(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-23
(45)【発行日】2022-05-31
(54)【発明の名称】多孔質電極基材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/96 20060101AFI20220524BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20220524BHJP
H01M 8/18 20060101ALI20220524BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20220524BHJP
D04H 1/4242 20120101ALI20220524BHJP
D04H 1/58 20120101ALI20220524BHJP
【FI】
H01M4/96 M
H01M8/10 101
H01M8/18
H01M4/88 C
D04H1/4242
D04H1/58
(21)【出願番号】P 2019213794
(22)【出願日】2019-11-27
(62)【分割の表示】P 2018526261の分割
【原出願日】2018-05-10
【審査請求日】2021-03-04
(31)【優先権主張番号】P 2017215291
(32)【優先日】2017-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】太田 究
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-204142(JP,A)
【文献】特開2008-034295(JP,A)
【文献】特開2010-061964(JP,A)
【文献】特表2016-513190(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/96
H01M 4/86
H01M 4/88
H01M 8/02
H01M 8/10
H01M 8/18
D04H 1/4242
D04H 1/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維がバインダーにより結着された炭素繊維シートからなる多孔質電極基材であって、
粒径が0.3μm以上の塵について、下記の方法で決定した1m
2あたりの発塵量が120,000個/m
2以下である多孔質電極基材(但し、撥水層を有する場合を除く。):
該シートを10m/分で走行させながら、該シートの下方200mmの位置に500mm×100mmの開口を有する集塵フードを用いて47.2mL/sで40分間吸引して得た気体中の、粒径が所定の範囲にある塵の数をパーティクルカウンターで測定し、得られた測定値を吸引面積である200m
2で除した値を、1m
2あたりの発塵量とする。
【請求項2】
粒径が0.3μm以上0.5μm未満の塵について前記方法で決定した1m
2あたりの発塵量が50,000個/m
2以下である請求項1に記載の多孔質電極基材。
【請求項3】
粒径が0.5μm以上1.0μm未満の塵について前記方法で決定した1m
2あたりの発塵量が30,000個/m
2以下である請求項1または2に記載の多孔質電極基材。
【請求項4】
粒径が1.0μm以上2.0μm未満の塵について前記方法で決定した1m
2あたりの発塵量が20,000個/m
2以下である請求項1~3のいずれかに記載の多孔質電極基材。
【請求項5】
粒径が2.0μm以上5.0μm未満の塵について前記方法で決定した1m
2あたりの発塵量が10,000個/m
2以下である請求項1~4のいずれかに記載の多孔質電極基材。
【請求項6】
粒径が5.0μm以上の塵について前記方法で決定した1m
2あたりの発塵量が5,000個/m
2以下である請求項1~5のいずれかに記載の多孔質電極基材。
【請求項7】
粒径が0.3μm以上0.5μm未満の塵について前記方法で決定した1m
2あたりの発塵量が1~50,000個/m
2であり、
粒径が0.5μm以上1.0μm未満の塵について前記方法で決定した1m
2あたりの発塵量が1~30,000個/m
2であり、
粒径が1.0μm以上2.0μm未満の塵について前記方法で決定した1m
2あたりの発塵量が1~20,000個/m
2であり、
粒径が2.0μm以上5.0μm未満の塵について前記方法で決定した1m
2あたりの発塵量が1~10,000個/m
2であり、かつ
粒径が5.0μm以上の塵について前記方法で決定した1m
2あたりの発塵量が1~5,000個/m
2である請求項1に記載の多孔質電極基材。
【請求項8】
炭素繊維がバインダーにより結着された炭素繊維シートからなる多孔質電極基材であって、
粒径が0.3μm以上の塵について、下記の方法で決定した1m
2あたりの発塵量が200,000個/m
2以下である多孔質電極基材(但し、撥水層を有する場合を除く。):
該シート表面の、該シートの端部から50mm以上離れた相異なる任意の5箇所において、直径50mmの範囲を47.2mL/sで10秒間吸引して得た気体中の、粒径が所定の範囲にある塵の数をパーティクルカウンターでそれぞれ測定し、得られた5箇所の測定値の平均値を、吸引面積である0.0020m
2で除した値を、1m
2あたりの発塵量とする。
【請求項9】
粒径が0.3μm以上0.5μm未満の塵について前記方法で決定した1m
2あたりの発塵量が1~100,000個/m
2であり、
粒径が0.5μm以上1.0μm未満の塵について前記方法で決定した1m
2あたりの発塵量が1~50,000個/m
2であり、
粒径が1.0μm以上2.0μm未満の塵について前記方法で決定した1m
2あたりの発塵量が1~10,000個/m
2であり、
粒径が2.0μm以上5.0μm未満の塵について前記方法で決定した1m
2あたりの発塵量が1~10,000個/m
2であり、かつ
粒径が5.0μm以上の塵について前記方法で決定した1m
2あたりの発塵量が1~3,000個/m
2である請求項8に記載の多孔質電極基材。
【請求項10】
レドックスフロー電池用多孔質電極基材である、請求項1~
9のいずれかに記載の多孔質電極基材。
【請求項11】
前記炭素繊維は、平均繊維径が4~20μmであり、平均繊維長が2~30mmである、請求項1~10のいずれかに記載の多孔質電極基材。
【請求項12】
前記炭素繊維シートの厚みが50~500μmである、請求項1~11のいずれかに記載の多孔質電極基材。
【請求項13】
前記バインダーが、樹脂を炭素化して得られる炭素材であるか、又はテトラフルオロエチレンと黒鉛、カーボンブラックもしくはカーボンナノチューブとを含む樹脂である、請求項1~12のいずれかに記載の多孔質電極基材。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか一項に記載の多孔質電極基材の製造方法であって、
以下の工程[1]~[3]を含む、多孔質電極基材の製造方法:
工程[1]:炭素繊維がバインダーにより結着された炭素繊維シートをシート流れ方向に沿って直径20~350mmのロールに抱かせて走行させる工程、
工程[2]:炭素繊維シートの、工程[1]でロールに抱かせた部分に、回転ブラシをかける工程、
工程[3]:炭素繊維シートの、工程[2]で回転ブラシをかけた部分上の塵を除去する工程。
【請求項15】
前記工程[1]におけるロールの抱き角が2~180°である、請求項14に記載の多孔質電極基材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形燃料電池やレドックスフロー電池などに用いられる多孔質電極基材とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池のガス拡散層や、レドックスフロー電池の電極には、炭素繊維紙、炭素繊維クロス、炭素繊維フェルト等の炭素繊維を用いた多孔質電極基材が一般的に用いられる。これらの基材は炭素繊維によって高い導電性を示すだけでなく、多孔質材料であるため、燃料ガスや、電解液及び生成水などの液体の透過性が高い。
