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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-23
(45)【発行日】2022-05-31
(54)【発明の名称】フィルム製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 55/02 20060101AFI20220524BHJP
【FI】
B29C55/02
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017173482
(22)【出願日】2017-09-08
(65)【公開番号】P2018047693
(43)【公開日】2018-03-29
【審査請求日】2020-08-26
(31)【優先権主張番号】P 2016183180
(32)【優先日】2016-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127498
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 和哉
(74)【代理人】
【識別番号】100146329
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】中澤 敦史
【審査官】清水 研吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-320276(JP,A)
【文献】特開平03-087238(JP,A)
【文献】特開平09-193240(JP,A)
【文献】特開2009-063982(JP,A)
【文献】特開2009-051135(JP,A)
【文献】特開2001-162635(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 55/00-55/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルムを延伸するフィルム延伸工程を含むフィルム製造方法であって、
前記フィルム延伸工程にて、前記フィルムを搬入する搬入口および当該フィルムを搬出する搬出口を有する延伸炉の前記搬入口における気流を、前記搬入口に対して前記延伸炉の内部側を負圧にすることによって、前記延伸炉の内部へ流れ込む方向に制御するとともに、前記搬入口から前記フィルムの延伸を開始するまでの区間において、給気の開始位置よりも前記フィルムの搬送方向の上流側で、前記延伸炉の内部の気体を当該延伸炉の外部へ排出するフィルム製造方法。
【請求項2】
フィルムを延伸するフィルム延伸工程を含むフィルム製造方法であって、
前記フィルム延伸工程にて、前記フィルムを搬入する搬入口および当該フィルムを搬出する搬出口を有する延伸炉の前記搬入口における気流を、前記延伸炉の内部へ流れ込む方向に制御し、かつ前記搬出口における気流を、前記延伸炉の内部へ流れ込む方向に制御するとともに、前記搬入口から前記フィルムの延伸を開始するまでの区間において、給気の開始位置よりも前記フィルムの搬送方向の上流側で、前記延伸炉の内部の気体を当該延伸炉の外部へ排出するフィルム製造方法。
【請求項3】
前記搬出口に対して前記延伸炉の内部側を負圧にすることによって、前記搬出口における気流を、前記延伸炉の内部へ流れ込む方向に制御する請求項2に記載のフィルム製造方法。
【請求項4】
フィルムを延伸するフィルム延伸工程を含むフィルム製造方法であって、
前記フィルム延伸工程にて、前記フィルムを搬入する搬入口および当該フィルムを搬出する搬出口を有する延伸炉のうち、少なくとも前記搬入口から前記フィルムの延伸を開始するまでの区間において、給気量よりも排気量を大きくするとともに、前記区間において、給気の開始位置よりも前記フィルムの搬送方向の上流側で、前記延伸炉の内部の気体を前記延伸炉の外部へ排出するフィルム製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム延伸装置、およびフィルム製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池等の非水電解液二次電池におけるセパレータとして、ポリオレフィンを主成分とする微多孔フィルム、または該微多孔フィルムを基材として他の機能層を積層した積層多孔質フィルムが用いられている。
【0003】
このようなフィルムの製造工程では、フィルムを縦延伸または横延伸して、細孔構造を制御することが行われている。特許文献1には、フィルム延伸装置において、延伸炉内の複数の延伸領域におけるフィルム拡幅速度差と温度差とを特定の関係にすることで、セパレータの基材多孔質フィルムに適したポリオレフィン微多孔膜を生産性よく製造できることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-159750号公報(2013年8月19日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のような従来技術では、延伸炉内の圧力と大気圧とが同じになるように設定しているため、フィルムに含まれる揮発成分が加熱により延伸炉の外部に漏れ出し易くなる。そのため、延伸炉の外部で凝縮・析出した揮発成分がフィルム上に滴下または落下することで、フィルムが損傷するという課題があった。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、延伸炉の外部に漏れ出した揮発成分に起因するフィルムの損傷を低減することが可能なフィルム延伸装置、およびフィルム製造方法を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るフィルム延伸装置は、フィルムを延伸するフィルム延伸装置であって、前記フィルムを搬入する搬入口および当該フィルムを搬出する搬出口を有する延伸炉を備え、前記搬入口における気流が、前記延伸炉の内部へ流れ込む方向に制御されているとともに、前記延伸炉の内部の気体を当該延伸炉の外部へ排出する。
【0008】
延伸炉での加熱に伴うフィルムの揮発成分の発生量は、延伸炉の搬出口側よりも搬入口側のほうが相対的に多くなる。上記の構成では、延伸炉の搬入口における気流が延伸炉の内部へ流れ込む方向に制御されているため、揮発成分が延伸炉の搬入口から外部に漏れ出すことが抑制される。そのため、延伸炉の搬入口から外部に漏れ出した揮発成分に起因するフィルムの損傷を低減することができる。
【0009】
また、上記の構成では、延伸炉の内部の気体を延伸炉の外部へ排出するため、延伸炉の内部へ流れ込んだ外気および延伸炉の内部で発生した揮発成分を延伸炉の外部へ排出することが可能となる。そのため、延伸炉の内部へ流れ込んだ外気の影響(例えば、延伸炉の内部の温度低下等)により、延伸炉の内部において揮発成分が凝縮・析出することを低減することができる。
