(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-20
(45)【発行日】2022-05-30
(54)【発明の名称】灌水システム
(51)【国際特許分類】
A01G 27/00 20060101AFI20220523BHJP
【FI】
A01G27/00 504Z
A01G27/00 504B
(21)【出願番号】P 2018238610
(22)【出願日】2018-12-20
【審査請求日】2021-01-13
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度 国立研究開発法人科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業統括実施型研究(ERATO)「川原万有情報網プロジェクト」 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】518453523
【氏名又は名称】株式会社センスプラウト
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】繁田 亮
(72)【発明者】
【氏名】川原 圭博
(72)【発明者】
【氏名】大山 一仁
【審査官】磯田 真美
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第08584397(US,B1)
【文献】特開2014-060934(JP,A)
【文献】特開2018-121556(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2009-0008888(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0201570(US,A1)
【文献】特開平04-252119(JP,A)
【文献】特開2017-209084(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 25/00 - 25/16
A01G 27/00 - 27/06
A01G 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
通信可能な複数の土壌状態検出センサと、灌水用パイプに取り付けられた複数のバルブと、前記複数の土壌状態検出センサと通信を行なうと共に前記複数のバルブを駆動制御する制御装置と、を備える灌水システムであって、
前記複数の土壌状態検出センサは、設定された通信間隔で前記制御装置に通信要請を行なうことにより前記制御装置と通信を行ない、
前記制御装置は、所定時間内に灌水が行なわれると予測したときには、その後で最初に前記複数の土壌状態検出センサと通信を行なったときに前記通信間隔を灌水が行なわれると予測した以前より短く設定する、
ことを特徴とする灌水システム。
【請求項2】
請求項1記載の灌水システムであって、
前記制御装置は、灌水時刻が設定されたときには、設定された灌水時刻の前記所定時間前に前記所定時間内に灌水が行なわれると予測する、
灌水システム。
【請求項3】
請求項1または2記載の灌水システムであって、
前記制御装置は、前記複数の土壌状態検出センサからの土壌状態情報、気温情報、天気情報、前回の灌水からの経過時間の少なくとも一つを含む灌水用情報に基づいて前記所定時間経過後に灌水が行なわれる灌水確率を計算し、前記灌水確率が所定確率以上のときに前記所定時間内に灌水が行なわれると予測する、
灌水システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、灌水システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の灌水システムとしては、複数の領域に区分けされた天然芝グラウンドに対し、各領域に灌水を行う灌水システムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このシステムでは、天然芝グラウンドの各領域の地下に埋め込まれて水が地下に滲出する孔を有する複数のパイプと、領域ごとに設けられて各領域の土壌水分、土壌温度及び土壌中酸素を検出する複数のセンサユニットと、を備え、複数のセンサユニットのそれぞれによって検出された土壌水分、土壌温度及び土壌中酸素に応じて複数のパイプのそれぞれへの水の供給を制御することにより、天然芝グラウンドで競技を行っている最中に天然芝グラウンドへの水の供給を行うことができる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の灌水システムでは、適正な灌水を行なうには、領域毎の土壌水分や土壌温度、土壌中酸素を常時監視する必要がある。この場合、バッテリを搭載するセンサユニットと制御装置とが通信を行なうシステムでは、センサユニットの電力消費が大きくなり、バッテリの大容量化が必要となる。センサユニットのバッテリの消費を小さくするには、センサユニットと制御装置との通信間隔を長くすればよいが、通信間隔を長くすると、灌水中では土壌水分や土壌温度、土壌中酸素の変化が大きいため適正な制御を行なうことができない。