【0003】
しかしながら、固体高分子形燃料電池のガス拡散層や、レドックスフロー電池の電極として用いられる基材では、電池を製造する際の電解質膜との接合工程やスタックの締結工程において生じる摩擦や圧縮などにより、炭素繊維や樹脂炭化物の脱落が生じるおそれがある。これらの脱落した炭素繊維や樹脂炭化物は電解質膜に比べ剛直であるため、電解質膜に突き刺さることがある。
【0004】
その結果、アノード極とカソード極との間がショートしたり、電解液及び/又は反応ガス(アノード極側の水素ガス及び/又はカソード極側の酸素ガス)がクロスリークしたりすることがあり、したがって、燃料電池及びレドックスフロー電池の起電力が低下することがあった。
【0005】
特許文献1には、固体高分子型燃料電池に用いられる高分子電解質膜への炭素繊維の突き刺さりによるダメージを低減することを目的として、平滑な金属面で挟む加圧手段を用いて炭素シートを加圧する、多孔質炭素電極基材の製造方法が開示される。また、特許文献2には、カーボンペーパーを一対の弾性ロール間に圧入することにより、前記カーボンペーパーの表面の毛羽を除去する、燃料電池用電解質膜・電極構造体の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2009-190951号公報
【文献】特開2016-143468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、加圧手段による加圧によって発生した炭素粉等が炭素シートに残存し、その結果、炭素シートを電池に用いた際に短絡電流が生じ、起電力が低くなるおそれがあった。
【0008】
特許文献2に記載の方法では、弾性ロールの変形量に対し、カーボンペーパーの厚み方向の変形量が追従できないことがある。そのため、カーボンペーパーを連続的に弾性ロール間でプレス処理すると、カーボンペーパーの破断が生じやすい。
【0009】
本発明の目的は、電池に用いた際に起電力の低下を抑制することのできる多孔質電極基材を提供することである。本発明の別の目的は、このような多孔質電極基材を、その破断を防止しつつ製造することのできる、多孔質電極基材の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。即ち本発明は、以下の(1)~(19)に関する。特に、本発明の多孔質電極基材は、以下の(1)~(14)及び(17)のうちの撥水層を有する場合を除くものであり、それ以外のものは参考用である。
【0011】
(1) 炭素繊維がバインダーにより結着された炭素繊維シートからなる多孔質電極基材であって、
粒径が0.3μm以上の塵について、下記の方法で決定した1m2あたりの発塵量が120,000個/m2以下である多孔質電極基材:
該シートを10m/分で走行させながら、該シートの下方200mmの位置に500mm×100mmの開口を有する集塵フードを用いて47.2mL/sで40分間吸引して得た気体中の、粒径が所定の範囲にある塵の数をパーティクルカウンターで測定し、得られた測定値を吸引面積である200m2で除した値を、1m2あたりの発塵量とする。
【0012】
(2) 粒径が0.3μm以上0.5μm未満の塵について前記方法で決定した1m2あたりの発塵量が50,000個/m2以下である上記(1)に記載の多孔質電極基材。
【0013】
(3) 粒径が0.5μm以上1.0μm未満の塵について前記方法で決定した1m2あたりの発塵量が30,000個/m2以下である上記(1)または(2)に記載の多孔質電極基材。
【0014】
(4) 粒径が1.0μm以上2.0μm未満の塵について前記方法で決定した1m2あたりの発塵量が20,000個/m2以下である上記(1)~(3)のいずれかに記載の多孔質電極基材。
【0015】
(5) 粒径が2.0μm以上5.0μm未満の塵について前記方法で決定した1m2あたりの発塵量が10,000個/m2以下である上記(1)~(4)のいずれかに記載の多孔質電極基材。
【0016】
(6) 粒径が5.0μm以上の塵について前記方法で決定した1m2あたりの発塵量が5,000個/m2以下である上記(1)~(5)のいずれかに記載の多孔質電極基材。
【0017】
(7) 粒径が0.3μm以上0.5μm未満の塵について前記方法で決定した1m2あたりの発塵量が1~50,000個/m2であり、
粒径が0.5μm以上1.0μm未満の塵について前記方法で決定した1m2あたりの発塵量が1~30,000個/m2であり、
粒径が1.0μm以上2.0μm未満の塵について前記方法で決定した1m2あたりの発塵量が1~20,000個/m2であり、
粒径が2.0μm以上5.0μm未満の塵について前記方法で決定した1m2あたりの発塵量が1~10,000個/m2であり、かつ
粒径が5.0μm以上の塵について前記方法で決定した1m2あたりの発塵量が1~5,000個/m2である
上記(1)に記載の多孔質電極基材。
【0018】
(8) 炭素繊維がバインダーにより結着された炭素繊維シートからなる多孔質電極基材であって、
粒径が0.3μm以上の塵について、下記の方法で決定した1m2あたりの発塵量が200,000個/m2以下である多孔質電極基材:
該シート表面の、該シートの端部から50mm以上離れた相異なる任意の5箇所において、直径50mmの範囲を47.2mL/sで10秒間吸引して得た気体中の、粒径が所定の範囲にある塵の数をパーティクルカウンターでそれぞれ測定し、得られた5箇所の測
定値の平均値を、吸引面積である0.0020m2で除した値を、1m2あたりの発塵量とする。
【0019】
(9) 粒径が0.3μm以上0.5μm未満の塵について前記方法で決定した1m2あたりの発塵量が100,000個/m2以下である上記(8)に記載の多孔質電極基材。
【0020】
(10) 粒径が0.5μm以上1.0μm未満の塵について前記方法で決定した1m2あたりの発塵量が50,000個/m2以下である上記(8)または(9)に記載の多孔質電極基材。
【0021】
(11) 粒径が1.0μm以上2.0μm未満の塵について前記方法で決定した1m2あたりの発塵量が10,000個/m2以下である上記(8)~(10)のいずれかに記載の多孔質電極基材。
【0022】
(12) 粒径が2.0μm以上5.0μm未満の塵について前記方法で決定した1m2あたりの発塵量が10,000個/m2以下である上記(8)~(11)のいずれかに記載の多孔質電極基材。
【0023】
(13) 粒径が5.0μm以上の塵について前記方法で決定した1m2あたりの発塵量が3,000個/m2以下である上記(8)~(12)のいずれかに記載の多孔質電極基材。
【0024】
(14) 粒径が0.3μm以上0.5μm未満の塵について前記方法で決定した1m2あたりの発塵量が1~100,000個/m2であり、
粒径が0.5μm以上1.0μm未満の塵について前記方法で決定した1m2あたりの発塵量が1~50,000個/m2であり、
粒径が1.0μm以上2.0μm未満の塵について前記方法で決定した1m2あたりの発塵量が1~10,000個/m2であり、
粒径が2.0μm以上5.0μm未満の塵について前記方法で決定した1m2あたりの発塵量が1~10,000個/m2であり、かつ
粒径が5.0μm以上の塵について前記方法で決定した1m2あたりの発塵量が1~3,000個/m2である上記(8)に記載の多孔質電極基材。
【0025】
(15) 前記炭素繊維の平均繊維径が4~20μm、平均繊維長が2~30mm、引張弾性率が200~600GPa、引張強度が3000~7000MPaである、上記(1)~(14)のいずれかに記載の多孔質電極基材。
【0026】
(16) 固体高分子型燃料電池用多孔質電極基材である、上記(1)~(15)のいずれかに記載の多孔質電極基材。
【0027】
