(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-24
(45)【発行日】2022-06-01
(54)【発明の名称】D-アミノ酸及びβ-アミノ酸の取り込みを増強するtRNAのD及びTアームの改変
(51)【国際特許分類】
C12N 15/11 20060101AFI20220525BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20220525BHJP
C40B 40/10 20060101ALI20220525BHJP
C40B 40/06 20060101ALI20220525BHJP
C40B 40/08 20060101ALI20220525BHJP
C12P 21/00 20060101ALI20220525BHJP
【FI】
C12N15/11 Z ZNA
C12N15/09 Z
C40B40/10
C40B40/06
C40B40/08
C12P21/00 A
(21)【出願番号】P 2019549140
(86)(22)【出願日】2018-08-28
(86)【国際出願番号】 JP2018031814
(87)【国際公開番号】W WO2019077887
(87)【国際公開日】2019-04-25
【審査請求日】2020-04-16
(31)【優先権主張番号】P 2017200356
(32)【優先日】2017-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業(CREST)、産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100152331
【氏名又は名称】山田 拓
(72)【発明者】
【氏名】菅 裕明
(72)【発明者】
【氏名】加藤 敬行
【審査官】中野 あい
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-125396(JP,A)
【文献】国際公開第2011/049157(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/074130(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/074129(WO,A1)
【文献】KATO T. et al.,Essential structural elements in tRNAPro for EF-P-mediated alleviation of translation stalling,Nature Communications, 2016, 7:11657
【文献】小嶋達矢ほか,遺伝子暗号リプログラミン技術,生物物理, 2012, vol.52, no.1, p.004-009
【文献】KATO T. et al.,Consecutive Elongation of D-Amino Acids in Translation,Cell Chemical Biology, Epub 2016 Dec 29, vol.24, no.1, p.46-54
【文献】KATO T. et al.,Logical engineering of D-arm and T-stem of tRNA that enhances D-amino acid incorporation,Nucleic Acids Research, Epub 2017 Nov 16, vol.45, no.22, p.12601-12610
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1で示される塩基配列及び配列番号2で示される塩基配列を含有し、非タンパク質性アミノ酸をコードするtRNA。
N
1N
2GCN
3N
4N
5N
6N
7N
8N
9N
10N
11GCN
12N
13 (配列番号1)
AGGGG(N
14)
mCCCCU (配列番号2)
(配列番号1において、
N
1~N
13は、それぞれ任意の塩基を示し、N
3~N
11はDループを形成し、
5’-N
1N
2GC-3’が、3’-N
13N
12CG-5’と塩基対を形成し、
配列番号2において、
N
14は、任意の塩基を示し、mは、1以上の整数であり、(N
14)
mはTループを形成し、
5’-AGGGG-3’が、3’-UCCCC-5’と塩基対を形成する。)
【請求項2】
非タンパク質性アミノ酸が、D-アミノ酸、β-アミノ酸又はα,α-二置換アミノ酸である、請求項1に記載のtRNA。
【請求項3】
配列番号1で示される塩基配列を含有し、
3’末端にD-アミノ酸、β-アミノ酸又はα,α-二置換アミノ酸
がチャージされている伸長tRNA。
N
1N
2GCN
3N
4N
5N
6N
7N
8N
9N
10N
11GCN
12N
13 (配列番号1)
(配列番号1において、
N
1~N
13は、それぞれ任意の塩基を示し、N
3~N
11はDループを形成し、
5’-N
1N
2GC-3’が、3’-N
13N
12CG-5’と塩基対を形成する。)
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のtRNAを含み、2以上の非タンパク質性アミノ酸が連続して結合するペプチドを合成するための翻訳系。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載のtRNAを用いて、無細胞翻訳系で翻訳する工程を含む、ペプチドライブラリの製造方法。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項に記載のtRNAを用いて、無細胞翻訳系で翻訳する工程を含む、ペプチドと該ペプチドをコードするmRNAとの複合体ライブラリの製造方法。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか1項に記載のtRNAを用いて、無細胞翻訳系で翻訳する工程を含む、ペプチドの製造方法。
【請求項8】
請求項1~3のいずれか1項に記載のtRNAを用いて、無細胞翻訳系で翻訳する工程を含む、ペプチドと該ペプチドをコードするmRNAとの複合体の製造方法。
【請求項9】
前記ペプチドが、2以上の非タンパク質性アミノ酸が連続して結合するペプチドを含む、請求項5~8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記ペプチドが、4以上の非タンパク質性アミノ酸が連続して結合し、非タンパク質性アミノ酸間で分子内架橋したペプチドを含む、請求項5~8のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非タンパク質性アミノ酸の取り込みを増強するtRNAのD及びTアームの改変に関する。
【背景技術】
【0002】
天然においては、リボソーム翻訳系は、19のタンパク質性L-アミノ酸及びグリシンを利用するが、D-アミノ酸やβ-アミノ酸のような非タンパク質性アミノ酸は、リボソーム翻訳系によるペプチド合成やタンパク質合成においては除外されている。D-アミノ酸やβ-アミノ酸は、様々な天然ペプチドに見出されているが、通常、非リボソーム翻訳系により合成されている。
そこで、これらの非タンパク質性アミノ酸を導入するための様々な方法が開発されている。
例えば、Flexible in vitro translation(FIT)系のような再構成されたin vitro翻訳系と組み合わされた遺伝子コードの再プログラミングにより、D-アミノ酸、N-メチルアミノ酸、β-アミノ酸、およびα-ヒドロキシ酸といった非タンパク質性アミノ酸が導入されている(非特許文献1-9)。
【0003】
しかしながら、非特許文献4、5及び10-12に開示されるように、ペプチド鎖にある種のD-アミノ酸を導入することに成功しているものの、D-アミノ酸の連続した導入は未だ大きな課題を有していた(非特許文献4及び12)。
非特許文献5には、フレキシザイムによって調製されたD-アミノ酸でプレチャージしたtRNAGluE2を使用することで、FITシステムを用いたD-アミノ酸の連続的な取り込みが開示されている。非特許文献5に開示された方法では、EF-Tuのより高濃度であることが、D-アミノアシルtRNAのアコモデーションの増強に貢献していると考えられている。しかしながら、2つの連続したD-Alaを有するペプチドの全体的な発現レベルは、0.3μM未満であり、全L型ペプチドにおける濃度の約1.4μMと比べて依然として低かった。
【0004】
また、β-アミノ酸についても、ぺプチド鎖に特定のβ-アミノ酸を導入することに成功しているものの、β-アミノ酸の連続した導入には大きな課題があった(非特許文献8及び13-18)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Murakami, H. et al. Nat. Methods 3, 357-359 (2006).
【文献】Goto, Y. et al. Nat. Protoc. 6, 779-790 (2011).
【文献】Goto, Y. et al. RNA 14, 1390-1398 (2008).
【文献】Fujino, T. et al. J. Am. Chem. Soc. 135, 1830-1837 (2013).
【文献】Katoh, T. et al. Cell Chem. Biol. 24, 46-54 (2017).
【文献】Kawakami, T. et al. Chem Biol 15, 32-42 (2008).
【文献】Kawakami, T. et al. J Am Chem Soc 135, 12297-12304 (2013).
【文献】Fujino, T. et al. J Am Chem Soc 138, 1962-1969 (2016).
【文献】Ohta, A. et al. Chem Biol 14, 1315-1322 (2007).
【文献】Dedkova, L.M. et al. J. Am. Chem. Soc. 125, 6616-6617 (2003).
【文献】Dedkova, L.M. et al. Biochemistry 45, 15541-15551 (2006).
【文献】Achenbach, J. et al. Nucleic Acids Res 43, 5687-5698 (2015).
【文献】Heckler, T. G. et al. J. Biol. Chem. 258, 4492-4495 (1983).
【文献】Maini, R. et al. Biochemistry 54, 3694-3706 (2015).
【文献】Iqbal, E. S. et al. Org. Biomol. Chem. 16, 1073-1078 (2018).
【文献】Dedkova, L. M. et al. Biochemistry 51, 401-415 (2011).
【文献】Maini, R. et al. Bioorg. Med. Chem. 21, 1088-1096 (2013).
