(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-24
(45)【発行日】2022-06-01
(54)【発明の名称】撚線導体、及び撚線導体の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01B 5/08 20060101AFI20220525BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20220525BHJP
【FI】
H01B5/08
H01B13/00 501Z
(21)【出願番号】P 2020126255
(22)【出願日】2020-07-27
(62)【分割の表示】P 2017551934の分割
【原出願日】2016-11-17
【審査請求日】2020-08-19
(31)【優先権主張番号】P 2015224565
(32)【優先日】2015-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391045897
【氏名又は名称】古河AS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121603
【氏名又は名称】永田 元昭
(74)【代理人】
【識別番号】100141656
【氏名又は名称】大田 英司
(74)【代理人】
【識別番号】100182888
【氏名又は名称】西村 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100067747
【氏名又は名称】永田 良昭
(72)【発明者】
【氏名】吉丸 雅浩
(72)【発明者】
【氏名】大菅 秀幸
【審査官】須藤 竜也
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-182000(JP,A)
【文献】国際公開第2009/054457(WO,A1)
【文献】登録実用新案第3014931(JP,U)
【文献】特開平07-282633(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 5/00-5/16
H01B 13/02-13/20
D07B 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心の1本のアルミニウム材料製の素線と、前記中心から同心状に配置された所定本数の前記素線とが撚り合わされた撚線導体であって、
前記素線は、軟化処理が施された軟化処理素線で構成され、
前記中心から同心状に6本及び12本配置され、
撚り合せピッチが、導体直径の12.1倍以上20.7倍以下であ
る内層部と、
該内層部の外側に同心状に配置された18本の前記素線によって最外層とで構成され、
前記最外層が撚り合わされる外層撚り合せピッチが、前記導体直径の6.8倍以上22.7倍以下であるとともに、
前記最外層が構成された状態における前記内層部の内層撚り合せピッチが、下記数式(1)で定まる数である
撚線導体。
【数1】
ただし、前記数式(1)中のP1は、最外層を構成する前の内層撚り合せピッチをあらわし、P2は、外層撚り合せピッチをあらわし、P3は、最外層を構成した状態の内層撚り合せピッチをあらわす。
【請求項2】
前記素線のうち、前記中心から同心状に6本配置された第1素線と、前記中心から同心状に12本配置された第2素線との撚り合せピッチが等しい
請求項1に記載の撚線導体。
【請求項3】
前記中心から同心状に6本配置された前記素線と、前記中心から同心状に12本配置された前記素線と、該内層部の外側に同心状に配置された18本の前記素線との撚り合せピッチとが等しい
請求項1又は請求項2に記載の撚線導体。
【請求項4】
中心の1本のアルミニウム材料製の素線に、前記中心から同心状に所定本数の前記素線を撚り合わせる撚線導体の製造方法であって、
前記素線に軟化処理を施す軟化処理工程と、
前記中心から同心状に配置された6本及び12本の前記素線を撚り合わせる撚り合せ工程とをこの順に行い、
該撚り合せ工程において、
撚り合せピッチを、導体直径の12.1倍以上20.7倍以下に設定し、
前記素線に1.0N以上3.0N以下の張力を作用させ、
上述の方法で製造された撚線導体を内層部とし、
前記撚り合せ工程を、
前記内層部を撚り合わせた内層撚り合せ工程と、
前記内層部の外側に同心状に配置された18本の前記素線によって最外層を撚り合わせる外層撚り合せ工程とをこの順に行い、
該外層撚り合せ工程において、
前記最外層を撚り合わせる外層撚り合せピッチを、前記導体直径の6.8倍以上22.7倍以下に設定し、
前記素線に1.0N以上4.5N以下の張力を作用させるとともに、前記内層部に20N以上150N以下の張力を作用させる
撚線導体の製造方法。
【請求項5】
中心の1本のアルミニウム材料製の素線と、前記中心から同心状に配置された所定本数の前記素線とが撚り合わされた撚線導体の製造方法であって、
前記素線に軟化処理を施す軟化処理工程と、
前記中心から同心状に配置された6本及び12本の前記素線を撚り合わせる撚り合せ工程とをこの順に行い、
該撚り合せ工程において、
撚り合せピッチを、導体直径の12.1倍以上20.7倍以下に設定し、
前記素線に、単位断面積あたりの張力が12.5N/mm
2以上87.5N/mm
2以下となる張力を作用させ、
上述の方法で製造された撚線導体を内層部とし、
前記撚り合せ工程を、
前記内層部を撚り合わせた内層撚り合せ工程と、
前記内層部の外側に同心状に配置された18本の前記素線によって最外層を撚り合わせる外層撚り合せ工程とをこの順に行い、
該外層撚り合せ工程において、
前記最外層を撚り合わせる外層撚り合せピッチを、前記導体直径の6.8倍以上22.7倍以下に設定し、
前記素線に、単位断面積あたりの張力が12.5N/mm
2
以上56.3N/mm
2
以下となる張力を作用させるとともに、前記内層部に、単位断面積あたりの張力が250.0N/mm
2
以上1875.0N/mm
2
以下となる張力を作用させる
撚線導体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アルミニウム製の素線を撚り合わせて構成した撚線導体、及び撚線導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両には、例えば、電子機器同士を接続して、信号を送受信したり、電力を供給したりするワイヤハーネスが搭載されている。そして、このワイヤハーネスは、導体を絶縁被覆で被覆した被覆電線と、電子機器などに接続するコネクタとで構成している。
【0003】
上述のようなワイヤハーネスを構成する被覆電線の一例として、例えば、19本のアルミニウム製の素線を撚り合わせて径方向に多層構造に構成した芯線(以下、撚線導体とする)と、撚線導体を被覆する絶縁被覆と、撚線導体及び絶縁被覆の間に付着させる潤滑油とで構成した被覆電線について記載した特許文献1が開示されている。
【0004】
特許文献1に記載の多層構造の撚線導体は、素線を撚り合わせる撚り合せピッチによって、撚り合わせる素線に撚り乱れが生じたり、最外層よりも径内側に配置した、つまり、内部に配置した素線が外部に飛び出したりするおそれがあった。
【0005】
詳述すると、例えば、撚り合せピッチが短い場合、撚線導体の中心軸に対する撚り合わせる素線の角度が大きくなって、素線に撚り乱れが生じるおそれがあった。一方、撚り合せピッチが長い場合、中心軸と素線とが平行状態に近づき、内部に配置した素線が最外層から外部へ飛び出すおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、素線の撚り乱れや、素線の外部への飛び出しなどの不具合が生じることを抑制した所望の撚線導体、及び撚線導体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、中心の1本のアルミニウム材料製の素線と、前記中心から同心状に配置された6本、12本及び18本の前記素線とが撚り合わされた撚線導体であって、前記素線を、軟化処理を施した軟化処理素線で構成するとともに、撚り合せピッチが、導体直径の6.2倍以上15.7倍以下であることを特徴とする。
【0009】
上記アルミニウム材料製の素線は、例えば、JISH4000の1070に対応する組成の純アルミニウム系材料製の素線や、マグネシウム及びケイ素を添加してJISH4000の1070に対応する組成の純アルミニウム系材料よりも引張強度を向上させた高強度のアルミニウム合金材料製の素線、或いは、その他のアルミニウム合金材料製の素線などを含む概念である。
【0010】
上記導体直径は、素線を撚り合わせて構成した撚線導体の直径であって、最も外側に配置した素線で構成する最外層の直径に対応する概念である。
上記撚り合せピッチは、撚線導体の中心軸に対して、撚り合わせる素線を360度回転するために必要な軸方向の長さである。
【0011】
この発明により、37本の軟化処理素線を撚り合わせる場合であっても、軟化処理素線の撚り乱れや、軟化処理素線の外部への飛び出しなどの不具合が生じることを抑制した所望の撚線導体を構成することができる。
詳述すると、撚り合せピッチが、導体直径の6.2倍よりも小さい場合、撚線導体の中心軸に対して撚り合わせる軟化処理素線の角度が大きくなって、軟化処理素線に撚り乱れが生じるおそれがある。
【0012】
一方、撚り合せピッチが、導体直径の15.7倍よりも大きい場合、最も外側に配置した軟化処理素線で構成する最外層の、1ピッチ当たりの撚り合せ長さが長くなって、最外層よりも径内側に配置した軟化処理素線で構成する内層部に作用する最外層の撚り合せ荷重が分散する、つまり、内層部に作用する撚り合せ荷重が低下したり、最外層を構成する軟化処理素線と撚線導体の中心軸とが平行状態に近づくことによって、内層部を構成する軟化処理素線が最外層を構成する軟化処理素線の間から外部に飛び出すおそれがある。
【0013】
これに対して、撚り合せピッチを、導体直径の6.2倍以上15.7倍以下とすることで、撚線導体の中心軸に対して所望の角度に軟化処理素線を撚り合わせることができるとともに、内層部に作用する最外層の撚り合せ荷重を所望の撚り合せ荷重にできるため、軟化処理素線に撚り乱れが生じたり、内層部を構成する軟化処理素線が最外層を構成する軟化処理素線の間から外部に飛び出したりすることを抑制できる。
【0014】
これにより、所望の撚線導体を構成することができる。なお、より好ましくは、撚り合せピッチを、導体直径の8.7倍以上14.8倍以下とすることで、より顕著な効果を奏することができる。
【0015】
またこの発明は、中心の1本のアルミニウム材料製の素線と、前記中心から同心状に配置された所定本数の前記素線とが撚り合わされた撚線導体であって、前記素線は、前記素線は、軟化処理が施された軟化処理素線で構成され、前記中心から同心状に6本及び12本配置され、撚り合せピッチが、導体直径の12.1倍以上20.7倍以下であることを特徴とする。
【0016】
この発明により、19本の素線を撚り合わせる場合であっても、素線の撚り乱れや、素線の外部への飛び出しなどの不具合が生じることを抑制した所望の撚線導体を構成することができる。
【0017】
この発明の態様として、前記素線を、軟化処理が施されていない軟化未処理素線で構成し、前記撚り合せピッチを、前記導体直径の6.4倍以上16.9倍以下とすることができる。
この発明により、軟化処理素線よりも硬質な19本の軟化未処理素線を撚り合わせる場合であっても、軟化未処理素線の撚り乱れや、軟化未処理素線の外部への飛び出しなどの不具合が生じることを確実に防止した撚線導体を構成することができる。
なお、より好ましくは、撚り合せピッチを、導体直径の9.6倍以上15.4倍以下とすることで、より顕著な効果を奏することができる。
【0018】
またこの発明の態様として、前記素線を、軟化処理を施した軟化処理素線で構成し、前記撚り合せピッチを、前記導体直径の8.6倍以上22.0倍以下とすることができる。
この発明により、19本の軟化処理素線を撚り合わせる場合であっても、軟化処理素線の撚り乱れや、軟化処理素線の外部への飛び出しなどの不具合が生じることを確実に防止した撚線導体を構成することができる。
なお、より好ましくは、撚り合せピッチを、導体直径の12.1倍以上20.7倍以下とすることで、より顕著な効果を奏することができる。
