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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-26
(45)【発行日】2022-06-03
(54)【発明の名称】薄膜製造方法、スパッタリング装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20220527BHJP
   H05H 1/46 20060101ALI20220527BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20220527BHJP
【FI】
C23C14/34 S
C23C14/34 U
H05H1/46 A
H02M7/48 E
H02M7/48 M
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018120067
(22)【出願日】2018-06-25
(65)【公開番号】P2020002392
(43)【公開日】2020-01-09
【審査請求日】2021-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】特許業務法人南青山国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100144211
【弁理士】
【氏名又は名称】日比野 幸信
(72)【発明者】
【氏名】増井 透
(72)【発明者】
【氏名】大倉 章弘
(72)【発明者】
【氏名】高田 大輔
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-526184(JP,A)
【文献】特開2009-284734(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/34
H05H 1/46
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空槽と、
前記真空槽内に配置され、スパッタ電源のA相側出力端子に接続されたA相カソード電極と、B相側出力端子に接続されたB相カソード電極と、
前記A相カソード電極に配置されたA相ターゲットと、前記B相カソード電極に配置されたB相ターゲットとを有し、
前記スパッタ電源は、
低電位側直流電圧端子から直流のスパッタ電圧を出力する直流電圧源と、
前記A相側出力端子と前記B相側出力端子のうちの少なくともいずれか一方を前記低電位側直流電圧端子に接続するように動作する主スイッチ回路と、
少なくとも前記主スイッチ回路の動作を制御する制御回路と、
前記主スイッチ回路に流れた電流の電流値と、前記A相側出力端子と前記B相側出力端子とのうちの少なくとも前記低電位側直流電圧端子に接続された出力端子に発生した電圧の電圧値のいずれか一方又は両方の値を測定する測定装置と、
を有するスパッタリング装置を用い、
前記測定装置によって、前記A相側出力端子と前記B相側出力端子とが交互に前記低電位側直流電圧端子に所定の導通時間ずつ接続されるスパッタ状態中に前記電流値又は前記電圧値のいずれか一方又は両方を測定値として測定し、
前記測定値によってスパッタリングが正常か異常かを判断し、
正常と判断すると前記スパッタ状態を維持して前記真空槽内に搬入した成膜対象物の表面に薄膜を成長させ、
異常と判断すると前記A相側出力端子と前記B相側出力端子とのうち、前記測定値が得られたときに前記低電位側直流電圧端子に接続されていた方である異常端子を接地電位に接続する停止状態に前記導通時間が経過する前に移行させ、
所定の停止時間が経過した後前記停止状態から前記スパッタ状態に移行させる薄膜製造方法であって、
前記停止時間は前記導通時間よりも長時間にしておき、
前記停止時間の経過によって前記停止状態から前記スパッタ状態に移行した後、前記異常端子が前記低電位側直流電圧端子に接続されて前記測定値を測定し、
前記測定値によってスパッタリングを異常と判断した場合には、前記停止時間の時間を増加させて前記スパッタ状態から前記停止状態に移行し、
前記停止状態に移行された後前記停止時間が経過する前に、前記異常端子とは異なる出力端子が前記低電位側直流電圧端子に接続される
薄膜製造方法。
【請求項2】
前記停止時間が経過する前に、前記測定値を測定して前記測定値によってスパッタリングを異常と判断すると、前記異常端子とは異なる出力端子を接地電位に接続する請求項記載の薄膜製造方法。
【請求項3】
真空槽と、
前記真空槽内に配置され、スパッタ電源のA相側出力端子に接続されたA相カソード電極と、B相側出力端子に接続されたB相カソード電極と、
前記A相カソード電極に配置されたA相ターゲットと、前記B相カソード電極に配置されたB相ターゲットとを有し、
前記スパッタ電源は、
低電位側直流電圧端子から直流のスパッタ電圧を出力する直流電圧源と、
前記A相側出力端子と前記B相側出力端子のうちの少なくともいずれか一方を前記低電位側直流電圧端子に接続するように動作する主スイッチ回路と、
少なくとも前記主スイッチ回路の動作を制御する制御回路と、
前記主スイッチ回路に流れた電流の電流値と、前記A相側出力端子と前記B相側出力端子とのうちの少なくとも前記低電位側直流電圧端子に接続された出力端子に発生した電圧の電圧値のいずれか一方又は両方の値を測定する測定装置と、
を有し、