【文献】Czekster, C. M. et al. J. Am. Chem. Soc. 138, 5194-5197 (2016).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、無細胞翻訳系で翻訳する際に、非タンパク質性アミノ酸が連続して結合したペプチドを合成することのできる新規翻訳系を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、アミノアシルtRNAのD及びTアームに着目し、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
本発明は以下のとおりである。
(1)
配列番号1で示される塩基配列を含有し、非タンパク質性アミノ酸をコードするtRNA。
N1N2GCN3N4N5N6N7N8N9N10N11GCN12N13 (配列番号1)
(配列番号1において、
N1~N13は、それぞれ任意の塩基を示し、N3~N11はDループを形成し、
N1N2GCが、N13N12CGと塩基対を形成する。)
(2)
配列番号2で示される塩基配列をさらに含有する、(1)に記載のtRNA。
AGGGG(N14)mCCCCU (配列番号2)
(配列番号2において、
N14は、任意の塩基を示し、mは、1以上の整数であり、(N14)mはTループを形成し、
AGGGGが、UCCCCと塩基対を形成する。)
(3)
3’末端にチャージされた非タンパク質性アミノ酸が、D-アミノ酸、β-アミノ酸又はα,α-二置換アミノ酸である、(1)又は(2)に記載のtRNA。
(4)
(1)~(3)のいずれかに記載のtRNAを含み、2以上の非タンパク質性アミノ酸が連続して結合するペプチドを合成するための翻訳系。
(5)
(1)~(3)のいずれかに記載のtRNAを用いて、無細胞翻訳系で翻訳する工程を含む、ペプチドライブラリの製造方法。
(6)
(1)~(3)のいずれかに記載のtRNAを用いて、無細胞翻訳系で翻訳する工程を含む、ペプチドと該ペプチドをコードするmRNAとの複合体ライブラリの製造方法。
(7)
(5)に記載の方法によって製造されるペプチドライブラリ又は(6)に記載の方法によって製造されるペプチド-mRNA複合体ライブラリ。
(8)
2以上の非タンパク質性アミノ酸が連続して結合するペプチドを含む、(7)に記載のペプチドライブラリ又はペプチド-mRNA複合体ライブラリ。
(9)
4以上の非タンパク質性アミノ酸が連続して結合し、非タンパク質性アミノ酸間で分子内架橋したペプチドを含む、(8)に記載のペプチドライブラリ又はペプチド-mRNA複合体ライブラリ。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、無細胞翻訳系で翻訳する際に、非タンパク質性アミノ酸が連続して結合したペプチドを合成することのできる新規翻訳系を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、EF-Pによるプロリン及びD-アミノ酸の取り込みの促進の模式図を示す。
図1Aは、2つのプロリン(Pro)間のペプチド結合形成を促進する原核生物翻訳因子であるEF-Pを示す。EF-Pの役割は、連続したプロリンの取り込みを促進することである。EF-Pは、E部位とP部位間のリボソームに結合し、P部位のペプチジルプロリルtRNAと相関して、P部位のペプチジルプロリルtRNAとA部位のプロリルtRNAとのペプチジルトランスファーを促進する。
図1Bは、tRNA
Pro1のD-アームおよびtRNA
GluE2のT-ステムのキメラ構造を有するtRNA
Pro1E2の構造を示す。
【
図2】
図2は、EF-PによるD-アミノ酸の取り込みの促進を示す。
図2Aは、実施例で用いられたmR1及びmR2のmRNA配列及びそれに対応したrP1及びrP2のペプチド配列を示す。任意に選択されたコドンは、NNNに導入され、プレチャージしたD-アミノアシルtRNAを用いてD-アミノ酸(X)の取り込みに使用される。flagのアミノ酸配列は、DYKDDDDKである。
図2Bは、CCGコドンでD-アミノ酸の取り込みに用いられるtRNAの構造を示す。野生型のtRNA
Pro
CGG(WT)は、13及び22位にC/G塩基対を有する。tRNA
Pro1
CGG(C13G)変異体は、C-to-G変異を13位に有するが、塩基対形成を崩壊させる。アンチコドンループの配列は、異なるコドンでデコードするために任意に変更可能である。
図2Cは、2つのD-アラニンが導入されたrP1ペプチドの発現レベルを示す。D-アラニン取り込みのために用いられたコドンを示す。黒色バーは、EF-P(+)の翻訳系であることを示し、白抜きバーは、EF-P(-)の翻訳系であることを示す。バーの上の数字は、EF-P(-)に対するEF-P(+)における割合として計算した翻訳収率を意味する。EF-P(+)の翻訳系におけるEF-Pの濃度は、5μMであった。翻訳時間は15分であり、エラーバーは、s.d.(n=3)である。
図2D及び
図2Eは、2又は3つの連続したD-アミノ酸又はAib(2-アミノ酪酸)を含むrP1ペプチド(
図2D)及びrP2ペプチド(
図2E)の発現レベルを示す。野生型のtRNA
Pro
CGG(WT)(通常のバー)又はC13G変異体であるtRNA
Pro1
CGG(ドットのバー)がCCGコドンでD-アミノ酸又はAibの取り込みに用いられた。黒色バーは、EF-P(+)の翻訳系であることを示し、白抜きバーは、EF-P(-)の翻訳系であることを示す。バーの上の数字は、EF-P(-)に対するEF-P(+)における割合として計算した翻訳収率を意味する。EF-P(+)の翻訳系におけるEF-Pの濃度は、5μMであった。翻訳時間は15分であり、エラーバーは、s.d.(n=3)である。D-ヒスチジン及びAibの取り込みを示す拡大したグラフを
図2Dでの右上に示す。
図2D及び
図2Eは、EF-Pが、P部位ペプチジルD-アミノアシルtRNAをペプチジルL-プロリンtRNAを認識するのと同様に、認識していることを示している。
【
図3】
図3Aは、2つの連続したD-アラニンを有するrP1ペプチドのトリシンSDS-PAGE分析の結果を示す(
図2Cを参照)。
図3Bは、2又は3つの連続したL-プロリンを含むrP1ペプチド及びrP2ペプチドの発現レベルを示す。CCGコドンで、野生型のtRNA
Pro
CGG(WT)(通常のバー)又はC13G変異体であるtRNA
Pro1
CGG(ドットのバー)がL-プロリンの取り込みに用いられた。黒色バーは、EF-P(+)の翻訳系であることを示し、白抜きバーは、EF-P(-)の翻訳系であることを示す。バーの上の数字は、EF-P(-)に対するEF-P(+)における割合として計算した翻訳収率を意味する。EF-P(+)の翻訳系におけるEF-Pの濃度は、5μMであった。翻訳時間は15分であり、エラーバーは、s.d.(n=3)である。
図3C及び
図3Dは、2又は3つの連続したL-プロリン(
図3C)又はD-アミノ酸及びAib(
図3D)を有するrP1ペプチド及びrP2ペプチドのトリシンSDS-PAGE分析の結果を示す。EF-Pの存在下あるいは非存在下で2.5μL 反応液中で、37℃で15分、翻訳を行った(
図2D及び2Eを参照)。
図3Eは、rP1ペプチド及びrP2ペプチドのMALDI-TOF-MSスペクトルを示す。野生型のtRNA
Pro
が、L-プロリン、D-アミノ酸及びAibの取り込みのために用いられた。矢印は、それぞれ目的物に応答するピークを示す。理論値及び実測値は、m/zで示す。
【
図4】
図4は、D-Ala含有ペプチドの翻訳におけるEF-Pの滴定及び時間経過分析を示す。
図4Aは、CCGコドンで、2つの連続したD-アラニンを含むrP1ペプチドの翻訳におけるEF-P濃度の滴定を示す。翻訳時間は40分(黒丸)又は15分(黒四角)とした。エラーバーは、s.d.(n=3)である。
図4Bは、2つの連続したD-アラニンを含むrP1ペプチドの翻訳の時間経過分析を示す。黒丸及び黒四角はそれぞれEF-P(+)及びEF-P(-)の翻訳系での結果を示す。EF-P(+)の翻訳系におけるEF-Pの濃度は、5μMであった。エラーバーは、s.d.(n=3)である。
【
図5】
図5は、D-アミノ酸取り込みのEF-P依存性促進に対するtRNA構造の効果を示す。
図5Aは、D-アミノ酸の取り込みに使用されるtRNAの構造を示す。tRNA
Pro1E1
CGG及びtRNA
Pro1E2
CGGの薄い文字は、それぞれ野生型tRNA
Pro1
CGG配列からの変異を示す(これらの変異を導入したtRNAを、大腸菌プロリルtRNA合成酵素は、認識することができない。)。
図5Bは、CCGコドンで、2つの連続したD-アラニンを含むrP1ペプチドの発現レベルを示す。D-アラニン取り込みに使用されるtRNAが示されている。バーの上の数字は、EF-P(-)に対するEF-P(+)における割合として計算した翻訳収率を意味する。翻訳時間は15分であり、エラーバーは、s.d.(n=3)である。
【
図6】
図6Aは、2つの連続したD-アラニンを取り込むための様々なtRNAを用いて合成したrP1ペプチドのトリシンSDS-PAGE分析の結果を示す。EF-Pの存在下あるいは非存在下で2.5μL 反応液中で、37℃で15分、翻訳を行った(
図5Bを参照)。
図6Bは、rP3、rP4、rP5,rP6及びrP7ペプチドのトリシンSDS-PAGE分析の結果を示す。tRNA
Pro1E2をD-アミノ酸の取り込みに使用した。EF-Pの存在下あるいは非存在下で2.5μL 反応液中で、37℃で15分、翻訳を行った(
図7Bを参照)。
図6Cは、5μM EF-PとtRNA
Pro1E2を用いて合成した、rP3、rP4、rP5,rP6及びrP7ペプチドのMALDI-TOF-MSスペクトルを示す。矢印は、それぞれ目的物に応答するピークを示す。理論値及び実測値は、m/zで示す。なお、rP7ペプチドは、主に、D-システインへの2-メルカプトエタノール付加物として検出された。
【
図7】
図7は、EF-Pによって促進される種々のペプチド配列へのD-アミノ酸の取り込みを示す。
図7Aは、mRNA配列(mR3、mR4、mR5、mR6及びmR7)並びに対応するペプチド配列(rP3、rP4、rP5、rP6及びrP7)を示す。
図7Bは、tRNA
Pro1E2変異体をD-アミノ酸の取り込みに使用した、rP3、rP4、rP5、rP6及びrP7の各ペプチドの発現レベルを示す。バーの上の数字は、EF-P(-)に対するEF-P(+)における割合として計算した翻訳収率を意味する。翻訳時間は15分であり、エラーバーは、s.d.(n=3)である。
【
図8】
図8は、ジスルフィド結合又はチオエーテル結合による環状D-ペプチドの翻訳を示す。
図8Aは、mRNA配列(mR8及びmR9)並びに対応するペプチド配列(rP8及びrP9)を示す。rP8ペプチドに含まれる2つのD-システインはジスルフィド結合を形成して大環状構造を形成する。rP9ペプチド中のD-システインのスルフヒドリル基は、N末端クロロアセチル(ClAc)基のα-炭素を攻撃してチオエーテル結合を形成し、大環状構造を形成する。
図8B及び
図8Cは、tRNA
Pro1E2またはtRNA
GluE2をD-アミノ酸の取り込みに使用したrP8ペプチド(
