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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-23
(45)【発行日】2022-05-31
(54)【発明の名称】CZシリコン単結晶製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/06 20060101AFI20220524BHJP
   C30B 15/20 20060101ALI20220524BHJP
【FI】
C30B29/06 502Z
C30B15/20
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019029442
(22)【出願日】2019-02-21
(65)【公開番号】P2020132483
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】菅原 孝世
(72)【発明者】
【氏名】柳瀬 和也
(72)【発明者】
【氏名】猪越 浩一
(72)【発明者】
【氏名】星 亮二
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-149092(JP,A)
【文献】特開平11-292687(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/06
C30B 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端を尖った形状とした種結晶の先端をシリコン融液に接触させた後に、融解させて種付けを行う種付け工程と、前記種結晶を所定長さ引き上げて結晶径を安定化させる結晶径安定化工程と、コーン部を形成するコーン工程と、直胴部を形成する直胴工程とを含むCZシリコン単結晶成長方法であって、
前記結晶径安定化工程で引き上げた結晶の結晶径を計測し、
予め定められた結晶の基準径に対する前記計測した前記結晶径のズレ量を計算し、
前記ズレ量に応じて前記コーン工程におけるヒーター出力の補正量を算出し、
前記コーン工程において、前記補正量を用いてヒーター出力値の補正を行ってコーンを形成し、
前記ヒーター出力の補正量を算出するときに、
前記ズレ量が0以上の場合は、前記補正量を0以上とし、
前記ズレ量が0未満の場合は、前記補正量を0未満とすることを特徴とするCZシリコン単結晶製造方法。
【請求項2】
前記ヒーター出力の補正量を算出するときに、
前記補正量を、前記ズレ量1mm当たり0.5kW以上、5.0kW以下とすることを特徴とする請求項1に記載のCZシリコン単結晶製造方法。
【請求項3】
前記ヒーター出力の補正量を算出するときに、
前記ズレ量が0以上の場合の、前記ズレ量1mm当たりの前記補正量の絶対値を、前記ズレ量が0未満の場合の、前記ズレ量1mm当たりの前記補正量の絶対値未満とすることを特徴とする請求項1又は2に記載のCZシリコン単結晶製造方法。
【請求項4】
前記結晶径の計測を、前記結晶径安定化工程において引き上げる結晶の長さが10mm以上、100mm以下のときに行うことを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載のCZシリコン単結晶製造方法。
【請求項5】
前記ヒーター出力値の補正を、コーン工程開始から60分までの間、又は、コーン工程開始から直胴工程開始の60分前までの間の、いずれか長い期間内に行うことを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載のCZシリコン単結晶製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CZ法によるシリコン単結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CZ法によるシリコン単結晶製造では、通常、種結晶をシリコン融液に着液させ、製品直径まで拡径する結晶直径増大工程(コーン工程)を経て、製品採取直径部を育成する(直胴工程)。
【0003】
この際、シリコン半導体デバイスに用いられる無転位の単結晶を得るために、コーン工程前に結晶を無転位化しておく必要があるが、主に二種類の方法がある。一つは、ネッキング法と呼ばれる方法で、種結晶着液時の熱ショックで導入された転位を直径2-5mmの細さに絞った後に、長さ10-20mm程度成長させて、結晶表面(側面)から転位を排出する方法である。これは、転位面が、<100>成長に対しては54.74°、<111>成長に対しては70.53°の角度をなすので、結晶を細くすることで無転位化できることによる。
