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特許7077849樹脂板の接着用治具及び樹脂板の接着方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-23
(45)【発行日】2022-05-31
(54)【発明の名称】樹脂板の接着用治具及び樹脂板の接着方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 65/48 20060101AFI20220524BHJP
【FI】
B29C65/48
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2018142711
(22)【出願日】2018-07-30
(65)【公開番号】P2020019162
(43)【公開日】2020-02-06
【審査請求日】2021-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】須田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】原田 久志
【審査官】▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】実開昭57-008243(JP,U)
【文献】特開2000-024940(JP,A)
【文献】実開昭60-007413(JP,U)
【文献】実開昭56-020769(JP,U)
【文献】特開昭59-059771(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 65/00- 65/82
F16B 5/00- 5/12
C09J 1/00-201/10
B25B 1/00- 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程(1)~(5)を有する、樹脂板の接着方法:
工程(1):第1保持用治具板の主表面上に、対向する二つの主表面と端面を有する平板状の第1樹脂板を載置して保持し、第2保持用治具板の主表面上に、対向する二つの主表面と端面を有する平板状の第2樹脂板を載置して保持し、
前記第1樹脂板の主表面と前記第2樹脂板の主表面が成す角度αが略直角(ここで、「略直角」とは、85度以上95度以下を意味する)になるように、且つ、前記第1樹脂板の端面が前記第2樹脂板の端縁部片面に略当接するように(ここで、「前記第1樹脂板の端面が前記第2樹脂板の端縁部片面に略当接」するとは、前記第2樹脂板の端縁部片面に、前記第1樹脂板の接着面となる端面の一部若しくは全部が当接することを意味する)、第1保持用治具板と第2保持用治具板とを固定配置する工程;
工程(2):前記第1樹脂板の端面を前記第2樹脂板の端縁部片面に略当接させたまま、前記第1保持用治具板と第2保持用治具板との間の角度βを変えることによって、前記角度αを、0度を超えて5度以下の範囲の角度だけ、工程(1)の略直角から広げる工程;
工程(3):前記第1樹脂板と前記第2樹脂板の相対する被接着面の間に接着剤を充填する工程;
工程(4):前記第1樹脂板の端面を前記第2樹脂板の端縁部片面に略当接させたまま、前記第1保持用治具板と第2保持用治具板との間の角度βを変えることによって、前記角度αを略直角にする工程;及び、
工程(5):前記接着剤を硬化する工程。
【請求項2】
工程(1)又は工程(4)において、第1樹脂板の一方の主表面と第2樹脂板の端面とが面一となるように、第1樹脂板の端面を第2樹脂板の端縁部片面に当接して配置する、請求項1に記載の樹脂板の接着方法。
【請求項3】
工程(1)~(4)のいずれかの工程の後に、前記第1樹脂板の主表面と前記第2樹脂板の主表面が成す角度αが略直角を維持したまま、第2保持用治具板の主表面と水平方向の成す角度γが0度超45度以下の範囲にあるように第1保持用治具板と第2保持用治具板を配置する工程を有する、請求項1又は2に記載の樹脂板の接着方法。
【請求項4】
工程(1)の後、且つ工程(3)より前に、下記工程(6)を行う、請求項1~3のいずれかに記載の樹脂板の接着方法:
工程(6):前記第1樹脂板及び前記第2樹脂板の少なくとも一方の樹脂板の反り又は撓みを矯正する工程。
【請求項5】
工程(6)において、前記第1保持用治具板の主表面及び/又は第2保持用治具板の主表面上の、前記第1又は第2樹脂板が載置される領域に開口する少なくとも一つの孔を介して、反り又は撓みを矯正する樹脂板を減圧吸引することにより、前記反り又は撓みを矯正する、請求項4に記載の樹脂板の接着方法。
【請求項6】
工程(6)において、前記第1保持用治具板又は第2保持用治具板の少なくとも一方に取付けられたリンク機構により前後動可能に形成された押圧治具を、反り又は撓みを矯正する樹脂板の表面に圧接させて、この樹脂板を載置した保持用治具板にこの樹脂板を押し当てることにより、前記反り又は撓みを矯正する、請求項4に記載の樹脂板の接着方法。
【請求項7】
前記樹脂板の反り又は撓みを矯正する工程において、樹脂板の平面度が0.2mm未満を満足するように矯正する、請求項4~6のいずれかに記載の樹脂板の接着方法。
【請求項8】
工程(5)において、前記第1樹脂板と前記第2樹脂板の接着面に圧力を印加しながら前記接着剤を硬化する、請求項1~7のいずれかに記載の樹脂板の接着方法。
【請求項9】
前記第1保持用治具板又は第2保持用治具板の主表面の、接着面となる第1樹脂板の端面と接着面となる第2樹脂板の端縁部片面との当接部に相対する位置に、溝を有する、請求項1~8のいずれかに記載の樹脂板の接着方法。
【請求項10】
前記第1保持用治具板又は第2保持用治具板の主表面上に設けられた前記孔の周囲にリングを設け、
前記リングは、前記第1樹脂板又は第2樹脂板を載置保持したときに、前記孔を気密に閉鎖し、且つ、この孔と接着部とを縁切り状態とするための弾性体からなるリングである、請求項5に記載の樹脂板の接着方法。
【請求項11】
対向する二つの主表面と端面を有する平板状の第1樹脂板と、対向する二つの主表面と端面を有する平板状の第2樹脂板とを接着するための接着用治具であって、
第1樹脂板を載置して保持するための主表面を有する第1保持用治具板と、第2樹脂板を載置して保持するための主表面を有する第2保持用治具板を備え、
前記第1保持用治具板と第2保持用治具板は、可動式連結部品で連結されており、
前記第1保持用治具板の主表面と前記第2保持用治具板の主表面が成す角度βを調節して固定する角度調節機構を備え
下記(1)又は(2)を満足する、接着用治具
(1)第1保持用治具板の端面が、前記第2保持用治具板の端縁部片面に当接する、
(2)第2保持用治具板の端面が、前記第1保持用治具板の端縁部片面に当接する