図8B)及びrP9ペプチド(
図8C)の発現レベルを示す。バーの上の数字は、EF-P(-)に対するEF-P(+)における割合として計算した翻訳収率を意味する。翻訳時間は15分であり、エラーバーは、s.d.(n=3)である。
【
図9】
図9A及び
図9Bは、rP8ペプチド(
図9A)及びrP9ペプチド(
図9B)のトリシンSDS-PAGE分析の結果を示す。tRNA
Pro1E2又はtRNA
GluE2をD-アミノ酸の取り込みに使用した。EF-Pの存在下あるいは非存在下で2.5μL 反応液中で、37℃で15分、翻訳を行った(
図8B及び8Cを参照)。
図9Cは、5μM EF-PとtRNA
Pro1E2を用いて合成した、rP8ペプチド及びrP9ペプチドのMALDI-TOF-MSスペクトルを示す。矢印は、それぞれ目的物に応答するピークを示す。理論値及び実測値は、m/zで示す。
【
図10】
図10は、EF-Pによるβ-アミノ酸の取り込みの促進を示す。
図10aは、CCGコドンでβ-アミノ酸の取り込みに用いられるtRNAの構造を示す。
図10bは、β-アミノ酸の構造を示す。
図10cは、
図2A同様に、β-アミノ酸の取り込みのために、実施例で用いられたmR1のmRNA配列及びそれに対応したrP1のペプチド配列を示す。CCGコドンは、プレチャージしたβ-アミノアシルtRNAを用いてβ-アミノ酸(Xaa)の取り込みに使用される。flagのアミノ酸配列は、DYKDDDDKである。
図10dは、2つの連続したβ-アミノ酸又はD-アラニンを含むrP1ペプチドの発現レベルを示す。野生型のtRNA
Pro
CGG(WT)(通常のバー)又はC13G変異体であるtRNA
Pro1
CGG(ドットのバー)がCCGコドンでβ-アミノ酸又はD-アラニンの取り込みに用いられた。黒色バーは、EF-P(+)の翻訳系であることを示し、白抜きバーは、EF-P(-)の翻訳系であることを示す。バーの上の数字は、EF-P(-)に対するEF-P(+)における割合として計算した翻訳収率を意味する。EF-P(+)の翻訳系におけるEF-Pの濃度は、5μMであった。翻訳時間は15分であり、エラーバーは、s.d.(n=3)である。
図10e及び
図10fは、2つの連続したβ-アミノ酸を含むrP1ペプチドの翻訳におけるEF-P濃度の滴定を示す。滴定のために、リシル化(Lysylated)EF-P(黒丸)又は非修飾EF-P(白丸)が用いられた。エラーバーは、s.d.(n=3)である。
【
図11】
図11は、β-アミノ酸取り込みのEF-P依存性促進に対するtRNA構造の効果を示す。
図11aは、β-アミノ酸の取り込みに使用されるtRNAの構造を示す。ドットの線は、EF-Tu及びEF-P結合のために、最適化されたTステムモチーフ又はDアームモチーフを示す。
図11bは、2つの連続したβhMを含むrP1ペプチドの発現レベルを示す。βhM取り込みに使用されるtRNAが示されている。バーの上の数字は、EF-P(-)に対するEF-P(+)における割合として計算した翻訳収率を意味する。翻訳時間は15分であり、エラーバーは、s.d.(n=3)である。
図11cは、β-アミノ酸取り込みのために最適化されたDアームモチーフとTステムモチーフを有するtRNA
Pro1E2の構造を示す。
【
図12】
図12は、7つまでの連続したβ-アミノ酸の取り込みを示す。
図12aは、
図2A同様に、β-アミノ酸の取り込みのために、実施例で用いられたmR2のmRNA配列及びそれに対応したrP2のペプチド配列を示す。2~7つの連続したβhMが、tRNA
Pro1E2
CGGを用いて、CCGコドン(n=2~7)で取り込まれた。
図12bは、連続したβhMを含むrP2ペプチドの発現レベルを示す。バーの上の数字は、EF-P(-)に対するEF-P(+)における割合として計算した翻訳収率あるいは発現レベル(μM)を意味する。N.D.は、検出できなかったことを意味する。翻訳時間は15分であり、エラーバーは、s.d.(n=3)である。
図12cは、2~7つの連続したβhMが取り込まれたrP2ペプチドのMALDI-TOF-MSスペクトルを示す。5μM EF-Pが翻訳系に存在した。矢印は、それぞれ目的物に応答するピークを示す。理論値及び実測値は、m/zで示す。
【
図13】
図13は、2種のβ-アミノ酸の取り込みを示す。
図13aは、
図2A同様に、β-アミノ酸の取り込みのために、実施例で用いられたmR3-3~mR3-7のmRNA配列及びそれに対応したrP3-3~rP3-7のペプチド配列を示す。βhM及びβhFが、tRNA
Pro1E2
GAU及びtRNA
Pro1E2
GUGを用いて、AUUコドン及びCAUコドンで、おのおの取り込まれた。
図13bは、rP3-3ペプチド~rP3-7ペプチドの発現レベルを示す。バーの上の数字は、EF-P(-)に対するEF-P(+)における割合として計算した翻訳収率あるいは発現レベル(μM)を意味する。N.D.は、検出できなかったことを意味する。翻訳時間は15分であり、エラーバーは、s.d.(n=3)である。
図13cは、βhM及びβhFが取り込まれたrP3-3ペプチド~rP3-7ペプチドのMALDI-TOF-MSスペクトルを示す。5μM EF-Pが翻訳系に存在した。矢印は、それぞれ目的物に応答するピークを示す。理論値及び実測値は、m/zで示す。
【
図14】
図14は、複数のD-アミノ酸及びβ-アミノ酸の取り込みを示す。
図14aは、
図2A同様に、D-アミノ酸及びβ-アミノ酸の取り込みのために、実施例で用いられたmR4~mR11のmRNA配列及びそれに対応したrP4~rP11のペプチド配列を示す。βhM及びβhFが、tRNA
Pro1E2
GAU及びtRNA
Pro1E2
GUGを用いて、AUUコドン及びCAUコドンで、D-アミノ酸が、tRNA
Pro1E2
GGUを用いて、ACUコドンで、おのおの取り込まれた。
図14bは、大環状ペプチドrP11の構造を示す。D-システインのチオール基が、N末端クロロアセチル基と反応してチオエーテル結合を形成して、大環状構造を産生する。
図14c及び
図14dは、rP4ペプチドrP9ペプチド、rP10ペプチド~rP11ペプチドの発現レベルを、おのおの示す。バーの上の数字は、EF-P(-)に対するEF-P(+)における割合として計算した翻訳収率あるいは発現レベル(μM)を意味する。N.D.は、検出できなかったことを意味する。翻訳時間は15分であり、エラーバーは、s.d.(n=3)である。
【
図15】
図15aは、β-アミノ酸又はD-アラニンを取り込んだrP1ペプチドのトリシンSDS-PAGE分析の結果を示す。これらのアミノ酸の取り込みに使用されるtRNAが示されている。各バンドの定量化は、
図10dを参照。
図15bは、rP1ペプチドのMALDI-TOF-MSスペクトルを示す。野生型tRNA
Pro1が、これらのアミノ酸の取り込みに用いられた。5μM EF-Pが翻訳系に存在した。矢印は、それぞれ目的物に応答するピークを示す。理論値及び実測値は、m/zで示す。
【
図16】
図16a~
図16dは、それぞれ、rP1ペプチド(
図16a)、r
P2ペプチド(
図16b)、rP3-3ペプチド~rP3-7ペプチド(
図16c)及びrP4ペプチド~rP11ペプチド(
図16d)のトリシンSDS-PAGE分析の結果を示す。各バンドの定量化は、
図11b、
図12b、
図13b並びに
図14c及び
図14dを、それぞれ参照。
図16eは、rP4ペプチド~rP11ペプチドのMALDI-TOF-MSスペクトルを示す。野生型tRNA
Pro1が、これらのアミノ酸の取り込みに用いられた。5μM EF-Pが翻訳系に存在した。矢印は、それぞれ目的物に応答するピークを示す。理論値及び実測値は、m/zで示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のtRNAは、配列番号1で示される塩基配列を含有し、非タンパク質性アミノ酸をコードするtRNAである。
N1N2GCN3N4N5N6N7N8N9N10N11GCN12N13 (配列番号1)
配列番号1において、
N1~N13は、それぞれ任意の塩基を示し、N3~N11はDループを形成し、
N1N2GCが、N13N12CGと塩基対を形成する。
【0012】
翻訳因子であるEF-Pタンパク質は、プロリン-プロリン(Pro-Pro)結合形成の伸長を促進する上で重要な役割を担っていて、Pro-Pro配列においてペプチジル-tRNAの脱落によって引き起こされる翻訳伸長の停止(リボソームストール)を緩和する。
EF-Pタンパク質は、プロリン選択的ペプチジルトランスファーの促進のために、tRNAProアイソアクセプターに見出される特定のDアームモチーフである、4塩基対の安定なDステム配列によって閉じた構造を有する9塩基のDループを認識し、Pro-Pro転移反応の速度促進は、tRNAProに依存する。
本発明においては、配列番号1で示される塩基配列は、DループとDステムからなるDアームであり、配列番号1で示される塩基配列をtRNAに導入することにより、EF-Pペプチドによるぺプチジルトランスファーが促進できる。
【0013】
本発明の配列番号1で示される塩基配列を含有するtRNAにおける、他の構造、すなわち、アクセプターステム、アンチコドンステム、アンチコドンループ、バリアブルループ、Tアームの塩基配列は、任意であってよい。中でも、アンチコドンループは、非タンパク質性アミノ酸を割り当てるコドンに対応した塩基配列を適宜有していればよい。
tRNAの3’末端は、CCA配列を有し、任意のアミノ酸と結合する。本発明のtRNAは、非タンパク質性アミノ酸と結合している。
本明細書では、tRNAが非タンパク質性アミノ酸をコードするとは、tRNAが、非タンパク質性アミノ酸とtRNAのCCA配列を介して結合していることを意味する。
【0014】
配列番号1において、それぞれ、N1N2とN13N12が塩基対を形成する限り、任意の塩基を選択し得るが、N1はGであり、N13はCであることが好ましい。また、N2はCであり、N12はGであることが好ましい。
配列番号1で示される塩基配列は、配列番号3で示される塩基配列であること好ましい。
GCGCN3N4N5N6N7N8N9N10N11GCGC (配列番号3)
配列番号3において、
N3~N11は、前記と同義であり、GCGCが、CGCGと塩基対を形成する。
【0015】
配列番号1及び配列番号3におけるN3~N11の塩基配列は、配列番号4で示される塩基配列であることが好ましい。
AGCCUGGUA (配列番号4)
配列番号4で示される塩基配列は、tRNAにおけるDループを形成する。
配列番号4においては、1又は複数の塩基が置換されていてもよい。
塩基が複数置換されるとは、Dループを形成する9個の塩基において、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個の塩基が置換されていてもよいことを意味し、1~4個の塩基が置換されていてもよく、1~3個の塩基が置換されていてもよく、1~2個の塩基が置換されていてもよく、1個の塩基が置換されていてもよい。
【0016】
配列番号1で示される塩基配列は、配列番号5で示される塩基配列であること好ましく、配列番号6で示される塩基配列であることが好ましい。
N1N2GCGCAGCCUGGUAGCGCN12N13 (配列番号5)