(17) レドックスフロー電池用多孔質電極基材である、上記(1)~(15)のいずれかに記載の多孔質電極基材。
【0028】
(18) 以下の工程[1]~[3]を含む、上記(1)~(17)のいずれかに記載の多孔質電極基材の製造方法:
工程[1]:炭素繊維がバインダーにより結着された炭素繊維シートをシート流れ方向に沿って直径20~350mmのロールに抱かせて走行させる工程、
工程[2]:炭素繊維シートの、工程[1]でロールに抱かせた部分に、回転ブラシをかける工程、
工程[3]:炭素繊維シートの、工程[2]で回転ブラシをかけた部分上の塵を除去する工程。
【0029】
(19) 前記工程[1]におけるロールの抱き角が2~180°である、上記(18)に記載の多孔質電極基材の製造方法。
【発明の効果】
【0030】
本発明の一態様によれば、電池に用いた際に起電力の低下を抑制することのできる多孔質電極基材が提供される。本発明の別の態様によれば、このような多孔質電極基材を、その破断を防止しつつ製造することのできる、多孔質電極基材の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】多孔質電極基材を製造することのできる装置の概略構成例を示す模式図であり、(a)は当該装置の全体を示し、(b)はその一部を拡大して示す。
【
図2】第1の発塵量の決定方法を説明するための模式図であり、(a)は炭素繊維シートの発塵量測定箇所を示す上面図、(b)は発塵量を測定する装置の概略構成を示す正面図である。
【
図3】第2の発塵量の決定方法を説明するための模式図であり、(a)は炭素繊維シートの発塵量測定箇所を示す上面図、(b)は発塵量を測定する装置の概略構成を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。なお、本明細書において、気体の体積は、20℃、1気圧換算の体積を意味する。
【0033】
<多孔質電極基材の製造方法>
本発明の多孔質電極基材は、例えば以下の工程[1]~[3]を含む製造方法で製造することができる。
工程[1]:炭素繊維がバインダーにより結着された炭素繊維シートをシート流れ方向に沿って直径20~350mmのロールに抱かせて走行させる工程。
工程[2]:炭素繊維シートの、工程[1]でロールに抱かせた部分に、回転ブラシをかける工程、
工程[3]:炭素繊維シートの、工程[2]で回転ブラシをかけた部分上の塵を除去する工程。
【0034】
前記工程[1]におけるロールの抱き角が2~180°であることが好ましい。
【0035】
本発明における「塵」は、主に、炭素繊維シート表面に付着した炭素繊維片や炭素粉からなる。多孔質電極基材は、通常、高分子電解質膜や触媒層と接着させる際や、電池に組み込む際に加圧される。この際に、多孔質電極基材表面に付着していた塵(炭素繊維片や炭素粉)が電解質膜(固体高分子型燃料電池における高分子電解質膜、レドックスフロー電池の隔膜)へのダメージの原因となる。したがって、工程[1]~[3]を経ることで、塵を事前に取り除くことができ、電解質膜へのダメージを低減することができる。
【0036】
本発明に係る多孔質電極基材を用いることで、膜-電極接合体の組み立て時、あるいは固体高分子形燃料電池やレドックスフロー電池の作製時または発電時の加圧状態において、塵が電解質膜へ与えるダメージを低減することができる。
【0037】
<炭素繊維シートの製造方法>
工程[1]にかける炭素繊維シートは、特に限定はないが、一般的には以下の工程[i
]、工程[ii]を含む製造方法により製造することができる。
工程[i]:炭素繊維に、必要に応じて抄紙用バインダーを加えて、抄紙、好ましくは湿式抄紙し、炭素繊維紙を得る工程。
工程[ii]:上記工程[i]で得られた炭素繊維紙に樹脂成分を含浸させ、必要に応じて成形処理(特には熱成形)し、必要に応じて炭素化する工程。
【0038】
まず、工程[i]と工程[ii]において、炭素繊維が炭素等のバインダーにより結着された炭素繊維シートを製造する。工程[i]では、炭素繊維を抄紙して炭素繊維紙を得る(抄紙工程)。工程[ii]では、例えば、該炭素繊維紙に樹脂を含浸させる樹脂含浸工程と、該樹脂が含浸した炭素繊維紙を加熱し、該樹脂を炭化させる炭化工程を行うことができる。製造される炭素繊維シートは、表面平滑性が高く、電気的接触が良好で、かつ機械的強度が高い複数本の炭素繊維が集合してなる抄紙体が好ましい。炭素繊維同士を結着させるバインダーとして導電性成分を選択することによって、上記の炭化工程を省き、低コストに多孔質電極基材を製造することも可能である。
【0039】
<炭素繊維>
炭素繊維としては、その原料によらず用いることができるが、ポリアクリロニトリル(以後「PAN」と略す。)系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維、フェノール系炭素繊維から選ばれる1つ以上の炭素繊維を含むことが好ましく、PAN系炭素繊維あるいはピッチ系炭素繊維を含むことがより好ましい。多孔質電極基材に機械的な強度を持たせる観点から、炭素繊維の平均繊維径が4~20μm、平均繊維長が2~30mm、引張弾性率が200~600GPa、引張強度が3000~7000MPaであることが好ましい。
【0040】
<炭素繊維を結着するバインダー>
炭素繊維を結着するバインダーは、炭素繊維を互いに結着させるための材料である。例えば、バインダーとして、樹脂を加熱によって炭素化して得られる炭素材を用いることができる。このために用いる樹脂としては、炭素化した段階で多孔質電極基材の炭素繊維を結着することのできる公知の樹脂から適宜選んで用いることができる。炭素化後に導電性物質として残存しやすいという観点から、樹脂としてはフェノール樹脂、エポキシ樹脂、フラン樹脂、ピッチ等が好ましく、加熱による炭素化の際の炭化率の高いフェノール樹脂が特に好ましい。炭素化を経ないバインダーは、上記樹脂に、撥水性を担保できるポリテトラフルオロエチレンと、黒鉛、カーボンブラック、カーボンナノチューブ等を添加することで得ることができる。このようなバインダーを用いると、炭素化を経ずとも導電性の高い多孔質電極基材を得ることができる。
【0041】
樹脂の炭素化は、不活性ガス中において1500~2200℃で焼成することで行うことができる。
【0042】
炭素化を行う前に、熱成形、さらには酸化処理を行うことでより残炭率が高く、表面平滑性が高く、厚みのばらつきの小さい多孔質電極基材を製造することができる。
【0043】
炭素繊維シートの厚みは、通常50~500μmが好ましく、50~300μmがより好ましい。この範囲内にあれば、ロール状に巻き取りやすい上に高いシート強度を保持できる。
【0044】
<工程[1]>
工程[1]において、炭素繊維シートをシート流れ方向に沿って直径20~350mmのロールに抱かせて走行させることで、炭素繊維シート中に含まれる結合の弱い炭素粉等の塵を炭素繊維シートから脱離させる。ここで、脱離した塵は炭素繊維シートと結合して
いなければよく、塵が炭素繊維シートに付着していてもよい。炭素繊維シートに付着した塵は、工程[3]で除去することができる。
【0045】
ここで「シート流れ方向」とは、炭素繊維シートを搬送する方向のことを指す。ロールの中心軸は、シート流れ方向に直交し、かつ、炭素繊維シートのシート面に平行となる。
図1については後に詳述するが、
図1(b)に示されるθを、炭素繊維シートをシート流れ方向に沿ってロールに抱かせる際の「抱き角」という。炭素繊維シートをロールに抱かせるとは、
図1(b)において炭素繊維シートにロール11を押し当てて、抱き角θに対応するロールの外周部分に炭素繊維シートを接触させることを意味する。
【0046】
炭素繊維シートを抱かせるロールの直径は20~350mmが好適である。ロールの直径が小さすぎると炭素繊維シートに割れが生じることなく安定して搬送することが不可能であり、ロールの直径が大きすぎると炭素繊維シートに付着した炭素繊維や炭素粉を十分に脱離させることが不可能である。ロールの直径は好ましくは40~300mmである。
