IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社リコーの特許一覧

特許7077685駆動装置、駆動システム、画像形成装置、および搬送装置
<>
  • 特許-駆動装置、駆動システム、画像形成装置、および搬送装置 図1
  • 特許-駆動装置、駆動システム、画像形成装置、および搬送装置 図2
  • 特許-駆動装置、駆動システム、画像形成装置、および搬送装置 図3
  • 特許-駆動装置、駆動システム、画像形成装置、および搬送装置 図4
  • 特許-駆動装置、駆動システム、画像形成装置、および搬送装置 図5
  • 特許-駆動装置、駆動システム、画像形成装置、および搬送装置 図6
  • 特許-駆動装置、駆動システム、画像形成装置、および搬送装置 図7
  • 特許-駆動装置、駆動システム、画像形成装置、および搬送装置 図8
  • 特許-駆動装置、駆動システム、画像形成装置、および搬送装置 図9
  • 特許-駆動装置、駆動システム、画像形成装置、および搬送装置 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-23
(45)【発行日】2022-05-31
(54)【発明の名称】駆動装置、駆動システム、画像形成装置、および搬送装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/24 20160101AFI20220524BHJP
【FI】
H02P21/24
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018047359
(22)【出願日】2018-03-14
(65)【公開番号】P2019161919
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2020-12-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(72)【発明者】
【氏名】山本 典弘
【審査官】安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-273254(JP,A)
【文献】特開2017-229196(JP,A)
【文献】特開2011-135652(JP,A)
【文献】特開2005-261138(JP,A)
【文献】特開2004-096977(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを駆動する駆動装置であって、
前記モータのモータ角と、前記モータの推定角との誤差を検出する誤差検出部と、
前記誤差検出部によって検出された前記誤差の検出ゲインを補正するためのゲイン補正値を導出する補正値導出部と、
前記補正値導出部によって導出された前記ゲイン補正値に基づいて、前記検出ゲインを補正することにより、当該検出ゲインの補正がなされた後の、前記モータ角と前記推定角との誤差を出力する検出ゲイン補正部とを備え、
前記誤差検出部は、前記モータに関する入力値に基づいて、所定の演算式に基づく演算を行うことにより、前記モータの永久磁石磁束のqc軸成分を、前記誤差として検出し、
前記補正値導出部は、前記モータに関する入力値に基づいて、所定の演算式に基づく演算を行うことにより、前記モータの永久磁石磁束のdc軸成分を、前記ゲイン補正値として導出し、
前記検出ゲイン補正部は、前記モータの永久磁石磁束のdc軸成分が、目標値となるように、前記検出ゲインを補正することにより、当該検出ゲインの補正がなされた後の、前記モータ角と前記推定角との誤差を出力する、駆動装置。
【請求項2】
前記モータと、
請求項に記載の駆動装置とを備える駆動システム。
【請求項3】
請求項に記載の駆動システムと、
前記モータの動力によって駆動される駆動対象と、
を備える画像形成装置。
【請求項4】
請求項に記載の駆動システムと、
前記モータの動力によって駆動される駆動対象と、
を備える搬送装置。
【請求項5】
モータを駆動する駆動装置であって、
前記モータのモータ角と、前記モータの推定角との誤差を検出する誤差検出部と、
前記誤差検出部によって検出された前記誤差の検出ゲインを補正するためのゲイン補正値を導出する補正値導出部と、
前記補正値導出部によって導出された前記ゲイン補正値に基づいて、前記検出ゲインを補正することにより、当該検出ゲインの補正がなされた後の、前記モータ角と前記推定角との誤差を出力する検出ゲイン補正部とを備え、
前記誤差検出部は、前記モータに関する入力値に基づいて、所定の演算式に基づく演算を行うことにより、前記モータの誘起電圧のdc軸成分を、前記誤差として検出し、
前記補正値導出部は、前記モータに関する入力値に基づいて、所定の演算式に基づく演算を行うことにより、前記モータの誘起電圧のqc軸成分を、前記ゲイン補正値として導出し、
前記検出ゲイン補正部は、前記モータの誘起電圧のqc軸成分が、目標値となるように、前記検出ゲインを補正することにより、当該検出ゲインの補正がなされた後の、前記モータ角と前記推定角との誤差を出力する、駆動装置。
【請求項6】
前記モータと、
請求項に記載の駆動装置と、
を備える駆動システム。
【請求項7】
請求項に記載の駆動システムと、
前記モータの動力によって駆動される駆動対象と、
を備える画像形成装置。
【請求項8】
請求項に記載の駆動システムと、
前記モータの動力によって駆動される駆動対象と、
を備える搬送装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動装置、駆動システム、画像形成装置、および搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータのセンサレス制御方法として、クローズドループ制御が知られている。クローズドループ制御は、モータの回転角や回転速度等をフィードバックし、モータの回転角や回転速度等が所望の制御値に一致するように、モータを制御する制御方法である。クローズドループ制御によれば、モータを高精度に制御することができる。
【0003】
