(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-23
(45)【発行日】2022-05-31
(54)【発明の名称】トロリ線
(51)【国際特許分類】
B60M 1/13 20060101AFI20220524BHJP
【FI】
B60M1/13 A
(21)【出願番号】P 2018030437
(22)【出願日】2018-02-23
【審査請求日】2020-09-18
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】特許業務法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田村 和彦
(72)【発明者】
【氏名】蛭田 浩義
(72)【発明者】
【氏名】安部 英則
【審査官】岩田 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-157233(JP,A)
【文献】特開平04-197838(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60M 1/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に沿って1つ以上の検知線用溝が形成されたトロリ線本体と、前記検知線用溝に収容された検知線と、を備え、
前記長手方向と垂直な断面において、前記検知線用溝の溝幅が最も小さくなっている部分である開口幅が、
長手方向全体にわたって0.01mm以上
0.45mm以下であ
り、
前記検知線用溝は、長手方向全体にわたって完全に閉じた箇所がない、
トロリ線。
【請求項2】
前記トロリ線本体は、ハンガにより吊り下げるためのイヤー溝を有し、
前記検知線用溝は、前記イヤー溝よりも下方に設けられている、
請求項
1に記載のトロリ線。
【請求項3】
前記検知線は、前記トロリ線本体の摩耗を検知するための摩耗検知線であり、導体と、該導体を覆う絶縁体とを有する絶縁電線からなる、
請求項
2に記載のトロリ線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トロリ線に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両が走行する空間の上部に架線されるトロリ線では、パンタグラフとの摺動及び接触により、接触面が列車の通過とともに摩耗していく。そこで、接触面の摩耗量を検知するための摩耗検知線等の検知線を内蔵したトロリ線が知られている。このトロリ線は、長手方向に沿って1つ以上の検知線用溝が形成されたトロリ線本体を備えており、このトロリ線本体の検知線用溝に、検知線が収容されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
検知線用溝は、溝加工によりトロリ線本体に形成された凹溝に検知線を収容した後、その凹溝の開口を閉じる(狭くする)ようにトロリ線本体にかしめ加工を行うことで、形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の検知線を備えたトロリ線では、列車の走行時にパンタグラフとトロリ線の接触によって発生するアーク(火花)が検知線用溝内に侵入し、検知線にダメージを与えてしまう場合があった。
【0006】
そこで、本発明は、パンタグラフとトロリ線の接触によって発生するアークによる検知線へのダメージを抑制可能なトロリ線を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、長手方向に沿って1つ以上の検知線用溝が形成されたトロリ線本体と、前記検知線用溝に収容された検知線と、を備え、前記検知線用溝の開口幅が、0.01mm以上0.50mm未満である、トロリ線を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、パンタグラフとトロリ線の接触によって発生するアークによる検知線へのダメージを抑制可能なトロリ線を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施の形態に係るトロリ線の長手方向に垂直な断面を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0011】
(トロリ線の全体構成)
図1は、本実施の形態に係るトロリ線の長手方向に垂直な断面を示す断面図である。