【0019】
またこの発明の態様として、上記撚線導体を内層部とし、該内層部の外側に同心状に配置された18本の前記素線によって最外層を構成し、前記最外層を撚り合わせる外層撚り合せピッチが、前記導体直径の6.8倍以上22.7倍以下であるとともに、前記最外層を構成した状態における前記内層部の内層撚り合せピッチを、下記数式(1)で定まる数とすることができる。
【0020】
【数1】
ただし、前記数式(1)中のP1は、最外層を構成する前の内層撚り合せピッチをあらわし、P2は、外層撚り合せピッチをあらわし、P3は、最外層を構成した状態の内層撚り合せピッチをあらわす。
【0021】
この発明により、19本の軟化処理素線で構成する内層部の外側に、18本の軟化処理素線で構成する最外層を撚り合わせる場合であっても、軟化処理素線の撚り乱れや、軟化処理素線の外部への飛び出しなどの不具合が生じることを防止できる。
【0022】
さらに、撚り合せ荷重を内層部に作用させながら最外層を撚り合わせることに伴って内層撚り合せピッチは変化して、外層撚り合せピッチと異なる撚り合せピッチとなるため、内層部を構成する軟化処理素線と最外層を構成する軟化処理素線とは交差する態様で撚り合わされて、軟化処理素線の外部への飛び出しなどの不具合をより確実に防止できる。
【0023】
従って、所望の撚線導体を構成することができる。なお、より好ましくは、外層撚り合せピッチを、導体直径の7.5倍以上18.2倍以下とすることで、より顕著な効果を奏することができる。
【0024】
この発明は、中心の1本のアルミニウム材料製の素線に、前記中心から同心状に6本、12本及び18本のアルミニウム素線を撚り合わせる撚線導体の製造方法であって、前記素線に軟化処理を施す軟化処理工程と、前記素線を撚り合わせる撚り合せ工程とをこの順に行い、該撚り合せ工程において、撚り合せピッチを、導体直径の6.2倍以上15.7倍以下に設定し、前記素線に1.0N以上4.5N以下の張力を作用させることを特徴とする。
【0025】
上述の素線に軟化処理を施す軟化処理工程とは、例えば、JISH4000の1070に対応する組成の純アルミニウム系材料製の素線を、ボビンに巻き付けた状態、或いは、引き伸ばした状態で、350度の高温下に5時間放置して軟化させて軟化処理素線を構成する工程を含む概念であって、約350度の高温下に5時間放置することに限定しない。
【0026】
この発明により、37本の軟化処理素線を撚り合わせる場合であっても、弛みなく所定の撚り合せピッチで撚り合わせた撚線導体を構成することができる。
詳述すると、1.0Nよりも小さな張力を軟化処理素線に作用させたり、軟化処理素線に張力を作用させずに撚り合わせた場合、撚り合わせる軟化処理素線に弛みが生じたり、撚り合わせて構成した撚線導体に弛みが生じたりするおそれがある。
一方、4.5Nよりも大きな張力を軟化処理素線に作用させて撚り合わせた場合、撚り合わせる軟化処理素線が伸びたり、破断したりするおそれがある。
【0027】
これに対して、1.0N以上4.5N以下の張力を軟化処理素線に作用させて撚り合わせることで、撚り合わせる軟化処理素線や撚り合わせた撚線導体に弛みが生じることを防止できるとともに、軟化処理素線が伸びたり、破断したりすることを防止できる。
【0028】
これにより、弛みなく所定の撚り合せピッチで軟化処理素線を撚り合わせることができるため、軟化処理素線の撚り乱れや、軟化処理素線の外部への飛び出しなどの不具合が生じることを防止した所望の撚線導体を構成することができる。
【0029】
またこの発明は、中心の1本のアルミニウム材料製の素線に、前記中心から同心状に所定本数の前記素線を撚り合わせる撚線導体の製造方法であって、前記素線に軟化処理を施す軟化処理工程と、前記中心から同心状に配置された6本及び12本の前記素線を撚り合わせる撚り合せ工程とをこの順に行い、該撚り合せ工程において、撚り合せピッチを、導体直径の12.1倍以上20.7倍以下に設定し、前記素線に1.0N以上3.0N以下の張力を作用させることを特徴とする。
【0030】
この発明により、19本の素線を撚り合わせる場合であっても、弛みなく所定の撚り合せピッチで素線を撚り合わせることができるため、素線の撚り乱れや、素線の外部への飛び出しなどの不具合が生じることを防止した所望の撚線導体を構成することができる。
【0031】
この発明の態様として、前記撚り合せ工程において、前記撚り合せピッチを、前記導体直径の6.4倍以上16.9倍以下に設定し、前記素線に5.0N以上7.0N以下の張力を作用させ、前記撚り合せ工程の後に、前記素線に軟化処理を施す軟化処理工程を行うことができる。
【0032】
この発明により、軟化処理素線よりも硬質な19本の軟化未処理素線を撚り合わせる場合であっても、弛みなく所定の撚り合せピッチで軟化未処理素線を撚り合わせることができるため、軟化未処理素線の撚り乱れや、軟化未処理素線の外部への飛び出しなどの不具合が生じることを防止した所望の撚線導体を構成することができる。
【0033】
しかも、撚り合わせる前の19本の素線に対して軟化処理工程を行う場合に比べて、撚り合せ工程後に軟化処理工程を行う、つまり、撚り合わせた撚線導体に軟化処理工程を行うことによって、処理長さが短くなり、例えば、軟化処理設備の省スペース化などを図ることができる。
【0034】
またこの発明の態様として、前記素線に軟化処理を施す軟化処理工程の後に、前記撚り合せ工程を行い、該撚り合せ工程において、前記撚り合せピッチを、前記導体直径の8.6倍以上22.0倍以下に設定し、前記素線に1.0N以上4.5N以下の張力を作用させることができる。
【0035】
この発明により、19本の軟化処理素線を撚り合わせる場合であっても、弛みなく所定の撚り合せピッチで軟化処理素線を撚り合わせることができるため、軟化処理素線の撚り乱れや、軟化処理素線の外部への飛び出しなどの不具合が生じることを防止した所望の撚線導体を構成することができる。
【0036】
またこの発明の態様として、上記撚線導体を内層部とし、前記撚り合せ工程を、前記内層部を撚り合わせた内層撚り合せ工程と、前記内層部の外側に同心状に配置された18本の前記素線によって最外層を撚り合わせる外層撚り合せ工程とをこの順に行い、該外層撚り合せ工程において、前記最外層を撚り合わせる外層撚り合せピッチを、前記導体直径の6.8倍以上22.7倍以下に設定し、前記素線に1.0N以上4.5N以下の張力を作用させるとともに、前記内層部に20N以上150N以下の張力を作用させることができる。
【0037】
この発明により、19本の軟化処理素線で構成する内層部の外側に、18本の軟化処理素線で構成する最外層を撚り合わせる場合であっても、最外層を構成する軟化処理素線を弛みなく所定の外層撚り合せピッチで撚り合わせることができるため、軟化処理素線の撚り乱れや、軟化処理素線の外部への飛び出しなどの不具合が生じることを防止した所望の撚線導体を構成することができる。
【0038】
詳述すると、20Nよりも小さな張力を内層部に作用させたり、内層部に張力を作用させずに撚り合わせた場合、内層部に弛みが生じるおそれがある。
一方、150Nよりも大きな張力を内層部に作用させて撚り合わせた場合、内層部を構成する素線が伸びたり、破断したりするおそれがある。
【0039】
さらに、1.0Nよりも小さな張力を軟化処理素線に作用させたり、軟化処理素線に張力を作用させずに撚り合わせた場合、最外層を構成する軟化処理素線に撚り乱れが生じたり、内層部を構成する軟化処理素線の外部への飛び出しが生じたりするおそれがある。
一方、4.5Nよりも大きな張力を軟化処理素線に作用させて撚り合わせた場合、軟化処理素線が伸びたり、破断したりするおそれがある。
【0040】
これに対して、内層部に20N以上150N以下の張力を作用させるとともに、1.0N以上4.5N以下の張力を軟化処理素線に作用させて撚り合わせることで、適度に張った状態の内層部に、最外層を構成する軟化処理素線を弛みなく所定の外層撚り合せピッチで撚り合わせることができるとともに、内層部を構成する軟化処理素線や最外層を構成する軟化処理素線が伸びたり、破断したりすることを防止できる。
これにより、軟化処理素線の撚り乱れや、軟化処理素線の外部への飛び出しなどの不具合が生じることを防止した所望の撚線導体を構成することができる。
【発明の効果】
【0041】
この本発明は、素線の外部への飛び出しや、素線の撚り乱れの発生などの不具合が生じることを抑制した所望の撚線導体、及び撚線導体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図5】第1実施形態における第2層撚り合せユニットの拡大斜視図。
【
図6】第1実施形態における撚線導体の製造方法を説明するフロー図。
【
図7】他の実施形態における撚線導体の製造方法を説明するフロー図。
【
図11】第2実施形態における撚線導体の製造方法を説明するフロー図。
【
図13】他の実施形態における撚線導体の製造方法を説明するフロー図。
【
図15】第3実施形態における撚り合せユニットの拡大斜視図。
【
図17】第5実施形態における撚り合せユニットの拡大斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0043】
(第1実施形態)
この発明の第1実施形態を、
図1から
図6を用いて説明する。
図1は、第1実施形態における撚線導体1aの斜視図を示し、
図2は、第1実施形態における撚線導体1aの正面図を示し、
図3は、軟素線2aを巻き回した状態のボビン3aの斜視図を示し、
図4は、第1実施形態における撚線機4aの概略図を示し、
図5は、第1実施形態における第2層撚り合せユニット5の拡大斜視図を示し、
図6は、第1実施形態における撚線導体1aの製造方法を説明するフロー図を示している。
【0044】
なお、
図1は、撚線導体1aの3層構造を容易に理解できるように、撚線導体1aの一端側における軟素線2aの長さを、中心101から第3層103に向けて徐々に短くあらわした撚線導体1aの斜視図である。
また、
図4は、ボビン3aを取り付ける第2ボビン取付部522及び第3ボビン取付部612の個数が違うことを容易に理解できるように簡略化した撚線機4aの概略図である。
【0045】
第1実施形態における撚線導体1aは、JISH4000の1070に対応する組成の純アルミニウム系材料製の素線に軟化処理を施した直径0.32mmの軟素線2aを、
図1に示すように、同心状に19本配置するとともに、撚線導体1aの中心軸まわりの同方向に撚り合わせて構成している。
【0046】
この撚線導体1aは、後述する中心101を第1層とする3層構造であり、径内側の2層で構成する内層部11aと、内層部11aの外側の最外層12aとで構成している。
これにより、撚線導体1aの直径である導体直径Φaは1.6mmとなり(
図2参照)、撚り合わせた軟素線2aの総断面積は約1.5mm
2(1.5sq)となる。
【0047】
詳述すると、撚線導体1aは、1本の軟素線2aで構成する中心101(第1層に対応)、中心101の外側に配置した6本の軟素線2aで構成する第2層102、及び第2層102の外側に配置した12本の軟素線2aで構成する第3層103で構成しており、中心101及び第2層102で内層部11aを構成するとともに、第3層103で最外層12aを構成している。
【0048】
さらに、この撚線導体1aは、
図2に示すように、軟素線2aを撚り合わせる撚り合せピッチPaが、導体直径Φaの約12.1倍である19.4mmとなるように構成している。より詳しくは、第2層102及び第3層103の撚り合せピッチPaがともに19.4mmとなるように構成している。
なお、第2層102の撚り合せピッチは必ずしも第3層103の撚り合せピッチPaと同じである必要はなく、第2層102及び第3層103の撚り合せピッチPaがそれぞれ異なっていてもよい。
【0049】
また、撚線導体1aは、撚り合せピッチPaを導体直径Φaの約12.1倍となるように構成することだけに限らず、撚り合せピッチPaが導体直径Φaの8.6倍以上22.0倍以下、より好ましくは、12.1倍以上20.7倍以下であればよい。
【0050】
上述のように構成した撚線導体1aは、軟素線2aを巻き回したボビン3a、軟素線2aを撚り合わせる撚線機4a、及び撚線導体1aを巻き取るボビン3bを用いて製造する。以下において、これらボビン3a,3b及び撚線機4aの構成について説明する。
