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<図1>
  • 特許-影響評価方法及び影響評価システム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-26
(45)【発行日】2022-06-03
(54)【発明の名称】影響評価方法及び影響評価システム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/10 20120101AFI20220527BHJP
   G06Q 50/26 20120101ALI20220527BHJP
【FI】
G06Q50/10
G06Q50/26
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019031244
(22)【出願日】2019-02-25
(65)【公開番号】P2020135684
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-06-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】501273886
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立環境研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100124844
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 隆治
(72)【発明者】
【氏名】篠塚 真智子
(72)【発明者】
【氏名】張 暁曦
(72)【発明者】
【氏名】高田 英俊
(72)【発明者】
【氏名】林 克也
(72)【発明者】
【氏名】田中 百合子
(72)【発明者】
【氏名】増井 利彦
(72)【発明者】
【氏名】金森 有子
【審査官】岡北 有平
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-132836(JP,A)
【文献】特開2012-058772(JP,A)
【文献】特開2018-132919(JP,A)
【文献】特開2018-032188(JP,A)
【文献】特開2017-97469(JP,A)
【文献】張 暁曦,電子情報通信学会2016年基礎・境界ソサイエティ/NOLTAソサイエティ大会講演論文集 ,2016年09月21日,155ページ
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ICTサービスの利用による影響を評価するための影響評価システムが実行する影響評価方法であって、
評価対象のICTサービスを示す情報と基準年と評価対象年との入力を受け付ける入力手順と、
第1の記憶部に記憶されている、前記基準年と前記評価対象年において前記評価対象のICTサービスを介して流通する財・サービスの支出額を取得し、前記基準年と前記評価対象年との間の支出額の差分を計算する支出額計算手順と、
第2の記憶部に記憶されている、前記基準年と前記評価対象年において前記評価対象のICTサービスを介して流通する財・サービスを得るために要する所要時間を取得し、前記基準年と前記評価対象年との間の所要時間の差分を計算する所要時間計算手順と、
第3の記憶部に記憶されている、余剰金額と活動発生割合の関係及び余剰時間と活動発生割合の関係に基づいて、前記支出額の差分及び前記所要時間の差分によって発生する活動への支出額の変化を算出し、産業への需給額の変化を算出する需給変化計算手順と、
前記需給額の変化を産業関連表に反映させた状態で均衡計算を行うことで、前記評価対象のICTサービスの利用による影響を評価する評価手順と、
を有する影響評価方法。
【請求項2】
前記評価対象のICTサービスがコンテンツ配信サービスである場合、
前記所要時間計算手順は、前記コンテンツ配信サービスの視聴時間を前記所要時間に加味して、前記基準年と前記評価対象年との間の所要時間の差分を計算する、請求項1に記載の影響評価方法。
【請求項3】
前記評価手順は、前記評価対象年におけるCO2排出量及びGDPの変化を計算する、請求項1又は2に記載の影響評価方法。
【請求項4】
前記需給変化計算手順は、予め決められた、活動と産業との対応に基づいて、前記活動への支出額の変化から前記産業への需給額の変化を算出する、請求項1乃至3のうちいずれか1項に記載の影響評価方法。
【請求項5】
ICTサービスの利用による影響を評価するための影響評価システムであって、
ある年における、ICTサービスを介して流通する財・サービスの支出額を記憶する支出額記憶部と、
ある年における、ICTサービスを介して流通する財・サービスを得るために要する所要時間を記憶する所要時間記憶部と、
