(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-20
(45)【発行日】2022-05-30
(54)【発明の名称】六方晶ストロンチウムフェライト粉末、磁気記録媒体および磁気記録再生装置
(51)【国際特許分類】
G11B 5/706 20060101AFI20220523BHJP
H01F 1/11 20060101ALI20220523BHJP
C01G 49/00 20060101ALI20220523BHJP
【FI】
G11B5/706
H01F1/11
C01G49/00 C
C01G49/00 D
C01G49/00 H
(21)【出願番号】P 2019003419
(22)【出願日】2019-01-11
【審査請求日】2021-02-18
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】直井 憲次
(72)【発明者】
【氏名】白田 雅史
【審査官】中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-314467(JP,A)
【文献】特開平03-147520(JP,A)
【文献】特開2019-003715(JP,A)
【文献】特開2015-127985(JP,A)
【文献】特開平04-072601(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/706
H01F 1/11
C01G 49/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子サイズが10.0~25.0nmの範囲であり、
鉄原子100.0原子%に対して、ガリウム原
子を1.0~15.0原子%含み、かつ
保磁力Hcが2000Oe超4000Oe未満である、六方晶ストロンチウムフェライト粉末。
【請求項2】
磁気記録用強磁性粉末である、請求項1に記載の六方晶ストロンチウムフェライト粉末。
【請求項3】
質量磁化σsが41A・m
2/kg以上である、請求項1または2に記載の六方晶ストロンチウムフェライト粉末。
【請求項4】
鉄原子100.0原子%に対して、ガリウム原
子を1.0~12.0原子%含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の六方晶ストロンチウムフェライト粉末。
【請求項5】
アルミニウム原子を更に含む、請求項1~
4のいずれか1項に記載の六方晶ストロンチウムフェライト粉末。
【請求項6】
ネオジム原子を更に含む、請求項1~
5のいずれか1項に記載の六方晶ストロンチウムフェライト粉末。
【請求項7】
マグネトプランバイト型の結晶構造を有する、請求項1~
6のいずれか1項に記載の六方晶ストロンチウムフェライト粉末。
【請求項8】
非磁性支持体上に強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有する磁気記録媒体であって、
前記強磁性粉末が、請求項1~
7のいずれか1項に記載の六方晶ストロンチウムフェライト粉末である磁気記録媒体。
【請求項9】
請求項
8に記載の磁気記録媒体と、磁気ヘッドと、を含む磁気記録再生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、六方晶ストロンチウムフェライト粉末、磁気記録媒体および磁気記録再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
六方晶フェライト粉末は、磁気記録分野等において強磁性粉末として広く用いられている。六方晶フェライト粉末については、近年、その特性を更に改良するための各種提案がなされている(例えば特許文献1および2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平7-93742号公報
【文献】特開2007-126306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
六方晶フェライトの結晶構造は、構成原子として、少なくとも、鉄原子、二価金属原子および酸素原子を含む。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、主に含まれる二価金属原子がストロンチウム原子である六方晶フェライトの結晶構造を有する。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、他の種類の六方晶フェライト粉末と比べて、磁気記録媒体に記録された情報を再生する際の再生出力を高めるうえで有利と考えられている。
【0005】
近年、磁気記録分野では更なる高密度記録化が進行し、これに伴い強磁性粉末の粒子サイズを小さくすること(以下、「微粒子化」と記載する。)が求められている。しかし、強磁性粉末を微粒子化して記録密度を高めると、減磁界により磁化減衰が生じる。そのため、電磁変換特性向上のためには、強磁性粉末の保磁力Hcを高めることにより磁化減衰を防ぐことが望ましい。
【0006】
以上に鑑みて本発明者らは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末の微粒子化および高保磁力化について検討した。しかし検討の結果、微粒子化と高保磁力化のみでは、電磁変換特性の向上には十分ではないことが明らかになった。
【0007】
本発明の一態様は、電磁変換特性に優れる磁気記録媒体の作製のために使用可能な六方晶ストロンチウムフェライト粉末を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、
平均粒子サイズが10.0~25.0nmの範囲であり、
鉄原子100.0原子%に対して、ガリウム原子、スカンジウム原子、インジウム原子およびアンチモン原子からなる群から選ばれる一種以上の原子を1.0~15.0原子%含み、かつ
保磁力Hcが2000Oe超4000Oe未満である、六方晶ストロンチウムフェライト粉末、
に関する。
【0009】
単位Oe(エルステッド)について、1Oe=79.6A(アンペア)/mである。2000Oe=159kA/mであり、4000Oe=318kA/mである。
【0010】
一態様では、上記六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、磁気記録用強磁性粉末であることができる。
【0011】
一態様では、上記六方晶ストロンチウムフェライト粉末の質量磁化σsは、41A・m2/kg以上であることができる。
【0012】
一態様では、上記六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、鉄原子100.0原子%に対して、ガリウム原子、スカンジウム原子、インジウム原子およびアンチモン原子からなる群から選ばれる一種以上の原子を1.0~12.0原子%含むことができる。
【0013】
一態様では、上記六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、ガリウム原子を含むことができる。
【0014】
一態様では、上記六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、スカンジウム原子を含むことができる。
【0015】
一態様では、上記六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、インジウム原子を含むことができる。
【0016】
一態様では、上記六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、アンチモン原子を含むことができる。
【0017】
一態様では、上記六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、アルミニウム原子を更に含むことができる。
【0018】
一態様では、上記六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、ネオジム原子を更に含むことができる。
【0019】
一態様では、上記六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、マグネトプランバイト型の結晶構造を有することができる。
【0020】
本発明の一態様は、非磁性支持体上に強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有する磁気記録媒体であって、上記強磁性粉末が上記六方晶ストロンチウムフェライト粉末である磁気記録媒体に関する。
【0021】
