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特許7080306化合物、組成物、硬化物、光学異方体、反射膜
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-26
(45)【発行日】2022-06-03
(54)【発明の名称】化合物、組成物、硬化物、光学異方体、反射膜
(51)【国際特許分類】
   C07C 69/54 20060101AFI20220527BHJP
   C07C 69/767 20060101ALI20220527BHJP
   C09K 19/38 20060101ALI20220527BHJP
   G02B 1/08 20060101ALI20220527BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20220527BHJP
   C08F 20/30 20060101ALI20220527BHJP
【FI】
C07C69/54 Z CSP
C07C69/767
C09K19/38
G02B1/08
G02B5/30
C08F20/30
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020507942
(86)(22)【出願日】2019-03-22
(86)【国際出願番号】 JP2019012149
(87)【国際公開番号】W WO2019182129
(87)【国際公開日】2019-09-26
【審査請求日】2020-09-15
(31)【優先権主張番号】P 2018057225
(32)【優先日】2018-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】後藤 亮司
【審査官】三木 寛
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-011347(JP,A)
【文献】特開2005-015406(JP,A)
【文献】国際公開第2018/034216(WO,A1)
【文献】特開2013-014538(JP,A)
【文献】国際公開第2015/190399(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 69/54
C07C 69/767
C09K 19/38
G02B 1/08
G02B 5/30
C08F 20/30
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表される化合物。
【化1】
一般式(1)中、PおよびPは、それぞれ独立に、一般式(P-1)~(P-19)のいずれかで表される重合性基を表す。一般式(P-1)~(P-19)中の*は結合位置を表す。
およびLは、それぞれ独立に、単結合、または、エーテル基、カルボニル基、エステル基、チオエーテル基、-SO-、-NR-(Rは、水素原子、または、アルキル基を表す)、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、アリーレン基、および、これらを組み合わせた基から選択される2価の連結基を表す。
Xは、-C(Rxa)(Rxb)-を表す。RxaおよびRxbは、それぞれ独立に、水素原子または下記置換基群Tから選択される置換基を表す。
Yは、-C(Rya)(Ryb)-、-O-、-NRyn-、または、-S-を表す。RyaおよびRybは、それぞれ独立に、水素原子または下記置換基群Tから選択される置換基を表す。Rynは、水素原子または炭素数1~6のアルキル基を表す。
~Rは、それぞれ独立に、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数1~20のアルカノイル基、炭素数1~20のアルカノイルオキシ基、炭素数1~20のアルキルオキシカルボニル基、炭素数1~20のアルキルアミノ基、炭素数1~20のアルキルアミノカルボニル基、炭素数1~20のアルカノイルアミノ基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子、および、一般式(P-1)~(P-19)のいずれかで表される重合性基から選択される置換基を表す。
~mは、それぞれ独立に、0~4の整数を表す。
~Rがそれぞれ複数存在する場合、複数存在するR~Rは、それぞれ同一でもよく異なっていてもよい。
置換基群T:ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロ環基、シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、カルボキシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリルオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、アミノ基アルキルアミノ基アニリノ基アシルアミノ基、アミノカルボニルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルファモイルアミノ基、アルキルまたはアリールスルホニルアミノ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ヘテロ環チオ基、スルファモイル基、スルホ基、アルキルまたはアリールスルフィニル基、アルキルまたはアリールスルホニル基、アシル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルオキシカルボニル基、カルバモイル基、アリールまたはヘテロ環アゾ基、イミド基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスフィニルオキシ基、ホスフィニルアミノ基、および、シリル基。
【化2】
【請求項2】
Yが-C(Rya)(Ryb)-を表す、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
~mのうちの少なくとも1つが1以上の整数を表す、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項4】
~mのうちの少なくとも1つが1以上の整数を表し、
1以上の整数を表すm~mのうちの少なくとも1つに対応するR~Rのうちの少なくとも1つが、炭素数1~20のアルキルオキシカルボニル基、または、炭素数1~20のアルキルアミノカルボニル基であり、
前記アルキルオキシカルボニル基および前記アルキルアミノカルボニル基中の、アルキル基部分のうちの1個以上のメチレン基は、それぞれ独立に、-O-または-C(=O)-で置換されていてもよく、
前記アルキル基部分はフッ素原子を有していてもよい、請求項1~3のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項5】
が式(A)で表される基を表し、Lが式(B)で表される基を表す、請求項1~4のいずれか1項に記載の化合物。