【0004】
ネッキング法では、2-3mm程度まで径を細く絞る必要があるため、絞り中の温度制御が重要である。温度を高くし過ぎると、ネッキング中に融液との接触部が完全に溶けて切れてしまったり、最も細い箇所の強度が弱くてその後に育成される結晶重量を支持できなくなったりといった問題がある。また、温度が低くなって径が太くなると、転位が除去しきれなくなり無転位単結晶が得られないという問題がある。このようなネッキング工程の温度制御に関して、特許文献1、特許文献2には、ネッキング工程の制御に関する技術が開示されている。
【0005】
もう一つの方法は、無転位種付法(Dislocation Free Seeding:以下、「DFS法」という。)と呼ばれる方法で、種結晶の先端を尖った形状にしてゆっくりと融液に接触させることで、熱ショックによる転位導入を避け、その後、種結晶を所定径になるまで融解することで、ネッキング(絞り)なしで無転位成長を可能とする方法である。
【0006】
DFS法では、ネッキング工程が不要になる点は長所となるが、無転位種付を成功させるために、特許文献3に記載されるように、種結晶の先端を尖った形状とした上に、更に融液温度を高くして種結晶を保温することで、着液時の熱ショックを低減することが必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特公平6-102590号公報
【文献】特公平7-17475号公報
【文献】特開平11-240793号公報
【文献】特開2005-15287号公報
【文献】特開平4-149092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
DFS法で高い融液温度で種付けを実施すると、コーン工程中に、温度が高い状態から温度を下げて直胴部まで径大化するため、コーン工程時間が長時間化したり、コーン重量が重くなって歩留り低下要因となってしまう問題があった。
【0009】
また、微細化が進む近年のシリコン半導体デバイスにおいて求められる低欠陥ウェーハや無欠陥ウェーハにおいては、DFS法が成功する比較的広い種付温度範囲で種付けを行うことによって、コーン工程(時間・重量)のバラツキが生じ、特許文献4に記載されるように、融液表面と、融液上部の熱遮蔽体との間隔や、ヒーターとの相対位置などの炉内熱環境に変化が生じてしまい、これによるシリコン単結晶品質のバラツキが最終製品の歩留りを悪化させるなどの問題も生じてしまう。
【0010】
このような問題に対して、特許文献5には、コーン工程中の径拡大速度を元にヒーター電力を補正する方法が示されているが、大口径ルツボを用いる近年のCZ単結晶成長においては、ルツボなどの炉内部品、原料融液の大きな熱容量や、ルツボ外周部の加熱ヒーターによるルツボ中心部の育成部の温度制御の応答時間の長時間化のため、コーン中の電力補正が有効に機能しないという問題があった。
【0011】
以上のように、DFS法を用いたCZ単結晶製造において、DFS法を成功させつつコーン工程時間・重量のバラツキを制御する有効な技術は、これまで開示されていない。
【0012】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、DFS法の成功率を高めるために種付(着液)時の融液温度を高くしても、コーン工程時間の長時間化による生産性悪化、コーン重量増加による歩留りを低下させることなくコーン工程を実施するとともに、コーン工程バラツキ(時間、重量)による炉内熱環境バラツキを低減し、低欠陥・無欠陥ウェーハの品質を向上し、製品歩留りが向上するCZシリコン単結晶製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記目的を達成するためになされたものであり、先端を尖った形状とした種結晶の先端をシリコン融液に接触させた後に、融解させて種付けを行う種付け工程と、前記種結晶を所定長さ引き上げて結晶径を安定化させる結晶径安定化工程と、コーン部を形成するコーン工程と、直胴部を形成する直胴工程とを含むCZシリコン単結晶成長方法であって、前記結晶径安定化工程で引き上げた結晶の結晶径を計測し、予め定められた結晶の基準径に対する前記計測した前記結晶径のズレ量を計算し、前記ズレ量に応じて前記コーン工程におけるヒーター出力の補正量を算出し、前記コーン工程において、前記補正量を用いてヒーター出力値の補正を行ってコーンを形成するCZシリコン単結晶製造方法を提供する。
【0014】
このようなCZシリコン単結晶製造方法によれば、DFS法の種付(着液)時の融液温度バラツキによらず、コーン工程時間の長時間化による生産性悪化、コーン重量増加による歩留り低下を招くことなくコーン工程を実施することが可能となるとともに、コーン工程バラツキ(時間、重量)による炉内熱環境バラツキを低減し、低欠陥・無欠陥ウェーハの品質を向上し、製品歩留りを向上することができる。
