(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-25
(45)【発行日】2022-06-02
(54)【発明の名称】テトラゾリノン化合物およびその用途
(51)【国際特許分類】
C07D 403/10 20060101AFI20220526BHJP
A01N 43/713 20060101ALI20220526BHJP
A01P 7/04 20060101ALI20220526BHJP
【FI】
C07D403/10 CSP
A01N43/713
A01P7/04
(21)【出願番号】P 2019541045
(86)(22)【出願日】2018-09-10
(86)【国際出願番号】 JP2018033389
(87)【国際公開番号】W WO2019050028
(87)【国際公開日】2019-03-14
【審査請求日】2021-06-16
(31)【優先権主張番号】P 2017173779
(32)【優先日】2017-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】長島 優太
(72)【発明者】
【氏名】木村 教男
【審査官】谷尾 忍
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-080415(JP,A)
【文献】特表平11-508257(JP,A)
【文献】特表2016-526538(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 403/10
A01N 43/713
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)
【化1】
で示される化合物。
【請求項2】
請求項1記載の化合物を含有する害虫防除剤。
【請求項3】
請求項1記載の化合物の有効量を害虫又は害虫の生息場所に施用する害虫の防除方法
(但し、人の治療に関する方法を除く)。
【請求項4】
害虫を防除するための、請求項1記載の化合物の使用
(但し、人の治療に関する使用を除く)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は2017年9月11日に出願された日本国特許出願第2017-173779に対する優先権およびその利益を主張するものであり、その全内容は参照することにより本出願に組み込まれる。
本発明はテトラゾリノン化合物及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、害虫を防除するために種々の化合物が開発されており、実用に供されている。しかしながら害虫の抵抗性の発達等により、害虫に対する防除活性を有する新しい化合物が求められている。
特許文献1には、有害生物に対する防除効果を有するテトラゾリノン化合物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、害虫、特に鱗翅目害虫に対して優れた防除効力を有する化合物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、害虫、特に鱗翅目害虫に対して優れた防除効力を有する化合物を見出すべく検討した結果、下記式(1)で示される化合物が害虫、特に鱗翅目害虫に対して優れた防除効力を有することを見出した。
すなわち、本発明は以下の通りである。
〔1〕式(1)
【化1】
で示される化合物(以下、本発明化合物と記す)。
〔2〕本発明化合物を含有する害虫防除剤(以下、本発明防除剤と記す)。
〔3〕本発明化合物の有効量を害虫又は害虫の生息場所に施用する害虫の防除方法。
〔4〕害虫を防除するための、本発明化合物の使用。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、害虫、特に鱗翅目害虫を防除することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明化合物は、通常、固体担体、液体担体(オイル等)、ガス状担体等の不活性担体、及び/又は界面活性剤等とを混合し、必要により固着剤、分散剤、着色剤、安定剤等の製剤用補助剤を添加して、水和剤、顆粒水和剤、フロアブル剤、粒剤、ドライフロアブル剤、乳剤、水性液剤、油剤、くん煙剤、エアゾール剤、マイクロカプセル剤等の本発明防除剤に製剤化して用いる。これらの製剤には本発明化合物が重量比で通常0.1~99%、好ましくは0.2~90%含有される。
【0008】
本発明化合物は、殺菌剤、その他の殺虫剤、除草剤等と混用または併用して用いることができる。また、そのような混用または併用により効果の増強も期待できる。
また、本発明化合物は、更に鳥の忌避剤として使用されるアントラキノン(anthraquinone)等の化合物と混用または併用してもよい。
【0009】
製剤化の際に用いられる固体担体としては、例えば粘土類(カオリンクレー、珪藻土、ベントナイト、フバサミクレー、酸性白土等)、合成含水酸化珪素、タルク、セラミック、その他の無機鉱物(セリサイト、石英、硫黄、活性炭、炭酸カルシウム、水和シリカ等)、化学肥料(硫安、燐安、硝安、尿素、塩安等)等の微粉末及び粒状物等、並びに合成樹脂(ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリル酸メチル、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ナイロン-6、ナイロン-11、ナイロン-66等のナイロン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニル-プロピレン共重合体等)が挙げられる。
【0010】
