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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-23
(45)【発行日】2022-05-31
(54)【発明の名称】ジオポリマーのための可塑剤
(51)【国際特許分類】
   C04B 24/26 20060101AFI20220524BHJP
   C04B 28/26 20060101ALI20220524BHJP
   C04B 12/04 20060101ALI20220524BHJP
   C04B 22/08 20060101ALI20220524BHJP
   C08L 33/02 20060101ALI20220524BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20220524BHJP
【FI】
C04B24/26 E
C04B28/26
C04B12/04
C04B22/08 A
C08L33/02
C08K3/34
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2019516431
(86)(22)【出願日】2017-10-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-11-07
(86)【国際出願番号】 EP2017075426
(87)【国際公開番号】W WO2018069165
(87)【国際公開日】2018-04-19
【審査請求日】2020-10-02
(31)【優先権主張番号】16193805.5
(32)【優先日】2016-10-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】506416400
【氏名又は名称】シーカ テクノロジー アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100170874
【弁理士】
【氏名又は名称】塩川 和哉
(72)【発明者】
【氏名】ダニエラ ヘッセルバルト
(72)【発明者】
【氏名】トーマス モザー
(72)【発明者】
【氏名】トゥグバ トゥラン
【審査官】中村 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-301637(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105218004(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00- 32/02
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/16
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含む、組成物:
- 少なくとも1種のアルミニウムケイ酸塩を含有する粉末成分、及び少なくとも1種のアルカリ金属ケイ酸塩Sを含有する水性成分を含む、少なくとも1種のジオポリマー、並びに
下記を含む添加剤Aを含む可塑剤:
- アルカリ金属イオンで部分的又は完全に中和されている少なくとも1種のモノエチレン性不飽和カルボン酸のホモポリマー又はコポリマーである、少なくとも1種の水溶性ポリマー、及び
- 少なくとも1種のアルカリ金属ケイ酸塩S
ここで、前記添加剤Aが、ケイ酸ナトリウムであるアルカリ金属ケイ酸塩S を含有し、かつ前記アルカリ金属ケイ酸塩S が、ケイ酸カリウムであることを特徴とする。
【請求項2】
前記水溶性ポリマーが、アクリル酸のホモポリマー又はコポリマーであることを特徴とする、請求項1に記載の組成物
【請求項3】
前記水溶性ポリマーが、1,000~20,000g/モルの範囲の平均分子量Mを有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の組成物
【請求項4】
前記水溶性ポリマーが、ナトリウム塩の形態であり、かつ2,000~8,000g/モルの範囲の平均分子量Mを有する、アクリル酸のホモポリマーであることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物
【請求項5】
前記アルカリ金属ケイ酸塩Sが、0.8~3.6の範囲のSiOのMOに対するモル比を有し、Mは、Na及び/又はKであることを特徴とする、請求項に記載の組成物
【請求項6】
前記アルカリ金属ケイ酸塩Sが、共に固体形態で計算して、前記水溶性ポリマー100重量部に基づいて、10~100重量部の量で存在することを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物
【請求項7】
前記添加剤Aが、水溶液、水性懸濁液、又は乾燥粉末若しくは湿潤粉末の形態であることを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載の組成物
【請求項8】
前記ジオポリマーの前記粉末成分が、少なくとも10重量%のメタカオリンを含むことを特徴とする、請求項に記載の組成物。
【請求項9】
前記ジオポリマーの前記粉末成分が、フライアッシュ及び/又は高炉スラグを含むことを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
砂及び/又は砂利並びに/若しくはさらなる添加剤を追加的に含むことを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
以下の工程を含む、造形体の製造方法:
- 請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物を提供する工程、
- 前記組成物の成分を混合する工程、
- 前記組成物を適用する工程、及び
- 前記組成物を硬化させる工程。
【請求項12】
ジオポリマー用の可塑剤としての、以下を含む水性処方物である添加剤Aの使用:
それぞれ水性処方物全体に基づいて、
- アルカリ金属イオンで完全に中和されている少なくとも1種のモノエチレン性不飽和カルボン酸のホモ-又はコポリマーである、20重量%~45重量%の水溶性ポリマー、
- 約0.8~2のSiO のM Oに対するモル比を有する、5重量%~20重量%のケイ酸ナトリウム又はケイ酸カリウム(MはNa及び/又はKである)、
- 0重量%~5重量%のさらなる添加剤、及び
- 35重量%~75重量%の水。
【請求項13】
ジオポリマー用の可塑剤としての、以下を含む粉末処方物である添加剤Aの使用:
それぞれ粉末処方物全体に基づいて、