前記測定装置は、前記A相側出力端子と前記B相側出力端子とが交互に前記低電位側直流電圧端子に所定の導通時間ずつ接続されるスパッタ状態中に前記電流値又は前記電圧値のいずれか一方又は両方を測定値として測定し、
前記測定値によってスパッタリングが正常と判断されると前記スパッタ状態が維持されて前記真空槽の内部に搬入された成膜対象物の表面に薄膜が成長され、異常と判断されると前記A相側出力端子と前記B相側出力端子とのうち、前記測定値が得られたときに前記低電位側直流電圧端子に接続されていた方である異常端子が接地電位に接続される停止状態に前記導通時間が経過する前に移行され、
所定の停止時間が経過した後前記停止状態から前記スパッタ状態に移行されるスパッタリング装置であって、
前記停止時間は前記導通時間よりも長時間に設定され、
前記停止時間の経過によって前記停止状態から前記スパッタ状態に移行した後、前記異常端子が前記低電位側直流電圧端子に接続されて前記測定値が測定され、
前記測定値によってスパッタリングが異常と判断された場合には、前記停止時間の時間は増加されて前記スパッタ状態から前記停止状態に移行され
前記停止状態に移行された後前記停止時間が経過する前に、前記異常端子とは異なる出力端子が前記低電位側直流電圧端子に接続される
スパッタリング装置。
【請求項4】
前記停止時間が経過する前に、前記測定値が測定され、前記測定値によってスパッタリングが異常と判断されると、前記異常端子とは異なる出力端子は接地電位に接続される請求項記載のスパッタリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスパッタリング装置の技術に係り、特に、スパッタリング装置が異常放電を発生させたときに正常な状態に復帰する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
スパッタリングによる薄膜の製造は、半導体の分野や機械部品の生産分野などに広く用いられており、誘電体の薄膜を形成するためには、カソード電極に交流電圧を印加して誘電体のターゲットをスパッタリングする技術が用いられている。
【0003】
図7のグラフは、二個のカソード電極900A、900Bに印加される電圧の波形を示しており、各グラフの上側が接地電位VGND、下側がスパッタ電圧VSUPであり、二個のカソード電極900A、900Bに交互にスパッタ電圧VSUPが導通時間T0の間印加されているが、異常電流や異常電圧が検出されるとスパッタ電圧VSUPの出力は停止される。
【0004】
図7のグラフでは、二個のカソード電極900A、900Bに印加されていた電圧が時刻t901でそれぞれ反転し、一方のカソード電極900Aは接地電位VGNDに接続され、他方のカソード電極900Bにはスパッタ電圧VSUPの印加が開始されているが、導通期間T0が経過する前に時刻t902に於いて異常電流又は異常電圧が検出され、スパッタ電圧VSUPが印加されていたカソード電極900Bは接地電位VGNDに接続される。
【0005】
異常電圧や異常電流は、ターゲット表面近傍で異常放電が発生した場合に検出されることが知られており、異常放電が発生したカソード電極900Bが所定の停止時間P901の間接地電位VGND、に接続されると、異常放電を発生させた原因は消滅し、そのカソード電極900Bにスパッタ電圧VSUPを印加できるようになる。
【0006】
しかしながら停止時間P901が経過した後であっても異常放電の原因が消滅しておらず、スパッタ電圧VSUPを印加すると異常放電が再発生し、異常電圧や異常電流が検出される場合がある。
【0007】
図7のグラフでは、停止時間P901が経過し、スパッタ電圧VSUPの印加を再開した時刻t903の直後に異常電流又は異常放電が検出されており、導通期間T0が経過する前に異常放電があったカソード電極900Bへのスパッタ電圧VSUPの印加は停止され、接地電位VGNDに接続されている。
【0008】
この場合、接地電位VGNDに接続された後次の停止時間が経過するとスパッタ電圧VSUPが印加されるが、ここでは時刻tNで開始した最後の停止時間PNが経過するまでスパッタ電圧VSUPを印加する度に異常電流又は異常放電が検出され、時刻tN+1でスパッタ電圧VSUPが交互に印加されるようになるまでには複数回の停止時間P901~PNが経過している。
【0009】
少ない回数の停止時間P901~PNで異常放電の原因を消滅させるためには一回の停止時間P901~PNを長くする必要があるため、停止時間P901~PNを複数回繰り返すと長時間を要することになる。
【0010】
また、一回の停止時間P901~PNを長くすると、ターゲット表面近傍に発生しているプラズマが完全消滅してしまう場合があり、プラズマが完全消滅した場合には、スパッタ電圧VSUPを印加してもプラズマが回復できず、ターゲットをスパッタリングできなくなるという問題が発生する。
【0011】
プラズマを再発生させ、ターゲットのスパッタリングを再開するためには、真空槽内の圧力を上昇させ、カソード電極900A又は900Bにスパッタ電圧VSUPよりも高い電圧を印加する必要があり、プラズマを再発生させるためには更に長時間を必要することになる。また、プラズマが再発生しても、ターゲットが安定してスパッタリングされるようになるためには、所定の時間を経過させる必要もあり、スパッタリング工程の効率が悪化する原因となっている。
【0012】
本発明は上記従来技術の課題を解決するために創作されたものであり、プラズマの完全消滅を防止し、スパッタリング工程を復帰させる時間を減少させるスパッタリング技術を提供することにある。
