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  • 特許-レーザー焼結用表面処理金属粉 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-24
(45)【発行日】2022-06-01
(54)【発明の名称】レーザー焼結用表面処理金属粉
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/17 20220101AFI20220525BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20220525BHJP
   B22F 1/14 20220101ALI20220525BHJP
   B22F 3/105 20060101ALI20220525BHJP
   B22F 10/28 20210101ALI20220525BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20220525BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20220525BHJP
   C22C 9/06 20060101ALI20220525BHJP
   C22C 18/00 20060101ALI20220525BHJP
   C22C 19/03 20060101ALI20220525BHJP
   C22C 19/07 20060101ALI20220525BHJP
   C22C 9/00 20060101ALN20220525BHJP
   C22C 9/01 20060101ALN20220525BHJP
   C22C 9/02 20060101ALN20220525BHJP
   C22C 9/04 20060101ALN20220525BHJP
   C22C 9/05 20060101ALN20220525BHJP
   C22C 9/10 20060101ALN20220525BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20220525BHJP
   C22C 38/04 20060101ALN20220525BHJP
【FI】
B22F1/17
B22F1/00 L
B22F1/14
B22F3/105
B22F10/28
B33Y10/00
B33Y70/00
C22C9/06
C22C18/00
C22C19/03 G
C22C19/03 Z
C22C19/07 G
C22C9/00
C22C9/01
C22C9/02
C22C9/04
C22C9/05
C22C9/10
C22C38/00 301Z
C22C38/00 304
C22C38/04
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019236756
(22)【出願日】2019-12-26
(62)【分割の表示】P 2018542958の分割
【原出願日】2017-09-29
(65)【公開番号】P2020073727
(43)【公開日】2020-05-14
【審査請求日】2020-09-28
(31)【優先権主張番号】P 2016190722
(32)【優先日】2016-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002332
【氏名又は名称】特許業務法人綾船国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100127133
【弁理士】
【氏名又は名称】小板橋 浩之
(72)【発明者】
【氏名】古澤 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 賢次
(72)【発明者】
【氏名】森山 晃正
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-340299(JP,A)
【文献】特開2009-270130(JP,A)
【文献】特開平09-145597(JP,A)
【文献】特開2010-069489(JP,A)
【文献】特開2002-086284(JP,A)
【文献】国際公開第2013/065349(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/207790(WO,A1)
【文献】特開平06-246477(JP,A)
【文献】特開昭59-053607(JP,A)
【文献】特開2011-214080(JP,A)
【文献】特開2004-210869(JP,A)
【文献】特開平04-269804(JP,A)
【文献】特開2001-143243(JP,A)
【文献】特開2006-161081(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00- 9/30
C22C 1/04- 1/05
C22C 33/02
B33Y 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
JIS Z8729(2004)に規定するL*a*b*表色系における、表面の明度L*が0以上40以下である、表面処理金属粉であって、
表面の色座標a*が10以下であり、
表面の色座標b*が10以下であり、
表面処理金属粉の金属が、銅または銅合金である、表面処理金属粉。
【請求項2】
白色板の物体色(明度L*=94.14、色座標a*=-0.90、色座標b*=0.24)を基準とした場合に、表面の色差ΔE * abが40以上である、請求項1に記載の表面処理金属粉。
【請求項3】
白色板の物体色(明度L*=94.14、色座標a*=-0.90、色座標b*=0.24)を基準とした場合に、表面の色差ΔLが-35以下である、請求項1~2のいずれかに記載の表面処理金属粉。
【請求項4】
白色板の物体色(明度L*=94.14、色座標a*=-0.90、色座標b*=0.24)を基準とした場合に、表面の色差Δaが20以下である、請求項1~3のいずれかに記載の表面処理金属粉。
