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  • 特許-荷電粒子顕微鏡のガンレンズ設計 図1
  • 特許-荷電粒子顕微鏡のガンレンズ設計 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-24
(45)【発行日】2022-06-01
(54)【発明の名称】荷電粒子顕微鏡のガンレンズ設計
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/145 20060101AFI20220525BHJP
【FI】
H01J37/145
【請求項の数】 10
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018088536
(22)【出願日】2018-05-02
(65)【公開番号】P2018190723
(43)【公開日】2018-11-29
【審査請求日】2021-04-08
(31)【優先権主張番号】15/586,194
(32)【優先日】2017-05-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】501233536
【氏名又は名称】エフ イー アイ カンパニ
【氏名又は名称原語表記】FEI COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 進介
(72)【発明者】
【氏名】アリ モハマディ ゲイダーリ
(72)【発明者】
【氏名】アレキサンデル ヘンストラ
(72)【発明者】
【氏名】ペーター クリスティアン タイメイヤー
(72)【発明者】
【氏名】クン リウ
(72)【発明者】
【氏名】プレウン ドナ
(72)【発明者】
【氏名】グレゴリー エー.シュヴィント
(72)【発明者】
【氏名】ガーバート イエルーン ヴァン デ ワーテル
(72)【発明者】
【氏名】マールテン ビショフ
【審査官】後藤 大思
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-162979(JP,A)
【文献】特開2016-009684(JP,A)
【文献】特開2015-015200(JP,A)
【文献】特開2005-310778(JP,A)
【文献】特開平04-098746(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/145
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
‐ 真空エンクロージャと、
‐ 荷電粒子ビームを生成するためのソースと、
‐ 試料を保持するための試料ホルダと、
‐ 前記ソースと前記試料ホルダとの間に設けられた照射器であって、前記ビームの伝搬方向において
・ ソースレンズと、
・ コンデンサシステムと、を有する照射器と、
‐ 前記ビームによる照射に応答して前記試料から放出される放射を検出するための検出器と、
を備える荷電粒子顕微鏡において、
前記ソースレンズは、複合レンズであり、前記伝搬方向において、
‐ 前記真空エンクロージャの外側に配置され、その内部に磁界を生成する永久磁石を含む磁気レンズと、
‐ 可変静電レンズと、を備え、
前記磁気レンズと前記可変静電レンズとの間にアライメントビーム偏向器が設けられている、
荷電粒子顕微鏡。
【請求項2】
モノクロメータは、前記静電レンズと前記コンデンサシステムとの間に設けられている、
請求項1載の荷電粒子顕微鏡。
【請求項3】
‐ 真空エンクロージャと、
‐ 荷電粒子ビームを生成するためのソースと、
‐ 試料を保持するための試料ホルダと、
‐ 前記ソースと前記試料ホルダとの間に設けられた照射器であって、前記ビームの伝搬方向において
・ ソースレンズと、
・ コンデンサシステムと、を有する照射器と、
‐ 前記ビームによる照射に応答して前記試料から放出される放射を検出するための検出器と、
を備える荷電粒子顕微鏡において、
前記ソースレンズは、複合レンズであり、前記伝搬方向において、
‐ 前記真空エンクロージャの外側に配置され、その内部に磁界を生成する永久磁石を含む磁気レンズと、
‐ 可変静電レンズと、を備え、
前記磁気レンズは、磁気ヨークを含み、少なくとも部分的に前記真空エンクロージャ内に設けられており、前記ソースの1つ以上の部品を含む、
電粒子顕微鏡。
【請求項4】
前記ソースは、少なくとも部分的に前記磁気ヨークの第1極片に含まれる引出電極を含む、
請求項記載の荷電粒子顕微鏡。
【請求項5】
前記ソースは、少なくとも部分的に前記磁気ヨークの第2極片に含まれる制限電極を含む、
