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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-24
(45)【発行日】2022-06-01
(54)【発明の名称】植物の土壌伝染性病害防除方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 63/27 20200101AFI20220525BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20220525BHJP
   A01N 25/00 20060101ALI20220525BHJP
   A01G 7/06 20060101ALI20220525BHJP
   A01G 7/00 20060101ALI20220525BHJP
【FI】
A01N63/27
A01P3/00
A01N25/00 102
A01G7/06 A
A01G7/00 605Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018075331
(22)【出願日】2018-04-10
(65)【公開番号】P2019182783
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2020-10-28
【微生物の受託番号】NPMD  NITE P-02053
【微生物の受託番号】NPMD  NITE P-02054
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100163784
【弁理士】
【氏名又は名称】武田 健志
(72)【発明者】
【氏名】竹内 香純
(72)【発明者】
【氏名】瀬尾 茂美
【審査官】高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-061826(JP,A)
【文献】特表2003-531839(JP,A)
【文献】特開平09-124427(JP,A)
【文献】特開2003-231606(JP,A)
【文献】特開2000-290117(JP,A)
【文献】特表2008-514567(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 63/27
A01P 3/00
A01N 25/00
A01G 7/06
A01G 7/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シュードモナス属細菌及びグルタミン酸を土又は植物に付与する工程を含む、植物の土壌伝染性病害防除方法であって、該シュードモナス属細菌が、シュードモナス プロテゲンス、受託番号NITE P-02053として寄託されているシュードモナスsp. Os17株、受託番号NITE P-02054として寄託されているシュードモナスsp. St29株、シュードモナス ロデシア、シュードモナス フルオレッセンス、シュードモナス プチダ、及びシュードモナス クロロラフィスからなる群より選択される1種以上である、上記方法。
【請求項2】
植物が種子又は幼苗である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
植物が、発根した種子である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
植物の播種前又は播種後3日以内にシュードモナス属細菌及びグルタミン酸を付与する、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
シュードモナス属細菌及びグルタミン酸を別々に付与する、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
シュードモナス属細菌及びグルタミン酸のうちいずれか一方を付与し、当該付与後3日以内に他方を付与する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
シュードモナス属細菌を先に付与し、次いでグルタミン酸を付与する、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
シュードモナス属細菌及びグルタミン酸を付与した後でさらにグルタミン酸を付与する工程を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
シュードモナス属細菌及びグルタミン酸を含む、植物の土壌伝染性病害防除用組成物であって、該シュードモナス属細菌が、シュードモナス プロテゲンス、受託番号NITE P-02053として寄託されているシュードモナスsp. Os17株、受託番号NITE P-02054として寄託されているシュードモナスsp. St29株、シュードモナス ロデシア、シュードモナス フルオレッセンス、シュードモナス プチダ、及びシュードモナス クロロラフィスからなる群より選択される1種以上である、上記組成物。
【請求項10】
