(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-23
(45)【発行日】2022-05-31
(54)【発明の名称】ポリイミド前駆体組成物、それを用いて製造されたポリイミドフィルム及びフレキシブルデバイス
(51)【国際特許分類】
C08G 73/10 20060101AFI20220524BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20220524BHJP
【FI】
C08G73/10
C08J5/18 CFG
(21)【出願番号】P 2020545677
(86)(22)【出願日】2019-08-19
(86)【国際出願番号】 KR2019010459
(87)【国際公開番号】W WO2020040494
(87)【国際公開日】2020-02-27
【審査請求日】2020-09-14
(31)【優先権主張番号】10-2018-0096804
(32)【優先日】2018-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2019-0100200
(32)【優先日】2019-08-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ユン、チョルミン
(72)【発明者】
【氏名】ホン、イエ ジ
【審査官】平井 裕彰
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/148441(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/080222(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/122198(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G73/00~73/26
C08L79/00~79/08
C08K 5/00~ 5/59
C08J 5/18
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1の構造を有するジアミンとアミン末端メチルフェニルシロキサンオリゴマーとを含むジアミン成分と、
2種以上のテトラカルボン酸二無水物を含む二無水物成分と、
を含む
重合成分の重合生成物を含み、
前記重合成分は、二無水物成分とジアミン成分とを1:1.01~1.05当量比で含む、ポリイミド前駆体組成物であって、
前記二無水物成分が、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)とピロメリット酸二無水物(PMDA)とを
5:5~7:3のmol比で含み、
前記ポリイミド前駆体組成物は、25℃分配係数LogPが、0.01~3である有機溶媒を含む、
ポリイミド前駆体組成物:
[化学式1]
【化1】
。
【請求項2】
前記アミン末端メチルフェニルシロキサンオリゴマーが、下記化学式2の構造を有する
請求項1に記載のポリイミド前駆体組成物:
[化学式2]
【化2】
前記化学式2において、p及びqは、モル分率であって、p+q=100である時、
pは、70~90、
qは、10~30である。
【請求項3】
前記アミン末端メチルフェニルシロキサンオリゴマーを前記重合成分の総重量を基準に5~30重量%含む
請求項1または2に記載のポリイミド前駆体組成物。
【請求項4】
前記ポリイミド前駆体組成物の粘度が2000cP以上である
請求項1から3のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体組成物。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体組成物のイミド化物を含む
ポリイミドフィルム。
【請求項6】
前記ポリイミドフィルムのヘイズが、1以下である
請求項5に記載のポリイミドフィルム。
【請求項7】
前記ポリイミドフィルムの
モジュラスが2.2GPa以下、
引張強度が80MPa以下、
延伸率が28%以上である
請求項5または6に記載のポリイミドフィルム。
【請求項8】
前記ポリイミドフィルムのガラス転移温度は、380~410℃であり、
350℃で60分間保持した後の重量減少率は、0.037%以下であり、
380℃で60分間保持した後の重量減少率は、0.12%以下である
請求項5から7のいずれか1項に記載のポリイミドフィルム。
【請求項9】
前記ポリイミドフィルムの
残留応力が25MPa以下であり、
反り度が25μm以下である
請求項5から8のいずれか1項に記載のポリイミドフィルム。
【請求項10】
請求項5から9のいずれか1項に記載のポリイミドフィルムを基板として含む
フレキシブルデバイス。
【請求項11】
請求項1から4のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体組成物をキャリア基板上に塗布する段階と、
前記ポリイミド前駆体組成物をイミド化することにより、ポリイミドフィルムを形成する段階と、
前記ポリイミドフィルム上に素子を形成する段階と、
前記素子が形成されたポリイミドフィルムを前記キャリア基板から剥離する段階と、
を含む
フレキシブルデバイスの製造方法。
【請求項12】
前記フレキシブルデバイスの製造方法が、LTPS(low temperature polysilicon)薄膜製造工程、ITO薄膜製造工程及びOxide薄膜製造工程からなるグループから選択される1つ以上の工程を含む
請求項11に記載のフレキシブルデバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2018年8月20日付の大韓民国特許出願10-2018-0096804号と2019年8月16日付の大韓民国特許出願10-2019-0100200号とに基づいた優先権の利益を主張し、当該大韓民国特許出願の文献に開示されたあらゆる内容は、本明細書の一部として含まれる。
【0002】
本発明は、熱安定性に優れたポリイミドフィルムを製造するためのポリイミド前駆体組成物及びそれを用いて製造されたポリイミドフィルムとフレキシブルデバイスとに関する。
【背景技術】
【0003】
最近、ディスプレイ分野で製品の軽量化及び小型化が重要視されている。ガラス基板の場合、重くてよく割れ、連続工程が難しいという限界があるために、ガラス基板を代替して、軽くて柔軟であり、連続工程が可能な長所を有するプラスチック基板を携帯電話、ノート型パソコン、PDAなどに適用するための研究が活発に進められている。
【0004】
