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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-26
(45)【発行日】2022-06-03
(54)【発明の名称】液体ジェット射出装置
(51)【国際特許分類】
   B05C 5/00 20060101AFI20220527BHJP
   B05C 11/10 20060101ALI20220527BHJP
   B41J 2/04 20060101ALI20220527BHJP
【FI】
B05C5/00 101
B05C11/10
B41J2/04
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020525798
(86)(22)【出願日】2019-06-20
(86)【国際出願番号】 JP2019024531
(87)【国際公開番号】W WO2019244984
(87)【国際公開日】2019-12-26
【審査請求日】2020-12-10
(31)【優先権主張番号】P 2018119345
(32)【優先日】2018-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(73)【特許権者】
【識別番号】391040870
【氏名又は名称】紀州技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田川 義之
(72)【発明者】
【氏名】栗田 雅章
(72)【発明者】
【氏名】鳥居 慎士
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/182081(WO,A1)
【文献】特開平7-236852(JP,A)
【文献】特開2009-154123(JP,A)
【文献】特開平10-174920(JP,A)
【文献】特開平4-247261(JP,A)
【文献】特開2001-277511(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05B 1/00-17/08
B05C 1/00-21/00
B05D 1/00-7/26
B41J 2/00-2/525
B41M 5/00-5/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端部が開口し、少なくとも内面に対する接触角が90度未満である液体が内部に配置され吐出部と、
前記吐出部の一端部に連通し、前記吐出部における前記一端部から液面までの液体ジェットの射出方向の長さよりも前記射出方向の長さが長く、前記吐出部の前記射出方向から見た断面積よりも大きい断面積を有し、少なくとも前記一端部が開口した底面の側に前記液体が配置された圧力発生部と、
前記圧力発生部を構成する容器を移動させる移動機構と、
前記容器の移動を停止させるストッパと、を備え、
前記移動機構による前記容器の移動が前記ストッパによって停止されて、前記圧力発生部に撃力を付与する液体ジェット射出装置。
【請求項2】
前記吐出部の一端部は、前記底面と一致している請求項1記載の液体ジェット射出装置。
【請求項3】
前記吐出部の一端部側には、前記底面に向って傾斜したテーパ面が形成されている請求項2記載の液体ジェット射出装置。
【請求項4】
前記吐出部の一端部は、前記圧力発生部の底面の中央に開口している請求項1~3のいずれか1項に記載の液体ジェット射出装置。
【請求項5】
前記圧力発生部には、前記底面側に前記液体が配置されると共に、前記底面側と反対側には音響インピーダンスが前記液体の音響インピーダンスの1倍以上1.5倍以下で当該液体と混合及び化学反応しない圧力発生媒体が配置されている請求項1~4のいずれか1項記載の液体ジェット射出装置。
【請求項6】
内部に前記液体が貯留された補給部と、
前記補給部の液体貯留部分と前記圧力発生部の液体貯留部分とを連通させる液体供給路と、
を有する補給装置をさらに備える請求項1~5のいずれか1項記載の液体ジェット射出装置。
【請求項7】
前記吐出部の他端部が下向きに開口された液体ジェット射出装置において、
前記補給装置は、前記補給部に貯留された前記液体の水頭圧及び当該液体の表面張力の作用、又は当該液体の表面張力の作用により前記圧力発生部に当該液体を供給する請求項6記載の液体ジェット射出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、液体ジェット射出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体ジェットは、従来からインクジェットプリンタやマイクロ加工デバイス等の様々な分野で利用されている。このような液体ジェットの射出装置の大部分は、射出管内径と同程度以上の径の液体ジェットを射出する装置である。例えば、インクジェットプリンタで用いられるピエゾインクジェット方式やバブルジェット(登録商標)方式が該当し、いずれも液体を射出孔(ノズル)から押し出す方式である。このため、射出された液滴の径は、射出孔の径以上となる。
【0003】
これに対して、射出管の凹面形状を有する液面に、短時間で大きな加速度を与えると、射出管から射出管の内径の1/5程度の細い液体ジェットを射出することができる。このような細い液体ジェットを適用できれば、インクジェットプリンタ等の押し出し方式で問題となる目詰まりの問題を解消することができる。
【0004】
この点に着目し、さらに、容器の内部に貯留された液体の内部に一端が挿入され、他端が液体の外部になるように内管の接触角が90度未満とされた細管が配置され、容器内の細管外の液位と細管内の液位差によって、容器内の液体に撃力が付与されて初速度が付与された場合に、細管の液面から射出される液体ジェットの射出速度を調整可能にしたものが国際公開2016/182081号に提案されている。
【0005】
このように構成されることにより、液体ジェットの射出速度が容器内の液体の初速度に対する増速率を増大させることが可能になり、従来のインクジェット方式で不可能されていた高粘度の液体を射出することが可能とした。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記先行技術では、容器内の細管外の液面と細管内の液面の液位差を大きくして増速率を増大させると、細管内の液面(液体ジェットの射出位置)から細管の端部までの距離が増加する。このため、液体ジェットの射出方向に僅かなずれを生じた場合でも、射出液体が細管の内面に付着するおそれがあった。
【0007】