【0015】
このとき、前記ヒーター出力の補正量を算出するときに、前記ズレ量が0以上の場合は、前記補正量を0以上とし、前記ズレ量が0未満の場合は、前記補正量を0未満とするCZシリコン単結晶製造方法とすることができる。
【0016】
これにより、ズレ量が0未満の計測径が基準径より小さいときのコーン工程時間長時間化・コーン重量増加、及び、ズレ量が0以上の計測径が基準径より大きいときのコーン工程時間短時間化・コーン重量減少によるコーン工程バラツキを抑制し、炉内熱環境バラツキを低減して、低欠陥・無欠陥ウェーハの品質を向上し、製品歩留まりを向上することができる。また、基準を大きい(太い)径に設定することで、バラツキを抑制しつつ、コーン工程時間短時間化・コーン重量軽量化による生産性、歩留まり向上の効果を得ることができる。
【0017】
このとき、前記ヒーター出力の補正量を算出するときに、前記補正量を、前記ズレ量1mm当たり0.5kW以上、5.0kW以下、より好ましくは1.0kW以上、2.0kW以下とするCZシリコン単結晶製造方法とすることができる。
【0018】
このような範囲は、ズレ量に対するヒーター出力の補正量の相関がより高い範囲であるため、より安定して、コーン工程時間やコーン重量のバラツキを抑制することができる。
【0019】
このとき、前記ヒーター出力の補正量を算出するときに、前記ズレ量が0以上の場合の、前記ズレ量1mm当たりの前記補正量の絶対値を、前記ズレ量が0未満の場合の、前記ズレ量1mm当たりの前記補正量の絶対値未満とするCZシリコン単結晶製造方法とすることができる。
【0020】
これにより、ズレ量が0以上の計測径が基準径より大きいときのコーン工程時間短時間化・コーン重量減少効果によって、一層の生産性向上、及び、コーン重量減少による一層の歩留り向上の効果を得ることができる。
【0021】
このとき、前記結晶径の計測を、前記結晶径安定化工程において引き上げる結晶の長さが10mm以上、100mm以下のときに行うCZシリコン単結晶製造方法とすることができる。
【0022】
これにより、結晶径の測定をより正確に行うことができるため、補正値の精度を高くすることができるとともに、生産性の低下をより抑制できる。
【0023】
このとき、前記ヒーター出力値の補正を、コーン工程開始から60分までの間、又は、コーン工程開始から直胴工程開始の60分前までの間の、いずれか長い期間内に行うCZシリコン単結晶製造方法とすることができる。
【0024】
このように、前記ヒーター出力値の補正は、直胴工程開始の60分前までに実施すれば良いが、コーン工程開始から60分までの間に実施すれば、コーン工程時間が不明確な場合にも問題なく補正を行うことができる。これにより、より確実に、生産性や歩留り向上効果を得ることができる。また、仮に、製品採取直径部(直胴工程)に達するまでの時間が不明であっても、適切な補正をより確実に行うことができる。
【発明の効果】
【0025】
以上のように、本発明のCZシリコン単結晶製造方法によれば、無転位種付法(DFS法)の種付(着液)時の融液温度バラツキによらず、コーン工程時間の長時間化による生産性悪化、コーン重量増加による歩留り低下なくコーン工程を実施することが可能であり、DFS法を用いたCZシリコン単結晶製造における、コーン工程バラツキ(時間、重量)による炉内熱環境バラツキを低減し、低欠陥・無欠陥ウェーハの品質を向上し、製品歩留りを向上することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】シリコン単結晶の製造装置の一例を示す。
図2】予め定められた結晶の基準径に対する計測した結晶径のズレ量(横軸)と、コーン工程時間(縦軸)との関係を示す。
図3】コーン重量低減効果の比較結果を示す。
図4】コーン重量バラツキの比較結果を示す。
図5】比較例のPWについての欠陥評価結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0028】
上述のように、DFS法の成功率を高めるために種付(着液)時の融液温度を高くしても、コーン工程時間の長時間化による生産性悪化、コーン重量増加による歩留りを低下させることなくコーン工程を実施するとともに、コーン工程のバラツキ(時間、重量)による炉内熱環境バラツキを低減し、低欠陥・無欠陥ウェーハの品質を向上し、製品歩留りを向上するCZシリコン単結晶製造方法が求められていた。