【0005】
本発明の灌水システムは、センサ側の省電力化と灌水時の制御の適正化の両立を図ることを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の灌水システムは、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の灌水システムは、
通信可能な複数の土壌状態検出センサと、灌水用パイプに取り付けられた複数のバルブと、前記複数の土壌状態検出センサと通信を行なうと共に前記複数のバルブを駆動制御する制御装置と、を備える灌水システムであって、
前記複数の土壌状態検出センサは、設定された通信間隔で前記制御装置に通信要請を行なうことにより前記制御装置と通信を行ない、
前記制御装置は、所定時間内に灌水が行なわれると予測したときには、その後で最初に前記複数の土壌状態検出センサと通信を行なったときに前記通信間隔を灌水が行なわれると予測した以前より短く設定する、
ことを特徴とする。
【0008】
この本発明の灌水システムでは、複数の土壌状態検出センサは、設定された通信間隔で制御装置に通信要請を行なうことにより制御装置と通信を行なう。制御装置は、所定時間内に灌水が行なわれると予測したときには、その後で最初に複数の土壌状態検出センサと通信を行なったときに通信間隔を灌水が行なわれると予測した以前より短く設定する。即ち、所定時間内に灌水が行なわれないと予測した通常時には、複数の土壌状態検出センサは長い通信間隔で制御装置と通信を行なって土壌状態の情報を制御装置に送信する。これにより、センサ側の省電力化を図ることができる。一方、所定時間内に灌水が行なわれると予測したときには、複数の土壌状態検出センサは通常時より短い通信間隔で制御装置と通信を行なって土壌状態の情報を制御装置に送信する。これにより、制御装置は、短い通信間隔により得られる土壌状態の情報に基づいて複数のバルブの開閉を駆動制御することにより灌水を制御することができる。即ち、灌水時の制御をより適正に行なうことができる。これらの結果、センサ側の省電力化と灌水時の制御の適正化の両立を図ることができる。ここで、所定時間は、通常時の通信間隔やこれより若干長い時間が好ましい。
【0009】
こうした本発明の灌水システムにおいて、前記制御装置は、灌水時刻が設定されたときには、設定された灌水時刻の前記所定時間前に前記所定時間内に灌水が行なわれると予測するものとしてもよい。こうすれば、設定した灌水時刻より前に通信間隔を短くすることができ、灌水時の制御をより適正に行なうことができる。
【0010】
また、本発明の灌水システムにおいて、前記制御装置は、前記複数の土壌状態検出センサからの土壌状態情報、気温情報、天気情報、前回の灌水からの経過時間の少なくとも一つを含む灌水用情報に基づいて前記所定時間経過後に灌水が行なわれる灌水確率を計算し、前記灌水確率が所定確率以上のときに前記所定時間内に灌水が行なわれると予測するものとしてもよい。こうすれば、灌水確率が所定確率以上に至ったときに通信間隔を短くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態の灌水システムの構成の概略を示す説明図である。
【
図2】土壌状態検出センサ30の構成の概略を示す説明図である。
【
図3】各土壌状態検出センサ30a~30jと灌水ECU40との通信の際の動作の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明を実施するための形態について説明する。
図1は、実施形態の灌水システム20の構成の概略を示す説明図である。実施形態の灌水システム20は、図示するように、ハウス10内の土壌に引き込まれた灌水用の灌水本管22と、この灌水本管22から枝分かれした複数の灌水管24a~24eと、この複数の灌水管24a~24eの灌水本管22との枝分かれ近傍に各々取り付けられた複数の電磁調整弁26a~26eと、ハウス10内の土壌に差し込まれた複数の土壌状態検出センサ30a~30jと、灌水用電子制御ユニット(以下、「灌水ECU」という。)40と、灌水サーバ50と、を備える。
