(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-23
(45)【発行日】2022-05-31
(54)【発明の名称】非水系電解質二次電池用正極活物質とその製造方法、非水系電解質二次電池用正極合材ペーストおよび非水系電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20220524BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20220524BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20220524BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20220524BHJP
H01M 4/1391 20100101ALI20220524BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 C
H01M4/131
H01M4/1391
(21)【出願番号】P 2018518272
(86)(22)【出願日】2017-05-12
(86)【国際出願番号】 JP2017018105
(87)【国際公開番号】W WO2017199891
(87)【国際公開日】2017-11-23
【審査請求日】2020-02-06
(31)【優先権主張番号】P 2016098093
(32)【優先日】2016-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2016218994
(32)【優先日】2016-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100185018
【氏名又は名称】宇佐美 亜矢
(74)【代理人】
【識別番号】100107836
【氏名又は名称】西 和哉
(72)【発明者】
【氏名】猿渡 元彬
(72)【発明者】
【氏名】漁師 一臣
【審査官】小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-099767(JP,A)
【文献】特開2013-239434(JP,A)
【文献】特開2015-225741(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0026306(KR,A)
【文献】特開2010-040383(JP,A)
【文献】特開2004-335278(JP,A)
【文献】国際公開第2016/017074(WO,A1)
【文献】特開2015-201431(JP,A)
【文献】国際公開第2013/021955(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0057163(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/12-4/62
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式Li
sNi
1-x-y-zCo
xMn
yM
zO
2+α(ただし、0≦x≦0.20、0≦y≦0.20、0≦z≦0.05、0.95<s<1.30、0≦α≦0.2、Mは、V、Mg、Mo、Nb、Ti、WおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表されるリチウム金属複合酸化物と、リチウムホウ素化合物と、を含む非水系電解質二次電池用正極活物質であって、
前記リチウム金属複合酸化物は、一次粒子が凝集して形成された二次粒子を含み、前記一次粒子表面の少なくとも一部が前記リチウムホウ素化合物で被覆され、
中和滴定法によって測定される、前記正極活物質を水に分散させたときに溶出する水酸化リチウム量が、正極活物質全体に対して、Li換算で0.003質量%以上0.5質量%以下である、非水系電解質二次電池用正極活物質。
【請求項2】
前記リチウムホウ素化合物に含まれるホウ素の量は、前記正極活物質中のNi、Co、MnおよびMの合計に対して0.03mol%以上8mol%以下である請求項1に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。
【請求項3】
前記リチウムホウ素化合物は、ホウ酸リチウムを含む請求項1又は2に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。
【請求項4】
層状構造の結晶構造を有するリチウム金属複合酸化物からなる焼成粉末と、リチウムを含まず、リチウムと反応可能なホウ素化合物と、水とを混合することと、
前記混合して得られた混合物を乾燥して正極活物質を得ることを備え、
前記焼成粉末は、一般式Li
sNi
1-x-y-zCo
xMn
yM
zO
2+α(ただし、0≦x≦0.35、0≦y≦0.35、0≦z≦0.10、0.95<s<1.30、0≦α≦0.2、Mは、V、Mg、Mo、Nb、Ti、WおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表され、一次粒子が凝集して形成された二次粒子を含み、
前記ホウ素化合物は、中和滴定法によって測定される、前記正極活物質を水に分散させたときに溶出する水酸化リチウム量が、正極活物質全体に対して、
Li換算で0.003質量%以上0.5質量%以下となる量を、混合する、非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項5】
前記焼成粉末に、前記ホウ素化合物を混合した後、前記水を、前記焼成粉末に対して1質量%以上40質量%以下の範囲で混合する、請求項4に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項6】
前記乾燥は、100℃以上300℃以下で行う、請求項4又は請求項5に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項7】
前記正極活物質は、前記一次粒子表面が、リチウムホウ素化合物で被覆される、請求項4~請求項6のいずれか一項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項8】
前記ホウ素化合物は、ホウ酸、酸化ホウ素及びホウ酸アンモニウムの少なくとも一つを含む、請求項4~請求項7のいずれか一項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項9】
前記ホウ素化合物に含まれるホウ素の添加量は、前記焼成粉末中のNi、Co、MnおよびMの合計に対して0.03mol%以上8mol%以下である請求項4~請求項8のいずれか一項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項10】
請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質を含む、非水系電解質二次電池用正極合材ペースト。
【請求項11】
請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質を含む正極を有する非水系電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系電解質二次電池用正極活物質とその製造方法、非水系電解質二次電池用正極合材ペーストおよび非水系電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノート型パソコンなどの携帯電子機器の普及に伴い、高いエネルギー密度を有する小型で軽量な非水系電解質二次電池の開発が強く望まれている。また、ハイブリット自動車を始めとする電気自動車用の電池として出力特性と充放電サイクル特性が優れた二次電池の開発が強く望まれている。
【0003】
このような要求を満たす二次電池として、非水系電解質二次電池用正極活物質があり、代表的な二次電池としてリチウムイオン二次電池がある。このリチウムイオン二次電池は、負極および正極と電解液等で構成され、負極および正極の活物質は、リチウムを脱離および挿入することの可能な材料が用いられている。
【0004】