【0010】
したがって、上記の構成によれば、延伸炉の搬入口から外部に漏れ出した揮発成分に起因するフィルムの損傷等を好適に低減することが可能なフィルム延伸装置を実現することができる。
【0011】
また、本発明の一態様に係るフィルム延伸装置では、前記搬入口に対して前記延伸炉の内部側が負圧になっていてもよい。
【0012】
上記の構成では、搬入口に対して延伸炉の内部側を負圧にすることにより、搬入口における気流を、延伸炉の内部へ流れ込む方向に好適に制御することができる。したがって、上記の構成によれば、延伸炉の搬入口からフィルムの揮発成分が漏れ出すことを容易に抑制することができる。
【0013】
また、本発明の一態様に係るフィルム延伸装置では、前記延伸炉は、前記フィルムの搬送方向に沿って、独立した風量制御が可能な複数の風量制御ゾーンに分離されており、前記搬入口に連なる前記風量制御ゾーンが負圧になっていてもよい。
【0014】
上記の構成によれば、少なくとも搬入口に連なる風量制御ゾーンを負圧にすることにより、搬入口からフィルムの揮発成分が漏れ出すことを抑制することができる。また、他の風量制御ゾーンの気圧を独立して制御することにより、延伸炉の内部において実施されるフィルムの処理内容に応じて、各風量制御ゾーンを最適な気圧に制御することができる。
【0015】
また、本発明の一態様に係るフィルム延伸装置では、前記搬出口における気流が、前記延伸炉の内部へ流れ込む方向に制御されていてもよい。
【0016】
上記の構成では、延伸炉の搬出口における気流が延伸炉の内部へ流れ込む方向に制御されているため、フィルムの揮発成分が延伸炉の搬出口から外部に漏れ出すことが抑制される。したがって、上記の構成によれば、延伸炉の搬出口から外部に漏れ出した揮発成分に起因するフィルムの損傷を低減することが可能となる。
【0017】
また、本発明の一態様に係るフィルム延伸装置では、前記搬出口に対して前記延伸炉の内部側が負圧になっていてもよい。
【0018】
上記の構成では、搬出口に対して延伸炉の内部側を負圧にすることにより、搬出口における気流を、延伸炉の内部へ流れ込む方向に好適に制御することができる。したがって、上記の構成によれば、延伸炉の搬出口から揮発成分が漏れ出すことを容易に抑制することができる。
【0019】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るフィルム延伸装置は、フィルムを延伸するフィルム延伸装置であって、前記フィルムを搬入する搬入口および当該フィルムを搬出する搬出口を有する延伸炉を備え、前記延伸炉は、少なくとも前記搬入口から前記フィルムの延伸を開始するまでの区間において、給気量よりも排気量が大きくなっている。
【0020】
延伸炉での加熱に伴うフィルムの揮発成分の発生量は、延伸炉の搬出口側よりも搬入口側のほうが相対的に多くなる。換言すれば、フィルムの揮発成分は、延伸炉においてフィルムの延伸を開始するまでの過程でその大部分が発生する。上記の構成では、搬入口からフィルムの延伸を開始するまでの延伸炉の区間において、給気量よりも排気量が大きくなっている。そのため、当該区間を負圧にして揮発成分が延伸炉の搬入口から外部に漏れ出すことを抑制しつつ、延伸炉の内部へ流れ込んだ外気および延伸炉の内部で発生した揮発
成分を延伸炉の外部へ排出することが可能となる。
【0021】
したがって、上記の構成によれば、延伸炉の搬入口から外部に漏れ出した揮発成分に起因するフィルムの損傷等を好適に低減することが可能なフィルム延伸装置を実現することができる。
【0022】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るフィルム製造方法は、フィルムを延伸するフィルム延伸工程を含むフィルム製造方法であって、前記フィルム延伸工程にて、前記フィルムを搬入する搬入口および当該フィルムを搬出する搬出口を有する延伸炉の前記搬入口における気流を、前記延伸炉の内部へ流れ込む方向に制御するとともに、前記延伸炉の内部の気体を当該延伸炉の外部へ排出する。
【0023】
上記の方法では、フィルム延伸工程にて、延伸炉の搬入口における気流が延伸炉の内部へ流れ込む方向に制御するため、フィルムの揮発成分が延伸炉の搬入口から外部に漏れ出すことが抑制される。したがって、延伸炉の搬入口から外部に漏れ出した揮発成分に起因するフィルムの損傷を低減することができる。
【0024】
また、上記の方法では、フィルム延伸工程にて、延伸炉の内部の気体を延伸炉の外部へ排出するため、延伸炉の内部へ流れ込んだ外気および延伸炉の内部で発生した揮発成分を延伸炉の外部へ排出することが可能となる。そのため、延伸炉の内部へ流れ込んだ外気の影響(例えば、延伸炉の内部の温度低下等)により、延伸炉の内部において揮発成分が凝縮・析出することを低減することができる。
【0025】
したがって、上記の方法によれば、延伸炉の搬入口から外部に漏れ出した揮発成分に起因するフィルムの損傷等を好適に低減することが可能なフィルム製造方法を実現することができる。
【0026】
また、本発明の一態様に係るフィルム製造方法では、フィルムを延伸するフィルム延伸工程を含むフィルム製造方法であって、前記フィルム延伸工程にて、前記フィルムを搬入する搬入口および当該フィルムを搬出する搬出口を有する延伸炉のうち、少なくとも前記搬入口から前記フィルムの延伸を開始するまでの区間において、給気量よりも排気量を大きくする。
【0027】
延伸炉での加熱に伴うフィルムの揮発成分の発生量は、延伸炉の搬出口側よりも搬入口側のほうが相対的に多くなる。換言すれば、フィルムの揮発成分は、延伸炉においてフィルムの延伸を開始するまでの過程でその大部分が発生する。上記の方法では、フィルム延伸工程にて、搬入口からフィルムの延伸を開始するまでの延伸炉の区間において、給気量よりも排気量を大きくする。そのため、当該区間を負圧にして揮発成分が延伸炉の搬入口から外部に漏れ出すことを抑制しつつ、延伸炉の内部へ流れ込んだ外気および延伸炉の内部で発生した揮発成分を延伸炉の外部へ排出することが可能となる。
【0028】
したがって、上記の方法によれば、延伸炉の搬入口から外部に漏れ出した揮発成分に起因するフィルムの損傷等を好適に低減することが可能なフィルム製造方法を実現することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明は、延伸炉の外部に漏れ出した揮発成分に起因するフィルムの損傷を低減することが可能なフィルム延伸装置、およびフィルム製造方法を提供することができるという効果を奏する。
【0030】
特に、以下の理由から、本発明の一態様は非水電解液二次電池用セパレータとして用いるポリオレフィン膜を延伸する場合に好適に適用される。
【0031】
セパレータは、ポリオレフィン膜単独で用いることは少なく、後述するように塗布により機能層を積層することが多い。そして、フィルムの揮発成分によりフィルムが損傷した部分は濡れ性が変化するために、塗料(塗工液)の弾きが生じる。よって、塗料の弾きを防いで均一に機能層(塗工層)を形成するために、本発明の一態様が好適に適用され得る。
