(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-18
(45)【発行日】2022-05-26
(54)【発明の名称】防汚成分を用いた選択的エチレンオリゴマー化のための方法
(51)【国際特許分類】
C07C 2/10 20060101AFI20220519BHJP
C07C 11/08 20060101ALI20220519BHJP
B01J 31/14 20060101ALI20220519BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20220519BHJP
【FI】
C07C2/10
C07C11/08
B01J31/14 Z
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2019530151
(86)(22)【出願日】2017-12-06
(86)【国際出願番号】 US2017064841
(87)【国際公開番号】W WO2018106764
(87)【国際公開日】2018-06-14
【審査請求日】2020-12-07
(32)【優先日】2016-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】316017181
【氏名又は名称】サウジ アラビアン オイル カンパニー
【氏名又は名称原語表記】Saudi Arabian Oil Company
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100123652
【氏名又は名称】坂野 博行
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【氏名又は名称】高橋 秀明
(72)【発明者】
【氏名】十河 健二
(72)【発明者】
【氏名】シャイフ,ソヘル ケー
(72)【発明者】
【氏名】ジャン,ジョンリン
(72)【発明者】
【氏名】シュィ,ウェイ
(72)【発明者】
【氏名】柏女 洋平
【審査官】前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-062094(JP,A)
【文献】特開平10-045637(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0310936(US,A1)
【文献】国際公開第2016/205194(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 2/00
C07C 11/00
B01J 31/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1-ブテンを選択的に製造する方法であって、前記方法が、下記の2つの工程
を含み:
工程1:少なくとも1種の防汚剤を少なくとも1種のアルミニウムアルキル化合物と接触させて、下記構造を含む少なくとも1種の防汚化合物
、またはその二量体を形成する工程であり、
【化1】
式中、化学基R1、R2、およびR3のうちの1つ以上が、構造-O((CH
2)
nO)
mR4を含む前記防汚剤であり、nが、1~20の整数であり、mが、1~100の整数であり、
R4
はヒドロカルビル基であり
、前記防汚剤を含まない化学基R1、R2、またはR3が
存在する場合、ヒドロカルビル基であ
ること;
工程2:前記少なくとも1種の防汚化合物、追加量の前記少なくとも1種のアルミニウムアルキル化合物、少なくとも1種のチタネート化合物、およびエチレンを反応器に供給し、エチレンを二量化して、1-ブテンを生成する工程で
あり、
前記少なくとも1種のチタネート化合物が、前記少なくとも1種の防汚化合物および前記追加量の前記少なくとも1種のアルミニウムアルキル化合物の流れとは、別の流れとして供給され
ること;
工程1および工程2で使用される前記少なくとも1種のアルミニウムアルキル化合物の合計と、工程2で使用される前記少なくとも1種のチタネート化合物とのモル比が、1.5以上かつ3.0以下である、方法。
【請求項2】
工程1において、前記少なくとも1種の防汚剤を過剰量の前記少なくとも1種のアルミニウムアルキル化合物と接触させて、前記少なくとも1種の防汚化合物と前記少なくとも1種のアルミニウムアルキル化合物の残部とを含む防汚混合物を形成し、工程2において、前記防汚混合物、前記少なくとも1種のチタネート化合物、およびエチレンが前記反応器に供給される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程1で使用される前記少なくとも1種の防汚剤と、工程1および工程2で使用される前記少なくとも1種のアルミニウムアルキル化合物の合計とのモル比が、0.01以上かつ0.18以下である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
nが1~5である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
mが1~20である、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
R4が1~100個の炭素原子を有する、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
化学基R1、R2、またはR3に存在する原子が、アルミニウム原子と結合してキレート環を形成する、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2016年12月7日に出願された米国仮出願第62/431,049号の利益を主張し、これは、参照により本明細書に組み込まれる。
【技術分野】
【0002】
本開示の実施形態は、一般に、エチレンオリゴマー化に使用される方法および触媒系に関し、より詳細には、望ましくない重合を低減する、エチレンオリゴマー化に使用される方法および防汚触媒系に関する。
【背景技術】
【0003】
1-ブテンおよび1-ヘキセンは、特にポリエチレンの製造にとって重要な石油化学製品である。エチレンと他のα-オレフィン、特に1-ブテンおよび1-ヘキセンとの反応は、有用な市販のポリマーである様々なグレードの直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)を形成する。1-ブテン源は、水蒸気分解装置または流動接触分解装置などの炭化水素分解装置の流出物からのブテン留分である。しかしながら、そのような流出物から1-ブテンを単離するための方法は、その方法を望ましくないものにし得るいくつかの困難な工程段階を必要とする。