【0047】
炭素繊維シートを抱かせるロールの表面の材質としては、炭素繊維シートの表面を傷つけない材質であればよく、ゴム、各種金属、カーボン等が使用できる。ロールが汚染されにくいという観点から、ハードクロムメッキを施したロールを用いることが好ましい。
【0048】
炭素繊維シートをロールに抱かせる角度としては、ロール中心に対し、2~180°とすること(抱き角が2~180°であること)が好ましい。2°以上であれば、塵の脱離が容易である。また180°以下であれば、炭素繊維シートの割れを防止することが容易である。
【0049】
炭素繊維シートを10~500N/mの張力で走行させることが好ましい。10N/m以上であれば、均一にロールと炭素繊維シートを接触させることが容易で、塵の脱離が容易である。500N/m以下であれば、炭素繊維シートの破断を防止することが容易である。当該張力は好ましくは10~300N/mであり、より好ましくは10~200N/mである。
【0050】
<工程[2]>
工程[2]において、炭素繊維シートの、工程[1]でロールに抱かせた部分に、回転ブラシをかける。例えば、工程[1]のロール位置、もしくは当該ロール位置より後方の位置において、炭素繊維シートに回転ブラシをかける。炭素繊維シートの工程[1]でロールに抱かせた部分において、炭素繊維シートの両面に回転ブラシをかけることが好ましいが、場合によってはその片面だけに回転ブラシをかけてもよい。工程[2]において更に、炭素繊維シート中に含まれる結合の弱い炭素繊維や炭素粉等の塵を脱離させることができる。
【0051】
回転ブラシは、ロール状のブラシである。その中心軸がシート流れ方向に直交し、かつ炭素繊維シートのシート面に平行となるように、回転ブラシを配置することができる。
【0052】
回転ブラシに用いるブラシの繊維の材質としては炭素繊維シートを損傷しないものであればよく、各種プラスチックたとえばナイロン、ポリプロピレンを用いることができる。帯電によるブラシおよび炭素繊維シートの汚染を防ぐため、導電性繊維を回転ブラシの繊維の一部用いることが好ましい。
【0053】
回転ブラシの繊維径は、炭素繊維シートの細孔内への侵入および炭素繊維結着部の余剰バインダーの除去を行う観点から、0.02mm~0.5mmが好ましく、0.05~0.3mmがさらに好ましい。0.02mm以上であれば、ブラシの腰がなくなって掻き取
る力が低下することを容易に防止できる。0.5mm以下であれば、炭素繊維シート表面の削り取りを抑制することが容易である。
【0054】
また、細い繊維径の回転ブラシを使用する場合は、ブラシの繊維同士が絡みやすくなることがあるため、繊維にクリンプを入れることで、繊維同士が絡まらず、ブラシ先端が独立した状態となるよう処理しておくことが好ましい。
【0055】
回転ブラシの回転数はライン速度(炭素繊維シートの走行速度)に応じて変更することができる。好適な範囲は60~1200rpmであり、さらに好適な範囲は60~400rpmである。
【0056】
炭素繊維シートの流れに対して正方向及び逆方向にそれぞれ回転する2つの回転ブラシからなる一対の回転ブラシを用いて、炭素繊維シートの1つの面を処理することが好ましい。これによって、その面にランダムに配置した炭素繊維の破片をより均一に除去することが可能となる。ここでいう正方向の回転とは、炭素繊維シートの流れに沿う方向にブラシを回転させることであり、逆方向の回転とは、炭素繊維シートの流れ方向に対して向き合う方向にブラシの回転させることを意味する。上記一対の回転ブラシによる処理を、炭素繊維シートの両面に対してそれぞれ施すことが好ましい。例えば、一対の回転ブラシを炭素繊維シートの表裏両面のそれぞれに配すること(合計二対の回転ブラシ、すなわち合計4個の回転ブラシを用いる)で、上記の通り、より均一に炭素繊維の破片等を除去することができる。あるいは、実施例に関して後に詳述するように、一対の回転ブラシを用いて炭素繊維シートの一方の面を処理した後、当該一対の回転ブラシを用いて炭素繊維シートの反対側の面を処理することもできる。
【0057】
回転ブラシの押し込み量は、炭素繊維シートとブラシの先端が接触する位置を基準に、0~1.0mm押し込むことが好ましい。
【0058】
<工程[3]>
工程[3]において、炭素繊維シートの、工程[2]で回転ブラシをかけた部分上の塵を除去する。これにより、工程[1]や[2]で炭素繊維シートから脱離させた塵を除去する。
【0059】
炭素繊維シート上から塵を除去する方法としては、粘着ロールを炭素繊維シートに接触させて粘着ロールに塵を吸着せしめる方法や、炭素繊維シートに空気を吹き付けて吸引することで塵を除去する方法などがある。炭素繊維シートの擦過等の影響を除外できる非接触方式である、空気を当てて吸引する方法が好適である。炭素繊維シートの幅よりも広い範囲で空気の吹き付け及び吸引を行うことで、炭素繊維シートに付着した塵を幅方向のむらなく吸引することができる。吹き付ける空気の量(炭素繊維シートの幅方向の単位長さあたり)としては2~10L/分/mm、吸引する空気の量としては3~15L/分/mmとすることが好ましい。吹き付ける空気の量に対して、吸引する空気の量をより大きくすることで、吹き付けた空気によって舞い上がった塵の炭素繊維シートへの再付着を防ぐことが容易にできる。当該工程の処理速度(炭素繊維シートの走行速度)は1~20m/分が好ましい。空気を吹き付けるノズルをよび空気を吸引するノズルは炭素繊維シートに対して、0.5~5mmの距離に配置することが好ましい。距離が0.5mm以上であれば、上記ノズルと炭素繊維シートとの接触を避けることが容易であり、5mm以下であれば、効率よく塵を除去することが容易である。
【0060】
空気を吹き付けるノズルは、炭素繊維シートの走行方向において、空気を吸引するノズルよりも後段に配することが好ましい。また、空気を吹き付けるノズルと空気を吸引するノズルの組み合わせを、炭素繊維シートの上面側、下面側それぞれに配することで、両面
において塵の除去された炭素繊維シートが得られる。
【0061】
また、接触方式のクリーニングとして、炭素繊維シートの幅よりも長いチャンネルブラシ(特には直線状のもの)を、シート流れ方向に対して直交する方向(シート幅方向)に延在させ、この方向にチャンネルブラシを振動させることにより、炭素繊維シートに付着した塵を除去することも有効である。チャンネルブラシの材質は回転ブラシに関して前述した材質を適用することが好適である。チャンネルブラシの繊維径は、炭素繊維シートの細孔内への侵入および炭素繊維結着部の余剰バインダーの除去を行う観点から、0.02mm~0.5mmが好ましく、0.05~0.3mmがさらに好ましい。0.02mm以上であれば、ブラシの腰がなくなって掻き取る力が低下することを容易に防止できる。0.5mm以下であれば、炭素繊維シート表面の削り取りを抑制することが容易である。
【0062】
また、細い繊維径のチャンネルブラシを使用する場合は、ブラシの繊維同士が絡みやすくなることがあるため、繊維にクリンプを入れることで、繊維同士が絡まらず、ブラシ先端が独立した状態となるよう処理しておくことが好ましい。チャンネルブラシの振動数は炭素繊維シートの走行速度に合わせ、1~10Hzとすることが好ましい。振動ストロークは10~50mmとすることが好ましい。チャンネルブラシの押し込み量は、炭素繊維シートとブラシの先端が接触する位置を基準に、0~1.0mm押し込むことが好ましい。ブラシ近傍に集塵ノズルを設けることで炭素粉の再付着を防止することもできる。
【0063】
このようにして塵を除去した炭素繊維シートを、多孔質電極基材として好適に使用することができる。
【0064】
ここで、
図1を参照して、多孔質電極基材の製造方法の例につき、説明する。炭素繊維がバインダーにより結着された炭素繊維シート1は、巻き出しロール2から巻き出され、水平方向(矢印4の方向)に走行する。なお、ロール2、3、11、12及び13の回転軸は、紙面奥行き方向に延在する。上側回転ブラシ21及び下側回転ブラシ22の回転軸も、紙面奥行き方向に延在する。
