(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-18
(45)【発行日】2022-05-26
(54)【発明の名称】熱電変換素子及び当該熱電変換素子を備えた熱電変換モジュール
(51)【国際特許分類】
H01L 35/14 20060101AFI20220519BHJP
H01L 35/34 20060101ALI20220519BHJP
【FI】
H01L35/14
H01L35/34
(21)【出願番号】P 2020527679
(86)(22)【出願日】2019-06-28
(86)【国際出願番号】 JP2019025789
(87)【国際公開番号】W WO2020004617
(87)【国際公開日】2020-01-02
【審査請求日】2021-01-07
(31)【優先権主張番号】P 2018123273
(32)【優先日】2018-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229597
【氏名又は名称】日本パーカライジング株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内田 淳一
(72)【発明者】
【氏名】配島 雄樹
(72)【発明者】
【氏名】末内 優輝
(72)【発明者】
【氏名】飯田 努
【審査官】宮本 博司
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-050325(JP,A)
【文献】特表2013-500608(JP,A)
【文献】特開平04-063481(JP,A)
【文献】特開2014-204080(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 35/14
H01L 35/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱電変換部を備える熱電変換素子であって、
前記熱電変換部はマグネシウムシリサイド及び/又はマンガンシリサイドを含み、且つSiおよびZrを含む被膜によって被覆されて
おり、
前記被膜中のSi質量(SM)に対するZr質量(ZM)の比(ZM/SM)が0.09以上1.26以下の範囲内である、熱電変換素子。
【請求項2】
前記熱電変換部が有する被膜は、SiおよびZrイオンを含む表面処理剤を熱電変換部に接触させて形成される、請求項
1に記載の熱電変換素子。
【請求項3】
前記表面処理剤が
アルカリ金属ケイ酸塩(A)と、
酸化セリウム安定化酸化ジルコニウム(B)と、
金属酸化物粒子および粘土鉱物からなる群から選択される少なくとも1種を含む成分(C)(但し、前記アルカリ金属ケイ酸塩(A)又は酸化セリウム安定化酸化ジルコニウム(B)を除く。)と、を配合してなる請求項
2に記載の熱電変換素子。
【請求項4】
前記熱電変換部が多結晶性マグネシウムシリサイド及び/又は多結晶性マンガンシリサイドを含有する、請求項1から
3のいずれか1項に記載の熱電変換素子。
【請求項5】
前記熱電変換部を、リン酸化合物と、水とを含有する前処理剤に接触させ、その後、前記表面処理剤から被膜を形成する、請求項
2から
3のいずれか1項に記載の熱電変換素子。
【請求項6】
請求項1から
5のいずれか一項に記載の熱電変換素子を備える熱電変換モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換素子及び当該熱電変換素子を備えた熱電変換モジュールに関する。さらに詳しくは、熱電発電装置等の熱電変換手段として使用することができる熱電変換素子及び当該熱電変換素子を備えた熱電変換モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
熱電材料としては、従来、熱エネルギーと電気エネルギーを相互に変換することができる、熱電発電素子やペルチェ素子等が知られている。熱電材料を応用した熱電発電は、熱エネルギーを直接電力に変換することができ、可動部を必要としない等の利点を有し、体温で作動する腕時計や宇宙用電源等に用いられている。特に、自動車、家電用、焼却炉およびOA機器用または発電所で用いられている熱電発電は、廃熱を電気エネルギーに変換するものであり、魅力的である。