【0004】
いくつかの商業的方法は、エチレンを選択的に1-ブテンおよび1-ヘキセンのようなα-オレフィンにオリゴマー化する。商業的に成功した二量化方法は、A.Forestiere,et al.,“Oligomerization of Monoolefins by Homogenous Catalysts”,Oil & Science and Technology-Review de l’Institute Francais du Petrole,pages 663-664(Volume 64,Number 6,November 2009)に記載されたInstitute Francais du Petrole(IFP)によって開発されたAlphabutol(商標)プロセスである。この方法は、エチレンを選択的に1-ブテンにオリゴマー化するためのプロセス流体として1-ブテンを含有するバブルポイント反応器を使用する。
【0005】
オリゴマー化系には既知の問題、すなわちポリマー形成がある。非常に発熱的な反応からの長い滞留時間および不十分な熱除去は、ポリエチレン系残渣の形成をもたらす。慢性的な汚れの副作用は、付着したポリマー残留物を除去するためのますます頻繁なプロセス停止およびより高い保守費用である。ポリマー残留物は、層を重ねて積層し、最終的には流体の流れがある場所の開口部およびポートを塞ぐ可能性がある。加えて、反応器の壁に沿ったポリマーコーティングは絶縁体として作用し得、これは反応器系への熱伝達に悪影響を及ぼす可能性がある。ポリマー堆積物はまた、反応プロセスに悪影響を及ぼす可能性がある破片を収集する可能性がある。
【0006】
特に厄介な問題は「ホットスポット」の形成である。ホットスポットは、外部冷却が無効で、触媒活性が高い領域である。これはプロセス制御の喪失を表す。ホットスポットは、重合を含む副反応を助長する触媒活性材料を含む収集されたポリマーの領域に引き起こされ得る。未チェックのままにすると、冷却能力の喪失、重合反応の暴走、またはその両方が原因で、ホットスポットによって最終的にプロセスが停止し得る。
【発明の概要】
【0007】
所望のオリゴマー化速度および所望の反応生成物を形成するための選択性を維持しながら、反応器系の壁および管へのポリマー汚れを防止するための効果的な反応器系および方法に対する継続的な必要性がある。
【0008】
一実施形態によれば、1-ブテンを選択的に製造する方法が提供される。この方法は、少なくとも1種の防汚剤を少なくとも1種のアルミニウムアルキル化合物と接触させて、R1基に結合し、R2基に結合し、そしてR3基に結合している中心アルミニウム分子を含む少なくとも1種の防汚化合物またはその誘導体を形成する第1の工程を含む。化学基R1、R2、またはR3に存在する原子は、アルミニウム原子に結合してキレート環を形成してもよい。この方法は、少なくとも1種の防汚化合物、追加量の少なくとも1種のアルミニウムアルキル化合物、少なくとも1種のチタネート化合物、およびエチレンを反応器に供給してエチレンを二量化する第2の工程を含む。少なくとも1種のチタネート化合物は、少なくとも1種の防汚化合物および追加量の少なくとも1種のアルミニウムアルキル化合物の流れとは別の流れとして供給される。第1の工程および第2の工程で使用される少なくとも1種のアルミニウムアルキル化合物の合計と第2の工程で使用される少なくとも1種のチタネート化合物とのモル比は、1.5以上3.0以下である。
【0009】
本明細書に記載される実施形態のさらなる特徴および利点は、以下の詳細な説明に記載されており、かつ一部はその説明から当業者には容易に明らかとなるか、または後に続く詳細な説明および特許請求の範囲を含む、記載された実施形態を実施することによって認識されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の1つ以上の実施形態による防汚化合物注入系を用いた一般化された改良エチレンオリゴマー化プロセスの概略図である。
【
図2】本開示の1つ以上の実施形態による、反応器への触媒供給流および反応器への防汚化合物供給流の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
定義
本開示では、用語「防汚剤」は、ポリマーの汚れを防止し、ポリマーの除去性を改善するために、プロセスに、より具体的には
図1の防汚化合物調製セクションに添加される薬剤を指すために使用される。
【0012】
本明細書において、用語「防汚化合物」は、防汚剤とアルミニウムアルキル化合物との反応により、
図1の防汚化合物調製セクションにおいて新たに形成されるアルミニウム化合物をいう。
【0013】
本開示の1つ以上の実施形態は、望ましくない重合によって引き起こされる反応器の汚れを低減しながら、1-ブテンを形成するエチレンの二量化などのエチレンオリゴマー化の促進に利用できる反応器および触媒系に関する。これらの触媒系は、本開示において「防汚エチレンオリゴマー化触媒系」または「防汚触媒系」と呼ばれることがある。記載された防汚触媒系は、少なくとも1種のチタネート化合物、少なくとも1種のアルミニウムアルキル化合物、および少なくとも1種の防汚剤またはその誘導体を含み得る。防汚触媒系は、1種以上のエーテル化合物をさらに含み得る。エチレンを選択的にオリゴマー化して1-ブテンおよび他の高級α-オレフィンを製造する一方で、本開示では時に「汚れ」と呼ばれる望ましくない重合を低減することができる、防汚触媒系を使用できる。例えば、反応器の汚れは、流体の流れを減少させ、反応器系内の流体が所望の速度で流れるのを部分的または完全に阻止し得る固体ポリエチレンベースの残留物の形成によって起こり得る。記載された「防汚エチレンオリゴマー化触媒系」または「防汚触媒系」は、反応中の汚れを完全に排除しないことがあることを理解されたい。しかしながら、これらの触媒系は、本開示に記載されるような防汚剤を含まない触媒系と比較して、汚れを減少させ、形成されたポリマーを除去するのをより容易にする。また、本開示の触媒系は、1-ブテンを形成するためのエチレン二量化などのエチレンオリゴマー化反応において有用であり得るが、それらは他の化学反応の触媒作用にも有用であり得ることを理解するべきでありおよび本開示に記載されている防汚触媒系は、それらの使用が1-ブテンへのエチレンの二量化に限定されると考えるべきではない。
【0014】
