(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-19
(45)【発行日】2022-05-27
(54)【発明の名称】グルタミントランスポーターと多価結合することができるリガンド、及び当該リガンドを含む組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 47/42 20170101AFI20220520BHJP
A61K 47/69 20170101ALI20220520BHJP
A61K 47/62 20170101ALI20220520BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220520BHJP
A61K 49/00 20060101ALI20220520BHJP
A61K 51/08 20060101ALI20220520BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220520BHJP
C07K 2/00 20060101ALN20220520BHJP
【FI】
A61K47/42
A61K47/69
A61K47/62
A61K45/00
A61K49/00
A61K51/08 200
A61P35/00
C07K2/00 ZNA
(21)【出願番号】P 2018535630
(86)(22)【出願日】2017-08-17
(86)【国際出願番号】 JP2017029552
(87)【国際公開番号】W WO2018037996
(87)【国際公開日】2018-03-01
【審査請求日】2020-07-21
(31)【優先権主張番号】P 2016161774
(32)【優先日】2016-08-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、革新的バイオ医薬品創出基盤技術開発事業、「高分子ナノテクノロジーを基盤とした革新的核酸医薬シーズ送達システムの創出」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願/平成28年度国立研究開発法人日本医療研究開発機構 革新的がん医療実用化研究事業「固形がん幹細胞を標的とした革新的治療法の開発に関する研究」に係る委託研究 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100164563
【氏名又は名称】佐々木 貴英
(72)【発明者】
【氏名】西山 伸宏
(72)【発明者】
【氏名】武元 宏泰
(72)【発明者】
【氏名】野本 貴大
(72)【発明者】
【氏名】友田 敬士郎
(72)【発明者】
【氏名】松井 誠
(72)【発明者】
【氏名】山田 直生
(72)【発明者】
【氏名】本田 雄士
(72)【発明者】
【氏名】石井 秀始
(72)【発明者】
【氏名】森 正樹
(72)【発明者】
【氏名】今野 雅允
【審査官】高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-110745(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0051347(US,A1)
【文献】ALVES, G. et al.,A platinum Chugaev carbene complex as a potent anticancer agent,Chem. Commun.,2011年,Vol.47,p.7830-7832,ISSN 1359-7345
【文献】MAH, V. et al.,Lead(II) Complex Formation with Glutathione,Inorganic Chemistry,2012年,Vol.51,p.6285-6298,ISSN 0020-1669
【文献】REDEKER, V. et al.,Structure of the Polyglutamyl Side Chain Posttranslationally Added to α-Tublin,The Journal of Biological Chemistry,1991年,Vol.266, No.34,p.23461-23466,ISSN 0021-9258
【文献】RODIN, R.L. et al.,Synthesis and Conformational Studies of poly-β-(γ-glutamyl)-aspartic Acid,Bioorganic Chemistry,1972年,Vol.2,p.65-72,ISSN 0045-2068
【文献】ESSLINGER, C.S. et al.,Nγ-Aryl glutamine analogues as probes of the ASCT2 neutral amino acid transporter binding site,Bioorganic & Medicinal Chemistry,2005年,Vol.13,p.1111-1118,ISSN 0968-0896
【文献】YAMADA, N. et al.,Engineering Tumour Cell-Binding Synthetic Polymers with Sensing Dense Transporters Associated with A,Sientific Reports,2017年07月20日,Vol.7:6077,p.1-10,ISSN 2045-2322
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 47/00
A61K 49/00
A61K 51/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正常細胞と比較して過剰に発現している癌細胞のグルタミントランスポーターと多価結合することができるリガンドであって、
10個以上の、以下の式(1):
【化1】
[式中、矢印はリガンドのその他の部分との連結を示す]
で表される基
が直接的に又はリンカーを介して連結しているポリマー鎖を含
み、
前記ポリマー主鎖がポリペプチドであるリガンド。
【請求項2】
数平均分子量が5,000Da以上である、請求項
1に記載のリガンド。
【請求項3】
前記ポリペプチド中の10個以上のアミノ酸の側鎖に、以下の式(2):
【化2】
[式中、
矢印は、前記側鎖への連結を示し、
Xは、-NH-、-O-、-NH-CO-、-C(O)O-、-C(O)S-、-S-及び-S-S-から成る群から選択される基であるか、又は存在せず、
Wは、C
1-6アルキレン基、ポリオキシアルキレン基及びポリアミノアルキレン基から成る群から選択されるリンカーであるか、又は存在しない]
で表される基が連結している、請求項
1又は2に記載のリガンド。
【請求項4】
前記ポリペプチドがα-ポリリシンである、請求項
1~3のいずれか1項に記載のリガンド。
【請求項5】
前記α-ポリリシン中の10個以上のリシンの側鎖アミノ基に、以下の式(3):
【化3】
[式中、矢印はリシンの側鎖アミノ基との連結を示す]
で表される基が連結している、請求項
4に記載のリガンド。
【請求項6】
複数の式(1)で表される基のうち、一部の基の末端の一級アミノ基が低pH環境で脱離する保護基によりキャッピングされている、請求項1~
5のいずれか1項に記載のリガンド。
【請求項7】
前記低pH環境で脱離する保護基が、フタロイル基、マレオイル基、2-カルボキシ-ベンゾイル基及び(2Z)-3-カルボキシ-2-プロペノイル基から成る群から選択される、請求項
6に記載のリガンド。
【請求項8】
少なくとも1つの検出可能な標識又は抗癌剤を含む、請求項1~
7のいずれか1項に記載のリガンド。
【請求項9】
前記検出可能な標識が、蛍光標識、発光標識、造影剤、金属原子、1種または2種以上の金属原子を含む化合物、放射性同位体、1種または2種以上の放射性同位体を含む化合物、ナノ粒子、またはリポソームである、請求項
8に記載のリガンド。
【請求項10】
以下の式(4)
【化4】
[式中、nは10以上の整数である]
で表される化合物又はその薬学的に許容される塩である、請求項1に記載のリガンド。
【請求項11】
請求項1~
10のいずれか1項に記載のリガンドを含む、組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正常細胞と比較して過剰に発現している癌細胞のグルタミントランスポーターと多価結合することができるリガンド、及び当該リガンドを含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
1.ターゲティング治療
近年、癌疾病は重大な問題となっている。WHOからの報告によると2012年には、820万人が癌疾病で亡くなっており、これは死因の13.2%を占める。癌の治療法の一つとして、化学療法がある。化学療法とは、体中に抗癌剤を行き渡らせることにより、癌細胞を殺傷する治療法である。化学療法は低侵襲であるという利点がある一方、副作用による患者の身体への負担が大きく、投与方法においても様々な制約が存在する。そのため副作用を抑制しつつ、癌を殺傷出来、患者への負担が減らし、Quality of life(QOL)を向上させつつ、治療が行える抗癌剤の開発が求められている。
【0003】
現在一般的に用いられている低分子化合物を用いた化学療法では、正常細胞にもダメージを与えてしまい、重篤な副作用が生じてしまう。この問題を解決する方法として、ターゲティング治療が挙げられる。ターゲティング治療とは、癌細胞のみに特異的に存在する受容体に結合する標的指向性物質(リガンド)に薬剤を修飾させることで、癌組織にのみ選択的に薬剤を送達出来るようになり、治療効果の向上および副作用の軽減を狙うものである。現在リガンドとして、葉酸や炭化水素物のような低分子、ペプチドやタンパク質、アプタマー、抗体などの生化合物を用いたものが知られている。この治療法の利点は、様々な種類のリガンドと薬剤を組み合わせることで、薬理効果の最大化および副作用の緩和や、今まで毒性が強く臨床応用されなかった薬剤を使用できる可能性がある点である。ターゲティング治療薬の一例として癌細胞に特異的に存在する抗原と結合する抗体に薬剤を導入した抗体-薬剤コンジュゲート(ADCs, Antibody Drug Conjugates)がある。現在、トラスツズマブ エムタンシン(trastuzumab emtansine) とブレンツキシマブ ベドチン(brentuximab vedotin)の2種類のADCsが臨床応用されており、副作用の軽減および治療効果の向上が確認されている(非特許文献1、2)。また抗体以外にも、癌細胞に過剰に発現している葉酸レセプター(FR)をターゲティングする葉酸などをリガンドとして用いた治療薬も臨床試験されている(非特許文献3)。このように、リガンドに薬剤を導入したターゲティング治療薬は抗癌剤の薬理効果の向上において非常に有用であると考えられている。