本発明の一態様は、上記磁気記録媒体と、磁気ヘッドと、を含む磁気記録再生装置に関する。
【発明の効果】
【0022】
本発明の一態様によれば、電磁変換特性に優れる磁気記録媒体の作製のために使用可能な六方晶ストロンチウムフェライト粉末を提供することができる。また、本発明の一態様によれば、かかる六方晶ストロンチウムフェライト粉末を磁性層に含む磁気記録媒体、およびこの磁気記録媒体を含む磁気記録再生装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[六方晶ストロンチウムフェライト粉末]
本発明の一態様にかかる六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、平均粒子サイズが10.0~25.0nmの範囲であり、鉄原子100.0原子%に対して、ガリウム原子、スカンジウム原子、インジウム原子およびアンチモン原子からなる群から選ばれる一種以上の原子を1.0~15.0原子%含み、かつ保磁力Hcが2000Oe超4000Oe未満である。上記六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、磁気記録用強磁性粉末として好適であり、例えば塗布型磁気記録媒体の磁性層形成のために用いることができる。
以下、上記六方晶ストロンチウムフェライト粉末について、更に詳細に説明する。
【0024】
<平均粒子サイズ>
上記六方晶ストロンチウムフェライト粉末の平均粒子サイズは、10.0~25.0nmの範囲である。上記六方晶ストロンチウムフェライト粉末の平均粒子サイズは、高密度記録化の観点から、25.0nm以下であり、23.0nm以下であることが好ましく、21.0nm以下であることがより好ましく、18.0nm以下であることが更に好ましい。また、磁化の安定性の観点から、上記六方晶ストロンチウムフェライト粉末の平均粒子サイズは、10.0nm以上であり、12.0nm以上であることが好ましく、14.0nm以上であることがより好ましい。
【0025】
本発明および本明細書において、各種粉末の平均粒子サイズは、透過型電子顕微鏡を用いて、以下の方法により測定される値とする。
粉末を、透過型電子顕微鏡を用いて撮影倍率100000倍で撮影し、総倍率500000倍になるように印画紙にプリントして粉末を構成する粒子の写真を得る。得られた粒子の写真から目的の粒子を選びデジタイザーで粒子の輪郭をトレースし粒子(一次粒子)のサイズを測定する。一次粒子とは、凝集のない独立した粒子をいう。
以上の測定を、無作為に抽出した500個の粒子について行う。こうして得られた500個の粒子の粒子サイズの算術平均を、粉末の平均粒子サイズとする。上記透過型電子顕微鏡としては、例えば日立製透過型電子顕微鏡H-9000型を用いることができる。また、粒子サイズの測定は、公知の画像解析ソフト、例えばカールツァイス製画像解析ソフトKS-400を用いて行うことができる。後述の実施例に示す平均粒子サイズは、特記しない限り、透過型電子顕微鏡として日立製透過型電子顕微鏡H-9000型、画像解析ソフトとしてカールツァイス製画像解析ソフトKS-400を用いて測定された値である。本発明および本明細書において、粉末とは、複数の粒子の集合を意味する。例えば、強磁性粉末とは、複数の強磁性粒子の集合を意味する。また、複数の粒子の集合とは、集合を構成する粒子が直接接触している態様に限定されず、後述する結合剤、添加剤等が、粒子同士の間に介在している態様も包含される。
【0026】
粒子サイズ測定のために磁気記録媒体から試料粉末を採取する方法としては、例えば特開2011-048878号公報の段落0015に記載の方法を採用することができる。
【0027】
本発明および本明細書において、特記しない限り、粉末を構成する粒子のサイズ(粒子サイズ)は、上記の粒子写真において観察される粒子の形状が、
(1)針状、紡錘状、柱状(ただし、高さが底面の最大長径より大きい)等の場合は、粒子を構成する長軸の長さ、即ち長軸長で表され、
(2)板状または柱状(ただし、厚みまたは高さが板面または底面の最大長径より小さい)の場合は、その板面または底面の最大長径で表され、
(3)球形、多面体状、不特定形等であって、かつ形状から粒子を構成する長軸を特定できない場合は、円相当径で表される。円相当径とは、円投影法で求められるものを言う。
【0028】
また、粉末の平均針状比は、上記測定において粒子の短軸の長さ、即ち短軸長を測定し、各粒子の(長軸長/短軸長)の値を求め、上記500個の粒子について得た値の算術平均を指す。ここで、特記しない限り、短軸長とは、上記粒子サイズの定義で(1)の場合は、粒子を構成する短軸の長さを、同じく(2)の場合は、厚みまたは高さを各々指し、(3)の場合は、長軸と短軸の区別がないから、(長軸長/短軸長)は、便宜上1とみなす。
そして、特記しない限り、粒子の形状が特定の場合、例えば、上記粒子サイズの定義(1)の場合、平均粒子サイズは平均長軸長であり、同定義(2)の場合、平均粒子サイズは平均板径である。同定義(3)の場合、平均粒子サイズは、平均直径(平均粒径、平均粒子径ともいう)である。
【0029】
<保磁力Hc>
上記六方晶ストロンチウムフェライト粉末の保磁力Hcは、2000Oe超4000Oe未満である。上記六方晶ストロンチウムフェライト粉末の保磁力Hcは、電磁変換特性向上の観点から、2000Oe超であり、2150Oe以上であることが好ましく、2300Oe以上であることがより好ましく、2500Oe以上であることが一層好ましい。また、保磁力Hcが高いほど情報の記録(書き込み)容易性が低下する傾向があり、これにより電磁変換特性が低下する傾向がある。この点から、上記六方晶ストロンチウムフェライト粉末の保磁力Hcは、4000Oe未満であり、3800Oe以下であることが好ましく、3500Oe以下であることがより好ましい。2150Oe=171kA/m、2300Oe=183kA/m、2500Oe=199kA/m、3000Oe=239kA/m、3500Oe=279kA/m、3800Oe=303kA/mである。
【0030】
保磁力Hcは、振動試料型磁束計等の磁気特性を測定可能な公知の測定装置によって測定することができる。本発明および本明細書において、保磁力Hcとは、測定温度25℃±1℃にて測定される値である。測定温度とは、測定時の六方晶ストロンチウムフェライト粉末周囲の雰囲気温度である。この点は、後述の質量磁化σsについても同様である。
【0031】
<構成原子>
上記六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、六方晶フェライト粉末の一種であるため、六方晶フェライトの結晶構造を有する。六方晶フェライトの結晶構造は、構成原子として、少なくとも鉄原子、二価金属原子および酸素原子を含む。二価金属原子とは、イオンとして二価のカチオンになり得る金属原子であり、ストロンチウム原子、バリウム原子、カルシウム原子等のアルカリ土類金属原子、鉛原子等を挙げることができる。本発明および本明細書において、六方晶ストロンチウムフェライト粉末とは、この粉末に含まれる主な二価金属原子がストロンチウム原子であるものをいい、主な二価金属原子とは、この粉末に含まれる二価金属原子の中で、原子%基準で最も多くを占める二価金属原子をいうものとする。上記六方晶ストロンチウムフェライト粉末において、ストロンチウム原子含有率は、鉄原子100.0原子%に対して、例えば2.0~15.0原子%の範囲であることができる。一態様では、上記六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、この粉末に含まれる二価金属原子がストロンチウム原子のみであることができる。また他の一態様では、上記六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、ストロンチウム原子に加えて一種以上の他の二価金属原子を含むこともできる。例えば、上記六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、ストロンチウム原子に加えて、バリウム原子および/またはカルシウム原子を含むことができる。ストロンチウム原子以外の他の二価金属原子としてバリウム原子および/またはカルシウム原子が含まれる場合、上記六方晶ストロンチウムフェライト粉末におけるバリウム原子含有率およびカルシウム原子含有率は、それぞれ、例えば、鉄原子100.0原子%に対して、0.05~5.0原子%の範囲であることができる。本発明および本明細書において、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を定義するにあたって考慮される二価金属原子には、希土類原子は包含されないものとする。なお本発明および本明細書における「希土類原子」は、スカンジウム原子(Sc)、イットリウム原子(Y)、およびランタノイド原子からなる群から選択される原子である。ランタノイド原子は、ランタン原子(La)、セリウム原子(Ce)、プラセオジム原子(Pr)、ネオジム原子(Nd)、プロメチウム原子(Pm)、サマリウム原子(Sm)、ユウロピウム原子(Eu)、ガドリニウム原子(Gd)、テルビウム原子(Tb)、ジスプロシウム原子(Dy)、ホルミウム原子(Ho)、エルビウム原子(Er)、ツリウム原子(Tm)、イッテルビウム原子(Yb)、およびルテチウム原子(Lu)からなる群から選択される。