まず、ボビン3aは、
図3に示すように、軟素線2aを巻き回す軸芯(図示省略)と、軸芯の両端に備えた円環状のフランジ31,31とを一体に構成している。
【0051】
軸芯は、軸方向に貫通する貫通孔32を有した円筒状に形成されている。
フランジ31,31は、内周が軸芯の端部における外周に固定されている。
ボビン3bは、ボビン3aと同様の構成であるため、説明を省略する。
【0052】
次に、撚線機4aは、
図4に示すように、第2層102を撚り合わせる第2層撚り合せユニット5と、第3層103を撚り合わせる第3層撚り合せユニット6と、撚線導体1aを巻き取る導体巻き取り部7とをこの順に配置して構成している。
【0053】
なお、第2層撚り合せユニット5、第3層撚り合せユニット6、及び導体巻き取り部7を配置する方向、つまり、
図4及び
図5における左側から右側に向かう方向を、軟素線2aが進行する進行方向Xとする。
【0054】
第2層撚り合せユニット5は、
図5に示すように、中心101を構成する軟素線2aを巻き回したボビン3aを取り付ける第1ボビン取付部51と、第2層102を構成する軟素線2aを巻き回したボビン3aを取り付ける第2層撚り合せ部材52と、中心101に第2層102を集合させる第2層集合チャック53とを、進行方向Xに向けてこの順に配置して構成している。
【0055】
第1ボビン取付部51は、ボビン3aの貫通孔32に挿通してボビン3aを回転自在に取り付ける回転軸と、回転軸の回転速度を制御する回転制御部とを備えている(図示省略)。
第1ボビン取付部51の回転制御部は、後述する導体巻き取り部7の回転制御部によって回転するボビン3bの自転速度に応じて、ボビン3aを取り付けた回転軸の自転速度を制御でき、巻き解く軟素線2aに所望の張力を作用させることができる。
【0056】
第2層撚り合せ部材52は、進行方向Xに伸びる円筒状の軸芯52aと、軸芯52aの第1ボビン取付部51側に備えた円盤状の第1フランジ52bと、第1ボビン取付部51の反対側に備えた円盤状の第2フランジ52cとを一体に構成し、図示省略する回転機構を備えている。
【0057】
軸芯52aは、内部に進行方向Xに沿って貫通する貫通孔521を有している。この軸芯52aは、第1フランジ52b及び第2フランジ52cを、所定の間隔を隔てた状態に支持している。
【0058】
第1フランジ52bは、中心に軸芯52aの外径と同等の直径の穴を有する円盤状に形成されている。この第1フランジ52bは、内周が軸芯52aの端部における外周に固定されており、第1ボビン取付部51と同様の構成である第2ボビン取付部522を6個備えている。
【0059】
6個の第2ボビン取付部522は、同心円上に等間隔を隔てて配置されており、進行方向Xからみて略正六角形となるように、第1フランジ52bの第2フランジ52c側の面に配置されている。
【0060】
第2フランジ52cは、第1フランジ52bと同様に、中心に軸芯52aの外径と同等の直径の穴を有する円盤状に形成されている。この第2フランジ52cは、軸芯52aの端部における外周に固定されており、第2ボビン取付部522に取り付けたボビン3aから巻き解いた軟素線2aを挿通する挿通孔523を6個形成している。
【0061】
6個の挿通孔523は、軟素線2aの直径よりも一回り大きな円形にそれぞれ形成されており、同心円上に等間隔を隔てて、つまり、進行方向Xからみて略正六角形となるように、第2ボビン取付部522と対向する位置に配置されている。
【0062】
なお、上述のように、第2ボビン取付部522の数は、第2層撚り合せ部材52に取り付けるボビン3aの数と一致するとともに、挿通孔523の数は、第2層102を構成する軟素線2aの数と一致する。つまり、第2ボビン取付部522、挿通孔523、第2層を構成する軟素線2a、及び軟素線2aを巻き回しているボビン3aの数は一致している。
【0063】
第2層撚り合せ部材52に備えた回転機構は、進行方向Xに伸びる円筒状の軸芯52aの中心軸まわり(例えば、
図5中の矢印方向)に第2層撚り合せ部材52を回転させる機構であって、軸芯52aに設けられている。
なお、回転機構は、第2層撚り合せ部材52を回転させることができれば、軸芯52aに設けることだけに限らず、第1フランジ52bや第2フランジ52cに設けてもよい。
【0064】
第2層集合チャック53は、第2層102の外径、つまり、内層部11aの直径と同等の内径を有する円筒状に形成されており、挿通孔523を通過した6本の軟素線2aを、貫通孔521を通過した中心101のまわりに集合させるものである。
【0065】
第3層撚り合せユニット6は、第3層撚り合せ部材61及び第3層集合チャック62で構成している。なお、第3層撚り合せ部材61及び第3層集合チャック62は、第2層撚り合せユニット5の第2層撚り合せ部材52及び第2層集合チャック53と同様の構成であるため、図示省略するとともに、以下において簡単に説明する。
【0066】
第3層撚り合せ部材61は、軸芯61aと、第1フランジ61bと、第2フランジ61cとを一体に構成し、図示省略する回転機構を備えている。
軸芯61aは、内部に進行方向Xに沿って貫通する貫通孔611を有する円筒状に形成されている。
【0067】
第1フランジ61bは、第3ボビン取付部612を12個備えており、第2フランジ61cは、挿通孔613を12個形成している。
これら第3ボビン取付部612及び挿通孔613は、同心円上に等間隔を隔てて、つまり、進行方向Xからみて略正十二角形となるように、互いに対向する位置に配置されている。
【0068】
第3層撚り合せ部材61に備えた回転機構は、上述した第2層撚り合せ部材52に備えた回転機構と同様の構成であって、軸芯61aに設けられている。
なお、回転機構は、第2層撚り合せ部材52に備えた回転機構と同様に、軸芯61aに設けることだけに限定しない。
【0069】
第3層集合チャック62は、第3層103の外径、つまり、導体直径Φaと同等の内径を有する円筒状に形成されており、挿通孔613を通過した12本の軟素線2aを、貫通孔611を通過した第2層102のまわりに集合させるものである。
【0070】
導体巻き取り部7は、第1ボビン取付部51と同様に、ボビン3bの貫通孔32に挿通して、ボビン3bを回転自在に取り付ける回転軸と、回転軸を回転させる回転制御部とを備えている(図示省略)。つまり、導体巻き取り部7は、回転機構が回転軸を回転させることで、回転軸に取り付けたボビン3bに撚線導体1aを巻き取ることができる。
【0071】
なお、以下の説明において、第1ボビン取付部51、第2ボビン取付部522、第3ボビン取付部612、及び導体巻き取り部7の回転を便宜上自転と称し、第2層撚り合せ部材52及び第3層撚り合せ部材61の回転を公転と称する。
【0072】
以上のように構成した撚線機4aは、第2層撚り合せ部材52及び第2層集合チャック53によって、中心101の外側に第2層102を撚り合わせて内層部11aを構成するとともに、第3層撚り合せ部材61及び第3層集合チャック62によって、内層部11aの外側に第3層103を撚り合わせて撚線導体1aを構成し、第2層撚り合せユニット5及び第3層撚り合せユニット6と、導体巻き取り部7との回転速度及び回転開始のタイミングなどを制御することで、所定の撚り合せピッチPaで軟素線2aを撚り合わせたり、所定の張力を軟素線2aに作用させることができる。
【0073】
上述のように構成したボビン3a,3b及び撚線機4aを用いた撚線導体1aの製造方法について、以下において説明する。
撚線導体1aは、
図6に示すように、軟化処理を施した軟素線2aを構成する軟化処理工程(ステップS1)を行った後、19本の軟素線2aを撚り合わせる撚り合せ工程(ステップS2)を行って製造する。
【0074】
軟化処理工程(ステップS1)は、軟化処理していない軟化未処理素線をボビン3aに巻き回した状態で、約350度の高温下に約5時間放置して軟化させ、軟化処理素線である軟素線2aを構成する。
【0075】
なお、軟化処理工程における温度及び時間は、上述の設定のみならず、所望の軟さの軟素線2aを構成できれば、適宜設定することができる。さらに、所望の軟さである素線や、予め軟化された素線を用いる場合は、軟化処理工程を省くことができる。
【0076】
撚り合せ工程(ステップS2)は、中心101の外側に、第2層102を構成する6本の軟素線2a、及び第3層103を構成する12本の軟素線2aを配置して、軟素線2aを順次撚り合わせて撚線導体1aを製造する。
【0077】
詳述すると、撚り合せ工程(ステップS2)は、まず、軟化処理を施した軟素線2aを巻き回したボビン3aを第1ボビン取付部51、第2ボビン取付部522、及び第3ボビン取付部612にそれぞれ取り付ける。
【0078】
各ボビン取付部に取り付けたボビン3aから巻き解いた軟素線2aの先端を、所定の箇所を通過させて束ねた状態で、導体巻き取り部7に取り付けたボビン3bに固定する。
軟素線2aのボビン3bへの固定が完了すると、第2層撚り合せ部材52及び第3層撚り合せ部材61を同方向に公転させながら、第1ボビン取付部51、第2ボビン取付部522、及び第3ボビン取付部612、及び導体巻き取り部7を自転させる。
【0079】
このとき、導体巻き取り部7の自転速度に応じて、第1ボビン取付部51、第2ボビン取付部522、及び第3ボビン取付部612の自転速度を制御して、撚り合わせる軟素線2aのそれぞれに2.0Nの張力を作用させる。
なお、軟素線2aに作用させる張力は、2.0Nだけに限らず、1.5N以上2.5N以下の範囲で適宜設定することができる。
【0080】
さらに、導体巻き取り部7の自転速度に応じて、第2層撚り合せ部材52及び第3層撚り合せ部材61の公転速度を制御して、導体直径Φaの約12.1倍である19.4mmの撚り合せピッチPaで軟素線2aを撚り合わせる。なお、本実施形態においては、第2層撚り合せ部材52及び第3層撚り合せ部材61の公転速度を同じ速度とすることで、第2層102及び第3層103の撚り合せピッチが19.4mmとしている。
以上のような撚り合せ工程(ステップS2)は、撚線導体1aが所望の長さとなるまで行う。
【0081】
上述のように、中心101の1本のアルミニウム材料製の軟素線2aと、中心101から順に6本及び12本の軟素線2aを同心状に配置して撚り合わせて構成するとともに、軟化処理を施した軟素線2aで構成し、撚り合せピッチPaを、導体直径Φaの8.6倍以上22.0倍以下である約12.1倍としたことで、軟素線2aの撚り乱れや、軟素線2aの外部への飛び出しなどの不具合が生じることを抑制した所望の撚線導体1aを構成することができる。
【0082】
詳述すると、撚り合せピッチPaが、導体直径Φaの8.6倍よりも小さい場合、撚線導体1aの中心軸に対して撚り合わせる軟素線2aの角度が大きくなって、軟素線2aに撚り乱れが生じるおそれがある。
【0083】
一方、撚り合せピッチPaが、導体直径Φaの22.0倍よりも大きい場合、最外層12aの1ピッチ当たりの撚り合せ長さが長くなって、内層部11aに作用する最外層12aの撚り合せ荷重が分散する、つまり、内層部11aに作用する撚り合せ荷重が低下したり、最外層12aを構成する軟素線2aと撚線導体1aの中心軸とが平行状態に近づくことによって、内層部11aを構成する軟素線2aが最外層12aを構成する軟素線2aの間から外部に飛び出すおそれがある。
【0084】
これに対して、撚り合せピッチPaを、導体直径Φaの8.6倍以上22.0倍以下である約12.1倍としたことで、撚線導体1aの中心軸に対して所望の角度に軟素線2aを撚り合わせることができるとともに、内層部11aに作用する最外層12aの撚り合せ荷重を所望の撚り合せ荷重にできるため、軟素線2aに撚り乱れが生じたり、内層部11aを構成する軟素線2aが最外層12aを構成する軟素線2aの間から外部に飛び出したりすることを抑制できる。
【0085】
これにより、所望の撚線導体1aを構成することができる。従って、例えば、撚線導体1aの外周を絶縁被覆で被覆する場合、軟素線2aの外部への飛び出しによって絶縁被覆が部分的に薄肉化することを防止し、所望の絶縁性能を有することが可能となる。
【0086】
なお、撚線導体1aは、撚り合せピッチPaが、導体直径Φaの12.1倍以上20.7倍以下であるため、軟素線2aの撚り乱れや軟素線2aの飛び出しなどの不具合が生じることを確実に防止した所望の撚線導体1aを構成することができる。
【0087】