本開示の実施形態によれば、1-ブテンはエチレン二量化によって製造することができる。1-ブテン製造方法によれば、エチレンを防汚触媒系と接触させてエチレンを二量化して1-ブテンを形成することができる。1つ以上の実施形態において、エチレンおよび防汚触媒系は反応器に供給されそして混合される。反応は、バッチ反応として、または連続攪拌槽反応器プロセスなどの連続プロセス反応として実施することができる。実施形態によれば、反応器内の圧力は5バールから100バールであり、反応器温度は摂氏30度(℃)から180℃である。しかしながら、特に反応器系の特定の設計ならびに反応体および触媒の濃度を考慮すると、これらの範囲外のプロセス条件が考えられる。
【0015】
動作中、防汚化合物注入系は、エチレンのオリゴマー化中に防汚化合物および1種以上のチタネート化合物を含む触媒を反応器に供給する。防汚化合物と触媒との組み合わせは、防汚触媒系を形成する。
図1を参照すると、防汚化合物注入系を用いた全般的な改良エチレンオリゴマー化プロセスの概略図が示されている。エチレンは、エチレン供給20として反応器10に供給され、そこで1-ブテンおよび他の高級α-オレフィンへのエチレンの触媒オリゴマー化が起こる。さらに、反応器10は、触媒を含む触媒流30と防汚化合物流40のための別々の投入口を有する。防汚化合物流40は、少なくとも1種の防汚化合物と、少なくとも1種のアルミニウムアルキル化合物を含む少なくとも1種の助触媒との混合物を含む。混合物は、防汚剤補給流60に供給された防汚剤を、助触媒補給流70に供給された過剰量の少なくとも1種の助触媒と接触させることにより防汚化合物製造セクション50において製造される。別々の投入口は、触媒と防汚化合物との間の相互作用が反応器10内で起こることを可能にする。また、他の実施形態では、少なくとも1種の防汚化合物および少なくとも1種の助触媒を別々の流れとして反応器10に導入することができる。さらに、触媒流30は、触媒補給流34から供給される触媒調製セクション32から反応器に供給される。反応器10に続いて、触媒除去セクション90において反応器10を出る流れから使用済み触媒80が分離される。使用済み触媒除去後の残りの反応器出口流は、エチレン再循環カラム110に供給されるプロセス流100として機能する。エチレン再循環カラム110は、再循環のために、プロセス流100から残留エチレン130を分離し、エチレン再循環流132としてオリゴマー化のために反応器10に戻すか、またはそこからパージしてエチレン系パージ流134として燃料系として利用する。エチレン再循環カラム110を出る非エチレン流は、生成物プロセス流140として成分をさらに分離するために蒸留セクション150にさらに供給される。例えば、蒸留セクション150は、生成物プロセス流140を、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセンおよび重質留分を含む複数の生成物流160に分離することができる。この分離は、当業者に現在知られているまたは将来的に知られる任意の標準的な技術に従って達成することができる。生成物プロセス流140の様々な構成要素への分離は、生成物プロセス流140の構成および生成物プロセス流140内のさらなる使用または収集に望ましい特定の化学種または化学種に基づいて調整され得ることが理解されよう。蒸留セクション150はまた、溶媒再循環流162として反応10に再循環して戻すことができる生成物プロセス流140から溶媒を分離することができる。溶媒は、溶媒補給流164を用いて直接反応器10に導入することもできる。
【0016】
図2を参照すると、反応器10への触媒供給流30の概略図が提供されている。触媒は、ポンプ36または他の移動手段によって触媒源から反応器10に供給される。少なくとも一実施形態では、オンデマンド方式で反応器10に供給するための触媒の貯蔵所を提供する触媒貯蔵ドラム38が設けられる。触媒貯蔵ドラム38は、反応器10に供給するための触媒の貯蔵所を維持し、そして触媒補給供給34から再供給される。さらに、実施形態では、触媒源または触媒貯蔵ドラム38を反応器10に接続する導管内にインラインでフィルター42が設けられる。フィルター42は、触媒流から粒子状物質または他の異物成分を除去する。
図2に示されるように、触媒源はテトラヒドロフラン(THF)中のチタネート錯体であり得る。
【0017】
本開示を通して、考察した触媒は少なくとも1種のチタネート化合物を含む。しかしながら、当業者に公知の他の触媒をエチレンオリゴマー化反応および防汚化合物注入系に同様に利用することができることは当業者には明らかであろう。例えば、遷移金属錯体例えばニッケル、クロム、ジルコニウム、または他の金属錯体をベースとする触媒系を、検討したチタネート化合物に加えてまたはその代わりとして使用することができる。
【0018】
再び
図2を参照すると、反応器10への防汚化合物供給流の概略図が提供されている。少なくとも1種の防汚化合物は防汚化合物混合容器44内で配合され、続いてポンプ36または他の移動手段によって反応器10に供給される。1つ以上の実施形態では、少なくとも1種の防汚剤は、防汚化合物混合容器44内で過剰量の少なくとも1種の助触媒と接触させられて、少なくとも1種の防汚化合物と少なくとも1種の助触媒の残部との混合物を形成する。防汚化合物を形成するための防汚剤と助触媒との反応は、防汚剤の特定の構造に基づいて変わる。例えば、防汚剤がアルコールである場合、反応は助触媒のアルキル基のプロトン分解を含む。防汚剤と助触媒から防汚化合物を形成する反応はガスの形成をもたらし、それは防汚化合物混合容器44からオフガス流46として排出される。オフガス流46として放出するために生成される特定のガスは、助触媒の構造に応じて変わる。例えば、トリエチルアルミニウムは防汚化合物形成中にエタンガスを発生する。得られた防汚化合物と過剰の助触媒との混合物は、触媒とは別の注入として反応器10に供給される。他の実施形態では、少なくとも1種の防汚剤を同量またはそれより少ない量の少なくとも1種の助触媒と予備混合して、少なくとも1種の防汚化合物を含み、助触媒を含まない混合物を形成する。次いで、得られた混合物を追加量の少なくとも1種の助触媒と共に反応器10に供給する。この場合でも、混合物および助触媒は触媒からの別々の流れとして提供される。理論に拘束されることを望むものではないが、防汚化合物、助触媒、および触媒を組み合わせた流れとして提供することは、汚れの望ましくない増加を引き起こし得るので避けるべきであると考えられる。
【0019】
