(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-23
(45)【発行日】2022-05-31
(54)【発明の名称】炭化ケイ素フィルター膜および使用方法
(51)【国際特許分類】
B01D 69/00 20060101AFI20220524BHJP
B01D 71/02 20060101ALI20220524BHJP
C22B 25/00 20060101ALI20220524BHJP
【FI】
B01D69/00
B01D71/02
C22B25/00 101
(21)【出願番号】P 2020500046
(86)(22)【出願日】2018-07-03
(86)【国際出願番号】 US2018040698
(87)【国際公開番号】W WO2019010169
(87)【国際公開日】2019-01-10
【審査請求日】2020-01-30
(32)【優先日】2017-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505307471
【氏名又は名称】インテグリス・インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】スコギンス、トロイ
(72)【発明者】
【氏名】ラシェド、アブアゲラ
【審査官】高橋 成典
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/097661(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0121272(US,A1)
【文献】特開昭64-058305(JP,A)
【文献】国際公開第2011/040561(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0100910(US,A1)
【文献】特開2002-143655(JP,A)
【文献】特開2013-237015(JP,A)
【文献】特開昭58-196818(JP,A)
【文献】国際公開第2017/007709(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第101920142(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0174040(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第102633531(CN,A)
【文献】特開2010-199560(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 61/00 - 71/82
H05G 1/00 - 2/00
C04B 35/00 - 35/047
35/053- 35/106
35/109- 35/22
35/45 - 35/457
35/547- 35/553
C22B 25/00 - 25/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細な細孔寸法及び15~27パーセントの多孔度を有する微細多孔質炭化ケイ素からなる微細膜層と、
粗い細孔寸法及び15~22パーセントの多孔度を有する粗い多孔質炭化ケイ素からなる粗膜層であって、前記粗い細孔寸法は前記微細な細孔寸法よりも大きい前記粗膜層と
からなり、
前記微細膜層は、前記粗膜層の上流側に配置されている、液体スズを濾過するための多層多孔質炭化ケイ素フィルター膜。
【請求項2】
前記微細多孔質炭化ケイ素の平均細孔寸法は2ミクロン未満である、請求項1に記載の膜。
【請求項3】
前記粗膜層の細孔寸法は2ミクロンより大きい、請求項1に記載の膜。
【請求項4】
前記微細膜層は前記微細膜層の表面に検出される炭化ケイ素微粒子を生成し、
前記粗膜層は前記微細膜層の表面に検出される炭化ケイ素微粒子の量よりも少ない量で前記粗膜層の表面に検出される炭化ケイ素微粒子を生成する、請求項1に記載の膜。
【請求項5】
(a)(i)微細な細孔寸法及び15~27パーセントの多孔度を有する微細多孔質炭化ケイ素からなる微細膜層と、(ii)粗い細孔寸法及び15~22パーセントの多孔度を有する粗い多孔質炭化ケイ素からなる粗膜層とからなる多層多孔質炭化ケイ素フィルター膜を設ける工程であって、前記粗膜層の細孔寸法は前記微細多孔質炭化ケイ素の前記細孔寸法よりも大きく、前記微細膜層は前記粗膜層の上流側に配置される、前記多層多孔質炭化ケイ素フィルター膜を設ける工程と、
(b)液体
スズを最初に前記微細膜層を通過させることにより前記液体
スズを前記多層多孔質炭化ケイ素フィルター膜を通過させる工程と、
(c)前記液体
スズを前記微細膜層を通過させた後、前記液体
スズを前記粗膜層を通過させる工程と
からなる液体スズを処理する方法。
【請求項6】
前記液体
スズの温度は少なくとも200℃である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
(a)(i)微細な細孔寸法及び15~27パーセントの多孔度を有する微細多孔質炭化ケイ素からなる微細膜層と、(ii)粗い細孔寸法及び15~22パーセントの多孔度を有する粗い多孔質炭化ケイ素からなる粗膜層とからなる多層多孔質炭化ケイ素フィルター膜を設ける工程であって、前記粗膜層の細孔寸法は前記微細多孔質炭化ケイ素の前記細孔寸法よりも大きく、前記微細膜層は前記粗膜層の上流側に配置される、前記多層多孔質炭化ケイ素フィルター膜を設ける工程と、