【0003】
熱電変換性能は熱電変換材料のゼーベック係数、導電率及び熱伝導率により変化し、ゼーベック係数及び導電率が大きく、熱伝導率が小さいほど熱電変換性能は向上する。それゆえ、素子自体の熱電変換性能の向上を目的に様々な元素を組み合わせた熱電材料が開発されている。また、熱電材料は自動車、家電、OA機器など廃熱が発生する条件であれば様々な分野で使用される。使用環境は、屋内外、潮風や雨等に曝される環境、工場排出ガスに曝される環境等様々であり、過酷な使用環境においても、熱電材料が劣化することなく使用できる必要がある。特に、熱電変換モジュールによる発電においては、焼却炉や工業炉からの廃熱をそのまま利用することが望ましい。しかしながら、熱電変換モジュールの耐熱性が問題となり、廃熱が600℃程度になると、発電が困難になるのが現状である。
【0004】
また、製材から熱電素子を製造する場合には、P型又はN型の熱電素子に対応した組成の焼結体を、結晶成長方向に対して垂直に切り出すように切断し、ワイヤーやダイシングブレードを用いてブロック状に切り分けて、熱電変換素子を製造している。熱電変換素子表面の平坦化のために、更に研磨を行う。その後、洗浄工程などで削り粉を除去するが固着した削り粉は除去性が低く、電子材料に求められている高い清浄度を達成するには困難である。また、洗浄剤に含有するイオン成分の析出や熱電変換素子の酸化を伴い、熱電変換素子表面の平坦性を得るのが困難な状況である。
【0005】
最近では、自動車、家電用およびOA機器部品の電子部品およびマイクロ機器部分を保護するために被膜を形成する技術が開発されている。
【0006】
例えば、電子部品やマイクロ機器部品の表面上に有機系被膜、より具体的には、有機成分を主体とした表面処理被膜を設ける技術や、封止材による保護被膜を設ける技術が開発されている。より具体的には、特許文献1では、電子部品およびマイクロ機器部品の表面を、所定の有機高分子樹脂を含有する自己析出型表面処理液に接触させて有機被膜を析出形成させた後、所定の硬化剤を含有する後処理液に接触させ、溶媒を除去して塗膜を形成する自己析出型表面処理被覆方法に関する技術が、特許文献2では、メタクリル酸メチルおよび無機充填材などを含む、2種の組成物からなるアクリル系封止材を硬化させる技術が、それぞれ開示されている。
また、特許文献3では、熱電変換素子の耐熱性を向上させる手法としてマグネシウムシリサイドを主成分とする焼結体を用い、熱電変換モジュールを高温環境下で使用可能とした方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2003-145034号公報
【文献】特開2005-298765号公報
【文献】国際公開第2011/148686号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、熱電変換部用の代表的材料である多結晶性マグネシウムシリサイドについて、その焼結体にアンチモンを0.5at%ドープしたものを試料とし、大気雰囲気中で約600℃に加熱し、10時間、100時間、1000時間の各経過時点で観察した。その結果、焼結体表面の酸素濃度が高くなっていることを確認し、また焼結時の粒界を起点に表面全体に黒い粒が生成して酸化が進んでいることがわかった。このため、熱電変換部の表面を保護する必要があることを認識した。上述したように、熱電材料はより過酷な環境で使用される場合が多いため、その表面を覆う被膜に求められる特性の要求レベルはより一層高まっている。
特に、熱電材料は、高温(約600℃以上)と低温を繰り返すヒートサイクルで使用されるため、高温で使用された場合においても、熱電材料の酸化、昇華、及び汚染を抑制することができ、熱電材料における熱電変換効率および耐久性の低下を抑制することができる、耐酸化性、耐クラック性および密着性に優れた被膜を有する熱電変換素子の開発が求められている。