このようなクローズドループ制御においては、モータ角(モータの回転子の実際の角度)と推定角(モータの回転子の推定された角度)との誤差Δθを、駆動電圧、モータの電流、モータ特性(コイル抵抗、コイルインダクタンス、逆起電圧定数等)等を用いて算出し、その誤差Δθを、PLL(Phase Locked Loop)制御を用いたPI(Proportional Integral)制御を行うことによってゼロに収束させることで、推定角をモータ角に一致させる技術が利用されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、PLL制御によって誤差Δθを収束させる際には、その入力となる誤差Δθを検出する際の検出ゲインが一定であることが前提となっている。しかしながら、本発明の発明者らは、モータの動作条件(例えば、負荷電流、負荷トルク、モータ回転速度等)が変化した際に、誤差Δθの検出ゲインが所定の値から変化する場合があることを見出した。このように、誤差Δθの検出ゲインが所定の値から変化してしまうと、PI制御を行う際に、位相余裕が十分に確保できずに発振してしまう等の不具合が生じてしまう虞がある。
【0005】
なお、下記特許文献1には、誘起電圧の誤差を補償する技術が開示されているが、この技術は、モータの動作条件(例えば、負荷電流、負荷トルク、モータ回転速度等)が変化した際に、誤差Δθの検出ゲインを補償することができるものではない。
【0006】
本発明は、上述した従来技術の課題を解決するため、モータ角と推定角との誤差の検出ゲインを一定に保つことにより、当該誤差を収束させるためのPI制御における不具合の発生を抑制することができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、本発明の駆動装置は、モータを駆動する駆動装置であって、前記モータのモータ角と、前記モータの推定角との誤差を検出する誤差検出部と、
前記誤差検出部によって検出された前記誤差の検出ゲインを補正するためのゲイン補正値を導出する補正値導出部と、前記補正値導出部によって導出された前記ゲイン補正値に基づいて、前記検出ゲインを補正することにより、当該検出ゲインの補正がなされた後の、前記モータ角と前記推定角との誤差を出力する検出ゲイン補正部とを備え、前記誤差検出部は、前記モータに関する入力値に基づいて、所定の演算式に基づく演算を行うことにより、前記モータの永久磁石磁束のqc軸成分を、前記誤差として検出し、前記補正値導出部は、前記モータに関する入力値に基づいて、所定の演算式に基づく演算を行うことにより、前記モータの永久磁石磁束のdc軸成分を、前記ゲイン補正値として導出し、前記検出ゲイン補正部は、前記モータの永久磁石磁束のdc軸成分が、目標値となるように、前記検出ゲインを補正することにより、当該検出ゲインの補正がなされた後の、前記モータ角と前記推定角との誤差を出力する
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、モータ角と推定角との誤差の検出ゲインを一定に保つことができるため、当該誤差を収束させるためのPI制御における不具合の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の第1実施形態に係る駆動システムの構成を示す図である。
図2】本発明の第1実施形態に係る駆動システムによって利用される座標系を模式的に示す図である。
図3】本発明の第1実施形態に係る推定部の具体的な構成を示す図である。
図4】本発明の第1実施形態に係る軸誤差信号およびゲイン補正信号の出力特性の一例を示す図である。
図5】本発明の第1実施形態に係るAGC部の具体的な構成を示す図である。
図6】本発明の第2実施形態に係る推定部の具体的な構成を示す図である。
図7】本発明の第3実施形態に係る推定部の具体的な構成を示す図である。
図8】本発明の第3実施形態に係るテーブルの一例を示す図である。
図9】本発明の第1実施例に係る画像形成装置の概略構成を示す図である。
図10】本発明の第2実施例に係る搬送装置の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔第1実施形態〕
以下、図面を参照して、本発明の第1実施形態について説明する。
【0011】
(駆動システム10の構成)
図1は、本発明の第1実施形態に係る駆動システム10の構成を示す図である。図1に示す駆動システム10は、モータ11、インバータ12、電流検出器13、および駆動装置100を備えている。
【0012】
モータ11は、2相のステッピングモータである。モータ11の各相を、A相およびB相と称する。モータ11は、A相およびB相のコイル(固定子)と、回転子と、を備える。回転子は、S極およびN極が交互に並んだ永久磁石により構成され、p個の極ペア(S極およびN極のペア)を有する。なお、本実施形態では、2相のステッピングモータを用いているが、3相ブラシレスモータやそれ以外のモータでも同様の方式での制御が可能である。
【0013】
以下では、回転子の1回転を1周期とする角度を機械角と称し、回転子の1回転をp周期とする角度を電気角と称する。電気角は、機械角のp倍に相当する。以降、断りのない限り、回転子の角度(位置)および速度(角速度)を電気角で表す。
【0014】
モータ11は、インバータ12から供給された電流によって駆動される。具体的には、モータ11は、A相およびB相のコイルに対し、インバータ12からそれぞれ電流IA,IBが供給される。A相およびB相のコイルは、インバータ12から供給された電流IA,IBに応じて、磁界を発生させる。モータ11の回転子は、A相およびB相のコイルによって発生した磁界によって回転する。
【0015】
インバータ12は、駆動装置100から出力された電圧指令値Va*,Vb*に応じた電流IA,IBをモータ11に供給する。これにより、インバータ12は、モータ11を駆動する。以下、*が付された値は、指令値(制御値)を示すものとする。電圧指令値Va*,Vb*は、モータ11のA相およびB相のコイルにそれぞれ印加する電圧の、電圧指令値である。なお、図1の例では、インバータ12が駆動装置100の外部に設けられているが、インバータ12は、駆動装置100の内部に設けられているものであってもよい。
【0016】
電流検出器13は、モータ11の電流値Ia,Ibを検出する。そして、電流検出器13は、検出された電流値Ia,Ibを、駆動装置100へ出力する。例えば、電流検出器13は、シャント抵抗、A/Dコンバータ等によって構成される。
【0017】
