(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-23
(45)【発行日】2022-05-31
(54)【発明の名称】混繊不織布、積層体、フィルター用濾材及びこれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
D04H 1/4382 20120101AFI20220524BHJP
D04H 1/728 20120101ALI20220524BHJP
B01D 39/16 20060101ALI20220524BHJP
A61L 9/16 20060101ALI20220524BHJP
【FI】
D04H1/4382
D04H1/728
B01D39/16 A
A61L9/16 F
(21)【出願番号】P 2017205986
(22)【出願日】2017-10-25
【審査請求日】2020-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】399120660
【氏名又は名称】JNCファイバーズ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】梅林 陽
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0272086(US,A1)
【文献】特開2009-275310(JP,A)
【文献】特開2015-045114(JP,A)
【文献】特開2014-200701(JP,A)
【文献】特開2014-145140(JP,A)
【文献】国際公開第2012/017953(WO,A1)
【文献】特開2012-221600(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H 1/00-18/04
B01D 39/00-41/04
A61L 9/00- 9/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均繊維径が200nm未満である第一の繊維と、平均繊維径が
600~5000nmの範囲である第二の繊維を含む混繊不織布であり、第一の繊維及び第二の繊維は、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリアミド、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリル酸メチル、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリ酢酸ビニル、ポリイミド、ポリエーテルイミド、キチン、キトサン、コラーゲン、ゼラチンまたはこれらの共重合体からなり、第一の繊維は、陰イオン性界面活性剤または陽イオン性界面活性剤を含有しており、該混繊不織布の目付量が2.1~15.0g/m
2の範囲である混繊不織布。
【請求項2】
第一の繊維と第二の繊維の本数比が80:20~98:2の範囲である、請求項1に記載の混繊不織布。
【請求項3】
第一の繊維、及び第二の繊維の繊維径の変動係数が0.5以下である、請求項1または2に記載の混繊不織布。
【請求項4】
第一の繊維の融点が、第二の繊維の融点より10℃以上高い、請求項1~3のいずれか1項に記載の混繊不織布。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の混繊不織布が、比容積が5g/cm
3以下である基材の少なくとも片面に積層された積層体。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載の混繊不織布または請求項5に記載の積層体を用いた濾材。
【請求項7】
第一の繊維を形成する、陰イオン性界面活性剤または陽イオン性界面活性剤を含有する第一の紡糸溶液と、第二の繊維を形成する第二の紡糸溶液とを静電紡糸により繊維化する工程、繊維化された第一の繊維と第二の繊維を混合して不織布を得る工程、とを含む、請求項1に記載の混繊不織布の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混繊不織布及びその混繊不織布を含む積層体からなるフィルター用濾材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、花粉や粉塵などの微細なダストを除去するためのエアフィルター用の濾材として、不織布製シートが多く用いられている。このようなフィルター用の濾材には、ダストを高効率で捕集する性能(高い捕集効率)と、濾材を流体が通過する際の抵抗が少ない性能(低い圧力損失)とが求められている。
また、従来から、高い捕集効率と低い圧力損失を達成する方法として、極細繊維を用いた濾材が提案されている。例えば、特許文献1には、平均繊維径が170nm以下の極細繊維層を備えた濾材が提案されている。しかしながら、このような濾材は、低目付で高い捕集効率であり、かつ低い圧力損失のフィルターが得られるが、濾材は、緻密なマトリクス体を形成するため、得られるフィルターの長寿命化が困難であった。また、平均繊維径が170nm以下と非常に細いために、フィルターへの加工強度(加工時の強度)が不十分となり、破断しやすいという問題があった。
【0003】
極細繊維を用いた濾材における長寿命化、加工強度の課題を解決する方法として、極細繊維と極細繊維より太い繊維を混合させた(混繊)濾材が提案されている。例えば、特許文献2には、静電紡糸により形成された静電紡糸繊維とメルトブロー法により形成されたメルトブロー繊維とが混繊、混在した極細繊維不織布が提案されている。しかしながら、異なる原理を用いた繊維製造方法を組み合わせているため、製造装置が煩雑になり製造が困難であるという問題がある。また、例えば、特許文献3には、ナノファイバーの目付が0.1~2.0g/m2であり、繊維径が10~100nm、本数割合が10~90%の範囲の細繊維径ナノファイバー、繊維径が140~1000nm、本数割合が10~90%の太繊維径ナノファイバー、繊維径が100nmを超え140nm未満であり、本数割合が0~10%である繊維を含む濾材が提案されている。しかしながら、このような繊維構成の濾材はフィルター寿命及びフィルターへの加工強度が不十分となるため、更なる改善が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-341233号公報