図1に示すように、トロリ線1は、トロリ線本体2と、検知線3と、を備えている。
【0012】
トロリ線本体2は、異形丸形のトロリ線であり、上部の小弧面21、下部の大弧面22、両側部の小弧面21と大弧面22の間のV字状のイヤー溝23と、を有する。トロリ線本体2は、例えば、JISE2101、EN50149に規定されたみぞ付硬銅トロリ線に該当する。
【0013】
トロリ線本体2は、銅合金、例えば、Cu-Sn-In系合金又はCu-Sn系合金を主成分とする。具体的に、トロリ線本体2は、錫(Sn)が0質量%超0.6質量%以下、インジウム(In)が0質量%超0.1質量%以下で含有され、残部が銅及び不可避不純物からなるCu-Sn-In系合金、又は錫(Sn)が0質量%超0.3質量%以下で含有され、残部が銅及び不可避不純物からなるCu-Sn系合金で構成されることが好ましい。トロリ線本体2の公称断面積は、例えば85mm2(85SQ)以上かつ170mm2(170SQ)以下である。
【0014】
トロリ線1を介して、例えば高速で走行する新幹線などの鉄道車両からなる電気車に給電が行われる際には、トロリ線本体2の大弧面22の底部が、パンタグラフ等の電気車の集電装置(以下、単にパンタグラフという)に接触する。このため、パンタグラフの摺動により、トロリ線本体2は大弧面22の底部から摩耗する。摩耗が進むとトロリ線本体2が断線するおそれがあるため、トロリ線1には、トロリ線本体2の摩耗量をするための摩耗検知線として検知線3が備えられている。
【0015】
検知線3を収容する検知線用溝24は、イヤー溝23よりも下方、すなわち大弧面22に設けられている。より具体的には、検知線用溝24は、その上端の位置がトロリ線本体2の摩耗限度位置26に一致するような位置に設けられる。検知線用溝24の詳細については、後述する。
【0016】
図1に示される例では、トロリ線本体2の中心線27の両側に1つずつ、計2つの検知線用溝24が設けられ、それら2つの検知線用溝24の各々に摩耗検知線としての検知線3が配置されている。2つの検知線3を用いることにより、偏摩耗が生じた場合にも摩耗を検知することができる。なお、ここでは、両検知線用溝24を、中心線27に対して線対称となるように同じ高さ位置に形成したが、これに限らず、両検知線用溝24の高さ位置を異ならせてもよい。両検知線用溝24の高さ位置を異ならせることで、トロリ線本体2の摩耗量を段階的に検知可能となる。
【0017】
本実施の形態では、検知線3は、複数の金属素線を撚り合わせた撚線導体等からなる導体31と、導体31を覆う絶縁体32とを有する絶縁電線からなる。ここでは、外径1.55mmの絶縁電線を検知線3として用いた。トロリ線1では、トロリ線本体2の摩耗が進行すると、設定された摩耗限度位置26に達する前に検知線3が摩耗され、絶縁体32が剥がれて導体31とトロリ線本体2とが導通する。図示しない断線検知システムにより、この導体31とトロリ線本体2とが導通を検知することで、トロリ線本体2が限界近くまで摩耗していることを検知することができる。なお、検知線3は絶縁電線に限らず、光ファイバであってもよい。
【0018】
また、検知線3は、摩耗検知線以外の物理量、例えば、温度、歪み、振動、変形量などを検知するためのものであってもよい。さらに、検知線3は、トロリ線本体2を加熱するヒータ線や、通信線を含んでもよい。また、
図1では1つの検知線用溝24に1つの検知線3を収容する場合を示しているが、1つの検知線用溝24に複数の検知線3が収容されていてもよい。
【0019】
(架線の構成の説明)
図2は、トロリ線1を含む架線の構成の一例を示す模式図である。
【0020】
図2に示すように、トロリ線1は、図示しない鉄道車両が走行する線路100の上方の空間に架設される。ここでは、一例として、架線の構成がコンパウンドカテナリー方式である場合を説明する。なお、架線の構成は、シンプルカテナリー方式であってもよい。
【0021】
コンパウンドカテナリー方式では、吊架線11からドロッパ12により補助吊架線13を吊り下げ、補助吊架線13からハンガ14によりトロリ線1を吊り下げた構成となっている。トロリ線1は、ハンガ14の下端部をイヤー溝23に係止することで、ハンガ14により吊り下げられている。補助吊架線13とトロリ線1はそれぞれ引留クランプ15,16の一端に固定され、引留クランプ15,16の他端が、それぞれターンバックル17,18を介してヨーク金具19に連結されている。ヨーク金具19は、補助吊架線13とトロリ線1の張力のバランスをとる役割を果たしている。