【0032】
六方晶フェライトの結晶構造としては、マグネトプランバイト型(「M型」とも呼ばれる。)、W型、Y型およびZ型が知られている。上記六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、いずれの六方晶フェライトの結晶構造を取るものであってもよい。結晶構造は、X線回折分析によって確認することができる。上記六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、X線回折分析によって、単一の結晶構造または二種以上の結晶構造が検出されるものであることができる。例えば一態様では、上記六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、X線回折分析によってM型の結晶構造のみが検出されるものであることができる。例えば、M型の六方晶フェライトは、AFe12O19の組成式で表される。ここでAは二価金属原子を表し、六方晶ストロンチウムフェライト粉末がM型である場合、Aはストロンチウム原子(Sr)のみであるか、またはAとして複数の二価金属原子が含まれる場合には、上記の通り原子%基準で最も多くをストロンチウム原子(Sr)が占める。六方晶フェライト粉末の二価金属原子含有率は、通常、六方晶フェライトの結晶構造の種類により定まるものであり、特に限定されるものではない。鉄原子含有率および酸素原子含有率についても、同様である。上記六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、少なくとも、鉄原子、ストロンチウム原子、酸素原子、ならびにガリウム原子(Ga)、スカンジウム原子(Sc)、インジウム原子(In)およびアンチモン原子(Sb)からなる群から選ばれる一種以上の原子を含み、これら原子以外の原子を含んでもよく、含まなくてもよい。以下において、ガリウム原子(Ga)、スカンジウム原子(Sc)、インジウム原子(In)およびアンチモン原子(Sb)からなる群から選ばれる一種以上の原子を、「M原子」と記載する。上記の各種M原子は、三価のカチオンになり得る金属原子(三価金属原子)であって、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を定義するにあたって考慮される二価金属原子には分類されない。上記六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、M原子として、ガリウム原子、スカンジウム原子、インジウム原子およびアンチモン原子からなる群から選ばれる原子を一種のみ含んでもよく、任意の組み合わせで二種含んでもよく、任意の組み合わせで三種または四種含んでもよい。M原子として二種以上の原子が含まれる場合、下記のM原子の含有率は、含まれるM原子の合計含有率として求めるものとする。
【0033】
上記六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、ガリウム原子、スカンジウム原子、インジウム原子およびアンチモン原子からなる群から選ばれる一種以上の原子(M原子)を、鉄原子100.0原子%に対して、1.0~15.0原子%含む。M原子を上記の含有率で含むことが、上記範囲の平均粒子サイズおよび上記範囲の保磁力Hcを有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末が、電磁変換特性に優れる磁気記録媒体の作製のために使用できる理由と本発明者らは考えている。詳しくは、M原子が上記範囲の含有率で含まれることが、反転磁界分布(SFD;switching field distribution)の低減(以下、「低SFD化」と記載する。)に寄与すると本発明者らは推察している。ただし推察であって、本発明を何ら限定するものではない。電磁変換特性向上の観点から、上記六方晶ストロンチウムフェライト粉末のM原子の含有率は、鉄原子100.0原子%に対して、1.0原子%以上であり、1.5原子%以上であることが好ましく、2.0原子%以上であることがより好ましく、2.5原子%以上であることが更に好ましく、3.0原子%以上であることが一層好ましい。
ところで、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、他の種類の六方晶フェライト粉末と比べて、磁気記録媒体に記録された情報を再生する際の再生出力を高めるうえで有利と考えられている。その理由としては、質量磁化σsが他の種類の六方晶フェライト粉末と比べて高い傾向があることが挙げられる。電磁変換特性向上の観点から、上記六方晶ストロンチウムフェライト粉末のM原子の含有率は、鉄原子100.0原子%に対して、15.0原子%以下であり、質量磁化σsの低下を抑制する観点から、14.0原子%以下であることが好ましく、13.0原子%以下であることがより好ましく、12.0原子%以下であることが更に好ましく、11.0原子%以下であることが一層好ましく、10.0原子%以下であることがより一層好ましい。
【0034】
上記六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、鉄原子、ストロンチウム原子、酸素原子およびM原子を含み、これら原子以外の原子の含有率が、鉄原子100.0原子%に対して、例えば10.0原子%以下であることができ、0~5.0原子%の範囲であることもでき、0原子%であってもよい。即ち、一態様では、上記六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、鉄原子、ストロンチウム原子、酸素原子およびM原子以外の原子を含まなくてもよい。また、一態様では、鉄原子、ストロンチウム原子、酸素原子およびM原子以外の原子を含んでもよい。そのような原子の一例としては、上記の通り、バリウム原子およびカルシウム原子を挙げることができる。
【0035】
上記の原子%で表示される含有率は、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を全溶解して求められる各原子の含有率(単位:質量%)の値を、各原子の原子量を用いて原子%表示の値に換算して求められる。また、本発明および本明細書において、ある原子について「含まない」とは、全溶解して誘導結合プラズマ(ICP;Inductively Coupled Plasma)分析装置により測定される含有率が0質量%であることをいう。ICP分析装置の検出限界は、通常、質量基準で0.01ppm(parts per million)以下である。上記の「含まない」とは、ICP分析装置の検出限界未満の量で含まれることを包含する意味で用いるものとする。
上記全溶解とは、溶解終了時に液中に粉末の残留が目視で確認されない状態まで溶解することをいう。
例えば、試料粉末12mgおよび4mol/L塩酸10mlを入れた容器(例えばビーカー)を、設定温度80℃のホットプレート上で3時間保持する。得られた溶解液を0.1μmのメンブレンフィルタでろ過する。こうして得られたろ液の元素分析をICP分析装置によって行う。こうして、鉄原子100.0原子%に対する各種原子の含有率を求めることができる。ただし、上記の全溶解の溶解条件は例示であって、全溶解が可能な溶解条件を任意に採用できる。
【0036】
上記六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、鉄原子、ストロンチウム原子、酸素原子、ならびにガリウム原子(Ga)、スカンジウム原子(Sc)、インジウム原子(In)およびアンチモン原子(Sb)からなる群から選ばれる一種以上の原子を含み、バリウム原子および/またはカルシウム原子を任意に含むことができ、上記以外の原子の一種以上を任意に更に含むこともできる。任意に更に含まれ得る原子としては、アルミニウム原子(Al)、ネオジム原子(Nd)、サマリウム原子(Sm)、イットリウム原子(Y)、ジスプロシウム原子(Dy)等を挙げることができる。例えば、上記六方晶ストロンチウムフェライト粉末がアルミニウム原子を含む場合、アルミニウム原子の含有率は、鉄原子100.0原子%に対して、1.0~20.0原子%であることができ、2.0~15.0原子%であることが好ましい。例えば、上記六方晶ストロンチウムフェライト粉末がネオジム原子を含む場合、ネオジム原子の含有率は、鉄原子100.0原子%に対して、1.0~15.0原子%であることができ、3.0~12.0原子%であることが好ましい。アルミニウム原子、ネオジム原子等の含有率を高めると、保磁力Hcが高くなる傾向がある。