請求項又は記載の荷電粒子顕微鏡。
【請求項6】
前記ソースは、冷電界エミッタガン(CFEG)、電子衝撃イオンソース、ナノアパーチャ・イオンソース(NAIS)、液体金属イオンソース(LMIS)、及び電界イオン化ソースを含む群から選択される、
請求項1乃至いずれか1項記載の荷電粒子顕微鏡。
【請求項7】
荷電粒子顕微鏡を操作する方法であって、
‐ 試料ホルダ上に試料を提供するステップと、
‐ 荷電粒子ビームを生成するためにソースを使用するステップと、
‐ 前記ビームが前記ソースと前記試料ホルダとの間に設けられた照射器を通過するステップであって、前記照射器が前記ビームの伝搬方向において
・ ソースレンズと、
・ コンデンサシステムと、を含む、ステップと、
‐ 前記照射器から放出される前記ビームで前記試料を照射するステップと、
‐ 前記照射に応答して前記試料から発せられる放射を検出するために検出器を使用するステップと、
を含む方法において、
前記ソースレンズを混合レンズとして構成し使用するステップであって、前記伝搬方向において、
‐ 真空エンクロージャの外部に配置され、その内部に磁界を生成する永久磁石を含む磁気レンズと、
‐ 可変静電レンズと、を備え
前記磁気レンズと前記可変静電レンズとの間にアライメントビーム偏向器が設けられている、
方法。
【請求項8】
荷電粒子顕微鏡を操作する方法であって、
‐ 試料ホルダ上に試料を提供するステップと、
‐ 荷電粒子ビームを生成するためにソースを使用するステップと、
‐ 前記ビームが前記ソースと前記試料ホルダとの間に設けられた照射器を通過するステップであって、前記照射器が前記ビームの伝搬方向において
・ ソースレンズと、
・ コンデンサシステムと、を含む、ステップと、
‐ 前記照射器から放出される前記ビームで前記試料を照射するステップと、
‐ 前記照射に応答して前記試料から発せられる放射を検出するために検出器を使用するステップと、
を含む方法において、
前記ソースレンズを混合レンズとして構成し使用するステップであって、前記伝搬方向において、
‐ 真空エンクロージャの外部に配置され、その内部に磁界を生成する永久磁石を含む磁気レンズと、
‐ 可変静電レンズと、を備え、
前記磁気レンズは、磁気ヨークを含み、少なくとも部分的に前記真空エンクロージャ内に設けられており、前記ソースの1つ以上の部品を含む、
方法。
【請求項9】
請求項1乃至いずれか1項記載の荷電粒子顕微鏡において、交換ソースを使用する方法であって、
‐ 前記顕微鏡から第1アセンブリを取り外すステップであって、前記第1アセンブリが第1ソースと、
・ 前記磁気レンズの第1形態、を含む、ステップと、
‐ 前記可変静電レンズを適所に残しながら、前記取り除かれた第1アセンブリを第2アセンブリで置き換えるステップであって、前記第2アセンブリは、第2ソース及び前記磁気レンズの第2形態を含む、ステップと、
によって特徴づけられる方法。
【請求項10】
前記第1アセンブリは磁気レンズを含まない、
請求項9記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は荷電粒子顕微鏡に関し、この荷電粒子顕微鏡は、
‐ 真空エンクロージャと、
‐ 荷電粒子ビームを生成するためのソースと、
‐ 試料を保持するための試料ホルダと、
‐ ソースと前記試料ホルダとの間に設けられた照射器であって、ビームの伝搬方向において
・ ソースレンズ及び
・ コンデンサシステムを含む照射器と、
‐ ビームによる照射に応答して試料から放出される放射を検出するための検出器と、を備える。
【0002】
本発明は、このような荷電粒子顕微鏡の使用方法にも関する。
【背景技術】
【0003】
荷電粒子顕微鏡法は、特に電子顕微鏡の形態で、微視的な対象物をイメージングするための周知かつますます重要な技術である。歴史的に、電子顕微鏡の基本的な分類は、透過型電子顕微鏡(TEM)、走査型電子顕微鏡(SEM)、及び走査型透過電子顕微鏡(STEM)のような多くの周知の装置種へと進化しており、また、例えば、所謂「デュアルビーム」ツール(例えばFIB-SEM)などの、イオンビームミリング又はイオンビーム誘導堆積(IBID)などの、補助作業を可能にする「機械加工」集束イオンビーム(FIB)を追加的に採用する種々のサブ種へも進化している。より詳しくは、
‐ SEMにおいて、走査電子ビームによる試料の照射は、例えば、二次電子、後方散乱電子、X線及び陰極ルミネッセンス(赤外線、可視及び/又は紫外光子)の形態で、試料からの「補助」放射線の放出を引き起こす。この放出放射線の1つ以上の成分が検出され、イメージ集積の目的で使用される。