(b)液体スズを最初に前記微細膜層に通過させることにより前記液体スズを前記多層多孔質炭化ケイ素フィルター膜を通過させる工程と、
(c)前記液体スズを前記微細膜層を通過させた後、前記液体スズを前記粗膜層を通過させる工程と、
(d)前記液体スズを液滴に形成する工程と、
(e)極端紫外線(EUV放射)を生成する為に前記液体スズを照射する工程と
を備えるEUVを生成する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
以下の記載は、液体スズなどの液体金属で使用する為の炭化ケイ素フィルター、並びに液体金属から粒子を除去するためにそのようなフィルターを使用する方法、および濾過された液体金属を使用するシステムおよびプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
様々な工業プロセスでは、液体形状の金属の使用が組み込まれている。一例(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる特許文献1を参照のこと)では、約50ナノメートル以下の波長を有する放射線(「軟X線」と呼ばれることもある)である極端紫外線(EUV放射)を生成するシステムでは液体スズが使用される。EUV放射はフォトリソグラフィープロセスで使用され、半導体またはマイクロエレクトロニクスデバイスの基板、例えばシリコンウェーハに非常に微小なフィーチャを形成することができる。EUV放射を生成する方法には、EUV範囲に輝線を有する構成要素、例えばスズを含む材料をプラズマ状態に変換する工程が含まれる。上記方法は、しばしば「レーザー生成プラズマ」(「LPP」)と呼ばれ、プラズマは、液滴状の液体スズを含むターゲット材料に増幅した光ビームを照射することにより生成される。
【0003】
これらの種類のプロセスで使用される場合、EUV放射を生成するために液体スズを提供する装置およびシステムには、一般に液体スズから微粒子を除去するために使用されるフィルターが含まれる。ろ過工程は、多くの場合、高温、例えば200℃を超える温度と、大気圧よりも高い圧力、場合によっては大気圧よりはるかに高い圧力とで実施される。これらの用途等では、さまざまな産業界や製造会社が、液体スズなどの溶融金属を効率的かつ効果的にろ過できる方法とシステムを必要としている。例えば、液体スズをEUV放射を生成するプロセスに供給する目的で、液体スズをろ過するための様々な技術が現在存在する。それでも、液体金属のより効率的またはより効果的にろ過できる方法を目標として液体金属のろ過システムおよび方法の改善が常に望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
液体スズを使用してEUV放射を生成するシステムおよび方法などの製造プロセスにおいて液体金属を使用するシステムと方法とは、液体金属の取り扱う際に存在する固有且つ困難な課題を克服する必要がある。その1つは、一般に液体金属の取り扱いは、非常に高い温度で行う必要があることである。高温は、必要とされる高温状態を安全かつ効率的に達成、維持、制御すること、および使用中に高温操作が機器に与えるストレスに関してさまざまな課題をもたらす。また、システムの気圧が大気圧よりも高い場合には、さらなる課題が生じる。
【0006】
液体スズは、ほとんどの金属および非金属材料と独自に反応して高温での取り扱い中に液体スズがさらされる可能性のある多くの材料に固体微粒子を形成し得る。微粒子は、液体スズを確実に流す必要がある下流の装置で詰まりを引き起こすなど、液体スズの下流における処理および使用に有害な影響を引き起こす可能性がある。液体スズを使用してEUV放射を生成する場合には、高温の液体スズを取り扱う過程で形成された微粒子がEUV光発生器の液滴発生器などの下流のシステムを詰まらせる可能性がある。EUV放射を生成するシステムで液体スズを処理する際の別の課題として、液体スズは使用のサイクル中に交互に液化と固化、すなわち、解凍、凍結されることがあげられるだろう。液体スズを凍結、解凍すると、フィルター膜を含む液体スズ処理システムのすべての構成要素にストレスを生じる。薄い多孔質セラミック材料の形態であり得るフィルター膜は、繰り返し凍結、液化される大量のスズに囲まれている際に過度の応力が付与されると損傷、断片化、または劣化しやすくなる。
【0007】
特定の実施形態では、多孔質炭化ケイ素は、フィルターでの使用を可能にする特性を示すように適合させることができる1つの材料である。多孔質炭化ケイ素は、反応性の高い液体スズの存在下でも実質的に不活性である。本明細書によれば、出願人は、多孔質炭化ケイ素が、高い動作温度で液体スズの流れから微粒子を除去するのに効果的な多孔質炭化ケイ素フィルター膜に形成できることを見出した。フィルター膜の例は、液体スズや別の液体金属の取り扱いに一般に含まれる高温での動作中に存在するフィルターへのストレスやフィルター膜を凍結と解凍の繰り返しサイクルにさらすことによって生じるストレスに耐えることができる。
【0008】