防汚化合物混合容器44は、防汚剤と助触媒との混合による形成中の防汚化合物の温度制御を維持するための冷却ジャケット144をさらに含むことができる。冷却ジャケット144は、1つ以上の実施形態では、防汚化合物混合容器を一定または所望の温度範囲に連続的に維持するための冷却水入口146および冷却水戻り148を用いた水冷を含む。混合容器の内部温度は10℃~90℃であり得る。
【0020】
1つ以上の実施形態において、防汚化合物混合容器44は圧力逃し弁48を含む。圧力逃し弁48は、過度の加圧が発生した場合に防汚化合物混合容器44を通気させるように動作可能である。前述のように、防汚化合物の形成は、防汚化合物混合容器44の過剰な加圧を引き起こす可能性があるオフガス流46として通常排出される1つ以上のオフガスの形成をもたらし得る。過剰なオフガス形成または不十分なオフガス収集または典型的な手段による排出の場合に、防汚化合物混合容器44の破裂を回避するために、圧力逃し弁48は防汚化合物混合容器44の迅速な通気を可能にする。
【0021】
市販の防汚剤は水を含有し得るので、防汚剤をアルカン溶媒と混合し、次いで任意に乾燥床52を通過させて、防汚化合物混合容器44に提供される前に、防汚剤補給蒸気60中の防汚剤中の含水量を除去または低減させる。1つ以上の実施形態において、アルカン溶媒はヘキサンである。他の様々な実施形態において、アルカン溶媒はブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、およびそれらの分岐異性体である。さらなる実施形態において、アルカン溶媒は、シクロヘキサンまたはメチルシクロヘキサンなどの環状アルカンである。過剰量の水が防汚触媒系を失活させる可能性があるため、1つ以上の実施形態における防汚剤中の含水量は、約0.3重量%(wt%)未満に維持される。さらなる実施形態では、防汚剤中の含水量は約0.1重量%未満に維持される。乾燥床52は、防汚剤補給流60から水を除去するための乾燥剤を含む。様々な実施形態において、乾燥剤は、モレキュラーシーブまたはアルミナまたはシリカに担持されたナトリウム(Na)である。防汚剤を乾燥させる他の手段が知られておりそしてそれらが等しく想定されていることは当業者によって理解されるであろう。
【0022】
本開示において前述したように、記載した防汚触媒系の実施形態は、1種以上のチタネート化合物を含み得る。チタネート化合物は触媒として働く。いくつかのチタネート化合物が防汚触媒系に含まれていてもよいが、いくつかの実施形態において、単一のチタネート化合物が防汚触媒系に含まれていてもよい。1つ以上の実施形態において、チタネート化合物はアルキルオルトチタネートであってもよい。アルキルオルトチタネートは、構造Ti(OR)4を有し、式中、Rは、それぞれの場合独立して、直鎖状、分岐状、または環状のアルキル基である。1つ以上の実施形態において、各アルキル基は、2~8個の炭素原子を含んでもよく、各R基は同一でも異なっていてもよい。適切なアルキルチタネートとしては、テトラエチルオルトチタネート、テトライソプロピルオルトチタネート、テトラ-n-ブチルオルトチタネート(時にはチタンブトキシドとも呼ばれる)、およびテトラ-2-エチルヘキシルオルトチタネートが挙げられる。1つ以上の実施形態において、防汚触媒系のチタネート化合物はテトラ-n-ブチルオルトチタネートからなる。
【0023】
また本開示において前述したように、記載した防汚触媒系の実施形態は、1種以上のアルミニウムアルキル化合物を含み得る。アルミニウムアルキル化合物は助触媒として作用しそして防汚剤と組み合わされて防汚化合物を形成する。アルミニウムアルキル化合物は、AlR’3またはAlR’2H(式中、R’は、1~20個の炭素原子を含む直鎖状、分岐状または環状のアルキル基である)の構造、またはアルミノキサン構造、すなわちトリアルキルアルミニウムの部分加水分解物を有し得る。当然のことながら、各R’は一意的であってよく、式AlR’1R’2R’3を提供する。例えば、限定するものではないが、適切なアルミニウムアルキル化合物はトリアルキルアルミニウムを含み得る。トリアルキルアルミニウムは、トリエチルアルミニウム、トリプロピルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリヘキシルアルミニウム、またはトリオクチルアルミニウムであり得る。1つ以上の実施形態において、防汚触媒系のアルミニウムアルキル化合物はトリエチルアルミニウムから構成される。
【0024】
この開示を通して、議論された助触媒はアルミニウムアルキル化合物、そしてより具体的にはトリエチルアルミニウム(TEAL)である。しかしながら、他の助触媒が防汚化合物の配合に等しく利用されてもよいことは当業者によって理解されるだろう。例えば、メチルアルミノキサン(MAO)、トリメチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、またはそれらの組み合わせを、論述したアルミニウムアルキル化合物に加えてまたはその代わりとして使用することができる。
【0025】
1つ以上の実施形態において、アルミニウムアルキル化合物と組み合わされて防汚性化合物を形成する防汚剤は、ホスホニウム([R1R2R3R4P]+)、スルホネート([ROSO2]-)、スルホネート([R1R2R3S]+)および、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性イオン系界面活性剤を含む防汚性界面活性剤(fouling-preventing surfactant)、の1つ以上から選択できる。非イオン性界面活性剤の例には、ポリオキシエチレンモノアルキルエーテル(CH3(CH2)3-27(OC2H4)1-25OH)、ポリオキシエチレンジアルキルエーテル(CH3(CH2)3-27(OC2H4)1-25O(CH2)3-27CH3)、ポリオキシプロピレンモノアルキルエーテル(CH3(CH2)3-29(OC3H6)1-25OH)、ポリオキシプロピレンジアルキルエーテル(CH3(CH2)3-27(OC3H6)1-25O(CH2)3-27CH3)、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレンブロックコポリマー(HO(C2H4O)1-25(C3H6O)1-25(C2H4O)1-25H)、ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックコポリマー(HO(C3H6O)1-25(C2H4O)1-25(C3H6O)1-25H)、オリゴグルコシドモノアルキルエーテル(CH3(CH2)3-27(OC6H10O5)1-3OH)、ポリオキシエチレンモノ(アルキルフェニル)エーテル(CH3(CH2)3-27(C6H4)(OC2H4)1-25OH)、グリセロールアルキルエステル、N,N,N’,N’-テトラ(ポリオキシアルキレン)-1,2-エチレンジアミン((H(O(CH2)2-3)1-25)2NCH2CH2N(((CH2)2-3O)1-25H)2、およびポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル、例えばポリソルベートが含まれる。