(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-23
(45)【発行日】2022-05-31
(54)【発明の名称】非晶質薄膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/285 20060101AFI20220524BHJP
C23C 14/28 20060101ALI20220524BHJP
H01L 21/3205 20060101ALI20220524BHJP
H01L 21/768 20060101ALI20220524BHJP
H01L 23/532 20060101ALI20220524BHJP
【FI】
H01L21/285 P
C23C14/28
H01L21/88 M
(21)【出願番号】P 2020535213
(86)(22)【出願日】2019-06-11
(86)【国際出願番号】 KR2019006981
(87)【国際公開番号】W WO2019240455
(87)【国際公開日】2019-12-19
【審査請求日】2020-06-26
(31)【優先権主張番号】10-2018-0068864
(32)【優先日】2018-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ユン、ジュン ホワン
(72)【発明者】
【氏名】シン、ブ ゴン
(72)【発明者】
【氏名】パク、ジョン ホ
(72)【発明者】
【氏名】ハー、ウン キュ
(72)【発明者】
【氏名】チョー、ソ ヨン
(72)【発明者】
【氏名】ユー、イオン ジェ
【審査官】早川 朋一
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-535817(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0294872(US,A1)
【文献】特表2017-530031(JP,A)
【文献】国際公開第2017/173281(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/3205-21/3215
H01L 21/768
H01L 23/52
H01L 23/522-23/532
H01L 21/28-21/288
H01L 21/44-21/445
H01L 29/40-29/51
C23C 14/00-14/58
C23C 26/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1基材の一面上に第1金属、第2金属および第3金属を順次に蒸着して、第1金属層、第2金属層および第3金属層が順次に備えられた多層の金属層を形成するステップと、
第2基材の一面を前記第1基材の一面に対向するように位置させるステップと、
前記第1基材の他面から一面の方向にレーザを照射して、前記第1金属、第2金属および第3金属を含む非晶質層を前記第2基材の一面上に形成するステップと、を含
み、
前記第1金属は銅、イットリウムおよび銀の少なくとも1つを含み、前記第2金属はサマリウムおよびネオジムの少なくとも1つを含み、前記第3金属はマグネシウム、カルシウム、アルミニウムおよびランタンの少なくとも1つを含み、
前記多層の金属層の厚さは、1.5μm以上3.0μm以下である、
非晶質薄膜の製造方法。
【請求項2】
前記金属の蒸着は、スパッタリング、電子ビーム蒸着法、熱蒸着法、プラズマ化学気相蒸着法、および低圧力化学気相蒸着法のうちのいずれか1つの方法によって行われる、請求項1に記載の非晶質薄膜の製造方法。
【請求項3】
前記第1金属層の光反射率は、前記第2金属層および第3金属層の光反射率より小さい、請求項1または2に記載の非晶質薄膜の製造方法。
【請求項4】
前記第1金属層と前記第1基材とからなる積層体の光反射率は、45%以下である、請求項1から3のいずれか一項に記載の非晶質薄膜の製造方法。
【請求項5】
前記第1金属層から前記第3金属層の融点のうち、最も大きい融点の値と最も小さい融点の値との差は、200℃以上500℃以下である、請求項1から4のいずれか一項に記載の非晶質薄膜の製造方法。
【請求項6】
前記レーザは、1W/cm
2以上10W/cm
2以下の出力で照射される、請求項1から
5のいずれか一項に記載の非晶質薄膜の製造方法。
【請求項7】
前記レーザは、1mm/sec以上20mm/sec以下のスキャン速度で照射される、請求項1から
6のいずれか一項に記載の非晶質薄膜の製造方法。
【請求項8】
前記レーザは、10μm以上200μm以下のスポットサイズで照射される、請求項1から
7のいずれか一項に記載の非晶質薄膜の製造方法。
【請求項9】
前記レーザのパルス繰り返し率は、1kHz以上40kHz以下である、請求項1から
