蹄類、小型哺乳類の齧歯類、鳥類などが挙げられ、好ましくは、齧歯類及び哺乳類由来のものであり、マウス、ヒトを例示する事ができる。また提示対象となる上記細胞集団と同一の主に由来するものであってもよく、異なる主に由来するものであってもよい。
【0051】
Fasに対する抗体又は抗体断片は、当業界で既知の方法に従って得る事ができる。Fasに対して結合能を有する抗体であれば、特に制限はない。
これらの抗体又は抗体断片は、担体の表面に提示された形態であっても、抗体表面に固定化されていない遊離型又は可溶化形態であってもよい。
【0052】
工程dにおいては、好ましくは、Fasを介した刺激を付与しながらIL-21の存在下又はIL-21及びIL-2の存在下でB細胞を含む細胞集団を培養することができる。 また、工程dは、特定抗原の非存在下で行うことが好ましい。
【0053】
工程dにおいてIL-21を存在させる場合、その濃度は、一般に、1ng/mL~1000ng/mLとすることが好ましく、1ng/mL~100ng/mLとすることが更に好ましい。
工程dにおいてIL-2を存在させる場合、その濃度は、1unit/mL~1000unit/mLとすることが好ましく、10unit/mL~500unit/mLとすることが更に好ましい。
【0054】
工程dは、CD40L、BAFF及びFasLを提示した担体を用いてB細胞を含む細胞集団を培養することが好ましい。即ち。CD40L、BAFF又はFasLは、培養系中のB細胞に対して確実に細胞内シグナルを与える観点から、担体の表面に提示された形態であることが好ましい。各分子を表面に提示するために用いられる担体としては、本明細書中上記したものを挙げることができる。
CD40L、BAFF及びFasLを提示した担体は、CD40L、BAFF及びFasLを提示したフィーダー細胞であることが特に好ましい。CD40L、BAFF及びFasLを細胞表面に提示されたフィーダー細胞は、CD40L、BAFF及びFasLの既知の配列に基づいて、当業者であれば遺伝子組み換え技術等を用いて作製することができる。
【0055】
フィーダー細胞の由来としては、上述した細胞集団と同様に、哺乳動物の霊長類、有蹄類、小型哺乳類の齧歯類、鳥類などが挙げられ、好ましくは、齧歯類及び哺乳類由来のものであり、マウス、ヒトなどを例示する事ができる。また、フィーダー細胞は、提示対象となる上記細胞集団と同一の種に由来する細胞であってもよく、異なる種に由来する細胞であってもよい。
【0056】
なお、CD40L、BAFF及びFasLは、B 細胞に対して細胞内シグナルを生じさせることができれば、必ずしも同一のフィーダー細胞状に存在していなくてもよい。
【0057】
<工程c及び工程dからなる選別工程>
上記した工程c及び工程dからなる工程を、選別工程ともいう。選別工程は、播種密度及び細胞種などの条件によって異なる場合もあるが、確実な選別の観点から一般に選別工程開始後1日以上とし、確実な選別の観点から1日~3日としてもよく、1日~2日とすることが好ましいが、細胞の生存能が維持されれば、より長期であってもよく、より長期に培養することによって、より高い親和性を有する抗原特異的B細胞を得ることができる。
【0058】
またB細胞の抗原に対する親和性を向上させるために、選別工程はフィーダー細胞を更新させながら、繰り返し行ってもよい。その際、B細胞の抗原に対する親和性を向上させるために、工程を繰り返す毎に抗原の濃度や価数を変化(減少)させてもよい。さらに、B細胞の抗原に対する親和性を向上させるために、B細胞の抗原に対する親和性を向上させるために、直前の工程の培養上清、又は培養上清中に産生された抗体を次の工程を行う際に培養系へ加えてもよい。これにより、B細胞受容体と抗体との競合が生じて、より高い親和性のB細胞受容体を持つB細胞が選別され得る。
【0059】
<工程a及び工程bについて>
本発明においては、工程cに先立って、B細胞を含む細胞集団を、CD40及びBAFF受容体を介した刺激を付与しながら、IL-4の存在下又はIL-4及びIL-2の存在下で培養する工程aをさらに設けてもよい。
本発明においては、工程aと工程cとの間に、B細胞を含む細胞集団を、CD40及びBAFF受容体を介した刺激を付与しながら、IL-21の存在下又はIL-21及びIL-2の存在下で培養する工程bをさらに設けてもよい。
【0060】