本開示は、以上のような背景に鑑みてなされたものであり、高粘度液体が射出可能で、且つノズルに対する液体の付着を抑制可能な液体ジェット射出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、第1の態様に係る液体ジェット射出装置は、両端部が開口し、少なくとも内面に対する接触角が90度未満である液体が内部に配置され吐出部と、前記吐出部の一端部に連通し、前記吐出部における前記一端部から液面までの液体ジェットの射出方向の長さよりも前記射出方向の長さが長く、前記吐出部の前記射出方向から見た断面積よりも大きい断面積を有し、少なくとも前記一端部が開口した底面の側に前記液体が配置された圧力発生部と、前記圧力発生部を構成する容器を移動させる移動機構と、前記容器の移動を停止させるストッパと、を備え、前記移動機構による前記容器の移動が前記ストッパによって停止されて、前記圧力発生部に撃力を付与する。
【0009】
この液体ジェット射出装置は、両端部が開口した吐出部の一端部が圧力発生部の底面に連通している。この圧力発生部の少なくとも底面側に液体が配置されており、吐出部の内部まで浸入し、吐出部の内部で表面張力により液面を形成する。
【0010】
この際、吐出部の内面に対する液体の接触角が90度未満であるため、吐出部内の液面は、圧力発生部の底面側と反対側に向かって凹んだ凹面形状に形成される。この状態で撃力付与手段から圧力発生部に撃力を付与することにより、吐出部内の凹面形状の液面で流れが収束し、液面の中央部分から吐出部の開口よりも細く長い液体ジェットが射出される。
【0011】
ここで、圧力発生部の断面積を吐出部の断面積よりも大きく、かつ吐出部における一端部(圧力発生部側端部)から液面までの液体ジェットの射出方向の長さ(以下、「射出方向長さ」という)よりも圧力発生部の射出方向長さが長くしているため、圧力発生部に配置された液体に対して撃力付与手段から付与される速度(以下、「圧力発生部液体速度」という)よりも、吐出部に浸入し液面を形成した液体の速度(以下、「吐出部液体速度」という)を大きくすることができる。すなわち、圧力発生部液体速度に対する吐出部液体速度(液体ジェットの射出速度)の増速率を大きくすることができる。
【0012】
特に、吐出部の一端部から液面までの射出方向長さに対する圧力発生部の射出方向長さの比を大きくすることによって、増速率を増加させることができる。
【0013】
したがって、吐出部の射出方向長さを短くしたままで、圧力発生部の射出方向長さを増加させることで、圧力発生部液体速度に対する吐出部液体速度(液体ジェットの射出速度)の増速率を大きくすることができる。この結果、液体ジェットの射出速度を高速化することが可能となり、高粘度液体を射出することが可能となる。
【0014】
また、吐出部の射出方向長さを短くしたままなので、液体ジェットの射出方向が僅かにずれても、吐出部の内面に射出液体が付着することが防止又は抑制される。
【0015】
すなわち、高粘度液体の射出可能であると共に、吐出部の内面への液体の付着を防止又は抑制することができる。
【0016】
第2の態様に係る液体ジェット射出装置は、第1の態様に係る液体ジェット射出装置において、前記吐出部の一端部は、前記底面と一致しても良い。
【0017】
この液体ジェット射出装置は、圧力発生部の底面側に開口されている吐出部の一端部が、底面と一致している。すなわち、吐出部は、圧力発生部の底面に開口しており、底面から圧力発生部の内部に突出していない。圧力発生部の底面から内部に吐出部の一端が突出している場合には、圧力発生部の底面側に貯留された液体が吐出部の内部に移動する際の圧力損失が増大する。しかしながら、請求項2記載の発明では、吐出部の一端部が圧力発生部の底面と一致しており、すなわち、吐出部が圧力発生部の底面から突出しておらず、圧力発生部の底面側の液体が吐出部に移動する際の圧力損失が抑制される。この結果、圧力発生部液体速度に対する吐出部液体速度(液体ジェットの射出速度)の増速率を大きくすることができる。
【0018】
第3の態様に係る液体ジェット射出装置は、第2の態様に係る液体ジェット射出装置において、前記吐出部の一端部側には、前記底面に向って傾斜したテーパ面が形成されていても良い。
【0019】
この液体ジェット射出装置は、吐出部の一端が圧力発生部の底面に開口された液体ジェット射出装置において、吐出部の一端側には底面に向って傾斜したテーパ面が形成されているため、圧力発生部の底面側から吐出部に流入する液体の圧力損失が一層抑制される。
【0020】
この結果、圧力発生部液体速度に対する吐出部液体速度(液体ジェットの射出速度)の増速率を大きくすることができる。
【0021】
第4の態様に係る液体ジェット射出装置は、第1~第3のいずれか一態様に係る液体ジェット射出装置において、前記吐出部の一端部は、前記圧力発生部の底面の中央に開口していても良い。
【0022】
この液体ジェット射出装置は、吐出部の一端部が圧力発生部の底面の中央に開口しているため、圧力発生部の底面に沿って液体が移動し吐出部に流入する際の液体の圧力損失が抑制される。この結果、圧力発生部液体速度に対する吐出部液体速度(液体ジェットの射出速度)の増速率を大きくすることができる。
【0023】
第5の態様に係る液体ジェット射出装置は、第1~第4のいずれか一態様に係る液体ジェット射出装置において、前記圧力発生部には、前記底面側に前記液体が配置されると共に、前記底面側と反対側には音響インピーダンスが前記液体の音響インピーダンスの1倍以上1.5倍以下で当該液体と混合及び化学反応しない圧力発生媒体が配置されていても良い。
【0024】
この液体ジェット射出装置は、圧力発生部内の底面側に液体が配置され、底面側と反対側に液体と異なる圧力発生媒体が配置されている。この圧力発生媒体の音響インピーダンスは、液体の音響インピーダンスの1倍以上1.5倍以下とされている。したがって、撃力付与手段から圧力発生部に撃力が付与された場合には、圧力発生媒体と液体との界面におけるエネルギ伝達効率の低下が抑制され、吐出部の液体が液体ジェットとして射出される。
【0025】
このように、撃力が圧力発生部に付与されることにより、圧力発生部で圧力を発生する媒体として圧力発生媒体も使用することにより、圧力発生部に配置される液体を節約することができる。
【0026】
なお、圧力発生媒体は、液体と混合せず、化学反応も生じないため、射出される液体ジェット(液体)の品質が低下することはない。
【0027】
第6の態様に係る液体ジェット射出装置は、第1~第5のいずれか一態様に係る液体ジェット射出装置において、内部に前記液体が貯留された補給部と、前記補給部の液体貯留部分と前記圧力発生部の液体貯留部分とを連通させる液体供給路と、を有する補給装置をさらに備えていても良い。
【0028】
この液体ジェット射出装置では吐出部から液体ジェットが射出され、圧力発生部の液体がその分減少しても、補給装置の補給部から液体供給路を介して圧力発生部に液体を補給可能である。すなわち、液体ジェットの連続射出が可能とされる。
【0029】
第7の態様に係る液体ジェット射出装置は、第6の態様に係る液体ジェット射出装置において、前記吐出部の他端部が下向きに開口された液体ジェット射出装置において、前記補給装置は、前記補給部に貯留された前記液体の水頭圧及び当該液体の表面張力の作用、又は当該液体の表面張力の作用により前記圧力発生部に当該液体を供給しても良い。
【0030】