【0029】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、先端を尖った形状とした種結晶の先端をシリコン融液に接触させた後に、融解させて種付けを行う種付け工程と、前記種結晶を所定長さ引き上げて結晶径を安定化させる結晶径安定化工程と、コーン部を形成するコーン工程と、直胴部を形成する直胴工程とを含むCZシリコン単結晶成長方法であって、前記結晶径安定化工程で引き上げた結晶の結晶径を計測し、予め定められた結晶の基準径に対する前記計測した前記結晶径のズレ量を計算し、前記ズレ量に応じて前記コーン工程におけるヒーター出力の補正量を算出し、前記コーン工程において、前記補正量を用いてヒーター出力値の補正を行ってコーンを形成するCZシリコン単結晶製造方法により、DFS法の種付(着液)時の融液温度バラツキによらず、コーン工程時間の長時間化による生産性悪化、コーン重量増加による歩留り低下を招くことなくコーン工程を実施することが可能となるとともに、コーン工程のバラツキ(時間、重量)による炉内熱環境バラツキを低減し、低欠陥・無欠陥ウェーハの品質を向上し、製品歩留りを向上することができることを見出し、本発明を完成した。
【0030】
以下、図面を参照して説明する。
【0031】
図1に、本発明に係るCZシリコン単結晶製造に用いる単結晶製造装置100を示す。
【0032】
図1に示すシリコン単結晶の製造装置100は、メインチャンバー9a、これに連通するプルチャンバー9bで構成されている。メインチャンバー9aの内部には、黒鉛ルツボ1b及び石英ルツボ1aが、支持軸6上に設置されている。黒鉛ルツボ1b及び石英ルツボ1aを囲むようにヒーター2が設けられており、ヒーター2によって、石英ルツボ1a内に収容された原料シリコン多結晶が溶融されて原料融液3とされる。また、保温筒8a、保温板8bが設けられており、ヒーター2からの輻射熱のメインチャンバー9a等への影響を防いでいる。
【0033】
原料融液3の融液面上では遮熱部材11が、融液面に所定間隔で対向配置され、原料融液3の融液面からの輻射熱を遮断している。
【0034】
さらに、単結晶育成時にパージガスとしてアルゴンガス等の不活性ガスが、上部のプルチャンバー9bにあるガス導入口(不図示)から導入され、引き上げ中のシリコン単結晶4とガス整流筒10との間を通過した後、遮熱部材11と原料融液3の融液面との間を通過し、メインチャンバー9aの下部にあるガス流出口(不図示)から排出している。導入するガスの流量と、ポンプや弁によるガスの排出量を制御することにより、引上げ中のチャンバー内の圧力が制御される。
【0035】
なお、CZ法によって結晶を育成するに際し、磁場印加装置(不図示)によって磁場を印加してもよい。また、単結晶製造装置100は、図示しない制御部により制御されてもよい。
【0036】
CZ法によるシリコン単結晶の製造は、上述の単結晶製造装置100を用いて、次のようにして行う。ルツボ1a内で原料を原料融液3にした後、このルツボ1a中に引上げ軸5に設置された種結晶7の先端を原料融液3に着液させ、引上げ結晶重量を保持する強度となるように、種結晶7の先端を所定長さ沈め込み浸漬することで融解して種付けを行う(以下、「種付け工程」という)。このとき、沈め込む種結晶7の長さは、例えば20mm以上、40mm以下程度とすることが好ましい。このような範囲であれば、所望の強度を安定して得ることができる。その後、種結晶7を所定長さ引き上げて、結晶径(結晶直径)を安定化させる(以下、「結晶径安定化工程」という)。このとき、種結晶7を引き上げる所定長さは、例えば、10mm以上、100mm以下とすることができる。このような範囲であれば、より安定して結晶径の安定化が図れる。
【0037】
結晶径が安定した後、製品直径まで拡径する工程を行う(以下、「コーン工程」という)。そして、引き上げる結晶が製品直径に達した後は、その結晶径を維持しながらインゴットの直胴部を育成する(以下、「直胴工程」という)。
【0038】
以上のようにして、原料融液3から棒状のシリコン単結晶4が引き上げられる。なお、ルツボ1a、1bは結晶成長軸方向に昇降可能であり、シリコン単結晶4の成長が進行して減少した原料融液3の液面下降分を補うように、成長中にルツボ1a、1bを上昇させることにより、原料融液3の融液面の高さはおおよそ一定に保たれる。
【0039】
次に、本発明に係るCZシリコン単結晶製造方法における特徴点について説明する。
【0040】
まず、結晶径安定化工程で引き上げた結晶の、結晶径の計測について説明する。上述のとおり、種付け工程の後、種結晶を所定長さ引き上げて結晶径を安定化させる結晶径安定化工程が行われる。結晶径安定化工程において引き上げられた結晶について、所定長さ、例えば、10mm以上、好ましくは、30mm以上引き上げたときに、結晶径の計測を行う。このような範囲であれば、結晶径が安定しているため、より正確な計測ができる。また、上限は特に限定されないが、100mm以下、好ましくは、70mm以下とすることができる。必要以上に長く引き上げても無駄が多くなるだけであり、原料や時間のロスをより有効に抑制できる。