8のいずれか一項に記載の非晶質薄膜の製造方法。
【請求項10】
前記非晶質層の厚さは、0.01μm以上3μm以下である、請求項1から
9のいずれか一項に記載の非晶質薄膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ照射により非晶質層を容易に形成できる非晶質薄膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非晶質金属(amorphous metal)とは、理論的に結晶粒界(grain boundary)がない金属を意味する。また、一般的に、非晶質金属は、微細な結晶性を有することはできるが、高い短範囲規則性を有していて、外力が加えられる場合に、欠陥が発生する位置である結晶粒界から破断が発生する現象を減少させることができるという利点がある。すなわち、非晶質金属は、結晶性を有する純金属や合金対比の機械的物性に優れているという面がある。
【0003】
非晶質金属を製造するために、一般的に、3成分以上の様々な金属を組成に合わせて調節して溶湯に溶解させて、バルクタイプの非晶質合金に製造した。ただし、それぞれの金属は溶融温度に差があるため、溶融過程で組成を均一に調節することが難しく、これによって結晶相が部分的に生成される問題がある。生成された結晶相は、欠陥が発生する主要位置で、外力によるクラック(crack)が発生する始発点になり、これによって合金が破断する問題が発生しうる。また、従来の方法で製造された非晶質合金は加工できる厚さ水準が大きくないので、薄膜形態に形成することが難しい問題がある。
【0004】
したがって、均質な組成を有する非晶質薄膜を製造できる技術が必要なのが現状である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、非晶質層を容易に製造できる非晶質薄膜の製造方法を提供しようとする。
【0006】
ただし、本発明が解決しようとする課題は上述した課題に制限されず、言及されていないさらに他の課題は下記の記載から当業者に明確に理解されるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施態様は、第1基材の一面上に第1金属、第2金属および第3金属を順次に蒸着して、第1金属層、第2金属層および第3金属層が順次に備えられた多層の金属層を形成するステップと、第2基材の一面を前記第1基材の一面に対向するように位置させるステップと、前記第1基材の他面から一面の方向にレーザを照射して、前記第1金属、第2金属および第3金属を含む非晶質層を前記第2基材の一面上に形成するステップと、を含む非晶質薄膜の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一実施態様に係る非晶質薄膜の製造方法は、第1基材上に備えられた多層の金属層にレーザを照射する簡単な方法により、第2基材上に非晶質層を形成することができる。
【0009】
本発明の効果は上述した効果に限定されるものではなく、言及されていない効果は本願明細書および添付した図面から当業者に明確に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施態様に係る非晶質薄膜の製造過程を示す図である。
【
図2】本発明の一実施態様に係る第1積層体、第2積層体および第3積層体の光反射率を示す図である。
【
図3】本発明の実施例1および比較例1で製造された非晶質層の表面のSEM(scanning electron microscope)写真である。
【
図4A】本発明の実施例1で製造された非晶質層のXRD(X-ray Diffraction Spectroscopy)分析結果を示す図である。
【
図4B】本発明の実施例2で製造された非晶質層のXRD分析結果を示す図である。
【
図4C】本発明の参考例1で製造された非晶質層のXRD分析結果を示す図である。
【
図4D】本発明の参考例2で製造された非晶質層のXRD分析結果を示す図である。
【
図4E】本発明の実施例1で製造された多層の金属層のXRD分析結果を示す図である。
【
図5】本発明の実施例1で製造された多層の金属層および非晶質層の組成範囲を示す相ダイアグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本願明細書全体において、ある部分がある構成要素を「含む」とする時、これは、特に反対の記載がない限り、他の構成要素を除くのではなく、他の構成要素をさらに包含できることを意味する。
【0012】
本願明細書全体において、ある部材が他の部材の「上に」位置しているとする時、これは、ある部材が他の部材に接している場合のみならず、2つの部材の間にさらに他の部材が存在する場合も含む。
