(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-20
(45)【発行日】2022-05-30
(54)【発明の名称】正極活物質の洗浄方法、それを含む正極活物質の製造方法、及びそれにより製造された正極活物質
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20220523BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20220523BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20220523BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 C
(21)【出願番号】P 2020560153
(86)(22)【出願日】2019-05-07
(86)【国際出願番号】 KR2019005428
(87)【国際公開番号】W WO2019212321
(87)【国際公開日】2019-11-07
【審査請求日】2020-10-26
(31)【優先権主張番号】10-2018-0051714
(32)【優先日】2018-05-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ウォン・シグ・ジュン
(72)【発明者】
【氏名】サン・スン・チェ
(72)【発明者】
【氏名】ヒョン・ア・パク
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-144105(JP,A)
【文献】特開2012-230898(JP,A)
【文献】国際公開第2016/148096(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/035853(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01M10/00-10/39
H01G11/00-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)Ni、Co、及びMnを含み、Ni組成が60モル%以上のリチウム複合遷移金属酸化物を準備する段階と、
(2)前記リチウム複合遷移金属酸化物を水に投入する段階と、
(3)前記リチウム複合遷移金属酸化物が投入された水に弱酸を添加し、pHを7から10の範囲に調節する段階と、を含
み、
前記弱酸は、五酸化リン(P
2
O
5
)、リン酸、酢酸、シュウ酸、クエン酸及びホウ酸からなる群から選択された1種以上である、正極活物質の洗浄方法。
【請求項2】
前記リチウム複合遷移金属酸化物は、Ni、Co、及びMnを含み、Ni組成が80モル%以上である、請求項1に記載の正極活物質の洗浄方法。
【請求項3】
前記リチウム複合遷移金属酸化物は、下記化学式1で表される、請求項1に記載の正極活物質の洗浄方法。
[化学式1]
LiNi
aCo
bMn
cM
dO
2
(a≧0.6であり、0<b<0.25、0<c<0.25、0≦d≦0.2、a+b+c+d=1であり、Mは、W、Cu、Fe、V、Cr、Ti、Zr、Zn、Al、In、Ta、Y、In、La、Sr、Ga、Sc、Gd、Sm、Ca、Ce、Nb、Mg、B、及びMoからなる群から選択される1種以上のドーピング元素である)
【請求項4】
前記段階(2)において、前記水の含量は、前記リチウム複合遷移金属酸化物100重量部を基準に30重量部から150重量部である、請求項1から3のいずれか一項に記載の正極活物質の洗浄方法。
【請求項5】
前記弱酸を添加する過程は、五酸化リン(P
2O
5)粉末、クエン酸粉末、又はこれらの混合物を前記リチウム複合遷移金属酸化物が投入された水に投入して行われる、請求項1から4のいずれか一項に記載の正極活物質の洗浄方法。
【請求項6】
請求項1から
5のいずれか一項に記載の正極活物質の洗浄方法を含む、正極活物質の製造方法。
【請求項7】
前記段階(3)の後に、リチウム複合遷移金属酸化物の表面にコーティング層を形成する段階をさらに含む、請求項
6に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項8】
リチウム複合遷移金属酸化物及び前記リチウム複合遷移金属酸化物の表面に存在するリチウム副産物を含み、
前記リチウム副産物は、前記リチウム複合遷移金属酸化物の全体モル数を基準に
0.32モル%から0.41モル%で含まれ、Li
2CO
3及びLiOHを1:1.8から1:3のモル比で含む、正極活物質。
【請求項9】
前記リチウム複合遷移金属酸化物は、表面に前記リチウム複合遷移金属酸化物の全体モル数を基準に0.05モル%から0.14モル%のLi
2CO
3を含む、請求項
8に記載の正極活物質。
【請求項10】
前記リチウム複合遷移金属酸化物は、表面に前記リチウム複合遷移金属酸化物の全体モル数を基準に0.15モル%から0.27モル%のLiOHを含む、請求項
8または
9に記載の正極活物質。
【請求項11】
前記正極活物質は、前記リチウム複合遷移金属酸化物の表面に1種以上の金属元素又は半金属元素を含むコーティング層を含む、請求項
8から
10のいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項12】
請求項
8から
11のいずれか一項に記載の正極活物質を含むリチウム二次電池用正極。
【請求項13】
請求項
12に記載のリチウム二次電池用正極を含むリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2018年5月4日付け韓国特許出願第10-2018-0051714号に基づいた優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示された全ての内容は本明細書の一部として含まれる。
【0002】
本発明は、コーティング性に優れた複合コーティング層を含む二次電池用正極活物質、その製造方法、及びそれを含むリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0003】
モバイル機器に対する技術の開発と需要の増加によってエネルギー源としての二次電池の需要が急激に増加している。このような二次電池のうち高いエネルギー密度と電圧を有し、サイクル寿命が長くて自己放電率が低いリチウム二次電池が常用化され広く用いられている。