‐ TEMでは、試料を照射するのに用いられる電子ビームは、試料を貫通するのに十分なエネルギーを有するように選択される(そのため一般に、通常SEM試料の場合よりも試料が薄い)。
試料から放出される透過電子は、その後イメージを生成するために用いられる。このようなTEMを走査モードで作動させると(STEMになり)、照射電子ビームの走査動作中に問題となっているイメージが集積される。ここで説明した事項のさらなる情報は、たとえば、次のWikipediaのリンクから得ることができる。
http://en.wikipedia.org/wiki/Electron_microscope
http://en.wikipedia.org/wiki/Scanning_electron_microscope
http://en.wikipedia.org/wiki/Transmission_electron_microscopy
http://en.wikipedia.org/wiki/Scanning_transmission_electron_microscopy
照射ビームとして電子を使用する代わりに、荷電粒子顕微鏡法は他の種の荷電粒子を用いて行うこともできる。この点に関して、「荷電粒子」という用語は、例えば、電子、正イオン(例えば、Ga又はHeイオン)、負イオン、陽子及び陽電子を含むものとして広く解釈されるべきである。非電子ベースの荷電粒子顕微鏡法に関しては、例えば、以下のような参考文献からいくつかのさらなる情報を得ることができる。
https://en.wikipedia.org/wiki/Focused_ion_beam
http://en.wikipedia.org/wiki/Scanning_Helium_Ion_Microscope
W.H. Escovitz, T.R. Fox and R. Levi-Setti, Scanning Transmission
Ion Microscope with a Field Ion Source, Proc. Nat. Acad. Sci. USA 72(5), pp
1826-1828 (1975).
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22472444
荷電粒子顕微鏡は、イメージング及び(局所的な)表面改質の実施(例えば、ミリング、エッチング、堆積など)に加えて、分光法の実施、ディフラクトグラムの検査などの他の機能も有することに留意すべきである。
【0004】
すべての場合において、荷電粒子顕微鏡(CPM)は、少なくとも以下の構成を含む。
‐ ショットキー電子ソース又はイオンガンなどの粒子ソース。
‐ ソースからの「生の」放射ビームを操作する働きをし、収束、収差軽減、(絞りによる)トリミング、フィルタリングなどの特定の操作を実行する照射器。
原則的に1以上の(荷電粒子)レンズが含まれ、他のタイプの(粒子)光学構成要素も含まれうる。必要な場合には、照射器は、その出射ビームが調査される試料を横切って走査動作を行うように呼び出されうる偏向器システムを備えることができる。
‐ 検査中の試料が保持され、位置決めされる(例えば、傾斜され、回転される)、試料ホルダ。
必要に応じて、このホルダは、ビームに対して試料の走査動作を行わせるように移動されうる。
一般に、そのような試料ホルダは、位置決めシステムに接続される。低温試料を保持するように設計される場合、試料ホルダは、例えば適切に連結された起寒剤バットを用いた、試料を低温温度に維持するための手段を含む。
‐ (照射を受けている試料からの放射の放出を検出するための)検出器。
実質的に一体型又は複合型/分散型でありえ、検出される放射に依存して種々の異なる形態をとりうる。例えば、フォトダイオード、CMOS検出器、CCD検出器、光電池、(シリコンドリフト検出器及びSi(Li)検出器のような)X線検出器などが含まれる。一般に、CPMはいくつかの異なる種類の検出器を含み、それらから選択されたものが異なる状況で呼び出される。デュアルビーム顕微鏡の特定の場合、2つの異なる種類の荷電粒子を生成するために、(少なくとも)2つのソース/照射器(粒子光学カラム)が存在する。一般に、(垂直に配置された)1つの電子カラムが試料をイメージングするために使用され、(傾けて配置された)1つのイオンカラムが、試料を改質(機械加工/処理)及び/又はイメージングするために(同時に)使用され、試料ホルダは、使用された電子/イオンビームに試料の表面を安定して「提示」できるように、多自由度で位置決めされうる。
(例えば(S)TEMのような)透過型顕微鏡の場合、CPMは、具体的には、以下を含む。