配列番号5において、
N1、N2、N12及びN13は、前記と同義であり、N1N2GCが、N13N12CGと塩基対を形成する。
GCGCGCAGCCUGGUAGCGCGC (配列番号6)
配列番号5及び配列番号6においては、1又は複数の塩基が置換されていてもよい。
配列番号5及び6において塩基が複数置換されるとは、Dループを形成する9個の塩基を示す配列番号4において、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個の塩基が置換されていてもよいことを意味し、1~4個の塩基が置換されていてもよく、1~3個の塩基が置換されていてもよく、1~2個の塩基が置換されていてもよく、1個の塩基が置換されていてもよい。
【0017】
アミノアシルtRNAのTステムは、EF-Tuタンパク質との相互作用を調節し、N-メチルアミノ酸のような非タンパク質性アミノ酸の取り込みを増強する。
本発明においては、配列番号2で示される塩基配列は、TループとTステムからなるTアームであり、配列番号2で示される塩基配列をtRNAに導入することにより、非タンパク質性アミノ酸をペプチドあるいはタンパク質に導入するにあたり、EF-Tuタンパク質によるアコモデーションが促進される。
【0018】
本発明のtRNAは、配列番号2で示される塩基配列をさらに含有するtRNAであることが好ましい。
AGGGG(N14)mCCCCU (配列番号2)
配列番号2において、
N14は、任意の塩基を示し、mは、1以上の整数であり、(N14)mはTループを形成し、
AGGGGが、UCCCCと塩基対を形成する。
【0019】
mは、(N14)mはTループを形成する限り特に限定されないが、2、3、4、5、6、7、8、9、10の整数であり得、6~8の整数であることが好ましい。
(N14)mは、tRNAGluE2のTループに由来する配列番号7で示される塩基配列であることが好ましい。
UUCGAAU (配列番号7)
配列番号7においては、1又は複数の塩基が置換されていてもよい。
塩基が複数置換されるとは、Tループを形成する7個の塩基において、2個、3個、4個、5個、6個、7個の塩基が置換されていてもよいことを意味し、1~3個の塩基が置換されていてもよく、1~2個の塩基が置換されていてもよく、1個の塩基が置換されていてもよい。
【0020】
配列番号2において、塩基対を形成するAGGGGとUCCCCとは、Tステムを形成する。
Tステムを形成する塩基配列において、塩基対を形成する限り、1又は複数の塩基が置換されていてもよい。
配列番号2のTステムにおいて塩基が複数置換されるとは、Tステムを形成する10個の塩基において、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個の塩基が置換されていてもよいことを意味し、2個の塩基が置換されていてもよく、4個の塩基が置換されていてもよく、6個の塩基が置換されていてもよく、塩基対を形成する限り、1個、3個、5個の塩基が置換されていてもよい。
【0021】
本発明の好適なtRNAとしては、EF-Pタンパク質によるぺプチジルトランスファーの促進作用及びEF-Tuタンパク質によるアコモデーションの促進作用を発揮させるために、配列番号1で示される塩基配列と配列番号2で示される塩基配列の双方を含有する。
本発明のtRNAは、好適には、tRNAPro1およびtRNAGluE2のキメラであり、かかるtRNAを、本明細書においては、tRNAPro1E2と呼ぶ。
具体的には、tRNAGluE2のTステムがtRNAPro1に導入されていることが好ましい。
D-アミノ酸やβ-アミノ酸等の非タンパク質性アミノ酸でプレチャージされたtRNAPro1E2とEF-Pタンパク質との組み合わせにより、線状ペプチドだけでなく、当該非タンパク質性アミノ酸を連続して、例えば、4つあるいは5つの連続した非タンパク質性アミノ酸を含むペプチドの発現レベルを増強することができる。
【0022】
本発明に用いられるtRNAにおいて、配列番号1及び/又は配列番号2以外の塩基配列については、野生型tRNAに由来する配列であってもよく、大腸菌由来野生型tRNAに由来する配列であってもよく、in vitroの転写で調製した人工tRNAであってもよい。
【0023】
本発明において、翻訳系は、本発明のtRNAを含み、当該tRNAを含むことにより、一般的には連続導入が難しいアミノ酸が連続して結合するペプチドを合成することができる翻訳系となるが、より具体的には、2以上の非タンパク質性アミノ酸が連続して結合するペプチドを合成することができる翻訳系となる。
翻訳系には、本発明のtRNAを含む限り、特に限定されずに、無細胞翻訳系で用いられる構成要素を含む。
翻訳系は、EF-Pタンパク質を含有することが好適であり、さらに、EF-Tuタンパク質を含有することが好適である。
【0024】
本発明における翻訳系では、フレキシザイムを利用したコドンの再割当において、NNNとして適宜選択したコドンに対して、非タンパク質性アミノ酸を割り当てる。
本発明における翻訳系では、天然の翻訳系を使用してもよい。天然の翻訳系においては、各アミノ酸に対応したアンチコドンを有するtRNAが存在し、各tRNAは、アンチコドンループ以外の領域においてもそれぞれ固有の配列を有する。
本発明においては、配列番号1及び/又は配列番号2で示される塩基配列を導入すれば、他の配列については、それら天然の翻訳系におけるtRNAの固有の配列を割り当てられるという意味で、アクセプターステム、アンチコドンステム、アンチコドンループ、バリアブルループの塩基配列は、任意であり得る。
【0025】
本発明における翻訳系では、フレキシザイムを利用し、NNNのすべてに任意のアミノ酸を再割当してもよく(Nは任意の塩基である。)、その場合、tRNAをすべて人工のものとしてもよい。この場合、翻訳系に加える各NNNに対応する伸長tRNAは、全長の85%以上又は90%以上が同一の塩基配列からなるものであってもよく、アンチコドンを除いた配列のうち、ほとんど配列が同じである伸長tRNA群を用いることもできる。
本明細書において、アンチコドンループとは、tRNAにおけるアンチコドンを含む一本鎖のループ部分を示す。アンチコドンループの配列は、コドン-アンチコドンの相互作用を相補するように、当業者が適宜決定することが可能である。
【0026】
本発明のtRNAは、公知の無細胞翻訳系で用いてぺプチドを翻訳することで、2以上の非タンパク質性アミノ酸が連続して結合するペプチドを合成することができる。
用いられる無細胞翻訳系は、特に限定されない。
ペプチドライブラリの製造方法においては、適当なコドンでコードされる非タンパク質性アミノ酸を含むペプチドであって、2以上の非タンパク質性アミノ酸が連続したペプチドを製造することができたり、2以上の複数の非タンパク質性アミノ酸を有するペプチドを効率よく製造できるので、より多様性に富むライブラリを提供することができる。
【0027】
本発明においては、ペプチドライブラリの各ペプチドをコードするmRNAを含み、各mRNAが1又は複数の非タンパク質性アミノ酸をコードするNNNを含むmRNAライブラリを調製する工程と;
NNNのいずれかのコドンに対するアンチコドンを有し、該コドンに対応する非タンパク質性アミノ酸がチャージされたtRNAを加えた無細胞翻訳系で、mRNAライブラリの各mRNAを翻訳する工程と、を含む。ペプチドライブラリの製造方法とすることができる。
【0028】
本発明において、ペプチド-mRNA複合体ライブラリの製造方法は、上述したペプチドライブラリの製造方法において、mRNAライブラリを調製する際、各mRNAのORF(Open reading frame)の下流領域にピューロマイシンを結合させることによって行われる。ピューロマイシンは、ペプチドや核酸で構成されるリンカーを介してmRNAに結合させてもよい。mRNAのORF下流領域にピューロマイシンを結合させることにより、mRNAのORFを翻訳したリボソームがピューロマイシンを取り込み、mRNAとペプチドの複合体が形成される。このようなペプチド-mRNA複合体は、遺伝子型と表現型を対応付けることができ、in vitroディスプレイに応用できる。
【0029】
本発明においては、まず、非タンパク質性アミノ酸を割り当てるNNNを選択し、NNNのアンチコドンをアンチコドンループ内に有し、非タンパク質性アミノ酸をコードするtRNAをフレキシザイム等を用いて調製する。
次いで、各mRNAが1又は複数の非タンパク質性アミノ酸をコードするNNNを含むmRNAライブラリを調製し、翻訳することで、割り当てられた非タンパク質性アミノ酸を含むペプチドを発現させることができる。
【0030】
本明細書において、「NNN」は、アミノ酸を指定するコドンを意味し、コドンを形成する3つのNは、それぞれ独立に、アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)及びウラシル(U)から選択される。1つのmRNAには、非タンパク質性アミノ酸がコードされたNNNが複数含まれていてよい。
【0031】
本発明においては、非タンパク質性アミノ酸をコードしないNNNには、任意のアミノ酸が再割当されていてもよいし、天然の遺伝暗号に基づいたコドンとアミノ酸との関係を用いてもよい。
再割当においては、天然の遺伝暗号表におけるコドンとアミノ酸の関係とは異なるものを割り当てることもできるし、同一のものを割り当てることもできる。
「天然の遺伝暗号表」とは、生体においてmRNAのトリプレット(コドン)に割り当てられたアミノ酸を示した表であり、下記表1に示す。
【0032】
【0033】
各コドンに対する、天然の遺伝暗号表とは異なるアミノ酸の割り当ては、例えば、人工アミノアシル化RNA触媒フレキシザイム(Flexizyme)を利用したコドン再割当によって実現される。フレキシザイムによれば、任意のアンチコドンを有するtRNAに所望のアミノ酸を結合させることができるので、任意のコドンに任意のアミノ酸を割り当てることが可能となる。
【0034】
本明細書において、アミノ酸としては、タンパク質性アミノ酸に加え、人工のアミノ酸変異体や誘導体を含み、例えば、タンパク質性L-アミノ酸、アミノ酸の特徴である当業界で公知の特性を有する化学的に合成された化合物等が挙げられる。
タンパク質性アミノ酸(proteinogenic amino acids)は、当業界に周知の3文字表記により表すと、Arg、His、Lys、Asp、Glu、Ser、Thr、Asn、Gln、Cys、Gly、Pro、Ala、Ile、Leu、Met、Phe、Trp、Tyr、及びValである。
非タンパク質性アミノ酸(non-proteinogenic amino acids)としては、タンパク質性アミノ酸以外の天然又は非天然のアミノ酸を意味する。
非天然アミノ酸としては、例えば、主鎖の構造が天然型と異なる、α,α-二置換アミノ酸(α-メチルアラニンなど)、N-アルキル-α-アミノ酸、D-アミノ酸、β-アミノ酸、α-ヒドロキシ酸や、側鎖の構造が天然型と異なるアミノ酸(ノルロイシン、ホモヒスチジンなど)、側鎖に余分のメチレンを有するアミノ酸(「ホモ」アミノ酸、ホモフェニルアラニン、ホモヒスチジンなど)、及び側鎖中のカルボン酸官能基がスルホン酸基で置換されるアミノ酸(システイン酸など)等が挙げられる。非天然アミノ酸の具体例としては、国際公開第2015/030014号に記載のアミノ酸が挙げられる。