【0004】
リチウム二次電池の正極活物質としては、リチウム遷移金属複合酸化物が用いられており、この中でも作用電圧が高く、容量特性に優れたLiCoO2のリチウムコバルト系酸化物が主に用いられている。しかし、LiCoO2は、脱リチウムによる結晶構造の不安定化により熱的特性が非常に劣悪であり、また、高価であるため、電気自動車等のような分野の動力源として大量用いるには限界がある。
【0005】
LiCoO2を代替するための材料として、リチウムマンガン複合金属酸化物(LiMnO2又はLiMn2O4等)、リン酸鉄リチウム化合物(LiFePO4等)又はリチウムニッケル複合金属酸化物(LiNiO2等)等が開発された。この中でも約200mAh/gの高い可逆容量を有するため、大容量の電池の具現が容易なリチウムニッケル複合金属酸化物に対する研究及び開発がより活発に研究されている。しかし、LiNiO2は、LiCoO2に比べて熱安定性が不良で、充電状態で外部からの圧力等によって内部短絡が生じると正極活物質そのものが分解され電池の破裂及び発火をもたらすという問題がある。
【0006】
これにより、LiNiO2の優れた可逆容量は維持しつつも低い熱安定性を改善するための方法として、Niの一部をMnとCoで置換したニッケルコバルトマンガン系リチウム複合遷移金属酸化物(以下、簡単に「NCM系リチウム酸化物」と記す)が開発された。
【0007】
前記リチウム複合遷移金属酸化物は、その製造過程で反応が行われていないLiOH及びLi2CO3等のリチウム副産物が存在する。このようなリチウム副産物のうち、LiOHは、電極スラリーのpHを増加させ電極スラリーゲル化(gelation)の原因となり、電池の充放電過程では水分を発生させ、Li2CO3は、CO2及びCOのようなガス発生の原因となるため、電池の性能に多くの影響を及ぼす。
【0008】
NCM系リチウム酸化物の中でもNi組成が60%以上のNCM系リチウム酸化物の場合、製造過程において、リチウム副産物の量を調節するためにこれを水で洗浄する工程を経るようになる。この過程でリチウム副産物を全て除去する場合には、NCM系リチウム酸化物表面の副反応及び腐食が発生するため、リチウム副産物を一定量残留させなければならない必要性がある。しかし、リチウム副産物が必要量以上に残る場合、前記のようなリチウム副産物の問題点を発生させるため、正極材表面のリチウム副産物は、一定量、一定比率となるように制御が必要である。
【0009】
前記リチウム複合遷移金属酸化物の製造過程において、Li前駆体としてLiOH及びLi2CO3を用いる場合、残留リチウム化合物中のLiOH/Li2CO3の比率が異なるようになり、また焼成過程における雰囲気及び各工程の滞留時間によって全体リチウム副産物の量は変わるようになる。
【0010】
従前まで用いられた洗浄過程の場合、水の量と洗浄時間の調節等を介してリチウム副産物の洗浄量を調節できたが、水の量を増やす場合、工程性が低下し、またLiOH及びLi2CO3に対する選択的な除去は不可能であるという短所がある。
【0011】
したがって、効率的にリチウム副産物の洗浄量を調節できつつもLiOH及びLi2CO3に対する選択的な除去が可能な正極活物質の洗浄技術の開発が要求されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の解決しようとする課題は、効率的にリチウム副産物の洗浄量を調節できつつもLiOH及びLi2CO3に対する選択的な除去が可能な正極活物質の洗浄方法を提供することである。
【0013】
本発明の他の解決しようとする課題は、前記正極活物質の洗浄方法を含む正極活物質の製造方法を提供することである。
【0014】
本発明のさらに他の解決しようとする課題は、前記正極活物質の洗浄方法によって洗浄されたリチウム複合遷移金属酸化物を含む正極活物質、及びこれを含むリチウム二次電池用正極及びリチウム二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、前記課題を解決するために、
(1)Ni、Co、及びMnを含み、Ni組成が60モル%以上のリチウム複合遷移金属酸化物を準備する段階と、
(2)前記リチウム複合遷移金属酸化物を水に投入する段階と、
(3)前記リチウム複合遷移金属酸化物が投入された水に弱酸を添加し、pHを7から10の範囲に調節する段階と、を含む、正極活物質の洗浄方法を提供する。
【0016】
また、本発明は、前記他の課題を解決するために、前記正極活物質の洗浄方法を含む正極活物質の製造方法を提供する。
【0017】
また、本発明は、リチウム複合遷移金属酸化物及び前記リチウム複合遷移金属酸化物の表面に存在するリチウム副産物を含み、前記リチウム副産物は、前記リチウム複合遷移金属酸化物の全体モル数を基準に0.3モル%から0.41モル%であり、Li2CO3及びLiOHを1:1.8から1:3のモル比で含む、正極活物質を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の正極活物質の洗浄方法は、効率よくリチウム複合遷移金属酸化物の表面に残留するリチウムの洗浄量を調節できつつもLiOH及びLi2CO3に対する選択的な除去が可能であるため、リチウム複合遷移金属酸化物の洗浄及び製造過程において有用に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本明細書及び特許請求の範囲において用いられた用語や単語は、通常的又は辞書的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者は自身の発明を最善の方法によって説明するために、用語の概念を適宜定義することができるという原則に即し、本発明の技術的思想に適合する意味と概念として解釈されなければならない。
【0020】
本明細書で用いられる用語は、単に例示的な実施形態等を説明するために用いられたものであり、本発明を限定しようとする意図ではない。単数の表現は、文脈上明白に異なるように意味しない限り、複数の表現を含む。
【0021】
本明細書において、『含む』、『備える』又は『有する』等の用語は、実施された特徴、数字、段階、構成要素又はこれらを組み合わせたものが存在することを指定しようとするものであって、一つ又はそれ以上の他の特徴や数字、段階、構成要素、又はこれらを組み合わせたもの等の存在又は付加可能性を予め排除しないものとして理解されなければならない。