この液体ジェット射出装置は、吐出部の他端部が下向きに開口された、すなわち下向きに液体ジェットが射出される液体ジェット射出装置である。この液体ジェット射出装置に対して、補給装置は補給部に貯留された液体の水頭圧と液体の表面張力の作用により、又は液体の表面張力の作用で圧力発生部に液体を供給可能とされている。すなわち、機械的な作用等を要することなく、補給装置から圧力発生部に液体を供給可能であり、吐出部から液体ジェットを連続的に射出可能にできる。
【発明の効果】
【0031】
第1~第4態様に係る液体ジェット射出装置によれば、目詰まりを防止又は抑制しつつ、増速率が大きい液体ジェットを射出可能である。
【0032】
第5態様に係る液体ジェット射出装置によれば圧力発生部における液体使用量を抑制することができる。
【0033】
第6又は第7態様に係る液体ジェット射出装置によれば、液体ジェットを連続的に射出可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】第1の実施形態に係る液体ジェット射出装置の概略構成図である。
図2】第1実施の形態に係る液体ジェット射出装置において、容器のストッパ衝突後の状態を説明する概略構成図である。
図3】第1実施の形態に係る液体ジェット射出装置において、容器のストッパ衝突前の状態を説明する模式図である。
図4】第1実施の形態に係る液体ジェット射出装置において、容器のストッパ衝突後の状態を説明する模式図である。
図5】第1の実施形態に係る液体ジェット射出装置で液体ジェットを射出する模式図と圧力力積勾配を示す図である。
図6】第1実施形態に係る液体ジェット射出装置における圧力発生室の軸方向長さを変化させた場合に、圧力力積とZ軸方向距離の関係について理論値と数値計算結果を示したグラフである。
図7】第1実施形態に係る液体ジェット射出装置におけるノズルの軸方向長さを変化させた場合に、圧力力積とZ軸方向距離の関係について理論値と数値計算結果を示したグラフである。
図8】第1実施形態に係る液体ジェット射出装置における圧力発生室内のインクの初期速度を変化させた場合に、圧力力積とZ軸方向距離の関係について理論値と数値計算結果を示したグラフである。
図9】第1実施形態に係る液体ジェット射出装置におけるノズルの内径を変化させた場合に、圧力力積とZ軸方向距離の関係について理論値と数値計算結果を示したグラフである。
図10】第1実施形態に係る液体ジェット射出装置におけるインクの動粘度を変化させた場合に、圧力力積とZ軸方向距離の関係について理論値と数値計算結果を示したグラフである。
図11】第1の実施形態のバリエーションに係る液体ジェット射出装置の概略構成図である。
図12】第1の実施形態の他のバリエーションに係る液体ジェット射出装置の概略構成図である。
図13】第2の実施形態に係る液体ジェット射出装置の概略構成図である。
図14】第3の実施形態に係る液体ジェット射出装置の概略構成図である。
図15】第3の実施形態のバリエーションに係る液体ジェット射出装置の概略構成図である。
図16】参考例に係る液体ジェット射出装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、図面を参照して、本開示の実施形態を詳細に説明する。
【0036】
[第1実施形態]
(装置構成)
先ず、図1を参照して第1実施形態に係る液体ジェット射出装置10について説明する。液体ジェット射出装置10は、内部に液体の一例であるインク11が充填(配置)され、下端部に後述するノズル28が形成された容器12と、容器12を上下方向に移動させる移動機構14と、下方に移動した容器12が突き当たることによって停止させるストッパ16と、容器12の内部にインク11を供給する補給装置18と、を備えている。
【0037】
容器12は、円筒形に形成されており、上壁20と、底壁22と、上壁20と底壁22との間を結び周回している周壁24とを備えている。
【0038】
容器12において、上壁20、底壁22、周壁24で囲まれた部分が、インク11が配置される圧力発生室26となる。この圧力発生室26が、「圧力発生部」に相当する。
【0039】
また、底壁22は、その中央部に上下に貫通するノズル28が形成されている。このノズル28が「吐出部」に相当する。
【0040】
ノズル28は、図1に示すように、ノズル28の軸(上下)に直交する方向(水平方向)の断面積(以下、単に「断面積」という)が、圧力発生室26を構成する底壁22の部分(以下、「底面22A」という)の面積(圧力発生室26の断面積)と比較して小さく形成されている。
【0041】
また、ノズル28の圧力発生室側端部から液面までの軸方向長さ(後述するlm)よりも圧力発生室26の軸方向長さ(後述するlt)が長くなる(lt/lm>1)ように設定されている。さらに、圧力発生室26とノズル28は、同軸上に配置されている。なお、この軸方向が「液体ジェットの射出方向」に相当する。
【0042】
この圧力発生室26には、インク11が充填されている。インク11とノズル28の内周面との接触角θは90度未満に設定されている。したがって、圧力発生室26からノズル28に浸入したインク11は、ノズル28内で上向きに凸(下向きに凹)なメニスカス(液面LS)を形成している。
【0043】
一方、容器12の上方には、容器12を上下動させる移動機構14が設けられている。移動機構14は、容器12の上壁20の中央部から上方向に延在するロッド32と、容器12の上部に配設され、ロッド32が貫通するソレノイド34とを備えている。すなわち、ソレノイド34が駆動されることにより、ロッド32が上下動し、容器12を上下動させる構成である。なお、通常時(液体ジェット射出時以外)には、容器12は、ストッパ16から所定距離上方に離れて位置している。
【0044】
なお、容器12の周壁24の上部には、圧力発生室26の内部と外部とを連通する開口部35が形成されている。
【0045】
また、容器12の底壁22の下方には、ストッパ16が配設されている。
【0046】
ストッパ16は、中央部にノズル28の断面積よりも大きい孔部36が形成されたドーナツ形状の円板部38と、容器12と同軸上に配置され、容器12(周壁24)の外径よりも内径が大きい周壁40とを有する。
【0047】
さらに、容器12の下端とストッパ16の円板部38の上面である突き当て面38Aとの間隔は、ソレノイド34によるロッド32のストロークよりも小さく設定されている。したがって、ソレノイド34の駆動により容器12が下降された場合には、容器12の底壁22がストッパ16の円板部38の突き当て面38Aに突き当てられる構成である。
【0048】
この移動機構14とストッパ16が、「撃力付与手段」に相当する。
【0049】
なお、ストッパ16の円板部38の下方には、被射出体である用紙42が配置されている。この用紙42にノズル28から射出された後述する液体ジェットMJが着弾する構成である。また、用紙42は、図示しない紙送り機構によって紙送りされる構成とされている。
【0050】
補給装置18は、図1に示すように、容器12の側方に配置された補給部としての補給タンク44と、補給タンク44から圧力発生室26に連通された液体供給路としての補給チューブ46とを有する。