式(A) *-Z-Sp-**
式(B) *-Z-Sp-**
およびZは、それぞれ独立に、-C(Rza)(Rzb)-を表す。RzaおよびRzbは、それぞれ独立に、水素原子または前記置換基群Tから選択される置換基を表す。
SpおよびSpは、それぞれ独立に、フッ素原子を有していてもよい炭素数1~19の、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基もしくはアリーレン基、または、単結合を表す。前記アルキレン基のうちの1個以上のメチレン基は、それぞれ独立に、-O-または-C(=O)-で置換されていてもよい。
*は、それぞれ、LまたはLと直接結合するベンゼン環基との結合位置を表し、**は、それぞれ、PまたはPとの結合位置を表す。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の化合物を含む組成物。
【請求項7】
さらに、重合開始剤を含む、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
さらに、キラル剤を含む、請求項6または7に記載の組成物。
【請求項9】
請求項6~8のいずれか1項に記載の組成物を硬化してなる硬化物。
【請求項10】
請求項6~8のいずれか1項に記載の組成物を硬化してなる光学異方体。
【請求項11】
請求項6~8のいずれか1項に記載の組成物を硬化してなる反射膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物、組成物、硬化物、光学異方体、および、反射膜に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶化合物(以後、単に液晶化合物とも称する)は、種々の用途に適用できる。例えば、位相差膜に代表される光学異方体の製造、または、コレステリック相を固定しなる反射膜の製造に適用される。
これらの光学異方性体およびコレステリック反射膜の薄膜化のためには、液晶化合物の屈折率異方性Δn(以後、単にΔnとも称する)の向上が求められている。
例えば特許文献1では、高いΔnを有する化合物として、トラン骨格を連結した化合物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-15406号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方で、一般的に高Δn化する際に、長波長化に伴う着色が問題となる場合が多い。特にコレステリック反射膜など、比較的厚膜にする必要がある場合には、その問題は顕著となる。
【0005】
本発明は、高い屈折率異方性Δnと、着色性の抑制とを両立できる化合物(液晶化合物)を提供することを課題とする。
また、本発明は、上記化合物を含む組成物、硬化物、光学異方体、および、反射膜を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討の結果、下記構成により、上記課題が解決できることを見出した。また、下記のような構成をとれば、本発明の化合物を液晶化合物として使用した場合、耐光性も向上することを見出した。
【0007】
〔1〕
後述する一般式(1)で表される化合物。
〔2〕
後述する一般式(1)中、Yが-C(Rya)(Ryb)-を表す、〔1〕に記載の化合物。
〔3〕
後述する一般式(1)中、m~mのうちの少なくとも1つが1以上の整数を表す、〔1〕または〔2〕に記載の化合物。
〔4〕
後述する一般式(1)中、m~mのうちの少なくとも1つが1以上の整数を表し、
1以上の整数を表すm~mのうちの少なくとも1つに対応するR~Rのうちの少なくとも1つが、炭素数1~20のアルキルオキシカルボニル基、または、炭素数1~20のアルキルアミノカルボニル基であり、
上記アルキルオキシカルボニル基および上記アルキルアミノカルボニル基中の、アルキル基部分のうちの1個以上のメチレン基は、それぞれ独立に、-O-または-C(=O)-で置換されていてもよく、
上記アルキル基部分はフッ素原子を有していてもよい、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の化合物。
〔5〕
後述する一般式(1)中、Lが後述する式(A)で表される基を表し、Lが後述する式(B)で表される基を表す、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の化合物。
〔6〕
〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の化合物を含む組成物。
〔7〕
さらに、重合開始剤を含む、〔6〕に記載の組成物。
〔8〕
さらに、キラル剤を含む、〔6または7〕に記載の組成物。
〔9〕
〔6〕~〔8〕のいずれかに記載の組成物を硬化してなる硬化物。
〔10〕
〔6〕~〔8〕のいずれかに記載の組成物を硬化してなる光学異方体。
〔11〕
〔6〕~〔8〕のいずれかに記載の組成物を硬化してなる反射膜。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高い屈折率異方性Δnと、着色性の抑制とを両立できる化合物を提供できる。
また、本発明によれば、上記化合物を含む組成物、硬化物、光学異方体、および、反射膜を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
また、本明細書において、「(メタ)アクリロイルオキシ基」とは、アクリロイルオキシ基およびメタクリロイルオキシ基の両方を表す表記である。
【0010】
本明細書における基(原子団)の表記において、置換及び無置換を記していない表記は、置換基を有さない基と共に置換基を有する基をも包含する。例えば、「アルキル基」とは、置換基を有さないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含する。
本明細書において、単に置換基という場合、置換基としては、例えば、下記置換基Tが挙げられる。
【0011】
(置換基T)
置換基Tとしては、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロ環基、シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、カルボキシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリルオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、アミノ基(アルキルアミノ基及びアニリノ基を含む)、アシルアミノ基、アミノカルボニルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルファモイルアミノ基、アルキル又はアリールスルホニルアミノ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ヘテロ環チオ基、スルファモイル基、スルホ基、アルキル又はアリールスルフィニル基、アルキル又はアリールスルホニル基、アシル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルオキシカルボニル基、カルバモイル基、アリール又はヘテロ環アゾ基、イミド基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスフィニルオキシ基、ホスフィニルアミノ基、及び、シリル基などが挙げられる。