【0022】
本明細書において、『%』は、明示的な他の表示がない限り重量%を意味する。
【0023】
本明細書において、『平均粒径(D50)』は、粒子の粒径分布曲線における個数累積量の50%に該当する粒径を意味するものであり、前記平均粒径(D50)は、例えば、レーザ回折法(laser diffraction method)を用いて測定してよい。
【0024】
本発明の正極活物質の洗浄方法は、
(1)Ni、Co、及びMnを含み、Ni組成が60モル%以上のリチウム複合遷移金属酸化物を準備する段階と、
(2)前記リチウム複合遷移金属酸化物を水に投入する段階と、
(3)前記リチウム複合遷移金属酸化物が投入された水に弱酸を添加し、pHを7から10の範囲に調節する段階と、を含む。
【0025】
本発明の正極活物質の洗浄方法は、前記段階(3)の前記リチウム複合遷移金属酸化物が投入された水に酸を添加し、pHを7から10の範囲に調節する過程において、酸として弱酸(weak acid)が用いられるのを特徴とする。
【0026】
(1)Ni、Co、及びMnを含み、Ni組成が60モル%以上のリチウム複合遷移金属酸化物を準備する段階
段階(1)では、Ni、Co、及びMnを含み、Ni組成が60モル%以上のリチウム複合遷移金属酸化物を準備する。
【0027】
前記リチウム複合遷移金属酸化物は、市販のリチウム複合遷移金属酸化物を購入して用いるか、当該技術分野に知られたリチウム複合遷移金属酸化物の製造方法により製造されたものであってよい。
【0028】
例えば、前記リチウム複合遷移金属酸化物は、遷移金属前駆体とリチウム原料物質を混合してから焼成する方法で製造されてよい。
【0029】
前記遷移金属前駆体は、Ni、Co、Mnを含む水酸化物、オキシ水酸化物、カーボネート、有機錯体であってよい。具体的には、前記遷移金属前駆体は、ニッケル-コバルト水酸化物、ニッケル-コバルトオキシ水酸化物、ニッケル-コバルト-マンガン水酸化物、ニッケル-コバルト-マンガンオキシ水酸化物であるか、前記水酸化物又はオキシ水酸化物にMがドーピングされているものであってよいが、これに限定されるものではない。
【0030】
前記リチウム原料物質は、リチウム含有炭酸塩(例えば、炭酸リチウム等)、水和物(例えば、水酸化リチウムI水和物(LiOHH2O)等)、水酸化物(例えば、水酸化リチウム等)、硝酸塩(例えば、硝酸リチウム(LiNO3)等)、塩化物(例えば、塩化リチウム(LiCl)等)等であってよいが、これに限定されるものではない。
【0031】
本発明の一実施形態において、前記リチウム複合遷移金属酸化物は、必要に応じてドーピング金属を含んでよい。前記ドーピング金属は、例えば、ドーピング金属含有原料物質を前記遷移金属前駆体及びリチウム原料物質とともに混合されて焼成される方法により含まれてよい。
【0032】
前記ドーピング金属含有原料物質は、ドーピング金属元素を含む酸化物、水酸化物、硫化物、オキシ水酸化物、ハロゲン化物又はこれらの混合物であってよい。例えば、前記ドーピング金属含有原料物質は、ZnO、Al2O3、Al(OH)3、AlSO4、AlCl3、Al-イソプロポキシド(Al-isopropoxide)、AlNO3、TiO2、WO3、AlF、H2BO3、HBO2、H3BO3、H2B4O7、B2O3、C6H5B(OH)2、(C6H5O)3B、[(CH3(CH2)3O)3B、C3H9B3O6、(C3H7O3)B、Li3WO4、(NH4)10W12O41・5H2O、NH4H2PO4等であってよいが、これに制限されるものではない。
【0033】
一方、前記焼成は、600℃から1000℃、好ましくは700℃から900℃で5から30時間、好ましくは10から20時間行われてよい。
【0034】
本発明の一実施形態において、前記リチウム複合遷移金属酸化物は、下記化学式1で表される化合物であってよい。
【0035】
[化学式1]
LiNiaCobMncMdO2
(a≧0.6であり、0<b<0.25、0<c<0.25、0≦d≦0.2、a+b+c+d=1であり、Mは、W、Cu、Fe、V、Cr、Ti、Zr、Zn、Al、In、Ta、Y、In、La、Sr、Ga、Sc、Gd、Sm、Ca、Ce、Nb、Mg、B、及びMoからなる群から選択される1種以上のドーピング元素である)
【0036】
前記aは、リチウム複合遷移金属酸化物内におけるニッケルの原子分率を示すものであり、a≧0.6であってよく、具体的に0.7<a<0.95、より具体的に0.8≦a≦0.9であってよい。
【0037】
前記bは、リチウム複合遷移金属酸化物内におけるコバルトの原子分率を示すものであり、0<b<0.25であってよく、具体的に0.05≦b<0.15であってよい。
【0038】
前記cは、リチウム複合遷移金属酸化物内におけるマンガンの原子分率を示すものであり、0<c<0.25であってよく、具体的に0.05≦c<0.15であってよい。
【0039】
前記dは、リチウム複合遷移金属酸化物内におけるM元素の原子分率を示すものであり、0≦d≦0.2であってよく、具体的に0≦d≦0.1であってよい。
【0040】
(2)前記リチウム複合遷移金属酸化物を水に投入する段階
段階(2)では、前記リチウム複合遷移金属酸化物の洗浄のために、水にこれを投入する。
【0041】
ニッケルを含む複合遷移金属酸化物、特に、ニッケルを含む複合水酸化物又はニッケルを含む複合酸化物とリチウム化合物を焼成して得られたリチウム複合遷移金属酸化物は、1次粒子及び/又は2次粒子の表面に未反応のリチウム化合物が存在している。よって、洗浄過程を介して、リチウム複合遷移金属酸化物粒子から電池特性を劣化させる過剰の水酸化リチウムや炭酸リチウムのような未反応リチウム化合物、及び、それ以外の不純物元素を除去できる。
【0042】
したがって、リチウム複合遷移金属酸化物の準備ができれば、前記リチウム複合遷移金属酸化物を洗浄する段階を経るようになる。
【0043】
前記リチウム複合遷移金属酸化物を水に投入する時、前記水の量は、前記リチウム複合遷移金属酸化物100重量部を基準に、30重量部から150重量部であってよく、具体的に40重量部から120重量部であってよく、より具体的に80から120重量部であってよい。
【0044】