【文献】特開2009-57655号公報
【文献】特開2014-200701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなことから、本発明の課題は、ダストの捕集効率が高く、圧力損失が低く、長寿命であり、さらに十分なフィルターへの加工強度を備えたフィルター用濾材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記した課題を解決すべく鋭意研究を重ねた。その結果、平均繊維径が200nm未満である第一の繊維と、平均繊維径が200~5000nmの範囲である第二の繊維を含む混繊不織布であり、該混繊不織布の目付が2.1~15.0g/m2であることで、ダストの捕集効率が高く、圧力損失が低く、長寿命であり、さらに十分なフィルターへの加工強度を備えた混繊不織布を用いることで、フィルター用濾材を提供できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
本発明は、下記の構成を有する。
[1]平均繊維径が200nm未満である第一の繊維と、平均繊維径が200~5000nmの範囲である第二の繊維を含む混繊不織布であり、該混繊不織布の目付量が2.1~15.0g/m2の範囲である混繊不織布。
[2]第一の繊維と第二の繊維の本数比が80:20~98:2の範囲である、前記[1]に記載の混繊不織布。
[3]第一の繊維、及び第二の繊維の繊維径の変動係数が0.5以下である、前記[1]~[2]のいずれかに記載の混繊不織布。
[4]第一の繊維の融点が、第二の繊維の融点より10℃以上高い、前記[1]~[3]のいずれかに記載の混繊不織布。
[5]比容積が5g/cm3以下である基材の少なくとも片面に、前記[1]~[4]のいずれかに記載の混繊不織布が積層された積層体。
[6]前記[1]~[4]のいずれかに記載の混繊不織布または前記[5]に記載の積層体を用いた濾材。
[7]第一の繊維を形成する第一の紡糸溶液と、第二の繊維を形成する第二の紡糸溶液とを静電紡糸により繊維化する工程、繊維化された第一の繊維と第二の繊維を混合して不織布を得る工程、とを含む、混繊不織布の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
以上の構成を有する本発明の混繊不織布を用いることで、ダストの捕集効率が高く、圧力損失が低く、長寿命であり、さらにフィルターへの十分な加工強度を備えたフィルター用濾材を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明の混繊不織布は、平均繊維径が200nm未満の第一の繊維と、平均繊維径が200~5000nmの範囲である第二の繊維を含むことを特徴とする。このような繊維構成とすることで、フィルターの濾材として、ダストの捕集効率が高く、圧力損失が低く、長寿命であり、フィルターへの十分な加工強度を備えたフィルター用の濾材を提供することが可能となる。
【0011】
第一の繊維の平均繊維径は、200nm未満であり、より好ましくは10~100nmであり、さらに好ましくは30~80nmである。第一の繊維の平均繊維径が200nm未満であれば、得られる混繊不織布の比表面積が大きくなり、フィルターの濾材として、混繊不織布を用いた場合、低い圧力損失を有し、かつ高い捕集効率を有するといった高いフィルター性能が得られ、100nm以下ではより優れたフィルター性能が得られ、80nm以下ではさらに優れたフィルター性能が得られる。一方、繊維径の減少とともに繊維1本当たりの強度が低下してフィルターへの加工時や使用時における繊維の破断を引き起こす可能性があるが、第一の繊維の平均繊維径が10nm以上であれば満足できる単糸強度が得られ、30nm以上であれば十分な単糸強度が得られる。第一の繊維の繊維径の変動係数は、特に限定されないが、0.5以下であることが好ましく、0.3以下であればさらに好ましい。第一の繊維の変動係数が0.5以下であれば優れたフィルター性能が得られ、0.3以下であればより優れたフィルター性能が得られる。
【0012】
第二の繊維の平均繊維径は、200~5000nmの範囲であり、好ましくは400~2000nmの範囲であり、より好ましくは600~1500nmの範囲である。第二の繊維の平均繊維径が200nm以上であれば、混繊不織布の強度が高まり、加工性が向上するだけでなく、第一の繊維同士の繊維間の距離を大きくし、フィルターの濾材として用いた場合に、捕集されたダストによって目詰まりしにくく、フィルターを長寿命化させることができる。第二の繊維の平均繊維径が5000nm以下であれば、比較的低目付でも使用に見合う効果が得られ、フィルターの薄型化や生産性向上が可能となる。第二の繊維の平均繊維径が400~2000nmの範囲であれば、満足できるバランスで、フィルターの高強度化、長寿命化、低目付化、薄型化が可能であり、600~1500nmの範囲であれば、これらの特性が優れたバランスで発現できる。第二の繊維の繊維径の変動係数は、特に限定されないが、0.5以下であることが好ましく、0.3以下であればさらに好ましい。第一の繊維の変動係数が0.5以下であれば低目付で優れたフィルター性能が得られるため、フィルターの薄型化、小型化が可能となり、0.3以下であればさらに薄型化、小型化が可能となる。
【0013】
第一の繊維と第二の繊維の割合(本数比)は、特に限定されないが、第一の繊維と第二の繊維の本数比が80:20~98:2の範囲であることが好ましく、85:15~95:5の範囲であることがより好ましい。第一の繊維と第二の繊維の本数比が80:20以上であれば、比較的、低目付の濾材で高い捕集効率のフィルターが得られ、圧力損失の低減、薄型化、生産性向上を達成でき、98:2以下であれば、長寿命化と強度向上が可能となる。
【0014】