駆動装置100は、モータ11をセンサレス制御する装置である。図1に示すように、駆動装置100は、位置制御部101、速度制御部102、指令値切替部103、電流制御部104、第1座標変換部105、第2座標変換部106、推定部107、および選択部108を備えている。例えば、これらの各機能部は、メモリに格納されたプログラムをプロセッサが実行することにより実現される。
【0018】
位置制御部101は、角度指令値θ*と、角度推定値θestとに基づいて、両者の差分である、角度誤差θerrを算出する。角度指令値θ*は、モータ11の回転子の角度(位置)の指令値であり、外部(例えば、上位コントローラ)から入力される。角度推定値θestは、モータ11の回転子の角度(位置)の推定値であり、推定部107から入力される。そして、位置制御部101は、P(Proportional)制御、PI制御等を行うことにより、角度誤差θerrが0に追従するように、速度指令値ω*を出力する。速度指令値ω*は、モータ11の回転子の速度(角速度)の指令値である。位置制御部101から出力された速度指令値ω*は、速度制御部102に入力される。
【0019】
速度制御部102は、速度指令値ω*と、速度推定値ωestとに基づいて、両者の差分である、速度誤差ωerrを算出する。速度推定値ωestは、モータ11の回転子の速度の推定値であり、推定部107から入力される。そして、速度制御部102は、P制御、PI制御等を行うことにより、速度誤差ωerrが0に追従するように、電流指令値Iqcv*を出力する。電流指令値Iqcv*は、クローズドループ制御の場合において、モータ11に供給されるqc軸電流の指令値である。速度制御部102から出力された電流指令値Iqcv*は、指令値切替部103に入力される。
【0020】
指令値切替部103は、選択信号selに応じて、電流指令値Idc*,Iqc*を選択的に切り替えて出力する。選択信号selは、オープンループ制御またはクローズドループ制御のいずれかを指定する信号であり、外部(例えば、上位コントローラ)から入力される。電流指令値Idc*は、モータ11に供給される電流のdc軸成分であるdc軸電流の指令値である。電流指令値Iqc*は、モータ11に供給される電流のqc軸成分であるqc軸電流の指令値である。指令値切替部103から出力される電流指令値Idc*,Iqc*は、電流制御部104に入力される。
【0021】
例えば、指令値切替部103は、選択信号selによってクローズドループ制御が指定されている間、電流指令値Iqc*として、電流指令値Iqcv*を出力する。一方、指令値切替部103は、選択信号selによってオープンループ制御が指定されている間、電流指令値Idc*として、予め設定された電流指令値OpenIdc*を出力する。
【0022】
電流制御部104は、指令値切替部103から入力される電流指令値Idc*と、第2座標変換部106から入力される電流値Idcとに基づいて、両者の差分である、電流誤差Idcerrを算出する。または、電流制御部104は、指令値切替部103から入力される電流指令値Iqc*と、第2座標変換部106から入力される電流値Iqcとに基づいて、電流誤差Iqcerrを計算する。
【0023】
そして、電流制御部104は、P制御、PI制御等を行うことにより、電流誤差IdcerrまたはIqcerrが0に追従するように、電圧指令値Vdc*,Vqc*を出力する。電圧指令値Vdc*は、モータ11に印加する電圧のdc軸成分であるdc軸電圧の指令値である。電圧指令値Vqc*は、モータ11に印加する電圧のqc軸成分であるqc軸電圧の指令値である。電流制御部104から出力された電圧指令値Vdc*,Vqc*は、第1座標変換部105に入力される。また、電流制御部104から出力された電圧指令値Vdc*は、推定部107に入力される。
【0024】
第1座標変換部105は、電圧指令値Vdc*,Vqc*を、dcqc座標系からab座標系に座標変換することにより、電圧指令値Va*,Vb*を生成し、当該電圧指令値Va*,Vb*を出力する。第1座標変換部105から出力された電圧指令値Va*,Vb*は、インバータ12に入力される。電圧指令値Va*,Vb*は、以下の式(1)によって表される。
【0025】
【数1】
【0026】
式(1)において、右辺第1項は、座標変換のための変換行列である。θは、選択部108から第1座標変換部105に入力される角度である。オープンループ制御の場合、θは、角度指令値θ*である。クローズドループ制御の場合、θは、角度推定値θestである。
【0027】
第2座標変換部106は、電流検出器13から入力される電流値Ia,Ibを、ab座標系からdcqc座標系に座標変換することにより、電流値Idc,Iqcを生成し、当該電流値Idc,Iqcを出力する。第2座標変換部106から出力された電流値Idc,Iqcは、電流制御部104および推定部107に入力される。電流値Idc,Iqcは、以下の式(2)によって表される。
【0028】
【数2】
【0029】
式(2)において、右辺第1項は、座標変換のための変換行列である。θは、選択部108から第2座標変換部106に入力される角度である。オープンループ制御の場合、θは、角度指令値θ*である。クローズドループ制御の場合、θは、角度推定値θestである。
【0030】
推定部107は、電流制御部104から入力される電圧指令値Vdc*と、第2座標変換部106から入力される電流値Idc,Iqcとに基づいて、モータ11の回転子の角度推定値θestおよび速度推定値ωestを算出する。そして、推定部107は、算出された速度推定値ωestを、速度制御部102に出力する。また、推定部107は、算出された角度推定値θestを、位置制御部101および選択部108に出力する。推定部107は、角度推定値θestおよび速度推定値ωestの算出方法として、従来知られている任意の方法を利用できる。
【0031】
以下では、推定部107が、誘起電圧に基づいて、角度推定値θestおよび速度推定値ωestの算出を算出する例を説明する。
【0032】
モータ11には、以下の電圧方程式(3)~(5)が成り立つ。
【0033】
【数3】
【0034】
式(3)~式(5)において、Rは、コイルの巻線抵抗を示す。また、pは、微分演算子を示す。また、Ldは、d軸インダクタンスを示す。また、Lqは、q軸インダクタンスを示す。また、edcは、dc軸誘起電圧を示す。また、eqcは、qc軸誘起電圧を示す。また、Idcは、モータ11に供給される電流のdc軸成分を示す。また、Iqcは、モータ11に供給される電流のqc軸成分を示す。また、ωreは、モータ11の回転子の実際の速度を示す。また、θreは、モータ11の回転子の実際の角度を示す。また、Ψaは、永久磁石の電気子鎖交磁束を示す。