前記リチウム複合遷移金属酸化物に対する水の使用量が少なければ、未反応リチウム化合物が必要以上に残留し、前記リチウム複合遷移金属酸化物の使用量が多ければ、未反応リチウム化合物以外に、リチウム複合遷移金属酸化物粒子の表面に存在するリチウム化合物が除去され、前記リチウム複合遷移金属酸化物粒子の表面の副反応及び腐食を起こし得るため、前記リチウム複合遷移金属酸化物に対する水の比率を前記範囲にする場合、より適切な洗浄が行われ得る。
【0045】
前記リチウム複合遷移金属酸化物を水に投入した後、1分から10分、具体的に1分から5分間撹拌が行われてよい。前記撹拌を介して、前記リチウム複合遷移金属酸化物の粉末は、水とスラリーを形成できる。
【0046】
(3)リチウム複合遷移金属酸化物が投入された水に弱酸を添加し、pHを7から10の範囲に調節する段階
前記リチウム複合遷移金属酸化物を水に投入した後には、これに弱酸を添加してpHを7から10の範囲に調節する。
【0047】
前記リチウム複合遷移金属酸化物を水に投入した場合、前記リチウム複合遷移金属酸化物が投入された水は、pH11ほどの塩基性を帯びるようになるため、本発明は、これに弱酸を添加し、pHを7から10の範囲に調節する過程を行う。前記リチウム複合遷移金属酸化物が投入された水のpHが変化する場合、前記リチウム複合遷移金属酸化物の洗浄過程で除去されるリチウム副産物の量を前記個別リチウム副産物の種類別に調節できる。例えば、前記リチウム複合遷移金属酸化物の表面に存在するリチウム副産物は、Li2CO3及びLiOHを含んでよく、前記pHが7に近くなる場合、前記洗浄過程で前記Li2CO3の含量がより減少するため、前記リチウム副産物中でLi2CO3及びLiOHの比率を調節できる。
【0048】
前記pHは、7から10の範囲であってよく、具体的に前記pHは7から9、より具体的に前記pHは7以上から9未満であってよい。
【0049】
前記pHが前記範囲を有する場合、前記リチウム副産物中でLi2CO3及びLiOHの比率をより適切に調節でき、前記Li2CO3及びLiOHの比率は、1:1.8から1:3のモル比であってよい。また、前記Li2CO3及びLiOHの比率は、具体的に1:1.9から1:3のモル比、より具体的に1:2から1:2.5のモル比であってよい。前記Li2CO3及びLiOHが前記モル比を満たす場合、Li2CO3の存在によるガス発生を適切に抑制でき、容量特性及び寿命特性が改善される効果を奏することができる。
【0050】
前記弱酸は、リン酸、酢酸、シュウ酸、クエン酸及びホウ酸からなる群から選択された1種以上であってよく、具体的にリン酸及びクエン酸からなる群から選択された1種以上であってよい。
【0051】
前記pHの調節のために弱酸が用いられる場合、強酸が用いられる場合に比べて水洗過程で酸によるリチウム複合遷移金属酸化物の腐食が少なく、また強酸比べてpH調節も容易であるため、前記リチウム副産物の除去がより効率的に行われる。
【0052】
本発明の一実施形態において、前記弱酸を添加する過程は、五酸化リン(P2O5)粉末、クエン酸粉末又はこれらの混合物を前記リチウム複合遷移金属酸化物が投入された水に投入することで行われてよい。前記酸を添加する過程において、酸水溶液を添加する場合、前記リチウム複合遷移金属酸化物の粉末と水のスラリー内に固形分の含量が減るようになるが、前記五酸化リン(P2O5)又はクエン酸を粉末形態で水に投入する場合、追加的な水の添加による固形分含量変化を起こさないという長所がある。前記五酸化リンは、水で正リン酸(H3PO4)に変換され、その水溶液は弱酸となり、前記五酸化リンは、前記五酸化リンの水溶液としても添加されてよい。
【0053】
前記段階(2)及び(3)を含む、前記洗浄過程における温度は、10℃から40℃であってよく、具体的に20℃から30℃であってよい。
【0054】
また、洗浄温度が低すぎると未反応リチウム化合物が残留し、洗浄温度が高すぎるとリチウム副産物が過度に除去されるか、未反応リチウム化合物以外にリチウム複合遷移金属酸化物粒子の表面に存在するリチウム化合物が除去され、副反応又は腐食を起こし得るため、前記温度範囲で洗浄が行われる場合、より効果的に未反応リチウム化合物が除去される。
【0055】
このような本発明の正極活物質の洗浄方法は、正極活物質の製造方法に含まれて用いられてよく、したがって、本発明は、前記正極活物質の洗浄方法を含む正極活物質の製造方法を提供する。
【0056】
本発明の一実施形態による正極活物質の製造方法は、前記段階を経て製造及び洗浄が行われたリチウム複合遷移金属酸化物に対し、さらにろ過する段階及び固液分離する段階を含んでよく、その後追加的に乾燥する段階を含んでよい。また、前記洗浄が行われたリチウム複合遷移金属酸化物は、更なる乾燥過程を行うことなく水分が付与された形態でも用いられてよい。
【0057】
また、本発明の他の実施形態による正極活物質の製造方法は、さらに前記洗浄されたリチウム複合遷移金属酸化物にコーティング層を形成する段階を含んでよい。
【0058】
前記コーティング層を形成する段階は、前記洗浄されたリチウム複合遷移金属酸化物とコーティング原料物質を混合した後、熱処理する過程を含んでよい。
【0059】
前記洗浄されたリチウム複合遷移金属酸化物にコーティング層が形成される場合、前記リチウム複合遷移金属酸化物の表面に存在する欠陥(defect)の不安定又は腐食を制御できる。
【0060】
前記コーティング層は、1種以上の金属元素又は半金属元素を含んでよく、前記コーティング層は、洗浄されたリチウム複合遷移金属酸化物とコーティング原料物質を混合した後、熱処理して形成されてよい。
【0061】
本発明は、また、前記正極活物質の洗浄方法によって洗浄されたリチウム複合遷移金属酸化物、及び、前記リチウム複合遷移金属酸化物の表面に存在するリチウム副産物を含む正極活物質を提供する。
【0062】
前記リチウム複合遷移金属酸化物の表面に存在する前記リチウム副産物は、Li2CO3及びLiOHを1:1.8から1:3のモル比で含んでよい。
【0063】
前記リチウム複合遷移金属酸化物は、前述した洗浄方法によって洗浄され、表面に前記リチウム複合遷移金属酸化物の全体モル数を基準に0.3モル%から0.41モル%、具体的に0.32モル%から0.41モル%、より具体的に0.35モル%から0.41モル%のリチウム副産物を含んでよい。
【0064】