本発明における第一の繊維及び第二の繊維の樹脂は、特に限定されないが、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリアミド、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリル酸メチル、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリ酢酸ビニル、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエーテルイミド、セルロース、セルロース誘導体、キチン、キトサン、コラーゲン、ゼラチン及びこれらの共重合体などの高分子材料を例示できる。樹脂の重量平均分子量としては、特に限定されないが、10,000~10,000,000の範囲であることが好ましく、50,000~5,000,000の範囲であることがより好ましく、100,000~1,000,000であることがさらに好ましい。重量平均分子量が10,000以上であれば、第一、第二の繊維の繊維形成性に優れるため好ましく、10,000,000以下であれば、溶解性や熱可塑性に優れ、加工が容易になるため好ましい。
【0015】
本発明の第一の繊維と第二の繊維を構成する樹脂の組み合わせとしては、特に限定されず、同種の樹脂を用いてもよいし、異種の樹脂を組み合わせてもよい。異種の樹脂の組み合わせとしては特に限定されないが、非エラストマー樹脂/エラストマー樹脂、高融点樹脂/低融点樹脂、高結晶性樹脂/低結晶性樹脂、親水性樹脂/撥水性樹脂などを例示できる。例えば、非エラストマー樹脂からなる第一の繊維と、エラストマー樹脂からなる第二の繊維を組み合わせることで、混繊不織布に伸縮性を付与することが可能であり、エアフィルター用としてプリーツ加工する際に、曲げによる破断が抑制されるという効果を奏する。エラストマー樹脂としては、特に限定されないが、ポリオレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマーなどを例示できる。また、高融点樹脂からなる第一の繊維と低融点樹脂からなる第二の繊維とを組み合わせ、第一の繊維の融点未満、第二の繊維の融点以上の温度で熱処理し、第一の繊維と第二の繊維、または第二の繊維同士を融着させることにより、得られる混繊不織布の捕集効率を維持しつつ、加工強度を高めることが可能となる。さらに、基材や他の層と一体化する際には、第二の繊維と基材や他の層とが互いに融着するため、一体化した積層体の強度をさらに高めることが可能となる。高融点樹脂/低融点樹脂の組み合わせとしては、特に限定されないが、融点差が10℃以上あることが好ましく、20℃以上あることがさらに好ましい。このような樹脂の組み合わせとして特に限定されず、例えば、ポリフッ化ビニリデン/フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体、ナイロン66/ナイロン6、ポリ-L-乳酸/ポリ-D,L-乳酸、ポリプロピレン/ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート/ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート/ポリプロピレンなどを例示できる。また、高結晶性樹脂からなる第一の繊維と低結晶性樹脂からなる第二の繊維とを組み合わせることで、混繊不織布に寸法安定性を付与することが可能であり、フィルター用の濾材として用いた場合、幅広い温度や湿度環境でもフィルター性能を維持することができる。高結晶性樹脂としては特に限定されず、ポリフッ化ビニリデン、ナイロン6、ナイロン66、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコールなどを例示できる。低結晶性樹脂としては特に限定されず、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体、エチレンとプロピレンとの共重合体、ポリ-D,L-乳酸、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ポリウレタン、ポリ酢酸ビニルなどを例示できる。
【0016】
本発明の混繊不織布の目付は、フィルターの濾材として、捕集効率が高く、圧力損失が低く、長寿命であり、さらにフィルターへの十分な加工強度を備えるために、2.1~15.0g/m2の範囲が必要であり、好ましくは3.0~12.0g/m2の範囲であり、より好ましくは6.0~12.0g/m2の範囲である。目付が2.1g/m2以上であれば、フィルターの濾材として、長寿命で、捕集効率が高く、フィルターへの加工強度を高くすることが可能となり、3.0g/m2であれば、フィルターの濾材として、捕集効率、圧力損失、寿命、そして、フィルターへの加工強度を優れたバランスで満足することが可能であり、6.0g/m2であれば、フィルターの濾材として、捕集効率、圧力損失、寿命、そして、フィルターへの加工強度を特に優れたバランスで満足することが可能である。また、目付が15.0g/m2以下であれば、フィルターの濾材として、圧力損失を低くすることが可能であり、12.0g/m2以下であれば、さらに圧力損失を低減することが可能である。
【0017】
本発明の混繊不織布は、特に限定されないが、他の不織布、織布、ネットまたは微多孔フィルムなどの基材と積層一体化されていてもよい。基材と積層一体化させることで、混繊不織布と基材の特性を複合化した積層体を得ることができる。エアフィルターの濾材として用いる場合、加工性や通気性の観点から、基材は不織布であることが好ましい。基材の特性としては、例えば、力学強度、耐摩耗性、プリーツ加工性、接着特性の付与などを例示でき、混繊不織布の用途や形態に応じて、このような特性の基材を適宜選択することができる。混繊不織布と基材とを積層一体化させる方法としては特に限定されず、別々に製造された混繊不織布と基材とを接着剤や熱融着により一体化してもよいし、基材上に混繊不織布を直接紡糸することにより一体化してもよく、基材上に混繊不織布を直接紡糸した後に、さらに熱処理により一体化してもよい。
【0018】
基材の目付は特に限定されず、目付は15g/m2以上であることが好ましく、30g/m2以上であることがより好ましく、60g/m2以上であることがさらに好ましい。基材の目付が15g/m2以上であれば、混繊不織布の収縮、皺入り、カール等を抑制し、加工強度を付与することが可能となり、30g/m2以上であれば満足できる加工強度を付与でき、60g/m2であれば十分な加工強度を付与することが可能である。基材の比容積は特に限定されず、5cm3/g以下であることが好ましく、3cm3/g以下であることがさらに好ましい。基材の比容積が5cm3/g以下であれば、積層体の混繊不織布面の耐摩耗性が向上し、加工の際の特性低下を抑制することができ、3cm3/g以下であれば、特性低下を十分抑制することが可能となる。