このようなリチウムイオン二次電池は、現在研究、開発が盛んに行われているところであるが、中でも、層状またはスピネル型のリチウム金属複合酸化物を正極材料に用いたリチウムイオン二次電池は、4V級の高い電圧が得られるため、高いエネルギー密度を有する電池として実用化が進んでいる。
【0005】
これまで主に提案されている材料としては、合成が比較的容易なリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2)や、コバルトよりも安価なニッケルを用いたリチウム金属複合酸化物(LiNiO2)、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2)、マンガンを用いたリチウムマンガン複合酸化物(LiMn2O4)などを挙げることができる。
【0006】
充放電サイクル特性のさらなる改善を図るためには、例えば、ニッケル、コバルト、マンガンなどの金属元素に対してリチウムを化学量論組成よりも過剰に含有させることが有効である。また、リチウムニッケルコバルト複合酸化物にホウ素などを含む化合物を添加することによって、電池特性を改善させることがいくつか提案されている。
【0007】
例えば、特許文献1には、少なくとも層状構造のリチウム遷移金属複合酸化物を有する非水電解質二次電池用正極活物質であって、前記リチウム遷移金属複合酸化物は、一次粒子およびその凝集体である二次粒子の一方または両方からなる粒子の形態で存在し、前記一次粒子のアスペクト比が1~1.8であり、前記粒子の少なくとも表面に、モリブデン、バナジウム、タングステン、ホウ素およびフッ素からなる群から選ばれる少なくとも1種を有する化合物を有する非水電解質二次電池用正極活物質が提案されている。粒子の表面にモリブデン、バナジウム、タングステン、ホウ素およびフッ素からなる群から選ばれる少なくとも1種を有する化合物を有することにより、導電性が向上するとされている。
【0008】
特許文献2には、リチウムイオンの挿入・脱離が可能な機能を有するリチウム遷移金属系化合物を主成分とし、該主成分原料に、B及びBiから選ばれる少なくとも1種の元素を含有する化合物と、Mo、W、Nb、Ta及びReから選ばれる少なくとも1種の元素を含有する化合物をそれぞれ1種併用添加した後、焼成されてなるリチウム二次電池正極材料用リチウム遷移金属系化合物粉体が提案されている。添加元素を併用添加した後、焼成することにより、粒成長及び焼結の抑えられた微細な粒子からなるリチウム遷移金属系化合物粉体が得られ、レートや出力特性が改善されるとともに、取り扱いや電極調製の容易なリチウム含有遷移金属系化合物粉体を得ることができるとしている。
【0009】
特許文献3には、一般式LiaNi1-x-yCoxM1yWzM2wO2(1.0≦a≦1.5、0≦x≦0.5、0≦y≦0.5、0.002≦z≦0.03、0≦w≦0.02、0≦x+y≦0.7、M1はMn及びAlからなる群より選択される少なくとも一種、M2はZr、Ti、Mg、Ta、Nb及びMoからなる群より選択される少なくとも一種)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物と、少なくともホウ素元素及び酸素元素を含むホウ素化合物とを含む非水電解液二次電池用正極組成物が提案されている。ニッケル及びタングステンを必須とするリチウム遷移金属複合酸化物と、特定のホウ素化合物とを含む正極組成物を用いることにより、リチウム遷移金属複合酸化物を用いた正極組成物において出力特性及びサイクル特性を向上させることができるとしている。
【0010】
特許文献4には、少なくとも層状の結晶構造のリチウム遷移金属複合酸化物を有する非水電解液二次電池用正極活物質であって、前記リチウム遷移金属複合酸化物は、粒子であるとともに、少なくとも前記粒子の表面にホウ酸リチウムを有する、非水電解液二次電池用正極活物質が提案されている。粒子の表面にホウ酸リチウムを有することにより、初期放電容量および初期効率を同等に維持しつつ、熱安定性を向上させることができるとしている。
【0011】
特許文献5には、リチウム(Li)と、ニッケル(Ni)およびコバルト(Co)のうちの少なくとも一方とを含む複合酸化物粒子に、硫酸塩およびホウ酸化合物のうちの少なくとも一方を被着する工程と、上記硫酸塩およびホウ酸化合物のうちの少なくとも一方の被着した上記複合酸化物粒子を酸化性雰囲気下で加熱処理する工程と、を有することを特徴とする正極活物質の製造方法が提案されている。この提案によれば、二次電池の高容量化と、充放電効率の向上とを実現することが可能な正極活物質を製造することができるとしている。
【0012】
特許文献6には、LiaNixCoyAlzO2(但し、Niは、Ni全体の量を1としたときに、Niの0.1以下の範囲内で、Mn、Cr、Fe、V、Mg、Ti、Zr、Nb、Mo、W、Cu、Zn、Ga、In、Sn、La、Ceからなる群から選択される1種または2種以上の金属元素と置換可能である。また、式中a、x、y、zは、0.3≦a≦1.05、0.60<x<0.90、0.10<y<0.40、0.01<z<0.20の範囲内の値であり、x、yおよびzの間にはx+y+z=1の関係がある。)で平均組成が表される複合酸化物粒子にホウ酸化合物を被着させて加熱処理を行ったもので、炭酸イオンの含有量が0.15重量%以下であり、かつホウ酸イオンの含有量が0.01重量%以上5.0重量%以下である正極活物質が提案されている。ホウ酸化合物を被着させることにより、複合酸化物粒子に含まれる炭酸根とホウ酸化合物とが置換され、二次電池の電池内部におけるガス発生量を低減させることができるとしている。
【0013】
ところで、非水電解質二次電池の正極は、例えば、正極活物質と、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などのバインダーや、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)などの溶剤とを混合して正極合材ペーストにし、アルミ箔などの集電体に塗布することで形成される。このとき、正極合材ペースト中の正極活物質からリチウムが遊離した場合、バインダーなどに含まれる水分と反応し水酸化リチウムが生成することがある。この生成した水酸化リチウムとバインダーとが反応し、正極合材ペーストがゲル化を起こすことがある。正極合材ペーストのゲル化は、操作性の悪さ、歩留まりの悪化を招く。この傾向は、正極活物質におけるリチウムが化学量論比よりも過剰で、且つニッケルの割合が高い場合に顕著となる。
【0014】
正極合材ペーストのゲル化を抑制する試みがいくつかなされている。例えば、特許文献7には、リチウム遷移金属複合酸化物からなる正極活物質と、酸性酸化物粒子からなる添加粒子とを含む非水電解液二次電池用正極組成物が提案されている。この正極組成物は、バインダーに含まれる水分と反応して生成した水酸化リチウムが酸性酸化物と優先的に反応し、生成した水酸化リチウムとバインダーとの反応を抑制し、正極合材ペーストのゲル化を抑制するとしている。また、酸性酸化物は、正極内で導電剤としての役割を果たし、正極全体の抵抗を下げ、電池の出力特性向上に寄与するとしている。
【0015】
また、特許文献8には、リチウムイオン二次電池製造方法であって、正極活物質として、組成外にLiOHを含むリチウム遷移金属酸化物を用意すること;正極活物質1g当たりに含まれるLiOHのモル量Pを把握すること;LiOHのモル量Pに対して、LiOH1モル当たり、タングステン原子換算で0.05モル以上の酸化タングステンを用意すること;および、正極活物質と酸化タングステンとを、導電材および結着剤とともに有機溶媒で混練して正極ペーストを調製することを包含する、リチウムイオン二次電池製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】特開2005-251716号公報
【文献】特開2011-108554号公報
【文献】特開2013-239434号公報
【文献】特開2004-335278号公報
【文献】特開2009-146739号公報
【文献】特開2010-040382号公報
【文献】特開2012-028313号公報
