(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-26
(45)【発行日】2022-06-03
(54)【発明の名称】エレクトロクロミックフィルムおよびこれを含むエレクトロクロミック素子
(51)【国際特許分類】
G02F 1/1524 20190101AFI20220527BHJP
C09K 9/00 20060101ALI20220527BHJP
G02F 1/153 20060101ALI20220527BHJP
G02F 1/155 20060101ALI20220527BHJP
【FI】
G02F1/1524
C09K9/00 B
G02F1/153
G02F1/155
(21)【出願番号】P 2019557573
(86)(22)【出願日】2018-04-23
(86)【国際出願番号】 KR2018004671
(87)【国際公開番号】W WO2018199569
(87)【国際公開日】2018-11-01
【審査請求日】2019-10-23
(31)【優先権主張番号】10-2017-0052046
(32)【優先日】2017-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2018-0045422
(32)【優先日】2018-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ヨン・チャン・キム
(72)【発明者】
【氏名】キ・ファン・キム
【審査官】岩村 貴
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-262502(JP,A)
【文献】国際公開第2006/101224(WO,A1)
【文献】特開2008-203740(JP,A)
【文献】特開2007-108750(JP,A)
【文献】特開2004-205628(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0309244(US,A1)
【文献】国際公開第2014/124303(WO,A2)
【文献】特開平05-080357(JP,A)
【文献】特開2009-083183(JP,A)
【文献】特開2014-094448(JP,A)
【文献】特開2005-091788(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0049790(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0234822(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/15ー1/163
C09K 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレクトロクロミック層と、前記エレクトロクロミック層の一面上に位置し、前記エレクトロクロミック層と着色準位が異なる金属酸窒化物層と、を含
み、
前記金属酸窒化物層は、Ti、Nb、Mo、TaおよびWの中から選択される2以上の金属を含む、エレクトロクロミックフィルム。
【請求項2】
前記金属酸窒化物層の着色準位は、前記エレクトロクロミック層の着色準位より高い、請求項1に記載のエレクトロクロミックフィルム。
【請求項3】
前記エレクトロクロミック層は、還元性変色物質または酸化性変色物質を含む、請求項1または2に記載のエレクトロクロミックフィルム。
【請求項4】
前記エレクトロクロミック層は、還元性変色物質を含み、前記還元性変色物質は、Ti、Nb、Mo、TaまたはWの酸化物を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載のエレクトロクロミックフィルム。
【請求項5】
前記金属酸窒化物層は、MoおよびTiを含む、請求項
1から4のいずれか一項に記載のエレクトロクロミックフィルム。
【請求項6】
前記金属酸窒化物層は、下記化学式1で表される金属酸窒化物を含む、請求項
5に記載のエレクトロクロミックフィルム:
[化学式1]
Mo
aTi
bO
xN
y
(ただし、aは、Moの元素含量比を意味し、bは、Tiの元素含量比を意味し、xは、Oの元素含量比を意味し、yは、Nの元素含量比を意味し、a>0、b>0、x>0、y>0であり、0.5<a/b<4.0であり、0.005<y/x<0.02である。)
【請求項7】
前記金属酸窒化物層の薄膜密度(ρ)は、15g/cm
3以下である、請求項1から
6のいずれか一項に記載のエレクトロクロミックフィルム。
【請求項8】
前記金属酸窒化物層の厚さは、150nm以下である、請求項1から
7のいずれか一項に記載のエレクトロクロミックフィルム。
【請求項9】
第1電極層と、電解質層と、請求項1~
8のいずれか一項に記載のエレクトロクロミックフィルムと、第2電極層と、を順次に含むエレクトロクロミック素子。
【請求項10】
前記電解質層、前記金属酸窒化物層、および前記エレクトロクロミック層を順次に含む、請求項
9に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項11】
前記第1電極層および前記第2電極層は、透明導電性化合物、メタルメッシュまたはOMO(oxide/metal/oxide)を含む、請求項
10に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項12】
前記第2電極層は、OMO(oxide/metal/oxide)を含む、請求項
11に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項13】
前記OMO(oxide/metal/oxide)は、上部層および下部層を含み、前記上部層および前記下部層は、Sb、Ba、Ga、Ge、Hf、In、La、Se、Si、Ta、Se、Ti、V、Y、Zn、Zrまたはこれらの合金の酸化物を含む、請求項
11に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項14】
前記上部層は、10nm~120nmの範囲の厚さおよび1.0~3.0の範囲の可視光屈折率を有し、前記下部層は、10nm~100nmの範囲の厚さおよび1.3~2.7の範囲の可視光屈折率を有する、請求項
13に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項15】