特に、ポリイミド(PI)樹脂は、合成が容易であり、薄膜フィルムを作ることができ、硬化のための架橋基が不要であるという長所を有しているために、最近、電子製品の軽量及び精密化の現象でLCD、PDPなど半導体材料に集積化素材として多く適用されている。また、軽くて柔軟な性質を有するフレキシブルディスプレイ基板(flexible plastic display board)にPI樹脂を使用しようとする研究が活発に進められている。
【0005】
ポリイミド樹脂をフィルム化して製造したものが、ポリイミド(PI)フィルムであり、一般的に、ポリイミドフィルムは、芳香族ジアンヒドリドと芳香族ジアミンまたは芳香族ジイソシアネートとを溶液重合してポリアミド酸溶液を製造した後、それをシリコンウェーハやガラスなどにコーティングし、熱処理によって硬化(イミド化)させる方法で製造される。
【0006】
高温工程を伴うフレキシブルデバイスの製造工程は、高温工程を伴うが、特に、LTPS(low temperature polysilicon)工程を使用するOLED(organic light emitting diode)デバイスの場合、工程温度が500℃に近接する。しかし、このような温度では、耐熱性に優れたポリイミドであっても、加水分解による熱分解が起こりやすい。したがって、ポリイミドフィルムを使用してフレキシブルデバイスを製造するためには、優れた耐熱性及び機械的強度を保有しながらも、ヘイズが低い透明ポリイミドフィルムの開発が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、高温での耐熱性が向上したポリイミドフィルムを製造することができるポリイミド前駆体用組成物を提供するところにある。
【0008】
本発明が解決しようとする他の課題は、前記ポリイミド前駆体組成物から製造されたポリイミドフィルムを提供するところにある。
【0009】
本発明が解決しようとするさらに他の課題は、前記ポリイミドフィルムを含むフレキシブルデバイス及びその製造工程を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の課題を解決するために、下記化学式1のジアミンとアミン末端メチルフェニルシロキサンオリゴマー(amine-terminated methylphenyl siloxane oligomer)とを含むジアミン成分;及び2種以上のテトラカルボン酸二無水物を含む二無水物成分;を含む重合成分の重合生成物を含み、前記重合成分は、前記二無水物成分と前記ジアミン成分とを1:1.01~1.05当量比で含むものであるポリイミド製造用組成物を提供する。
【0011】
【0012】
一実施例によれば、前記アミン末端メチルフェニルシロキサンオリゴマーが、下記化学式2の構造を有するものである。
【0013】
【0014】
前記式において、p及びqは、モル分率であって、p+q=100である時、pは、70~90、qは、10~30である。
【0015】
一実施例によれば、前記二無水物成分が、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(biphenyltetracarboxylic dianhydride、BPDA)及びピロメリット酸二無水物(pyromellitic dianhydride、PMDA)を含むものである。
【0016】
一実施例によれば、前記二無水物成分は、BPDAとPMDAとを4:6~8:2のmol比で含むものである。
【0017】
一実施例によれば、前記アミン末端メチルフェニルシロキサンオリゴマーを前記全体重合成分の総重量を基準に5~30重量%含むものである。
【0018】
一実施例によれば、前記ポリイミド前駆体組成物が溶媒を含み、粘度が2000cP以上である。
【0019】
一実施例によれば、前記溶媒は、25℃分配係数LogPが0.01~3である有機溶媒である。
【0020】
本発明は、また、前述したポリイミド前駆体組成物のイミド化生成物を含むポリイミドフィルムを提供する。
【0021】
一実施例によれば、前記ポリイミドフィルムのヘイズが、1以下である。
【0022】
一実施例によれば、前記ポリイミドフィルムのモジュラスが2.2GPa以下、引張強度が80MPa以下、延伸率が28%以上である。
【0023】
一実施例によれば、前記ポリイミドフィルムのガラス転移温度は、380~410℃であり、350℃で60分間保持した後の重量減少率は、0.037%以下であり、380℃で60分間保持した後の重量減少率は、0.12%以下である。
【0024】
一実施例によれば、前記ポリイミドフィルムの残留応力が25MPa以下であり、反り度が25μm以下である。
【0025】
本発明のさらに他の課題を解決するために、前記ポリイミド用組成物をキャリア基板上に塗布する段階;前記ポリイミド用組成物をイミド化することにより、ポリイミドフィルムを形成する段階;前記ポリイミドフィルム上に素子を形成する段階;及び前記素子が形成されたポリイミドフィルムを前記キャリア基板から剥離する段階;を含むフレキシブルデバイスの製造工程を提供する。
【0026】
一実施例によれば、前記製造工程が、LTPS薄膜製造工程、ITO薄膜製造工程及びOxide薄膜製造工程から選択される1つ以上の工程を含みうる。
【発明の効果】
【0027】
本発明は、ジアミノジフェニルスルホン(diaminodiphenyl sulfone、DDS)及びアミン末端メチルフェニルシロキサンオリゴマーを含むジアミン成分と、2種以上のテトラカルボン酸二無水物を含む二無水物成分と、を重合成分として、全体テトラカルボン酸二無水物と全体ジアミンとを1:1.01~1.05当量比で反応させることにより、重合度を増加させて、耐熱性に優れながらも、ヘイズが低い透明なポリイミドフィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は、多様な変換を加え、さまざまな実施例を有することができるので、特定実施例を図面に例示し、詳細な説明で詳細に説明する。しかし、これは、本発明を特定の実施形態に対して限定しようとするものではなく、本発明の思想及び技術範囲に含まれる、あらゆる変換、均等物または代替物を含むものと理解しなければならない。本発明を説明するに当って、関連した公知技術についての具体的な説明が、本発明の要旨を不明にする恐れがあると判断される場合、その詳細な説明を省略する。
【0029】
本明細書において、あらゆる化合物または有機基は、特別な言及がない限り、置換または非置換のものである。ここで、「置換」とは、化合物または有機基に含まれた少なくとも1つの水素がハロゲン原子、炭素数1~10のアルキル基、ハロゲン化アルキル基、炭素数3~30のシクロアルキル基、炭素数6~30のアリール基、ヒドロキシ基、炭素数1~10のアルコキシ基、カルボン酸基、アルデヒド基、エポキシ基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、スルホン酸基、及びこれらの誘導体からなる群から選択される置換基に置き換えられたことを意味する。