また、撚り合せ工程において、軟素線2aに1.5N以上2.5N以下である2.0Nの張力を作用させたことで、所定の撚り合せピッチPaで撚り合わせた撚線導体1aを弛みなく製造することができる。
【0088】
詳述すると、1.5Nよりも小さな張力を軟素線2aに作用させたり、軟素線2aに張力を作用させずに撚り合わせた場合、撚り合わせる軟素線2aに弛みが生じたり、撚り合わせて構成した撚線導体1aに弛みが生じたりするおそれがある。
一方、2.5Nよりも大きな張力を軟素線2aに作用させて撚り合わせた場合、撚り合わせる軟素線2aが伸びたり、破断したりするおそれがある。
【0089】
これに対して、1.5N以上2.5N以下である2.0Nの張力を軟素線2aに作用させることで、撚り合わせる軟素線2aや撚り合わせた撚線導体1aに弛みが生じることを防止できるとともに、軟素線2aが伸びたり、破断したりすることを防止できる。
【0090】
これにより、導体直径Φaの8.6倍以上22.0倍以下である約12.1倍の撚り合せピッチPaで軟素線2aを弛みなく撚り合わせることができるため、軟素線2aの撚り乱れや、軟素線2aの外部への飛び出しなどの不具合が生じることを防止した所望の撚線導体1aを製造することができる。
【0091】
上述のような効果を奏する撚線導体1aの効果確認試験である第1-1撚り合せ試験について、以下において説明する。
第1-1撚り合せ試験は、予め軟化処理を施した軟素線2aを19本撚り合わせて構成した撚線導体(供試体Aとする)を評価する試験である。
【0092】
まず、第1-1撚り合せ試験で構成する供試体Aとして、撚り合せピッチPaが導体直径Φaの7.4倍である供試体Aaと、7.8倍である供試体Abと、8.6倍である供試体Acと、11.0倍である供試体Adと、12.1倍である供試体Aeと、20.7倍である供試体Afと、21.8倍である供試体Agと、22.0倍である供試体Ahと、25.4倍である供試体Aiと、31.8倍である供試体Ajとを用いた。
【0093】
さらに、上記供試体Aaとして、軟素線2aに1.0Nの張力を作用させながら製造した供試体Aa1と、1.5Nの張力を作用させながら製造した供試体Aa2と、2.0Nの張力を作用させながら製造した供試体Aa3と、2.5Nの張力を作用させながら製造した供試体Aa4と、3.0Nの張力を作用させながら製造した供試体Aa5とを用いた。
【0094】
そして、供試体Ab~Ajとして、供試体Aaと同様に、軟素線2aに作用させる張力を変化させた供試体Ab1~Ab5、供試体Ac1~Ac5、供試体Ad1~Ad5、供試体Ae1~Ae5、供試体Af1~Af5、供試体Ag1~Ag5、供試体Ah1~Ah5、供試体Ai1~Ai5、及び供試体Aj1~Aj5を用いた。
【0095】
第1-1撚り合せ試験は、各供試体を上述のようにそれぞれ10本ずつ製造し、無作為に選んだ5本の外観から軟素線2aの撚り乱れや、軟素線2aの飛び出しなどの不具合の有無を評価した。その評価結果を下記表1-1に示す。
【0096】
【表1-1】
上記表1-1は、導体直径Φaに掛け合せて撚り合せピッチPaを算出する係数と、軟素線2aに作用させた張力とをパラメータとして、各供試体の評価結果をあらわしている。
【0097】
なお、表1-1中に記載の「◎」は、供試体の全区間を所望の撚り合せピッチPaで撚り合わせるとともに、軟素線2aの撚り乱れや外部への飛び出し、或いは、軟素線2aの伸びや破断などの不具合が一切生じなかったことを示し、「○」は、一部区間における撚り合せピッチが所望の撚り合せピッチPaと誤差程度に異なるものの、上記不具合が一切生じなかったことを示している。
【0098】
そして、「△」は、一部区間における撚り合せピッチが所望の撚り合せピッチPaとわずかに異なるとともに、上記不具合が生じた供試体が5本中2本以下あったことを示し、「×」は、全区間における撚り合せピッチが所望の撚り合せピッチPaと異なるとともに、上記不具合が生じた供試体が5本中3本以上あったことを示している。つまり、評価結果が「○」となった撚線導体は、製品上問題なく製造することができたことを示し、評価結果が「△」及び「×」となった撚線導体は、製品として問題が生じたことを示している。
【0099】
その結果、上記表1-1に示すように、供試体Ac2~Ah2,Ac3~Ah3,Ac4~Ah4は、上記不具合が生じることを抑制でき、さらに、供試体Ae2~Ae4,Af2~Af4は、供試体の全区間を所望の撚り合せピッチPaで撚り合わせることができた。
【0100】
一方、供試体Aa1~Aa5,Ab1~Ab5は、軟素線2aの撚り乱れが生じ、供試体Ai1~Ai5,Aj1~Aj5は、軟素線2aの外部への飛び出しが生じた。
さらに、供試体Aa1~Aj1は、軟素線2aに撚り乱れが生じる場合があり、供試体Aa5~Aj5は、軟素線2aの伸びや破断が生じる場合があった。
【0101】
上記結果から、撚り合せピッチPaが導体直径Φaの7.8倍以下である場合、撚り合わせる軟素線2aに撚り乱れが生じるおそれがあり、撚り合せピッチPaが導体直径Φaの25.4倍以上である場合、内層部11aを構成する軟素線2aの外部への飛び出しが生じるおそれがあることが確認できた。
【0102】
さらに、軟素線2aに作用させる張力が1.0N以下、又は張力を作用させない場合、撚り合わせる軟素線2aに撚り乱れが生じるおそれがあり、軟素線2aに作用させる張力が3.0N以上である場合、軟素線2aに伸びや破断が生じるおそれがあることが確認できた。
【0103】
以上より、予め軟化処理を施した軟素線2aを19本撚り合わせて構成する撚線導体1aは、軟素線2aに1.5N以上2.5N以下の張力を作用させながら、撚り合せピッチPaが導体直径Φaの8.6倍以上22.0倍以下となるように撚り合わせたことで、上記不具合が生じることを抑制でき、撚り合せピッチPaが導体直径Φaの12.1倍以上20.7倍以下である場合において、上記不具合が生じることをより確実に防止できることが確認できた。
【0104】
また、上述の説明では、JISH4000の1070に対応する組成の純アルミニウム系材料で形成された軟素線2aで撚線導体1aを構成したが、マグネシウム及びケイ素などを添加してJISH4000の1070に対応する組成の純アルミニウム系材料製の素線よりも引張強度を向上させた高強度のアルミニウム合金材料製の素線に軟化処理を施した軟素線で撚線導体を構成してもよい。この場合、1.0N以上4.5N以下の張力を作用させながら軟素線を撚り合わせることで、所定の撚り合せピッチPaで弛みなく撚り合わせた所望の撚線導体を製造することができる。本明細書の実施例において、「高強度のアルミニウム合金材料製の素線」とは、「国際特許公開 WO2014/155817」に記載された線材とし、組成は表1の「発明例39」とする。具体的には、Mg=0.50質量%、Si=0.50質量%、Fe=0.20質量%、Ti=0.010質量%、B=0.003質量%、Ni=0.10質量%、残部はアルミニウムおよび不可避不純物である。なお、本発明において、「高強度のアルミニウム合金材料製の素線」は、上述の例に限らず、「国際特許公開 WO2014/155817」に開示された範囲の線材、または同様の組成を有する線材であってもよい。
【0105】
このように、JISH4000の1070に対応する組成の純アルミニウム系材料よりも高強度のアルミニウム合金材料で構成した軟素線を用いて製造した撚線導体の効果確認試験である第1-2撚り合せ試験について以下に説明する。
まず、第1-2撚り合せ試験で構成する供試体Aとして、各撚り合せピッチPaが上述の第1-1撚り合せ試験と同様である供試体Aa~Ajを用いた。
【0106】
さらに、上記供試体Aaとして、高強度のアルミニウム合金材料で構成した軟素線に、第1-1撚り合せ試験と同等の張力を作用させながら製造した供試体Aa1~Aa5と、0.5Nの張力を作用させながら製造した供試体Aa6と、3.5Nの張力を作用させながら製造した供試体Aa7と、4.0Nの張力を作用させながら製造した供試体Aa8と、4.5Nの張力を作用させながら製造した供試体Aa9と、5.0Nの張力を作用させながら製造した供試体Aa10とを用いた。
【0107】
そして、供試体Ab~Ajとして、供試体Aaと同様に、軟素線に作用させる張力を変化させた供試体Ab1~Ab10、供試体Ac1~Ac10、供試体Ad1~Ad10、供試体Ae1~Ae10、供試体Af1~Af10、供試体Ag1~Ag10、供試体Ah1~Ah10、供試体Ai1~Ai10、及び供試体Aj1~Aj10を用いた。
上述のような供試体を用いて行った第1-2撚り合せ試験の評価結果を下記表1-2に示す。
【0108】
【表1-2】
その結果、上記表1-2に示すように、供試体Ac1~Ah1,Ac2~Ah2,Ac3~Ah3,Ac4~Ah4,Ac5~Ah5,Ac7~Ah7,Ac8~Ah8,Ac9~Ah9は、軟素線の撚り乱れや、軟素線の外部への飛び出し、或いは、軟素線の伸びや破断などの不具合が生じることを抑制でき、さらに、供試体Ae1~Ae5,Ae7~Ae9,Af1~Af5,Af7~Af9は、供試体の全区間を所望の撚り合せピッチPaで撚り合わせることができた。
【0109】
一方、供試体Aa1~Aa10,Ab1~Ab10は、軟素線の撚り乱れが生じ、供試体Ai1~Ai10,Aj1~Aj10は、軟素線の外部への飛び出しが生じた。
さらに、供試体Aa6~Aj6は、軟素線に撚り乱れが生じる場合があり、供試体Aa10~Aj10は、軟素線の伸びや破断が生じる場合があった。
【0110】
以上より、高強度のアルミニウム合金材料で構成した軟素線を用いて構成した撚線導体は、軟素線に1.0N以上4.5N以下の張力を作用させながら、撚り合せピッチPaが導体直径Φaの8.6倍以上22.0倍以下となるように撚り合わせたことで、上記不具合が生じることを抑制でき、撚り合せピッチPaが導体直径Φaの12.1倍以上20.7倍以下である場合において、上記不具合が生じることをより確実に防止できることが確認できた。
【0111】
なお、上述の説明では、予め軟化処理を施した19本の軟素線2aを撚り合わせて撚線導体1aを構成したが、軟化処理を施していない軟化未処理素線である、軟素線2aよりも硬質な19本の硬素線2bを撚り合わせて撚線導体1bを構成してもよい。この硬素線2bは、予め軟化処理を施していないだけで、軟素線2aと同様の、JISH4000の1070に対応する組成の純アルミニウム系材料で構成されている。
つまり、撚線導体1bは、上述した第1実施形態における撚線導体1aと同様の構成であるため、図示省略するとともに、以下において、簡単に説明する。
【0112】
この撚線導体1bは、撚り合せピッチPbが、導体直径Φbの約12.1倍である19.4mmとなるように、軟素線2aよりも硬質な硬素線2bを撚り合わせて構成している。
なお、撚線導体1bは、撚り合せピッチPbを導体直径Φbの約12.1倍となるように構成することだけに限らず、撚り合せピッチPbが導体直径Φbの6.4倍以上16.9倍以下、より好ましくは、9.6倍以上15.4倍以下であればよい。
【0113】
上述のように構成した撚線導体1bの製造方法について、
図7を用いて説明する。
なお、
図7は、撚線導体1bの製造方法を説明するフロー図を示している。
【0114】
撚線導体1bは、
図7に示すように、軟化処理を施していない硬素線2bを撚り合わせる撚り合せ工程(ステップT1)を行った後、撚り合わせた撚線導体1bに軟化処理を施す軟化処理工程(ステップT2)を行って製造する。
【0115】
撚線導体1bの製造方法における撚り合せ工程(ステップT1)及び軟化処理工程(ステップT2)は、上述した撚線導体1aの製造方法における軟化処理工程(ステップS1)及び撚り合せ工程(ステップS2)と同様の工程であるため、以下において簡単に説明する。
【0116】
撚り合せ工程(ステップT1)は、軟化処理を施していない硬素線2bを巻き回したボビン3aを、上述した撚線機4aの第1ボビン取付部51、第2ボビン取付部522、及び第3ボビン取付部612にそれぞれ取り付けて、第2層撚り合せ部材52及び第3層撚り合せ部材61を同方向に公転させながら、第1ボビン取付部51、第2ボビン取付部522、及び第3ボビン取付部612、及び導体巻き取り部7を回転させて行う。
【0117】
このとき、撚り合わせる硬素線2bのそれぞれに6.0Nの張力を作用させながら、導体直径Φbの約12.1倍である19.4mmの撚り合せピッチPaで硬素線2bを撚り合わせる。