【0004】
2.トランスポーター
細胞は癌化することによって、解糖系が促進され、グルコースを大量に消費する。そのため、癌細胞にはグルコースを取り込むグルコーストランスポーターが細胞表面に過剰に発現しており、グルコースの過剰な取り込みがなされる。癌細胞におけるグルコースの取り込みの亢進を利用して、グルコースの水素の一部を18Fに変えた18F-フルオロデオキシグルコース-ポジトロン断層法(18F-fluorodeoxyglucose-positron emission tomography) ([18F]FDG-PET)が、がん診断に実用化されている(非特許文献4)。
【0005】
また、癌化した細胞において、アミノ酸の取り込みも同様に亢進している。これは、癌細胞が急激な増殖とタンパク質の合成を行うため、正常細胞と比べて多量のアミノ酸を必要とするからである。癌細胞には様々なアミノ酸を取り込むトランスポーターが過剰発現している。
【0006】
アミノ酸のなかでも、グルタミンの取り込みが癌細胞において特に活性化されている。癌細胞におけるグルタミンの取り込みは、正常細胞と比較して10~30倍亢進していることが知られている。グルタミンは、グルタミントランスポーターを介して取り込まれ、細胞内でグルタミナーゼ(GLS)などの酵素によって、グルタミン酸、αケトグルタル酸に異化され、TCA経路に組み込まれ、ATPを産出している。グルタミンをグルタミン酸に異化する酵素GLSを阻害する薬剤は、一定の増殖抑制効果を示している。また、グルタミンはアスパラギンに異化されDNA合成に用いられている。グルタミンの取り込みは解糖系を促進するMYCなどのシグナルによって促進される。これらの働きによって、TCAサイクルを維持することが出来る。このように、グルタミンの過剰取り込みは癌環境維持に大きく影響を及ぼしている。
【0007】
グルタミンを輸送する様々なグルタミントランスポーターは様々ある。グルタミントランスポーターは大きく分けて、Na+依存型とNa+非依存型があり、システムA、N、ASCとB0AT2がNa+依存型、システムLはNa+非依存型である。この中で、癌細胞内へのグルタミン取り込みに大きな役割を担っていると考えられているのが、システムASCに属するASCT2である。ASCT2はアラニン、セリン、システインと高い親和性(Km=30~90μM)を持っており、様々なアミノ酸の取り込みに関連している。特にグルタミンの取り込みに大きく関わっており、グルタミンとの親和性は特に高い(Km=20μM)。これは、グルタミンのα位炭素部分のキラリティー(L型)、アミノ基とカルボキシル基間の炭素数が1つであることによって、ASCT2との間で強い静電相互作用と水素結合が生まれているからである。
【0008】
癌特異的なグルタミンの取り込み、特にASCT2によるグルタミンの取り込みの亢進に着目し、グルタミンを用いたPETプローブが開発されている(非特許文献5、6)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】Mallory R. Gordon et al., Bioconjugate Chem. 2015, 26, 2198-2215
【文献】Enrico Mastrobattista, et al., Advanced Drug Delivery Reviews, 40, 103-127(1999)
【文献】Nikki Parker, et al., Analytical Biochemistry 338 284-293(2005)
【文献】Ashley M Groves, et al., Lancet Oncol, 8, 822-830(2007)
【文献】Zehui Wu, et al., Mol. Pharmaceutics, 11, 3852-3866 (2014)
【文献】Wenchao Qu, et al., J. Am. Chem. Soc., 133, 1122-1133 (2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ターゲティング治療薬は一定の治療効果を示しているものの、幾つかの問題点が存在する。1つ目の問題点は癌の多様性である。例えば、葉酸レセプター(FR)は、癌種によって受容体の発現量が大きく異なることが知られている(非特許文献3)。また、抗体の場合も同様に癌種によって、過剰発現している抗原の種類は異なる(非特許文献2)。そのため、癌の種類が異なると1種類のリガンドではターゲティングできなくなってしまい、治療に制限が生じてしまう。
【0011】
2つ目の問題点は癌の不均一性である。これは同じ癌組織でも1つ1つ癌細胞によって表現形が異なるため、受容体の発現量に差および有無がある。そのため、受容体を発現していない癌細胞はリガンドでターゲティング出来ず、残存した癌細胞による再発のリスクが生じる。これらの問題を解決するためには、癌種、細胞によらず十分に発現している受容体の探索、そしてそれらをターゲティングできるリガンドの開発が重要である。
【0012】
また、3つ目の問題点として副作用がある。現在、臨床応用されているリガンドは受容体との結合力が非常に高く、単体の受容体と結合することが可能であり、またターゲティングする受容体の発現量も非常に多い。しかし、これらの受容体は正常細胞表面にも癌細胞の1/3~1/4倍程度発現しているため、従来の抗癌剤に比べて副作用は緩和されたものの正常細胞へも結合してしまい副作用を生じさせてしまう。このように、受容体との結合力が強いリガンドで受容体の有無で結合を選択する従来の方法を用いると、受容体が発現している正常細胞とも結合してしまい、副作用が生じてしまう。この問題を解決するためには、受容体の有無ではなく発現量でターゲティングを選択できるリガンドが有用であると考えられる。このようなリガンドであれば、受容体の発現量の少ない正常細胞はターゲティングせず、発現量の多い癌細胞のみのターゲティングを実現でき、副作用の更なる緩和が狙える。
【0013】
さらに、抗体-薬剤コンジュゲートを用いる場合には、抗体分子に搭載できる薬物は1抗体あたり3~4分子程度と非常に少ない。また、抗体を使用するために大量合成が困難であり、極めて高価であるという問題点がある。
【0014】
癌細胞がグルタミントランスポーターを過剰に発現し、正常細胞と比較して10~30倍ほどグルタミンの取り込みが亢進していることから、グルタミンは癌細胞を標的化できる新規リガンドとして非常に有用であると考えられる。
【0015】
しかし、グルタミン単体をリガンドとして用いることを考えた場合、グルタミンとトランスポーターとの結合力は一般にリガンド分子に求められる結合力よりも弱いため、リガンドとして機能できないと予想される。例えば、ASCT2とグルタミンの親和性の指標であるミカエリス定数Kmは20μMである。一方、リガンドの結合力の指標としては解離定数Kdが用いられており、Km、Kdともに値が小さいほど親和性や結合力が高い。その定義上、ASCT2とグルタミンの解離定数は上記のミカエリス定数である20μMよりも小さい値をとると考えられるが、その値が一般にリガンド分子に求められる10nMオーダーまで到達するとは考えにくい。
【0016】
従って本発明は、あらゆる癌を選択的に標的化できるリガンドの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは上記課題に鑑み、鋭意検討した結果、グルタミントランスポーターを介したグルタミンの取り込みに際して、当該トランスポーターが認識するグルタミンの部分構造を複数有するリガンドが、癌細胞上で当該トランスポーターと多価結合することにより、癌細胞に特異的に取り込まれることを見出し、本発明に至った。
【0018】
すなわち本発明は、以下の態様を有する。
[1]正常細胞と比較して過剰に発現している癌細胞のグルタミントランスポーターと多価結合することができるリガンドであって、複数の、以下の式(1):
【化1】
[式中、矢印はリガンドのその他の部分との連結を示す]
で表される基を含む、リガンド。
[2]
10個以上の前記式(1)の基が直接的に又はリンカーを介して連結している、ポリマー主鎖を含む、[1]に記載のリガンド。
[3]
数平均分子量が5,000Da以上である、[2]に記載のリガンド。
[4]
前記ポリマー主鎖が、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアクリレート、ポリペプチド及びそれらの共重合体から成る群から選択される、[2]又は[3]に記載のリガンド。
[5]
前記ポリマー主鎖がポリペプチドである、[2]~[4]のいずれか1つに記載のリガンド。
[6]
前記ポリペプチド中の10個以上のアミノ酸の側鎖に、以下の式(2):
【化2】
[式中、
矢印は、前記側鎖への連結を示し、
Xは、-NH-、-O-、-NH-CO-、-C(O)O-、-C(O)S-、-S-及び-S-S-から成る群から選択される基であるか、又は存在せず、
Wは、C
1-6アルキレン基、ポリオキシアルキレン基及びポリアミノアルキレン基から成る群から選択されるリンカーであるか、又は存在しない]
で表される基が連結している、[5]に記載のリガンド。
[7]
前記ポリペプチドがα-ポリリシンである、[5]又は[6]に記載のリガンド。
[8]
前記α-ポリリシン中の10個以上のリシンの側鎖アミノ基に、以下の式(3):
【化3】
[式中、矢印はリシンの側鎖アミノ基との連結を示す]
で表される基が連結している、[7]に記載のリガンド。
[9]
複数の式(1)で表される基のうち、一部の基の末端の一級アミノ基が低pH環境で脱離する保護基によりキャッピングされている、[1]~[8]のいずれか1つに記載のリガンド。
[10]
前記低pH環境で脱離する保護基が、フタロイル基、マレオイル基、2-カルボキシ-ベンゾイル基及び(2Z)-3-カルボキシ-2-プロペノイル基から成る群から選択される、[9]に記載のリガンド。
[11]
少なくとも1つの検出可能な標識又は抗癌剤を含む、[1]~[10]のいずれか1つに記載のリガンド。
[12]
前記検出可能な標識が、蛍光標識、発光標識、造影剤、金属原子、1種または2種以上の金属原子を含む化合物、放射性同位体、1種または2種以上の放射性同位体を含む化合物、ナノ粒子、またはリポソームである、[11]に記載のリガンド。
[13]
以下の式(4)
【化4】
[式中、nは10以上の整数である]
で表される化合物又はその薬学的に許容される塩である、[1]に記載のリガンド。
[14]
[1]~[13]のいずれか1つに記載のリガンドを含む、組成物。
[15]