【0030】
本発明は、下記化学式1のジアミン及びアミン末端メチルフェニルシロキサンオリゴマーを含むジアミン成分;及び2種以上のテトラカルボン酸二無水物を含む二無水物成分;を含む重合成分の重合生成物を含むポリイミド前駆体組成物であって、前記重合成分は、酸二無水物成分とジアミン成分とを1:1.01~1.05当量比で含むものであるポリイミド前駆体組成物を提供する。
【0031】
【0032】
前記化学式1の化合物は、例えば、4,4-(ジアミノジフェニル)スルホン(以下、4,4-DDS)、3,4-(ジアミノジフェニル)スルホン(以下、3,4-DDS)及び3,3-(ジアミノジフェニル)スルホン(以下、3,3-DDS)からなる群から選択される1つ以上である。
【0033】
本発明は、化学式1のジアミンとアミン末端メチルフェニルシロキサンオリゴマーとを含むジアミン成分を2種以上のテトラカルボン酸二無水物を含む二無水物成分と反応させて、重合生成物であるポリアミド酸を製造するに当って、酸二無水物成分とジアミン成分との当量比を1:1.01~1.05、望ましくは、1:1.01~1.03の比率で反応させることにより、ポリアミド酸の重合度を増大させることができる。その結果、二無水物成分とジアミン成分との当量比が同一であるか、二無水物成分がジアミン成分に比べて過量で反応させて得たポリアミド酸で製造されるポリイミドフィルムよりも熱安定性を向上させうる。
【0034】
前記当量条件でポリアミド酸の重合度がより向上し、これは、重合溶液の粘度上昇と確認される。例えば、前記ポリイミド前駆体組成物の重合溶液を含む組成物状態で粘度が2,000cP以上であり、より望ましくは、2,400cP以上である。また、前記ポリイミド前駆体溶液の組成物の粘度は、15,000cP以下、望ましくは、12,000cP以下、より望ましくは、10,000cP以下の粘度を有するように調節することが望ましい。ポリイミド前駆体組成物の粘度が過度に高い場合、ポリイミドフィルム加工時に、脱泡の効率性が低下することにより、工程上の効率だけではなく、製造されたフィルムは、気泡の発生によって表面粗度が不良であって、電気的、光学的、機械的特性が低下する。
【0035】
また、本発明によるポリイミド前駆体組成物は、重合溶液を含む溶液状態でヘイズ(白濁度)がほとんど表われず、これにより製造されたポリイミドフィルムのヘイズは、1以下の非常に低く、望ましくは、0.5以下のヘイズ値を有する透明なポリイミドフィルムを提供することができる。
【0036】
シロキサンオリゴマーをジアミン成分として使用してポリイミドフィルムを製造する場合、気孔(pore)が発生する問題があるが、このような気孔は、ディスプレイ製造工程でポリイミドフィルム上に形成される無機膜にクラック(crack)を発生させる。
【0037】
本発明は、ポリアミド酸の製造において、重合成分としてアミン末端メチルフェニルシロキサンオリゴマーと共に化学式1のジアミノジフェニルスルホン(DDS)をジアミン成分として共に使用することにより、シロキサンオリゴマー構造を含むポリイミドフィルム製造時に発生する気孔の比率を著しく減少させうる。
【0038】
アミン末端シロキサンオリゴマー構造をジアミン成分として使用してポリイミドフィルムを製造する場合、高温硬化工程でシロキサンオリゴマー鎖の切れと再配列とが発生し、このような過程によってポリイミドフィルムの内部に気孔が発生する恐れがある。この際、モジュラスが高い構造を有するポリイミド、すなわち、剛直な(rigid)構造を有するポリイミドでは、高温での流動性(mobility)が高くなくて、発生した気孔が外部に抜け出ることができず、フィルムの内部に残って、フィルム内の気孔の比率が高くなる。
【0039】
本発明によるポリイミドフィルムは、ジアミノジフェニルスルホン(DDS)のように柔軟な構造を含むジアミンを共に使用することにより、高温での流動性が高くて、発生した気孔がフィルム形成過程で外部に抜け出ることができ、これにより、結果として、フィルムの内部に存在する気孔の比率が著しく減少する。
【0040】
この際、気孔分布率は、次のように測定される。
【0041】
ポリイミドフィルムをFIB-SEM(Focused Ion Beam Scanning Electron Microscopes)で測定した100,000倍率イメージ(image)を100mmx80mmに固定した後、2mmx2mmに区域を細分化して、総2000個領域を基準に気孔が存在する領域の比率を分布率とした。
【0042】
例えば、気孔が存在する領域が2個(2ea)存在する場合、気孔分布率は、次のように計算される。
【0043】
気孔分布率(%)=2/2000x100=0.1%
【0044】
一実施例によれば、前記アミン末端メチルフェニルシロキサンオリゴマーは、下記化学式2の構造を有するものである。
【0045】
【0046】
前記式において、p及びqは、モル分率であって、p+q=100である時、pは、70~90、qは、10~30である。
【0047】
アミン末端メチルフェニルシロキサンオリゴマーのようなシロキサン構造を含むポリイミド鎖は、極性を示し、シロキサン構造を含まないポリイミド鎖と極性の差による相分離が発生し、これにより、シロキサン構造がポリイミドマトリックスに不均一に分布される。この場合には、シロキサン構造によるポリイミドの強度の向上及びストレス緩和のような物性の向上効果を奏し得ず、かつ相分離によってヘイズが増加して、フィルムの透明性が低下する。特に、シロキサンオリゴマー構造を含むジアミンが高分子量を有する場合に、これにより製造されたポリイミド鎖は、その極性がさらに克明に表われて、ポリイミド鎖間の相分離現象がより克明に表われる。このような問題を避けるために、低分子量のシロキサンオリゴマーを使用する場合には、ストレス緩和などの効果を得るためには、多量のシロキサンオリゴマーを添加しなければならないが、この場合には、低い温度でTgが発生するなどの問題が発生して、ポリイミドフィルムの物理的特性が低下する。
【0048】
これにより、本発明は、アミン末端メチルフェニルシロキサンオリゴマーと共に化学式1のジアミンを使用することにより、ポリイミドマトリックスに相分離なしにより均一にシロキサンオリゴマー構造が分布される。
【0049】