‐ 試料(面)を透過した荷電粒子を実質的に取り込み、それらを、検出/結像装置、(EELSデバイスのような;EELS=電子エネルギー損失分光法)分光装置などの分析機器上へ導く(集束させる)結像系(結像粒子光学カラム)。上述の照射器と同様に、結像系は、収差軽減、トリミング(cropping)、フィルタリングなどの他の機能も実行することができ、一般に、1つ又は複数の荷電粒子レンズ及び/又は他の種類の粒子光学部品が含まれうる。
【0005】
上述の冒頭の段落を参照すると、本状態の照射器は、以下を含む。
・ ビームが試料上に衝突するときのビームのフットプリント/照射状態、例えば、ビームが集束された集束「プローブ」のサイズ/形状、試料に方向づけられるコリメートされたビームの面積/断面形状など、を規定するために本質的に役立つコンデンサシステム。
・ とりわけ、ソースによる生成直後/直ちにビームの拡大/コリメーションをもたらすために 、例えば、ソース振動の潜在的影響(potential effect)を低減し、ビーム開口角を削減するように、(ソースの近位/直ぐ下流に配置された)ポストソースビームコンディショナ(post-source beam conditioner)として本質的に機能するソースレンズ(「ガンレンズ」)。
【0006】
以下では、本発明は、例として、電子顕微鏡の特定の状況において説明されるときがある。しかしながら、そのような単純化は、専ら明瞭性/説明のしやすさの目的を意図したものであり、限定的に解釈されるべきではない。
【0007】
SEM又はSTEMなどの荷電粒子顕微鏡は、好ましくは高輝度ソースを使用する。電子の場合には、そのようなソースは、(冷電界放出電子銃(Cold Field Emission Gun)又はCFEGとも呼ばれる)冷電界放出ソース(Cold Field Emission source)である。そのようなソースのためには、ソースサイズ及び角電流密度は非常に小さいが、輝度は非常に高い。そして、ソースは室温(又はその付近)で動作されるので、最小熱エネルギー幅が導かれる。例えば、イオンを生成する類似のソースは、液状金属イオンソース(LMIS)である。
【0008】
CFEGの角電流密度は、例えば、従来のショットキーFEGよりも約2桁小さいという点で課題を提示する。これは、所与のビーム電流に対して、使用されるソースレンズ(ガンレンズ)によって集束される立体角が、ショットキーFEGよりもCFEGの方が2桁大きくなければならないことを意味する。従って、既存のCPM設計において、ショットキーFEG(または、他の比較的大きいソース)をCFEG(または、他の比較的小さいソース)によって置き換えることは容易な作業でない。なぜなら、既存の設計のソースレンズは通常、新規なソースと互換性がないからである。他方で、新しいソースに適合するように既存のデザインを初めから改造することは、一般に非常に魅力的な選択肢とはいえない。任意のCPM設計を考案し、最適化し、実行するためには、(通常)大量の労力が必要とされるからである。これは、特に、CPM設計がコンデンサシステムの、中に/上流にモノクロメータを含む状況では、そのようなモノクロメータが設計を複雑にし、再設計のために利用可能な空間/光学オプションを減少させる傾向があるためである。
【発明の概要】
【0009】
この問題に対処することが、本発明の目的である。より具体的には、本発明の目的は、(CFEGのような)比較的小さいソースが(ショットキーFEGのような)より大きいソースを意図する/意図していた基本的な粒子光学設計と十分に組み合わせられることができるCPM構造を提供することである。特に、そのようなCPM構造が、照射器の重大な再設計を伴わずに、異なるサイズ/タイプのソースによるソースの置換/交換(replacement/swopping)に寄与すべきことが、本発明の目的である。
【0010】
これらの目的および他の目的は、上記の冒頭の段落で述べたCPMであって、以下の点によって特徴づけられるCPMにおいて、達成される。
このCPMにおいて、ソースレンズは複合レンズであり、(伝搬方向において)
‐ 真空エンクロージャの外部に配置されるが、その内部に磁界を生成する永久磁気極片を有する磁気レンズと、
‐ 可変静電レンズと、を備える。
本発明の設計は、以下のように、ソースレンズの機能性を2つの異なる態様に本質的に分岐させる。
‐ 「主」(下段)部分
基本的に後続のコンデンサシステムに適合する/コンデンサシステムのために設計された、比較的大きい、可変静電レンズを含む。
‐ 「副」(上段)部分