それを必要とする対象に、有効量の[11]又は[12]に記載のリガンドを投与することを含む、癌の診断又は検出方法であって、前記リガンドは少なくとも1つの検出可能な標識を含む、方法。
[16]
癌を診断又は検出するための、[11]又は[12]に記載のリガンドであって、少なくとも1つの検出可能な標識を含む、リガンド。
[17]
癌を診断又は検出するための医薬の製造における、[11]又は[12]に記載のリガンドの使用であって、前記リガンドは少なくとも1つの検出可能な標識を含む、使用。
[18]
それを必要とする対象に、有効量の[11]に記載のリガンドを投与することを含む、癌の治療方法であって、前記前記リガンドは少なくとも1つの抗癌剤を含む、方法。
[19]
癌を治療するための[11]に記載のリガンドであって、少なくとも1つの抗癌剤を含む、リガンド。
[20]
癌を治療するための医薬の製造における、[11]に記載のリガンドの使用であって、前記前記リガンドは少なくとも1つの抗癌剤を含む、使用。
【発明の効果】
【0019】
本発明のリガンドを用いることで、あらゆる癌を選択的にターゲティングすることができる。本発明のリガンドと薬物とを複合化することで、癌のターゲティング治療に有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】Bx-PC3細胞のリガンドの取り込み量の経時変化を示す図である(n=3)。高分子リガンド濃度:10μM,インキュベーション温度:37℃。
【
図2】インキュベーションを1時間行った場合における、細胞の高分子リガンドの取り込み量の比較を示す図である(各n=3)。(a)Bx-PC3細胞、(b)HepG2細胞、(c)HUVEC細胞。高分子リガンド濃度:10μM、インキュベーション温度:37℃。
【
図3】インキュベーションを6時間行った場合における、細胞の高分子リガンドの取り込み量の比較を示す図である(各n=3)。(a)Bx-PC3細胞、(b)HepG2細胞、(c)HUVEC細胞。高分子リガンド濃度:10μM、インキュベーション温度:37℃。
【
図4】阻害剤の存在下又は非存在下における、高分子リガンドのBx-PC3細胞内への取り込み率(各n=3)を示す図である。高分子リガンド側鎖のGln(Glu)濃度:1mM、温度:37℃、インキュベーション時間:1時間、高分子リガンド溶液中での取り込み量を100%として算出。
【
図5】阻害剤の存在下又は非存在下における、高分子リガンドのHepG2細胞内への取り込み率(各n=3)を示す図である。高分子リガンド側鎖のGln(Glu)濃度:1mM、温度:37℃、インキュベーション時間:1時間、高分子リガンド溶液中での取り込み量を100%として算出。
【
図6】阻害剤の存在下又は非存在下における、高分子リガンドのHUVEC細胞内への取り込み率(各n=3)を示す図である。高分子リガンド側鎖のGln(Glu)濃度:1mM、温度:37℃、インキュベーション時間:1時間、高分子リガンド溶液中での取り込み量を100%として算出。
【
図7】抗ASCT2抗体(H-52)の存在下又は非存在下における、高分子リガンドのBx-PC3細胞内への取り込み率(各n=3)を示す図である。高分子リガンド側鎖のGln(Glu)濃度:10mM、温度:37℃。高分子リガンドのみの取り込み量を100%として算出。
【
図8】37℃及び4℃における、Bx-PC3細胞への高分子リガンドの取り込み量を示す図である(各n=3)。高分子リガンド濃度:10μM。
【
図9】重合度の異なる高分子リガンドのBx-PC3細胞への取り込み量を示す(各n=3)。高分子リガンド濃度:10μM、温度:37℃。
【
図10】重合度の異なる高分子リガンドのHepG2細胞への取り込み量を示す(各n=3)。高分子リガンド濃度:10μM、温度:37℃。
【
図11】37℃における、Cy5-P[Lys(Gln)]106のBx-PC3細胞内への取り込みを示すCLSM画像である。(a)赤:Cy5-P[Lys(Gln)]106(Cy5)。(b)緑:ASCT2(DyLight 488)。(c)青:細胞核(Hoechst)。(d)マージ(Merge)。Cy5-P[Lys(Gln)]106濃度:10μM、インキュベーション時間:1時間、レンズ倍率:63倍。
【
図12】37℃における、Cy5-P[Lys(Gln)]106のBx-PC3細胞内への取り込みを示す3Dモデルである。赤:Cy5-P[Lys(Gln)]106(Cy5)。緑:ASCT2(DyLight 488)。青:細胞核(Hoechst)。黄:赤と緑の非局在部分。
【
図13】4℃における、Cy5-P[Lys(Gln)]106のBx-PC3細胞内への取り込みを示すCLSM画像である。(a)赤:Cy5-P[Lys(Gln)]106(Cy5)。(b)緑:ASCT2(DyLight 488)。(c)青:細胞核(Hoechst)。(d)マージ(Merge)。Cy5-P[Lys(Gln)]106濃度:10μM、インキュベーション時間:1時間、レンズ倍率:63倍。
【
図14】4℃における、Cy5-P[Lys(Gln)]106のBx-PC3細胞内への取り込みを示す3Dモデルである。赤:Cy5-P[Lys(Gln)]106(Cy5)。緑:ASCT2(DyLight 488)。青:細胞核(Hoechst)。黄:赤と緑の非局在部分。
【
図15】Bx-PC3細胞移植マウスの腫瘍へ高分子リガンドを局部注射した際の蛍光強度の変化を示す図である(n=2)。高分子リガンド濃度:4μM、腫瘍へ高分子リガンドを投与してから30分後の蛍光強度を100%かつスタートポイントとした。
【
図16】HepG2細胞移植マウスの腫瘍へ高分子リガンドを局部注射した際の蛍光強度の変化を示す図である(n=2)。高分子リガンド濃度:4μM、腫瘍へ高分子リガンドを投与してから30分後の蛍光強度を100%かつスタートポイントとした。
【
図17】実施例1の化合物(e)(n=25、46、106)のGPCスペクトルを示す。(溶出液:10mM PB、140mM NaCl、pH7.4,流速:0.75ml/分、検出器:UV220nm)
【
図18】Cy5-P[Lys(Gln)]n(n=25、46、106)の蛍光スペクトルを示す。励起波長:550nm。
【
図19】Cy5-P[Lys(α-Glu)]n(n=46、106)の蛍光スペクトルを示す。励起波長:550nm。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の一態様は、正常細胞と比較して過剰に発現している癌細胞のグルタミントランスポーターと多価結合することができるリガンドであって、複数の、以下の式(1):
【化5】
[式中、矢印はリガンドのその他の部分との連結を示す]
で表される基を含む、リガンドに関する。以下で「本発明のリガンド」とも呼ぶ。
【0022】
本明細書において「リガンド」とは、細胞の特定の標的部位に特異的に結合することができる物質のことである。本発明のリガンドの形態は特に限定されず、例えば1つの分子に複数の式(1)で表される基が含まれる分子(以下で「リガンド分子」とも呼ぶ)であってもよいし、1つの分子に少なくとも1つの式(1)で表される基を含む分子の複合体(以下で「リガンド複合体」とも呼ぶ)であってもよい。リガンド複合体としては、特に限定されないが、例えば、標的部位への結合部を有するミセル、リポソームなどが挙げられる。
【0023】
本発明のリガンドは、正常細胞と比較して過剰に発現している癌細胞のグルタミントランスポーターを標的とする。ここで「正常細胞」とは、標的である癌細胞と同種の細胞であって、癌化していないもののことである。そのようなグルタミントランスポーターとしては、例えば、システムASCに属するASCT2、システムLに属するLAT1、システムNに属するSNAT5などが挙げられる。本発明のリガンドは、特に癌細胞のASCT2を標的とする。過剰発現の程度は、正常細胞と比較して多く発現している限り特に限定されない。グルタミントランスポーターの種類や当該トランスポーターが発現する癌細胞の属する組織の種類によって異なるが、本発明のリガンドは、例えば、正常細胞と比較して1.1倍以上、1.3倍以上、1.5倍以上、2倍以上、2.5倍以上又は3倍以上発現している癌細胞のグルタミントランスポーターを標的とする。
【0024】
本明細書において「多価結合」とは、リガンドが細胞上の少なくとも2つの標的部位(すなわちグルタミントランスポーター)と、複数の式(1)の基を介して結合することである。グルタミン単体ではトランスポーターとの結合能が極めて低く、リガンドとして機能できないが、グルタミンを複数含む本発明のリガンドは、グルタミン単体と比較してグルタミントランスポーターへの結合力が大幅に増大している。
【0025】
本発明のリガンドは、グルタミントランスポーターへの結合の後、エンドサイト―シスによって細胞内に取り込まれ得る。
【0026】
式(1)の基の立体構造は、本発明のリガンドが、正常細胞と比較して過剰に発現している癌細胞のグルタミントランスポーターと多価結合することができる限り特に限定されず、以下の式(1a)又は(1b)のいずれの立体構造を有していても良い。天然に存在するL-グルタミンと同一の立体構造を有する式(1a)の基が好ましい。
【化6】
[式中、矢印はリガンドのその他の部分との連結を示す]
【0027】
本発明のリガンド中の式(1)の基の数は、当該リガンドが、正常細胞と比較して過剰に発現している癌細胞のグルタミントランスポーターと多価結合することができる限り、特に限定されない。当該基の数の下限は、例えば、10個、15個、20個、25個、30個、35個、40個、45個、50個、60個、70個、80個、90個、又は100個であり、当該基の数の上限は、例えば、200個、300個、400個、500個、600個、700個、800個、900個、1000個、3000個又は5000個である。当該基の数は、例えば10~5000個であり、好ましくは10~500個であり、より好ましくは20~200個である。当該基の好適な数は、当該基と結合する物質の物理的構造や化学的特性などに依存して変化する。
【0028】