- アルカリ金属イオンで完全に中和されている少なくとも1種のモノエチレン性不飽和カルボン酸のホモ-又はコポリマーである、50重量%~90重量%、好ましくは65重量%~85重量%の水溶性ポリマー、
- 1~約1.5ののSiO のM Oに対するモル比を有する、10重量%~50重量%、好ましくは15重量%~35重量%のケイ酸ナトリウム、及び
- 0重量%~5重量%のさらなる固体添加剤。
【請求項14】
前記水溶性ポリマーが、2,000~8,000g/モルの平均分子量M を有するポリアクリル酸のナトリウム塩であることを特徴とする、請求項12又は13に記載の使用。
【請求項15】
以下を含む、組成物:
- 少なくとも1種のアルミニウムケイ酸塩を含有する粉末成分、及び少なくとも1種のアルカリ金属ケイ酸塩S を含有する水性成分を含む、少なくとも1種のジオポリマー、並びに
- 請求項12~14のいずれか一項に記載の添加剤Aを含む可塑剤。
【請求項16】
前記ジオポリマーの前記粉末成分が、少なくとも10重量%のメタカオリンを含むことを特徴とする、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
前記ジオポリマーの前記粉末成分が、フライアッシュ及び/又は高炉スラグを含むことを特徴とする、請求項15又は16に記載の組成物。
【請求項18】
砂及び/又は砂利並びに/若しくはさらなる添加剤を追加的に含むことを特徴とする、請求項15~17のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジオポリマー、及びジオポリマーのための可塑剤の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
ジオポリマーは、セメント系建築材料の代替品として公知である。ジオポリマーは、環境に優しい建築材料であると考えられているが、その理由は、それらの出発物質の製造が、ポルトランドセメントの製造よりもはるかにより少ないCOを生じさせるからである。結合材としてジオポリマーを含有する建築材料は、硬化状態では、通常、ポルトランドセメントをベースとした建築材料よりもより良い化学安定性及びより良い熱安定性を有する。ジオポリマーは、一般にジオポリマー化反応で互いに反応する、ケイ酸アルミニウム成分及びアルカリ金属ケイ酸塩成分からなる。使用されるケイ酸アルミニウム成分には、フライアッシュ、スラグ及びメタカオリンが含まれる。
【0003】
しかしながら、ジオポリマーは、しばしば、特にそれらがメカオリンを含有する場合、処理するのが困難である。高い固体含量、又は少量の水を有するジオポリマーは、非常に粘性で、しばしば粘着性であり、したがって、処理するのが困難である。水の量の増加は処理性を改善するが、硬化後の強度及び耐久性に悪影響を与える。ジオポリマー化反応で水はまったく消費されないので、セメントなどの水硬化性結合材の場合と違って、例えば、処理に必要とされる水は、硬化後に大部分なお存在し、造形体が完全に乾いた後、造形体の強度及び耐久性を低下させる細孔を残す。
【0004】
高い強度及び耐久性を有するジオポリマーを得るためには、したがって、処理の過程で水の量を最小限に保つことが肝要であり、これは良好な可塑剤の使用によって容易化される。しかしながら、13超の高いpHのために、ジオポリマーのための適当な可塑剤の選択、及びその効果は限定される。
【0005】
米国特許出願公開第2012/0192765号明細書には、架橋ポリアクリル酸を含有し得る具体的なジオポリマーセメントが記載されている。架橋ポリアクリル酸は、典型的には溶液の粘度を増加させる。架橋ポリアクリル酸の処理効果は、まったく示されていない。
【0006】
国際公開第2010/079414号パンフレットには、可塑剤として、ポルトランドセメントベースのコンクリート混合物のため公知の可塑剤を含む、ジオポリマーが記載されている。しかしながら、この種の可塑剤は、ジオポリマーを適切に可塑化しない。
【0007】
国際公開第2011/072784号パンフレットには、水減少剤として炭水化物を含むジオポリマー組成物が記載されている。しかし、炭水化物は、ジオポリマーのセッティングをかなり遅延させ得る。
【0008】
国際公開第2015/049010号パンフレットには、とりわけ、有機酸、好ましくは酒石酸を含むジオポリマー組成物が記載されている。使用される可塑剤は、ポリカルボキシレートエーテル(PCE)である。しかし、ポリカルボキシレートエーテルは、高価であり、酒石酸はジオポリマーのセッティングをかなり遅延させ得る。
【0009】
Nematollahi and Sanjayan,Materials and Design 57(2014),pages 667-672には、フライアッシュベースジオポリマーのための可塑剤として、ポリカルボキシレートエーテル(PCE)、スルホン化ナフタレン縮合物及びメラミン縮合物の使用が記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来技術の不利点を克服する、ジオポリマー、特にメタカオリンを含有するジオポリマーのための強固で、安価な可塑剤に対する必要性が依然としてある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の目的は、硬化を著しく遅延させ過ぎ、又は最終強度を望ましくない程度に低下させることなく容易な処理可能性を長期間可能にする、ジオポリマーのための有効な可塑剤を提供することである。
【0012】
この目的は、意外にも、下記の態様1に記載されるとおりの添加剤Aの使用によって達成される。添加剤Aは、アルカリ金属イオンで部分的又は完全に中和されている少なくとも1種のモノエチレン性不飽和カルボン酸のホモ-又はコポリマーである少なくとも1種の水溶性ポリマーを含む。この種のポリマーは、ジオポリマーの可塑化に優れて適当なものである。同時に、それは、ジオポリマーの流れ特性を改善し、またそれらがより長い期間にわたって処理可能なままである結果も有する。アルカリ金属ケイ酸塩との組み合わせは、水溶性ポリマーの可塑化効果を明らかに増加させ、高い強度のジオポリマーを与え得る。水溶性ポリマーとアルカリ金属ケイ酸塩の両方は、商業的に容易に入手可能で、安価である。
【0013】
特に、メタカオリンを含有するジオポリマーは、処理するのが困難であり、かつ通常粘着性である。意外にも、本発明の添加剤Aは、メタカオリン含有ジオポリマーの可塑化に非常に良く適している。
【0014】
本発明のさらなる態様は、さらなる独立的態様の主題を形成する。本発明の特に好ましい実施形態は、従属的態様の主題を形成する。
本発明の態様として、以下の態様を挙げることができる:
《態様1》
