(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-20
(45)【発行日】2022-05-30
(54)【発明の名称】遠心成形用のセメント組成物、管状成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 28/08 20060101AFI20220523BHJP
C04B 18/08 20060101ALI20220523BHJP
C04B 14/28 20060101ALI20220523BHJP
C04B 18/14 20060101ALI20220523BHJP
B28B 1/20 20060101ALI20220523BHJP
【FI】
C04B28/08
C04B18/08 Z
C04B14/28
C04B18/14 Z
B28B1/20 C
(21)【出願番号】P 2018119083
(22)【出願日】2018-06-22
【審査請求日】2021-04-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390025999
【氏名又は名称】中川ヒューム管工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】特許業務法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 尚
(72)【発明者】
【氏名】上原 伸郎
(72)【発明者】
【氏名】中上 明久
(72)【発明者】
【氏名】人見 隆
(72)【発明者】
【氏名】村崎 裕一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 輝男
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-263567(JP,A)
【文献】特開平08-090526(JP,A)
【文献】特開2008-162843(JP,A)
【文献】特開2007-161507(JP,A)
【文献】特開昭58-032048(JP,A)
【文献】特開2002-128559(JP,A)
【文献】特開昭61-281057(JP,A)
【文献】特開昭62-007654(JP,A)
【文献】特開2008-195588(JP,A)
【文献】国際公開第2004/011384(WO,A1)
【文献】特開2018-095516(JP,A)
【文献】特開2010-235384(JP,A)
【文献】特開2014-185044(JP,A)
【文献】国際公開第2019/172349(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00 - 32/02
B28B 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントと、高炉スラグと、無機微粉末とからなる結合材を含み、水と混練された後、遠心成形されることで成形体を形成
し、
前記セメントが、普通ポルトランドセメントからなり、
前記無機微粉末が、シリカフュームであり、
前記結合材中の前記高炉スラグの割合が、36質量%以上38質量%以下である遠心成形用のセメント組成物。
【請求項2】
前記結合材は、セメント100質量部に対して
、無機微粉末が9質量部以上20質量部以下である請求項1に記載の遠心成形用のセメント組成物。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載の遠心成形用のセメント組成物が水と混練されてなる混練物を遠心成形することで、管状の成形体を形成する管状成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心成形に用いられる遠心成形用のセメント組成物に関する。また、該セメント組成物を用いた管状成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、セメントを含むセメント組成物を水と混練して混練物を形成し、該混練物を遠心成形することで、管状の成形体を形成する方法が知られている。例えば、セメントと細骨材と粗骨材とを含むセメント組成物を水と混練して混練物を作成し、該混練物を遠心成形用の型枠内に充填して遠心力で締め固めることで、遠心成形コンクリート管が製造されている。
【0003】
このような遠心成形コンクリート管は、種々の用途で使用される。例えば、下水道を形成するヒューム管として、遠心成形コンクリート管が使用される場合がある。斯かる場合、ヒューム管内を流通する水の水質によっては、ヒューム管内に発生した硫化水素に起因して、ヒューム管の内面に硫酸が生成される場合がある。