【0013】
本願明細書全体において、使用される程度の用語「~(する)ステップ」または「~のステップ」は、「~のためのステップ」を意味しない。
【0014】
本願明細書全体において、単位「wt%」は、部材の総重量に対して、部材に含まれる成分の重量比率を意味する。
【0015】
本願明細書全体において、単位「at%」は、部材に含まれる総原子数に対して当該原子の百分率を意味する。
【0016】
本願明細書全体において、「光反射率」は、部材に入射する光量に対する、部材で反射した光量の比率を意味する。この時、部材に入射する光量、および部材で反射した光量は分光光度計(Lambda950、PerkinElmer社)などを用いて測定することができる。
【0017】
本願明細書全体において、レーザのスキャン速度は、レーザが照射される部材の表面の一地点から、他地点までレーザの光源が移動する速度を意味する。
【0018】
本願明細書全体において、レーザのスポットサイズは、レーザが照射された領域の一側末端から他側末端までの距離を意味する。
【0019】
本願明細書全体において、レーザのパルス繰り返し率は、レーザの秒あたりの振動数を意味する。
【0020】
以下、本明細書についてさらに詳細に説明する。
【0021】
本発明の一実施態様は、第1基材の一面上に第1金属、第2金属および第3金属を順次に蒸着して、第1金属層、第2金属層および第3金属層が順次に備えられた多層の金属層を形成するステップと、第2基材の一面を前記第1基材の一面に対向するように位置させるステップと、前記第1基材の他面から一面の方向にレーザを照射して、前記第1金属、第2金属および第3金属を含む非晶質層を前記第2基材の一面上に形成するステップと、を含む非晶質薄膜の製造方法を提供する。
【0022】
本発明の一実施態様に係る非晶質薄膜の製造方法は、第1基材上に備えられた多層の金属層にレーザを照射する簡単な方法により、第2基材上に非晶質層を形成することができる。具体的には、結晶性を有する多層の金属層にレーザを照射することにより、第2基材の一面上に非晶質層を容易に転写させることができる。
【0023】
図1は、本発明の一実施態様に係る非晶質薄膜の製造過程を示す図である。具体的には、
図1は、第1基材100の一面上に第1金属、第2金属および第3金属を順次に蒸着させて、第1基材100の一面上に第1金属層210、第2金属層220および第3金属層230が順次に積層された多層の金属層200を形成することを示すものである。また、
図1は、一面上に多層の金属層200が形成された第1基材100に対して、第1基材100の他面から一面の方向にレーザLを照射して、第2基材300の一面上に第1金属、第2金属および第3金属を含む非晶質層400を転写することを示すものである。
【0024】
本発明の一実施態様によれば、前記第1基材の光反射率は、1%以上40%以下であってもよい。具体的には、前記第1基材は、100nm以上1064nm以下の波長のうちいずれか1つの波長値を有する光に対する光反射率が1%以上40%以下であってもよい。より具体的には、前記第1基材の光反射率は、355nmの波長値を有する光に対するものであってもよい。前記第1基材の光反射率は、例えば、355nmの波長値を有する光に対する光反射率が30%であってもよい。前述した範囲の光反射率を有する第1基材を用いることにより、第1基材の他面から一面の方向に照射されるレーザが効果的に前記多層の金属層に到達することができる。
【0025】
本発明の一実施態様によれば、前記第1基材は、前述した光反射率を有するものであれば、当業界で用いられる基材を制限なく使用可能である。具体的には、前記第1基材として、多層の金属層を転写するために使用されるレーザビームの波長帯領域でレーザビームの透過が容易な基材を用いることができる。例えば、前記第1基材として、ガラス基材、ポリエチレンテレフタレート(polyethylene terephthalate、PET)基材、ポリイミド(polyimide、PI)基材などを用いることができるが、前記第1基材の種類を限定するものではない。
【0026】
本発明の一実施態様によれば、前記第1基材の厚さは、0.1mm以上2.0mm以下であってもよい。例えば、0.1mm以上1.0mm以下、1.0mm以上2.0mm以下であってもよい。前記第1基材の厚さを前述した範囲に調節することにより、前記第1基材に照射されるレーザを前記多層の金属層に効果的に誘導することができる。また、前記第1基材の厚さが前述した範囲内の場合、前記第1基材がレーザによって変形することが抑制できる。これによって、レーザ工程効率が低下するのを防止することができる。
【0027】