【0051】
補給タンク44は、上部が開放されたタンクであり、内部にインク11が貯留されている。また、図示しない調整手段によって、インク11の液面50は、圧力発生室26の底面22Aよりも上方となるように、維持されている。調整手段としては、例えば、インク11の供給に応じて補給タンク44を上昇させる機構を設けることが考えられる。
【0052】
また、補給チューブ46は、可撓性を有し、一端が容器12の周壁24に形成された開口部35に接続され、他端が補給タンク44に貯留されたインク11の内部に配置されている。
【0053】
(作用)
このように構成される液体ジェット射出装置10の作用を説明する。
【0054】
先ず、ソレノイド34を駆動することによりロッド32を所定速度で下降させる。容器12の底壁22とストッパ16の突き当て面38Aとの間隔(上下方向長さ)は、ロッド32のストロークより短く設定されているため、容器12の底壁22がストッパ16の突き当て面38Aに衝突する。
【0055】
この衝突によって容器12に撃力が作用する。この際、ノズル28の内部では、図2に示すように、インク11の接触角θが90度未満であるため凹面形状に形成されていたメニスカス(液面LS)が水平面形状となり、その中心部分からノズル28よりも細い液体ジェットMJが吐出(射出)される。
【0056】
この液体ジェットMJは、撃力付与による圧力発生室26内のインク11の初期速度Uに対するノズル28内のインク11の初期速度U´の増速率(=U´/U)が大きく、結果として後述するジェット速度Vjetの増速率β(=Vjet/U)が大きくなる。
【0057】
このように、増速率βを高くすることによって、一定のエネルギを付与されたインク11から液体ジェットMJに高い割合でエネルギを集約できる(非常に早い液体ジェットMJを射出できる)。したがって、一定のエネルギが液体ジェット射出装置10のインク11に付与された場合に、増速率の低い液体ジェットで射出できなかった高粘度のインク11も射出できる。
【0058】
(パラメータ)
以下、液体ジェット射出装置10によって射出される液体ジェットMJを解析する解析モデルを説明する際に用いるパラメータについて説明する。
【0059】
実施例に係る解析モデルは、液体ジェット射出装置10で液体ジェットMJを射出する場合の解析モデルである。
【0060】
パラメータは、以下の通りである(図3図4参照)。
【0061】
t:圧力発生室26の底面22Aから上面20Aまでの軸方向距離(第1長さ)(mm)。
:ノズル28の圧力発生室側端部(圧力発生室26の底面22A)からノズル28内のメニスカス形成位置の液面LSまでの軸方向距離(第2長さ)(mm)。
【0062】
d:ノズル28の内径(mm)。
ν:インク11の動粘度(mm/s)(本明細書で「粘度」といった場合には、「動粘度」を意味する)。
【0063】
(解析モデル)
先ず、液体ジェット射出装置10が発生する液体ジェットMJのジェット速度Vjetに関する物理モデルについて説明する。
【0064】
撃力によって容器12内のインク11が急激に加速される場合、急激な変化の間のインク11の速度及び圧力発生室26を構成する壁付近の速度は大きくない。したがって、ナビエ・ストークス方程式の速度と空間微分だけ含む項は、他項に比べ十分に小さく無視できる。このとき、ナビエ・ストークス方程式から、圧力発生室26内のインク11に与える初期速度Uは、密度ρを用いて、
【0065】
【数1】


…(1)
【0066】
となる。ここで、Πは圧力力積であり、zは管軸方向の距離である。この圧力力積Πは、圧力p、撃力が持続する時間τを用いて次式で表される。
【0067】
【数2】


…(2)
【0068】
容器12の底壁22がストッパ16の突き当て面38Aに衝突した際、容器12(圧力発生室26)には、図5に示すように、圧力力積勾配∂Π/∂zが生じる。圧力力積勾配∂Π/∂zは、管軸方向の距離zに拘らず一定である。
【0069】
撃力が容器12に作用することにより発生する圧力力積は、圧力発生室26の上面20Aから底面22Aまで一定の勾配(第1勾配)で増加すると共に、ノズル28内でメニスカス面(液面LS)に向って一定の勾配(第2勾配)で減少する(メニスカス位置で0となる)(図5参照)。
【0070】
容器12の圧力発生室26での圧力力積勾配∂Π/∂zは、ノズル28の上端、すなわち圧力発生室26の底面22Aを境界としてノズル内で圧力力積勾配∂Π´/∂z´に変化する。
【0071】
ノズル内のインク11の圧力力積勾配∂Π´/∂z´は、図5に示すような幾何学的な関係により、圧力発生室26における圧力力積勾配∂Π/∂z、第1長さl、第2長さlを用いて、
【0072】
【数3】


…(3)
【0073】
となる。ノズル28内のインク11に与える初期速度U´は、式(1)と同様に
【0074】
【数4】


…(4)
【0075】
となる。式(1)、式(3)及び式(4)より、ノズル28内のインク11に与える初期速度U´は、
【0076】
【数5】


…(5)
【0077】
となる。式(5)よりノズル28内のインク11に与える初期速度U´は、圧力発生室26のインク11に与える初期速度Uと比較して(l/l)倍増速される。ノズル28で発生するジェット速度(液体ジェットMJの射出速度)Vjetは、細管内のインク11の初期速度U´に比例し、
【0078】
【数6】


…(6)
【0079】
となる。
【0080】
このように、容器12内でノズル28の上部に、ノズル28の断面積よりも断面積が大きく(ノズル28の内径dよりも内径Dが大きく(D/d>1))第2長さlよりも第1長さlが長い(l/l>1)圧力発生室26を設けることで、ノズル28内のインク11に与える初期速度U´を圧力発生室26の初期速度Uと比較して増速させることができる。これにより、ノズル28で生成されるジェット速度Vjetも増速させることができる。
【0081】
すなわち、第1長さltを増加させる、あるいは第2長さlmを減少させることでジェット速度Vjetの増速率βを高めることができる。
【0082】
(数値計算)
上記作用および解析モデルに基づく考察を確認するため、以下の数値計算を行った。
【0083】
実施例に係る液体ジェット射出装置10は、図1に示したものと同様の構成のものを用いた。
【0084】
各数値設定は、以下の通りである。
【0085】
第1長さlt=40(mm)、
第2長さl=1.5(mm)、
圧力発生室の内径D=10(mm)
ノズルの内径d=2(mm)、
圧力発生室内のインクの初期速度U=1.25(m/s)、
インク11の動粘度ν:100(mm/s)、
である。
【0086】
この条件下で、第1長さlt、第2長さl、ノズルの内径d、インク11の動粘度νのいずれか一つを変化させた理論値と数値計算結果を図6図10に示す。なお、理論値とは、上記解析モデルで示したものである(図5参照)。
【0087】
1.第1長さltを変化させた場合
【0088】
第1長さltの長さを40mm、80mmと変化させた場合の容器内部のインクに作用する圧力力積分布の理論値と数値計算結果を図6に示す。太線が数値計算結果であり、細線が理論値である。
