(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-23
(45)【発行日】2022-05-31
(54)【発明の名称】液体吐出装置、画像形成方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20220524BHJP
【FI】
B41J2/01 127
B41J2/01 305
B41J2/01 401
B41J2/01 451
(21)【出願番号】P 2017191846
(22)【出願日】2017-09-29
【審査請求日】2020-07-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】中井 順二
(72)【発明者】
【氏名】山田 征史
【審査官】小野 郁磨
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-132157(JP,A)
【文献】特開2003-326779(JP,A)
【文献】特開2017-140782(JP,A)
【文献】特開2016-172398(JP,A)
【文献】国際公開第2011/024464(WO,A1)
【文献】特開2006-205506(JP,A)
【文献】特開平11-115175(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0173975(US,A1)
【文献】特開2004-314544(JP,A)
【文献】国際公開第2006/087949(WO,A1)
【文献】特開2007-152740(JP,A)
【文献】特開2017-127994(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体の所定距離の移動と該記録媒体の停止を繰り返す搬送手段と、
前記記録媒体に液体を吐出する吐出手段と、
前記吐出手段によって前記液体が吐出された記録媒体を裏面側からガイドし、前記記録媒体の液体が吐出された面が裏面よりも長くなるように搬送方向において凸状に湾曲している搬送ガイドと、
前記搬送ガイド上の前記記録媒体の液体が吐出された面に電磁波を照射し、
湾曲した前記搬送ガイドに沿って並んでいる複数の照射手段を有する加熱部と、
前記
複数の照射手段が照射する照射動作を制御する照射制御手段と、を備え、
前記加熱部は、搬送される前記記録媒体と近接して対向するように配置され、前記
複数の照射手段が、前記記録媒体側が開口した筐体に覆われていることで、前記
複数の照射手段によって前記電磁波が照射される領域は前記筐体の内側に制限され、
前記照射制御手段は、
前記記録媒体の停止時の照射量を移動時の照射量よりも多くし、
前記記録媒体上の前記電磁波が照射される領域が、前記所定距離の整数倍となるように設定
し、
前記複数の照射手段のそれぞれに対し、電磁波照射のON/OFFを制御することで、前記記録媒体上の前記電磁波が照射される領域を調整できる
ことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項2】
前記照射制御手段は、前記複数の照射手段が照射する電磁波の波長を同じ又は異なるように、それぞれ制御する
請求項
1に記載の液体吐出装置。
【請求項3】
前記吐出手段によって前記記録媒体に液体を吐出する際に、前記記録媒体を裏面側からガイドするプラテンをさらに備え、
前記搬送ガイドは前記プラテンから連接して設けられている
請求項
1又は
2に記載の液体吐出装置。
【請求項4】
前記吐出手段を前記記録媒体の搬送方向と直交する主走査方向に移動させる主走査部を備え、
前記吐出手段は、前記搬送方向に複数のノズルが配列されたノズル列を有しており、
前記吐出手段は前記主走査方向に移動しながら前記液体を吐出し、
前記主走査方向の移動による吐出動作をn回繰り返すことで画像を完成させるマルチパス印字モードにおいて、前記所定距離は、1/nノズル列の長さに相当する
請求項1乃至
3のいずれか一項に記載の液体吐出装置。
【請求項5】
前記電磁波の照射条件の入力を受け付ける受付手段を有し、
前記照射制御手段は、前記受付手段によって受け付けられた設定に応じて、前記
複数の照射手段による電磁波の照射時間、および照射する電磁波の波長を制御する
請求項
4に記載の液体吐出装置。
【請求項6】
前記電磁波の照射領域を通過する記録媒体の温度を検出する検出手段を有し、前記検出手段によって検出された温度が、所定の温度に満たない場合に、前記照射制御手段は、照射する電磁波の強度が大きくなるように制御する
請求項1乃至
5のいずれか一項に記載の液体吐出装置。
【請求項7】
印字モードに応じて、前記照射制御手段は、照射する電磁波の強度を制御する
請求項1乃至
6のいずれか一項に記載の液体吐出装置。
【請求項8】
画像形成装置における画像形成方法であって、
前記画像形成装置は、搬送手段と、吐出手段と、
記録媒体を裏面側からガイドし、前記記録媒体の液体が吐出された面が裏面よりも長くなるように搬送方向において凸状に湾曲している搬送ガイドと、前期記録媒体側が開口した筐体に覆われており
、湾曲した前記搬送ガイドに沿って並んでいる複数の照射手段と、を備え、
前記搬送手段で、前期記録媒体の所定距離の移動と該記録媒体の停止を繰り返すように搬送する間欠搬送ステップと、
前記吐出手段で、前記記録媒体に液体を吐出する吐出ステップと、
前記
複数の照射手段で、前記吐出ステップによって前記液体が吐出された、
前記搬送ガイド上の記録媒体に、電磁波を照射する照射ステップと、を有し、
前記照射ステップでは、
前記
複数の照射手段によって前記電磁波が照射される領域が前記筐体の内側に制限されるとともに、前記電磁波が照射される領域が、前記所定距離の整数倍に設定され、
前記記録媒体の停止時の照射量が移動時の照射量よりも多くなるように照射さ
れ、
前記複数の照射手段において、電磁波照射のON/OFFがそれぞれ制御されることで、前記記録媒体上の前記電磁波が照射される領域が調整される
ことを特徴とする画像形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出装置、画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インクジェット記録方式において、例えば、アクリル、ポリエステル、または塩化ビニルなどの非浸透性の記録媒体、あるいはコート紙などの緩浸透性の記録媒体を用いて印刷する場合に、記録媒体に着弾したインクを乾燥する工程が設けられることがある。インクを温風で乾燥する場合、送風する空気の温度以上に記録媒体が加熱されないため、温度制御しやすいが、熱伝導によりインクを表面から乾燥させるため、インクの表面にコート膜が発生して乾燥速度が低減する。また、温風乾燥では媒体として空気を使用するため、インクに異物が付着しやすい。