【0019】
基材を構成する素材は、必要に応じて適宜選定すればよく特に限定されない。素材として、例えば、ポリプロピレンやポリエチレンなどのポリオレフィン系素材を用いた場合には、耐薬品性に優れるという特徴があり、耐薬品性が必要な液体フィルターなどの用途で好適に使用できる。また、素材として、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチテレフタレート、ポリ乳酸、またはこれらを主成分とする共重合体などのポリエステル系素材を用いた場合には、プリーツ特性に優れるので、プリーツ加工が必要なエアフィルターなどの用途で好適に使用できる。ポリエステル系素材は、ホットメルトなどの接着成分との濡れ性が高く、ホットメルト接着によって製品を加工する場合に好適に使用することができる。ポリプロピレン系やポリエステル系の素材が表面を構成する基材は、超音波による接着が可能となるので、好適に使用することができる。
【0020】
熱処理による混繊不織布と基材との一体化を実施する場合には、特に限定されないが、低融点成分と高融点成分で構成される熱融着性複合繊維からなる不織布を基材として使用することが好ましい。熱融着性複合繊維の素材の組み合わせ、複合形態、断面形状は特に限定されず、公知のものを使用できる。素材の組み合わせとしては、共重合ポリエチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレート、共重合ポリエチレンテレフタレートとポリプロピレン、高密度ポリエチレンとポリプロピレン、高密度ポリエチレンとポリエチレンテレフタレート、共重合ポリプロピレンとポリプロピレン、共重合ポリプロピレンとポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンとポリエチレンテレフタレートなどが例示できる。さらに素材の入手の容易性などを考慮すると、好ましくは、共重合ポリエチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレート、高密度ポリエチレンとポリプロピレン、高密度ポリエチレンとポリエチレンテレフタレートなどが例示できる。また、断面の複合形態としては、例えば、鞘芯型、偏心鞘芯型、または並列型などが例示できる。繊維の断面形状も特に限定されず、一般的な丸形の他に、楕円形、中空形、三角形、四角形、八用形などの異型断面など、あらゆる断面形状を採用することができる。
【0021】
上記熱融着性複合繊維からなる不織布を製造する方法は、特に限定されず、カーディング法、抄紙法、エアレイド法、メルトブローン法、またはスパンボンド法などの公知の製造方法が使用できる。不織布に加工する際の繊維接着方法についても、特に限定されず、例えば、エアスルー加工による熱融着やエンボス加工による熱圧着、ニードルパンチやスパンレース加工による繊維交絡、接着剤によるケミカルボンドなどが挙げられる。
【0022】
本発明の積層体は、その少なくとも片面、もしくは両面に、不織布、織布、ネットおよび微多孔フィルムからなる群から選ばれる少なくとも1つの層をさらに積層してもよい。積層体の混繊不織布面に、不織布、織布、ネットおよび微多孔フィルムからなる群から選ばれる少なくとも1つの層が積層されることで、混繊不織布面が表面に露出しなくなることから、加工性がさらに向上する。また、積層体の少なくとも一方の面に、プレ捕集層として、不織布、織布、ネットおよび微多孔フィルムからなる群から選ばれる少なくとも1つの層が積層されることで、フィルター寿命をさらに向上させることが可能である。このような層としては、特に限定されないが、カーディング法、抄紙法、エアレイド法、メルトブローン法、またはスパンボンド法により製造された不織布であることが好ましい。
【0023】
本発明の積層体に、さらに不織布、織布、ネットおよび微多孔フィルムからなる群から選ばれる少なくとも1つの層を積層するための製造方法は特に限定されないが、混繊不織布を基材上に直接紡糸して積層体を作製し、後工程において、不織布、織布、ネットおよび微多孔フィルムからなる群から選ばれる少なくとも1種類の層を、積層体の上にさらに積層し一体化する方法や、不織布、織布、ネットおよび微多孔フィルムからなる群から選ばれる少なくとも1種類の層と基材とを一体化したシート上に混繊不織布を直接紡糸して一体化する方法などを例示できる。これらの一体化の方法は、特に限定されるわけではなく、加熱したフラットロールやエンボスロールによる熱圧着処理、ホットメルト剤や化学接着剤による接着処理、循環熱風もしくは輻射熱による熱接着処理などを採用することができる。
【0024】
本発明の混繊不織布および積層体は、本発明の効果を著しく損なわない範囲であれば、エレクトレット加工、制電加工、撥水加工、親水加工、抗菌加工、紫外線吸収加工、近赤外吸収加工、防汚加工などを目的に応じて施されていてもよい。
【0025】
本発明の混繊不織布、積層体は、特に限定されないが、フィルター用の濾材として好適に使用することができる。本発明の混繊不織布を濾材として用いる場合、その用途は、特に限定されず、エアコンやクリーンルームなどに使用される気体フィルターであってもよく、排水や塗料、研磨粒子などの濾過に使用される液体フィルターであってもよい。フィルターの形状も特に限定されず、平膜型フィルター、プリーツ加工したプリーツフィルター、または円筒状に巻き上げたデプスフィルターであってもよい。本発明における混繊不織布は、平均繊維径が200nm未満の第一の繊維と、平均繊維径が200~5000nmの第二の繊維の混繊不織布であるため、捕集効率が高く、圧力損失が低く、長寿命であり、フィルターに加工する際に破れなどのダメージを受けず、細繊維由来の高い濾過性能を維持させることができる。
【0026】
