(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-26
(45)【発行日】2022-06-03
(54)【発明の名称】防着部材及び真空処理装置
(51)【国際特許分類】
C23C 14/00 20060101AFI20220527BHJP
【FI】
C23C14/00 B
(21)【出願番号】P 2020563026
(86)(22)【出願日】2019-12-09
(86)【国際出願番号】 JP2019048078
(87)【国際公開番号】W WO2020137489
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2020-12-01
(31)【優先権主張番号】P 2018243949
(32)【優先日】2018-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】特許業務法人南青山国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100144211
【氏名又は名称】日比野 幸信
(72)【発明者】
【氏名】阪上 弘敏
(72)【発明者】
【氏名】大野 哲宏
【審査官】篠原 法子
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-046333(JP,A)
【文献】特開2000-054124(JP,A)
【文献】特開2002-363743(JP,A)
【文献】特開2001-335930(JP,A)
【文献】特開平10-060624(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00 -14/58
H05H 1/46
H01L 21/203
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマを用いた真空処理の際に発生する物質の真空槽内への付着を防止する防着部材であって、
枠状の防着本体部材と、
前記防着本体部材を前記真空槽内の放電空間側に密着した状態で保持する枠状の保持部材とを備え、
前記防着本体部材が、前記保持部材の前記放電空間側の面と反対側の面から複数の締結部材によって固定されるとともに、当該各締結部材は、それぞれの先端部分が前記防着本体部材の前記放電空間側の面から当該放電空間側に露出しないように構成され
、
前記防着本体部材の各構成部材の周縁部には、前記真空槽内の放電空間に対向する面側に延びるプラズマ遮蔽用の壁部と、前記プラズマ遮蔽用の壁部に対して外方側に延びるように、前記保持部材に対する取付部がそれぞれ設けられている防着部材。
【請求項2】
前記保持部材の前記防着本体部材側の面に、当該防着本体部材を冷却する冷却部が設けられている請求項1記載の防着部材。
【請求項3】
前記真空槽内において概ね鉛直方向に向けて配置するように構成されている請求項1
又は2項記載の防着部材。
【請求項4】
真空槽と、前記真空槽内に設けられ、プラズマを用いた真空処理の際に発生する物質の前記真空槽内への付着を防止する防着部材とを備え、
前記防着部材は、枠状の防着本体部材と、前記防着本体部材を前記真空槽内の放電空間側に密着した状態で保持する枠状の保持部材とを有し、前記防着本体部材が、前記保持部材の前記放電空間側の面と反対側の面から複数の締結部材によって固定されるとともに、当該各締結部材は、それぞれの先端部分が前記防着本体部材の前記放電空間側の面から当該放電空間側に露出しないように構成され、
前記防着本体部材の各構成部材の周縁部には、前記真空槽内の放電空間に対向する面側に延びるプラズマ遮蔽用の壁部と、前記プラズマ遮蔽用の壁部に対して外方側に延びるように、前記保持部材に対する取付部がそれぞれ設けられ、
前記防着部材の近傍に配置された処理対象物に対して所定の真空処理を行うように構成されている真空処理装置。
【請求項5】
スパッタリングターゲットが配置される前記真空槽を有し、前記防着部材の近傍に配置される処理対象物に対してスパッタリングを行うように構成されている請求項
4記載の真空処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばスパッタリング装置等の真空処理装置に用いる防着部材の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の真空処理装置においては、スパッタリング等の真空処理を行う際に真空槽内の壁面等に対する成膜材料等の付着を防止するため、板状の防着部材が設けられている。
【0003】
この防着部材は、例えばスパッタリング装置のようなプラズマ処理を行う放電空間の基板の近傍に設けられている。
【0004】
この場合、防着部材は真空槽内において基板と平行な方向に向けて例えば枠状の保持部材に取り付けられる。
【0005】
従来、このような防着部材は、多数のボルトを用いて保持部材に取り付けられている。
しかし、保持部材に取り付けられた防着部材においては、種々の課題がある。
【0006】