シュードモナス属細菌及びグルタミン酸を含む、植物の土壌伝染性病害防除用キットであって、該シュードモナス属細菌が、シュードモナス プロテゲンス、受託番号NITE P-02053として寄託されているシュードモナスsp. Os17株、受託番号NITE P-02054として寄託されているシュードモナスsp. St29株、シュードモナス ロデシア、シュードモナス フルオレッセンス、シュードモナス プチダ、及びシュードモナス クロロラフィスからなる群より選択される1種以上である、上記キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物を土壌伝染性病害から防除する方法に関する。より具体的には、本発明は、シュードモナス属細菌及びグルタミン酸を利用した植物の土壌伝染性病害防除方法、並びに当該方法に利用可能な組成物及びキットに関する。
【背景技術】
【0002】
植物の病害保護を目的として、殺菌剤や殺虫剤等の化学農薬が広く一般に使用されている。しかしながら、化学農薬は高い植物保護効果を有する一方で、環境への負荷が高かったり、残留農薬や農薬曝露によって植物や人体に悪影響を及ぼしたりする可能性がある。
【0003】
このような化学農薬の懸念を解消する点から、近年では、植物を病害から保護する効果を有する細菌(植物保護細菌)が生物農薬として利用されている。例えば、Pseudomonas(シュードモナス)属細菌のいくつかの系統が実際に微生物農薬として利用されており、具体的な製品としては、セル苗元気(多木化学、特許文献1)、ベジキーパー(登録商標)水和剤(セントラル硝子)等が挙げられる。
【0004】
生物農薬による植物の病害防除技術は、環境への負荷が低いことなど多くの利点を有している一方で、生物機能を利用するが故に、化学農薬と比較して効果が持続的に発揮されないことや、農薬としての取り扱いが難しいことなど、生物素材ならではの問題点も多い。そのため、使用する微生物の生態や表現型に理解を深めつつ、更なる改良を加えることが望まれている。
【0005】
上記のような現状において、生物農薬と化学農薬とは別個に研究開発が行われており、双方を併用した技術は極めて限定的であると考えられる。微生物と化学物質とが併用された例として、フザリウム・オキシスポルム等の有用微生物、プロペナゾール等の植物病害抵抗性誘導物質、及び石灰等の土壌pH矯正物質の3成分を利用した土壌伝染性病害防除方法が、これまでに報告されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4079209号
【文献】特許第6183851号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、生物農薬は環境への負荷が低いこと等の利点を有する一方で、化学農薬と比較して効果が持続しない等の問題も有している。そこで、本発明は、微生物を利用した系において、植物を土壌伝染性病害から効果的に防除する方法、組成物及びキットを提供することを目的とする。
【課題を解決しようとする手段】
【0008】
以上に鑑み、本発明者は、有用微生物としてシュードモナス属細菌に着目し、当該細菌の植物保護作用を増強させる物質を鋭意検討したところ、驚くべきことにグルタミン酸がシュードモナス属細菌との併用において非常に有効であることを見出した。かかる知見に基づき、本発明者は、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は、好ましくは以下に記載するような態様により行われるが、これに限定されるものではない。
[態様1]シュードモナス属細菌及びグルタミン酸を土又は植物に付与する工程を含む、植物の土壌伝染性病害防除方法。
[態様2]植物が種子又は幼苗である、態様1に記載の方法。
[態様3]植物が、発根した種子である、態様1又は2に記載の方法。
[態様4]植物の播種前又は播種後3日以内にシュードモナス属細菌及びグルタミン酸を付与する、態様1~3のいずれか1に記載の方法。
[態様5]シュードモナス属細菌及びグルタミン酸のうちいずれか一方を付与し、当該付与後3日以内に他方を付与する、態様1~4のいずれか1に記載の方法。
[態様6]シュードモナス属細菌を先に付与し、次いでグルタミン酸を付与する、態様1~5のいずれか1に記載の方法。
[態様7]シュードモナス属細菌及びグルタミン酸を付与した後でさらにグルタミン酸を付与する工程を含む、態様1~6のいずれか1に記載の方法。
[態様8]シュードモナス属細菌及びグルタミン酸を含む、植物の土壌伝染性病害防除用組成物。
[態様9]シュードモナス属細菌及びグルタミン酸を含む、植物の土壌伝染性病害防除用キット。
【発明の効果】
【0010】
本発明を利用することによって、効果的に植物を土壌伝染性病害から防除することができる。本発明において使用されるシュードモナス属細菌は生物農薬としての使用実績があり、グルタミン酸も天然アミノ酸のうちの一種である。そのため、本発明で提供される技術は、一般的な化学農薬の使用に対して高い安全性を有するものと考えられる。また、本発明では細菌1種類と化学物質1種類の合計2成分のみで植物保護効果が奏されることから、本発明の技術は簡便に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、病原微生物ピシウム属菌に対するシュードモナス属細菌及びグルタミン酸の病害防除効果を示す写真である。写真の左より、水処理、グルタミン酸単独処理、シュードモナス属細菌単独処理、両方を処理したもの、を示す。