前記OMO(oxide/metal/oxide)は、前記上部層と前記下部層との間に金属層を含み、前記金属層は、Ag、Cu、Zn、Au、Pd、またはこれらの合金を含む、請求項
13に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項16】
前記金属層は、3nm~30nmの範囲の厚さおよび1以下の可視光屈折率を有する、請求項
15に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項17】
前記電解質層は、H
+、Li
+、Na
+、K
+、Rb
+、またはCs
+を提供する化合物を含む、請求項
9に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項18】
前記第1電極層と前記電解質層との間にイオン貯蔵層をさらに含み、前記イオン貯蔵層は、前記エレクトロクロミック層が含む変色物質と発色特性が異なる変色物質を含む、請求項
9に記載のエレクトロクロミック素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互引用
本出願は、2017年4月24日付けの韓国特許出願第10-2017-0052046号および2018年4月19日付けの韓国特許出願第10-2018-0045422号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示されたすべての内容は、本明細書の一部として含まれる。
【0002】
技術分野
本出願は、エレクトロクロミックフィルムおよびこれを含むエレクトロクロミック素子に関する。
【背景技術】
【0003】
エレクトロクロミックとは、電気化学的酸化または還元反応によりエレクトロクロミック物質の光学的性質が変わる現象を言い、前記現象を利用した素子をエレクトロクロミック素子と言う。エレクトロクロミック素子は、一般的に、作用電極、対極、および電解質を含み、電気化学的反応により各電極の光学的性質が可逆的に変化することができる。例えば、作用電極または対極は、透明導電性物質とエレクトロクロミック物質をそれぞれフィルム形態で含むことができるが、素子に電位が印加される場合、電解質イオンがエレクトロクロミック物質含有フィルムに挿入されるか、または、これから脱離し、同時に外部回路を介して電子が移動するのに伴い、エレクトロクロミック物質の光学的性質変化が現れる。
【0004】
このようなエレクトロクロミック素子は、少ない費用でも広い面積の素子を製造することができ、消費電力が低いため、スマートウィンドウやスマートミラー、その他にも次世代の建築窓戸素材として注目を集めている。しかし、変色層全面積の光学的特性の変化、すなわち色の変化のための電解質イオンの挿入および/または脱離には、相当の時間が必要となるので、変色速度が遅いという短所がある。このような短所は、透明導電性電極の面抵抗が高い場合や、エレクトロクロミック素子の大面積化が要求される場合においてさらに顕著になる。
【0005】
なお、最近は、エレクトロクロミック素子に対する需要が増加し、適用分野も多様化されているので、耐久性に優れていながらも、光学的特性を細かく調節できる素子に対する開発が要求されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本出願の目的は、エレクトロクロミック可能なエレクトロクロミックフィルムを提供することにある。
【0007】
本出願の他の目的は、変色速度が改善されたエレクトロクロミックフィルムを提供することにある。
【0008】
本出願のさらに他の目的は、耐久性に優れ、利用可能準位が改善されたエレクトロクロミックフィルムを提供することにある。
【0009】
本出願のさらに他の目的は、透過度の調節が細かく行われ得るエレクトロクロミックフィルムを提供することにある。
【0010】
本出願のさらに他の目的は、前記エレクトロクロミックフィルムを含むエレクトロクロミック素子を提供することにある。
【0011】
本出願の上記記目的およびその他の目的は、下記に詳細に説明される本出願によって全部解決され得る。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本出願に関する一例において、本出願は、エレクトロクロミックフィルムに関する。前記エレクトロクロミックフィルムは、エレクトロクロミック物質を含み、電気化学的反応によるエレクトロクロミックの結果により光学的性質が変化することができる。上記のようなエレクトロクロミックは、エレクトロクロミックフィルムに含まれる一つ以上の層で起こることができる。
【0013】
前記エレクトロクロミックフィルムは、エレクトロクロミック層および不動態化層(passivation layer)を含むことができる。具体的に、前記エレクトロクロミックフィルムは、エレクトロクロミック層と、前記エレクトロクロミック層の一面上に位置する不動態化層とを含むことができる。本出願において構成間の位置と関連して使用される用語「~上」は、「上側」または「上部」に対応する意味で使用され、特に別途記載されない限り、当該位置を有する構成が他の構成に直接当接しつつその上に存在する場合を意味することもでき、これらの間に他の構成が存在する場合を意味することもできる。
【0014】
一つの例において、エレクトロクロミック層および不動態化層は、透光性を有することができる。本出願において「透光性」とは、エレクトロクロミック素子で起こる色の変化のような光学特性の変化を明確に視認できるほどに透明な場合を意味し、例えば、電位の印加のような外部要因がない状態(および/または脱色状態)で、当該層が有する光透過率が最小60%以上である場合を意味する。より具体的に、前記エレクトロクロミック層および不動態化層の光透過率の下限は、60%以上、70%以上、または75%以上であってもよく、光透過率の上限は、95%以下、90%以下、または85%以下であってもよい。前記範囲の透光性を満たす場合、電位の印加によるエレクトロクロミック、すなわち可逆的な着色と脱色によるフィルムまたは素子の光学特性の変化がユーザに十分に視認され得る。すなわち着色されない状態で前記透光性を有する場合、エレクトロクロミック素子に適している。特に言及しない限り、本出願において「光」というのは、380nm~780nmの波長範囲の可視光、より具体的には、550nm波長の可視光を意味する。前記透過率は、公知となったヘーズメーター(haze meter:HM)を利用して測定され得る。