すなわち、スパッタリング等の成膜時には防着部材に対しても成膜材料が付着する。その際にはボルトの表面にも成膜材料が付着してパーティクルの発生の原因になる。このため、各ボルトに対して成膜材料の付着を防止するためのキャップを取り付けるようにしているが、このキャップに付着した成膜材料もパーティクルの発生の原因になる。
【0007】
また、防着部材は保持部材に対して多数のボルトを用いて放電空間側から取り付けられているので、放電の際の熱による防着部材の伸びに起因して保持部材との間で擦れが生じ、これによりパーティクルが発生してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平4-78132号公報
【文献】特開平10-060624号公報
【文献】特開2004-315948号公報
【文献】国際公開2006-067836号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような従来の技術の課題を考慮してなされたもので、その目的とするところは、真空処理の際に放電空間に配置される防着部材から発生するパーティクルを抑制することができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するためになされた本発明は、プラズマを用いた真空処理の際に発生する物質の真空槽内への付着を防止する防着部材であって、枠状の防着本体部材と、前記防着本体部材を前記真空槽内の放電空間側に密着した状態で保持する枠状の保持部材とを備え、前記防着本体部材が、前記保持部材の前記放電空間側の面と反対側の面から複数の締結部材によって固定されるとともに、当該各締結部材は、それぞれの先端部分が前記防着本体部材の前記放電空間側の面から当該放電空間側に露出しないように構成されている防着部材である。
本発明は、前記保持部材の前記防着本体部材側の面に、当該防着本体部材を冷却する冷却部が設けられている防着部材である。
本発明は、前記防着本体部材の各構成部材の周縁部に、前記真空槽内の放電空間に対向する面側に延びるプラズマ遮蔽用の壁部が設けられている防着部材である。
本発明は、前記防着本体部材の各構成部材の周縁部に、前記プラズマ遮蔽用の壁部に対して外方側に延びるように、前記保持部材に対する取付部が設けられている防着部材である。
本発明は、前記真空槽内において概ね鉛直方向に向けて配置するように構成されている防着部材である。
本発明は、真空槽と、前記真空槽内に設けられた上述したいずれかの防着部材とを備え、前記防着部材の近傍に配置された処理対象物に対して所定の真空処理を行うように構成されている真空処理装置である。
本発明は、スパッタリングターゲットが配置される前記真空槽を有し、前記防着部材の近傍に配置される処理対象物に対してスパッタリングを行うように構成されている真空処理装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明にあっては、防着本体部材が、保持部材の放電空間側の面と反対側の面から複数の締結部材によって固定されるとともに、各締結部材は、それぞれの先端部分が防着本体部材の放電空間側の面から放電空間側に露出しないように構成されていることから、防着本体部材を保持部材に保持させるために従来技術のように多数のカバー付きのボルトを用いる必要がない。
【0012】
その結果、本発明によれば、防着部材の放電空間側の面の凹凸部を減らしてその表面積を小さくすることができるので、真空処理の際に付着した成膜材料等の防着部材の表面からの剥離に起因するパーティクルの発生を抑制することができる。
【0013】
また、本発明によれば、防着本体部材と保持部材とを確実に密着させることができるので、例えば防着部材を鉛直方向に向けて配置した場合であっても、防着部材の反りに起因する防着本体部材と保持部材との間に隙間を生じさせることがない。
【0014】
また、本発明において、保持部材の前記防着本体部材側の面に、防着本体部材を冷却する冷却部が設けられている場合には、防着本体部材と保持部材とが確実に密着することと相俟って、防着部材を確実に冷却することができる。その結果、本発明によれば、放電の際の熱による防着部材の伸びに起因する擦れによるパーティクルの発生を確実に防止することができる。
【0015】
さらに、本発明において、防着本体部材の各構成部材の周縁部に、真空槽の放電空間に対向する面側に延びるプラズマ遮蔽用の壁部が設けられている場合には、防着部材の放電空間側の面に付着する成膜材料等の物質の量を更に減少させることができるので、当該物質の防着部材の表面からの剥離に起因するパーティクルの発生をより抑制することができる。
【0016】
さらにまた、本発明において、防着本体部材の各構成部材の周縁部に、プラズマ遮蔽用の壁部から外方側に延びるように、保持部材に対する取付部が設けられている場合には、取付部においてねじを用いて防着本体部材を保持部材に取り付けた場合であっても、真空処理の際に生ずる物質が防着本体部材に設けたプラズマ遮蔽用の壁部によって遮られ、防着本体部材の取付部への付着を防止することができるので、当該物質の防着部材の表面からの剥離に起因するパーティクルの発生をより抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係る真空処理装置の例であるスパッタリング装置の内部構成を示す概略構成図