図2図2は、シュードモナス属細菌との併用効果に関して、グルタミン酸(Glu)及びヒスチジン(His)の有効性を調べた結果を示すグラフである。
図3図3は、シュードモナス属細菌との併用効果に関して、複数種類のアミノ酸の有効性を調べた結果を示すグラフである。
図4図4は、シュードモナス属細菌Pseudomonas sp. Os17株に対するグルタミン酸の効果を示すグラフである。
図5図5は、病原微生物リゾクトニア属菌に対するシュードモナス属細菌及びグルタミン酸の病害防除効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明について詳述するが、本発明はこれらに限定されるものではない。本明細書で特段に定義されない限り、本発明に関連して用いられる科学用語及び技術用語は、当業者によって一般に理解される意味を有するものである。
【0013】
(1)植物の土壌伝染性病害防除方法
本発明の一態様は、シュードモナス属細菌及びグルタミン酸を土又は植物に付与する工程を含む、植物の土壌伝染性病害防除方法である。
【0014】
シュードモナス(Pseudomonas)属細菌は、プロテオバクテリア門ガンマプロテオバクテリア網シュードモナス科に属する細菌であり、グラム陰性好気性桿菌であることを特徴とする。シュードモナス属細菌の生育域は幅広く、土壌、淡水、海水、植物、又は動物に生息することが知られている。
【0015】
本発明におけるシュードモナス属細菌は、特に限定されないが、植物保護作用を有するものが好適に用いられる。その具体例としては、シュードモナス プロテゲンス(Pseudomonas protegens)、シュードモナス フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)、シュードモナス シリンゲ(Pseudomonas syringae)、シュードモナス クロロラフィス(Pseudomonas chlororaphis)、シュードモナス シンキサンタ(Pseudomonas synxantha)、シュードモナス ブラシカセアルム(Pseudomonas brassicacearum)、シュードモナス プチダ(Pseudomonas putida)、及びシュードモナス ロデシア(Pseudomonas rhodesie)等が挙げられる。また、本発明では、シュードモナス(Pseudomonas)sp. Os17株、及びシュードモナス(Pseudomonas)sp. St29株も利用することができ、これらの細菌は独立行政法人製品評価技術基盤機構(National Institute of Technology and Evaluation(NITE)) バイオテクノロジーセンター 特許微生物寄託センター(NPMD)において、それぞれ受託番号NITE P-02053及び受託番号NITE P-02054として寄託されている。好ましくは、シュードモナス プロテゲンス、シュードモナスsp. Os17株、及びシュードモナスsp. St29株が本発明において使用される。シュードモナス プロテゲンスの細菌株のうち、好ましくはシュードモナス プロテゲンスCHA0株、及びシュードモナス プロテゲンスCab57株が用いられるが、特にこれらに限定されない。

【0016】
シュードモナス属細菌は、自ら単離してきたものを使用してもよく、施設から分譲されたものを使用してもよく、或いは生物農薬製品として市場で利用可能なシュードモナス属細菌(即ち、市販品)を使用してもよく、その使用に関しては特に限定されない。
【0017】
グルタミン酸は、アミノ酸の一種であり、化学式HOOC(CHCH(NH)COOH(又はCNO)で表される化合物である。また、グルタミン酸は、親水性アミノ酸、極性アミノ酸、極性電荷アミノ酸(極性負電荷アミノ酸)、又は酸性アミノ酸に分類され、Glu又はEの略号で表されることもある。グルタミン酸は、植物及び動物に含まれており、具体的には海藻、小麦粉、大豆、サトウキビ等に含まれることが知られている。
【0018】
本発明においてグルタミン酸は、D体(D-グルタミン酸)、L体(L-グルタミン酸)、及びDL体(DL-グルタミン酸)のいずれもが使用可能であり、特に限定されない。本発明では、L体のグルタミン酸(L-グルタミン酸)が好ましい。なお、D体のグルタミン酸のCAS番号は6893-26-1であり、L体のグルタミン酸のCAS番号は56-86-0である。
【0019】
本発明においてグルタミン酸は、塩であってもよい。グルタミン酸の塩としては、例えば、ナトリウムやカリウム等のアルカリ金属塩(具体的には、グルタミン酸ナトリウム、グルタミン酸カリウム等)、カルシウムやマグネシウム等のアルカリ土類金属塩(具体的には、グルタミン酸カルシウム、グルタミン酸マグネシウム等)、グルタミン酸亜鉛、及びグルタミン酸鉄等が挙げられる。
【0020】
グルタミン酸について、その入手方法は特に限定されず、動物や植物から単離精製された天然のもの、或いは化学合成法や発酵法等により得られたもののいずれであってもよい。グルタミン酸は、自ら精製したものを使用してもよいし、或いは市販品を使用してもよく、その使用に関しては特に限定されない。本発明では、好ましくは市販されているグルタミン酸が用いられる。