【0009】
特許文献1および2に記載された有機系被膜を設ける技術においては、高温環境下で、有機系被膜を構成する有機物の分解が生じ、所望の特性を示さない。
また、特許文献3では、熱電材料が曝される環境が、使用時には高温状態に、不使用時には低温(室温:10~40℃程度)状態へと変わるため、熱電材料が熱膨張と収縮を繰り返す状況にあり、このようなヒートサイクルに曝された場合では熱電変換素子自体の劣化(熱電変換効率の低下や剥離)が見られる。
【0010】
そこで、本発明は、上記実情に鑑みて、高温に曝された場合においても十分な密着性を維持し、且つ耐酸化性、及び耐クラック性に優れた被膜を有する熱電変換素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するべく鋭意検討を重ねた結果、マグネシウムシリサイド及び/又はマンガンシリサイドを含む熱電変換部が、SiおよびZrを含む被膜によって被覆されることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
つまり、以下の構成により上記目的を達成することができることを見出した。
【0012】
(1)熱電変換部を備える熱電変換素子であって、
前記熱電変換部はマグネシウムシリサイド及び/又はマンガンシリサイドを含み、且つSiおよびZrを含む被膜によって被覆されている、熱電変換素子。
(2)前記被膜中のSi質量(SM)に対するZr質量(ZM)の比(ZM/SM)が0.09以上1.26以下の範囲内である、(1)に記載の熱電変換素子。
(3)前記熱電変換部が有する被膜は、SiおよびZrを含む表面処理剤を熱電変換部に接触させて形成される(1)または(2)に記載の熱電変換素子。
(4)前記表面処理剤が
アルカリ金属ケイ酸塩(A)と、
酸化セリウム安定化酸化ジルコニウム(B)と、
金属酸化物粒子および粘土鉱物からなる群から選択される少なくとも1種を含む成分(C)(但し、前記アルカリ金属ケイ酸塩(A)又は酸化セリウム安定化酸化ジルコニウム(B)を除く。)と、を配合してなる(3)に記載の熱電変換素子。
(5)前記熱電変換部が多結晶性マグネシウムシリサイド及び/又は多結晶性マンガンシリサイドを含有する、(1)から(4)のいずれかに記載の熱電変換素子。
(6)前記熱電変換部を、リン酸化合物と、水とを含有する前処理剤に接触させ、その後、前記表面処理剤から被膜を形成する、(3)から(5)のいずれかに記載の熱電変換素子。
(7)(1)から(6)のいずれかに記載の熱電変換素子を備える熱電変換モジュール。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高温環境下に曝された場合においても十分な密着性を維持し、耐酸化性、及び耐クラック性に優れた被膜を有する熱電変換素子を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一形態は、熱電変換部を備える熱電変換素子であって、熱変換部はマグネシウムシリサイド及び/又はマンガンシリサイドを含み、且つSiおよびZrを含む被膜によって被覆されている、熱電変換素子である。
以下に、本発明の熱電変換素子について説明する。
【0015】
<熱電変換部>
熱電変換部はマグネシウムシリサイド(Mg2Si)及び/又はマンガンシリサイド(MnSi、Mn4Si7等)を含有する。マグネシウムシリサイド及び/又はマンガンシリサイドには、必要に応じ他の金属を含んでもよい。他の金属はドーパントとして含んでもよく、Mg、Mn及び/又はSiと置換される形で含んでもよく、他の金属の例としてはGe、Sn、Zn、Sb、Al、Taなどが挙げられる。他の金属の含有量は特段限定されないが、0.01at%以上であってよく、0.05at%以上であってよく、0.1at%以上であってよく、10at%以下であってよく、5at%以下であってよい。マグネシウムシリサイド及びマンガンシリサイドは、上記他の金属をドーパントとして含むドープ型であってよく、上記他の金属を含まないアンドープ型であってもよい。