【0089】
図6に示すように、第1長さltの長さを40mm、80mmと変化させた場合であっても、容器12の底面22A近傍(圧力発生室26とノズル28との接続部分)以外は、数値計算結果が理論値と良く一致していることがわかる。また、第1長さltを増加させると、理論通り圧力力積勾配が増大することも確認された。
【0090】
理論から導かれるノズル28内のインク11に付与された初期速度U´と数値計算結果のノズル28内のインク11に付与された初期速度U´とを比較すると、
t = 40 mm の場合、理論値 33.3 m/s に対し数値計算結果 21.6 m/s、
t = 80 mm の場合、理論値 66.7 m/s に対し数値計算結果 44.1 m/s、
である。
【0091】
2.第2長さlを変化させた場合
【0092】
第2長さlの長さを1.5mm、5mm、10mmと変化させた場合の容器内部のインクに作用する圧力力積分布の理論値と数値計算結果を図7に示す。太線が数値計算結果であり、細線が理論値である。
【0093】
図7に示すように、第2長さlの長さを1.5mm、5mm、10mmと変化させた場合であっても、容器12の底面22A近傍(圧力発生室26とノズル28との接続部分)以外は、数値計算結果が理論値に良く一致していることがわかる。また、第2長さlを増加させると、理論通り圧力力積勾配が減少することも確認された。
【0094】
理論から導かれるノズル28内のインク11に付与された初期速度U´と数値計算結果のノズル28内のインク11に付与された初期速度U´とを比較すると、
= 1.5 mm の場合,理論値 33.3 m/s に対し 数値計算結果 21.6 m/s、
= 5 mm の場合,理論値 10 m/s に対し数値計算結果 8.4 m/s、
= 10 mm の場合,理論値 5 m/s に対し数値計算結果 4.5 m/s、
である。
【0095】
3.圧力発生室内のインクの初期速度Uを変化させた場合
【0096】
圧力発生室内のインクの初期速度Uを1.25m/s、2.5m/sと変化させた場合の容器内部のインクに作用する圧力力積分布の理論値と数値計算結果を図8に示す。太線が数値計算結果であり、細線が理論値である。
【0097】
図8に示すように、圧力発生室内のインクの初期速度Uを1.25、2.5m/sと変化させた場合であっても、容器12の底面22A近傍(圧力発生室26とノズル28との接続部分)以外は、数値計算結果が理論値にほぼ一致していることがわかる。また、圧力発生室内のインクの初期速度Uを増加させると、理論通り圧力力積勾配が増大することも確認された。
【0098】
理論から導かれるノズル28内のインク11に付与された初期速度U´と数値計算結果のノズル28内のインク11に付与された初期速度U´とを比較すると、
= 1.25 m/s の場合,理論値 33.3 m/s に対し数値計算結果 21.6 m/s、
= 2.5 m/s の場合,理論値 66.7 m/s に対し数値計算結果 43.8 m/s、
である。
【0099】
4.ノズルの内径dを変化させた場合
【0100】
ノズルの内径dを0.5mm、1mm、2mmと変化させた場合の容器内部のインクに作用する圧力力積分布の理論値と数値計算結果を図9に示す。太線が数値計算結果であり、細線が理論値である。
【0101】
理論では、ノズルの内径dは、無視できるほど小さいと仮定されているため、ノズルの内径dが大きくなるほどノズル内の圧力力積勾配は理論値から外れてくると考えられる。
【0102】
図9に示すように、ノズルの内径dを0.5mm、1mm、2mmと変化させた場合には、dが増加するほど理論値から外れることが確認された。
【0103】
理論から導かれるノズル28内のインク11に付与された初期速度U´と数値計算結果のノズル28内のインク11に付与された初期速度U´とを比較すると、
d = 0.5 mm の場合,理論値 33.3 m/s に対し数値計算結果 29.3 m/s、
d = 1.0 mm の場合,理論値 33.3 m/s に対し数値計算結果 26.4 m/s、
d = 1.5 mm の場合,理論値 33.3 m/s に対し数値計算結果 21.6 m/s、
である。
【0104】
5.インクの動粘度νを変化させた場合
【0105】
インクの動粘度νを100mm/s、1000mm/sと変化させた場合の容器内部のインクに作用する圧力力積分布の理論値と数値計算結果を図10に示す。太線が数値計算結果であり、細線が理論値である。
【0106】
理論では、インクの動粘度は無視されているため、インクの動粘度νが大きくなるほどノズル内の圧力力積勾配は理論値から外れてくると考えられる。
【0107】
図10に示すように、インクの動粘度νを100mm/s、1000mm/sと変化させた場合、インクの動粘度が増加するほど僅かであるが理論値から外れることが確認された。
【0108】
理論から導かれるノズル28内のインク11に付与された初期速度U´と数値計算結果のノズル28内のインク11に付与された初期速度U´とを比較すると、
ν = 100mm/sの場合,理論値 33.3 m/s に対し数値計算結果 21.6 m/s、
ν = 1000mm/sの場合,理論値 33.3 m/s に対し数値計算結果 19.9 m/s、
である。
【0109】
(まとめ)
以上のように、本実施形態に係る液体ジェット射出装置10は、容器12(圧力発生室26)の底壁22に、圧力発生室26の断面積よりも断面積が小さいノズル28を形成し、ノズル28の内周面がインク11に対する接触角θを90度未満とすることによって、上向きに凹んだメニスカス(液面)がノズル28に形成されている。この状態で、容器12をストッパ16に衝突させる(容器12に撃力を付与する)ことで、液面LSの中心軸近辺から増速した先細形状の細長い液体ジェットMJが射出される。
【0110】
特に、液体ジェット射出装置10では、容器12においてノズル28の上部に、第2長さlよりも第1長さlが長く(l>l)、ノズル28の断面積(内径d)よりも断面積(内径D)の大きい(D>d)圧力発生室26を設けている。これにより、容器12に撃力が作用した時に圧力発生室26内のインク11の初期速度Uに対してノズル28内のインク11の初期速度U´を増速させることができる。この結果、ノズルのみ備えた(圧力発生室のない)液体ジェット射出装置と比較して、ノズル28内から射出される液体ジェットMJの射出速度も増加される。
【0111】
特に、ノズル28の軸方向長さ(第2長さ)lに対する圧力発生室26の軸方向長さ(第1長さ)lの比(l/l)を調整することで、圧力発生室26内のインク11の初期速度Uに対するノズル28内のインク11の初期速度U´の増速率を簡単に調整することができる。すなわち、液体ジェットMJのジェット速度Vjetを簡単に調整することができる。
【0112】