本発明による組成物の製造に使用するアミン末端メチルフェニルシロキサンオリゴマーの分子量は、4000g/mol以上である。一実施例によれば、前記分子量は、5000g/mol以下、または4500g/mol以下である。ここで、分子量は、重量平均分子量を意味し、分子量の計算は、NMR分析または酸塩基適正法を使用してアミン当量を計算する通常の方法を使用することができる。
【0050】
前記アミン末端メチルフェニルシロキサンオリゴマーの分子量が4000g/mol未満である場合には、耐熱性が低下し、結果として、製造されたポリイミドフィルムのガラス転移温度(Tg)が低下するか、熱膨張係数が過度に増加する。
【0051】
一実施例によれば、アミン末端メチルフェニルシロキサンオリゴマーは、重合生成物または前記重合成分(ジアミン成分及び酸二無水物成分)の総重量を基準に5~30重量%であり、望ましくは、10~25重量%、より望ましくは、10~20重量%で添加されるものである。
【0052】
アミン末端メチルフェニルシロキサンオリゴマーが過多に添加されれば、結果として、製造されるポリイミドフィルムのモジュラス(modulus)のような機械的特性が低下し、膜強度が減少することにより、工程上でフィルムが破れるなどの物理的損傷が発生する恐れがある。また、アミン末端メチルフェニルシロキサンオリゴマーが過多に添加される場合、前記シロキサン構造を有する高分子に由来するTgが350℃以下の低い温度で表われて、350℃以上の無機膜蒸着工程時に、高分子の流動現象によってフィルム表面にしわが発生し、その結果、ポリイミドフィルム上に形成された無機膜にクラックが発生する恐れがある。
【0053】
一実施例によれば、アミン末端メチルフェニルシロキサンオリゴマーは、全体ジアミン成分を基準に1~20mol%に含まれ、望ましくは、1~10mol%または1~5mol%に含まれる。
【0054】
本発明によれば、ポリイミドマトリックス内に分布されているアミン末端メチルフェニルシロキサンオリゴマーのドメインサイズが、ナノサイズ、例えば、1~50nm、または5~40nm、または10~30nmであって、連続相を有するので、耐熱性と機械的物性とを保持しながら残留応力を最小化することができる。このような連続相を有さない場合には、残留応力の減少効果はあるが、耐熱性と機械的物性とが著しく減少して、フレキシブルディスプレイの製造工程に利用しにくい。アミン末端メチルフェニルシロキサンオリゴマーを含む部分(ドメイン)が、ポリイミドマトリックス内に連続相で連結されていることが望ましいが、ここで、連続相とは、ナノサイズのドメインが均一に分布している形状を意味する。
【0055】
ここで、アミン末端メチルフェニルシロキサンオリゴマーのドメインは、アミン末端メチルフェニルシロキサンオリゴマーが分布する領域を意味し、そのサイズは、当該領域を取り囲む円の最大直径を指称する。
【0056】
本発明によれば、高分子量を有するアミン末端メチルフェニルシロキサンオリゴマーを使用するにも拘らず、ポリイミドマトリックス内で相分離なしに均一に連続相に分布されて、ヘイズ特性が低下して、より透明な特性を有するポリイミドフィルムが得られるだけではなく、ポリイミドフィルムの機械的強度及びストレス緩和の効果をより効率的に向上させうる。このような特性から、本発明による組成物は、熱的特性及び光学的特性だけではなく、コーティング硬化後、基板が曲がる現象が減少した平らなポリイミドフィルムを提供することができる。
【0057】
本発明によるポリイミド前駆体組成物は、二無水物成分として2種以上のテトラカルボン酸二無水物を含むが、この際、使われるテトラカルボン酸二無水物としてビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)及びピロメリット酸二無水物(PMDA)を共に含んでいることが望ましい。また、BPDAとPMDAとを4:6~8:2または5:5~7:3のmol比で含むことが望ましい。
【0058】
他の実施例によれば、酸二無水物成分としてBPDA及びPMDAの以外に、他のテトラカルボン酸二無水物をさらに含みうる。例えば、下記化学式3aから化学式3hの構造から選択される4価の有機基を含むテトラカルボン酸二無水物をさらに含みうる。
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
化学式3aから化学式3hにおいて、R11からR24は、それぞれ独立して-F、-Cl、-Br及び-Iからなる群から選択されるハロゲン原子、ヒドロキシル基(-OH)、チオール基(-SH)、ニトロ基(-NO2)、シアノ基、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~4のハロゲノアルコキシ、炭素数1~10のハロゲノアルキル、炭素数6~20のアリール基から選択される置換基であり、a1は、0~2の整数、a2は、0~4の整数、a3は、0~8の整数、a4及びa5は、それぞれ独立して0~3の整数、そして、a7及びa8は、それぞれ独立して0~3の整数であり、a10及びa12は、それぞれ独立して0~3の整数、a11は、0~4の整数、a15及びa16は、それぞれ独立して0~4の整数、a17及びa18は、それぞれ独立して0~4の整数であり、a6、a9、a13、a14、a19、a20は、それぞれ独立して0~3の整数であり、nは、1~3の整数であり、A11からA16は、それぞれ独立して単一結合、-O-、-CR'R"-、-C(=O)-、-C(=O)O-、-C(=O)NH-、-S-、-SO2-、フェニレン基、及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるものであり、この際、前記R'及びR"は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1~10のアルキル基、及び炭素数1~10のフルオロアルキル基からなる群から選択されるものである。
【0068】
ここで、化学式に表示された*は、結合部位を表示するものである。
【0069】
また、本発明によるポリイミド前駆体組成物は、ジアミン成分として化学式1のジアミン及びアミン末端メチルフェニルシロキサンオリゴマーの以外に、他のジアミンをさらに含みうる。例えば、下記化学式4の構造を有するジアミンをさらに含みうる。
【0070】
【0071】