【0012】
上記の置換基の中で、水素原子を有するものは、置換基中の水素原子の部分が、更に、上記いずれかの置換基で置換されていてもよい。
【0013】
本発明の化合物は、高い屈折率異方性Δnと、着色性の抑制とを両立できる。このような効果が得られる理由は必ずしも明確ではないが、特定の連結基でトラン骨格を連結することにより、化合物の吸収波長を長波化することなく、屈折率異方性Δnを向上させられていると考えられる。
【0014】
〔化合物〕
以下、本発明の化合物について詳述する。本発明の化合物は、下記一般式(1)で表される化合物である。
本発明の化合物は、液晶性を示すことが好ましい。なお、化合物が液晶性を示すとは、温度を変化させたときに、結晶相(低温側)と等方相(高温側)の間に中間相を発現する性質を化合物が有することを意図する。具体的な観察方法としては、メトラートレド社製ホットステージシステムFP90等で化合物を加熱または降温しながら、偏光顕微鏡下で観察することで、液晶相に由来する光学性異方性と流動性を確認できる。
本発明の化合物は、単独で液晶性を発現するのが好ましいが、他の化合物との混合系で液晶性を示してもよい。
【0015】
【化1】
【0016】
一般式(1)中、
およびPは、それぞれ独立に、重合性基を表す。
重合性基の種類は特に制限されず、公知の重合性基が挙げられ、反応性の点から、付加重合反応が可能な官能基が好ましく、重合性エチレン性不飽和基または環重合性基がより好ましい。重合性基としては、例えば、(メタ)アクリロイルオキシ基、ビニル基、マレイミド基、アセチル基、スチリル基、アリル基、エポキシ基、オキセタン基、および、これらの基を含む基などが挙げられる。なお、上記各基中の水素原子は、ハロゲン原子など他の置換基で置換されていてもよい。
重合性基の好適な具体例としては、以下の一般式(P-1)~(P-19)で表される基が挙げられる。なお、以下式中の*は結合位置を表す。
【0017】
【化2】
【0018】
およびLは、それぞれ独立に、単結合または2価の連結基を表す。
上記2価の連結基としては、例えば、エーテル基(-O-)、カルボニル基(-CO-)、エステル基(-COO-)、チオエーテル基(-S-)、-SO-、-NR-(Rは、水素原子、または、アルキル基を表す)、2価の炭化水素基(例えば、アルキレン基等の飽和炭化水素基、アルケニレン基(例:-CH=CH-)、アルキニレン基(例:-C≡C-)、および、アリーレン基)、ならびに、これらを組み合わせた基が挙げられる。
上記2価の連結基のうちの一般式(1)中のベンゼン環基と直接結合する原子は、炭素原子が好ましく、上記炭素原子はsp3炭素原子(一重結合のみを有する炭素原子)が好ましい。
上記2価の連結基としては、置換基を有していてもよい炭素数1~20の2価の炭化水素基が好ましい。上記2価の炭化水素基のうちの1個以上のメチレン基は、それぞれ独立に、-O-または-C(=O)-で置換されていてもよい。なお、1つのメチレン基が-O-で置換され、それに隣り合うメチレン基が-C(=O)-で置換されて、エステル基を形成してもよい。
上記2価の炭化水素基が有していてもよい置換基としては、例えば、フッ素原子が好ましい。
上記2価の炭化水素基の炭素数は、1~20であり、1~10が好ましく、1~5がより好ましい。
上記2価の炭化水素基は、直鎖状でも分岐鎖状でもよく、環状構造を有していてもよい。
【0019】
中でも、Lは式(A)で表される基を表し、Lは式(B)で表される基を表すのが好ましい。
式(A) *-Z-Sp-**
式(B) *-Z-Sp-**
およびZは、それぞれ独立に、-C(Rza)(Rzb)-を表す。
zaおよびRzbは、それぞれ独立に、水素原子または置換基を表し、水素原子が好ましい。
SpおよびSpは、それぞれ独立に、フッ素原子を有していてもよい炭素数1~19の2価の炭化水素基、または、単結合を表す。上記2価の炭化水素基のうちの1個以上のメチレン基は、それぞれ独立に、-O-または-C(=O)-で置換されていてもよい。なお、1つのメチレン基が-O-で置換され、それに隣り合うメチレン基が-C(=O)-で置換されて、エステル基を形成してもよい。
上記2価の炭化水素基は、直鎖状でも分岐鎖状でもよく、環状構造を有していてもよい。
*は、それぞれ、LまたはLと直接結合するベンゼン環基との結合位置を表し、**は、それぞれ、PまたはPとの結合位置を表す。
【0020】
Xは、-C(Rxa)(Rxb)-を表す。RxaおよびRxbは、それぞれ独立に、水素原子または置換基を表す。
xaおよびRxbは、水素原子が好ましい。
【0021】
Yは、-C(Rya)(Ryb)-、-O-、-NRyn-、または、-S-を表す。RyaおよびRybは、それぞれ独立に、水素原子または置換基を表す。Rynは、水素原子または炭素数1~6のアルキル基(直鎖状でも分岐鎖状でもよく、環状構造を有していてもよい。また、さらに置換基を有していてもよい)を表す。
中でも、Yは、-C(Rya)(Ryb)-または-O-が好ましく、化合物の着色をより抑制できる点からは、-C(Rya)(Ryb)-がより好ましい。
【0022】
~Rは、それぞれ独立に、置換基を表す。
上記置換基としては、それぞれ独立に、炭素数1~20(好ましくは炭素数1~10、より好ましくは炭素数2~5)のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数1~20のアルカノイル基、炭素数1~20のアルカノイルオキシ基、炭素数1~20(好ましくは炭素数2~6)のアルキルオキシカルボニル基、炭素数1~20のアルキルアミノ基、炭素数1~20のアルキルアミノカルボニル基、炭素数1~20のアルカノイルアミノ基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子、または、重合性基を有する基(重合性基としては、例えば、PおよびPの説明で例示した基が挙げられる)が好ましい。
上述した置換基が、直鎖状にも分岐鎖状にもなり得る場合、上述した置換基は、直鎖状であってもよく分岐鎖状であってもよい。また、可能な場合、環状構造を有していてもよい。
上記アルキル基および上述した置換基のアルキル基部分(例えば、上記アルコキシ基における-O-以外の部分)のうちの1個以上のメチレン基は、それぞれ独立に、-O-または-C(=O)-で置換されていてもよい。
また、上述した置換基は、可能な場合、さらに置換基(好ましくはフッ素原子)を有していてもよい。例えば上記アルキル基が、フルオロアルキル基(例えば、トリフルオロメチル基などの炭素数1~10のパーフルオロアルキル基)となるのも好ましい。また、例えば、上述した置換基のアルキル基部分がフッ素原子を有するのも好ましい。