【請求項12】
前記角度調節機構が、手動式又は機械制御式のストロークを調節可能なストローク可動式の角度調節機構又はエアシリンダーを有する、請求項11に記載の接着用治具。
【請求項13】
前記第1保持用治具板及び第2保持用治具板の少なくとも一方に、リンク機構により前後動可能に形成された押圧治具が取付けられている、請求項11又は12に記載の接着用治具。
【請求項14】
前記第1保持用治具板及び第2保持用治具板の少なくとも一方が、その保持用治具板の主表面上に開口した少なくとも一つの孔を有し、前記孔が減圧吸引用の孔である、請求項11~13のいずれかに記載の接着用治具。
【請求項15】
前記第1保持用治具板又は第2保持用治具板が、その保持用治具板の主表面上に溝を有する、請求項14に記載の接着用治具。
【請求項16】
前記第1保持用治具板及び第2保持用治具板の少なくとも一方の主表面に開口した前記孔が、この主表面上で前記孔の外側に配された弾性体からなるリングによって、包囲されている、請求項14に記載の接着用治具。
【請求項17】
前記第1保持用治具板の主表面と前記第2保持用治具板の主表面が成す角度βを維持したまま、第2保持用治具板の主表面が水平方向に対して成す角度γが0度を超えて45度以下になるように、第1保持用治具板と第2保持用治具板を配置する機構を備えた、請求項11~16のいずれかに記載の接着用治具。
【請求項18】
第1保持用治具板及び第2保持用治具板の上に載置された被接着物の接着面に圧力を印加するための加圧機構を有する、請求項11~16のいずれかに記載の接着用治具。
【請求項19】
第1保持用治具板の主表面と第2保持用治具板の主表面に接して設置された、略直角を成すL字型の位置合わせ部品を有する、請求項11~16のいずれかに記載の接着用治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2枚以上の樹脂板を、双方の樹脂板の主表面が一定角度を成すように接着する樹脂板の接着用治具及び樹脂板の接着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
仕切り製品、棚、箱形状物などの什器製品を、2枚以上の樹脂板を用いて製造する場合、直角定規等の治具を用いて、各樹脂板の主表面が所定の角度(例えば直角等)を成すように、一方の樹脂板の端面を、他方の樹脂板の平面又は端面に配置固定し、次いで相対する被接着面の間に接着剤を充填した後、一定時間静置して、接着する方法が知られている。
【0003】
特許文献1には、2枚の樹脂板を、直交状等の交差状態に配置固定し、クランパー等で圧締しながら接着剤を硬化させて接合し、当該接合部において一方の樹脂板の端縁が突出した部分を切削除去する技術が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、押圧手段と吸着手段及びクランプを用いて、2枚以上の樹脂板を直角状態に接着する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平5-84832号公報
【文献】特開2015-134477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び特許文献2に記載の方法では、樹脂板の剛性が低い場合や、樹脂板に反りや撓みが生じていた場合には、樹脂板の平面上の凹凸差(高低差)がゼロ(完全平面)となるように矯正してから設置又は矯正しながら接着する必要があり、作業に時間を要することが課題であった。
【0007】
また、前述のような接着方法は手作業によるところが大きく、接着部分の強度や外観等の製品品質が作業者の熟練度に依存することが課題であった。
【0008】
本発明の目的は、樹脂板の接着にかかる作業時間を短縮することができ、且つ、製品品質が作業者の熟練度に依存することを抑制することができる、樹脂板の接着方法及び接着用治具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の要旨は、以下の<1>~<19>に存する。
【0010】
<1>
下記工程(1)~(5)を有する、樹脂板の接着方法:
工程(1):第1保持用治具板の主表面上に、対向する二つの主表面と端面を有する平板状の第1樹脂板を載置して保持し、第2保持用治具板の主表面上に、対向する二つの主表面と端面を有する平板状の第2樹脂板を載置して保持し、
前記第1樹脂板の主表面と前記第2樹脂板の主表面が成す角度αが略直角(ここで、「略直角」とは、85度以上95度以下を意味する)になるように、且つ、前記第1樹脂板の端面が前記第2樹脂板の端縁部片面に略当接するように(ここで、「前記第1樹脂板の端面が前記第2樹脂板の端縁部片面に略当接」するとは、前記第2樹脂板の端縁部片面に、前記第1樹脂板の接着面となる端面の一部若しくは全部が当接することを意味する)、第1保持用治具板と第2保持用治具板とを固定配置する工程;
工程(2):前記第1樹脂板の端面を前記第2樹脂板の端縁部片面に略当接させたまま、前記第1保持用治具板と第2保持用治具板との間の角度βを変えることによって、前記角度αを、0度を超えて5度以下の範囲の角度だけ、工程(1)の略直角から広げる工程;
工程(3):前記第1樹脂板と前記第2樹脂板の相対する被接着面の間に接着剤を充填する工程;
工程(4):前記第1樹脂板の端面を前記第2樹脂板の端縁部片面に略当接させたまま、前記第1保持用治具板と第2保持用治具板との間の角度βを変えることによって、前記角度αを略直角にする工程;及び、
工程(5):前記接着剤を硬化する工程。
【0011】
<2>
工程(1)又は工程(4)において、第1樹脂板の一方の主表面と第2樹脂板の端面とが面一となるように、第1樹脂板の端面を第2樹脂板の端縁部片面に当接して配置する、<1>に記載の樹脂板の接着方法。
【0012】
<3>
工程(1)~(4)のいずれかの工程の後に、前記第1樹脂板の主表面と前記第2樹脂板の主表面が成す角度αが略直角を維持したまま、第2保持用治具板の主表面と水平方向の成す角度γが0度超45度以下の範囲にあるように第1保持用治具板と第2保持用治具板を配置する工程を有する、<1>又は<2>に記載の樹脂板の接着方法。
【0013】
<4>
工程(1)の後、且つ工程(3)より前に、下記工程(6)を行う、<1>~<3>のいずれかに記載の樹脂板の接着方法:
工程(6):前記第1樹脂板及び前記第2樹脂板の少なくとも一方の樹脂板の反り又は撓みを矯正する工程。
【0014】
<5>
工程(6)において、前記第1保持用治具板の主表面及び/又は第2保持用治具板の主表面上の、前記第1又は第2樹脂板が載置される領域に開口する少なくとも一つの孔を介して、反り又は撓みを矯正する樹脂板を減圧吸引することにより、前記反り又は撓みを矯正する、<4>に記載の樹脂板の接着方法。