本発明の混繊不織布、積層体は、エアフィルターの濾材として用いる場合、空気を流速5.3cm/秒で通過させたときの圧力損失が30~300Paの範囲であることが好ましく、50~250Paの範囲であることがより好ましく、70~200Paの範囲であることがさらに好ましい。圧力損失が30Pa以上であれば十分な捕集効率が得られ、300Pa以下では、エアフィルターの濾材として用いた際の消費電力の低減、ファンへの負荷低減などの効果を奏する。また、粒子径0.3μm程度の粒子を含む空気を5.3cm/秒で通過させたときの該粒子の捕集効率は、90%以上であることが好ましく、99%以上であることがより好ましい。さらに、PF値(=log(1-捕集効率/100)/圧力損失×1000)は、12以上であることが好ましく、15以上であることがさらに好ましい。PF値はエアフィルター濾材の捕集性能の大小を示す指標とし使用されている値であり、性能がよいほどPF値が大きくなる。エアフィルターとしての寿命は、特に限定されないが、例えば、粒子径0.3μm程度の粒子を含む空気を流速5.3cm/秒で連続通風し、圧力損失が250Pa分だけ上昇したときの粒子の付着重量で評価可能である。付着重量が多いほど、長寿命のエアフィルター濾材として使用できることを意味する。捕捉粒子としては、塩化ナトリウムなどの固体粒子であってもよいし、ポリアルファオレフィンやジオクチルフタレート液状粒子であってよい。ポリアルファオレフィンを用いた場合の付着重量としては、特に限定されないが、15mg/100cm2以上であることが好ましく、20mg/100cm2以上であることがより好ましく、30mg/cm2以上であることがさらに好ましい。捕集効率、圧力損失、PF値および付着重量は、第一の繊維、第二の繊維の平均繊維径や目付、本数割合を適宜変更して調整することが可能である。
【0027】
本発明の混繊不織布は、特に限定されないが、静電紡糸法で製造されることが好ましい。静電紡糸法を用いることで、極細繊維を均一に紡糸することが可能であり、優れたフィルター特性を得ることができる。静電紡糸法とは、紡糸溶液を吐出させるとともに、電界を作用させて、吐出された紡溶液を繊維化し、コレクター上にサブミクロンオーダーのナノ繊維を不織布状に捕集する方法である。静電紡糸の方式は特に限定されず、一般的に知られている方式、例えば、1本もしくは複数のニードルを使用するニードル方式、ニードル先端に気流を噴き付けることでニードル1本あたりの生産性を向上させるエアブロー方式、1つのスピナレットに複数の溶液吐出孔を設けた多孔スピナレット方式、溶液槽に半浸漬させた円柱状や螺旋ワイヤ状の回転電極を用いるフリーサーフェス方式、供給エアによってポリマー溶液表面に発生したバブルを起点に電界紡糸するエレクトロバブル方式などが挙げられ、求めるナノ繊維の品質、生産性、または操業性を鑑みて、適宜選択することができる。本発明における混繊不織布の静電紡糸方法としては、ニードル方式、エアブロー方式、多孔スピナレット方式が特に好ましい。
【0028】
紡糸溶液としては、曳糸性を有するものであれば特に限定されないが、樹脂を溶媒に分散させたもの、樹脂を溶媒に溶解させたもの、樹脂を熱やレーザー照射によって溶融させたものなどを用いることができる。非常に細く均一な繊維を得るために、樹脂を溶媒に溶解させたものを紡糸溶液として用いることが好ましい。
【0029】
樹脂を分散または溶解させる溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチル-2-ピロリドン、トルエン、キシレン、ピリジン、蟻酸、酢酸、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、クロロホルム、1,1,2,2-テトラクロロエタン、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロパノール、トリフルオロ酢酸及びこれらの混合物などを挙げることができる。混合して使用する場合の混合率は、特に限定されるものではなく、求める曳糸性や分散性、得られる繊維の物性を鑑みて、適宜設定することができる。
【0030】
静電紡糸の安定性や繊維形成性を向上させる目的で、紡糸溶液中にさらに界面活性剤を含有させてもよい。界面活性剤は、例えば、ドデシル硫酸ナトリウムなどの陰イオン性界面活性剤、臭化テトラブチルアンモニウムなどの陽イオン界面活性剤、ポリオキシエチレンソルビタモンモノラウレートなどの非イオン性界面活性剤などを挙げることができる。界面活性剤の濃度は、紡糸溶液に対して5重量%以下の範囲であることが好ましい。5重量%以下であれば、使用に見合う効果の向上が得られるため好ましい。
【0031】
本発明の効果を著しく損なわない範囲であれば、親水化剤、撥水化剤、耐候剤、安定剤などの上記以外の成分も紡糸溶液の成分として含んでもよい。
【0032】
紡糸溶液の調製方法は、特に限定されず、撹拌や超音波処理などの方法を挙げることができる。また、混合の順序も特に限定されず、同時に混合しても、逐次に混合してもよい。撹拌により紡糸溶液を調製する場合の撹拌時間は、樹脂が溶媒に均一に溶解または分散していれば特に限定されず、例えば、1~24時間程度撹拌してもよい。
【0033】
静電紡糸により繊維を得るためには、紡糸溶液の粘度を、10~10,000cPの範囲に調製することが好ましく、50~8,000cPの範囲であることがより好ましい。粘度が10cP以上であると、繊維を形成するための曳糸性が得られ、10,000cP以下であると、紡糸溶液を吐出させるのが容易となる。粘度が50~8,000cPの範囲であれば、広い紡糸条件範囲で良好な曳糸性が得られるのでより好ましい。紡糸溶液の粘度は、繊維形成性材料の分子量、濃度や溶媒の種類や混合率を適宜変更することで、調整することができる。
【0034】
紡糸溶液の温度は、特に制限はなく、常温(約26℃)であっても、加熱・冷却し、常温よりも高温または低温であってもよい。紡糸溶液を吐出させる方法としては、例えば、ポンプを用いてシリンジに充填した紡糸溶液をノズルから吐出させる方法などが挙げられる。ノズルの内径としては、特に限定されないが、0.1~1.5mmの範囲であるのが好ましい。また吐出量としては、特に限定されないが、0.1~10mL/hrであるのが好ましい。
【0035】