余剰金額と活動発生割合の関係及び余剰時間と活動発生割合の関係を記憶する活動発生割合記憶部と、
評価対象のICTサービスを示す情報と基準年と評価対象年との入力を受け付ける入力部と、
前記支出額記憶部から、前記基準年と前記評価対象年において前記評価対象のICTサービスを介して流通する財・サービスの支出額を取得し、前記基準年と前記評価対象年との間の支出額の差分を計算し、前記所要時間記憶部から、前記基準年と前記評価対象年において前記評価対象のICTサービスを介して流通する財・サービスを得るために要する所要時間を取得し、前記基準年と前記評価対象年との間の所要時間の差分を計算する差分計算部と、
前記活動発生割合記憶部を参照して、前記支出額の差分及び前記所要時間の差分によって発生する活動への支出額の変化を算出し、産業への需給額の変化を算出する需給変化計算部と、
前記需給額の変化を産業関連表に反映させた状態で均衡計算を行うことで、前記評価対象のICTサービスの利用による影響を評価する評価部と、
を有する影響評価システム。
【請求項6】
前記評価対象のICTサービスがコンテンツ配信サービスである場合、
前記差分計算部は、前記コンテンツ配信サービスの視聴時間を前記所要時間に加味して、前記基準年と前記評価対象年との間の所要時間の差分を計算する、請求項5に記載の影響評価システム。
【請求項7】
前記評価部は、前記評価対象年におけるCO2排出量及びGDPの変化を計算する、請求項5又は6に記載の影響評価システム。
【請求項8】
前記需給変化計算部は、予め決められた、活動と産業との対応に基づいて、前記活動への支出額の変化から前記産業への需給額の変化を算出する、請求項5乃至7のうちいずれか1項に記載の影響評価システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、影響評価方法及び影響評価システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ICT(Information and Communication Technology)サービスの普及は人々のライフスタイルの変化をもたらしている(非特許文献1)。例えば購買行動においては、実際の店舗に出向かずにインターネット上での商品検索・比較・購入といった購買プロセスが浸透している。ネットショッピング利用者は、実店舗よりも安い価格で購入できる、店舗への移動が不要になるといった利便性を享受することができる。
【0003】
このようなライフスタイルの変化によって、人々が何の活動に何円を充てるかという消費行動が変化し、また、人々が何の活動に何時間を充てるかという時間の消費行動が変化する。このような費用・時間の消費構造の変化は、地球環境に影響を及ぼす。今後、ICTサービスの高機能化、多様化が想定され、さらなるライフスタイルの変化が想定されるため、将来の環境影響を予測することは環境政策の観点から重要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】総務省,平成23年版情報通信白書,2011
【文献】張暁曦 他,「ICT利用によるリバウンド効果の評価に関する検討」,電子情報通信学会ソサイエティ講演論文集,2016
【文献】本堂義行 他,「エントロピー原理に基づくリバウンド効果推定手法の提案」,Journal of Life Cycle Assessment,Vol.5,No.1,pp.122-130 (2009/1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これまでICTサービスの利用によるライフスタイルの変化を通じたCO2排出量変化の評価が行われてきた(非特許文献2)。非特許文献2では、ネットショッピングやテレワーク等の個々のICTサービスについて、節約された費用(Inc)及び時間(T)を充てて発生する活動をアンケートで調査し、以下の式(1)及び(2)に従って各活動に起因するCO2排出量を一次リバウンド効果(RE)として算定している。なお、ここでの一次リバウンド効果は、ICTサービスによって個人の費用・時間が節約されて新たな活動が発生することによるCO2排出量である。
【0006】
RE(i)=T(i)×EST(i)+Inc'(i)×EsInc(i) 式(1)
Inc'(i)=Inc(i)-T(i)×C(i) 式(2)
RE:一次リバウンド効果
T:ICT利用による余剰時間
Inc':ICT利用による補正余剰所得(余剰所得と余剰時間には重複が出るので、余剰所得の総額から、余剰時間を使って起こる活動にかかる額を引いた余剰所得)
Inc:ICT利用による余剰所得
i:ICTサービスの種類
C:単位余剰時間あたりの所得消費原単位(単位あたりの節約された時間で行う活動に必要な金額)
EsT:単位余剰時間あたりのCO2排出原単位(単位あたりの節約された時間で活動を行うことで発生するCO2排出量)