【0004】
このように、ヒューム管の内面に硫酸が生成されると、ヒューム管を構成する遠心成形コンクリート管が腐食されてヒューム管の耐久性が著しく低下する虞がある。そこで、ヒューム管の耐硫酸性を向上させる方法として、種々の方法が提案されている。例えば、セメントに代えて熱硬化性樹脂を結合材として用いたレジンコンクリート管でヒューム管を形成する方法(特許文献1参照)や、ヒューム管の内面を樹脂(例えば、エポキシ樹脂、ポリウレア樹脂、ビニルエステル樹脂など)で覆う方法(特許文献2参照)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平8-150613号公報
【文献】特開2007-289945号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、レジンコンクリート管は、周囲の温度に依存して、強度や体積が大きく変化することに加え、クリープ変形も大きいことから、使用される環境によっては、ヒューム管として使用することが好ましくない場合がある。また、ヒューム管の内面を樹脂で覆う方法では、製造工程が長くなるため容易に製造を行うことができない。加えて、使用期間によっては樹脂の剥離が生じる虞があるため、長期間継続して使用することは好ましくない。
【0007】
そこで、本発明は、遠心成形によって得られる成形体の耐硫酸性を向上させることができるセメント組成物を提供することを課題とする。また、該セメント組成物を用いた管状成形体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る遠心成形用のセメント組成物は、セメントと、高炉スラグと、無機微粉末とからなる結合材を含み、水と混練された後、遠心成形されることで成形体を形成する。
【0009】
斯かる構成によれば、セメントと、高炉スラグと、無機微粉末とを含むことで、水と混練された後、遠心成形されて得られる成形体の耐硫酸性を向上させることができる。具体的には、成形体の表面に硫酸が生成した際に、成形体の表面が析出物の層(以下、被覆層とも記す)によって覆われるため、該被覆層によって成形体の表面と硫酸との接触が抑制される。これにより、成形体の耐硫酸性を向上させることができる。
【0010】
また、得られる成形体は、レジンコンクリートよりも体積変化やクリープ変形を抑制することができる。
【0011】
前記結合材は、セメント100質量部に対して、高炉スラグが65質量部以上80質量部以下であり、無機微粉末が9質量部以上20質量部以下であることが好ましい。
【0012】
斯かる構成によれば、セメント100質量部に対して、高炉スラグが65質量部以上80質量部以下であり、無機微粉末が9質量部以上20質量部以下であることで、上述のようして得られる成形体の耐硫酸性をより向上させることができる。
【0013】
前記無機微粉末は、フライアッシュ、石灰石微粉末、及び、シリカフュームからなる群から選択される少なくとも一つであることが好ましい。
【0014】
斯かる構成によれば、無機微粉末は、フライアッシュ、石灰石微粉末、及び、シリカフュームからなる群から選択される少なくとも一つであることで、上述のようして得られる成形体の耐硫酸性をより向上させることができる。
【0015】
本発明に係る管状成形体の製造方法は、上記何れかの遠心成形用のセメント組成物が水と混練されてなる混練物を遠心成形することで、管状の成形体を形成する。
【0016】
斯かる構成によれば、上記何れかの遠心成形用のセメント組成物が水と混練されてなる混練物を遠心成形して管状成形体を製造することで、管状成形体の耐硫酸性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明によれば、遠心成形によって得られる成形体の耐硫酸性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】(a)は、硫酸浸漬試験用の供試体を示した図、(b)は、塩分浸漬試験用の供試体を示した図、(c)は、凍結融解試験用の供試体を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0020】
本発明に係る遠心成形用のセメント組成物(以下、単に「セメント組成物」とも記す)は、水と混練された後、遠心成形されることで、成形体を形成するものである。成形体の形状としては、特に限定されるものではなく、例えば、管状のものが挙げられる。また、本発明に係る遠心成形用のセメント組成物は、セメントと、高炉スラグと、無機微粉末とからなる結合材を含むものである。