【0013】
下記文献には、アーク発生時においてインバータから負荷側への電流供給を抑制し、短時間で復帰させようとする技術が記載されているが、電力供給が再開された後、異常放電は発生していないから、復帰までの経過する一回の停止時間は長時間であることが分かる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開2015-070677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、異常放電から短時間で復帰でき、また、確実に復帰できる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、本発明は、真空槽と、前記真空槽内に配置され、スパッタ電源のA相側出力端子に接続されたA相カソード電極と、B相側出力端子に接続されたB相カソード電極と、前記A相カソード電極に配置されたA相ターゲットと、前記B相カソード電極に配置されたB相ターゲットとを有し、前記スパッタ電源は、低電位側直流電圧端子から直流のスパッタ電圧を出力する直流電圧源と、前記A相側出力端子と前記B相側出力端子のうちの少なくともいずれか一方を前記低電位側直流電圧端子に接続するように動作する主スイッチ回路と、少なくとも前記主スイッチ回路の動作を制御する制御回路と、前記主スイッチ回路に流れた電流の電流値と、前記A相側出力端子と前記B相側出力端子とのうちの少なくとも前記低電位側直流電圧端子に接続された出力端子に発生した電圧の電圧値のいずれか一方又は両方の値を測定する測定装置と、を有するスパッタリング装置を用い、前記測定装置によって、前記A相側出力端子と前記B相側出力端子とが交互に前記低電位側直流電圧端子に所定の導通時間ずつ接続されるスパッタ状態中に前記電流値又は前記電圧値のいずれか一方又は両方を測定値として測定し、前記測定値によってスパッタリングが正常か異常かを判断し、正常と判断すると前記スパッタ状態を維持して前記真空槽内に搬入した成膜対象物の表面に薄膜を成長させ、異常と判断すると前記A相側出力端子と前記B相側出力端子とのうち、前記測定値が得られたときに前記低電位側直流電圧端子に接続されていた方である異常端子を接地電位に接続する停止状態に前記導通時間が経過する前に移行させ、所定の停止時間が経過した後前記停止状態から前記スパッタ状態に移行させる薄膜製造方法であって、前記停止時間は前記導通時間よりも長時間にしておき、前記停止時間の経過によって前記停止状態から前記スパッタ状態に移行した後、前記異常端子が前記低電位側直流電圧端子に接続されて前記測定値を測定し、前記測定値によってスパッタリングを異常と判断した場合には、前記停止時間の時間を増加させて前記スパッタ状態から前記停止状態に移行する薄膜製造方法である。
また、本発明は、前記停止時間の経過によって前記停止状態から前記スパッタ状態に移行した後に、前記異常端子とは異なる出力端子を前記低電位側直流電圧端子に接続する前に、前記異常端子が前記低電位側直流電圧端子に接続する薄膜製造方法である。
また、本発明は、前記停止時間の経過によって前記停止状態から前記スパッタ状態に移行した後に、前記異常端子を前記低電位側直流電圧端子に接続する前に、前記異常端子とは異なる出力端子を前記低電位側直流電圧端子に接続する薄膜製造方法である。
また、本発明は、前記停止状態に移行された後前記停止時間が経過する前に、前記異常端子とは異なる出力端子が前記低電位側直流電圧端子に接続される薄膜製造方法である。
また、本発明は、前記停止時間が経過する前に、前記測定値を測定して前記測定値によってスパッタリングを異常と判断すると、前記異常端子とは異なる出力端子を接地電位に接続する薄膜製造方法である。
また、本発明は、真空槽と、前記真空槽内に配置され、スパッタ電源のA相側出力端子に接続されたA相カソード電極と、B相側出力端子に接続されたB相カソード電極と、前記A相カソード電極に配置されたA相ターゲットと、前記B相カソード電極に配置されたB相ターゲットとを有し、前記スパッタ電源は、低電位側直流電圧端子から直流のスパッタ電圧を出力する直流電圧源と、前記A相側出力端子と前記B相側出力端子のうちの少なくともいずれか一方を前記低電位側直流電圧端子に接続するように動作する主スイッチ回路と、少なくとも前記主スイッチ回路の動作を制御する制御回路と、前記主スイッチ回路に流れた電流の電流値と、前記A相側出力端子と前記B相側出力端子とのうちの少なくとも前記低電位側直流電圧端子に接続された出力端子に発生した電圧の電圧値のいずれか一方又は両方の値を測定する測定装置と、を有し、前記測定装置は、前記A相側出力端子と前記B相側出力端子とが交互に前記低電位側直流電圧端子に所定の導通時間ずつ接続されるスパッタ状態中に前記電流値又は前記電圧値のいずれか一方又は両方を測定値として測定し、前記測定値によってスパッタリングが正常と判断されると前記スパッタ状態が維持されて前記真空槽の内部に搬入された成膜対象物の表面に薄膜が成長され、異常と判断されると前記A相側出力端子と前記B相側出力端子とのうち、前記測定値が得られたときに前記低電位側直流電圧端子に接続されていた方である異常端子が接地電位に接続される停止状態に前記導通時間が経過する前に移行され、所定の停止時間が経過した後前記停止状態から前記スパッタ状態に移行されるスパッタリング装置であって、前記停止時間は前記導通時間よりも長時間に設定され、前記停止時間の経過によって前記停止状態から前記スパッタ状態に移行した後、前記異常端子が前記低電位側直流電圧端子に接続されて前記測定値が測定され、前記測定値によってスパッタリングが異常と判断された場合には、前記停止時間の時間は増加されて前記スパッタ状態から前記停止状態に移行されるスパッタリング装置である。