紡糸溶液に電界を作用させる方法としては、ノズルとコレクターに電界を形成させることができれば特に限定されるものではなく、例えば、ノズルに高電圧を印加し、コレクターを接地してもよい。印加する電圧は、繊維が形成されれば特に限定されないが、5~100kVの範囲であるのが好ましい。また、ノズルとコレクターとの距離は、繊維が形成されれば特に限定されないが、5~50cmの範囲であるのが好ましい。コレクターは、紡糸された繊維を捕集できるものであればよく、その素材や形状などは特に限定させるものではない。コレクターの素材としては、金属等の導電性材料が好適に用いられる。コレクターの形状としては、特に限定されないが、例えば、平板状、シャフト状、コンベア状などを挙げることができる。コレクターが平板状であると、シート状に繊維集合体を捕集することができ、シャフト状であると、チューブ状に繊維集合体を捕集することができる。コンベア状であれば、シート状に捕集された繊維集合体を連続的に製造することができる。本発明における混繊不織布の捕集方法としては、特に限定されないが、ドラム状の回転コレクターを用いて、回転方向と水平方向に第一の繊維を吐出するニードルと第二の繊維を吐出するニードルを配置し、回転方向と垂直方向に各ニードルをトラバースさせる方法、コンベア状のコレクターを用いて、コンベア可動方向と垂直方向に各ニードル、あるいは多孔スピナレットを配置し、コンベア可動方向と垂直方向にトラバースさせる方法、第一の繊維の紡糸溶液と第二の繊維の紡糸溶液を交互に吐出させるように孔が配置された多孔スピナレットを用いる方法等を例示できる。ドラム状の回転コレクターを用いる場合、例えば、ドラム状回転コレクターの直径を50~300mm、回転数を10~3000rpm、ニードル間距離を1.5~20.0cm、トラバース幅を100~500mm、トラバース速度を10~300mm/秒、紡糸時間を0.1~10時間の範囲を例示できる。
【実施例】
【0036】
下記の実施例は、例示を目的としたものに過ぎない。本発明の範囲は、本実施例に限定されない。
【0037】
実施例中に示した物性値の測定方法と定義を以下に示す。
<平均繊維径>
日立株式会社製の走査型電子顕微鏡(SU-8000)を使用して、混繊不織布の表面を5000~30000倍で観察し、画像解析ソフトを用いて繊維50本の直径を測定し、繊維50本の繊維径の平均値を平均繊維径とし、変動係数を算出した。
<フィルター性能>
TSI社製のフィルター効率自動検出装置(Model8130)を使用して、ポリアルファオレフィン(粒子径:0.20μm(個数中央径)、粒子濃度:150mg/m3)を測定流速5.3cm/秒でサンプルを通過させたときの圧力損失および捕集効率を測定した。
また、TSI社製のフィルター効率自動検出装置(Model8130)を使用して、ポリアルファオレフィン(粒子径:0.20μm(個数中央径)、粒子濃度:150mg/m3)を測定流速5.3cm/秒で連続通風し、圧力損失が250Pa分、上昇したときの粒子の付着重量を測定し、フィルターの寿命を判断した。該付着重量が多いほど、フィルター寿命が長いことを示す。
【0038】
紡糸溶液1
ARKEMA社製のポリフッ化ビニリデン(Kynar3120-50;融点165℃)11重量部、N,N-ジメチルホルムアミド53.4重量部、テトラヒドロフラン35.6重量部、ドデシル硫酸ナトリウム0.05重量部からなる紡糸溶液を調製した。
【0039】
紡糸溶液2
ARKEMA社製のポリフッ化ビニリデン(Kynar3120-50;融点165℃)を13重量部、N,N-ジメチルホルムアミド52.2重量部、テトラヒドロフラン34.8重量部、ドデシル硫酸ナトリウム0.05重量部からなる紡糸溶液を調製した。
【0040】
紡糸溶液3
ARKEMA社製のポリフッ化ビニリデン(Kynar3120-50;融点165℃)を16重量部、N,N-ジメチルホルムアミド50.4重量部、テトラヒドロフラン33.6重量部、ドデシル硫酸ナトリウム0.05重量部からなる紡糸溶液を調製した。
【0041】
紡糸溶液4
ARKEMA社製のポリフッ化ビニリデン(Kynar3120-50;融点165℃)を20重量部、N,N-ジメチルホルムアミド48重量部、テトラヒドロフラン32重量部、ドデシル硫酸ナトリウム0.05重量部からなる紡糸溶液を調製した。
【0042】
紡糸溶液5
ARKEMA社製のポリフッ化ビニリデン(Kynar2500-20;融点125℃)を25重量部、N,N-ジメチルホルムアミド52.5重量部、テトラヒドロフラン22.5重量部からなる紡糸溶液を調製した。
【0043】
紡糸溶液6
ARKEMA社製のポリフッ化ビニリデン(Kynar2500-20;融点125℃)を25重量部、N,N-ジメチルホルムアミド37.5重量部、テトラヒドロフラン37.5重量部からなる紡糸溶液を調製した。
【0044】
紡糸溶液7
ARKEMA社製のポリフッ化ビニリデン(Kynar2500-20;融点125℃)を25重量部、N,N-ジメチルホルムアミド22.5重量部、テトラヒドロフラン52.5重量部からなる紡糸溶液を調製した。
【0045】
[実施例1]
捕集部として、直径200mmのドラム状回転コレクターを用い、コレクター表面にポリエチレンテレフタレート製不織布(目付:18g/m2、比容積:3.8cm3/g)を取りつけた。次いで、回転コレクターの回転方向と水平方向に、内径0.22mmのニードルを2本取り付けた。紡糸溶液1及び紡糸溶液4を、いずれも1.0mL/hrで各ニードル先端に供給するとともに、ニードルに30kVの電圧を印加し、融点の異なるポリフッ化ビニリデンからなる極細繊維を静電紡糸した。ニードル先端と接地されたコレクター間の距離は15cmとした。ドラム状回転コレクターの回転速度を50rpm、ニードルを200mm幅、100mm/秒の速度で回転方向に対して垂直方向にトラバースさせ、1時間紡糸を行うことで、基材上に、目付が2.20g/m2の混繊不織布を積層させた。混繊不織布を構成する第一の繊維と第二の繊維の本数比は、87.8:12.2であった。得られた積層体のフィルター性能は、圧力損失が187Pa、捕集効率が99.95%、PF値が17.75、フィルター寿命は、16.2mg/100cm2であった。積層体の混繊不織布面を擦っても毛羽立ちが発生せず、耐摩耗性や加工性に優れていた。
【0046】
[実施例2]