【0021】
前記セメントとしては、特に限定されるものではなく、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメントなどのポルトランドセメントや、超速硬セメント、アルミナセメント等を用いることができる。特には、前記セメントとしては、普通ポルトランドセメントを用いることが好ましい。
【0022】
セメント組成物の全体に対するセメントの割合としては、特に限定されるものではなく、例えば、135kg/m3以上435kg/m3以下であることが好ましく、150kg/m3以上400kg/m3以下であることがより好ましい。また、結合材中のセメントの割合としては、特に限定されるものではなく、例えば、45質量%以上65質量%以下であることが好ましく、50質量%以上60質量%以下であることがより好ましい。
【0023】
前記高炉スラグとしては、特に限定されるものではなく、例えば、JIS A 6206「コンクリート用高炉スラグ微粉末」に規定されるもの等を用いることができる。具体的には、高炉スラグとしては、高炉スラグ微粉末3000、高炉スラグ微粉末4000、高炉スラグ微粉末6000、高炉スラグ微粉末8000等を用いることができる。
【0024】
セメント組成物の全体に対する高炉スラグの割合としては、特に限定されるものではなく、例えば、90kg/m3以上335kg/m3以下であることが好ましく、110kg/m3以上300kg/m3以下であることがより好ましい。また、結合材中の高炉スラグの割合としては、特に限定されるものではなく、例えば、30質量%以上50質量%以下であることが好ましく、36質量%以上45質量%以下であることがより好ましい。また、高炉スラグは、セメント100質量部に対して、55質量部以上90質量部以下であることが好ましく、65質量部以上80質量部以下であることがより好ましい。
【0025】
前記無機微粉末としては、特に限定されるものではなく、例えば、MgOの含有量が5.0質量%以下であることが好ましい。5.0質量%以下であることで、セメント組成物を用いて形成されるコンクリートの膨張を抑制することができる。また、無機微粉末としては、比表面積がブレーン値で3000cm2/g以上であってもよく、BET法で10m2/g以上であってもよい。これにより、後述する被覆層が緻密なものとなるため、耐硫酸性をより向上させることができる。
【0026】
セメント組成物の全体に対する無機微粉末の割合としては、特に限定されるものではなく、例えば、5kg/m3以上100kg/m3以下であることが好ましく、15kg/m3以上70kg/m3以下であることがより好ましい。また、結合材中の無機微粉末の割合としては、特に限定されるものではなく、例えば、2質量%以上15質量%以下であることが好ましく、5質量%以上10質量%以下であることがより好ましい。また、無機微粉末は、セメント100質量部に対して、5質量部以上25質量部以下であることが好ましく、9質量部以上20質量部以下であることがより好ましい。
【0027】
前記無機微粉末は、フライアッシュ、石灰石微粉末、及び、シリカフュームからなる群から選択される少なくとも一つであることが好ましい。
【0028】
フライアッシュとしては、特に限定されるものではなく、例えば、JIS A 6201「コンクリート用フライアッシュ」に規定されるもの等を用いることができる。このうち、汎用的に入手できる観点からは、フライアッシュI種、フライアッシュII種を使用することができる。
【0029】
石灰石微粉末としては、特に限定されるものではなく、例えば、比表面積が3500cm2/g以上4500cm2/g以下であるものを用いることができる。比表面積とは、JIS R 5201 セメントの物理試験方法に規定される方法で測定されるものである。また、石灰石微粉末としては、炭酸カルシウムの含有量が70質量%以上90質量%以下であるものが用いられ、71質量%以上89質量%以下であるものを用いることが好ましい。
【0030】
シリカフュームとしては、特に限定されるものではなく、例えば、JIS A 6207「コンクリート用シリカフューム」に規定されるもの等を用いることができる。
【0031】
本発明に係る遠心成形用のセメント組成物は、上記の材料以外に他の材料を含むものであってもよく、例えば、細骨材、粗骨材、減水剤、遅延剤、及び、分散剤等から選択される一つ以上が含まれてもよい。
【0032】