工程a及び工程bにおけるCD40及びBAFF受容体を介した刺激の付与は、本明細書中上記した方法と同様に行うことができる。
工程aを行う場合、その培養期間は特に限定されないが、一般的には1~14日間であり、好ましくは3~10日間である。
工程bを行う場合、その培養期間は特に限定されないが、一般的には1~7日間であり、好ましくは2~4日間である。
【0061】
工程aにおけるIL-4の濃度は、一般に、1ng/mL~1μg/mLとすることが好ましく、10ng/mL~100ng/mLとすることが更に好ましい。
工程aにおけるIL-2の濃度は、1unit/mL~1000unit/mLとすることが好ましく、10unit/mL~500unit/mLとすることが更に好ましい。
【0062】
工程bにおけるIL-21の濃度は、一般に、1ng/mL~1000ng/mLとすることが好ましく、1ng/mL~100ng/mLとすることが更に好ましい。
工程bにおけるIL-2の濃度は、1unit/mL~1000unit/mLとすることが好ましく、10unit/mL~500unit/mLとすることが更に好ましい。
【0063】
<特定抗原を認識するB細胞を含むB細胞集団>
上記した本発明の方法により、特定抗原を認識するB細胞を含むB細胞集団が製造される。上記の特定抗原を認識するB細胞を含むB細胞集団は、「抗原特異的B細胞集団」であることが好ましい。「抗原特異的B細胞集団」とは、得られた細胞を総括する意味で用いられ、細胞の数に限定されない。即ち、複数個の細胞をさす場合に用いられる他、1個の細胞のみが存在する場合にも同様に用いられる。
【0064】
本発明の方法で製造される特定抗原を認識するB細胞を含むB細胞集団では、用いられた特定抗原に対して特異性を有するB細胞から主として構成されていることが好ましい。このような抗原特異的B細胞集団は、例えば、同様の抗原と一次接触した生体由来の末梢血中に存在するB細胞集団よりも、抗原に対して特異性を有するB細胞の密度が高い。
従って、本発明の方法で製造される抗原特異的B細胞集団であれば、特定抗原に対して親和性を有するB細胞を大量に必要とするモノクローナル抗体の製造や、細胞治療等に好適に用いることができる。
【0065】
<モノクローナル抗体の製造方法>
本発明によれば、上記した本発明の製造方法により得られたB細胞集団を培養することによってモノクローナル抗体を製造する工程を含む、モノクローナル抗体の製造方法が提供される。これにより、特定抗原に対するモノクローナル抗体を簡便に且つ迅速に得ることができる。
【0066】
本発明によるモノクローナル抗体の製造方法では、周知のハイブリドーマ作製方法を、上記のB細胞集団に対して適用すればよい。具体的には、本発明により得られたIgG陽性B細胞を含む細胞集団に対して、ミエローマ細胞等を周知の方法による細胞融合法を用いてハイブリドーマを得て、このハイブリドーマの中から、目的とする抗体を産生するハイブリドーマを、限界希釈法等を用いて単離し、単離されたハイブリドーマが産生する抗体を回収すればよい。あるいは、上記の抗原特異的B細胞集団から抗体遺伝子を単離して、遺伝子組み換えによりモノクローナル抗体を作製する方法でもよい。
【0067】
以下に記載の実施例により本発明を説明するが、本発明の範囲は実施例によって限定されるものではない。
【実施例
【0068】
(1)細胞の培養
B細胞の培養は、特に断らない限り、RPMI-1640(10%(v/v)FCS(ウシ胎児血清)、ペニシリン/ストレプトマイシン、2mM L-グルタミン、55nM 2-メルカプトエタノール、10mM HEPES及び1mMピルビン酸ナトリウム添加)をB細胞培養培地として用いて、5%(v/v)CO2、37℃の条件下で行った。
【0069】
B細胞の培養時に用いる、CD40L及びBAFFを細胞表面に提示するフィーダー細胞、40LB細胞の培養は、特に断らない限り、D-MEM(10%(v/v)FCS、ペニシリン/ストレプトマイシン添加)を40LB細胞培養培地として用いて、5%(v/v)CO2、37℃の条件下で行った。
【0070】
B細胞培養実験時には、直径90mm細胞培養プレート(住友ベークライト製)に、40LB細胞を2.7×106個播種し、24時間培養して単一層を形成させた後、120GyのX線を照射してから使用した。
【0071】
(2)フィーダー細胞の調製