捕集部として、直径200mmのドラム状回転コレクターを用い、コレクター表面にポリエチレンテレフタレート製不織布(目付:18g/m2、比容積:3.8cm3/g)を取りつけた。次いで、回転コレクターの回転方向と水平方向に、内径0.22mmのニードルを2本取り付けた。紡糸溶液1及び紡糸溶液5を、それぞれ1.0mL/hr及び3.0mL/hrで各ニードル先端に供給するとともに、ニードルに30kVの電圧を印加し、融点の異なるポリフッ化ビニリデンからなる極細繊維を静電紡糸した。ニードル先端と接地されたコレクター間の距離は15cmとした。ドラム状回転コレクターの回転速度を50rpm、ニードルを200mm幅、100mm/秒の速度で回転方向に対して垂直方向にトラバースさせ、1時間紡糸を行うことで、基材上に、目付が6.49g/m2の混繊不織布を積層させた。混繊不織布を構成する第一の繊維と第二の繊維の本数比は、83.5:16.5であった。得られた積層体のフィルター性能は、圧力損失が241Pa、捕集効率が99.99%、PF値が16.52、フィルター寿命は25.9mg/100cm2であった。積層体の混繊不織布面を擦っても毛羽立ちが発生せず、耐摩耗性や加工性に優れていた。
【0047】
[実施例3]
紡糸溶液5に変えて紡糸溶液6を用いた以外、実施例2と同様にして、基材上に、目付が6.39g/m2の混繊不織布を積層させた。混繊不織布を構成する第一の繊維と第二の繊維の本数比は、93.3:6.7であった。得られた積層体のフィルター性能は、圧力損失が177Pa、捕集効率が99.95%、PF値が18.44、フィルター寿命は37.6mg/100cm2であった。積層体の混繊不織布面を擦っても毛羽立ちが発生せず、耐摩耗性や加工性に非常に優れていた。
【0048】
[実施例4]
紡糸溶液5に変えて紡糸溶液7を用いた以外、実施例2と同様にして、基材上に、目付が5.73g/m2の混繊不織布を積層させた。混繊不織布を構成する第一の繊維と第二の繊維の本数比は、97.5:2.5であった。得られた積層体のフィルター性能は、圧力損失が161Pa、捕集効率が99.94%、PF値が20.19、フィルター寿命は41.7mg/100cm2であった。積層体の混繊不織布面を擦っても毛羽立ちが発生せず、耐摩耗性や加工性に非常に優れていた。
【0049】
[実施例5]
紡糸溶液1に変えて紡糸溶液2を用いた以外、実施例3と同様にして、基材上に、目付が6.42g/m2の混繊不織布を積層させた。混繊不織布を構成する第一の繊維と第二の繊維の本数比は、88.0:12.0であった。得られた積層体のフィルター性能は、圧力損失が198Pa、捕集効率が99.89%、PF値が14.89、フィルター寿命は35.3mg/100cm2であった。積層体の混繊不織布面を擦っても毛羽立ちが発生せず、耐摩耗性や加工性に非常に優れていた。
【0050】
[実施例6]
紡糸溶液1に変えて紡糸溶液3を用いた以外、実施例3と同様にして、基材上に、目付が6.79g/m2の混繊不織布を積層させた。混繊不織布を構成する第一の繊維と第二の繊維の本数比は、83.5:16.5であった。得られた積層体のフィルター性能は、圧力損失が168Pa、捕集効率が99.06%、PF値が12.08、フィルター寿命は48.8mg/100cm2であった。積層体の混繊不織布面を擦っても毛羽立ちが発生せず、耐摩耗性や加工性に非常に優れていた。
【0051】
[実施例7]
捕集部として、直径200mmのドラム状回転コレクターを用い、コレクター表面にポリエチレンテレフタレート製不織布(目付:18g/m2、比容積:3.8cm3/g)を取りつけた。回転コレクターの回転方向と水平方向に、内径0.22mmのニードルを3本取り付け、その内2本からは紡糸溶液1を1.0mL/hrで、残りの1本からは紡糸溶液6を3.0mL/hrで供給するとともに、ニードルに30kVの電圧を印加し、融点の異なるポリフッ化ビニリデンからなる極細繊維を静電紡糸した。ニードル先端と接地されたコレクター間の距離は15cmとした。ドラム状回転コレクターの回転速度を50rpm、ニードルを200mm幅、100mm/秒の速度で回転方向に対して垂直方向にトラバースさせ、0.5時間紡糸を行うことで、基材上に、目付が3.66g/m2の混繊不織布を積層させた。混繊不織布を構成する第一の繊維と第二の繊維の本数比は、96.5:3.5であった。得られた積層体のフィルター性能は、圧力損失が138Pa、捕集効率が99.81%、PF値が19.60、フィルター寿命は30.5mg/100cm2であった。積層体の混繊不織布面を擦っても毛羽立ちが発生せず、耐摩耗性や加工性に優れていた。
【0052】
[実施例8]
捕集部として、直径200mmのドラム状回転コレクターを用い、コレクター表面にポリエチレンテレフタレート製不織布(目付:18g/m2、比容積:3.8cm3/g)を取りつけた。回転コレクターの回転方向と水平方向に、内径0.22mmのニードルを3本取り付け、その内2本からは紡糸溶液6を3.0mL/hrで、残りの1本からは紡糸溶液1を1.0mL/hrで供給するとともに、ニードルに30kVの電圧を印加し、融点の異なるポリフッ化ビニリデンからなる極細繊維を静電紡糸した。ニードル先端と接地されたコレクター間の距離は15cmとした。ドラム状回転コレクターの回転速度を50rpm、ニードルを200mm幅、100mm/秒の速度で回転方向に対して垂直方向にトラバースさせ、1時間紡糸を行うことで、基材上に、目付が11.95g/m2の混繊不織布を積層させた。混繊不織布を構成する第一の繊維と第二の繊維の本数比は、87.5:12.5であった。得られた積層体のフィルター性能は、圧力損失が245Pa、捕集効率が99.98%、PF値が15.32、フィルター寿命は43.6mg/100cm2であった。積層体の混繊不織布面を擦っても毛羽立ちが発生せず、耐摩耗性や加工性に非常に優れていた。
【0053】
[比較例1]
紡糸溶液4に変えて紡糸溶液3を用い、紡糸時間を1.5時間とした以外、実施例1と同様にして、基材上に、目付が2.93g/m2の混繊不織布を積層させた。混繊不織布を構成する第一の繊維と第二の繊維の本数比は、73.3:26.7であった。得られた積層体のフィルター性能は、圧力損失が364Pa、捕集効率が99.999%、PF値が17.67、フィルター寿命は11.1mg/100cm2であった。積層体の混繊不織布面を擦ったところ、混繊不織布は破断してしまった。得られた混繊不織布は、平均繊維径が200nm以下の繊維で構成されているため強度が弱く優れた加工性は得られない。また、緻密なマトリクス構造を有しているためフィルター寿命が短くなったと考えられる。
【0054】
[比較例2]