そして、上記のようなセメント組成物を水と混練して混練物を形成し、該混練物を遠心成形用の型枠に充填して遠心成形することで、管状(具体的には、円管状)の成形体を形成することができる。斯かる管状成形体は、下水道等を構成するヒューム管として使用することができる。なお、混練物の水結合材比としては、25%以上55%以下であることが好ましく、30%以上50%以下であることがより好ましい。
【0033】
遠心成形の方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、鉄筋を配した円筒形型枠に上記の混練物を充填して遠心力成形し、その後、常圧蒸気養生した後脱型し、更にその後、気中養生を行う方法が挙げられる。遠心成形の条件としては、特に限定されるものではなく、例えば、低速(遠心力4~8G)、中速(遠心力10~25G)、高速(遠心力30~55G)の順に加速させて行うことができる。また、常圧蒸気養生の条件としては、常温で2時間以上保持し(前養生工程)、30℃/時以下の速度で昇温し(昇温工程)、65±10℃で2時間以上保持し(温度保持工程)、その後降温する(降温工程)という温度条件を採用することができる。
【0034】
以上のように、本発明に係る遠心成形用のセメント組成物、及び、管状成形体の製造方法は、遠心成形によって得られる成形体の耐硫酸性を向上させることができる。
【0035】
即ち、セメントと、高炉スラグと、無機微粉末とを含むことで、水と混練された後、遠心成形されて得られる成形体の耐硫酸性を向上させることができる。具体的には、成形体の表面に硫酸が生成した際に、成形体の表面に析出物の層(被覆層)が形成されるため、該被覆層によって成形体の表面と硫酸との接触が抑制される。これにより、成形体の耐硫酸性を向上させることができる。
【0036】
また、得られる成形体は、レジンコンクリートよりも体積変化やクリープ変形を抑制することができる。
【0037】
また、セメント100質量部に対して、高炉スラグが72質量部以上80質量部以下であり、無機微粉末が9質量部以上20質量部以下であることで、上述のようして得られる成形体の耐硫酸性をより向上させることができる。
【0038】
また、無機微粉末は、フライアッシュ、石灰石微粉末、及び、シリカフュームからなる群から選択される少なくとも一つであることで、上述のようして得られる成形体の耐硫酸性をより向上させることができる。
【0039】
また、上記何れかの遠心成形用のセメント組成物が水と混練されてなる混練物を遠心成形して管状成形体を製造することで、管状成形体の耐硫酸性を向上させることができる。
【0040】
なお、本発明に係る遠心成形用のセメント組成物、及び、管状成形体の製造方法は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。また、上記した複数の実施形態の構成や方法等を任意に採用して組み合わせてもよい(1つの実施形態に係る構成や方法等を他の実施形態に係る構成や方法等に適用してもよい)ことは勿論である。
【実施例】
【0041】
以下、実施例、及び、比較例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0042】
<使用材料>
・セメント:普通ポルトランドセメント(略号:C,住友大阪セメント社製)
・水:上水道水(略号:W)
・高炉スラグ:高炉スラグ微粉末4000(略号:BFS,日鉄住金スラグ製品社製、MgOの含有量:5.9質量%、比表面積(ブレーン値):4450cm2/g)
・フライアッシュ:碧南火力発電所品(略号:FA,テクノ中部社製、MgOの含有量:1.25質量%、比表面積(ブレーン値):3340cm2/g)
・石灰石微粉末:タンカル#325(略号:LSP,吉澤石灰工業社製、MgOの含有量:4.75質量%、比表面積(ブレーン値):5330cm2/g)
・シリカフューム:EFACO(略号:SF,巴工業社製、MgOの含有量:0.58質量%、比表面積(BET法):15m2/g)
・細骨材:硬質砂岩砕砂(略号:S,栃木県鹿沼市産)
・粗骨材:硬質砂岩砕石2005(略号:G,栃木県鹿沼市産)
・高性能減水剤(混和剤):スーパー300CF(略号:SP,GCPケミカルズ社製)
【0043】
<試験1>
<遠心成形ではない成形体(モルタル成形体)の作製>
下記表1に示す配合で、上記の各材料を混練して混練物を形成し、該混練物を型枠内で硬化させることで、各実施例、及び、各比較例のモルタル成形体を作製した。具体的には、温度20±2℃の恒温室で、モルタルミキサーを用いて、結合材と細骨材を15秒間空練りした後に、混和剤を含む水を加えて2分間練混ぜて混練物を形成した。そして、該混練物をφ50×100mmの型枠に充填し、翌日まで蒸気養生を行った。蒸気養生は、20℃で2時間保持し(前養生工程)、昇温速度20℃/時で昇温し(昇温工程)、最高温度65℃で2時間保持し(温度保持工程)、その後蒸気養生槽内で自然放冷させた(降温工程)。蒸気養生を行ったモルタル成形体は、材齢1日で脱型を行い、所定の材齢まで温度20±2℃、相対湿度60±5%の恒温恒湿室内で気中養生を行った。
