(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-26
(45)【発行日】2022-06-03
(54)【発明の名称】IALD産生促進剤
(51)【国際特許分類】
A61K 35/745 20150101AFI20220527BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220527BHJP
C12N 1/20 20060101ALN20220527BHJP
【FI】
A61K35/745
A61P43/00 111
C12N1/20 E
(21)【出願番号】P 2020195018
(22)【出願日】2020-11-25
(62)【分割の表示】P 2019101049の分割
【原出願日】2015-03-31
【審査請求日】2020-12-02
【微生物の受託番号】IPOD FREM P-10657
(73)【特許権者】
【識別番号】711002926
【氏名又は名称】雪印メグミルク株式会社
(72)【発明者】
【氏名】新井利信
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸泰幸
【審査官】柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】特許第6666053(JP,B2)
【文献】国際公開第2007/020884(WO,A1)
【文献】Gastroenterology, (2013), 144, [5], Suppl.1, p.S-894-S-895(Tu1974)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00-35/768
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビフィドバクテリウム
・ロンガムの菌を有効成分とするIALD産生促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビフィドバクテリウム属の菌(Bifidobacterium属)、特に
ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)の
菌を有効成分とする、IALD(Indole-3-aldehyde)の産生促進剤に
関する。
【背景技術】
【0002】
トリプトファンから分解合成されるIALDはAhRレセプターを介してIL-22の
産生を促進することが知られている。IL-22は抗菌ペプチドやムチンの産生を促進す
るので、有益なサイトカインである。
【0003】
ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)がトリプ
トファンからIALD(Indole-3-aldehyde)の合成を促進する事が報
告されている(非特許文献1)。
【0004】
芳香族炭化水素レセプター(AhR)活性化能を有する乳酸菌、ビフィドバクテリウム
属の菌およびプロピオン酸菌からなる群が示されているが、IALDに関する記載も示唆
もされていない(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Zelante T, Iannitti RG, Cunha C, De Luca A, Giovannini G, Pieraccini G, Zecchi R, D’Angelo C, Massi-Benedetti C, Fallarino F, Carvalho A, Puccetti P, Romani L. Tryptophan catabolites from microbiota engage aryl hydrocarbon receptor and balance mucosal reactivity via interleukin-22. Immunity. 2013 Aug 22;39(2):372-85.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のようにIALDの産生促進によって、IL-22の産生が促進され、抗菌ペプチ
ドやムチンを産生する事が確認されている。そこで、本発明は効率的にIALDの産生を
促進し得る剤の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、数多くの乳酸菌を試験に供し、ビフィドバクテリウム属の菌、特にビフ
ィドバクテリウム・ロンガムの菌がIALDを産生する機能が非常に高いことを見出し、
本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は以下の構成からなる。
(1)ビフィドバクテリウム属の菌を有効成分とする、IALD産生促進剤。
(2)ビフィドバクテリウム属の菌がビフィドバクテリウム・ロンガムの菌である、上記
(1)に記載のIALD産生促進剤。
(3)ビフィドバクテリウム属の菌がSBT-2928(FERM P-10657)で
ある、上記(1)に記載のIALD産生促進剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明のビフィドバクテリウム属を有効成分とする、IALD産生促進剤によれば、効
率的にIALDの産生を増加でき、これによってIL-22の産生を促進することにより
、抗菌ペプチドやムチンの産生を増強する事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】各菌株のIALD産生能を比較したものである。
【