【0021】
本発明の方法において、シュードモナス属細菌及びグルタミン酸は土又は植物に付与される。ここで、本明細書において「土」とは、植物が生育可能な土壌を意味する。本発明で用いられる土は、例えば、培土、培養土、育苗土、又は育苗培土等の名称で示されるものであってよい。また、何らの処理も行われていない山野の土をそのまま用いてもよい。土の粒度も特に限定されず、植物が生育可能である限りいかなる土であってもよい。本発明において付与対象とされる土は、植物の近辺の土(例えば、植物から10cm以内の範囲にある土)であることが好ましい。
【0022】
本発明における植物は、特に限定されないが、農産物であることが好ましい。農産物の種類としては、例えば、野菜、穀物、果物、花、及び豆類等が挙げられるが、特にこれらに限定されない。また、その具体例としては、ウリ類(キュウリ、スイカ、カボチャ、ズッキーニ、ヒョウタン、ヘチマ、トウガン、テッポウウリ、ユウガオ、ツルレイシ(ニガウリ、ゴーヤ)、メロン等)、イモ類(ジャガイモ、サツマイモ、サトイモ、ナガイモ、ヤマノイモ等)、根菜類(カブ、ダイコン、ハツカダイコン、ワサビ、ホースラディッシュ、ゴボウ、チョロギ、ショウガ、ニンジン、ラッキョウ、レンコン、ユリ根等)、葉菜類(カラシナ、キャベツ、クレソン、ケール(ハゴロモカンラン)、コマツナ、サイシン、サンチュ、山東菜、シュンギク、シロナ、セリ、セロリ、タアサイ、ダイコンナ(スズシロ)、タカナ、チンゲンサイ、ニラ、菜の花、野沢菜、白菜、パセリ、ハルナ、フダンソウ(スイスチャード)、ホウレンソウ、ミズナ、ミブナ、ミツバ、メキャベツ、ルッコラ、レタス(チシャ)、はなっこりー、ワサビナ等)、果菜類(ナス、ペピーノ、トマト(ミニトマト、フルーツトマト等)、タマリロ、タカノツメ、トウガラシ、シシトウガラシ、ハバネロ、ピーマン(パプリカ、カラーピーマンを含む)、カボチャ、ズッキーニ、キュウリ、ツノニガウリ(キワノ)、シロウリ、ツルレイシ(ゴーヤ、ニガウリ)、トウガン、ヘチマ、ユウガオ、オクラ等)、穀物類(トウモロコシ等)、マメ類(アズキ、インゲンマメ、エンドウ、枝豆(エダマメ)、ササゲ、シカクマメ、ソラマメ、ダイズ、ナタマメ、ラッカセイ、レンズマメ、ゴマ等)、菌茸類(エノキタケ、エリンギ、キクラゲ、キヌガサタケ、シイタケ、シメジ、シロキクラゲ、タモギタケ、チチタケ、ナメコ、ナラタケ、ハタケシメジ、ヒラタケ、ブナシメジ、ブナピー、ポルチーニ、ホンシメジ、マイタケ、マッシュルーム、マツタケ、ヤマブシタケ等)等が挙げられる。
【0023】
本発明において付与対象とされる植物の状態は特に限定されず、種子若しくは幼苗、又は既に植物が生育した状態であってよいが、好ましくは種子又は幼苗であり、より好ましくは種子である。種子や幼苗といった生育初期の段階であることにより、土壌伝染性病害の罹りはじめを抑制することができ、より効果的に植物における土壌伝染性病害の防除を行うことができる。また、植物の組織が幼若であることにより、シュードモナス属細菌及びグルタミン酸は植物内に浸透しやすくなり、その点でも土壌伝染性病害の防除をより効果的に行うことができる。土壌伝染性病害防除の観点から、本発明において植物は、発根した種子であることが特に好ましい。なお、既に植物が生育した状態である場合は、植物の根、葉、茎、枝、又は幹等のいずれの部位に対してもシュードモナス属細菌及びグルタミン酸の付与を行うことができる。
【0024】
上述したシュードモナス属細菌及びグルタミン酸は土又は植物に対して付与されるが、その付与に関する方法及び手段は、本発明の効果が得られる限りにおいて特に限定されない。例えば、シュードモナス属細菌及びグルタミン酸を共に、又は別々に、懸濁又は溶解した水(水溶液)を準備して、その準備した水(水溶液)を土又は植物に接触させることにより付与操作を行うことができる。
【0025】
シュードモナス属細菌及びグルタミン酸の形態は、液体であってもよいし、固体であってもよい。当該形態が液体である場合は、吹き付け、滴下、又は浸漬等の操作によって、シュードモナス属細菌及びグルタミン酸を土又は植物に付与することができる。浸漬操作の場合には、容器を別途準備して、当該液体が入った容器の中に土又は植物が入った穴あき容器を入れて作業を行ってもよい。シュードモナス属細菌及びグルタミン酸の形態が固体である場合は、土の上又は土の中に当該固体を置くことによって付与してもよいし、或いは植物体の表面に当該固体を接触させることによって付与してもよい。
【0026】
土又は植物に付与するシュードモナス属細菌及びグルタミン酸の量は、特に限定されず、付与形態や対象とする植物の種類等に応じて適宜設定することができる。例えば、土に対してシュードモナス属細菌を付与する場合は、1cmの土に対して1回あたり10~1020CFU、好ましくは10~1010CFUの細菌数で付与することができる。また、土に対してグルタミン酸を付与する場合は、1cmの土に対して1回あたり0.01mM~1M、好ましくは0.1mM~100mMの量で付与することができる。シュードモナス属細菌及びグルタミン酸の付与量は、これらを含む製剤中の濃度と当該製剤の付与量によって調整することができる。また、例えば、植物に対してシュードモナス属細菌を付与する場合は、植物1個体に対して1回あたり10~1020CFU、好ましくは10~1010CFUの細菌数で付与することができる。また、植物に対してグルタミン酸を付与する場合は、植物1個体に対して1回あたり0.01mM~1M、好ましくは0.1mM~100mMの量で付与することができる。シュードモナス属細菌及びグルタミン酸の付与量は、これらを含む製剤中の濃度と当該製剤の付与量によって調整することができる。なお、グルタミン酸が塩である場合は、その遊離体(グルタミン酸イオン)に相当する分子量をもってグルタミン酸の量を計算することができる。