基本的に先行するソースに適合し/ソースのために設計された、比較的小さい、永久磁石レンズを含む。機能的に言えば、副部分は、所与の(小さい)ソースのジオメトリ/特性を、基本的に後続の主部分に対して「標準化」され/主部分のために最適化された形状に「変換」するために役立つ。換言すると、副部分は、(新規な)ソース及び(既存の)照射器設計の間の、一種のアダプタとして機能する。ソースのタイプ/サイズが変更された場合、主ソースレンズ(及び後続の光学系)を変更せずに、かつ、副ソースレンズを異なる(新しいソースに最適化された)ものに交換するのは比較的簡単な作業である 。
【0011】
本発明では、副/上段ソースレンズは、とりわけ以下の理由により、上述の永久磁石設計のものである。
‐ 永久磁石レンズは、以下の点において本質的に有利である。
・ 比較的低い収差しか生成しない。これは重要な点である。なぜなら、小放射領域ソース(例えばCFEG)を使用しているときに、ソースレンズから生じる収差は、(例えば)コンデンサシステムから生じる収差よりも原則的より一層顕著になるからである。これは、かかるソースのためのソースレンズは典型的には、10倍大きいオーダーのそれぞれの捕捉角度で、コンデンサシステム(例えば10~20mm)よりも10倍小さいオーダー(例えば1~2mm)の焦点距離を有するであろうという理由である。したがって、ソースレンズから生じる収差は、コンデンサシステムから生じるものより約1桁大きい傾向がある。そのために、収差に対する本質的な感受性が低減されたソースレンズの実施形態を選択することが重要である。
・ 永久磁気の実施形態は、例えば100kV~1000kVの高電圧での前加速磁界生成コイル(pre-acceleration field-generating coils)を使用する必要性をなくす。かかるコイルを稼働するために、相当な電力及び水冷が必要であり、かかる高電圧レベルでの供給は困難である。ソース近傍の利用可能な空間は限られているので、窮屈な容積において、扱いにくい高電圧/液体冷却機器を使用する必要はなく、大きな利点がある。
‐ (C)FEGのような小さなソースの場合には、ソース出力の実質的な変動を引き起こす可能性のある汚染問題を防ぐために、ソースの直接近傍において比較的高い真空を維持することが重要である。本発明は、サマリウム‐コバルト(SmCo)又はネオジム‐鉄‐ボロン(NdFeB)合金などの永久磁石を製造する(焼結)材料での気体放出問題を防止するために、真空外で(ex vacuo)レンズのための磁界を生成する永久磁石を位置決めする。他方で、主/下段ソースレンズは、可変静電設計である。そのような実施形態(冷却を特に必要としない)は、その集光力(屈折力)に関して容易に調整可能であるからである。磁気レンズ及び静電レンズに関するいくつかの基本的な情報は、以下の参照から収集されることができる。
http://en.wikipedia.org/wiki/Electron_microscope
http://en.wikipedia.org/wiki/Electron_microscope
【0012】
本発明の有利な実施形態では、複合ソースレンズの2つのコンポーネントの間、即ち副/上段磁気レンズと主/下段静電レンズとの間に、アライメントビーム偏向器が設けられる。かかる偏向器/偏向器の組は、(例えば)副/上段ソースレンズ又はソースにおける/副/上段ソースレンズ又はソースのサブオプショナルな製造/位置決め許容誤差によって生じる可能なビーム位置誤差を許容するために、ビームが主/下段ソースレンズに入射する前にビーム位置の調整/適切なアライメントを可能にする。さらに、例えば、副/上段磁気レンズのビーム電位を調節した場合に、それによってわずかな焦点距離の変動を引き起こし、焦点位置における長手/軸方向の小さい調整が行われることを可能にする。
【0013】
本発明の特定の実施形態では、モノクロメータが、ソースレンズとコンデンサシステムとの間に設けられる。そのような実施形態は、達成可能な分解能(例えば、0.05nmオーダー)の付随的な増加とともに、色収差の影響を低減することを可能にする。例えば、(試料との相互作用の前に)入力ビームのエネルギー純度を向上させることにより、EELSのより高い精度を高達成することができ、(試料との相互作用の後に)出力ビームからの検出信号におけるより少ない「ノイズ」となる。モノクロメータをこのように組み込むことにより、顕微鏡の光学設計が複雑になる。しかしながら、上記で言及したように、本発明は、(下段)照射器(モノクロメータを含む)の主要な再設計を行う必要なしに、ソース交換を容易にするので、これは問題となる必要がない。
【0014】