【0015】
前記エレクトロクロミック層は、エレクトロクロミック物質、すなわちエレクトロクロミック可能な有機物または無機物を含むことができる。無機物としては、金属酸化物(metal oxide)が使用できる。
【0016】
一つの例において、エレクトロクロミック層は、還元反応時に着色(coloration)が起こる還元性変色物質を含むことができる。使用可能な還元性変色物質の種類は、特に制限されないが、Ti、Nb、Mo、TaまたはWの酸化物のような無機変色物質が使用できる。例えば、WO3、MoO3、Nb2O5、Ta2O5またはTiO2等が使用できる。
【0017】
別の例において、前記エレクトロクロミック層は、酸化される時に着色が行われる酸化性変色物質を含むことができる。使用可能な酸化性変色物質の種類は、特に制限されないが、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Rh、またはIrの酸化物;Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Rh、またはIrの水酸化物;およびプルシアンブルー(prussian blue)の中から選択される一つ以上の無機変色物質が使用できる。例えば、LiNiOx、IrO2、NiO、V2O5、LixCoO2、Rh2O3またはCrO3等が使用できる。
【0018】
特に制限されるものではないが、前記エレクトロクロミック層の厚さは、50nm~450nmの範囲であってもよい。
【0019】
前記エレクトロクロミック層を形成する方法は、特に制限されない。例えば、多様な種類の公知となった蒸着方式を使用して前記層を形成することができる。
【0020】
前記不動態化層は、フィルムまたは素子の駆動時に、隣接する層の劣化を防止できる層を意味する。前記不動態化層は、2以上の金属を同時に含む酸窒化物(oxynitride)を含むことができる。
【0021】
一つの例において、前記不動態化層は、Ti、Nb、Mo、TaおよびWの中から選択される2以上の金属を同時に含む酸窒化物を有することができる。
より具体的に、前記不動態化層は、MoとTiを同時に含むことができる。これと関連して、Moのみを含む窒化物、酸化物または酸窒化物は、隣接する薄膜との付着性が良くなく、Tiのみを含む窒化物、酸化物または酸窒化物は、電位の印加時に分解される等、耐久性が良くない。特に、上記に羅列された金属のうちいずれか一つの金属、例えばTiのみを、またはMoのみを含む窒化物や酸窒化物は、例えば電位などが印加されていない状態でも、40%以下、35%以下または30%以下の可視光透過率を有するように、低い透光性を有するので、脱色(bleached)時に透明性が要求されるエレクトロクロミックフィルム用部材として使用するのに適していない。また、上記のように透過率が低い物質を使用する場合には、エレクトロクロミック素子において要求される着色と脱色の明確な光学特性の変化が視認され難い。
【0022】
一つの例において、前記不動態化層が含む金属酸窒化物は、下記化学式1で表され得る。
【0023】
[化学式1]
MoaTibOxNy
【0024】
化学式1で、aは、Moの元素含量比を意味し、bは、Tiの元素含量比を意味し、xは、Oの元素含量比を意味し、yは、Nの元素含量比を意味し、a>0、b>0、x>0、y>0であり、0.5<a/b<4.0であり、0.005<y/x<0.02であってもよい。本出願において用語「元素含量比」は、atomic%であってもよく、XPS(X-ray photoelectron spectroscopy)により測定され得る。前記元素含量比(a/b)を満たす場合、耐久性だけでなく、他の層の構成との付着性に優れた不動態化層が提供され得る。前記元素含量比(y/x)を満たす場合、不動態化層は、60%以上の光透過率を有することができる。特に、前記元素含量比(y/x)を満たさない場合には、40%以下または35%以下の光透過率を有することのように、不動態化層が非常に低い透光性(透明性)を有するので、不動態化層をエレクトロクロミック素子用部材として使用することができない。
【0025】
一つの例において、前記不動態化層の薄膜密度(ρ)は、15g/cm3以下であってもよい。例えば、薄膜密度(ρ)値の下限は、0.5g/cm3以上、0.7g/cm3以上、または1g/cm3以上であってもよく、薄膜密度(ρ)値の上限は、13以下g/cm3または10g/cm3以下であってもよい。薄膜密度は、XRR(X-ray reflectivity)により測定され得る。
【0026】
一つの例において、前記不動態化層の厚さは、150nm以下であってもよい。例えば、前記不動態化層は、140nm以下、130nm以下、120nm以下、110nm以下、または100nm以下の厚さを有することができる。前記厚さの上限を超過する場合、電解質イオンの挿入や脱離が低下することがあり、変色速度に悪影響を及ぼす恐れがある。不動態化層の厚さの下限は、特に制限されないが、例えば、10nm以上、20nm以上または30nm以上であってもよい。10nm未満の場合、薄膜安定性が良くない。
【0027】
一つの例において、前記不動態化層の可視光屈折率は、1.5~3.0の範囲または1.8~2.8の範囲であってもよい。不動態化層が前記範囲の可視光屈折率を有する場合、エレクトロクロミックフィルム内で適切な透光性が具現され得る。
前記不動態化層を形成する方法は、特に制限されない。例えば、多様な種類の公知となった蒸着方式を使用して前記層を形成することができる。
【0028】