【文献】特開2013-084395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上記提案は、いずれも出力特性などの電池特性が改善されるとされているが、ホウ素を添加することによって、電極作製時の正極合材ペーストのゲル化の問題が生じることがあり、出力特性や電池容量などの電池特性の改善とともに、ゲル化のさらなる改善が望まれている。
【0018】
また、上記特許文献7の提案では、電池中に酸性酸化物の粒子が残留することによってセパレータの破損およびそれにともなう安全性低下の恐れがある。また、上記正極組成物は、ゲル化抑制が十分であるとはいえない。さらに、上記正極組成物は、酸性酸化物の添加量を増やすことでゲル化の抑制を向上させることができるが、酸性酸化物を添加することにより、正極の重量が増加し、単位質量当たりの電池容量が劣化したり、原料費が増えたりする。また、上記特許文献8の提案においても、酸性酸化物の残留によるセパレータの破損の恐れ、さらには、ゲル化の抑制に関する問題点が解消されているとはいえない。また、充放電に寄与しない重元素であるタングステンを添加することにより、重量当たりの電池容量低下が大きいという問題がある。
【0019】
本発明は、上述の問題に鑑みて、ゲル化が抑制された正極活物質、及びこれを用いた正極合材ペーストと非水系電解質二次電池を提供することを目的とする。また、本発明は、ゲル化が抑制された正極活物質の簡便な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者は、上記課題を解決するため、非水系電解質二次電池用正極合材ペーストのゲル化抑制に関して鋭意研究した結果、正極合材ペーストのゲル化抑制には、正極活物質(リチウム金属複合酸化物)から溶出する水酸化リチウム量を制御することが重要であること、さらに、リチウム金属複合酸化物とホウ素化合物とを混合して、リチウム金属複合酸化物の粒子の表面にリチウムホウ素化合物を形成させることにより、正極合材ペーストのゲル化を低減することができるとの知見を得て、本発明を完成させた。
【0021】
本発明の第1の態様では、一般式LisNi1-x-y-zCoxMnyMzO2+α(ただし、0≦x≦0.20、0≦y≦0.20、0≦z≦0.05、0.95<s<1.30、0≦α≦0.2、Mは、V、Mg、Mo、Nb、Ti、WおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表されるリチウム金属複合酸化物と、リチウムホウ素化合物と、を含む非水系電解質二次電池用正極活物質であって、リチウム金属複合酸化物は、一次粒子が凝集して形成された二次粒子を含み、一次粒子表面の少なくとも一部がリチウムホウ素化合物で被覆され、中和滴定法によって測定される、正極活物質を水に分散させたときに溶出する水酸化リチウム量が、正極活物質全体に対して、Li換算で0.003質量%以上0.5質量%以下である、非水系電解質二次電池用正極活物質が提供される。
【0022】
また、リチウムホウ素化合物に含まれるホウ素の量は、正極活物質中のNi、Co、MnおよびMの合計に対して0.03mol%以上8mol%以下であることが好ましい。また、リチウムホウ素化合物は、ホウ酸リチウムを含むことが好ましい。
【0023】
本発明の第2の態様では、層状構造の結晶構造を有するリチウム金属複合酸化物からなる焼成粉末と、リチウムを含まず、リチウムと反応可能なホウ素化合物と、水とを混合することと、混合して得られた混合物を乾燥して正極活物質を得ることを備え、焼成粉末は、一般式LisNi1-x-y-zCoxMnyMzO2+α(ただし、0≦x≦0.35、0≦y≦0.35、0≦z≦0.10、0.95<s<1.30、0≦α≦0.2、Mは、V、Mg、Mo、Nb、Ti、WおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表され、一次粒子が凝集して形成された二次粒子を含み、ホウ素化合物は、中和滴定法によって測定される、正極活物質を水に分散させたときに溶出する水酸化リチウム量が、正極活物質全体に対して、0.003質量%以上0.5質量%以下となる量を、混合する、非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法が提供される。
【0024】
また、焼成粉末に、ホウ素化合物を混合した後、水を、焼成粉末に対して1質量%以上40質量%以下の範囲で混合することが好ましい。また、乾燥は、100℃以上300℃以下で行うことが好ましい。また、正極活物質は、一次粒子表面が、リチウムホウ素化合物で被覆されることが好ましい。また、ホウ素化合物は、ホウ酸、酸化ホウ素及びホウ酸アンモニウムの少なくとも一つを含むことが好ましい。また、ホウ素化合物に含まれるホウ素の添加量は、焼成粉末中のNi、Co、MnおよびMの合計に対して0.03mol%以上8mol%以下であることが好ましい。
【0025】
本発明の第3の態様では、上記非水系電解質二次電池用正極活物質を含む非水系電解質二次電池用正極合材ペーストが提供される。
【0026】
本発明の第4の態様では、上記非水系電解質二次電池用正極活物質を含む正極を有する非水系電解質二次電池が提供される。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、ゲル化が抑制され安定性が高い正極合材スラリーを得ることができる正極活物質を提供することができる。さらに、その製造方法は、容易で工業的規模での生産に適したものであり、その工業的価値は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1は、実施形態の非水系電解質二次電池用正極活物質の一例を示す図である。
【
図2】
図2は、実施形態の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、実施形態の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、電池評価に使用したコイン型電池の概略断面図である。
【
図5】
図5は、インピーダンス評価の測定例と解析に使用した等価回路の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態に係る非水系電解質二次電池用正極活物質とその製造方法、非水系電解質二次電池用正極合材ペーストおよび非水系電解質二次電池について説明する。なお、図面においては、各構成をわかりやすくするために、一部を強調して、あるいは一部を簡略化して表しており、実際の構造または形状、縮尺等が異なっている場合がある。
【0030】
[正極活物質]
まず、本発明に係る非水系電解質二次電池用正極活物質(以下、「正極活物質」ともいう。)について、
図1を参照して説明する。
図1(A)は、本実施形態に係る正極活物質の一例を示す図であり、
図1(B)は、本実施形態に係るリチウムホウ素化合物の形成過程を模式的に示す図である。
【0031】
図1に示すように、本実施形態の正極活物質20は、一般式(1):Li
sNi
1-x-y-zCo
xMn
yM
zO
2+α(ただし、0≦x≦0.35、0≦y≦0.35、0≦z≦0.10、0.95<s<1.30、0≦α≦0.2、Mは、V、Mg、Mo、Nb、Ti、WおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表されるリチウム金属複合酸化物10と、リチウムホウ素化合物3(以下、「LB化合物3」ともいう。)と、を含む。リチウム金属複合酸化物10は、一次粒子1が凝集して形成された二次粒子2を含み、一次粒子1の表面の少なくとも一部がリチウムホウ素化合物3で被覆される。また、上記一般式(1)で表されるリチウム金属複合酸化物10は、層状構造の結晶構造を有する。
【0032】
リチウム金属複合酸化物10は、例えば、ニッケル複合水酸化物又はニッケル複合水酸化物を酸化焙焼して得られたニッケル複合酸化物と、リチウム化合物と、を焼成して得られる。リチウム金属複合酸化物10の二次粒子2や一次粒子1の表面には、主に原料由来の未反応のリチウム化合物が存在している。未反応のリチウム化合物は、正極合材ペースト(以下、「ペースト」ともいう。)中に溶出して、バインダーや有機溶剤と反応し、ペーストをゲル化させることがある。また、リチウム金属複合酸化物(結晶構造)中に存在する過剰のリチウムがペースト中に溶出して、ペーストをゲル化させる場合もある。本発明者らは、これらの未反応のリチウムや、複合酸化物(結晶構造)中から溶出するリチウム(余剰リチウム)の中でも、特に、正極活物質を溶媒に分散させたときに水酸化リチウム(LiOH)として溶出するリチウム(以下、「余剰水酸化リチウム」ともいう。)が、正極合材ペーストのゲル化の一因となるとの知見を得て、ペーストのゲル化を抑制するためには、ペースト中への余剰水酸化リチウムの溶出量を制御することが重要であると考えた。