例えば、第2長さlに対する第1長さlの比(l/l)を増加させることで、容器12に撃力が作用した時に圧力発生室26内のインク11の初期速度Uに対してノズル28内のインク11の初期速度U´を増速させることができる。この結果、ノズル28内から射出される液体ジェットMJの射出速度も増加される。したがって、粘度の高いインク11を射出可能となる。
【0113】
すなわち、既存のインクジェットプリンタでは不可能であった粘度の高い顔料系のインクを射出可能となる。しかも、容器12に対する撃力の付与によってノズル28の内径の5分の1程度の細長い液体ジェットMJがノズル28から射出されるため、用紙42に高精細な印字などが可能となる。
【0114】
また、圧力発生室26内のインク11の初期速度Uに対するノズル28内のインク11の初期速度U´の増速率は、第1長さlと第2長さlの比に基づくため、圧力発生室26(容器12)の長さを変更することで、簡単に増速率の調整が可能である。
【0115】
換言すると、ノズル28の軸方向長さ(第2長さ)lを短くしても、簡単に増速率を増加させることができる。したがって、液体ジェット射出装置10において、ノズル28の軸方向長さ(第2長さ)lを短く設定することができる。したがって、粘度の高いインク11をノズル28から射出する場合であっても、液体ジェットMJの射出方向の僅かなずれにより、ノズル28の内周面にインク11が付着し、ノズル28が目詰まりすることが防止又は抑制される。また、液面LSの中央部分から細長い液体ジェットMJを射出しているため、液面LSにおけるインク11の目詰まり等を抑制できる。すなわち、液体ジェット射出装置10では、高粘度のインク11を射出する場合であっても、ノズル28の内周面に対するインク11の付着及びノズル28の目詰まりを防止又は抑制することができる。
【0116】
また、ノズル28の軸方向長さ(第2長さ)lが短くて良いため、液体ジェットMJの射出位置(液面LS)から着弾位置(用紙42)までの距離が短くて済み、容器製造時の製造精度をさほど厳しくしなくても、インク11の着弾精度を確保することができる。
【0117】
ただし、第2長さlがあまりにも短くなると、ノズル28にインク11のメニスカスがきれいに形成されなくなるので、第2長さlはノズル28の内径dの半分以上(l>d/2)であることが好ましい。換言すると、第2長さlをノズル28の内径dの半分以上(l>d/2)とすることによって、ノズル28の内周面に対するインク11の接触角θが90°未満であれば、ノズル28に上向きに凹んだメニスカスを良好に形成することができる。
【0118】
さらに、液体ジェット射出装置10は、容器12にノズル28とノズル28よりも断面積が大きい圧力発生室26を連続して形成し、この容器12に移動機構14とストッパ16を用いて撃力を付与すれば良いので、簡単な構造で構成することができる。
【0119】
さらに、ノズル28の上端が圧力発生室26の底面22Aに一致しているため、底面22Aに突起が設けられている場合と比較して、圧力発生室26のインク11が底面22A側からノズル28内に流入する場合のインク11の圧力損失が抑制され、液体ジェットMJの射出速度を一層向上させることができる。
【0120】
特に、ノズル28の上端が底面22Aの中央に位置しているため、圧力発生室26のインク11がノズル28内に流入する場合の圧力損失が抑制され、液体ジェットMJの射出速度を一層向上させることができる。
【0121】
さらに、補給装置18は、補給タンク44内のインク11の液面位置が容器12の底面22Aよりも高く維持されているため、水頭圧とインク11の表面張力の作用によって圧力発生室26に良好にインク11を供給することができる。すなわち、機械的作用を用いることなく、補給タンク44から圧力発生室26にインク11を供給することができる。
【0122】
これにより、液体ジェット射出装置10では、粘度の高いインク11でも用紙42に連続的に射出することが可能となる。
【0123】
(バリエーション)
本実施形態の液体ジェット射出装置10のバリエーションとして、図11に示すように、液体ジェット射出装置10Aを構成することもできる。
【0124】
液体ジェット射出装置10Aは、ノズル28の圧力発生室側端部に、底面22Aに向って傾斜したテーパ面51を設けたものである。
【0125】
このように形成することによって、圧力発生室26からノズル28に流入するインク11の圧力損失が一層抑制され、液体ジェットMJの射出速度を一層向上させることができる。
【0126】
また、他のバリエーションとして、図12に示すように、液体ジェット射出装置10Bを構成することもできる。
【0127】
液体ジェット射出装置10Bは、ロッド32の上端部に円板状の係止板52が設けられている。また、ロッド32の係止板52とソレノイド34の間に、液体ジェット射出装置10と略同様でロッド32が挿通可能なストッパ54が設けられている。ストッパ54の形状は、サイズを除けば第1実施形態のストッパ16と同様なので、同一の参照符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0128】
液体ジェット射出装置10Bでは、ソレノイド34の駆動によりロッド32が下方に移動し、ロッド32の上端に設けられた係止板52がストッパ54の突き当て面38Aに衝突することにより、容器12に撃力が付与される。これにより、ノズル28の液面LSから液体ジェットMJが射出される。
【0129】
このように、液体ジェット射出装置10Bでは、ストッパ54を容器12の上部側に移動させることで、ストッパ54を小型化することができると共に、ノズル28と用紙42との間に介在するものをなくし、すっきりした構成とすることができる。
【0130】
[第2実施形態]
【0131】
本開示の第2実施形態に係る液体ジェット射出装置について図13を参照して説明する。第1実施形態と同様の構成要素については、同一の参照符号を付してその説明を省略する。なお、第1実施形態と異なる点のみを説明する。
【0132】
図13に示すように、液体ジェット射出装置100は、インク11が充填される圧力発生室26内に空気102が挿入された可撓性及び弾性を有する袋104が挿入されている。
【0133】
液体ジェット射出装置100では、ソレノイド34が駆動されることによりロッド32を所定速度で下降させる。この結果、ロッド32に取り付けられた容器12が所定速度でストッパ16に衝突する。この衝突によって容器12に撃力が作用する。これにより、ノズル28の内部では、インク11の接触角θが90度未満であるため凹面形状に形成されていた液面LSが水平面形状となり、その中心部分からノズル28よりも細い液体ジェットMJが吐出(射出)される。
【0134】
この際、容器12に対する撃力の作用によって圧力発生室26内に配置された袋104(の中の空気102)が膨張し、圧力発生室26からノズル28へのインク11の移動を補助する。
【0135】
このように、液体ジェット射出装置100では、圧力発生室26のインク11中に空気102が挿入された袋104が挿入されており、撃力付与時に袋104が膨張することによって、高粘度のインク11を使用した場合でも圧力発生室26との粘性損失に抗してノズル28にインク11を確実に供給可能となる。