【0032】
また、セパレータは、後述するようにカソードとアノードとの間を分離しつつ、これらの間におけるリチウムイオンの移動を可能にするために多孔構造を有している。そして、フィルムの揮発成分によりフィルムが損傷した部分は揮発成分により孔が閉塞してしまうため、その部分はセパレータとして機能しない。よって、部分的な孔の閉塞を防ぐために、本発明の一態様が好適に適用され得る。
【0033】
さらに、セパレータの孔形成剤として液状の可塑剤を用いる場合には、多量の可塑剤を含んだ状態で延伸する。揮発した可塑剤が凝縮して滴下すると、滴下した部分のポリマー濃度が局所的に低下するので、周囲と異なる孔構造が生じたり、ピンポールの原因となったりする。よって、均一な孔構造を形成するために、本発明の一態様が好適に適用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】リチウムイオン二次電池の断面構成を示す模式図である。
図2】(a)~(c)は、図1に示されるリチウムイオン二次電池の各状態における様子を示す模式図である。
図3】(a)および(b)は、他の構成のリチウムイオン二次電池の各状態における様子を示す模式図である。
図4】セパレータ原反の製造方法の概略を示すフロー図である。
図5】(a)および(b)は、フィルム延伸装置による延伸工程の様子を示す断面図である。
図6】フィルム延伸装置が備える延伸炉の前室を示す断面図である。
図7】上記延伸炉の予熱室を示す断面図である。
図8】上記延伸炉の各室の単位体積当たりの流量(給気量および排気量)を示すグラフである。
図9】(a)は、上記延伸炉の搬入口における気流の流れを示す断面図であり、(b)は、上記延伸炉の搬出口における気流の流れを示す断面図である。
図10】セパレータの製造方法の概略を示すフロー図である。
図11】(a)および(b)は、スリット工程の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
〔実施形態1〕
本発明の実施の一形態について、図1から図9に基づいて説明すれば、以下のとおりである。本実施形態では、本発明の一態様に係るフィルム延伸装置を、リチウムイオン二次電池用セパレータ(セパレータと記す場合がある)の基材となるセパレータ原反の製造に適用した場合を例にして説明する。
【0036】
まず、リチウムイオン二次電池について、図1から図3に基づいて説明する。
【0037】
(リチウムイオン二次電池の構成)
リチウムイオン二次電池に代表される非水電解液二次電池は、エネルギー密度が高く、それゆえ、現在、パーソナルコンピュータ、携帯電話、携帯情報端末等の機器、自動車、航空機等の移動体に用いる電池として、また、電力の安定供給に資する定置用電池として広く使用されている。
【0038】
図1は、リチウムイオン二次電池1の断面構成を示す模式図である。図1に示されるように、リチウムイオン二次電池1は、カソード11と、セパレータ12と、アノード13とを備える。リチウムイオン二次電池1の外部において、カソード11とアノード13との間に、外部機器2が接続される。そして、リチウムイオン二次電池1の充電時には方向Aへ、放電時には方向Bへ、電子が移動する。
【0039】
(セパレータ)
セパレータ(フィルム)12は、リチウムイオン二次電池1の正極であるカソード11と、その負極であるアノード13との間に、これらに挟持されるように配置される。セパレータ12は、カソード11とアノード13との間を分離しつつ、これらの間におけるリチウムイオンの移動を可能にする。セパレータ12は、その基材として、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン等が用いられる。
【0040】
図2の(a)~(c)は、図1に示されるリチウムイオン二次電池1の各状態における様子を示す模式図である。図2の(a)は、通常の様子を示し、図2の(b)は、リチウムイオン二次電池1が昇温したときの様子を示し、図2の(c)は、リチウムイオン二次電池1が急激に昇温したときの様子を示す。
【0041】
図2の(a)に示されるように、セパレータ12には、多数の孔Pが設けられている。通常、リチウムイオン二次電池1のリチウムイオン3は、孔Pを介し往来することができる。
【0042】
ここで、例えば、リチウムイオン二次電池1の過充電、または、外部機器の短絡に起因する大電流等により、リチウムイオン二次電池1は、昇温することがある。この場合、図2の(b)に示されるように、セパレータ12が融解または柔軟化し、孔Pが閉塞する。そして、セパレータ12は収縮する。これにより、リチウムイオン3の往来が停止するため、上述の昇温も停止する。
【0043】
しかし、リチウムイオン二次電池1が急激に昇温する場合、セパレータ12は、急激に収縮する。この場合、図2の(c)に示されるように、セパレータ12は、破壊されることがある。そして、リチウムイオン3が、破壊されたセパレータ12から漏れ出すため、リチウムイオン3の往来は停止しない。ゆえに、昇温は継続する。
【0044】
(耐熱セパレータ)
図3の(a)および(b)は、他の構成のリチウムイオン二次電池1の各状態における様子を示す模式図である。図3の(a)は通常の様子を示し、(b)はリチウムイオン二次電池1が急激に昇温したときの様子を示す。
【0045】
図3の(a)に示されるように、リチウムイオン二次電池1は、耐熱層(機能層)4をさらに備えていてもよい。この耐熱層4は、セパレータ12に設けることができる。図3の(a)は、セパレータ12に、機能層としての耐熱層4が設けられた構成を示している。以下、セパレータ12に耐熱層4が設けられたフィルムを、耐熱セパレータ(フィルム)12aとする。
【0046】
図3の(a)に示す構成では、耐熱層4は、セパレータ12のカソード11側の片面に積層されている。なお、耐熱層4は、セパレータ12のアノード13側の片面に積層されてもよいし、セパレータ12の両面に積層されてもよい。そして、耐熱層4にも、孔Pと同様の孔が設けられている。通常、リチウムイオン3は、孔Pと耐熱層4の孔とを介し往来する。耐熱層4は、その材料として、例えば全芳香族ポリアミド(アラミド樹脂)を含む。
【0047】
図3の(b)に示されるように、リチウムイオン二次電池1が急激に昇温し、セパレータ12が融解または柔軟化しても、耐熱層4がセパレータ12を補助しているため、セパレータ12の形状は維持される。ゆえに、セパレータ12が融解または柔軟化し、孔Pが閉塞するにとどまる。これにより、リチウムイオン3の往来が停止するため、上述の過放電または過充電も停止する。このように、セパレータ12の破壊が抑制される。
【0048】
(セパレータ原反の製造方法)
次に、セパレータの基材となるセパレータ原反の製造方法(フィルム製造方法)について、図4に基づいて説明する。本実施形態では、セパレータ原反の材料として、主にポリエチレンを含む場合を例として説明する。