中でも、化合物の液晶性および溶解性が優れる点から、置換基としては、上記アルキル基、上記アルキルオキシカルボニル基、または、上記アルキルアミノカルボニル基が好ましく、炭素数が2以上のアルキル基、フルオロメチル基(好ましくはトリフルオロメチル基)、上記アルキルオキシカルボニル基、または、上記アルキルアミノカルボニル基がより好ましく、上記アルキルオキシカルボニル基、または、上記アルキルアミノカルボニル基がさらに好ましく、上記アルキルオキシカルボニル基が特に好ましい。
【0023】
~mは、それぞれ独立に、0~4の整数を表す。m~mが2以上であることによって対応するR~Rがそれぞれ複数存在する場合、複数存在するR~Rは、それぞれ同一でもよく異なっていてもよい。
化合物の液晶性および溶解性が優れる点から、m~mのうちの少なくとも1つが1以上の整数を表すのが好ましい。中でも、mが1以上の整数を表すのが好ましい。
中でも、m~mのうちの少なくとも1つが1以上の整数を表し、1以上の整数を表すm~mのうちの少なくとも1つに対応するR~Rのうちの少なくとも1つが、上記アルキル基、上記アルキルオキシカルボニル基、または、上記アルキルアミノカルボニル基であるのが好ましく、炭素数が2以上のアルキル基、フルオロメチル基(好ましくはトリフルオロメチル基)、上記アルキルオキシカルボニル基、または、上記アルキルアミノカルボニル基であるのがより好ましく、上記アルキルオキシカルボニル基、または、上記アルキルアミノカルボニル基であるのがさらに好ましく、上記アルキルオキシカルボニル基であるのが特に好ましい。特に、mが1以上の整数を表し、Rのうちの少なくとも1つが、上記アルキル基、上記アルキルオキシカルボニル基、または、上記アルキルアミノカルボニル基であるのが好ましい。
なお、「1以上の整数を表すm~mのうちの少なくとも1つに対応するR~Rのうちの少なくとも1つが、上記アルキル基等である」とは、例えば、mが1以上の整数を表し、m~mが0である場合、mに対応するRが上述した基である態様が挙げられる。また、別の例としては、m~mが1以上の整数を表し、m~mが0である場合、mに対応するRおよびmに対応するRの少なくとも1つが上述した基である態様が挙げられる。
【0024】
本発明の化合物の屈折率異方性Δnは特に制限されないが、0.23以上が好ましく、0.28以上がより好ましく、0.30以上がさらに好ましい。上限は特に制限されないが、0.60以下の場合が多い。
Δnの測定方法としては、液晶便覧(液晶便覧編集委員会編、丸善株式会社刊)202頁に記載の楔形液晶セルを用いた方法が一般的である。なお、結晶化しやすい化合物の場合は、他の液晶との混合物による評価を行い、その外挿値からΔnを見積もることもできる。
なお、上記Δnは、30℃における波長550nmでの測定値に該当する。
【0025】
本発明の化合物は、公知の方法で合成することができる。
本発明の化合物としては、例えば、以下の化合物が例示される。
【0026】
【化3】

【0027】
〔組成物〕
本発明の化合物は、この化合物を含む組成物の形態で使用することができる。なお、組成物には、本発明の化合物以外の成分が含まれていてもよい。
組成物中での本発明の化合物の含有量は特に制限されないが、組成物中の固形分の全質量に対して、20~100質量%が好ましく、40~100質量%がより好ましい。
なお、固形分とは、組成物中の溶剤以外の成分(不揮発分)を意図する。溶剤以外であれば、その性状が液体状の成分であっても固形分とみなす。
組成物は、本発明の化合物を1種単独で使用してもよく、2種以上使用してもよい。2種以上使用する場合は、その合計含有量が上記範囲内であるのが好ましい。
以下、組成物に含まれる他の成分について詳述する。
【0028】
<その他の液晶化合物>
組成物は、本発明の化合物以外のその他の液晶化合物を含んでいてもよい。
その他の液晶化合物は、棒状液晶化合物であっても、円盤状液晶化合物であってもよいが、棒状液晶化合物であることが好ましい。また、その他の液晶化合物は、重合性基を有する液晶化合物(その他の重合性液晶化合物)であるのが好ましい。
その他の液晶化合物である棒状液晶化合物の例としては、棒状ネマチック液晶化合物が挙げられる。上記棒状ネマチック液晶化合物としては、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類、または、アルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類が好ましい。低分子液晶化合物だけではなく、高分子液晶化合物も用いることができる。
【0029】
重合性基を有する液晶化合物は、重合性基を液晶化合物に導入することで得られる。重合性基の例には、一般式(1)のPおよびPにおいて例示した重合性基が挙げられる。
重合性基を有する液晶化合物が有する重合性基の個数は、1~6が好ましく、1~3がより好ましい。
その他の液晶化合物は、Δnが高いことが好ましく、具体的には、0.15以上が好ましく、0.18以上がより好ましく、0.22以上がさらに好ましい。上限は特に制限されないが、0.60以下の場合が多い。
また、本発明の化合物とその他の液晶化合物とを混合して使用することで、全体としての結晶化温度を大きく低下させることもできる。
その他の液晶化合物の例としては、Makromol.Chem.,190巻、2255頁(1989年)、Advanced Materials 5巻、107頁(1993年)、米国特許第4683327号明細書、米国特許第4983479号明細書、同5622648号明細書、同5770107号明細書、国際公開WO95/22586号公報、同95/24455号公報、同97/00600号公報、同98/23580号公報、同98/52905号公報、特開平1-272551号公報、同6-16616号公報、同7-110469号公報、同11-80081号公報、および、特開2001-328973号公報などに記載の化合物が挙げられる。
組成物がその他の液晶化合物を含む場合、組成物中でのその他の液晶化合物の含有量は特に制限されないが、本発明の化合物全質量に対して、10~200質量%が好ましく、50~150質量%がより好ましい。
組成物は、その他の液晶化合物を1種単独で使用してもよく、2種以上使用してもよい。2種以上使用する場合は、その合計含有量が上記範囲内であるのが好ましい。
【0030】
<重合開始剤>
組成物は、重合開始剤を含んでいてもよい。
重合開始剤は、紫外線照射によって重合反応を開始可能な光重合開始剤であることが好ましい。光重合開始剤としては、例えば、α-カルボニル化合物、アシロインエーテル、α-炭化水素置換芳香族アシロイン化合物、多核キノン化合物、フェナジン化合物、および、オキサジアゾール化合物が挙げられる。また、オキシムエステル構造を有する化合物も好ましい。