【0033】
本実施形態の正極活物質20は、
図1(B)に示されるように、二次粒子2や一次粒子1の表面に存在する余剰水酸化リチウムを含む余剰リチウムの少なくとも一部を、後述するホウ素化合物と反応させ、LB化合物3として一次粒子1表面に固定化して、溶出するLiOH量を特定の範囲に制御する。これにより、その詳細なメカニズムは不明であるが、ペースト中への余剰リチウムの溶出をより効果的に抑制して、ペーストのゲル化を抑制すると考えられる。なお、本発明者らの検討によれば、例えば、酸性化合物をペーストに添加して、ペースト中へ溶出する余剰リチウムを中和することによっても、ペーストのゲル化を抑制することができるが、ペースト中へ余剰リチウムが溶出した後に中和した場合、ゲル化抑制の効果が十分なものとはならず、電池特性を悪化させることが明らかとなった。
【0034】
本実施形態の正極活物質20では、LB化合物3の少なくとも一部がリチウム金属複合酸化物10の一次粒子1の表面を被覆している。LB化合物3は、リチウムイオン伝導性が高く、リチウムイオンの移動を促す効果がある。このため、リチウム金属複合酸化物10の一次粒子1表面をLB化合物3で被覆しても電解液との界面でLiの伝導パスを形成することから、正極抵抗を上昇させることなく電池の出力特性を維持できる。また、負荷側への印加電圧が低下しないことで、正極でのリチウムの挿抜が十分に行われるため、電池の充放電容量(以下、「電池容量」ということがある。)も維持される。
【0035】
ここで、一次粒子1表面とは、
図1(A)に示されるように、二次粒子2の外面(表面)に露出している一次粒子1aの表面だけでなく、二次粒子2外部と通じて電解液が浸透可能な二次粒子2の表面近傍及び内部の空隙に露出している一次粒子1bの表面を含むものである。さらに、一次粒子間1の粒界であっても一次粒子1の結合が不完全で電解液が浸透可能な状態となっていれば含まれるものである。すなわち、上述の余剰リチウム(余剰水酸化リチウムを含む)の溶出は、電解液との接触面で生じるため、電解液との接触面に存在する未反応のリチウム化合物とホウ素化合物とが反応する、または、金属複合酸化物中の過剰なリチウムを引き出してホウ素化合物と反応することにより、一次粒子1表面にLB化合物3を形成させることで、余剰リチウムの溶出を抑制できる。また、LB化合物3が一次粒子表面上で部分的に形成されてもゲル化抑制の効果が得られる。
【0036】
二次粒子2の表面に露出する一次粒子1a表面のLB化合物3の存在は、例えば、X線光電子分光分析(XPS)により確認することができる。また、二次粒子2内部の一次粒子1b表面のホウ素の存在は、例えば、電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM)に取り付けた軟X線発光分光装置(Soft X-ray Emission Spectroscopy;SXES)により、確認することができる。なお、二次粒子2内部に存在する微量のホウ素の存在形態は、直接、確認することは困難であるが、ホウ素と化合物を形成する元素としては、リチウムが考えられ、また、二次粒子2の表面に露出する一次粒子1a表面においては、ホウ素の少なくとも一部は、リチウムホウ素化合物3の形態で存在することを考慮すると、二次粒子2の内部の一次粒子1b表面においても、LB化合物3(例えば、リチウムホウ素酸化物)を形成しているものと推定される。
【0037】
(余剰水酸化リチウム量)
正極活物質20は、中和滴定法によって測定される、正極活物質を水に分散させたときに溶出する水酸化リチウム(余剰水酸化リチウム:LiOH)量が、正極活物質全体に対して、Li換算で0.5質量%以下であり、好ましくは0.003質量%以上0.5質量%以下、より好ましくは0.005質量%以上0.5質量%以下である。上述したように、溶出する水酸化リチウム量が上記範囲である場合、ペーストのゲル化を非常に抑制し、電池特性に優れた二次電池を得ることができる。また、溶出する水酸化リチウム量が0.5質量%を超える場合、溶出する水酸化リチウムが多い状態となり、ペーストのゲル化を抑制することが難しい。一方、溶出する水酸化リチウム量が0.003質量%未満である場合、ホウ素化合物が過剰に正極活物質からリチウムを引き抜きながらLB化合物3を生成していると考えられ、電池特性が悪化することがある。なお、溶出する水酸化リチウム量の下限は、高い電池特性を得るという観点から、0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましい。
【0038】
なお、例えば、特許文献3などに記載されるように、リチウム金属複合酸化物の粒子表面にホウ素を含む化合物が存在する正極活物質は、いくつか報告されているが、本実施形態の正極活物質20のように、LB化合物3を形成することにより、余剰リチウムの中でも、特に、水酸化リチウム量を特定の範囲となるように制御することについては、一切、検討されていなかった。一方、本実施形態の正極活物質20は、溶出する水酸化リチウム量を上記範囲に制御することにより、電池特性を維持しつつ、かつ、ペーストのゲル化を非常に抑制することができる。
【0039】
また、溶出する水酸化リチウム量(Li換算)は、例えば、正極活物質2gを125mlの純水と混合し1分間撹拌して分散させた後、10質量%塩化バリウム溶液を5ml加え、1.0mol/リットルの塩酸を用いて中和滴定することで第一中和点までの塩酸量から測定することができる。溶出する水酸化リチウム量を測定することにより、ペースト中への水酸化リチウムの溶出の度合いについて評価することができる。なお、正極活物質に含まれるLB化合物3も上澄み液中に溶解する場合があり、水酸化リチウムと同じpH領域で中和される。よって、上記溶出する水酸化リチウム量には、水に溶出したLB化合物3に由来するリチウムであって、第一中和点で滴定されたリチウムを含んでもよい。
【0040】
(リチウムホウ素化合物)
リチウム金属複合酸化物10は、一次粒子1表面上にLB化合物3を形成させている。LB化合物3は、Li原子及びB原子を有する化合物であり、ホウ酸リチウムを含むことが好ましい。ホウ酸リチウムとしては、例えば、LiBO2、その水和物、Li3BO3、又はこれらの混合物が挙げられる。
【0041】
(リチウム金属複合酸化物の組成)
また、リチウム金属複合酸化物10は、一般式(1):LisNi1-x-y-zCoxMnyMzO2+α(ただし、0≦x≦0.35、0≦y≦0.35、0≦z≦0.10、0.95<s<1.30、0≦α≦0.2、Mは、V、Mg、Mo、Nb、Ti、WおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表される。
【0042】
リチウム金属複合酸化物10中のNi、Co、MnおよびMの組成は、公知のリチウム金属複合酸化物の組成を用いることができ、電池に要求される特性に応じて適宜、組成を選択することができる。上記一般式中、Liの含有量を示すsは、例えば、0.95<s<1.20程度とすることができる。また、Coの含有量を示すxは、例えば、0<x≦0.20程度とすることができ、Mnの含有量を示すyは、例えば、0≦x≦0.20程度とすることができる。さらに、Mの含有量を示すzは、例えば、0≦z≦0.05程度とすることができる。Mは、要求される特性に応じて上述のように複数元素から選択できる。なお、上記一般式中、αは、リチウム金属複合酸化物に含まれるリチウム以外の金属元素の価数、及びリチウム以外の金属元素に対するリチウムの原子数比に応じて変化する係数である。
【0043】
(ホウ素の含有量)
また、LB化合物3に含まれるホウ素の量は、上記複合酸化物中のNi、Co、MnおよびMの合計に対して0.03mol%以上8mol%以下であることが好ましい。高い電池容量、及び、ゲル化を抑制するという観点から、LB化合物3に含まれるホウ素の量は、0.03mol%以上2mol%以下であることが好ましい。ゲル化をより抑制する観点から、LB化合物3に含まれるホウ素の量は、2mol%を超え8mol%以下であることが好ましい。