【0041】
次に、予め定められた結晶の基準径に対する、計測した結晶径のズレ量の計算について説明する。本発明においては、予め結晶の基準径を定めておく。結晶の基準径は、製造する結晶の直径や最大重量に応じて適宜設定することができるが、例えば、直径300mmの結晶製造の場合は、結晶径が3mm以上20mm以下となる範囲内から選定することが好ましい。このようにして設定した基準径と、計測した結晶径との差(「計測した結晶径」-「予め定められた結晶の基準径」)を計算して、ズレ量を得る。
【0042】
次に、コーン工程におけるヒーター出力の補正量の算出について説明する。ズレ量に対するヒーター出力の補正量は、コーン工程時間・重量のバラツキが均一化するような値を選定することが好ましい。特に、ズレ量が0以上の場合は補正量を0以上とし、ズレ量が0未満の場合は補正量を0未満とすると、より効果的である。本発明者が調査した結果、ヒーター出力の補正量は、予め定められた基準径に対する前記結晶径のズレ量1mm当たり、0.5kW以上、5.0kW以下、好ましくは1.0kW以上、2.0kW以下とすることが好ましいことがわかった。このような範囲であれば、短時間化がより確実となり、コーン工程時間・重量のバラツキをより確実に抑制することが可能である。このとき、ズレ量が0以上の場合の、ズレ量1mm当たりの補正量の絶対値を、ズレ量が0未満の場合の、ズレ量1mm当たりの補正量の絶対値未満としてもよく、コーン工程時間短縮による、より一層の生産性向上、及び、コーン重量減少によるより一層の歩留り向上の効果を得ることができる
【0043】
結晶径の計測、計算により得たズレ量から算出したヒーター出力の補正量に基づいて、コーン工程において、次のようにヒーター出力の補正を行う。
【0044】
なお、ズレ量がどのような範囲であっても本発明の効果が発揮されるが、例えば基準径を10mmに設定した場合は、ズレ量が、基準径マイナス7mm以上、基準径プラス10mm以下の場合に、ヒーター出力の補正を行うこととすることが好ましい。このような範囲の結晶径の結晶を補正の対象とすることで、仮に、検出異常や通信データエラー等の異常値が発生した場合であっても、過剰なヒーター出力補正が入るトラブルを回避することができ、安定して単結晶製造を行うことができる。
【0045】
ヒーター出力の補正は、コーン工程中に実施する限り、特に、タイミング、回数等は限定されない。ヒーター出力の補正を実施するタイミングとしては、直胴工程開始の60分前までに実施すれば良いが、コーン工程開始から60分までの間に実施すれば、より確実に補正効果を得ることができる。また、コーン工程開始から60分までの間に補正を実施すれば、直胴工程開始までの時間が不明であっても、確実に補正を行うことができる。
【0046】
また、ヒーター出力の補正は、コーン工程中に1回で行ってもよいが、補正1回あたりの補正値を低めに設定し、断続的に複数回に分けて補正を行ったり、連続的に緩やかに補正値を変化させるようにして実施することも可能である。補正に伴うヒーターの出力変化を小さくすることで、融液表面状態や、コーン形状をより安定して維持できるため、より確実に品質の良い結晶を製造することができる。
【実施例
【0047】
以下、実施例を挙げて本発明について詳細に説明するが、これは本発明を限定するものではない。
【0048】
(実施例1)
直径32インチ(800mm)のルツボに360kgの原料を充填、溶融し原料融液を形成し、先端を尖った形状とした種結晶を原料融液に着液させ、種結晶先端を30mm沈め込み融解し、その後に50mm引上げて結晶径を安定化させた際の結晶径を計測した。基準径を11mmとして、基準径と計測した結晶径のズレ量(以下、単に「ズレ量」ということもある)の計算を行い、ズレ量に応じて、結晶径を計測した後のコーン工程開始から5分の間に、ズレ量1mm当たり1.4kWのヒーター出力の補正を行った。ズレ量が0以上の場合(計測した結晶径が基準径以上の場合)は、ヒーター出力を上げ、ズレ量が0未満の場合(計測した結晶径が基準径未満の場合)は、ヒーター出力を下げる補正を行った。本実施例では、コーン工程開始後5分間で、連続的にヒーター出力の補正を行った。このような制御を行いながら、直径300mmのシリコン単結晶製造を繰り返し多数回実施した。なお、補正を実施する範囲は、ズレ量-8mmから+9mmに設定した。
【0049】
(実施例2)