本出願において、前記エレクトロクロミック層と不動態化層の着色準位は、互いに異なっていてもよい。本出願において、「着色準位」とは、エレクトロクロミック可能な層またはこれを含むフィルムなどに印加される所定の大きさの電圧により電気化学反応が誘発され、その結果、前記エレクトロクロミック可能な層が色彩を有することとなり、前記層またはフィルムの透過率が低下する場合のように、エレクトロクロミック可能な層に印加されて変色(着色および/または脱色)を起こすことができる電圧の「最小の大きさ(絶対値)」を意味する。例えば、前記エレクトロクロミックフィルムに所定の時間間隔をもって-0.1V、-0.5V、-1Vおよび-1.5Vの順に電圧を印加した時、-1Vを印加してからエレクトロクロミック層の着色が行われた場合には、エレクトロクロミック層の着色準位は、1Vと言える。不動態化層がエレクトロクロミック層と異なる着色準位を有するというのは、前記不動態化層もやはりエレクトロクロミック層と同様に電気化学的反応により着色および脱色され得るが、エレクトロクロミック層の着色を起こす電圧の最小の大きさ(絶対値)と不動態化層の着色を起こす電圧の最小の大きさ(絶対値)とが互いに異なっていることを意味する。これと関連して、着色準位、すなわち着色を起こす電圧の最小の大きさ(絶対値)は、着色に関する一種の障壁(barrier)として機能するので、当該層の着色準位の最小の大きさ(絶対値)より小さい大きさの電位が印加される場合には、事実上当該層の着色は起こらない。このために、上記に説明されたように、各層の酸化物と酸窒化物に含まれる金属の種類および/または含量が適宜調節され得る。
【0029】
一つの例において、不動態化層の着色準位は、エレクトロクロミック層の着色準位より大きい値を有することができる。例えば、エレクトロクロミック層の着色準位が0.5Vである場合、不動態化層の着色準位は、1Vであってもよい。または、エレクトロクロミック層の着色準位が1Vである場合、不動態化層の着色準位は、2Vまたは3Vであってもよい。一つの例において、前記構成を有するエレクトロクロミック層の着色準位は、1Vであってもよい。
【0030】
一つの例において、前記エレクトロクロミックフィルムのうちエレクトロクロミック層のみが着色され得る。より具体的に、不動態化層の着色準位がエレクトロクロミック層の着色準位より高い場合、各層の着色準位の中間値の電位がエレクトロクロミックフィルムに印加されると、エレクトロクロミック層より着色準位が高い不動態化層は、着色されずに、エレクトロクロミック層のみが着色され得る。例えば、着色されたエレクトロクロミック層の光透過率は、45%以下または40%以下であり、着色されない不動態化層は、60%以上または70%以上の可視光透過率を維持することができる。この場合、着色されたエレクトロクロミック層を含む前記エレクトロクロミックフィルムの光透過率は、45%以下、40%以下、35%以下、または30%以下であってもよい。着色されたエレクトロクロミック層を含む導電性積層体の光透過率の下限は、特に制限されないが、例えば20%以上であってもよい。
【0031】
一つの例において、前記化学式1の酸窒化物を含む不動態化層は、-2V以下、例えば、-2.5V以下または-3V以下の電圧印加条件で着色され得る。すなわち前記不動態化層の着色準位は、2V、2.5Vまたは3Vであってもよい。例えば、エレクトロクロミックフィルムまたはこれを含む素子に所定の時間間隔をもって-1.5Vおよび-2.0Vの電圧を印加した場合、前記不動態化層は、-2.0Vが印加された時点以後から次第に着色され得る(着色がユーザに視認され得る)。前記化学式1を満たす不動態化層は、(ダーク)グレーまたはブラック系の色に着色され得る。不動態化層の着色準位は、2V以上の範囲で、エレクトロクロミックフィルムに一緒に使用される構成に応じて、多少変化することができる。
【0032】
一つの例において、本出願のエレクトロクロミックフィルムを構成する層の構成のうち一つ以上の層には、1価カチオンが存在し得る。例えば、1価カチオンは、不動態化層とエレクトロクロミック層のうちいずれか一つに存在し得、または不動態化層とエレクトロクロミック層の両方に1価カチオンが存在し得る。本出願において、エレクトロクロミックフィルムに含まれる任意の層に1価カチオンが存在するというのは、例えば、1価カチオンがLi+のようなイオンの形態で各層に包含(挿入)された場合、および挿入された1価カチオンが金属酸窒化物や金属酸化物と化学的に結合して各層に含まれる場合を包括する意味で使用できる。本出願において、1価カチオンの挿入は、(電解質層とエレクトロクロミックフィルムを結合して形成された)エレクトロクロミック素子の製造の以前に行われ得る。
【0033】
一つの例において、前記1価カチオンは、不動態化層の金属酸窒化物やエレクトロクロミック層の金属酸化物に含まれる金属とは異なる元素のカチオンであってもよい。特に制限されるものではないが、1価カチオンは、例えば、H+、Li+、Na+、K+、Rb+またはCs+であってもよい。前記1価カチオンは、下記に説明されるように、エレクトロクロミック反応、例えばエレクトロクロミック層の着色や脱色に関与できる電解質イオンとして使用できる。したがって、前記層内において1価カチオンの存在は、可逆的な変色反応のために以後に要求される電解質と各層間の1価カチオンの移動に寄与し、下記に説明されるように、初期化作業を省略できるようにする。
【0034】
一つの例において、エレクトロクロミック層に1価カチオンが存在する場合、前記1価カチオンは、エレクトロクロミック層1cm2当たり1.0×10-8mol~1.0×10-6molの含量範囲、より具体的には、5.0×10-8mol~1.0×10-7molの含量範囲で存在し得る。1価カチオンが前記含量範囲で存在する場合、上記に説明された目的を達成することができる。
【0035】
別の例において、不動態化層に1価カチオンが存在する場合、前記1価カチオンは、不動態化層1cm2当たり5.0×10-9mol~5.0×10-7molの含量範囲、より具体的には、2.5×10-8mol~2.5×10-7molの含量範囲で存在し得る。1価カチオンが前記含量範囲で存在する場合、上記に説明された目的を達成することができる。
【0036】
本出願において、各層に存在する1価カチオンの含量、すなわちモル数は、1価カチオンが存在する各層の電荷量と電子のモル数の関係から求められる。例えば、下記に説明されるポテンショスタット(potentiostat)装置を利用して前記構成のエレクトロクロミックフィルムに1価カチオンを挿入した場合、前記フィルムのうち不動態化層の電荷量がA(C/cm2)であれば、電荷量Aをファラデー定数Fで割った値(A/F)は、不動態化層1cm2当たり存在する電子のモル(mol)数であってもよい。なお、電子(e-)と1価カチオンは、1:1で反応できるので、各層に存在する1価カチオンの最大の含量、すなわち最大のモル数は、上記から求めた電子のモル数と同じであってもよい。1価カチオンの含量と関連して、電荷量を測定する方法は、特に制限されず、公知となった方法が使用できる。例えば、ポテンショスタット装置を利用した電位ステップクロノアンペロメトリー(potential step chrono amperometry、PSCA)により電荷量が測定され得る。