一の実施形態において、本発明のリガンドは、複数の式(1)の基が直接的に又はリンカーを介して連結する、ポリマー主鎖を含む。この場合、式(1)の基の数については上記の通りである。好ましくは、本発明のリガンドは、10個以上の式(1)の基が直接的に又はリンカーを介して連結する、ポリマー主鎖を含む。当該ポリマー主鎖は、グルタミントランスポーターとの多価結合を阻害しない限り特に限定されないが、例えば、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエーテル、ポリアクリレート、ポリシロキサン、ポリビニル、ポリペプチド、ポリヌクレオチド及びそれらの共重合体などが挙げられる。好ましくは、当該ポリマー主鎖は、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアクリレート、ポリペプチド及びそれらの共重合体である。本発明の一の実施形態において、ポリマー主鎖は、カルボン酸と縮合可能な1級又は2級アミノ基を含む。また本発明の一の実施形態において、ポリマー主鎖はポリペプチドである。また本発明の一の実施形態において、ポリマー主鎖は複数のリシンを含むポリペプチドであり、例えばα-ポリリシンである。本発明のリガンドがポリマー主鎖を有する場合において、その数平均分子量の下限は、例えば3,000Da、4,000Da、5,000Da、6,000Da又は7,000Daであり(好ましくは5,000Daであり)、その上限は、特に限定されないが、例えば1,500,000Da、1,000,000Da、500,000Da、300,000Da、100,000Da、70,000Da又は50,000Daである。本発明のリガンドがポリマー主鎖を有する場合において、その数平均分子量は、好ましくは5,000Da~150,000Daであり、より好ましくは6,000Da~70,000Daである。
【0029】
一の実施形態において、本発明のリガンドのポリマー主鎖はポリペプチド(例えばα-ポリリシン)であり、前記ポリペプチド中の複数のアミノ酸の側鎖に、以下の式(2):
【化7】
[式中、
矢印は、前記側鎖への連結を示し、
Xは、-NH-、-O-、-NH-CO-、-C(O)O-、-C(O)S-、-S-及び-S-S-から成る群から選択される基であるか、又は存在せず、
Wは、C
1-6アルキレン基、ポリオキシアルキレン基及びポリアミノアルキレン基から成る群から選択されるリンカーであるか、又は存在しない]
で表される基が連結している。この場合、リガンド中の式(2)の基の数については、上記の式(1)の基の数が同様に適用される。好ましくは、前記ポリペプチド中の10個以上のアミノ酸の側鎖に、上記式(2)で表される基が連結している。X及びWの組み合わせとしては、Xが-NH-又は-NH-CO-であってWがリンカーである場合、あるいはX及びWが共に存在しない場合が好ましい。
【0030】
本明細書において「アルキレン基」は、直鎖若しくは分枝鎖状のアルキレン基のことである。本明細書において「C1-6アルキレン基」とは、炭素数1~6の直鎖若しくは分枝鎖状のアルキレン基のことであり、例えばメチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、へキシレン基及びそれらの異性体が挙げられる。本明細書において「ポリオキシアルキレン基」は、特に限定されないが、例えばポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、ポリオキシブチレン又はこれらの共重合体である。本明細書において「ポリアミノアルキレン基」は、特に限定されないが、例えばポリアミノエチレン、ポリアミノプロピレン、ポリアミノブチレン又はこれらの共重合体である。
【0031】
一の実施形態において、本発明のリガンドのポリマー主鎖はポリペプチド(例えばα-ポリリシン)であり、ここで前記ポリペプチド中の複数のリシンの側鎖アミノ基に、式(1)で表される基がリンカーを介して連結しているか、又はポリペプチド中のリシンの側鎖アミノ基に、以下の式(3):
【化8】
[式中、矢印はリシンの側鎖アミノ基との連結を示す]
で表される基が連結している。この場合、リガンド中の式(3)の基の数については、上記の式(1)の基の数が同様に適用される。好ましくは、前記ポリペプチド中の10個以上のリシンの側鎖アミノ基に、上記式(3)で表される基が連結している。より好ましくは、前記ポリペプチド中の全てのリシンの側鎖アミノ基に、上記式(3)で表される基が連結している。
【0032】
一の好ましい実施形態において、本発明のリガンドのポリマー主鎖はα-ポリリシンであり、ここで前記α-ポリリシン中の10個以上の(より好ましくは全ての)リシンの側鎖アミノ基に、以下の式(3):
【化9】
[式中、矢印はリシンの側鎖アミノ基との連結を示す]
で表される基が連結している。
【0033】
式(1)の基が、ポリマー主鎖にリンカーを介して連結する場合、リンカーの構造はグルタミントランスポーターとの多価結合を阻害しない限り特に限定されない。例えば、リンカーは、C1-6アルキレン基、ポリオキシアルキレン基又はポリアミノアルキレン基であり、好ましくはポリオキシエチレン基である。
【0034】
一の実施形態において、本発明のリガンドは、少なくとも1つの式(1)で表される基が直接的に又はリンカーを介して連結する親水性ポリマーセグメントと、疎水性ポリマーセグメントとを含むブロックコポリマーを含んで成るポリマーミセルである。
【0035】
親水性のセグメントとしては、ミセルの形成を阻害しない限り特に限定されないが、例えばポリエチレンオキシド及びポリプロピレンオキシドなどのポリアルキレンオキシド、ポリリンゴ酸、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、ポリリシン、ポリサッカライド、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリメタクリルアミド、ポリメタクリル酸、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸エステル、ポリアクリル酸エステル、ポリアミノ酸あるいはこれらの誘導体由来のセグメントが挙げられる。
【0036】
疎水性セグメントとしては、ミセルの形成を阻害しない限り特に限定されないが、例えばポリ(β-ベンジルL-アスパルテート)、ポリ(γ-ベンジルL-グルタメート)、ポリ(β-置換アスパルテート)、ポリ(γ-置換グルタメート)、ポリ(L-ロイシン)、ポリ(L-バリン)、ポリ(L-フェニルアラニン)、疎水性ポリアミノ酸、ポリスチレン、ポリメタクリル酸エステル、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸アミド、ポリアクリル酸アミド、ポリアミド、ポリエステル、ポリアルキレンオキシド、疎水性のポリオレフィンが挙げられる。
【0037】
特に限定されないが、親水性セグメントと疎水性セグメントと含むブロックコポリマーの例としては、次のものが挙げられる。ポリエチレンオキシド-ポリスチレンブロックコポリマー、ポリエチレンオキシド-ポリブタジエンブロックコポリマー、ポリエチレンオキシド-ポリイソプレンブロックコポリマー、ポリエチレンオキシド-ポリプロピレンブロックコポリマー、ポリエチレンオキシド-ポリエチレンブロックコポリマー、ポリエチレンオキシド-ポリ(β-ベンジルアスパルテート)ブロックコポリマー、ポリエチレンオキシド-ポリ(γ-ベンジルグルタメート)ブロックコポリマー、ポリエチレンオキシド-ポリ(アラニン)ブロックコポリマー、ポリエチレンオキシド-ポリ(フェニルアラニン)ブロックコポリマー、ポリエチレンオキシド-ポリ(ロイシン)ブロックコポリマー、ポリエチレンオキシド-ポリ(イソロイシン)ブロックコポリマー、ポリエチレンオキシド-ポリ(バリン)ブロックコポリマー、ポリアクリル酸-ポリスチレンブロックコポリマー、ポリアクリル酸-ポリブタジエンブロックコポリマー、ポリアクリル酸-ポリイソプレンブロックコポリマー、ポリアクリル酸-ポリプロピレンブロックコポリマー、ポリアクリル酸-ポリエチレンブロックコポリマー、ポリアクリル酸-ポリ(β-ベンジルアスパルテート)ブロックコポリマー、ポリアクリル酸-ポリ(γ-ベンジルグルタメート)ブロックコポリマー、ポリアクリル酸-ポリ(アラニン)ブロックコポリマー、ポリアクリル酸-ポリ(フェニルアラニン)ブロックコポリマー、ポリアクリル酸-ポリ(ロイシン)ブロックコポリマー、ポリアクリル酸-ポリ(イソロイシン)ブロックコポリマー、ポリアクリル酸-ポリ(バリン)ブロックコポリマー、ポリメタクリル酸-ポリスチレンブロックコポリマー、ポリメタクリル酸-ポリブタジエンブロックコポリマー、ポリメタクリル酸-ポリイソプレンブロックコポリマー、ポリメタクリル酸-ポリプロピレンブロックコポリマー、ポリメタクリル酸-ポリエチレンブロックコポリマー、ポリメタクリル酸-ポリ(β-ベンジルアスパルテート)ブロックコポリマー、ポリメタクリル酸-ポリ(γ-ベンジルグルタメート)ブロックコポリマー、ポリメタクリル酸-ポリ(アラニン)ブロックコポリマー、ポリメタクリル酸-ポリ(フェニルアラニン)ブロックコポリマー、ポリメタクリル酸-ポリ(ロイシン)ブロックコポリマー、ポリメタクリル酸-ポリ(イソロイシン)ブロックコポリマー、ポリメタクリル酸-ポリ(バリン)ブロックコポリマー、ポリ(N-ビニルピロリドン)-ポリスチレンブロックコポリマー、ポリ(N-ビニルピロリドン)-ポリブタジエンブロックコポリマー、ポリ(N-ビニルピロリドン)-ポリイソプレンブロックコポリマー、ポリ(N-ビニルピロリドン)-ポリプロピレンブロックコポリマー、ポリ(N-ビニルピロリドン)-ポリエチレンブロックコポリマー、ポリ(N-ビニルピロリドン)-ポリ(β-ベンジルアスパルテート)ブロックコポリマー、ポリ(N-ビニルピロリドン)-ポリ(γ-ベンジルグルタメート)ブロックコポリマー、ポリ(N-ビニルピロリドン)-ポリ(アラニン)ブロックコポリマー、ポリ(N-ビニルピロリドン)-ポリ(フェニルアラニン)ブロックコポリマー、ポリ(N-ビニルピロリドン)-ポリ(ロイシン)ブロックコポリマー、ポリ(N-ビニルピロリドン)-ポリ(イソロイシン)ブロックコポリマー、ポリ(N-ビニルピロリドン)-ポリ(バリン)ブロックコポリマー、ポリ(アスパラギン酸)-ポリスチレンブロックコポリマー、ポリ(アスパラギン酸)-ポリブタジエンブロックコポリマー、ポリ(アスパラギン酸)-ポリイソプレンブロックコポリマー、ポリ(アスパラギン酸)-ポリプロピレンブロックコポリマー、ポリ(アスパラギン酸)-ポリエチレンブロックコポリマー、ポリ(アスパラギン酸)-ポリ(β-ベンジルアスパルテート)ブロックコポリマー、ポリ(アスパラギン酸)-ポリ(γ-ベンジルグルタメート)ブロックコポリマー、ポリ(アスパラギン酸)-ポリ(アラニン)ブロックコポリマー、ポリ(アスパラギン酸)-ポリ(フェニルアラニン)ブロックコポリマー、ポリ(アスパラギン酸)-ポリ(ロイシン)ブロックコポリマー、ポリ(アスパラギン酸)-ポリ(イソロイシン)ブロックコポリマー、ポリ(アスパラギン酸)-ポリ(バリン)ブロックコポリマー、ポリ(グルタミン酸)-ポリスチレンブロックコポリマー、ポリ(グルタミン酸)-ポリブタジエンブロックコポリマー、ポリ(グルタミン酸)-ポリイソプレンブロックコポリマー、ポリ(グルタミン酸)-ポリプロピレンブロックコポリマー、ポリ(グルタミン酸)-ポリエチレンブロックコポリマー、ポリ(グルタミン酸)-ポリ(β-ベンジルアスパルテート)ブロックコポリマー、ポリ(グルタミン酸)-ポリ(γ-ベンジルグルタメート)ブロックコポリマー、ポリ(グルタミン酸)-ポリ(アラニン)ブロックコポリマー、ポリ(グルタミン酸)-ポリ(フェニルアラニン)ブロックコポリマー、ポリ(グルタミン酸)-ポリ(ロイシン)ブロックコポリマー、ポリ(グルタミン酸)-ポリ(イソロイシン)ブロックコポリマー、ポリ(グルタミン酸)-ポリ(バリン)ブロックコポリマー。