液体担体としては、例えば水、アルコール類(メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、ヘキサノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノキシエタノール等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等)、芳香族炭化水素類(トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ドデシルベンゼン、フェニルキシリルエタン、メチルナフタレン等)、脂肪族炭化水素類(ヘキサン、シクロヘキサン、灯油、軽油等)、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル、ミリスチン酸イソプロピル、オレイン酸エチル、アジピン酸ジイソプロピル、アジピン酸ジイソブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等)、ニトリル類(アセトニトリル、イソブチロニトリル等)、エーテル類(ジイソプロピルエーテル、1,4-ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール等)、酸アミド類(N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等)、ハロゲン化炭化水素類(ジクロロメタン、トリクロロエタン、四塩化炭素等)、スルホキシド類(ジメチルスルホキシド等)、炭酸プロピレン及び植物油(大豆油、綿実油等)が挙げられる。
【0011】
ガス状担体としては、例えばフルオロカーボン、ブタンガス、LPG(液化石油ガス)、ジメチルエーテル及び炭酸ガスが挙げられる。
【0012】
界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル等の非イオン界面活性剤、及びアルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩等の陰イオン界面活性剤が挙げられる。
【0013】
その他の製剤用補助剤としては、固着剤、分散剤、着色剤及び安定剤等、具体的には例えばカゼイン、ゼラチン、糖類(でんぷん、アラビアガム、セルロース誘導体、アルギン酸等)、リグニン誘導体、ベントナイト、合成水溶性高分子(ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸類等)、PAP(酸性リン酸イソプロピル)、BHT(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール)、BHA(2-tert-ブチル-4-メトキシフェノールと3-tert-ブチル-4-メトキシフェノールとの混合物)が挙げられる。
【0014】
本発明の防除方法は、畑、水田、芝生、果樹園等の農耕地における害虫、特に鱗翅目害虫防除に使用することができる。
【0015】
本発明の防除方法により防除することができる害虫、特に鱗翅目害虫としては、具体的には例えば、以下のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0016】
鱗翅目害虫:ニカメイガ(Chilo suppressalis)、Darkheaded stm borer(Chilo polychrysus)、サンカメイガ(Tryporyza incertulas)、シロメイチュウ(Scirpophaga innotata)、Yellow stem borer(Scirpophaga incertulas)、Pink borer(Sesamia inferens)、Rupela albinella、コブノメイガ(Cnaphalocrocis medinalis)、Marasmia patnalis、Marasmia exigna、ワタノメイガ(Notarcha derogata)、ノシメマダラメイガ(Plodia interpunctella)、アワノメイガ(Ostrinia furnacalis)、ハイマダラノメイガ(Hellula undalis)、シバツトガ(Pediasia teterrellus)、ライスケースワーム(Nymphula depunctalis)、Marasmia属、Hop vine borer(Hydraecia immanis)、European corn borer(Ostrinia nubilalis)、Lesser cornstalk borer(Elasmopalpus lignosellus)、Bean Shoot Borer(Epinotia aporema)、Sugarcane borer(Diatraea saccharalis)、Giant Sugarcane borer(Telchin licus)等のメイガ類;ハスモンヨトウ(Spodoptera litura)、シロイチモジヨトウ(Spodoptera exigua)、アワヨトウ(Pseudaletia separata)、ヨトウガ(Mamestra brassicae)、イネヨトウ(Sesamia inferens)、シロナヨトウ(Spodoptera mauritia)、ツマジロクサヨトウ(Spodoptera frugiperda)、Spodoptera exempta、タマナヤガ(Agrotis ipsilon)、タマナギンウワバ(Plusia nigrisigna)、Soybean looper (Pseudoplusia includens)、トリコプルシア属、タバコガ(Heliothis virescens)等のヘリオティス属、オオタバコガ(Helicoverpa armigera)等のヘリコベルパ属、Velvetbean caterpillar(Anticarsia gammatalis)、Cotton leafworm (Alabama argillacea)等のヤガ類;モンシロチョウ(Pieris rapae)等のシロチョウ類;アドキソフィエス属、ナシヒメシンクイ(Grapholita molesta)、マメシンクイガ(Leguminivora glycinivorella)、アズキサヤムシガ(Matsumuraeses azukivora)、リンゴコカクモンハマキ(Adoxophyes orana fasciata)、チャノコカクモンハマキ(Adoxophyes honmai)、チャハマキ(Homona magnanima)、ミダレカクモンハマキ(Archips fuscocupreanus)、コドリンガ(Cydia pomonella)等のハマキガ類;チャノホソガ(Caloptilia theivora)、キンモンホソガ(Phyllonorycter ringoneella)等のホソガ類;モモシンクイガ(Carposina niponensis)、Citrus fruit borer(Ecdytolopha aurantiana)等のシンクイガ類;Coffee Leaf miner(Leucoptera coffeela)、リオネティア属等のハモグリガ類;リマントリア属、ユープロクティス属等のドクガ類;コナガ(Plutella xylostella)等のスガ類;ワタアカミムシ(Pectinophora gossypiella)、ジャガイモガ(Phthorimaea operculella)等のキバガ類;アメリカシロヒトリ(Hyphantria cunea)等のヒトリガ類。