【0013】
図2は、土壌状態検出センサ30の構成の概略を示す説明図である。複数の土壌状態検出センサ30a~30jは、いずれも土壌状態検出センサ30として構成されており、図示するように、着脱自在なセンサ部材32および制御装置35により構成されている。
【0014】
センサ部材32は、樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタラート(PET))により幅が5cm程度、長さが50cm程度、厚みが5mm程度の長板状の板材に複数対の電極33a~33cや図示しない配線などが印刷されて構成されている。センサ部32の頂部(図中、上部)は、複数対の電極33a~33cからの図示しない配線に接続された接続端子やセンサ識別端子を有する雄型のコネクタ34として構成されている。センサ部材32は、複数対の電極33a~33cの印刷パターンを変更すると共に複数対の電極33a~33cの電圧(或いは電流)に基づくソフトウエアを変更することにより、土壌水分量(体積含水率)を検出する水分量センサとして機能したり、土壌中の温度を検出する温度センサとして機能したり、土壌の電気伝導率を検出するセンサとして機能したり、土壌マトリックポテンシャルを検出するセンサとして機能したり、水田などの水位を検出する水位センサとして機能する。本実施形態では、灌水制御に用いるため、水分量センサとして機能させている。
【0015】
制御装置35は、センシングに必要な電力や通信に必要な電力を供給するバッテリ36と、センサ部材32がいずれのセンサとして機能するものであるかを識別すると共に識別したセンサに必要なソフトウエアを起動してセンシングする制御部37と、灌水ECU40と通信する通信モジュール38と、センサ部材32のコネクタ34を挿入して連結する雌型のコネクタ39と、を備える。制御部37は、小型のマイクロコンピュータにより構成されており、センサ部材32の複数対の電極33a~33cの電圧(或いは電流)に基づいて土壌水分量や土壌温度、土壌の電気伝導率、土壌マトリックポテンシャル、水位などを検出するためのソフトウエアを記憶している。センサ部材32の識別は、センサ部材32のコネクタ34に印刷されたセンサ識別端子の接続状態などにを読み込むことにより行なうことができる。
【0016】
灌水ECU40は、CPUを中心とするマイクロコンピュータとして構成されており、通信モジュール42や図示しない出力ポートを備える。灌水ECU40からは複数の電磁調整弁26a~26eへの駆動制御信号が出力されている。灌水ECU40は、複数の土壌状態検出センサ30a~30jとの通信により各部の土壌水分量を受信したり、灌水サーバ50からの制御信号に基づいて複数の電磁調整弁26a~26eを開閉することによりハウス10内の土壌への灌水を行なう。灌水ECU40では、複数の土壌状態検出センサ30a~30jとの通信は、複数の土壌状態検出センサ30a~30jのバッテリ36の電力消費を小さくするために各土壌状態検出センサ30a~30jとの通信を行なう間隔(通信間隔)を設定し、通信間隔毎に各土壌状態検出センサ30a~30jからの通信要請を受信したときに行なわれる。
【0017】
灌水サーバ50は、CPUを中心とするマイクロコンピュータとして構成されており、入力された灌水時刻を灌水ECU40に送信したり、灌水ECU40から受信したハウス10内の土壌水分量や土壌温度、土壌状態情報、土壌の電気伝導率、土壌マトリックポテンシャル、水位などからなる土壌状態情報や、前回までの灌水時刻、外部のサーバとの通信により受信する気温情報や天気情報などに基づいて灌水を行なうべき確率(灌水確率)を計算したりする。
【0018】
次に、こうして構成された灌水システム20の動作、特に灌水が行なわれると推定したときの動作について説明する。