【0038】
式(1)の基が、親水性セグメントにリンカーを介して連結する場合、リンカーの構造はグルタミントランスポーターとの多価結合を阻害しない限り特に限定されない。例えば、リンカーはポリオキシアルキレン基であり、好ましくはポリオキシエチレン基である。
【0039】
本発明のリガンドは、少なくとも1つの検出可能な標識を含んでもよい。本明細書において、「検出可能な標識」とは、既存の任意の検出手段により検出し得る任意の原子又は化合物のことである。検出手段としては、特に限定されないが、例えば、肉眼、光学検査装置(例えば、光学顕微鏡、蛍光顕微鏡、位相差顕微鏡、in vivoイメージング装置)、X線装置(例えば、単純X線装置、CT(コンピュータ断層撮影)装置)、MRI(磁気共鳴イメージング)装置、核医学検査装置(例えば、シンチグラフ装置、PET(positron emission tomography)装置、SPECT(single photon emission computed tomography)装置)、超音波検査装置およびサーモグラフィー装置などが挙げられる。各検出手段に適した標識は当業者に知られており、例えば、Lecchi et al., Q J Nucl Med Mol Imaging. 2007;51(2):111-26などに記載されている。検出可能な標識としては、特に限定されないが、例えば、蛍光標識、発光標識、造影剤、金属原子、1種または2種以上の金属原子を含む化合物、放射性同位体、1種または2種以上の放射性同位体を含む化合物、ナノ粒子、及びリポソームが挙げられる。
【0040】
肉眼および光学検査装置での検出に適した標識としては、例えば、種々の蛍光標識および発光標識が挙げられる。具体的な蛍光標識としては、特に限定されないが、例えば、Cy(商標)シリーズ(例えば、Cy(商標)2、3、5、5.5、7など)、DyLight(商標)シリーズ(例えば、DyLight(商標) 405、488、549、594、633、649、680、750、800など)、Alexa Fluor(登録商標)シリーズ(例えば、Alexa Fluor(登録商標)405、488、549、594、633、647、680、750など)、HiLyte Fluor(商標)シリーズ(例えば、HiLyte Fluor(商標) 488、555、647、680、750など)、ATTOシリーズ(例えば、ATTO488、550、633、647N、655、740など)、FAM、FITC、テキサスレッド、GFP、RFP、Qdotなどを用いることができる。
【0041】
また、具体的な発光標識としては、特に限定されないが、例えば、ルミノール、ルシフェリン、ルシゲニン、イクオリンなどを用いることができる。
【0042】
X線装置での検出に適した標識としては、例えば、種々の造影剤が挙げられる。具体的な造影剤としては、特に限定されないが、例えば、ヨウ素原子、ヨウ素イオン、ヨウ素含有化合物などを用いることができる。
【0043】
MRI装置での検出に適した標識としては、例えば、種々の金属原子や1種または2種以上の該金属原子を含む化合物、例えば1種または2種以上の該金属原子の錯体などが挙げられる。具体的には、特に限定されないが、例えば、ガドリニウム(III)(Gd(III))、イットリウム-88(88Y)、インジウム-111(111In)、およびこれらと、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸(DOTA)、(1,2-エタンジイルジニトリロ)四酢酸(EDTA)、エチレンジアミン、2,2’-ビピリジン(bipy)、1,10-フェナントロリン(phen)、1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン(DPPE)、2,4-ペンタンジオン(acac)、シュウ酸塩(ox)などの配位子との錯体、超常磁性酸化鉄(SPIO)、酸化マンガン(MnO)などを用いることができる。
【0044】
核医学検査装置での検出に適した標識としては、例えば、種々の放射性同位体や1種または2種以上の該放射性同位体を含む化合物、例えば1種または2種以上の該放射性同位体の錯体などが挙げられる。放射性同位体としては、特に限定されないが、例えば、テクネチウム-99m(99mTc)、インジウム-111(111In)、ヨウ素-123(123I)、ヨウ素-124(124I)、ヨウ素-125(125I)、ヨウ素-131(131I)、タリウム-201(201Tl)、炭素-11(11C)、窒素-13(13C)、酸素-15(15O)、フッ素-18(18F)、銅-64(64Cu)、ガリウム-67(67Ga)、クリプトン-81m(81mKr)、キセノン-133(133Xe)、ストロンチウム-89(89Sr)、イットリウム-90(90Y)などを用いることができる。また、放射性同位体を含む化合物としては、特に限定されないが、例えば、123I-IMP、99mTc-HMPAO、99mTc-ECD、99mTc-MDP、99mTc-テトロフォスミン、99mTc-MIBI、99mTcO4-、99mTc-MAA、99mTc-MAG3、99mTc-DTPA、99mTc-DMSA、18F-FDGなどが挙げられる。
【0045】
超音波検査装置での検出に適した標識としては、特に限定されないが、例えば、ナノ粒子、リポソームなどを用いることができる。
【0046】
例えば本発明のリガンドがポリマー主鎖を含む場合、検出可能な標識は当該ポリマー主鎖に直接的に又はリンカーを介して連結してもよい。また例えば、本発明のリガンドがポリマーミセルである場合には、検出可能な標識は当該ポリマーミセルを構成するブロックコポリマーに直接的に又はリンカーを介して連結してもよい。また、当該ポリマーミセルの内部に検出可能な標識が封入されてもよい。リンカーの種類は特に限定されないが、例えば、C1-6アルキレン基、ポリオキシアルキレン基(ポリオキシエチレン基などを含む)又はポリアミノアルキレン基である。
【0047】
本発明のリガンドは、少なくとも1つの抗癌剤を含んでもよい。例えば本発明のリガンドがポリマー主鎖を含む場合、抗癌剤は当該ポリマー主鎖に直接的に又はリンカーを介して連結してもよい。また例えば、本発明のリガンドがポリマーミセルである場合には、当該ポリマーミセルを構成するブロックコポリマーに直接的に又はリンカーを介して連結してもよい。また、当該ポリマーミセルの内部に封入されてもよい。リンカーの種類は特に限定されないが、例えば、C1-6アルキレン基、ポリオキシアルキレン基(ポリオキシエチレン基などを含む)又はポリアミノアルキレン基である。
【0048】
本発明のリガンドに使用され得る抗癌剤としては、特に限定されないが、例えば、アドリアマイシン、パクリタキセル、ドセタキセル、シスプラチン、マイトマイシン-C、ダウノマイシン、5-FU(フルオロウラシル)、塩酸ゲムシタビン、エムタンシン、カリキアマイシン、毒素(例えば、ジフテリア毒素、緑膿菌外毒素などの細胞毒素)、含ホウ素医薬(例えばボルテゾミブ、或いは、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)に使用され得るp-ボロノフェニルアラニンなどの薬剤)、核酸医薬(例えば、デコイ核酸、アンチセンス核酸、siRNA、miRNA、リボザイム、アプタマー)、光線力学的療法(PDT)に使用され得る光増感剤(例えばポルフィリン誘導体)などが挙げられる。
【0049】
本発明のリガンド中の複数の式(1)で表される基のうち、少なくとも1つの(好ましくは一部の)基の末端の一級アミノ基は、低pH環境で脱離する保護基によりキャッピングされていてもよい。上記保護基を、以下で「キャッピング基」とも呼ぶ。正常組織周辺のpH(約7.4)と比較して、癌組織周辺のpH(6.5~6.8)は低いことが知られている。例えば、正常組織周辺のpHでは除去されないが、癌組織周辺のpHでは除去されるようなキャッピング基を式(1)の基の末端の一級アミノ基に連結させることで、癌細胞においてのみグルタミントランスポーターの認識部位が曝露されるリガンドとすることが可能である。これにより、リガンドの癌細胞への特異性を向上させることが可能である。上記キャッピング基としては、低pH環境で脱離する限りにおいて特に限定されないが、例えば、pH6.8以下で脱離する保護基であり、例えば、フタロイル基、マレオイル基、2-カルボキシ-ベンゾイル基、(2Z)-3-カルボキシ-2-プロペノイル基などが挙げられる。
【0050】
本発明の一実施形態において、本発明のリガンドは、以下の式(4)
【化10】
[式中、nは10以上の整数である]
で表される化合物又はその薬学的に許容される塩である。nは重合度であり、その下限は10であるが、好ましくは、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、又は100である。nの上限は、特に限定されないが、例えば、200、300、400、500、600、700、800、900、1000、3000又は5000である。nは、例えば10~5000の整数であり、好ましくは10~500の整数であり、より好ましくは20~200の整数である。上記重合度は、
1H-NMRスペクトルの積分値に基づく末端基定量法により算出することができる。
【0051】
本明細書において「薬学的に許容される塩」とは、薬学的に許容され、かつ所望の薬理学的活性を有する、遊離体化合物の塩である。「薬学的に許容される塩」としては、特に限定されないが、例えば、硫酸、塩酸、臭化水素酸、リン酸、硝酸などの無機酸との塩、酢酸、シュウ酸、乳酸、酒石酸、フマル酸、マレイン酸、クエン酸、ベンゼンスルホン酸、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、安息香酸、カンファースルホン酸、エタンスルホン酸、グルコヘプトン酸、グルコン酸、グルタミン酸、グリコール酸、リンゴ酸、マロン酸、マンデル酸、ガラクタル酸、ナフタレン-2-スルホン酸などの有機酸との塩、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオン、アルミニウムイオンなどの1種または複数の金属イオンとの塩、アンモニア、アルギニン、リシン、ピペラジン、コリン、ジエチルアミン、4-フェニルシクロヘキシルアミン、2-アミノエタノール、ベンザチンなどのアミンとの塩が挙げられる。