【0035】
また、式(3)より、以下の式(6)が成り立つ。
【0036】
【数4】
【0037】
また、ωest≒ωreである場合、式(4)および式(6)より、以下の式(7)が成り立つ。
【0038】
【数5】
【0039】
また、モータ11の回転子が等速回転中である場合、Idは0となり、Iqは一定となるため、式(5)は、以下の式(8)に書き換えられる。
【0040】
【数6】
【0041】
Idが0であり、且つ、Iqが一定である場合、Idcも一定となる。したがって、式(7)および式(8)より、以下の式(9)が成り立つ。
【0042】
【数7】
【0043】
クローズドループ制御では、実角度θreを角度指令値θ*と一致させるために、角度推定値θestが実角度θreと一致するように制御される。そこで、左辺を0とすると、以下の式(10)が成り立つ。
【0044】
【数8】
【0045】
推定部107は、式(10)を満たす実速度ωreを、速度推定値ωestとして出力する。また、推定部107は、速度推定値ωestを積分することにより、角度推定値θestを計算できる。
【0046】
選択部108は、外部(例えば、上位コントローラ)から入力される選択信号selに応じて、角度指令値θ*または角度推定値θestのいずれか一方を選択して出力する。具体的には、選択部108は、選択信号selによってオープンループ制御が指定された場合、角度指令値θ*を出力する。一方、選択部108は、選択信号selによってクローズドループ制御が指定された場合、角度推定値θestを出力する。選択部108から出力された角度指令値θ*または角度推定値θestは、第1座標変換部105および第2座標変換部106に入力される。
【0047】
(駆動システム10によって利用される座標系)
図2は、本発明の第1実施形態に係る駆動システム10によって利用される座標系を模式的に示す図である。図2において、実線は、ab座標系を示している。また、破線は、dq座標系を示している。また、点線は、dcqc座標系を示している。各座標系は、原点を共有する。
【0048】
ab座標系は、互いに直交するa軸およびb軸からなる固定座標系である。a軸はモータ11のA相に対応し、b軸はモータ11のB相に対応する。すなわち、A相のコイルに供給される電流IAの電流値Iaは、モータ11に供給される電流のa軸成分であり、B相のコイルに供給される電流Ibの電流値Ibは、モータ11に供給される電流のb軸成分である。
【0049】
dq座標系は、互いに直交するd軸およびq軸からなる回転座標系である。a軸に対するd軸の角度は、角度指令値θ*に相当する。すなわち、dq座標系は、回転子の理想的な位置を基準とする座標系である。
【0050】
dcqc座標系は、互いに直交するdc軸およびqc軸からなる回転座標系である。a軸に対するdc軸の角度は、回転子の角度推定値θestに相当し、dc軸に対するd軸の角度は角度誤差θerrに相当する。すなわち、dcqc座標系は、駆動装置100が推定した回転子の位置を基準とする座標系である。クローズドループ制御では、角度誤差θerrが0に追従するように、モータ11に電流が供給される。上述のqc軸電流とは、モータ11に供給される電流のqc軸成分のことである。
【0051】
(推定部107の具体的な構成)
図3は、本発明の第1実施形態に係る推定部107の具体的な構成を示す図である。図3に示すように、推定部107は、軸誤差検出部301、補正値導出部302、AGC(Automatic Gain Control)部303、およびPLL部304を備えている。
【0052】
軸誤差検出部301は、モータ11におけるモータ角と推定角との誤差を検出する。具体的には、軸誤差検出部301は、vdq(th)およびidq(th)が入力される。vdq(th)は、モータab軸に対して推定角th(上記角度推定値θestに相当)で回転演算することによって得られたvdc(上記電圧指令値Vdc*に相当)およびvqc(上記電圧指令値Vqc*に相当)をまとめて表すものである。idq(th)は、モータab軸に対して推定角thで回転演算することによって得られたid(上記電流値Idcに相当)およびiq(上記電流値Iqcに相当)をまとめて表すものである。
【0053】
そして、軸誤差検出部301は、vdq(th)、idq(th)、およびモータパラメータを用いて、所定の演算式に基づく演算を行うことにより、モータ11におけるモータ角と推定角との誤差を検出し、当該誤差を示す軸誤差信号θerrを出力する。
【0054】
補正値導出部302は、軸誤差検出部301によって検出された軸誤差信号θerrの検出ゲインを補正するためのゲイン補正値を導出する。具体的には、補正値導出部302は、vdq(th)およびidq(th)が入力される。そして、補正値導出部302は、vdq(th)、idq(th)、およびモータパラメータを用いて、所定の演算式に基づく演算を行うことにより、軸誤差検出部301によって検出された軸誤差信号θerrの検出ゲインを補正するためのゲイン補正値を導出し、当該ゲイン補正値を示すゲイン補正信号を出力する。
【0055】
本実施形態では、軸誤差検出部301は、vdq(th)、idq(th)、およびモータパラメータを用いて、所定の演算式(例えば、以下に示す、モータ11のdq軸上の電圧方程式(11))に基づく演算を行うことにより、モータ11の永久磁石磁束のqc軸成分を、モータ11のモータ角と推定角との誤差として検出する。
【0056】
また、本実施形態では、補正値導出部302は、vdq(th)、idq(th)、およびモータパラメータを用いて、所定の演算式(例えば、以下に示す、モータ11のdq軸上の電圧方程式(11))に基づく演算を行うことにより、モータ11の永久磁石磁束のdc軸成分を、軸誤差信号θerrの検出ゲインを補正するためのゲイン補正信号として導出する。
【0057】
【数9】
【0058】
式(11)において、vdは、モータ11に印加される電圧のd軸成分を示す。また、vqは、モータ11に印加される電圧のq軸成分を示す。また、idは、モータ11に供給される電流のd軸成分を示す。また、iqは、モータ11に供給される電流のq軸成分を示す。また、Raは、コイルの巻線抵抗を示す。また、pは、微分演算子を示す。また、Ldは、d軸インダクタンスを示す。また、Lqは、q軸インダクタンスを示す。また、ωは、モータ11の回転子の角速度を示す。また、Ψaは、永久磁石の電気子鎖交磁束を示す。