【請求項5】
白色板の物体色(明度L*=94.14、色座標a*=-0.90、色座標b*=0.24)を基準とした場合に、表面の色差Δbが20以下である、請求項1~4のいずれかに記載の表面処理金属粉。
【請求項6】
D50が200μm以下である、請求項1~5の何れかに記載の表面処理金属粉。
【請求項7】
D50が100μm以下である、請求項6に記載の表面処理金属粉。
【請求項8】
D50が50μm以下である、請求項6に記載の表面処理金属粉。
【請求項9】
Ni、Zn、P、W、Sn、Bi、Co、As、Mo、Fe、Cr、V、Ti、Mn、Mg、Si、InおよびAlからなる群から選択される一種以上の元素を含む表面処理層を有する、請求項1~8の何れかに記載の表面処理金属粉。
【請求項10】
前記表面処理層がCuおよびAuの何れか一種以上を含む、請求項9に記載の表面処理金属粉。
【請求項11】
前記表面処理層が粗化めっき層を有する、請求項9または10に記載の表面処理金属粉。
【請求項12】
請求項1~11の何れかに記載の表面処理金属粉に対して、レーザー光を照射することによって、レーザー焼結して、焼結体を製造する工程、
を含む、レーザー焼結体の製造方法。
【請求項13】
レーザー光の波長が、200~11000nmの範囲にある、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー焼結用表面処理金属粉に関する。
【背景技術】
【0002】
金属AM (Additive Manufacturing, 3D printing)が脚光を浴びている。AMとは、材料を付加しながら立体形状を造形していく造形加工方法である。材料は、樹脂、金属、紙、石膏、食品、砂など様々な材料がある。金属AMでは、例えば粉末焼結積層造形法が行われる(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-102229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
金属AMにおいて、選択的レーザー溶融方式(SLM)に銅粉のような金属粉を用いた場合、レーザーが金属粉表面で反射されるため、レーザーの吸収が起こりにくい場合があり、焼結が起こりにくいという問題が生じる場合があった。
【0005】
したがって、本発明の目的は、金属AMに好適に使用できる、レーザー吸収性に優れた金属粉を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意研究の結果、以下の表面処理金属粉によって、上記目的を達成できることを見いだして、本発明に到達した。
【0007】
したがって、本発明は以下の(1)以下を含む。
(1)
表面の明度L*が0以上50以下である、表面処理金属粉。
(2)
表面の色座標a*が20以下である、(1)に記載の表面処理金属粉。
(3)
表面の色座標b*が20以下である、(1)に記載の表面処理金属粉。
(4)
白色板の物体色(明度L*=94.14、色座標a*=-0.90、色座標b*=0.24)を基準とした場合に、表面の色差ΔE * abが40以上である、表面処理金属粉。
(5)
白色板の物体色(明度L*=94.14、色座標a*=-0.90、色座標b*=0.24)を基準とした場合に、表面の色差ΔLが-35以下である、表面処理金属粉。
(6)
白色板の物体色(明度L*=94.14、色座標a*=-0.90、色座標b*=0.24)を基準とした場合に、表面の色差Δaが20以下である、表面処理金属粉。
(7)
白色板の物体色(明度L*=94.14、色座標a*=-0.90、色座標b*=0.24)を基準とした場合に、表面の色差Δbが20以下である、表面処理金属粉。
(8)
D50が200μm以下である、(1)~(7)の何れかに記載の表面処理金属粉。
(9)
D50が100μm以下である、(8)に記載の表面処理金属粉。
(10)
D50が50μm以下である、(8)に記載の表面処理金属粉。
(11)
Ni、Zn、P、W、Sn、Bi、Co、As、Mo、Fe、Cr、V、Ti、Mn、Mg、Si、InおよびAlからなる群から選択される一種以上の元素を含む表面処理層を有する、(1)~(10)の何れかに記載の表面処理金属粉。
(12)
前記表面処理層がCuおよびAuの何れか一種以上を含む、(11)に記載の表面処理金属粉。
(13)
前記表面処理層が粗化めっき層を有する、(11)または(12)に記載の表面処理金属粉。
(14)
前記表面処理金属粉の金属が、銅または銅合金である、(1)~(13)の何れかに記載の表面処理金属粉。
(15)
(1)~(14)の何れかに記載の表面処理金属粉に対して、レーザー光を照射することによって、レーザー焼結して、焼結体を製造する工程、
を含む、レーザー焼結体の製造方法。
(16)
レーザー光の波長が、200~11000nmの範囲にある、(15)に記載の方法。
(17)
金属粉を、粗化処理して、粗化処理された金属粉を得る工程、
を含む、レーザー焼結用表面処理金属粉を製造する方法。
(18)
粗化処理された金属粉を得る工程の後に、
粗化処理された金属粉を、スパッタリング処理する工程;
粗化処理された金属粉を、次亜塩素酸処理及び希硫酸処理する工程;又は
粗化処理された金属粉を、無電解めっき処理する工程、
を含む、(17)に記載の方法。
(19)
(17)~(18)の何れかの方法によって製造されたレーザー焼結用表面処理金属粉に対して、レーザー光を照射することによって、レーザー焼結して、焼結体を製造する工程、
を含む、レーザー焼結体の製造方法。
(20)
金属粉を、pH3~pH7の硫酸酸性水溶液中で、酸化させる工程、
を含む、レーザー焼結用表面処理金属粉を製造する方法。
(21)
硫酸酸性水溶液の温度が、30~50℃の範囲の温度である、(20)に記載の製造方法。
(22)
硫酸酸性水溶液中に、天然樹脂、多糖類、又はゼラチンのいずれかが添加されている、(20)又は(21)に記載の製造方法。
(23)
金属粉を、40~70℃の熱水中で、酸化させる工程、
を含む、レーザー焼結用表面処理金属粉を製造する方法。