また、本発明は、前記停止時間の経過によって前記停止状態から前記スパッタ状態に移行された後は、前記異常端子とは異なる出力端子が前記低電位側直流電圧端子に接続される前に、前記異常端子が前記低電位側直流電圧端子に接続されるスパッタリング装置である。
また、本発明は、前記停止時間の経過によって前記停止状態から前記スパッタ状態に移行された後は、前記異常端子が前記低電位側直流電圧端子に接続される前に、前記異常端子とは異なる出力端子が前記低電位側直流電圧端子に接続されるスパッタリング装置である。
また、本発明は、前記停止状態に移行された後前記停止時間が経過する前に、前記異常端子とは異なる出力端子が前記低電位側直流電圧端子に接続されるスパッタリング装置である。
また、本発明は、前記停止時間が経過する前に、前記測定値が測定され、前記測定値によってスパッタリングが異常と判断されると、前記異常端子とは異なる出力端子は接地電位に接続されるスパッタリング装置である。
【発明の効果】
【0017】
短時間の停止時間で復帰した場合には、復帰に要する時間が短くて済む。
復帰時間は短時間から徐々に長くされるので、異常状態から確実に復帰することができる。
また、停止時間が繰り返された場合もプラズマを完全消滅させる前に復帰できる確率が高くなっている。
また、本発明は主スイッチ回路を利用して異常放電から復帰させる技術であるため、主スイッチ回路とは別の回路を設ける必要が無く、単純な構成で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一例のスパッタリング装置
図2】そのスパッタリング装置のスパッタ電源の回路図
図3】スパッタ状態のときの電圧波形
図4】異常放電から復帰するときの電圧波形(1)
図5】異常放電から復帰するときの電圧波形(2)
図6】異常放電から復帰するときの電圧波形(3)
図7】従来技術のスパッタリング装置の電圧波形の例
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1の符号2は、本発明の一例のスパッタリング装置であり、真空槽40を有している。真空槽40の内部には、A相カソード電極13aとB相カソード電極13bとが配置されており、各カソード電極13a、13bとそれぞれ対面する位置には、成膜対象物が配置される配置装置33が設けられている。
【0020】
配置装置33には成膜対象物を保持する複数の保持装置321、322が配置されており、各保持装置321、322にはそれぞれ成膜対象物である基板311、312が配置されている。
【0021】
この例では配置装置33はモータ等の駆動装置に接続されており、駆動装置が動作すると、保持装置321、322は、配置装置33に設けられた移動経路に沿って、基板311、312と共に真空槽40の内部を移動するようにされている。
【0022】
A相カソード電極13aにはA相ターゲット14aが配置され、B相カソード電極13bにはB相ターゲット14bが配置されている。
【0023】
各ターゲット14a、14bの表面は同一の平面上に配置されており、保持装置321、322が真空槽40の内部を移動する際には、保持装置321、322に配置された基板311、312は各ターゲット14a、14bの表面と対面しながら真空槽40の内部を移動する。
【0024】
真空槽40の外部には、真空排気装置45とガス源44とスパッタ電源10とが配置されている。真空排気装置45とガス源44とは真空槽40の内部に接続されており、真空排気装置45が動作すると真空槽40の内部が真空排気され、真空雰囲気が形成される。
【0025】
ガス源44にはアルゴン等のスパッタリングガスが充填されており、真空槽40の内部に真空雰囲気が形成された後、ガス源44から真空槽40の内部にスパッタリングガスが供給されると、真空槽40の内部はスパッタリングガスが導入された真空雰囲気にされる。
【0026】
次に、スパッタ電源10を説明すると、図2を参照し、スパッタ電源10は、直流電圧源11と主スイッチ回路21とを有している。
【0027】
主スイッチ回路21はA相スイッチ回路21aとB相スイッチ回路21bとを有しており、A相スイッチ回路21aとB相スイッチ回路21bとは、高電位側スイッチ素子Tr11、Tr21と低電位側スイッチ素子Tr12、Tr22とをそれぞれ有している。各スイッチ素子Tr11、Tr21、Tr12、Tr22はIGBTであるが、MOSトランジスタ等の他の素子であっても良い。
【0028】
A相スイッチ回路21aとB相スイッチ回路21bとは、一個の高電位側スイッチ素子Tr11、Tr21と一個の低電位側スイッチ素子Tr12、Tr22とが直列接続されており、直列接続された回路の高電位側の一端は、直流電圧源11の高電位側直流電圧端子28Hに接続され、低電位側の一端は低電位側直流電圧端子28Lに接続されている。真空槽40は接地電位に接続されており、高電位側直流電圧端子28Hと低電位側直流電圧端子28Lとは50MΩ程度の高抵抗によって真空槽40に接続され、高抵抗を介して接地電位に接続されている。
【0029】