【0015】
<6>
工程(6)において、前記第1保持用治具板又は第2保持用治具板の少なくとも一方に取付けられたリンク機構により前後動可能に形成された押圧治具を、反り又は撓みを矯正する樹脂板の表面に圧接させて、この樹脂板を載置した保持用治具板にこの樹脂板を押し当てることにより、前記反り又は撓みを矯正する、<4>に記載の樹脂板の接着方法。
【0016】
<7>
前記樹脂板の反り又は撓みを矯正する工程において、樹脂板の平面度が0.2mm未満を満足するように矯正する、<4>~<6>のいずれかに記載の樹脂板の接着方法。
【0017】
<8>
工程(5)において、前記第1樹脂板と前記第2樹脂板の接着面に圧力を印加しながら前記接着剤を硬化する、<1>~<7>のいずれかに記載の樹脂板の接着方法。
【0018】
<9>
前記第1保持用治具板又は第2保持用治具板の主表面の、接着面となる第1樹脂板の端面と接着面となる第2樹脂板の端縁部片面との当接部に相対する位置に、溝を有する、<1>~<8>のいずれかに記載の樹脂板の接着方法。
【0019】
<10>
前記第1保持用治具板又は第2保持用治具板の主表面上に設けられた前記孔の周囲にリングを設け、
前記リングは、前記第1樹脂板又は第2樹脂板を載置保持したときに、前記孔を気密に閉鎖し、且つ、この孔と接着部とを縁切り状態とするための弾性体からなるリングである、<5>に記載の樹脂板の接着方法。
【0020】
<11>
対向する二つの主表面と端面を有する平板状の第1樹脂板と、対向する二つの主表面と端面を有する平板状の第2樹脂板とを接着するための接着用治具であって、
第1樹脂板を載置して保持するための主表面を有する第1保持用治具板と、第2樹脂板を載置して保持するための主表面を有する第2保持用治具板を備え、
前記第1保持用治具板と第2保持用治具板は、可動式連結部品で連結されており、
前記第1保持用治具板の主表面と前記第2保持用治具板の主表面が成す角度βを調節して固定する角度調節機構を備え
下記(1)又は(2)を満足する、接着用治具
(1)第1保持用治具板の端面が、前記第2保持用治具板の端縁部片面に当接する、
(2)第2保持用治具板の端面が、前記第1保持用治具板の端縁部片面に当接する
【0022】
12
前記角度調節機構が、手動式又は機械制御式のストロークを調節可能なストローク可動式の角度調節機構又はエアシリンダーを有する、<11>に記載の接着用治具。
【0023】
13
前記第1保持用治具板及び第2保持用治具板の少なくとも一方に、リンク機構により前後動可能に形成された押圧治具が取付けられている、<11>又は<12>に記載の接着用治具。
【0024】
14
前記第1保持用治具板及び第2保持用治具板の少なくとも一方が、その保持用治具板の主表面上に開口した少なくとも一つの孔を有し、前記孔が減圧吸引用の孔である、<11>~<13>のいずれかに記載の接着用治具。
【0025】
15
前記第1保持用治具板又は第2保持用治具板が、その保持用治具板の主表面上に溝を有する、<14>に記載の接着用治具。
【0026】
16
前記第1保持用治具板及び第2保持用治具板の少なくとも一方の主表面に開口した前記孔が、この主表面上で前記孔の外側に配された弾性体からなるリングによって、包囲されている、<14>に記載の接着用治具。
【0027】
17
前記第1保持用治具板の主表面と前記第2保持用治具板の主表面が成す角度βを維持したまま、第2保持用治具板の主表面が水平方向に対して成す角度γが0度を超えて45度以下になるように、第1保持用治具板と第2保持用治具板を配置する機構を備えた、<11>~<16>のいずれかに記載の接着用治具。
【0028】
18
第1保持用治具板及び第2保持用治具板の上に載置された被接着物の接着面に圧力を印加するための加圧機構を有する、<11>~<16>のいずれかに記載の接着用治具。
【0029】
19
第1保持用治具板の主表面と第2保持用治具板の主表面に接して設置された、略直角を成すL字型の位置合わせ部品を有する、<11>~<16>のいずれかに記載の接着用治具。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、樹脂板の接着にかかる作業時間を短縮することができ、且つ、製品品質が作業者の熟練度に依存することを抑制することができる、樹脂板の接着方法及び接着用治具が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の一実施形態に係る、ストローク可動式角度調整機構(4)を有する接着用治具の構成例を示す概略図である。
図2】本発明の別の実施形態に係る、背板傾斜用エアシリンダー(5)を有する接着用治具の構成例を示す概略図である。
図3】工程(1)において、接着用治具に、第1樹脂板(6)及び第2樹脂板(7)を載置保持したときの状態の例を示す模式的側面図である。
図4】工程(2)において、図3に示す状態から、第1保持用治具板(1)と第2保持用治具板(2)との間の角度βを変えたときの状態の例を示す模式的側面図である。
図5】工程(1)において、接着用治具に、第1樹脂板(6)及び第2樹脂板(7)を載置保持したときの状態の別の例を示す模式的側面図である。
図6】工程(2)において、図5に示す状態から、第1保持用治具板(1)と第2保持用治具板(2)との間の角度βを変えたときの状態の例を示す模式的側面図である。
図7】工程(2)において、第1樹脂板の主表面と第2樹脂板の主表面が成す角度αを、略直角から、0度を超えて5度以下の範囲で更に広げたときの状態の例を示す模式的側面図である。
図8】工程(4)において、図7に示す接着剤注入部(8)に接着剤を充填した後に、第1樹脂板(6)の主表面と前記第2樹脂板(7)の主表面が成す角度αを、工程(1)と同じ略直角に戻したときの状態を示す模式的側面図である。
図9】減圧状態下で接着部から接着剤(9)が漏れ出して、接着部周辺に広がったときの状態を示す模式的側面図である。
図10】孔閉塞防止手段として、溝(10)を有する接着用治具の構成例を示す模式的側面図である。
図11】第1及び第2保持用治具板の主表面上に設けられた孔(11)のそれぞれの周囲に、孔閉塞防止手段として、弾性体からなるリング(12)を有する接着用治具の構成例を示す模式的斜視図である。
図12図11に示す接着用治具に樹脂板を載置した状態の模式的側面図である。
図13】第1保持用治具板に取付けられたクランプ機構(13)を有する接着用治具の構成例を示す模式的側面図である。
図14】第1樹脂板と前記第2樹脂板の接着面に圧力を印加するための板バネ(19)と板バネ固定プレート(18)を有する接着用治具の構成例を示す模式的斜視図である。