(24)
熱水中に、天然樹脂、多糖類、又はゼラチンのいずれかが添加されている、(23)に記載の製造方法。
(25)
(20)~(24)の何れかの方法によって製造されたレーザー焼結用表面処理金属粉に対して、レーザー光を照射することによって、レーザー焼結して、焼結体を製造する工程、
を含む、レーザー焼結体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、金属AMに好適に使用できる、レーザー吸収性に優れた金属粉が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1はレーザーで生じた穴と高さの関係の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明を実施の態様をあげて詳細に説明する。本発明は以下にあげる具体的な実施の態様に限定されるものではない。
【0011】
[表面処理金属粉の製造]
本発明の表面処理金属粉は、金属粉を、粗化処理して、粗化処理された金属粉を得る工程、を含む方法によって製造することができる。好適な実施の態様において、粗化処理された金属粉を得る工程の後に、粗化処理された金属粉を、スパッタリング処理する工程;
粗化処理された金属粉を、次亜塩素酸処理及び希硫酸処理する工程;又は 粗化処理された金属粉を、無電解めっき処理する工程、の何れかの工程を設けることができる。
【0012】
あるいは、本発明の表面処理金属粉は、金属粉を、pH3~pH7の硫酸酸性水溶液中で、酸化させる工程、を含む方法によって製造することができる。あるいは、本発明の表面処理金属粉は、金属粉を、40~70℃の熱水中で、酸化させる工程、を含む方法によって製造することができる。
【0013】
[表面処理される金属粉の金属]
表面処理される金属粉の金属としては、金属であれば特に制限はなく、例えばCu、Ni、Co、Ti、Cr、Al、V、Mo、Fe、Si、Mg、Sn、Zn、Ag、Au、Pd、Pt、Os、Ir、Re、Ru及びこれらの合金をあげることができる。表面処理される金属粉の金属として、例えば、銅、銅合金、アルミ、アルミ合金、鉄、鉄合金、ニッケル、ニッケル合金、金、金合金、銀、銀合金、白金族、白金族合金、クロム、クロム合金、マグネシウム、マグネシウム合金、タングステン、タングステン合金、モリブデン、モリブデン合金、鉛、鉛合金、タンタル、タンタル合金、錫、錫合金、インジウム、インジウム合金、亜鉛、及び亜鉛合金等をあげることができる。その他の公知の金属材料を使用してもよい。JIS規格やCDA等で規格されている金属材料を使用してもよい。安価でかつ高い導電性を得る観点からは、銅又は銅合金が好ましい。
【0014】
銅としては、典型的には、JIS H0500やJIS H3100に規定されるリン脱酸銅(JIS H3100 合金番号C1201、C1220、C1221)、無酸素銅(JIS H3100 合金番号C1020)及びタフピッチ銅(JIS H3100 合金番号C1100)、電解銅箔などの95質量%以上、より好ましくは99.90質量%以上の純度の銅が挙げられる。Sn、Ag、Au、Co、Cr、Fe、In、Ni、P、Si、Te、Ti、Zn、B、MnおよびZrの中の一種以上を合計で0.001~4.0質量%含有する銅又は銅合金とすることもできる。
【0015】
銅合金としては、例えばCu-Sn-Zn合金、Cu-Zn合金、Cu-Ni-Sn合金、Cu-Ti合金、Cu-Fe合金、Cu-Ni-Si合金、Cu-Ag合金等をあげることができる。また、銅合金としてはCu―8Sn―0.5Zn、Cu-3Sn-0.05P等をあげることができる。
【0016】
銅合金としては、更に、リン青銅、コルソン合金、丹銅、黄銅、洋白、その他銅合金等が挙げられる。また、銅または銅合金としてはJIS H 3100~JIS H3510、JIS H 5120、JIS H 5121、JIS C 2520~JIS C 2801、JIS E 2101~JIS E 2102に規格されている銅または銅合金も、本発明に用いることができる。なお、本明細書においては特に断らない限りは、金属の規格を示すために挙げたJIS規格は2001年度版のJIS規格を意味する。
【0017】
リン青銅は典型的には、リン青銅とは銅を主成分としてSn及びこれよりも少ない質量のPを含有する銅合金のことを指す。一例として、りん青銅はSnを3.5~11質量%、Pを0.03~0.35質量%含有し、残部銅及び不可避的不純物からなる組成を有する。リン青銅は、Ni、Zn等の元素を合計で10.0質量%以下含有しても良い。
【0018】
コルソン合金は典型的にはSiと化合物を形成する元素(例えば、Ni、Co及びCrの何れか一種以上)が添加され、母相中に第二相粒子として析出する銅合金のことをいう。一例として、コルソン合金はNiを0.5~4.0質量%、Siを0.1~1.3質量%含有し、残部銅及び不可避的不純物から構成される組成を有する。別の一例として、コルソン合金はNiを0.5~4.0質量%、Siを0.1~1.3質量%、Crを0.03~0.5質量%含有し、残部銅及び不可避的不純物から構成される組成を有する。更に別の一例として、コルソン合金はNiを0.5~4.0質量%、Siを0.1~1.3質量%、Coを0.5~2.5質量%含有し、残部銅及び不可避的不純物から構成される組成を有する。更に別の一例として、コルソン合金はNiを0.5~4.0質量%、Siを0.1~1.3質量%、Coを0.5~2.5質量%、Crを0.03~0.5質量%含有し、残部銅及び不可避的不純物から構成される組成を有する。更に別の一例として、コルソン合金はSiを0.2~1.3質量%、Coを0.5~2.5質量%含有し、残部銅及び不可避的不純物から構成される組成を有する。コルソン合金には随意にその他の元素(例えば、Mg、Sn、B、Ti、Mn、Ag、P、Zn、As、Sb、Be、Zr、Al及びFe)が添加されてもよい。これらその他の元素は総計で5.0質量%程度まで添加するのが一般的である。例えば、更に別の一例として、コルソン合金はNiを0.5~4.0質量%、Siを0.1~1.3質量%、Snを0.01~2.0質量%、Znを0.01~2.0質量%含有し、残部銅及び不可避的不純物から構成される組成を有する。