【0049】
図4は、セパレータ原反12cの製造方法の概略を示すフロー図である。例示する製造フローは、熱可塑性樹脂に固体または液体の孔形成剤を加えてフィルム成形した後、該孔形成剤を適当な溶媒で除去する方法である。具体的には、セパレータ原反12cが、超高分子量ポリエチレンを含むポリエチレン樹脂を材料とする場合には、セパレータ原反12cの製造フローは、混練工程S1、シート化工程S2、除去工程S3、延伸工程S4を順に経る製造フローとなる。なお、除去工程S3、延伸工程S4は順序が逆であってもよい。
【0050】
混練工程S1は、超高分子量ポリエチレンと、炭酸カルシウム等の孔形成剤とを混練してポリエチレン樹脂組成物を得る工程である。混練工程S1では、例えば、超高分子量ポリエチレンの粉末に孔形成剤を加え、これらを混合した後、二軸混練機等で溶融混練してポリエチレン樹脂組成物を得る。
【0051】
シート化工程S2は、前工程で得られたポリエチレン樹脂組成物をフィルム状に成形する工程である。シート化工程S2では、例えば、混練工程S1で得られたポリエチレン樹脂組成物を一対のロールにて圧延することにより、ポリエチレン樹脂組成物をフィルム状に成形した原料フィルムを得る。
【0052】
除去工程S3は、前工程で得られた原料フィルム中から孔形成剤を除去する工程である。除去工程S3では、例えば、原料フィルムを塩酸水溶液等に浸漬して、炭酸カルシウム等の孔形成剤を溶解、除去する。
【0053】
延伸工程S4は、前工程で得られた原料フィルムを延伸してセパレータ原反12cを得る工程である。延伸工程S4では、フィルム延伸装置を用い、フィルム延伸装置の延伸炉内を搬送される原料フィルムを、原料フィルムの搬送方向や幅方向に延伸する。延伸工程S4は、複数の熱ロールで原料フィルムを搬送方向に延伸する工程をさらに含んでもよい。なお、フィルム延伸装置の詳細は後述する。
【0054】
上記のセパレータ原反12cの製造フローでは、除去工程S3で、フィルム中に多数の微細孔が設けられる。そして、延伸工程S4によって延伸されたフィルム中の微細孔が、上述の孔Pとなる。これにより、所定の厚さと透気度とを有するポリエチレン微多孔膜であるセパレータ原反12cが形成される。
【0055】
なお、セパレータ原反12cが他の材料を含む場合でも、同様の製造フローにより、セパレータ原反12cを製造することができる。また、セパレータ原反12cの製造方法は、孔形成剤を除去する上記方法に限定されず、種々の方法を用いることができる。
【0056】
(フィルム延伸装置)
次に、上記の延伸工程(フィルム延伸工程)S4を実施するフィルム延伸装置5について、図5から図9に基づいて説明する。
【0057】
図5の(a)および(b)は、フィルム延伸装置5による延伸工程S4の様子を示す断面図である。図5の(a)は、原料フィルム12dの搬送方向MDおよび幅方向TDに対して平行な面で切断した場合のフィルム延伸装置5の断面視を示しており、図5の(b)は、幅方向TDに対して垂直な面で切断した場合のフィルム延伸装置5の断面視を示している。
【0058】
フィルム延伸装置5は、原料フィルム12dをテンター延伸法により延伸するテンター式延伸装置である。テンター式延伸装置とは、フィルムの両端を掴む複数のチャックが、延伸炉の搬入口から搬出口に向かって連続的に設けられたテンターレール上を動き、一軸、または二軸にフィルムを連続的に延伸する機構を有するものである。
【0059】
フィルム延伸装置5は、原料フィルム12dを延伸するための延伸炉6を備えている。延伸炉6は、原料フィルム12dを搬入する搬入口61、および延伸後の原料フィルム12d(セパレータ原反12c)を搬出する搬出口62を有している。
【0060】
フィルム延伸装置5は、搬入口61から搬入した原料フィルム12dを搬送方向MDに搬送しつつ、テンター延伸法により原料フィルム12dを幅方向(横方向)TDに延伸する。そして、フィルム延伸装置5は、延伸後の原料フィルム12dであるセパレータ原反12cを搬出口62から搬出する。
【0061】
延伸炉6は、原料フィルム12dの搬送方向MDに沿って、独立した風量制御が可能な複数の風量制御ゾーンに分離されている。具体的には、延伸炉6は、搬入口61側から順に、前室6a、予熱室6b、第1延伸室6c、第2延伸室6d、第3延伸室6e、熱固定室6f、および後室6gを含んでいる。本実施形態では、これらの各室のうち、前室6a、および後室6gは独立した風量制御が可能となっており、予熱室6b、第1延伸室6c、第2延伸室6d、第3延伸室6e、および熱固定室6fは、独立した風量制御および温度制御が可能となっている。
【0062】
ただし、前室6a、予熱室6b、第1延伸室6c、第2延伸室6d、第3延伸室6e、熱固定室6f、および後室6gの各室は、それぞれ独立した風量制御および温度制御が可能な構成であってもよい。
【0063】
上記の各室(部屋)の機能、吸排気の有無、延伸の有無、および運転温度範囲の一例を下記の表1に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
前室6aは、搬入口61からの排気漏れを防止するためのゾーンである。
【0066】
予熱室6bは、延伸前に原料フィルム12dの予熱を行うためのゾーンである。
【0067】
第1延伸室6c、第2延伸室6d、および第3延伸室6eは、原料フィルム12dを幅方向TDに延伸(横延伸)するためのゾーンである。
【0068】
熱固定室6fは、延伸後の原料フィルム12dの構造固定を行い、原料フィルム12dの熱的安定性を高めて熱収縮を防止するためのゾーンである。
【0069】
後室6gは、搬出口62からの排気漏れを防止するためのゾーンである。
【0070】
なお、本実施形態では、前室6a、予熱室6b、および第1延伸室6cの炉幅(幅方向TDにおける長さ)よりも、第2延伸室6d、第3延伸室6e、熱固定室6f、および後室6gの炉幅のほうが長く設定されている。
【0071】
延伸炉6において、搬入口61に連なる前室6a、および搬出口62に連なる後室6gは、排気のみが可能となっている。一方、前室6aおよび後室6gに挟まれた、予熱室6b、第1延伸室6c、第2延伸室6d、第3延伸室6e、および熱固定室6fは、給気および排気が可能となっており、また、各室の温度を独立に調節することが可能となっている。例えば、予熱室6bは運転時の温度範囲が115~125℃に調整される。また、第1延伸室6c、第2延伸室6dおよび第3延伸室6eは運転時の温度範囲が100~115℃に調整される。さらに、熱固定室6fは運転時の温度範囲が115~130℃に調整される。このように、予熱室6b、第1延伸室6c、第2延伸室6d、第3延伸室6e、および熱固定室6fの温度を独立に調節可能とすることにより、原料フィルム12dの延伸条件に合わせて、適宜、最適な温度を設定することができる。
【0072】