【0003】
インクの乾燥に電磁波の一種である赤外線(IR: Infrared)を用いる場合、インクの表面にコート膜が発生しても、コート膜の内部まで赤外線が透過する。透過した赤外線は、電磁波エネルギーとしてインクに共振吸収され、インク中の分子または原子を振動させることで摩擦熱を発生させる。このため、赤外線乾燥は、乾燥速度が著しく高い。ところが、赤外線乾燥によると、記録媒体の温度を制御することが難しく、過度な加熱により記録媒体を熱膨張させ、コックリングと呼ばれる波打ちを発生させやすい。
【0004】
特許文献1には、用紙搬送中は用紙温度測定手段で測定された前記用紙の温度に従って用紙加熱手段を制御し、用紙搬送中以外は圧胴温度測定手段で測定された圧胴の温度に従って用紙加熱手段を制御する画像記録装置が開示されている。特許文献1によると、用紙表面温度を測定することで用紙の過剰乾燥を防ぎながら、用紙種類に応じて最適な乾燥制御を行うことができるとしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
シリアル型の液体吐出装置などでは、記録媒体を所定幅ごと間欠搬送しながら、記録媒体に液体を吐出する動作を繰り返して画像を形成する。この場合、電磁波により乾燥すると、記録媒体のある位置は、移動しながら電磁波の照射領域を通過し、他のある位置では電磁波の照射領域で停止するため、記録媒体における位置により電磁波の照射量に差が生じ、乾燥量に差が生じるという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明の液体吐出装置は、記録媒体の所定距離の移動と該記録媒体の停止を繰り返す搬送手段と、前記記録媒体に液体を吐出する吐出手段と、前記吐出手段によって前記液体が吐出された記録媒体を裏面側からガイドし、前記記録媒体の液体が吐出された面が裏面よりも長くなるように搬送方向において凸状に湾曲している搬送ガイドと、前記搬送ガイド上の前記記録媒体の液体が吐出された面に電磁波を照射し、湾曲した前記搬送ガイドに沿って並んでいる複数の照射手段を有する加熱部と、前記複数の照射手段が照射する照射動作を制御する照射制御手段と、を備え、前記加熱部は、搬送される前記記録媒体と近接して対向するように配置され、前記複数の照射手段が、前記記録媒体側が開口した筐体に覆われていることで、前記複数の照射手段によって前記電磁波が照射される領域は前記筐体の内側に制限され、前記照射制御手段は、前記記録媒体の停止時の照射量を移動時の照射量よりも多くし、前記記録媒体上の前記電磁波が照射される領域が、前記所定距離の整数倍となるように設定し、前記複数の照射手段のそれぞれに対し、電磁波照射のON/OFFを制御することで、前記記録媒体上の前記電磁波が照射される領域を調整できることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
間欠搬送される液体吐出後の記録媒体に対し、電磁波を照射して乾燥させるときに、記録媒体における位置によって乾燥量に差が生じることを防ぐことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係る液体吐出装置を示す概略図である。
【
図2】
図1の液体吐出装置に設けられたヒータを主走査方向側から見た側面図である。
【
図3】一実施形態に係る液体吐出装置の制御部のハードウェア構成図である。
【
図4】一実施形態に係る液体吐出装置の機能ブロック図である。
【
図5】画像を形成する処理の一例を示すフロー図である。
【
図6】画像形成装置における各ハードウェアによる出力を示すタイミングチャートの一例である。
【
図7】時間と記録媒体の温度の関係の一例を示すグラフである。
【
図8】記録媒体の搬送処理の一例を示すフロー図である。
【
図9】マルチパス方式で印刷した際の印刷状態の一例を示す上面図である。
【
図10】
図9に示す印刷状態の断面構造を示す側視図である。
【
図11】インク打込量と、生産性との相関を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について具体的に説明する。なお、以下の説明において、好適な手段、処理などが記載されているが、本発明は、以下の説明によって限定されるものではない。また、実施形態で説明される構成の全てが本発明の必須の構成要件ではない。
【0010】
<液体吐出装置>
本願において、「液体吐出装置」は、液体吐出ヘッドまたは液体吐出ユニットを備え、液体吐出ヘッドを駆動させて、液体を吐出させる装置である。液体吐出装置には、液体が付着可能なものに対して液体を吐出することが可能な装置だけでなく、液体を気中や液中に向けて吐出する装置も含まれる。この「液体吐出装置」は、液体が付着可能なものの給送、搬送、排紙に係わる手段、その他、前処理装置、後処理装置なども含むことができる。
【0011】
上記「液体が付着可能なもの」の材質は、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックスなど液体が一時的でも付着可能であればよい。
【0012】
「液体吐出ユニット」とは、液体吐出ヘッドに機能部品、機構が一体化したものであり、液体の吐出に関連する部品の集合体である。例えば、「液体吐出ユニット」は、ヘッドタンク、キャリッジ、供給機構、維持回復機構、主走査移動機構の構成の少なくとも一つを液体吐出ヘッドと組み合わせたものなどが含まれる。
【0013】
ここで、一体化とは、例えば、液体吐出ヘッドと機能部品、機構が、締結、接着、係合などで互いに固定されているもの、一方が他方に対して移動可能に保持されているものを含む。また、液体吐出ヘッドと、機能部品、機構が互いに着脱可能に構成されていても良い。
【0014】
例えば、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドとヘッドタンクが一体化されているものがある。また、チューブなどで互いに接続されて、液体吐出ヘッドとヘッドタンクが一体化されているものがある。ここで、これらの液体吐出ユニットのヘッドタンクと液体吐出ヘッドとの間にフィルタを含むユニットを追加することもできる。また、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドとキャリッジが一体化されているものがある。
【0015】
また、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドを走査移動機構の一部を構成するガイド部材に移動可能に保持させて、液体吐出ヘッドと走査移動機構が一体化されているものがある。また、液体吐出ヘッドとキャリッジと主走査移動機構が一体化されているものがある。