EsInc:単位余剰所得あたりのCO2排出原単位(単位あたりの節約された費用を用いて行う活動により発生するCO2排出量)
非特許文献2を将来の環境影響予測に適用するためには次の障壁がある。
【0007】
ICTサービスが高機能化・多様化した際には、節約される費用・時間及びそれらを充てて発生する活動が変わると考えられる。ICTサービスの例として「インターネットを利用した服の流通」を想定する。これまでは服を購入するという「ネット通販」が主流であったところ、新たに服をレンタルするという「ネットレンタル」サービスが興隆したとする。ネットレンタルによりユーザが服の購入等に要していた費用が節約されれば、ユーザはその節約された費用を原資として、例えば体型を保つための「運動・スポーツ」や「栄養補助食品の購入」などを行うことが予想される。節約された費用や時間を充てて発生するであろう活動(運動や食品購入など)を定義するためには、ICTサービスの高機能化・多様化を想定する度にその都度アンケート調査を行って新たに発生する活動を調査する必要があるため、多大な手間とコストを要する。
【0008】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであって、ICTサービスの利用による影響を環境と経済の観点から評価することができる技術を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一形態に係る影響評価方法は、
ICTサービスの利用による影響を評価するための影響評価システムが実行する影響評価方法であって、
評価対象のICTサービスを示す情報と基準年と評価対象年との入力を受け付ける入力手順と、
第1の記憶部に記憶されている、前記基準年と前記評価対象年において前記評価対象のICTサービスを介して流通する財・サービスの支出額を取得し、前記基準年と前記評価対象年との間の支出額の差分を計算する支出額計算手順と、
第2の記憶部に記憶されている、前記基準年と前記評価対象年において前記評価対象のICTサービスを介して流通する財・サービスを得るために要する所要時間を取得し、前記基準年と前記評価対象年との間の所要時間の差分を計算する所要時間計算手順と、
第3の記憶部に記憶されている、余剰金額と活動発生割合の関係及び余剰時間と活動発生割合の関係に基づいて、前記支出額の差分及び前記所要時間の差分によって発生する活動への支出額の変化を算出し、産業への需給額の変化を算出する需給変化計算手順と、
前記需給額の変化を産業関連表に反映させた状態で均衡計算を行うことで、前記評価対象のICTサービスの利用による影響を評価する評価手順と、
を有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の一形態に係る影響評価システムは、
ICTサービスの利用による影響を評価するための影響評価システムであって、
ある年における、ICTサービスを介して流通する財・サービスの支出額を記憶する支出額記憶部と、
ある年における、ICTサービスを介して流通する財・サービスを得るために要する所要時間を記憶する所要時間記憶部と、
余剰金額と活動発生割合の関係及び余剰時間と活動発生割合の関係を記憶する活動発生割合記憶部と、
評価対象のICTサービスを示す情報と基準年と評価対象年との入力を受け付ける入力部と、
前記支出額記憶部から、前記基準年と前記評価対象年において前記評価対象のICTサービスを介して流通する財・サービスの支出額を取得し、前記基準年と前記評価対象年との間の支出額の差分を計算し、前記所要時間記憶部から、前記基準年と前記評価対象年において前記評価対象のICTサービスを介して流通する財・サービスを得るために要する所要時間を取得し、前記基準年と前記評価対象年との間の所要時間の差分を計算する差分計算部と、
前記活動発生割合記憶部を参照して、前記支出額の差分及び前記所要時間の差分によって発生する活動への支出額の変化を算出し、産業への需給額の変化を算出する需給変化計算部と、
前記需給額の変化を産業関連表に反映させた状態で均衡計算を行うことで、前記評価対象のICTサービスの利用による影響を評価する評価部と、
を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
ICTサービスの利用による影響を環境と経済の観点から評価することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施の形態におけるネットワーク構成例を示す図である。
図2】本発明の実施の形態における影響評価システムを構成するコンピュータのハードウェア構成例を示す図である。
図3】本発明の実施の形態における影響評価システムの機能構成例を示す図である。
図4】影響評価システムが実行する処理手順の一例を説明するためのフローチャートである。