非タンパク質性アミノ酸が、D-アミノ酸、β-アミノ酸又はα,α-二置換アミノ酸であることが好適であり、D-アミノ酸又はβ-アミノ酸であることがより好適である。
【0035】
本発明においては、ペプチドを1×106種以上含むペプチドライブラリを製造することができる。
各ペプチドに含まれるNNNでコードされるアミノ酸の数は、非タンパク質性アミノ酸が含まれる限り、特に限定されないが、例えば、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、15個、20個、30個等とすることができる。各mRNAにおける非タンパク質性アミノ酸をコードするNNNの位置は特に限定されず、本発明のtRNAを用いることで、非タンパク質性アミノ酸をコードするNNNが連続して配置されるmRNAからも、タンパク質性アミノ酸のライブラリ合成と同程度で、非タンパク質性アミノ酸が連続して配置されたペプチドが翻訳される。
【0036】
コドン再割当には、翻訳系の構成因子を目的に合わせて自由に取り除き、必要な成分だけを再構成してできる翻訳系を利用できる。例えば、特定のアミノ酸を除去した翻訳系を再構成すると、当該アミノ酸に対応するコドンが、いずれのアミノ酸もコードしない空きコドンになる。そこで、フレキシザイム等を利用して、その空きコドンに相補的なアンチコドンを有するtRNAに任意のアミノ酸を連結し、これを加えて翻訳を行うと、当該任意のアミノ酸がそのコドンでコードされることになり、除去したアミノ酸の代わりに当該任意のアミノ酸が導入されたペプチドが翻訳される。
【0037】
本明細書において「無細胞翻訳系」とは、細胞を含まない翻訳系をいい、無細胞翻訳系としては、例えば、大腸菌抽出液、小麦胚芽抽出液、ウサギ赤血球抽出液、昆虫細胞抽出液等を用いることができる。また、それぞれ精製したリボソームタンパク質、アミノアシルtRNA合成酵素(aaRS)、リボソームRNA、アミノ酸、rRNA、GTP、ATP、翻訳開始因子(IF)、伸長因子(EF)、終結因子(RF)、およびリボソーム再生因子(RRF)、ならびに翻訳に必要なその他の因子を再構成することで構築した、再構成型の無細胞翻訳系を用いても良い。
DNAからの転写を併せて行うためにRNAポリメラーゼを含む系としてもよい。市販されている無細胞翻訳系として、大腸菌由来の系としてはロシュ・ダイアグノスティックス社のRTS-100(登録商標)、再構成型翻訳系としてはPGI社のPURESYSTEM(登録商標)やNew England BioLabs社のPURExpressR In Vitro Protein Synthesis Kit等、小麦胚芽抽出液を用いた系としてはゾイジーン社やセルフリーサイエンス社のもの等を使用できる。
また、大腸菌のリボソームを用いる系として、例えば次の文献に記載された技術が公知である:H. F. Kung et al., 1977. The Journal of Biological Chemistry Vol. 252, No. 19, 6889-6894; M. C. Gonza et al., 1985, Proceeding of National Academy of Sciences of the United States of America Vol. 82, 1648-1652; M. Y. Pavlov and M. Ehrenberg, 1996, Archives of Biochemistry and Biophysics Vol. 328, No. 1, 9-16; Y. Shimizu et al., 2001, Nature Biotechnology Vol. 19, No. 8, 751-755; H. Ohashi et al., 2007, Biochemical and Biophysical Research Communications Vol. 352, No. 1, 270-276。
無細胞翻訳系によれば、発現産物を精製することなく純度の高い形で得ることができる。
なお、本発明の無細胞翻訳系は、転写に必要な因子を加えて、翻訳のみならず転写に用いてもよい。
【0038】
本発明において得られるペプチドは、環状ペプチドであってもよく、例えば、下記表1に示す官能基1を有するアミノ酸と、対応する官能基2を有するアミノ酸が環状化した環状ペプチドとすることができる。
官能基1と2はどちらがN末端側にきてもよく、N末端とC末端に配置してもよいし、一方を末端アミノ酸、他方を非末端アミノ酸としてもよいし、両方を非末端アミノ酸としてもよい。
官能基1と官能基2により形成される結合が、環状ペプチドにおける分子環状構造を形成するための化学架橋構造といえる。
【0039】
【表2】
式中、X
1は脱離基であり、脱離基としては、例えば、Cl、Br及びI等のハロゲン原子が挙げられ、Arは置換基を有していてもよい芳香環である。
【0040】
(A-1)の官能基を有するアミノ酸としては、例えば、クロロアセチル化したアミノ酸を用いることができる。クロロアセチル化アミノ酸としては、N-chloroacetyl-L-alanine、N-chloroacetyl-L-phenylalanine、N-chloroacetyl-L-tyrosine、N-chloroacetyl-L-tryptophan、N-3-(2-chloroacetamido)benzoyl-L-phenylalanine、N-3-(2-chloroacetamido)benzoyl-L-tyrosine、N-3-(2-chloroacetamido)benzoyl-L-tryptophan、β-N-chloroacetyl-L-diaminopropanoic acid、γ-N-chloroacetyl-L-diaminobutyric acid、δ-N-chloroacetyl-L-ornithine、ε-N-chloroacetyl-L-lysine、及びこれらに対応するD-アミノ酸誘導体等が挙げられる。
(A-1)の官能基を有するアミノ酸としては、N-chloroacetyl-L-tryptophan及びN-chloroacetyl-L-tyrosineが好適に用いられ、D体であることがより好適である。
なお、本明細書において、L体であることを明示して記載する場合があるが、L体であってもよく、D体であってもよいことを意味し、また、L体とD体の任意の割合での混合物であってもよい。L体及びD体であることを明示して記載していない場合についても、L体であってもよく、D体であってもよいことを意味し、また、L体とD体の任意の割合での混合物であってもよい。
【0041】
(A-2)の官能基を有するアミノ酸としては、例えばcysteine、homocysteine、mercaptonorvaline、mercaptonorleucine、2-amino-7-mercaptoheptanoic acid、及び2-amino-8-mercaptooctanoic acid等が挙げられる。
(A-2)の官能基を有するアミノ酸としては、cysteineが好適に用いられる。
【0042】
(A-1)の官能基を有するアミノ酸と(A-2)の官能基を有するアミノ酸による環状化方法は、例えば、Kawakami, T. et al., Nature Chemical Biology 5, 888-890 (2009);Yamagishi, Y. et al., ChemBioChem 10, 1469-1472 (2009);Sako, Y. et al., Journal of American Chemical Society 130, 7932-7934 (2008);Goto, Y. et al., ACS Chemical Biology 3, 120-129 (2008);Kawakami T. et al, Chemistry & Biology 15, 32-42 (2008)、及び国際公開第2008/117833号等に記載された方法が挙げられる。
【0043】
(B-1)の官能基を有するアミノ酸としては、例えば、propargylglycine、homopropargylglycine、2-amino-6-heptynoic acid、2-amino-7-octynoic acid、及び2-amino-8-nonynoic acid等が挙げられる。
4-pentynoyl化や5-hexynoyl化したアミノ酸を用いてもよい。
4-pentynoyl化アミノ酸としては、例えば、N-(4-pentenoyl)-L-alanine、N-(4-pentenoyl)-L-phenylalanine、N-(4-pentenoyl)-L-tyrosine、N-(4-pentenoyl)-L-tryptophan、N-3-(4-pentynoylamido)benzoyl-L-phenylalanine、N-3-(4-pentynoylamido)benzoyl-L-tyrosine、N-3-(4-pentynoylamido)benzoyl-L-tryptophan、β-N-(4-pentenoyl)-L-diaminopropanoic acid、γ-N-(4-pentenoyl)-L-diaminobutyric acid、σ-N-(4-pentenoyl)-L-ornithine、ε-N-(4-pentenoyl)-L-lysine、及びこれらに対応するD-アミノ酸誘導体等が挙げられる。
5-hexynoyl化アミノ酸としては、4-pentynoyl化アミノ酸として例示した化合物において、4-pentynoyl基が、5-hexynoyl基に置換されたアミノ酸が挙げられる。
【0044】
(B-2)の官能基を有するアミノ酸としては、例えば、azidoalanine、2-amino-4-azidobutanoic acid、azidoptonorvaline、azidonorleucine、2-amino-7-azidoheptanoic acid、及び2-amino-8-azidooctanoic acid等が挙げられる。
azidoacetyl化や3-azidopentanoyl化したアミノ酸を用いることもできる。
azidoacetyl化アミノ酸としては、例えば、N-azidoacetyl-L-alanine、N-azidoacetyl-L-phenylalanine、N-azidoacetyl-L-tyrosine、N-azidoacetyl-L-tryptophan、N-3-(4-pentynoylamido)benzoyl-L-phenylalanine、N-3-(4-pentynoylamido)benzoyl-L-tyrosine、N-3-(4-pentynoylamido)benzoyl-L-tryptophan、β-N-azidoacetyl-L-diaminopropanoic acid、γ-N-azidoacetyl-L-diaminobutyric acid、σ-N-azidoacetyl-L-ornithine、ε-N-azidoacetyl-L-lysine、及びこれらに対応するD-アミノ酸誘導体等が挙げられる。