ジオポリマー用の可塑剤としての、以下を含む添加剤Aの使用:
- アルカリ金属イオンで部分的又は完全に中和されている少なくとも1種のモノエチレン性不飽和カルボン酸のホモポリマー又はコポリマーである、少なくとも1種の水溶性ポリマー、及び
- 随意のアルカリ金属ケイ酸塩S
《態様2》
前記水溶性ポリマーが、アクリル酸のホモポリマー又はコポリマーであることを特徴とする、態様1に記載の使用。
《態様3》
前記水溶性ポリマーが、1,000~20,000g/モル、好ましくは1,000~10,000g/モル、より好ましくは2,000~8,000g/モルの範囲の平均分子量M を有することを特徴とする、態様1又は2に記載の使用。
《態様4》
前記水溶性ポリマーが、ナトリウム塩の形態であり、かつ2,000~8,000g/モルの範囲の平均分子量M を有する、アクリル酸のホモポリマーであることを特徴とする、態様1~3のいずれか一項に記載の使用。
《態様5》
前記添加剤Aが、少なくとも1種のアルカリ金属ケイ酸塩S を含むことを特徴とする、態様1~4のいずれか一項に記載の使用。
《態様6》
前記アルカリ金属ケイ酸塩S が、0.8~3.6、好ましくは0.8~2、より好ましくは0.8~1.5の範囲のSiO のM Oに対するモル比を有し、Mは、Na及び/又はKであることを特徴とする、態様5に記載の使用。
《態様7》
前記アルカリ金属ケイ酸塩S が、共に固体形態で計算して、前記水溶性ポリマー100重量部に基づいて、10~100重量部、より好ましくは15~80重量部、特には20~60重量部の量で存在することを特徴とする、態様5又は6に記載の使用。
《態様8》
前記添加剤Aが、水溶液、水性懸濁液、又は乾燥粉末若しくは湿潤粉末の形態であることを特徴とする、態様1~7のいずれか一項に記載の使用。
《態様9》
以下を含む、組成物:
- 少なくとも1種のアルミニウムケイ酸塩を含有する粉末成分、及び少なくとも1種のアルカリ金属ケイ酸塩S を含有する水性成分を含む、少なくとも1種のジオポリマー、並びに
- 態様1~8のいずれか一項に記載の添加剤Aを含む可塑剤。
《態様10》
前記ジオポリマーの前記粉末成分が、少なくとも10重量%のメタカオリンを含むことを特徴とする、態様9に記載の組成物。
《態様11》
前記ジオポリマーの前記粉末成分が、フライアッシュ及び/又は高炉スラグ、好ましくはフライアッシュを含むことを特徴とする、態様9又は10に記載の組成物。
《態様12》
前記添加剤Aが、ケイ酸ナトリウムであるアルカリ金属ケイ酸S を含有すること、かつ前記アルカリ金属ケイ酸塩S が、ケイ酸カリウムであることを特徴とする、態様9~11のいずれか一項に記載の組成物。
《態様13》
砂及び/又は砂利並びに/若しくはさらなる添加剤を追加的に含むことを特徴とする、態様9~12のいずれか一項に記載の組成物。
《態様14》
以下の工程を含む、造形体の製造方法:
- 態様9~13のいずれか一項に記載の組成物を提供する工程、
- 前記組成物の成分を混合する工程、
- 前記組成物を適用する工程、及び
- 前記組成物を硬化させる工程。
《態様15》
態様14に記載の方法から得られる物品。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、ジオポリマーの可塑剤としての、
- アルカリ金属イオンで部分的又は完全に中和されている少なくとも1種のモノエチレン性不飽和カルボン酸のホモ-又はコポリマーである少なくとも1種の水溶性ポリマー、及び
- 任意選択で、アルカリ金属ケイ酸塩S
を含む添加剤Aの使用を提供する。
【0016】
本文書における「水溶性ポリマー」は、標準圧力並びに2、7及び12の群からの少なくとも1つのpH下20℃で、水1リットル当たり少なくとも10gの溶解度を有するポリマーを意味すると理解される。
【0017】
これらの条件下の好ましい水溶性ポリマーは、水1リットル当たり100gの溶解度を有する。
【0018】
「モノエチレン性不飽和」有機化合物は、ちょうど1つの重合性炭素-炭素二重結合を有するものを意味する。
【0019】
「分子量」は、分子のモル質量(1モル当たりグラム単位の)を意味すると本文書で理解される。「平均分子量」は、分子のオリゴマー又はポリマー混合物の重量平均M又は数平均Mを意味する。それは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって決定される。
【0020】
本発明の添加剤Aは、アルカリ金属イオンで部分的又は完全に中和されている少なくとも1種のモノエチレン性不飽和カルボン酸のホモ-又はコポリマーである少なくとも1種の水溶性ポリマーを含む。この種のポリマーは、少なくとも1種のモノエチレン性不飽和カルボン酸の単独又は共重合によって得られ得る。本明細書でのモノエチレン性不飽和カルボン酸は、遊離酸の、又はアルカリ金属若しくはアルカリ土類金属の塩の形態であってもよく、ポリマーは、モノエチレン性不飽和カルボン酸が遊離酸の形態である場合、その後に部分的又は完全に中和される。コポリマーの場合、モノエチレン性不飽和カルボン酸は、他の不飽和カルボン酸と、及び/又は他の重合性、モノエチレン性不飽和モノマーと重合されていてもよい。この目的に適する不飽和カルボン酸は、特にアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、マレイン酸無水物、フマル酸、クロトン酸、又はイタコン酸である。適当な重合性、モノエチレン性不飽和モノマーは、特にアリルアルコール、エチレン、プロピレン、ビニルスルホン酸、メタアリルスルホン酸、アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、アクリルアミド、メタクリル酸のアルキルエステル、又はメタクリル酸のヒドロキシアルキルエステルである。
【0021】
水溶性ポリマーは、特に、架橋されていない線状又は分岐のポリマーである。水溶性ポリマーは、好ましくは線状ポリマーである。水溶性ポリマーは、特にフリーラジカル重合によって調製可能である。この目的に適する開始剤は、特にペルオキシド、ヒドロペルオキシド、ペルスルフェート、又はアゾ開始剤である。本明細書でのフリーラジカル重合は、好ましくは分子量を制御する条件下で、特にメルカプタン、アルカリ金属スルフィド、アルカリ金属ホスファイト、又はアルカリ金属ヒドロホスファイトの添加によって行われる。
【0022】
アルカリ金属スルファイト又はアルカリ金属ハイポホスファイトの存在下で水中フリーラジカル重合からの、少なくとも1種のモノエチレン性不飽和カルボン酸のホモ-又はコポリマーである水溶性ポリマーが好ましい。
【0023】
水溶性ポリマーはまた、「リビング」フリーラジカル重合によって調製されてもよい。
【0024】