【0027】
シュードモナス属細菌及びグルタミン酸を付与する時期は、植物の播種前、播種時、及び播種後(育苗期、定植期等を含む)のいずれであってもよく、特に限定されないが、好ましくは植物の播種前又は播種後3日以内である。ここで、本明細書において「播種」とは、生育の出発点として植物を土壌に植えることを意味し、例えば、土壌への種まきや土壌に苗を植えること等が包含される。
【0028】
植物の播種前にシュードモナス属細菌及びグルタミン酸を付与する場合、その具体的な時期は特に限定されないが、例えば、播種前7日以内、播種前6日以内、播種前5日以内、播種前4日以内、播種前3日以内、播種前2日以内、播種前1日以内、播種前12時間以内、播種前6時間以内、播種前3時間以内、播種前1時間以内、播種前30分以内、播種前10分以内、播種前5分以内、播種前1分以内、又は播種前30秒以内である。また、植物の播種後に付与する場合、その付与時期は、播種後7日以内、播種後6日以内、播種後5日以内、又は播種後4日以内としてもよく、或いは、播種後2日以内、播種後1日以内、播種後12時間以内、播種後6時間以内、播種後3時間以内、播種後1時間以内、播種後30分以内、播種後10分以内、播種後5分以内、播種後1分以内、又は播種後30秒以内としてもよい。本発明では、植物の生育初期の段階でシュードモナス属細菌及びグルタミン酸と植物とが接触することが好ましいため、そのような観点から上記の付与時期と植物播種時期との間の期間は短い方が好ましく、例えば、少なくとも播種前後3日以内、或いは少なくとも播種前後1日以内に付与を行うのが好ましい。
【0029】
本発明の方法においては、シュードモナス属細菌及びグルタミン酸は同時に付与されてもよいし、別々に付与されてもよい。本発明の方法では、特に限定されないが、シュードモナス属細菌及びグルタミン酸のうちいずれか一方を付与した後でその3日以内に他方を付与することができる。双方の付与時期の間隔は、2日以内、1日以内、12時間以内、6時間以内、3時間以内、1時間以内、30分以内、10分以内、5分以内、1分以内、又は30秒以内であってもよい。本発明においてグルタミン酸は、シュードモナス属細菌の土壌伝染性病害防除作用を飛躍的に増強させる働きを有していると考えられることから、双方の付与時期の間隔は長くならない方が好ましい。そのような観点から、シュードモナス属細菌とグルタミン酸とを付与する場合の双方の付与時期の間隔は、少なくとも1日以内であることが好ましい。なお、上述した植物の播種に対するシュードモナス属細菌及びグルタミン酸の付与時期は、いずれか一方が付与される時期として適用され、他方は当該付与後3日以内に付与することができる。
【0030】
シュードモナス属細菌とグルタミン酸とは、いずれを先に付与してもよい。すなわち、シュードモナス属細菌を先に付与し、次いでグルタミン酸を付与してもよいし、或いはグルタミン酸を先に付与し、次いでシュードモナス属細菌を付与してもよい。本発明では、特に限定されないが、シュードモナス属細菌を先に付与し、次いでグルタミン酸を付与することが好ましい。シュードモナス属細菌を先に付与すれば、植物(例えば、種子)の表面へのシュードモナス属細菌の接着性を高めることができ、それによって植物における土壌伝染性病害の防除をより効果的に行うことができると考えられる。
【0031】
本発明の方法はまた、シュードモナス属細菌及びグルタミン酸を付与した後でさらにグルタミン酸を付与する工程を含むことができる。グルタミン酸の更なる付与により、シュードモナス属細菌の土壌伝染性病害防除作用の増強効果を持続できると考えられ、さらに効果的に土壌伝染性病害を防除できることが期待される。グルタミン酸の更なる付与は1回以上行うことができ、2回以上、3回以上、4回以上、又は5回以上としてもよい。
【0032】
グルタミン酸の更なる付与は継続的に行うことができる。グルタミン酸をさらに付与する時期の間隔は、特に限定されないが、例えば、6時間以上、12時間以上、1日以上、2日以上、3日以上、又は4日以上とすることができ、また、10日以下、7日以下、6日以下、5日以下、4日以下、3日以下、2日以下、1日以下、又は12時間以下としてもよい。
【0033】
グルタミン酸をさらに付与する形態や手段は特に限定されず、上述した内容と同様にすることができる。また、グルタミン酸をさらに付与する量も特に限定されず、上記と同様にすることができる。
【0034】