【0019】
本発明において、丹銅とは、銅と亜鉛との合金であり亜鉛を1~20質量%、より好ましくは亜鉛を1~10質量%含有する銅合金のことをいう。また、丹銅は錫を0.1~1.0質量%含んでも良い。
【0020】
本発明において、黄銅とは、銅と亜鉛との合金で、特に亜鉛を20質量%以上含有する銅合金のことをいう。亜鉛の上限は特には限定されないが60質量%以下、好ましくは45質量%以下、あるいは40質量%以下である。
【0021】
本発明において、洋白とは銅を主成分として、銅を60質量%から75質量%、ニッケルを8.5質量%から19.5質量%、亜鉛を10質量%から30質量%含有する銅合金のことをいう。
【0022】
本発明において、その他銅合金とはZn、Sn、Ni、Mg、Fe、Si、P、Co、Mn、Zr、Ag、B、CrおよびTiの内一種または二種以上を合計で8.0%以下含み、残部が不可避的不純物と銅からなる銅合金をいう。
【0023】
アルミ及びアルミ合金としては、例えばAlを40質量%以上含むあるいは、80質量%以上含む、あるいは99質量%以上含むものを使用することができる。例えば、JIS H 4000~JIS H 4180、JIS H 5202、JIS H 5303あるいはJIS Z 3232~JIS Z 3263に規格されているアルミ及びアルミ合金を用いることができる。例えば、JIS H 4000に規格されているアルミニウムの合金番号1085、1080、1070、1050、1100、1200、1N00、1N30に代表される、Al:99.00質量%以上のアルミニウム又はその合金等を用いることができる。
【0024】
ニッケル及びニッケル合金としては、例えばNiを40質量%以上含むあるいは、80質量%以上含む、あるいは99.0質量%以上含むものを使用することができる。例えば、JIS H 4541~JIS H 4554、JIS H 5701またはJIS G 7604~ JIS G 7605、JIS C 2531に規格されているニッケルまたはニッケル合金を用いることができる。また、例えば、JIS H4551に記載の合金番号NW2200、NW2201に代表される、Ni:99.0質量%以上のニッケル又はその合金等を用いることができる。
【0025】
鉄合金としては、例えば軟鋼、炭素鋼、鉄ニッケル合金、鋼、ステンレス鋼等を用いることができる。例えばJIS G 3101~JIS G 7603、JIS C 2502~JIS C 8380、JIS A 5504~JIS A 6514またはJIS E 1101~JIS E 5402-1に記載されている鉄または鉄合金を用いることができる。軟鋼は、炭素が0.15質量%以下の軟鋼を用いることができ、JIS G3141に記載の軟鋼等を用いることができる。鉄ニッケル合金は、Niを35~85質量%含み、残部がFe及び不可避不純物からなり、具体的には、JIS C2531に記載の鉄ニッケル合金等を用いることができる。
【0026】
亜鉛及び亜鉛合金としては、例えばZnを40質量%以上含むあるいは、80質量%以上含む、あるいは99.0質量%以上含むものを使用することができる。例えば、JIS H 2107~JIS H 5301に記載されている亜鉛または亜鉛合金を使用することができる。
【0027】
鉛及び鉛合金としては、例えばPbを40質量%以上含むあるいは、80質量%以上含む、あるいは99.0質量%以上含むものを使用することができる。例えば、JIS H 4301~JIS H 4312、またはJIS H 5601に規格されている鉛または鉛合金を用いることができる。
【0028】
マグネシウム及びマグネシウム合金としては、例えばMgを40質量%以上含むあるいは、80質量%以上含む、あるいは99.0質量%以上含むものを使用することができる。例えば、JIS H 4201~JIS H 4204、JIS H 5203~JIS H 5303、JIS H 6125に規格されているマグネシウム及びマグネシウム合金を用いることができる。
【0029】
タングステン及びタングステン合金としては、例えばWを40質量%以上含むあるいは、80質量%以上含む、あるいは99.0質量%以上含むものを使用することができる。例えば、JIS H 4463に規格されているタングステン及びタングステン合金を用いることができる。
【0030】
モリブデン及びモリブデン合金としては、例えばMoを40質量%以上含むあるいは、80質量%以上含む、あるいは99.0質量%以上含むものを使用することができる。
【0031】
タンタル及びタンタル合金としては、例えばTaを40質量%以上含むあるいは、80質量%以上含む、あるいは99.0質量%以上含むものを使用することができる。例えば、JIS H 4701に規格されているタンタル及びタンタル合金を用いることができる。
【0032】
錫及び錫合金としては、例えばSnを40質量%以上含むあるいは、80質量%以上含む、あるいは99.0質量%以上含むものを使用することができる。例えば、JIS H 5401に規格されている錫及び錫合金を用いることができる。
【0033】
インジウム及びインジウム合金としては、例えばInを40質量%以上含むあるいは、80質量%以上含む、あるいは99.0質量%以上含むものを使用することができる。
【0034】
クロム及びクロム合金としては、例えばCrを40質量%以上含むあるいは、80質量%以上含む、あるいは99.0質量%以上含むものを使用することができる。
【0035】
銀及び銀合金としては、例えばAgを40質量%以上含むあるいは、80質量%以上含む、あるいは99.0質量%以上含むものを使用することができる。
【0036】
金及び金合金としては、例えばAuを40質量%以上含むあるいは、80質量%以上含む、あるいは99.0質量%以上含むものを使用することができる。
【0037】
白金族とはルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金の総称である。白金族及び白金族合金としては、例えばPt、Os、Ru、Pd、Ir及びRhの元素群から選択される少なくとも1種以上の元素を40質量%以上含むあるいは、80質量%以上含む、あるいは99.0質量%以上含むものを使用することができる。