本発明の特定実施例において、複合ソースレンズの副/上段磁気レンズは、磁気ヨークを含み、磁気ヨークは真空エンクロージャ内に少なくとも複数設けられ、ソースの1つ以上のコンポーネントを含む。既に上述したように、CPMの様々なサブコンポーネントは、一般に、限定された容積に一緒に詰め込まれており、従ってスペースを効率的に使用する大きなインセンティブが存在する。本発明は、上記の(真空外の)永久磁石からの磁力線を導き、それらを(真空中の)ビームの近傍に方向づけるために、上記の副/上段磁気レンズに専用の磁極片を使用することを可能にする。しかしながら、代替的/付加的に、本実施形態は、そのような磁極片機能を(少なくとも部分的に)達成するためにソース内に既に存在するコンポーネントを使用することもできる。この目的で、かかるコンポーネントは、例えば、NiFeなどの適切な(強)磁性材料を含むように構成することができる。
実施例を挙げる:
‐ ソースが引出電極(extractor electrode)を含み、引出電極が(例えばCFEGの場合のように)尖頭エミッタからの荷電粒子を引き寄せるために高い誘引電位を保持する場合、かかる電極は、本発明の磁気ソースレンズの第1磁極片(例えば、下段磁極片)の役割を果たすように構成されることができる。
‐ ソースが制限電極(confinement electrode)を含み、制限電極が、(例えば、ショットキーFEGの場合のように)空間的にソースエミッタからの放射を制限し、及び/又は、(本譲受人に譲渡され、参照によってここに取り込まれるUS8,736,170でCFEGについて述べられているように)ソースエミッタからの汚染の移行を空間的に削減するように配置されている場合、かかる電極は本発明の磁気ソースレンズの第2磁極片(例えば上段磁極片)の役割を果たすように構成されることができる。
前記US8,736,170の図5を参照して、(非限定的な)特定の実施例を挙げる:
問題の電極が強磁性体を含むように構成される場合には、
‐ 引出電極508は、(下段/前段)第1磁極片として作用することができる、
及び/又は、
‐ 引出電極552は、(上段/後段)第2磁極片として作用することができる。
【0015】
既に上述したように、本発明は、採用されるソースがCFEGである場合に特に有利である。しかしながら、これは、本発明と共に使用することができる唯一のタイプの光源ではなく、例えば、電子衝撃イオン化ソース(EIIS)[そのうちの特定の形態は、ナノアパーチャ・イオンソース(NAIS)]、液体金属イオンソース(LMIS)[既に上記で言及した]、及びフィールドイオン化ソースを含む。EIIS/NAISソースの詳細については、例えば、係属中の米国特許出願第15/405,139号(2017年3月12日出願)及び第15/422,454号(2017年2月1日出願)を参照されたい。両出願は、本出願の譲受人に譲渡さて、参照により本明細書に組み込まれる。LMISソースの詳細については、たとえば、次のWikipediaの参考文献を参照されたい。
https://en.wikipedia.org/wiki/Liquid_metal_ion_source
【0016】
既に上述したように、本発明のソースレンズ内に設計された機能性の「分岐(bifurcation)」は、以下のステップを含み、ソースの交換操作を可能にする。
‐ 顕微鏡から第1アセンブリを取り外すステップであって、第1アセンブリは、第1ソースと、
・ 磁気レンズの第1形態、及び
・ 非磁気レンズ(No magnetic lens)、のうちの1つと、を含む。
‐ 可変静電レンズを適所に残しながら、取り除かれた第1アセンブリを第2アセンブリで置き換えるステップであって、第2アセンブリは第2ソース及び磁気レンズの第2形態を含む。
本質的にここで作用することは、副/上段磁気ソースレンズが、ソースと共に置換される(co-replaced with the source)べき部材とみなされ、それによって、所与のソース及びそれに関連する上段/副磁気レンズが互いに「適合」され、1つのアセンブリとしてシームレスに下段/主静電ソースレンズにも適合する、ということであり、静電ソースレンズは、この理由から、その上に取り付けられた下部/主静電ソースレンズは、基本的に「気にならない(oblivious)」。
【0017】
当業者は、本発明がTEM、STEM、SEM、FIB-SEM、および様々な他のタイプのCPMに適用できることを理解するであろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
本発明は、ここで、例示的な実施形態及び添付の概略的な図面に基づいてより詳細に説明される。
図1】本発明が実施されるCPMの一実施形態の縦断面を示す図である。
図2図1の一部を拡大してより詳細に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図面では、関連して対応する部分は、対応する参照符号を用いて示される場合がある。