直流電圧源11は高電位側直流電圧端子28Hと低電位側直流電圧端子28Lとの間に直流の出力電圧を出力しており、A相スイッチ回路21aとB相スイッチ回路21bとには、直流電圧源11が出力する直流の出力電圧が印加される。
【0030】
スパッタ電源10は、A相側出力端子15aとB相側出力端子15bとを有しており、A相スイッチ回路21aの高電位側スイッチ素子Tr11と低電位側スイッチ素子Tr12とが互いに接続された接続点がA相側出力端子15aに接続され、B相スイッチ回路21bの高電位側スイッチ素子Tr21と低電位側スイッチ素子Tr22とが互いに接続された接続点がB相側出力端子15bに接続されている。
【0031】
このスパッタ電源10には駆動回路25が設けられており、各スイッチ素子Tr11、Tr21、Tr12、Tr22の制御端子は駆動回路25に接続され、駆動回路25が出力する信号によって導通と遮断とが切り替えられるようにされている。
【0032】
スパッタ電源10には制御装置23が設けられており、駆動回路25と直流電圧源11とは制御装置23に接続され、制御装置23が駆動回路25の動作と直流電圧源11の動作とを制御するようにされている。
【0033】
駆動回路25は、A相スイッチ回路21aの高電位側スイッチ素子Tr11と低電位側スイッチ素子Tr12のうち、一方の素子が導通するときは他方の素子を遮断させ、また、B相スイッチ回路21bの高電位側スイッチ素子Tr21と低電位側スイッチ素子Tr22のうち、一方の素子が導通するときは他方の素子を遮断させる。
【0034】
A相側出力端子15aはA相カソード電極13aに接続され、B相側出力端子15bはB相カソード電極13bに接続されている。
【0035】
各スイッチ素子Tr11、Tr21、Tr12、Tr22の導通と遮断の切り替えによって、主スイッチ回路21の内部接続は変更されるようになっており、A相スイッチ回路21aの低電位側スイッチ素子Tr12が導通し高電位側スイッチ素子Tr11が遮断すると共にB相スイッチ回路21bの高電位側スイッチ素子Tr21が導通し低電位側スイッチ素子Tr22が遮断してA相側出力端子15aは低電位側直流電圧端子28Lに接続されB相側出力端子15bは高電位側直流電圧端子28Hに接続される接続状態をA相スパッタ接続と呼び、それとは逆に、A相スイッチ回路21aの高電位側スイッチ素子Tr11が導通し低電位側スイッチ素子Tr12が遮断すると共にB相スイッチ回路21bの高電位側スイッチ素子Tr21が遮断し低電位側スイッチ素子Tr22が導通してA相側出力端子15aは高電位側直流電圧端子28Hに接続されB相側出力端子15bは低電位側直流電圧端子28Lに接続される接続状態をB相スパッタ接続と呼ぶ。
【0036】
図3の符号100AはA相カソード電極13aの電圧波形であり、符号100BはB相カソード電極13bの電圧波形である。
【0037】
直流電圧源11の低電位側直流電圧端子28Lからスパッタ電圧VSUPが出力された状態で、A相スパッタ接続とB相スパッタ接続とが導通時間T0ずつ交互に繰り返されると、A相カソード電極13aとB相カソード電極13bとにスパッタ電圧VSUPが導通時間T0ずつ交互に印加される。
【0038】
つまり、導通時間T0の間スパッタ電圧VSUPと接地電位VGNDとが交互に繰り返し印加されてスパッタ電圧VSUPの交流電圧が印加されていることになる。
【0039】
接地電位VGNDに接続されたカソード電極13a又は13bはアノードとなり、A相ターゲット14aの表面とB相ターゲット14bの表面に交互に放電が発生し、プラズマが形成され、A相ターゲット14aとB相ターゲット14bとは交互にスパッタリングされてスパッタリング粒子が交互に飛び出す。
【0040】
飛び出したスパッタリング粒子はA相ターゲット14aとB相ターゲット14bとに対面しながら通過する基板311、312の表面に到達し、薄膜を成長させる。
【0041】
ここではA相ターゲット14aとB相ターゲット14bとは、同一組成の絶縁物で構成されており、真空槽40の内部に、スパッタリングガスと共に、A相ターゲット14aとB相ターゲット14bとから飛び出したスパッタリング粒子と反応する反応性ガスを導入した場合には、基板311、312の表面に、各ターゲット14a、14bを構成する材料と反応性ガスとが反応した生成物の薄膜が形成される。なお、図1の符号37は防着板である。
【0042】
直流電圧源11が出力する直流電圧は、平滑用のコンデンサ27とインダクタンス素子36とによって平滑されている。符号35は破壊防止の安全回路であり、安全制御回路34によって動作される。
【0043】
なお、A相カソード電極13aの裏面とB相カソード電極13bの裏面は真空槽40の外部に位置し、ケース38a、38bによって覆われている。ケース38a、38bの内部には、マグネトロン磁石33a、33bがそれぞれ配置されており、A相ターゲット14aとB相ターゲット14bとはマグネトロンスパッタリングされる。
【0044】
次に、異常放電が発生した場合について説明する。
【0045】
スパッタ電源10は測定装置24を有しており、測定装置24には、A相側出力端子15aの電圧とB相側出力端子15bの電圧とが入力され、測定装置24により、A相側出力端子15aの電圧とB相側出力端子15bの電圧とのいずれか一方又は両方の電圧値が測定できるようにされている。
【0046】
ところで、直流電圧源11の高電位側直流電圧端子28Hから出力された電流は、主スイッチ回路21を通り、A相側出力端子15aとB相側出力端子15bのいずれか一方の出力端子から出力され、A相カソード電極13aとB相カソード電極13bを通って、他方の出力端子に流入し、主スイッチ回路21を通って低電位側直流電圧端子28Lから直流電圧源11の内部に戻る。