【0037】
<質量磁化σs>
磁気記録媒体に記録された情報を再生する際の再生出力を高める観点から、磁気記録媒体に含まれる強磁性粉末の質量磁化σsが高いことは望ましい。一態様では、上記六方晶ストロンチウムフェライト粉末のσsは、41A・m2/kg以上であることができ、42A・m2/kg以上であることが好ましく、43A・m2/kg以上であることがより好ましく、44A・m2/kg以上であることが更に好ましく、45A・m2/kg以上であることが一層好ましく、46A・m2/kg以上であることがより一層好ましく、47A・m2/kg以上であることが更に一層好ましく、48A・m2/kg以上であることが更により一層好ましい。一方、σsは、ノイズ低減の観点からは、80A・m2/kg以下であることが好ましく、60A・m2/kg以下であることがより好ましい。σsは、振動試料型磁束計等の磁気特性を測定可能な公知の測定装置を用いて測定することができる。
【0038】
<製造方法>
上記六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、六方晶フェライトの製造方法として公知の製造方法、例えば、ガラス結晶化法、共沈法、逆ミセル法、水熱合成法等により製造することができる。以下に、具体的態様としてガラス結晶化法を用いる製造方法について説明する。ただし、上記六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、ガラス結晶化法以外の方法でも製造可能である。一例として、例えば、水熱合成法により上記六方晶ストロンチウムフェライト粉末を製造することもできる。水熱合成法とは、六方晶ストロンチウムフェライト前駆体を含む水系溶液を加熱することにより六方晶ストロンチウムフェライト前駆体を六方晶ストロンチウムフェライトに転換する方法である。中でも、粒子サイズが小さい六方晶ストロンチウムフェライト粉末の製造容易性の観点からは、六方晶ストロンチウムフェライト前駆体を含む水系溶液を反応流路に送液しつつ加熱および加圧することにより、加熱および加圧されている水、好ましくは亜臨界~超臨界状態の水の高い反応性を利用し、六方晶ストロンチウムフェライト前駆体を六方晶ストロンチウムフェライトに転換する連続的水熱合成法が好ましい。
【0039】
<<ガラス結晶化法を用いる製造方法>>
ガラス結晶化法は、一般に以下の工程を含む。
(1)六方晶ストロンチウムフェライト形成成分およびガラス形成成分を少なくとも含む原料混合物を溶融し、溶融物を得る工程(溶融工程);
(2)溶融物を急冷し非晶質体を得る工程(非晶質化工程);
(3)非晶質体を加熱処理し、加熱処理により析出した六方晶ストロンチウムフェライト粒子および結晶化したガラス成分を含む結晶化物を得る工程(結晶化工程);
(4)結晶化物から六方晶ストロンチウムフェライト粒子を捕集する工程(粒子捕集工程)。
【0040】
以下、上記工程について、更に詳細に説明する。
【0041】
(溶融工程)
六方晶ストロンチウムフェライト粉末を得るためのガラス結晶化法に用いられる原料混合物は、六方晶ストロンチウムフェライト形成成分およびガラス形成成分を含むものである。ここでガラス形成成分とは、ガラス転移現象を示し非晶質化(ガラス化)し得る成分であり、通常のガラス結晶化法ではB2O3成分が使用される。上記六方晶ストロンチウムフェライト粉末を得るためにガラス結晶化法を用いる場合にも、ガラス形成成分としてB2O3成分を使用することができる。ガラス結晶化法において原料混合物に含まれる各成分は、酸化物として、または溶融等の工程中に酸化物に変わり得る各種の塩として存在する。本発明および本明細書において「B2O3成分」とは、B2O3自体および工程中にB2O3に変わり得るH3BO3等の各種の塩を包含する意味で用いるものとする。他の成分についても同様である。
【0042】
原料混合物に含まれる六方晶ストロンチウムフェライト形成成分としては、六方晶ストロンチウムフェライトの結晶構造の構成原子となる原子を含む酸化物等を挙げることができる。具体例としては、Fe2O3成分およびSrO成分が挙げられる。また、バリウム原子を含む六方晶ストロンチウムフェライト粉末を得るためにはBaO成分が使用され、カルシウム原子を含む六方晶ストロンチウムフェライト粉末を得るためにはCaO成分が使用される。
【0043】
更に、M原子を含む六方晶ストロンチウムフェライト粉末を得るためには、M原子の酸化物成分(例えば、Ga2O3、Sc2O3、In2O3、Sb2O3等)が使用される。また、例えば、アルミニウム原子を含む六方晶ストロンチウムフェライト粉末を得るためにはAl2O3成分が使用され、ネオジム原子を含む六方晶ストロンチウムフェライト粉末を得るためにはNd2O3成分が使用される。
【0044】
原料混合物における各種成分の含有率は、特に限定されるものではなく、得ようとする六方晶ストロンチウムフェライト粉末の組成に応じて決定すればよい。原料混合物は、各種成分を秤量および混合して調製することができる。次いで、原料混合物を溶融し溶融物を得る。溶融温度は原料混合物の組成に応じて設定すればよく、通常、1000~1500℃である。溶融時間は、原料混合物が十分溶融するように適宜設定すればよい。
【0045】
(非晶質化工程)
次いで、得られた溶融物を急冷することにより非晶質体を得る。上記急冷は、ガラス結晶化法で非晶質体を得るために通常行われる急冷工程と同様に実施することができ、例えば高速回転させた水冷双ローラー上に溶融物を注いで圧延急冷する方法等の公知の方法で行うことができる。
【0046】
(結晶化工程)
上記急冷後、得られた非晶質体を加熱処理する。この加熱処理により、六方晶ストロンチウムフェライト粒子および結晶化したガラス成分を析出させることができる。析出させる六方晶ストロンチウムフェライト粒子の粒子サイズは、加熱条件により制御可能である。結晶化のための加熱温度(結晶化温度)を高くすると、析出する六方晶ストロンチウムフェライト粒子の粒子サイズが大きくなる傾向がある。また、結晶化温度を高くすると、析出する六方晶ストロンチウムフェライト粒子の保磁力Hcが高くなる傾向がある。以上の点を考慮し、上記範囲の平均粒子サイズおよび保磁力Hcを有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末が得られるように、加熱条件を制御することが好ましい。一態様では、結晶化温度は、600℃~700℃の範囲とすることが好ましい。また、結晶化のための加熱時間(上記結晶化温度での保持時間)は、一態様では、例えば0.1~24時間であり、好ましくは0.15~8時間である。また、結晶化温度に到達するまでの昇温速度は、一態様では、1.0~10.0℃/分が好ましく、より好ましくは1.5~7.0℃/分であり、2.0~5.0℃/分であることが更に好ましい。
【0047】
(粒子捕集工程)
非晶質体に加熱処理を施して得られた結晶化物中には、六方晶ストロンチウムフェライト粒子および結晶化したガラス成分が含まれている。そこで、結晶化物に酸処理を施すと、六方晶ストロンチウムフェライト粒子を取り囲んでいた、結晶化したガラス成分が溶解除去されるため、六方晶ストロンチウムフェライト粒子を採取することができる。上記酸処理の前には、酸処理の効率を高めるために粗粉砕を行うことが好ましい。粗粉砕は、乾式および湿式のいずれの方法で行ってもよい。粗粉砕の条件は、公知の方法にしたがって設定することができる。粒子捕集のための酸処理は、加熱下酸処理等のガラス結晶化法で一般的に行われる方法により行うことができる。その後、必要に応じて水洗、乾燥等の後処理を施すことにより、六方晶ストロンチウムフェライト粒子を得ることができる。
【0048】
以上、本発明の一態様にかかる六方晶ストロンチウムフェライト粉末の製造方法の具体的態様を説明した。ただし本発明の一態様にかかる六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、上記具体的態様により製造されるものに限定されるものではない。
【0049】
[磁気記録媒体]
本発明の一態様は、非磁性支持体上に、強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有し、上記強磁性粉末が上記の六方晶ストロンチウムフェライト粉末である磁気記録媒体に関する。