3-azidopentanoyl化アミノ酸としては、azidoacetyl化アミノ酸として例示した化合物において、azidoacetyl基が、3-azidopentanoyl基に置換されたアミノ酸が挙げられる。
【0045】
(B-1)の官能基を有するアミノ酸と(B-2)の官能基を有するアミノ酸による環状化方法は、例えば、Sako, Y. et al., Journal of American Chemical Society 130, 7932-7934 (2008)、及び国際公開第2008/117833号等に記載された方法が挙げられる。
【0046】
(C-1)の官能基を有するアミノ酸としては、例えば、N-(4-aminomethyl-benzoyl)-phenylalanine (AMBF)及び3-aminomethyltyrosine等が挙げられる。
(C-2)の官能基を有するアミノ酸としては、例えば、5-hydroxytryptophan(WOH)等が挙げられる。
(C-1)の官能基を有するアミノ酸と(C-2)の官能基を有するアミノ酸による環状化方法は、例えば、Yamagishi, Y. et al., ChemBioChem 10, 1469-1472 (2009)及び国際公開第2008/117833号に記載された方法等が挙げられる。
【0047】
(D-1)の官能基を有するアミノ酸としては、例えば、2-amino-6-chloro-hexynoic acid、2-amino-7-chloro-heptynoic acid、及び2-amino-8-chloro-octynoic acid等が挙げられる。
(D-2)の官能基を有するアミノ酸としては、例えばcysteine、homocysteine、mercaptonorvaline、mercaptonorleucine、2-amino-7-mercaptoheptanoic acid、及び2-amino-8-mercaptooctanoic acid等が挙げられる。
(D-1)の官能基を有するアミノ酸と(D-2)の官能基を有するアミノ酸による環状化方法は、例えば、国際公開第2012/074129号に記載された方法等が挙げられる。
【0048】
(E-1)のアミノ酸としては、例えば、N-3-chloromethylbenzoyl-L-phenylalanine、N-3-chloromethylbenzoyl-L-tyrosine、N-3-chloromethylbenzoyl-L-tryptophane、及びこれらに対応するD-アミノ酸誘導体等が挙げられる。
(E-2)のアミノ酸としては、例えば、cysteine、homocysteine、mercaptonorvaline、 mercaptonorleucine、2-amino-7-mercaptoheptanoic acid、及び2-amino-8- mercaptooctanoic acid等が挙げられる。
(E-1)の官能基を有するアミノ酸と(E-2)の官能基を有するアミノ酸による環状化方法は、例えば、(A-1)と(A-2)の環状化方法や(D-1)と(D-2)の環状化方法を参考にして行うことができる。
【0049】
環形成アミノ酸としては、(A-1)の官能基を有するアミノ酸と(A-2)の官能基を有するアミノ酸との組み合わせが好ましく、脱離基でHが置換されたN-アセチルトリプトファンとcysteineの組み合わせがより好ましく、N-haloacetyl-D-tyrosine又はN-haloacetyl-D-tryptophan、好適にはN-chloroacetyl-D-tyrosine又はN-chloroacetyl-D-tryptophanとcysteine(Cys)の組み合わせがさらに好ましい。
【0050】
本発明においては、ペプチドライブラリ又はペプチド-mRNA複合体ライブラリも提供する。
本発明のtRNAを用いてペプチドライブラリを製造することで、L-アミノ酸からなるペプチドの発現レベルと同程度で、非タンパク質性アミノ酸を含むペプチドを合成できるため、従来のペプチドライブラリに比して、非タンパク質性アミノ酸の導入において多様性に富むペプチドライブラリとすることができる。
中でも、2以上の非タンパク質性アミノ酸が連続して結合するペプチドを含むライブラリとすることができる。
本発明のtRNAを用いてペプチド-mRNA複合体ライブラリを製造することで、L-アミノ酸からなるペプチドの発現レベルと同程度で、非タンパク質性アミノ酸を含むペプチドを合成できるため、従来のペプチド-mRNA複合体ライブラリに比して、非タンパク質性アミノ酸の導入において多様性に富むペプチド-mRNA複合体ライブラリとすることができる。
中でも、2以上の非タンパク質性アミノ酸が連続して結合するペプチドを含むライブラリとすることができる。
【0051】
また、本発明においては、ペプチドライブラリ及びペプチド-mRNA複合体ライブラリにおけるペプチド構造として、4以上の非タンパク質性アミノ酸が連続して結合し、非タンパク質性アミノ酸間で分子内架橋した構造を含むライブラリとすることができる。
4以上の非タンパク質性アミノ酸が連続して結合した構造において、非タンパク質性アミノ酸間で分子内架橋させるには、無細胞翻訳系で翻訳し、環状化する際に用いられる非タンパク質性アミノ酸を利用して分子内架橋を構築することができる。
好適には、D-システインとD-システインによるジスルフィド結合、又はClAc基を導入した非タンパク質性アミノ酸とD-システインによるチオエーテル結合が挙げられる。
【0052】
本発明においては、本発明に係るtRNAを用いて製造されたペプチドライブラリを用いた、標的物質に結合するペプチドを同定するためのスクリーニング方法も提供する。
スクリーニング方法としては、本発明に係るtRNAを用いて製造されたペプチドライブラリと標的物質を接触させてインキュベートする工程を含む。
本明細書において、標的物質は特に限定されず、低分子化合物、高分子化合物、核酸、ペプチド、タンパク質、糖、脂質等とすることができる。
スクリーニング方法としては、標的物質と結合したペプチドを選択する工程をさらに含む。標的物質と結合したペプチドの選択は、例えば、ペプチドを公知の方法に従って検出可能に標識し、上記接触工程の後、緩衝液で固相担体表面を洗浄し、標的物質に結合している化合物を検出して行う。
検出可能な標識としては、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ等の酵素、125I、131I、35S、3H等の放射性物質、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、ダンシルクロリド、フィコエリトリン、テトラメチルローダミンイソチオシアネート、近赤外蛍光材料等の蛍光物質、ルシフェラーゼ、ルシフェリン、エクオリン等の発光物質、金コロイド、量子ドットなどのナノ粒子が挙げられる。酵素の場合、酵素の基質を加えて発色させ、検出することもできる。また、ペプチドにビオチンを結合させ、酵素等で標識したアビジン又はストレプトアビジンを結合させて検出することもできる。
【0053】
ペプチド-mRNA複合体ライブラリの場合、TRAPディスプレイ法を応用してスクリーニングを行うことができる。
この場合、まず、ペプチド-mRNA複合体ライブラリに対して逆転写反応を行った後、当該ライブラリと標的物質とを接触させる。標的物質に結合する複合体を選択し、このDNAをPCRで増幅する。このDNAをTRAP反応系に加えることで、再度ペプチド-mRNA複合体ライブラリを作製し、同様の操作を繰り返す。
これにより、標的物質に高い親和性を有するペプチド-mRNA複合体が濃縮されるので、濃縮された複合体のDNAの配列を解析して、標的物質に結合するペプチドを効率よく同定することができる。
【0054】
本明細書において引用されるすべての非特許文献及び参考文献の開示は、全体として本明細書に参照により組み込まれる。
【実施例】
【0055】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は何らこれに限定されるものではない。当業者は、本発明の意義を逸脱することなく様々な態様に本発明を変更することができ、かかる変更も本発明の範囲に含まれる。
【0056】
フレキシザイム及びtRNAの調製
D-アミノ酸、β-アミノ酸、2-アミノイソブチル酸及びL-プロリンのプレチャージのために用いたフレキシザイム(dFx又はeFx)及びtRNA(表3)は、T7 RNAポリメラーゼを用いて、in vitroで転写した。
フレキシザイム(dFx又はeFx)あるいはtRNA配列の前にT7プロモーターを有する鋳型DNAがフォワード及びリバース伸長プライマー対(表4)の伸長により調製され、次いで、フォワード及びリバース伸長プライマー対(表5)を用いてPCRを行った。
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
表5中、Gmは、2’-O-メチルグアノシンを表す。
【0061】
PCR産物は、フェノール/クロロホルム抽出、エタノール沈殿及び次いで、40mM Tris-HCl(pH 8.0)、22.5mM MgCl2、1mM DTT、1mM スペルミジン、0.01% Triton X-100、120nM T7 RNAポリメラーゼ、0.04U/μL RNasin RNase inhibitor(Promega)及び3.75mM NTP mixを含む反応混合物250μL中で、37℃で16時間の転写に用いられた。
tRNA調製においては、5’末端(G又はC)のヌクレオチドに応じて、上記溶液に、5mM GMP又はCMPが添加された。得られたRNA転写物は、RQ1 DNase (Promega)で、37℃で30分間処理され、次いで、6M 尿素を含む8%(tRNA)あるいは12%(フレキシザイム)ポリアクリルアミドゲルで精製した。
【0062】
tRNAのアミノアシル化
D-アミノ酸とβ-アミノ酸は、3,5-ジニトロベンジルエステル(DBE)かシアノメチルエステル(CME)としてプレ活性化し、tRNAへ、適切なフレキシザイム(DBE活性化アミノ酸ではdFx、CME活性化アミノ酸ではeFx)を用いてチャージした。
D-アラニン、D-セリン及びD-システイン、L-β-ホモグルタミン(βhQ)、L-β-ホモメチオニン(βhM)、L-β-ホモフェニルグリシン(βhF)、L-プロリン及び2-アミノ酪酸(Aib)は、DBE活性化し、クロロアセチル D-フェニルアラニン(D-ClAcPhe)は、CME活性化した。上記活性化アミノ酸は、非特許文献1及び参考文献18に記載の方法に沿って合成した。
フレキシザイム反応(アミノアシル化)は、0℃で、50mM HEPES-KOH(D-アミノ酸では、pH 7.5、β-アミノ酸では、pH 8.7)、600mM MgCl2,20% DMSO、25μM dFx又はeFx,25μM tRNA及び5mM 活性化アミノ酸を含む反応混合物中で行った。
eFxが、D-ClAcPhe-CMEのために用いられ、dFxが他のアミノ酸のために用いられた。反応時間は、D-Ala、D-ClAcPhe、L-Pro及びAibのためには2時間であり、D-Ser及びD-Cysのためには6時間であり、β-アミノ酸のためには22時間とした。アミノアシルtRNAは、エタノール沈殿により回収され、次いで、ペレットを酢酸ナトリウム(pH 5.2)を含む70%エタノールで2回、70%エタノールで1回洗浄し、1mM 酢酸ナトリウム(pH 5.2)に溶解した。