【0038】
[表面処理される金属粉]
表面処理される金属粉は、公知の手段で調製した金属粉を使用することができ、例えばガスアトマイズ法やプラズマアトマイズ法等のアトマイズ法、電解法、不均化反応等の化学反応を利用して生成する方法によって製造された金属粉を使用することができる。
【0039】
[表面処理される金属粉のD50]
好適な実施の態様において、表面処理される金属粉は、例えば200μm以下、100μm以下、50μm以下のD50とすることができ、例えば0.1~200μm、1~200μm、10~200μmの範囲のD50とすることができる。
【0040】
[粗化処理]
金属粉に対して行う粗化処理として、公知の手段による粗化処理を行うことができるが、好適な粗化処理として、希硝酸溶液による粗化処理、希硫酸・過酸化水素水溶液による粗化処理をあげることができる。
【0041】
希硝酸溶液による粗化処理は、例えば、1~20体積濃度%の硝酸水溶液に、5℃~80℃の範囲の温度で、1秒~120秒間、浸漬することによって行うことができる。
【0042】
希硫酸・過酸化水素水溶液による粗化処理は、例えば、10g/L~200g/Lの硫酸と10g/L~100g/Lの過酸化水素を含む水溶液に、5℃~80℃の範囲の温度で、10秒~600秒間、浸漬することによって行うことができる。
【0043】
[スパッタリング処理]
好適な実施の態様において、粗化処理の後に、スパッタリング処理を行うことができる。または、粗化処理を行わないで、金属粉に対してスパッタリング処理を行うことができる。スパッタリング処理は、公知の条件によって行うことができ、例えば、出力:DC50W、アルゴン圧力:0.1~0.3Paの条件下で行うことができる。
【0044】
スパッタリングに使用するスパッタリングターゲットの組成としては、例えば、Ni、Zn、P、W、Sn、Bi、Co、As、Mo、Fe、Cr、V、Ti、Mn、Mg、Si、InおよびAlからなる群から選択される1種以上の元素を含有する組成を使用できる。好適な実施の態様において、例えば次の元素の組み合わせを含む合金の組成とすることができる: Zn-Ni、Co-Cu、Cu-Ni、Cu-Co-Ni、Cu-Ni-P、Co-Fe-Ni-Cu、Ni-W。
【0045】
[無電解めっき処理]
好適な実施の態様において、粗化処理の後に、無電解めっき処理を行うことができる。または、粗化処理を行わないで、金属粉に対して無電解めっき処理を行うことができる。無電解めっき処理は、公知の条件によって行うことができ、例えば、pH3~12、温度70~95℃、めっき時間1~7200秒の条件下で行うことができる。無電解めっき処理に使用するめっき液としては、例えば、Ni、Co、Pd、P、B、Wを含むめっき液をあげることができる。
【0046】
[次亜塩素酸処理及び希硫酸処理]
好適な実施の態様において、粗化処理の後に、次亜塩素酸処理及び希硫酸処理を行うことができる。または、粗化処理を行わないで、金属粉に対して次亜塩素酸処理及び希硫酸処理を行うことができる。次亜塩素酸処理及び希硫酸処理は、次亜塩素酸処理の後に希硫酸処理を行うことによって実施する。次亜塩素酸処理は、例えば、次亜塩素酸ナトリウム、水酸化ナトリウム及びりん酸ナトリウムを含む水溶液に、50℃~100℃の温度で、0.1分~10分間浸漬することによって、行うことができる。希硫酸処理は、例えば、1質量%~20質量%の硫酸水溶液に、5~60℃の温度で、0.1分~10分間浸漬することによって、行うことができる。
【0047】
[硫酸酸性水溶液中での酸化]
本発明の表面処理金属粉は、金属粉を、pH3~pH7の硫酸酸性水溶液中で、酸化させる工程、を含む方法によって製造することができる。好ましくは硫酸酸性水溶液中で、公知の手段によって攪拌又は超音波照射しながら混合することができる。硫酸酸性水溶液中での処理は、例えば0.5~8時間、あるいは2~4時間行うことができる。硫酸酸性水溶液の温度は、例えば30~50℃の範囲、好ましくは35~45℃の範囲の温度とすることができる。硫酸酸性水溶液は、水に硫酸を添加してpH調整して調製することができる。調整されるpH範囲は、例えばpH3~pH7、好ましくはpH4~pH7とすることができる。pHが3を下回ると、生成した酸化層が酸に溶解する可能性がある。本発明ではこの酸化処理によって、導体材料としては通常は好まれない酸化銅層を形成している。
【0048】
好適な実施の態様において、硫酸酸性水溶液中に、天然樹脂、多糖類、又はゼラチンのいずれかを添加することができる。天然樹脂として、例えばアラビアゴムをあげることができる。天然樹脂、多糖類、又はゼラチンの添加量は、金属粉の質量に対して、例えば0.1~10質量%、好ましくは0.5~2質量%の質量となるように添加することができる。
【0049】
硫酸酸性水溶液で酸化させた金属粉は、公知の手段によって硫酸酸性水溶液を含むスラリーのなかから分離して、その後の処理に供することができる。所望により、硫酸酸性水溶液を含むスラリーから分離後に水洗等の手段によって表面に残存して酸を取り除いた後に、その後の処理に供することができる。酸化させた金属粉は、所望により乾燥してもよく、解砕してもよい。乾燥は、公知の手段で行うことができ、例えば窒素、大気などの中で、例えば60~80℃の温度で、例えば0.5~2時間の乾燥を行ってもよい。
【0050】
[熱水中での酸化]
本発明の表面処理金属粉は、金属粉を、40~70℃の熱水中で、酸化させる工程、を含む方法によって製造することができる。好ましくは熱水中で、公知の手段によって攪拌又は超音波照射しながら混合することができる。熱水中での処理は、例えば0.5~8時間、あるいは2~4時間行うことができる。熱水の温度は、例えば40~70℃の範囲、好ましくは55~65℃の範囲の温度とすることができる。熱水は、大気中で蒸気温度に加熱した際のpHであれば、特にpH調整することは必要ではないが、例えばpH6.0~pH7.0の範囲とすることができる。本発明ではこの酸化処理によって、導体材料としては通常は好まれない酸化銅層を形成している。