図3は、各土壌状態検出センサ30a~30jと灌水ECU40との通信の際の動作の一例を示す説明図である。まず、各土壌状態検出センサ30a~30jから通信間隔時間が経過するのを待って(ステップS100)、灌水ECU40に通信要請を行なう(ステップS110)。この通信要請は、各土壌状態検出センサ30a~30jを識別するセンサ個体識別情報を伴って行なわれる。こうした通信要請を受信した灌水ECU40は、センサ個体識別情報に基づいて複数の土壌状態検出センサ30a~30jのうち通信要請に係るセンサを識別し(ステップS120)、識別したセンサに土壌状態情報(この場合、土壌水分量)を送信する要請を行なう(ステップS130)。この要請を受信したセンサは、検出した土壌状態情報(土壌水分量)を灌水ECU40に送信する(ステップS140)。灌水ECU40では、土壌状態情報(土壌水分量)を受信し(ステップS150)、現在灌水中であるか否かを判定する(ステップS160)。現在灌水中であると判定したときには、識別したセンサとの通信間隔を1分間に設定する(ステップS180)。一方、現在灌水中ではないと判定したときには、所定時間内に灌水が行なわれるか否かを判定する(ステップS170)。ここで、所定時間は、灌水が行なわれていない通常時の通信間隔(後述するステップS190の30分)より若干長い時間を用いることができる。ステップS160の判定は、灌水サーバ50に灌水時刻が入力されているときには、灌水時刻が所定時間内であるか否かにより行なわれる。また、灌水サーバ50に灌水時刻が入力されていないときには、灌水確率が所定確率(例えば80%や85%など)未満のときには所定時間内に灌水は行なわれないと判定し、灌水確率が所定確率以上のときには所定時間内に灌水が行なわれると判定する。所定時間内に灌水が行なわれると判定したときには、通信間隔を1分間に設定し(ステップS180)、所定時間内に灌水は行なわれないと判定したときには、通信間隔を30分間に設定する(ステップS190)。そして、通信間隔を識別したセンサに送信する(ステップS200)。通信間隔を受信したセンサは、受信した通信間隔を設定し(ステップS210)、通信を終了する。
【0019】
こうした通信処理により、所定時間内に灌水が行なわれると判定されてから灌水が終了するまでは通信間隔は1分に設定され、それ以外では通信間隔は30分に設定される。したがって、灌水ECU40は、灌水中では、1分間隔で検出されて各土壌状態検出センサ30a~30jから送信される土壌状態情報(土壌水分量)に基づいて複数の電磁調整弁26a~26eの開平や開度を調整することにより灌水を制御する。灌水ECU40は、灌水が終了すると、所定時間内に灌水が行なわれると判定されるまでは通信間隔は30分に設定することにより、30分毎に検出されて各土壌状態検出センサ30a~30jから送信される土壌状態情報を取得する。
【0020】
以上説明した実施形態の灌水システム20では、所定時間内に灌水が行なわれると判定されてから灌水が終了するまでは通信間隔を1分に設定することにより、1分間隔で検出されて各土壌状態検出センサ30a~30jから送信される土壌状態情報(土壌水分量)に基づいて複数の電磁調整弁26a~26eの開平や開度を調整することができる。また、灌水が終了してから所定時間内に灌水が行なわれると判定するまでは通信間隔を30分に設定することにより、各土壌状態検出センサ30a~30jのバッテリ36の電力消費を抑制することができる。これらの結果、各土壌状態検出センサ30a~30jの省電力化と灌水時の制御の適正化の両立を図ることができる。
【0021】
実施形態の灌水システム20では、所定時間内に灌水が行なわれると判定されてから灌水が終了するまでは通信間隔を1分に設定するものとしたが、通信間隔を20秒や30秒,40秒などに設定したり、90秒や2分などに設定するものとしてもよい。また、灌水が終了してから所定時間内に灌水が行なわれると判定するまでは通信間隔を30分に設定するものとしたが、通信間隔を20分や25分などに設定したり、40分や1時間などに設定するものとしてもよい。
【0022】
実施形態の灌水システム20では、灌水サーバ50は、ハウス10内の土壌状態情報や、前回までの灌水時刻、気温情報や天気情報などに基づいて灌水確率を計算するものとしたが、これらの一部を用いて灌水確率を計算するものとしたり、これら以外の情報をも用いて灌水確率を計算するものとしてもよい。
【0023】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、灌水システムの製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0025】
10 ハウス、20 灌水システム、22 灌水本管、24a~24e 灌水管、26a~26e 電磁調整弁、30,30a~30j 土壌状態検出センサ、32 センサ部材、33a~33c 電極、34 コネクタ、35 制御装置、36 バッテリ、37 制御部、38 通信モジュール、39 コネクタ、40 灌水用電子制御ユニット(灌水ECU)、42 通信モジュール、50 灌水サーバ。