前記リチウム副産物が前記範囲に比べて過大な場合、LiOHは、電極スラリーのpHを増加させて電極スラリーゲル化(gelation)の原因となり、電池の充電・放電過程では水分を発生させ、Li2CO3は、CO2及びCOのようなガス発生の原因となり、電池の性能を低下させ、前記リチウム副産物が前記範囲に比べて過小な場合、前記正極活物質にコーティング層を形成させる時に必要な残余リチウムの量を満たすことができず、正極活物質表面が腐食(内部のリチウムが外に流出)され、容量特性と寿命特性の低下の原因となり得る。
【0065】
本発明の一実施形態による正極活物質において、前記リチウム複合遷移金属酸化物は、表面に前記リチウム複合遷移金属酸化物の全体モル数を基準に、0.05モル%から0.14モル%のLi2CO3を含んでよく、0.15モル%から0.27モル%のLiOHを含んでよい。
【0066】
また、前記リチウム複合遷移金属酸化物は、表面にLi2CO3を前記リチウム複合遷移金属酸化物の全体モル数を基準に、具体的に0.08モル%から0.14モル%含んでよく、より具体的に0.1モル%から0.135モル%含んでよい。前記リチウム複合遷移金属酸化物が、表面に前記Li2CO3を前記含量範囲で含む場合、Li2CO3の存在によるガス発生を適切に抑制でき、容量特性及び寿命特性が改善されるという効果が最適に得られる。
【0067】
また、前記リチウム複合遷移金属酸化物は、表面にLiOHを前記リチウム複合遷移金属酸化物の全体モル数を基準に、具体的に0.15モル%から0.27モル%含んでよく、より具体的に0.24モル%から0.26モル%含んでよい。
【0068】
前記リチウム複合遷移金属酸化物が、表面に前記LiOHを前記含量範囲で含む場合、前記リチウム複合遷移金属酸化物にさらにコーティング層が形成される時、特に、B(ホウ素)を含むコーティング層の形成が行われる時にBと反応することで効果的にコーティング層を形成できつつも、残留LiOHによる電極スラリーのゲル化及び電池の充電・放電過程における水分の発生などの副反応が起こらないようにすることができる。
【0069】
本発明の一実施形態によるリチウム複合遷移金属酸化物は、表面に前記Li2CO3及びLiOHを適正な比率に調節された量で含んでよい。例えば、前記リチウム副産物は、Li2CO3及びLiOHを1:1.8から1:3のモル比で含んでよく、具体的に1:1.9から1:3のモル比、より具体的に1:2から1:2.5のモル比で含んでよい。前記Li2CO3及びLiOHが前記モル比を満たす場合、Li2CO3の存在によるガス発生を適切に抑制でき、容量特性及び寿命特性が改善されるという効果が最適に発揮できる。
【0070】
前記リチウム複合遷移金属酸化物の表面に、さらに1種以上の金属元素又は半金属元素を含むコーティング層が形成されているものであってよく、前記コーティング層は、前記リチウム副産物から由来したリチウムを含んでよい。
【0071】
前記コーティング層は、リチウムとタングステンが結合されたリチウム-タングステン酸化物、ホウ素と酸素を含むホウ素化合物等を含んでよい。前記リチウム-タングステン酸化物は、例えば、Li2WO4及びLi6W2O9等であってよく、前記ホウ素化合物は、例えば、ホウ酸リチウム、酸化ホウ素、ホウ酸、ホウ素のオキソ酸、ホウ素のオキソ酸塩等であってよい。
【0072】
本発明による二次電池用正極活物質は、二次電池用正極製造に有用に用いられてよい。
【0073】
本発明の一実施形態による二次電池用正極活物質は、これを用いて二次電池用正極を製造し、前記正極を用いて負極としてリチウムメタルを用いた半電池を製造した時、50サイクル後の抵抗増加率が200%以下、具体的に100%から200%、より具体的に101%から180%を示し得る。
【0074】
本発明の一実施形態による二次電池用正極活物質は、その製造過程でリチウム複合遷移金属酸化物の洗浄時に弱酸を添加し、pHを7から10の範囲に調節する段階を含む洗浄方法を経て製造されたものであるため、水洗過程で酸によるリチウム複合遷移金属酸化物の腐食が少なく、これを用いた正極及びリチウム二次電池製造時に優れたサイクル特性を発揮できる。
【0075】
具体的には、本発明による二次電池用正極は、正極集電体及び前記正極集電体の上に形成される正極活物質層を含み、このとき、前記正極活物質層は、本発明による正極活物質を含む。
【0076】
前記正極は、本発明による正極活物質を用いることを除いては、通常の正極製造方法により製造されてよい。例えば、前記正極は、正極活物質層を構成する成分、すなわち、正極活物質と、導電材及び/又はバインダー等を溶媒に溶解又は分散して正極合剤を製造し、前記正極合剤を正極集電体の少なくとも一面に塗布した後、乾燥、圧延する方法で製造するか、又は前記正極合剤を別途の支持体上にキャスティングした後、この支持体から剥離して得たフィルムを正極集電体上にラミネーションすることで製造されてよい。
【0077】
このとき、前記正極集電体は、電池に化学的変化を誘発することなく導電性を有するものであれば、特に制限されるのではなく、例えば、ステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素又はアルミニウムやステンレススチールの表面に炭素、ニッケル、チタン、銀等で表面処理したもの等が用いられてよい。また、前記正極集電体は、通常3μmから500μmの厚さを有してよく、前記正極集電体表面上に微細な凹凸を形成し正極活物質の接着力を高めてもよい。例えば、フィルム、シート、ホイル、ネット、多孔質体、発泡体、不織布体等、多様な形態で用いられてよい。
【0078】
前記集電体の少なくとも一面に本発明による正極活物質を含み、必要に応じて導電材及びバインダーのうち少なくとも1種を選択的にさらに含む正極活物質層が位置する。
【0079】
前記正極活物質は、前記本発明による正極活物質、すなわち、前記化学式1で表されるリチウム複合金属酸化物、及び、前記リチウム複合金属酸化物の表面に付着したコバルト-リチウム複合体粒子を含む表面処理層を含む。本発明による正極活物質の具体的な内容は前述した通りであるため、具体的な説明は省略する。
【0080】
前記正極活物質は、正極活物質層の全重量に対して80から99重量%、より具体的には85から98重量%の含量で含まれてよい。前記の含量範囲で含まれる時、優れた容量特性を示し得る。
【0081】