ヒーター出力の補正を、ズレ量が0mm以上の場合(計測した結晶径が基準径以上の場合)に、ヒーター出力の補正値を0としたこと以外は、実施例1と同様にしてヒーター出力補正を行い、直径300mmのシリコン単結晶製造を繰り返し多数回実施した。
【0050】
(比較例)
ヒーター出力の補正を実施しなかったこと以外は実施例1と同様にして、直径300mmのシリコン単結晶製造を繰り返し多数回実施した。比較例においては、実施例1,2との対比のために、結晶径の計測とズレ量の計算は行った。
【0051】
まず、実施例1,2、比較例について、コーン工程に要した時間、コーン部の重量について調査した結果について説明する。
【0052】
図2に、実施例1と比較例についての、基準径に対する、計測した結晶径のズレ量(横軸、単位mm)と、コーン工程時間(縦軸)との関係を示す。コーン工程時間は、比較例のコーン工程時間の平均値を基準の1としたときの相対値として表されている。なお、製造結晶において算出されたズレ量は、-5.0mm~+2.0mmの範囲となった。また、図3にコーン重量低減効果の比較結果を、図4にコーン重量バラツキの比較結果を示す。
【0053】
図2に示すように、比較例では、計測した結晶径が小さく(細い結晶)、ズレ量が-(マイナス)方向に絶対値が大きくなるほど、コーン工程時間が長時間化する傾向が確認された。また、コーン工程時間は、平均値-14%から平均値+12%の範囲でばらついた。なお、コーン重量についても同様の関係性、すなわち、計測した結晶径が小さい(細い結晶)ほど、コーン重量が大となる関係性が確認できた。
【0054】
一方、図2から明らかなように、実施例1では、基準径に対する、計測した結晶径のズレ量によらず、コーン工程時間が安定していることがわかる。実施例1のコーン工程時間は、比較例に対し、平均で9%短縮した。特に、ズレ量が-4.5mmから-5.0mmの範囲では、21%のコーン工程時間短縮が可能であった。また、コーン工程時間は、平均値-2%から平均値+3%の範囲であり、バラツキが抑制できた。なお、実施例2のコーン工程時間は、平均で10%の短縮となった。
【0055】
図3に示すように、コーン重量については、比較例に対し、実施例1では平均で8.5%、実施例2では平均で9.8%軽量化できた。また、図4に示すように、コーン重量のバラツキσも、比較例の4.8%に対し、実施例1では1.3%、実施例2では2.4%に低減できた。
【0056】
特に、実施例2では、ズレ量が0mm以上の場合のヒーター出力の補正値を0としているため、ズレ量が0mm以上のときのコーン工程時間短縮効果、及び、コーン重量低減効果が高くなったと考えられる。
【0057】
次に、実施例1,2、比較例で得られたシリコン単結晶インゴットからPW(ポリッシュドウェーハ)を作製し、ウェーハ面内の欠陥の評価を行った結果について述べる。欠陥の評価は、KLA-Tencor社製のレーザー散乱式欠陥検査装置SP3を用い、Obliqueモードで26nm以上と検出される欠陥を評価した。図5に、比較例のPWについての欠陥評価結果を示す。比較例においては、予め定められた結晶の基準径に対する、計測した結晶径のズレ量が0,-2,-4mmと大きくなるほどに、PWの欠陥品質の悪化が確認された。図2に示すように、比較例では、ズレ量がマイナス側にシフトするにつれコーン重量が増加するため、シリコン単結晶製造中の直胴製品部到達時の、融液の融液面と上部熱遮蔽体との間隔が広くなってしまい、結晶育成時の熱環境が変化した影響を反映しているものと考えられる。一方、実施例1、実施例2では、上述のようにコーン重量バラツキが抑制されているため、このようなPWの欠陥品質のバラツキは発生せず、良好な歩留りで無欠陥ウェーハを製造することができた。
【0058】
以上述べたように、本発明に係るCZシリコン単結晶製造方法によれば、無転位種付法(DFS法)の種付(着液)時の融液温度バラツキによらず、コーン工程時間の長時間化による生産性悪化、コーン重量増加による歩留り低下なくコーン工程を実施することが可能であり、DFS法を用いたCZシリコン単結晶製造における、コーン工程バラツキ(時間、重量)による炉内熱環境バラツキを低減し、低欠陥・無欠陥ウェーハの品質を向上し、製品歩留りを向上することができる。
【0059】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0060】
1a…石英坩堝、 1b…黒鉛坩堝、 2…ヒーター、 3…原料融液、
4…シリコン単結晶、 5…引上げ軸、 6…支持軸、 7…種結晶、
8a…保温筒、 8b…保温板、 9a…メインチャンバー、
9b…プルチャンバー、 10…ガス整流筒、 11…遮熱部材、
100…単結晶製造装置。
図1
図2
図3
図4
図5