抗原特異的B細胞集団を選択するFAIS(Fas-mediated Antigen-specific iGB-cell Selection)法(PLoS One, 19;9(3):e92732.2014))を行うため、40LB-Her2及び40LB-FasL細胞を用いた。
【0072】
40LB-Her2細胞は40LB細胞にヒトHer2を、常法に従ってレンチウィルスベクターにより導入し、恒常的に発現させてクローン作製した。
40LB-FasL細胞は特許文献1の記載と同様に、40LB細胞にマウスFasLを常法に従ってレトロウィルスベクターにより導入し、恒常的に発現させてクローン作製した。
【0073】
(3)ヒトB細胞の調製
健常人のヒト末梢血からLymphoprepチューブ(AXIS SHIELD社製)を用いて単核球を分離し、FcR Blocking Reagent(Miltenyi Biotec社製)を用いた後、さらにCD2陰性細胞及びCD235a陰性細胞を、ビオチン-抗ヒトCD2抗体(Biolegend社製)、ビオチン-抗ヒトCD235a抗体(eBioscience社製)、Streptavidin-Particle Plus-DM(BD Pharmingen社製)を使用し、BD iMag Cell Separation Magnet(BD Bioscience社製)及びMACS Separation Columns(Miltenyi Biotec社製)を用いて回収した。回収した細胞の内CD19陽性細胞を、PE-抗ヒトCD19抗体(Biolegend社製)を使用し、セルソーター(BD FACS AriaIII)を用いて回収した。
上記で調製したB細胞は図1の計画に従って培養を行った。
【0074】
(4)抗原特異的B細胞受容体発現B細胞集団の調製
抗原特異的B細胞を含むB細胞集団は以下のようにして得た。
即ち、CSIV-CMV-MCS-IRES2-Venusベクター(Cancer Science, Vol.105, pp.402-408(2014))を組み換え、Her2抗原特異的B細胞受容体(Herceptin抗体遺伝子)の重鎖及び軽鎖を組み込んだCSIV-CMV-mGK(Herceptin kappa-Light chain)-IRES2- mGH(Herceptin Heavy chain)を作製し、Herceptin発現ベクターを構築した。この発現レンチウィルスベクターを用いて、回収したCD19陽性B細胞に、常法に従いHer2抗原特異的B細胞受容体を発現させたB細胞集団を得た。
【0075】
(5)ヒトB細胞の調製(培養工程)
上記で得られた抗原特異的B細胞を含む集団は、単一層を形成させた40LB細胞上で、7日間一次培養した。培養時はヒトIL-4(50ng/mL、PEPROTECH 社製)、ヒトIL-2(50unit/mL、PEPROTECH 社製)を含有するB細胞培地を用いて、1×105個/cm2の細胞密度でCO2インキュベーターにて培養した(本明細書に記載した工程a)。
【0076】
培養7日目に全細胞を、2mMのEDTAと0.5質量%のBSAを含むD-PBSを用いてフィーダー細胞ごと回収した。回収した培養B細胞は、ビオチン-抗マウスH-2Kd抗体(Biolegend社製)及びビオチン抗ヒトCD138抗体(社製)とStreptavidin-Particle Plus-DM(BD Pharmingen社製)を使用し、BD iMag Cell Separation Magnet(BD Bioscience社製)及びMACS Separation Columns(Miltenyi Biotec社製)を用いてフィーダー細胞及び抗体産生細胞を除去した。フィーダー細胞を除去したB細胞は、新たに準備された40LB細胞が播種された90mmディッシュに、ヒトIL-21(10ng/mL、PEPROTECH 社製)、ヒトIL-2(50unit/mL、PEPROTECH 社製)を含有するB細胞培地を用いて5×104個/cm2以下の細胞密度で播種して培養を行った(本明細書に記載した工程b)。
【0077】
(6)抗原特異的B細胞の選択培養(選択工程)