好ましくは、水溶性ポリマーは、アクリル酸のホモ-又はコポリマー、特にアクリル酸のホモポリマー、又はアクリル酸とメタクリル酸とのコポリマー若しくはアクリル酸とマレイン酸とのコポリマーである。より好ましくは、水溶性ポリマーは、ポリアクリル酸、又はアクリル酸とマレイン酸とのコポリマーである。
【0025】
最も好ましくは、水溶性ポリマーは、ポリアクリル酸である。ポリアクリル酸は、容易に入手可能で、かつ安価であり、可塑剤として特に良好な効果を示す。
【0026】
水溶性ポリマーは、好ましくは1,000~20,000g/モル、より好ましくは1,000~10,000g/モル、特には2,000~8,000g/モルの範囲の、平均分子量Mを有する。このようなポリマーは、ジオポリマーの処理性、硬化、又は圧縮強度に対して厳し過ぎる悪影響を与えることなく、可塑剤として良好な効果を示す。より高いか、又はより低い分子量を有するポリマーは、望ましくない仕方で処理可能性を悪化させ、及び/又は圧縮強度を低下させる。より低い分子量を有するポリマーは追加的に、不適切な可塑化作用を示し、及び/又はジオポリマーの硬化を望ましくない程度に遅延させる。
【0027】
好ましくは、水溶性ポリマーの酸基の20%~100%、より好ましくは50%~100%、特には80%~100%は、中和されている。このようなポリマーは、とりわけ、フロック化又はゲル形成なしに、ジオポリマーと特に十分に混合され得る。
【0028】
中和は、特に水酸化ナトリウム及び/又は水酸化カリウムによって行われる。好ましい実施形態では、水溶性ポリマーは、ポリアクリル酸のナトリウム塩又はカリウム塩、好ましくはナトリウム塩である。
【0029】
さらに好ましい実施形態では、水溶性ポリマーは、アクリル酸とメタクリル酸とのコポリマーのナトリウム塩又はカリウム塩、好ましくはナトリウム塩である。
【0030】
さらに好ましい実施形態では、水溶性ポリマーは、アクリル酸とマレイン酸とのコポリマーのナトリウム塩又はカリウム塩、好ましくはナトリウム塩である。
【0031】
適当な水溶性ポリマーは、市販されており、特にBASF製のSokalan(登録商標)CP又はSokalan(登録商標)PAである。
【0032】
特に好ましい実施形態では、水溶性ポリマーは、ナトリウム塩の形態での、及び2,000~8,000g/モルの範囲の平均分子量Mを有する、アクリル酸のホモポリマーである。
【0033】
添加剤Aは、ジオポリマーのための可塑剤として使用される。この目的のために、それは、好ましくは、水溶性ポリマーが、固体形態で計算されて、ジオポリマー中に存在するケイ酸アルミニウムの100重量部に対して、1~10重量部、好ましくは1.1~8重量部、より好ましくは1.2~5重量部の量で存在するような量で使用される。
【0034】
添加剤Aのこのような量は、ジオポリマーの非常に良好な処理可能性をもたらす。
【0035】
好ましい実施形態では、添加剤Aは、少なくとも1種のアルカリ金属ケイ酸塩Sを含む。添加剤A中でのアルカリ金属ケイ酸塩Sと水溶性ポリマーとの組み合わせは、水溶性ポリマーそれ自体よりもより高い可塑化効果を示す。さらに、アルカリ金属ケイ酸塩Sは、ジオポリマーの強度の上昇を可能にする。
【0036】
アルカリ金属ケイ酸塩は、水ガラスとも称され、式MO*nSiO(式中、Mは、Na、K又はLiであり、nは、SiO対MOの比である)の物質である。商業的アルカリ金属ケイ酸塩は、典型的には約0.5~4の範囲のnの値を有する。水に溶解されたアルカリ金属ケイ酸塩は、アルカリ性の、透明な、コロイド溶液又はゲルである。アルカリ金属ケイ酸塩には、オルトケイ酸塩MSi(n=0.5である)、及びメタケイ酸塩MSi(n=1である)も含まれる。
【0037】
好ましい実施形態では、アルカリ金属ケイ酸塩Sは、ケイ酸ナトリウム又はケイ酸カリウムである。
【0038】
0.8~3.6、好ましくは0.8~2、より好ましくは0.8~1.5の範囲のSiO対MOのモル比(ここで、Mは、Na及び/又はKである)を有する、アルカリ金属ケイ酸塩Sが好ましい。このようなアルカリ金属ケイ酸塩Sは、とりわけ粉末形態での、特に良好な貯蔵安定性を有する添加剤Aを可能にする。さらに、それは、可塑剤として特に良好な効果を示し、かつ特に硬化ジオポリマーの高い強度を可能にする。
【0039】
好ましいアルカリ金属ケイ酸塩Sは、SiO対NaOの比1を有する。
【0040】
添加剤A中のアルカリ金属ケイ酸塩Sの適当な量は、ジオポリマー及び水溶性ポリマーの組成に依存し、したがって、変わってもよい。好ましくは、アルカリ金属ケイ酸塩Sは、両方とも固体形態で計算されて、水溶性ポリマー100重量部に基づいて、10~100重量部、より好ましくは15~80重量部、特には20~60重量部の量で存在する。
【0041】
添加剤Aは、水溶液、水性懸濁液、又は乾いたか、若しくは湿った粉末の形態であってもよい。
【0042】
水溶液又は水性懸濁液としての使用は、簡単で、良好な投与、及びジオポリマーとの混合を可能にする。ある割合の溶解された添加剤Aを有するか、又は25重量%~75重量%、特には30重量%~65重量%の固体含量を有する水溶液又は懸濁液が好ましい。
【0043】
このような溶液又は懸濁液は、特に効率的に取り扱い及び貯蔵することができる。
【0044】
粉末形態での使用は、添加剤Aの貯蔵安定性が特に良好であり、ジオポリマー中の特に低い水量を可能にする利点を有する。ジオポリマー中の高い水含量は、強度の低下をもたらし得る。
【0045】
水溶液の形態では、添加剤Aは、特に簡単な仕方で製造され得る。水溶性ポリマーは、水に溶解させることができるか、又は既に水溶液の形態である。アルカリ金属ケイ酸塩Sがさらに存在する場合、添加剤Aは、水溶性ポリマーの水溶液とアルカリ金属ケイ酸塩Sの水溶液とを水溶液として混合することによって、又は固体アルカリ金属ケイ酸塩Sを水溶性ポリマーの水溶液に溶解させることによって調製され得る。
【0046】
粉末形態では、添加剤Aは、特に、水溶性ポリマーが固体形態であり、かつ要望されるならば、固体アルカリ金属ケイ酸塩Sと混合されることで、又は水溶液の形態での添加剤Aを乾燥させることによって、例えば、任意選択で担体材料と一緒に、凍結乾燥又はスプレー乾燥することによって、任意選択で、その後に粉砕して、微粉末を得ることによって調製され得る。
【0047】
添加剤Aは、水溶性ポリマー及び任意選択でアルカリ金属ケイ酸塩Sの他に、さらなる原料を含んでもよい。適当なさらなる原料は、特に有機酸又はヒドロキシカルボン酸、例えば、特に、アジピン酸、コハク酸、マレイン酸、酒石酸、クエン酸、サリチル酸若しくはグルコン酸、又はそれらのアルカリ金属塩、及びまた、通例のセメント可塑剤、例えば、特に、リグノスルホン酸塩、スルホン化メラミン縮合物、スルホン化ナフタレン縮合物、又はポリカルボキシレートエーテルである。