【0037】
一つの例において、エレクトロクロミックフィルムを構成する層の構成のうち一部の層に1価カチオンが存在するようにすること、すなわちエレクトロクロミックフィルムの一部の層に1価カチオンを挿入することは、ポテンショスタット装置を利用して行われ得る。具体的に、作用電極、Ag含む参照電極、およびリチウムフォイル等を含む対向電極で構成された3電極ポテンショスタット装置を1価カチオンを含む電解液内に設け、前記エレクトロクロミックフィルムを作用電極に連結した後、所定の電圧をかける方式で1価カチオンを前記エレクトロクロミックフィルムに挿入することができる。1価カチオン挿入のために印加される所定電圧の大きさは、下記に説明される電解質が含む1価カチオンの含量程度、エレクトロクロミックフィルムにおいて要求される1価カチオンの挿入程度、要求されるフィルムまたは素子の光学特性、またはエレクトロクロミック可能な層の着色準位などを考慮して決定され得る。
【0038】
本出願に関する他の一例において、本出願は、エレクトロクロミック素子に関する。前記エレクトロクロミック素子は、第1電極層、電解質層、エレクトロクロミックフィルム、および第2電極層を順次に含むことができる。素子を構成するために積層される各構成の間には、別途の層または他の構成が介在され得、または上記に羅列された構成が互いに直接当接してエレクトロクロミック素子を構成することもできる。エレクトロクロミックフィルムは、上記に説明されたものと同じ構成を有することができる。
【0039】
一つの例において、前記エレクトロクロミック素子は、エレクトロクロミックフィルムの構成のうち不動態化層が電解質層と最も近く位置するように構成され得る。より具体的に、前記エレクトロクロミック素子は、第1電極層、電解質層、不動態化層、エレクトロクロミック層、および第2電極層を順次に含むことができる。
【0040】
特に制限されるものではないが、前記第1および第2電極層は、50nm~400nm以下の厚さを有することができる。また、前記電極層もやはり60%~95%の範囲の光透過率を有することができる。前記第1および第2電極層は、透明導電性化合物、メタルメッシュ、またはOMO(oxide/metal/oxide)を含むことができる。
【0041】
一つの例において、電極層に使用される透明導電性化合物としては、ITO(インジウムスズ酸化物:Indium Tin Oxide)、In2O3(インジウム酸化物:Indium Oxide)、IGO(インジウムガリウム酸化物:Indium Galium Oxide)、FTO(フッ素ドープ酸化スズ:Fluor doped Tin Oxide)、AZO(アルミニウムドープ酸化亜鉛:Aluminium doped Zinc Oxide)、GZO(ガリウムドープ酸化亜鉛:Galium doped Zinc Oxide)、ATO(アンチモンドープ酸化スズ:Antimony doped Tin Oxide)、IZO(インジウムドープ酸化亜鉛:Indium doped Zinc Oxide)、NTO(ニオブドープ酸化チタン:Niobium doped Titanium Oxide)、ZnO(酸化亜鉛:Zinc Oxide)、またはCTO(セシウムタングステン酸化物:Cesium Tungsten Oxide)等が挙げられる。しかし、上記に羅列された物質に透明導電性化合物の材料が制限されるものではない。
【0042】
一つの例において、電極層に使用されるメタルメッシュは、Ag、Cu、Al、Mg、Au、Pt、W、Mo、Ti、Niまたはこれらの合金を含み、格子形態を有することができる。しかし、メタルメッシュに使用可能な材料が上記に羅列された金属材料に制限されるものではない。
【0043】
一つの例において、電極層は、OMO(oxide/metal/oxide)を含むことができる。前記OMOは、ITOに代表される透明導電性酸化物に比べてさらに低い面抵抗を有するので、エレクトロクロミック素子の変色速度を短縮するなどエレクトロクロミック素子の電気的特性を改善することができる。
【0044】
前記OMOは、上部層、下部層、および前記2つの層の間に位置する金属層を含むことができる。本出願において上部層とは、OMOを構成する層のうち不動態化層から相対的にさらに遠く位置する層を意味する。
【0045】
一つの例において、前記OMO電極の上部層および下部層は、Sb、Ba、Ga、Ge、Hf、In、La、Se、Si、Ta、Se、Ti、V、Y、Zn、Zrまたはこれらの合金の酸化物を含むことができる。前記上部層および下部層が含む各金属酸化物の種類は、同一でも異なっていてもよい。
【0046】
一つの例において、前記上部層の厚さは、10nm~120nmの範囲または20nm~100nmの範囲であってもよい。また、前記上部層の可視光屈折率は、1.0~3.0の範囲または1.2~2.8の範囲であってもよい。前記範囲の屈折率および厚さを有する場合、適切な水準の光学特性が素子に付与され得る。
【0047】
一つの例において、前記下部層の厚さは、10nm~100nmの範囲または20nm~80nmの範囲であってもよい。また、前記下部層の可視光屈折率は、1.3~2.7範囲または1.5~2.5の範囲であってもよい。前記範囲の屈折率および厚さを有する場合、適切な水準の光学特性が素子に付与され得る。
【0048】
一つの例において、前記OMO電極に含まれる金属層は、低抵抗金属材料を含むことができる。特に制限されないが、例えば、Ag、Cu、Zn、Au、Pd、およびこれらの合金のうち一つ以上が金属層に含まれ得る。
【0049】
一つの例において、前記金属層は、3nm~30nmの範囲または5nm~20nmの範囲の厚さを有することができる。また、前記金属層は、1以下または0.5以下の可視光屈折率を有することができる。前記範囲の屈折率および厚さを有する場合、適切な水準の光学特性が素子に付与され得る。
【0050】
上記に説明された本出願に関する一例のように、エレクトロクロミックフィルムは、エレクトロクロミック層と不動態化層を含む。また、エレクトロクロミック層は、還元性または酸化性変色物質を含むことができる。一つの例において、前記エレクトロクロミック層が還元性変色物質を含む場合、不動態化層に含まれる2個の金属成分は、エレクトロクロミック層に使用され得る金属の中から選択されるものであるので、エレクトロクロミックフィルムに含まれる不動態化層とエレクトロクロミック層は、類似した物理/化学特性を有すると考えられる。これにより、電解質層から電解質イオンがエレクトロクロミックフィルムに挿入される場合に、不動態化層が妨害することなくエレクトロクロミック層に電解質イオンが挿入され得る。電解質イオンがエレクトロクロミックフィルムまたはその構成層から脱離される場合も同様である。