【0063】
EF-Pの調製
E.coli EF-P遺伝子を、トロンビン部位の代わりにPreScissionプロテアーゼ認識部位を有する修飾されたpET28aベクターにクローニングした。E.coli EpmA及びEpmB遺伝子は、pETDuet-1ベクターにクローニングした。これらのベクターをE.coli Rosetta2(DE3)に共導入した。細胞を0.5mM IPTGを含むLB培地で、37℃で2時間培養し、超音波処理により溶解した。細胞溶解物をNi-NTAカラムに適用して、ヒスチジン標識EF-Pを精製した。カラムを緩衝液A(20mM Tris-HCl(pH8.0)、200mM NaCl、2mMイミダゾール及び1mM 2-メルカプトエタノール)で洗浄した後、ヒスチジン標識EF-Pを300mMのイミダゾールを含む緩衝液Aで溶出した。Turbo3Cプロテアーゼを溶出液に添加してヒスチジンタグを切断し、緩衝液Aに対して4℃で一晩透析した。サンプルをNi-NTAカラムに適用して、フロースルー及び洗浄画分をヒスチジンタグのないEF-Pとして回収した。次に、Amicon ultra 10k遠心フィルター(Merck Millipore)でタンパク質を濃縮した。EF-Pの改変は、参考文献3に記載された質量分析によって確認した。
【0064】
モデルペプチドの翻訳及び定量化
モデルペプチドの翻訳は、IF2、EF-G及びEF-Tu/Tsの濃度(それぞれ、3、0.1及び20μM)がD-アミノ酸及びβ-アミノ酸取り込みのために最適化された改変FIT(Flexible in vitro translation)系で行った(非特許文献5を参照)。
修正されたFITシステムの構成は以下の通りである。
50mM HEPES-KOH(pH7.6)、100mM 酢酸カリウム、12.3mM 酢酸マグネシウム、2mM ATP、2mM GTP、1mM CTP、1mM UTP、20mM クレアチンリン酸、0.1mM 10-ホルミル-5,6,7,8-テトラヒドロ葉酸、2mM スペルミジン、1mM DTT、1.5mg/mL E.coliトータルtRNA、1.2μM E.coliリボソーム、0.6μMメチオニルtRNAホルミルトランスフェラーゼ、2.7μM IF1、3μM IF2、1.5μM IF3、0.1μM EF-G、20μM EF-Tu/Ts、0.25μM RF2、0.17μM RF3、0.5μM RRF、4μg/mL クレアチンキナーゼ、3μg/mL ミオキナーゼ、0.1μM 無機ピロホスファターゼ、0.1μM ヌクレオチド二リン酸キナーゼ、0.1μM T7 RNAポリメラーゼ、0.13μM AspRS、0.11μM LysRS、0.03μM MetRS、0.02μM TyrRS、0.05mM [14C]アスパラギン酸、0.5mM リジン、0.5mM メチオニン、0.5mM チロシン、各25μMプレチャージされたアミノアシルtRNA及び0.5μM DNAテンプレート。rP1およびrP2やβ-アミノ酸含有ペプチドの翻訳のために、0.09μM GlyRS及び0.5mM グリシンも上記溶液に加えた。
翻訳反応は、37℃で、2.5μLの溶液中で行い、等容量の停止溶液(0.9M Tris-HCl(pH8.45)、8% SDS、30% グリセロール及び0.001% キシレンシアノール)を加えて停止させ、95℃で2分間又は3分間インキュベートした。次に、サンプルを15% トリシンSDS-PAGE及びTyphoon FLA 7000(GE Healthcare)を用いたオートラジオグラフィーにより分析した。ペプチド収量は、[14C]Aspバンドの強度によって正規化した。
【0065】
MALDI-TOF質量分析のために、0.5mM非放射性アスパラギン酸を[14C]アスパラギン酸の代わりに上記溶液に添加した。翻訳を37℃で20分間又は40分間行った後、等容量の2xHBS緩衝液(100mM HEPES-KOH(pH7.6)、300mM NaCl)で希釈した。次に、ペプチドを抗FLAG M2アフィニティーゲル(Sigma)で精製した。反応混合物を5μLのゲルビーズに添加し、25℃で30分間インキュベートした。ゲルビーズ上のペプチドを25μLの1×HBS緩衝液(50mM HEPES-KOH(pH7.6)、150mM NaCl)で洗浄し、ペプチドをビーズから0.2% トリフルオロ酢酸15μLで溶出させた。次いで、ペプチドをSPE C-tip(Nikkyo Technos)で脱塩し、50% 飽和(R)シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸を含む0.5% 酢酸溶液である80%アセトニトリル1.2μLで溶出した。反射/陽性モードでultrafleXtreme(Bruker Daltonics)を用いてMALDI-TOF-質量分析を行った。ペプチド質量標準II(Bruker Daltonics)を外部質量較正に使用した。
【0066】
連続したD-アミノ酸取り込みの促進のためのEF-Pによって認識されるtRNA
Pro1
の本質的なDアーム構造
EF-Pが、Pro-Pro伸長におけるぺプチジルトランスファー(PT)速度の増強能を有するため、新生ペプチド鎖において、いくつかのD-アミノ酸のゆっくりとした取り込みを促進し得ることを確認するために、以下の実験を行った。
初めに、おのおの、2又は3の連結したD-アミノ酸をコードする2つのmRNAコンストラクト(mR1及びmR2)を調製した(
図2A)。
D-アミノ酸は、フレキシザイム技術により、対応するアンチコドンを有するtRNA
Pro1誘導体にプレチャージされ、rP1ペプチド又はrP2ペプチドを合成するために、5μM EF-Pタンパク質を含むFITシステムにおいて用いられた。
特定のFITシステムでは、[
14C]Asp、コールドMet、Tyr、Lys、Gly及び対応するARSが添加され、mRNA(mR1及びmR2)によってコードされない他のアミノ酸/ARS対は省略された。代わりに、D-アミノアシルtRNAを添加して、D-アミノ酸をNNNコドンに割り当てた。IF-2、EF-Tu及びEF-Gの濃度は、D-アミノ酸の連続取り込みのためにあらかじめ最適化された値である3μM、20μM及び0.1μMにそれぞれ設定した(非特許文献2及び5)。野生型(WT)tRNA
Pro1
CGGはDステムの端に位置する13位及び22位にC/G塩基対を有するが、変異体tRNA
Pro1
CGGは13位にC-to-G点変異を有し、塩基対形成を破壊する(
図2B)。EF-Pは、WT tRNA
Pro1の4塩基対の安定なDステム構造で閉じられた9塩基のDループを厳密に認識するので、C13G変異はEF-Pによる認識を減少させた。したがって、mR1及びmR2においてD-アミノ酸を指定するNNNコドンを解読するために、tRNA
Pro1
CGG及び陰性対照としてC13G変異体を用いた。tRNA
Pro1のアンチコドンは、標的コドンを解読するために他のものに変更することができた(
図2C)。
WT D-Ala-tRNA
Pro1を用いて、mR1においては、rP1ペプチド(rP1-D-Ala
2)に2つの連続したD-アラニンを導入するための3つの異なるコドン(NNN=CCG、ACU又はCAC)を試験した(
図2C、
図3A)。
得られたペプチドは、トリシンSDS-PAGEにて分離され、オートラジオグラフィーで定量化した。EF-Pの付加が、rP1ペプチド(rP1-D-Ala
2)の発現レベルに、同様の範囲で(0.4~0.6μM)、コドンに依らず、重大な改良をもたらした。EF-Pを含まないD-Ala取り込みのバックグラウンドレベルの差異(CCG、ACU及びCACについて、それぞれ2.6倍、4.7倍及び12倍)のために、増強効果の見掛けのレベルはコドンによることとなった。陽性対照として、L-Pro-tRNA
Pro1を用いて、rP1-L-Pro
2及びrP2-L-Pro
3ペプチドのX残基の位置に連続するL-Pro取り込みのEF-P増強を行ったところ、それぞれ、1.4倍及び22倍の改善効果が見られた。(
図3B及び3C)
次に、EF-PがmR1上のCCGコドンを抑制するtRNA
Pro1
CGGにチャージしたD-Ser、D-Cys及びD-Hisの取り込みを増強できるかどうかを調べた(
図2D、
図3D)。増強効果は5.4倍、8.4倍及び2.1倍であり、EF-PがこれらのD-アミノ酸の2回の連続した取り込みを2~10倍の範囲で増強することが示された。その一方、tRNA
Pro1
CGGのC13G変異体を用いると、rP1-D-X
2ペプチドで、D-Ala、D-Ser、D-Cys及びD-Hisの2.1倍、2.4倍、3.5倍及び0.9倍でEF-P増強効果を低下させた。絶対発現レベルは、C13G/EF-PよりもWT/EF-Pの使用により2倍以上に増強されたことから、各場合においてEF-Pの効果が確実に観察された。これらペプチドの正確な発現は、MALDI-TOF質量分析により確認した(
図3E)。
【0067】
続いて、キラルではないα,α―ジメチル置換アミノ酸(Aib、2-アミノ酪酸)を用いた(
図2D、
図3D及び3E)。
α、α-二置換はD-アミノ酸のようなリボソームPT中心に同様の状況を設定し、Aibの連続取り込みの効率が非常に低いことが確認できた。rP1-Aib
2ペプチドへのAib取り込みに対するEF-P増強は、WT tRNA
Pro1の使用により20倍であり、C13G変異体により5倍であった。発現レベルは、WT/EF-Pの組み合わせにより3倍以上に増強された。
次に、rP2ペプチドの新生鎖にD-Ala及びAibの3つの連続した取り込みを調べた(
図2E、
図3D及び3E)。rP2-D-Ala
3ペプチドへのD-Alaの取り込みのEF-Pによる増強効果はWT tRNA
Pro1
CGGを用いて1.9倍であったが、C13G変異体を用いた場合は、EF-Pの存在に関わらず検出限界以下あった。rP2-Aib
3がWT tRNA
Pro1
CGGを用いて発現させた場合、EF-Pによる増強効果は3倍であったが、C13G変異体を用いた場合には、その効果は観察されなかった。これらの結果から、EF-PがD-アミノ酸の連続的な取り込みの発現レベルを刺激することが示されている。
【0068】
我々はまた、WT D-Ala-tRNA
Pro1
CGGの存在下でrP1-D-Ala
2のペプチドの発現レベルの関数としてEF-P濃度を滴定した(
図4A)。EF-P(10及び15μM)の濃度が高いほどEF-Pの効果は低下したが、40及び15分の時点での滴定実験では、5-7μMのEF-PがrP1-D-Ala
2ペプチドの発現の最大レベルを示した。実施例における翻訳系のリボソームの濃度が1.2μMであることを考慮すると、EF-Pの最適濃度はリボソーム濃度の約5倍であった。
rP1-D-Ala
2ペプチドの翻訳の時間経過分析を、EF-Pの存在下(5μM)及びEF-Pの非存在下で行った。両条件において、全長ペプチドの収量は50分でプラトー化した(
図4B)。50分で、rP1-D-Ala
2ペプチドの発現レベルは、5μM EF-Pの存在下で約1μMに達した。かかる濃度は、L-Ala
2を含む完全L-ペプチドの発現レベルに匹敵した(参考文献3)。