紡糸時間を0.3時間とした以外、実施例3と同様にして、基材上に、目付が1.84g/m2の混繊不織布を積層させた。混繊不織布を構成する第一の繊維と第二の繊維の本数比は、93.3:6.7であった。得られた積層体のフィルター性能は、圧力損失が51Pa、捕集効率が88.62%、PF値が18.52、フィルター寿命は37.1mg/100cm2であった。積層体の混繊不織布面を擦ったところ少し毛羽立ちが発生した。目付が1.84g/m2と低いために、捕集効率や加工性が低下したと考えられる。
【0055】
[比較例3]
紡糸溶液1に変えて紡糸溶液4を用いた以外、実施例3と同様にして、基材上に、目付が7.20g/m2の混繊不織布を積層させた。混繊不織布を構成する第一の繊維と第二の繊維の本数比は、65.9:34.1であった。得られた積層体のフィルター性能は、圧力損失が121Pa、捕集効率が91.13%、PF値が8.67、フィルター寿命は80.8mg/100cm2であった。積層体の混繊不織布面を擦ったところ毛羽立ちが発生せず、耐摩耗性や加工性に非常に優れていた。しかし、第一の繊維の平均繊維径が大きいために、満足できるPF値が得られなかったと考えられる。
【0056】
[比較例4]
捕集部として、直径200mmのドラム状回転コレクターを用い、コレクター表面にポリエチレンテレフタレート製不織布(目付:18g/m2、比容積:3.8cm3/g)を取りつけた。シリンジポンプにより内径0.22mmのニードル先端に紡糸溶液1を1.0mL/hrで供給するとともに、ニードルに30kVの電圧を印加し、ポリフッ化ビニリデンからなる極細繊維を静電紡糸した。ニードル先端と接地されたコレクター間の距離は15cmとした。ドラム状回転コレクターの回転速度を50rpm、ニードルを200mm幅、100mm/秒の速度で回転方向に対して垂直方向にトラバースさせ、1時間紡糸を行うことで、基材上に、目付が0.79g/m2の極細繊維不織布を積層させた。極細繊維不織布を構成する繊維の平均繊維径及び変動係数は、それぞれ80nmおよび0.36であった。得られた積層体のフィルター性能は、圧力損失が131Pa、捕集効率が99.83%、PF値が21.26、フィルター寿命は8.7mg/100cm2であった。
【0057】
[比較例5]
紡糸溶液1に変えて紡糸溶液2を用いた以外は、比較例4と同様にして、基材上に、目付が0.94g/m2の極細繊維不織布を積層させた。極細繊維不織布を構成する繊維の平均繊維径及び変動係数は、それぞれ120nmおよび0.29であった。得られた積層体のフィルター性能は、圧力損失が123Pa、捕集効率が99.04%、PF値が16.34、フィルター寿命は11.1mg/100cm2であった。
【0058】
[比較例6]
紡糸溶液1に変えて紡糸溶液3を用いた以外は、比較例4と同様にして、基材上に、目付が1.17g/m2の極細繊維不織布を積層させた。極細繊維不織布を構成する繊維の平均繊維径及び変動係数は、それぞれ160nmおよび0.27であった。得られた積層体のフィルター性能は、圧力損失が115Pa、捕集効率が97.85%、PF値が14.56、フィルター寿命は14.8mg/100cm2であった。
【0059】
[比較例7]
紡糸溶液1に変えて紡糸溶液4を用いた以外は、比較例4と同様にして、基材上に、目付が1.46g/m2の極細繊維不織布を積層させた。極細繊維不織布を構成する繊維の平均繊維径及び変動係数は、それぞれ290nmおよび0.34であった。得られた積層体のフィルター性能は、圧力損失が57Pa、捕集効率が75.70%、PF値が10.86、フィルター寿命は39.3mg/100cm2であった。
【0060】
[比較例8]
捕集部として、直径200mmのドラム状回転コレクターを用い、コレクター表面にポリエチレンテレフタレート製不織布(目付:18g/m2、比容積:3.8cm3/g)を取りつけた。シリンジポンプにより内径0.22mmのニードル先端に紡糸溶液5を3.0mL/hrで供給するとともに、ニードルに30kVの電圧を印加し、ポリフッ化ビニリデンからなる極細繊維を静電紡糸した。ニードル先端と接地されたコレクター間の距離は15cmとした。ドラム状回転コレクターの回転速度を50rpm、ニードルを200mm幅、100mm/秒の速度で回転方向に対して垂直方向にトラバースさせ、1時間紡糸を行うことで、基材上に、目付が5.73g/m2の極細繊維不織布を積層させた。極細繊維不織布を構成する繊維の平均繊維径及び変動係数は、それぞれ470nmおよび0.41であった。得られた積層体のフィルター性能は、圧力損失が119Pa、捕集効率が94.98%、PF値が10.96、フィルター寿命は58.2mg/100cm2であった。
【0061】
[比較例9]
紡糸溶液5に変えて紡糸溶液6を用いた以外は、比較例8と同様にして、基材上に、目付が5.73g/m2の極細繊維不織布を積層させた。極細繊維不織布を構成する繊維の平均繊維径及び変動係数は、それぞれ780nmおよび0.32であった。得られた積層体のフィルター性能は、圧力損失が66Pa、捕集効率が50.90%、PF値が4.66、フィルター寿命は102.9mg/100cm2であった。
【0062】
[比較例10]
紡糸溶液5に変えて紡糸溶液7を用いた以外は、比較例8と同様にして、基材上に、目付が5.75g/m2の極細繊維不織布を積層させた。極細繊維不織布を構成する繊維の平均繊維径及び変動係数は、それぞれ1310nmおよび0.13であった。得られた積層体のフィルター性能は、圧力損失が34Pa、捕集効率が33.10%、PF値が5.13であり、フィルター寿命は、目詰まりしにくいため測定できなかった。
【0063】
実施例1~8、比較例1~3の混繊不織布、及び比較例4~10の極細繊維不織布について、第一の繊維の平均繊維径と変動系、第二の繊維の平均繊維径と変動係数、第一の繊維と第二の繊維の本数比、目付、圧力損失、捕集効率、PF値及びフィルター寿命を表1に示す。
【0064】
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の混繊不織布、積層体及びこれらを用いたフィルター用の濾材は、ダストの捕集効率が高く、圧力損失が低く、長寿命であるか、またはこれらの効果のバランスに優れ、フィルターへの加工強度に優れるため、エアフィルター用濾材や液体フィルター用濾材として好適に用いることが可能である。特に、掃除機や空気清浄機などの家電用エアフィルター、ビル空調用のエアフィルター、産業用の中・高性能フィルター、クリーンルーム用のHEPAフィルターやULPAフィルターに好適なフィルター濾材を提供することが可能となる。