【0047】
このような電流の流れ方はA相スパッタ接続の状態と、B相スパッタ接続の状態のいずれの接続状態であっても同じであり、従って、A相側出力端子15aと主スイッチ回路21との間を接続する配線に流れる電流と、B相側出力端子15bと主スイッチ回路21との間を接続する配線の流れる電流とのうち、少なくともいずれか一方の電流の電流値を測定できるようにして、A相スパッタ接続のときに流れる電流値を測定すると、A相ターゲット14aがスパッタリングされるときに流れる電流の電流値が測定され、B相スパッタ接続のときに流れる電流を測定すると、B相ターゲット14bがスパッタリングされるときに流れる電流の電流値が測定されることになる。
【0048】
この例では、A相側出力端子15aと主スイッチ回路21との間の配線が、コイルから成る電流検出素子16に挿通されており、スパッタ電源10が出力した電流は、電流検出素子16の内部を通って磁界を形成し、磁界変化によって電流検出素子16に誘起された電圧が測定装置24に電流値を示す信号として入力され、その結果、測定装置24によってスパッタ電源10から出力された電流の電流値が測定されるようになっている。B相側出力端子15bと主スイッチ回路21との間の配線が、コイルから成る電流検出素子16に挿通されていてもよい。
【0049】
このように、スパッタ電源10では、配線の電圧と配線に流れる電流の測定値を求めることで、A相ターゲット14a表面のプラズマとB相ターゲット14b表面のプラズマとの状態が正常なスパッタが行われているか異常放電が発生しているかを検出できるようになっており、異常放電が検出されたときには制御装置23はスパッタ電源10からのスパッタ電圧VSUPの出力を停止し、異常放電によるスプラッシュの発生や、ターゲット割れ等の発生を防止できるようになっている。
【0050】
次に、異常放電から正常なスパッタリング工程に復帰する手順を説明すると、先ず、A相ターゲット14aとB相ターゲット14bとをスパッタリングする際には、真空槽40の内部を真空排気して真空雰囲気を形成した後、スパッタリングガスを導入し、真空槽40の内部をプラズマ発生に適した圧力の真空雰囲気にする。
【0051】
真空槽40の内部でプラズマが生成されておらず、イオンやラジカル等の活性な分子や原子が存在しない状態では、プラズマを発生させるために、制御装置23は、直流電圧源11と主スイッチ回路21とを制御し、一旦生成されたプラズマを維持するときのスパッタ電圧VSUPよりも大きな着火電圧を低電位側直流電圧端子28Lから出力させ、A相側出力端子15a又はB相側出力端子15bからA相カソード電極13a又はB相カソード電極13bに印加させ、プラズマを発生させる。
【0052】
次に、低電位側直流電圧端子28Lから スパッタ電圧VSUPを出力させ、A相スパッタ接続とB相スパッタ接続とを導通期間T0ずつ交互に繰り返し、A相側出力端子15aとB相側出力端子15bとをスパッタ電圧VSUPを出力する低電位側直流電圧端子28Lに交互に接続する。
【0053】
このように、A相側出力端子15aとB相側出力端子15bとをスパッタ電圧VSUPを出力する低電位側直流電圧端子28Lに交互に接続する状態をスパッタ状態と呼び、プラズマを発生させるときの状態を着火状態と呼ぶものとすると、着火状態によってプラズマが発生した後、スパッタ状態に移行し、スパッタ状態を継続させ、プラズマが安定したところで前段の真空装置39から真空槽40の内部にゲートバルブ421を通って基板311、312を搬入し、A相ターゲット14aとB相ターゲット14bとに対面させながら基板311、312を移動させ、基板311、312の表面にスパッタリング粒子を到着させ、薄膜を成長させる。薄膜が所定膜厚に形成されると、搬出側のゲートバルブ422から次段の真空処理装置41に搬出される。
【0054】
スパッタ状態では、少なくとも低電位側直流電圧端子28Lに接続されたA相側出力端子15a又はB相側出力端子15bの電圧値と、A相ターゲット14aとB相ターゲット14bとの間に流れた電流の電流値とを測定装置24によって測定する。
【0055】
制御装置23には、基準電圧と基準電流とが設定されており、測定装置24は制御装置23に接続されている。制御装置23は、測定装置24が測定した電流値と電圧値の少なくともいずれか一方から成る測定値が制御装置23に入力されており、制御装置23は、入力された測定値に電圧値が含まれていれば、電圧値を基準電圧値と比較し、基準電圧よりも小さければ異常な測定値であることになり、また、入力された測定値に電流値が含まれていれば、電流値を基準電流値と比較し、基準電流値よりも大きければ異常な測定値であることになり、異常な測定値である場合には異常放電が発生していると判断し、異常な測定値でない場合には、スパッタリングが正常に行われているものと判断する。
【0056】
例えば、入力された電圧値が基準電圧値よりも小さい場合は異常放電が発生したとし、また、入力された電流値が基準電流値よりも大きい場合も異常放電が発生したと判断する。
【0057】