なお、硬素線2bに作用させる張力は、6.0Nだけに限らず、5.0N以上7.0N以下の範囲で適宜設定することができる。
以上のような撚り合せ工程(ステップT1)は、撚線導体1bが所望の長さとなるまで行う。
【0118】
次に、軟化処理工程(ステップT2)は、硬素線2bを撚り合わせた撚線導体1bを、巻き回したボビン3bに巻き回した状態で、350度の高温下に5時間放置して軟化させる。
以上のように撚線導体1bを製造することで、撚り合わせる際の素線が軟素線2aよりも硬質な硬素線2bであっても、上述した撚線導体1aと同等の撚線導体1bを構成することができる。
【0119】
上述のように、軟化処理を施していない硬素線2bで構成し、撚り合せピッチPbを、導体直径Φbの6.4倍以上16.9倍以下である約12.1倍としたことで、硬素線2bの撚り乱れや、硬素線2bの外部への飛び出しなどの不具合が生じることを抑制した所望の撚線導体1bを構成することができる。
【0120】
なお、撚線導体1bは、撚り合せピッチPbが、導体直径Φbの9.6倍以上15.4倍以下であるため、硬素線2bの撚り乱れや、硬素線2bの外部への飛び出しなどの不具合が生じることを確実に防止した所望の撚線導体1bを構成することができる。
【0121】
また、撚り合せ工程において、硬素線2bに5.0N以上7.0N以下である6.0Nの張力を作用させたことで、軟素線2aよりも硬質な硬素線2bを所定の撚り合せピッチPbで弛みなく撚り合わせることができるため、硬素線2bの撚り乱れや、硬素線2bの外部への飛び出しなどの不具合が生じることを防止した所望の撚線導体1bを製造することができる。
【0122】
しかも、予め軟化処理工程を行って19本の軟素線2aを構成する場合に比べて、撚り合せ工程後に軟化処理工程を行う、つまり、撚り合わせた撚線導体1bに軟化処理工程を行うことによって、処理長さが短くなり、例えば、軟化処理設備の省スペース化などを図ることができる。
【0123】
上述のような効果を奏する撚線導体1bの効果確認試験である第2-1撚り合せ試験について、以下において説明する。
第2-1撚り合せ試験は、軟化処理を施していない硬素線2bを19本撚り合わせて構成した撚線導体(供試体Bとする)を評価する試験である。
【0124】
まず、第2-1撚り合せ試験で構成する供試体Bとして、撚り合せピッチPbが導体直径Φbの5.1倍である供試体Baと、5.9倍である供試体Bbと、6.4倍である供試体Bcと、8.6倍である供試体Bdと、9.6倍である供試体Beと、15.4倍である供試体Bfと、16.9倍である供試体Bgと、17.8倍である供試体Bhと、18.7倍である供試体Biとを用いた。
【0125】
さらに、上記供試体Baとして、硬素線2bに4.5Nの張力を作用させながら構成する供試体Ba1と、5.0Nの張力を作用させながら製造した供試体Ba2と、5.5Nの張力を作用させながら製造した供試体Ba3と、6.0Nの張力を作用させながら製造した供試体Ba4と、6.5Nの張力を作用させながら製造した供試体Ba5と、7.0Nの張力を作用させながら製造した供試体Ba6と、7.5Nの張力を作用させながら製造した供試体Ba7とを用いた。
【0126】
そして、供試体Bb~Biとして、供試体Baと同様に、硬素線2bに作用させる張力を変化させた供試体Bb1~Bb7、供試体Bc1~Bc7、供試体Bd1~Bd7、供試体Be1~Be7、供試体Bf1~Bf7、供試体Bg1~Bg7、供試体Bh1~Bh7、及び供試体Bi1~Bi7を用いた。
【0127】
第2-1撚り合せ試験は、上述した第1-1撚り合せ試験と同様に、10本ずつ製造した各供試体をそれぞれ無作為に選んだ5本の外観から不具合の有無を評価した。その評価結果を下記表2-1に示す。
【0128】
【表2-1】
その結果、上記表2-1に示すように、供試体Bc2~Bg2,Bc3~Bg3,Bc4~Bg4,Bc5~Bg5,Bc6~Bg6は、硬素線2bの撚り乱れや、硬素線2bの外部への飛び出し、或いは、硬素線2bの伸びや破断などの不具合が生じることを抑制でき、さらに、供試体Be2~Be6,Bf2~Bf6は、供試体の全区間を所望の撚り合せピッチPbで撚り合わせることができた。
【0129】
一方、供試体Ba1~Ba7,Bb1~Bb7は、硬素線2bの撚り乱れが生じ、供試体Bh1~Bh7,Bi1~Bi7は、硬素線2bの外部への飛び出しが生じた。
さらに、供試体Ba1~Bi1は、硬素線2bに撚り乱れが生じる場合があり、供試体Ba7~Bi7は、硬素線2bに伸びや破断が生じる場合があった。
【0130】
以上より、軟化処理を施していない硬素線2bを19本撚り合わせて構成する撚線導体1bは、硬素線2bに5.0N以上7.0N以下の張力を作用させながら、撚り合せピッチPbが導体直径Φbの6.4倍以上16.9倍以下となるように撚り合わせたことで、上記不具合が生じることを抑制でき、撚り合せピッチPbが導体直径Φbの9.6倍以上15.4倍以下である場合において、上記不具合が生じることをより確実に防止できることが確認できた。
【0131】
また、上述の説明では、JISH4000の1070に対応する組成の純アルミニウム系材料で構成した硬素線2bで撚線導体1bを構成したが、マグネシウム及びケイ素を添加してJISH4000の1070に対応する組成の純アルミニウム系材料よりも引張強度を向上させた高強度のアルミニウム合金材料で構成した硬素線で撚線導体を構成してもよい。
【0132】
この場合、5.0N以上7.0N以下の張力を作用させながら硬素線を撚り合わせることで、所定の撚り合せピッチPbで弛みなく撚り合わせた所望の撚線導体を製造することができる。つまり、高強度のアルミニウム合金材料で構成した硬素線を撚り合わせる撚線導体の製造条件は、上述したJISH4000の1070に対応する組成の純アルミニウム系材料で構成した硬素線2bを撚り合わせる撚線導体1bの製造条件と同様である。
【0133】
このように、JISH4000の1070に対応する組成の純アルミニウム系材料よりも高強度のアルミニウム合金材料で構成した硬素線を用いて製造した撚線導体の効果確認試験である第2-2撚り合せ試験について以下に説明する。
【0134】
まず、第2-2撚り合せ試験で構成する供試体Bとして、各撚り合せピッチPb、及び硬素線に作用させる張力が上述の第2-1撚り合せ試験と同様である供試体Ba1~Bi1,Ba2~Bi2,Ba3~Bi3,Ba4~Bi4,Ba5~Bi5,Ba6~Bi6,Ba7~Bi7を用いた。
上述のような供試体を用いて行った第2-2撚り合せ試験の評価結果を下記表4に示す。
【0135】
【表2-2】
その結果、上記表2-2に示すように、供試体Bc2~Bg2,Bc3~Bg3,Bc4~Bg4,Bc5~Bg5,Bc6~Bg6は、硬素線の撚り乱れや、硬素線の外部への飛び出し、或いは、硬素線の伸びや破断などの不具合が生じることを抑制でき、さらに、供試体Be2~Be6,Bf2~Bf6は、供試体の全区間を所望の撚り合せピッチPbで撚り合わせることができた。
【0136】
一方、供試体Ba1~Ba7,Bb1~Bb7は、硬素線の撚り乱れが生じ、供試体Bh1~Bh7,Bi1~Bi7は、硬素線の外部への飛び出しが生じた。
さらに、供試体Ba1~Bi1は、硬素線に撚り乱れが生じる場合があり、供試体Ba7~Bi7は、硬素線に伸びや破断が生じる場合があった。
【0137】
以上より、高強度のアルミニウム合金材料で構成した硬素線を撚り合わせる撚線導体は、上述したJISH4000の1070に対応する組成の純アルミニウム系材料で構成した硬素線2bを撚り合わせる撚線導体1bと同様の製造条件で撚り合わせることで、上記不具合が生じることをより確実に防止し、所望の撚線導体を製造できることがわかった。
【0138】
(第2実施形態)
この発明の第2実施形態を、
図8から
図11を用いて説明する。ただし、以下で説明する構成のうち、上述した第1実施形態と同様の構成については、同一の符号を付して、その説明を省略する。
図8は、第2実施形態における撚線導体1cの斜視図を示し、
図9は、第2実施形態における撚線導体1cの正面図を示し、
図10は、第2実施形態における撚線機4bの概略図を示し、
図11は、第2実施形態における撚線導体1bの製造方法を説明するフロー図を示している。
【0139】
なお、
図8は、撚線導体1cの4層構造を容易に理解できるように、撚線導体1cの一端側における軟素線2aの長さを、中心101から第4層104に向けて徐々に短くあらわした撚線導体1cの斜視図である。
また、
図10は、ボビン3aを取り付ける第2ボビン取付部522、第3ボビン取付部612、及び第4ボビン取付部812の個数が違うことを容易に理解できるように簡略化した撚線機4bの概略図である。
【0140】
第2実施形態における撚線導体1cは、JISH4000の1070に対応する組成の純アルミニウム系材料に軟化処理を施した軟素線2aを、
図8に示すように、同心状に37本配置した、中心101を第1層とする4層構造に構成されており、径内側の3層で構成する内層部11cと、内層部11cの外側の最外層12cとで構成している。
これにより、導体直径Φcは2.24mmとなり(
図9参照)、撚り合わせた軟素線2aの総断面積は約3.0mm
2(3sq)となる。
【0141】
詳述すると、撚線導体1cは、中心101(第1層に対応)、第2層102、第3層103、及び第3層103の外側に配置した18本の軟素線2aで構成する第4層104で構成しており、中心101から第3層103で内層部11cを構成するとともに、第4層104で最外層12cを構成している。
【0142】
さらに、この撚線導体1cは、
図9に示すように、撚り合せピッチPcが、導体直径Φcの約8.7倍である19.4mmとなるように構成している。
なお、撚線導体1cは、撚り合せピッチPcを導体直径Φcの約8.7倍となるように構成することだけに限らず、撚り合せピッチPcが導体直径Φcの6.2倍以上15.7倍以下、より好ましくは、8.7倍以上14.8倍以下であればよい。
【0143】
撚線導体1cを撚り合わせる撚線機4bは、
図10に示すように、第2層撚り合せユニット5と、第3層撚り合せユニット6と、第4層104を撚り合わせる第4層撚り合せユニット8と、導体巻き取り部7とを、進行方向Xに向けてこの順に配置して構成している。
【0144】
第4層撚り合せユニット8は、第4層撚り合せ部材81及び第4層集合チャック82で構成している。なお、第4層撚り合せ部材81及び第4層集合チャック82は、第2層撚り合せユニット5の第2層撚り合せ部材52及び第2層集合チャック53と同様の構成であるため、図示省略するとともに、以下において簡単に説明する。
【0145】
第4層撚り合せ部材81は、軸芯81aと、第1フランジ81bと、第2フランジ81cとを一体に構成し、図示省略する回転機構を備えている。
軸芯81aは、内部に進行方向Xに沿って貫通する貫通孔811を有する円筒状に形成されている。
【0146】
第1フランジ81bは、第4ボビン取付部812を18個備えており、第2フランジ81cは、挿通孔813を18個形成している。
これら第4ボビン取付部812及び挿通孔813は、同心円上に等間隔を隔てて、つまり、進行方向Xからみて略正十八角形となるように、互いに対向する位置に配置されている。
【0147】
第4層撚り合せ部材81に備えた回転機構は、上述した第2層撚り合せ部材52に備えた回転機構と同様の構成であって、軸芯81aに設けられている。
なお、回転機構は、第2層撚り合せ部材52に備えた回転機構と同様に、軸芯81aに設けることだけに限定しない。
【0148】
第4層集合チャック82は、第4層104の外径、つまり、撚線導体1cの直径と同等の内径を有する円筒状に形成されており、挿通孔813を通過した18本の軟素線2aを、貫通孔811を通過した内層部11cのまわりに集合させるものである。
【0149】
上述のように構成した撚線機4cを用いた撚線導体1cの製造方法について、以下において説明する。
撚線導体1cは、
図11に示すように、軟化処理工程(ステップU1)を行った後、撚り合せ工程(ステップU2)を行って製造する。
【0150】
撚線導体1cの製造方法における軟化処理工程(ステップU1)は、上述した撚線導体1aの製造方法における軟化処理工程(ステップS1)と同様であるため説明を省略する。
【0151】