マグネシウムシリサイド及び/又はマンガンシリサイドとしては、多結晶性のマグネシウムシリサイド及び/又は多結晶性のマンガンシリサイドであることが、熱電変換効率が高く、好ましい。
【0016】
熱電変換部の形状は特に限定されず、柱状であってもよく、平板状であってもよい。柱状とは三角柱、四角柱、六角柱等の角柱や、円柱、楕円柱等を含む。
【0017】
熱電変換部の作製方法は特に限定されない。例えば、多結晶性マグネシウムシリサイドを用いる場合は、化学量論量の割合のマグネシウムとケイ素と、必要に応じて約0.01~10.0at%の一種以上のドーパント元素と、を混合し、その混合物を全ての原材料が溶融する程度の温度(例えば1370K~1400K)で加熱し反応させた後徐冷し、インゴットAを得る。次いで、得られたインゴットAを粉砕して形成した粒子を放電プラズマ焼結することによってインゴットBを得る。インゴットBを、ワイヤーソーなどを用いて所定の大きさの柱状体に切り出して、熱電変換素子の熱電変換部として用いられることができる。またインゴットAが、ボイドなどの少ない均質なものである場合には、インゴットAから柱状体を直接切り出して熱電変換部とすることもできる。
【0018】
<SiおよびZrを含む被膜>
熱電変換部を被覆する被膜は、SiおよびZrを含む。SiおよびZr以外の金属元素を含んでもよく、これらは後述の表面処理剤の項目で説明する。
被膜によって熱電変換部を被覆する方法は特に限定されず、例えば、熱電変換部と後述する表面処理剤とを接触させ、必要に応じて乾燥(好ましくは加熱乾燥)して、被膜を熱電変換部に形成する方法が好ましい。また、熱電変換部に形成する被膜の被膜量は特に限定されないが、0.5~20g/m2が好ましく、2~10g/m2がより好ましい。
【0019】
表面処理剤と熱電変換部との接触方法は特に限定されず、均一に熱電変換部に表面処理剤を塗布することが好ましく、例えば、ロールコート法、浸漬法、スプレー塗布法などが挙げられる。
【0020】
熱電変換部を被覆する被膜を乾燥する際の加熱温度は特に限定されないが、280℃以下が好ましく、250℃以下がより好ましい。280℃以下であれば特殊な設備を必要とせず、産業上、極めて幅広く適応できる。
なお、加熱乾燥方法は特に限定されないが、大気環境下において、熱風やインダクションヒーター、赤外線、近赤外線などにより加熱して、表面処理剤を乾燥すればよい。また、加熱時間は、使用される表面処理剤中の化合物の種類などによって適宜最適な条件が選択される。
【0021】
熱電変換部を被覆する被膜中のSi質量(SM)に対するZr質量(ZM)の比(ZM/SM)は特に限定されないが、(ZM/SM)が0.09以上1.26以下の範囲内が好ましく、より好ましくは0.25~0.72であり、更に好ましくは0.32~0.59である。
【0022】
<表面処理剤>
本実施形態で用いられる表面処理剤は、熱電変換部にSi及びZrを含む被膜を形成できるものであればよく、アルカリ金属ケイ酸塩(A)と、酸化セリウム安定化酸化ジルコニウム(B)と、金属酸化物粒子及び粘土鉱物からなる群から選択される少なくとも1種を含む成分(C)と、を配合してなることがより好ましい。
以下、表面処理剤に含まれ得る各成分について説明する。
【0023】
<アルカリ金属ケイ酸塩(A)>
表面処理剤は、アルカリ金属ケイ酸塩(A)を含有することが好ましい。アルカリケイ酸塩(A)はアルカリ金属酸化物(M2O)とシリカ(SiO2)を含む化合物及び/又は混合物でありM2O・SiO2で表される。アルカリ金属酸化物に対するシリカのモル比(SiO2/M2O)は1.8以上7.0以下の範囲内であることが好ましい。その製造方法は特に限定されず既知の方法により製造できる。例えばアルカリ金属酸化物とシリカとを混合して混合物を得てもよく、市販されているアルカリ金属酸化物とシリカとを含む化合物を用いてよい。アルカリ金属成分Mとしてはナトリウム、カリウム、リチウム等の金属成分があげられる。また、アルカリケイ酸塩(A)としては、広く市版されている液状のものが使用でき、水ガラス1号、2号、3号、カリウムシリケ-ト溶液、リチウムシリケート溶液等が具体例として挙げられる。これらのアルカリケイ酸塩(A)は単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0024】