高温液体スズのろ過に使用するフィルター膜に多孔質炭化ケイ素を使用することを試した際に、ろ過用フィルター膜を通り抜けて、液体スズに取り込まれる可能性のある微粒子を、多孔質炭化ケイ素フィルター膜自体が生成することを見出した。具体的には、多孔質炭化ケイ素フィルター膜の固体材料が多孔質炭化ケイ素フィルター膜の表面に固体炭化ケイ素材料の小片を生成することを見出した。また、使用中に、炭化ケイ素の表面が、ろ過のために炭化ケイ素を通過する液体スズの流れにより表面から除去される微粒子を生成する(すなわち、「微粒子化する」)ことを見出した。
【0009】
多孔質炭化ケイ素を使用して液体スズから微粒子を除去するのに有用な薄い多孔質フィルター膜を形成する試みにおいて、多孔質炭化ケイ素材料は微細な孔寸法を有し、フィルター膜として多孔質炭化ケイ素からなる単層が含まれていた。微細な孔寸法を有する膜の分析によれば、膜はその表面に非常に小さな炭化ケイ素微粒子を生成し得ることがわかった。小さな細孔が形成された膜がフィルターとして使用された場合には、炭化ケイ素微粒子は、膜から放出されて、フィルターを通過する液体金属(例えば、スズ)の流れの中に入る可能性がある。
【0010】
多孔質の炭化ケイ素は潜在的にもろく、砕けやすく、または剥離片または微粒子として表面からの小さな材料片が剥がれ落ちたり損失したりし易いと考えられる。このような微粒子の形成や剥離の発生は、「微粒子化」と呼ばれることがある。このプロセスにより、炭化ケイ素の微粒子が多孔質炭化ケイ素材料の表面に存在するようになりうる。多孔質炭化ケイ素の機械的ストレスのために、炭化ケイ素材料をフィルター膜として使用している間に、粒子化がさらに促進または悪化する場合がある。最終的には、膜の炭化ケイ素材料は「粒子化」して小さな炭化ケイ素の破片、剥離片、または破片(つまり「粒子」)が膜表面に形成されて表面から剥離、除去、または分離される。膜をフィルターとして使用している間に微粒子が膜表面から分離されると微粒子はフィルターを通過する液体の中に入る。
【0011】
望ましくは、好適な炭化ケイ素フィルター膜は、使用中に膜表面で炭化ケイ素微粒子を生成しにくいか、または、粒子が生成される可能性がある場合には、好適な炭化ケイ素フィルター膜は、そのような粒子がフィルター膜を通過する液体の流れに存在することを許容しないものであり得る。
【0012】
本明細書で説明するように、出願人は、膜層のうちの少なくとも2つは異なる細孔寸法を有した、多孔質炭化ケイ素の複数(2つ以上)の膜層を使用して、フィルター膜を形成できることを見出した。出願人はまた、これらの多層炭化ケイ素フィルター膜が炭化ケイ素微粒子を形成しにくいこと、または形成された微粒子が多層フィルター膜を通過する液体の流れに導入されるのを防止し得ることを見出した。
【0013】
例えば、上記フィルター膜は、第1の膜層であって、微細多孔質炭化ケイ素である材料で形成された、つまり多孔質炭化ケイ素が比較的小さな細孔寸法の細孔を含む微細膜層を含みうる。上記フィルター膜は、第2の膜層であって、粗い多孔質炭化ケイ素である材料で形成された、つまり多孔質炭化ケイ素が微細膜層の細孔と比較して比較的大きな寸法の細孔を含む粗膜層を含みうる。多層膜の微細膜層または粗膜層の平均細孔寸法は、微細膜層の平均細孔寸法が粗膜層の平均細孔寸法より小さいという条件を満たしてれば通常はナノメートルではなくミクロンの範囲にある任意の有用な寸法にしてもよい。微細膜層の多孔質炭化ケイ素の場合、平均細孔寸法の例は2.0ミクロン未満であり得る。粗膜層の多孔質炭化ケイ素の場合、平均細孔寸法は同じ多層膜の微細膜層の平均細孔寸法よりも大きく、2.05ミクロンより大きいなど、例えば最大約10ミクロンであり、平均細孔寸法の例は約2ミクロンより大きくなる。
【0014】
出願人は、上記多層炭化ケイ素フィルター膜が液体スズなどの液体金属の流れをろ過する(すなわち、粒子状物質を除去する)システムおよび方法に有用である可能性があること、および多層フィルター膜は粒子化する(つまり、膜表面に炭化ケイ素粒子が形成される)傾向が低く、その結果、使用中に炭化ケイ素粒子が、通過する液体金属(スズなど)の流れに導入されにくいことを見出した。
【0015】
上記多層炭化ケイ素フィルター膜の例では、フィルター膜の表面(例えば、下流側表面)における炭化ケイ素微粒子の量が減少することが見出されている。出願人は、粗い多孔質炭化ケイ素材料を含む、上記多層フィルター膜は粒子化を受けにくく、より詳細には、粗い多孔質炭化ケイ素材料は、微細多孔質炭化ケイ素材料と比較して粒子化の影響を受けにくいことを見出した。微細膜層の下流側で粗膜層を使用した場合には、多層膜の下流側表面に存在する炭化ケイ素微粒子の量は、例えば実質的に微細多孔質炭化ケイ素材料で形成された単層の炭化ケイ素膜の下流側表面に存在する炭化ケイ素微粒子の量に比べて減少する。
【0016】
微細多孔質炭化ケイ素で作られた同等の単層膜と比較して上記多層炭化ケイ素フィルター膜のこの改善された特徴が示すように、炭化ケイ素微粒子は、微細膜層の下流側表面に見いだされる。フィルター膜を通過する液体を使用するプロセスに有害なことに、炭化ケイ素粒子は多孔質炭化ケイ素の表面から分離、例えば除去または放出されて液体の流れの中に入り、下流の処理装置に渡されうる。
【0017】
本明細書で説明する例示的なフィルター膜、すなわち、微細膜層と粗膜層の両方を含み、粗膜層が微細膜層に対して下流側の部位に位置する上記多層多孔質炭化ケイ素フィルター膜によれば、単層の微細フィルター要素の下流側表面に生じる微粒子の量と比較して、下流側表面における微粒子の発生は実質的に減少する。上記多層膜は、フィルターの下流側表面、すなわち粗い多孔質炭化ケイ素層の下流側表面における炭化ケイ素材料の微粒子化量は減少する。有利なことに、単層の微細膜の性能と比較して、多層フィルター膜は、炭化ケイ素フィルター膜の下流側表面、例えば炭化ケイ素がフィルター膜から多層膜を通過する液体の流れの中に導入される場所、に存在する炭化ケイ素微粒子の量を減少、または実質的に減少、または好適には皆無、またはほぼ皆無にする。