本発明で対象とされる土壌伝染性病害は、土壌中に生存する病原微生物によって発生する病害である限り特に限定されない。土壌中に生存する病原微生物としては、例えば糸状菌(真菌類や卵菌類等)などが挙げられる。病原微生物である糸状菌の具体例としては、ピシウム(Pythium)属菌(ピシウム ウルティマム(Pythium ultimum)、ピシウム アファニデルマタム(Pythium aphanidermatum)、ピシウム メガラカンタム(Pythium megalacanthum)等)、フザリウム(Fusarium)属菌(フザリウム オキシスポラム(Fusarium oxysporum)、フザリウム グラミネアラム(Fusarium graminearum)、フザリウム ソラニ(Fusarium solani)等)、リゾクトニア(Rhizoctonia)属菌(リゾクトニア ソラニ(Rhizoctonia solani)等)、ティエラビオプシス(Thielaviopsis)属菌等が挙げられる。また、糸状菌以外の病原微生物の具体例としては、エルウィニア(Erwinia)属菌(エルウィニア カロトボーラ(Erwinia carotovora)、ラルストニア(Ralstonia)属菌(ラルストニア ソラナセアラム(Ralstonia solanacearum)、ペクトバクテリウム(Pectobacterium)属菌(ペクトバクテリウム カロトボラム(Pectobacterium carotovorum)等)、バークホルデリア(Burkholderia)属菌(バークホルデリア グルメ(Burkholderia glumae)等)、アグロバクテリウム(Agrobacterium)属菌(アグロバクテリウム ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)等)等が挙げられる。本発明における病原微生物としては、糸状菌を対象とすることが好ましい。
【0035】
土壌伝染性病害としては、例えば、苗立枯病、ピシウム腐敗病、床替苗根腐病、萎凋病、葉腐病、根腐病、つる割病、立枯病、萎黄病、尻腐病、根腐衰弱病、球果褐変病、腐敗病、葉枯病、乾腐病、株枯病、赤かび病、球根腐敗病、茎腐萎凋病、茎腐病、根腐萎凋病、黒すじ実腐病、半枯病、黒しみ病、パナマ病、褐色腐敗病、フザリウム病、株腐病、紋枯病、芽枯病、くもの巣病、褐色紋枯病、すそ枯病、リゾクトニア病、球茎腐敗病、黒あざ病、せん孔葉枯病、乾性根腐病、大粒白絹病、虎斑病、すそ腐病、実腐病、腰折病、林地根腐病、尻腐病、莢腐敗、皮腐病、褐色あざ病、根朽病、褐色斑点病、白色葉腐病、リゾクトニア葉鞘腐敗病、リゾクトニア根腐病、水耕苗根腐病等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0036】
(2)植物の土壌伝染性病害防除用組成物
本発明の一態様は、シュードモナス属細菌及びグルタミン酸を含む、植物の土壌伝染性病害防除用組成物である。
【0037】
本発明の組成物に用いられるシュードモナス属細菌及びグルタミン酸については、上述した通りである。
【0038】
本発明の組成物に含まれるシュードモナス属細菌の量は、細菌種、細菌の性質(耐乾燥性など)、適用する植物の種類、剤形の種類等に応じて適宜設定することができる。本発明の組成物中のシュードモナス属細菌の含有量は、例えば、組成物100g当たり10~1020CFU、好ましくは10~1012CFUであるが、特に限定されるわけではない。
【0039】
本発明の組成物へのシュードモナス属細菌の添加方法は特に限定されず、そのまま添加してもよい。例えば、当業者に公知の方法でシュードモナス属細菌を培養し、液体培地であれば遠心分離等で回収し、固体培地であれば形成コロニーを白金耳等で回収して、本発明の組成物に添加することができる。或いは、液体中に保存していた状態から自体公知の方法で凍結乾燥処理を行い、シュードモナス属細菌を固体物として本発明の組成物に添加してもよい。
【0040】
本発明の組成物に含まれるグルタミン酸の量は、適用する植物の種類や剤形の種類等に応じて適宜設定することができる。本発明の組成物中のグルタミン酸の含有量は、例えば、組成物100g当たり0.01mM~1M、好ましくは0.1mM~100mMであるが、特に限定されるわけではない。
【0041】
本発明の組成物は、賦形剤、増粘剤、結合剤、安定化剤、防腐剤、pH調整剤、着色剤、着香剤等の添加剤を含んでいてもよい。各種の添加剤は、特に限定されないが、生物農薬の技術分野において公知の材料を用いることができ、その配合量は、当業者の公知技術に基づいて適宜調整することができる。また、本発明の組成物の形態は、液体、固体、ゲル、ペースト等のいずれの形態であってもよく、使用状況等に応じて適宜設定することができる。
【0042】
本発明の組成物は、濃縮物の状態であってもよい。その場合の濃縮倍率は特に限定されず、例えば、2~1000倍、5~100倍、又は10~50倍とすることができる。本発明の組成物が濃縮物である場合は、水等の溶媒を用いて適宜希釈を行い、その希釈物を土又は植物に付与することができる。本発明の組成物中のシュードモナス属細菌及びグルタミン酸の含有量は、濃縮倍率に応じて設定することができる。
【0043】
本発明の組成物はまた、シュードモナス属細菌及びグルタミン酸が含まれる単一の製剤として構成されていてもよく、或いは、シュードモナス属細菌とグルタミン酸とが別々に含まれる二つの製剤として構成されていてもよい。本発明の組成物が二つの製剤として構成される場合は、当該二つの製剤は併用されること(即ち、併用剤であること)が好ましい。また、本発明の組成物が二つの製剤として構成される場合、当該二つの製剤は異なる種類の剤形であってもよいし、同一種類の剤形であってもよい。