撚り合せ工程(ステップU2)は、まず、軟化処理を施した軟素線2aを巻き回したボビン3aを、第1ボビン取付部51、第2ボビン取付部522、第3ボビン取付部612、及び第4ボビン取付部81にそれぞれ取り付ける。
【0152】
各ボビン取付部に取り付けたボビン3aから巻き解いた軟素線2aの先端を、所定の箇所を通過させて束ねた状態で、導体巻き取り部7に取り付けたボビン3bに固定する。
軟素線2aのボビン3bへの固定が完了すると、第2層撚り合せ部材52、第3層撚り合せ部材61、及び第4層撚り合せ部材81を同方向に公転させながら、第1ボビン取付部51、第2ボビン取付部522、第3ボビン取付部612、第4ボビン取付部812、及び導体巻き取り部7を自転させる。
【0153】
このとき、導体巻き取り部7の自転速度に応じて、第1ボビン取付部51、第2ボビン取付部522、第3ボビン取付部612、及び第4ボビン取付部812の自転速度を制御して、撚り合わせる軟素線2aのそれぞれに2.0Nの張力を作用させる。
なお、軟素線2aに作用させる張力は、2.0Nだけに限らず、1.5N以上2.5N以下の範囲で適宜設定することができる。
【0154】
さらに、導体巻き取り部7の自転速度に応じて、第2層撚り合せ部材52、第3層撚り合せ部材61及び第4層撚り合せ部材81の公転速度を制御して、導体直径Φcの約8.7倍である19.4mmの撚り合せピッチPcで軟素線2aを撚り合わせる。
なお本実施形態では、第2層撚り合せ部材52、第3層撚り合せ部材61及び第4層撚り合せ部材81の公転速度を同一とすることにより、第2層乃至第4層の撚り合せピッチを同じ撚り合せピッチPcとすることができる。
【0155】
以上のような撚り合せ工程(ステップU2)は、撚線導体1cが所望の長さとなるまで行う。
上述のように、中心101の1本のアルミニウム材料製の軟素線2aと、中心101から順に6本、12本、及び18本の軟素線2aを同心状に配置して撚り合わせて構成するとともに、軟化処理を施した軟素線2aで構成し、撚り合せピッチPcを、導体直径Φcの6.2倍以上15.7倍以下である約8.7倍としたことで、軟素線2aの撚り乱れや、軟素線2aの外部への飛び出しなどの不具合が生じることを抑制した所望の撚線導体1cを構成することができる。
【0156】
なお、撚線導体1cは、撚り合せピッチPcが、導体直径Φcの8.7倍以上14.8倍以下であるため、軟素線2aの撚り乱れや、軟素線2aの飛び出しなどの不具合が生じることを確実に防止した所望の撚線導体1cを構成することができる。
【0157】
また、撚り合せ工程において、軟素線2aに1.5N以上2.5N以下である2.0Nの張力を作用させたことで、軟素線2aを所定の撚り合せピッチPcで弛みなく撚り合わせることができるため、軟素線2aの撚り乱れや、軟素線2aの外部への飛び出しなどの不具合が生じることを防止した所望の撚線導体1cを製造することができる。
【0158】
上述のような効果を奏する撚線導体1cの効果確認試験である第3-1撚り合せ試験について、以下において説明する。
第3-1撚り合せ試験は、中心101から第4層104を順次撚り合わせる撚り合せ工程を行って37本の軟素線2aを撚り合わせて構成した撚線導体(供試体Cとする)を評価する試験である。
【0159】
まず、第3-1撚り合せ試験で構成する供試体Cとして、撚り合せピッチPcが導体直径Φcの5.3倍である供試体Caと、5.6倍である供試体Cbと、6.2倍である供試体Ccと、7.9倍である供試体Cdと、8.7倍である供試体Ceと、14.8倍である供試体Cfと、15.5倍である供試体Cgと、15.7倍である供試体Chと、18.2倍である供試体Ciと、22.7倍である供試体Cjとを用いた。
【0160】
さらに、上記供試体Caとして、軟素線2aに1.0Nの張力を作用させながら製造した供試体Ca1と、1.5Nの張力を作用させながら製造した供試体Ca2と、2.0Nの張力を作用させながら製造した供試体Ca3と、2.5Nの張力を作用させながら製造した供試体Ca4と、3.0Nの張力を作用させながら製造した供試体Ca5とを用いた。
【0161】
そして、供試体Cb~Cjとして、供試体Caと同様に、軟素線2aに作用させる張力を変化させた供試体Cb1~Cb5、供試体Cc1~Cc5、供試体Cd1~Cd5、供試体Ce1~Ce5、供試体Cf1~Cf5、供試体Cg1~Cg5、供試体Ch1~Ch5、供試体Ci1~Ci5、及び供試体Cj1~Cj5を用いた。
【0162】
第3-1撚り合せ試験は、上述した第1-1撚り合せ試験と同様に、10本ずつ製造した各供試体をそれぞれ無作為に選んだ5本の外観から不具合の有無を評価した。その評価結果を下記表3-1に示す。
【0163】
【表3-1】
その結果、上記表3-1に示すように、供試体Cc2~Ch2,Cc3~Ch3,Cc4~Ch4は、軟素線2aの撚り乱れや、軟素線2aの外部への飛び出し、或いは、軟素線2aの伸びや破断などの不具合が生じることを抑制でき、さらに、供試体Ce2~Ce4,Cf2~Cf4は、供試体の全区間を所望の撚り合せピッチPcで撚り合わせることができた。
【0164】
一方、供試体Ca1~Ca5,Cb1~Cb5は、軟素線2aの撚り乱れが生じ、供試体Ci1~Ci5,Cj1~Cj5は、内層部11cを構成する軟素線2aの外部への飛び出しが生じた 。
【0165】
さらに、供試体Ca1~Cj1は、軟素線2aに撚り乱れが生じる場合があり、供試体Ca5~Cj5は、軟素線2aに伸びや破断が生じる場合があった。
【0166】
以上より、中心101から第4層104を順次撚り合わせる撚り合せ工程を行って37本の軟素線2aを撚り合わせて構成した撚線導体1cは、軟素線2aに1.5N以上2.5N以下の張力を作用させながら、撚り合せピッチPcが導体直径Φcの6.2倍以上15.7倍以下となるように撚り合わせたことで、上記不具合が生じることを抑制でき、撚り合せピッチPcが導体直径Φcの8.7倍以上14.8倍以下である場合において、上記不具合が生じることをより確実に防止できることが確認できた。
【0167】
また、上述の説明では、JISH4000の1070に対応する組成の純アルミニウム系材料で構成した軟素線2aで撚線導体1cを構成したが、マグネシウム及びケイ素を添加してJISH4000の1070に対応する組成の純アルミニウム系材料よりも引張強度を向上させた高強度のアルミニウム合金材料製の素線に軟化処理を施した軟素線で撚線導体を構成してもよい。この場合、1.0N以上4.5N以下の張力を作用させながら軟素線を撚り合わせることで、所定の撚り合せピッチPcで弛みなく撚り合わせた所望の撚線導体を製造することができる。
【0168】
このように、JISH4000の1070に対応する組成の純アルミニウム系材料よりも高強度のアルミニウム合金材料で構成した軟素線を用いて製造した撚線導体の効果確認試験である第3-2撚り合せ試験について以下に説明する。
まず、第3-2撚り合せ試験で構成する供試体Cとして、各撚り合せピッチPcが上述の第3-1撚り合せ試験と同様である供試体Ca~Cjを用いた。
【0169】
さらに、上記供試体Caとして、高強度のアルミニウム合金材料で構成した軟素線に、第3-1撚り合せ試験と同等の張力を作用させながら製造した供試体Ca1~Ca5と、0.5Nの張力を作用させながら製造した供試体Ca6と、3.5Nの張力を作用させながら製造した供試体Ca7と、4.0Nの張力を作用させながら製造した供試体Ca8と、4.5Nの張力を作用させながら製造した供試体Ca9と、5.0Nの張力を作用させながら製造した供試体Ca10とを用いた。
【0170】
そして、供試体Cb~Cjとして、供試体Caと同様に、軟素線に作用させる張力を変化させた供試体Cb1~Cb10、供試体Cc1~Cc10、供試体Cd1~Cd10、供試体Ce1~Ce10、供試体Cf1~Cf10、供試体Cg1~Cg10、供試体Ch1~Ch10、供試体Ci1~Ci10、及び供試体Cj1~Cj10を用いた。
上述のような供試体を用いて行った第3-2撚り合せ試験の評価結果を下記表3-2に示す。
【0171】
【表3-2】
その結果、上記表3-2に示すように、供試体Cc1~Ch1,Cc2~Ch2,Cc3~Ch3,Cc4~Ch4,Cc5~Ch5,Cc7~Ch7,Cc8~Ch8,Cc9~Ch9は、軟素線の撚り乱れや、軟素線の外部への飛び出し、或いは、軟素線の伸びや破断などの不具合が生じることを抑制でき、さらに、供試体Ce1~Ce5,Ce7~Ce9,Cf1~Cf5,Cf7~Cf9は、供試体の全区間を所望の撚り合せピッチPcで撚り合わせることができた。
【0172】
一方、供試体Ca1~Ca10,Cb1~Cb10は、軟素線の撚り乱れが生じ、供試体Ci1~Ci10,Cj1~Cj10は、内層部11cを構成する軟素線の外部への飛び出しが生じた。
さらに、供試体Ca6~Cj6は、軟素線に撚り乱れが生じる場合があり、供試体Ca10~Cj10は、軟素線に伸びや破断が生じる場合があった。
【0173】
以上より、高強度のアルミニウム合金材料で構成した軟素線を用いて構成した撚線導体は、軟素線に1.0N以上4.5N以下の張力を作用させながら、撚り合せピッチPcが導体直径Φcの6.2倍以上15.7倍以下となるように撚り合わせたことで、上記不具合が生じることを抑制でき、撚り合せピッチPcが導体直径Φcの8.7倍以上14.8倍以下である場合において、上記不具合が生じることをより確実に防止できることが確認できた。
【0174】
なお、上述の説明では、中心101の外側に、第2層102、第3層103、第4層104を順次撚り合わせて、37本の軟素線2aで撚線導体1c(1工程で製造)を構成したが、
図12(a)に示すように、中心101から第3層103を撚り合わせた内層部11dを構成した後に、
図12(b)に示すように、最外層12d(第4層104)を撚り合わせた撚線導体1d(2工程で製造)を構成してもよい。
【0175】
つまり、1つの撚り合せ工程を行って撚線導体1cを構成することだけでなく、内層部11dを撚り合わせる内層撚り合せ工程と、最外層12dを撚り合わせる外層撚り合せ工程との2つの撚り合せ工程を行って撚線導体1dを構成してもよい。
ここで、
図12(a)は、撚線導体1dを構成する内層部11dの正面図を示し、
図12(b)は、撚線導体1dの正面図を示している。
【0176】
この撚線導体1dは、JISH4000の1070に対応する組成の純アルミニウム系材料で構成した軟素線2aで構成されており、内層部11dを撚り合わせる内層撚り合せピッチP1が、
図12(a)に示すように、内層部11dの直径である内層直径Φd1の約12.1倍である19.4mmであるとともに、外層撚り合せピッチP2が、
図12(b)に示すように、導体直径Φd2の約13.4倍である29.9mmである。すなわち、第2層102と第3層103との内層撚り合せピッチP1は等しいが、第4層104の外層撚り合せピッチP2は第2層102及び第3層103の内層撚り合せピッチP1と異なる。
【0177】
なお、内層部11dは、第1実施形態における撚線導体1aと同様の構成であって、内層撚り合せピッチP1を内層直径Φd1の約12.1倍となるように構成することだけに限らず、内層直径Φd1の8.6倍以上22.0倍以下、より好ましくは、12.1倍以上20.7倍以下であればよい。
【0178】
また、最外層12dは、外層撚り合せピッチP2を導体直径Φd2の約13.4倍となるように構成することだけに限らず、導体直径Φd2の6.8倍以上22.7倍以下、より好ましくは、7.5倍以上18.2倍以下であればよい。
【0179】
さらに、最外層12dを撚り合わせた後の内層撚り合せピッチP3は、最外層12dを撚り合わせる際に内層部11dに撚り合せ荷重が作用するため、下記数式(1)で定まる数となる。すなわち、最外層12dを撚り合わせた後の内層撚り合せピッチP3は、約11.8mmとなる。なお、内層撚り合せピッチP3は、
図12(b)に示す撚線導体1dの径内側の内層部11dにおける撚り合せピッチであるため図示省略する。
【0180】
【数1】
ただし、上記数式(1)中のP1は、最外層12dを構成する前の内層撚り合せピッチをあらわし、P2は、外層撚り合せピッチをあらわし、P3は、最外層12dを構成した状態の内層撚り合せピッチをあらわす。
【0181】
従って、撚り合せ荷重を内層部11dに作用させながら最外層12dを撚り合わせたことに伴って、内層撚り合せピッチは、19.4mm(内層撚り合せピッチP1)から約11.8mm(内層撚り合せピッチP3)に変化して、29.9mmである外層撚り合せピッチP2と異なる撚り合せピッチとなるため、内層部11dを構成する軟素線2aと、最外層12dを構成する軟素線2aと交差する態様となる。