図5】余剰金額と活動発生割合の関係を示す図である。
図6】余剰時間と活動発生割合の関係を示す図である。
図7】各活動と対応する産業及び支出変化額を示す図である。
図8】産業関連表を示す図である。
図9】均衡計算を行うためのモデルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0014】
図1は、本発明の実施の形態におけるネットワーク構成例を示す図である。図1において、影響評価システム10は、インターネット又はLAN(Local Area Network)等のネットワークを介して1以上のユーザ端末20と接続される。
【0015】
影響評価システム10は、ICTサービスの利用による環境及び経済への影響を評価する1以上のコンピュータである。なお、ICTサービスとは、特定の事業者によって提供される具体的なサービスではなく、例えば、「服のレンタル」サービスや「宿泊予約」サービスといったように、サービスのカテゴリ又は種別によって区別される概念に相当する。「服のレンタル」サービスでは、ICTサービスを介して「服」という財が流通し、「宿泊予約」サービスでは、ICTサービスを介して「宿泊」というサービスが流通する。このように、ICTサービスを介して流通する財・サービスはICTサービスの内容によって異なる。
【0016】
影響評価システム10は、ICTサービスを介して流通する「財・サービス」に着目し、当該「財・サービス」への支出が節約された額(余剰金額)や当該「財・サービス」の決済等に必要であった時間が節約された時間(余剰時間)が同じであれば、ICTサービスの内容が異なっていたとしても余剰金額と余剰時間は同じ活動割合に充てられる、という仮定に基づき、環境及び経済への影響を評価する。
【0017】
影響評価システム10は、後述する余剰金額/余剰時間と活動発生割合の関係に関するデータをあらかじめ保持しておき、ICTサービスを介して流通する財・サービスに対する評価対象年と基準年における1人あたりの支出額の差Δb及び所要時間の差Δhを求め、前述のデータとΔb及びΔhとから、費用節約と時間節約の双方を加味した活動ごとの総支出額の変化を求める。そして、上述の総支出額の変化をすべての種類の活動に対して求め、応用一般均衡モデルにより各活動における総支出額の変化を反映した産業連関表を作成する。影響評価システム10は、反映後の産業連関表から、評価対象年におけるGDP(Gross Domestic Product)とCO2排出量を推定する。
【0018】
ユーザ端末20は、影響評価システム10に対する評価条件の入力をユーザから受け付けたり、影響評価システム10による評価結果を出力(表示)したりする端末である。例えば、PC(Personal Computer)、スマートフォン、タブレット端末等がユーザ端末20として利用されてもよい。
【0019】
図2は、本発明の実施の形態における影響評価システム10を構成するコンピュータのハードウェア構成例を示す図である。影響評価システム10を構成するコンピュータは、それぞれバスBで相互に接続されているドライブ装置100、補助記憶装置102、メモリ装置103、CPU104、及びインタフェース装置105等を有する。
【0020】
影響評価システム10での処理を実現するプログラムは、CD-ROM等の記録媒体101によって提供される。プログラムを記憶した記録媒体101がドライブ装置100にセットされると、プログラムが記録媒体101からドライブ装置100を介して補助記憶装置102にインストールされる。但し、プログラムのインストールは必ずしも記録媒体101より行う必要はなく、ネットワークを介して他のコンピュータよりダウンロードするようにしてもよい。補助記憶装置102は、インストールされたプログラムを格納すると共に、必要なファイルやデータ等を格納する。
【0021】
メモリ装置103は、プログラムの起動指示があった場合に、補助記憶装置102からプログラムを読み出して格納する。CPU104は、メモリ装置103に格納されたプログラムに従って影響評価システム10に係る機能を実行する。インタフェース装置105は、ネットワークに接続するためのインタフェースとして用いられる。
【0022】
図3は、本発明の実施の形態における影響評価システム10の機能構成例を示す図である。図3において、影響評価システム10は、入力部11、差分計算部12、需給変化計算部13、均衡計算部14及び出力部15等を有する。これら各部は、影響評価システム10にインストールされた1以上のプログラムが、CPU104に実行させる処理により実現される。
【0023】
影響評価システム10は、また、支出DB21、決済・移動時間DB22、視聴時間DB23、活動発生割合DB24、活動原単位DB25、利用者数DB26、産業関連表DB27等のデータベースを利用する。各データベースは、例えば、補助記憶装置102、又は影響評価システム10にネットワークを介して接続可能な記憶装置等を用いて実現可能である。