【0044】
本発明の組成物は、植物の土壌伝染性病害防除用として用いられる。対象とする植物や土壌伝染性病害は特に限定されるものではなく、その具体例としては上記の内容と同様である。本発明の組成物は、生物農薬又は微生物農薬としても使用することができる。そのため、本発明の組成物は農薬組成物と称することもできる。
【0045】
(3)植物の土壌伝染性病害防除用キット
本発明の一態様は、シュードモナス属細菌及びグルタミン酸を含む、植物の土壌伝染性病害防除用キットである。
【0046】
本発明のキットに用いられるシュードモナス属細菌及びグルタミン酸については、上述した通りである。
【0047】
本発明のキットにおけるシュードモナス属細菌及びグルタミン酸は、試薬であってもよいし、或いは調製物であってもよく、その形態は特に限定されない。また、シュードモナス属細菌及びグルタミン酸は、双方が同一の製剤に含まれていてもよいし、別個の製剤にそれぞれ分けて含まれていてもよい。シュードモナス属細菌及びグルタミン酸が別個の製剤に分けられている場合、当該製剤は異なる種類の剤形であってもよいし、同一種類の剤形であってもよい。
【0048】
本発明のキットにおいて用いられる製剤の形態は特に限定されず、液体、固体、ゲル、ペースト等のいずれの形態であってもよい。また、製剤中のシュードモナス属細菌及びグルタミン酸の含有量も特に限定されず、上述した本発明の組成物に準じて任意に設定することができる。
【0049】
本発明のキットにおいて用いられる製剤は、シングルユースとして一回当たりの使用量が個別に包装されていてもよいし、複数回(例えば、2回、3回、4回、5回、10回、又はそれ以上)の使用量を含んだ形態で包装されていてもよい。使用される容器も特に限定されず、製剤の使用量等に応じて適宜設定することができる。
【0050】
本発明のキットにおいてシュードモナス属細菌及びグルタミン酸が別個の試薬又は製剤に分けられている場合、双方は同一のパッケージに組み込まれている必要はなく、別々にパッケージングされていて使用時に併用されるものであってもよい。また、本発明のキットは、シュードモナス属細菌及びグルタミン酸の使用に関する取扱説明書を含んでいてもよい。
【0051】
本発明のキットは、植物の土壌伝染性病害防除用として用いられる。対象とする植物や土壌伝染性病害は特に限定されるものではなく、その具体例としては上記の内容と同様である。本発明のキットは、生物農薬又は微生物農薬としても使用することができる。
【実施例
【0052】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の技術的範囲を限定するためのものではない。当業者は本明細書の記載に基づいて容易に本発明に修飾及び変更を加えることができ、それらも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0053】
<実験例1>
植物としてキュウリを使用し、土壌病原菌であるピシウム属菌(Pythium ultimum MAFF425494株)による伝染性病害について、シュードモナス属細菌とグルタミン酸の病害防除効果を調べた。
【0054】
滅菌水をしみ込ませた濾紙の上にキュウリの種子を並べ、26℃、24時間、暗黒下に置いた。シュードモナス属細菌としてはPseudomonas protegens CHA0株を使用し、NYB培地(Nutrient broth:25g、Yeast extract:5g、HO:1000ml)にて30℃、180rpm、24時間の条件で振盪培養した。シュードモナス属細菌の培養液は、遠心分離して上清を取り除き、OD600=0.1になるよう滅菌水で懸濁した。
【0055】
バーミキュライトに水を加えてなじませた。バーミキュライトに対して、雑穀(あわ)に感染させておいたピシウム属菌を雑穀ごと加え、十分に混ぜた。バーミキュライト1Lに対し、ピシウム属菌を感染した雑穀を7g加えた。なお、一部のバーミキュライトについては、ピシウム属菌を感染した雑穀は添加せずに取り分けておいた。
【0056】
準備したバーミキュライトを、底部に穴があり水が透過可能な育苗用トレイ(1区画あたり5cm四方、深さ5cm)に50mLずつ均等に分けた。発根が確認されたキュウリの種子を2粒ずつバーミキュライトの上にまいた。
【0057】
シュードモナス属細菌及びグルタミン酸をキュウリ種子及びその近辺の土に付与した。具体的には、1区画の育苗用トレイに対してシュードモナス属細菌の調整済み水溶液を4mLずつ、キュウリ種子にめがけて添加し、ピシウム属菌を感染させずに取り分けておいたバーミキュライトをキュウリ種子の上から15mLずつかぶせ、この育苗用トレイを、バットに入った水又は10mMグルタミン酸(L-グルタミン酸)水溶液(育苗用トレイ1区画につき10mL)の中に浸した。なお、シュードモナス属細菌及びグルタミン酸の付与はキュウリ種子の播種後2時間以内に行い、シュードモナス属細菌とグルタミン酸との付与時期の間隔は1時間以内とした。
【0058】