【0052】
本発明のリガンドは、種々の公知の方法を適用して、複数の式(1)の基を分子又は複合体に導入することで製造することができる。例えば、本発明のリガンドがポリマー主鎖を含み、かつ当該ポリマー主鎖がカルボン酸と縮合可能な1級又は2級アミノ基を含む場合(例えばポリマー主鎖が、リシンのように側鎖にアミノ基を有するアミノ酸を複数含むポリペプチドである場合)、当該ポリマー主鎖に以下の式(5):
【化11】
[式中、
R
1はアミノ基の保護基(例えばBoc基)であり、R
2はカルボン酸の保護基(例えばベンジル基)である]
で表される化合物を、公知の縮合条件にて縮合し、その後保護基を除去することにより製造されてもよい。適切な保護基及びその脱保護条件は、例えば、T. W. Greene, Protective Groups in Organic Synthesis, Wiley, New York, 1999に記載されたものを使用できる。また、例えば本発明のリガンドが、親水性ポリマーセグメントと疎水性ポリマーセグメントとを含むブロックコポリマーを含んで成るポリマーミセルであって、親水性ポリマーセグメント中にカルボン酸と縮合可能な1級又は2級アミノ基が存在する場合には、上記と同様の方法を適用して式(1)の基を親水性ポリマーセグメントに導入することができる。
【0053】
また、本発明のリガンドが親水性ポリマーセグメントと、疎水性ポリマーセグメントとを含むブロックコポリマーを含んで成るポリマーミセルである場合には、そのミセル形成方法はポリマーミセルが形成できる限り特に限定されない。例えば、水性媒体中にブロックコポリマーを溶解または分散後撹拌することによってポリマーミセルを調製することができる。その際、超音波、圧力、剪断力またはそれらを組み合せた物理的エネルギーを与えてもよい。また、ブロックコポリマーを揮発性の有機溶媒に溶解後、有機溶媒を揮発させて乾固し、そこに水性媒体を加えて撹拌し、超音波、圧力、剪断力またはそれらを組み合せた物理的エネルギーを与えるか、ブロックコポリマーに水性媒体を添加し、上記のごとき物理的エネルギーを与えることによって調製することができる。ここで揮発性の有機溶媒とは、メタノール、エタノール、アセトン、クロロホルム、アセトニトリル、テ卜ラヒドロフラン、ジクロロメタン等を挙げることができる。ここで水性媒体とは、水、生理食塩水、緩衝液等を挙げることができ、高分子ミセルの形成に影響を及ぼさない限り、少量の有機溶媒を含有してもよい。
【0054】
本発明の一態様は、本発明のリガンドを含む組成物に関する。以下で「本発明の組成物」とも呼ぶ。本発明の組成物は、薬学的に許容される担体、希釈剤、緩衝剤、賦形剤又はこれらの組み合わせをさらに含んでも良い。例えば本発明のリガンドが検出可能な標識を含む場合、本発明の組成物は癌の診断用又は検出用の組成物として使用することができる。また、例えば本発明のリガンドが抗癌剤を含む場合、本発明の組成物は癌の治療用組成物として使用することができる。本発明の組成物を生体内に投与する場合は、その投与経路は特に限定されないが、例えば、静脈内投与、皮下投与、筋肉内投与、関節内投与、腹腔内投与、眼内投与などが挙げられる。また、投与量は疾患の種類、対象の年齢、体重、性別などにより適宜選択される。
【0055】
本明細書において「対象」とは、任意の哺乳動物のことである。「対象」としては、特に限定されないが、例えば、ヒト、霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ラクダを挙げることができる。好ましくは、対象はヒトである。
【0056】
本発明の一態様は、それを必要とする対象に、有効量の本発明のリガンドを投与することを含む、癌の診断又は検出方法であって、ここで前記リガンドは、少なくとも1つの検出可能な標識を含む、前記方法に関する。
【0057】
本発明の一態様は、癌を診断又は検出するための、本発明のリガンドであって、少なくとも1つの検出可能な標識を含む、前記リガンドに関する。
【0058】
本発明の一態様は、癌を診断又は検出するための医薬の製造のための、本発明のリガンドの使用であって、ここで前記リガンドは、少なくとも1つの検出可能な標識を含む、前記使用に関する。
【0059】
本発明の一態様は、それを必要とする対象に、有効量の本発明のリガンドを投与することを含む、癌の治療方法であって、ここで前記リガンドは、少なくとも1つの抗癌剤を含む、前記方法に関する。
【0060】
本発明の一態様は、癌を治療するための本発明のリガンドであって、少なくとも1つの抗癌剤を含む、前記リガンドに関する。
【0061】
本発明の一態様は、癌を治療するための医薬の製造のための、本発明のリガンドの使用であって、ここで前記リガンドは、少なくとも1つの抗癌剤を含む、前記使用に関する。
【実施例】
【0062】
以下に示す実施例及び比較例を参照して本発明をさらに詳しく説明するが、本発明の範囲は、実施例によって限定されるものでないことは言うまでもない。
【0063】
<試薬>
N-ε-トリフルオロアセチル-L-リシン-N-カルボキシ無水物(Lys(TFA)-NCA)・・・中央化成
11-アジド-3,6,9-トリオキサウンデカン-1-アミン・・・Sigma Aldrich
ジメチルスルホキシド(DMSO)・・・関東化学
Boc-Glu-OBzl・・・Sigma Aldrich
Boc-Glu(OBzl)-OH・・・Sigma Aldrich
4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド(DMT-MM)・・・fluorochem
トリエチルアミン(TEA)・・・関東化学
5N HCl・・・和光純薬
メタノール・・・関東化学
5N NaOH・・・和光純薬
酢酸 (AcOH)・・・和光純薬
Cy5-DBCO・・・Click Chemistry Tools
NaHCO3・・・和光純薬
NaCl・・・VETEC
N-メチルピロリドン (NMP)・・・関東化学
臭化リチウム(LiBr)・・・Sigma Aldrich
D-PBS(-)(PBS)・・・和光純薬
トリプシン-EDTA溶液(Trp)・・・Sigma Aldrich
ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)
ロズウェルパーク記念研究所培地(RPMI)
ウシ胎児血清(Fetal bovine serum:FBS)・・・Thermo Scientific
ペニシリン-ストレプトマイシン(PS)・・・Sigma Aldrich
EGM(商標)-2BulletKit(商標)・・・Lonza
O-ベンジル-L-セリン(Bzl-Ser)・・・東京化成工業
L-グルタミン(Gln)・・・和光純薬
抗ASCT2抗体(H-52)・・・Santa Cruz
ヤギ抗ウサギIgG H&L(DyLight(登録商標)488)・・・abcam
ウシ血清アルブミン(Bovine serum albumin: BSA)
Hoechst33342・・・Thermo Scientific
p-ホルムアルデヒド・・・和光純薬
トリス緩衝生理食塩水(TBS)・・・Sigma
Tween20・・・BETHYL
VECTASHIELD封入剤(VECTASHIELD)・・・VECTOR
アセタール-PEG-NH2(Mw:10kDa)・・・日油
無水酢酸・・・和光純薬
Cy5-NH2・・・Thermo Fisher Scientific
N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)・・・関東化学
2-ピコリンボラン(Pic-BH3)・・・和光純薬
passive lysis buffer・・・Promega
ヘパリン・・・和光純薬
【0064】
<細胞種及び動物>
Bx-PC3細胞(ヒト膵臓癌細胞株)
HepG2細胞(ヒト肝臓癌細胞株)
HUVEC細胞(ヒト臍帯静脈内皮細胞株)
BALB/c-nu/nu ヌードマウス(雌)・・・オリエンタル酵母
【0065】
<測定機器及び解析ソフト>
NMR・・・Bruker 400MHz
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)・・・Jasco(カラム:Superdex200 increase、検出器:UV220nm)
蛍光分光光度計(FP8300)・・・Jasco
guava easy Cyte6-2L・・・MERCK,励起波長:642nm,吸収波長:661nm
共焦点レーザー走査型顕微鏡(LSM710)・・・ZEISS
蛍光分光光度計(FP8300)・・・Jasco
IVIS Imaging System・・・PerkinElmer、励起波長:640nm、測定吸収波長:700nm
ZEN2012・・・ZEISS
IMALIS・・・ZEISS
【0066】
<略称>
以下の式(4)で表される化合物を、以下で「Cy5-P[Lys(Gln)]n」とも呼ぶ。ポリリシンの側鎖のアミノ基がグルタミン酸のγ位カルボキシル基と縮合した構造をしている。また、ポリリシンの末端に、リンカーを介して蛍光色素であるCy5が連結している。
【化12】
ここで、n=25のものを「Cy5-P[Lys(Gln)]25」と呼び、n=46のものを「Cy5-P[Lys(Gln)]46」と呼び、n=106のものを「Cy5-P[Lys(Gln)]106」と呼ぶ。
【0067】
以下の式(6)で表される化合物を、以下で「Cy5-P[Lys(α-Glu)]n」とも呼ぶ。Cy5-P[Lys(Gln)]nとの違いは、ポリリシンの側鎖のアミノ基がグルタミン酸のα位カルボキシル基と縮合した構造をしている点である。
【化13】
ここで、n=46のものを「Cy5-P[Lys(α-Glu)]46」と呼び、n=106のものを「Cy5-P[Lys(α-Glu)]106」と呼ぶ。
【0068】
DMEM 500mlに50ml FBS及び5ml ペニシリン-ストレプトマイシン(PS)を混合したものを、以下で単に「DMEM培地」と呼ぶ。また、RPMI 500mlに50ml FBS及び5ml PSを混合したものを、以下で単に「DMEM培地」と呼ぶ。また、PBS 500mlに50ml FBSを混合したものを「PBS+10%FBS」と呼ぶ。
【0069】
実施例1
Cy5-P[Lys(Gln)]n(n=25、46、106)の合成
(1)化合物(b)(n=25、46、106)の合成
【化14】
n=106の場合、Lys(TFA)-NCA 2g(11-アジド-3,6,9-トリオキサウンデカン-1-アミンに対して100当量)をAr置換したフラスコに入れ、蒸留したDMSO 20mlに溶解させた。11-アジド-3,6,9-トリオキサウンデカン-1-アミンを16ul加え、室温で3日間撹拌した。反応終了後、メタノールを用いて透析(MWCO:6~8kDa)を4回行った後、減圧乾燥を行い、化合物(b)(n=106)を回収した。n=46の場合、及び25の場合は、11-アジド-3,6,9-トリオキサウンデカン-1-アミンをそれぞれ32ul、64μl加えた以外は上記と同様にして化合物(b)(n=46、25)を得た。収率はいずれにおいても約75%だった。