本発明の一実施態様によれば、前記第2基材として、当業界で用いられる基材を制限なく使用可能である。また、前記非晶質層が備えられた第2基材が使用される用途に応じて、前記第2基材の種類を選択することができる。例えば、前記非晶質層を太陽電池の電極に適用する場合、前記第2基材として、ソーダライムガラス基板、アルミナ、石英のようなセラミック基板、ステンレススチール、クロムスチール、チタン、フェライトスチール、モリブデンなどの金属基板を用いることができる。
【0028】
また、前記第1基材と前記第2基材は、同一の素材で形成されるか、または異なる素材で形成されたものであってもよい。
【0029】
本発明の一実施態様によれば、前記金属の蒸着は、スパッタリング、電子ビーム蒸着法、熱蒸着法、プラズマ化学気相蒸着法、および低圧力化学気相蒸着法のうちのいずれか1つの方法によって行われる。すなわち、第1金属、第2金属および第3金属の蒸着は、スパッタリング、電子ビーム蒸着法、熱蒸着法、プラズマ化学気相蒸着法、および低圧力化学気相蒸着法のうちのいずれか1つの方法によって行われる。具体的には、スパッタリング方法を利用して、前記第1基材の一面上に第1金属、第2金属および第3金属を順次に蒸着することにより、前記第1基材の一面上に均質な組成を有する第1金属層、第2金属層および第3金属層を形成することができる。また、スパッタリング方法を利用する場合、スパッタリングパワー、スパッタリングターゲットと第1基材とのなす角度および距離などを調節して、前記第1基材の一面上に形成される第1金属層、第2金属層および第3金属層の厚さを容易に調節することができる。
【0030】
本発明の一実施態様によれば、前記第1金属層の光反射率は、前記第2金属層および第3金属層の光反射率より小さい。具体的には、100nm以上1064nm以下の波長のうちいずれか1つの波長値を有する光に対して、前記第1金属層の光反射率は、前記第2金属層の光反射率より小さく、前記第3金属層の光反射率より小さい。より具体的には、前記第1金属層、第2金属層および第3金属層の光反射率は、300nm以上450nm以下の波長のうちいずれか1つの波長値を有する光に対するものであってもよく、さらにより具体的には、355nmの波長値を有する光に対するものであってもよい。
【0031】
図1を参照すれば、レーザLは、第1基材100の他面から一面の方向に照射されて、多層の金属層200のうち第1金属層210と最も先に接する。よって、光反射率が最も低い第1金属層を前記第1基材の一面上に隣接して備えることにより、前記多層の金属層から前記非晶質層への転写効率が低下するのを効果的に防止することができる。具体的には、光反射率が最も低い第1金属層にレーザを一番先に到達させることにより、第1金属層に入射するレーザ光が反射する程度を小さくして、レーザ工程効率が低下するのを防止することができる。
【0032】
本発明の一実施態様によれば、前記第1金属層、第2金属層および第3金属層の光反射率は、第1基材に具備させて測定することができる。例えば、第1基材および第1基材上に備えられた第1金属層からなる第1積層体の光反射率を測定することができる。また、第1基材および第1基材上に備えられた第2金属層からなる第2積層体の光反射率を測定し、第1基材および第1基材上に備えられた第3金属層からなる第3積層体の光反射率を測定することができる。
【0033】
本発明の一実施態様によれば、前記第1金属層と前記第1基材とからなる積層体の光反射率は、45%以下であってもよい。具体的には、前記第1金属層と前記第1基材とからなる積層体の光反射率は、1%以上45%以下、5%以上40%以下、10%以上30%以下、15%以上30%以下、35%以上45%以下、35%以上38%以下、38%以上45%以下、または38%であってもよい。また、前記積層体の光反射率は、100nm以上1064nm以下の波長、または300nm以上450nm以下の波長のうちいずれか1つの波長値を有する光に対するものであってもよい。より具体的には、前記積層体の光反射率は、355nmの波長値を有する光に対するものであってもよい。前記第1基材と前記第1金属層とからなる積層体の光反射率が前述した範囲内の場合、前記多層の金属層から前記非晶質層への転写効率が低下するのを効果的に防止することができる。
【0034】
本発明の一実施態様によれば、前記第1金属層から前記第3金属層の融点のうち、最も大きい融点の値と最も小さい融点の値との差は、200℃以上500℃以下であってもよい。具体的には、最も大きい融点を有する金属層と最も小さい融点を有する金属層との間の融点の差は、400℃以上450℃以下、400℃以上435℃以下、435℃以上450℃以下、430℃以上440℃以下、280℃以上450℃以下、300℃以上400℃以下、200℃以上270℃以下、または310℃以上470℃以下であってもよい。前記第1金属層から前記第3金属層の融点のうち、最も大きい融点の値と最も小さい融点の値との差が前述した範囲内の場合、レーザ工程効率を向上させることができる。具体的には、前記最も大きい融点の値と最も小さい融点の値との差を前述した範囲内に調節することにより、前記多層の金属層を転写するためのエネルギー量を減少させ、多層の金属層が気化することを抑制することができる。これによって、前記多層の金属層が急激に気化し凝固することにより、非晶質層に結晶相が形成されるのを効果的に防止することができる。