【0018】
一態様では、本発明は、多層多孔質炭化ケイ素フィルター膜に関する。この膜は、微細な細孔寸法を有する微細多孔質炭化ケイ素の微細膜層と粗い多孔質炭化ケイ素の粗膜層とを含む。粗い多孔質炭化ケイ素は、微細多孔質炭化ケイ素の細孔寸法より大きな細孔寸法を有する。
【0019】
別の態様では、本発明は、液体金属を処理する方法に関する。この方法は、微細な細孔寸法を有する微細多孔質炭化ケイ素の微細膜層と粗い細孔寸法を有する粗い多孔質炭化ケイ素の粗膜層とを含む多層炭化ケイ素フィルター膜を形成することを含む。粗い多孔質炭化ケイ素の細孔寸法は、微細多孔質炭化ケイ素の細孔寸法よりも大きい。この方法は、液体金属を最初に微細膜層に通過させることにより液体金属を多層多孔質炭化ケイ素フィルター膜に通す工程と、液体金属を微細膜層に通した後、液体金属を粗膜層に通す工程とを備える。
【0020】
以下の図面は概略図であって縮尺通りではない。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1A】フィルター膜から取り出した炭化ケイ素粒子を含む綿棒を走査型電子顕微鏡を用いて撮影した顕微鏡写真。
【
図1B】本発明に係るフィルター膜に用いた綿棒を走査型電子顕微鏡を用いて撮影した顕微鏡写真。
【
図2A】本明細書で説明する多層フィルター膜の例の概略を示す側面図。
【
図2B】本明細書で説明する多層フィルター膜の例の概略を示す端面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
多孔質炭化ケイ素からなる2以上の層を含む多層炭化ケイ素フィルター膜であって、層の少なくとも2つは異なる細孔寸法を(例えば、平均細孔寸法)を有する多層炭化ケイ素フィルター膜について以下で説明する。様々な炭化ケイ素フィルター材料を調べることにより断定されるように、例示の多層炭化ケイ素フィルター膜は、下流表面において粒子化を実質的に抑制する性質、すなわち、微細多孔質炭化ケイ素で作られた同等の単層の膜と比較して、膜の下流表面に(微粒子化によって)生じるまたは生成され、膜の中を通過して流れる液体流に入りうる炭化ケイ素微粒子の量を減少させるように形成される。
【0023】
例示の多層フィルター膜は、微細多孔質炭化ケイ素で形成された微細膜層と呼ばれる第1の膜層を含む。微細多孔質炭化ケイ素は、比較的小さな寸法の細孔を含む。多層フィルター膜には、粗い多孔質炭化ケイ素で形成された粗膜層である第2の膜層も含まれる。これは、多孔質炭化ケイ素が微細膜層の細孔と対比して比較的大きな寸法の細孔を含むことを意味する。多孔質炭化ケイ素からなる任意の第3(または第4など)の膜層も存在してもよく、第3(または第4など)の膜層は、任意の有用な寸法の細孔、例えば、微細な細孔、粗い細孔などを有してよい。
【0024】
出願人は、本発明によれば、上記多層炭化ケイ素フィルター膜が液体スズなどの液体金属の流れを濾過する(すなわち、粒子状物質を除去する)システムおよび方法において有用である可能性があることを見出した。液体金属の流れを濾過するための多層膜の好適な使用法によれば、金属は、液体金属を微細膜層の中を通過させる流れの方向に膜の中を通過した後(微細部材層を通過した後)、粗膜層を通過する。
【0025】
有利なことに、上記多層炭化ケイ素フィルター膜は、微細炭化ケイ素の単層膜に対比して、炭化ケイ素粒子の発生が少ない、すなわち、フィルター膜の下流表面に形成または存在する炭化ケイ素粒子の量が少ないことが見出された。例えば、(膜を通過する液体スズから微粒子をろ過(つまり除去)するために膜を使用する前の)炭化ケイ素フィルター膜の表面で炭化ケイ素微粒子を検出する為に有用なテストの結果を示す
図1A,1Bを参照されたい。テストに基づいて、炭化ケイ素の弱く付着した、または砕けやすい部分を擦り取って収集するために、綿棒(標準的なクリーンルーム仕様のワイピング綿棒)を用いて濡れたフィルター膜表面を擦って膜の下流側の濡れた表面から炭化ケイ素微粒子を収集した。炭化ケイ素微粒子がテストする膜の表面に存在する場合には、微粒子の試料は綿棒を表面に接触させることによって綿棒上に収集され、微粒子は走査型電子顕微鏡を使用して視認できる。
【0026】
ここで
図1Aを参照する。
図1Aは、1ミクロン未満の平均細孔寸法を有する微細多孔質炭化ケイ素で形成された単層の炭化ケイ素フィルター膜の下流表面から炭化ケイ素微粒子を収集するのに使用した綿棒のSEM顕微鏡写真である。顕微鏡写真が示すように、綿棒の表面には炭化ケイ素微粒子が存在している。炭化ケイ素微粒子は、綿棒の表面に見える小さく不規則な形状の剥離片状または粒子状の破片である。
図1Aの微粒子は、炭化ケイ素微粒子を検出するためのテストごとに、使用前の上記の単層炭化ケイ素フィルター膜の下流表面に綿棒を接触させることにより収集されたものである。
【0027】
図1Aと対比して、