【0044】
(平均粒径)
リチウム金属複合酸化物10の平均粒径は、例えば、5μm以上30μm以下であり、好ましくは5μm以上20μm以下である。平均粒径は、レーザー回折散乱法により測定される体積基準平均粒径である。
【0045】
(粒度分布が広がり)
粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90-d10)/平均粒径〕は、特に限定されないが、高い充填性を有するという観点から、0.70以上であることが好ましく、0.70以上1.2以下であることがより好ましい。なお、d10は、各粒径における粒子数を粒径の小さい側から累積し、その累積体積が全粒子の合計体積の10%となる粒径を、d90は、同様に粒子数を累積し、その累積体積が全粒子の合計体積の90%となる粒径を意味する。d10およびd90は、平均粒径と同様に、レーザー光回折散乱式粒度分析計で測定した体積積算値から求めることができる。
【0046】
(一次粒子の平均粒径)
一次粒子1の平均粒径は、特に限定されないが、例えば、0.2μm以上1.0μm以下であることが好ましく、0.3μm以上0.7μm以下であることがより好ましい。これにより、電池の正極に用いた際のより高い出力特性と電池容量、さらに高いサイクル特性を得ることができる。一次粒子1の平均粒径が0.2μm未満である場合、焼成不足が懸念され十分な電池性能が得られないことがあり、一次粒子1の平均粒径が0.7μmを超えると、高い出力特性や高いサイクル特性が得られないことがある。
【0047】
なお、正極活物質20は、二次粒子3が、粒内に中空部を形成した中空構造を有してもよい。二次粒子3が中空構造を有する場合、二次粒子3の粒内への電解質の侵入がさらに容易となり、高い出力特性がさらに容易に得られる。なお、中空部は、一つでもよく、複数あってもよい。また、中空構造は、二次粒子3の粒内に多数の空隙を有する多孔質構造も含む。
【0048】
なお、正極活物質20は、複数の一次粒子1が凝集して形成される二次粒子2から構成される上記リチウム金属複合酸化物10を含むが、例えば、二次粒子2として凝集しなかった一次粒子1や、凝集後に二次粒子2から脱落した一次粒子1など少量の単独の一次粒子1を含んでもよい。また、正極活物質20は、また、正極活物質20は、本発明の効果を阻害しない範囲で上述したリチウム金属複合酸化物10以外のリチウム金属複合酸化物を含んでもよい。
【0049】
[正極活物質の製造方法]
次に、
図2及び
図3を参照して、本発明の実施形態に係る正極活物質の製造方法について説明する。
図2及び
図3は、本実施形態の正極活物質の製造方法の一例を示した図である。正極活物質の製造方法は、層状構造の結晶構造を有するリチウム金属複合酸化物からなる焼成粉末と、リチウムを含まず、リチウムと反応可能なホウ素化合物(B化合物)と、水とを混合すること(ステップS10)と、前記混合して得られた混合物を乾燥すること(ステップS20)と、を備える。なお、焼成粉末と、ホウ素化合物と、水との混合(ステップS1)は、水にホウ素化合物を溶解させた後、該焼成粉末に噴霧または滴下して、混合してもよい。以下、各ステップについて説明する。
【0050】
まず、
図2に示すように、層状構造の結晶構造を有するリチウム金属複合酸化物からなる焼成粉末と、リチウムを含まず、リチウムと反応可能なホウ素化合物と、水と、を混合する(ステップS10)。この際、ホウ素化合物は、得られた正極活物質において、中和滴定法によって測定される、正極活物質を水に分散させたときに溶出する水酸化リチウム(LiOH)量がLi換算で、正極活物質全体に対して0.003質量%以上、0.5質量%以下、好ましくは0.01質量%以上0.30質量%以下となるような量を、混合する。また、溶出する水酸化リチウム量の下限は、高い電池容量を得るという観点から、0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましい。
【0051】
上記溶出する水酸化リチウム量は、上述したように、得られる正極活物質を水に分散させたときに、正極活物質から溶出する水酸化リチウム量(Li換算)は、例えば、正極活物質2gを125mlの純水と混合し1分間撹拌して分散させた後、10質量%塩化バリウム溶液を5ml加え、1.0mol/リットルの塩酸を用いて中和滴定することで第一中和点までの塩酸量から測定することができる。
【0052】
ホウ素化合物は、リチウムを含まず、リチウムと反応可能な化合物であれば、限定されない。ホウ素化合物としては、例えば、ホウ酸(H3BO3)、酸化ホウ素(B2O3)、及び、四ホウ酸アンモニウム四水和物((NH4)2B4O7・4H2O)、五ホウ酸アンモニウム八水和物((NH4)2O・5B2O3・8H2O)等のホウ酸アンモニウムなどが挙げられる。これらの中でも、ホウ素化合物は、リチウムとの反応性の観点から、ホウ酸(H3BO3)及び酸化ホウ素(B2O3)の少なくとも一方が好ましい。なお、ホウ素化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0053】
混合工程(ステップS10)では、正極活物質から溶出する水酸化リチウムが上記範囲となるようにホウ素を混合する。ホウ酸等のホウ素化合物は、混合工程における水分が存在する状態から、中和反応を経て水和物としてLB化合物を形成し、後の乾燥する工程(ステップS20)で水分が蒸発し、無水のLB化合物を形成する。このLB化合物により、ペースト中へのリチウムの溶出を抑制すると考えられる。
【0054】
ホウ素化合物の添加量については、予め少量の焼成粉末を分取して予備試験を行って余剰水酸化リチウム量を確認することで、容易に決めることができる。また、Li/Meや焼成粉の製造条件が安定すれば、予備試験で決めた添加量により上述の範囲に正極活物質の余剰水酸化リチウム量を制御することができる。
【0055】
なお、余剰リチウム量は、リチウム金属複合酸化物の焼成粉末におけるNi、Co、MnおよびMの合計に対するLiの原子比(Li/Me)、あるいは該焼成粉末の製造条件によって変動する。よって、ホウ酸等のホウ素化合物の添加量は、この余剰リチウムとLB化合物を形成して正極活物質から溶出する水酸化リチウム量を上記範囲に制御できる量を添加すればよい。
【0056】
混合するホウ素化合物の量は、上記のように、余剰水酸化リチウム量により適宜調整される量であるが、ホウ素化合物に含まれるホウ素の量は、例えば、焼成粉末中のNi、Co、MnおよびMの合計に対して0.03mol%以上8mol%以下、好ましくは0.05mol%以上4mol%以下とすることができる。これにより、形成されるLB化合物の量を適正なものとして、正極活物質の余剰水酸化リチウム量を制御するとともに、電池容量等を良好なものとすることができる。なお、Ni、Co、MnおよびMの合計に対するホウ素の量は、得られる正極活物質中においても維持される。
【0057】
混合工程(ステップS10)において混合する水の量は、焼成粉末の粉体特性や粒子構造に応じて、適宜調整することができるが、例えば、焼成粉末に対して1質量%以上40質量%以下とすることが好ましい。これにより、余剰リチウムや過剰なリチウムとの反応を容易にしてLB化合物を形成させ、リチウムの溶出をさらに低減することができる。また、ホウ酸等の溶解した水を十分な量として、リチウム金属複合酸化物粒子の内部の一次粒子表面まで十分に浸透させるとともにリチウム金属複合酸化物粒子間でも均一化することができ、ゲル化を抑制することができる。
【0058】
また、
図3に示すように、混合工程(ステップS10)において、ホウ素化合物と水は、先にホウ素化合物を水に溶解して焼成粉末に添加してもよい。水とホウ素化合物とを予め溶解させる場合、焼成粉末中での混合状態の均一性をより高めることができるため、好ましい。ホウ酸等の添加量が少ない場合、水とホウ素化合物とを先に混合することが特に好ましい。また、
図2に示すように、ホウ素化合物を焼成粉末に添加して混合(ステップS11)した後、さらに水を添加して混合(ステップS12)してもよい。また、水を焼成粉末に添加して混合した後、ホウ素化合物を添加してもよい。また、
図2に示すホウ素化合物は、上述のように、予め水に溶解したホウ素化合物を用いてもよい。