【0016】
また、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドが取り付けられたキャリッジに、維持回復機構の一部であるキャップ部材を固定させて、液体吐出ヘッドとキャリッジと維持回復機構が一体化されているものがある。
【0017】
また、液体吐出ユニットとして、ヘッドタンク若しくは流路部品が取付けられた液体吐出ヘッドにチューブが接続されて、液体吐出ヘッドと供給機構が一体化されているものがある。このチューブを介して、液体貯留源の液体が液体吐出ヘッドに供給される。主走査移動機構は、ガイド部材単体も含むものとする。また、供給機構は、チューブ単体、装填部単体も含むものする。
【0018】
また、本願の用語における、画像形成、記録、印字、印写、印刷、造形などはいずれも同義語とする。
【0019】
図1は、本発明の一実施形態に係る液体吐出装置を示す概略図である。
図1に示す液体吐出装置1は、シリアル型のインクジェット記録装置である。
【0020】
液体吐出装置1は、液体吐出ヘッド20と、エンコーダセンサ21と、キャリッジ22と、タイミングベルト23と、駆動プーリ24と、従動プーリ25と、主走査モータ26と、プラテン27と、エンコーダシート28と、主ガイドロッド29と、紙搬送部30と、ヒータHと、を有する。
【0021】
主ガイドロッド29は、キャリッジ22を、主走査方向(
図1中の矢印A方向)に往復移動可能に支持する。駆動プーリ24および従動プーリ25は、主走査方向に所定の間隔で設置される。タイミングベルト23は、無端ベルト状であり、駆動プーリ24と従動プーリ25との間に張り渡される。
【0022】
キャリッジ22の移動範囲に亘って、タイミングベルト23に対して平行にエンコーダシート28が配設されている。キャリッジ22には、エンコーダシート28を読み取るエンコーダセンサ21が搭載されている。主走査モータ26は、エンコーダセンサ21によるエンコーダシート28の読み取り結果に基づいて、駆動プーリ24を回転駆動する。これにより、タイミングベルト23は回転移動する。キャリッジ22は、タイミングベルト23に連結しており、タイミングベルト23が回転移動することで、主走査方向に往復移動する。
【0023】
紙搬送部30は、記録媒体Pを給紙する給紙装置30F、および記録媒体Pを巻き取る巻取装置30Rを有する。記録媒体Pは、紙搬送部30の動作により、プラテン27上を主走査方向と直交する副走査方向(
図1中の矢印B方向)に間欠搬送される。
図1では、記録媒体Pがロール紙である場合について示している。ただし、記録媒体Pは、ロール紙などの連続紙に限定されない。
【0024】
液体吐出ヘッド20は、副走査方向に複数のノズルが配列されたノズル列を有する。液体吐出ヘッド20は、ノズルの吐出面(ノズル面)が、記録媒体P側を向くようにキャリッジ22に搭載されている。液体吐出ヘッド20は、副走査方向に間欠搬送される記録媒体Pに対し、主走査方向に移動しながら、液体の一例としてのインクを吐出することで、記録媒体Pに画像を形成する。液体吐出ヘッド20は、3種類の容量に対応する駆動周波数で駆動されることで、各ノズルから大滴、中滴、または小滴のインク滴を打ち分ける。
【0025】
液体吐出装置1は、例えば、4色×4ヘッドなど、複数の液体吐出ヘッド20を備える。この場合、高い解像度の画像を高速で形成するため、液体吐出ヘッド20ヘッドのノズル列のノズルは、他のノズル列のノズルの副走査方向の位置と間隔をずらして配置されてもよい。
【0026】
液体吐出ヘッド20において、1つのノズル列の各ノズルから吐出されるインクは同色である。例えば、液体吐出ヘッド20は、それぞれ、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)のインクを吐出するための4つのノズル列を有する。
【0027】
さらに、液体吐出装置1における記録媒体Pの搬送経路には、記録媒体Pを加熱するヒータHが設けられている。
図2は、
図1の液体吐出装置1に設けられたヒータHを主走査方向側から見た側面図である。
【0028】
液体吐出装置1の搬送経路には、画像形成部に搬送される記録媒体Pを加熱する第1ヒータH1、画像形成部であるプラテン27上に搬送された記録媒体Pを加熱する第2ヒータH2、および画像形成部を通過した記録媒体Pを加熱するための第3ヒータH3が設けられている。
【0029】
第1ヒータH1および第3ヒータH3は、アルミ箔コードヒータであり、搬送経路の搬送ガイド板の裏面に貼り付けられている。第2ヒータH2は、コードヒータであり、アルミ材であるプラテン27の中に埋め込まれている。第1ヒータH1、第2ヒータH2、および第3ヒータH3は、記録媒体Pの印刷面、すなわちインクが吐出される面に対し裏面から加熱する。
【0030】
また、第3ヒータH3の一部に対向して、赤外線(IR)加熱式のヒータとして第4ヒータH4が設けられている。第4ヒータH4は、記録媒体Pの印刷面、すなわちインクが吐出された面を加熱する。第4ヒータH4は、例えば、直列に接続された赤外線ヒータIR1,IR2,IR3,IR4を複数有してなる。赤外線ヒータに対し、記録媒体Pの搬送経路と反対側には、赤外線ヒータにより照射される赤外線を反射するリフレクタRFが設けられている。また、赤外線ヒータおよびリフレクタRFは、断熱材を含む筐体に覆われている。筐体における搬送経路側は開口となっている。これにより、第4ヒータH4による赤外線の照射領域CAは、搬送経路の所定幅に制限される。さらに、筐体には、筐体の内部に吸気するためのファンFが設けられている。
【0031】
画像形成時に着弾したインクは、加熱された記録媒体P上で一次乾燥される。一次乾燥により、インクの水分が蒸発し、顔料が凝集するので、ブリーディング(色境界にじみ)、ビーディング(ドット合一による濃度ムラ)が低減する。記録媒体Pに着弾したインクは、第3ヒータH3および第4ヒータH4にて二次乾燥される。一次乾燥は、例えば、30℃乃至60℃で処理され、二次乾燥は、例えば、70℃乃至90℃で処理される。
【0032】
なお、熱損失を少なくするため、第1ヒータH1、第2ヒータH2、第3ヒータH3をさらに細かく分割し、個々のヒータHの温度を制御してもよい。
【0033】
<ハードウェア構成>
図3は、一実施形態に係る液体吐出装置の制御部のハードウェア構成図である。液体吐出装置1の制御部100は、CPU101(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)102、RAM(Random Access Memory)103、不揮発性メモリ104、操作部108、ネットワークI/F109(Interface)、主走査ドライバ111、液体吐出ヘッドドライバ112、および副走査ドライバ113を備えている。これら各部は、バスラインによって