【0048】
好ましい実施形態では、添加剤Aは、それぞれの場合に水性処方物全体に基づいて、
- 2,000~8,000g/モルの平均分子量Mを有する、20重量%~45重量%の記載されたとおりの水溶性ポリマー、特にポリアクリル酸のナトリウム塩、
- 約0.8~2のモル比SiO対MOを有する、5重量%~20重量%のケイ酸ナトリウム又はケイ酸カリウム、
- 0重量%~5重量%のさらなる添加剤、及び
- 35重量%~75重量%の水
の水性処方物である。
【0049】
さらに好ましい実施形態では、添加剤Aは、それぞれの場合に粉末処方物全体に基づいて、
- 2,000~8,000g/モルの平均分子量Mを有する、50重量%~90重量%、好ましくは65重量%~85重量%の記載されたとおりの水溶性ポリマー、特にポリアクリル酸のナトリウム塩、
- 1~約1.5のモル比SiO対MOを有する、10重量%~50重量%、好ましくは15重量%~35重量%のケイ酸ナトリウム、及び
- 0重量%~5重量%のさらなる固体添加剤
の粉末処方物である。
【0050】
添加剤Aは、ジオポリマーのための可塑剤として使用する。
【0051】
適当なジオポリマーは、特に
- 少なくとも1種のケイ酸アルミニウムを含む粉末成分、及び
- 混合後に硬化して固体本体を与える、少なくとも1種のアルカリ金属ケイ酸塩Sを含む水性成分
からなる。
【0052】
ジオポリマーがそれによって生成性である、すべてのアルミニウムケイ酸塩が、この目的に適する。
【0053】
特に、適当なケイ酸アルミニウムは、クレー、焼成クレー、フライアッシュ、高炉スラグ、アルミニウムスラグ、ゼオライト、長石、又はそれらの混合物である。
【0054】
好ましいケイ酸アルミニウムは、クレー、焼成クレー、フライアッシュ、及び高炉スラグからなる群から選択される。これらの中で、フライアッシュ及び高炉スラグを含む混合物が好ましく、フライアッシュ及び/又は高炉スラグと、焼成クレー、特にメタカオリンとの混合物が特別好ましく、メタカオリンとフライアッシュとの混合物がとりわけ好ましい。メタカオリンの原料の組成は、製造バッチごとにほんのわずかに変わるのみであり、これは、これらのジオポリマーの特定の利点を構成する。メタカオリンと、フライアッシュ及び/又は高炉スラグとの混合物は、高い安定性及び強度を有するジオポリマーの製造に特に良く適するものである。
【0055】
「クレー」は、風化過程で形成される、水含有ケイ酸アルミニウムを意味する。クレーには、カオライト、ベントナイト、一般クレー、及びカオリナイトクレーが含まれる。
【0056】
「焼成クレー」は、典型的には600~850℃での、クレー鉱物の焼成からの反応生成物を意味する。
【0057】
「メタカオリン」は、典型的には600~850℃での、クレー鉱物カオリンの焼成からの反応生成物を意味する。メタカオリンの、通常は小板形態の、得られた構造は、このようなジオポリマーを粘着性にし処理するのに困難にする。
【0058】
適当なメタカオリンは、例えば、Newchem AG,Switzerlandから市販されている。
【0059】
「フライアッシュ」は、微粉末の形態で廃棄空気から濾過して除去される、石炭火力発電所からの副生成物を意味する。適当なフライアッシュは、例えば、BauMineral GmbH,Germanyから市販されている。
【0060】
鋳物砂とも呼ばれる、「高炉スラグ」は、溶融材料の冷却及び硬化のプロセスによる異なる種のスラグの形成と共の、鉄の製造での非金属副生成物を意味する。高炉スラグは、特に微粉末の形態で使用される。適当な高炉スラグは、例えば、HeidelbergCement AG,Germanyから市販されている。
【0061】
「アルミニウムスラグ」は、アルミニウム含有鉱物、特にボーキサイトからの、アルミニウム製造における中間体である、酸化アルミニウムの回収で得られる廃棄生成物を意味する。アルミニウムスラグは、赤泥とも称される。
【0062】
好ましくは、添加剤Aは、粉末成分が、100重量%の粉末成分に基づいて、少なくとも10重量%、特には10重量%~60重量%のメタカオリンを含む、ジオポリマーのための可塑剤として使用される。
【0063】
産業からの副生成物、例えば、フライアッシュ又はスラグとして得られるケイ酸アルミニウム中の原料の組成は、しばしば製造バッチから製造バッチに有意に変わる。メタカオリンの原料の組成は、製造バッチごとにほんのわずかに変わるのみであり、これは、これらのメタカオリンを含有するジオポリマーの特定の利点を構成する。
【0064】
粉末成分中のケイ酸アルミニウムがメタカオリンのみを含有するジオポリマーは一般に、同量の水を含有するが、粉末成分中のケイ酸アルミニウムがフライアッシュ及び/又はスラグも含む、ジオポリマーよりも処理するのがあまり容易でない。
【0065】
好ましくは、ジオポリマーの粉末成分は、100重量%のケイ酸アルミニウムに基づいて、10重量%以下、より好ましくは5重量%以下の、セメント又は石膏を含み;最も好ましくは、粉末成分は、セメント及び石膏を含まない。
【0066】
特に好ましくは、ジオポリマー中の粉末成分は、ケイ酸アルミニウムのみを含む。
【0067】
これは、ジオポリマーの粉末成分の貯蔵安定性を増加させ;具体的には、水感受性が低く、硬化後のジオポリマーのより良い水安定性及び化学安定性に寄与し得る。
【0068】
好ましくは、粉末成分中の全ケイ酸アルミニウムについて平均値として計算された、ケイ酸アルミニウムのメジアン粒子サイズD50は、イソプロパノール中静的光散乱法により測定され、かつ超音波の助けで分散されて、1μm~300μm、より好ましくは2μm~250μm、さらにより好ましくは3μm~200μm、特に好ましくは5μm~150μm、最も好ましくは8μm~100μm、特に好ましくは10μm~50μmである。
【0069】
平均粒子サイズが1μm未満である場合、ジオポリマーの良好な処理性に必要とされる水の量は、明らかに増加される。しかしながら、多量の水は、硬化後のジオポリマーから製造される造形体の強度及び耐久性を低下させる。平均粒子サイズが300μm超である場合、ケイ酸アルミニウムの反応性は低く、ジオポリマー化は、遅く及び/又は不完全である。
【0070】
添加剤A中に任意選択で存在する適当なアルカリ金属ケイ酸塩Sとして既にあるものは、アルカリ金属ケイ酸塩Sとして同様に適当である。
【0071】
好ましくは、アルカリ金属ケイ酸塩Sは、0.8~2.4、より好ましくは1.0~2.0、特には1.4~2.0、特に好ましくは1.4~1.8の範囲でSiO対MOのモル比を有する。この好ましい比は、例えば、NaOH又はKOHの添加により確立されていてもよい。