【0035】
また、前記第1金属層が最も大きい融点を有することができ、前記第3金属層が最も小さい融点を有することができる。
【0036】
本発明の一実施態様によれば、前記第1金属層の融点と前記第2金属層の融点との差は、10℃以上100℃以下であってもよい。例えば、10℃以上13℃以下であってもよい。また、前記第2金属層の融点と前記第3金属層の融点との差は、100℃以上450℃以下であってもよい。例えば、100℃以上422℃以下、または422℃以上450℃以下であってもよい。前記金属層間の融点の差を前述した範囲に調節することにより、レーザ工程効率が低下することを効果的に抑制することができる。
【0037】
また、本発明の一実施態様によれば、前記第3金属層の融点は、500℃以上900℃以下であってもよい。例えば、500℃以上650℃以下、650℃以上900℃以下、600℃以上650℃以下、または650℃以上700℃以下であってもよい。前記第3金属層の融点を前述した範囲に調節することにより、多層の金属層の転写効率を向上させることができる。前記第3金属層の融点が前述した範囲内の場合、レーザが最後に到達する位置に備えられる第3金属層も容易に溶融して、第2基材の一面上に転写される。
【0038】
本発明の一実施態様によれば、前記第1金属、第2金属および第3金属の原子半径は、互いに異なる。また、前記非晶質層の非晶質物性が実現されるように、前記第1金属、第2金属および第3金属の原子半径を考慮して、第1金属、第2金属および第3金属の種類を選択することができる。
【0039】
本発明の一実施態様によれば、前記第3金属は、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、およびランタンのうちの少なくとも1つを含むことができる。また、前記第1金属は、銅、イットリウム、および銀のうちの少なくとも1つを含むことができる。さらに、前記第2金属は、サマリウムおよびネオジムのうちの少なくとも1つを含むことができる。ただし、前記第1金属、第2金属および第3金属の種類を限定するものではなく、非晶質層の非晶質物性を実現できる適切な金属元素を第1金属から第3金属として選択して使用可能である。
【0040】
前記第1金属、第2金属および第3金属の種類を適切に選択することにより、前記第2基材の一面上に非晶質層を形成することができる。例えば、前記第1基材の一面上に銅を含む第1金属層を形成し、第1金属層上にサマリウムを含む第2金属層を形成し、第2金属層上にマグネシウムを含む第3金属層を形成して多層の金属層を製造し、前記多層の金属層にレーザを照射して、第2基材の一面上に非晶質層を形成することができる。
【0041】
本発明の一実施態様によれば、前記多層の金属層の厚さは、1.5μm以上3.0μm以下であってもよい。具体的には、前記多層の金属層の厚さは、1.7μm以上2.8μm以下、2.0μm以上2.5μm以下、1.5μm以上1.8μm以下、または2.1μm以上2.7μm以下であってもよい。前記多層の金属層の厚さを前述した範囲に調節することにより、多層の金属層の転写効率を向上させて非晶質層を容易に形成することができる。また、前記多層の金属層の厚さが前述した範囲内の場合、第2基材の一面上に形成される非晶質層の表面粗さを効果的に減少させることができ、非晶質層の組成を効果的に均質化させることができる。
【0042】
本発明の一実施態様によれば、一面上に多層の金属層が形成された第1基材に対して、第1基材の他面から一面の方向にレーザを照射することにより、第1基材の一面上に備えられた多層の金属層が第2基材の一面上に転写されて非晶質層が形成される。具体的には、前記多層の金属層にレーザが入射する場合、前記多層の金属層が溶融して前記第2基材の一面上に転写され、急速に冷却されることにより、第2基材の一面上に非晶質層が形成される。
【0043】
本発明の一実施態様によれば、前記第1金属層から第3金属層の間の融点の差および/または前記多層の金属層の厚さを調節することにより、前記多層の金属層が転写される過程で気化が多量発生することを抑制することができる。具体的には、気化現象を抑制することにより、前記非晶質層の組成の不均衡が生じて結晶相が形成されるのを防止することができる。また、気化した成分が急速に冷却されることにより、前記第2基材上に粉末(powder)形態で析出して、前記多層の金属層の転写効率が低下することを抑制することができる。