組成物が重合開始剤を含む場合、組成物中での重合開始剤の含有量は特に制限されないが、本発明の化合物全質量に対して(組成物がその他の重合性液晶化合物を含む場合は、本発明の化合物とその他の重合性液晶化合物との合計質量に対して)、0.1~20質量%が好ましく、1~8質量%がより好ましい。
組成物は、重合開始剤を1種単独で使用してもよく、2種以上使用してもよい。2種以上使用する場合は、その合計含有量が上記範囲内であるのが好ましい。
【0031】
<界面活性剤>
組成物は、安定的または迅速な液晶相(例えば、ネマチック相、コレステリック相)の形成に寄与する界面活性剤を含んでいてもよい。
界面活性剤としては、例えば、含フッ素(メタ)アクリレート系ポリマー、WO2011/162291号に記載の一般式(X1)~(X3)で表される化合物、特開2014-119605の段落0082~0090に記載の一般式(I)で表される化合物、および、特開2013-47204号の段落0020~0031に記載の化合物が挙げられる。これらの化合物は、層の空気界面において、液晶化合物の分子のチルト角を低減させる、または、液晶化合物を実質的に水平配向させることができる。
なお、本明細書で「水平配向」とは、液晶化合物の分子軸(液晶化合物が棒状液晶化合物である場合、液晶化合物の長軸に該当。)と膜面が平行であることをいうが、厳密に平行であることを要求するものではなく、本明細書では、膜面とのなす傾斜角が20度未満の配向を意味するものとする。液晶化合物が空気界面付近で水平配向する場合、配向欠陥が生じ難いため、可視光領域での透明性が高くなる。一方、液晶化合物の分子が大きなチルト角で配向すると、例えば、コレステリック相とする場合は、その螺旋軸が膜面法線からずれるため、反射率が低下したり、フィンガープリントパターンが発生し、ヘイズの増大または回折性を示したりするため好ましくない。
界面活性剤として利用可能な含フッ素(メタ)アクリレート系ポリマーとしては、特開2007-272185号公報の段落0018~0043に記載されるポリマーも挙げられる。
組成物が界面活性剤を含む場合、界面活性剤の含有量は特に制限されないが、本発明の化合物全質量に対して(組成物がその他の液晶化合物を含む場合は、本発明の化合物とその他の液晶化合物との合計質量に対して)、0.001~10質量%が好ましく、0.05~3質量%がより好ましい。
組成物は、界面活性剤を1種単独で使用してもよく、2種以上使用してもよい。2種以上使用する場合は、その合計含有量が上記範囲内であるのが好ましい。
【0032】
<キラル剤>
組成物は、キラル剤を含んでいてもよい。組成物がキラル剤を含む場合、コレステリック相を形成できる。
キラル剤の種類は、特に制限されない。キラル剤は液晶性であっても、非液晶性であってもよい。キラル剤は、一般に不斉炭素原子を含む。ただし、不斉炭素原子を含まない軸性不斉化合物または面性不斉化合物を、キラル剤として用いることもできる。軸性不斉化合物または面性不斉化合物としては、例えば、ビナフチル、ヘリセン、パラシクロファン、および、これらの誘導体が挙げられる。キラル剤は、重合性基を有していてもよい。
組成物がキラル剤を含む場合、組成物中でのキラル剤の含有量は特に制限されないが、本発明の化合物全質量に対して(組成物がその他の液晶化合物を含む場合は、本発明の化合物とその他の液晶化合物との合計質量に対して)、0.1~15質量%が好ましく、1.0~10質量%がより好ましい。
組成物は、キラル剤を1種単独で使用してもよく、2種以上使用してもよい。2種以上使用する場合は、その合計含有量が上記範囲内であるのが好ましい。
【0033】
<溶剤>
組成物は溶剤を含んでいてもよい。溶剤は、組成物の各成分を溶解できるのが好ましく、例えば、クロロホルムが挙げられる。組成物が溶剤を含む場合、組成物中の溶剤の含有量は、組成物の固形分濃度を0.5~20質量%とする量が好ましく、1~10とする量がより好ましい。
組成物は、溶剤を1種単独で使用してもよく、2種以上使用してもよい。2種以上使用する場合は、その合計含有量が上記範囲内であるのが好ましい。
【0034】
上記以外にも、組成物は、酸化防止剤、紫外線吸収剤、増感剤、安定剤、可塑剤、連鎖移動剤、重合禁止剤、消泡剤、レべリング剤、増粘剤、難燃剤、界面活性剤、分散剤、ならびに、染料および顔料などの色材、などの他の添加剤を含んでいてもよい。
【0035】
〔硬化物〕
本発明は、上述したような組成物を硬化してなる硬化物も含む。
【0036】
<硬化方法および硬化物>
上記組成物を硬化(重合硬化)する方法は特に制限されず、公知の方法を採用できる。例えば、所定の基板と組成物とを接触させて、基板上に組成物層を形成する工程Xと、組成物層に加熱処理を施し、本発明の化合物を配向させた後、硬化処理を施す工程Yとを有する態様が挙げられる。本態様によれば、本発明の化合物を配向させた状態で固定化することができ、いわゆる光学異方体、または、コレステリック液晶相を固定化してなる層を形成することができる。
以下、工程Xおよび工程Yの手順について詳述する。
【0037】
工程Xは、所定の基板と組成物とを接触させて、基板上に組成物層を形成する工程である。使用される基板の種類は特に制限されず、公知の基板(例えば、樹脂基板、ガラス基板、セラミック基板、半導体基板、および、金属基板)が挙げられる。
基板と組成物とを接触させる方法は特に制限されず、例えば、基板上に組成物を塗布する方法、および、組成物中に基板を浸漬する方法が挙げられる。
なお、基板と組成物とを接触させた後、必要に応じて、基板上の組成物層から溶剤を除去するために、乾燥処理を実施してもよい。
【0038】
工程Yは、組成物層に加熱処理を施し、本発明の化合物を配向させた後、硬化処理を施す工程である。
組成物層に加熱処理を施すことにより、本発明の化合物が配向し、液晶相が形成される。例えば、組成物層にキラル剤が含まれる場合は、コレステリック液晶相が形成される。
加熱処理の条件は特に制限されず、本発明の化合物の種類に応じて最適な条件が選択される。
【0039】
硬化処理の方法は特に制限されず、光硬化処理および熱硬化処理が挙げられる。なかでも、光照射処理が好ましく、紫外線照射処理がより好ましい。
紫外線照射には、紫外線ランプなどの光源が利用される。
【0040】
上記処理により得られる硬化物は、液晶相を固定してなる層に該当する。特に、組成物がキラル剤を含む場合は、コレステリック液晶相を固定してなる層が形成される。
なお、これらの層は、もはや液晶性を示す必要はない。より具体的には、例えば、コレステリック液晶相を「固定化した」状態は、コレステリック液晶相となっている本発明の化合物の配向が保持された状態が最も典型的、且つ、好ましい態様である。より具体的には、通常0~50℃、より過酷な条件下では-30~70℃の温度範囲において、層に流動性が無く、また、外場もしくは外力によって配向形態に変化を生じさせることなく、固定化された配向形態を安定に保ち続けることができる状態であることが好ましい。
【0041】
〔光学異方体、反射膜〕
上記のように組成物に硬化処理を施すことにより、硬化物が得られる。
本発明の組成物を硬化してなる硬化物は、種々の用途に適用することができ、例えば、光学異方体および反射膜が挙げられる。言い換えると、上記組成物を硬化してなる光学異方体または反射膜が好適態様として挙げられる。