【0072】
好ましくは、アルカリ金属ケイ酸塩Sは、ケイ酸カリウム及び/又はケイ酸ナトリウム、特にケイ酸カリウムである。
【0073】
意外にも、アルカリ金属ケイ酸塩Sとしてケイ酸カリウムを含有するジオポリマーは、はるかにより良好な処理性を有し、アルカリ金属ケイ酸塩Sとしてケイ酸ナトリウムを含有するジオポリマーよりも、あまり強靭及び粘着性でないことが知られている。
【0074】
好ましくは、アルカリ金属ケイ酸塩Sは、0.8~2.4、より好ましくは1.0~2.0、特には1.4~2.0、特により好ましくは1.4~1.8のSiO対KOの比を有するケイ酸カリウムである。
【0075】
このようなアルカリ金属ケイ酸塩を有するジオポリマーは、良好な処理性を有し、かつ急速に硬化する。
【0076】
本発明はさらに、
- 少なくとも1種のケイ酸アルミニウムを含む粉末成分及び少なくとも1種のアルカリ金属ケイ酸塩Sを含む水性成分を含む、少なくとも1種のジオポリマー、並びに
- 上に記載されたとおりの添加剤Aを含む可塑剤
を含む組成物を提供する。
【0077】
添加剤Aは、組成物の処理においてジオポリマーに対して良好な可塑化効果を発揮する。結果として、ジオポリマーは、少量の水によって効率的に処理することができ、これは、特に高い強度を可能にする。
【0078】
可塑剤は、ジオポリマーの、粉末成分の構成成分としてか、又は水性成分の構成成分として、又は別個の成分として存在してもよい。好ましくは、可塑剤は、組成物の処理の過程でのみジオポリマーの成分と混合される別個の成分の形態である。
【0079】
メタカオリンを含有するジオポリマーは、処理の関連で特に要求が厳しい。このようなジオポリマーは、典型的には比較的粘着性であり、したがって、処理するのが困難であり、これは、良好な可塑剤が特に重要であることを意味する。
【0080】
好ましくは、組成物中のジオポリマーの粉末成分は、100重量%の粉末成分に基づいて、少なくとも10重量%、特には10重量%~60重量%のメタカオリンを含む。
【0081】
好ましくは、組成物中のジオポリマーの粉末成分は、フライアッシュ及び/又は高炉スラグ、特にフライアッシュを含む。
【0082】
より好ましくは、ジオポリマーの粉末成分は、メタカオリンとフライアッシュとの混合物を含み、ここで、メタカオリン成分は、メタカオリン及びフライアッシュの総合計に基づいて、好ましくは10重量%~60重量%、特には30重量%~50重量%である。
【0083】
ケイ酸アルミニウムとしてフライアッシュのみを含有するジオポリマーは、非常に遅い強度の進展を有する。
【0084】
さらに好ましくは、ジオポリマーの粉末成分は、メタカオリン、フライアッシュ及び高炉スラグの混合物を含み、メタカオリン成分は、メタカオリン、フライアッシュ及び高炉スラグの総合計に基づいて、30重量%~60重量%である。
【0085】
高炉スラグがジオポリマーの粉末成分中に存在する場合、高炉スラグの割合は、粉末成分中の100重量%の全ケイ酸アルミニウムの総合計に基づいて、好ましくは20重量%~40重量%、より好ましくは25重量%~35重量%である。
【0086】
適当と既に述べられたアルカリ金属ケイ酸塩Sは、同様にアルカリ金属ケイ酸塩Sとして適当である。
【0087】
好ましくは、アルカリ金属ケイ酸塩Sは、0.8~2.4、より好ましくは1.0~2.0、特には1.4~2.0、特に好ましくは1.4~1.8の範囲でSiO対MOのモル比を有する。この好ましい比は、例えば、NaOH又はKOHの添加により確立されていてもよい。SiO対MOの比が0.8以下の領域である場合、ジオポリマーの処理時間は非常に短く成り得、かつジオポリマーは非常にアルカリ性であり、これはユーザに対して安全リスクの上昇を構成する。SiO対MOの比が2.4超である場合、特に硬化が熱の供給なしに行われる場合、ジオポリマー化反応は非常に遅く、したがって、製造される造形体は、しばしば、24時間後でさえも依然として固体でない。
【0088】
好ましくは、アルカリ金属ケイ酸塩Sは、ケイ酸カリウム及び/又はケイ酸ナトリウム、特にケイ酸カリウムである。
【0089】
好ましくは、ジオポリマーの水性成分は、30重量%~50重量%のアルカリ金属ケイ酸塩Sを含む。
【0090】
本発明の特に好ましい実施形態では、添加剤Aがアルカリ金属ケイ酸塩Sを含む場合、ジオポリマーの水性成分中このアルカリ金属ケイ酸塩S及びアルカリ金属ケイ酸塩Sは、存在するアルカリ金属に関連して異なる。好ましくは、存在するアルカリ金属ケイ酸塩Sはケイ酸ナトリウムであり、存在するアルカリ金属ケイ酸塩Sはケイ酸カリウムである。このような組成物は、特に良好な処理性、及び硬化後の強度を示す。
【0091】
組成物は、ジオポリマー及び添加剤Aだけからなってもよく、例えば、注入用にそのままで使用されてもよいか、又はそれはさらなる原料を含んでもよい。好ましくは、組成物は、砂及び/若しくは砂利、並びに/又はさらなる添加剤を追加的に含む。このような組成物は、モルタル、コンクリート、下塗り(render)、上塗り(grout)、又はコーティングとして特に適当である。
【0092】
本明細書での可塑剤は、特に、ジオポリマーの粉末成分の100重量部当たり、固体形態で計算された、2~7重量部の可塑剤があるような量で存在する。
【0093】
組成物は、組成物の成分をすべて一緒に混合することによって処理される。より特には、ジオポリマーの粉末成分及び水性成分、並びに可塑剤は、互いに同時に混合されるか、又はジオポリマーの粉末成分及び水性成分が最初に互いに混合され、可塑剤は、その直後に混合ジオポリマーに添加され、十分に混合される。
【0094】
好ましくは、可塑剤は、別個の成分として存在し、ジオポリマーの新たに混合された成分中に混合される。この処理様式は、特に良好な可塑化を可能にする。
【0095】
ジオポリマーの成分の混合は、好ましくはモルタル製造で通例の混合器具で行われる。特に成分の激しい混合又は追加的な粉砕は、ジオポリマーの処理及び使用にとって有利でない。時間及びエネルギーの負担のかかる過剰に長くかつ過剰に激しい混合は、混合物中への空気の流入を望ましくなく増加させ、ジオポリマー化反応を妨げ得る。
【0096】
ジオポリマーの混合時間は、好ましくは6分以下、より好ましくは5分以下、さらにより好ましくは4分以下、特に好ましくは3分以下である。
【0097】
混合された組成物は、適当にはそれが良好な形成性を有する期間内で、所望の形状に変換される。
【0098】
粉末成分と水性成分との接触は、化学反応によるジオポリマーの硬化を開始させる。これは、3次元無機ポリマー構造の形成と共にSi-O-Al-O結合を形成し、これは、塊の硬化を最終的にもたらして、固体を与える。