【0044】
上記の混練物に対して、JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に従い、フロー試験を行った。また、JIS A 1156「フレッシュコンクリートの温度測定方法」に従い、練上り温度の測定を行った。フロー試験の結果(モルタルフロー)、及び、練上がり温度は、下記表2に示す。
【0045】
<硫酸浸漬試験>
「下水道コンクリート構造物の腐食抑制技術及び防食技術マニュアル(発行:一般財団法人 下水道事業支援センター)」に従い、硫酸浸漬試験を行った。試験の概要としては、以下の通りである。まず初めに、材齢14日経過したモルタル成形体の質量を測定する。次に、斯かるモルタル成形体を5%硫酸水溶液に28日間浸漬する。その後、モルタル成形体の質量を再度測定する。そして、浸漬前後の質量から質量変化率を算出した。質量変化率については、下記表2に示す。
【0046】
<圧縮強度試験>
JIS A 1108に準拠して、材齢1日、7日及び14日に圧縮強度を測定した。なお、1材齢当たりの試験体数は3体とした。圧縮強度の測定結果については、下記表2に示す。
【0047】
【0048】
【0049】
上記の表2の質量変化率を見ると、各比較例では、マイナス値になるのに対し、各実施例では、マイナスの値にならないことが認められる。換言すれば、各実施例のモルタル成形体の方が、硫酸との接触による腐食が少ないことが認められる。つまり、セメントを含む結合材において高炉スラグと無機微粉末とを併用することで、無機微粉末を使用ない場合よりも耐硫酸性に優れた成形体を形成することができる。
【0050】
<試験2>
<遠心成形による成形体(コンクリート成形体)の作製>
下記表3に示す配合で、上記の各材料を混練して混練物を形成し、該混練物を遠心成形用の型枠内で遠心成形することで、各実施例、及び、各比較例のコンクリート成形体を作製した。具体的には、プレキャストコンクリート製品の製造工場内で、パン型ミキサーを用いて、結合材と細骨材と粗骨材とを15秒間空練りした後に、混和剤を含む水を加えて2分間練混ぜて混練物を形成した。そして、該混練物をφ200×300mmの中空型枠(遠心成形用の型枠)に充填した(充填工程)。そして、低速(5G)2分間、中速(15G)2分間、高速(44G)7分間の順で遠心成形を行った(遠心成形工程)。遠心成形後のコンクリート成形体は、翌日まで蒸気養生を行った。蒸気養生は、常温で2時間保持し(前養生工程)、昇温速度30℃/時以下で昇温し(昇温工程)、65±10℃で2時間以上保持し(温度保持工程)、その後降温した(降温工程)。蒸気養生を行ったコンクリート成形体は、材齢1日で脱型を行い、材齢28日まで気中養生を行った。そして、得られたコンクリート成形体(円筒状のもの)を湿式コンクリートカッターで
図1に示す寸法に切断し、各測定に用いる供試体を作製した。
【0051】
<ノロ排出率>
遠心成形によってコンクリート成形体から脱水されたノロ(スラリー)の質量を測定した。そして、該ノロの質量を中空型枠に投入したコンクリートの質量で除することでノロ排出率を算出した。ノロ排出率については、下記表4に示す。
【0052】
<硫酸浸漬試験>
図1(a)に示す供試体の内面(筒状のコンクリート成形体の内周面の一部)及び外面(筒状のコンクリート成形体の外周面の一部)以外の4面をアクリロイル変性アクリル樹脂系接着剤でコーティングした。そして、斯かる供試体に対して、試験1と同じ条件で硫酸浸漬試験を行った。質量変化率については、下記表4に示す。
【0053】
<塩分浸漬試験>
図1(b)に示す供試体の内面(筒状のコンクリート成形体の内周面の一部)及び外面(筒状のコンクリート成形体の外周面の一部)以外の4面をエポキシ樹脂系接着剤でコーティングした。そして、JSCE-G 572「浸せきによるコンクリート中の塩化物イオンの見掛けの拡散係数試験方法(案)(JSCE-G 572-2003)」に従い、塩分浸漬試験を行った。試験の概要としては、以下の通りである。まず初めに、供試体を10%塩化ナトリウム水溶液に91日間浸漬した。その後、試験体を割裂して0.1mol/Lの硝酸銀水溶液を噴霧し、塩化物イオン浸透深さを測定した。測定結果は、下記表4に示す。
【0054】
<凍結融解試験>