【0024】
支出DB21には、ある年(過去・未来の年を含む)における、ICTサービスを介して流通する財・サービスに対する単位時間(例えば月ごと)あたり支出額が記憶されている。例えば、「服のレンタル」サービスでは、ICTサービスを利用するか否かを問わず、1人あたりの服への年間支出額が記憶されている。
【0025】
決済・移動時間DB22には、ある年(過去・未来の年を含む)における、ICTサービスを介して流通する財・サービスを得るために要する所要時間を計算するための情報が記憶されている。例えば、「服のレンタル」サービスでは、服を入手するために店舗まで移動する場合の1人あたりの平均移動時間、オンライン決済を行う場合の1人あたりの平均決済時間等が記憶されている。
【0026】
視聴時間DB23には、コンテンツ配信サービスの視聴時間を計算するための情報が記憶されている。例えば、「映像配信」サービスでは、配信される映像に対する1人あたりの平均視聴時間等が記憶されている。
【0027】
支出DB21、決済・移動時間DB22及び視聴時間DB23に記憶されるデータは、例えば、国や自治体、コンサルタントが作成する統計データや予測レポートなどを用いて作成すればよい。
【0028】
活動発生割合DB24には、余剰金額と活動発生割合の関係及び余剰時間と活動発生割合の関係が記憶されている。本発明の実施の形態では、上記の通り、ICTサービスの利用を通じた費用の節約(余剰金額)・時間の節約(余剰時間)による人々の活動の変化は、ICTサービスにかかわらず、余剰金額・余剰時間の値に応じてある一定の割合で他の活動に充てられることを前提としている。活動発生割合DB24は、このような費用・時間の増減と影響を受ける活動の関係を記憶する。
【0029】
余剰金額と活動発生割合の関係とは、あるICTサービスを享受することでユーザが当該ICTサービスを介して流通する財・サービスに対して支払っていた費用が節約された金額(余剰金額)と、その額の余剰金額を用いてユーザが新たに始めるであろう活動の種別ごとの割合との関係である。この関係は汎用のデータ形式で保持され、余剰金額ごとに個別に用意される。例えば、ユーザに対して「(ICTサービスで流通する)財・サービスに要していた費用が月額5,000円節約された場合、どのような活動を新たに始めますか?」といった設問のアンケートを所定数の個人に対して行うことで、余剰金額と活動発生割合の関係を含むデータを得ることができる。その結果、例えば、余剰金額が月額500円、2,000円、5,000円、10,000円等のときの各活動(例えば、睡眠、身の回りの用事、食事、通勤・通学、仕事、学業、家事、介護・看護、育児、買い物、移動(通勤・通学を除く)、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌、休養・くつろぎ、学習・自己啓発・訓練(学業以外)、趣味・娯楽、スポーツ、ボランティア活動・社会参加活動、交際・付き合い)が発生する割合が得られる。アンケートは余剰金額ごとに事前に取得しておけばよいため、ICTサービスの機能や形態が変化したとしても新たにアンケートを行う必要はない。
【0030】
余剰時間と活動発生割合の関係とは、あるICTサービスを享受することでユーザが当該ICTサービスを介して流通する財・サービスについて決済や移動に要する時間が節約された時間(余剰時間)と、その余剰時間を用いてユーザが新たに始めるであろう活動の種別ごとの割合との関係である。この関係は汎用のデータ形式で保持され、余剰時間ごとに個別に用意される。例えば、ユーザに対して「(ICTサービスで流通する)財・サービスを購入するために要していた時間が月0.5時間節約された場合、どのような活動を新たに始めますか?」といった設問のアンケートを所定数の個人に対して行うことで、余剰時間と活動発生割合の関係を含むデータを得ることができる。その結果、例えば、余剰時間が月0.5時間、1時間、2時間等のときの各活動(例えば、睡眠、身の回りの用事、食事、通勤・通学、仕事、学業、家事、介護・看護、育児、買い物、移動(通勤・通学を除く)、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌、休養・くつろぎ、学習・自己啓発・訓練(学業以外)、趣味・娯楽、スポーツ、ボランティア活動・社会参加活動、交際・付き合い)が発生する割合が得られる。アンケートはICTサービスを介して余剰時間ごとに事前に取得しておけばよいため、ICTサービスの機能や形態が変化したとしても新たにアンケートを行う必要はない。
【0031】