【0020】
実施形態1
図1(縮尺通りではない)は、本発明が実施される荷電粒子顕微鏡Mの実施形態の非常に概略的な描写である。より具体的には、透過型顕微鏡Mの実施形態を示しており、この場合はTEM/STEMである(但し、本発明の文脈では、例えばそれは同様に有効にSEMであってもよいし、イオンベースの顕微鏡であってもよい)。図において、真空エンクロージャ2の中で、小放出領域ソース(例えばCFEG電子ソース)4は、電子ビームBを生成する。電子ビームBは、電子光学軸B’に沿って伝搬し、電子工学照射器6(模式的には線で表されている)を通り抜け、(例えば(局所的に)薄化され/平坦化された)試料Sの選択された部分に電子を方向づけ/集束させるのに役立つ。この照射器6は、以下でさらに詳細に述べられる。
【0021】
試料Sは、位置決め装置/ステージAによって、多自由度に位置決め可能な試料ホルダHに保持されており、位置決め装置/ステージAはホルダHが(着脱自在に)固定された支持台A’を移動させる。例えば、試料ホルダHは、(とりわけ)XY平面内で移動する(図示されたデカルト座標系を参照し、典型的には、Zに平行でありX/Yについて傾斜する動作も可能である)フィンガを備えることができる。かかる移動は、軸線B’に沿って(Z方向に)進行する電子ビームBによって試料Sの異なる部分が照射/撮像/検査されることを可能にする(及び/又はビーム走査の代替として走査動作を実行することを可能にする)。必要に応じて、任意の冷却装置(図示せず)を、試料ホルダHと密接に熱接触させて、例えば、試料ホルダ(とその上の試料S)を極低温で維持することができる。
【0022】
電子ビームBは、(例えば、)二次電子、後方散乱電子、X線及び光学放射(カソードルミネッセンス)を含む、様々な種類の「励起された」放射が試料Sから放出されるように、試料Sと相互作用する。必要に応じて、これらの放射種類のうちの1つ以上は、例えば、複合シンチレータ/光電子増倍管又はEDX(エネルギー分散X線分光法)モジュールでありうる分析装置22を用いて、検出されることができる。このような場合には、画像は、基本的にSEMと同じ原則を使用して構成されることができる。しかしながら、代替的に又は付加的に、試料Sを横切り(通過し)、そこから出射し/放出され、続いて軸B’に沿って(ただし通常は、実質的にある程度の偏向/散乱を伴って)伝搬する電子を調査することができる。かかる伝送された電子束は、通常、様々な静電/磁気レンズ、偏向器、(非点収差補正器のような)補正器等を含む、結像系(投影レンズ)24に入射する。通常の(非走査)TEMモードにおいて、この結像系24は伝送された電子束を蛍光スクリーン26上に集束させることができ、必要に応じて、(矢印26’によって模式的に示されるように)軸B’の経路の外へ出るように、格納され/引き出されることができる。試料S(の一部)の画像(又はディフラクトグラム)は、結像系24によってスクリーン26上に形成され、これは、エンクロージャ2の壁の適切な部位に位置するビューポート28を介して視認されることができる。スクリーン26の引き込み機構は、例えば、事実上機械的及び/又は電気的でありえ、ここには図示されていない。
【0023】
スクリーン26上の画像を視認する代わりに、結像系24から離れる電子束の焦点深度が一般に非常に大きい(例えば、1メートルのオーダー)という事実を利用することができる。従って、例えば以下のような、様々な種類の分析機器が、スクリーン26の下流で使用されることができる。
‐ TEMカメラ30
カメラ30では、電子束は、静的画像(又はディフラクトグラム)を形成することができ、それはコントローラ/プロセッサ20によって処理されることができ、例えばフラットパネルディスプレイのような、表示装置(図示せず)上に表示されることができる。必要でないときに、カメラ30は、(矢印30’によって模式的に示されるように)軸B’の経路の外へ出るように、格納され/引き出されることができる。
‐ STEMカメラ32
カメラ32からの出力は、ビームBの試料S上での(X,Y)走査位置の関数として記録されることができ、X,Yの関数としてカメラ32からの出力の「マップ」である画像が構築されることができる。カメラ32は、カメラ30内に特徴的に存在するピクセルのマトリックスとは対照的に、例えば20mmの直径を有する単一のピクセルを含むことができる。一般に、カメラ32は、カメラ30(例えば、毎秒10画像)よりもはるかに高い取得レート(例えば、毎秒10ポイント)を有する。再び、必要ないときに、カメラ32は(矢印32’によって模式的に示されるように)軸B’の経路の外へ出るように、格納され/引き出されることができる(そのような格納は、例えば、ドーナツ型環状暗視野カメラ32の場合には必要ではない。このようなカメラでは、中心穴は、カメラが使用されていないときにビーム通過を可能にする)。