【0065】
工程[1](曲げ処理)において、ガイドロール12及び13の間を走行する炭素繊維シートを、曲げ処理用のロール11を用いて下方に押し込む。したがって、ガイドロール12とロール11との間における炭素繊維シートの走行方向、及びロール11とガイドロール13との間における炭素繊維シートの走行方向は、水平でなくなる。ガイドロール13から下流では、炭素繊維シートの走行方向は再び水平となる。ロール11と炭素繊維シートが接触している部分の中心角θが抱き角である。
【0066】
その後、工程[2]において、炭素繊維シートの工程[1]でロール11を抱かせた部分に、回転ブラシをかける。上側回転ブラシ21によって炭素繊維シートの上側面を、下側回転ブラシ22によって炭素繊維シートの下側面を処理する。上側回転ブラシ21は矢印23方向(紙面において反時計回り)に回転し、下側回転ブラシ22は矢印24方向(紙面において時計回り)に回転する。ここでは、上側及び下側回転ブラシとして、それぞれ1つの回転ブラシを用いている。上側及び下側回転ブラシは、いずれも炭素繊維シートの流れ方向に対して正方向に回転する。
【0067】
その後、工程[3]において、炭素繊維シートの工程[2]で回転ブラシをかけた部分上の塵を、塵除去装置によって除去する。塵除去装置31によって炭素繊維シートの上側面を、塵除去装置32によって炭素繊維シートの下側面を処理する。例えば、塵除去装置31及び32はそれぞれ、前述の空気吹き付けノズルと空気吸引ノズルとを備える、空気の吹き出し及び吸引を行う装置である。空気吹付ノズル及び空気吸引ノズルはいずれも、炭素繊維シートの幅方向(紙面奥行き方向)に延在させることが好ましい。あるいは、塵
除去装置31及び32はそれぞれ、前述のチャンネルブラシを備える装置であってもよい。チャンネルブラシは、炭素繊維シートの幅方向に延在させることが好ましい。
【0068】
なお、多孔質電極基材の製造過程において、炭素繊維シートを適宜切断し、炭素繊維シートのサイズを変更することができる。
【0069】
<ガス拡散層、ガス拡散電極の製造方法>
多孔質電極基材を下記工程[4]に処することにより、固体高分子形燃料電池に使用可能なガス拡散層を得ることができる。
工程[4]:工程[3]で得られた多孔質電極基材にコーティング層を形成して、ガス拡散層を得る工程。
【0070】
また、上記のガス拡散層を下記工程[5]に処することにより、固体高分子形燃料電池に使用可能なガス拡散電極を得ることができる。
工程[5]:工程[4]で得られたガス拡散層のコーティング層上に電極触媒層を形成して、ガス拡散電極を得る工程。
【0071】
<工程[4]>
工程[4]において、工程[3]までで得られた多孔質電極基材にコーティング層を形成し、ガス拡散層を得る。ここで言う「コーティング層」とは、多孔質電極基材の少なくとも一方の面に配されるものであって、導電剤と撥水剤からなる層のことを指す。導電剤と撥水剤を溶媒に分散させてコーティング液を形成し、このコーティング液を用いてコーティング層を形成することができる。
【0072】
コーティング層に用いる導電剤としてはカーボン粉等を用いることができる。カーボン粉は、たとえば、黒鉛粉やカーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーなどを用いることができる。中でも製造コストの観点からカーボンブラックを用いることが好ましい。例えばファーネスブラック(例えばCABOT社製の商品名:バルカンXC72)、アセチレンブラック(例えば電気化学工業(株)製の商品名:デンカブラック)、ケッチェンブラック(例えばライオン(株)製の商品名:Ketjen Black EC)などを用いることができる。カーボン粉は、カーボン粉を溶媒に分散させた際の濃度が、5~30質量%となるように用いることが好ましい。
【0073】
撥水剤としてはフッ素樹脂やシリコーン樹脂などが挙げられ、これらを水などの溶媒に分散させて用いることが出来る。撥水性の高さから特に好ましくはフッ素樹脂である。フッ素樹脂としては例えばテトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体などがあげられ、特にPTFEが好ましい。撥水剤は、撥水剤を溶媒に分散させた際の濃度が、5~60質量%となるように用いることが好ましい。撥水剤を繊維化させるためには、乳化重合により製造されるPTFEが好ましく、中でもディスパージョンタイプのPTFEが好ましい。
【0074】
カーボン粉および撥水剤を分散させる溶媒としては、水や有機溶媒を用いることが出来る。有機溶媒のコスト及び環境負荷などの観点から、水を使用することが好ましい。有機溶媒を使用する際には、水と混合可能な溶媒である低級アルコールやアセトンなどの使用が好ましい。これら有機溶媒を用いる割合としては、水10に対して0.5~2の比率(体積比)で用いることが好ましい。
【0075】
カーボン粉と撥水剤からなるコーティング層は、カーボン粉がバインダーである撥水剤によって結合されたものである。言い換えれば、撥水剤によって形成されるネットワーク
中にカーボン粉が取り込まれ、微細な網目構造が形成される。コーティング層を形成させる際に、コーティング層形成材料の一部が多孔質電極基材へと染み込むため、コーティング層と多孔質電極基材との明確な境界線の定義は困難である。しかし、コーティング層組成物の多孔質電極基材へのしみこみが生じていない部分、すなわちカーボン粉と撥水剤のみから構成される層をコーティング層と定義することができる。コーティング層中に繊維化された撥水剤が含まれると、上記網目構造がより強固なものとなり、コーティング層の強度が向上するだけでなく、繊維状撥水剤と多孔質電極基材との絡みあいが生じることで、コーティング層と多孔質電極基材の接着性が向上し、コーティング層の剥離強度が高い固体高分子形燃料電池用のガス拡散層が得られる。ガス拡散層は、多孔質電極基材の面のいずれか一方の面上にカーボン粉と撥水剤からなるコーティング層を有している。両面に当該コーティング層を有していてもよいが、製造工程数の増加による生産性の低下および両面にコーティング層を有することでガス拡散性と排水性が低下する可能性があることから、片面にコーティング層が存在することが好ましい。コーティング層を形成させる表面はどちらでも良いが、強固なコーティング層を形成させるためにはある程度の表面粗さを有する面であることが好ましい。ただし、多孔質電極基材の一方の面にガス流路を形成した場合などはこの限りではなく、もう一方の平滑な面に形成することが好ましい。
【0076】
<工程[5]>
工程[5]において、工程[4]で得られたガス拡散層のコーティング層上に電極触媒層を形成して、ガス拡散電極を得る。
【0077】
ここで言う電極触媒層とは、例えば、触媒としての白金担持カーボンおよびバインダーとしてのイオン交換能を有する高分子化合物からなる層であって、水素の酸化反応および酸素の還元反応が起こる反応場として機能する。触媒としては白金を使用しない触媒、例えば、他の金属やカーボンアロイ触媒などを適用してもよい。また、バインダーとしてはフッ素系イオン交換樹脂だけでなく、炭化水素系のイオン交換樹脂を適用することも出来る。電極触媒層の厚みは2~30μmとすることで効率よく発電可能である。電極触媒層を形成する方法としては各種の塗工方法を適用することができる。例えばバーコート法、ブレード法、スクリーン印刷法、スプレー法、カーテンコーティング法およびロールコート法などがあげられる。これらの方法により、ガス拡散層のコーティング層上に均一な触媒層膜を形成することができる。形成した触媒層の塗工膜は一般的な方法で乾燥され、電極触媒層を形成したガス拡散電極を製造することができる。
【0078】
<多孔質電極基材>
(第1の実施形態)