【0070】
(2)化合物(c)(n=25、46、106)の合成
【化15】
化合物(b)(n=25、46、106)を、5N NaOHaq/MeOH(1/4(vol))25ml中に溶解し、8時間撹拌した後、透析(MWCO:6~8kDa、希塩酸溶液2回→純水2回)を行った。その後、凍結乾燥を行い、化合物(c)(n=25、46、106)を回収した。収率はいずれにおいても約80%だった。
【0071】
(3)化合物(d)(n=25、46、106)の合成
【化16】
化合物(c)(n=25、46、106)100mg(1当量)とBoc-Glu-OBzl 360mg(n×1.5当量)、DMT-MM 325mg(n×1.5当量)をDMSO/TEA(10/1(vol))に溶解させ、1日、常温で撹拌した。MeOH中で透析(MWCO:6~8kDa)を4回行い、エバポレーターで溶媒を留去した後に減圧乾燥を行い、化合物(d)(n=25、46、106)を回収した。収率はいずれにおいても約70%だった。
【0072】
(4)化合物(e)(n=25、46、106)の合成
【化17】
化合物(d)(n=25、46、106)を1N NaOH/MeOH(1/1(vol.))10mlに溶解させ、常温で18時間撹拌した。撹拌後、MeOHを用いて透析(MWCO:6~8kDa)を4回行い、エバポレーターで溶媒を留去した後、減圧乾燥を行い、脱ベンジル体を回収した。収率はいずれにおいても約85%だった。
【0073】
上記脱ベンジル体を3 N HCl/AcOH(1/1(vol))15mlに溶解し、常温で18時間撹拌した。撹拌後、純水を用いて透析(MWCO:6~8kDa)を4回行い、凍結乾燥で水を除去し、化合物(e)(n=25、46、106)を回収した。収率はいずれにおいても約85%だった。得られた化合物(e)(n=25、46、106)のGPCスペクトルデータを
図17に示す。
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
(5)Cy5-P[Lys(Gln)]n(n=25、46、106)の合成
【化21】
化合物(e)(n=25、46、106)(1.7当量)とCy5-DBCO/DMSO(5mg/ml)200μl(1当量)を、10mM NaHCO
3、1M NaCl、pH7.4、10mlに溶解させ、常温で一晩撹拌した。撹拌後、純水を用いて透析(MWCO:6~8kDa)を4回行った後、凍結乾燥をした。その後PD-10カラム(溶媒は1M NaCl)で未反応のCy5-DBCOを除去した後、水中で透析(MWCO:6~8kDa)を3回行った。最後に凍結乾燥を行いCy5-P[Lys(Gln)]n(n=25、46、106)を回収した。収率はいずれにおいても約65%だった。得られた化合物の蛍光スペクトルを
図18に示す。
【0078】
比較例1
Cy5-P[Lys(α-Glu)](n=46、106)の合成
(1)化合物(f)(n=46、106)の合成
【化22】
Boc-Glu-OBzlの代わりにBoc-Glu(OBzl)-OHを用いて、実施例1(3)及び(4)と同様の方法により調製した。
【0079】
【0080】
化合物(f)(n=106)
【化24】
(2)Cy5-P[Lys(α-Glu)](n=46、106)の合成
化合物(f)(n=46、106)を用いて、実施例1(5)と同様の方法により調製した。得られた化合物の蛍光スペクトルを
図19に示す。
【0081】
比較例2
Cy5-PEG-Acの合成
アセタール-PEG-NH2(Mw:10kDa)をDMF中で無水酢酸と反応させ、アミノ基をアセチル基で保護した。その後、0.1N HCl中でアセタール基を脱保護し、アルデヒド基とした。その後、このポリマーとCy5-NH2および還元剤Pic-BH3をMeOH/酢酸(10/1(vol))中で反応させ、Cy5を還元的アミノ化により導入することでCy5-PEG-Acを調製した。
【0082】
実施例2
リガンドと所定時間接触させた際の細胞内取り込み量の変化
実施例1で合成した化合物がリガンド機能を示すか否かを評価するため、グルタミントランスポーターであるASCT2が過剰発現している癌細胞種(BxPC-3細胞)と実施例1、比較例1及び2の化合物を所定時間接触させた際の取り込み量の変化を、フローサイトメトリーによって細胞内の蛍光強度から評価を行った。
【0083】
Bx-PC3細胞をRPMI培地に懸濁させ、1.25×105cells/mlの細胞懸濁液を調製した。この細胞懸濁液400μlを24ウェルプレートに播き(1ウェル当たり5.0×104cells)、37℃で24時間インキュベートした。培地を除去後、PBSで1回洗浄した後、実施例1で合成したCy5-P[Lys(Gln)]46及びCy5-P[Lys(Gln)]106、比較例1で合成したCy5-P[Lys(α-Glu)]46及びCy5-P[Lys(α-Glu)]106、並びにCy5-PEG-Acを、10μMの濃度で400μl加え、37℃で1、2、4、6、8、12又は24時間インキュベートした。所定時間インキュベートした後、溶液を除去してPBSで洗浄を2回行い、Trpを150μl加え37℃で7分間インキュベートした後、PBS+10%FBSを150μl加えてフローサイトメーター(FCM)で測定した。
【0084】
各高分子リガンドと所定時間接触させた際の取り込み量の変化を
図1に示す。Cy5-P[Lys(Gln)]106は8時間、Cy5-P[Lys(Gln)]46は12時間で取り込み量が一定に達したことが確認された。これはCy5-P[Lys(Gln)]106がCy5-P[Lys(Gln)]46と比べて細胞との結合力が強いため取り込まれやすく、短時間で取り込み量が飽和に達したと考えられる。一方、Cy5-P[Lys(α-Glu)]46及びCy5-P[Lys(α-Glu)]106では、24時間まで取り込み量が増加し続けているが、これは細胞との結合力が弱く、取り込み量が24時間では飽和に達しないためと考えられる。
【0085】
実施例3
異なる細胞種に対する細胞内取り込み量の評価
Cy5-P[Lys(Gln)]nの標的であるASCT2は、種々の癌細胞に過剰発現しており、特に膵臓癌細胞と肝臓癌細胞での過剰発現が報告されている。Cy5-P[Lys(Gln)]nの膵臓癌細胞(Bx-PC3)におけるリガンド能評価は、実施例2で確認されたが、肝臓癌細胞においても同様にリガンド能を示すのかを確認するため、及び正常細胞と比較して取り込み量に差異が生じるかを確認するため、Bx-PC3(膵臓癌細胞)、HepG2(肝臓癌細胞)、HUVEC細胞(正常細胞)を用いて、リガンドの取り込み量の評価を行った。
【0086】
Bx-PC3細胞、HepG2細胞、HUVEC細胞をそれぞれの培地(Bx-PC3細胞はRPMI培地、HepG2細胞はDMEM培地、HUVEC細胞はEGM(商標)-2BulletKit(商標))に懸濁させ、1.25×10
5cells/mlの細胞懸濁液を調製した。この細胞懸濁液400μlを24ウェルプレートに播き(1ウェル当たり5.0×10
4cells)、37℃で24時間インキュベートした。培地を除去後、PBSで1回洗浄した後、Cy5-P[Lys(Gln)]n(n=46及び106)、Cy5-P[Lys(α-Glu)]n(n=46及び106)及びCy5-PEG-Acを、それぞれ1μMの濃度で400μl加え、37℃で1時間あるいは6時間インキュベートした。所定時間のインキュベート後、溶液を除去してPBSで洗浄を2回行い、Trpを150μl加え37℃で7分間インキュベートした後、PBS+10%FBSを150μl加えてフローサイトメーター(FCM)で測定した。結果を
図2及び3に示す。
【0087】
インキュベーションを1時間行った場合、癌細胞(Bx-PC3細胞、HepG2細胞)及び正常細胞(HUVEC細胞)のいずれにおいても、Cy5-P[Lys(Gln)]n(n=46及び106)は、Cy5-P[Lys(α-Glu)]n(n=46及び106)及びCy5-PEG-Acと比較して取り込み量が多かった。
【0088】
インキュベーションを6時間行った場合、癌細胞(Bx-PC3細胞、HepG2細胞)では、Cy5-P[Lys(Gln)]n(n=46及び106)は、Cy5-P[Lys(α-Glu)]n(n=46及び106)及びCy5-PEG-Acと比較して取り込み量が多かった。一方、正常細胞(HUVEC細胞)では、癌細胞における高分子リガンドの取り込みと比較して、高分子リガンドの取り込み量に差が認められなかった。この事から、正常細胞と癌細胞で取り込みに違いがあることが明らかとなった。
【0089】
実施例4
阻害剤を添加した場合における、高分子リガンドの細胞内取り込み量の変化
本実験では、ASCT2を含むシステムASCトランスポーターの阻害剤として用いられるBzl-Ser、システムNのトランスポーターの阻害剤として用いられているグルタミン(Gln)の2種類を阻害剤として用いて、高分子リガンドの取り込み量の評価を行った。
【0090】
Bx-PC3細胞をRPMI培地(HepG2細胞はDMEM培地、HUVEC細胞はEGM(商標)-2 BulletKit(商標))に懸濁し、1.25×105cells/mlの細胞懸濁液を調製した。この細胞懸濁液400μlを24ウェルプレートに播き(1ウェル当たり5.0×104cells)、37℃で24時間インキュベートした。培地を除去後、PBSで1回洗浄した後、PBS+10%FBSに溶解させた50mM Bzl-Ser溶液および50mM Gln溶液、PBS+10% FBS溶液をそれぞれ350μl播き、37℃で1時間インキュベートした。Cy5-P[Lys(Gln)]46、Cy5-P[Lys(Gln)]106、Cy5-P[Lys(α-Glu)]46、Cy5-P[Lys(α-Glu)]106、及びCy5-PEG-Acを、それぞれの溶液に0.3mg/mlの濃度で150μl加え、37℃で1時間インキュベートした。所定時間のインキュベート後、溶液を除去してPBSで洗浄を2回行い、Trpを150μl加え37℃で7分間インキュベートした後、PBS+10%FBSを150μl加えてフローサイトメーター(FCM)で測定した。
【0091】
BxPC3細胞、HepG2細胞及びHUVEC細胞を用いた場合における、阻害剤の添加によるリガンドの取り込み率の変化をそれぞれ
図4~6に示す。なお、取り込み率は細胞を高分子リガンド溶液中でインキュベーションした際の蛍光強度を100%として算出した。
【0092】