ここで、余剰時間と余剰費用の双方の関係データにて割り当てられる活動の分類は、必ずしも同一である必要はない。最終的には、後述する「活動と産業の対応」を行い、産業連関表のどの産業に対応するかに帰着できれば、均衡計算によるCO2排出量の推定を行ううえで問題ない。
【0032】
活動原単位DB25には、ある活動を単位時間(例えば1時間)行うために支払う費用に関するデータが格納される。例えば、非特許文献3の表3にはいくつかの行動(=活動)における1時間あたりの行動費用(=活動原単位)が例示されており、「趣味・娯楽」の行動を行うときの1時間あたりの支出額としては662円とされている。
【0033】
利用者数DB26には、ある年(過去・未来の年を含む)におけるICTサービスの利用者数が記憶されている。
【0034】
産業関連表DB27には、基準となる年(以下、「基準年」という)の産業関連表を示す情報が記憶されている。産業関連表とは、国や都道府県などある地域で一定期間(通常は1年間)に行われた財・サービスの産業間取引を金額で表した表(行列形式で記載)である。簡略化した例を挙げると、金融業は情報通信業から100円、電力業から200円の供給を受けて500円の生産を行った(付加価値は200円)というようなことが行列で表現されている。なお、各産業の需要と供給は一致する。総務省は産業関連表を5年毎に作成し統計情報として公開している。
【0035】
影響評価システム10は、上記のように、ICTサービスを介して流通する財・サービスへの支出額、その財・サービスを得るために要する所要時間、電子コンテンツの視聴時間(いずれも1利用者あたりの量)を支出DB21、決済・移動時間DB22及び視聴時間DB23に記憶しておくことで、各機能部において、費用・時間の増減を計算する。影響評価システム10は、費用・時間の増減と影響を受ける活動の関係(余剰金額/余剰時間と活動発生割合の関係)を活動発生割合DB24に記憶しておき、各機能部において、ICTサービスの普及による費用・時間の増減から、活動原単位DB25及び利用者数DB26のデータを利用して各活動に充てられる費用の増減を計算する。さらに、各活動に充てられる費用の増減を産業関連表DB27の産業関連表に反映させ、均衡計算を行い評価対象年におけるCO2排出量及びGDPの変化を算出する。影響評価システム10の各機能部については以下に詳細に説明する。
【0036】
以下、影響評価システム10が実行する処理手順について説明する。図4は、影響評価システム10が実行する処理手順の一例を説明するためのフローチャートである。
【0037】
ステップS101において、入力部11は、いずれかのユーザ端末20において入力された評価条件を当該ユーザ端末20から受信する。評価条件には、ユーザが評価対象とするICTサービス(以下、「評価対象サービス」という)を示す情報(例えば、サービス名)と、評価対象年と、基準年とが含まれる。
【0038】
例えば、ユーザが「服のレンタル」サービスについて、2013年を基準としたときの2020年におけるCO2排出量及びGDPの変化を算出したいとき、評価対象サービスである「服のレンタル」サービス、基準年である2013年、評価対象年である2020年が入力される。
【0039】
ステップS102において、差分計算部12は、支出DB21から、基準年と評価対象年において評価対象サービスを介して流通する財・サービスの支出額を取得し、基準年と評価対象年との間の支出額の差分(Δb)を計算する。なお、支出額の差分は1ヶ月あたり、1回あたり、1日あたりで計算されてもよく、後述する各活動への年間の支出額が算出できるように調整されるものとする。
【0040】
例えば、「服のレンタル」サービスに関して、支出DB21には、服への支出が2013年に1人あたり1.5万円/月、2020年に1人あたり1万円/月であるという情報が記憶されている。差分計算部12は、以下の通り服への支出額の差分(Δb)を計算する。
【0041】
Δb=1.5(万円/月)-1(万円/月)=0.5(万円/月) 式(3)
ステップS103において、差分計算部12は、決済・移動時間DB22から、基準年と評価対象年において評価対象サービスを介して流通する財・サービスを得るために要する所要時間を取得し、基準年と評価対象年との間の所要時間の差分(Δh)を計算する。なお、所要時間の差分は1ヶ月あたり、1回あたり、1日あたりで計算されてもよく、後述する各活動への年間の支出額が算出できるように調整されるものとする。
【0042】
例えば、「服のレンタル」サービスに関して、決済・移動時間DB22には、服の入手にかかる時間が2013年に3時間/回、2020年に1時間/回であるという情報が記憶されている。差分計算部12は、以下の通り服の入手にかかる所要時間の差分(Δh)を計算する。なお、利用回数は月3回(3日)であるとする。
【0043】
Δh=3(時間/回)-1(時間/回)=2(時間/回) 式(4)