図1(c)に示す供試体の各面にコーティングは行わなかった。そして、JIS A 1148「コンクリートの凍結融解試験方法」に従い、凍結融解試験を行った。試験の概要としては、30サイクル毎に一次共鳴振動数を測定し、相対動弾性係数を求めた。そして、得られた相対動弾性係数から耐久性指数を算出した。耐久性指数は、下記表4に示す。
【0055】
【0056】
【0057】
上記の表4を見ると、各比較例よりも各実施例の方が質量変化率の絶対値が小さい(即ち、供試体の質量の減少が少ない)ことが認められる。換言すれば、各実施例のコンクリート成形体の方が、硫酸との接触による腐食が少ないことが認められる。つまり、セメントを含む結合材において高炉スラグと無機微粉末とを併用することで、無機微粉末を使用ない場合よりも耐硫酸性に優れた成形体を形成することができる。
【0058】
また、上記の表4を見ると、各比較例よりも各実施例の方がノロ量が少ないことが認められる。つまり、セメントを含む結合材において高炉スラグと無機微粉末とを併用することで、無機微粉末を使用ない場合よりもノロ量が少なくなるため、ノロを廃棄物として処理する必要がなくなり、環境負荷低減に優れるという効果を有する成形体を形成することができる。
【0059】
また、上記の表4を見ると、各比較例よりも各実施例の方が塩分浸透深さが少ないことが認められる。換言すれば、各実施例のコンクリート成形体の方が、塩化物イオン浸透に対する抵抗性が向上するという効果が認められる。つまり、セメントを含む結合材において高炉スラグと無機微粉末とを併用することで、無機微粉末を使用ない場合よりも塩化物イオン浸透に対する抵抗性が向上するという効果を有する成形体を形成することができる。
【0060】
また、上記の表4の耐久性指数を見ると、各比較例よりも各実施例の方が耐久性指数が大きいことが認められる。つまり、セメントを含む結合材において高炉スラグと無機微粉末とを併用することで、無機微粉末を使用ない場合よりも、寒冷地において良好な強度を維持できる成形体を形成することができる。
【0061】
<試験3>
<遠心成形を用いない成形体(コンクリート成形体)の作製>
下記表5に示す配合で、試験2における遠心成形工程を行わなかったこと以外は、試験2と同一条件でコンクリート成形体を作製し、試験2と同一の方法で供試体を作製した。
【0062】
<硫酸浸漬試験(質量変化率)>
図1(a)に示す供試体の内面(筒状のコンクリート成形体の内周面の一部)及び外面(筒状のコンクリート成形体の外周面の一部)以外の4面をアクリロイル変性アクリル樹脂系接着剤でコーティングした。そして、斯かる供試体を5%硫酸水溶液に52週間浸漬したこと以外は試験1と同じ条件で硫酸浸漬試験を行った。質量変化率については、下記表5に示す。
【0063】
<硫酸浸漬試験(中性化深さ)>
図1(a)に示す供試体の内面(筒状のコンクリート成形体の内周面の一部)及び外面(筒状のコンクリート成形体の外周面の一部)以外の4面をアクリロイル変性アクリル樹脂系接着剤でコーティングした。そして、斯かる供試体を5%硫酸水溶液に26週間浸漬し、中性化深さを測定した。具体的には、試験体を割裂して1%フェノールフタレイン溶液を噴霧し、中性化深さを測定した。中性化深さについては、下記表6に示す。
【0064】
【0065】
【0066】
上記の表5を見ると、各比較例よりも各実施例の方が質量変化率の絶対値が小さい(即ち、供試体の質量の減少が少ない)ことが認められる。換言すれば、各実施例のコンクリート成形体の方が、硫酸との接触による腐食が少ないことが認められる。つまり、セメントを含む結合材において高炉スラグと無機微粉末とを併用することで、無機微粉末を使用ない場合よりも耐硫酸性に優れた成形体を形成することができる。
また、上記の表5の質量変化率について、各実施例における遠心成形の有無を比較すると、遠心成形で作製されたコンクリート成形体の方が質量変化率の絶対値が小さい(即ち、供試体の質量の減少が少ない)ことが認められる。つまり、セメントを含む結合材において高炉スラグと無機微粉末とを併用することで、無機微粉末を使用ない場合よりも、遠心成形によって作製される成形体の耐硫酸性を向上させることができる。
【0067】
また、上記の表6の中性化深さについて、各実施例の内面における遠心成形の有無を比較すると、遠心成形で作製されたコンクリート成形体の方が中性化深さが浅いことが認められる。つまり、セメントを含む結合材において高炉スラグと無機微粉末とを併用することで、無機微粉末を使用ない場合よりも、遠心成形によって作製される成形体の中性化(硫酸との接触による中性化)を抑制することができる。