図15図14に示す接着用治具に、第1樹脂板(6)及び第2樹脂板(7)を載置保持したときの状態を示す模式的斜視図である。
図16】第1及び第2保持用治具板の主表面上に設けられた孔(11)のそれぞれの内側周囲の、保持用治具板の主表面付近に設けられた円筒溝に、孔閉塞防止手段として、弾性体からなるリング(12)を有する接着用治具の構成例を示す模式的斜視図である。
図17】第1及び第2保持用治具板の各々の主表面上に設けられた全ての孔(11)を囲むように、孔閉塞防止手段として、弾性体からなるリング(20)を有する接着用治具の構成例を示す模式的斜視図である。
図18図17に示す接着用治具に、第1樹脂板(6)及び第2樹脂板(7)を載置保持したときの状態を示す模式的側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の樹脂板の接着方法及び接着用治具の好適な実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0033】
<用語「略直角」>
本明細書において、「略直角」は、概ね直角であることをいい、85度以上95度以下が好ましく、88度以上92度以下がより好ましい。
【0034】
<樹脂板の接着用治具>
本発明に係る樹脂板の接着用治具は、対向する二つの主表面と端面を有する平板状の第1樹脂板と、対向する二つの主表面と端面を有する平板状の第2樹脂板とを接着するための接着用治具である。
【0035】
本発明に係る接着用治具は、図1及び図2に示すように、二つの保持用治具板、すなわち第1樹脂板を載置して保持するための主表面を有する第1保持用治具板(1)と第2樹脂板を載置して保持するための主表面を有する第2保持用治具板(2)を有する。前記第1保持用治具板と第2保持用治具板は、可動式連結部品で連結されている。また、接着用治具は、前記第1保持用治具板の主表面と前記第2保持用治具板の主表面が成す角度βを調節して固定する角度調節機構を備えている。
【0036】
<樹脂板>
樹脂板としては、対向する二つの主表面と、端面(厚み方向に延在する面)を持つ平板状の樹脂板を用いることができる。樹脂板は特には四角形の平板であり、二つの主表面と、四つの端面を持つ。特には、樹脂板の端面は平面である。典型的には、第1樹脂板において、端面は主表面に対して略直角をなす。また、第2樹脂板において、端面が主表面に対して略直角をなすことができる。
【0037】
樹脂板の大きさや板厚みは、特に制限されるものではなく、任意の大きさ又は板厚みとすることができる。例えば、樹脂板の板厚みの下限が0.5mm以上であれば、最終的に得られる什器製品の強度を良好にすることが容易である。板厚みの上限が30mm以下であれば、什器製品の外観を良好にすることが容易である。
【0038】
必要に応じ、樹脂板の大きさや板厚みに応じて、樹脂板の反りを矯正するための条件、接着剤の種類、接着剤を含浸する条件等を適宜最適化することができる。
【0039】
<保持用治具板>
保持用治具板は、本発明に係る樹脂板の接着用治具の構成要素の一つである。
【0040】
保持用治具板は、図1及び図2に示すように、第1保持用治具板(1)と第2保持用治具板(2)を有する。
【0041】
保持用治具板は、その上に(特にはその一つの主表面上に)樹脂板を載置して保持するための板である。第1及び第2保持用治具板はそれぞれ、第1及び第2樹脂板を載置して保持するための主表面を有する。
【0042】
前記第1保持用治具板と第2保持用治具板は、可動式連結部品で連結されている。
【0043】
第1及び第2保持用治具板のいずれも、典型的には平板状であり、対向する二つの主表面と、端面(厚さ方向に延在する面)を有する。
【0044】
保持用治具板の材質は、特に制限されるものではなく、後述する接着剤により膨潤又は溶解せず、使用する状況下で変形しない材料から適宜選ぶことができる。その例として、ベークライトや、アルミニウム、ステンレス鋼及び鉄鋼等の公知の金属を挙げることができる。
【0045】
本明細書では、便宜上、例えば、第1保持用治具板(1)と第2保持用治具板(2)の一方を水平方向に対して平行となるように設置したときに、保持用治具板の主表面が水平方向に対して平行な治具板を第2保持用治具板(2)といい、もう一方を第1保持用治具板(1)という。第1保持用治具板の主表面は、例えば鉛直方向に対して0度以上45度以下の角度を成す。
【0046】
<可動式連結部品>
可動式連結部品は、本発明に係る樹脂板の接着用治具の構成要素の一つである。
【0047】
第1保持用治具板(1)及び第2保持用治具板(2)は、蝶番(3)等の可動式連結部品により連結されている。
【0048】
可動式連結部品によって、本発明の樹脂板の接着方法の工程(2)及び工程(4)において、前記第1保持用治具板と第2保持用治具板との間の角度βを変えるときに、前記第1保持用治具板と第2保持用治具板を一体化したまま、第1保持用治具板と第2保持用治具板との間の角度が可変とされる。そのため、作業に時間を要することなく、又、接着部分の強度や外観等の製品品質が作業者の熟練度に依存することなく、第1樹脂板(6)及び第2樹脂板(7)を接着することができる。
【0049】
図3に示すように、第2保持用治具板(2)の端面が第1保持用治具板(1)の端縁部片面に当接するように、第1保持用治具板と第2保持用治具板とが蝶番(3)等の可動式連結部品により連結されていてもよい。或いは又、図5に示すように、第1保持用治具板(1)の端面が第2保持用治具板(2)の端縁部片面に当接するように、第1保持用治具板と第2保持用治具板とが蝶番(3)等の連結部品により連結されていてもよい。
【0050】
「第1保持用治具板の端縁部片面」とは、第1保持用治具板の端縁部(端縁とその近傍)における一つの主表面を意味する。ここでいう近傍とは、端縁からの距離が、第2保持用治具板の厚さ以内にある領域を意味する。「第2保持用治具板の端縁部片面」とは、第2保持用治具板の端縁部(端縁とその近傍)における一つの主表面を意味する。ここでいう近傍とは、端縁からの距離が、第1保持用治具板の厚さ以内にある領域を意味する。
【0051】
<角度調節機構>
角度調節機構は、本発明に係る樹脂板の接着用治具の構成要素の一つである。
【0052】
本発明の接着用治具は、角度調節機構を備えることで、第1保持用治具板(1)の主表面(第1樹脂板を載置する面)と第2保持用治具板(2)の主表面(第2樹脂板を載置する面)が成す角度βを、調節して固定できる。そのため、作業に時間を要することなく、又、接着部分の強度や外観等の製品品質が作業者の熟練度に依存することなく、第1樹脂板(6)及び第2樹脂板(7)を接着することができる。
【0053】
角度調節機構の形態は、特に制限されるものではなく、例えば、図1に示すように、手動式又は機械制御式のストローク(長さ)を調節可能なストローク可動式角度調節機構(4)を採用することができる。