本発明の多孔質電極基材の第1の実施形態によれば、炭素繊維がバインダーにより結着された炭素繊維シートからなる多孔質電極基材であって、粒径が0.3μm以上の塵について、下記の方法(第1の発塵量の決定方法)で決定した1m2あたりの発塵量が120,000個/m2以下である多孔質電極基材が提供される。
【0079】
・第1の発塵量の決定方法
炭素繊維シートを10m/分で走行させながら、集塵フードを用いて47.2mL/sで40分間吸引して得た気体中の、粒径が所定の範囲にある塵の数をパーティクルカウンターで測定する。集塵フードは、500mm×100mmの開口(四角形状)を有する。この開口を炭素繊維シートの下方200mmの位置に、炭素繊維シートに向けて配置する。得られた測定値を、吸引面積である200m2で除した値を、1m2あたりの発塵量とする。この測定を行うためには、多孔質電極基材は、幅500mm以上、長さ400m以上のサイズを有する。
【0080】
なお、この発塵量の測定はクリーン度クラス50000以下のクリーンルームで行う。
【0081】
以下、第1の発塵量の決定方法で決定した1m2あたりの発塵量を「第1の発塵量」と呼ぶことがある。例えば、粒径が0.3μm以上の塵について第1の発塵量の決定方法で決定した1m2あたりの発塵量を「粒径0.3μm以上の第1の発塵量」と呼ぶことがある。
【0082】
粒径0.3μm以上の第1の発塵量が多すぎると電池に組んだ際に短絡が生じやすい。粒径0.3μm以上の第1の発塵量は、好ましくは115,000個/m2以下であり、より好ましくは90,000個/m2以下である。発塵量は少なければ少ないほどよいので特に下限はないが、粒径0.3μm以上の第1の発塵量は通常1個/m2以上、典型的には10個/m2以上である。
【0083】
以下の<1.1>~<1.6>の条件のうちの1つ以上が満たされることが好ましい。
<1.1> 粒径が0.3μm以上0.5μm未満の第1の発塵量が50,000個/m2以下、より好ましくは1~40,000個/m2である。
<1.2> 粒径が0.5μm以上1.0μm未満の第1の発塵量が30,000個/m2以下、より好ましくは1~20,000個/m2である。
<1.3> 粒径が1.0μm以上2.0μm未満の第1の発塵量が20,000個/m2以下、より好ましくは1~10,000個/m2である。
<1.4> 粒径が2.0μm以上5.0μm未満の第1の発塵量が10,000個/m2以下、より好ましくは1~5,000個/m2である。
<1.5> 粒径が5.0μm以上の第1の発塵量が5,000個/m2以下、より好ましくは1~2,000個/m2である。
<1.6> 粒径が0.3μm以上0.5μm未満の第1の発塵量が1~50,000個/m2であり、かつ
粒径が0.5μm以上1.0μm未満の第1の発塵量が1~30,000個/m2であり、かつ
粒径が1.0μm以上2.0μm未満の第1の発塵量が1~20,000個/m2であり、かつ
粒径が2.0μm以上5.0μm未満の第1の発塵量が1~10,000個/m2であり、かつ
粒径が5.0μm以上の第1の発塵量が1~5,000個/m2である。
【0084】
とりわけ粒径の大きい塵の数を少なくすることで、電池に組んだ際の短絡を防止することが容易である。
【0085】
図2を参照すると、水平に走行する炭素繊維シート41の下に、集塵フード51を配置する。このとき集塵フードの吸引用の開口(500mm×100mmの四角形)が炭素繊維シート41に向かうようにする。また、開口の四角形の長辺方向を、炭素繊維シートの幅方向に一致させる。炭素繊維シートと開口との距離は200mmとする。集塵フード51から気体、特には空気を吸引し、導管52を経て、パーティクルカウンター53にその空気を40分間送る。この間、パーティクルカウンターでその空気中に含まれる塵の数を測定する。パーティクルカウンターに送る空気の流量は47.2mL/sである。炭素繊維シートの走行スピードが10m/分で、炭素繊維シートの幅方向に500mmの範囲で吸引を行うので、吸引面積(炭素繊維シートの吸引を行う領域の面積)は200m
2となる。
【0086】
(第2の実施形態)
本発明の多孔質電極基材の第2の実施形態によれば、炭素繊維がバインダーにより結着された炭素繊維シートからなる多孔質電極基材であって、粒径が0.3μm以上の塵につ
いて、下記の方法で決定した1m2あたりの発塵量が200,000個/m2以下である多孔質電極基材が提供される。
【0087】
・第2の発塵量の決定方法
炭素繊維シート表面の、炭素繊維シートの端部から50mm以上離れた相異なる任意の5箇所において、直径50mmの範囲を47.2mL/sで10秒間吸引して得た気体中の、粒径が所定の範囲にある塵の数をパーティクルカウンターでそれぞれ測定する。得られた5箇所の測定値の平均値を、吸引面積である0.0020m2で除した値を、1m2あたりの発塵量とする。この測定を行うためには、多孔質炭素電極基材は、直径50mmの円が5つ入り、かつその周辺に50mmの外周部分(マージン)を有することのできるサイズを有する。
【0088】
以下、第2の発塵量の決定方法で決定した1m2あたりの発塵量を「第2の発塵量」と呼ぶことがある。例えば、粒径が0.3μm以上の塵について第2の発塵量の決定方法で決定した1m2あたりの発塵量を「粒径0.3μm以上の第2の発塵量」と呼ぶことがある。
【0089】
なお、この発塵量の測定はクリーン度クラス50000以下のクリーンルームで行う。
【0090】
粒径0.3μm以上の第2の発塵量が多すぎると電池に組んだ際に短絡が生じやすい。粒径0.3μm以上の第2の発塵量は、好ましくは173,000個/m2以下であり、より好ましくは150,000個/m2以下である。発塵量は少なければ少ないほどよいので特に下限はないが、粒径0.3μm以上の第2の発塵量は、通常1個/m2以上、典型的には10個/m2以上である。
【0091】
以下の<2.1>~<2.6>の条件のうちの1つ以上が満たされることが好ましい。
<2.1> 粒径が0.3μm以上0.5μm未満の第2の発塵量が100,000個/m2以下、より好ましくは1~80,000個/m2である。
<2.2> 粒径が0.5μm以上1.0μm未満の第2の発塵量が50,000個/m2以下、より好ましくは1~40,000個/m2である。
<2.3> 粒径が1.0μm以上2.0μm未満の第2の発塵量が10,000個/m2以下、より好ましくは1~8,000個/m2である。
<2.4> 粒径が2.0μm以上5.0μm未満の第2の発塵量が10,000個/m2以下、より好ましくは1~6,000個/m2である。
<2.5> 粒径が5.0μm以上の第2の発塵量が3,000個/m2以下、より好ましくは1~1,000個/m2である。
<2.6> 粒径が0.3μm以上0.5μm未満の第2の発塵量が1~100,000個/m2であり、かつ
粒径が0.5μm以上1.0μm未満の第2の発塵量が1~50,000個/m2であり、かつ
粒径が1.0μm以上2.0μm未満の第2の発塵量が1~10,000個/m2であり、かつ
粒径が2.0μm以上5.0μm未満の第2の発塵量が1~10,000個/m2であり、かつ
粒径が5.0μm以上の第2の発塵量が1~3,000個/m2である。
【0092】
とりわけ粒径の大きい塵の数を少なくすることで、電池に組んだ際の短絡を防止することができる。
【0093】
例えば多孔質電極基材41が四角形のとき、
図3(a)に示すように、四角形の四辺か