【0182】
上述のように構成した撚線導体1dの製造方法について、以下において説明する。
撚線導体1dは、
図13(a)に示すように、軟化処理工程(ステップV1)を行った後に、撚り合せ工程(ステップV2)を行って製造する。
なお、
図13(a)は、撚線導体1dの製造方法を説明するフロー図を示している。
【0183】
撚線導体1dの製造方法における軟化処理工程(ステップV1)は、第1実施形態の撚線導体1aの製造方法における軟化処理工程(ステップS1)と同様であるため説明を省略する。
【0184】
撚り合せ工程(ステップV2)は、
図13(b)に示すように、内層部11dを撚り合わせる内層撚り合せ工程(ステップV21)と、内層部11dの外側に第4層104(最外層12d)を撚り合わせる外層撚り合せ工程(ステップV22)とをこの順に行う。
なお、
図13(b)は、撚り合せ工程(ステップV2)を説明するフロー図を示している。
【0185】
内層撚り合せ工程(ステップV21)は、第1実施形態の撚線導体1aの製造方法における撚り合せ工程と同様であるため説明を省略する。
外層撚り合せ工程(ステップV22)は、内層撚り合せ工程(ステップV21)でボビン3bに巻き回した内層部11dを巻き解きながら、最外層12dを構成する軟素線2aを、内層部11dの外側に撚り合わせる。
【0186】
このとき、内層部11dに50Nの張力を作用させるとともに、最外層12d(第4層104)を構成する軟素線2aのそれぞれに2.0Nの張力を作用させる。
さらに、導体直径Φd2の約13.4倍である29.9mmの外層撚り合せピッチP2で軟素線2aを撚り合わせる。
【0187】
なお、内層部11dに作用させる張力は、50Nだけに限らず、20N以上80N以下の範囲で適宜設定することができる。また、軟素線2aに作用させる張力は、2.0Nだけに限らず、1.5N以上2.5N以下の範囲で適宜設定することができる。
以上のような外層撚り合せ工程(ステップV22)は、撚線導体1dが所望の長さとなるまで行う。
【0188】
上述のように、第1実施形態における撚線導体1aと同様に撚り合わせた19本の軟素線2aを内層部11dとし、該内層部11dの外側に18本の軟素線2aを同心状に配置して最外層12dを構成し、最外層12dを撚り合わせる外層撚り合せピッチP2を、導体直径Φd2の6.8倍以上22.7倍以下である約13.4倍とするとともに、最外層12dを構成した状態における内層部11dの内層撚り合せピッチP3を、上述の数式(1)で定まる数としたことで、軟素線2aの撚り乱れや、軟素線2aの外部への飛び出しなどの不具合が生じることを抑制した所望の撚線導体1aを構成することができる。
【0189】
詳述すると、撚り合せ荷重を内層部11dに作用させながら最外層12dを撚り合わせることに伴って、内層撚り合せピッチP1は変化して、外層撚り合せピッチP2と異なる内層撚り合せピッチP3となるため、内層部11dを構成する軟素線2aと最外層12dを構成する軟素線2aとは交差する態様で撚り合わされて、軟素線2aの外部への飛び出しなどの不具合を防止できる。
【0190】
従って、所望の撚線導体1dを構成することができる。なお、撚線導体1dは、外層撚り合せピッチP2が、導体直径Φd2の7.5倍以上18.2倍以下であるため、軟素線2aの撚り乱れや軟素線2aの飛び出しなどの不具合が生じることを確実に防止した所望の撚線導体1aを構成することができる。
【0191】
また、撚り合せ工程を、内層部11dを撚り合わせる内層撚り合せ工程と、最外層12dを撚り合わせる外層撚り合せ工程とをこの順に行い、該外層撚り合せ工程において、軟素線2aに1.5N以上2.5N以下である2.0Nの張力を作用させるとともに、内層部11dに20N以上80N以下である50Nの張力を作用させたことで、最外層12dを構成する軟素線2aを弛みなく所定の外層撚り合せピッチP2で確実に撚り合わせることができるため、軟素線2aの撚り乱れや、軟素線2aの外部への飛び出しなどの不具合が生じることを防止した所望の撚線導体1dを製造することができる。
【0192】
詳述すると、20Nよりも小さな張力を内層部11dに作用させたり、内層部11dに張力を作用させずに撚り合わせた場合、内層部11dに弛みが生じるおそれがある。
一方、80Nよりも大きな張力を内層部11dに作用させて撚り合わせた場合、内層部11dを構成する軟素線2aが伸びたり、破断したりするおそれがある。
【0193】
さらに、1.5Nよりも小さな張力を軟素線2aに作用させたり、軟素線2aに張力を作用させずに撚り合わせた場合、最外層12dを構成する軟素線2aに撚り乱れが生じたり、内層部11dを構成する軟素線2aの外部への飛び出しが生じたりするおそれがある。
一方、2.5Nよりも大きな張力を軟素線2aに作用させて撚り合わせた場合、軟素線2aが伸びたり、破断したりするおそれがある。
【0194】
これに対して、内層部11dに20N以上80N以下である50Nの張力を作用させるとともに、最外層12dを構成する軟素線2aに1.5N以上2.5N以下である2.0Nの張力を作用させて撚り合わせることで、適度に張った状態の内層部11dに、最外層12dを構成する軟素線2aを弛みなく所定の外層撚り合せピッチP2で撚り合わせることができるとともに、内層部11dを構成する軟素線2aや最外層12dを構成する軟素線2aが伸びたり、破断したりすることを防止できる。
【0195】
これにより、軟素線2aの撚り乱れや、軟素線2aの外部への飛び出しなどの不具合が生じることを防止した所望の撚線導体1dを弛みなく撚り合わせることができる。
【0196】
上述のような効果を奏する撚線導体1dの効果確認試験である第4-1撚り合せ試験について説明する。
効果確認試験として行う第4-1撚り合せ試験は、内層撚り合せ工程を行った後に外層撚り合せ工程を行う撚り合せ工程を行って37本の軟素線2aを撚り合わせて構成した撚線導体(供試体Dとする)を評価する試験である。
【0197】
なお、第4-1撚り合せ試験では、内層撚り合せ工程において、内層撚り合せピッチP1が内層直径Φd1の12.1倍となるように構成した内層部11d(第1撚り合せ試験において確認した、上記不具合が生じることを抑制した撚線導体1aと同様の構成)を用いて行う。
【0198】
まず、第4-1撚り合せ試験で構成する供試体Dとして、外層撚り合せピッチP2が導体直径Φd2の5.6倍である供試体Daと、6.2倍である供試体Dbと、6.8倍である供試体Dcと、7.5倍である供試体Ddと、18.2倍である供試体Deと、22.7倍である供試体Dfと、24.5倍である供試体Dgと、27.1倍である供試体Dhとを用いた。
【0199】
さらに、上記供試体Daとして、内層部11dに50Nの張力を作用させながら、最外層12dを構成する軟素線2aに1.0Nの張力を作用させて撚り合わせた供試体Da1と、1.5Nの張力を作用させて撚り合わせた供試体Da2と、2.0Nの張力を作用させて撚り合わせた供試体Da3と、2.5Nの張力を作用させて撚り合わせた供試体Da4と、3.0Nの張力を作用させて撚り合わせた供試体Da5とを用いた。
【0200】
そして、供試体Db~Dhとして、供試体Daと同様に、軟素線2aに作用させる張力を変化させた供試体Db1~Db5、供試体Dc1~Dc5、供試体Dd1~Dd5、供試体De1~De5、供試体Df1~Df5、供試体Dg1~Dg5、及び供試体Dh1~Dh5を用いた。
【0201】
第4-1撚り合せ試験は、上述した第1-1撚り合せ試験と同様に、10本ずつ製造した各供試体をそれぞれ無作為に選んだ5本の外観から不具合の有無を評価した。その評価結果を下記表4-1に示す。
【0202】
【表4-1】
その結果、上記表4-1に示すように、供試体Dc2~Df2,Dc3~Df3,Dc4~Df4は、軟素線2aの撚り乱れや、軟素線2aの外部への飛び出し、或いは、軟素線2aの伸びや破断などの不具合が生じることを抑制でき、さらに、供試体Dd2~Dd4,De2~De4は、供試体の全区間を所望の外層撚り合せピッチP2で撚り合わせることができた。
【0203】
一方、供試体Da1~Da5,Db1~Db5は、軟素線2aの撚り乱れが生じ、供試体Dg1~Dg5,Dh1~Dh5は、内層部11dを構成する軟素線2aの外部への飛び出しが生じた。
さらに、供試体Da1~Dh1は、軟素線2aに撚り乱れが生じる場合があり、供試体Da5~Dh5は、軟素線2aに伸びや破断が生じる場合があった。
【0204】
続いて、上記供試体Daとして、最外層12dを構成する軟素線2aに2.0Nの張力を作用させながら、内層部11dに10Nの張力を作用させた供試体Da6と、内層部11dに20Nの張力を作用させた供試体Da7と、内層部11dに50Nの張力を作用させた供試体Da8と、内層部11dに80Nの張力を作用させた供試体Da9と、内層部11dに90Nの張力を作用させた供試体Da10とを用いた。
【0205】
そして、供試体Db~Dhとして、供試体Daと同様に、内層部11dに作用させる張力を変化させた供試体Db6~Db10、供試体Dc6~Dc10、供試体Dd6~Dd10、供試体De6~De10、供試体Df6~Df10、供試体Dg6~Dg10、及び供試体Dh6~Dh10を用いた。
上記各供試体の評価結果を下記表4-2に示す。
【0206】
【表4-2】
その結果、上記表4-2に示すように、供試体Dc7~Df7,Dc8~Df8,Dc9~Df9は、上記不具合が生じることを抑制でき、さらに、供試体Dd7~Dd9,De7~De9は、供試体の全区間を所望の外層撚り合せピッチP2で撚り合わせることができた。
【0207】
一方、供試体Da6~Da10,Db6~Db10は、軟素線2aの撚り乱れが生じ、供試体Dg6~Dg10,Dh6~Dh10は、内層部11dを構成する軟素線2aの外部への飛び出しが生じた。
さらに、供試体Da6~Dh6は、軟素線2aに撚り乱れが生じる場合があり、供試体Da10~Dh10は、軟素線2aに伸びや破断が生じる場合があった。
【0208】
以上より、内層撚り合せ工程を行った後に外層撚り合せ工程を行う撚り合せ工程を行って37本の軟素線2aを撚り合わせて構成した撚線導体1dは、内層撚り合せピッチP1が内層直径Φd1の12.1倍である内層部11dに20N以上80N以下の張力を作用させるとともに、最外層12dを構成する軟素線2aに1.5N以上2.5N以下の張力を作用させながら、外層撚り合せピッチP2が導体直径Φd2の6.8倍以上22.7倍以下となるように撚り合わせたことで、上記不具合が生じることを抑制でき、外層撚り合せピッチP2が導体直径Φd2の7.5倍以上18.2倍以下である場合において、上記不具合が生じることをより確実に防止できることが確認できた。
【0209】
なお、詳細な説明を省略するが、第4-1撚り合せ試験において、内層撚り合せピッチP1が内層直径Φd1の12.1倍である内層部11dを用いて行ったが、内層撚り合せピッチP1が内層直径Φd1の12.1倍以上20.7倍以下である内層部11dを用いても、上記評価結果と同じになった。
【0210】
一方、内層直径Φd1の8.6倍よりも小さく、又は22.0倍よりも大きい内層撚り合せピッチP1で構成した撚線導体1d(第1撚り合せ試験において確認した、上記不具合が生じた撚線導体1aと同様の構成)は、如何に最外層12dを撚り合わせる条件を変更しても上記不具合が生じることを確認できた。
【0211】
従って、内層撚り合せ工程を行った後に外層撚り合せ工程を行って構成する撚線導体1dは、内層撚り合せピッチP1が内層直径Φd1の8.6倍以上22.0倍以下、より好ましくは、12.1倍以上20.7倍以下である内層部11dに対して、最外層12dを撚り合わせることが良いということがわかった。
【0212】
また、上述の説明では、JISH4000の1070に対応する組成の純アルミニウム系材料で構成した軟素線2aで撚線導体1dを構成したが、マグネシウム及びケイ素を添加してJISH4000の1070に対応する組成の純アルミニウム系材料よりも引張強度を向上させた高強度のアルミニウム合金材料製の素線に軟化処理を施した軟素線で撚線導体を構成してもよい。この場合、最外層を構成する軟素線に1.0N以上4.5N以下の張力を作用させるとともに、内層部に20N以上150N以下の張力を作用させながら撚り合わせることで、所定の外層撚り合せピッチP2で弛みなく最外層を撚り合わせた所望の撚線導体を製造することができる。