アニオン性界面活性剤の例には、ステアリン酸ナトリウムおよび4-(5-ドデシル)ベンゼンスルホン酸ナトリウムが含まれる。カチオン性界面活性剤の例としては、ジメチルジオクタデシルアンモニウムクロリドおよびジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミドが挙げられる。両性イオン界面活性剤の例には、3-[(3-コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1-プロパンスルホネート、コカミドプロピルヒドロキシスルタイン、コカミドプロピルベタイン、およびホスファチジルエタノールアミンが含まれる。
【0026】
防汚触媒系は、1種以上の防汚化合物またはその誘導体を含み得る。本明細書で使用されるとき、誘導体は、本開示に記載される防汚化合物のダイマー、トリマー、オリゴマー、ポリマー、異性体、加水分解物などの防汚化合物の誘導体構造を指す。異なる防汚剤は、アルミニウムアルキル化合物と組み合わせると、異なる防汚化合物を形成することが理解されよう。1つ以上の実施形態において、防汚化合物は、第1の化学基R1、第2の化学基R2、および第3の化学基R3の3つすべてに結合した中心アルミニウム分子を含み得る。化学構造#1は、防汚剤から誘導される防汚基を表すR1、R2、およびR3を有する防汚化合物の一般化学構造を示す。
【化1】
【0027】
1つ以上の実施形態において、R1、R2、およびR3のうちの1つ以上は、構造-O((CH
2)
nO)
mR4を含む防汚基であり、式中、nは1~20の整数である。様々な実施形態において、nは1~10、1~5、または2~3の整数であり、mは1~100の整数であり、R4はヒドロカルビル基である。様々な実施形態において、nは1~10、1~5、または2~3の整数であり、mは1~50、1~20、または1~10の整数である。防汚基-O((CH
2)
nO)
mR4の構造は、化学構造#2に示されている。中心のアルミニウム原子は、R4ヒドロカルビル基とは反対側の防汚基の末端酸素に結合している。本開示を通して使用されるように、ヒドロカルビル基は、水素および炭素原子から構成される化学基を指す。例えば、ヒドロカルビル基は、直鎖状、分岐状、または環状であり得、そして1つ以上のアルキル部分、1つ以上のアルケニル部分、1つ以上のアルキニル部分、アリール部分、またはそれらの組み合わせを含み得る。様々な実施形態において、R4は、1~100個の炭素原子、2~50個の炭素原子、または8~28個の炭素原子を有するヒドロカルビル基であり得る。
【化2】
【0028】
本開示において前述したように、R1、R2、およびR3のうちの1つ、2つ、または3つすべてが、化学構造#2の構造を含む防汚基を含み得る。本開示に記載の実施形態では、防汚基を含まない化学基R1、R2、またはR3が、もしあればそれらはヒドロカルビル基である。例えば、R1は化学構造#2に示される構造を有する防汚基であり得、そしてR2およびR3はヒドロカルビル基であり得る。別の実施形態では、R1およびR2は、化学構造#2に示される構造を有する防汚基であり得、そしてR3はヒドロカルビル基であり得る。別の実施形態では、R1、R2、およびR3は、化学構造#2に示される構造を有する防汚基であり得る。R1、R2、およびR3のうちの少なくとも2つがヒドロカルビル基である場合、それらは互いに同一であってもよく、または異なるヒドロカルビル基であってもよい。また、R1、R2、R3のうちの2つ以上が防汚基である場合、防汚基は同一でも化学的に異なっていてもよい。しかしながら、それらはそれぞれ化学構造#2に示される一般構造を有する。様々な実施形態において、ヒドロカルビル基であるR1、R2およびR3はそれぞれ、1~100個の炭素原子、2~75個の炭素原子、または2~50個の炭素原子を有していてもよい。例えば、R1、R2、またはR3がヒドロカルビル基である場合、それらはメチル、エチル、プロピル、またはブチル基などの直鎖アルキル基、またはイソプロピルまたはイソブチル基などの分岐アルキル基であり得る。
【0029】
例として、R1が防汚基であり、そしてR2およびR3がヒドロカルビル基である場合、防汚化合物の一般化された構造は化学構造#3によって表すことができる。
【化3】
【0030】
1つ以上の実施形態において、防汚化合物は、エチル基であるR1基、エチル基であるR2基、および構造-O((CH
2)
nO)
mR4(式中、n=2、m=4、そしてR4はドデシル基である)を有する防汚基であるR3を含み得る。そのような防汚化合物は、(CH
3CH
2)
2AlO(CH
2CH
2O)
4(CH
2)
11CH
3と記載でき、「Et」はエチル基を表す、化学構造#4に示される化学構造を有する。
【化4】
【0031】
1つ以上の実施形態では、防汚化合物は、本明細書では防汚化合物の誘導体の一例として言及される二量化形態として存在してもよい。調製された防汚化合物は、二量化形態および非二量化形態の両方、すなわち非結合形態で存在してもよい。例えば、二量化状態では、防汚化合物は化学構造#5に示されるような構造を含み得る。化学構造#5は、化学構造#3に示される防汚化合物構造の二量体化実施形態を示す。二量体化された実施形態において、防汚化合物分子の中心アルミニウム原子と隣接する防汚化合物分子の酸素原子との間に結合が形成されてもよい。化学構造#5では、中心アルミニウム原子は、その中心アルミニウム原子に最も近い隣接する防汚化合物中の酸素原子に結合しているが、他の実施形態ではそうではなくてもよく、中心のアルミニウム原子は、その中心のアルミニウム原子に最も近いものではない隣接する防汚化合物の酸素原子と結合することができる。
【化5】
【0032】