らそれぞれ50mm以上離れた領域を領域42とする。この領域において、相異なる任意の5箇所の円形部(それぞれ直径50mm)43を測定対象とする。5箇所の円形部は互いに重ならない。例えば、同図(b)に示すように直径50mmの円形の開口を有する集塵フード61とスタンド64とで多孔質電極基材41を挟み、集塵フード61から、気体、特には空気を吸引し、導管62を経て、パーティクルカウンター63にその空気を10秒間送る。この間、パーティクルカウンターでその空気中に含まれる塵の数を測定する。なお、スタンド64は空気を吸引するため、中空形状(両端面の開口が直径50mmの円形である無底円筒状)であり、多孔質電極基材を保持できる構造となっている。パーティクルカウンターに送る空気の流量は47.2mL/sである。このとき、多孔質電極基材は走行させない。また、多孔質電極基材41は、集塵フード61及びスタンド64のそれぞれに接触する。測定に際しては、集塵フード61及びスタンド64を、これらが多孔質炭素電極基材をこすらないように設置する。集塵フード61の開口とスタンド64の開口とが同心になるよう、集塵フード61とスタンド64を配置する。なお、5箇所の円形部43について、それぞれ上記の吸引(47.2mL/sで10秒間)を行う。
【0094】
<粒径>
塵の粒径は、対象となる一粒の塵の一番大きい径(最大寸法)を意味する。パーティクルカウンター(気体用の光散乱式の粒子計数器)を用いて、粒径0.3μm以上の塵(粒子)の数を測定すると同時に、上記<1.1>~<1.6>及び<2.1>~<2.6>に記載される粒径範囲の塵の数を測定することができる。パーティクルカウンターで数を測定する塵の粒径の最大値は、典型的には100μmである。
【実施例】
【0095】
以下、実施例において本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0096】
(実施例1)
<多孔質電極基材の作製>
・炭素繊維紙の作製
炭素繊維として、長さ3mmにカットした平均直径7μmのPAN系炭素繊維100質量部と、長さ3mmのポリビニルアルコール(PVA)繊維(商品名:VBP105-1、クラレ株式会社製)を20質量部と、ポリエチレンパルプ(三井化学株式会社製、商品名:SWP 濾水度450mL、JIS P8121-2のパルプ濾水度試験法(2)カナダ標準型で測定)20質量部を水中で分散し、連続的に金網上に抄造した後、乾燥して炭素繊維紙を得た。
【0097】
・フェノール樹脂含浸炭素繊維紙の作製
この炭素繊維紙100質量部に、フェノール樹脂(商品名:フェノライトJ-325、DIC株式会社製)のメタノール溶液を含浸させ、加熱炉でメタノールを十分に乾燥させ、フェノール樹脂の不揮発分を100質量部付着させたフェノール樹脂含浸炭素繊維紙を得た。
【0098】
・フェノール樹脂の硬化
このフェノール樹脂含浸炭素繊維紙に、250℃の温度で8×104N/mの線力のロールプレスを行い、フェノール樹脂を硬化させた。
【0099】
・炭素化
その後、不活性ガス(窒素)雰囲気中、1900℃で連続的に炭素化して、厚みが200μm、嵩密度が、0.29g/cm3の炭素繊維の抄紙体からなる炭素繊維シート(幅500mm×長さ400m)を得た。
【0100】
・工程[1]~[3]
図1(a)に示した装置では、巻出しロール2から巻き出した炭素繊維シートに、工程[1]~[3]を連続して行った後、巻き取りロール3に巻き取る。ここで用いた装置は、工程[1]を行った後に炭素繊維シートを巻き取りロールに巻き取り、次にこのロールから炭素繊維シートを巻き出して、ロールに抱かせる面を反対側にして再び工程[1]を行い、次に炭素繊維シートを巻き取りロールに巻き取り、次にこのロールから炭素繊維シートを巻き出して工程[2]に送ることができる構成とした。以下の説明において、
図1(a)に示した装置の各部材と同様の機能を有する部材については、
図1(a)に示した符号を用いる。
【0101】
炭素繊維シートの全体について、工程[1]~[3]の処理をそれぞれ行った。
【0102】
・工程[1]
この炭素繊維シートが、直径40mmのロール11に対して5°の抱き角θとなるように、直径200mmのガイドロール12及び13の位置を調整した。上記抱き角にて10m/分の速度で炭素繊維シート1を走行せしめ、巻き取った。炭素繊維シートの両面が処理されるよう、ロール11に抱かせる面を変更し、再度炭素繊維シートに直径40mmのロール11を通過させる処理を行い、巻き取った。
【0103】
・工程[2]
次いで炭素繊維シート1を巻出し、その両面に上側及び下側回転ブラシ21及び22による処理を実施した。ただし、上側回転ブラシ21として、一対の回転ブラシ(正方向及び逆方向にそれぞれ回転する2つの回転ブラシからなる)を用いた。また、下側回転ブラシ22としても、一対の回転ブラシ(正方向及び逆方向にそれぞれ回転する2つの回転ブラシからなる)を用いた。各ブラシにはポリプロピレン製繊維を用い、ブラシの繊維径は0.3mm、回転数は200rpmとした。各回転ブラシの押し込み量は炭素繊維シートの厚み方向に対し、0mmとなるように設定した。また、炭素繊維シートの走行速度は10m/minとした。
【0104】
・工程[3]
その後、塵除去装置31及び32としてそれぞれ1本ずつ直線状のチャンネルブラシを用いて、炭素繊維シート1の上側面と下側面の塵を除去し、多孔質電極基材として炭素繊維シート1を巻き取った。このとき、各チャンネルブラシ(ブラシ材質:ポリプロピレン繊維、ブラシ繊維径0.05mm、ブラシ長さ:10mm、ブラシ幅550mm)は炭素繊維シート1の流れ方向に直交するように配し、当該直交方向に振動ストローク40mm、周波数3.33Hzで振動させた。各チャンネルブラシの押し込み量は炭素繊維シートの厚み方向に対し、0.1mmとなるように設定した。また、炭素繊維シートの走行速度は10m/minとした。
【0105】
<発塵量の決定>
得られた多孔質電極基材について、上記第1の発塵量及び第2の発塵量を決定したところ、表1、表2の通りとなった。塵の数は、パーティクルカウンター(リオン社製、商品名:KC-52)により計測した。
【0106】
第1の発塵量の決定に際しては、500mm幅の多孔質電極基材を400m分巻き取ったロールを、集塵フードの付随した巻出し機から繰り出し、
図2に示すように集塵フード上を通過させ、巻取機にて全量巻き取った。このロール1本分について、集塵フードから吸引した空気に含まれる塵の数を計測した。
【0107】
第2の発塵量の決定に際しては、第1の発塵量の決定に使用した多孔質電極基材とは別に、前述のようにして多孔質電極基材(幅500mm×長さ400m)を製造し、この多孔質電極基材から、200mm×300mm角の領域を切り出して、第2の発塵量測定用の多孔質電極基材を得た。この多孔質電極基材を
図3に示すように配置し、四角形(第2の発塵量測定用の多孔質電極基材の端部がなす200mm×300mmの四角形)の四辺からそれぞれ50mm以上離れた領域を領域42とした。この領域において、相異なる任意の重ならない5箇所の円形部(直径50mm)で集塵フードから吸引した空気に含まれる塵の数を計測した。5箇所の測定値の平均値を塵の数として決定した。なお、ここでは便宜上、幅500mm×長さ400mの多孔質電極基材から、200mm×300mm角の領域を切り出したが、この切り出しは行っても行わなくてもよい。多孔質電極基材の端部から50mm以上離れた領域にて塵の数の測定を行う理由は、塵の数に関して、端部が特異点となることがあるからである。
【0108】
<多孔質電極基材の撥水処理>
多孔質電極基材用の撥水処理液の作成には、PTFEディスパージョン(商品名:31-JR、三井デュポンフロロケミカル(株)製)と界面活性剤(ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル)および蒸留水を用いた。撥水処理液における固形分濃度が、PTFEは1質量%、界面活性剤は2質量%となるように、これらを混合し、攪拌機を用いて1000rpm、10分間撹拌することによって撥水処理液を作成した。
【0109】
第1の発塵量の決定に使用した多孔質電極基材とは別に、また、第2の発塵量の決定に使用した多孔質電極基材とも別に、前述のようにして多孔質電極基材(幅500mm×長さ400m)を製造し、発電試験用の多孔質電極基材を得た。
【0110】
この多孔質電極基材を上記の撥水処理液に浸漬することによって、多孔質電極基材に撥水処理液を含浸させた。含浸後の多孔質電極基材を2対のニップロールを通過させることで余分な撥水処理液を取り除いたのち、乾燥炉にて乾燥処理することで、撥水処理が施された多孔質電極基材を得た。