【0051】
また、前記不動態化層は、エレクトロクロミック素子の駆動特性を改善するものと判断される。具体的に、各層に使用される金属成分の間には、反応性または酸化傾向性の差異が存在するので、層間電解質イオンの移動が繰り返される場合、任意の層、例えば、電極層または金属層に使用される金属が溶出される問題があり得る。このような問題は、OMOが使用される場合に、さらに明確に観察される。しかし、本出願においては、不動態化層が電解質イオンを含有することができ、一種のバッファーとして機能するので、電極層またはエレクトロクロミックフィルム等に使用される金属材料の劣化を防止することができる。結果的に、本出願のエレクトロクロミック素子は、優れた耐久性と改善された変色速度、および十分に改善された利用可能準位を有することができる。それだけでなく、下記に説明されるように、エレクトロクロミック層と着色準位が異なる不動態化層により、本出願は、エレクトロクロミック素子の光学特性をさらに細かく調節することができる。
【0052】
電解質層は、エレクトロクロミック反応に関与する電解質イオンを提供する構成であってもよい。電解質イオンは、前記エレクトロクロミックフィルムに挿入され、その変色反応に関与できる1価カチオン、例えば、H+、Li+、Na+、K+、Rb+、またはCs+であってもよい。
【0053】
電解質層に使用される電解質の種類は、特に制限されない。例えば、液体電解質、ゲルポリマー電解質または無機固体電解質が制限なく使用できる。
【0054】
1価カチオン、すなわちH+、Li+、Na+、K+、Rb+、またはCs+を提供できる化合物を含むことができる場合、電解質層に使用される電解質の具体的な組成は、特に制限されない。例えば、電解質層は、LiClO4、LiBF4、LiAsF6、またはLiPF6のようなリチウム塩化合物や、NaClO4のようなナトリウム塩化合物を含むことができる。
【0055】
別の例において、前記電解質層は、溶媒としてカーボネート系化合物をさらに含むことができる。カーボネート系化合物は、誘電率が高いので、イオン伝導度を高めることができる。非限定的な一例として、PC(プロピレンカーボネート:propylene carbonate)、EC(エチレンカーボネート:ethylene carbonate)、DMC(ジメチルカーボネート:dimethyl carbonate)、DEC(ジエチルカーボネート:diethyl carbonate)またはEMC(エチルメチルカーボネート:ethylmethyl carbonate)のような溶媒がカーボネート系化合物として使用できる。
【0056】
別の例において、前記電解質層がゲルポリマー電解質を含む場合、例えば、ポリビニリデンフルオライド(Polyvinylidene fluoride、PVdF)、ポリアクリロニトリル(Polyacrylonitrile、PAN)、ポリメチルメタクリレート(Polymethyl methacrylate、PMMA)、ポリビニルクロリド(Polyvinyl chloride、PVC)、ポリエチレンオキシド(Polyethylene oxide、PEO)、ポリプロピレンオキシド(Polypropylene oxide、PPO)、ポリ(ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン)(Poly(vinylidene fluoride-hexafluoro propylene)、PVdF-HFP)、ポリビニルアセテート(Polyvinyl acetate、PVAc)、ポリオキシエチレン(Polyoxyethylene、POE)、ポリアミドイミド(Polyamideimide、PAI)等の高分子が使用できる。
【0057】
前記電解質層の光透過率は、60%~95%の範囲であってもよく、その厚さは、10μm~200μmの範囲であってもよいが、特に制限されるものではない。
【0058】
一つの例において、本出願のエレクトロクロミック素子は、イオン貯蔵層をさらに含むことができる。イオン貯蔵層は、エレクトロクロミック物質の変色のための可逆的酸化・還元反応時に、前記エレクトロクロミック層および/または不動態化層との電荷均衡(charge balance)を取るために形成された層を意味する。イオン貯蔵層は、前記第1電極層と電解質層との間に位置することができる。
【0059】
前記イオン貯蔵層は、前記エレクトロクロミック層に使用されるエレクトロクロミック物質とは発色特性が異なるエレクトロクロミック物質を含むことができる。例えば、前記エレクトロクロミック層が還元性変色物質を含む場合、前記イオン貯蔵層は、酸化性変色物質を含むことができる。また、その反対の場合も可能である。
【0060】
特に制限されるものではないが、前記イオン貯蔵層の厚さは、50nm~450nmの範囲であり、光透過率は、60%~95%の範囲であってもよい。
【0061】
エレクトロクロミック素子が、発色特性が異なる2種のエレクトロクロミック物質を別途の層に含む場合、エレクトロクロミック物質を含む各層は、互いに同じ着色または脱色状態を有しなければならない。例えば、還元性エレクトロクロミック物質を含むエレクトロクロミック層が着色された場合には、酸化性エレクトロクロミック物質を含むイオン貯蔵層もやはり着色状態を有しなければならず、反対に、還元性エレクトロクロミック物質を含むエレクトロクロミック層が脱色された場合には、酸化性エレクトロクロミック物質を含むイオン貯蔵層もやはり脱色状態でなければならない。しかし、上記に説明されたように、異なる発色特性を有する2種のエレクトロクロミック物質は、それ自体として電解質イオンを含まないので、各エレクトロクロミック物質を含む層間の着色または脱色状態を一致させる作業がさらに要求される。一般的に、このような作業を初期化作業と呼ぶ。例えば、還元により着色されるが、それ自体では無色に近い透明のWO3が第1層に含まれ、それ自体で着色されているプルシアンブルーが第2層(counter layer)に含まれる場合には、従来、電極層、第1層、電解質層、第2層および電極層が結合されて構成されたエレクトロクロミック素子のうち第2層に高電圧を印加してプルシアンブルーに対する脱色処理(還元処理)を行った。しかし、高電位で行われる初期化作業は、電極と電解質層における副反応(side reaction)を引き起こすなど素子の耐久性を低下させる問題がある。他方で、本出願においては、素子の形成のための各層の構成の結合前に、電解質イオンとして使用可能な1価カチオンをあらかじめエレクトロクロミックフィルムに挿入し、場合によっては、エレクトロクロミック層および/または不動態化層を着色させることもできるので、上記のような初期化作業を必要としない。したがって、初期化作業による耐久性の低下なしに素子を駆動させることができる。