【
図2】(a)(b):本発明に係る防着部材の防着本体部材の例を示す概略構成図で、
図2(a)は、放電空間側から見た正面図、
図2(b)は、放電空間側の反対側から見た正面図
【
図3】(a)(b):同防着本体部材の例を示す概略構成図で、
図3(a)は、放電空間側から見た正面図、
図3(b)は、
図3(a)のA-A線断面図
【
図4】(a)~(d):防着本体部材に設けられる保持部の構成例を示すもので、
図4(a)は、防着本体部材の表側面側から見た状態を示す正面図、
図4(b)は、防着本体部材の裏側面側から見た状態を示す正面図、
図4(c)は、
図4(b)のB-B線部分断面図、
図4(d)は、
図4(b)のC-C線断面図
【
図5】(a)(b):本発明に用いる保持部材の例を示す概略構成図で、
図5(a)は、放電空間側から見た正面図、
図5(b)は、放電空間の反対側から見た正面図
【
図6】(a)~(d):保持部材の収容凹部及び孔部の構成例を示すもので、
図6(a)は、保持部材の表側面側から見た状態を示す正面図、
図6(b)は、保持部材の裏側面側から見た状態を示す正面図、
図6(c)は、
図6(a)のD-D線断面図、
図6(d)は、
図6(b)のE-E線断面図
【
図7】(a)(b):本発明に係る防着部材の例を示す概略構成図で、
図7(a)は、放電空間側から見た正面図、
図7(b)は、放電空間の反対側から見た正面図
【
図8】(a)~(d):本例の防着部材における防着本体部材と保持部材との固定部分を示す図で、
図8(a)は、保持部材の裏側面側から見た状態を示す正面図、
図8(b)は、防着本体部材の表側面側から見た状態を示す正面図、
図8(c)は、
図8(a)のG-G線断面図、
図8(d)は、
図8(a)のH-H線断面図
【
図9】(a)(b):本例の防着部材における防着本体部材の取付部と保持部材との取付部分を示す図で、
図9(a)は、保持部材の表側面側から見た状態を示す正面図、
図9(b)は、
図9(a)のI-I線断面図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明に係る真空処理装置の例であるスパッタリング装置の内部構成を示す概略構成図である。
【0019】
図2(a)(b)は、本発明に係る防着部材の防着本体部材の例を示す概略構成図で、
図2(a)は、放電空間側から見た正面図、
図2(b)は、放電空間の反対側から見た正面図である。
【0020】
また、
図3(a)は、同防着本体部材の例を示す概略構成図で、
図3(a)は、放電空間側から見た正面図、
図3(b)は、
図3(a)のA-A線断面図である。
【0021】
さらに、
図4(a)~(d)は、防着本体部材に設けられる保持部の構成例を示すもので、
図4(a)は、防着本体部材の表側面側から見た状態を示す正面図、
図4(b)は、防着本体部材の裏側面側から見た状態を示す正面図、
図4(c)は、
図4(b)のB-B線部分断面図、
図4(d)は、
図4(b)のC-C線断面図である。
【0022】
図1に示すように、本例の防着本体部材10は、真空処理装置であるスパッタリング装置40に用いる防着部材30を構成するもので、接地された真空槽6内の基板8(処理対象物)の近傍において、後述する保持部材20に保持された状態で配置されている。
【0023】
ここで、本例では、基板8、スパッタリングターゲット(以下、「ターゲット」という。)7及び防着部材30が概ね鉛直方向に向けて設けられ、防着本体部材10は、基板8とターゲット7との間の放電空間9においてターゲット7に対向するように配置される。
【0024】
このような構成を有するスパッタリング装置40では、真空槽6内にスパッタガスを導入し、ターゲット7に負電圧を印加して放電空間9においてプラズマ放電を生じさせる。
【0025】
これにより、負電荷にされたターゲット7がプラズマ中のイオンによってスパッタされ、ターゲット7表面から飛び出したスパッタ粒子によって基板8上に膜が形成される。
【0026】
図2(a)(b)に示すように、本例の防着本体部材10は、例えば直線板状の第1~第4構成部材1~4を有し、開口部10aを有する矩形枠状に形成されている。
【0027】
図2(a)は、防着本体部材10の放電空間9側の面即ち表側面10Fを示すものであり、
図2(b)には、防着本体部材10の放電空間9と反対側の面即ち裏側面10Rが示されている。
【0028】
本例の防着本体部材10は、例えばアルミニウム(Al)、ステンレス、チタン(Ti)等の金属からなり、通常は概ね鉛直方向に向けた状態で配置される。
【0029】
ここで、防着本体部材10は、上下側に配置されそれぞれ水平方向に延びる第1構成部材1及び第2構成部材2と、第1構成部材1及び第2構成部材2の間において水平方向に関して左右側に配置され鉛直方向に延びる第3構成部材3及び第4構成部材4とを有している。
【0030】
以下、防着本体部材10の第1構成部材1及び第2構成部材2の長手方向を適宜「X軸方向」といい、第3構成部材3及び第4構成部材4の長手方向を適宜「Z軸方向」という。
【0031】
本例の第1~第4構成部材1~4は、真空処理時における熱による伸長を考慮して、隣接する部材の両端部同士に若干の隙間を設けて配置される。