前室6a、予熱室6b、第1延伸室6c、第2延伸室6d、第3延伸室6e、熱固定室6f、および後室6gは、各室の天井部に空気を排出するための排気ダクトが接続されている。各排気ダクトは集合ダクトに接続されており、各排気ダクトから取り込まれた各室の排気は、集合ダクトに接続された排気ファンの作用によって外部へ排出される。前室6a、予熱室6b、第1延伸室6c、第2延伸室6d、第3延伸室6e、熱固定室6f、および後室6gの排気量は、各排気ダクトに設けられた排気ダンパーでそれぞれ調整される。
【0073】
また、予熱室6b、第1延伸室6c、第2延伸室6d、第3延伸室6e、および熱固定室6fは、各室の天井部に加熱空気および冷却空気を供給するための給気ダクトが接続されている。予熱室6b、第1延伸室6c、第2延伸室6d、第3延伸室6e、および熱固定室6fへの給気量は、各給気ダクトに設けられた給気ダンパー、および各室の天井部に個別に取り付けられた給気ファンの風量でそれぞれ調整される。
【0074】
図6は、延伸炉6の前室6aを示す断面図である。図6は、搬送方向MDに対して垂直な面で切断した場合の前室6aの断面視を示している。なお、前室6aおよび後室6gの要部構成は概ね同一であるため、ここでは前室6aを例にして説明する。
【0075】
図6に示されるように、前室6aの天井部に、前室6aの空気を排出するための排気ダクト81aが接続されている。排気ダクト81aは集合ダクト83に接続されており、排気ダクト81aから取り込まれた前室6aの空気は、集合ダクト83に接続された排気ファン84の作用によって外部へ排出される。前室6aの排気量は、排気ダクト81aに設けられた排気ダンパー82aで調整される。
【0076】
図7は、延伸炉6の予熱室6bを示す断面図である。図7は、搬送方向MDに対して垂直な面で切断した場合の予熱室6bの断面視を示している。なお、予熱室6b、第1延伸室6c、第2延伸室6d、第3延伸室6e、および熱固定室6fの要部構成は概ね同一であるため、ここでは予熱室6bを例にして説明する。
【0077】
図7に示されるように、予熱室6bの天井部に、加熱空気および冷却空気を供給する給気ダクト71が接続されている。給気ダクト71は、加熱空気(90~120℃)を給気するための加熱給気ダクト711と、工場内の雰囲気空気を給気するための冷却給気ダクト712とが集合したものである。
【0078】
また、予熱室6bの天井部には、給気ファン72が取り付けられている。予熱室6bへの給気量は、加熱給気ダクト711に設けられた加熱給気ダンパー713、冷却給気ダクト712に設けられた冷却給気ダンパー714、および予熱室6bの天井部に取り付けられた給気ファン72の風量で調整される。
【0079】
予熱室6bでは、給気ファン72の作用により給気ダクト71から供給された空気を送風ダクト73に取り込み、加熱した空気を原料フィルム12dに向けて噴出することにより、原料フィルム12dを加熱する。
【0080】
具体的には、給気ダクト71から予熱室6bに供給された空気は、給気ファン72の作用によりホッパー74から送風ダクト73に導入される。この際、ホッパー74から取り込まれた空気は、ホッパー74に取り付けられたヒーター75によって加熱される。これにより、ヒーター75によって加熱された空気が送風ダクト73に導入される。
【0081】
送風ダクト73の先端側は、上部ノズルダクト731と下部ノズルダクト732とに分枝している。上部ノズルダクト731は搬送される原料フィルム12dの上方に配置され、下部ノズルダクト732は搬送される原料フィルム12dの下方に配置される。
【0082】
原料フィルム12dの表面と対向する上部ノズルダクト731の対向面には、複数の孔が設けられており、原料フィルム12dの表面へ向けて加熱された空気が噴出される。また、原料フィルム12dの裏面と対向する下部ノズルダクト732の対向面には、複数の孔が設けられており、原料フィルム12dの裏面へ向けて加熱された空気が噴出される。これにより、原料フィルム12dの表面および裏面を均等に加熱することができる。
【0083】
上部ノズルダクト731と下部ノズルダクト732との分枝部分には送風ダンパー733が設けられており、この送風ダンパー733により、原料フィルム12dへ噴出される風量が調整される。
【0084】
また、予熱室6bの天井部には、予熱室6bの空気を排出するための排気ダクト81bが接続されている。排気ダクト81bは、集合ダクト83に接続されており、排気ダクト81bから取り込まれた予熱室6bの空気は、集合ダクト83に接続された排気ファン84の作用によって外部へ排出される。予熱室6bの排気量は、排気ダクト81bに設けられた排気ダンパー82bで調整される。
【0085】
上述した構成のフィルム延伸装置5では、まず、幅W1(例えば、30cm程度)の原料フィルム12dが、テンターレールRのチャックCによって両端が固定され、テンターレールR上をチャックCが搬送方向MDに移動することにより、原料フィルム12dが搬入口61から延伸炉6に搬入される。なお、搬入口61の幅は原料フィルム12dの幅+往復分のテンターレールRが通る幅程度に設定されており、搬入口61の高さは25cm程度に設定されている。
【0086】
チャックCの移動に伴いに搬送方向MDに移動する原料フィルム12dは、前室6aを通って予熱室6bの内部に導入され、予熱室6bで加熱される。予熱室6bでは、原料フィルム12dを延伸するために十分な温度にまで加熱される。予熱室6bの温度は、115~125℃程度である。
【0087】
予熱された原料フィルム12dは、予熱室6bから第1延伸室6c、第2延伸室6d、および第3延伸室6eに順次導入される。第1延伸室6c、第2延伸室6d、および第3延伸室6eでは、原料フィルム12dを、加熱しながら幅方向TDに延伸する。第1延伸室6c、第2延伸室6d、および第3延伸室6eの温度は、100~115℃程度である。
【0088】
原料フィルム12dがポリエチレン系樹脂からなる場合、予熱された原料フィルム12dを予熱温度よりも低い温度で延伸することにより、原料フィルム12dを一層均一に延伸することができる傾向にある。その結果、厚みや位相差の均一性に優れたセパレータ原反12cを得ることができる。したがって、原料フィルム12dがポリエチレン系樹脂からなる場合、第1延伸室6c、第2延伸室6d、および第3延伸室6eの温度は、予熱室6bの温度よりも10~25℃程度低いことが好ましい。
【0089】
第1延伸室6c、第2延伸室6d、および第3延伸室6eにおける原料フィルム12dの延伸は、原料フィルム12dを固定するチャックCを幅方向TDに拡げることによって行われる。すなわち、チャックCが搬送方向MDに移動しながら幅方向TDに拡がることに伴って、原料フィルム12dが幅方向TDに引っ張られて延伸される。これにより、原料フィルム12dは最終的に幅W1から幅W2(例えば、5倍程度)に延伸される。なお、延伸炉6に複数の延伸室(第1延伸室6c、第2延伸室6d、第3延伸室6e)を設けることにより、延伸室全体の炉長(搬送方向MDにおける長さ)が長くなる。原料フィルム12dを変形(延伸)する速度(歪速度[%/sec])は、炉長に反比例して、搬送方向速度に比例するため、延伸室全体の炉長を長くすることで歪速度を維持したまま搬送速度を大きくすることができ、生産性を向上させることができる。