A相側出力端子15aとB相側出力端子15bとのうち、スパッタ状態のときに異常と判断された測定値が得られたときに低電位側直流電圧端子28Lに接続されていた出力端子を異常端子とすると、図4の時刻t102まではスパッタ電源10はスパッタ状態にあり、A相側出力端子15aとB相側出力端子15bとから導通時間T0のスパッタ電圧VSUPが交互に出力されており、時刻t102でB相出力端子15bからスパッタ電圧VSUPが出力された後、測定された電圧値又は電流値によって異常放電が発生したと判断され、導通時間T0が経過する前の時刻t103に於いて異常端子は直ちに接地電位VGNDに接続されている。
【0058】
異常放電の原因としては、例えばB相側出力端子15bが異常端子とされたときにB相ターゲット14bの表面近傍で局所的な温度上昇や局所的な抵抗値の低下、アーク発生等の物理現象によって大電流が流れたことが考えられる。
【0059】
制御装置23には、導通時間T0よりも長時間である停止時間P101が記憶されており、異常放電と判断されると主スイッチ回路21により、異常端子の接続が低電位側直流電圧端子28Lから高電位側直流電圧端子28Hに変更され、異常端子は停止時間P101の間接地電位VGNDに接続される。異常端子が接地電位に接続される状態を停止状態と呼ぶと、図4の波形の例では、停止状態では異常端子とは異なる出力端子(ここではA相側出力端子15A)も接地電位VGNDに接続される。
【0060】
停止時間P101が経過した後、時刻t104において、制御装置23はスパッタ電源10を停止状態からスパッタ状態に移行させ、主スイッチ回路21によって異常端子をスパッタ電圧VSUPが出力されている低電位側直流電圧端子28Lに接続し、異常端子の電圧値又はスイッチ回路21に流れる電流値のうち少なくともいずれか一方を測定する。得られた測定値が正常なスパッタリングが行われていると判断されると、異常端子は正常な端子とされてスパッタ状態が継続され、薄膜形成が行われる。
【0061】
他方、測定値から異常放電が発生していると判断された場合はスパッタ状態から停止状態に移行され、制御装置23によって直前に終了した停止時間P101の時間が増加されて生成された新しい長さの停止時間P102の間、異常端子は接地電位VGNDに接続させられる。
【0062】
増加された停止時間P102が経過した後の時刻t105に於いて停止状態からスパッタ状態に移行され、異常端子が低電位側直流電圧端子28Lに接続されて電圧値と電流値のうち少なくともいずれか一方が測定され、得られた測定値から正常なスパッタリングが行われているか異常放電が発生しているかが判断され、正常な場合はスパッタ状態が継続され、異常放電と判断された場合は停止状態に移行される。
【0063】
このように、最初の停止時間P101が経過した後では、停止状態とスパッタ状態とを繰り返す際に、直前の停止時間P101、P102、P103が長くされた新しい長さの停止時間P102、P103、P104が生成され、生成された停止時間P102、P103、P104の間、異常端子は接地電位VGNDに接続される。
【0064】
そのため、接地電位VGNDに接続される停止時間は、停止状態を繰り返す毎に増加し、停止時間PNが異常放電の原因が消滅するために必要な長さになると、測定値が基準電圧値以上、基準電流値以下になり、スパッタ状態が継続される。
【0065】
異常端子を接地電位VGNDに短時間接続するだけで異常の原因が消滅する場合は、停止状態とスパッタ状態とを少ない回数繰り返すだけで正常な状態に復帰することができるが、異常端子を接地電位VGNDに短時間接続するだけでは異常の原因が消滅しない場合は、接地電位VGNDに接続される停止時間P101、P102、P103、P104は段階的に長くされているので、異常端子は長くされた停止時間P104の間接地電位VGNDに接続されるようになるから、異常の原因は確実に消滅し、スパッタ状態に復帰することができる。
【0066】
停止状態からスパッタ状態に移行したときに異常端子にスパッタ電圧VSUPが印加され、異常端子が必要以上の長時間接地電位に接続されたままにはならないから、停止状態とスパッタ状態を繰り返してもプラズマは完全消滅しないようになっている。
【0067】
図4では、スパッタ状態から停止状態に移行して最初の停止時間P101が経過した後の時刻t104、t105、t106でスパッタ状態に移行し、電圧値と電流値の少なくとも一方が測定されて異常放電の発生と判断されて停止状態に移行しており、この例では最後の停止時間P104が経過した時刻t107でスパッタ状態に移行すると正常な測定値が測定され、異常端子が正常な端子とされてスパッタ状態が維持されている。この場合、後で停止状態に移行した場合に異常端子が接地電位VGNDに接続される停止時間は最初の停止時間P101の長さに戻され、スパッタ状態が継続されて薄膜が成長する。
【0068】
上記例では、停止状態に移行した後では、異常端子とは異なる出力端子は接地電位VGNDに接続されていたが、図5の電圧波形のように、停止状態に於いて異常端子とは異なる出力端子からスパッタ電圧VSUPを出力するようにしても良い。
【0069】
詳述すると、図5の例では、時刻t202まではスパッタ状態であり、時刻t202に於いてB相側出力端子15bからスパッタ電圧VSUPが出力された後導通時間T0が経過する前に、異常放電の発生と判断され、時刻t203に於いて停止状態に移行している。B相側出力端子15bが異常端子とされ、停止状態では異常端子が接地電位VGNDに接続されると共に、異常端子とは異なるA相側出力端子15aが低電位側直流電圧端子28Lに接続され、スパッタ電圧VSUPが印加される。
【0070】