【0062】
一つの例において、前記エレクトロクロミック素子は、基材をさらに含むことができる。前記基材は、素子の外側面、具体的に、前記第1および/または第2電極層の外側面に位置することができる。
【0063】
前記基材もやはり、透光性、すなわち60%~95%の範囲の光透過率を有することができる。前記範囲の透過率を満たす場合、使用される基材の種類は、特に制限されない。例えばガラスまたは高分子樹脂が使用できる。より具体的に、PC(ポリカーボネート:Polycarbonate)、PEN(ポリエチレンナフタレート:poly(ethylene naphthalate))またはPET(ポリエチレンテレフタレート:poly(ethylene terephthalate))のようなポリエステルフィルム、PMMA(ポリメチルメタクリレート:poly(methyl methacrylate))のようなアクリルフィルム、またはPE(ポリエチレン:polyethylene)またはPP(ポリプロピレン:polypropylene)のようなポリオレフィンフィルムなどが使用できるが、これに制限されるものではない。
【0064】
前記エレクトロクロミック素子は、電源をさらに含むことができる。電源を素子に電気的に連結する方式は、特に制限されず、当業者により適宜行われ得る。前記電源が印加する電圧は、定電圧であってもよい。
【0065】
一つの例において、前記電源は、エレクトロクロミック物質を脱色および着色させることができる水準の電圧を、所定の時間間隔の間に交互に印加することができる。
【0066】
別の例において、前記電源は、所定の時間間隔ごとに印加される電圧の大きさを変更することができる。具体的に、前記電源は、所定の時間間隔をもって順次に増加または減少する複数の着色電圧を印加し、そして、所定の時間間隔をもって順次に増加または減少する複数の脱色電圧を印加することができる。
【0067】
別の例において、不動態化層の着色準位がエレクトロクロミック層の着色準位より大きい場合、前記電源は、エレクトロクロミック層の着色準位と不動態化層の着色準位を順次に印加することができる。この場合、エレクトロクロミック層が先に着色され、以後に不動態化層がさらに着色される。これにより、本出願のエレクトロクロミック素子は、不動態化層まで着色された状態で、非常に低い水準の光透過率、例えば10%以下または5%以下の光透過率を具現することができる。すなわちエレクトロクロミック層および/またはイオン貯蔵層のみが着色される場合には、例えば、最低20%または15%程度の光透過率を具現することができたとすれば、段階的に不動態化層まで着色される本出願の素子では、10%以下または5%以下の可視光透過率が具現され得る。前記水準の光透過率は、エレクトロクロミック層とイオン貯蔵層に対応する構成のみを使用する従来の技術では、現実的に具現しにくい数値である。また、エレクトロクロミック層とイオン貯蔵層に対応する構成のみを使用する従来の技術では、本出願のように、段階的に光透過率を細かく調節することが期待できない。また、本出願においては、上記のような微細な光透過率の調節のためにエレクトロクロミック層の着色準位より高い電圧を印加しても、不動態化層が一種のバッファーとして機能するので、エレクトロクロミック層の劣化を防止することができる。
【発明の効果】
【0068】
本出願の一例によれば、エレクトロクロミックフィルムが提供される。前記エレクトロクロミックフィルムおよびこれを含むエレクトロクロミック素子は、優れた耐久性だけでなく、改善されたエレクトロクロミック速度を有する。また、本出願によるフィルムまたは素子を使用する場合、光学的性質を段階的に細密に調節することができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【
図1】透光性を有する、本出願の不動態化層を含む積層体が、±5V電圧の印加時に、耐久性の低下なく駆動する様子を示すグラフである。
【
図2a】素子の駆動特性に関するグラフである。サイクルの増加によって実施例1の素子の電荷量が変化する様子を示すグラフである。
【
図2b】サイクルの増加によって比較例1の素子の電荷量が変化する様子を示すグラフである。
【
図3a】素子の駆動特性に関するグラフである。実施例2によって測定された電流と電荷量の変化を特定のサイクル区間(秒単位時間)で拡大して示すグラフである。
【
図3b】比較例2によって測定された電流と電荷量の変化を特定のサイクル区間で拡大して示すグラフである。
【
図4】印加される電圧によって段階的に透過率を調節できる本出願のエレクトロクロミック素子の光学特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0070】
以下、実施例を通じて本出願を詳細に説明する。しかしながら、本出願の保護範囲が下記に説明される実施例により制限されるものではない。
【0071】
実験例1:金属酸窒化物を含む不動態化層の透光性の確認
製造例1
積層体の製造:光透過率が約98%程度であるガラスの一面に光透過率が約90%程度であるITOを形成した。その後、スパッタリング蒸着を利用して(ガラスの位置と反対である)ITOの一面上にMoとTiを含む酸窒化物(MoaTibOxNy)層を30nmの厚さで形成した。具体的に、MoとTiのターゲットの重量%比率は、1:1で、蒸着パワーは、100Wで、工程圧は、15mTorrで蒸着を進め、Ar、N2およびO2の各流量は、30sccm、5sccmおよび5sccmとした。
【0072】
物性の測定:酸窒化物層の各元素の含量比と積層体の透過率を測定し、表1に記載した。元素含量(atomic%)は、XPS(X-ray photoelectron spectroscopy)により測定し、透過率は、ヘーズメーター(solidspec 3700)を利用して測定した。