なお、光学異方体とは、光学異方性を有する物質を意図する。
また、反射膜とは、上述したコレステリック液晶相を固定してなる層に相当し、所定の反射帯域の光を反射することができる。
【実施例
【0042】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、試薬、割合、および、操作などは本発明の趣旨から逸脱しないかぎり適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に制限されるものではない。
【0043】
〔化合物の合成〕
<合成例1:化合物A-1の合成>
化合物A-1を以下のスキームに従って合成した。
【0044】
【化4】
【0045】
(1)化合物1の合成
4-アミノフェニル-2-エタノール(132.1g、0.96mol)を水(1056mL)および濃硫酸90mL(1.69mol)中で溶解させた。温度を5℃以下に保ちながら、この溶液に、亜硝酸ナトリウム(83.0g、1.20mol)を水(264mL)に溶かした水溶液を滴下し、ジアゾ化を行った。その後、この溶液に、ヨウ化カリウム(545.1g、3.28mol)を水(660mL)に溶かした水溶液を滴下し、室温で2時間撹拌した。得られた溶液を酢酸エチルで2回抽出した後、得られた有機相を合わせ、10質量%チオ硫酸ナトリウム水溶液、および、飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した。乾燥後の有機相をろ過した後、溶剤を減圧留去し、得られた残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィーにて精製して、淡黄色オイル状の化合物1(195.4g、0.79mol)を得た。収率は81.8%であった。
【0046】
(2)化合物2の合成
窒素雰囲気下にて、化合物1(195.4g、0.79mol)およびトリメチルシリルアセチレン(116.0g、1.18mol)をテトラヒドロフラン(1974mL)およびトリエチルアミン(796.9g、7.88mol)の混合溶液に溶解させた。得られた溶液に窒素バブリングを30分間行った後、Pd(PPhCl(27.6g、39.4mmol)およびCuI(15.0g、78.8mmol)を溶液に加えて、溶液を55℃で2時間撹拌した。溶液を室温に冷却後、溶液から不溶物をろ過により除いた。得られた溶液を飽和塩化アンモニウム水溶液で1回、水および飽和食塩水で1回それぞれ洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した。乾燥後の有機相をろ過した後、溶剤を減圧留去し、得られた残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィーにて精製して、淡黄色オイル状の化合物2(163.4g、0.75mol)を得た。収率は94.7%であった。
【0047】
(3)化合物3の合成
化合物2(163.4g、0.75mol)をテトラヒドロフラン(820mL)に溶解させた。得られた溶液にテトラブチルアンモニウムフルオリドの1Mテトラヒドロフラン溶液(822.9ml、0.82mol)を加えた後、溶液を室温にて1時間撹拌した。得られた溶液に1N塩酸を加え、その後、酢酸エチルで4回抽出した。抽出により得られた有機相を食塩水で1回洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した。乾燥後の有機相をろ過した後、溶剤を減圧留去し、得られた残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィーにて精製して、淡黄色オイル状の化合物3(103.7g、0.71mol)を得た。収率は94.6%であった。
【0048】
(4)化合物4の合成
4,4‘-エチレンジアニリン(2.00g、9.42mmol)を1N塩酸水(113mL中)で溶解させた。温度を5℃以下に保ちながら、この溶液に、亜硝酸ナトリウム(1.95g、28.3mmol)を水(10mL)に溶かした水溶液を滴下し、ジアゾ化を行った。その後、ヨウ化カリウム(4.24g、28.3mmol)を水(10mL)に溶かした水溶液を滴下し、室温で2時間撹拌した。析出した固体を一旦ろ過し、水で洗浄した後、酢酸エチルに再溶解させ、飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した。乾燥後の有機相をろ過した後、溶剤を減圧留去し、得られた残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィーにて精製し、化合物4(0.45g、1.04mmol)を得た。収率は11.0%であった。
【0049】
(5)化合物5の合成
窒素雰囲気下にて、化合物4(0.40g、0.92mmol)および化合物3(0.30g、2.05mmol)をジメチルアセトアミド(10mL)およびトリエチルアミン(0.93g、9.18mmol)の混合溶液に溶解させた。得られた溶液の窒素バブリングを30分間行った後、Pd(PPhCl(32.3mg、0.046mmol)およびCuI(17.5mg、0.092mmol)を溶液に加えて、溶液を55℃で2時間撹拌した。溶液を室温に冷却後、溶液から不溶物をろ過により除いた。得られた溶液に水を加えて析出した固体をろ過した後、メタノール中で懸濁洗浄を行い、化合物5(0.25g、0.53mmol)を得た。収率は57.7%であった。
【0050】
(6)化合物A-1の合成
化合物5(0.25g、0.53mmol)をジメチルアセトアミド(10ml)に溶解させた。氷冷下にて、塩化アクリル(0.37ml、4.6mmol)およびトリエチルアミン(0.64mL、4.6mmol)を加え、溶液を室温にて2時間撹拌した。得られた溶液に1N塩酸を加え、その後、酢酸エチルで抽出した。抽出により得られた有機相を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液および飽和食塩水で1回洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した。乾燥後の有機相をろ過した後、溶剤を減圧留去し、得られた残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィーにて精製し、化合物A-1(0.18g、0.31mmol)を得た。収率は58.7%であった。
【0051】
得られた化合物A-1をH-NMR(Nuclear Magnetic Resonance)を用いて同定した結果は以下の通りであった。
H-NMR(CDCl):δ=2.82(t、4H)、3.00(t、4H)、4.37(t、4H)、5.82(d、2H)、6.10(dd、2H)、6.38(d、2H)、7.10(d、4H)、7.20(d、4H)、7.45(m、8H)
【0052】
<合成例2:化合物A-2の合成>
化合物A-2を以下のスキームに従って合成した。