ステップS104において、評価対象サービスがコンテンツ配信サービスであるか判断する。評価対象サービスがコンテンツ配信サービスである場合、ステップS105に進み、評価対象サービスがコンテンツ配信サービスでない場合、ステップS106に進む。
【0044】
ステップS105において、差分計算部12は、視聴時間DB23から、評価対象サービスを介して配信されるコンテンツの視聴時間を取得し、コンテンツ視聴時間を所要時間の差分に加味して、Δhを計算する。
【0045】
例えば、「服のレンタル」サービスはコンテンツ配信サービスではないので、コンテンツ視聴時間はない。一方、「映像配信」サービスはコンテンツ配信サービスであるため、「映像配信」サービスを得るために要する時間には、映像配信の視聴時間も含まれる。
【0046】
ステップS106において、需給変化計算部13は、活動発生割合DB24を参照して、支出額の差分(Δb)及び所要時間の差分(Δh)によって発生する活動を決定し、当該活動への支出額の変化を算出し、産業への需給額の変化を算出する。
【0047】
活動発生割合DB24の余剰金額と活動発生割合の関係から、支出額の差分(Δb)に起因する活動への支出額の変化(DI)は以下の式によって計算できる。
【0048】
DIi=Δb×U×pii 式(5)
U:サービス利用者数
pi:活動の発生割合
i:活動の種類を表す添え字
活動発生割合DB24には、アンケート等によって事前に取得された余剰金額と活動発生割合との関係が記憶されている。図5は、例として5,000円/月の節約により発生する活動の割合を示す。5,000円/月の節約により発生する趣味・娯楽の割合は11.5%である。
【0049】
例えば、「服のレンタル」サービスに関して、利用者数DB26には、2020年におけるサービス利用者数が日本全体で400万人であることが記憶されている。需給変化計算部13は、上記の式(5)を用いて以下の通り支出額の差分(Δb)に起因する趣味・娯楽への支出額の変化(DI)を計算する。
【0050】
DIi=0.5(万円/月)×12(ヶ月)×400万(人)×11.5(%)=276億(円) 式(6)
活動発生割合DB24の余剰時間と活動発生割合の関係から、所要時間の差分(Δh)に起因する活動への支出額の変化(DT)は以下の式によって計算できる。ここで、活動への支出額の変化を求めるために、活動原単位DB25を参照して、活動にかける時間を金額に変換する。
【0051】
DTi=Δh×U×pti×Ci 式(7)
U:サービス利用者数
pt:活動の発生割合
C:単位時間の活動を行うために必要な支出額
i:活動の種類を表す添え字
活動発生割合DB24には、アンケート等によって事前に取得された余剰時間と活動発生割合との関係が記憶されている。図6は、例として0.5時間、1時間、2時間の節約により発生する活動の割合を示す。2時間の節約により発生する趣味・娯楽の割合は16.2%である。また、活動原単位DB25には、趣味・娯楽を1時間行うための支出額が662円であることが記憶されている。
【0052】
例えば、「服のレンタル」サービスに関して、需給変化計算部13は、上記の式(7)を用いて以下の通り所要時間の差分(Δh)に起因する趣味・娯楽への支出額の変化(DT)を計算する。
【0053】
DTi=2(時間/回)×3(回)×12(ヶ月)×400万(人)×16.2(%)×662(円/時間)=309億(円) 式(8)
上記のDIiとDTiの合計額が活動iへの支出額の合計となるため、趣味・娯楽への支出額の増加は式(6)及び式(8)から、276億(円)+309億(円)=585億(円)となる。
【0054】
他の活動(睡眠、身の回りの用事など)も同様に計算し、図7に示す通り、活動ごとに支出額への変化をまとめる。図7において、どの活動がどの産業に対応するかという活動と産業との対応は予め決められているものとする。活動と産業との対応とは、ある活動の種別を、産業連関表に記載のある産業に関連付けることである。産業連関表は「産業」をベースとしたモデルであるため、余剰金額/余剰時間を用いて新たに発生する活動を、産業連関表に記載のある「産業」への需要額がxx円増える、という対応付けを行う必要がある。例えば「受診・療養」という活動は産業連関表の「医療保険業」という産業に関連付け、節約されたxx円を使って医療保険業への需要(需給額)がxx円増える、という読み替えを行う。
【0055】
需給変化計算部13は、産業ごとに支出額の変化を集計し、各産業への需給額の変化の年間総額を算出する。なお、嗜好の変化や技術の変化などのICT以外の価格変動要因は基準と評価対象で同じと仮定している。物価の変化はモデルに物価指数を入れておけば補正できる。
【0056】
ステップS107において、均衡計算部14は、各産業への需給額の変化を産業関連表に反映させた状態で均衡計算を行うことで、評価対象サービスの利用による影響を評価し、評価対象年におけるCO2排出量及びGDPの変化を算出する。