【0073】
製造例2
蒸着時に窒素の流量を10sccmとし、表1のように含量比を変更したことを除いて、製造例1と同じ方法で不動態化層を形成した。
【0074】
製造例3
蒸着時に窒素の流量を15sccmとし、表1のように含量比を変更したことを除いて、製造例1と同じ方法で不動態化層を形成した。
【0075】
製造例4
蒸着時に窒素の流量を0sccmとし、表1のように含量比を変更したことを除いて、製造例1と同じ方法で不動態化層を形成した。
【0076】
【0077】
表1から、製造例2~4の酸窒化物層は、非常に低い透過率を有するが、製造例1の酸窒化物を含む酸窒化物層は、約90%程度の透過率を有すると類推することができる。透光性が高い製造例1の酸窒化物層は、エレクトロクロミック素子用部材として適している。
【0078】
実験例2:不動態化層の変色特性の確認
前記製造例1で製造された積層体(ガラス/ITO/酸窒化物(MoaTibOxNy)(half-cell)を、LiClO4(1M)およびプロピレンカーボネート(PC)含有電解液に浸漬し、25℃で、-3Vの着色電圧と+3Vの脱色電圧をそれぞれ50秒間交互に印加した。これにより測定された着色および脱色時の電流、透過率、および変色時間は、表2に記載された通りである。
【0079】
また、±4Vおよび±5Vに対しても上記のような測定を行い、その結果を表2に記載した。
【0080】
【0081】
表2のように、製造例1の積層体は、印加される電圧によって変色特性(着色)を有することとなることを確認することができる。なお、
図1は、駆動電位が±5Vである場合に、製造例1の積層体が駆動(エレクトロクロミック)する様子を記録したグラフである。
【0082】
実験例3:エレクトロクロミックフィルムおよびこれを含むエレクトロクロミック素子の駆動時間(cycling)および利用可能準位の比較
実施例1
製造例1の酸窒化物と元素含量比が同じMoaTibOxNy層(不動態化層)、WO3層(エレクトロクロミック層)、およびOMO電極層を順次に含むエレクトロクロミックフィルムを製造した。LiClO4(1M)およびプロピレンカーボネート(PC)含有電解液100ppmとポテンショスタット装置を準備し、-1Vの電圧を50秒間印加して、MoaTibOxNy層とWO3層にLi+を挿入した。WO3層がブルー系の色に着色されたことを確認した。この際、WO3層1cm2当たり存在するLi+の含量は、1.0×10-8mol~1.0×10-6molの範囲に含まれ、MoaTibOxNy層1cm2当たり存在するLi+の含量は、5.0×10-9mol~5.0×10-7molの範囲に含まれることを確認した。
【0083】
その後、フィルム形態のGPE(ゲルポリマー電解質:gel polymer electrolyte)を介して、プルシアンブルー(PB)とITOの積層体を前記フィルムに合着した。製造されたエレクトロクロミック素子は、OMO/WO3/MoaTibOxNy/GPE/PB/ITOの積層構造を有する。
【0084】
製造された素子に、脱色電圧と着色電圧を一定の周期で繰り返して印加しつつ、時間による素子の電荷量の変化を観察した。1周期(cycle)当たり脱色電圧は、(+)1.0Vで50秒間印加され、着色電圧は、(-)1.0~(-)3Vの範囲で選択して50秒間印加した。その結果は、
図2(a)に示された通りである。
【0085】
比較例1
Mo
aTi
bO
xN
y層を含まないことを除いて、同一にエレクトロクロミック素子を製造し、同じ方式で素子の電荷量変化を観察した。その結果は、
図2(b)に示された通りである。
【0086】
図2(b)から比較例の素子の場合、略500サイクルの駆動が限界であることを確認することができる。しかし、
図2(a)のように、実施例の素子は、比較例に比べて2.5倍以上の時間を駆動しても、性能の低下が観察されないことを確認することができる。これは、実施例の素子のMo
aTi
bO
xN
y層が、隣接するOMOまたはWO
3の劣化を防止して、素子の耐久性が改善された結果であると判断される。
【0087】
なお、エレクトロクロミック素子と関連して、素子の駆動時に、素子に損傷(damage)が与えられない状態でサイクリングが行われ得る準位を素子の利用可能準位と言う。比較例とは異なって、MoaTibOxNy層を含む実施例は、1,000サイクリング以上が行われても、電荷量が減少しないので、比較例1に比べて利用可能準位が改善されたと言える。
【0088】
実験例4:エレクトロクロミックフィルムおよびこれを含むエレクトロクロミック素子の変色時間の比較
実施例2
Solidspec 3700装置を利用して、実施例1で行われた実験中にある程度着脱色の変化が現れた時点で素子の電荷量と電流を測定した。その結果は、
図3(a)に示された通りである。
図3(a)のグラフで、X軸は、時間を意味する。
【0089】
比較例2
比較例1の素子に対して、実施例2と同一に素子の電荷量と電流を測定した。その結果は、
図3(b)に示された通りである。
【0090】
図3(b)とは異なって、
図3(a)は、電荷量と電流のピークが急に現れることを確認することができる。具体的に、
図3(b)は、電荷量と電流が特定の値に収束するのに所要される時間が略20秒~30秒の範囲で現れるが、
図3(a)は、その時間が10秒以内で現れる。これは、比較例の素子に比べて実施例の素子における変色速度が速いことを意味する。
【0091】
実験例4:エレクトロクロミックフィルムおよびこれを含むエレクトロクロミック素子の微細な透過率調節機能の確認
実施例3
実施例1の素子に対して、着色準位としては、-1V、-2V、および-3Vを段階的に印加し、脱色電位としては、0.5Vを印加した。Solidspec 3700装置を利用して測定された各電圧における透過率と色は、下記表3および
図4に示された通りである。
【0092】
【0093】
表3および
図4から、着色準位が互いに異なる2つの層を含む本出願のフィルムおよびエレクトロクロミック素子は、光透過率が段階的に調節され得、特にエレクトロクロミック層と不動態化層が共に着色される場合には、非常に高い光遮断性を有するという点を確認することができる。具体的に、-1Vが印加されてからWO
3を含むエレクトロクロミック層が淡いブルーに着色され、-2Vが印加された時点以後には、MoとTiを含む不動態化層がダークグレーに着色されて、非常に低い光透過率が観察されることを確認することができる。