図1Bは、本明細書で説明する多層炭化ケイ素フィルター膜の下流表面から炭化ケイ素微粒子を収集するために使用した綿棒のSEM顕微鏡写真である。テストした多層炭化ケイ素フィルター膜は、1ミクロン未満の平均細孔寸法を有する微細多孔質炭化ケイ素の微細な(第1の)多孔質膜層と少なくとも2ミクロンの平均細孔寸法を有する粗い多孔質炭化ケイ素からなる粗い(第2の)多孔質膜層と組み合わせて形成された。綿棒を粗い多孔質膜の表面に接触させて粗い多孔質膜が粒子化しやすいか否かをテストした。図に示すように、粗い多孔質膜の表面と接触して配置された後において、綿棒は実質的な量の炭化ケイ素微粒子を含んでいなかった。このことから、テストした多層炭化ケイ素フィルター膜の粗い多孔質膜はテストした表面に有意量の炭化ケイ素微粒子を有しておらず、炭化ケイ素微粒子を生成する傾向は低いと考えられた。
【0028】
理論に拘束されるものではないが、微細膜層に対比して粗膜層の下流表面で炭化ケイ素の微粒子が減少する(好適には有意に減少又は実質的に欠く)理由は、多層のフィルター膜の構造上の特長、および単層の炭化ケイ素フィルター膜に対比して多層のフィルター膜の炭化ケイ素の複数の層(個々のまたは組み合わせの)の機械的な特性、および粒子化する(すなわち、使用中に任意の理由で、膜を構成する炭化ケイ素の小さな断片または粒子が剥がれ落ちる)異なる種類の多孔質炭化ケイ素材料の基本的な特性に基づく可能性がある(例えば細孔寸法に基づく)。
【0029】
例えば、多孔質炭化ケイ素材料の多孔質の開放セル構造を形成する「フィブリル」の強度は、粒子化する炭化ケイ素材料の特性において重要な要因である可能性がある。多孔質炭化ケイ素は、セル壁を形成する固体の材料によって画定された開放セルで形成されていると考えられ、開放セルは、部分的または全体的セル壁を形成、または多孔質の(セル状の)構造の一部として隣接するセルまたはセル壁を連結する固体「フィブリル」構造を含む。多孔質炭化ケイ素材料のフィブリルの強度は、とりわけ、特定の多孔質炭化ケイ素材料の多孔性または細孔寸法の特性に関係し得る。多孔質材料の多孔性および細孔寸法の特性は、フィブリルの寸法(たとえば、長さまたは厚さ)に影響するため、ストレスにより粒子化するように影響を受けるフィブリルの強度や特性は影響を受け得る。
【0030】
したがって、本明細書で説明する多層多孔質炭化ケイ素フィルター膜の粗膜層の表面で検出される微粒子が減少する理由は、多孔質炭化ケイ素材料のフィブリルの強度(例えば、フィブリルの寸法、形状、および次元)が、材料が微粒子化するという性質に関係している為である可能性がある。上記の多層炭化ケイ素膜の粗膜層と比べて単層の微細炭化ケイ素膜の下流表面に存在する炭化ケイ素粒子の量が多いのは、粗い炭化ケイ素材料のフィブリルは微細な炭化ケイ素材料のフィブリルの強度に比べて高い強度を有する為、粗い炭化ケイ素材料のフィブリルの表面で生じる粒子化が抑制されるためであると考えられる。強度の高いフィブリルを有する下流の粗い炭化ケイ素材料の表面は、粗い炭化ケイ素材料が、実質的に炭化ケイ素微粒子の形成につながる表面での崩壊や断片化のされにくい強度の高いフィブリルで形成されているため、実質的にほとんど炭化ケイ素微粒子を形成しないと考えられる。
【0031】
本明細書で説明する多層膜の別の可能な利点として、使用中に微細膜層が粗膜層の上流側にある状況では、粒子は下流の粗膜層に運ばれるが、粗膜層は多層フィルター膜の中を通過する液体の流れの中に有意量の粒子が放出されないように炭化ケイ素粒子を効果的に収集することができ、炭化ケイ素微粒子が多層炭化ケイ素フィルター膜の微細膜層の表面に形成される程度にできるということである。
【0032】
多孔質炭化ケイ素で形成され、微細膜層または粗膜層として有用な炭化ケイ素材料は、多孔度(細孔の量)、細孔寸法(例えば、「平均細孔寸法」)等の層を形成する多孔質炭化ケイ素の構造上の特性によって、および、任意に「泡立ち点(bubble point)」によって特徴付けることができる。
【0033】
多孔質炭化ケイ素材料の多孔度は、炭化ケイ素材料内の空隙の百分率、として定義され、重量測定の周知の方法で決定できる。多孔質炭化ケイ素の多孔度は、一般に、最低で4体積パーセントから最大95体積パーセントまでの範囲であってもよい。上記多層炭化ケイ素フィルター膜の膜層(微細または粗)として使用するために、炭化ケイ素は、所望するまたは有用な任意の多孔度を有し、例えば、微細膜層または粗膜層の多孔度は少なくとも約10体積パーセント、例えば12、または15~約25または30体積パーセントであり得る。微細膜の多孔度の有用または好適な範囲は、より具体的には、約13~30パーセント、例えば約15~27パーセント、例えば約20~25パーセントの範囲であり得る。粗い膜の多孔度の有用または好適な範囲は、より具体的には、約13~25パーセント、例えば、約15~22パーセントの範囲であり得る。
【0034】
多孔質炭化ケイ素材料の細孔寸法も、多孔質炭化ケイ素材料およびフィルターとして使用されるこれらの種類の材料を含む別の多孔質セラミック材料の周知の特徴である。細孔寸法は、多孔性材料の平均細孔寸法として報告されることが多く、水銀ポロシメトリーなどの周知の手法で測定できる。水銀侵入多孔度により多孔度を測定する標準的な試験方法は、ASTM4284である。
【0035】