表面処理剤中におけるアルカリ金属ケイ酸塩(A)の含有量は特に限定されないが、表面処理剤中の全固形分に対して、42.8質量%以上87.5質量%以下の範囲内が好ましく、53.8質量%以上78.5質量%以下の範囲内がより好ましく、59.1質量%以上73.9質量%以下の範囲内がさらに好ましい。
なお、全固形分とは、アルカリケイ酸塩(A)、後述する酸化セリウム安定化酸化ジルコニウム(B)、並びに成分(C)の固形分の合計を意味し、溶媒などの揮発成分は含まれない。
【0025】
<酸化セリウム安定化酸化ジルコニウム(B)>
表面処理剤は、酸化セリウム安定化酸化ジルコニウム(B)を含有することが好ましい。酸化セリウム安定化酸化ジルコニウム(B)は、安定化剤である酸化セリウムで安定化された酸化ジルコニウムである。酸化セリウム安定化酸化ジルコニウム(B)の製造方法は、特に限定されないが、例えば、ジルコニウム塩とセリウムを含む塩とを水に溶解させ、湿式混合することにより得られた溶液をアンモニア水中に添加して沈殿物を得た後、沈殿物を濾過、水洗し、焼成により酸化セリウム安定化ジルコニウムを得る方法が挙げられる。
前記ジルコニウム塩としては、例えば、ジルコニウム硝酸塩、水酸化ジルコニウムなどが挙げられる。セリウム源としては、セリウム硝酸塩、水酸化セリウムが挙げられる。
【0026】
酸化セリウム安定化酸化ジルコニウム(B)の焼成温度は、特に限定されないが、800~1450℃程度が好ましい。この温度範囲で焼成することにより、微細な酸化セリウム安定化酸化ジルコニウムを得ることができる。
【0027】
焼成後に得られた酸化セリウム安定化酸化ジルコニウム(B)は、粉砕により平均粒子径を調整してもよい。平均粒子径としては、0.05μm以上20μm以下の範囲内が好ましく、0.1μm以上10μm以下の範囲内がより好ましく、0.2μm以上5μm以下の範囲内が特に好ましい。なお、平均粒子径の測定方法としては、レーザー回折・散乱法などの公知の粒度分布測定法などにて測定することができる。
【0028】
表面処理剤中における酸化セリウム安定化酸化ジルコニウム(B)の含有量は特に限定されないが、前記アルカリ金属ケイ酸塩(A)の質量(AM)と前記安定化酸化ジルコニウム(B)の質量(BM)との比(BM/AM)が0.08以上0.5以下の範囲内であることが好ましく、0.16以上0.37以下の範囲内であることがより好ましく、0.17以上0.31以下の範囲内であることが更に好ましい。
【0029】
<成分(C)>
表面処理剤は、金属酸化物粒子および粘土鉱物からなる群から選択される少なくとも1種を含む成分(C)を含有することが好ましい。なお、成分(C)には、既に説明したアルカリ金属ケイ酸塩(A)や酸化セリウム安定化酸化ジルコニウム(B)に該当するものは含まれない。
【0030】
成分(C)中の金属酸化物粒子を構成する成分としては、特に限定されないが、例えば、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、珪酸塩、リン酸塩、オキソ酸塩、酸化鉄、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、及び酸化チタン、並びにこれらの複合物などが挙げられる。
また、成分(C)中の粘土鉱物とは、例えば、多数のシートが積層されて形成される層状構造を有する層状粘度鉱物等を挙げることができる。層状粘土鉱物としては、例えば、層状ケイ酸塩鉱物等である。ここで、層を形成するシートは、ケイ酸と酸素で構成された四面体シートであってもよいし、アルミニウム及び/又はマグネシウムを含有する八面体シートであってもよい。
【0031】