【0017】
防除対象の害虫は、薬剤感受性の低下した、または薬剤抵抗性の発達した害虫であってもよい。
【0018】
本発明の防除方法は、本発明化合物の有効量を害虫に直接、又は害虫の生息場所(植物、土壌、家屋内、動物体等)に施用する工程を含む。
本発明の防除方法において、本発明化合物をそのまま用いることもできるが、通常は本発明防除剤を、必要に応じて水にて希釈して用いる。
本発明防除剤を農業分野の害虫防除に用いる場合、その施用量は10,000m2あたり本発明化合物の量で通常1~10,000gである。本発明防除剤が乳剤、水和剤、フロアブル剤である場合は、通常は、本発明化合物の濃度が0.01~10,000ppmとなるように水で希釈して施用する。
本発明防除剤や本発明防除剤の水希釈液は、害虫の生息場所だけでなく、害虫から保護すべき対象物(植物、土壌、動物)に対して施用してもよい。
【実施例】
【0019】
以下に製造例、製剤例及び試験例を示して、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例のみに限定されるものではない。
まず、本発明化合物の製造例を示す。
【0020】
製造例
【化2】
窒素雰囲気下、式(2)で示される化合物50.0g、アセトン122.5g、炭酸カリウム35.9g及び式(3)で示される化合物37.6gを混合し、該混合物を50℃に昇温した後に9時間攪拌した。その後、反応混合物に飽和塩化アンモニウム水溶液(300g)を加え、生じた固形物をろ別し、更に酢酸エチルで洗浄して、固形物27.5gを得た。該固形物をトルエン230.5gにて85℃で溶解させた後、60℃まで徐々に冷却し、析出した結晶をろ別した。得られた結晶をトルエン20.0gで洗浄した後に、減圧下で乾燥し、本発明化合物11.1g(99.2%LC面積百分率)を得た。
【0021】
本発明化合物
1H-NMR (CDCl3) δ(ppm):7.36-7.23(4H,m),7.16-7.13(1H,m),6.82-6.77(2H,m),4.72(2H,s),3.57(3H,s),3.56(2H,t,J=7.2Hz),2.34(2H,t,J=7.2Hz),2.25(3H,s)
【0022】
また、結晶化時のトルエン溶液のろ液を濃縮して得られる残渣を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/クロロホルム)に付すことにより、式(4)で示される化合物1.7g(99.2%LC面積百分率)を得た。
【化3】
【0023】
式(4)で示される化合物
1H-NMR (CDCl3) δ(ppm):7.44-7.38(2H,m),7.28-7.23(1H,m),7.21-7.16(2H,m),6.85―6.80(2H,m),5.26(2H,s),3.69(2H,t,J=9.6Hz),3.60(3H,s),2.83(2H,t,J=9.6Hz),2.53(3H,s)
【0024】
次に、本発明化合物の製剤例を示す。なお、部は重量部を表す。
【0025】
製剤例1
本発明化合物10部を、キシレン35部とN,N-ジメチルホルムアミド35部との混合物に混合し、そこにポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル14部及びドデシルベンゼンスルホン酸カルシウム6部を加え、混合して製剤を得る。
【0026】
製剤例2
ラウリル硫酸ナトリウム4部、リグニンスルホン酸カルシウム2部、合成含水酸化珪素微粉末20部及び珪藻土54部を混合し、更に本発明化合物20部を加え、混合して製剤を得る。
【0027】
製剤例3
本発明化合物2部に、合成含水酸化珪素微粉末1部、リグニンスルホン酸カルシウム2部、ベントナイト30部及びカオリンクレー65部を加え混合する。ついで、この混合物に適当量の水を加え、さらに撹拌し、造粒機で造粒し、通風乾燥して粒剤を得る。
【0028】
製剤例4
本発明化合物1部を適当量のアセトンに混合し、これに合成含水酸化珪素微粉末5部、酸性リン酸イソプロピル0.3部及びカオリンクレー93.7部を加え、充分撹拌混合し、アセトンを蒸発除去して製剤を得る。
【0029】
製剤例5
本発明化合物0.1部を、キシレン5部及びトリクロロエタン5部の混合物に混合し、これをケロシン89.9部に混合して、油剤を得る。
【0030】
製剤例6
本発明化合物10部、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートアンモニウム塩と湿式シリカとの混合物(重量比1:1)35部及び水55部を混合し、湿式粉砕法で微粉砕することにより、製剤を得る。
【0031】
次に、本発明化合物の害虫に対する効力を試験例により示す。下記試験例において、試験は25℃で行った。
【0032】
試験例1 コナガに対する防除試験
本発明化合物を製剤例6に記載の方法に準じて製剤とし、これに展着剤を0.03容量%含有する水を加え、有効成分を500ppm含有する希釈液を調製した。
容器に植えたキャベツ(Brassicae oleracea)苗(第2~3本葉展開期)の葉に、該希釈液を20mL/苗の割合で散布した。その後、この苗の茎葉部を切り取り、この葉をろ紙を敷いた容器内に入れた。これにコナガ(2齢幼虫)約5頭を放虫した。5日後、生存虫数を調査し、以下の式により防除価を求めた。本発明化合物は100%の防除効果を示した。
【0033】
防除価(%)={1-(Cb×Tai)/(Cai×Tb)}×100
なお、式中の文字は以下の意味を表す。
Cb:無処理区の供試虫数
Cai:無処理区の調査時の生存虫数
Tb:処理区の供試虫数
Tai:処理区の調査時の生存虫数
ここで無処理区とは、本発明化合物を使用しないこと以外は処理区と同じ操作をする区を意味する。
【0034】
一方、式(4)で示される化合物は植物病害、具体的には、コムギ葉枯病(Septoria tritici)やオオムギ網斑病(Pyrenophora teres)に対して茎葉散布による予防効力を有していた。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明化合物は、害虫、特に鱗翅目害虫に対して防除効果を有し、害虫防除剤の有効成分として有用である。