図3に示すように電気的に接続されている。
【0034】
CPU101は、液体吐出装置1の全体を制御するための処理装置である。ROM102は、液体吐出装置1のプログラムおよびシステムデータなどを記憶する。RAM103は、揮発性のメモリであって、ROM102に記憶されたプログラムが展開され、CPU101のワークエリアとして用いられる。不揮発性メモリ104は、データの読み出しおよび書き込みが可能な不揮発性のメモリであって、例えば、HD(Hard Disk)、SSD(Solid State Drive)、またはNVRAM(Non-volatile RAM)である。
【0035】
操作部108は、例えば、タッチパネル機能を搭載した液晶表示装置または有機EL(Electro Luminescence)表示装置、もしくはキーボードなどからなる操作パネルである。ネットワークI/F109は、外部の情報装置と通信するためのインタフェースである。
【0036】
主走査ドライバ111は、CPU101からの命令に基づいて主走査モータ26へ信号を送信することで、キャリッジ22の主走査方向への移動を制御するための回路である。液体吐出ヘッドドライバ112は、液体吐出ヘッド20へ信号を送信することで、液体吐出ヘッド20の駆動を制御するための回路である。CPU101は、エンコーダセンサ21によって出力される、キャリッジ22の主走査方向における位置を示すデータを入力する。副走査ドライバ57は、CPU101からの命令に基づいて紙搬送部59へ信号を送信することで、記録媒体Pの副走査方向への搬送を制御するため回路である。各ヒータHには、温度検出装置が設置されている。CPU101は、温度検出素子によって出力される温度のデータを入力する。CPU101は、ヒータHへ信号を送信することで、ヒータHのONまたはOFF、もしくは点灯率を制御する。なお、主走査ドライバ111、液体吐出ヘッドドライバ112、および副走査ドライバ57は、それぞれプログラムに従ったCPU101の処理により実行されてもよい。
【0037】
<機能構成>
図4は、一実施形態に係る液体吐出装置の機能ブロック図である。液体吐出装置1は、通信制御部201と、ヒータ制御部202と、主走査部203と、吐出制御部204と、副走査部205と、を有する。これら各部は
図3に示されている各構成要素のいずれかがROM102に記憶されているプログラムに従ったCPU101からの命令によって動作することで実現される機能である。液体吐出装置1は、ROM102または不揮発性メモリ104によって構築される記憶部2000を有している。
【0038】
通信制御部201は、CPU101からの命令、およびネットワークI/F109の処理によって実現され、外部の情報処理装置によって送信された情報を受信する。
【0039】
ヒータ制御部202は、CPU101からの命令によって実現され、ヒータHの温度検出素子から送られてくる検出データに基づいて、ヒータHによる加熱温度を制御する。
【0040】
主走査部203は、CPU101からの命令、および主走査ドライバ111の処理によって実現され、液体吐出ヘッド20の主走査方向の移動を制御する。
【0041】
吐出制御部204は、CPU101からの命令、および液体吐出ヘッドドライバ112の処理によって実現され、液体吐出ヘッド20によるインクの吐出を制御する。
【0042】
副走査部205は、CPU101からの命令、および副走査ドライバ113の処理によって実現され、記録媒体Pの副走査方向への搬送を制御する。
【0043】
<<インク>>
続いて、液体吐出装置1により吐出される液体として、インク、前処理液、および後処理液について説明する。インクは、例えば、有機溶剤、水、色材、樹脂、添加剤などを含有する。
【0044】
<有機溶剤>
本発明に使用する有機溶剤としては特に制限されず、水溶性有機溶剤を用いることができる。例えば、多価アルコール類、多価アルコールアルキルエーテル類や多価アルコールアリールエーテル類などのエーテル類、含窒素複素環化合物、アミド類、アミン類、含硫黄化合物類が挙げられる。
【0045】
<水>
インクにおける水の含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、インクの乾燥性及び吐出信頼性の点から、10質量%以上90質量%以下が好ましく、20質量%~60質量%がより好ましい。
【0046】
<色材>
色材としては特に限定されず、顔料、染料を使用可能である。顔料としては、無機顔料又は有機顔料を使用することができる。これらは、1種単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。また、混晶を使用しても良い。顔料としては、例えば、ブラック顔料、イエロー顔料、マゼンダ顔料、シアン顔料、白色顔料、緑色顔料、橙色顔料、金色や銀色などの光沢色顔料やメタリック顔料などを用いることができる。
【0047】
<樹脂>
インク中に含有する樹脂の種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、ブタジエン系樹脂、スチレン-ブタジエン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、アクリルスチレン系樹脂、アクリルシリコーン系樹脂などが挙げられる。これらの樹脂からなる樹脂粒子を用いても良い。樹脂粒子を、水を分散媒として分散した樹脂エマルションの状態で、色材や有機溶剤などの材料と混合してインクを得ることが可能である。前記樹脂粒子としては、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。また、これらは、1種を単独で用いても、2種類以上の樹脂粒子を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
<添加剤>
インクには、必要に応じて、界面活性剤、消泡剤、防腐防黴剤、防錆剤、pH調整剤等を加えても良い。
【0049】
<前処理液>
前処理液は、凝集剤、有機溶剤、水を含有し、必要に応じて界面活性剤、消泡剤、pH調整剤、防腐防黴剤、防錆剤等を含有しても良い。有機溶剤、界面活性剤、消泡剤、pH調整剤、防腐防黴剤、防錆剤は、インクに用いる材料と同様の材料を使用でき、その他、公知の処理液に用いられる材料を使用できる。凝集剤の種類は特に限定されず、水溶性カチオンポリマー、酸、多価金属塩等が挙げられる。
【0050】
<後処理液>
後処理液は、透明な層を形成することが可能であれば、特に限定されない。後処理液は、有機溶剤、水、樹脂、界面活性剤、消泡剤、pH調整剤、防腐防黴剤、防錆剤等、必要に応じて選択し、混合して得られる。また、後処理液は、記録媒体に形成された記録領域の全域に塗布しても良いし、インク像が形成された領域のみに塗布しても良い。