【0136】
すなわち、高粘度の液体を使用した場合にも、ノズル28から確実に液体ジェットを射出可能となる。
【0137】
なお、袋104は、撃力の付与によって膨張可能であれば良いので、内部に充填されるのは空気以外の気体でも良いし、撃力の付与によって膨張可能なジェル等でも良い。また、袋104を用いずに、圧力発生室26のインク11の中に気泡として空気102を直接入れても良い。
【0138】
[第3実施形態]
本開示の第3実施形態に係る液体ジェット射出装置について図14を参照して説明する。第1実施形態と同様の構成要素については、同一の参照符号を付してその説明を省略する。なお、第1実施形態と異なる点のみを説明する。
【0139】
液体ジェット射出装置200は、図14に示すように、圧力発生室26の内部において、底面22A側にノズル28から液体ジェットMJとして射出されるインク11を配置し、上面20A側にはゼラチン202を配置したものである。このゼラチン202が「圧力発生媒体」に相当する。
【0140】
具体的には、ノズル28や開口部35をゼラチン202で閉塞しないようにして容器12(圧力発生室26)の内部にゼラチン202を流入させ、容器12内部の圧力を高めてゼラチン202を凝固させた後、補給装置18から圧力発生室26及びノズル28内にインク11を供給するものである。
【0141】
なお、使用されるゼラチン202は、質量含水率が95%のものを使用している。
【0142】
また、補給装置18の補給チューブ46は、圧力発生室26を構成する周壁24のインク配置領域に設けられた開口部35に連通されている。
【0143】
さらに、本実施形態では、図14に示すように、補給装置18の補給タンク44に貯留されたインク11の液面50を圧力発生室26の底面22A以下としている。
【0144】
この液体ジェット射出装置200の作用について説明する。
【0145】
液体ジェット射出装置200は、第1実施形態に係る液体ジェット射出装置10と同様に、増速率βの高い細長い液体ジェットMJをノズル28内の液面LSから射出することができる。
【0146】
特に、液体ジェット射出装置200は、容器12内に配置されたゼラチン202の含水率が95%であるため、ゼラチン202の音響インピーダンスとインク11の音響インピーダンスとの差が小さい。したがって、容器12内のゼラチン202とノズル28内のインク11の界面におけるエネルギ伝達率の低下が抑制され、液体ジェットMJを良好に射出することができる。
【0147】
なお、使用されるゼラチン202は、インク11と音響インピーダンスが等しいものが最も好ましいが、多少ずれていても良い。ゼラチン202の音響インピーダンスがインク11の音響インピーダンスの少なくとも1.5倍程度までは、液体ジェット射出装置200から液体ジェットMJが射出されることが確認されている。
【0148】
また、液体ジェット射出装置200では、容器12(圧力発生室26)の上部側にゼラチン202を配置したため、圧力発生室26の底面22A側でノズル28に連通している部分(ゼラチン202のない部分)にだけインク11を配置すれば良い。すなわち、液体ジェットMJの射出に要するインク11の量を抑制することができる。特に、高価なインク11等を射出する場合にインク11の使用量を抑制できるメリットが大きい。
【0149】
特に、液体ジェット射出装置200において増速率を増加させるために、第1長さltを増加させた場合でも、ゼラチン202の配置領域を増加させることで対応すれば、インク11の使用量を増加させずに済むというメリットがある。
【0150】
さらに、液体ジェット射出装置200の使用するインク11を交換する場合、圧力発生室26とノズル28の内部のインク11を排出した後、別の液体を圧力発生室26のゼラチン202が配置していない領域とノズル28の内部に供給するだけで良い。すなわち、容器12の内部に配置したゼラチン202を交換しなくて良いので、交換液量が少量で済むというメリットがある。
【0151】
また、ゼラチン202は、インク11と混合せず、化学反応も生じないので、液体ジェットMJ(インク11)の品質を低下させるおそれはない。
【0152】
なお、本実施形態では、容器12にゼラチン202が配置される例で説明したが、これに限定されるものではない。固体(流動しないもの)で、音響インピーダンスがインク11の音響インピーダンスと上記条件を満たすものであれば、本実施形態に適用することができる。例えば、PDMS(ポリジメチルシロキサン)等が考えられる。
【0153】
さらに、本実施形態では、図14に示すように、補給装置18の補給タンク44に貯留されたインク11の液面50を圧力発生室26の底面22A以下としたが、インク11の表面張力の作用だけで圧力発生室26にインク11を供給可能である。
【0154】
なお、液体ジェット射出装置200に高粘度のインク11を適用することもできる。この場合には、第1実施形態と同様に、補給タンク44のインク11の液面50を底面22A以上とすれば良い。
【0155】
(バリエーション)
液体ジェット射出装置200のバリエーションとして、液体ジェット射出装置200Aについて、図15を参照して説明する。なお、液体ジェット射出装置200Aが液体ジェット射出装置200と異なるのは、圧力発生室26内の液体の配置のみなので、該当部分のみ説明する。また、液体ジェット射出装置200Aにおいて、液体ジェット射出装置200と同一の構成要素には、同一の参照符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0156】
液体ジェット射出装置200Aでは、液体ジェット射出装置200で圧力発生室26にゼラチン202が配設されていた部分の下端(ノズル側端部)に含水率95%のゼラチンからなる膜体204が配設されており、この膜体204よりも上面20A側にインク11と異なる液体206、例えば水が配置されている。
【0157】
このように液体ジェット射出装置200Aを構成することによっても、増速率の高い液体ジェット射出装置MJを射出することができる。
【0158】
また、圧力発生室26の一部をインク11と異なる液体206で充填し、インク11と液体206の間を膜体204で区切ったため、インク11と液体206が混合したり、化学反応を生ずること(インク11の品質低下)を防止しつつ、圧力発生室26で使用されるインク11の量を抑制することができる。
【0159】
さらに、含水率95%のゼラチンからなる膜体204を設けることで、膜体204とインク11や液体206との音響インピーダンスの差が小さい。したがって、撃力付与時にインク11と異なる液体206と膜体204との界面、膜体204とインク11との界面におけるエネルギ伝達率の低下が抑制され、液体ジェットMJを良好に射出することができる。
【0160】
[参考例]
参考例に係る液体ジェット射出装置について図16を参照して説明する。第1実施形態と同様の構成要素については、同一の参照符号を付してその説明を省略する。なお、第1実施形態と異なるのは、容器12の形状のみなので、該等部分のみを説明する。