【0054】
手動式のストローク可動式角度調節機構は、例えば、図1に示すように、ターンバックルと同じ構造を有し、すなわち右ねじが形成された棒(4a)と、左ねじが形成された棒(4b)と、一端に右ねじ山を備え他端に左ねじ山を備えた胴(メーンナット)(4c)とを有する。棒(4a)の一端が第1保持用治具板(1)に固定され、他端が胴(4c)に接続される。棒(4b)の一端が第2保持用治具板(2)に固定され、他端が胴(4c)に接続される。胴(4c)は、二つの棒(4a及び4b)を連結する。胴(4c)を正方向に回転させたり逆方向に回転させたりすることによって、2つの棒の間の距離を調節することができ、したがってこの角度調節機構のストローク(長さ)を調節することができる。一方、蝶番(3)によって、第1及び第2保持用治具板の相対移動方向は制約されている(蝶番の軸を中心とした回転移動に制限される)。したがって、ストロークを調節することによって、第1及び第2保持用治具板の主表面同士がなす角度βが調節される。胴4cの回転を停止すれば、角度βがその時点の角度に固定される。
【0055】
また、機械制御式の角度調節機構の例として、図2に示すように、圧縮エアーによって駆動される背板傾斜用エアシリンダー(5)と、圧縮エアーの切り替え装置(16)とを有する機構を挙げることができる。エアシリンダーは第1保持用治具板(1)に固定され、圧縮エアー切り替え装置によってエアシリンダーの移動方向を変えることができる。エアシリンダー(5)は、エアシリンダー台座(15)に搭載されている。この場合も蝶番(3)によって第1及び第2保持用治具板の相対移動方向は制約されている。したがって、エアシリンダーを動かすことによって、角度βを調節することができる。エアシリンダーの押し側及び引き側の停止位置において、角度βがその時点の角度に固定される。
【0056】
或いは又、機械制御式の角度調節機構の例として、電動モーターにより角度調節する機構を挙げることができる。
【0057】
<位置合わせ部品>
また、必要に応じて、図1に示すように、略直角を成すL字型の位置合わせ部品(17)を、第1保持用治具板の主表面と第2保持用治具板の主表面に接するように設置することができる。
【0058】
L字型の位置合わせ部品(17)により、第1保持用治具板の主表面と第2保持用治具板の主表面が略直角を形成するようにこれらの治具板を固定することで、図1には示されていない第1樹脂板(6)と第2樹脂板(7)を各保持用治具板に載置したときに、第1樹脂板(6)の端縁部片面と第2樹脂板(7)の端面が面一となるように位置合わせすることができる。「面一」とは、複数の面の間に段差がないことを意味する。「第1樹脂板(6)の端縁部片面」とは、第1樹脂板(6)の端縁部(端縁とその近傍)における一つの主表面を意味する。ここでいう近傍とは、端縁からの距離が、第2樹脂板(7)の厚さ以内にある領域を意味する。
【0059】
<加圧機構>
また、必要に応じて、第1保持用治具板(1)、第2保持用治具板(2)、又は第1保持用治具板(1)又は第2保持用治具板(2)を保持するための支持体上に、板ばね、圧縮コイルばね、引張コイルばね及びねじりコイルばね等のスプリング又はエアシリンダーを有する加圧機構を設けることができる。
【0060】
第1保持用治具板及び第2保持用治具板の上に載置保持された被接着物(第1および第2樹脂板)の接着面に、接着剤を充填した後に、前記加圧機構により接着部に圧力を印加しながら接着剤を硬化することができる。前記スプリングを有する加圧機構の一実施形態として、例えば、図14に示すように、第1保持用治具板(1)上に、板バネ(19)及び板バネ固定プレート(18)を設けて、図15に示すように、板バネによって第1樹脂板の上端面に力を加える。これにより、保持用治具板(1,2)の上に載置保持された第1樹脂板(6)と第2樹脂板(7)の接着面に圧力を印圧することができる。
【0061】
<樹脂板の接着方法>
本発明の樹脂板の接着方法は、2枚の樹脂板を略直角に接合して、L字型の形状の樹脂製什器製品を製造するときに適用できる。この接着方法においては、工程(1)~(5)を順次行う。
【0062】
或いは又、本発明の樹脂板の接着方法は、3枚の樹脂板を互いに略直角に接合して、コの字型の形状の樹脂製什器製品を製造するときに適用できる。この接着方法においては、2枚の樹脂板を用いて工程(1)~(5)を行なって、略直角に接合して、L字型の形状に接着した後、さらに残りの1枚の樹脂板を用いて工程(1)~(5)を順次行ない、コの字型の形状をなすようにこれらの樹脂板を接着することができる。
【0063】
上と同様にして、4枚の樹脂板を互いに略直角に接合して、箱型の形状の樹脂製什器製品を製造するときにも、本発明の樹脂板の接着方法を適用できる。
【0064】
<工程(1)>
工程(1)は、第1保持用治具板の主表面上に第1樹脂板を載置して保持し、第2保持用治具板の主表面上に第2樹脂板を載置して保持し、相対する前記第1樹脂板の主表面と前記第2樹脂板の主表面が成す角度αが略直角を成し、且つ、前記第1樹脂板の端面が前記第2樹脂板の端縁部片面に略当接するように、第1保持用治具板と第2保持用治具板とを固定配置することを含む工程である。第1保持用治具板の一つの主表面に第1樹脂板の一つの主表面が接し、第2保持用治具板の一つの主表面に第2樹脂板の一つの主表面が接するように、前記載置を行う。
【0065】
ここで「第1保持用治具板と第2保持用治具板とを固定配置する」とは、第1保持用治具板と第2保持用治具板の位置関係が変化しないように、これらの保持用治具板を配置することをいう。
【0066】
第1保持用治具板と第2保持用治具板とを固定配置する方法は、特に限定されるものではなく、例えば、第1保持用治具板と第2保持用治具板とを上述した蝶番(3)で連結し、上述した角度調節機構を用いて前記角度αが所定の値となるように制御する方法が挙がられる。
【0067】
第1及び第2樹脂板をそれぞれ第1及び第2保持用治具板に載置して保持する方法は、特に限定されないが、例えば、後述するクランプ機構或いは後述する減圧吸引機構を用いる方法を挙げることができる。第1及び第2樹脂板を接着して得た製品は、接着用治具から取り外す。従って、この「保持」は、後に容易に解除できるような保持であることが好ましい。つまり典型的には、樹脂板を、保持用治具板に着脱可能に保持する。
【0068】
工程(1)において、角度αは、接着して得られる樹脂製什器製品の形状精度(形状安定性)や接着部の強度を十分に維持する観点から、85度以上95度以下が好ましく、88度以上92度以下がより好ましい。
【0069】