前記導電材は、電極に導電性を付与するために用いられるものであって、構成される電池において、化学変化を引き起こすことなく電子伝導性を有するものであれば、特別な制限なく使用可能である。具体的な例としては、天然黒鉛や人造黒鉛等の黒鉛と、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック、炭素繊維等の炭素系物質と、銅、ニッケル、アルミニウム、銀等の金属粉末又は金属繊維と、酸化亜鉛、チタン酸カリウム等の導電性ウィスカーと、酸化チタン等の導電性金属酸化物と、又はポリフェニレン誘導体等の伝導性高分子等が挙げられ、これらのうち1種単独又は2種以上の混合物が用いられてよい。前記導電材は、通常正極活物質層の全重量に対して、1から30重量%で含まれてよい。
【0082】
また、前記バインダーは、正極活物質粒子間の付着及び正極活物質と集電体との接着力を向上させる役割をする。具体的な例としては、ポリビニリデンフルオリド(PVDF)、ポリビニリデンフルオリド-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVDF-co-HFP)、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、澱粉、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン-ジエン-ポリマー(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム、又はこれらの多様な共重合体等が挙げられ、これらのうち1種単独又は2種以上の混合物が用いられてよい。前記バインダーは、正極活物質層の全重量に対して、1から30重量%で含まれてよい。
【0083】
一方、正極合剤の製造に用いられる溶媒は、当該技術分野で一般的に用いられる溶媒であってよく、例えば、ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide、DMSO)、イソプロピルアルコール(isopropyl alcohol)、N-メチルピロリドン(NMP)、アセトン(acetone)又は水等を単独で又はこれらを混合して用いてよい。前記溶媒の使用量は、スラリーの塗布厚さ、製造収率、粘度等を考慮して適切に調節されてよい。
【0084】
次に、本発明による二次電池に対して説明する。
【0085】
本発明の二次電池は、正極、前記正極と対向して位置する負極、前記正極と負極の間に介在されるセパレーター及び電解質を含み、このとき、前記正極は、前述した本発明による正極である。
【0086】
一方、前記二次電池は、前記正極、負極、セパレーターの電極組立体を収納する電池容器、及び前記電池容器を密封する密封部材を選択的にさらに含んでよい。
【0087】
前記二次電池において、前記負極は、負極集電体及び前記負極集電体の少なくとも一面に位置する負極活物質を含む。
【0088】
前記負極は、当該技術分野に一般的に知られている通常の負極の製造方法により製造されてよい。例えば、前記負極は、負極活物質層を構成する成分、すなわち、負極活物質と、導電材及び/又はバインダー等を溶媒に溶解又は分散して負極合剤を製造し、前記負極合剤を負極集電体の少なくとも一面に塗布した後、乾燥、圧延する方法で製造するか、又は前記負極合剤を別途の支持体上にキャスティングした後、この支持体から剥離して得たフィルムを負極集電体上にラミネーションすることで製造されてよい。
【0089】
前記負極集電体は、電池に化学的変化を誘発することなく高い導電性を有するものであれば、特に制限されるものではなく、例えば、銅、ステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素、銅やステンレススチールの表面に炭素、ニッケル、チタン、銀等で表面処理したもの、アルミニウム-カドミウム合金等が用いられてよい。また、前記負極集電体は、通常3μmから500μmの厚さを有してよく、正極集電体と同様に、前記集電体の表面に微細な凹凸を形成し負極活物質の結合力を強化させてもよい。例えば、フィルム、シート、ホイル、ネット、多孔質体、発泡体、不織布体等、多様な形態で用いられてよい。
【0090】
前記負極活物質としては、リチウムの可逆的なインターカレーション及びデインターカレーションの可能な化合物が用いられてよい。具体的な例としては、人造黒鉛、天然黒鉛、黒鉛化炭素繊維、非晶質炭素等の炭素質材料と、Si、Al、Sn、Pb、Zn、Bi、In、Mg、Ga、Cd、Si合金、Sn合金又はAl合金等リチウムと合金化が可能な金属質化合物と、SiOv(0<v<2)、SnO2、バナジウム酸化物、リチウムバナジウム酸化物のようにリチウムをドープ及び脱ドープできる金属酸化物と、又はSi-C複合体又はSn-C複合体のように、前記金属質化合物と炭素質材料を含む複合物等が挙げられ、これらのうち何れか一つ又は二つ以上の混合物が用いられてよい。また、前記負極活物質として、金属リチウム薄膜が用いられてもよい。また、炭素材料は、低結晶性炭素及び高結晶性炭素等の何れも用いられてよい。低結晶性炭素としては、軟質炭素(soft carbon)及び硬質炭素(hard carbon)が代表的であり、高結晶性炭素としては、無定形、板状、鱗片状、球状又は繊維型の天然黒鉛又は人造黒鉛、キッシュ黒鉛(Kish graphite)、熱分解炭素(pyrolytic carbon)、メソ相ピッチ系炭素繊維(mesophase pitch based carbon fiber)、メソ炭素微小球体(meso-carbon microbeads)、メソ相ピッチ(Mesophase pitches)及び石油と石炭系コークス(petroleum or coal tar pitch derived cokes)等の高温焼成炭素が代表的である。
【0091】
また、前記バインダー及び導電材は、先立って正極で説明したところと同一のものであってよい。
【0092】
一方、前記二次電池において、セパレーターは、負極と正極を分離し、リチウムイオンの移動通路を提供するものであって、通常リチウム二次電池においてセパレーターとして用いられるものであれば、特別な制限なく使用可能であり、特に電解質のイオン移動に対して低抵抗であり、且つ、電解液の含湿能に優れたものが好ましい。具体的には、多孔性高分子フィルム、例えば、エチレン単独重合体、プロピレン単独重合体、エチレン/ブテン共重合体、エチレン/ヘキセン共重合体、及びエチレン/メタクリレート共重合体等のようなポリオレフィン系高分子で製造した多孔性高分子フィルム、又はこれらの2層以上の積層構造体が用いられてよい。また、通常の多孔性不織布、例えば、高融点の硝子繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維等でなった不織布が用いられてもよい。また、耐熱性又は機械的強度の確保のためにセラミック成分又は高分子物質が含まれたコーティングされたセパレーターが用いられてもよく、選択的に単層又は多層構造で用いられてよい。