【0213】
このように、JISH4000の1070に対応する組成の純アルミニウム系材料よりも高強度のアルミニウム合金材料で構成した軟素線を用いて製造した撚線導体の効果確認試験である第4-2撚り合せ試験について以下に説明する。
まず、第4-2撚り合せ試験で構成する供試体Dとして、各外層撚り合せピッチP2が上述の第4-1撚り合せ試験と同様である供試体Da~Dhを用いた。
【0214】
さらに、上記供試体Daとして、内層部に70Nの張力を作用させながら、高強度のアルミニウムで構成した最外層を構成する軟素線に、第4-1撚り合せ試験と同等の張力を作用させて撚り合わせた供試体Da1~Da5と、0.5Nの張力を作用させて撚り合わせた供試体Da11と、4.0Nの張力を作用させながら製造した供試体Da12と、4.5Nの張力を作用させて撚り合わせた供試体Da13と、5.0Nの張力を作用させて撚り合わせた供試体Da14とを用いた。
【0215】
そして、供試体Db~Dhとして、供試体Daと同様に、軟素線に作用させる張力を変化させた供試体Db1~Db5,Db11~Db15、供試体Dc1~Dc5,Dc11~Dc15、供試体Dd1~Dd5,Dd11~Dd15、供試体De1~De5,De11~De15、供試体Df1~Df5,Df11~Df15、供試体Dg1~Dg5,Dg11~Dg15、及び供試体Dh1~Dh5,Dh11~Dh15を用いた。
【0216】
上述のような供試体を用いて行った第4-2撚り合せ試験の評価結果を下記表4-3に示す。
【0217】
【表4-3】
その結果、上記表4-3に示すように、供試体Dc1~Df1,Dc2~Df2,Dc3~Df3,Dc4~Df4,Dc5~Df5,Dc12~Df12,Dc13~Df13は、軟素線の撚り乱れや、軟素線の外部への飛び出し、或いは、軟素線の伸びや破断などの不具合が生じることを抑制でき、さらに、供試体Dd1~Dd5,Dd12,Dd13,De1~De5,De12,De13は、供試体の全区間を所望の外層撚り合せピッチP2で撚り合わせることができた。
【0218】
一方、供試体Da1~Da5,Da11~Da14,Db1~Db5,Db11~Db14は、軟素線の撚り乱れが生じ、供試体Dg1~Dg5,Dg11~Dg14,Dh1~Dh5,Dh11~Dh14は、内層部を構成する軟素線の外部への飛び出しが生じた。
さらに、供試体Da11~Dh11は、軟素線に撚り乱れが生じる場合があり、供試体Da14~Dh14は、軟素線に伸びや破断が生じる場合があった。
【0219】
続いて、上記供試体Daとして、高強度のアルミニウム合金材料で構成した最外層を構成する軟素線に2.5Nの張力を作用させながら、内層部に10Nの張力を作用させた供試体Da15と、内層部に20Nの張力を作用させた供試体Da16と、内層部に70Nの張力を作用させた供試体Da17と、内層部に150Nの張力を作用させた供試体Da18と、内層部に160Nの張力を作用させた供試体Da19とを用いた。
【0220】
そして、供試体Db~Dhとして、供試体Daと同様に、内層部に作用させる張力を変化させた供試体Db15~Db19、供試体Dc15~Dc19、供試体Dd15~Dd19、供試体De15~De19、供試体Df15~Df19、供試体Dg15~Dg19、及び供試体Dh15~Dh19を用いた。
上記各供試体の評価結果を下記表4-4に示す。
【0221】
【表4-4】
その結果、上記表4-4に示すように、供試体Dc16~Df16,Dc17~Df17,Dc18~Df18は、上記不具合が生じることを抑制でき、さらに、供試体Dd16~Dd18,De16~De18は、供試体の全区間を所望の外層撚り合せピッチP2で撚り合わせることができた。
【0222】
一方、供試体Da15~Da19,Db15~Db19は、軟素線の撚り乱れが生じ,供試体Dg15~Dg19,Dh15~Dh19は、内層部を構成する軟素線の外部への飛び出しが生じた。
さらに、供試体Da15~Dh15は、軟素線に撚り乱れが生じる場合があり、供試体Da19~Dh19は、軟素線に伸びや破断が生じる場合があった。
【0223】
以上より、高強度のアルミニウム合金材料で構成した軟素線を用いて製造した撚線導体は、内層撚り合せピッチP1が内層直径Φd1の12.1倍である内層部に20N以上150N以下の張力を作用させるとともに、最外層を構成する軟素線に1.0N以上4.5N以下の張力を作用させながら、外層撚り合せピッチP2が導体直径Φd2の6.8倍以上22.7倍以下となるように撚り合わせたことで、上記不具合が生じることを抑制でき、外層撚り合せピッチP2が導体直径Φd2の7.5倍以上18.2倍以下である場合において、上記不具合が生じることをより確実に防止できることが確認できた。
【0224】
なお、詳細な説明を省略するが、第4-2撚り合せ試験においても、上述した第4-1撚り合せ試験と同様、内層撚り合せ工程を行った後に外層撚り合せ工程を行って構成する撚線導体は、内層撚り合せピッチP1が内層直径Φd1の8.6倍以上22.0倍以下、より好ましくは、12.1倍以上20.7倍以下である内層部に対して、最外層を撚り合わせることが良いということがわかった。
【0225】
この発明の構成と、上述の実施形態との対応において、
この発明の軟化処理素線は、実施形態の軟素線2aに対応し、
以下同様に、
軟化未処理素線は、硬素線2bに対応するが、
この発明は、上述の実施形態の構成のみに限定されるものではなく、多くの実施の形態を得ることができる。
【0226】
例えば、上述の説明によれば、軟素線2a及び硬素線2bは、JISH4000の1070に対応する組成の純アルミニウム系材料で、直径0.32mmに構成しているが、その他の純アルミニウム系材料やアルミニウム合金材料で構成した素線などであってもよいし、直径を0.32mmに限定せず、例えば、直径が0.1mm~1.1mmの範囲の素線であってもよい。
【0227】
また、上記実施形態では、軟素線2a及び硬素線2bは、JISH4000の1070に対応する組成の直径0.32mmのアルミニウム素線で構成している。ここで、軟素線2a及び硬素線2bが作用させた張力により受ける負荷はアルミニウム素線の断面積に比例することから、上述のように直径が0.1mm~1.1mmの範囲の素線であっても、直径0.32mmの軟素線2a及び硬素線2bに作用させる張力を基準として作用させるのに好ましい張力を求めることができる。すなわち、軟素線2aなどに作用させる張力を軟素線2aなどの断面積である約0.08mm2で割った値を基準としても良い。
【0228】
さらに、軟化処理工程を、上述の説明のように、ボビン3a,3bに巻き付けた状態で、約350度の高温下に約5時間放置して素線を軟化させることのみならず、素線や撚線導体を引き伸ばした状態で軟化させる軟化処理工程であってもよい。
【0229】
また、撚線導体1aは、
図4及び
図5に示す撚線機4aを用いて、第2層102及び第3層103の撚り合せピッチを19.4mmとしているが、撚線導体1aを撚り合わせるのに撚線機4aを用いる必要はなく、例えば
図14及び
図15に示す撚線機4cを用いることもできる。
【0230】
撚線機4cは、
図14及び
図15に示すように、第2層102を撚り合わせる第2層撚り合せユニット5と、第3層103を撚り合わせる第3層撚り合せユニット6とを組み合わせた構成であり、第2層102と第3層103とを同期させて撚り合わせることができる。
【0231】
撚線機4cについて簡単に説明すると、中心101に対して第2層102及び第3層103を同時に撚り合わせることができる撚り合せユニット9と、撚線導体1aを巻き取る導体巻き取り部7とがこの順で配置されている。
【0232】
撚り合せユニット9は、撚線機4aにおける第2層撚り合せユニット5と第3層撚り合せユニット6とを組み合わせた構成である。具体的には、第1ボビン取付部51に対応する第1ボビン取付部91と、第2層撚り合せ部材52及び第3層撚り合せ部材61に対応する撚り合せ部材92と、第2層集合チャック53に対応する第2層集合チャック93と、第3層集合チャック62に対応する第3層集合チャック94とで構成されている。
この撚り合せ部材92は、進行方向Xに伸びる円筒状の軸芯921と、軸芯921の進行方向Xの基端側に備えた円盤状の第1フランジ922と、進行方向Xの進行方向側に備えた円盤状の第2フランジ923とで一体に構成されている。
【0233】
第1フランジ922は、軸芯921が中央部分に嵌合されているとともに、第2ボビン取付部522に対応する第2ボビン取付部951が同一円周上に等間隔隔てて6個配置されている。そして、第2ボビン取付部951の径外側には第3ボビン取付部612に対応する第3ボビン取付部952が同一円周上に等間隔隔てて12個配置されている。
【0234】
一方、第2フランジ923には、進行方向Xに伸びる円筒状の軸芯921の端部が中央部分で嵌合されているとともに、挿通孔523に対応する第二挿通孔961及び挿通孔613に対応する第三挿通孔962が、第2ボビン取付部951及び第3ボビン取付部952と対向する位置にそれぞれ設けられている。
【0235】
すなわち、第二挿通孔961は第2フランジ923上に略正6角形状に設けられた貫通孔であり、第三挿通孔962は第2フランジ923上に略正12角形状に設けられた貫通孔である。なお、第三挿通孔962は第二挿通孔961よりも径外側に配置されている。
【0236】
このように構成された撚線機4cを用いて、中心101を中心に第2層102及び第3層103を撚り合わせた撚線導体1aを製造することができるが、その方法については撚線機4aと略同じであるため説明を省く。
【0237】
なお、撚線機4cでは、第2ボビン取付部951及び第3ボビン取付部612並びに、第二挿通孔961及び第三挿通孔962の回転速度(公転速度)が同じであるため、それぞれの軟素線2aに作用させる張力を同じとすることで第2層102と第3層103とが同一のピッチで撚り合されることとなる。
【0238】
同様に、4層からなる撚線導体1cについても
図16や
図17に示す、撚線機4dや撚線機4eを用いて製造することができる。
撚線機4dは、
図16に示すように、撚り合せユニット9と、第4層撚り合せユニット8とをこの順で配置した撚線導体の製造装置である。この構成により、第2層102及び第3層103が同じ撚り合せピッチで撚り合された4層からなる撚線導体1cを製造することができる。
【0239】
一方、撚線機4eは、
図17に示すように、第2層撚り合せユニット5、第3層撚り合せユニット6及び第4層撚り合せユニット8を組み合わせた撚り合せユニット9aと導体巻き取り部7とを組み合わせた構成である。
【0240】
撚り合せユニット9aについて簡単に説明する。なお、撚り合せユニット9aは、撚り合せユニット9と略同じ構成をしており、同一の構成については同じ付番を付して、説明を省略する。
【0241】
撚り合せユニット9aでは、第1フランジ922に対応する第1フランジ922aに第4ボビン取付部812に対応する第4ボビン取付部953が設けられており、また、第2フランジ923に対応する第2フランジ923aに挿通孔813に対応する第4挿通孔963が設けられている。また、第3層集合チャック94よりも進行方向X側には第4層104を撚り合わせるための第4層集合チャック97が設けられている。
【0242】
なお、第4ボビン取付部953は同心円状に等間隔を隔てて18個、第3ボビン取付部952の径外側に配置され、第4挿通孔963は第4ボビン取付部953と対向する位置において18個設けられている。
【0243】
このように構成された撚線機4eを用いることにより、第1層である中心101に対して第2層102を、第2層102の外周に第3層103を、第3層103の外周に第4層104を同一の撚り合せピッチで撚り合わせることができる。
【符号の説明】
【0244】
1a,1b,1c,1d…撚線導体
2a…軟素線
2b…硬素線
3a,3b…ボビン
4a,4b…撚線機
11a,11b,11c,11d…内層部
12a,12b,12c,12d…最外層
101…中心
102…第2層
103…第3層
104…第4層
Φd1…内層直径
Φa,Φb,Φc,Φd2…導体直径
Pa,Pb,Pc…撚り合せピッチ
P1,P3…内層撚り合せピッチ
P2…外層撚り合せピッチ
X…進行方向