【0059】
AGC部303は、本発明の「検出ゲイン補正部」の一例である。AGC部303は、補正値導出部302によって導出されたゲイン補正信号に基づいて、軸誤差検出部301によって検出された軸誤差信号θerrの検出ゲインを補正することにより、当該検出ゲインの補正がなされた後の、モータ11のモータ角と推定角との誤差を示す軸誤差信号θerr'を出力する。
【0060】
本実施形態では、AGC部303は、モータ11のモータ角と推定角との誤差を示す軸誤差信号θerrとして、モータ11の永久磁石磁束のqc軸成分が、軸誤差検出部301から入力される。また、AGC部303は、軸誤差検出部301によって検出された軸誤差信号θerrの検出ゲインを補正するためのゲイン補正信号として、モータ11の永久磁石磁束のdc軸成分が、補正値導出部302から入力される。そして、AGC部303は、ゲイン補正信号(モータ11の永久磁石磁束のdc軸成分)が目標値となるようにフィードバック制御して、軸誤差信号θerr(モータ11の永久磁石磁束のqc軸成分)の検出ゲインを補正することで、当該検出ゲインの補正がなされた後の、軸誤差信号θerr'を出力する。なお、AGC部303の具体的な構成例については、図5を用いて後述する。
【0061】
PLL部304は、AGC部303から出力された軸誤差信号θerr'を用いて、PI制御によるフィードバック制御を行うことにより、当該軸誤差信号θerr'をゼロに収束させる。これにより、PLL部304は、モータ11の推定角をモータ11のモータ角に一致させてから、モータ11の回転子の角度推定値θestを出力する。すなわち、PLL部304は、入力される軸誤差信号θerr'の検出ゲインが一定の状態で、PI制御を行うことができるため、検出ゲインが一定でない場合に生じ得る各種不具合(例えば、位相余裕が十分に確保できずに発振してしまう等)を生じさせることなく、PI制御を行うことができる。
【0062】
なお、図3に示す推定部107が備える複数の構成部のうち、全ての構成部がプログラムによって実現されてもよく、全ての構成部が回路によって実現されてもよい。または、一部の構成部がプログラムによって実現されてもよく、残りの構成部が回路によって実現されてもよい。
【0063】
(軸誤差信号およびゲイン補正信号の出力特性の一例)
図4は、本発明の第1実施形態に係る軸誤差信号およびゲイン補正信号の出力特性の一例を示す図である。図4(a)は、軸誤差検出部301から出力される軸誤差信号θerrの出力特性を示す。図4(b)は、補正値導出部302から出力されるゲイン補正信号の出力特性を示す。図4(a),(b)に示すグラフの横軸は、モータ11におけるモータ角と推定角との誤差[deg]を表している。図4(a),(b)に示すグラフの縦軸は、軸誤差信号θerr,ゲイン補正信号の出力レベルを表している。
【0064】
図4(a),(b)に示すグラフにおいて、実線は、検出ゲインが設計目標値であるときの、軸誤差信号θerr,ゲイン補正信号の出力特性を示すものである。また、点線は、検出ゲインが設計目標値の1/2であるときの、軸誤差信号θerr,ゲイン補正信号の出力特性を示すものである。また、一点鎖線は、検出ゲインが設計目標値の2倍であるときの、軸誤差信号θerr,ゲイン補正信号の出力特性を示すものである。図4(a),(b)に示すように、軸誤差検出部301から出力される軸誤差信号θerr、および、補正値導出部302から出力されるゲイン補正信号は、正弦波状に表されるものとなる。
【0065】
軸誤差検出部301から出力される軸誤差信号θerrは、PLL部304によるフィードバック処理により、ゼロに収束するように制御される。しかしながら、図4(a)に示すように、軸誤差検出部301から出力される軸誤差信号θerrは、検出ゲインが変動すると、出力レベルも変動することになる。このため、軸誤差信号θerrの検出ゲインが一定(設計目標値)でない場合、フィードバック制御の特性(例えば、推定器の制御精度、速度、フィードバック制御ループの位相余裕等)が設計目標の特性にならなかったり、不安定になって発振したりする虞がある。それにもかかわらず、検出ゲインは、モータの動作条件(例えば、負荷電流、負荷トルク、モータ回転速度等)の変化に応じて変動する場合がある。このため、推定器(推定部107)のフィードバック特性の安定化のためには、軸誤差信号θerrの検出ゲインが設計目標値となるように、軸誤差信号θerrの検出ゲインを調整する必要がある。
【0066】
ここで、軸誤差信号θerr(モータ11の永久磁石磁束のqc軸成分)は、Φ*sin(θerr)と表すことができ、図4(a)に示すように、検出ゲインが設計目標値であれば、推定角誤差が0[deg]のとき、その出力レベルが0となる。また、ゲイン補正信号(モータ11の永久磁石磁束のdc軸成分)は、Φ*cos(θerr)と表すことができ、図4(b)に示すように、検出ゲインが設計目標値であれば、推定角誤差が0[deg]のとき、その出力レベルが1となる。なお、Φは、モータ11のモータ特性により一定となるべき定数であるが、モータの動作条件(例えば、負荷電流、負荷トルク、モータ回転速度等)によっては変動する場合がある。
【0067】
これらによれば、検出ゲインを設計目標値にすることにより、ゲイン補正信号の出力レベルと、軸誤差信号θerrの出力レベルとの双方を、所定の出力レベルとすることができる。すなわち、ゲイン補正信号の出力レベルを、所定の出力レベルに調整することで、軸誤差信号θerrの検出ゲインを設計目標値に補正するとともに、軸誤差信号θerrの出力レベルを、所定の出力レベルとすることが可能である。そこで、本実施形態では、ゲイン補正信号の出力レベルが所定の出力レベルとなるように、ゲイン補正信号の検出ゲインを調整することで、同時に、軸誤差信号θerrの検出ゲインが設計目標値に補正され、且つ、軸誤差信号θerrの出力レベルが所定の出力レベルとなるように、AGC部303を構成している。
【0068】
(AGC部303の具体的な構成)
図5は、本発明の第1実施形態に係るAGC部303の具体的な構成を示す図である。図5に示す例では、AGC部303は、乗算器501、乗算器502、減算器503、および積分器504を備えて構成されている。
【0069】