【0057】
均衡計算とは、ある産業に対する需要額が変化するなどして産業連関表に変化が生じた際に、需要と供給が一致するように行う計算である。政策の経済効果や環境効果を評価するために広く用いられており、この計算のメカニズムは応用一般均衡モデルとして確立されている。なお、産業連関表は金額で表されるので、計算はまず金額ベースで行い、エネルギー消費量からCO2排出量を算出する。
【0058】
例えば、「服のレンタル」サービスに関して、図7から運輸業の支出変化額は147.7億(円)+44.7億(円)=192.4億(円)となる。これを図8に示す産業関連表の例において、運輸業の最終需要の消費に加える。図7に示す他の産業の支出変化額についても同様に産業関連表に反映させる。
【0059】
産業の数が多くなるにつれて均衡計算は複雑なものとなるため、図9に示す2財・2部門・1消費者のモデルを例に挙げて均衡計算について説明する。
【0060】
財X・財Yは産業関連表における中間投入に相当し、部門X・部門Yは産業関連表における中間需要に相当する。例えば、Xが運輸業である場合、運輸業の支出変化額である192.4億(円)を財Xの最終消費(CX)に加算する。CYも同様に産業の支出変化額を反映させる。
【0061】
部門Xは資本KXと労働LXをもとに財QXを生産する。需要と供給は一致するので、QX=CXである。家計(最終消費)は資本Kと労働Lを生産要素として提供し、その対価として所得を得て財Xと財Yを消費し(CX,CY)、効用Uを得る。家計は所得の中で効用最大化するよう行動するため、以下の式が成立する。
【0062】
Max U=u(CX,CY) 式(9)
s.t. PX・CX+PY・CY=PL・L*+PK・K* 式(10)
各生産部門(i=X,Y)の行動は次の式で表される。各生産部門は、資本・労働制約の下で利潤最大化するよう行動する。
【0063】
Max πi=Pi・Qi-PK・Ki-PL・Li 式(11)
s.t. Qi=fi(Ki,Li) 式(12)
需要と供給の一致を考えると、以下の式が成立する。
【0064】
QX=CX 式(13)
QY=CY 式(14)
K*=KX+KY 式(15)
L*=LX+LY 式(16)
上記の式を解くと、各部門の生産額や部門間の取引額が求められ、総算出(QX,QY)が求められる。なお、図9における総算出は産業関連表における国内生産額に相当するため、国内生産額から中間投入を除いた粗付加価値の変化を求める。
【0065】
その結果、「服のレンタル」サービスに関して、基準年の2013年と比べてGDPは1000億円増加と計算される。さらに、産業関連表における電力やガスなどのエネルギーに関する産業の生産額の変化からCO2排出量の変化を求める。「服のレンタル」サービスに関して、基準年の2013年と比べてCO2排出量は5千t増加と計算される。
【0066】
ステップS108において、出力部15は、算出されたCO2排出量及びGDPの変化を評価条件の送信元のユーザ端末20へ送信する。その結果、ユーザは、評価条件に基づく評価結果を把握することができる。
【0067】
上述したように、本実施の形態によれば、ICTサービスの利用による影響を環境と経済の観点から評価できる。より具体的には、ICTサービスの機能・形態に依存せず、産業活動の変化を含めて、ICTサービスの普及による人々のライフスタイルの変化を通じた将来の環境影響が予測可能になる。ICTサービスとライフスタイルの観点からの環境政策策定の指針とすることができる。
【0068】
本実施の形態では、節約される費用や時間が同じであれば、ICTサービスの内容に関係なく同じ割合で活動に充てられるという仮定に基づいているため、ICTサービスの機能や形態が変化したとしても、その都度アンケートを行ってユーザの活動を調査する必要はない。すなわち、CO2排出量の推定を低コスト化・省力化することができる。
【0069】
なお、本実施の形態において、支出DB21は、支出額記憶部及び第1の記憶部の一例である。決済・移動時間DB22は、所要時間記憶部及び第2の記憶部の一例である。活動発生割合DB24は、活動発生割合記憶部及び第3の記憶部の一例である。均衡計算部14は、評価部の一例である。
【0070】
以上、本発明の実施の形態について詳述したが、本発明は斯かる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0071】
11 入力部
12 差分計算部
13 需給変化計算部
14 均衡計算部
15 出力部
21 支出DB
22 決済・移動時間DB
23 視聴時間DB
24 活動発生割合DB
25 活動原単位DB
26 利用者数DB
27 産業関連表DB
図1
図2
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図7
図8
図9