第1樹脂板の端面が第2樹脂板の端縁部片面に略当接する状態とは、図3~8で示すように、第2樹脂板の端縁部片面に、第1樹脂板の接着面となる端面の一部若しくは全部が当接する状態のことをいう。ただし、工程(1)の段階では、第1樹脂板と第2樹脂板の相対する被接着面間に、実質的に隙間が存在しないことが好ましい。
【0070】
「第2樹脂板の端縁部片面」とは、第2樹脂板の端縁部(端縁とその近傍)における一つの主表面を意味する。ここでいう近傍とは、端縁からの距離が、第1樹脂板の厚さ以内にある領域を意味する。
【0071】
なお、図3、5及び8には、第1樹脂板の接着面となる端面(すなわち下端面)の全部が、第2樹脂板の端縁部片面に当接している状態を示す。図4、6及び7には、第1樹脂板の下端面の左端縁が第2樹脂板の端縁部片面に接しているが、第1樹脂板の下端面の他の部分は、第2樹脂板に接していない状態を示す。
【0072】
また、工程(1)において、第1樹脂板の一方の主表面と第2樹脂板の端面と(図8における第1樹脂板(6)の左側の主表面と、第2樹脂板(7)の左側の端面)が面一となるように、第1樹脂板の端面(図8における第1樹脂板の下端面)を第2樹脂板の端縁部片面(図8における第2樹脂板の端縁部の上面)に当接して配置することができる。これにより、接着処理後に、第2樹脂板の端縁が突出した部分を切削除去する操作が不要となるとともに、接着部を外観的にほとんど目立たない美麗な仕上がり状態にすることができる。
【0073】
<工程(2)>
工程(2)では、工程(1)の後に、第1樹脂板の端面を第2樹脂板の端縁部片面に略当接させたまま、第1保持用治具板と第2保持用治具板との間の角度βを変えることによって、前記角度αを、0度を超えて5度以下の範囲の角度だけ、工程(1)の略直角から広げる。つまり、工程(1)において角度αが90度であれば、工程(2)において角度αは90度超、95度以下に広がる。
【0074】
角度βは、例えば第1保持用治具板と第2保持用治具板の主表面(樹脂板載置面)同士が成す角度として定義できる。角度βを、上述した角度調節機構で調節することができる。即ち、例えば角度調節機構を用いて第1保持用治具板を第2保持用治具板に対して傾斜させることにより、第1樹脂板の主表面と第2樹脂板の主表面が成す角度αを、工程(1)の略直角から、角度0度を超えて5度以下の範囲で更に広げる。
【0075】
具体的には、図3又は図5に示される、第1樹脂板の主表面と第2樹脂板の主表面が成す角度αが略直角である状態から、第1保持用治具板(1)を第2保持用治具板(2)に対して傾斜させる。つまり、角度βを増大させることによって角度αを増大させる。これによって、図4又は図6に示されるように、角度αを工程(1)の略直角から、角度0度を超えて5度以下の範囲で更に広げた状態とすることができる。
【0076】
角度βを変える方法は、特に制限されるものではなく、例えば、図1に示す、手動式又は機械制御式のストローク(長さ)を調節可能なストローク可動式角度調節機構(4)を用いた方法を挙げることができる。或いは又、図2に示す、エアシリンダー台座(15)に搭載された背板傾斜用エアシリンダー(5)を圧縮エアー切り替え装置(16)で制御する方法を挙げることができる。
【0077】
角度αを前述のように広げることにより、第1樹脂板と第2樹脂板の相対する被接着面間に、図4図6及び図7に示される接着剤注入部(8)になる隙間が生じ、後述する工程(3)において、当該被接着面間に接着剤が浸透される。第1樹脂板が第2樹脂板に当接する状態とした後に、前記隙間を形成することで、前記被接着面間に接着剤が均一に浸透、充填され易くなり、その結果として樹脂製什器製品の接着部付近の強度や外観を良好にできる。
【0078】
上述した第1樹脂板と第2樹脂板の相対する被接着面間に形成される接着剤注入部(8)になる隙間の角度(これらの被接着面が互いになす角度)は、0度を超えて5度以下が好ましく、0.1度以上2度以下がより好ましい。隙間の角度の下限が0度を超えていれば、樹脂板の板厚みが小さく、接着剤の粘度が低い場合に、毛細管現象によって接着剤を被接着面間に浸透させることができる。隙間の角度が大きくなるほど、樹脂板の板厚みが大きく、接着剤の粘度が高い場合であっても、被接着面間に接着剤が浸透しやすくなる傾向がある。一方、隙間の角度の上限が5度以下であれば、接着剤の必要注入量が少量ですむため、保持用治具板を略直角に戻した際に溢れだす接着剤量を低減できるので、接着処理後に、溢れた接着剤の除去が不要になり、樹脂製什器製品の外観を良好に維持できる。
【0079】
<工程(3)>
工程(3)は、工程(2)の後に、図7で示される、第1樹脂板(6)と第2樹脂板(7)の相対する被接着面間に形成された接着剤注入部(8)に、接着剤を充填することを含む工程である。
【0080】
接着剤注入部(8)である被接着面間に接着剤を充填する方法は、特に限定されるものではなく、例えば、揮発性溶剤等で希釈して粘度調整した接着剤をシリンジ等により第1樹脂板又は第2樹脂板の被接着面間に浸透・充填する方法等の公知の方法を挙げることができる。
【0081】
<工程(4)>
工程(4)では、工程(3)で被接着面間に接着剤を充填した後に、前記第1樹脂板(6)の主表面と前記第2樹脂板(7)の主表面が成す角度αを、図8に示すように略直角にする。特には、角度αを工程(1)と同じ略直角に戻すことができる。このために、前記角度βを変更することができ、特には角度βを工程(1)における角度に戻すことができる。
【0082】
ここで、略直角は、上述したのと同じ理由により、85度以上95度以下が好ましく、88度以上92度以下がより好ましい。
【0083】
また、工程(4)において、第1樹脂板の一方の主表面と第2樹脂板の端面と(図8における第1樹脂板(6)の左側の主表面と、第2樹脂板(7)の左側の端面)が面一となるように、第1樹脂板の端面(図8における第1樹脂板の下端面)を第2樹脂板の端縁部片面(図8における第2樹脂板の端縁部の上面)に当接して配置することができる。これにより、接着処理後に、第2樹脂板の端縁が突出することを防止することが容易である。その結果、突出部分を切削除去する操作が不要となるとともに、接着部を外観的にほとんど目立たない美麗な仕上がり状態にすることができる。
【0084】
<工程(5)>
工程(5)は、前記接着剤を硬化することを含む工程である。本発明に用いられる接着剤については後述する。
【0085】
工程(5)において、第1樹脂板と第2樹脂板の被接着面に圧力を印加しつつ、特には均等に印加しつつ、接着剤を硬化することができる。これにより、第1樹脂板と前記第2樹脂板の被接着面間に接着剤を均等に浸透できるとともに、接着剤が硬化してできた接着層の厚みを均一にすることができる。その結果、得られた樹脂製什器製品の接着部付近の外観や接着強度を良好なものとすることができる。接着面に加える圧力は、1kPa以上であれば接着剤の粘度が低い場合(例えば0.001poise)に、被接着面間に接着剤を均等に浸透させることが容易なので好ましく、5kPa以上がより好ましい。この圧力は、20kPa以下であれば被接着面外に接着剤が漏れたり、溢れたりすることを容易に抑制できるので好ましく、10kPa以下がより好ましい。