【0059】
焼成粉末は、一般式LisNi1-x-y-zCoxMnyMzO2+α(ただし、0≦x≦0.35、0≦y≦0.35、0≦z≦0.10、0.95<s<1.30、0≦α≦0.2、Mは、V、Mg、Mo、Nb、Ti、WおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表され、一次粒子が凝集して形成された二次粒子を含む。焼成粉末の粉体特性や粒子構造は、正極活物質まで継承されるため、焼成粉末の組成、粉体特性及び粒子構造などは、LB化合物を含まないこと以外については、上述した正極活物質と同様のものとすることができる。また、焼成粉末は、得ようとする正極活物質に合わせて選択される。
【0060】
なお、焼成粉末の製造方法は、特に限定されず、例えば、晶析法によって得られたニッケル複合水酸化物、又は該ニッケル複合水酸化物を酸化焙焼して得られたニッケル複合酸化物と、リチウム化合物と、を混合した後、焼成して製造することができる。ニッケル複合水酸化物の製造方法としては、バッチ法または連続法のいずれも適用可能である。コストの観点から、反応容器からオーバーフローしたニッケル複合水酸化物粒子を連続的に回収する連続法が好ましい。
【0061】
焼成粉末に含まれる余剰水酸化リチウム量は、好ましくは0.05質量%以上1.0質量%以下、好ましくは0.1質量%以上0.7質量%以下である。余剰水酸化リチウム量は、上記と同様に、焼成粉末を水に分散させたときに溶出する水酸化リチウム量を、酸による中和滴定により測定することで求めることができる。なお、焼成粉末は、正極活物質20と異なり、LB化合物3を含まないため、焼成粉末の余剰水酸化リチウム量とは、焼成時に未反応であった水酸化リチウムと複合酸化物(結晶構造)中から水(上澄み液)に溶出したリチウム分から算出された水酸化リチウム量を示す。
【0062】
焼成粉末の余剰水酸化リチウム量が上記範囲である場合、添加したホウ素化合物と反応して形成されるLB化合物3を十分な量とすることができる。そして、LB化合物3により、一次粒子1表面の少なくとも一部を被覆することができ、得られた正極活物質を電池に用いた際に優れた出力特性と電池容量を得ることができる。焼成粉末の余剰水酸化リチウム量が0.05質量%未満である場合、形成されるLB化合物が不足して、電池特性が低下することがある。また、余剰水酸化リチウム量が1.0質量%を超える場合、ホウ素化合物と混合しても残留する未反応の水酸化リチウムが多くなり、正極活物質をペースト化した際にゲル化が発生することがある。なお、焼成粉末の余剰水酸化リチウム量が、例えば、0.05質量%以上1.0質量%以下、好ましくは0.15質量%を超え1.0質量%以下である場合、ホウ素化合物と適切な条件で反応させることより、ペーストのゲル化抑制と、電池特性(電池容量及び出力特性)とを高いレベルで両立させることができる。
【0063】
次いで、混合して得られた混合物を乾燥する(ステップS20)。このステップは、ホウ素化合物と水と焼成粉末とを混合した混合物を乾燥させ、この混合物中の水に溶解している余剰リチウムおよびリチウム金属複合酸化物粒子中の過剰なリチウムと、ホウ素化合物とを反応させて、一次粒子表面にLB化合物を形成させる工程である。
【0064】
乾燥温度は、450℃以下とすることが好ましい。450℃を超えると、リチウム金属複合酸化物の結晶内から、さらにリチウムが遊離してペーストのゲル化抑制が十分でない場合がある。より十分に乾燥させ、リチウム金属複合酸化物からのリチウムの遊離を防止するという観点から、乾燥温度は100℃以上300℃以下とすることがより好ましく、100℃以上200℃以下であってもよい。また、乾燥時間は、特に限定されないが、例えば、1時間以上24時間以下である。
【0065】
また、乾燥時の雰囲気は、雰囲気中の水分や炭酸とリチウム金属複合酸化物粒子の表面のリチウムの反応を避けるため、脱炭酸空気、不活性ガスまたは真空雰囲気とすることが好ましい。さらに、乾燥時の雰囲気の圧力は1気圧以下とすることが好ましい。1気圧よりも気圧が高い場合には、正極活物質の水の含有量が十分に下がらない恐れがある。
【0066】
乾燥後のリチウム金属複合酸化物粒子の水分率はとくに限定されないが、0.2質量%以下が好ましく、0.15質量%以下がより好ましい。なお、水分率の下限は、例えば、0質量%以上であり、0.01質量%以上であってもよい。粉末の水分率が0.2質量%を超えると、大気中の炭素、硫黄を含むガス成分を吸収して表面にリチウム化合物を生成することがある。なお、上記水分率の測定値は、気化温度300℃の条件においてカールフィッシャー水分計で測定した場合の測定値である。
【0067】
[非水系電解質二次電池用正極合材ペースト]
次に、本発明に係る非水系二次電池用正極合材ペースト(以下、「正極合材ペースト」ともいう。)の製造方法について説明する。本実施形態の正極合材ペースト中では、正極活物質からのリチウムの溶出が低減され、ペーストのゲル化が抑制される。したって、長期間の保存でもペーストの粘度変化が少なく、高い安定性を有するペーストとなっている。このようなペーストを用いて正極を製造することで、正極も安定して優れた特性を有するものとなり、最終的に得られる電池の特性を安定して高いものとすることができる。
【0068】
正極合材ペーストは、正極活物質を含む。正極合材ペーストの構成材料は特に限定されず、公知の正極合材ペーストと同等なものを用いることができる。正極合材ペーストは、例えば、正極活物質、導電材及びバインダーを含む。正極合材ペーストは、さらに溶剤を含んでもよい。正極合材ペーストは、溶剤を除いた正極合材の固形分の全質量を100質量部とした場合、正極活物質の含有量を60~95質量部とし、導電材の含有量を1~20質量部とし、結着剤の含有量を1~20質量部とすることが好ましい。
【0069】
導電剤としては、例えば、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛など)や、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどのカーボンブラック系材料などを用いることができる。
バインダー(結着剤)は、活物質粒子をつなぎ止める役割を果たすもので、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂、ポリアクリル酸などを用いることができる。
【0070】
なお、必要に応じ、正極活物質、導電材、活性炭を分散させ、バインダー(結着剤)を溶解する溶剤を正極合材に添加してもよい。溶剤としては、具体的には、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等の有機溶剤を用いることができる。また、正極合材には、電気二重層容量を増加させるために、活性炭を添加することができる。正極合材ペーストは、粉末状の正極活物質、導電材、結着剤を混合し、さらに必要に応じて活性炭、粘度調整等の目的の溶剤を添加し、これを混練して正極合材ペーストを作製できる。
【0071】
正極合材ペーストの76時間保管前後の粘度比(76時間保管後のペースト粘度/作製直後のペースト粘度)は、焼成粉末として用いるリチウム金属複合酸化物の特性等により変化するため、特に限定されないが、例えば、0.5以上2以下とすることができ、好ましくは0.5以上0.9以下、より好ましくは0.5以上0.85以下とすることができる。76時間保管前後の粘度比は、正極活物質25.0gと、導電材のカーボン粉1.5gと、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)2.9gとを遊星運動混練機により混合し正極合材ペーストを得た後、得られたペーストを大気雰囲気中で76時間保管して、保管前後の粘度比(76時間保管後のペースト粘度/作製直後のペースト粘度)を測定することにより評価できる。粘度は、例えば、振動式粘度計(セコニック社製VM10A)にて測定することができる。
【0072】
[非水系電解質二次電池]