以下に、上記磁気記録媒体について、更に詳細に説明する。
【0050】
<磁性層>
(強磁性粉末)
上記磁気記録媒体の磁性層に含まれる強磁性粉末の詳細は、先に記載した通りである。磁性層における強磁性粉末の含有率(充填率)は、好ましくは50~90質量%の範囲であり、より好ましくは60~90質量%の範囲である。磁性層の強磁性粉末以外の成分は少なくとも結合剤であり、任意に一種以上の添加剤が含まれ得る。磁性層において強磁性粉末の充填率が高いことは、記録密度向上の観点から好ましい。
【0051】
(結合剤、硬化剤)
磁性層は、上記強磁性粉末とともに結合剤を含む。結合剤としては、一種以上の樹脂が用いられる。樹脂はホモポリマーであってもコポリマー(共重合体)であってもよい。磁性層に含まれる結合剤としては、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、スチレン、アクリロニトリル、メチルメタクリレート等を共重合したアクリル樹脂、ニトロセルロース等のセルロース樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアルキラール樹脂等から選択したものを単独で用いることができ、または複数の樹脂を混合して用いることができる。これらの中で好ましいものは、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、セルロース樹脂および塩化ビニル樹脂である。これらの樹脂は、後述する非磁性層および/またはバックコート層においても結合剤として使用することができる。以上の結合剤については、特開2010-24113号公報の段落0029~0031を参照できる。結合剤として使用される樹脂の平均分子量は、重量平均分子量として、例えば10000以上200000以下であることができる。本発明および本明細書における重量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定された値をポリスチレン換算して求められる値である。測定条件としては、下記条件を挙げることができる。後述の実施例に示す重量平均分子量は、下記測定条件によって測定された値をポリスチレン換算して求めた値である。
GPC装置:HLC-8120(東ソー社製)
カラム:TSK gel Multipore HXL-M(東ソー社製、7.8mmID(Inner Diameter)×30.0cm)
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
【0052】
また、結合剤として使用可能な樹脂とともに硬化剤を使用することもできる。硬化剤は、一態様では加熱により硬化反応(架橋反応)が進行する化合物である熱硬化性化合物であることができ、他の一態様では光照射により硬化反応(架橋反応)が進行する光硬化性化合物であることができる。磁性層形成工程の中で硬化反応が進行することにより、硬化剤の少なくとも一部は、結合剤等の他の成分と反応(架橋)した状態で磁性層に含まれ得る。この点は、他の層を形成するために用いられる組成物が硬化剤を含む場合に、この組成物を用いて形成される層についても同様である。好ましい硬化剤は、熱硬化性化合物であり、ポリイソシアネートが好適である。ポリイソシアネートの詳細については、特開2011-216149号公報の段落0124~0125を参照できる。磁性層形成用組成物の硬化剤の含有量は、結合剤100.0質量部に対して例えば0~80.0質量部であることができ、50.0~80.0質量部であることが好ましい。
【0053】
(添加剤)
磁性層には、強磁性粉末および結合剤が含まれ、必要に応じて一種以上の添加剤が含まれていてもよい。添加剤としては、一例として、上記の硬化剤が挙げられる。また、磁性層に含まれる添加剤としては、非磁性粉末(例えば無機粉末、カーボンブラック等)、潤滑剤、分散剤、分散助剤、防黴剤、帯電防止剤、酸化防止剤等を挙げることができる。例えば、潤滑剤については、特開2016-126817号公報の段落0030~0033、0035および0036を参照できる。後述する非磁性層に潤滑剤が含まれていてもよい。非磁性層に含まれ得る潤滑剤については、特開2016-126817号公報の段落0030、0031および0034~0036を参照できる。分散剤については、特開2012-133837号公報の段落0061および0071を参照できる。分散剤を非磁性層形成用組成物に添加してもよい。非磁性層形成用組成物に添加し得る分散剤については、特開2012-133837号公報の段落0061を参照できる。また、磁性層に含まれ得る非磁性粉末としては、研磨剤として機能することができる非磁性粉末、磁性層表面に適度に突出する突起を形成する突起形成剤として機能することができる非磁性粉末(例えば非磁性コロイド粒子等)等が挙げられる。添加剤は、所望の性質に応じて市販品を適宜選択して、または公知の方法で製造して、任意の量で使用することができる。
【0054】
<非磁性層>
次に非磁性層について説明する。上記磁気記録媒体は、非磁性支持体上に直接磁性層を有していてもよく、非磁性支持体と磁性層との間に非磁性粉末および結合剤を含む非磁性層を有していてもよい。非磁性層に使用される非磁性粉末は、無機物質の粉末(無機粉末)でも有機物質の粉末(有機粉末)でもよい。また、カーボンブラック等も使用できる。無機物質としては、例えば金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物等が挙げられる。これらの非磁性粉末は、市販品として入手可能であり、公知の方法で製造することもできる。その詳細については、特開2011-216149号公報の段落0146~0150を参照できる。非磁性層に使用可能なカーボンブラックについては、特開2010-24113号公報の段落0040~0041も参照できる。非磁性層における非磁性粉末の含有量(充填率)は、好ましくは50~90質量%の範囲であり、より好ましくは60~90質量%の範囲である。
【0055】
非磁性層の結合剤、添加剤等のその他詳細は、非磁性層に関する公知技術が適用できる。また、例えば、結合剤の種類および含有量、添加剤の種類および含有量等に関しては、磁性層に関する公知技術も適用できる。
【0056】
上記磁気記録媒体の非磁性層には、非磁性粉末とともに、例えば不純物として、または意図的に、少量の強磁性粉末を含む実質的に非磁性な層も包含されるものとする。ここで実質的に非磁性な層とは、この層の残留磁束密度が10mT以下であるか、保磁力が7.96kA/m(100Oe)以下であるか、または、残留磁束密度が10mT以下であり、かつ保磁力が7.96kA/m(100Oe)以下である層をいうものとする。非磁性層は、残留磁束密度および保磁力を持たないことが好ましい。
【0057】
<非磁性支持体>
非磁性支持体(以下、単に「支持体」とも記載する。)としては、二軸延伸を行ったポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリアミドイミド、芳香族ポリアミド等の公知のものが挙げられる。これらの中でもポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、およびポリアミドが好ましい。これらの支持体には、あらかじめコロナ放電、プラズマ処理、易接着処理、熱処理等を行ってもよい。
【0058】
<バックコート層>
上記磁気記録媒体は、非磁性支持体の磁性層を有する表面側とは反対の表面側に、非磁性粉末および結合剤を含むバックコート層を有することもできる。バックコート層には、カーボンブラックおよび無機粉末の一方または両方が含有されていることが好ましい。バックコート層に含まれる結合剤、任意に含まれ得る各種添加剤については、バックコート層に関する公知技術を適用することができ、磁性層および/または非磁性層の処方に関する公知技術を適用することもできる。例えば、特開2006-331625号公報の段落0018~0020および米国特許第7,029,774号明細書の第4欄65行目~第5欄38行目の記載を、バックコート層について参照できる。
【0059】
<非磁性支持体および各層の厚み>
非磁性支持体および各層の厚みについては、非磁性支持体の厚みは、例えば3.0~80.0μmであり、好ましくは3.0~20.0μmであり、より好ましくは3.0~10.0μmである。
【0060】