【0086】
第1樹脂板の主表面と第2樹脂板の主表面が成す角度αが略直角を維持したまま、第2保持用治具板の主表面(第2樹脂板を載置する面)と水平方向の成す角度γが0度である状態で工程(5)の処理を行ってもよいし、角度γが0度を超えて45度以下の範囲にある状態で工程(5)の処理を行うこともできる。このために、工程(1)~(4)のいずれかの工程の後に、角度αが略直角を維持したまま、角度γが0度を超えて45度以下の範囲になるように第1及び第2保持用治具板を配置することができる。具体的には、第1及び第2保持用治具板を支持台に載せ、角度γが0度を超えて45度以下の範囲になるように、前記支持台の傾きを手動で制御する方法が挙げられる。
【0087】
上述のように第2保持用治具板の主表面を水平方向に対して傾斜させることで、工程(3)で被接着面間に浸透・充填した接着剤の浸透をより促進できる。特に、樹脂板(端面を接着するほうの樹脂板)の板厚みが大きくなるほど、或いは又、接着剤の粘度が大きくなるほど、角度γを大きくすることで、被接着面間への接着剤の浸透を促進できる。角度γは、5度以上であれば、樹脂板の板厚みが薄い場合(例えば0.5mm)に被接着面間への接着剤の浸透を容易に促進できるので好ましく、10度以上がより好ましい。角度γは、45度以下であれば、被接着面外に接着剤が漏れたり、溢れたりすることを容易に抑制できるので好ましく、40度以下がより好ましい。
【0088】
<工程(6)>
工程(6)は、工程(1)の後、且つ工程(3)より前に、第1樹脂板及び第2樹脂板の少なくとも一方の樹脂板の反り又は撓み(以下、「反り等」と略することがある)を矯正する工程である。樹脂板の反り等を矯正してから、樹脂板同士を接着することで樹脂製什器製品の接着部付近の接着強度や外観を良好なものとすることができる。更に、樹脂板の反り又は撓みを矯正する機構を有する接着用治具を用いることによって、作業時間を短縮できる。
【0089】
<減圧吸引機構>
前記工程(6)の樹脂板の反り等を矯正する一実施形態として、図9~12等に示すように、第1保持用治具板の主表面及び/又は第2保持用治具板の主表面(樹脂板載置面)上の、第1又は第2樹脂板が載置される領域に開口する少なくとも一つの孔(11)を介して、反り等を矯正する樹脂板を減圧吸引することにより、当該樹脂板の反り等を矯正する方法(減圧吸引機構)を挙げることができる。接着用治具が樹脂板の反り等を矯正する機構を有することにより、作業場周辺に十分な空間を確保できるので好ましい。また、樹脂板を減圧吸引することで、樹脂板を保持用治具板に固定する効果も有する。例えば、孔(11)を減圧ポンプに接続し、孔(11)内を減圧にして、樹脂板を吸引することができる。
【0090】
<クランプ機構>
工程(6)の樹脂板の反り等を矯正する別の実施形態として、図13に示すように、第1又は第2保持用治具板に取付けられた押圧治具(14)、又は押圧治具を支持するためのフレーム(不図示)に取付けられた押圧治具を、反り等を矯正する樹脂板の表面に圧接させて、この樹脂板を載置した保持用治具板にこの樹脂板を押し当てることにより、樹脂板の反り等を矯正する方法(クランプ機構(13))を挙げることができる。なお、押圧治具(14)は該押圧治具(14)を前後動可能とするためのリンク機構に接続されていてもよいし、或いは又は、該押圧治具(14)を前後動可能とするためのリンク機構を有していてもよい。また、クランプ機構は、樹脂板に押圧をかけることで、樹脂板を保持用治具板に固定する効果も有する。
【0091】
ここでいう「前後動」に関して、「前」方向は、反り等を矯正する樹脂板をその樹脂板が載置された保持用治具板に押しつける方向を意味し、「後」方向はその逆の方向を意味する。クランプ機構(13)は、樹脂板を保持用治具板に押しつける機構であり、リンク機構と押圧治具を含む。
【0092】
<樹脂板の平面度>
上記の樹脂板の反り等を矯正する工程においては、樹脂板の平面度が0.2mm未満を満足するように矯正することができる。樹脂板の平面度が0.2mm未満であれば、樹脂製什器製品の接着部付近の接着強度を容易に良好にできることから好ましく、0.1mm以下がより好ましい。平面度の下限には特に制限はなく、凹凸差(高低差)ゼロの完全平面となるように矯正することが好ましい。なお、平面度の測定方法としては、レーザー干渉計による測定方法、3点ゲージによる測定方法及びオプチカルフラット(基準原器)による測定方法など公知の方法を用いることができる。
【0093】
<孔閉塞防止手段(溝)>
樹脂板の反り等を減圧吸引機構で矯正する場合、図9のB(点線内)に示すように、第1樹脂板の端面と第2樹脂板の端縁部片面との当接部(接着面同士の当接部)から、この当接部に相対する保持用治具板の主表面上に向かって、減圧状態下で接着剤が漏れ出す場合がある。その場合、必要であれば、孔閉塞防止手段(減圧吸引用の孔が接着剤によって閉塞することを防止する手段)として、図10に示すように、第1もしくは第2保持用治具板の主表面の前記当接部に相対する位置に、溝(10)を設けることができる。前記溝(10)を設けることにより、減圧状態下で接着部から漏れ出した接着剤が、保持用治具板の表面に設けられた減圧吸引用の孔を塞いだり、漏れ出した接着剤が接着部周辺に広がって樹脂製什器製品の外観を損ねたりすることを防止できる(漏れ出した接着剤は、溝の中に溜まる)。溝の大きさは、この溝の使用目的に鑑みて、適宜決めることができる。
【0094】
<孔閉塞防止手段(弾性リング)>
樹脂板の反り等を減圧吸引機構で矯正する場合に用いることのできる孔閉塞防止手段の別の形態として、孔(11)に接着剤が進入することを弾性体からなるリングによって防止する形態もある。この形態では、第1樹脂板又は第2樹脂板を保持用治具板に載置保持したときに、孔(11)が気密に閉鎖可能となり、且つ、孔(11)と接着部(第1樹脂板及び第2樹脂板の接着面同士の当接部)とが縁切り状態となるように、前記孔(11)の外側に、孔閉塞防止手段を配置することができる。
【0095】
この孔閉塞防止手段として、例えば、図11及び図12に示すように、第1及び/又は第2保持用治具板の主表面上に設けられた各々の孔(11)を包囲するように、この主表面上で各々の孔の外側に、弾性体からなるリング(12)を其々1個ずつ配置することができる。あるいは、図16に示すように、前記孔(11)の内側周囲の、前記保持用治具板の主表面付近に設けられた円筒溝に、弾性体からなるリング(12)を配置してもよい。