乗算器501は、軸誤差検出部301から出力された軸誤差信号θerr(モータ11の永久磁石磁束のqc軸成分)に対して、積分器504の出力を乗算して出力する。乗算器502は、補正値導出部302から出力されたゲイン補正信号(モータ11の永久磁石磁束のdc軸成分)に対して、積分器504の出力を乗算して出力する。減算器503は、乗算器502の出力目標である入力信号g_tgt1から、乗算器502の出力を減算する。積分器504は、減算器503の出力を積分して出力する。
【0070】
ここで、減算器503の入力信号g_tgt1には、図4で説明したように、軸誤差信号の検出ゲインが設計目標値となるときの、ゲイン補正信号の値を設定する。
【0071】
乗算器502は、ゲイン補正信号を、α倍にして出力する。αは、積分器504が出力するゲインである。推定器の推定ループが収束しているとき、モータ角と推定角との誤差はゼロであるため、補正値導出部302から出力されるゲイン補正信号は、Φ1*cos(0)となり、軸誤差検出部301から出力される軸誤差信号θerrは、Φ1*sin(0)となる。このため、乗算器502の出力は、Φ1*α*cos(0)となり、乗算器501の出力は、Φ1*α*sin(0)となる。すなわち、このときの検出ゲインは、Φ1*αとなる。
【0072】
この検出ゲインを目標値とするためには、減算器503に入力する入力信号g_tgt1へ、Φ0*cos(0)=Φ0を設定する。これにより、乗算器502の出力(ゲイン補正信号の検出ゲイン)が、フィードバック制御によって、Φ0となるように調整され、これに伴って、乗算器501の出力(軸誤差信号θerrの検出ゲイン)が、Φ0となるように補正される。その結果、AGC部303から、調整後の検出ゲインΦ0による軸誤差信号θerr'が出力され、当該軸誤差信号θerr'が、PLL部304に供給されるようになる。したがって、本構成により、モータの動作条件(例えば、負荷電流、負荷トルク、モータ回転速度等)が変化した場合であっても、推定器全体としてのフィードバックループのオープンループゲインを目標の特性とすることが可能となり、推定器特性を安定的に運用することが可能となる。すなわち、モータ角と推定角との誤差を収束させるためのPI制御における不具合の発生を抑制することが可能となる。特に、第1実施形態の構成では、モータ11の永久磁石磁束を推定することにより、モータ11の推定角を推定する方式を用いた推定器において、モータ11のモータ角と推定角との誤差の検出ゲインの補正を行うことが可能となる。
【0073】
〔第2実施形態〕
次に、図6を参照して、本発明の第2実施形態について説明する。この第2実施形態の駆動システム10では、駆動装置100において、推定部107の代わりに推定部107Aが設けられている点で、第2実施形態の駆動システム10と異なる。以下、第1実施形態からの変更点について説明する。
【0074】
(推定部107Aの具体的な構成)
図6は、本発明の第2実施形態に係る推定部107Aの具体的な構成を示す図である。図6に示すように、推定部107Aは、軸誤差検出部301および補正値導出部302の代わりに、軸誤差検出部301Aおよび補正値導出部302Aを備えている点で、第1実施形態(図3)の推定部107と異なる。
【0075】
本実施形態では、軸誤差検出部301Aは、vdq(th)、idq(th)、およびモータパラメータを用いて、所定の演算式(例えば、上記した、モータ11のdq軸上の電圧方程式(11))に基づく演算を行うことにより、モータ11の誘起電圧のdc軸成分(またはそのdc軸成分を速度推定値ωestで正規化したもの)を、モータ11のモータ角と推定角との誤差として検出し、当該誤差を示す軸誤差信号θerrを出力する。
【0076】
また、本実施形態では、補正値導出部302Aは、vdq(th)、idq(th)、およびモータパラメータを用いて、所定の演算式(例えば、上記した、モータ11のdq軸上の電圧方程式(11))に基づく演算を行うことにより、モータ11の誘起電圧のqc軸成分(またはそのqc軸成分を速度推定値ωestで正規化したもの)を、軸誤差検出部301Aによって検出された軸誤差信号θerrの検出ゲインを補正するためのゲイン補正値として導出し、当該ゲイン補正値を示すゲイン補正信号を出力する。
【0077】
また、本実施形態では、AGC部303は、モータ11のモータ角と推定角との誤差を示す軸誤差信号θerrとして、モータ11の誘起電圧のdc軸成分が、軸誤差検出部301Aから入力される。また、AGC部303は、軸誤差信号θerrの検出ゲインを補正するための補正値を示すゲイン補正信号として、モータ11の誘起電圧のqc軸成分が、補正値導出部302Aから入力される。そして、AGC部303は、第1実施形態と同様に、ゲイン補正信号(モータ11の誘起電圧のqc軸成分)が目標値となるようにフィードバック制御して、軸誤差信号θerr(モータ11の誘起電圧のdc軸成分)の検出ゲインを補正することで、当該検出ゲインの補正がなされた後の、軸誤差信号θerr'を出力する。
【0078】
この第2実施形態においても、PLL部304は、AGC部303から出力された軸誤差信号θerr'を用いて、PI制御によるフィードバック制御を行うことにより、当該軸誤差信号θerr'をゼロに収束させる。これにより、PLL部304は、モータ11の推定角をモータ11のモータ角に一致させてから、モータ11の回転子の角度推定値θestを出力する。すなわち、PLL部304は、入力される軸誤差信号θerr'の検出ゲインが一定の状態で、PI制御を行うことができるため、誤差検出ゲインが一定でない場合に生じ得る各種不具合(例えば、位相余裕が十分に確保できずに発振してしまう等)を生じさせることなく、PI制御を行うことができる。
【0079】
特に、第2実施形態の構成では、モータ11の誘起電圧を推定することにより、モータ11の推定角を推定する方式を用いた推定器において、モータ11のモータ角と推定角との誤差の検出ゲインの補正を行うことが可能となり、モータの動作条件(例えば、負荷電流、負荷トルク、モータ回転速度等)が変化した場合であっても、推定器全体としてのフィードバックループのオープンループゲインを目標の特性とすることが可能となり、推定器特性を安定的に運用することが可能となる。すなわち、モータ角と推定角との誤差を収束させるためのPI制御における不具合の発生を抑制することが可能となる。
【0080】
〔第3実施形態〕