化学式4において、R31及びR32は、それぞれ独立して-F、-Cl、-Br及び-Iからなる群から選択されるハロゲン原子、ヒドロキシル基(-OH)、チオール基(-SH)、ニトロ基(-NO2)、シアノ基、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~4のハロゲノアルコキシ、炭素数1~10のハロゲノアルキル、炭素数6~20のアリール基から選択される置換体であり、望ましくは、ハロゲン原子、ハロゲノアルキル基、アルキル基、アリール基及びシアノ基から選択される置換基である。例えば、前記ハロゲン原子は、フルオロ(-F)であり、ハロゲノアルキル基は、炭素数1~10のフルオロアルキル基であって、フルオロメチル基、パーフルオロエチル基、トリフルオロメチル基などから選択されるものである。前記アルキル基は、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基から選択されるものである。前記アリール基は、フェニル基、ナフタレニル基から選択されるものである。より望ましくは、フルオロ原子及びフルオロアルキル基などのフルオロ系置換基である。
【0072】
この際、「フルオロ系置換基」とは、「フルオロ原子置換基」だけではなく、「フルオロ原子を含有する置換基」をいずれも意味するものである。
【0073】
Qは、単一結合、-O-、-CR'R"-、-C(=O)-、-C(=O)O-、-C(=O)NH-、-S-、-SO2-、フェニレン基、及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるものであり、この際、前記R'及びR"は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1~10のアルキル基、及び炭素数1~10のフルオロアルキル基からなる群から選択されるものである。
【0074】
一実施例によれば、化学式1のジアミン及びアミン末端メチルフェニルシロキサンオリゴマーを含むジアミン成分とBPDA及びPMDAを含むテトラカルボン酸二無水物成分とを重合成分として、有機溶媒中で重合して、ポリアミド酸を含むポリイミド前駆体組成物を製造することができる。
【0075】
前記ポリイミド製造用組成物は、接着増進剤をさらに含み、接着増進剤は、重合生成物であるポリアミド酸100重量部に比べて、0.05~3重量部、望ましくは、0.05~2重量部で含まれる。
【0076】
一実施例によれば、前記接着増進剤は、下記化学式5または化学式6の構造を含むものである。
【0077】
【0078】
【0079】
前記化学式5及び化学式6において、Q1は、炭素数1~30の4価の有機基またはRa-L-Rbで表現される4価の有機基であって、Ra及びRbは、それぞれ独立して置換または非置換の炭素数4~10の脂肪族、炭素数6~24の芳香族、炭素数3~24のサイクリック脂肪族から選択される1価の有機基であり、Lは、単一結合、-O-、-CR'R"-、-C(=O)-、-C(=O)O-、-C(=O)NH-、-S-、-SO2-、フェニレン基、及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるものであり、この際、前記R'及びR"は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1~10のアルキル基、及び炭素数1~10のフルオロアルキル基からなる群から選択されるものであり、より望ましくは、Lは、-SO2-、-CO-、-O-、C(CF3)2から選択されるものであり、Q2は、炭素数1~30の2価の有機基またはRc-L-Rdで表現される2価の有機基であって、Rc及びRdは、それぞれ独立して置換または非置換の炭素数4~10の脂肪族、炭素数6~24の芳香族、炭素数3~24のサイクリック脂肪族から選択される1価の有機基であり、Lは、単一結合、-O-、-CR'R"-、-C(=O)-、-C(=O)O-、-C(=O)NH-、-S-、-SO2-、フェニレン基、及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるものであり、この際、前記R'及びR"は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1~10のアルキル基、及び炭素数1~10のフルオロアルキル基からなる群から選択されるものであり、R1及びR3は、それぞれ独立して炭素数1~5のアルキル基であり、R2及びR4は、それぞれ独立して水素原子または炭素数1~5のアルキル基であり、より望ましくは、エチル基であり、a及びbは、それぞれ独立して1~3の整数である。
【0080】
例えば、前記Q1は、下記化学式5aから化学式5sから選択される4価の有機基であるが、これに限定するものではない。
【0081】
【0082】
前記化学式6において、Q2は、下記化学式6aから化学式6sから選択される2価の有機基であるが、これに限定するものではない。
【0083】
【0084】
前記化学式5または化学式6の構造を含む接着増進剤は、無基層との接着力を著しく向上させるだけではなく、ポリアミド酸との反応性が低い。一般的な接着力向上添加剤であるICTEOS、APTEOSのようなアルコキシシラン系添加剤は、ポリアミド酸との反応性が高くて、ポリアミド酸と添加剤との副反応によって組成物の粘度上昇が招かれる。しかし、前記化学式5及び化学式6の接着増進剤は、ポリアミド酸との副反応による粘度上昇を減少させて、組成物の常温貯蔵安定性が向上する。
【0085】
また、従来のフレキシブルディスプレイ基板として使われる高耐熱性ポリイミドは、キャリア基板として使われるガラス基板または無機層が蒸着されているガラス基板との接着性を高めるために、ガラス基板上に接着増進剤を塗布し、製膜する方法を使用した。しかし、このような方法は、接着増進剤の塗布工程で異物が発生するか、追加的なコーティング工程が要求されて、工程上経済性が低い限界があった。また、ポリイミド前駆体組成物に接着増進剤を直接添加する場合にも、アミノ基がポリアミド酸のカルボン酸と塩とを形成して析出されて、接着性が低下するという問題があった。
【0086】
また、前記化学式5及び化学式6と類似した構造を有する接着増進剤を合成して、ポリイミド前駆体に直接添加して接着性を向上させうる先行技術もあるが、比較的剛直な構造を有する酸無水物を使用するために、硬化後、接着増進剤の部分で位相差遅延現象が表われて、結果として、製造されたポリイミドフィルムの厚さ方向の位相差値が上昇する結果を招くという問題点がある。また、ODPA(4,4'-オキシジフタル酸無水物)のような柔軟な構造を含む接着増進剤を使用する場合には、構造の柔軟性によって位相差値は高くならないが、Tgが低くなる傾向がある。
【0087】
本発明の望ましい実施例によれば、接着増進剤がフルオレン(fluorene)骨格を有することにより、接着増進の効果を最大限保持しながらも、フルオレン骨格によって分子間自由体積が発生して、パッキン密度(packing density)に影響を与えず、等方性の特性を示すことができる。また、芳香族を多く含む構造的特徴によって耐熱性も優れている。
【0088】