異常端子とは異なるA相側出力端子15aに接続されたA相ターゲット14aの表面では異常放電は発生せず、A相側出力端子15aの電圧値と、A相側出力端子15aが低電位側直流電圧端子28Lに接続されたときの電流値とは正常であり、正常なスパッタリングが行われていると判断される。
【0071】
異常端子が接地電位VGNDに接続され、異常端子とは異なるA相出力端子15aにスパッタ電圧VSUPが印加された状態で停止時間P201の時間が経過した後の、時刻t204に於いてスパッタ状態に移行し、異常端子が低電位側直流電圧端子28Lに接続され、異常端子とは異なる出力端子が接地電位VGNDに接続される。
【0072】
その状態で異常端子の電圧値やスイッチ回路21に流れる電流値の少なくとも一方が測定されて異常放電が発生したと判断されない場合は、異常端子は正常な端子とされてA相出力端子15aとB相出力端子15bとにスパッタ電圧VSUPが導通期間T0ずつ交互に印加されるスパッタ状態が継続される。
【0073】
ここでは停止時間P201の経過後、スパッタ状態に移行して測定された測定値によって異常放電の発生と判断され、時刻t204で停止状態に移行して直前の停止時間P201が長くされた新しい長さの停止時間P202の間、異常端子は接地電位VGNDに接続され、異常端子とは異なる端子は低電位側直流電圧端子28Lに接続される。
【0074】
このように、図5の電圧波形の動作では停止状態とスパッタ状態とが繰り返され、最初の停止状態からスパッタ状態に転じた後に停止状態に移行された場合は、異常端子は直前の停止時間P201~P203よりも長くされた停止時間202~P204の間接地電位VGNDに接続され、異常端子とは異なる端子には低電位側直流電圧端子28Lに接続される。
【0075】
A相側出力端子15aとB相側出力端子15bの両方とも接地電位VGNDに接続される期間が長くなると、プラズマが完全消滅し、スパッタ状態に移行してもプラズマを発生させることができなくなるが、この例では、異常状態に繰り返し移行される間でも、異常端子とは異なる出力端子に接続されたターゲット(この例ではA相ターゲット14a)の表面上でプラズマが生成されるので、プラズマを完全消滅させずに済む。
【0076】
言い換えれば、維持すべきプラズマ(この例ではA相ターゲット14aの表面上近傍に存在するプラズマ)に対して十分なエネルギーを供給するが、抑制すべき異常放電側のアーク(B相ターゲットに電気的結合しているプラズマ)に対しては最低限のエネルギーのみを供給することで、全部のプラズマを消滅させることなく、異常放電の原因除去、例えばアーク等の消弧、を可能としている。
【0077】
それとは異なり、図6の電圧波形では、時刻t302まではスパッタ状態であり、時刻t303においてB相側出力端子15bの測定値が異常と判断され、停止状態に移行して異常端子が接地電位VGNDに接続されると共に、異常端子とは異なる出力端子が低電位側直流電圧端子28Lに接続され、異常端子とは異なる出力端子の電圧値とスイッチ回路21に流れた電流値のうちの少なくとも一方が測定値として測定されると、異常放電が発生したものと判断され、停止時間P301が終了する時刻t304まで、異常端子と異常端子とは異なる端子の両方が接地電位VGNDに接続される。
【0078】
時刻t304に於いてスパッタ状態に移行し、異常端子が低電位側直流電圧端子28Lに接続されて異常端子の電圧値やスイッチ回路21の電流値が測定され、異常放電と判断され、導通期間T0が経過する前に異常端子は接地電位VGNDに接続されると共に、異常端子とは異なる出力端子が低電位側直流電圧端子28Lに接続されて異常端子とは異なる出力端子の電圧値やスイッチ回路21の電流値が測定される。
【0079】
この例でも、停止状態とスパッタ状態とが繰り返される度に直前の停止時間P301、P302、P303が長くされた新しい長さの停止時間P302、P303、P304が生成され、新しい長さの停止時間P302、P303、P304が終了する迄は異常端子と異常端子とは異なる端子とが接地電位VGNDに接続される。
【0080】
図6の電圧波形の場合は停止状態とスパッタ状態とが繰り返された後、時刻t308に於いてスパッタ状態に移行すると、異常放電が発生したと判断されなくなり、スパッタ状態が継続され、薄膜形成が行われる。
【0081】
なお、上記各例では停止状態からスパッタ状態に移行したときに、主スイッチ回路21は、先ず異常端子が低電位側直流電圧端子28Lに接続するように動作したが、先ず異常端子とは異なる出力端子が低電位側直流電圧端子28Lに接続されるように動作してもよい。
【0082】
上記例では、プラズマが完全消滅せずに復帰することができたが、測定した電流値又は電圧値の大きさから、制御装置23がプラズマが完全消滅したと判断した場合には、制御装置23は、真空槽40内の圧力や、直流電圧源11の低電位側直流電圧端子28Lの電圧を増加させ、上記の着火状態に移行してプラズマを発生させた後、スパッタ状態に移行することができる。
【符号の説明】
【0083】
2……スパッタリング装置
10……スパッタ電源
11……直流電圧源
13a……A相カソード電極
13b……B相カソード電極
14a……A相ターゲット
14b……B相ターゲット
15a……A相側出力端子
15b……B相側出力端子
21……主スイッチ回路
24……測定装置
28L……低電位側直流電圧端子
28H……高電位側直流電圧端子
40……真空槽
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7