【0053】
【化5】
【0054】
(7)化合物6の合成
4-ヨードベンジルアルコール(30.0g、0.128mol)をテトラヒドロフラン(150mL)に溶解させて溶液を得た。氷冷下にて、得られた溶液に、メタンスルホニルクロリド(15.4g、0.135mol)およびトリエチルアミン(14.3g、0.141mol)を加え、室温にて3時間撹拌した。得られた溶液に酢酸エチルおよび水を加えて抽出した後、有機相を水、飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した。乾燥後の有機相をろ過した後、溶剤を減圧留去し、得られた残渣にヘキサンを加えて懸濁洗浄した後、化合物6(38.4g、0.123mol)を得た。収率は96.1%であった。
【0055】
(8)化合物7の合成
化合物6(5.00g、16.0mmol)および4-ヨードフェノール(3.52g、16.0mmol)をジメチルアセトアミド(30mL)に溶解させて溶液を得た。溶液に炭酸カリウム(2.65g、19.2mmol)およびヨウ化カリウム(0.27g、1.63mmol)を加え、85℃にて2時間撹拌した。溶液を室温に冷却後、酢酸エチルおよび水を加えて抽出した後、有機相を1N塩酸水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液および飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した。乾燥後の有機相をろ過した後、溶剤を減圧留去し、得られた残渣にメタノールを加えて懸濁洗浄した後、化合物7(4.84g、11.1mmol)を得た。収率は69.4%であった。
【0056】
(9)化合物8の合成
化合物5の合成(5)における、化合物4の代わりに化合物7を用いること以外は(5)と同様にして、化合物8を合成した。
(10)化合物A-2の合成
化合物A-1の合成(6)における、化合物5の代わりに化合物8を用いること以外は(6)と同様にして、化合物A-2を合成した。
【0057】
得られた化合物A-2をH-NMR(Nuclear Magnetic Resonance)を用いて同定した結果は以下の通りであった。
H-NMR(CDCl):δ=2.99(t、4H)、4.38(t、4H)、5.10(s、2H)、5.81(d、2H)、6.10(dd、2H)、6.38(d、2H)、6.92(d、2H)、7.20(m、4H)、7.44(m、8H)、7.55(d、2H)
【0058】
<合成例3:化合物A-3の合成>
化合物A-2の合成における4-ヨードフェノールの代わりに、2-メチル-4-ヨードフェノールを用いたこと以外は同様にして、化合物A-3を合成した。
【0059】
得られた化合物A-3をH-NMRを用いて同定した結果は以下の通りであった。
H-NMR(CDCl):δ=2.29(s、3H)、2.99(t、4H)、4.38(t、4H)、5.10(s、2H)、5.81(d、2H)、6.10(dd、2H)、6.38(d、2H)、6.83(d、1H)、7.20(m、4H)、7.32(d、2H)、7.44(m、6H)、7.55(d、2H)
【0060】
<合成例4:化合物A-4の合成>
化合物A-2の合成における4-ヨードフェノールの代わりに、2-トリフルオロメチル-4-ブロモフェノールを用いたこと以外は同様にして、化合物A-4を合成した。
【0061】
得られた化合物A-4をH-NMRを用いて同定した結果は以下の通りであった。
H-NMR(CDCl):δ=2.99(t、4H)、4.38(t、4H)、5.23(s、2H)、5.81(d、2H)、6.10(dd、2H)、6.38(d、2H)、6.98(d、1H)、7.21(m、4H)、7.44(m、6H)、7.52(d、2H)、7.60(d、1H)、7.75(s、1H)
【0062】
<合成例5:化合物A-5の合成>
化合物A-2の合成における4-ヨードフェノールの代わりに、下記の方法で合成した2-ターシャリーブチル-4-ブロモフェノールを用いること以外は同様にして、化合物A-5を合成した。
【0063】
(11)2-ターシャリーブチル-4-ブロモフェノールの合成
2-ターシャリーブチルフェノール(10.0g、66.6mmol)をクロロホルム(100mL)に溶解させた溶液を得た。溶液にテトラブチルアンモニウムトリブロミド(38.6g、80.0mmol)を添加した。溶液を、室温で1時間撹拌した後、1N塩酸水を加え、クロロホルムで抽出した。得られた有機相をさらに1N塩酸水、10%食塩水および飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した。乾燥後の有機相をろ過した後、溶剤を減圧留去し、得られた残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィーにて精製し、2-ターシャリーブチル-4-ブロモフェノール(6.60g、28.8mmol)を得た。収率は43.3%であった。
【0064】
得られた化合物A-5をH-NMRを用いて同定した結果は以下の通りであった。
H-NMR(CDCl):δ=1.40(s、9H)、3.00(t、4H)、4.38(t、4H)、5.13(s、2H)、5.81(d、2H)、6.10(dd、2H)、6.38(d、2H)、6.88(d、1H)、7.21(m、4H)、7.35(d、1H)、7.45(m、7H)、7.56(d、2H)
【0065】
<合成例6:化合物A-6の合成>
化合物A-2の合成における4-ヨードフェノールの代わりに、2-メトキシカルボニル-4-ヨードフェノールを用いること以外は同様にして、化合物A-6を合成した。
【0066】
得られた化合物A-6をH-NMRを用いて同定した結果は以下の通りであった。
H-NMR(CDCl):δ=2.99(t、4H)、3.89(s、3H)、4.38(t、4H)、5.21(s、2H)、5.81(d、2H)、6.10(dd、2H)、6.38(d、2H)、6.98(d、1H)、7.21(m、4H)、7.48(m、6H)、7.52(d、2H)、7.60(d、1H)、8.00(s、1H)
【0067】
<合成例7:化合物A-7の合成>
化合物A-2の合成における4-ヨードフェノールの代わりに、下記の方法で合成した2-ターシャリーブトキシカルボニル-4-ヨードフェノールを用いること以外は同様にして、化合物A-7を合成した。
【0068】
(12)2-ターシャリーブトキシカルボニル-4-ヨードフェノールの合成