【0051】
好適な実施の態様において、熱水中に、天然樹脂、多糖類、又はゼラチンのいずれかを添加することができる。天然樹脂として、例えばアラビアゴムをあげることができる。天然樹脂、多糖類、又はゼラチンの添加量は、金属粉の質量に対して、例えば0.1~10質量%、好ましくは0.5~2質量%の質量となるように添加することができる。
【0052】
熱水で酸化させた金属粉は、公知の手段によって熱水を含むスラリーのなかから分離して、その後の処理に供することができる。酸化させた金属粉は、所望により乾燥してもよく、解砕してもよい。乾燥は、公知の手段で行うことができ、例えば窒素、大気などの中で、例えば60~80℃の温度で、例えば0.5~2時間の乾燥を行ってもよい。
【0053】
[酸化層の形成]
本発明では上記の酸化処理によって、導体材料としては通常は好まれない酸化銅層を形成している。この酸化銅層は、上述の手段のほか、大気雰囲気等、酸素存在下での加熱によって形成してもよい。
【0054】
[表面処理金属粉の色特性]
表面処理金属粉は、上述の処理によって、その表面に以下の色特性を備えたものとなる。この特性は、実施例において開示した通り、JIS Z8730に準拠して以下のように測定できる。白色板(光源をD65とし、10度視野としたときに、当該白色板のX101010表色系(JIS Z8701 1999)の三刺激値はX10=80.7、Y10=85.6、Z10=91.5であり、L***表色系での、当該白色板の物体色はL*=94.14、a*=-0.90、b*=0.24である)の物体色を基準とする色とした場合の金属粉表面の色差(ΔL(ΔL*と同じ)、Δa(Δa*と同じ)、Δb(Δb*と同じ)、ΔE(ΔE*abと同じ))及び、金属粉の物体色であるCIE明度L*、色座標a*、色座標b*を測定した。ここで、ΔLとはJIS Z8729(2004)に規定するL***表色系における二つの物体色のCIE明度L*の差である。また、ΔaとはJIS Z8729(2004)に規定するL***表色系における二つの物体色の色座標a*の差である。また、ΔbとはJIS Z8729(2004)に規定するL***表色系における二つの物体色の色座標b*の差である。なお、前述の色差計では、白色板およびライトトラップ(light trap)で測定孔を覆って色差計を校正する。ここで、色差(ΔE)は、黒/白/赤/緑/黄/青を加味し、L***表色系を用いて示される総合指標であり、ΔL:白黒、Δa:赤緑、Δb:黄青として、下記式で表される。なお、色差計とは反対側の金属粉の下の物体の色差が影響を及ぼす場合には、金属粉の敷き詰める厚みを1mmよりも大きな厚みとすることが好ましい。
【数1】
【0055】
なお、金属粉で色差計が汚染される等の問題が生じる場合には、例えば透明なポリエチレン等の樹脂製の袋(厚み5~50μm)に金属粉を置き、当該樹脂製の袋越しに上記の色差を測定しても良い。なお、前述の樹脂製の袋の厚みは小さい方がよく、例えば50μm以下、例えば、40μm以下、例えば30μm以下、例えば10μm以下である。
【0056】
好適な実施の態様において、表面の明度L*は、例えば0~50の範囲、1~45の範囲、3~40の範囲、4~35の範囲、5~30の範囲、5~28の範囲、6~25の範囲とできる。
【0057】
好適な実施の態様において、表面の色座標a*は、例えば20以下、17以下、-15以上15以下の範囲、-10以上10以下の範囲、-9以上9以下の範囲、-8以上8以下の範囲、-6以上6以下の範囲とできる。
【0058】
好適な実施の態様において、表面の色座標b*は、例えば20以下、17以下、-15~15の範囲、-10以上10以下の範囲、-9以上9以下の範囲、-8以上8以下の範囲、-6以上6以下の範囲とできる。
【0059】
好適な実施の態様において、白色板の物体色(明度L*=94.14、色座標a*=-0.90、色座標b*=0.24)を基準とした場合に、表面の色差ΔE * abは、例えば40以上、43以上、45以上、47以上、48以上、50以上、52以上、53以上、53以上100以下の範囲、55以上98以下の範囲とできる。なお、ΔE * abの上限は特に限定する必要は無いが、典型的には100以下、典型的には98以下、典型的には95以下、典型的には94以下である。


【0060】
好適な実施の態様において、白色板の物体色(明度L*=94.14、色座標a*=-0.90、色座標b*=0.24)を基準とした場合に、表面の色差ΔLは、例えば-35以下、-38以下、-40以下、-42以下、-45以下、-48以下、-50以下、-53以下、-100以上-53以下の範囲、-98以上-52以下の範囲とできる。なお、表面の色差ΔLの下限は特に限定する必要は無いが、典型的には-100以上、典型的には-98以上、典型的には-95以上である。
【0061】
好適な実施の態様において、白色板の物体色(明度L*=94.14、色座標a*=-0.90、色座標b*=0.24)を基準とした場合に、表面の色差Δaは、例えば20以下、17以下、-15以上15以下の範囲、-10以上10以下の範囲、-9以上9以下の範囲、-8以上8以下の範囲、-6以上6以下の範囲とできる。
【0062】
好適な実施の態様において、白色板の物体色(明度L*=94.14、色座標a*=-0.90、色座標b*=0.24)を基準とした場合に、表面の色差Δbは、例えば20以下、17以下、-15以上15以下の範囲、-10以上10以下の範囲、-9以上9以下の範囲、-8以上8以下の範囲、-6以上6以下の範囲とできる。
【0063】
[レーザー吸収性]
上記色特性を備えている結果、本発明の表面処理金属粉は、良好なレーザー吸収性を備えたものとなっている。レーザー吸収性は、実施例に開示の手段によって評価することができる。本発明の表面処理金属粉に対して、レーザー光を照射することによって、レーザー焼結して、焼結体を、好適に製造することができる。
【0064】
[レーザー波長]