【0161】
図16に示すように、容器12は、上壁20側が円筒形状であり、途中からノズル28に向かって縮径する円錐形状とされている。すなわち、容器12のノズル28側が円錐形状の円錐部302とされ、その内周面が圧力発生室26を構成するテーパ面302Aとされている。
【0162】
また、容器12の円錐部302には、周方向に所定間隔で径方向外側に張り出して形成された複数のリブ304が形成されている。このリブ304の底面306が径方向に延在しており、容器12のストッパ16への衝突時に底面306が突き当て面38Aに当接するように構成されている。
【0163】
このように構成された液体ジェット射出装置300では、ソレノイド34の駆動により容器12のリブ304(底面306)がストッパ16の突き当て面38Aに衝突することにより容器12に撃力が付与され、ノズル28から液体ジェットMJが射出される。
【0164】
ただし、このように液体ジェット射出装置300を構成した場合には、圧力発生室26にテーパ面302Aがあるため、増速率を増加させる面で液体ジェット射出装置10と比較して不利になる。
【0165】
[その他]
以上、第1~第3実施形態に係る液体ジェット射出装置について説明したが、本開示はこれに限定されるものではない。すなわち、打撃によって撃力を容器12に付与できるものであれば、移動機構14とストッパ16の構成に限定されるものではない。例えば、容器12の周壁24に側方から撃力を付与する構成でも良い。
【0166】
また、第1~第3実施形態では、液体ジェットMJの射出方向(ノズル28の開放端)は鉛直下方となっているが、これに限定されるものではない。例えば、水平方向や鉛直上方にも射出可能である。なお、この場合には、ノズル28の内径dが十分に小さく、表面張力の作用によって液面LSが容器12の上壁20側に向かって凹んだ凹面形状に維持されることが必要である。また、補給装置18から圧力発生室26へのインク11の補給は、例えば、補給タンク44のインク11に対する加圧等によって行うことが考えられる。
【0167】
さらに、第1~第3実施形態では、ノズル28及び圧力発生室26の断面が円形であるとして説明したが、本開示はこれに限定されるものではない。
【0168】
また、第1~第3実施形態では、圧力発生室26の底面22Aの中央にノズル28の上端が開口する構成としたが、本開示はこれに限定されるものではない。例えば、底面22Aの径方向外側端部に位置していてもよい。
【0169】
さらに、第1~第3実施形態では、容器12(圧力発生室26)に対して1つのノズル28が設けられていたが、複数のノズル28を設けても良い。例えば、圧力発生室26の底壁22に3つのノズル28を設けても良い。
【0170】
また、第1~第3実施形態では、容器12の圧力発生室26は閉塞されており、内部にインク11が充填されている構成であったが、圧力発生室26の上部が開放されたものでも良い。
【0171】
なお、この場合には、圧力発生室26の底面22Aから上部の液面までの長さが第1長さlに相当する。
【0172】
さらに、第1~第3実施形態では、ノズル28の一端部が圧力発生室26の底面22Aに開口する構成としたが、ノズル28の一端部が圧力発生室26内に突出する構成としても良い。この場合には、第2長さlは、ノズル28の一端部から液面LSまでの軸方向長さとなり、第1長さlは圧力発生室26の上面20Aから底面22Aまでの軸方向長さとなる。
【0173】
また、第1~第3実施形態では、射出される液体としてインク11について説明したが、本開示はこれに限定されるものではない。他の液体にも適用することができる。例えば、第1~第3実施形態の液体ジェット射出装置は、高速な液体ジェットMJを射出可能であると共に、そのジェット速度Vjetを制御可能なので、皮下や筋肉等の薬剤到達位置を制御できると考えられ、無針注射器への適用が考えられる。
【0174】
さらに、第1、第2実施形態では、液体ジェット射出装置を作動中に補給タンク44のインク11の液面50を圧力発生室26の底面22Aよりも高い位置としているが、作動終了後には補給タンク44のインク11の液面50をノズル28のメニスカス形成位置まで下降させる場合がある。
【0175】
また、第3実施形態では、補給装置18の補給タンク44に貯留されたインク11の液面50を圧力発生室26の底面22A以下とし、インク11の表面張力により圧力発生室26にインク11を供給可能としたが、この構成は第3実施形態に限定されず、第1、第2実施形態等に適用することができる。
【0176】
なお、2018年6月22日に出願された日本国特許出願2018-119345号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
【0177】
[付記]
なお、本開示の第1態様は、両端部が開口し、少なくとも内面に対する接触角が90度未満である液体が内部に配置される吐出部と、前記吐出部の一端部に連通し、前記吐出部の断面積よりも大きい断面積を有し、前記吐出部における前記一端部から液面までの液体マイクロジェットの射出方向の長さよりも前記射出方向の長さが長く、少なくとも前記一端部が開口した底面の側に前記液体が配置された圧力発生部と、前記圧力発生部に撃力を付与する撃力付与手段と、を備える液体マイクロジェット高速射出装置を提供する。
【0178】
また、本開示の第2態様は、前記吐出部の一端部は、前記底面と一致している本開示の第1態様の液体マイクロジェット高速射出装置を提供する。
【0179】
さらに、本開示の第3態様は、前記吐出部の一端部側には、前記底面に向って傾斜したテーパ面が形成されている本開示の第2態様の液体マイクロジェット高速射出装置を提供する。
【0180】
また、本開示の第4態様は、前記吐出部の一端部は、前記圧力発生部の底面の中央に開口している本開示の第1~第3態様のいずれか1態様の液体マイクロジェット高速射出装置を提供する。
【0181】
さらに、本開示の第5態様は、前記圧力発生部には、前記底面側に前記液体が配置されると共に、前記底面側と反対側には音響インピーダンスが前記液体の音響インピーダンスの1倍以上1.5倍以下で当該液体と混合及び化学反応しない圧力発生媒体が配置されている本開示の第1~第4のいずれか1態様の液体マイクロジェット高速射出装置を提供する。
【0182】
また、本開示の第6態様は、内部に前記液体が貯留された補給部と、前記補給部の液体貯留部分と前記圧力発生部の液体貯留部分とを連通させる液体供給路と、を有する補給装置をさらに備える本開示の第1~第5のいずれか1態様の液体マイクロジェット高速射出装置を提供する。
【0183】
さらに、本開示の第7態様は、前記吐出部の他端部が下向きに開口された液体マイクロジェット高速射出装置において、前記補給装置は、前記補給部に貯留された前記液体の水頭圧及び当該液体の表面張力の作用、又は当該液体の表面張力の作用により前記圧力発生部に当該液体を供給する第6態様の液体マイクロジェット高速射出装置を提供する。
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