【0111】
<ガス拡散層の作製>
デンカブラック(商品名。電気化学工業株式会社製)、イオン交換水、界面活性剤を8:100:0.8の割合(質量比)で混合し、ホモミクサーMARK-II(商品名。プライミクス株式会社製)を用いて、冷却しながら15000rpmで30分間撹拌を行って、カーボンブラック分散液を得た。
【0112】
このカーボンブラック分散液に、PTFEディスパージョン(商品名:31-JR、三井デュポンフロロケミカル(株)製)を添加した。このとき、カーボンブラック分散液に含まれるカーボンブラック1に対して、PTFEディスパージョンの割合(質量比)が0.3となるように添加した。攪拌機によって5000rpmで15分間の撹拌を行い、コーティング液を得た。
【0113】
このコーティング液をスロットダイから吐出し、シート搬送速度1m/分にて撥水処理済みの多孔質電極基材に塗工し、すぐさま、100℃に設定した熱風乾燥炉を用いて20分間乾燥させた。さらに、乾燥後焼結炉にて360℃10間の焼結処理を行ってコーティング層を形成し、ガス拡散層を得た。
【0114】
<ガス拡散電極の作製と発電試験>
触媒担持カーボン(触媒:Pt、触媒担持量:50質量%)及び撥水剤(PTFEディスパージョン。商品名:PTFE-31JR、三井デュポンフロロケミカル社製)、イオン導伝性樹脂溶液(20質量%溶液、デュポン社製、商品名:DE2020)からなる触
媒インクを、ガス拡散層のコーティング層が形成された面上に塗布、乾燥することで、厚さ15μmの触媒層を形成し、ガス拡散電極を得た。得られたガス拡散電極をそれぞれ50mm×50mmサイズに切り出して膜電極接合体(MEA)作製用のガス拡散電極を2枚作製した。2枚のMEA作製用ガス拡散電極で高分子電解質膜(商品名:ナフィオンNR211、ケマーズ社製)を挟み込みホットプレスを実施し、膜電極接合体(MEA)を作製した。MEAを蛇腹状のガス流路を有する2枚のカーボンセパレーターによって挟み、固体高分子型燃料電池(単セル)を形成した。温度を80℃としたこの単セルに、水素ガスと空気を80℃のバブラーを介して供給して、発電したところ、良好な初期電圧が得られた。結果を表1にまとめた(表2にも同じ値を示す)。
【0115】
(実施例2)
抱き角θを30°に変更したこと以外は実施例1と同様にして、多孔質電極基材およびガス拡散層、ガス拡散電極を得た。多孔質電極基材の発塵量、ガス拡散電極の発電試験の結果は表1、表2の通り良好な結果が得られた。
【0116】
(実施例3)
抱き角θを180°に変更したこと以外は実施例1と同様にして、多孔質電極基材およびガス拡散層、ガス拡散電極を得た。多孔質電極基材の発塵量、ガス拡散電極の発電試験の結果は表1、表2の通り良好な結果が得られた。
【0117】
(実施例4)
抱かせるロール11の直径を150mmに変更したこと以外は実施例1と同様にして、多孔質電極基材およびガス拡散層、ガス拡散電極を得た。多孔質電極基材の発塵量、ガス拡散電極の発電試験の結果は表1、表2の通り良好な結果が得られた。
【0118】
(実施例5)
抱かせるロール11の直径を150mmに変更したこと以外は実施例2と同様にして多孔質電極基材およびガス拡散層、ガス拡散電極を得た。多孔質電極基材の発塵量、ガス拡散電極の発電試験の結果は表1、表2の通り良好な結果が得られた。
【0119】
(実施例6)
抱かせるロール11の直径を150mmに変更したこと以外は実施例3と同様にして多孔質電極基材およびガス拡散層、ガス拡散電極を得た。多孔質電極基材の発塵量、ガス拡散電極の発電試験の結果は表1、表2の通り良好な結果が得られた。
【0120】
(実施例7)
炭素繊維シートとして、後述する炭素化を経ない炭素繊維シートを用いたこと以外は実施例1と同様にして多孔質電極基材およびガス拡散層、ガス拡散電極を得た。多孔質電極基材の発塵量、ガス拡散電極の発電試験の結果は表1、表2の通り良好な結果が得られた。炭素化を経ない炭素繊維シートの製造方法は下記のとおりである。
【0121】
実施例1と同様にして、フェノール樹脂含浸炭素繊維紙を作製し、ロールプレスを行ってフェノール樹脂の硬化を行った。硬化したフェノール樹脂を含む炭素繊維紙を、分散液D1に浸漬した。分散液D1は、次に示す成分を水に混合し、ホモジナイザーで1時間攪拌することによって調製した。なお、次に示す各成分の配合量(質量%)は、分散液D1の質量を基準とする。
ケッチェンブラック(ライオン(株)製):4.0質量%、
PTFEディスパージョン(商品名:31-JR、三井-デュポンフロロケミカル(株)製):3.0質量%、
ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル(分散剤):4.5質量%。
【0122】
その後、分散液D1に浸漬した後の炭素繊維紙から、ニップ装置にて余分の分散液D1を取り除いた。その後、この炭素繊維紙を100℃のバッチ乾燥機で20分乾燥させた。
【0123】
ニップ装置にかけた後の炭素繊維紙を、バッチ雰囲気炉にて、大気中、360℃の条件下で1時間熱処理して炭素繊維シートを得た。得られた炭素繊維シートは厚みが200μm、嵩密度が、0.29g/cm3であった。
【0124】
(比較例1)
ロール11に抱かせる処理(工程[1])を施さなかったこと以外は実施例1と同様にして多孔質電極基材およびガス拡散層、ガス拡散電極を得た。得られた多孔質電極基材の発塵量は多く、それに伴い、発電試験における初期電圧の低下が確認された。
【0125】
(比較例2)
抱かせるロール11の直径を10mmに変更したこと以外は実施例2と同様にして多孔質電極基材およびガス拡散層、ガス拡散電極を得た。得られた多孔質電極基材には破断が生じ、発塵量は多く、それに伴い、発電試験における初期電圧の低下が確認された。
【0126】
(比較例3)
抱かせるロール11の直径を400mmに変更したこと以外は実施例2と同様にして多孔質電極基材およびガス拡散層、ガス拡散電極を得た。得られた多孔質電極基材の発塵量は多く、それに伴い、発電試験における初期電圧の低下が確認された。
【0127】
(比較例4)
ロール11に抱かせる処理(工程[1])の代わりに、硬度(デュロメータ タイプA)A60のゴムロールとハードクロムメッキされた金属ロールにて荷重2kNでロールプレス処理を行ったこと以外は実施例1と同様にして多孔質電極基材およびガス拡散層、ガス拡散電極を得た。得られた多孔質電極基材の発塵量は多く、それに伴い、発電試験における初期電圧の低下が確認された。
【0128】
(比較例5)
ロール11に抱かせる処理(工程[1])、回転ブラシをかける工程(工程[2])およびクリーニング処理(工程[3])のいずれも行わなかったこと以外は実施例1と同様にして多孔質電極基材およびガス拡散層、ガス拡散電極を得た。得られた多孔質電極基材の発塵量は多く、それに伴い、発電試験における初期電圧の低下が確認された。
【0129】
【0130】
【0131】
表1、表2に示した結果から分かるように、本発明に係る多孔質電極基材は、燃料電池、レドックスフロー電池に組み込んだ際に、起電力の低下が少ない。
【0132】
例えば、15MW級電池の構成は、(100セル/スタック)×(8スタック/モジュール)×(65モジュール/システム)=52,000セル/システムとなる。従って、例えば1セルあたり0.05Vの起電力低下を防止できれは、15MW級電池であれば、0.05V/セル×52,000セル=2,600V高い起電力を得ることができる。起電力は電池性能に直接的に影響を与え、繰り返しの使用において、常にこの+2,600Vの効果を発現する。
【符号の説明】
【0133】
1 炭素繊維シート
11 炭素繊維シートを抱かせるロール
12、13 ガイドロール
21、22 回転ブラシ
31、32 塵除去装置
41 多孔質電極基材
51、61 集塵フード
53、63 パーティクルカウンター