好適な実施の態様において、レーザー光の波長は、200~11000nmの範囲、好ましくは250~10600nmの範囲、好ましくは350~1100nmの範囲、好ましくは400~1070nmの範囲、好ましくは400~500nmの範囲および1000~1070nmの範囲のいずれか一つまたは二つとすることができる。
【0065】
[表面処理金属粉のD50]
好適な実施の態様において、表面処理金属粉D50は、表面処理される金属粉のD50を反映したものとなり、例えば200μm以下、100μm以下、50μm以下のD50とすることができ、例えば0.1~200μm、1~200μm、10~200μmの範囲のD50とすることができる。
【実施例
【0066】
以下に実施例をあげて、本発明を詳細に説明する。本発明は、以下に例示する実施例に限定されるものではない。
【0067】
[例1:実施例1~7、9、比較例4]
所定サイズのアトマイズ粉(金属粉)を、10vol%の希硝酸に所定温度、所定時間浸漬した後、吸引濾過で回収し、窒素中で70℃1時間乾燥させた。金属粉の成分はそれぞれ表1に記載の通りである。このようにして金属粉に対して粗化処理を行った。
なお、浸漬の間、スターラ―による撹拌を行った(スターラ―の回転速度:120rpm)。この撹拌は、以下の何れの浸漬の操作においても行った。
得られた粉体に、特許3620842号に記載のバレルスパッタ法で、粉体表面に10nmの厚みで各表面処理層を形成した(表面処理1)。このようにして粗化処理された金属粉に対して表面処理1を行って、実施例1~7、9及び比較例4の表面処理粉体(表面処理金属粉)を得た。
スパッタリングで使用したターゲットの組成はそれぞれ表1に記載した表面処理層の組成と同じ組成とした。また、表1の「表面処理1」において、数字は表面処理層中の各元素のwt%を示し、数字のない元素のみの記載の箇所は、不純物を除き、記載の元素のみを含む金属単体を意味する。数字の記載のない元素の濃度は99.5wt%以上であった。その後、粉体(表面処理金属粉)の光学特性を後述のように測定した。
【0068】
[表面処理金属粉表面の色差(L*、a*、b*、ΔL、Δa、Δb、ΔE)の測定]
得られた表面処理粉体(表面処理金属粉)を透明なガラス製の板(ペトリ皿)の上に、色差計の測定孔を覆うのに十分な広さの範囲で厚み1mm以上敷き詰めた後、HunterLab社製色差計MiniScan XE Plusを使用して、JISZ8730に準拠して、以下のように各値を測定した。白色板(光源をD65とし、10度視野としたときに、当該白色板のX101010表色系(JIS Z8701 1999)の三刺激値はX10=80.7、Y10=85.6、Z10=91.5であり、L***表色系での、当該白色板の物体色はL*=94.14、a*=-0.90、b*=0.24である)の物体色を基準とする色とした場合の金属粉表面の色差(ΔL(ΔL*と同じ)、Δa(Δa*と同じ)、Δb(Δb*と同じ)、ΔE(ΔE*abと同じ))及び、金属粉の物体色であるCIE明度L*、色座標a*、色座標b*を測定した。ここで、ΔLとはJIS Z8729(2004)に規定するL***表色系における二つの物体色のCIE明度L*の差である。また、ΔaとはJIS Z8729(2004)に規定するL***表色系における二つの物体色の色座標a*の差である。また、ΔbとはJIS Z8729(2004)に規定するL***表色系における二つの物体色の色座標b*の差である。なお、前述の色差計では、白色板およびライトトラップ(light trap)で測定孔を覆って色差計を校正する。ここで、色差(ΔE)は、黒/白/赤/緑/黄/青を加味し、L***表色系を用いて示される総合指標であり、ΔL:白黒、Δa:赤緑、Δb:黄青として、下記式で表される。なお、色差計とは反対側の金属粉の下の物体の色差が影響を及ぼす場合には、金属粉の敷き詰める厚みを1mmよりも大きな厚みとすることが好ましい。
【数2】
【0069】
[レーザー吸収性の評価]
レーザー吸収性は、以下のように評価した。
ラボネクスト株式会社の粉末成形機(ラボプレスLP-200)と粉末形成用金型(ラボダイス)を用いて金属粉を直径10mm×厚み0.5~5mmの円盤状のサンプルを作成した。
その後、YAGレーザー加工機を用いて、レーザー吸収性を評価した。
【0070】
(レーザー照射条件)
・レーザー波長:1064nm
・レーザーのビーム径:50μm
・出力:400W
・パルスエネルギー:3mJ
・パルス幅:7.5μ秒
・加工方式:バーストモード
・ショット数:1ショット
【0071】
レーザーを照射した後に、サンプルに生じた穴の深さをレーザー顕微鏡で測定を行った。穴の深さの測定は以下のように行った。
前述の穴を設けたサンプルの表面についてレーザー顕微鏡(オリンパス製 レーザー顕微鏡 LEXT OLS 4000)を用いて、以下の測定条件で測定した。
【0072】
<測定条件>
カットオフ:無
基準長さ:257.9μm
基準面積:66524μm2
測定環境温度:23~25℃
【0073】
なお、オリンパス製 レーザー顕微鏡 LEXT OLS 4000について以下の設定を行った。「ラインデータを補正する」の設定について、測定パネルの(補正処理)ボタンをクリックし、補正処理の種類として「傾き補正」を選択した。また、「ラインデータのノイズを除去する」の設定について測定パネルの(ノイズ除去)ボタンをクリックし、除去する範囲として「全範囲」を選択した。
【0074】
オリンパス製レーザー顕微鏡 LEXT OLS 4000で、前述ので得られた測定データ解析のために用いられる解析ソフト(オリンパス製 レーザー顕微鏡 LEXT OLS 4000に付属の解析ソフトver.2.2.4.1)を用いて3D画像を作成した。
【0075】
当該3D画像としては、前記サンプル表面をレーザー顕微鏡で測定して得られた各X軸方向位置(μm)、Y軸方向位置(μm)における高さ(μm)の測定データに基づきX軸方向位置(μm)、Y軸方向位置(μm)、Z軸:高さ(μm)の3D画像を作成した。
そして、X軸方向に平行な方向において、穴の深さが最も深くなる箇所の穴の深さを、当該サンプルの穴の深さとした。
【0076】
なお、穴の深さは以下のように定義した。