‐ カメラ30又は32を用いた撮像に代わるものとして、例えばEELSモジュールでありうる分光装置34を呼び出すこともできる。部材30、32及び34の順序/位置は厳密ではない点に留意する必要があり、多くの可能な変形が考えられる。例えば、分光装置34は、結像系24に組み込まれることもできる。
【0024】
コントローラ(コンピュータプロセッサ)20は、制御ライン(バス)20’を介して様々な図示されたコンポーネントに接続されていることに留意されたい。このコントローラ20は、動作の同期、設定値の供給、信号の処理、計算の実行及び表示装置(図示せず)上へのメッセージ/情報の表示などの様々な機能を提供することができる。言うまでもなく、(概略的に図示された)コントローラ20は、(部分的に)エンクロージャ2の内側又は外側にあってもよく、所望に応じて単一または複合構造を有することができる。
【0025】
当業者は、エンクロージャ2の内部が厳密な真空に保たれる必要がないことを、理解するであろう。例えば、いわゆる「環境TEM/STEM」で、所与のガスのバックグラウンド雰囲気は、意図的に導入され/エンクロージャ2の中で維持される。また、実際には、可能であれば、基本的に軸B’を抱持し、使用される電子ビームが通る(例えば1cmのオーダーの直径の)小さい管の形態をとるように、エンクロージャ2の容積を制限することが有利であることが当業者には理解されよう。ただし、エンクロージャ2はソース4、試料ホルダH、スクリーン26、カメラ30、カメラ32、分光装置34等のような構成を収容するために拡張してしまう。
【0026】
本発明の特定の状況において、照射器6は、(ビームBの伝搬方向に平行と考えられる)以下のものを含む。
‐ ソースレンズ(ガンレンズ)8
‐ コンデンサシステム10
ここで構成された照射器6はさらに以下のものを含む。
‐ 走査偏向器12
‐ 対物レンズ14
本発明に従って、ソースレンズ8は、以下のものを含む複合レンズである。
‐ 磁気レンズ8a(上記では副/上段ソースレンズとしても参照される)
真空エンクロージャ2の外部に配置されるが、その内部に磁界を生成する永久磁石16を含む。ここに示すように、この磁界は、例えば、NiFeのような(強磁性)材料を含むことができるヨーク18を使用して、軸B’の近傍に「導かれる」。
‐ 可変静電レンズ8b(上記では主/下段のソースレンズとしても参照される)
磁気レンズ8aと静電レンズ8bとの間に配置され、上段部材8aを離れるビームBが下流部材8bへの最適な進入のために位置的に調整されるようにする、任意の補正/アライメントビーム偏向器8cも示されている。
【0027】
上述したように、ソース4及び磁気レンズ8aは交換可能アセンブリ(interchangeable assembly)4’を形成するものと見なすことができ、このアセンブリ4’は、異なるアセンブリによって交換され、置換されることができる。このようなシナリオでは、磁気レンズ8aの特性は、選択された特定のアセンブリ4’に関係なく、静電レンズ8bから「下段の」照射器が各異なるアセンブリ4’にその都度特別に適合されなくてもよく、その代わりに一定の汎用の構造/構成を維持できるように、選択されたソース4の特性に調整することができる。
【0028】
ここで図2を参照する。これは図1の主題の一部の拡大された、より詳細な図を示す
より詳しくは、以下のコンポーネントを(縮尺に近似して)示す。
‐ ヨーク18及び円筒永久磁石16
この特定の例では、磁石16はSm-Coを含み、ヨークはNiFe合金を含む。粒子光学軸B’の近傍では、ヨーク18は内側にテーパ状になっており、焦点8dを有する比較的短い焦点距離の磁気レンズ8aを形成する。永久磁石が、真空エンクロージャ2の(壁の)外側にあることに留意されたい。磁石16の磁力線16’も図示されている。
‐ 比較的小さい放出領域(CFEG)ソース4
‐ 調整可能な正の電位(例えば、約0.05~2kV程度)で動作する静電レンズ8b
‐ 例えば約4.5kVの正の電位に保持される、引出器(extractor)9
‐ 例えば約4kVの正の電位に保持される、アノード11
‐ 例えば約7.5kVから60kv.まで漸次昇降する、より高い正の電圧に連続して保持されうる一連の加速電極13
磁気レンズ8aは、この構成で使用される場合、焦点8dがショットキーFEGの位置と(例えば、部材8bに対して)実質的に一致するように、ソース4と一致する。
図1
図2