1つ以上の実施形態では、防汚化合物は異なる異性体状態で存在してもよく、そのような一例は化学構造#6に示される。異性体は、防汚化合物の誘導体構造の一例である。例えば、そして化学構造#6に示されるように、防汚化合物の中心のアルミニウム原子は、単一の防汚基の2つの酸素原子に結合してキレート環を形成し得る。化学構造#6は、中心のアルミニウム原子に最も近い2つの酸素原子が中心のアルミニウム原子と結合している異性体を示すが、他の実施形態では、中心のアルミニウム原子が防汚化合物分子中の中心のアルミニウム原子に他の酸素原子ほど接近していない酸素原子との結合を形成するときに形成される異性体などの他の異性体を形成され得ると理解されるべきである。例えば、化学構造#6は、2個の酸素原子とn個の炭素原子を有する環構造を示すが、3個以上の酸素原子を有する環のような他の異性体ではより大きい環構造が形成され得る。化学構造#6に示されるもののような記載された防汚化合物の異性体は、防汚化合物と見なされ、化学構造#1に示される基本構造に適合すると理解されるべきである。例えば、両方の酸素原子が防汚基の一部である、中心のアルミニウム原子に結合した2個の酸素原子の存在は、化学構造#1に示される基本構造に一致すると考えられる。
【化6】
【0033】
化学構造#3~#6のそれぞれは、化学構造#2の防汚基を有する防汚化合物を示す。様々な実施形態において、他のまたは追加の防汚基がR1、R2、またはR3において化学構造#1の一般化された防汚化合物の中心アルミニウム原子に結合されてもよいことが理解されよう。防汚基のための具体的で非限定的なさらなる例には、-NHR、-OC(O)R、および-OS(O)ORなどの構造が含まれる。
【0034】
さらに、防汚化合物は、AlR1R2R3(化学構造#1)とイオン性界面活性剤との反応によって形成されるアルミニウム錯体であり得る。得られた防汚化合物は、化学構造#7に示す通りであり、式中、R4およびX
+はそれぞれイオン性界面活性剤のアニオン部分およびカチオン部分を表す。
【化7】
【0035】
1つ以上の実施形態において、防汚触媒系は、1種以上のホスホニウム防汚剤を含む。ホスホニウム防汚剤をアルミニウムアルキル化合物と組み合わせて、化学構造#7に示す防汚化合物を形成することができる。本開示で使用される場合、ホスホニウム防汚剤は、化学構造#8に示されるホスホニウム構造を含む任意の化合物を含み、式中、R
1、R
2、R
3およびR
4は他の部分を含み得る化学基を表し、様々なR基は互いに同一でも異なっていてもよい。一般に、ホスホニウム防汚剤は、ホスホニウムカチオンがアニオン化合物とイオン結合を形成する、ホスホニウム塩として防汚触媒系に導入することができる。本開示で使用されるように、ホスホニウム防汚剤は、ホスホニウム塩またはホスホニウム部分を含む双性イオン化合物を含む。
【化8】
【0036】
適切なホスホニウム防汚剤としては、限定されないが、テトラアルキルホスホニウム塩が挙げられる。例えば、防汚剤には、テトラアルキルホスホニウムハライド(例えば、テトラブチルホスホニウムハライド)、ホスホニウムマロネート(例えば、テトラブチルホスホニウムマロネート)、トリヘキシルテトラデシルホスホニウムハライド(例えば、トリヘキシルテトラデシルホスホニウムブロミド)、テトラブチルホスホニウムハライド(例えば、テトラブチルホスホニウムヨーダイド)、テトラブチルホスホニウムテトラハロボレート(例えば、テトラブチルホスホニウムテトラフルオロボレート)、テトラブチルホスホニウムハライド(例えば、テトラブチルホスホニウムクロリド)、テトラブチルホスホニウムヘキサハロホスフェート(例えば、テトラブチルホスホニウムヘキサフルオロホスフェート)、またはテトラブチルホスホニウムテトラハロボレート(例えば、テトラブチルホスホニウムテトラフルオロボレート)が含まれる本開示を通して使用されるように、ハロゲン化物は、フッ化物、塩化物、臭化物、またはヨウ化物を含み得る(そして「ハロ」は、元素フッ素、塩素、臭素、またはヨウ素を含み得る)。1つ以上の実施形態において、R基、すなわちR1、R2、R3、およびR4は、直鎖、分岐、または環状のアルキル、アルケニル、アルキニル、またはアリールであってよく、R基は互いに同一でも異なっていてもよい。
【0037】
1つ以上の実施形態において、防汚触媒系は、1種以上のスルホネート防汚剤を含む。スルホネート防汚剤をアルミニウムアルキル化合物と組み合わせて化学構造#7に示す防汚化合物を形成することができる。本開示で使用されるように、スルホネート防汚剤は、Rが他の部分を含み得る化学基を表す、化学構造#9に示される構造を含む任意の化合物を含む。一般に、スルホネート防汚剤は、スルホネート塩として防汚触媒系に導入することができ、ここでスルホネートアニオンはカチオン化合物とイオン結合を形成する。本開示で使用されるように、スルホネート防汚剤は、スルホネート塩またはスルホネート部分を含む双性イオン化合物を含む。
【化9】
【0038】
適切なスルホネート防汚剤としては、限定されないが、スルホネート塩が挙げられる。例えば、スルホネート防汚剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、スルホンコハク酸ジオクチルナトリウム、テトラブチルホスホニウムメタンスルホネート、テトラブチルホスホニウムp-トルエンスルホネート、および(ヘキサデシル)トリメチルアンモニウムp-トルエンスルホネートが挙げられるがこれらに限定されない。他の実施形態では、適切な防汚剤は、非塩スルホネート、すなわち分離したカチオンとアニオンに解離しない両性イオンスルホネートを含み得る。例えば、防汚剤として適切な非塩スルホネートとしては、限定されないが、3-(ジメチル(オクタデシル)アンモニオ)プロパン-1-スルホネート、3,3’-(1,4-ジドデシルピペラジン-1,4-ジイウム-1-1,4-ジイル)ビス(プロパン-1-スルホネート)、および3-(4-(tert-ブチル)ピリジニオ)-1-プロパンスルホネートが挙げられる。
【0039】
1つ以上の実施形態において、防汚触媒系は、1種以上のスルホニウム防汚剤を含む。スルホニウム防汚剤をアルミニウムアルキル化合物と組み合わせて、化学構造#7に示す防汚化合物を形成することができる。スルホニウム防汚剤は一般に化学構造#10で表され、式中、R
1、R
2、およびR
3は他の部分を含み得る化学基を表し、ならびに様々なR基、すなわちR
1、R
2、およびR
3は互いに同一でも異なっていてもよい。一般に、スルホニウム防汚剤はスルホニウム塩として防汚触媒系に導入することができ、ここでスルホニウムカチオンはアニオン化合物とイオン結合を形成する。本開示で使用されるとき、スルホニウム防汚剤は、スルホニウム塩またはスルホニウム部分を含む双性イオン化合物を含む。