【0090】
原料フィルム12dは延伸された後、熱固定室6fに導入される。熱固定室6fでは、延伸後の幅W2を保った状態で、所定の温度に加熱することにより、延伸後の原料フィルム12dの熱的安定性を高める。熱固定室6fの温度は、115~130℃程度である。
【0091】
熱固定室6fにおいて熱固定された原料フィルム12dは、後室6gを通って、搬出口62から延伸炉6の外部へ搬出される。なお、搬出口62の幅はセパレータ原反12cの幅+往復分のテンターレールRが通る幅程度に設定されており、搬出口62の高さは25cm程度に設定されている。
【0092】
このように、フィルム延伸装置5の延伸炉6において原料フィルム12dを幅方向TDに延伸することにより、セパレータ12の基材となるセパレータ原反12cを得ることができる。
【0093】
ここで、従来のフィルム延伸装置では、原料フィルムに含まれる室温において液体または固体である成分が加熱に伴い原料フィルムから揮発して延伸炉の搬入口および搬出口から外部に漏れ出し、延伸炉の外部で凝縮・析出して原料フィルム上に滴下または落下(脱落)することで原料フィルムが損傷するという問題があった。
【0094】
前記フィルムに含まれる室温において液体または固体の成分としては、ポリオレフィン加工助剤、酸化防止剤およびその変性物、ポリオレフィン可塑剤、石油由来のポリオレフィン可塑剤に含まれる副含物類、延伸工程の前で使用されるロールおよびフィルムの洗浄溶剤、生物の繁殖・腐敗・酸化・分解を抑制する洗浄剤に加えられる安定化剤、および、帯電防止剤等が挙げられる。これらの成分は、前記混練工程S1、シート化工程S2、除去工程S3、および延伸工程S4に関わる1以上の工程においてフィルムに含まれ得る。
【0095】
ポリオレフィン加工助剤としては、ラウリン酸、およびステアリン酸等の高級脂肪酸並びにその金属塩が挙げられる。酸化防止剤およびその変性物としては、フェノール系酸化防止剤およびリン系酸化防止剤等の酸化防止剤、並びにそれらの変性物が挙げられる。ポリオレフィン可塑剤としては、流動パラフィンおよびパラフィンワックス等の炭化水素類、フタル酸ジオクチルおよびフタル酸ジブチル等のエステル類、並びに、オレイルアルコールおよびやステアリルアルコール等の高級アルコール等が挙げられる。石油由来のポリオレフィン可塑剤に含まれる副含物類としては、オレフィン化合物、ナフテン化合物、(多核)芳香族化合物等の流動パラフィン等の石油由来のポリオレフィン可塑剤に含まれる副含物類が挙げられる。延伸工程の前で使用されるロールおよびフィルムの洗浄溶剤としては、水、メタノール、エタノールおよびイソプロパノール等のアルコール類、塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素類、並びに、ヘキサンおよびヘプタン等の室温で液体の炭化水素類が挙げられる。生物の繁殖・腐敗・酸化・分解を抑制する洗浄剤に加えられる安定化剤としては、メタノール、イソプロパノール等のアルコールが挙げられる。帯電防止剤としては、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコールが挙げられる。
【0096】
そこで、本実施形態に係るフィルム延伸装置5では、延伸炉6の搬入口61および搬出口62における気流を、延伸炉6の内部へ流れ込む方向に制御している。これにより、延伸炉6の搬入口61および搬出口62から揮発成分が外部に漏れ出すことを抑制して、上記の原料フィルムの損傷を低減している。
【0097】
具体的には、フィルム延伸装置5では、延伸炉6の搬入口61側に、搬入口61からの排気漏れを防止するための前室6aを設け、搬入口61に連なる前室6aを大気圧に比べて十分に低い気圧(負圧)に調整している。これにより、搬入口61において、延伸炉6の内部へ流れ込む方向の気流を生じさせて、搬入口61から揮発成分が漏れ出すことを抑制している。同様に、延伸炉6の搬出口62側に、搬出口62からの排気漏れを防止するための後室6gを設け、搬出口62に連なる後室6gを大気圧に比べて十分に低い気圧(負圧)に調整している。これにより、搬出口62において、延伸炉6の内部へ流れ込む方向の気流を生じさせて、搬出口62から揮発成分が漏れ出すことを抑制している。
【0098】
図8は、延伸炉6の各室の単位体積当たりの流量(給気量および排気量)を示すグラフである。図8に示されるように、フィルム延伸装置5では、前室6aおよび後室6gへの給気を行わず、かつ、前室6aおよび後室6gの単位体積当たりの排気量を、予熱室6b、第1延伸室6c、第2延伸室6d、第3延伸室6e、および熱固定室6fの単位体積当たりの排気量よりも多くしている。これにより、前室6aおよび後室6gを、予熱室6b、第1延伸室6c、第2延伸室6d、第3延伸室6e、および熱固定室6fに比べて相対的に低い気圧に調整している。
【0099】
延伸炉6(前室6a,後室6g)の内圧と大気圧との差圧は2Pa以上であることが好ましく、5Pa以上であることがより好ましく、10Pa以上であることがさらに好ましい。上記差圧が2Pa未満の場合はほぼ等圧と見なされ、揮発成分の漏れ出しを抑制することが困難となる。そして延伸炉6の内圧と大気圧とに上記の差圧を設けることで、延伸炉6の内部へ流れ込む方向に0.5m/sec以上の気流を生じさせることができる。揮発成分は延伸炉6の予熱室6bからの発生量が多いため、特に搬入口61の気流は1.0m/sec以上であることが好ましい。
【0100】
このように、搬入口61に連なる前室6aおよび搬出口62に連なる後室6gを延伸炉6に設け、前室6aおよび後室6gを大気圧よりも低い気圧(負圧)に調整することにより、搬入口61および搬出口62における気流を、延伸炉6の内部へ流れ込む方向に好適に制御することが可能となる。
【0101】
また、フィルム延伸装置5では、搬入口61および搬出口62における気流が延伸炉6の内部へ流れ込む方向に制御されているとともに、延伸炉6の内部の気体を延伸炉6の外部へ排出するようになっている。具体的には、フィルム延伸装置5では、前室6aおよび後室6gで排気のみを行うとともに、予熱室6b、第1延伸室6c、および熱固定室6fで単位体積当たりの給気量よりも排気量を多くしている。これにより、延伸炉6の内部へ流れ込んだ外気および延伸炉6の内部で発生した揮発成分を、排気ダクトから延伸炉6の外部へ排出することが可能となる。そのため、延伸炉6の内部へ流れ込んだ外気の影響(例えば、延伸炉6の内部の温度低下等)により、延伸炉6の内部において揮発成分が凝縮・析出することを低減することができる。
【0102】