2-カルボキシル-4-ヨードフェノール(5.00g、18.9mmol)およびジメチルアミノピリジン(0.12g、0.95mmol)をターシャリーブタノール(50mL)に溶解させた溶液を得た。溶液に1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(5.44g、28.4mmol)をテトラヒドロフラン(25mL)に溶かした溶液を滴下した。室温で2時間撹拌した後、蓚酸(2.56g、28.4mmol)を加え、さらに1時間撹拌した。不溶物をろ過にて取り除いた後、溶媒を減圧留去し、得られた残渣を水および酢酸エチルで抽出した。有機相を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液および飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した。乾燥後の有機相をろ過した後、溶剤を減圧留去し、得られた残渣にノルマルヘキサンを加えて、析出物をろ過にて取り除いた。ろ液を減圧留去し、結晶化した2-ターシャリーブトキシカルボニル-4-ヨードフェノール(2.70g、8.43mmol)を得た。収率は44.6%であった。
【0069】
得られた化合物A-7をH-NMRを用いて同定した結果は以下の通りであった。
H-NMR(CDCl):δ=1.55(s、9H)、2.99(t、4H)、4.38(t、4H)、5.17(s、2H)、5.81(d、2H)、6.10(dd、2H)、6.38(d、2H)、6.92(d、1H)、7.21(m、4H)、7.45(m、6H)、7.53(m、3H)、7.85(s、1H)
【0070】
<化合物B-1の合成>
特開2005-15406号の合成例1に従って、比較用化合物として下記化合物B-1を合成した。
【0071】
【化6】
【0072】
以下に化合物A-1~A-7および化合物B-1を示す。
【0073】
【化7】
【0074】
〔評価〕
上述した化合物A-1~A-7および化合物B-1を用いて、以下の各種評価を実施した。
【0075】
<相転移温度測定>
各化合物をホットステージ上で加熱し、偏光顕微鏡観察を行い、相転移挙動を調べた。結果を表1に示す。
表中、「Cr」、「Ne」、「Sc」、「SA」および「Iso」は、それぞれ、結晶状態、ネマチック相、スメクチックC相、スメクチックA相、および、等方性液体を表す。
A-1、および、A-2は、融点が200℃以上あり、加熱中に重合反応を起こすため、液晶性の評価ができなかった。
【0076】
<Δn(屈折率異方性)測定>
各化合物のΔnは、液晶便覧(液晶便覧編集委員会編、丸善株式会社刊)202頁に記載の楔形液晶セルを用いた方法にて測定した。なお、結晶化しやすい化合物の場合は、他の液晶との混合物による評価を行い、その外挿値からΔnを見積もった。結果を表1に示す。表中の値は、550nm、30℃におけるΔnを表す。
【0077】
<溶液吸収スペクトル測定(着色性評価)>
各化合物の溶液吸収スペクトルを、島津製作所(株)社製分光光度計UV-3100PCを用いて測定した。溶媒としてクロロホルムを用い、所定量の化合物を溶かした溶液を、1cmセルにて測定し、得られたスペクトルと分子量からλmaxおよびλ(1000)を算出した。なお、λmaxは300nm以上の領域における最大吸光係数を示す波長を表し、λ(1000)は300nm以上の領域において、吸光係数εが1000を示す波長を表す。λmaxおよびλ(1000)の波長が小さいほど(短波側であるほど)、その化合物の着色性が抑制されていると評価できる。
例えば、λmaxは310nm以下が好ましい。また、λ(1000)は、350nm以下が好ましく、325nm以下がより好ましい。
【0078】
<溶解性評価>
各化合物のメチルエチルケトンに対する溶解性を評価した。化合物を超音波溶解または加熱溶解させた溶液を作製した後、室温(23℃)にて溶液中に化合物が析出するかどうかを観察した。化合物ごとに各種濃度で溶液を作製し、化合物の析出が生じる濃度を析出濃度として、下記の基準にて化合物の溶解性を評価した。なお、析出濃度が大きいほど、化合物は溶解性に優れる。
A;析出濃度が20質量%以上
B;析出濃度が10質量%以上20質量%未満
C;析出濃度が10質量%未満
【0079】
<耐光性評価>
(光学異方性膜の作製)
下記組成の塗布液を調製し、ラビング処理済みの配向膜付きガラス上にスピンコート塗布した。各組成物が、ネマチック相を示す温度まで加熱したホットプレート上で350nm以下の光をカットするフィルターを介して、500mJ/cmの紫外線照射を行い、光学異方性膜を作製した。
【0080】
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塗布液の組成
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・化合物(A-1~A-7またはB-1) 50質量部
・下記重合性液晶化合物(B-2) 50質量部
・下記の光重合開始剤(P-1) 2質量部
・下記の界面活性剤(F-1) 0.1質量部
・クロロホルム 1940質量部
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【0081】
【化8】
【0082】
(耐光性試験)
作製した光学異方性膜に対し、スガ試験機(株)社製スーパーキセノンウェザーメーター SX75を用いて光照射した。UVカットフィルターとして、キング製作所(株)社製KU-1000100を用い、酸素遮断条件下にて、500万lxhの光を50時間で照射して、耐光性試験を行った。被検体の温度(試験装置内温度)は63℃に設定した。試験装置内の相対湿度は50%RHとした。
耐光性試験前後での光学異方性膜の透過率変化を測定し、420nmにおける透過率変化が5%未満である場合の耐光性をAと評価し、5%以上である場合の耐光性をBと評価した。透過率変化が小さいほど耐光性に優れる。
【0083】
下記表に結果を記載する。
【0084】
【表1】
【0085】
なお、上記表1中、相転移温度欄において、括弧内の数値は降温時の結晶化温度を表す。
また、例えば、化合物A-3の「Cr 109(88) Ne 196 Iso」は、昇温時、結晶状態からネマチック相への相転移温度が109℃で、ネマチック相から等方性液体への相転移温度が196℃であることを表し、降温時に等方性液体からネマチック相への相転移温度が196℃で、ネマチック相から結晶状態への相転移温度が88℃であることを表す。
A-1、および、A-2は、融点が200℃以上あり、加熱中に重合反応を起こすため、液晶性の評価ができなかった。
比較例1のΔnは、ネマチック相における測定値である。
【0086】
表1に示すように、本発明の化合物は、高い屈折率異方性Δnと、着色性の抑制(λmaxが310nm以下、λ(1000)が350nm以下)とを両立できることが確認された。また、本発明の化合物は、耐光性にも優れることが確認された。
また、一般式(1)中、m~mのうちの少なくとも1つが1以上の整数を表し、置換基が存在する場合、本発明の化合物は、広いネマチック温度領域および高い溶解性を示すことが確認された(実施例3~7の結果)。
上記置換基としては、アルキル基であって炭素数が2以上であるかもしくはフルオロメチル基であるアルキル基、または、アルキルオキシカルボニル基である場合、本発明の化合物の溶解性がより優れることが確認された(実施例4~7の結果)。
一般式(1)中、Yが-C(Rya)(Ryb)-である場合、本発明の化合物は、着色性をより抑制できることが確認された(実施例1の結果)。