【化10】
【0040】
1つ以上の実施形態において、防汚触媒系は、2つ以上の分子種の防汚化合物を含むことができる。例えば、いくつかの防汚化合物は、1、2、または3つの防汚基を含み得るが、他のものは、異なる数の防汚基を含む。これらの防汚化合物種の混合物は、それぞれ中央のアルミニウム原子に結合しているヒドロカルビル基と防汚基とのそのバルクモル比によって特徴付けることができるバルク防汚化合物を形成することができる。例えば、防汚化合物の半分が1つの防汚基と2つのヒドロカルビル基を有し、防汚化合物の他の半分が2つの防汚基と1つのヒドロカルビル基を有する場合、ヒドロカルビル基と防汚基のバルク等量が存在するため、ヒドロカルビル基と防汚基とのバルクモル比は、1:1となる。様々な実施形態において、ヒドロカルビル基と防汚基とのバルクモル比は、1:3~2:1、1:2~2:1、または1:1~2:1であり得る。
【0041】
1つ以上の実施形態において、防汚触媒系は、ポリマーの形成を低減するために1種以上のエーテル化合物を含んでもよい。1種以上のエーテル化合物は、テトラヒドロフラン(THF)、1,4-ジオキサン、テトラヒドロピラン(THP)、またはこれらの組み合わせなどであるがこれらに限定されない環状エーテルを含み得る。
【0042】
防汚触媒系は、少なくとも1種以上のチタネート化合物、1種以上のアルミニウムアルキル化合物、および1種以上の防汚化合物を含み得る。様々な実施形態において、総チタネート化合物と、総アルミニウムアルキル化合物とのモル比は、1.5~3.0、または2.0~3.0であり得る。
【0043】
様々な実施形態において、アルミニウムアルキル化合物と接触させる防汚剤と、アルミニウムアルキル化合物と接触させ、かつ追加的に反応器に供給されるアルミニウムアルキル化合物の合計とのモル比は、0.001:1~0.5:1、0.01~0.18、または0.01~0.13であってよい。
【0044】
様々な実施形態において、総チタネート化合物と総エーテル化合物とのモル比は、1:20~1:0、1:10~1:1、または1:8~1:3であり得る。
【0045】
前述の防汚触媒系の成分のモル比は、チタネート化合物またはアルミニウムアルキル化合物の総量に対する防汚触媒系の各成分の総量を表すことを理解すべきであり、ここで、「総」量とは、特定の成分タイプ見なすことができる防汚触媒系、すなわち、チタネート化合物、アルミニウムアルキル化合物、エーテル化合物、または防汚剤、のすべての種類のモル量を指す。成分の総量は、それぞれチタネート化合物、アルミニウムアルキル化合物、エーテル化合物、または防汚剤である2つ以上の化学種を含んでいてよい。
【0046】
1つ以上の実施形態において、理論に拘束されることなく、防汚化合物の酸素または窒素のようなヘテロ原子は、触媒系において触媒として利用されるチタネート化合物と弱い配位を形成し得ると考えられる。1つ以上の実施形態では、防汚化合物のアルキル基または他の比較的長鎖の基は、チタネート化合物の触媒中心へのエチレンのアクセスを防ぐためにある程度の機能を果たし得ると考えられる。チタンの触媒部位へのエチレンのアクセスが制限されると、エチレンの重合が減少し、従って反応器の汚れが減少する。
【0047】
1つ以上の実施形態では、触媒系への防汚化合物の導入は、1-ブテン形成の触媒活性を大きく低下させることなく、ポリマー形成を抑制し得る。一実施形態では、防汚化合物を含めることによって、ポリマー形成(汚れ)は、少なくとも5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、さらには95%まで低減させることができる。一実施形態では、防汚化合物を含めることによって、1-ブテン生成を50%、40%、30%、20%、10%もしくは5%以下まで増加させ、同じままにし、または減少させることができる。いくつかの実施形態では、防汚化合物はポリマー形成を、例えば少なくとも5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、さらには95%まで低減させることができ、かつ1-ブテン生成速度を50%、40%、30%、20%、10%、さらには5%以下まで増加させる、影響を与えない、または減少させることができる。百分率ベースでのポリマー形成速度および触媒活性の低下は、防汚化合物を含まない触媒系と比較して記載されている1種以上の防汚化合物を含む触媒系に基づく。
【実施例】
【0048】
防汚触媒系の様々な実施形態および防汚化合物注入系の性能は、以下の実施例によってさらに明らかになるであろう。これらの実施例は本質的に例示的なものであり、本開示の主題を限定するものと理解されるべきではない。
【0049】
記載された防汚触媒系および方法の防汚効果を評価するために、エチレン二量化反応を実施し評価した。本開示の方法に従って、複数試料の防汚触媒系を配合し試験した。防汚成分を用いた選択的エチレン二量化のプロセスおよび関連する防汚化合物注入系をベースライン比較システムと比較した。具体的には、防汚化合物注入系を用いて、助触媒および防汚剤を防汚化合物混合容器内で触媒とは別の流れとしてプロセス反応器に注入する前に予備混合した。試験のために、(CH
3CH
2)
2AlO(C
2H
4O)
4(CH
2)
11CH
3(化学構造#4)を防汚化合物として利用した。具体的には、実験のために、触媒としてテトラヒドロフラン中のテトラブチルオルトチタネート(表1において「Ti」として示される)(1:6)、助触媒としてトリエチルアルミニウム(TEAL)、および防汚剤としてC
12H
25(OC
2H
4)
4OHを使用した。テトラヒドロフラン中の防汚剤C
12H
25(OC
2H
4)