【0093】
一方、前記電解質としては、二次電池の製造時に使用可能な有機系液体電解質、無機系液体電解質、固体高分子電解質、ゲル型高分子電解質、固体無機電解質、溶融型無機電解質等を用いてよいが、これらに限定されるものではない。
【0094】
具体的に、前記電解質は、有機溶媒及びリチウム塩を含んでよい。
【0095】
前記有機溶媒としては、電池の電気化学的反応に関与するイオンが移動できる媒質の役割ができるものであれば、特別な制限なく用いられてよい。具体的に、前記有機溶媒としては、メチルアセテート(methyl acetate)、エチルアセテート(ethyl acetate)、γ-ブチロラクトン(γ-butyrolactone)、ε-カプロラクトン(ε-caprolactone)等のエステル系溶媒と、ジブチルエーテル(dibutyl ether)又はテトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)等のエーテル系溶媒と、シクロヘキサノン(cyclohexanone)等のケトン系溶媒と、ベンゼン(benzene)、フルオロベンゼン(fluorobenzene)等の芳香族炭化水素系溶媒と、ジメチルカーボネート(dimethylcarbonate、DMC)、ジエチルカーボネート(diethylcarbonate、DEC)、メチルエチルカーボネート(methylethylcarbonate、MEC)、エチルメチルカーボネート(ethylmethylcarbonate、EMC)、エチレンカーボネート(ethylene carbonate、EC)、プロピレンカーボネート(propylene carbonate、PC)等のカーボネート系溶媒と、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール系溶媒と、R-CN(RはC2からC20の直鎖状、分岐状又は環状構造の炭化水素基であり、二重結合芳香環又はエーテル結合を含んでよい)等のニトリル類と、ジメチルホルムアミド等のアミド類と、1,3-ジオキソラン等のジオキソラン類と、又はスルホラン(sulfolane)類等が用いられてよい。この中でも、カーボネート系溶媒が好ましく、電池の充電・放電性能を高めることができる高いイオン伝導度及び高誘電率を有する環状カーボネート(例えば、エチレンカーボネート又はプロピレンカーボネート等)と、低粘度の線状カーボネート系化合物(例えば、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート又はジエチルカーボネート等)の混合物がより好ましい。この場合、環状カーボネートと鎖状カーボネートは、約1:1から約1:9の体積比で混合し用いた方が電解液の性能が優れて現れ得る。
【0096】
前記リチウム塩は、リチウム二次電池で用いられるリチウムイオンを提供できる化合物であれば、特別な制限なく用いられてよい。具体的に、前記リチウム塩は、LiPF6、LiClO4、LiAsF6、LiBF4、LiSbF6、LiAlO4、LiAlCl4、LiCF3SO3、LiC4F9SO3、LiN(C2F5SO3)2、LiN(C2F5SO2)2、LiN(CF3SO2)2、LiCl、LiI、又はLiB(C2O4)2等が用いられてよい。前記リチウム塩の濃度は、0.1Mから2.0Mの範囲内で用いた方がよい。リチウム塩の濃度が前記範囲に含まれれば、電解質が適切な伝導度及び粘度を有するため、優れた電解質性能を示すことができ、リチウムイオンが効果的に移動できる。
【0097】
前記電解質には、前記電解質構成成分の他にも電池の寿命特性向上、電池の容量減少の抑制、電池の放電容量の向上等を目的とし、例えば、ジフルオロエチレンカーボネート等のようなハロアルキレンカーボネート系化合物と、又はピリジン、トリエチルホスファイト、トリエタノールアミン、環状エーテル、エチレンジアミン、n-グリム(glyme)、ヘキサリン酸トリアミド、ニトロベンゼン誘導体、硫黄、キノンイミン染料、N-置換オキサゾリジノン、N,N-置換イミダゾリジン、エチレングリコールジアルキルエーテル、アンモニウム塩、ピロール、2-メトキシエタノール又は三塩化アルミニウム等の添加剤が1種以上さらに含まれてもよい。このとき、前記添加剤は、電解質の全体重量に対して0.1重量%から5重量%で含まれてよい。
【0098】
前記のように本発明による正極活物質を含む二次電池は、高電圧下でも優れた容量特性及び安定性を有し、携帯電話、ノート・パソコン、デジタルカメラ等の携帯用機器、及びハイブリッド電気自動車(hybrid electric vehicle、HEV)等の電気自動車分野等に有用に適用され得る。
【0099】
また、本発明による二次電池は、電池モジュールの単位セルとして用いられてよく、前記電池モジュールは、電池パックに適用され得る。前記電池モジュール又は電池パックは、パワーツール(Power Tool)と、電気自動車(Electric Vehicle、EV)、ハイブリッド電気自動車、及びプラグインハイブリッド電気自動車(Plug-in Hybrid Electric Vehicle、PHEV)を含む電気車と、又は電力貯蔵用システムのうち、何れか一つ以上の中大型デバイスの電源に用いられてよい。
【実施例】
【0100】
以下、本発明が属する技術分野において、通常の知識を有する者が容易に実施できるように、本発明の実施例に対して詳しく説明する。しかし、本発明は、色々と異なる形態に具現されてよく、ここで説明する実施例に限定されない。
【0101】
実施例1
50gのNMC(811)正極活物質を50gの水に浸して2分間掻きまぜた後、10%(w/w)P2O5水溶液をpH7になるまで1.25g投入した。これを2分間さらに掻きまぜた後、減圧フィルターを用いて2分間水を除去してから真空オーブンで乾燥し、前記正極活物質の洗浄を完了した。
【0102】
実施例2