【0051】
<記録媒体>
記録媒体としては特に制限はなく、普通紙、光沢紙、特殊紙、布などを用いることもできるが、非浸透性基材を用いても良好な画像形成が可能である。非浸透性基材とは、水透過性、吸収性が低い表面を有する基材であり、内部に多数の空洞があっても外部に開口していない材質も含まれ、より定量的には、ブリストー(Bristow)法において接触開始から30msec1/2までの水吸収量が10mL/m2以下である基材をいう。
【0052】
<処理>
続いて、液体吐出装置1における処理について説明する。まず、液体吐出装置1のヒータHによる加熱温度の設定方法について説明する。
【0053】
一実施形態において、各ヒータH(第1ヒータH1、第2ヒータH2、第3ヒータH3、および第4ヒータH4)による加熱温度は、外部の情報処理装置においてジョブ管理用ソフトウェアを用いて設定される。この場合、ヒータHによる加熱温度の設定は、通信制御部201を介して、外部の情報処理装置から液体吐出装置1に入力される。また、液体吐出装置1の操作部108は、ユーザから直接、ヒータHの加熱温度の設定の入力を受付けてもよい。この場合、液体吐出装置1は、直接入力された設定を、外部の情報処理装置から入力された設定に対して優先させてもよい。
【0054】
ヒータHの設定には、ヒータHごとにONするかOFFするかを示す情報、ヒータHごとの設定温度が含まれる。ヒータHの設定の初期値は、OFFであってもよい。ヒータHの設定がONである場合、受付可能な温度範囲は、例えば、20℃から80℃までの1℃単位の温度である。第4ヒータH4の設定において、受付可能な温度範囲は、例えば、第3ヒータH3で設定された温度に対し0℃から25℃高い温度、好ましくは0℃から20℃高い温度である。受け付けられたヒータHの設定は、ヒータ制御部202によって記憶部2000に記憶される。なお、記憶部2000は、不揮発性メモリ104によって構築されていてもよく、この場合、設定は、液体吐出装置1の電源が遮断された後も保持される。
【0055】
図5は、画像を形成する処理の一例を示すフロー図である。
図6は、液体吐出装置1における各ハードウェアによる出力を示すタイミングチャートの一例である。続いて、画像を形成する処理について説明する。
【0056】
液体吐出装置1がスリープモードから復帰すると、ヒータ制御部202は、第1ヒータH1、第2ヒータH2、および第3ヒータH3をONにして、各ヒータHによる加熱温度が、記憶部2000に記憶された設定温度となるように制御する(ステップS11)。
【0057】
ヒータ制御部202は、各ヒータHのONおよびOFF、もしくは点灯率(DUTY)を、例えば、100msec、1000msecなどの所定時間単位(制御周期)で切り替える。ONおよびOFFは、ソフトスタートまたはストップにより切替えられてもよい。
【0058】
各ヒータHの出力部には、サーミスタ(thermistor)またはサーモパイル(thermopile, 熱電堆)などの温度検出素子が設けられている。サーモパイルは熱エネルギーを電気エネルギーに変換する電気部品である。サーミスタは、温度変化に対して電気抵抗の変化の大きい抵抗体である。温度検出素子のフィードバックがAD変換された出力を、検出データとしてヒータ制御部202が取得する周期を検出周期と表す。ヒータ制御部202が複数の検出データを演算処理し、温度制御用のデータに変換したものを「制御使用温度」と表す。制御使用温度を確定する周期を「温度検知周期」と表す。
【0059】
温度検出素子として、サーミスタを用いる場合の検出周期は、例えば、100msecであり、サーモパイルを用いる場合の検出周期は、例えば、10msecである。ヒータ制御部202は、例えば、10点の検出データのうち、上下4点をカットし残り6点を平均して制御使用温度とする。この場合、サーミスタを用いる場合の温度検知周期は、1000msecであり、サーモパイルを用いる場合の温度検知周期は、100msecである。
【0060】
ヒータ制御部202は、制御使用温度よりも設定温度が高ければ、ヒータHをONに制御し、制御使用温度よりも設定温度が低ければ、ヒータHをOFFに制御する。
【0061】
ヒータ制御部202は、点灯率(DUTY)によりヒータHの加熱温度を制御してもよい。この場合、ヒータ制御部202は、設定温度に対する上位マージンおよび下位マージンを設定する。第1ヒータH1および第3ヒータH3における上位マージンは、例えば、2℃、下位マージンは、例えば0℃である。第2ヒータH2および第4ヒータH4における上位マージンは、例えば、0.5℃、下位マージンは、例えば、0.5℃である。上位マージンおよび下位マージンが0.5℃の場合、設定温度が70℃なら、サーミスタの検出温度が69.5になるまでヒータがONに制御され、70.5℃を超えるとヒータがOFFに制御され、再び69.4℃まで下がると、ヒータがONに制御される。
【0062】
ヒータ制御部202は、現在温度(制御使用温度)と設定温度を比較し、以下のいずれかの式に応じて、点灯率(DUTY)を決定する。
・制御使用温度≧(設定温度+上位マージン):DUTY=0%
・制御使用温度≦(設定温度-下位マージン):DUTY=100%
・(目標温度-下位マージン)<現在温度<(目標温度+上位マージン):前回の決定で算出したDUTYを継続使用
なお、制御開始直後および他制御から切り替える時は、ヒータ制御部202は、Duty=0%に設定する。
【0063】
図7は、上記の温度制御を実行した場合の、時間と記録媒体の温度との関係の一例を示すグラフである。グラフの下には、制御周期ごとのヒータHの点灯率(DUTY)が示されている。
【0064】
なお、ヒータHの加熱温度を制御方法は上記に限定されず、例えば、ヒータ制御部202は、液体吐出装置1のハードウェア間で送信される信号の入力電圧を検出し、入力電圧に対応する液体吐出装置1の状態に応じて、ヒータHの排他制御を実行してもよい。
【0065】
液体吐出装置1がスリープモードから復帰した後の任意のタイミングで、外部の情報処理装置は、画像データを含む印刷要求を液体吐出装置1へ送信する。液体吐出装置1の通信制御部201は、外部の情報処理装置によって送信された印刷要求を受信する(ステップS12)。
【0066】
第1ヒータH1、第2ヒータH2、および第3ヒータH3による加熱温度が設定温度に到達したタイミング(T1)で、液体吐出装置1は、印刷初期動作を開始する(ステップS13)。印刷初期動作は、印刷処理と、記録媒体Pの搬送処理と、第4ヒータH4の予備加熱と、を含む。
【0067】