次に、図7および図8を参照して、本発明の第3実施形態について説明する。この第3実施形態の駆動システム10では、駆動装置100において、推定部107の代わりに推定部107Bが設けられている点で、第2実施形態の駆動システム10と異なる。以下、第1実施形態からの変更点について説明する。
【0081】
(推定部107Bの具体的な構成)
図7は、本発明の第3実施形態に係る推定部107Bの具体的な構成を示す図である。図7に示すように、推定部107Bは、軸誤差検出部301、補正値導出部302、およびAGC部303の代わりに、軸誤差検出部301B、補正値導出部302B、テーブル305、および乗算器306を備えている点で、第1実施形態(図3)の推定部107と異なる。
【0082】
本実施形態では、軸誤差検出部301Bは、vdq(th)、idq(th)、およびモータパラメータを用いて、所定の演算式(例えば、上記した、モータ11のdq軸上の電圧方程式(11))に基づく演算を行うことにより、モータ11のモータ角と推定角との誤差を検出し、当該誤差を示す軸誤差信号θerrを出力する。
【0083】
また、本実施形態では、補正値導出部302Bは、モータ11に関する入力値に基づいて、テーブル305から、当該入力値に対応するゲイン補正値を導出し、当該ゲイン補正値を示すゲイン補正信号を出力する。具体的には、補正値導出部302Bは、モータ11に関する入力値として、モータ11の駆動電圧vdq(th)、モータ11の電流idq(th)、および、モータ11の速度推定値ωestが入力される。モータ11の速度推定値ωestは、PLL部304から入力される。そして、補正値導出部302Bは、入力された駆動電圧vdq(th)、電流idq(th)、および速度推定値ωestに対応するゲイン補正値を、テーブル305から導出する。そして、補正値導出部302Bは、テーブル305から導出されたゲイン補正値を示すゲイン補正信号を、乗算器306へ出力する。
【0084】
乗算器306は、本発明の「検出ゲイン補正部」の他の一例である。乗算器306は、軸誤差検出部301Bから出力された軸誤差信号θerrが示す誤差(モータ11のモータ角と推定角との誤差)に対し、補正値導出部302Bから出力されたゲイン補正信号が示すゲイン補正値(検出ゲインを目標設定値に補正するためのゲイン補正値)を乗じる。これにより、乗算器306は、軸誤差信号θerrの検出ゲインを補正し、当該検出ゲインが補正された後の、モータ11のモータ角と推定角との誤差を示す軸誤差信号θerr'を出力する。この結果、乗算器306から出力される軸誤差信号θerr'の出力レベルは、検出ゲインが目標設定値であるときの出力レベルに調整されることとなる。
【0085】
(テーブル305の一例)
図8は、本発明の第3実施形態に係るテーブル305の一例を示す図である。図8に示すように、テーブル305は、モータ11の電圧の範囲と、モータ11の回転角速度の範囲と、モータ11の電流の範囲との組み合わせ毎に、ゲイン補正値が設定されている。このゲイン補正値は、軸誤差信号θerrが示す誤差に乗じられることにより、軸誤差信号θerrの検出ゲインを目標設定値に補正することができるもの(すなわち、モータ11の電圧による変動分と、モータ11の回転角速度による変動分と、モータ11の電流による変動分とを解消できるもの)であり、軸誤差信号θerrの検出ゲインが目標設定値となるように、試験、シミュレーション等によって予め求められ、テーブル305に設定されるものである。
【0086】
なお、本実施形態では、一例として、モータ11の電圧の範囲として、√(vd+vq)の範囲を用いている。また、モータ11の回転角速度の範囲として、モータ11の速度推定値ωestの範囲を用いている。また、モータ11の電流の範囲として、モータ11のq軸電流の範囲を用いている。
【0087】
補正値導出部302Bは、入力されたモータ11の駆動電圧vdq(th)、モータ11の電流idq(th)、および、モータ11の速度推定値ωestに対応する、電圧の範囲と、回転角速度の範囲と、電流の範囲との組み合わせを、テーブル305から特定する。そして、補正値導出部302Bは、特定された組み合わせに対応するゲイン補正値を、テーブル305から導出して、当該ゲイン補正値を、乗算器306へ出力する。乗算器306は、軸誤差検出部301Bから出力された軸誤差信号θerrが示す誤差に対し、補正値導出部302Bから出力されたゲイン補正値を乗じることにより、軸誤差信号θerrの検出ゲインを補正する。その結果、乗算器306は、検出ゲインが目標設定値に補正された後の、モータ11のモータ角と推定角との誤差を示す軸誤差信号θerr'を出力する。
【0088】
この第3実施形態においても、PLL部304は、乗算器306から出力された軸誤差信号θerr'を用いて、PI制御によるフィードバック制御を行うことにより、当該軸誤差信号θerr'をゼロに収束させる。これにより、PLL部304は、モータ11の推定角をモータ11のモータ角に一致させてから、モータ11の回転子の角度推定値θestを出力する。すなわち、PLL部304は、入力される軸誤差信号θerr'の検出ゲインが一定の状態で、PI制御を行うことができるため、誤差検出ゲインが一定でない場合に生じ得る各種不具合(例えば、位相余裕が十分に確保できずに発振してしまう等)を生じさせることなく、PI制御を行うことができる。
【0089】
したがって、本構成により、モータの動作条件(例えば、負荷電流、負荷トルク、モータ回転速度等)が変化した場合であっても、推定器全体としてのフィードバックループのオープンループゲインを目標の特性とすることが可能となり、推定器特性を安定的に運用することが可能となる。すなわち、モータ角と推定角との誤差を収束させるためのPI制御における不具合の発生を抑制することが可能となる。
【0090】
なお、本実施形態では、モータ11の電圧、モータ11の回転角速度、およびモータ11のq軸電流に基づいて、ゲイン補正値を決定する構成を採用している。この構成により、モータ11の電圧、モータ11の回転角速度、およびモータ11のq軸電流によって誤差の検出ゲインが変動する構成において、適切なゲイン設定を行うことが可能である。
【0091】
但し、本実施形態の構成に限らず、それ以外の入力値(例えば、モータ11のd軸電流等)に基づいて、ゲイン補正値を決定する構成としてもよい。例えば、モータ11のq軸電流に代えて、モータ11のd軸電流を用いることにより、モータ11のd軸電流によって誤差の検出ゲインが変動する構成においても、適切なゲイン設定を行うことが可能となる。