多層膜の微細膜層または粗膜層の平均細孔寸法は、微細膜層の平均細孔寸法が粗膜層の平均細孔寸法よりも小さいという条件を満たしていれば、通常はナノメートルではなくミクロンの範囲にある任意の有用な細孔寸法にすることができる。微細膜層の多孔質炭化ケイ素の場合、平均細孔寸法の例は、2.0ミクロン未満、例えば、約1.8ミクロン、1.5ミクロン、1.2ミクロン、または1.0ミクロン未満であり得る。粗膜層の多孔質炭化ケイ素の場合は、平均細孔寸法は同じ多層膜の微細膜層の平均細孔寸法よりも大きく、平均細孔寸法の例は約2ミクロンよりも大きく、例えば、2.05ミクロン、例えば最大約10ミクロンまでであり、例えば、2.0ミクロン、2.1ミクロン、2.5ミクロン、または3ミクロン~8、9、または10ミクロンの範囲であり得る。
【0036】
多孔質炭化ケイ素材料の泡立ち点も、多孔質炭化ケイ素材料および他の多孔質セラミック材料の周知の特徴である。泡立ち点のテスト法により、多孔質材料の試料(例えば、多孔質炭化ケイ素)を周知の表面張力を有する液体に浸漬して湿潤させ、試料の片側にガス圧がかけられる。ガス圧は徐々に増加される。ガスが試料の中を貫通して流れる最小圧力は泡立ち点と呼ばれる。
【0037】
上記多層膜の微細膜層または粗膜層の泡立ち点(所与のテストシステムで圧力として表示される)は、任意の有用な泡立ち点であり得る。微細膜層または粗膜層の所与の多孔質炭化ケイ素材料の泡立ち点の値は、テストの実行に使用される液体や気体の種類などのテストの実行方法、並びに、厚さなどのテストされる試料の特徴に関連する要因に依存する。液体に水を使用し、40psi(0.28MPa)のテスト圧力を使用し、気体に窒素を使用し、3.8ミリメートルの厚みの試料を使用して泡立ち点を測定した場合には、多層膜の微細膜層の例示の泡立ち点は7~15psi(ゲージ)(0.05~0.11MPa)の範囲になり得る。液体に水を使用し、40psi(0.28MPa)のテスト圧力を使用し、気体に窒素を使用し、約3.9ミリメートルの厚みの試料を使用して泡立ち点を測定した場合には、多層膜の粗い膜の例示の泡立ち点は約1または2psi(ゲージ)(0.007または0.014MPa)~約20または25psi(ゲージ)(0.14または0.17MPa)の範囲、例えば、約4~20psi(0.03~0.14MPa)(ゲージ)になり得る。代替的には、泡立ち点は、ASTM F316により測定し得る。
【0038】
多層膜の一部としての粗膜層または微細膜層は、上記膜層として機能するのに十分な厚さであって、上記膜層を形成し、取り扱い、および上記多層炭化ケイ素膜層に組み立てることができる十分な厚さを有し得る。一般に、多孔質炭化ケイ素膜は、多層フィルター膜の1つ以上の他の層とともに組み立てられた際、処理する(例えば、EUV放射を生成する)液体スズを提供するシステムの動作中にフィルターを貫通して流れる液体金属(例えば、液体スズ)の差圧、および、システムの起動中および凍結融解サイクル中に発生する可能性があるフィルターへのストレスに耐えるのに十分な強度を付与する厚さを備える必要がある。微細膜層の厚さは、粗膜層の厚さと同じであってもよく、例示の厚さは約1~7ミリメートル、例えば1.5~5ミリメートル(mm)である(ただし、これらの範囲外の厚さも有用であり得る)。微細膜層と粗膜層の合わせた厚さは、所望により、例えば、1~15mm、または、約1.5~8、10、または12mmの範囲であり得る。
【0039】
上記多層多孔質炭化ケイ素膜は、膜を液体金属の流れから微粒子を除去するためのフィルターの構成要素として有用にする任意の形態、形状、および寸法をとることができる。膜の例示の形態は、平坦状(平面状)、湾曲状、円筒形状、円錐形状、管状(任意選択的に先細りを含む)、またはこれらの組み合わせである形状の特徴を備え得る。例えば、多層膜は、一方の端が閉じられ、他方の端が開いた円筒形、すなわち「閉端円筒形状」であってもよい。参照によりその全体を本明細書に援用する国際特許公開公報WO2017/007709号明細書を参照されたい。
【0040】
本明細書の多層膜の例として、
図2A,2Bは、微細な孔寸法を有する微細多孔質炭化ケイ素からなる微細膜層8と、粗い細孔寸法を有する粗い多孔質炭化ケイ素からなる粗膜層10とを含む多層炭化ケイ素膜2を示す。多層膜2は、開放端4と閉鎖端6との間に延びる円筒の長さを含む閉じた円筒形状を有する。使用時には、液体スズなどの液体金属は、最初に外面12(または上流表面)で微細膜層8に入ることにより両方の膜層の厚さを通過させられる。この流れの方向(F)は矢印Fで表示されている。液体金属の流れは、最初に微細膜層8の厚さを通過して、次に粗膜層10に接触してこれを貫通し、最終的に内面14(または「下流表面」)で粗膜層10を出る。その後、液体金属は、閉じた円筒形状の膜2の内側の空間16に入り、最終的に開口端4の開口部から出る。
【0041】
最小限には多層膜は2つの膜層を含み、説明したように1つは微細膜層であり、もう1つは粗膜層である。これらの層は、微細膜層が粗膜層から「上流側」になるように多層膜に配置されて、多層膜を貫通して流れる液体金属は最初に微細膜層内を通過し、次に粗膜層内を通過する。微細膜層と粗膜層とは、たとえば
図2Bに示すように、互いに直接隣接し、微細膜層の下流側表面は、粗膜層の上流側表面に接する。
【0042】