すなわち、ポリイミド前駆体組成物に接着増進剤を混合して使用しても、析出されず、異物の発生を最小化することができて、基板との接着力に優れながらも、結果として、製造されるポリイミドフィルムの光学的物性である厚さ方向の位相差に影響を与えず、等方性ポリイミドフィルムを提供することができる。
【0089】
本発明によるポリイミド前駆体組成物を得るために、ジアミン成分と酸二無水物成分とを重合反応させる時に使用可能な有機溶媒としては、γ-ブチロラクトン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノンなどのケトン類;トルエン、キシレン、テトラメチルベンゼンなどの芳香族炭化水素類;エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテルなどのグリコールエーテル類(セロソルブ);酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、カルビトール、ジメチルプロピオンアミド(dimethylpropionamide、DMPA)、ジエチルプロピオンアミド(diethylpropionamide、DEPA)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジエチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジエチルホルムアミド(DEF)、N-メチルピロリドン(NMP)、N-エチルピロリドン(NEP)、N,N-ジメチルメトキシアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ピリジン、ジメチルスルホン、ヘキサメチルホスホルアミド、テトラメチルウレア、N-メチルカプロラクタム、テトラヒドロフラン、m-ジオキサン、P-ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、ビス(2-メトキシエチル)エーテル、1,2-ビス(2-メトキシエトキシ)エタン、ビス[2-(2-メトキシエトキシ)]エーテル、エクアミド(Equamide)M100、エクアミドB100などであり、これらのうち、1種単独または2種以上の混合物が使われる。
【0090】
望ましくは、25℃での分配係数(LogP値)が正数である溶媒であり、前記有機溶媒は、沸点が300℃以下であり、より具体的に、分配係数LogP値は、0.01~3、または0.01~2、または0.1~2である。
【0091】
前記分配係数は、ACD/Labs社のACD/Percepta platformのACD/LogP moduleを使用して計算され、ACD/LogP moduleは、分子の2D構造を用いてQSPR(Quantitative Structure-Property Relationship)方法論の基盤のアルゴリズムを利用する。
【0092】
代表的な溶媒の25℃での分配係数(LogP値)は、次の通りである。
【0093】
【0094】
前記分配係数(LogP)正数である溶媒が、ジメチルプロピオンアミド(DMPA)、ジエチルプロピオンアミド(DEPA)、N,N-ジエチルアセトアミド(N,N-diethylacetamide、DEAc)、N,N-ジエチルホルムアミド(N,N-diethylformamide、DEF)、N-エチルピロリドン(N-ethylpyrrolidone、NEP)から選択される1つ以上である。望ましくは、アミド系溶媒である。
【0095】
テトラカルボン酸二無水物成分をジアミン成分と反応させる方法は、溶液重合など通常のポリイミド前駆体重合方法によって実施し、例えば、ジアミン成分を有機溶媒に溶解させた後、テトラカルボン酸二無水物を添加して重合反応させることができる。重合反応は、不活性ガスまたは窒素気流下に実施され、無水条件で実行可能である。
【0096】
また、重合反応時に、反応温度は、-20~80℃、望ましくは、0~80℃で実施される。反応温度が過度に高い場合、反応性が高くなって、分子量が過度に大きくなり、この場合、前駆体組成物の粘度が過度に上昇することにより、工程上不利である。
【0097】
本発明によるポリイミド前駆体組成物は、重合生成物であるポリアミド酸が有機溶媒中に溶解された溶液の形態である。例えば、重合成分を有機溶媒中で重合反応させた場合、組成物は、反応溶液それ自体でも良く、この反応溶液に他の溶媒を添加して希釈したものでも良い。また、重合生成物を固形粉末として得た場合には、それを有機溶媒に溶解させて溶液にしたものであっても良い。例えば、重合反応時には、LogPが正数である有機溶媒を使用し、以後に混合される有機溶媒としては、LogPが負数である有機溶媒を使用することができる。
【0098】
一実施例によれば、ポリイミド製造用組成物は、重合生成物(固形分)の含量が8~30重量%になるように、溶媒を添加して含量を調節し、望ましくは、10~25重量%、より望ましくは、10~20重量%に調節することができる。
【0099】
また、前記製造方法によって製造されたポリアミド酸溶液にフィルム形成工程時の塗布性などの工程性を考慮して、前記組成物が適切な粘度を有させる量で固形分含量を調節することが望ましい。
【0100】
一実施例によれば、前記ポリイミド製造用組成物の粘度は、2,000cP以上、望ましくは、2,400cP以上である。
【0101】
重合生成物であるポリアミド酸またはポリイミド前駆体の分子量は、10,000~200,000g/mol、あるいは20,000~100,000g/mol、あるいは30,000~100,000g/molの重量平均分子量を有するものである。また、分子量分布(Mw/Mn)は、1.1~2.5であることが望ましい。重量平均分子量Mw及び水平均分子量Mnは、ゲルパーミエションクロマトグラフィーを使用し、標準ポリスチレン換算によって求められる。
【0102】
ポリイミド前駆体の重量平均分子量または分子量分布が、前記範囲を外れる場合、フィルムの形成が難しいか、または透過度、耐熱性及び機械的特性など、結果として、製造されるポリイミドフィルムの特性が低下する恐れがある。
【0103】
引き続き、前記重合反応の結果として収得されたポリイミド前駆体をイミド化させることにより、ポリイミドフィルムを製造することができる。
【0104】
一実施例によれば、前記ポリイミド前駆体組成物を基板上に塗布する段階;及び前記塗布された組成物を熱処理してイミド化する段階;を経てポリイミドフィルムを製造することができる。
【0105】
この際、前記基板としては、ガラス、金属基板またはプラスチック基板などが特に制限なしに使われ、そのうちでも、ポリイミド前駆体に対するイミド化及び硬化工程のうち、熱及び化学的安定性に優れ、別途の離型剤処理なしでも、硬化後、形成されたポリイミドフィルムを損傷なしに容易に分離されるガラス基板が望ましい。