【0044】
本発明の一実施態様によれば、当業界で使用されるレーザを用いることができ、具体的には、パルスレーザを用いることができる。より具体的には、前記レーザとして、波長が355nmのパルスレーザを用いることができる。また、前記レーザの出力は、1W/cm2以上10W/cm2以下であってもよい。具体的には、前記レーザの出力は、1.5W/cm2以上8W/cm2以下、1.5W/cm2以上8W/cm2以下、2W/cm2以上6W/cm2以下、2.5W/cm2以上4.5W/cm2以下、1W/cm2以上2W/cm2以下、または4W/cm2以上8W/cm2以下であってもよい。レーザの出力を前述した範囲に調節することにより、前記多層の金属層に安定的にエネルギーを伝達することができる。
【0045】
本発明の一実施態様によれば、前記レーザは、1mm/sec以上20mm/sec以下のスキャン速度で照射される。具体的には、前記レーザは、2W/cm2の出力で、2mm/sec以上18mm/sec以下、4.5mm/sec以上15mm/sec以下、7mm/sec以上12.5mm/sec以下、1.5mm/sec以上5mm/sec以下、8mm/sec以上13mm/sec以下、または15mm/sec以上19mm/sec以下のスキャン速度で照射される。より具体的には、前記レーザのスキャン速度は、1mm/sec以上5mm/sec以下、1.5mm/sec以上4.5mm/sec以下、2.0mm/sec以上3.5mm/sec以下、1.0mm/sec以上2.5mm/sec以下、2.5mm/sec以上5.0mm/sec、2.5mm/sec以上10mm/sec、2.5mm/sec以上20.0mm/sec、5.0mm/sec以上10mm/sec、5.0mm/sec以上20mm/sec、または3.0mm/sec以上5.0mm/sec以下であってもよい。前記レーザのスキャン速度を前述した範囲に調節することにより、第2基材の一面上に転写される非晶質層の結晶性を効果的に軽減させることができる。
【0046】
本発明の一実施態様によれば、前記レーザのパルス繰り返し率は、1kHz以上40kHz以下であってもよい。具体的には、前記レーザのパルス繰り返し率は、3kHz以上35kHz以下、5kHz以上30kHz以下、10kHz以上20kHz以下、または13kHz以上17kHz以下であってもよい。より具体的には、前記レーザのパルス繰り返し率は、25kHz以上35kHz以下、または30kHz以上40kHz以下であってもよい。例えば、30kHzであってもよい。前記レーザのパルス繰り返し率を前述した範囲に調節することにより、集束されたレーザビームの重畳度が低下してレーザ工程効率が低下することを抑制することができる。また、レーザのパルス繰り返し率が前述した範囲内の場合、第1基材が過剰のエネルギー照射によって劣化するのを防止することができる。
【0047】
本発明の一実施態様によれば、前記レーザは、10μm以上200μm以下のスポットサイズで照射される。具体的には、前記レーザは、20μm以上180μm以下、40μm以上160μm以下、または70μm以上120μm以下であってもよい。より具体的には、前記レーザのスポットサイズは、15μm以上40μm以下、20μm以上30μm以下、または25μm以上30μm以下であってもよい。例えば、25μmであってもよい。前記レーザのスポットサイズを前述した範囲に調節することにより、レーザによって第1基材に熱変形が発生することを抑制することができる。また、前記レーザのスポットサイズが前述した範囲内の場合、レーザスポットの重畳率が低下してレーザ工程が不安定になることを抑制することができる。
【0048】
本発明の一実施態様によれば、前記レーザの出力、スキャン速度およびパルス繰り返し率は互いに連動するもので、前記レーザの出力、スキャン速度およびパルス繰り返し率のうちの少なくとも1つを調節することにより、レーザの工程条件を制御することができる。また、レーザ照射対象によっては、前記レーザの出力、スキャン速度、パルス繰り返し率およびスポットサイズを前述した範囲以外に調節して、レーザ照射を行うこともできる。
【0049】
本発明の一実施態様によれば、前記非晶質層の厚さは、0.01μm以上3μm以下であってもよい。具体的には、前記非晶質層の厚さは、0.01μm以上1.4μm以下、1.4μm以上3.0μm以下、0.05μm以上2.8μm以下、0.1μm以上2.0μm以下、0.5μm以上1.8μm以下、1.0μm以上1.5μm以下、0.2μm以上0.7μm以下、1.2μm以上1.7μm以下、または2.1μm以上2.5μm以下であってもよい。例えば、1.4μmであってもよい。前記非晶質層の厚さは、前記多層の金属層の厚さ、前記レーザの出力などを調節して、制御することができる。