粘土鉱物(層状粘土鉱物)の具体例として、モンモリロナイト、ベントナイト、バイデライト、ヘクトライト、サポナイト等のスメクタイト族;バーミキュライト族;イライト、白雲母、金雲母、黒雲母等の雲母族;マーガライト、クリントナイト等の脆雲母族;スドーアイト等の緑泥石族;カオリナイト、ハロイサイト等のカオリン族;アンチゴライト等の蛇紋石等が挙げられる。粘土鉱物は、天然物でも合成物であってもよく、これらを単独で又は2種以上を併用して用いてもよい。
なお、成分(C)として、層状粘土鉱物(ホスト)の層間にゲスト化合物を取り込ませたインターカレーション化合物(ピラードクリスタル等)や、層状粘土鉱物の層間におけるイオンを他のイオンに交換したもの、表面処理(シランカップリング剤による表面処理、シランカップリング剤による表面処理と有機バインダによる表面処理との複合化処理等)を施したものも使用することができる。
成分(C)としては、1種のみを使用してもよいし、2種以上を合わせて使用してもよい。
【0032】
成分(C)の平均粒子径は、特に限定されないが、0.05μm以上20μm以下の範囲内が好ましく、0.1μm以上10μm以下の範囲内がより好ましく、0.2μm以上5μm以下の範囲内が特に好ましい。
なお、平均粒子径の測定方法としては、レーザー回折・散乱法などの公知の粒度分布測定法などにて測定することができる。
【0033】
表面処理剤中における成分(C)の含有量は特に限定されないが、アルカリ金属ケイ酸塩(A)の質量(AM)と、成分(C)の質量(CM)との比(CM/AM)が0.08以上0.5以下の範囲内であることが好ましく、0.16以上0.37以下の範囲内であることがより好ましく、0.17以上0.31以下の範囲内であることが更に好ましい。
【0034】
表面処理剤は、被膜を形成するための各成分[成分(A)~(C)]を溶解または分散させるために、及び/又は濃度を調整するために溶媒を含有していてもよい。
溶媒としては、水又は水と水混和性有機溶媒との混合物(水性媒体の体積を基準として50体積%以上の水を含有するもの)であれば特に限定されるものではない。水混和性有機溶媒としては、水と混和するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;N,N’-ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒;エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノへキシルエーテル等のエーテル系溶媒;1-メチル-2-ピロリドン、1-エチル-2-ピロリドン等のピロリドン系溶媒等が挙げられる。これらの水混和性有機溶媒は1種を水と混合させてもよいし、2種以上を水に混合させてもよい。
また、溶媒の含有量は、処理剤全量に対して、30~90質量%が好ましく、40~80質量%がより好ましい。
【0035】
また、溶媒として水(例えば、脱イオン水)を使用する場合、表面処理剤のpHを6~11とすることが好ましく、より好ましいpHは9を中心として、8~10である。なお、pHの調整にはアンモニア、炭酸、硝酸、有機酸などを用いることが好ましい。
【0036】
また、表面処理剤は、界面活性剤を含有していてもよい。
界面活性剤の種類は特に限定されず、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、およびカチオン系界面活性剤を用いることができる。
【0037】
表面処理剤の製造方法は、特に限定されず、例えば、所定の溶媒中に、上記各主成分[アルカリ金属ケイ酸塩(A)、酸化セリウム安定化酸化ジルコニウム(B)、及び成分(C)]を所定量添加して、必要に応じてpH調整剤、界面活性剤等の他の成分を添加して混合することにより製造することができる。
また、必要に応じて、表面処理剤中においてを酸化セリウム安定化酸化ジルコニウム(B)や成分(C)を分散させるために、ホモミキサー、ディスパーミキサー等の撹拌装置、または、高圧ホモジナイザー、コロイドミル等の乳化装置を用いて、界面活性剤を加えた表面処理剤に撹拌処理を施してもよい。
【0038】