磁性層の厚みは、用いる磁気ヘッドの飽和磁化量、ヘッドギャップ長、記録信号の帯域等に応じて最適化することができる。磁性層の厚みは、一般には10~150nmであり、高密度記録化の観点から、好ましくは20~120nmであり、より好ましくは30~100nmである。磁性層は少なくとも一層あればよく、磁性層を異なる磁気特性を有する二層以上に分離してもかまわず、公知の重層磁性層に関する構成を適用できる。重層磁性層について、磁性層の厚みとは、複数の磁性層の合計厚みをいう。
【0061】
非磁性層の厚みは、例えば0.05~3.0μmであり、0.05~2.0μmであることが好ましく、0.05~1.5μmであることが更に好ましい。
【0062】
バックコート層の厚みは、0.9μm以下であることが好ましく、0.1~0.7μmであることがより好ましい。
【0063】
磁気記録媒体の各層および非磁性支持体の厚みは、公知の膜厚測定法により求めることができる。一例として、例えば、磁気記録媒体の厚み方向の断面を、イオンビーム、ミクロトーム等の公知の手法により露出させた後、露出した断面において走査型電子顕微鏡を用いて断面観察を行う。断面観察において1箇所において求められた厚み、または無作為に抽出した2箇所以上の複数箇所、例えば2箇所、において求められた厚みの算術平均として、各種厚みを求めることができる。または、各層の厚みは、製造条件から算出される設計厚みとして求めてもよい。
【0064】
<磁気記録媒体の製造方法>
磁性層、非磁性層またはバックコート層を形成するための組成物を製造する工程は、通常、少なくとも混練工程、分散工程、およびこれらの工程の前後に必要に応じて設けた混合工程を含む。個々の工程はそれぞれ2段階以上に分かれていてもかまわない。各種成分は、どの工程の最初または途中で添加してもかまわない。また、個々の成分を2つ以上の工程で分割して添加してもかまわない。上記磁気記録媒体を製造するためには、従来の公知の製造技術を一部または全部の工程に用いることができる。例えば、混練工程ではオープンニーダ、連続ニーダ、加圧ニーダ、エクストルーダ等の強い混練力をもつものを使用することが好ましい。これらの混練処理の詳細については、特開平1-106338号公報および特開平1-79274号公報を参照できる。また、各層形成用の組成物を分散するために、分散ビーズとしてガラスビーズを用いることができる。また、分散ビーズとしては、高比重の分散ビーズであるジルコニアビーズ、チタニアビーズ、およびスチールビーズも好適である。これら分散ビーズの粒径(ビーズ径
)と充填率は最適化して用いることができる。分散機は公知のものを使用することができる。各層形成用組成物を、塗布工程に付す前に公知の方法によってろ過してもよい。ろ過は、例えばフィルタろ過によって行うことができる。ろ過に用いるフィルタとしては、例えば孔径0.01~3μmのフィルタ(例えばガラス繊維製フィルタ、ポリプロピレン製フィルタ等)を用いることができる。
【0065】
磁性層は、磁性層形成用組成物を、例えば、非磁性支持体上に直接塗布するか、または非磁性層形成用組成物と逐次もしくは同時に重層塗布することにより形成することができる。配向処理を行う態様では、磁性層形成用組成物の塗布層が湿潤状態にあるうちに、配向ゾーンにおいて塗布層に対して配向処理が行われる。配向処理については、特開2010-24113号公報の段落0052の記載をはじめとする各種公知技術を適用することができる。例えば、垂直配向処理は、異極対向磁石を用いる方法等の公知の方法によって行うことができる。配向ゾーンでは、乾燥風の温度、風量および/または配向ゾーンにおける搬送速度によって塗布層の乾燥速度を制御することができる。また、配向ゾーンに搬送する前に塗布層を予備乾燥させてもよい。バックコート層は、バックコート層形成用組成物を、非磁性支持体の磁性層を有する(または磁性層が追って設けられる)側とは反対側に塗布することにより形成することができる。磁気記録媒体の製造方法の詳細については、例えば特開2010-24113号公報の段落0051~0057も参照できる。
【0066】
以上説明した本発明の一態様にかかる磁気記録媒体は、一態様ではテープ状の磁気記録媒体(磁気テープ)であることができ、他の一態様ではディスク状の磁気記録媒体(磁気ディスク)であることができる。例えば、磁気テープは、通常、磁気テープカートリッジに収容されて流通され、使用される。磁気テープには、磁気記録再生装置においてヘッドトラッキングサーボを行うことを可能とするために、公知の方法によってサーボパターンを形成することもできる。例えば、サーボパターンの形成は、DC(Direct Current)消磁した磁性層に対して行うことができる。消磁の方向は、磁気テープの長手方向または垂直方向であることができる。また、サーボパターン(即ち磁化領域)を形成する際の磁化の方向は、磁気テープの長手方向または垂直方向であることができる。上記磁気記録媒体は、本発明の一態様にかかる六方晶ストロンチウムフェライト粉末を磁性層に含むことにより、優れた電磁変換特性を示すことができる。上記磁気記録媒体は、情報の記録および/または再生を行う際、磁性層表面と磁気ヘッドとが接触し摺動する接触摺動型の磁気記録再生システムにおいて好適に使用することができる。
【0067】
[磁気記録再生装置]
本発明の一態様は、上記磁気記録媒体と、磁気ヘッドと、を含む磁気記録再生装置に関する。
【0068】
本発明および本明細書において、「磁気記録再生装置」とは、磁気記録媒体への情報の記録および磁気記録媒体に記録された情報の再生の少なくとも一方を行うことができる装置を意味するものとする。かかる装置は、一般にドライブと呼ばれる。上記磁気記録再生装置は、摺動型の磁気記録再生装置であることができる。上記磁気記録再生装置に含まれる磁気ヘッドは、磁気記録媒体への情報の記録を行うことができる記録ヘッドであることができ、磁気記録媒体に記録された情報の再生を行うことができる再生ヘッドであることもできる。また、上記磁気記録再生装置は、一態様では、別々の磁気ヘッドとして、記録ヘッドと再生ヘッドの両方を含むことができる。他の一態様では、上記磁気記録再生装置に含まれる磁気ヘッドは、記録素子と再生素子の両方を1つの磁気ヘッドに備えた構成を有することもできる。再生ヘッドとしては、磁気記録媒体に記録された情報を感度よく読み取ることができる磁気抵抗効果型(MR;Magnetoresistive)素子を再生素子として含む磁気ヘッド(MRヘッド)が好ましい。MRヘッドとしては、AMR(AnisotropicMagnetoresistive)ヘッド、GMR(Giant Magnetoresistive)ヘッド、TMR(Tunnel Magnetoresistive)ヘッド等の公知の各種MRヘッドを用いることができる。また、情報の記録および/または情報の再生を行う磁気ヘッドには、サーボパターン読み取り素子が含まれていてもよい。または、情報の記録および/または情報の再生を行う磁気ヘッドとは別のヘッドとして、サーボパターン読み取り素子を備えた磁気ヘッド(サーボヘッド)が上記磁気記録再生装置に含まれていてもよい。
【0069】
上記磁気記録再生装置において、磁気記録媒体への情報の記録および磁気記録媒体に記録された情報の再生は、例えば、磁気記録媒体の磁性層表面と磁気ヘッドとを接触させて摺動させることにより行うことができる。上記磁気記録再生装置は、本発明の一態様にかかる磁気記録媒体を含むものであればよく、その他については公知技術を適用することができる。
【実施例】
【0070】
以下に、本発明を実施例により更に具体的に説明する。ただし本発明は、実施例に示す態様に限定されるものではない。以下に記載の「部」および「%」は、特記しない限り、「質量部」および「質量%」を示す。「eq」は、当量(equivalent)であり、SI単位に換算不可の単位である。また、下記工程および評価は、特記しない限り、23℃±1℃の大気中で行った。
【0071】
1.六方晶ストロンチウムフェライト粉末の調製および評価
(1)六方晶ストロンチウムフェライト粉末の調製
[実施例1]
SrCO3を1070g、H3BO3を450g、Fe2O3を675g、Ga2O3を64g、Al(OH)3を29g、BaCO3を42g、およびCaCO3を21g秤量し、ミキサーにて混合し原料混合物を得た。
得られた原料混合物を、白金ルツボで溶融温度1390℃で溶融し、融液を攪拌しつつ白金ルツボの底に設けた出湯口を加熱し、融液を約6g/秒で棒状に出湯させた。出湯液を水冷双ローラーで圧延急冷して非晶質体を作製した。
作製した非晶質体280gを電気炉に仕込み、昇温速度3.5℃/分にて表1に示す温度(結晶化温度)まで昇温し、同温度で5時間保持して六方晶ストロンチウムフェライト粒子を析出(結晶化)させた。