【0106】
また、前記塗布工程は、通常の塗布方法によって実施され、具体的には、スピンコーティング法、バーコーティング法、ロールコーティング法、エアナイフ法、グラビア法、リバースロール法、キスロール法、ドクターブレード法、スプレー法、浸漬法またはブラシ法などが用いられうる。そのうちでも、連続工程が可能であり、ポリイミドのイミド化率を増加させることができるキャスティング法によって実施されることがより望ましい。
【0107】
前記ポリイミド前駆体組成物は、最終的に製造されるポリイミドフィルムがディスプレイ基板用として適した厚さを有させる厚さの範囲で基板上に塗布されうる。具体的には、10~30μmの厚さにする量で塗布されうる。
【0108】
また、前記ポリイミド前駆体組成物塗布後、硬化工程に先立って、ポリイミド前駆体組成物内に存在する溶媒を除去するための乾燥工程が選択的にさらに実施される。
【0109】
前記乾燥工程は、通常の方法によって実施され、具体的に、140℃以下、あるいは80~140℃の温度で実施される。乾燥工程の実施温度が80℃未満であれば、乾燥工程が長くなり、140℃を超過する場合、イミド化が一部進行して、均一な厚さのポリイミドフィルムの形成が難しい。
【0110】
乾燥工程に後続して、ポリイミド前駆体組成物を基板に塗布し、300~500℃、望ましくは、320~480℃の温度範囲で熱処理してイミド化及び硬化させて、ポリイミドフィルムを形成しうる。熱処理工程は、前記温度範囲内で多段階加熱処理で進行しても、20~70分間進行してもよく、望ましくは、20~60分間進行しうる。熱処理は、IRオーブン、熱風オーブンやホットプレートを用いて実施されるが、これに限定されるものではない。
【0111】
以後、基板上に形成されたポリイミドフィルムを通常の方法によって基板から剥離することにより、ポリイミドフィルムが製造可能である。
【0112】
前記のように製造されたポリイミドフィルムは、モジュラス(弾性率)が2.2GPa以下であり、例えば、0.1~2GPaであり、引張強度は80MPa以下、望ましくは、50~80MPaであり、延伸率は28%以上である。前記モジュラスが0.1GPa未満であれば、フィルムの剛性が低くて、外部衝撃に容易に割れやすく、前記弾性率が2.2GPaを超過すれば、剛性は優れるが、十分な柔軟性を確保することができないという問題が発生する。
【0113】
また、前記ポリイミドフィルムの残留応力が25MPa以下であり、反り度が25μm以下である。
【0114】
また、本発明によるポリイミドフィルムは、ガラス転移温度(Tg)は380~410℃である。
【0115】
また、本発明によるポリイミドフィルムは、温度変化による熱安定性に優れ、例えば、100~350℃の温度範囲で加熱及び冷却工程をn+1回経た後の熱膨張係数が-10~100ppm/℃の値を有し、望ましくは、-7~70ppm/℃の値、より望ましくは、63ppm/℃以下である。
【0116】
また、本発明によるポリイミドフィルムは、温度上昇及び加熱による熱分解特性が改善され、例えば、350℃で60分間保持した後の重量減少率は、0.037%以下であり、380℃で60分間保持した後の重量減少率は、0.12%以下である。
【0117】
また、本発明によるポリイミドフィルムは、厚さ方向位相差(Rth)が厚さ方向の位相差値(Rth)が、100nm以下、望ましくは、約-100~+100nmの値を有することにより、前記厚さ方向の位相差の範囲でディスプレイに適した視感性を発現することができる。
【0118】
一実施例によれば、前記ポリイミドフィルムは、キャリア基板との接着力が5gf/in以上であり、望ましくは、10gf/in以上である。
【0119】
また、本発明は、化学式1のジアミン及びアミン末端メチルフェニルシロキサンオリゴマーを含むジアミン成分と、2種以上のテトラカルボン酸二無水物を含む酸二無水物成分と、の重合生成物であるポリイミド前駆体を含むポリイミド製造用組成物をキャリア基板上に塗布する段階;前記キャリア基板上に塗布されたポリイミド製造用組成物を加熱してポリイミド前駆体をイミド化することにより、ポリイミドフィルムを形成する段階;前記ポリイミドフィルム上に素子を形成する段階;及び前記素子が形成されたポリイミドフィルムを前記キャリア基板から剥離する段階;を含むフレキシブルデバイスの製造工程を提供する。
【0120】
特に、前記フレキシブルデバイスの製造工程は、LTPS薄膜製造工程、ITO薄膜製造工程及びOxide薄膜製造工程のうちから選択される1つ以上を含みうる。
【0121】
LTPS薄膜製造工程を例とすれば、ポリイミドフィルム上にSiO2を含む遮断層を形成する段階;前記遮断層上にa-Si(amorphous silicon)薄膜を蒸着する段階;前記蒸着されたa-Si薄膜を450±50℃の温度で熱処理する脱水素アニーリング段階;及び前記a-Si薄膜をエキシマレーザなどで結晶化させる段階;を含むLTPS薄膜製造工程以後、レーザ剥離などでキャリア基板とポリイミドフィルムとを剥離することにより、LTPS層を含むフレキシブルデバイスが得られる。
【0122】
酸化物薄膜工程は、シリコンを利用した工程に比べて低い温度で熱処理され、例えば、ITO TFT工程の熱処理温度は、200℃±50℃であり、Oxide TFT工程の熱処理温度は、320℃±50℃である。
【0123】
以下、当業者が容易に実施できるように、本発明の実施例について詳しく説明する。しかし、本発明は、さまざまな異なる形態として具現可能であり、ここで説明する実施例に限定されるものではない。
【0124】
<実施例1>BPDA-PMDA(5:5)/DDS/DPS-DMS(An:Am=1:1.0208)
【0125】
窒素気流が流れる反応器内にDEAc(N,N-ジエチルアセトアミド)を満たした後、反応器の温度を25℃に保持した状態で4,4'-DDS(4,4'-ジアミノジフェニルスルホン)0.13595molを同じ温度で添加して溶解させた。前記DDSが添加された溶液にピロメリット酸二無水物(PMDA)0.06798mol及びBPDA(3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物)0.06798molを同じ温度で添加して、24時間撹拌した後、化学式2の末端アミン変性DPS-DMS(diphenylsiloxane-dimethylsiloxane co-oligomer、重量平均分子量4360g/mol)0.00283molを添加し、80℃で4時間撹拌した。次いで、オイルバスを取り外して室温に戻し、透明なポリアミド酸溶液を得た。
【0126】