【0050】
したがって、本発明の一実施態様に係る非晶質薄膜の製造方法は、第2基材の一面上に薄膜形態の非晶質金属層を容易に形成することができる。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を具体的に説明するために実施例を挙げて詳細に説明する。しかし、本発明に係る実施例は種々の異なる形態に変形可能であり、本発明の範囲が以下に述べる実施例に限定されると解釈されない。本明細書の実施例は、当業界における平均的な知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0052】
実施例1
第1基材として、厚さが約1mm、355nmの波長値を有する光に対する光反射率が約30%であるガラス基材を用意した。また、第2基材として、厚さが約1mmであるガラス基材を用意した。この後、スパッタリング装置の出力を250W/cm2に設定し、スパッタリング装置のDC1陰極(cathode)で銅ターゲットをスパッタリングして、第1基材の一面上に約0.45μmの厚さの第1金属層を形成した。この後、スパッタリング装置の出力を25W/cm2に設定し、スパッタリング装置のRF陰極でサマリウムをスパッタリングして、第1金属層上に約0.15μmの厚さの第2金属層を形成した。この後、スパッタリング装置の出力を300W/cm2に設定し、スパッタリング装置のDC2陰極でマグネシウムターゲットをスパッタリングして、第2金属層上に約0.90μmの厚さの第3金属層を形成した。これによって、第1基材の一面上に総厚さが約1.5μmである多層の金属層を形成した。
【0053】
第2基材を第3金属層に対向するように位置させた。この後、レーザ出力が2W/cm2、スキャン速度が2.5mm/sec、スポットサイズが25μm、パルス繰り返し率が30kHzに設定された波長355nmのパルスレーザを、第1基材の他面から一面の方向に照射した。これによって、第2基材の一面上に厚さが約1.4μmの非晶質層を形成した。
【0054】
実施例2
レーザのスキャン速度を5mm/secに調節したことを除き、前記実施例1と同様の方法で非晶質層を形成した。
【0055】
比較例1
スパッタリング装置の出力を125W/cm2に設定して銅ターゲットをスパッタリングして、第1基材上に約0.99μmの厚さの第1金属層を形成し、スパッタリング装置の出力を50W/cm2に設定してサマリウムターゲットをスパッタリングして、第1金属層上に約0.33μmの厚さの第2金属層を形成し、スパッタリング装置の出力を250W/cm2に設定してマグネシウムターゲットをスパッタリングして、第2金属層上に約1.98μmの厚さの第3金属層を形成して、第1基材の一面上に総厚さが約3.3μmである多層の金属層を形成したことを除き、前記実施例1と同様の方法で非晶質層を形成した。
【0056】
参考例1
レーザのスキャン速度を20mm/secに調節したことを除き、前記実施例1と同様の方法で非晶質層を形成した。
【0057】
参考例2
レーザのスキャン速度を10mm/secに調節したことを除き、前記実施例1と同様の方法で非晶質層を形成した。
【0058】
物性評価
実施例1で製造された第1金属層、第2金属層および第3金属層の融点を測定し、その結果、第1金属層の融点は約1,085℃であり、第2金属層の融点は約1072℃であり、第3金属層の融点は約650℃であった。
【0059】
第1金属層、第2金属層および第3金属層の光反射率の測定を下記のように行った。厚さが約1mm、355nmの波長値を有する光に対する光反射率が約30%であるガラス基材を用意し、スパッタリング装置の出力を250W/cm2に設定し、スパッタリング装置のDC1陰極で銅ターゲットをスパッタリングして、ガラス基材上に約0.45μmの厚さの第1金属層を形成して、第1積層体を製造した。また、スパッタリング装置の出力を25W/cm2に設定し、スパッタリング装置のRF陰極でサマリウムをスパッタリングして、他のガラス基材上に約0.15μmの厚さの第2金属層を形成して、第2積層体を製造した。さらに、スパッタリング装置の出力を300W/cm2に設定し、スパッタリング装置のDC2陰極でマグネシウムターゲットをスパッタリングして、さらに他のガラス基材上に約0.90μmの厚さの第3金属層を形成して、第3積層体を製造した。
【0060】
この後、分光光度計(Lambda950、PerkinElmer社)を用いて、第1積層体、第2積層体および第3積層体の光反射率を測定した。
【0061】
図2は、本発明の一実施態様に係る第1積層体、第2積層体および第3積層体の光反射率を示す図である。具体的には、