次いで六方晶ストロンチウムフェライト粒子を含む上記で得られた結晶化物を乳鉢で粗粉砕した。得られた粗粉砕物を入れたガラス瓶に粒径1mmのジルコニアビーズ1000gと1%濃度の酢酸を800ml加えてペイントシェーカーにて3時間分散処理を行った。その後、得られた分散液を上記のビーズと分離させステンレスビーカーに入れた。分散液を液温100℃で3時間静置させてガラス成分の溶解処理を行った後、遠心分離器で沈澱させてデカンテーションを繰り返して洗浄し、炉内温度110℃の加熱炉内で6時間乾燥させて六方晶ストロンチウムフェライト粉末を得た。
【0072】
[比較例1]
原料混合物の調製に用いるGa2O3量を6.7gとした点以外は実施例1と同様にして、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を得た。
【0073】
[実施例2]
原料混合物の調製に用いるGa2O3量を11gとした点以外は実施例1と同様にして、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を得た。
【0074】
[実施例3]
原料混合物の調製に用いるGa2O3量を79gとした点以外は実施例1と同様にして、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を得た。
【0075】
[実施例4]
原料混合物の調製に用いるGa2O3量を110gとした点以外は実施例1と同様にして、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を得た。
【0076】
[比較例2]
原料混合物の調製に用いるGa2O3量を116gとした点以外は実施例1と同様にして、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を得た。
【0077】
[比較例3]
結晶化温度を表1に示す温度に変更した点以外は実施例1と同様にして、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を得た。
【0078】
[実施例5]
結晶化温度を表1に示す温度に変更した点以外は実施例1と同様にして、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を得た。
【0079】
[実施例6]
結晶化温度を表1に示す温度に変更した点以外は実施例1と同様にして、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を得た。
【0080】
[実施例7]
結晶化温度を表1に示す温度に変更した点以外は実施例1と同様にして、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を得た。
【0081】
[実施例8]
結晶化温度を表1に示す温度に変更した点以外は実施例1と同様にして、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を得た。
【0082】
[比較例4]
結晶化温度を表1に示す温度に変更した点以外は実施例1と同様にして、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を得た。
【0083】
[比較例5]
原料混合物の調製において、SrCO3を1044g、H3BO3を469g、Fe2O3を675g、Ga2O3を66g、およびBaCO3を140g秤量してミキサーにて混合し原料混合物を得た点、ならびに結晶化温度を表1に示す温度に変更した点以外は実施例1と同様にして、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を得た。
【0084】
[実施例9]
原料混合物の調製において、SrCO3を1048g、H3BO3を469g、Fe2O3を675g、Ga2O3を66g、およびBaCO3を133g秤量してミキサーにて混合し原料混合物を得た点以外は実施例1と同様にして、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を得た。
【0085】
[実施例10]
原料混合物の調製において、SrCO3を1055g、H3BO3を424g、Fe2O3を678g、Ga2O3を64g、Al(OH)3を72g、BaCO3を42g、およびCaCO3を21g秤量してミキサーにて混合し原料混合物を得た点、ならびに結晶化温度を表1に示す温度に変更した点以外は実施例1と同様にして、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を得た。
【0086】
[比較例6]
原料混合物の調製において、SrCO3を1020g、H3BO3を375g、Fe2O3を678g、Ga2O3を64g、Al(OH)3を151g、BaCO3を42g、およびCaCO3を22g秤量してミキサーにて混合し原料混合物を得た点、ならびに結晶化温度を表1に示す温度に変更した点以外は実施例1と同様にして、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を得た。
【0087】
[実施例11]
原料混合物の調製において、SrCO3を1054g、H3BO3を424g、Fe2O3を677g、Ga2O3を64g、Al(OH)3を71g、BaCO3を42g、CaCO3を21g、およびNd2O3を143g秤量してミキサーにて混合し原料混合物を得た点、ならびに結晶化温度を表1に示す温度に変更した点以外は実施例1と同様にして、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を得た。
【0088】
[実施例12]
結晶化温度を表1に示す温度に変更した点以外は実施例11と同様にして、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を得た。
【0089】
[実施例13]
原料混合物の調製において、SrCO3を1073g、H3BO3を450g、Fe2O3を677g、Sc2O3を47g、Al(OH)3を29g、BaCO3を42g、およびCaCO3を21g秤量してミキサーにて混合し原料混合物を得た点以外は実施例1と同様にして、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を得た。
【0090】
[実施例14]
原料混合物の調製に用いるSc2O3量を7gとした点以外は実施例13と同様にして、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を得た。
【0091】
[実施例15]
原料混合物の調製に用いるSc2O3量を81gとした点以外は実施例13と同様にして、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を得た。
【0092】
[実施例16]
原料混合物の調製において、SrCO3を1073g、H3BO3を450g、Fe2O3を677g、In2O3を95g、Al(OH)3を29g、BaCO3を42g、およびCaCO3を21g秤量してミキサーにて混合し原料混合物を得た点以外は実施例1と同様にして、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を得た。
【0093】
[実施例17]
原料混合物の調製に用いるIn2O3量を15gとした点以外は実施例16と同様にして、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を得た。
【0094】
[実施例18]
原料混合物の調製に用いるIn2O3量を162gとした点以外は実施例16と同様にして、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を得た。
【0095】
[実施例19]
原料混合物の調製において、SrCO3を1073g、H3BO3を450g、Fe2O3を677g、Sb2O3を99g、Al(OH)3を29g、BaCO3を42g、およびCaCO3を21g秤量してミキサーにて混合し原料混合物を得た点以外は実施例1と同様にして、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を得た。
【0096】
[実施例20]
原料混合物の調製に用いるSb2O3量を15gとした点以外は実施例19と同様にして、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を得た。
【0097】
[実施例21]
原料混合物の調製に用いるSb2O3量を172gとした点以外は実施例19と同様にして、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を得た。
【0098】
[実施例22]