任意に、多層膜は、上記の微細膜層および粗膜層に加えて、1つ以上の追加の膜層を含んでもよい。一例として、多層炭化ケイ素フィルター膜は、微細膜層に隣接する粗膜層であって、別の粗膜層と反対側の微細膜層にある粗膜層である第3層を含んでもよい。この構造は、第1の粗膜層と、第1の微細膜層と、第2の粗膜層とを含み、この3つの膜層は、微細膜層が2つの粗膜層の間に配置されるように構成される。3つの膜層(またはそれ以上)は、1つ以上の膜層の特徴が所望の方法で調整できるようにするのに有用であり得る。例えば、2つの粗膜層の間に微細膜層を含む3つの層からなる膜は、2つの層からなる膜の微細膜層の厚さに比べて微細膜層の厚さを薄くし得る。代替的には、2つの粗膜層の間に微細膜層を含む3つの層からなる膜は、同一の合計の厚さを有する2つの層からなる膜に比べて膜を貫通する流速を上昇させつつ、有用なろ過性能をなお設け得る。
【0043】
上記多層炭化ケイ素フィルターは、公知の材料、技術、工程、およびプロセスを用いて形成できる。例えば、多孔質炭化ケイ素の前駆体として多孔質グラファイトを調製し、多孔質グラファイトを多層膜からなる膜層の形状に成形し、複数の多孔質グラファイト膜層を多層炭化ケイ素フィルター膜の前駆体である多層多孔質グラファイトに組み立て、および、多層多孔質グラファイトの多孔質グラファイトを多孔質炭化ケイ素に変えることである。
【0044】
第1の工程では、多層フィルター膜の微細多孔質炭化ケイ素膜と粗い多孔質炭化ケイ素膜それぞれに対して多孔質グラファイトが調製される。多孔質グラファイトは、ろ過技術や製造および技術の他の分野で周知の材料である。多孔質グラファイトは、ブロック形状などの固体(バルク)形態で調製され得る。本発明によれば、多孔質グラファイトの第1要素を形成することができ、第1要素は第1の細孔寸法を有する。多孔質グラファイトの第2要素も形成することができ、第2要素は第2の細孔寸法を有する。微細細孔寸法を有する多孔質グラファイトの第1要素は、任意の有用な方法(ミリング、機械加工など)により、微細膜層の形状、つまり微細膜層の「プリフォーム」に形成できる。粗い細孔寸法を有する多孔質グラファイトの第2要素は、任意の有用な方法(ミリング、機械加工など)により、粗膜層の形状、つまり粗膜層の「プリフォーム」に形成できる。プリフォームの形成後、プリフォームは、例えば、
図2Bに示す閉端円筒形状などの多層膜の形態に組み立てられる。
【0045】
グラファイトプリフォームを多層膜の形状に組み立てた後、組み立てられたグラファイトは、周知の方法で炭化ケイ素に変換される。例えば、参照によりその全てが本明細書に援用される、米国特許第8,142,845号明細書および米国特許第7,931,853号明細書を参照されたい。多孔質グラファイトを多孔質炭化ケイ素に変換する有用な処理は周知である。一の処理により、多孔質グラファイトは、グラファイトを化学的に炭化ケイ素に変換するのに十分な時間にわたり多孔質グラファイトを一酸化ケイ素ガスと高温(例えば、1400~2000℃の範囲の温度)にさらすことにより多孔質炭化ケイ素に変換される。
【0046】
上記多層炭化ケイ素フィルター膜は、高温(例えば200~300℃以上)であり且つ大気圧以上の圧力(例えば2,10,100,1000気圧の圧力)で液体金属である様々な材料をろ過するために有用であり得る。本発明に係る多層膜を使用し得るシステムは、例えば国際公開第2017/007709号明細書、ならびに米国特許出願公開第2012/0280149号明細書、米国特許出願公開第2015/0293456号明細書、および米国特許第7,897,947号明細書に記載され、その全体は参照により本明細書に援用される。
【0047】
国際公開第2017/007709号明細書には、さまざまな液体金属、気体、および超臨界流体をろ過するプロセスに有用なフィルターアセンブリについての記載があり、上記流体は、本明細書で説明する多層フィルター膜でろ過できる流体の例でもある。気体の例には、不活性気体から腐食性気体まであり、より詳細には臭化水素、アルゴン、窒素、二酸化炭素、塩化水素、水素化物、および超臨界状態の二酸化炭素などの超臨界流体が含まれる。液体金属の例には、スズ、リチウム、鉛、ナトリウム、カドミウム、セレン、水銀、SnBr4、SnBn2、SnH4、スズ-ガリウム合金、スズ-インジウム合金、スズ-インジウム-ガリウム合金、またはそれらの組み合わせが含まれる。システムの温度の例としては、200~400℃の範囲であり、例えば約250~300℃であり得る。例示の圧力は、大気圧よりも高く、例えば、最大約8000psig(55MPag)であり得る。
【0048】
上記多層フィルター膜を使用することができるシステムの例には、米国特許出願公開第2012/0280149号明細書に記載されているものが含まれる。商業的なシステムの上記例および別例には、EUV放射を生成する目的で液体スズまたは液体スズを含有する液体を使用することや取り扱うことが含まれる。そのような方法および装置は、液体金属のろ過工程を実行し、本願の多層膜を組み込むために適合させることができる。例示の方法では、液体スズは液滴に形成されて、液滴は、EUV放射を放射する為に照射される。
【0049】
液体金属を使用してEUV放射を生成するプロセスで使用するため等に液体金属を準備する様々なシステムによれば、液体金属は、金属の融解温度を含む複数の因子に応じて、金属の融解温度よりも高い温度、例えば少なくとも200℃、220℃、240℃、250℃、300℃、350℃またはそれ以上の温度で液体金属浴の中で保持される。液体は、本発明によれば、上記多層膜であるフィルターの中を通過して流れる。使用中には、液体金属の流れは、比較的高圧であり、且つ、比較的高温で例えば200℃で生じる。システムは、非連続的に処理する(例えば、EUV放射を生成する)目的で液体金属(例えば液体スズ)を供給する為に動作状態にあり、これは、液体金属の供給は一時的、例えば、数分、数時間、数日間であり、必ずしも長期間にわたり継続していなくともよいことを意味する。液体金属の需要がない間は、液体金属の供給源を維持するシステムの電源は切ることができ、液体金属は固化される。液体金属が処理に再び必要とされる場合には、システムは再びオンにされて、固化した液体スズは再び加熱されて溶融状態になる。加熱と冷却を繰り返す間、多層膜は、多層膜の全表面を取り囲んで接触している間に固化され液化されるスズに沈められて維持される。