図2】各菌株のIALD産生能を比較したものである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明において、「IALD産生促進剤」とは、IALD(Indole-3-ald
ehyde)の産生を促進するための剤のことをいい、ビフィドバクテリウム属の菌を有
効成分とする剤のことをいう。この剤は、有効成分であるビフィドバクテリウム属の菌の
みからなる剤であってもよく、IALDの産生を抑制しないその他の物質を含む剤であっ
てもよい。
【0012】
本発明において、「IALD」とは、インドール-3-アルデヒド(Indole-3
-aldehyde)のことをいう。
【0013】
本発明の「IALD産生促進剤」の有効成分であるビフィドバクテリウム属の菌として
、ビフィドバクテリウム・アドレセンティス(Bifidobacterium ado
lescentis)、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacteri
um longum)、ビフィドバクテリウム・インファンティス(Bifidobac
terium infantis)、ビフィドバクテリウム・シュードロンガム(Bif
idobacterium pseudolongum)、ビフィドバクテリウム・ビフ
ィダム(Bifidobacterium bifidum)、ビフィドバクテリウム・
ブレイブ(Bifodobacterium breve)、ビフィドバクテリウム・シ
ュードカテニュラタム(Bifidobacterium pseudocatenul
atum)、ビフィドバクテリウム・カテニュラタム(Bifidobacterium
catenulatum)、ビフィドバクテリウム・アングラタム(Bifidoba
cterium angulatum)またはビフィドバクテリウム・アニマリス(Bi
fidobacterium animalis)等の菌が挙げられ、これらを一種以上
または二種以上組み合わせて含むものであっても良い。このうち、ビフィドバクテリウム
・ロンガムの菌を有効成分とすることが好ましい。ビフィドバクテリウム・ロンガムの菌
として、特にSBT-2928(FERM P-10657)を有効成分として含むこと
が好ましい。
【実施例】
【0014】
以下に、本発明の実施例をあげて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに
限定されるものではない。
【0015】
〔実施例1〕
1.1.菌体の準備
表1に示した乳酸菌11株及びビフィドバクテリウム属の菌12株を供試菌として使用
した。乳酸菌はMRS液体培地にて、ビフィドバクテリウム属の菌はGAM液体培地にて
37℃,16時間静置培養した。各菌体を遠心分離(1,912×g,4℃,10min
)にて回収し、1mM MgSO4を含有する100mM リン酸カリウム緩衝液(pH
7、以下、緩衝液と呼ぶ)を用いて3回洗浄した。
【0016】
【0017】
1.2.反応条件
反応は休止菌体系にて実施した。表1に示したように、菌体懸濁液を供試菌によってO
.D.600=3.7~7.9に調整して、次のA、Bの2つの反応液組成にて37℃で
18時間、反応を行った。
反応液組成A:20mM トリプトファン
反応液組成B:20mM トリプトファン and 20mM α-ケトグルタル酸
【0018】
1.3.反応産物の定量
反応液は遠心分離後(9,100×g,4℃,10min)、上清を回収し、フィルタ
ー(0.22μm)にて不溶物を除去したものをHPLC分析サンプルとした。分析はA
gilent社の1200シリーズを使用した。溶離液A(95% Milli-Q w
ater,5% Acetonitrile(ACN),0.05% Trifluor
oacetic acid(TFA))で平衡化したODSカラム(Hydrosphe
re C18 粒子径(μm)S-5,細孔径 4.6X250,品番 HS12S05
-2546WT,メーカー YMC)に分析サンプルを10μlインジェクトし、流速1
ml/minとして溶離液B(5% Milli-Q water,95% ACN,0
.05% TFA)の濃度勾配(%B(time):10(0)→50(16)→50(
16)→100(16.1)→100(20)→10(20.1)→10(26))によ
り行った。カラムオーブンは40℃とした。分光光度計にてIALDの吸収波長の試験を
行った結果、IALDの検出は300nmにおける吸収を利用した。ここで、合成活性(
Synthesizing activity)を、反応により生成したIALD合成量
(Concentration. ppm)を供試菌のO.D.600の値で割った値と
定義する(式1)。
【0019】
【0020】
結果を
図1(反応液組成A)、
図2(反応液組成B)に示した。
図1、
図2より、α-ケトグルタル酸の有無に関わらず、ラクトバチルス属(Lact
obacillus)と比較して、ビフィドバクテリウム属の菌(Bifidobact
erium属)、特にビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacteriu
m longum)のIALD産生能が優れていることが確認できた。また、その中でも
特にSBT-2928(FERM P-10657)の効果が大きい事が確認できた。従
って、これらのビフィドバクテリウム属の菌を有効成分として、IALD産生促進剤が提
供できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明のビフィドバクテリウム属の有効成分とする、IALD産生促進剤によれば、効
率的にIALDの産生を増加でき、これによってIL-22の産生を促進することにより
、抗菌ペプチドやムチンの産生を増強する事ができる。