また、表面処理剤と熱電変換部との接触前に、必要に応じて、熱電変換部に前処理を施してもよい。前処理の方法は、特に限定されず、湯洗、溶剤洗浄、アルカリ脱脂洗浄、酸洗などの方法が挙げられる。
より好適な実施形態として、多結晶性マグネシウムシリサイド及び/又は多結晶性マンガンシリサイドからなる熱電変換部を、リン酸化合物と、水とを含有する前処理剤に接触させて前処理を行った後、表面処理剤を熱電変換部に接触させ、被膜を形成することが挙げられる。
【0039】
リン酸化合物としては、特に限定されるものではないが、例えば、オルトリン酸、メタリン酸、縮合リン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸、テトラリン酸、ヘキサメタリン酸およびその塩が挙げられる。例えば、重リン酸マグネシウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、リン酸ヒドロキシルアンモニウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸カリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸アルミニウム、リン酸ニッケル、リン酸コバルト等が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0040】
前処理剤におけるリン酸化合物の濃度は特に限定されないが、0.1~20質量%が好ましく、0.5~10質量%がより好ましく、2~5質量%がさらに好ましい。
【0041】
また、前処理剤は、水溶性溶剤、界面活性剤、キレート剤、消泡剤、pH調整剤などを含有していてもよい。
【0042】
<熱電変換素子>
熱電変換素子はSiおよびZrを含む被膜によって被覆された熱電変換部を含んでいればよいが、典型的には熱電変換部の両端に対向する電極層を設ける形態である。電極層は、例えば金属シリサイドや金属材料などを用いて構成されてもよく、熱電変換部との接触抵抗が低い材料で構成されることが好ましい。
【0043】
熱電変換部の両端に電極層を設ける方法は限定されないが、例えば、焼結用装置に収容したマグネシウムシリサイド及び/又はマンガンシリサイドの粉砕粒子集合体の両側に、電極層を構成する金属粒子を積重した後、一体に焼結させてインゴットを作製し、柱状体の形状に切り出すことで、熱電変換部の両端に対向する電極層が設けられた熱電変換素子を得ることができる。また、熱電変換部であるマグネシウムシリサイド及び/又はマンガンシリサイド柱状体の両端にSiおよびZrを含む被膜が付着しない方法で、電極層を構成する金属粒子分散液に浸漬塗布するか、あるいはSiおよびZrを含む被膜によって被覆されたマグネシウムシリサイド及び/又はマンガンシリサイド柱状体の両端の被膜を取り除き、そこに導電性ペーストを塗ることや、導電性金属材料をマグネシウムシリサイド及び/又はマンガンシリサイド柱状体に蒸着する方法などもある。
【0044】
<熱電変換モジュール>
熱電変換モジュールは、上記熱電変換素子を備え、熱電変換部の両端に形成された電極層が接続配線によって他の熱電変換素子の電極層と接続することで形成されてよいが、これに限られない。熱電変換モジュールは、熱電変換素子を複数接続することによって高出力化を図ることができる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例によって本発明をより具体的に示す。下記実施例は本発明を限定するものではなく、条件の変化に伴って設計を変更したものは、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0046】
(1)供試材
マグネシウムシリサイドの焼結体(Sb(0.5at%)とZn(0.5at%)がドープされたもの)インゴットから切り出して、3mm×3mm×6mmの熱電変換部用の柱状体を準備し、供試材e1とした。
上記ドープ型マグネシウムシリサイドの焼結体は、61.12gのMg、35.31gのSi、2.32gのSb、及び1.26gのZnを混合し、混合物を1400Kで加熱した後、徐冷することでSbとZnをドープしたMg2Si焼結体インゴットを得た。