育苗用トレイは、25℃に設定した植物用インキュベーターに入れた。なお、明期は16時間、暗期は8時間に設定した。インキュベーターでの栽培期間は2週間とし、1日おきにバット中の水又は10mMグルタミン酸水溶液を交換した。
【0059】
本実験例の結果を図1に示す。図1の写真に示された通り、シュードモナス属細菌にグルタミン酸を併用させることにより、土壌伝染性病害の防除効果が高まることが明らかとなった。また、グルタミン酸それ自体の土壌伝染性病害防除効果は高くないようであったことから、グルタミン酸はシュードモナス属細菌に作用して、シュードモナス属細菌の土壌伝染性病害防除作用を増強させる効力を有していると考えられた。
【0060】
<実験例2>
実験例1と同様の方法を用いて、シュードモナス属細菌との併用効果として、グルタミン酸及びヒスチジンの有効性を調べた。
【0061】
ヒスチジンの付与に関しては、10mMヒスチジン(L-ヒスチジン)水溶液を準備して、上記実験例1でのグルタミン酸水溶液の代わりに使用した。また、キュウリの栽培数は各群n=12として、2週間の栽培後、キュウリの重量を測定し、その平均値を算出した。キュウリの重量測定では、キュウリの根に付着したバーミキュライトは十分に洗い流すようにした。
【0062】
本実験例の結果を図2に示す。本実験例により、植物の土壌伝染性病害防除効果が数値化され、グルタミン酸の添加によりシュードモナス属細菌の病害防除効果が高まることがより明確に示された(t検定による有意差あり)。一方、ヒスチジンに関しては、シュードモナス属細菌の病害防除効果を高める作用はなく、むしろ減弱させてしまう可能性があることが示唆された。
【0063】
<実験例3>
ヒスチジン以外の各種アミノ酸について、シュードモナス属細菌との併用効果を調べた。本実験例では実験例1と同様の方法を用い、アミノ酸としては、グルタミン酸(Glu)に加え、グルタミン(Gln)、グリシン(Gly)、ロイシン(Leu)、フェニルアラニン(Phe)、アルギニン(Arg)、リジン(Lys)、バリン(Val)、イソロイシン(Ile)及びトリプトファン(Trp)を評価した。いずれのアミノ酸も10mM濃度の水溶液を準備して使用した。なお、本実験例ではシュードモナス属細菌としてPseudomonas protegens Cab57株を用い、アミノ酸は全てL体のものを用いた。
【0064】
本実験例ではキュウリの栽培数は各群n=12~18とし、実験例2と同様にして、2週間の栽培後、キュウリの重量を測定し、その平均値を算出した。各群のキュウリ重量の平均値について、シュードモナス属細菌のみを添加した群の結果を1としてその相対値を求めた。
【0065】
本実験例の結果を図3に示す。この結果から、使用したアミノ酸のうちグルタミン酸以外のものはいずれもシュードモナス属細菌の病害防除効果を高める作用は強くないことが示された。なお、グルタミン酸については、シュードモナス属細菌の細菌株が異なっても同様の効果が発揮されることが示された(t検定による有意差あり)。
【0066】
<実験例4>
本実験例では、シュードモナス属細菌としてPseudomonas sp. Os17株を用いて、当該細菌に対するグルタミン酸の効果を調べた。
【0067】
本実験例では実験例1と同様の方法を用い、キュウリの栽培数は各群n=17とし、実験例3と同様にして、2週間の栽培後のキュウリ重量について、シュードモナス属細菌のみを添加した群の結果を1としてその相対値を求めた。
【0068】
本実験例の結果を図4に示す。この結果から、グルタミン酸は、シュードモナス属細菌がPseudomonas sp. Os17株の場合であっても同様の効果が発揮されることが示された(t検定による有意差あり)。
【0069】
<実験例5>
シュードモナス属細菌とグルタミン酸との土壌伝染性病害防除効果について、病原微生物が異なった場合にも同様の効果が見られるかどうか調べた。
【0070】
本実験例では、病原微生物としてリゾクトニア属菌(Rhizoctonia solani MAFF726551株)を用いた。また、シュードモナス属細菌としては、Pseudomonas protegens Cab57株を用いた。
【0071】
本実験例では実験例1と同様の方法を用い、ピシウム属菌を感染した雑穀7gに代えて、リゾクトニア属菌を感染した雑穀1gをバーミキュライト1Lに対して添加した。また、キュウリの栽培期間は5日間とした。キュウリの栽培数は各群n=8~12とし、実験例3と同様にして、栽培後のキュウリ重量について、シュードモナス属細菌のみを添加した群の結果を1としてその相対値を求めた。
【0072】
本実験例の結果を図5に示す。この結果から、シュードモナス属細菌とグルタミン酸との土壌伝染性病害防除効果は、病原微生物の種類が異なった場合にも見られることが明らかとなった(t検定による有意差あり)。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明により提供される技術は、植物として農産物を効果的に土壌伝染性病害から防除できる観点から農業分野において有用である。本発明により提供されるシュードモナス属細菌とグルタミン酸は、農薬分野、特に生物農薬の分野において利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5