初期動作における1パス目の印刷処理はタイミング(T1)をトリガーとして実行され、2パス目以降の印刷処理は記録媒体Pの副走査方向の搬送の停止をトリガーとして実行される。ただし、液体吐出ヘッド20のメンテナンスなどを実行される場合などは、例外的に、あらかじめ定められたタイミングで印刷処理が再開される。印刷処理には、主走査部203により、液体吐出ヘッド20を主走査方向に搬送させる液体吐出ヘッド20の搬送処理と、液体吐出ヘッド20が主走査方向に搬送されている間に、吐出制御部204により、ノズル列のノズルからインクを吐出する吐出処理と、が含まれる。
【0068】
図8は、記録媒体Pの搬送処理の一例を示すフロー図である。
図8を用いて、初期動作における記録媒体Pの搬送処理について説明する。副走査部205は、液体吐出ヘッド20の主走査方向への移動の停止をトリガーとして、巻取装置30Rを継続運転する(ステップS21)。給紙装置30Fを停止した状態で巻取装置30Rを継続運転することで、記録媒体Pにテンションが加わる。プラテン27に記録媒体Pを吸引するファンが設けられている場合、副走査部205は、ファンを継続運転する。続いて、副走査部205は、給紙装置30Fを継続運転する(ステップS22)。これにより、記録媒体Pは、副走査方向へ搬送される
【0069】
副走査部205は、記録媒体Pが、所定の距離としてバンド幅分、搬送されるまで、待機する(ステップS23のNO)。
【0070】
記録媒体Pがバンド幅分、搬送されると(ステップS23のYES)、副走査部205は、給紙装置30Fにおける給紙ローラの方向を巻き戻し方向に逆転させる(ステップS24)
【0071】
続いて、副走査部205は、巻取装置30Rの運転を停止させる(ステップS25)。これにより、テンションがかかった状態で、記録媒体Pの搬送は停止する。
【0072】
上記の記録媒体Pの搬送処理が実行されるたび、記録媒体Pは、バンド幅分、副走査方向に間欠搬送される。そして、印刷処理と、記録媒体Pの搬送処理と、順に繰り返すことで、記録媒体Pにバンド幅の領域の画像が形成される。
図9は、マルチパス方式で印刷した際の印刷状態の一例を示す上面図である。
図10は、
図9に示す印刷状態の断面構造を示す側視図である。
図10における、矩形はインクの付着物を示し、矩形内の数字は、何パス目に形成された付着物であるかを示す。なお、
図9は、4パスで画像を完成させる印字モードにおいて、記録媒体Pに対し、印刷処理を5回繰り返したときに形成される画像を示す。
【0073】
1パス目の印刷処理において、主走査部203が液体吐出ヘッド20を主走査方向に移動させている間に、吐出制御部204は液体吐出ヘッド20のノズル列のうち、搬送経路に対し上流側から1/4のノズルからインク滴を吐出させる。これにより、記録媒体Pには、ノズル列の1/4の長さに相当するバンド幅BWのバンド301が形成される。1パス目の印刷処理後に、副走査部205は、記録媒体Pを、バンド幅BW分、副走査方向に搬送させる。
【0074】
2,3パス目の印刷処理では、液体吐出ヘッド20のノズル列のうち、搬送経路に対し上流側から2/4または3/4のノズルからインク滴を吐出し、4パス目以降の印刷処理では、液体吐出ヘッド20のノズル列の全ノズルからインク滴を吐出する点を除き、1パス目の印刷処理と同様の処理が実行される。5パス目の印刷処理が完了すると、記録媒体には、バンド301,302,303,304が
図9および
図10のように形成された画像が得られる。
【0075】
初期動作における1パス目に形成されたバンド301が第4ヒータH4による赤外線の照射領域CAに到達するまで、数十秒要する。第4ヒータH4の予備加熱は、初期動作が開始されてから、バンド301が照射領域CAに到達する前の任意のタイミングに実行される。
【0076】
第4ヒータH4の予備加熱とは、第4ヒータH4の赤外線ヒータにおけるフィラメントが、所定の波長の電磁波を照射するように、赤外線ヒータを点灯して、フィラメントを所定の温度まで加熱する処理である。なお、第4ヒータH4により照射される赤外線の波長は、下記式のように、第4ヒータH4の赤外線ヒータにおけるフィラメントの温度に依存する。
ピーク波長(cm)=0.29/T(ウイーンの変位則)
ただし、式中Tは、絶対温度である。
第4ヒータH4の予備加熱をスリープモードからの復帰と同時に実行せず、初期動作において実行することで、記録媒体Pを不要に輻射加熱させて、劣化させることを防ぐことができる。
【0077】
ここで、電磁波は、赤外線以外の波長を含み、高周波誘電ヒータ、
【0078】
第4ヒータH4において、赤外線ヒータごとに、赤外線ヒータによる加熱温度を検出する温度検出素子としてサーモパイルが設けられている。ヒータ制御部202は、サーモパイルによる検出結果に基づいて、赤外線ヒータのONまたはOFFを制御する。サーモパイルは、記録媒体P表面の温度(Vobj)とサーモパイルの温度(Vtamb)を出力する。記録媒体Pの温度は、温度(Vobj,Vtamb)を所定の変換テーブルに基づいて変換することで得られる。
【0079】
予備加熱において、ヒータ制御部202により第4ヒータH4による加熱温度を設定温度に制御する方法は、第1ヒータH1、第2ヒータH2、および第3ヒータH3による加熱温度を設定温度に制御する方法と同様である。この場合、ヒータ制御部202は、第4ヒータH4における上位マージンを、例えば、0.5℃、下位マージンを、例えば、0.5℃に設定する。
【0080】
初期動作の1パス目に形成されたバンド301が照射領域CAに到達すると(ステップS14のYES)、液体吐出装置1は、通常の印刷動作に移行する(ステップS15)。通常の印刷動作には、印刷処理、記録媒体Pの搬送処理、および第4ヒータH4による照射処理が含まれる。
【0081】
通常の印刷動作における印刷処理は、初期動作における4パス目以降の印刷処理と同様である。すなわち、主走査部203が液体吐出ヘッド20を主走査方向に移動させている間に、吐出制御部204は、液体吐出ヘッド20のノズル列におけるノズルからインク滴を吐出する。
【0082】
通常の印刷動作における記録媒体Pの搬送処理は、初期動作における記録媒体Pの搬送処理と同様である。すなわち、副走査部205は、液体吐出ヘッド20の移動の停止をトリガーとして、記録媒体Pを、バンド幅BW分、副走査方向Bに搬送する。
【0083】
通常の印刷動作における第4ヒータH4による照射処理は、液体吐出ヘッド20の移動の停止をトリガーとして、実行される。ヒータ制御部202は、液体吐出ヘッドドライバ112から出力される駆動信号の停止を検知すると、所定の時間、第4ヒータH4をONにして、インクが付着した記録媒体Pを乾燥させる。所定の時間は、間欠搬送で、記録媒体が停止している時間よりも短い予め定められた時間である。
【0084】