図2は、第1基材と第1金属層とからなる第1積層体、第1基材と第2金属層とからなる第2積層体、および第1基材と第3金属層とからなる第3積層体の光反射率を示すものである。
【0062】
図2を参照すれば、第1基材と第1金属層とからなる第1積層体は、355nmの波長値を有する光に対する光反射率が約38%であることを確認した。また、第1基材と第2金属層とからなる第2積層体は、355nmの波長値を有する光に対する光反射率が約78.5%であり、第1基材と第3金属層とからなる第3積層体は、355nmの波長値を有する光に対する光反射率が約76%であることを確認した。
【0063】
非晶質層の表面観察
本発明の実施例1および比較例1で製造された非晶質層の表面を走査電子顕微鏡(SU8020、HITACHI社)で観察し、SEM写真を撮影した。
【0064】
図3は、本発明の実施例1および比較例1で製造された非晶質層の表面のSEM(scanning electron microscope)写真である。
図3を参照すれば、多層の金属層の厚さを約2.5μmに調節した実施例1の場合、多層の金属層が転写されて形成された非晶質層の表面が緩やかであり、表面上で非晶質金属層が均質な組成で形成されたことを確認した。これに対し、多層の金属層の厚さを約3.3μmに調節した比較例1の場合、非晶質層の表面がやや粗く、表面上に非晶質金属層が均質でないことを確認した。
【0065】
したがって、本発明の一実施態様によれば、多層の金属層の厚さを1.5μm以上3.0μm以下に調節することにより、形成される非晶質層の表面粗さを減少させることができ、均質な組成の非晶質層を形成できることが分かる。
【0066】
非晶質層の物性測定
本発明の実施例1~実施例2および参考例1~参考例2で製造された非晶質層をX線回折分析器(D4 endeavor、Bruker社)を用いてXRD(X-ray Diffraction Spectroscopy)分析した。
【0067】
図4Aは、本発明の実施例1で製造された非晶質層のXRD(X-ray Diffraction Spectroscopy)分析結果を示す図であり、
図4Bは、本発明の実施例2で製造された非晶質層のXRD分析結果を示す図であり、
図4Cは、本発明の参考例1で製造された非晶質層のXRD分析結果を示す図であり、
図4Dは、本発明の参考例2で製造された非晶質層のXRD分析結果を示す図であり、
図4Eは、本発明の実施例1で製造された多層の金属層のXRD分析結果を示す図である。
【0068】
図4Eを参照すれば、本発明の実施例1で製造された多層の金属層は、結晶性を示すピークが存在することを確認した。一方、
図4Aおよび
図4Bを参照すれば、レーザのスキャン速度を2.5mm/secに調節した実施例1およびレーザのスキャン速度を5mm/secに調節した実施例2の場合、結晶性を示すピークの高さが非常に低いことを確認した。すなわち、実施例1および実施例2を通じて、結晶性を有する多層の金属層から非晶質物性を有する非晶質層を製造できることを確認した。
【0069】
これに対し、レーザのスキャン速度を20mm/secに調節した参考例1およびレーザのスキャン速度を10mm/secに調節した参考例2の場合、結晶性を示すピークがやや現れることを確認した。さらに、実施例1の場合、実施例2に比べて結晶性を示すピークがほとんど現れないことを確認した。
【0070】
また、XRD分析による、本発明の実施例1で製造された多層の金属層および実施例1で製造された非晶質層に含まれたマグネシウム、銅とサマリウムの含有量を下記表1に示した。
【表1】
【0071】
図5は、本発明の実施例1で製造された多層の金属層および非晶質層の組成範囲を示した相ダイアグラムである。具体的には、
図5は、マグネシウム、銅、およびサマリウムの3元素の相ダイアグラムを示すもので、マグネシウム、銅、およびサマリウムの含有量による非晶質領域および結晶質領域を示す図である。より具体的には、
図5は、本発明の実施例1で製造された多層の金属層の組成は結晶質領域に含まれ、非晶質層の組成は非晶質領域に含まれることを示す図である。
【0072】
前記表1、
図5を参照すれば、本発明の実施例1で形成された多層の金属層は結晶性を有しているが、第2基材の一面上に形成された非晶質金属層は非晶質形態であることを確認した。
【0073】
したがって、本発明の一実施態様によれば、結晶性を有する多層の金属層にレーザを照射する簡単な方法により、第2基材の一面上に非晶質金属層を形成できることが分かる。また、前記多層の金属層に照射するレーザのスキャン速度を調節することにより、第2基材の一面上に転写される非晶質層の結晶性を効果的に低減させることができることが分かる。
【符号の説明】
【0074】
100:第1基材
200:多層の金属層
210:第1金属層
220:第2金属層
230:第3金属層
300:第2基材
400:非晶質層