【0022】
(検知線用溝24の説明)
図1に戻り、本実施の形態に係るトロリ線1では、検知線用溝24の開口幅dが、0.01mm以上0.50mm未満とされる。ここで検知線用溝24の開口幅dとは、長手方向と垂直な断面において、大弧面22の外表面近傍で検知線用溝24の溝幅が最も小さくなっている部分での溝幅である。
【0023】
検知線用溝24は、トロリ線本体2に溝加工にて凹溝を形成し、この凹溝に検知線3を挿入した後に、凹溝の開口を閉じる(狭くする)ようにトロリ線本体2をかしめることで形成される。検知線用溝24の開口幅dを0.01mm未満と小さくするためには、トロリ線本体2をかしめる際に強加工を行う必要があり、長手方向の少なくとも1部において検知線用溝24が完全に閉じた状態となってしまうことがある。この検知線用溝24の閉じ口において、トロリ線本体2の一部が盛り上がり(所謂バリになり)、外観不具合となるおそれがある。また、長手方向の一部において検知線用溝24が完全に閉じられていると、隙間のある箇所から浸入した雨水が検知線用溝24の閉じた箇所に移動して留まってしまい、この雨水が凍結した際等に検知線3に損傷を与えてしまうおそれがある。よって、検知線用溝24は、長手方向全体にわたって完全に閉じた箇所がないことが望ましく、検知線用溝24の開口幅dを0.01mm以上とすることが望ましい。
【0024】
また、検知線用溝24の開口幅dを0.50mm以上とすると、架設環境において、列車の走行時にパンタグラフとトロリ線1の接触によって発生するアーク(火花)が検知線用溝24内に侵入し、検知線3の絶縁体32を損傷して寿命低下等の不具合が生じるおそれがある。このような不具合を抑制するため、検知線用溝24の開口幅dは、少なくとも0.50mm未満とする必要がある。
【0025】
アークの検知線用溝24内への侵入をより確実に抑制するために、検知線用溝24の開口幅dは、0.01mm以上0.45mm以下とすることがより好ましい。
【0026】
なお、検知線3の絶縁体32として、非常に耐熱性が高く、耐候性に優れた材質のものを使用することで、検知線用溝24の開口幅dが大きい場合であっても、検知線3の損傷や寿命低下の不具合を抑制することは可能である。しかし、この場合、検知線3のコストが非常に高くなり、トロリ線1全体のコストが大幅に上昇してしまう。
【0027】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明したように、本実施の形態に係るトロリ線1では、検知線用溝24の開口幅dを、0.01mm以上0.50mm未満としている。これにより、トロリ線1の外観不良を抑制できると共に、パンタグラフとトロリ線1の接触によって発生するアーク(火花)が検知線用溝24内に侵入し、検知線3にダメージを与えてしまうことを抑制可能となる。その結果、検知線3の寿命低下を抑制して長期間にわたって使用可能な検知線3入りのトロリ線1を実現できる。
【0028】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0029】
[1]長手方向に沿って1つ以上の検知線用溝(24)が形成されたトロリ線本体(2)と、前記検知線用溝(24)に収容された検知線(3)と、を備え、前記検知線用溝(24)の開口幅が、0.01mm以上0.50mm未満である、トロリ線(1)。
【0030】
[2]前記検知線用溝(24)の開口幅が、0.01mm以上0.45mm以下である、[1]に記載のトロリ線(1)。
【0031】
[3]前記トロリ線本体(2)は、ハンガ(14)により吊り下げるためのイヤー溝(23)を有し、前記検知線用溝(24)は、前記イヤー溝(23)よりも下方に設けられている、[1]または[2]に記載のトロリ線(1)。
【0032】
[4]前記検知線(3)は、前記トロリ線本体(2)の摩耗を検知するための摩耗検知線であり、導体(31)と、該導体(31)を覆う絶縁体(32)とを有する絶縁電線からなる、[3]に記載のトロリ線(1)。
【0033】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【0034】
本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0035】
1…トロリ線
2…トロリ線本体
21…小弧面
22…大弧面
23…イヤー溝
24…検知線用溝
3…検知線
31…導体
32…絶縁体