【0099】
組成物の硬化は、典型的には10~120℃の温度で進行する。周囲温度、特に20~35℃の範囲の温度での硬化が好ましい。
【0100】
本発明はさらに、造形体の製造方法であって、
- 上に記載されたとおりの少なくとも1種のジオポリマー及び少なくとも1種の可塑剤を含む組成物を提供する工程と、
- 組成物の成分を混合する工程と、
- 組成物を適用する工程と、
- 組成物を硬化させる工程と
を含む、方法を提供する。
【0101】
本明細書での造形体は、特に3次元形状を有する。
【0102】
この方法は、硬化組成物を含む物品を得るために使用される。
【0103】
本発明はさらに、このような物品を提供する。
【0104】
造形体又は物品は、好ましくは建築物又は建築構造の構成要素、特にシェル、壁、床、コーティング、スクリード又は嵌め込み(filling)を構成する。
【実施例
【0105】
作業実施例が以下に提示されるが、それらは、詳細に記載された本発明を明らかにすることが意図される。本発明はこれらの記載される作業実施例に限定されないことが理解される。
【0106】
「GP」は、「ジオポリマー混合物」を意味する。
【0107】
「Ref.」は、「参照実施例」を意味する。
【0108】
「Ex.」は、「実施例」を意味する。
【0109】
試験方法の説明
溶液の固体含量は、Mettler Toledoからのハロゲン乾燥機を用いて決定した。
【0110】
アルカリ金属ケイ酸塩溶液のSiO、NaO及びKO含量、並びにアルカリ金属ケイ酸塩含量は、製造者のデータシートから取った。
【0111】
ポリマーの平均分子量Mは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって決定した。
【0112】
GPC測定条件
カラム:PSS Polymer Standards Service、独国からの、PSS Suprema 10μm、2×1000Å、1×30Å、すべて8×300mm(プレカラム付き)
溶離液:NaOHでpH12に調整した0.1N NaNO
流量:0.8mL/分
温度(カラムオーブン及び検出器):45℃
インライン脱ガス装置AF、Waters
ポンプ:Varian Pro Star Model 220
検出器:Waters 2414 RI検出器
標準:PSS Polymer Standards Serviceからのポリメタクリル酸ナトリウム塩 M1,220、3,180、8,210、34,900,163,000
標準の濃度、溶離液中に溶解:1mg/mL
固体形態で計算された試料の濃度、溶離液中に溶解:10mg/mL
評価ソフトウェア:Breeze(商標)2、Waters
【0113】
組成物は、以下のとおりに試験した:
スランプは、EN 1015-3どおりに決定した。表中の値は、スランプコーンの上昇かつフローテーブルのリフトなしのフロー移動の最後待ちの直後のモルタルの直径に基づく。スランプは、組成物の流動性の尺度として役立ち、高いスランプは、組成物の高い流動性又は存在する可塑剤の良好な効果を示す。スランプは、直後に、並びに適切であれば、モルタルの混合10分、20分、30分及び45分後に決定した。
【0114】
硬化組成物の圧縮強度の決定のために、4×4×16cmのプリズムを生成させ、24時間後に脱型し、20℃及び65%相対空気湿度で保存し、EN 196-1どおりに試験した。
【0115】
使用した材料
Metaver(登録商標)R、メタカオリン、Newchem,Switzerland
Metastar(商標)501、メタカオリン、Imeys,USA
EFA(登録商標)-Fueller、フライアッシュ、BauMineral,Germany
SH20鋳物砂、高炉スラグ、HeidebergCement,Germany
Untervaz鋳物砂、高炉スラグ、Hoicim,Switzerland
WG-1:アルカリ金属ケイ酸塩含量41重量%及びSiO/KOモル比3を有するケイ酸カリウム水溶液、
WG-2:アルカリ金属ケイ酸塩含量48重量%及びSiO/KOモル比1を有するケイ酸カリウム水溶液、
WG-3:アルカリ金属ケイ酸塩含量30重量%及びSiO/KOモル比2を有するケイ酸カリウム水溶液、
WG-4:アルカリ金属ケイ酸塩含量45重量%及びSiO/KOモル比1.5を有するケイ酸カリウム水溶液、
WG-5:アルカリ金属ケイ酸塩含量42.6重量%及びSiONa Oモル比1.5を有するケイ酸ナトリウム水溶液、
NaMS:メタケイ酸ナトリウム五水塩、Sigma Aldrich,Switzerland、
PA-15:Sokalan(登録商標)(BASF製)、ポリアクリル酸ナトリウム塩、M=2,400g/モル、水溶液の固体含量45重量%、pH(10%溶液)8、
PA-25:Sokalan(登録商標)PA25 XS(BASF製)、ポリアクリル酸、M=4,000g/モル、水溶液の固体含量49重量%、pH2.8、
PA-40:Sokalan(登録商標)PA40(BASF製)、ポリアクリル酸ナトリウム塩、M=14,500g/モル、水溶液の固体含量35重量%、pH7、
PA-70:Sokalan(登録商標)PA70PN(BASF製)、ポリアクリル酸ナトリウム塩、M=43,800g/モル、水溶液の固体含量30重量%、pH5、
PA-80:Sokalan(登録商標)PA80S(BASF製)、ポリアクリル酸、M=79,500g/モル、水溶液の固体含量35重量%、pH(10%溶液)2、
Dolapix SPC7(Zschimmer & Schwartz Chemische Fabriken)、分散剤及び可塑剤、固体含量52重量%を有し、カルボキシル基を有する水溶性ポリマー(平均分子量M3,200g/モルを有する)及びケイ酸ナトリウムを含有する水溶液、pH13、2013からの試験品、
ケイ砂:Quarzwerke Austria,Austria。
【0116】
表1~表7の結果の評価では、メタカオリン及びフライアッシュの新しいバッチごとに、これらの原料、特にフライアッシュ、の組成の変化のために、ジオポリマー組成は、特性を変化させており、場合によっては、調整されなければならなかったことを考慮に入れることが重要である。この調整は、アルカリケイ酸塩の量及びKOHの量のわずかな変化によって行った。試験シリーズの範囲内で、それぞれの場合に、メタカオリン及びフライアッシュの同一バッチによって、同じジオポリマー組成を使用した。これにより、参照例1、参照例12及び参照例13の異なる値が説明される。
【0117】
試験シリーズ1-メタカオリン及びフライアッシュから構成されるジオポリマーの作業性及び硬化