【0096】
或いは又、孔閉塞防止手段として、図17及び図18に示すように、前記第1又は第2保持用治具板の各々の主表面上に設けられた全ての孔(11)を包囲するようにリング(20)を配置することもできる。
【0097】
前記リング(12、20)を設けることにより、孔(11)と接着部とが縁切り状態になるため、減圧状態下で接着部から漏れ出した接着剤(9)が、保持用治具板の表面に設けられた減圧吸引用の孔(11)を塞ぐことや、漏れ出した接着剤(9)が接着部周辺に広がって樹脂製什器製品の外観を損ねることを容易に防止できる。
【0098】
前記リングのサイズは、特に制限されるものではないが、樹脂板を減圧吸引した状態において、保持用治具板の主表面に対する前記リングの高さを0.02mm以上0.2mm以下とすることができる。リング高さが0.02mm以上0.2mm以下であれば、得られた樹脂製什器製品の接着部付近において、樹脂板の端縁の突出部分が目立ちにくいので、什器製品の外観を良好にできる。リングの材質は、特に限定されるものではなく、使用する接着剤に膨潤又は溶解しない材質が好ましい。具体的には、シリコンゴム、ネオプレンゴム、ウレタンゴム等の公知のエラストマー材料を挙げることができる。
【0099】
<樹脂板の材質>
本発明に用いられる樹脂板の材料の種類は、特に限定されず、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、MS系樹脂、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂及びフッ素系樹脂等の公知の材料を挙げることができる。特に、屋内家具やインテリアの用途には、透明樹脂材料からなる什器製品が多く使用されていることから、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、塩化ビニル系樹脂等からなる樹脂板が好適である。
【0100】
<接着剤>
本発明に用いられる接着剤の種類は、使用する樹脂板に適用可能な接着剤を、溶剤系接着剤、重合系接着剤など公知の接着剤から適宜選定して使用できる。接着剤の粘度は、特に限定されないが、例えば、市販の接着剤をそのまま使用することができ、又は公知の溶剤で希釈して粘度0.0015~1.0poise程度にして用いることができる。
【0101】
例えば、アクリル系樹脂板を接着する場合には、溶剤系接着剤として、ジクロロメタン、ジクロロエタン、テトラヒドロフラン、1-ブロモプロパンなどを主成分とする公知の接着剤を使用できる。ジクロロメタンを主成分とする接着剤は、ジクロロメタンの沸点(40℃)が常温に近く揮発速度が速いことから、接着速度を調整するために、高沸点溶剤を添加してもよい。前記高沸点溶剤としては、ジアセトンアルコール(沸点164℃)、氷酢酸(沸点118℃)、市販のアクリル接着用添加剤アクリメイト(商品名、三菱レイヨン社製品)などを、例えば接着剤の総重量に対して0%超30%以下の範囲で添加することができる。
【0102】
具体的には、アクリサンデー接着剤(商品名、アクリサンデー株式会社製)、eソルブ21KI(商品名、カネコ化学株式会社製)が挙げられる。
【0103】
また、ジクロロメタンなどの溶剤系接着剤にアクリル樹脂などを接着剤の総重量に対して0%超15%以下の範囲で溶解した接着剤を使用することもできる。
【0104】
また、アクリル系樹脂板の重合系接着剤として、メチルメタクリレートなどを主成分とした公知の重合系接着剤を使用することができる。具体的には、アクリボンドBC415(商品名、三菱レイヨン株式会社製)が挙げられる。
【0105】
ポリカーボネート系樹脂板を接着する場合には、溶剤系接着剤として、ジクロロメタン、メチルエチルケトンなどを主成分とした溶剤系接着剤を使用することができる。具体的には、アクリサンデー接着剤(商品名、アクリサンデー株式会社製)、VP2000(商品名、コニシ株式会社製)が挙げられる。
【0106】
ポリスチレン系樹脂を接着する場合には、溶剤系接着剤として、ジクロロメタンなどを主成分とした溶剤系接着剤を使用することができる。具体的には、アクリサンデー接着剤(商品名、アクリサンデー株式会社製)が挙げられる。
【0107】
<樹脂製什器製品>
本発明を利用して製造することのできる樹脂製什器製品の形状は、図8に示すL字型の形状に限定されず、任意の形状とすることが可能である。例えば、箱形状、コの字型等の形状とすることも可能である。本発明を利用して製造された樹脂製什器製品は均一な接着層を有しているので、接着部付近の強度に優れている。特に、透明なアクリル系樹脂板を使用したときに、接着部近傍における原料モノマーの残存量が少ない場合でも、アクリル系樹脂板の溶剤接着が可能となるので、得られた樹脂製什器製品の接着部付近で、透明性の低下や斑・歪の発生が抑制される。その結果、樹脂製什器製品は、外観が良好で、品質の安定した仕切り製品、棚、箱形状物などに適用できる。
【0108】
本発明によれば、簡単な作業で樹脂板同士を良好に接着することができる。例えば樹脂板の厚みが大きい場合、接着剤の粘度が高い場合又は接着剤が揮発速度の低い溶剤又は揮発温度の低い溶剤を含む場合であっても、2枚の樹脂板の被接着面の間に接着剤を注入するときに、被接着面の間に浸透する接着剤の量が不均一になることを防止することが容易であり、接着材層の厚みに斑が生じることを防止することが容易である。したがって接着部分の強度を良好にし、接着部付近の外観を良好にすることが容易である。さらに、被接着面の間に接着剤を充填させた後に、接着面に均等に圧力をかけて、被接着面間に接着剤を均等に浸透させてから固化することも容易に行い得る。即ち、作業者の熟練度によらず、接着部分の強度や外観等の製品品質を良好にすることが容易である。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明は、樹脂板同士を、一方の樹脂板の端縁部片面に他方の樹脂板の端面を当接させて、それぞれの樹脂板の主表面が略直角を成すように接合する場合に利用できる。本発明は、とりわけ透明樹脂板の接合に有利である。
【符号の説明】
【0110】
1 第1保持用治具板
2 第2保持用治具板
3 蝶番
4 ストローク可動式角度調節機構
5 背板傾斜用エアシリンダー
6 第1樹脂板
7 第2樹脂板
8 接着剤注入部
9 接着剤(漏れ出し分)
10 溝
11 孔(減圧吸引用)
12 リング
13 クランプ機構
14 押圧治具
15 エアシリンダー台座
16 圧縮エアー切り替え装置
17 位置合わせ部品
18 板バネ取り付けプレート
19 板バネ
20 リング
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