培養10日目に、Her2抗原特異的B細胞の選択培養を行うため、回収した培養B細胞から(5)と同様にしてフィーダー細胞及び抗体産生細胞を除去した。フィーダー細胞を除去したB細胞は、新たに準備された40LB細胞が播種された90mmディッシュに、ヒトIL-2(50unit/mL、PEPROTECH 社製)を含有するB細胞培地を用いて2×105個/cm2の細胞密度で播種し、抗原刺激前培養を行った。その際B細胞培地中に存在するサイトカインが、ヒトIL-2のみ、ヒトIL-2に加えて共通・鎖を持つ受容体を刺激するサイトカインファミリーであるヒトIL-4(50ng/mL、PEPROTECH 社製)及びヒトIL-21(50ng/mL、PEPROTECH 社製)をそれぞれ添加する条件、ヒトIL-2に加えてIL-10サイトカインファミリーであるヒトIL-20(50ng/mL、PEPROTECH 社製)及びヒトIL-24(100ng/mL、PEPROTECH 社製)をそれぞれ添加する条件、ヒトIL-2に加えてIL-12サイトカインファミリーであるヒトIL-27(50ng/mL、R&D Systems社製)を添加する条件を追加した。
【0078】
48時間後(即ち、培養12日目)、全細胞をビオチン-抗マウスH-2Kd抗体(Biolegend社製)及びビオチン抗ヒトCD138抗体(社製)とStreptavidin-Particle Plus-DM(BD Pharmingen社製)を使用し、BD iMag Cell Separation Magnet(BD Bioscience社製)及びMACS Separation Columns(Miltenyi Biotec社製)を用いてフィーダー細胞及び抗体産生細胞を除去した。フィーダー細胞及び抗体産生細胞を除去した抗原刺激前培養を行ったB細胞集団は、引き続き同じ条件のサイトカインを含有するB細胞培地に懸濁し、単一層を形成させた40LB-Her2細胞と共に培養することで抗原特異的なB細胞に抗原刺激を与えた(本明細書に記載した工程c)。
【0079】
48時間後(即ち、培養14日目)、全細胞を上記と同様の方法によりフィーダー細胞及び抗体産生細胞を除去した。40LB-Her2細胞及び抗体産生細胞を除去した抗原刺激培養を行った各条件のB細胞は、ヒトIL-21(10ng/mL、PEPROTECH 社製)及びヒトIL-2(50unit/mL、PEPROTECH 社製)を含有するB細胞培地に懸濁し、単一層を形成させた40LB-FasL細胞と共に培養することで培養B細胞集団全てに細胞死刺激を与えた(本明細書に記載した工程d)。
【0080】
24時間後(即ち、培養15日目)、全細胞をビオチン-抗マウスH-2Kd抗体(Biolegend社製)及びビオチン抗ヒトCD178(FasL)抗体(Biolegend社製)とStreptavidin-Particle Plus-DM(BD Pharmingen社製)を使用し、BD iMag Cell Separation Magnet(BD Bioscience社製)及びMACS Separation Columns(Miltenyi Biotec社製)を用いて40LB-FasL細胞を除去した。さらに40LB-FasL細胞を除去したB細胞集団は、ClioCell Pro Kit(ClioCell社製)を用いて死細胞を除去した。フィーダー細胞及び死細胞を除去したB細胞集団は、ヒトIL-21(10ng/mL、PEPROTECH 社製)及びヒトIL-2(50unit/mL、PEPROTECH 社製)を含有するB細胞培地に懸濁し、新たな40LB細胞上で回復培養を行った。
【0081】
細胞死刺激後に回復培養を行い、6日間培養した細胞を回収し、Her2抗原特異的B細胞を、FITC-抗マウスH-2Kd抗体(Biolegend社製)、PE-抗ヒトCD19抗体(Biolegend社製)、Alexa647標識Her2-Tag2タンパクを用いて、フローサイトメーター(BD FACS AriaIII)を用いて検出した。結果を図2に示す。
【0082】
図中に示された数値はそれぞれの領域内に含まれる細胞の割合(%)を示す。
図2で示された、選択を行わなかった際の細胞の割合と、選択を行った際の細胞の割合から、選択培養による選択効率(倍数)を図3に示す。
図3に示されるように、選択工程時のサイトカイン条件を、特許文献1で示されたIL-21非存在下もしくはIL-10サイトカインファミリーやIL-12サイトカインファミリーに変更した結果、抗原特異的B細胞の選択効率が向上することが確認された。
図1
図2-1】
図2-2】
図3