【0069】
連続したD-アラニンの取り込みをさらに増強させるtRNA
Pro1
へのTステム構造の改変
tRNA
GluE2のTステムをtRNA
Pro1に導入して、本明細書で、tRNA
Pro1E1と言及するキメラtRNAを作成した(
図5A、tRNA
Pro1E1
CGG)。
さらに、ProRSに認識される識別塩基に付加的な変異を有する(参考文献9)、本明細書で、tRNA
Pro1E2
CGGと言及する別のキメラtRNAを作成した。かかる変異を導入したことにより、tRNA
Pro1E2
CGGは、ProRSによりProをチャージされなくなった。すなわち、ProRSに対して直交性を有する。
WTtRNA
Pro1
CGG、tRNA
Pro1E1
CGG、tRNA
Pro1E2
CGG、tRNA
GluE2
CGG及びtRNA
AsnE2
CGG用いて(
図5A)、rP1-D-Ala
2への2つの連続したD-アラニンの取り込み能を比較した(
図5B、
図6A)。
その結果、試験された他のtRNAとの比較により、EF-PとtRNA
Pro1E1
CGG(4.1倍)及びtRNA
Pro1E2
CGG(5.0倍)の組合せによって、4倍以上のペプチド発現レベルの増強が確認された。
このことは、明確にキメラtRNA
GluE2のTステムとtRNA
Pro1のDアームに由来するキメラtRNA
Pro1E1及びtRNA
Pro1E2が、EF-PとEF-Tuにアシストされて、トータルのPT速度を増強していることを意味している。
【0070】
EF-Pにより増強された複数のD-アミノ酸の取り込み
D-Ala-tRNA
Pro1E2及びEF-Pの組合せは、rPa-D-Ala
2の発現レベルの増強を可能にする。
5つの異なる鋳型mRNAを調製して(
図7A、mR3~mR7)、1~3の異なるD-アミノ酸をその配列中に含む対応するペプチドを合成した(
図7A、rP3~rP7ぺプチド)。
これらのmRNAにおいては、D-Ala-tRNA
Pro1E2
GAU、D-Cys-tRNA
Pro1E2
GUG及びD-Ser-tRNA
Pro1E2
GGUが、それぞれ、AUU、CAU及びACUコドンに各々割り当てられた。5μM EF-Pの存在下、rP3及びrP4発現が増強していることを確認した(
図6B)。一方、EF-Pの非存在下では、バンドは検出されなかった。すなわち、2種類の2つ連続したD-アミノ酸(D-Ala
2-YY-D-Ala
2またはD-Ala
2-YY-D-Cys
2;Y=L-Tyr)を含むrP3及びrP4においては、極めて増強した発現が確認された。
2種類の2つ連続したD-アミノ酸(D-Ala
2-YY-D-Ser
2)を含むrP5ペプチドにおいては、EF-Pの非存在下でも、検出可能なレベルのrP5ペプチドを発現したが、EF-Pの添加は、13倍の発現レベルの増強を示した(
図6B、
図7B)。
L-アミノ酸とD-アミノ酸を交互に含むrP6及びrP7ぺプチドの発現は少ないものの、EF-P存在下でも検出可能であった。一方、EF-Pの添加は、それぞれで、3.3倍及び3.0倍の発現レベルの増強を示した(
図6B、
図7B)。
各ペプチドのMALDI-TOF-質量分析は、EF-Pの存在下での予想される分子量を示した(
図6C)。
これらの結果は、EF-PとD-アミノアシル-tRNA
Pro1E2の組合せが、複数種のD-アミノ酸を含むペプチドの発現レベルの増強において、顕著なインパクトを与えることを示唆している。
【0071】
EF-Pにより刺激される環状D―ペプチドのリボソーム合成
FITシステムを用いてtRNA
GluE2誘導体を用いて大環状D-ペプチドの発現を実証したところ、大環状D-ペプチドの発現レベルは、大環状L-ペプチドよりも4倍低かった。
そこで、tRNA
Pro1E2を用いたところ、大環状D-ペプチドの発現レベルが増強した。具体的には、EF-Pにより2つのモデルD-ペプチドであるrP8及びrP9ペプチドの発現レベルを増強させることに成功した(
図8)。
rP8は、D-Cys-D-Ser-D-Ala-D-Ser-D-Cysを含む。
EF-Pと共に伸長キャリアとしてtRNA
Pro1E2を用いて発現したrP8ペプチドのMALDI-TOF-質量分析は、これらのD-アミノ酸が正しく導入され、2つのD-Cys残基がジスルフィド結合を形成して大環状構造を与えることを示した(
図9C)。
rP8ペプチドのトリシンSDS-PAGE分析は、D-アミノアシル-tRNA
Pro1E2と対になったEF-Pが、EF-P不活性D-アミノアシル-tRNA
GluE2を用いて発現されたものと比較して、発現レベルで、約8倍増強することができた(
図8B、
図9A)。
同様の方法で、D-
ClAcPhe-D-Ser-D-Ser-D-Cys連続ストレッチを含む別のモデルD-ペプチドであるrP9ペプチドを設計した。D-
ClAcPheのN末端クロロアセチル基はD-Cysのスルフヒドリル基と反応して、チオエーテル大環状構造を形成した(
図8A)。rP9ペプチドの発現は、tRNA
GluE2を用いた場合と比較して、D-アミノアシル-tRNA
Pro1E2と対になったEF-Pにより、約10倍に増強され(
図8C)、チオエーテル大環状D-ペプチドが効率的に産生され得ることが示された(
図9C)。
【0072】
EF-Pにより増強された連続したβ-アミノ酸の取り込み
D-アミノ酸の取り込みについて上記した方法に準じて、以下行った。
βhQ、βhM及びβhF(
図10b)が、野生型(WT)tRNA
Pro1
CGG又はC13G変異tRNA
Pro1
CGG(
図10a)にフレキシザイム技術によりプレチャージされ、rP1ペプチド合成するために、5μM EF-Pタンパク質を含むFITシステムにおいて、鋳型mRNAであるmR1(
図10c)の翻訳に用いられた。
β-アミノ酸の前のTyr-Lys-Lys-Tyr-Lys-Lys-Tys-Lys配列は、発現されたペプチドが、トリシンSDSーPAGEやMALDI-TOF-質量分析における検出のために導入している配列である。
ペプチドは、[
14C]Aspの存在下に発現され、15%トリシンSDS-PAGEに供され、C末端のフラグータグ領域に導入された[
14C]Aspの強度によってオートラジオグラフィーで定量化した(
図10d、
図15a)。
コールドAspの存在下で、同じペプチドの発現は、EF-Pの非存在下でも、MALDI-TOF-質量分析により確認した(
図15b)。ただし、EF-Pの存在により、WT tRNA
Pro1
CGGが用いられた場合には、β-アミノ酸の取り込みは増大した(
図10d、βhQにおいて1.7倍、βhMにおいて4.6倍、βhFにおいて1.3倍)。
これらの結果は、明確に、EF-Pが、tRNA
Pro1のDアーム構造を認識していることを示しており、応答するβ-アミノ酸の取り込みを促進している。
続いて、rP1ペプチドへの、βhQ及びβhMの取り込みにおけるEF-Pの最適化濃度の検討を行い(参考文献1及び2)、β-アミノ酸の取り込みにおいては、EF-P濃度が5~10μM程度であることが良好であった。同様の傾向が、D-アラニンの取り込みにおいても確認された。
これらの結果は、EF-Pが、リボソームのE部位を占め、そして、P部位からE部位へのデアシルtRNAのトランスロケーションを阻害していると考えられた。
【0073】
連続したβ-アラニンの取り込みにおけるEF-Tu結合を増強させるtRNA
Pro1
のTステム構造の改変
図11aに示すtRNAに、フレキシザイム技術によりβhMをチャージして、βhMをチャージしたtRNA間でさらなる取り込み増強が起こるか対比した。
大腸菌tRNA
Asnに基づく、TステムもDアームも最適化されていないtRNA
AsnE2、EF-Tu結合に最適化したTステムを有するtRNA
Gluの派生物であるtRNA
GluE2及びtRNA
Pro1において、βhM-tRNA
Pro1E2は、RF-Pの存在下で7.3倍の取り込みの増強効果を示し、EF-P存在下でのβhM-tRNA
Pro1に対して、2倍近い取り込みの増強効果を示した(
図11b)。
【0074】
7つの連続したβ-アミノ酸の取り込み
βhMをチャージしたtRNA
GluE2
CGGを用いて、mR2の2~7つの連続したCGGコドンに対してβhMを導入して、mR2に対応するrP2-βhM
nペプチドを合成した(
図12、
図16b)。
連続するβhMの数の増加に伴い、rP2-βhM
nペプチドの翻訳効率は減少したものの、EF-Pの存在下で、βhMを連続して7つ含む完全長のrP2ペプチドを検出することができた(
図12b及び
図12c)。
また、rP2-βhM
2ペプチド及びrP2-βhM
3ペプチドでは、EF-Pによる顕著な取り込みの増強効果が確認された(それぞれ5.9倍、16.2倍)。
同様に、βhM及びβhFを、それぞれ、tRNA
Pro1E2
GAU及びtRNA
Pro1E2
GUGにプレチャージし、AUUコドン及びCAUコドンで、おのおの取り込んだrP3-3ペプチド~rP3-7ペプチドを合成した(
図13a)。
rP3-3ペプチド~rP3-7ペプチドの発現が、EF-Pの存在下で確認された(
図13b、
図13c、
図16c)。
また、rP3-3ペプチド~rP3-5ペプチドでは、EF-Pによる顕著な取り込みの増強効果が確認された(それぞれ7.4倍、21.7倍、30.3倍)。加えて、rP3-6ペプチド~rP3-7ペプチドでは、EF-Pにより、発現が、N.D.から検出可能になるという増強効果が確認された。
【0075】
複数のD-アミノ酸及びβ-アミノ酸の取り込み
本法の汎用性を示すために、3種類のβ-アミノ酸、4種類のD-アミノ酸を様々な位置に取り込んだ8種類のrP4ペプチド~rP11ペプチドを合成した(
図14a及び
図14b)。
また、rP4ペプチド~rP5ペプチドでは、EF-Pによる取り込みの増強効果が確認された(
図14c、
図16d、それぞれ1.9倍、1.6倍)。rP6ペプチド~rP7ペプチドでは、連続したβ-アミノ酸の2つのセットが取り込まれていて、EF-Pによる取り込みの増強効果が確認された(
図14c、
図16d、それぞれ12.3倍、19.3倍)。rP8ペプチド~rP9ペプチドでは、β-アミノ酸とD-アミノ酸の組み合わせが取り込まれていて、EF-Pにより、検出可能となるまで取り込みの増強効果が確認された(
図14c、
図16d、rP8ペプチドでは、9.2倍、rP8ペプチドでは、0.04μM)。
チオエーテル結合による、連続したβ-アミノ酸を取り込んだ大環状ペプチド(rP10ペプチド~rP11ペプチド)を合成した(
図14a)。開始AUGコドンが、D-
ClAcPheに割り当てられ、D-
ClAcPheのクロロアセチル基が、下流のD-システインの側鎖チオール基と反応して、チオエーテル結合を形成する。rP10ペプチド~rP11ペプチドでも、EF-Pによる取り込みの増強効果が確認された(
図14d、
図16d、それぞれ3.2倍、2.3倍)。
取り込みミスによる副生成物を産生することなり、これあらのペプチドが合成されていることを、MALDI-TOR-質量分析により確認した(
図16e)。
【0076】
参考文献
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【配列表】