4OH、トリエチルアルミニウム、およびテトラブチルオルトチチネートを、それぞれA、B、およびCと呼ぶ。表1および2は、A、BおよびCの様々な組み合わせを有する触媒系を利用した連続反応に対するポリマーの二量化活性および選択性を示す。これらの連続反応のために、5L反応器に最初に1160gの1-ブテンを仕込んだ。その後、反応器を53℃に加熱し、エチレンで2.3MPaに加圧した。別に、防汚剤AをトリエチルアルミニウムBのヘキサン溶液に添加し、Al濃度0.053mol/Lの防汚化合物溶液を調製した。その後、0.018mol-Ti/LのCのヘキサン溶液(6.2mL/時)およびAとBの予混合溶液(4.6~7.0mL/時)の連続供給を別々のラインを介して開始して反応を開始した。反応器を400rpmの速度で撹拌しながら反応を30時間続けた。反応中、液面を維持し、触媒滞留時間を7時間に保つために、反応器内の液体をディップチューブから連続的に排出した。表1は防汚化合物の予備混合および利用を説明し、表3は防汚剤Aなしの実験を説明する。表1および2の反応データから明らかなように、防汚化合物混合容器における予備混合工程の追加はポリマー形成が大幅に減少しおよび/または形成されたポリマーの除去の容易さが増大し、これは以下の主観的尺度に従って定量化された、4は布でやさしく擦ることによって除去可能であることを表し、3は布で強く擦ることによって除去可能であることを表し、2はスチールウールでブラッシングすることによって除去可能であることを表し、1はスチールウールでブラッシングすることによって除去することが難しいことを表す。表1および2に示されるように、防汚化合物混合容器内での予備混合工程の追加はまた、より高いポリマー除去性評価によって証明されるように、いずれのポリマー形成物にも除去し易さを大いに向上させた。ただし、防汚剤の多量の使用は活性を低下させ、またはポリマーの選択性を増加させることに注意するべきであり、防汚剤とアルミニウムアルキル化合物とのモル比は好適な範囲内であることが好ましい。
【表1】
【表2】
【0050】
さらに、同様の連続反応で、適用時にAと予備混合されていた触媒成分Bの流れと、触媒成分Cの流れとを組み合わせて単一の流れとして反応器に供給した。合流点から注入点までの触媒滞留時間は約1時間であった。その他の条件は上記と同じである。結果を表3に列記すると、防汚化合物混合容器内の予備混合工程の追加は、供給流を混合したときにポリマー形成が減少よりも増加を引き起こすことがあることが示される。これらのデータは、注入前の成分Cと予混合A/Bとの接触は避けるべきであり、そして2つの成分を別々の流れとして注入することが好ましいことを示唆している。
【表3】
【0051】
市販のエチレン二量化プロセスにおける熱交換器の熱伝導率劣化に対する防汚化合物の効果をシミュレートするために、表4に示すように、比較例#4および実施例#5で観察された反応器の全熱伝達率の時間経過は4週間後に外挿された。
【表4】
【0052】
表4に示す結果は、防汚化合物を防汚化合物注入系に添加すると、熱交換器導電率がよりゆっくりと劣化することを示しており、これは熱交換器がオンラインのままで長期間動作できることを意味する
。
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
実施形態1
1-ブテンを選択的に製造する方法であって、前記方法が、下記の2つの工程:
工程1:少なくとも1種の防汚剤を少なくとも1種のアルミニウムアルキル化合物と接触させて、下記構造を含む少なくとも1種の防汚化合物、
【化11】
またはその二量体を形成することと、
工程2:前記少なくとも1種の防汚化合物、追加量の前記少なくとも1種のアルミニウムアルキル化合物、少なくとも1種のチタネート化合物、およびエチレンを、反応器に供給してエチレンを二量化することであって、前記少なくとも1種のチタネート化合物が、前記少なくとも1種の防汚化合物および前記追加量の少なくとも1種のアルミニウムアルキル化合物の流れとは別の流れとして供給される、二量化することと、を含み、工程1および工程2で使用される前記少なくとも1種のアルミニウムアルキル化合物の合計と、工程2で使用される前記少なくとも1種のチタネート化合物とのモル比が、1.5以上かつ3.0以下である、方法。
実施形態2
工程1において、前記少なくとも1種の防汚剤を過剰量の前記少なくとも1種のアルミニウムアルキル化合物と接触させて、前記少なくとも1種の防汚化合物と前記少なくとも1種のアルミニウムアルキル化合物の残部とを含む防汚混合物を形成し、工程2において、前記防汚混合物、前記少なくとも1種のチタネート化合物、およびエチレンが前記反応器に供給される、実施形態1に記載の方法。
実施形態3
化学基R1、R2、およびR3のうちの1つ以上が構造-O((CH
2
)
n
O)
m
R4を含む防汚基であり、式中、
nが、1~20の整数であり、
mが、1~100の整数であり、
R4が、ヒドロカルビル基であり、
存在する場合、前記防汚基を含まない化学基R1、R2、またはR3が、ヒドロカルビル基である、実施形態2に記載の方法
実施形態4
工程1で使用される前記少なくとも1種の防汚剤と、工程1および工程2で使用される前記少なくとも1種のアルミニウムアルキル化合物の合計とのモル比が、0.01以上かつ0.18以下である、実施形態3に記載の方法。
実施形態5
nが1~5である、実施形態4に記載の方法。
実施形態6
mが1~20である、実施形態4に記載の方法。
実施形態7
R4が1~100個の炭素原子を有する、実施形態4に記載の方法。
実施形態8
化学基R1、R2、またはR3に存在する原子が、アルミニウム原子と結合してキレート環を形成する、実施形態1に記載の方法。
実施形態9
化学基R1、R2、およびR3のうちの1つ以上が、ホスホニウム部分を含む防汚基である、実施形態2に記載の方法。
実施形態10
前記防汚剤が、テトラアルキルホスホニウムハライド、ホスホニウムマロネート、トリヘキシルテトラデシルホスホニウムハライド、テトラブチルホスホニウムハライド、テトラブチルホスホニウムテトラハロボレート、テトラブチルホスホニウムハライド、テトラブチルホスホニウムヘキサハロホスフェート、およびテトラブチルホスホニウムテトラハロボレートのうちの1種以上を含む実施形態9に記載の方法。
実施形態11
化学基R1、R2、およびR3のうちの1つ以上が、スルホネート部分を含む防汚基である、実施形態2に記載の方法。
実施形態12
前記防汚剤が、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、スルホンコハク酸ジオクチルナトリウム、メタンスルホン酸テトラブチルホスホニウム、テトラブチルホスホニウムp-トルエンスルホネート、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムp-トルエンスルホネート、3-(ジメチル(オクタデシル)アンモニオ)プロパン-1-スルホネート、3,3’-(1,4-ジドデシルピペラジン-1,4-ジイウム-1,4-ジイル)ビス(プロパン-1-スルホネート)、および3-(4-(tert-ブチル)ピリジニオ)-1-プロパンスルホネートのうちの1つ以上を含む、実施形態11に記載の方法。
実施形態13
化学基R1、R2、およびR3のうちの1つ以上が、スルホニウム部分を含む防汚基である、実施形態2に記載の方法。