<実施例2>BPDA-PMDA(5:5)/DDS/DPS-DMS(An:Am=1:1.0158)
【0127】
ジアミン成分と二無水物成分とのmol比を調節したことを除いては、実施例1と同じ方法でポリアミド酸溶液を製造した。
【0128】
<実施例3>BPDA-PMDA(5:5)/DDS/DPS-DMS(An:Am=1:1.0107)
【0129】
ジアミン成分と二無水物成分とのmol比を調節したことを除いては、実施例1と同じ方法でポリアミド酸溶液を製造した。
【0130】
<比較例1>BPDA-PMDA(5:5)/DDS/DPS-DMS(An:Am=1.0208:1)
【0131】
ジアミン成分と二無水物成分とのmol比を調節したことを除いては、実施例1と同じ方法でポリアミド酸溶液を製造した。
【0132】
<比較例2>BPDA-PMDA(5:5)/DDS/DPS-DMS(An:Am=1:1)
【0133】
ジアミン成分と二無水物成分とのmol比を調節したことを除いては、実施例1と同じ方法でポリアミド酸溶液を製造した。
【0134】
<実験例1:溶液の粘度及びヘイズ(haze)の測定>
【0135】
実施例1から実施例3及び比較例1から比較例2から製造されたそれぞれのポリイミド前駆体溶液の粘度及びヘイズを測定して、下記表1に示した。
【0136】
溶液の粘度は、late rheometer(モデル名:LVDV-1II Ultra、Brookfield製造)でPAA溶液5mlを容器に入れ、スピンドル(Spindle)を下げ、rpmを調節して、トルク(torque)が80になる時点で1分間待機した後、トルク変化がない時の粘度値を測定した。この際、使用したスピンドルは、52Zであり、温度は、25℃にした。
【0137】
溶液のヘイズは、肉眼で外観を観察し、Oは、ヘイズがあることを、Xは、ヘイズがないことを示す。
【0138】
【0139】
前記表1から分かるように、実施例1から実施例3から製造されたポリイミド前駆体組成物の粘度は、2400cP以上であって、比較例1及び比較例2に比べて高い溶液粘度を示しており、これは、ポリアミド酸の重合度が高いことを意味する。また、本発明によるポリイミド前駆体溶液は、ヘイズがほとんど表われなかった。
【0140】
<実験例2>
【0141】
実施例1から実施例3及び比較例1から比較例2から製造されたそれぞれのポリイミド前駆体溶液をガラス基板上にスピンコーティングした。ポリイミド前駆体溶液が塗布されたガラス基板をオーブンに入れ、5℃/minの速度で加熱し、80℃で30分、400℃で30分を保持して、硬化工程を進行して、ポリイミドフィルムを製造した。
【0142】
それぞれのフィルムに対する物性を測定して、下記表2に示した。
【0143】
<黄色度(YI)>
【0144】
黄色度(YI)は、Color Eye 7000Aで測定した。
【0145】
<ヘイズ>
【0146】
Haze Meter HM-150を使用してASTM D1003による方法でヘイズを測定した。
【0147】
<透過度>
【0148】
透過度は、JIS K 7105に基づいて透過率計(モデル名:HR-100、Murakami Color Research Laboratory製造)で450nm、550nm及び633nmの波長に対する透過率を測定した。
【0149】
<厚さ方向位相差(Rth)>
【0150】
厚さ方向位相差(Rth)は、Axoscanを用いて測定した。フィルムを一定のサイズに切って厚さを測定した後、Axoscanで位相差を測定して、位相差値を補償するために、C-plate方向に補正しながら測定した厚さを入力した。
【0151】
<ガラス転移温度(Tg)及び熱膨張係数(CTE)>
【0152】
フィルムを5x20mmのサイズに準備した後、アクセサリーを用いて試料をローディングする。実際に測定されるフィルムの長さは、16mmに同様にした。フィルムの引張力を0.02Nに設定し、100~400℃の温度範囲で5℃/minの昇温速度で1次昇温工程を進行した後、400~100℃の温度範囲で4℃/minの冷却速度で冷却(cooling)後、再び100~450℃の温度範囲で5℃/minの昇温速度で2次昇温工程を進行して、熱膨張変化の態様をTMA(TA社のQ400)で測定した。
【0153】
この際、2次昇温工程で昇温区間で見える変曲点をTgとした。
【0154】
<熱分解温度(Td_1%)及び重量減少率(%)>
【0155】
TGAを用いて窒素雰囲気で重合体の重量減少率1%である時の温度を測定した。
【0156】
350℃で60分間保持した時の重量減少率を測定した。
【0157】
380℃で60分間保持した時の重量減少率を測定した。
【0158】
<モジュラス(GPa)、引張強度(MPa)、延伸率(%)>
【0159】
長さ5mmx50mm、厚さ10μmのフィルムを引張試験機(株式会社Instron製造:Instron 3342)で速度10mm/minに引っ張って、モジュラス(GPa)、引張強度(MPa)、延伸率(%)を測定した。
【0160】
<残留応力及びBow値の測定>
【0161】
残留応力測定装置(TENCOR社のFLX2320)を使用してあらかじめウェーハ(wafer)の反り量を測定しておいた、厚さ525μmの6inシリコンウェーハ上に、樹脂組成物をスピンコータによって塗布し、光洋リンドバーグ社製のオーブンを使用して、窒素雰囲気下、250℃/30min及び400℃/60minの加熱硬化処理を実施し、硬化後、膜厚さ10μmの樹脂膜が付着されたシリコンウェーハを製造した。残留応力測定装置を使用して、このウェーハの反り量を測定したReal Bow値でシリコンウェーハと樹脂膜との間に発生した残留応力を測定した。
【0162】
【0163】
前記表2から分かるように、実施例1から実施例3から製造されたポリイミドフィルムのヘイズは、比較例1、比較例2から製造されたフィルムのヘイズに比べて著しく低い値を示した。特に、比較例2の1:1当量比で反応したポリイミドフィルムの場合、溶液及びフィルムでヘイズが表われなかったが、実際の測定値は、1以上の値を示して、実施例のフィルムに比べて高い値を示すことが分かる。
【0164】
また、実施例1から実施例3の延伸率は、比較例1、比較例2よりも高く測定され、これにより実施例1から実施例3の当量比から合成されたポリイミドフィルムが、より柔軟な特性を示すことができるということが分かる。
【0165】
以上、本発明の内容の特定の部分を詳しく記述したところ、当業者において、このような具体的記述は、単に望ましい実施形態であり、これにより、本発明の範囲が制限されるものではないという点は明白である。したがって、本発明の実質的な範囲は、下記の特許請求の範囲とそれらの等価物とによって定義される。