次に、本発明の実施形態に係る非水系電解質二次電池について説明する。本実施形態の非水系電解質二次電池(以下、単に「二次電池」ともいう。)は、特に限定されず、公知の非水系電解質二次電池と同様の構成要素により構成される。二次電池は、例えば、正極、負極、セパレータおよび非水系電解液を備える。なお、以下で説明する実施形態は例示に過ぎず、本実施形態の非水系電解質二次電池は、本明細書に記載されている実施形態を基に、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良した形態で実施することができる。また、本実施形態の非水系電解質二次電池は、その用途を特に限定するものではない。
【0073】
(a)正極
上記正極活物質を含む正極合材ペーストを用いて、例えば、以下のようにして、非水系電解質二次電池の正極を作製する。
正極合材ペーストを、例えば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布し、乾燥して、溶剤を飛散させる。必要に応じ、電極密度を高めるべく、ロールプレス等により加圧することもある。このようにして、シート状の正極を作製することができる。シート状の正極は、目的とする電池に応じて適当な大きさに裁断等をして、電池の作製に供することができる。ただし、正極の作製方法は、例示のものに限られることなく、他の方法によってもよい。
【0074】
(b)負極
負極には、金属リチウムやリチウム合金等、あるいは、リチウムイオンを吸蔵および脱離できる負極活物質に、結着剤を混合し、適当な溶剤を加えてペースト状にした負極合材を、銅等の金属箔集電体の表面に塗布し、乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成したものを使用する。
【0075】
負極活物質としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、フェノール樹脂等の有機化合物焼成体、コークス等の炭素物質の粉状体を用いることができる。この場合、負極結着剤としては、正極同様、PVDF等の含フッ素樹脂等を用いることができ、これらの活物質および結着剤を分散させる溶剤としては、N-メチル-2-ピロリドン等の有機溶剤を用いることができる。
【0076】
(c)セパレータ
正極と負極との間には、セパレータを挟み込んで配置する。セパレータは、正極と負極とを分離し、電解質を保持するものであり、ポリエチレン、ポリプロピレン等の薄い膜で、微少な孔を多数有する膜を用いることができる。
【0077】
(d)非水系電解液
非水系電解液は、支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものである。有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネート等の環状カーボネート、また、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネート等の鎖状カーボネート、さらに、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル化合物、エチルメチルスルホン、ブタンスルトン等の硫黄化合物、リン酸トリエチル、リン酸トリオクチル等のリン化合物等から選ばれる1種を単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0078】
支持塩としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiN(CF3SO2)2等、およびそれらの複合塩を用いることができる。さらに、非水系電解液は、ラジカル捕捉剤、界面活性剤および難燃剤等を含んでいてもよい。
【0079】
(e)電池の形状、構成
以上のように説明してきた正極、負極、セパレータおよび非水系電解液で構成される本実施形態の非水系電解質二次電池の形状は、円筒型、積層型等、種々のものとすることができる。いずれの形状を採る場合であっても、正極および負極を、セパレータを介して積層させて電極体とし、得られた電極体に、非水系電解液を含浸させ、正極集電体と外部に通ずる正極端子との間、および、負極集電体と外部に通ずる負極端子との間を、集電用リード等を用いて接続し、電池ケースに密閉して、非水系電解質二次電池を完成させる。
【0080】
(f)特性
本実施形態の正極活物質を用いた二次電池は、高い電池容量を有する。好ましい実施形態で得られた正極活物質を用いた二次電池は、例えば、2032型コイン電池(
図4)の正極に用いた場合、190mAh/g以上の高い初期放電容量が得られる。また、この二次電池は、例えば、放電容量維持率(初期充放電効率)を90%以上とすることができる。なお、初期放電容量は、実施例で使用したコイン型電池1を製作してから24時間程度放置し、開回路電圧OCV(Open Circuit Voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.1mA/cm
2としてカットオフ電圧4.3Vまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧3.0Vまで放電したときの容量を測定した値である。
【0081】
また、本実施形態の正極活物質を上記2032型コイン電池の正極に用いた場合の初期充電容量は、リチウムホウ素化合物を含まない以外は同様の組成を有する正極活物質(例えば、上記正極活物質の製造方法において、ホウ素化合物と水とを混合する前の焼成粉末)を上記2032型コイン電池の正極に用いた場合の初期充電容量100%に対して、90%以上110%以下とすることができ、95%以上100%以下としてもよい。また、本実施形態の正極活物質を上記2032型コイン電池の正極に用いた場合の初期放電容量は、上記焼成粉末を上記2032型コイン電池の正極に用いた場合の初期放電容量100%に対して、90%以上110%以下とすることができ、95%以上100%以下としてもよい。
【0082】
また、また、本実施形態の正極活物質を上記2032型コイン電池の正極に用いた場合の初期充放電効率は、上記焼成粉末を上記2032型コイン電池の正極に用いた場合の初期充放電効率に対して、1倍以上とすることができ、1倍以上1.1倍以下とすることができる。
【0083】
好ましい実施形態で得られた正極活物質を用いた二次電池は、例えば、上記コイン型電池を用いて測定した正極抵抗を4Ω以下とすることができる。なお、本実施形態における正極抵抗の測定方法を例示すれば、次のようになる。電気化学的評価手法として一般的な交流インピーダンス法にて電池反応の周波数依存性について測定を行うと、溶液抵抗、負極抵抗と負極容量、および正極抵抗と正極容量に基づくナイキスト線図が
図5のように得られる。電極における電池反応は、電荷移動に伴う抵抗成分と電気二重層による容量成分とからなり、これらを電気回路で表すと抵抗と容量の並列回路となり、電池全体としては溶液抵抗と負極、正極の並列回路を直列に接続した等価回路で表される。この等価回路を用いて測定したナイキスト線図に対してフィッティング計算を行い、各抵抗成分、容量成分を見積もることができる。正極抵抗は、得られるナイキスト線図の低周波数側の半円の直径と等しい。以上のことから、作製される正極について、交流インピーダンス測定を行い、得られたナイキスト線図に対し等価回路でフィッティング計算することで、正極抵抗を見積もることができる。
【0084】
また、上記焼成粉末を上記2032型コイン電池の正極に用いた場合の正極抵抗に対して、2.5倍以下とすることができ、例えば、1倍以上2倍以下とすることができる。
【実施例】
【0085】
以下、本発明の実施例を用いて具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。本実施形態により得られた正極活物質およびこの正極活物質を用いた正極合材ペースト、非水系電解質二次電池について、その性能(ペーストの安定性、初期放電容量、正極抵抗、放電容量維持率)を測定した。なお、本実施例では、複合水酸化物製造、正極活物質および二次電池の作製には、和光純薬工業株式会社製試薬特級の各試料を使用した。
【0086】
(電池の製造および評価方法)
得られた非水系電解質二次電池用正極活物質の評価は、以下のように