原料混合物の調製において、SrCO3を1136g、H3BO3を451g、Fe2O3を677g、Ga2O3を64g、およびAl(OH)3を29g秤量してミキサーにて混合し原料混合物を得た点、ならびに結晶化温度を表1に示す温度に変更した点以外は実施例1と同様にして、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を得た。
【0099】
[実施例23]
原料混合物の調製において、SrCO3を1085g、H3BO3を470g、Fe2O3を677g、Ga2O3を64gBaCO3を42g、およびCaCO3を21g秤量してミキサーにて混合し原料混合物を得た点、ならびに結晶化温度を表1に示す温度に変更した点以外は実施例1と同様にして、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を得た。
【0100】
(2)六方晶ストロンチウムフェライト粉末の評価
(X線回折分析)
実施例および比較例で得られた粉末から試料粉末を採取し、X線回折分析を行った。分析の結果、実施例および比較例で得られた粉末は、いずれもマグネトプランバイト型(M型)の六方晶フェライトの結晶構造を示した。また、X線回折分析により検出された結晶相は、マグネトプランバイト型の単一相であった。X線回折分析は、CuKα線を電圧45kVかつ強度40mAの条件で走査し、下記条件でX線回折パターンを測定することにより行った。
PANalytical X’Pert Pro回折計、PIXcel検出器
入射ビームおよび回折ビームのSollerスリット:0.017ラジアン
分散スリットの固定角:1/4度
マスク:10mm
散乱防止スリット:1/4度
測定モード:連続
1段階あたりの測定時間:3秒
測定速度:毎秒0.017度
測定ステップ:0.05度
【0101】
(各種原子の含有率)
実施例および比較例の各六方晶ストロンチウムフェライト粉末から試料粉末を12mg採取し、この試料粉末を先に例示した溶解条件によって全溶解して得られたろ液の元素分析をICP分析装置によって行い、各種原子の含有率を求めた。
【0102】
(平均粒子サイズ)
実施例および比較例の各六方晶ストロンチウムフェライト粉末から試料粉末を採取し、先に記載の方法により平均粒子サイズを求めた。
【0103】
(保磁力Hc、質量磁化σs)
実施例および比較例の各六方晶ストロンチウムフェライト粉末の保磁力Hcおよび質量磁化σsを、振動試料型磁束計(東英工業社製)を用いて、磁場強度1194kA/m(15kOe)および測定温度25℃±1℃で測定した。
【0104】
2.磁気記録媒体(磁気テープ)の作製および評価
(1)磁気記録媒体(磁気テープ)の作製
実施例および比較例の各六方晶ストロンチウムフェライト粉末を用いて、以下の方法により磁気テープを作製した。以下において、実施例1の六方晶ストロンチウムフェライト粉末を用いて作製された磁気テープを、実施例1の磁気テープと呼ぶ。他の実施例および比較例についても同様とする。
【0105】
(磁性層形成用組成物の処方)
上記実施例または比較例の六方晶ストロンチウムフェライト粉末 100.0部
ポリウレタン樹脂 12.2部
重量平均分子量:10000
スルホン酸基含有量:0.5meq/g
ダイヤモンド粒子 1.85部
平均粒子サイズ:50nm
カーボンブラック(旭カーボン社製#55) 0.5部
平均粒子サイズ:0.015μm
ステアリン酸 0.5部
ブチルステアレート 2.1部
メチルエチルケトン 180.0部
シクロヘキサノン 100.0部
【0106】
(非磁性層形成用組成物の処方)
非磁性粉末 α-酸化鉄 103.0部
平均粒子サイズ:0.09μm
BET(Brunauer-Emmett-Teller)比表面積:50m2/g
pH:7
DBP(Dibutyl phthalate)吸油量:27~38g/100g
表面処理剤:Al2O3(8質量%)
カーボンブラック(コロンビアンカーボン社製コンダクテックスSC-U)25.0部
塩化ビニル共重合体(カネカ社製MR104) 12.9部
ポリウレタン樹脂(東洋紡社製UR8200) 5.2部
フェニルホスホン酸 3.5部
ブチルステアレート 1.1部
ステアリン酸 2.1部
メチルエチルケトン 205.0部
シクロヘキサノン 135.0部
【0107】
(バックコート層形成用組成物の処方)
非磁性粉末 α-酸化鉄 80.0部
平均粒子サイズ:0.15μm
平均針状比:7
BET比表面積:52m2/g
カーボンブラック 20.0部
平均粒子サイズ:20nm
塩化ビニル共重合体 13.0部
スルホン酸基含有ポリウレタン樹脂 6.0部
フェニルホスホン酸 3.0部
シクロヘキサノン 155.0部
メチルエチルケトン 155.0部
ステアリン酸 3.0部
ブチルステアレート 3.0部
ポリイソシアネート 5.0部
シクロヘキサノン 200.0部
【0108】
(磁気テープの作製)
磁性層形成用組成物および非磁性層形成用組成物のそれぞれについて、上記の各種成分をニーダで混練した。粒径1.0mmのジルコニアビーズを分散部の容積に対し65体積%充填する量を入れた横型サンドミルにポンプで通液し、2000rpm(revolution per minute)で120分間(実質的に分散部に滞留した時間)分散させた。磁性層形成用組成物に関しては、得られた分散液を1μmの孔径を有するフィルタを用いてろ過し、磁性層形成用組成物を得た。非磁性層形成用組成物に関しては、上記分散により得られた分散液を、ポリイソシアネートを6.5部、更にメチルエチルケトンを7.0部加えた後に、1μmの孔径を有するフィルタを用いてろ過し、非磁性層形成用組成物を得た。
バックコート層形成用組成物は、以下の方法により調製した。潤滑剤(ステアリン酸およびブチルステアレート)、ポリイソシアネートならびにシクロヘキサノン200.0部を除いた各成分をオープンニーダにより混練および希釈した後、横型ビーズミル分散機により、粒径1.0mmのジルコニアビーズを用い、ビーズ充填率80体積%、ローター先端周速10m/秒で、1パスあたりの滞留時間を2分とし、12パスの分散処理を行った。その後、残りの成分を分散液に添加し、ディゾルバーで攪拌した。得られた分散液を1μmの孔径を有するフィルタを用いてろ過し、バックコート層形成用組成物を得た。
その後、厚み5.0μmのポリエチレンナフタレート製非磁性支持体の一方の表面上に、乾燥後の厚みが0.1μmになるように非磁性層形成用組成物を塗布し乾燥させることにより、非磁性層を形成した。
その後、上記非磁性層上に乾燥後の厚みが70nmになるように磁性層形成用組成物を塗布して塗布層を形成した。この塗布層が未乾状態にあるうちに、磁場強度0.6Tの磁場を、塗布層の表面に対し垂直方向に印加し垂直配向処理を行った後、乾燥させることにより、磁性層を形成した。
その後、上記非磁性支持体の反対の表面上に、乾燥後の厚みが0.4μmになるようにバックコート層形成用組成物を塗布し乾燥させてバックコート層を形成した。
その後、金属ロールのみから構成されるカレンダで、カレンダロールの表面温度90℃かつ線圧300kg/cm(294kN/m)にて表面平滑化処理(カレンダ処理)を行った。その後、1/2インチ(0.0127メートル)幅にスリットし、表面研磨処理を施して磁気テープを得た。
【0109】
(2)磁気記録媒体(磁気テープ)の評価
(電磁変換特性(ノイズ)の評価)
実施例および比較例の各磁気テープに対して、下記条件で磁気信号をテープ長手方向に記録し、MRヘッドで再生した。再生信号をシバソク製スペクトラムアナライザーで周波数分析し、0~600kfci範囲で積分したノイズを評価した。単位kfciとは、線記録密度の単位(SI単位系に換算不可)である。
(記録再生条件)
記録:記録トラック幅5μm
記録ギャップ0.17μm
ヘッド飽和磁束密度Bs1.8T
再生:再生トラック幅0.4μm
シールド(sh;shield)間距離(sh-sh距離)0.08μm
(評価基準)
5: ノイズがほぼなく、シグナルが良好でエラーも見られない。
4: ノイズは下記3で見られるノイズより小さい。シグナルは良好。
3: ノイズが見られる。シグナルは良好。
2: ノイズは上記3で見られるノイズより大きい。シグナルが不明瞭。
1: ノイズとシグナルの区別ができないか、または記録できていない。
【0110】
以上の結果を、表1(表1-1および表1-2)に示す。
【0111】
【0112】
【0113】
表1に示す結果から、実施例の磁気テープは、比較例の磁気テープと比べて電磁変換特性に優れることが確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明の一態様は、高密度記録用磁気記録媒体の技術分野において有用である。