前記実施例1で水の量を25gに変更したことを除いては、実施例1と同一の方法により正極活物質の洗浄を完了した。
【0103】
実施例3
前記実施例1で10%(w/w)P2O5水溶液をpH9になるまで0.75g投入したことを除いては、実施例1と同一の方法により正極活物質の洗浄を完了した。
【0104】
実施例4
50gのNMC(811)正極活物質を50gの水に浸して2分間掻きまぜた後、20%(w/w)P2O5水溶液をpH7になるまで投入した。これを5分間さらに掻きまぜた後、減圧フィルターを用いて2分間水を除去してから真空オーブンで乾燥し、前記正極活物質の洗浄を完了した。
【0105】
実施例5
前記実施例1で10%(w/w)P2O5水溶液の代わりに0.1モル%のクエン酸(C6H8O7)水溶液をpH7になるまで投入したことを除いては、実施例1と同一の方法により正極活物質の洗浄を完了した。
【0106】
比較例1
50gのNMC(811)正極活物質を50gの水に浸して5分間掻きまぜた後、減圧フィルターを用いて2分間水を除去してから真空オーブンで乾燥し、前記正極活物質の洗浄を完了した。
【0107】
比較例2
50gのNMC(811)正極活物質を25gの水に浸して5分間掻きまぜた後、減圧フィルターを用いて2分間水を除去してから真空オーブンで乾燥し、前記正極活物質の洗浄を完了した。
【0108】
比較例3
50gのNMC(811)正極活物質を50gの水に浸して2分間掻きまぜた後、20%(w/v)HCl水溶液をpH7になるまで投入した。これを5分間さらに掻きまぜた後、減圧フィルターを用いて2分間水を除去してから真空オーブンで乾燥し、前記正極活物質の洗浄を完了した。
【0109】
比較例4
50gのNMC(811)正極活物質を50gの水に浸して2分間掻きまぜた後、3%(w/v)HCl水溶液をpH7になるまで投入した。これを5分間さらに掻きまぜた後、減圧フィルターを用いて2分間水を除去してから真空オーブンで乾燥し、前記正極活物質の洗浄を完了した。
【0110】
実験例1
前記実施例1から5及び比較例1から4でそれぞれ洗浄が完了した正極活物質に対し、Mettler Toledo社製の888 titrando機器を用いてOH-イオンとCO3
2-イオンの量を滴定するワルダー滴定(Warder titration)方法によりリチウム副産物の含量を測定し、下記表1に示した。
【0111】
【0112】
前記表1を参照すれば、前記実施例1から5で洗浄が完了した正極活物質は、比較例1及び2で洗浄が完了した正極活物質に比べてリチウム副産物の量が少なく、また、LiOHの除去量に比べてLi2CO3の除去量が大きいため、Li2CO3/LiOHの比率が相対的に小さいことが確認できる。
【0113】
比較例3の場合には、全体リチウム副産物の残量が0.260モル%に過ぎないが、この場合には、前記正極活物質にコーティング層を形成する際に必要な残余リチウムの量を満たすことができず、正極活物質表面が腐食(内部のリチウムが外に流出)し、容量特性と寿命特性の低下の原因になり得る。
【0114】
実験例2
前記実施例1から5及び比較例1から4でそれぞれ洗浄が完了した正極活物質を、導電材としてカーボンブラック(carbon black)及びバインダーとしてポリビニリデンジフルオリド(PVdF)と、97.5:1:1.5の重量比で溶媒であるN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に添加し、正極スラリーをそれぞれ製造した。
【0115】
それぞれ製造された正極スラリーを、それぞれ厚さ20μm程度の正極集電体であるアルミニウム(Al)薄膜に塗布し乾燥した後、ロールプレス(roll press)を行って正極を製造した。
【0116】
前記製造された正極と負極としてリチウム-メタルの間にポリエチレン剤の多孔膜を介在させた後、エチレンカーボネート(EC)及びジエチルカーボネート(DEC)を30:70の体積比で混合した溶媒に1M LiPF6が溶解された電解質を注入し、コイン型の半電池を製造した。
【0117】
このように製造された半電池を、0.1Cで1回の充電を行った。以後、20分間放置してから0.1Cの定電流(CC)で放電し、このときの充電容量及び放電容量、初期効率を測定し、その結果を下記表2に示した。
【0118】
【0119】
実験例3
前記実験例2で製造された実施例4及び比較例3でそれぞれ洗浄が完了した正極活物質を用いて製造されたコイン型の半電池を、45℃で0.33Cに充電・放電して放電容量を測定し、また、放電60秒間の電圧降下を測定してセル抵抗を測定した。これを1から50サイクル繰り返し行い、その結果を下記表3に示した。
【0120】
【0121】
前記表2を参照すれば、前記実施例1から5及び比較例1から4でそれぞれ洗浄が完了した正極活物質を用いて製造された電池は、初期効率の面では大きい差を示していない。
【0122】
しかし、前記表3を参照すれば、pH調節過程でリン酸が添加された実施例1から4及びクエン酸が添加された実施例5の正極活物質を用いて製造された電池の場合、酸が添加されていない比較例1及び2の正極活物質を用いて製造された電池、及び酸として塩酸が用いられた比較例3及び4の正極活物質を用いて製造された電池に比べて寿命特性が優秀であり、サイクル増加による抵抗増加程度が低いことが確認できる。
【0123】
一方、比較例4のように強酸であるHClを低い濃度で用いた場合には、前記表1で確認できる通り、全体リチウム副産物の残量が0.301モル%と少ない方であり、Li2CO3/LiOHの比率が相対的に低い値を示し、水を用いた比較例1及び2と相対的に高い濃度のHClを用いた比較例3に比べて効果的である。しかし、前記表3から確認できる通り、強酸を低い濃度で用いる場合には、寿命特性及びサイクル増加による抵抗増加の面で弱酸を用いた実施例1から5に比べ、その結果が良くないことが確認できる。
【0124】
これは、実施例1から5のように酸として弱酸であるリン酸又はクエン酸が用いられる場合、強酸を用いた場合に比べて水洗過程で酸によるリチウム複合遷移金属酸化物の腐食が少ないからであると思われる。
【0125】
この他にも、前記実施例及び比較例を介して、前記pHの調節のために弱酸が用いられる場合、強酸が用いられる場合に比べてpH調節も容易であるため、前記リチウム副産物の除去がさらに効率的、且つ、容易に行われるという長所を有するという点が確認できる。