穴の最も低い位置の両脇に存在する最も高い位置1および最も高い位置2を特定する。
そして、高さh1、高さh2を以下の式で算出する。
高さh1=最も高い位置1の高さ-最も低い位置の高さ
高さh2=最も高い位置2の高さ-最も低い位置の高さ
そして、高さh1と高さh2の算術平均値を穴の深さとした。
Y軸方向に沿って、下記の穴の深さの測定を行い、もっとも値が大きい穴の深さの値を、当該穴についての穴の深さとした。
各金属粉について3つの円盤状のサンプルを作成し、3つのサンプルの穴の深さの算術平均値をサンプルに生じた穴の深さの値とした。レーザーで生じた穴と高さの関係の説明図を、図1に示す。
なお、上述の穴の深さの測定を行った後、円盤状サンプルの厚み方向に平行で、円盤状サンプルの表面に垂直で、レーザーで生じた穴の一番幅の広い個所を横切る断面においてレーザーで生じた穴付近の金属粉の焼結の有無を確認した。焼結が生じている場合には、レーザーで生じた穴の最も高さが低い個所からの当該焼結が生じている厚み(円盤状サンプルの厚み方向に平行な方向の厚み)を、上述の穴の深さに合計したものを穴の深さとした。実施例1~17については金属粉の焼結が見られた。比較例1~5には金属粉の焼結が見られなかった。
【0077】
その後、以下のようにレーザー吸収性を判定した
レーザー吸収性
×:穴の深さ 55μm未満
○:穴の深さ 55μm以上60μm未満
○○:穴の深さ 60μm以上70μm未満
◎:穴の深さ 70μm以上80μm未満
◎◎:穴の深さ 80μm以上
【0078】
[D50の評価]
表面処理前の金属粉と、得られた表面処理粉体(表面処理金属粉)のD50を、レーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所製SALD-2100)を用いて測定した。なお、前述のD50とは金属粉の粒径D50(メジアン径)を意味する。
なお、表面処理前の金属粉と、得られた表面処理粉体(表面処理金属粉)のD50は同じ値であった。
【0079】
[実施例8]
電解法で作製した銅粉に対して、実施例1と同様に、粗化処理した後に、バレルスパッタ法で表面処理層を10nm形成し(表面処理1)、表面処理粉体(表面処理金属粉)を得た。
【0080】
[実施例10、11、16、比較例3、5]
所定サイズのアトマイズ粉に対して、粗化処理することなく、上記バレルスパッタ法で表面処理層を10nm形成し(表面処理1)、表面処理粉体(表面処理金属粉)を得た。
【0081】
[実施例12]
所定サイズのアトマイズ粉(銅粉)を、所定濃度の硫酸と過酸化水素の混合水溶液に所定条件浸漬することによって粗化処理を行った後に、吸引濾過で粉体を回収し、上記バレルスパッタ法で表面処理層を10nm形成し(表面処理1)、表面処理粉体(表面処理金属粉)を得た。
【0082】
[実施例13]
アトマイズ銅粉を、所定濃度の硫酸と過酸化水素の混合水溶液に所定条件浸漬することによって粗化処理を行った後に、吸引濾過で粉体を回収し、次亜塩素酸ナトリウム水溶液に浸漬し、粉体を吸引濾過で回収し、さらに希硫酸に浸漬して、表面処理1を行った。その後に吸引濾過によって、表面処理粉体(表面処理金属粉)を得た。このようにして、粗化処理と、表面処理1(次亜塩素酸ナトリウム水溶液と希硫酸の二段階浸漬処理)を行った。
【0083】
[実施例14]
アトマイズ銅粉を、硫酸、過酸化水素、トリアゾール、亜リン酸からなる水溶液に浸漬することによって粗化処理を行った後に、吸引濾過で回収し、表面処理紛体(表面処理金属粉)を得た。
【0084】
[実施例15]
アトマイズ法で作製した銅粉に対して、実施例1と同様に、粗化処理した後に、以下の条件で無電解めっきを行って(表面処理1)、表面処理粉体(表面処理金属粉)を得た。
無電解Ni-Pめっき
メッキ液組成
硫酸ニッケル 30g/L
次亜リン酸ソーダ 10 g/L
酢酸ソーダ 10 g/L
残部水
pH 5
温度 90℃
浸漬時間1分
P含量 8wt%
Ni-Pめっきの厚み:250nm
なお、本明細書において、メッキ液等の表面処理液に関して、残部が記載されていないものは特別に記載しない場合は残部は水である。すなわち、特別に記載しない場合は表面処理液は水溶液である。
【0085】
[実施例17]
電解法で作製した銅粉に対して、実施例1と同様に、粗化処理した後に、以下の条件で無電解めっきを行って(表面処理1)、表面処理粉体(表面処理金属粉)を得た。
無電解Ni-W-Pめっき
硫酸ニッケル 20 g/L
タングステン酸ソーダ 50 g/L
次亜リン酸ソーダ 20 g/L
クエン酸ソーダ 30 g/L
pH 10
温度 90℃
表面処理層中の各元素の濃度
Ni濃度 80wt%
W濃度 12wt%
P濃度 8wt%
【0086】
[比較例1、2]
所定組成、サイズの粉体をアトマイズ法で作製した。
【0087】
[実施例18]
アトマイズ銅粉100gを純水1Lに加え、希硫酸でpHを調整し(40℃、pH4.5)、3時間撹拌し、吸引濾過で回収し、窒素中で70℃1時間乾燥させ、解砕した。
【0088】
[実施例19]
アトマイズ銅粉100g、アラビアゴム1gを純水1Lに加え、希硫酸でpHを調整し(40℃、pH4.5)、3時間撹拌し、吸引濾過で回収し、窒素中で70℃1時間乾燥させ、解砕した。
【0089】
[実施例20]
アトマイズ銅粉100gを純水1Lに加え、60℃に加温し、3時間撹拌した。吸引濾過で回収し、窒素中で70℃1時間乾燥させ、解砕した。
【0090】
[実施例21]
アトマイズ銅粉100g、アラビアゴム1gを純水1Lに加え、60℃に加温し、3時間撹拌した。吸引濾過で回収し、窒素中で70℃1時間乾燥させ、解砕した。
【0091】
[結果]
上記の実施例及び比較例の条件と結果を、次の表1にまとめて示す。表1中、D50は表面処理前の金属粉のD50[μm]を示す。なお、表面処理後の金属粉のD50[μm]の値は、表面処理前の金属粉のD50[μm]と同じ値となった。
【0092】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明は、金属AMに好適に使用できる、レーザー吸収性に優れた金属粉を提供する。本発明は産業上有用な発明である。
図1