【0092】
また、本実施形態では、ゲイン補正値をテーブル305から導出する構成を採用しているが、ゲイン補正値を近似式によって導出する構成を採用してもよい。この場合、テーブル305を記憶しておく必要がないため、駆動装置100における記憶領域の使用量を削減することが可能となる。
【0093】
〔第1実施例〕
図9は、本発明の第1実施例に係る画像形成装置900の概略構成を示す図である。図9に示す画像形成装置900は、プリントサーバ910および本体920を備えている。プリントサーバ910には、印刷データが記憶されている。プリントサーバ910に記憶されている印刷データは、ユーザからの指示により、本体920へと送信される。
【0094】
本体920は、光学装置921、感光体ドラム922、現像ローラ923、転写ローラ924、転写ベルト925、転写ローラ926、定着装置927、搬送装置931、用紙トレイ932、搬送路933、排紙トレイ934、および記録紙935を備えている。
【0095】
本体920は、印刷データに色補正、濃度変換、小値化等の処理を行う。そして、本体920は、最終的に2値となった印刷データを、光学装置921に送る。
【0096】
光学装置921は、レーザダイオード等をレーザ光源として用いている。光学装置921は、一様に帯電した状態の感光体ドラム922に対して、印刷データに応じたレーザ光の照射を行う。
【0097】
感光体ドラム922は、一様に帯電した状態で、印刷データに応じたレーザ光が表面に照射されることにより、レーザ光が照射された部分だけ電荷が消失する。これにより、感光体ドラム922の表面には、印刷データに応じた潜像が形成される。ここで形成された潜像は、感光体ドラム922の回転に伴って、対応する現像ローラ923の方向へと移動する。
【0098】
現像ローラ923は、回転しながら、トナーカートリッジから供給されたトナーを、その表面に付着させる。そして、現像ローラ923は、その表面に付着されたトナーを、感光体ドラム922の表面に形成された潜像に付着させる。これにより、現像ローラ923は、感光体ドラム922の表面に形成された潜像を顕像化して、感光体ドラム922の表面にトナー像を形成する。
【0099】
感光体ドラム922の表面に形成されたトナー像は、感光体ドラム922と転写ローラ924との間において、転写ベルト925上に転写される。これにより、転写ベルト925上に、トナー画像が形成される。
【0100】
図9に示す例では、光学装置921、感光体ドラム922、現像ローラ923、および転写ローラ924は、4つの印刷色(Y,C,M,K)の各々に対して設けられている。これにより、転写ベルト925上には、各印刷色のトナー画像が形成される。
【0101】
搬送装置931は、用紙トレイ932から搬送路933へ、記録紙935を送出する。搬送路933に送出された記録紙935は、転写ベルト925と転写ローラ926との間に搬送される。これにより、転写ベルト925と転写ローラ926との間において、転写ベルト925上に形成された各印刷色のトナー画像が、記録紙935に転写される。その後、記録紙935は、定着装置927によって熱および圧力が加えられることにより、トナー画像が定着される。そして、記録紙935は、排紙トレイ934に搬送される。
【0102】
例えば、このように構成された画像形成装置900において、上記実施形態の駆動システム10を適用して、各種ローラ(例えば、給紙ローラ、搬送ローラ、2次転写ローラ、定着ローラ等)を駆動するモータ11の誤差検出ゲインを、駆動装置100によって一定に保つように制御することにより、誤差検出ゲインが一定の値から変化することによって生じ得る各種不具合の発生を抑制することができる。
【0103】
〔第2実施例〕
図10は、本発明の第2実施例に係る搬送装置1000の概略構成を示す図である。図10に示す搬送装置1000は、用紙Pを搬送するための装置である。図10に示すように、搬送装置1000は、モータ11A、モータ11B、搬送ローラ1001、および搬送ローラ1002を備えている。搬送ローラ1001は、モータ11Aの駆動により回転する。搬送ローラ1002は、モータ11Bの駆動により回転する。この搬送装置1000は、搬送ローラ1001と搬送ローラ1002とが互いに同一の方向に回転することにより、モータ11Aの出力トルクとモータ11Bの出力トルクとの合成トルクにより、用紙Pを搬送方向に搬送することができる。例えば、このように構成された搬送装置1000において、上記実施形態の駆動システム10を適用して、モータ11Aおよびモータ11Bの各々の誤差検出ゲインを、駆動装置100によって一定に保つように制御することにより、誤差検出ゲインが一定の値から変化することによって生じ得る各種不具合の発生を抑制することができる。
【0104】
以上、本発明の好ましい実施形態および実施例について詳述したが、本発明はこれらの実施形態および実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形又は変更が可能である。
【0105】
例えば、上記第1,第2実施例では、本発明を画像形成装置,搬送装置に適用する例を説明したが、本発明は、モータによって何らかの駆動対象を駆動する構成を採用しているものであれば、如何なる装置にも適用することが可能である。
【0106】
一例として、本発明は、シート状のプリプレグや、紙幣等を搬送する搬送装置において、搬送ローラを駆動する構成に適用することができる。その他、本発明の駆動システムは、例えば自動車やロボットやアミューズメント機器等において、モータによって駆動される駆動軸の回転運動により、動力を得ることを目的とする構成に適用することができる。
【符号の説明】
【0107】
10 駆動システム
11 モータ
100 駆動装置
107,107A,107B 推定部
301,301A,301B 軸誤差検出部
302,302A,302B 補正値導出部
303 AGC部(検出ゲイン補正部)
304 PLL部
305 テーブル
306 乗算器(検出ゲイン補正部)
900 画像形成装置
1000 搬送装置
【先行技術文献】
【特許文献】
【0108】
【文献】特開2011-230531号公報
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10