Metaver(登録商標)R及びEFA(登録商標)Fueller HPを、表1に特定される量でHobart製強制ミキサ中に導入し、この粉末をレベル1で1分間混合した。30秒以内に、レベル1で撹拌しながら、348gのWG-4及び10gの水を添加した。混合を、レベル1でさらに30秒間、次いで、レベル2でさらに2分間継続した。ジオポリマーが湿潤混合物のこれらの混合時間3分後に十分に均一でない場合、混合物が均一になるまで、しかし、8分間以内で継続した。その後、各組成物のスランプを決定した。結果を表1に報告する。
【0118】
【表1】
【0119】
試験シリーズ2:ケイ酸ナトリウム/ケイ酸カリウムと共のジオポリマーの作業性
259.5gのMetaver(登録商標)R及び604.5gのEFA(登録商標)Fueller HPを、Hobart製強制ミキサ中レベル1で1分間混合した。30秒以内に、撹拌を継続しながら、表2に従う水ガラス(WG-4又はWG-5)及び水を添加した。混合を、レベル1でさらに30秒間、次いで、レベル2でさらに2分間継続した。ジオポリマーが湿潤混合物のこれらの混合時間3分後に十分に均一でない場合、混合物が均一になるまで、しかし、8分間以内で継続した。その後、各組成物のスランプを決定した。結果を表2に報告する。
【0120】
【表2】
【0121】
試験シリーズ3-比較のセメント及び石膏のための商業的可塑剤の可塑化作用の試験
329g(21.9重量部)のMetaver(登録商標)R及び767g(51.1重量部)のEFA(登録商標)Fueller HPを、Hobart製強制ミキサ中レベル1で1分間混合した。30秒以内に、撹拌を継続しながら、348g(23.2重量部)のWG-1及び56g(3.7重量部)の50重量%KOH水溶液の溶液を添加した。さらに30秒以内に、表3に従う可塑剤を特定された投与量で添加し、この組成物をレベル2でさらに2~3分間混合した。その後、各組成物のスランプを決定した。結果を表3に報告する。
【0122】
【表3】
【0123】
試験シリーズ4-ポリアクリル酸及びポリアクリル酸とアルカリ金属ケイ酸塩との混合物の可塑化作用の試験
ジオポリマーを試験シリーズ3に類似して調製した。それぞれの場合にこのジオポリマーに、表4で特定された可塑剤を特定された投与量で添加し、組成物のスランプを試験シリーズ3について記載されたとおりに決定した。
【0124】
使用した可塑剤は、以下のとおりに生成させた:
PA-25 pH2.8:PA-25を水で37.7重量%の固体含量に希釈した。
PA-25 pH8:PA-25をNaOHの添加でpH8に調整し、固体含量は、水の添加で37.7重量%に調整した。
【0125】
実施例4~実施例6について、表4に従って、特定された量のメタケイ酸ナトリウム五水塩(NaMS)を、特定されたPA-25 pH8の量で混合し、この混合物を可塑剤として使用した。
【0126】
【表4】
【0127】
試験シリーズ5-ポリアクリル酸及びポリアクリル酸とアルカリ金属ケイ酸塩との混合物の可塑化作用の試験
以下の組成を有するジオポリマーを、試験シリーズ3に類似して調製した:
21.6重量部のMetaver(登録商標)R
50.4重量部のEFA(登録商標)Fueller HP
21.2重量部のWG-1
6.8重量部のKOH(50%水溶液)。
【0128】
それぞれの場合にこのジオポリマーに、表5で特定された可塑剤を添加し、組成物のスランプを試験シリーズ3について記載されたとおりに決定した。
【0129】
使用した可塑剤は、以下のとおりに生成させた:
【0130】
それぞれのポリアクリル酸溶液をNaOHの添加によってpH13に調整し、そのまま実施例9~実施例12で使用した。実施例13~実施例16では、ポリアクリル酸溶液100gに基づいて、それぞれの場合に17.2gのメタケイ酸ナトリウム五水塩(NaMS)も、pH13のポリアクリル酸溶液中に混合した。
【0131】
使用した可塑剤は、3.0重量部のポリアクリル酸固体が、ジオポリマーの粉末成分(メタカオリン及びフライアッシュ)100重量部当たりに存在するように投与した。
【0132】
【表5】
【0133】
試験シリーズ6-フロー特性及び強度の進展に関するポリアクリル酸及びポリアクリル酸とアルカリ金属ケイ酸塩との混合物の効果の試験
以下の組成を有するジオポリマーを、試験シリーズ3に類似して調製した:
21.6重量部のMetaver(登録商標)R
50.4重量部のEFA(登録商標)Fueller HP
21.2重量部のWG-1
3.4重量部のKOH粉末。
このジオポリマーの場合、粉末形態のKOHをWG-1に溶解させた。
【0134】
参照混合物の参照例13並びに実施例17及び実施例18について、3.4重量部の水も添加した。実施例19~実施例22については、可塑剤中のアルカリ金属ケイ酸塩溶液により導入された水の量を補償するために、単に1.6重量部の水を添加した。
【0135】
それぞれの場合にこのジオポリマーに、試験シリーズ3について記載されたとおりに、表6で特定された可塑剤を添加し、組成物のスランプ及び圧縮強度を決定した。
【0136】
使用した可塑剤は、以下のとおりに生成させた:
【0137】
それぞれのポリアクリル酸溶液をNaOHの添加によってpH13にさせ、固体含量を水の添加によって31重量%に調整し、それを実施例17及び実施例18のためにそのまま使用した。実施例19~実施例22について、ポリアクリル酸溶液100重量部に基づいて11.2重量部の固体アルカリ金属ケイ酸塩の量が存在するような表6に従うアルカリ金属ケイ酸塩溶液、WG-2又はWG-3の十分量を、pH13及び固体含量31重量%のポリアクリル酸溶液中に混合した。
【0138】
使用した可塑剤は、3重量部のポリアクリル酸固体が、ジオポリマーの粉末成分(メタカオリン及びフライアッシュ)100重量部当たりに存在するように投与した。
【0139】
【表6】
【0140】
試験シリーズ7-フロー特性及び強度の進展に関するポリアクリル酸とアルカリ金属ケイ酸塩との混合物の効果の試験
440gのMetaver(登録商標)R、440gのMetastar(商標)501、240gのEFA(登録商標)Fueller HP、240gのSH20鋳物砂、240gのUntervaz鋳物砂、197gの0.06~0.3mmケイ砂、265gの0.1~0.6mmケイ砂、348gの0.3~0.9mmケイ砂、386gの0.7~1.2mmケイ砂、513gの1.5~2.2mmケイ砂、及び688gの2.0~3.2mmケイ砂を、Hobart製強制ミキサ中レベル1で1分間混合した。30秒以内に、撹拌を継続しながら、1120gのWG-4を添加した。さらに30秒以内に、表7に従う可塑剤を特定された投与量で添加し、この組成物をレベル2でさらに2~3分間混合した。その後、組成物のスランプを決定した。結果を表7に報告する。
【0141】
【表7】