Bzl-Serは、ASCT2などのシステムASCと結合する。またGlnは、SNAT5などのシステムNと結合する。Bzl-Ser溶液を添加した場合において、癌細胞(Bx-PC3細胞、HepG2細胞)へのCy5-P[Lys(Gln)]46及びCy5-P[Lys(Gln)]106の取り込み量は大幅に減少した(
図4及び5)。また、Bzl-Ser溶液を添加した場合において、Cy5-P[Lys(α-Glu)]46及びCy5-P[Lys(α-Glu)]106の取り込み量も減少した。一方、Gln溶液を添加した場合では、Bzl-Ser溶液を添加した場合と比較してリガンドの取り込み量は減少しなかった。また、非特異的吸着によって細胞内に取り込まれるCy5-PEG-Acにおいては、Bzl-Ser溶液を添加した場合及びGln溶液を添加した場合のいずれにおいても、取り込み量の減少は見られなかった。
【0093】
実施例5
抗ASCT2抗体(H-52)による高分子リガンドの取り込み阻害実験
Bx-PC3細胞をRPMI培地に懸濁させ、1.25×10
5cells/mlの細胞懸濁液を調製した。この細胞懸濁液400μlを24ウェルプレートに播き(1ウェル当たり5.0×10
4cells)、37℃で24時間インキュベートした。培地を除去後、PBSで1回洗浄した後、PBSで1/25倍に抗ASCT2抗体を希釈させた抗体溶液およびPBSを160μl各ウェルに播き、37℃、80分インキュベートした。インキュベート後、Cy5-P[Lys(Gln)]n(n=46、106)、Cy5-P[Lys(α-Glu)]n(n=46、106)及びCy-PEGをそれぞれ、各溶液に0.3mg/ml、80μl加え、37℃で1時間インキュベートした。所定時間のインキュベート後、溶液を除去してPBSで洗浄を2回行い、Trpを150μl加え、37℃、7分間インキュベートした後、PBS+10%FBSを150μl加えてセルストレーナーを通し、フローサイトメーター(FCM)で測定した。結果を
図7に示す。
【0094】
抗ASCT2抗体(H-52)によって、Cy5-P[Lys(Gln)]n(n=46、106)及びCy5-P[Lys(α-Glu)]n(n=46、106)の取り込みは阻害された。一方、非特異的吸着によって細胞内に取り込まれるCy-PEGについては、取り込みが阻害されなかった。また、システムASCトランスポーター阻害剤であるBzl-Serより阻害率が低いのは、抗ASCT2抗体(H-52)はASCT2のGln認識部位と結合しているわけではなく、ASCT2の一部と結合しているため、リガンド高分子を立体構造的に阻害しているだけであり、認識部位の阻害ではないからであると推察される。実際に、50mM Bzl-Ser溶液中とPBS+10%FBS中でインキュベーションしたBx-PC3細胞の抗体標識は差が見られなかった。
【0095】
実施例6
低温中における細胞内取り込み量の変化
Cy5-P[Lys(Gln)]nは比較的大きな分子のため、細胞膜上のASCT2と結合した後、主にエンドサイトーシスによって細胞内に取り込まれると推察される。それを確かめるべく、エンドサイトーシスが抑制される低温中(4℃)における高分子リガンドの取り込み量を、エンドサイトーシスが働く37℃での取り込み量と比較した。
【0096】
Bx-PC3細胞をRPMI培地に懸濁させ、1.25×10
5cells/mlの細胞懸濁液を調製した。この細胞懸濁液400μlを24ウェルプレートに播き(1ウェル当たり5.0×10
4cells)、37℃で24時間インキュベートした。培地を除去後、PBSで1回洗浄した後、Cy5-P[Lys(Gln)]n(n=46及び106)、Cy5-P[Lys(α-Glu)]n(n=46及び106)及びCy5-PEG-Acを、10μMの濃度で400μl加え、37℃および4℃で1時間インキュベートした。なお、4℃でインキュベートを行うウェルは、培地を除去する前、4℃で10分間静置した。所定時間インキュベート後、溶液を除去してPBSで洗浄を2回行い、Trpを150μl加え37℃、7分間インキュベートした後、PBS+10%FBSを150μl加えてフローサイトメーター(FCM)で測定した。結果を
図8に示す。
【0097】
4℃でインキュベートした際、すべての高分子リガンドにおいて取り込み量が大幅に減少することが確認された。4℃の状態では、ATP合成酵素の働きが鈍くなり、ATPによって駆動しているエンドサイトーシスが抑制される。よって、細胞膜表面のトランスポーターなどに結合した高分子リガンドは、細胞膜ごと大きな小胞に包まれ、初期エンドソームからリソソームに移行して細胞内に取り込むエンドサイトーシスを介していることが示唆された。Cy5-P[Lys(Gln)]nは、ASCT2によって取り込まれるのではなく、エンドサイトーシスによって細胞内に取り込まれていると推測される。
【0098】
実施例7
重合度の異なるリガンドを用いた場合における細胞内取り込み量の評価
本実験では、重合度の異なるリガンドを用いた場合における細胞への取り込み能を評価するため、Cy5-P[Lys(Gln)]25、Cy5-P[Lys(Gln)]46及びCy5-P[Lys(Gln)]106を用いて評価を行った。
【0099】
Bx-PC3細胞をRPMI培地に懸濁し、1.25×10
5cells/mlの細胞懸濁液を調製した。この細胞懸濁液400μlを24ウェルプレートに播き(1ウェル当たり5.0×10
4cells)、37℃で24時間インキュベートした。培地を除去後、PBSで1回洗浄した後、Cy5-P[Lys(Gln)]n(n=25、46、106)及びCy5-P[Lys(α-Glu)]106を、それぞれ10μMで400μl加え、37℃で1時間インキュベートした。所定時間のインキュベート後、溶液を除去してPBSで洗浄を2回行い、Trpを150μl加え37℃で7分間インキュベートした後、PBS+10%FBSを150μl加えてフローサイトメーター(FCM)で測定した。HepG2細胞を用いた実験は、DMEM培地を用いて行った以外は上記と同様にして行った。結果を
図9及び10に示す。
【0100】
Cy5-P[Lys(Gln)]106とCy5-P[Lys(Gln)]46とを比較すると、重合度の高いCy5-P[Lys(Gln)]106の方が取り込み量は多い。一方。Cy5-P[Lys(Gln)]46とCy5-P[Lys(Gln)]25とを比較すると、両者の取り込み量に大きな違いは観察されなかった。
【0101】
実施例7
共焦点レーザー顕微鏡(Confocal Laser Scanning Microscope: CLSM)を用いた細胞内取り込み評価
インキュベーション温度を変えた際の高分子リガンドの細胞への取り込みを、CLSMを用いて評価した。Bx-PC3細胞をRPMI培地に懸濁させ、1.25×10
6cells/mlの細胞懸濁液を調製した。この細胞懸濁液200μlを8ウェルグラスディッシュに播き(1ウェル当たり1.0×10
4cells)、37℃で24時間インキュベートした。培地を除去後、PBSで1回洗浄した後、Cy5-P[Lys(Gln)]106を1μMの濃度で200μl加え、37℃および4℃で1時間インキュベートした。なお、4℃でインキュベートを行うディッシュは培地除去前、4℃で10分間静置した。所定時間インキュベート後、溶液を除去し、PBSで2回洗浄した後、4%p-ホルムアルデヒドを加え、3分静置後、除去し、PBSで1回洗浄した。TBSTで3回洗浄した後、5%BSA溶液を加え、10分静置して、ブロッキングをした。ブロッキング後、PBSで1回洗浄を行った。その後、1%BSAで50倍に希釈した抗ASCT2抗体溶液を各ウェルに70μl加え、常温で2時間静置した。溶液を除去後、PBSで3回洗浄を経て、PBSで800倍に希釈したDyLight(登録商標)488溶液を100μl加え、常温で1時間静置した。溶液を除去後、PBSで3回洗浄を経て、PBSで1000倍に希釈したHoechst溶液を加え、3分常温で静置した。Hoechst溶液を除去後、PBSで1回洗浄を経てPBS200μl、VECTASHIELDを1滴加えCLSMで観察した。CLSM測定は63倍レンズを用い、検出は405nm(Diode CW/Pulse)、488nm(Arレーザー)、640nm(HeNeレーザー)を用いた。そのCLSM画像を解析ソフトIMALISで3Dモデル化した。結果を
図11~14に示す。
【0102】
37℃において、Cy5-P[Lys(Gln)]106由来であるCy5(赤)は、細胞内に存在していることが確認された(
図11及び12)。また、抗ASCT2抗体の二次抗体であるDyLight488(緑)の蛍光から、ASCT2は細胞膜の内側全体に分布していることが確認された(
図11及び12)。
【0103】
4℃において、Cy5-P[Lys(Gln)]106由来であるCy5(赤)は、細胞表面に多く存在していることが確認された。また、ASCT2由来であるDyLight488(緑)は、細胞膜表面に多く存在していることが確認された(
図13及び14)。これらの結果から、4℃においてエンドサイト―シスが抑制され、Cy5-P[Lys(Gln)]106の取り込みも抑制されていると考えられる。
【0104】
実施例8
高分子リガンドの腫瘍滞留率の評価
ヌードマウスにBxPC3細胞とHepG2細胞の懸濁液それぞれを皮下移植した。細胞懸濁液の条件は1.0×10
8cells/ml、50μlである。HepG2およびBxPC3皮下移植マウスの腫瘍の大きさが200mm
3に成長した後に、腫瘍部分に、Cy5-P[Lys(Gln)]n(n=46、106)及びCy5-P[Lys(α-Glu)]n(n=46、106)、40μM(Cy5-P[Lys(Gln)]106及びCy5-P[Lys(α-Glu)]106は1.2mg/ml、Cy5-P[Lys(Gln)]46及びCy5-P[Lys(α-Glu)]46は0.6mg/ml)をそれぞれ20μl投与した。投与してから30分後を0時間として、0、8、24、48時間後にIVISで腫瘍部分の蛍光強度を測定した。蛍光強度は腫瘍部分の面積当たりのRadiant Efficiencyから算出した(励起波長:640nm、吸収波長:700nm)。結果を
図15及び16に示す。
【0105】
24時間以降において、Cy5-P[Lys(Gln)]n(n=46、106)は、Cy5-P[Lys(α-Glu)]n(n=46、106)に比べて高い腫瘍滞留率を示した。ここで、Cy5-P[Lys(Gln)]106と、Cy5-P[Lys(Gln)]46とで腫瘍滞留率にほとんど差が見られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明のリガンドを用いることで、あらゆる癌を選択的にターゲティングすることができる。本発明のリガンドと薬物とを複合化することで、癌のターゲティング治療に有効に利用することができる。