【0050】
上記フィルター、および液体金属を供給し且つ処理する方法は、様々な商業的プロセスや工業的プロセスで使用する液体金属を供給する為に有用であることが理解されるべきである。一例は、リソグラフィで使用するEUVを生成する為に液体スズを供給することである。例えば、米国特許出願公開第2012/0280149号明細書と米国特許第8,598,551号明細書を参照されたい。一般に、リソグラフィのプロセスと装置には、EUV放射源と、EUV放射の放射ビームBを調整するように構成された照明システムL(照明器)と、パターニング装置MA(例えばマスク又はレクチル)を支持するように構成された支持構造MT(例えばマスクテーブル)であってパターニング装置を正確に位置決めするように構成された第1の位置決め装置に結合された支持構造MT(例えばマスクテーブル)と、基板W(例えばレジストでコートされたウエハ)を保持するように構成された基板テーブル(例えばウエハテーブル)であって、基板を正確に位置決めするように構成された第2の位置決め装置に結合された基板テーブル(例えばウエハテーブル)と、パターニング装置MAによって放射ビームBに付与されたパターンを基板Wのターゲット部分C(例えば1つ以上のダイからなる)に投射するように構成された投射システムPS(例えば反射投影システム)とを備える。
【0051】
照明システムは、放射線を指向、成形、または制御するために、屈折式、反射式、磁気式、電磁気式、静電式、または別の種類の光学的な構成要素、またはそれらの任意の組み合わせなど、様々な光学的な構成要素を備え得る。
【0052】
支持構造MTは、パターニング装置の向き、リソグラフィ装置のデザイン、およびパターニング装置が真空環境に保持されているか否かなどの条件に基づく方法でパターニング装置MAを保持する。支持構造は、機械式、真空式、静電式、または別のクランプ技術を用いてパターニング装置を保持できる。支持構造は、例えば、必要に応じて固定式または可動式にし得るフレームまたはテーブルであり得る。支持構造は、パターニング装置が、例えば投影システムに対して所望の位置にあることを保証し得る。
【0053】
「パターニング装置」という用語は、基板のターゲット部分にパターンを形成するためなど、断面にパターンを有する放射ビームを付与することに使用できる任意の装置を指すと広義に解釈しなければならない。放射ビームに付与されたパターンは、集積回路などのターゲット部分に形成される装置の特定の機能層に対応し得る。
【0054】
パターニング装置は、透過型であってもよいし反射型であってもよい。例示のパターニング装置には、マスク、プログラム可能なミラーアレイ、プログラム可能なLCDパネルが含まれる。マスクは、リソグラフィの分野で周知であり、バイナリ型、交互位相シフト型、減衰位相シフト型、並びにさまざまなハイブリッド型のマスクが含まれる。プログラム可能なミラーアレイの例は、小さなミラーのマトリックス配列を使用し、各ミラーは、入射する放射ビームを異なる方向に反射するために個別に傾斜することができる。傾斜されたミラーによりミラーマトリックスで反射される放射ビームにパターンが付与される。
【0055】
投影システムは、照明システムと同様に、使用される露光放射、または真空を使用することなどの別の因子に応じて、様々な種類の光学的な構成要素、例えば、屈折式、反射式、磁気式、電磁気式、または別の種類の光学的な構成要素、またはそれらの組み合わせを備え得る。真空壁や真空ポンプの補助によりビーム経路全体に真空環境を設けることが可能である。
【0056】
照明器ILは、EUV放射ビームを受承する。EUV放射ビームは、液体スズの液滴をプラズマ状態に変換することにより生成できる。しばしばレーザー生成プラズマ(LPP)と呼ばれるそのような方法では、プラズマは、液体スズの液滴にレーザービームを照射することにより生成される。
【0057】
放射ビームBは、支持構造(例えばマスクテーブル)MTに保持されたパターニング装置(例えばマスク)MAに入射され、パターニング装置によってパターンが付与される。パターニング装置(例えばマスク)MAから反射された後、放射ビームBは、投影システムPSの中を通過して、投影システムPSは、ビームを基板Wのターゲット部分Cに集束させる。第2の位置決め装置PWと位置センサ(例えば緩衝装置、またはリニアエンコーダ、または静電容量センサ)の補助により、基板テーブルWTは、異なるターゲット部分Cを放射ビームBの経路に位置させるなど、正確に移動させることができる。同様に、第1の位置決め装置PMおよび別の位置決めセンサを使用して、放射ビームBの経路に対してパターニング装置(例えばマスク)MAを正確に位置決めすることができる。パターニング装置(例えばマスク)MAと基板Wは、マスクの位置合わせマークと基板の位置合わせマークとを用いて位置合わせされ得る。