マンガンシリサイドの焼結体(アンドープ)インゴットから切り出して、3mm×3mm×6mmの熱電変換部用の柱状体を準備し、供試材e2とした。
上記マンガンシリサイドの焼結体は、52.78gのMn、47.22gのSiを混合し、混合物を1400Kで加熱した後、徐冷することでアンドープ型Mn4Si7焼結体インゴットを得た。
【0047】
(2)前処理剤による前処理
上記の供試材の表面を、以下に示す前処理剤(d1~d3)を用いて浸漬法で前処理した。次に、供試材を水道水で水洗して表面が水で100%濡れることを確認した後、さらに純水を流しかけ、100℃雰囲気のオーブンで加熱し、水分を除去した。
d1: HCl 3質量%水溶液
d2: Na4P2O7 3質量%水溶液
d3: NaOH 3質量%水溶液
【0048】
(3)表面処理剤の調製
以下に示すアルカリ金属ケイ酸塩(A)、表1に示す酸化セリウム安定化ジルコニウム(B)、及び表2に示す成分(C)を、表面処理剤の全固形分に対し表3に示す配合量(配合比率)にて水中で混合し、混合液をアンモニア水、硝酸を使用してpH9に調整することで表面処理剤1~32(固形分濃度:10~60質量%)を得た。
なお、アルカリ金属ケイ酸塩(A)、酸化セリウム安定化酸化ジルコニウム(B)、及び成分(C)以外の主な成分は、水である。
a1: 珪酸カリウムにSiO2/K2Oのモル比が4.1になるように気相シリカを混合して得られた珪酸カリウム
a2: メチルフェニル系シリコーン樹脂(信越化学工業株式会社製KR-311)
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
(4)表面処理剤による表面処理
前処理を行った供試材に対し、上記表面処理剤1~32を接触させて表面処理を行った。具体的には、供試材に表面処理剤を塗装し、その後、水洗することなく、そのままオーブンに入れて180℃で乾燥させることで、試験材1~33を得た。なお、試験材の被膜量を表4に示す。
【0053】
【0054】
(5)試験材の評価
(5-1)密着性試験
試験材1~33の被膜表面を、市販のセロテープ(商標)を用いてテープ剥離をし、被膜の残存率を評価した。
◎:残存率91~100%
○:残存率71~90%
○-:残存率51~70%
×:残存率0~50%
【0055】
(5-2)耐熱後試験
試験材1~33を、大気雰囲気中で10℃/分の昇温速度で加熱し、600℃到達後1000時間加熱を行い高温環境下に晒し、その後室温に冷却した。
【0056】
(5-2-1)密着性試験
高温環境下に晒した試験材1~33に対し、上記(5-1)密着性試験と同様の試験を実施した。
【0057】
(5-2-2)耐クラック性試験
高温環境下に晒した試験材1~33に対し、走査型電子顕微鏡(SEM、倍率500倍)にて表面を観察し、クラック発生の有無を評価した。
◎:変化なし
○:1~5本のクラックあり
○-:全体にクラックあり
×:一部剥離
【0058】
(5-2-3)耐酸化性試験
高温環境下に晒した試験材1~33に対し、断面を、電子線マクロアナライザ(EPMA)にて分析し、高温環境下に晒す前後における供試材と被膜との相互拡散(酸素の拡散)を評価した。
◎:変化なし
○:皮膜と素材の界面に濃化あり
○-:全体に拡散あり
×:一部剥離(測定不可)
【0059】
試験材1~33の評価結果を、表5に示す。
なお、実用上の観点から、上記評価項目において「○-」から「◎」であることが要求される。
【0060】
【0061】
表5に示すように、本実施形態に係るSiおよびZrの金属元素を含む被膜によって被覆されている供試材は、高温に曝された場合においても、耐酸化性、耐クラック性および密着性に優れることがわかった。
【0062】
本実施例の試験材は電極部が設けられたものではないが、供試材の端部から電流を取り出すことができ、供試材自体が熱電変換素子として機能するものであることを確認した。また、供試材に電極を設けた熱電変換素子を複数連結して構成した熱電変換モジュールも機能するものであることを確認した。