特に、延伸炉6での加熱に伴う原料フィルム12dの揮発成分の発生量は、延伸炉6の搬出口62側よりも搬入口61側のほうが相対的に多くなる。換言すれば、原料フィルム12dの揮発成分は、延伸炉6の第1延伸室6cにおいて原料フィルム12dの延伸を開始するまでの過程でその大部分が発生する。そのため、前室6aで排気のみを行うとともに、前室6aに続く予熱室6b、および第1延伸室6cで単位体積当たりの給気量よりも排気量を多くすることにより、少なくとも搬入口61から原料フィルム12dの延伸を開始するまでの延伸炉6の区間(すなわち、搬入口61からテンターレールRの間隔が広がり出すまでの区間)において、給気量よりも排気量を大きくすることが好ましい。これにより、当該区間を負圧にして揮発成分が延伸炉6の搬入口61から外部に漏れ出すことを抑制しつつ、延伸炉6の内部へ流れ込んだ外気および延伸炉6の内部で発生した揮発成分を、排気ダクトから延伸炉6の外部へ排出することが可能となる。
【0103】
図9の(a)は、延伸炉6の搬入口61における気流AFの流れを示す断面図であり、図9の(b)は、延伸炉6の搬出口62における気流AFの流れを示す断面図である。図9の(a)および(b)は、幅方向TDに対して垂直な面で切断した場合のフィルム延伸装置5の断面視を示している。
【0104】
図9の(a)に示されるように、搬入口61に連なる前室6aを負圧にすることにより、搬入口61における気流AFを、延伸炉6の内部へ流れ込む方向に制御することが可能となる。また、図9の(b)に示されるように、搬出口62に連なる後室6gを負圧にすることにより、搬出口62における気流AFを、延伸炉6の内部へ流れ込む方向に制御することが可能となる。これにより、搬入口61および搬出口62から揮発成分VCが漏れ出すことが抑制されるため、搬入口61および搬出口62から漏れ出した揮発成分VCに起因する原料フィルム12dおよびセパレータ原反12cの損傷を低減することができる。
【0105】
(フィルム延伸装置のまとめ)
以上のように、本実施形態に係るフィルム延伸装置5は、原料フィルム12dを搬入する搬入口61および延伸後の原料フィルム12d(セパレータ原反12c)を搬出する搬出口62を有する延伸炉6を備え、搬入口61および搬出口62における気流AFが、延伸炉6の内部へ流れ込む方向に制御されているとともに、延伸炉6の内部の気体を延伸炉6の外部へ排出する。
【0106】
フィルム延伸装置5では、延伸炉6の搬入口61および搬出口62における気流AFが延伸炉6の内部へ流れ込む方向に制御されているため、原料フィルム12dの揮発成分VCが延伸炉6の搬入口61および搬出口62から外部に漏れ出すことが抑制される。
【0107】
また、フィルム延伸装置5では、延伸炉6の内部の気体を延伸炉6の外部へ排出するため、延伸炉6の内部へ流れ込んだ外気および延伸炉6の内部で発生した揮発成分を延伸炉6の外部へ排出することが可能となる。そのため、延伸炉6の内部へ流れ込んだ外気の影響により、延伸炉6の内部において揮発成分が凝縮・析出することを低減することができる。
【0108】
したがって、本実施形態によれば、延伸炉6の搬入口61および搬出口62から外部に漏れ出した揮発成分VCに起因するフィルムの損傷を低減することが可能なフィルム延伸装置5を実現することができる。
【0109】
なお、本実施形態では、搬入口61からの排気漏れを防止するための前室6aおよび搬出口62からの排気漏れを防止するための後室6gの両方を延伸炉6に設ける構成について説明したが、本発明はこの構成に限定されない。延伸炉6での原料フィルム12dの加熱に伴う揮発成分VCの発生量は、延伸炉6の搬出口62側よりも搬入口61側のほうが相対的に多くなる。そのため、少なくとも延伸炉6の搬入口61における気流AFを延伸炉6の内部へ流れ込む方向に制御することにより、搬入口61から外部に漏れ出した揮発成分VCに起因するフィルムの損傷を低減する十分な効果が得られる。したがって、後室6gは必須ではなく、省略することも可能である。
【0110】
また、本実施形態では、延伸炉6の前室6aおよび後室6gの温度調整を行わない構成について説明したが、本発明はこの構成に限定されない。前室6aおよび後室6gについても、独立した温度調整が可能な構成であってもよい。前室6aおよび後室6gを加熱することにより、原料フィルムの揮発成分VCが搬入口61および搬出口62から漏れ出すことをより効果的に抑制することが可能となる。すなわち、前室6aおよび後室6gを加熱することにより、前室6aおよび後室6gの空気の密度が小さくなるため排気における圧力損失が小さくなり、排気ダクトからの排気量が増加する。そのため、搬入口61および搬出口62から揮発成分VCが漏れ出すことをより効果的に抑制することが可能となる。さらに、前室6aおよび後室6gを独立した温度調整が可能な構成とすることにより、予熱または熱固定時間が不足した場合の対策として、前室6aおよび後室6gを原料フィルム12dの加熱に利用することができる。
【0111】
また、本実施形態では、原料フィルム12dを横方向(幅方向TD)に延伸する一軸延伸装置の構成例としてフィルム延伸装置5について説明したが、本発明はこの構成に限定されない。本発明の一態様に係るフィルム延伸装置は、原料フィルム12dを縦(長さ)方向(搬送方向MD)と横方向(幅方向TD)とに同時に延伸する同時二軸延伸装置であってもよい。
【0112】
なお、本実施形態に係るフィルム延伸装置5は、次のように表現することもできる。すなわち、フィルム延伸装置5は、原料フィルム12dを搬入する搬入口61および延伸後の原料フィルム12d(セパレータ原反12c)を搬出する搬出口62を有する延伸炉6を備え、延伸炉6は、少なくとも搬入口61から原料フィルム12dの延伸を開始するまでの区間において、給気量よりも排気量が大きくなっている。
【0113】
延伸炉6での加熱に伴う原料フィルム12dの揮発成分VCの発生量は、延伸炉6の搬出口62側よりも搬入口61側のほうが相対的に多くなる。換言すれば、原料フィルム12dの揮発成分VCは、延伸炉6の第1延伸室6cにおいて原料フィルム12dの延伸を開始するまでの過程でその大部分が発生する。フィルム延伸装置5では、搬入口61から原料フィルム12dの延伸を開始するまでの延伸炉6の区間(すなわち、搬入口61からテンターレールRの間隔が広がり出すまでの区間)において、給気量よりも排気量が大きくなっている。そのため、当該区間を負圧にして揮発成分VCが延伸炉6の搬入口61から外部に漏れ出すことを抑制しつつ、延伸炉6の内部へ流れ込んだ外気および延伸炉6の内部で発生した揮発成分VCを延伸炉6の外部へ排出することが可能となる。
【0114】
このように、搬入口61から原料フィルム12dの延伸を開始するまでの延伸炉6の区間において、給気量よりも排気量が大きくなっていることにより、延伸炉6の搬入口61から外部に漏れ出した揮発成分VCに起因する原料フィルム12dの損傷等を好適に低減することができる。