液体吐出装置1において、一定速度で記録媒体が搬送される1パス印字のようなモードで処理する場合には、第4ヒータH4を常時ONにしても、記録媒体Pの照射領域CAにおける滞留時間は、記録媒体Pにおける位置に依存しない。しかし、液体吐出装置1において、マルチパス印字で処理する場合に第4ヒータH4を常時ONにすると、記録媒体Pは間欠搬送されるので、記録媒体Pの一部は搬送停止時に照射領域CAに滞留し、記録媒体Pの他の一部は搬送時に照射領域CAを通過する。このため、記録媒体Pの照射領域CAにおける滞留時間は、記録媒体Pにおける位置によって差が生じる。
【0085】
記録媒体Pにおける位置によって照射領域CAにおける滞留時間が異なると、乾燥ムラが発生し、記録媒体Pの乾燥が足りない部分では、インクの乾燥不良による堅牢性が低下して、耐擦性が低下し、記録媒体Pが巻き取られたときに、積層する記録媒体Pの裏面に、インクが剥ぎ取られてブロッキングが発生する。記録媒体Pにおいて過度に乾燥した部分では、インク中の空気が熱せられ膨張することでブリスタが発生したり、記録媒体Pが熱膨張で波打ちしてコックリングが発生したりする。
【0086】
また、第4ヒータH4を常時ONにすると、記録媒体Pに必要以上のエネルギーが供給され、コックリングを誘発したり、エネルギーを浪費したりする。本実施形態によると、記録媒体Pの間欠搬送と同期して、第4ヒータH4を所定の時間ONにすることにより、乾燥ムラを防ぐことができるので、記録媒体Pの品質の向上と省エネ向上を達成できる。
また、搬送移動時にONするよりも停止時にONさせた方が、照射時間が長くなり乾燥効率がよい。ただし、停止時の照射量が移動時の照射量よりも多ければ、第4ヒータH4は、搬送移動時にONに制御されてもよい。
【0087】
表1は、マルチパス印字における最小のパス数、すなわち、バンド幅が最大となる印字モードにおけるバンド幅BWに対し、第4ヒータH4の照射領域CAの副走査方向の幅(距離)が、0.5乃至3倍に設定された液体吐出装置1における記録媒体Pの各部の赤外線照射時間を示す。記録媒体Pは、副走査方向に0.2秒でバンド幅BW分送られ、1秒間停止している間に赤外線が照射される。照射領域CAがバンド幅の3倍の液体吐出装置1では、記録媒体Pのどの位置でも3秒間、赤外線が照射される。同様に、照射領域CAがバンド幅の2倍または1倍である液体吐出装置1では、記録媒体Pのどこでも2秒または1秒間、赤外線が照射される。
【0088】
【0089】
照射領域CAがバンド幅の1.5倍、0.5倍の液体吐出装置1では、記録媒体Pにおける位置によって、赤外線の照射時間が異なる。そのような場合には、第4ヒータH4の赤外線ヒータのうち、点灯させる赤外線ヒータの本数を変えるなどして照射幅を切り替えて、最大のバンド幅が、第4ヒータH4の照射領域の整数倍になるように調整する。
【0090】
このようにして、本実施形態の液体吐出装置1において、第4ヒータH4の照射領域CAの副走査方向の幅は、マルチパス印字における最小のパス数、すなわち、バンド幅が最大となる印字モードにおけるバンド幅BWの整数倍になるよう調整される。これにより、どの印字モードを選択した場合でも、記録媒体Pに赤外線が均一に照射されるようになる。
【0091】
ヒータ制御部202は、第4ヒータH4に対し、加熱温度を設定温度に維持するためのFB(Feedback)制御に加えて、設定のタイミングを調整するためのFF(Feedforward)制御を実行する。FB制御の方法は、上記の第1ヒータH1、第2ヒータH2、および第3ヒータH3をFB制御する方法と同様である。この場合、第4ヒータH4の温度検出素子は、照射領域CAを通過する記録媒体Pの温度を検出可能な位置に配置されていればよい。
【0092】
FF制御では、印字モードに応じて、第4ヒータH4の点灯タイミングが予め定められている。マルチパス数の少ない印字では、バンド幅が大きいため、記録媒体Pの一部は、第4ヒータH4による照射領域CAを赤外線が照射されることなく通過する可能性がある。このため、ヒータ制御部202は、間欠搬送された記録媒体Pが照射領域CAに停止しているときに、マルチパス数に応じて、所定の照射時間、赤外線を照射する。各FF制御における、マルチパス数と点灯タイミングの関係の一例を表2に示す。なお、表2中のONは、第4ヒータH4をONにすることを示し、OFFは、第4ヒータH4をOFFにすることを示す。
【0093】
【0094】
なお、表2にない印字モードが選択された場合、ヒータ制御部202は、照射処理においてFB制御を実行してもよい。
【0095】
図11は、インク打込量と、生産性との相関を示すグラフである。横軸は生産性(m
2/h)、縦軸はインク打込量(%)である。インク打込量とは、単位面積のうちインクで被覆される面積の割合(%)を示す。例えば、複数色のインクが同じ画素に吐出された場合、インク打込量が100%を超えることがある。
図11のグラフにおいて、実線は、第4ヒータH4の点灯と、記録媒体Pの副走査のタイミングとを同期させた本実施形態の画像形成方法における評価結果を示す。破線は第4ヒータH4の点灯と、記録媒体Pの副走査のタイミングとを同期させていない、従来の画像形成方法における評価結果を示す。
【0096】
図11のグラフのとおり、本実施形態の画像形成方法によると、従来の画像形成方法と比較して、高い生産性が得られる。本実施形態によると、生産性の高いドラフト(4パス印字)、スーパードラフト((2パス印字)、ハイパードラフト(1パス印字)モードにおいても、記録媒体Pにおけるどの位置においても、照射領域CAで一回以上停止する。すなわち、本実施形態によると、生産性の高い印字モードであっても、乾燥ムラが発生せず、良好な品質の画像が得られる。
【0097】
<実施形態の変形例A>
実施形態の変形例Aについて、上記の実施形態と異なる点を説明する。
【0098】
インクに含まれる水を蒸発させるために有効な波長と、有機溶剤を蒸発させるために有効な波長とは異なる。例えば、インクに含まれる水分子の共振波長は3μmの倍数であり、有機溶剤の共振波長は4μmの倍数である。
【0099】
本実施例の赤外線ヒータには、例えば、波長を3μm乃至10μmの遠赤外線を照射可能なフィラメントが使用される。ヒータ制御部202は、第4ヒータH4における複数のファイラメントの各入力電圧を制御して、各フィラメントの温度を調整する。これにより、例えば、ヒータ制御部202は、第4ヒータH4における記録媒体Pの搬送経路の上流側のフィラメントの照射電磁波のピーク波長を、水の蒸発に有効な3μm(温度700℃)に制御し、下流側のフィラメントの照射電磁波のピーク波長を、溶剤の蒸発に有効な4μm(温度450℃)に制御する。これにより、照射処理において、まず、インクの水分を蒸発させ、インク表面を造膜させた後、溶剤を蒸発させることができる。
【0100】
<実施形態の変形例B>