図4に示す2032型のコイン型電池CBAを作製し、充放電容量を測定することで行なった。非水系電解質二次電池用正極活物質52.5mg、アセチレンブラック15mg、およびポリテトラフッ化エチレン樹脂(PTFE)7.5mgを混合し、100MPaの圧力で直径11mm、厚さ100μmにプレス成形して正極PE(評価用電極)を作製した。その作製した正極PEを真空乾燥機中120℃で12時間乾燥した。そして、この正極PEを用いてコイン型電池CBAを、露点が-80℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス内で作製した。
【0087】
負極NEには、直径14mmの円盤状に打ち抜かれた平均粒径20μm程度の黒鉛粉末とポリフッ化ビニリデンが銅箔に塗布された負極シートを用い、電解液には、1MのLiPF6を支持電解質とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の等量混合液(富山薬品工業株式会社製)を用いた。セパレータSEAには膜厚25μmのポリエチレン多孔膜を用いた。また、コイン型電池CBAは、ガスケットGAとウェーブワッシャーWWを有し、正極缶PCと負極缶NCとでコイン状の電池に組み立てられた。
【0088】
製造したコイン型電池CBAを用いて初期放電容量、正極抵抗を、以下のように評価した。
(初期放電容量)
初期放電容量は、コイン型電池1を製作してから24時間程度放置し、開回路電圧OCV(Open Circuit Voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.1mA/cm2としてカットオフ電圧4.3Vまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧3.0Vまで放電したときの容量を初期放電容量とした。
【0089】
(正極抵抗)
また、正極抵抗は、コイン型電池1を充電電位4.1Vで充電して、周波数応答アナライザおよびポテンショガルバノスタット(ソーラトロン製、1255B)を使用して交流インピーダンス法により測定すると、
図5に示すナイキストプロットが得られる。このナイキストプロットは、溶液抵抗、負極抵抗とその容量、および、正極抵抗とその容量を示す特性曲線の和として表しているため、このナイキストプロットに基づき等価回路を用いてフィッティング計算を行い、正極抵抗の値を算出した。
【0090】
(ペーストの粘度安定性)
正極活物質25.0gと、導電材のカーボン粉1.5gと、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)2.9gとを遊星運動混練機により混合し正極合材ペーストを得た。得られたペーストを大気雰囲気中で76時間保管して、保管前後の粘度比(76時間保管後のペースト粘度/作製直後のペースト粘度)を評価した。粘度は、振動式粘度計(セコニック社製VM10A)にて測定した。
【0091】
(水分率)
気化温度300℃の条件においてカールフィッシャー水分計で測定した。
【0092】
[正極活物質の製造]
(実施例1)
Niを主成分とする水酸化物粉末と水酸化リチウムを混合して焼成する公知技術で得られたLi1.025Ni0.88Co0.09Al0.03O2で表される平均粒径12.5μm、〔(d90-d10)/平均粒径〕が0.80のリチウム金属複合酸化物の焼成粉末を母材とした。
【0093】
母材(焼成粉末)にホウ酸(林純薬工業株式会社製)を、リチウム金属複合酸化物の焼成粉末中に含有されるNi、CoおよびAlの合計に対するホウ酸中のホウ素量で3mol%添加し、混合した後、水をリチウム金属複合酸化物の焼成粉末に対して10質量%添加して、さらに混合した。その後、真空雰囲気中において、100℃まで昇温して12時間、さらに190℃まで昇温して10時間乾燥することによって正極活物質を得た。得られた正極活物質にXPS測定を実施したところ、LiBO2のピークを確認した。得られた正極活物質の水分率及びペーストの粘度比の評価結果を表1に示す。
【0094】
[余剰リチウム滴定]
得られた正極活物質2gを125mlの純水と混合し1分間撹拌して分散させた後、10質量%塩化バリウム溶液を5ml加え、1.0mol/リットルの塩酸を用いて中和滴定することで第一中和点までの塩酸量から余剰水酸化リチウム量を測定した。余剰リチウム量の評価結果を表1に示す。
【0095】
[電池評価]
得られた正極活物質を使用して作製された正極を有するコイン型電池の電池特性を評価した。コイン型電池の初期充放電容量と正極抵抗の評価結果を表1に示す。
【0096】
(実施例2)
ホウ酸をホウ素量で1.0mol%添加した以外は実施例1と同様にして、正極活物質を得るとともに評価した。評価結果を表1に示す。
(実施例3)
ホウ酸をホウ素量で8.0mol%添加した以外は実施例1と同様にして、正極活物質を得るとともに評価した。評価結果を表1に示す。
(実施例4)
水の添加量を1質量%とした以外は実施例2と同様にして、正極活物質を得るとともに評した。評価結果を表1に示す。
(実施例5)
水の添加量を40質量%とした以外は実施例2と同様にして、正極活物質を得るとともに評価した。評価結果を表1に示す。
(実施例6)
ホウ酸をホウ素量で0.5mol%添加した以外は実施例1と同様にして、正極活物質を得るとともに評価した。評価結果を表1に示す。
(実施例7)
ホウ酸をホウ素量で4mol%添加した以外は実施例1と同様にして、正極活物質を得るとともに評価した。評価結果を表1に示す。
【0097】
(比較例1)
ホウ酸および水を添加しなかった以外は実施例1と同様にして、正極活物質を得るとともに評価した。評価結果を表1に示す。
(比較例2)
ホウ酸をホウ素量で0.01mol%添加とした以外は実施例1と同様にして、非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価した。評価結果を表1に示す。
(比較例3)
ホウ酸をホウ素量で10mol%添加した以外は実施例1と同様にして、正極活物質を得るとともに評価した。評価結果を表1に示す。
(比較例4)
水を添加せず、乾燥せずに混合した状態のままで正極活物質とした以外は実施例1と同様にして、正極活物質を得るとともに評価した。評価結果を表1に示す。
【0098】
【0099】
(評価)
実施例の正極活物質を用いた電池は、初期放電容量、正極抵抗のいずれも良好な結果が得られた。また、正極合材ペーストの粘度比は、1以下でペースト粘度が安定していることが確認された。
比較例1の正極活物質は、ホウ酸を添加していないため、滴定による余剰水酸化リチウム量が正極活物質に対して0.5質量%を超えていた。比較例1の正極合材ペーストは、粘度の上昇が大きかった。比較例2の正極活物質は、ホウ酸の添加量が少ないため、滴定による余剰水酸化リチウム量を評価しても0.5質量%を超えており、正極合材のゲル化を抑制できず正極合材ペーストの粘度の上昇が大きかった。比較例3は、過剰にホウ酸を添加し余剰水酸化リチウム量は少ないものの、ホウ酸が過剰に正極活物質内部からリチウムを引き抜き、充放電容量や正極抵抗が劣化した。必要以上にリチウム金属複合酸化物からリチウムが引き出された状態となっていると考えられた。比較例3の正極活物質を用いた電池は、初期放電容量が低下していた。
比較例4は、ホウ酸を混合する際に水を添加しなかったため、余剰リチウムや過剰なリチウムと反応してLB化合物の形成が確認されなかった。比較例4の正極活物質は充放電容量が大きく低下した。
【0100】
以上の結果から、本実施形態の正極活物質は、水とホウ素化合物とを混合し、かつ、とホウ素原料の添加量を適正な範囲に設定することにより、良好な出力特性及び高い電池容量と電極作製時のペーストのゲル化抑制とを両立した活物質が得られることがわかる。
【0101】
なお、本発明の技術範囲は、上述の実施形態などで説明した態様に限定されるものではない。上述の実施形態などで説明した要件の1つ以上は、省略されることがある。また、上述の実施形態などで説明した要件は、適宜組み合わせることができる。また、法令で許容される限りにおいて、日本特許出願である特願2016-098093、特願2016-218994、及び、上述の実施形態などで引用した全ての文献の開示を援用して本文の記載の一部とする。
【符号の説明】
【0102】
1、1a、1b…一次粒子
2…二次粒子
3…リチウムホウ素化合物
10…リチウム金属複合酸化物
20…正極活物質
CBA…コイン型電池
PE…正極(評価用電極)
NE…負極
SE…セパレータ
GA…ガスケット
WW…ウェーブワッシャー
PC…正極缶
NC…負極缶