【0115】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施の一形態について、図10および図11に基づいて説明すれば、以下のとおりである。本実施形態では、上記の実施形態で得られたセパレータ原反を基材として、リチウムイオン二次電池用セパレータを製造する製造方法(フィルム製造方法)の一例を説明する。
【0116】
(セパレータの製造方法)
図10は、セパレータの製造方法の概略を示すフロー図である。セパレータは、基材となるセパレータ原反12cに機能層が積層された構成を有している。また、機能層としては、耐熱層や接着剤層が例示される。
【0117】
セパレータ原反12cへの機能層の積層は、セパレータ原反12cに、機能層に対応する塗料(材料)等を塗工し、乾燥させることで行われる。
【0118】
図10では、機能層が耐熱層4である場合の、耐熱セパレータ12aの製造フローを例示している。例示するフローは、耐熱層4の材料として全芳香族ポリアミド(アラミド樹脂)を用い、それをセパレータ原反12cに積層するフローの一例である。
【0119】
このフローは、第1検査工程S11、塗工工程S12、析出工程S13、洗浄工程S14、乾燥工程S15、第2検査工程S16、およびスリット工程S17を含んでいる。
【0120】
以下、上記のセパレータ原反12cの製造フローに続く各工程S11~S17について、順に説明する。
【0121】
(第1検査工程S11)
第1検査工程S11は、上記の実施形態で得られたセパレータ原反12cについて、次工程の塗工に先立ち、セパレータ原反12cの検査を行う工程である。
【0122】
(塗工工程S12)
塗工工程S12は、第1検査工程S11にて検査したセパレータ原反12cに耐熱層4の塗料(材料)を塗工する工程である。塗工工程S12では、セパレータ原反12cの一方の面のみに塗工を行ってもよいし、両面に塗工を行ってもよい。
【0123】
例えば、塗工工程S12では、セパレータ原反12cに、耐熱層用の塗料として、アラミドのNMP(N-メチル-ピロリドン)溶液を塗工する。なお、耐熱層4は上記アラミド耐熱層に限定されない。例えば、耐熱層用の塗料として、アルミナとカルボキシメチルセルロースと水との懸濁液を塗工してもよい。
【0124】
塗料をセパレータ原反12cに塗工する方法は、セパレータ原反12cを均一にウェットコーティングできる方法であれば特に限定はなく、種々の方法を採用することができる。
【0125】
例えば、キャピラリーコート法、スリットダイコート法、スプレーコート法、ディップコート法、ロールコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、バーコーター法、グラビアコーター法、ダイコーター法等を採用することができる。
【0126】
また、セパレータ原反12cに塗工される耐熱層4の材料の膜厚は、塗工ウェット膜の厚み、および、塗料の固形分濃度を調節することによって制御することができる。
【0127】
(析出工程S13)
析出工程S13は、塗工工程S12にて塗工した塗料を固化させる工程である。塗料がアラミド塗料である場合には、例えば、塗工面に水蒸気を与え、湿度析出によりアラミドを固化させる。これにより、耐熱層4が形成されたセパレータ原反12cである耐熱セパレータ原反12b(図11参照)が得られる。
【0128】
(洗浄工程S14)
洗浄工程S14は、析出工程S13にて塗料を固化した耐熱セパレータ原反12bを洗浄する工程である。耐熱層4がアラミド耐熱層である場合には、洗浄液として、例えば、水、水系溶液、アルコール系溶液が好適に用いられる。
【0129】
なお、洗浄工程S14は、洗浄効果を高めるために、複数回の洗浄を行う多段洗浄であってもよい。
【0130】
また、洗浄工程S14の後、洗浄工程S14で洗浄した耐熱セパレータ原反12bを水切りする水切り工程を行ってもよい。水切りの目的は、次工程の乾燥工程S15に入る前に、耐熱セパレータ原反12bに付着した水等を取り除き、乾燥を容易にし、また乾燥不足を防止することにある。
【0131】
(乾燥工程S15)
乾燥工程S15は、洗浄工程S14にて洗浄した耐熱セパレータ原反12bを乾燥させる工程である。乾燥の方法は、特には限定されず、例えば、加熱されたロールに耐熱セパレータ原反12bを接触させる方法や、耐熱セパレータ原反12bに熱風を吹き付ける方法等、種々の方法を用いることができる。
【0132】
(第2検査工程S16)
第2検査工程S16は、乾燥工程S15にて乾燥させた耐熱セパレータ原反12bを検査する工程である。この検査を行う際、欠陥箇所を適宜マーキングすることで、耐熱セパレータ原反12bに欠陥が混入することを効果的に抑制することができる。
【0133】
(スリット工程S17)
スリット工程S17は、第2検査工程S16にて検査した耐熱セパレータ原反12bを、所定の製品幅にスリット(切断)する工程である。具体的には、スリット工程S17では、耐熱セパレータ原反12bをリチウムイオン二次電池1等の応用製品に適した幅である製品幅にスリットする。
【0134】
図11の(a)および(b)は、スリット工程S17の一例を示す模式図である。図11の(a)および(b)に示されるように、スリット工程S17は、耐熱セパレータ原反12bをスリットするスリット装置9によって行われる。
【0135】
スリット装置9は、回転可能に支持された円柱形状の、巻出ローラ91、ローラ92~95、および複数の巻取ローラ96を備える。スリット装置9には、図示しない刃が複数設けられる。捲回体10は、巻出ローラ91に嵌められる。捲回体10は、コア97の外周面に耐熱セパレータ原反12bを重畳的に巻き付けた耐熱セパレータ原反12bの巻物である。
【0136】
生産性を上げるために、通常、耐熱セパレータ原反12bは、その幅が製品幅以上となるように製造される。そして、一旦製造された後に、耐熱セパレータ原反12bは、製品幅にスリットされて耐熱セパレータ12aとなる。
【0137】
具体的には、スリット工程S17では、耐熱セパレータ原反12bはコア97から経路UまたはLへ巻き出される。巻き出した耐熱セパレータ原反12bは、ローラ92・93を経由し、ローラ94へ搬送される。搬送される工程において耐熱セパレータ原反12bは、搬送方向MDに対して略平行にスリットされる。これにより、耐熱セパレータ原反12bが製品幅にスリットされた複数の耐熱セパレータ12aが製造される。
【0138】
製造された複数の耐熱セパレータ12aは、それぞれ、巻取ローラ96に嵌められたコア98に巻き取られる。
【0139】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0140】
5 フィルム延伸装置
6 延伸炉
61 搬入口
62 搬出口
6a 前室(風量制御ゾーン)
6g 後室(風量制御ゾーン)
12c セパレータ原反(フィルム)
12d 原料フィルム(フィルム)
S4 延伸工程(フィルム延伸工程)
AF 気流
MD 搬送方向
図1
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