続いて、実施形態の変形例Bについて、上記の実施形態と異なる点を説明する。液体吐出装置1の通信制御部201は、吐出するインク種別を示す情報の入力を受け付ける。ヒータ制御部202は、入力されたインク種別を示す情報に対応する波長の電磁波が照射されるようにフィラメントの予備加熱の温度を制御する。例えば、メタリックインクは、金属の顔料成分を含有し、他のインクと比較して共振波長が短い。メタリックインク示すインク種別を情報が入力された場合、ヒータ制御部202は予備加熱の時間を長く設け、あるいはフィラメントの入力電圧を高くすることで、フィラメントの温度を高く設定する。これにより、フィラメントから、短い波長の赤外線が照射される。
【0101】
<実施形態の変形例C>
続いて、実施形態の変形例Cについて、上記の実施形態と異なる点を説明する。実施形態の変形例Cにおいて、外部の情報処理装置は、ジョブ管理用ソフトウェアを用いて乾燥強度の設定をユーザから受け付ける。設定された乾燥強度は、情報処理装置から、通信制御部201を介して液体吐出装置1に入力される。また、液体吐出装置1の記憶部2000には、乾燥強度、照射時間、および波長が関連付けられたテーブルが管理されている。
【0102】
通常印刷動作(ステップS15)の照射処理において、液体吐出装置1のヒータ制御部202は、乾燥強度の設定に対応する照射時間および波長を記憶部2000から読み出し、読み出された照射時間、読み出された波長の赤外線を照射するように第4ヒータH4を制御する。実施形態の変形例Cによると、液体吐出装置1は、設定された乾燥強度に応じて、記録媒体Pを乾燥することができる。
【0103】
<実施形態の変形例D>
液体吐出装置1の記憶部2000には、吐出する液滴の量および照射時間が関連付けられたテーブルが管理されている。液体吐出装置1の吐出制御部204は、印刷要求に含まれる画像データに基づいて、吐出する液滴の量を決定する。
【0104】
通常印刷動作(ステップS15)の照射処理において、液体吐出装置1のヒータ制御部202は、吐出制御部204によって決定された液滴の量に対応する照射時間を記憶部2000から読み出し、読み出された時間、第4ヒータH4をONにする。実施形態の変形例Dによると、液体吐出装置1は、吐出する液滴の量に応じた時間、記録媒体Pを乾燥する。なお、実施形態の変形例Dにおいて、液滴の量は液滴の大きさに置き換え可能である。
【0105】
パス数が少ない印字モードでは解像度が粗くなり、インクのドット径が大きくなる。径の大きいドットを形成するためには、より多量のインクが用いられるので、より大きな乾燥能力(乾燥パワー)が必要になる。従って、記録媒体Pの種類や、印字モード(ドット径)などにより赤外線を点灯するタイミングを切り替えることにより、適切な乾燥品質が得られる。
【0106】
<実施形態の効果>
上記実施形態の画像形成方法によると、液体吐出装置1の副走査部205(搬送手段の一例)は、記録媒体Pをバンド幅BW(所定距離の一例)ごとに間欠搬送させる(間欠搬送ステップの一例)。液体吐出装置1の吐出制御部204(吐出手段の一例)は、副走査部205によって間欠搬送された記録媒体Pにインク(液体の一例)を吐出する(吐出ステップの一例)。画像形成装置のヒータ制御部202(照射制御手段の一例)は、吐出制御部204によってインクが吐出された記録媒体Pに、停止時の照射量が移動時の照射量よりも多くなるように所定照射量、赤外線が照射されるように制御する(照射ステップの一例)。なお、赤外線は、インクを乾燥させることが可能な任意の電磁波に置き換え可能である。上記実施形態の液体吐出装置1によると、間欠搬送される記録媒体Pに対し、赤外線を照射してインクを乾燥させるときに、記録媒体Pにおける位置によって乾燥量に差が生じることを防ぐことができる。
【0107】
液体吐出装置1において、第4ヒータH4の照射領域CAは、最大のバンド幅BWの整数倍に設定されている。上記実施形態の液体吐出装置1によると、印字モードを変更したときでも、間欠搬送される記録媒体Pに対し、赤外線を照射してインクを乾燥させるときに、記録媒体Pにおける位置によって乾燥量に差が生じることを防ぐことができる。
【0108】
液体吐出装置1のヒータ制御部202は、第4ヒータH4が照射する赤外線の波長を制御する。これにより、液体吐出装置1は、インクの組成に応じて、最適な波長の赤外線を照射することができる。
【0109】
液体吐出装置1のヒータ制御部202は、複数の赤外線ヒータ(照射手段の一例)が、それぞれ異なる波長の電磁波を照射するように制御する。これにより、液体吐出装置1は、水および有機溶剤などの複数のインクの成分に対応した波長の赤外線により、インクを乾燥することができる。
【0110】
液体吐出装置1の通信制御部201(受付手段の一例)は、乾燥強度(照射条件の一例)の入力を受け付ける。液体吐出装置1のヒータ制御部202は、通信制御部201によって受け付けられた乾燥強度に応じて、第4ヒータH4による電磁波の照射時間、および照射する電磁波の波長を制御する。これにより、液体吐出装置1は、設定された乾燥強度に応じて、記録媒体Pを乾燥することができる。
【0111】
液体吐出装置1のヒータHにおける温度検出素子(検出手段の一例)は、照射領域CAを通過する記録媒体Pの温度を検出する。液体吐出装置1のヒータ制御部202は、温度検出素子によって検出された温度が、所定の温度に満たない場合に、照射する赤外線の強度が大きくなるように制御する。これにより、液体吐出装置1は、FB制御により、赤外線の出力を制御することができる。
【0112】
液体吐出装置1のヒータ制御部202は、上述したような高生産性の印字モード(ドラフトモード)のほか高画質モード(写真モードなど)といった互いに乾燥量の異なる印字モードに応じて、または、吐出される液体の液滴の量または大きさに応じて、照射する赤外線の強度を制御する。これにより、液体吐出装置1は、必要となる乾燥量に応じて記録媒体Pを乾燥することができる。
【0113】
上記で説明した実施形態の各機能は、一または複数の処理回路によって実現することが可能である。ここで、本明細書における「処理回路」とは、電子回路を含むプロセッサのようにソフトウェアによって各機能を実行するようプログラミングされたプロセッサや、上記で説明した各機能を実行するよう設計されたASIC(Application Specific Integrated Circuit)や従来の回路モジュールなどのデバイスを含むものとする。
【符号の説明】
【0114】
1 液体吐出装置
2 画像形成装置
112 液体吐出ヘッドドライバ
113 副走査ドライバ
201 通信制御部
202 ヒータ制御部
203 主走査部
204 吐出制御部
205 副走査部
2000 記憶部
【先行技術文献】
【特許文献】
【0115】