【0032】
第1~第4構成部材1~4のうち第1構成部材1と第2構成部材2、並びに、第3構成部材3と第4構成部材4は、防着本体部材10の中心点を通る直線に関して線対称の形状に形成され配置される。
【0033】
そして、第1~第4構成部材1~4は、後述する保持部材20に保持される。
【0034】
なお、第1~第4構成部材1~4のそれぞれの周縁部には、第1~第4構成部材1~4の
図1に示す放電空間9側(表面側)に向って例えば垂直方向に延びるように形成されたプラズマ遮蔽壁(プラズマ遮蔽用の壁部)1c、2c、3c、4cが設けられている。
【0035】
本例の第1~第4構成部材1~4の裏側面10Rには、第1~第4構成部材1~4をそれぞれ保持部材20に保持させるための、後述する締結保持部材16を有する保持部15が、開口部10aを取り囲む位置に設けられている。
【0036】
ここで、保持部15は細長形状に形成され、基本構成が同一である、水平方向に延びる水平保持部15hと、鉛直方向に延びる鉛直保持部15vとを有している。
【0037】
水平保持部15hは、第1及び第2構成部材1、2において、それぞれの長手方向(X軸方向)に沿って直線状に例えば一列に並べて設けられている。
【0038】
鉛直保持部15vは、第1及び第2構成部材1、2の両端部と第3及び第4構成部材3、4において、第3及び第4構成部材3、4の長手方向(Z軸方向)に沿って直線状に例えば一列に並べて設けられている。
【0039】
本発明の場合、特に限定されることはないが、防着部材30の反りを防止する観点からは、水平保持部15h及び鉛直保持部15vは、防着本体部材10において、第1~第4構成部材1~4の長手方向に対して直交する直線に関して線対称となるようにそれぞれ複数の水平保持部15h及び鉛直保持部15vを設けることが好ましい。
【0040】
一方、第1~第4構成部材1~4の周縁部には、第1~第4構成部材1~4を保持部材20に後述するボルトを用いて取り付けるための複数の取付部5が、それぞれプラズマ遮蔽壁1c~4cから外方側に延びる(突出する)ように設けられている。
【0041】
これら複数の取付部5には、それぞれ防着本体部材10を放電空間9側からボルトで取り付けるためのねじ孔50が設けられている(
図3(a)参照)。
【0042】
図4(a)~(d)に示すように、上述した本例の保持部15は、防着本体部材10の裏側面10Rに設けられた例えば長方体形状の凹部10bに、例えば細長形状の締結保持部材16が取り付けられるように構成されている。
【0043】
この締結保持部材16は、例えば板付きナットからなるもので、防着本体部材10の裏側面10R側に、後述する突っ張りボルト23のねじ部23c(
図8(c)(d)参照)と噛み合うねじ部16bが形成されたねじ孔16aを有している。
【0044】
そして、この締結保持部材16は、防着本体部材10の裏側面10Rに設けた一対のねじ穴10cのねじ部と噛み合うねじ部を有する一対の固定ボルト17によって、防着本体部材10の凹部10bの長手方向両側に延びる一対のフランジ部を防着本体部材10に取り付けて固定されるように構成されている。
【0045】
図5(a)(b)は、本発明に用いる保持部材の例を示す概略構成図で、
図5(a)は、放電空間側から見た正面図、
図5(b)は、放電空間の反対側から見た正面図である。
【0046】
図6(a)~(d)は、保持部材の収容凹部及び孔部の構成例を示すもので、
図6(a)は、保持部材の表側面側から見た状態を示す正面図、
図6(b)は、保持部材の裏側面側から見た状態を示す正面図、
図6(c)は、
図6(a)のD-D線断面図、
図6(d)は、
図6(b)のE-E線断面図である。
【0047】
本例では、保持部材20は、
図1に示す真空槽6内に固定され、保持部材20の放電空間9側に、上述した防着本体部材10の第1~第4構成部材1~4が取り付けられる。
【0048】
図5(a)(b)に示すように、本例の保持部材20は、矩形枠状に形成されている。
【0049】
この保持部材20は、剛性の高い板材を用いて一体的に形成され、上述した防着本体部材10の外径より若干大きい外径を有するとともに、上述した防着本体部材10の開口部10aより若干大きい内径を有する開口部20aが設けられている。
【0050】
保持部材20は、防着本体部材10の第1~第4構成部材1~4に対応する第1~第4枠部11~14から構成されている。すなわち、保持部材20の上下部分に水平方向に延びる第1枠部11及び第2枠部12が設けられ、第1枠部11及び第2枠部12の間において水平方向に関して保持部材20の左右部分に鉛直方向に延びる第3枠部13及び第4枠部14が設けられる。
【0051】
以下、保持部材20の第1枠部11及び第2枠部12の長手方向を適宜「X軸方向」といい、第3枠部13及び第4枠部14の長手方向を適宜「Z軸方向」という。
【0052】
図5(a)に示すように、保持部材20の
図1に示す放電空間9側の面即ち表側面20Fには、開口部20aを取り囲むとともに、防着本体部材10に取り付けられた複数の保持部15に対応する位置に、各保持部15を収容する空間として複数の収容凹部21が設けられている。
【0053】
ここで、各収容凹部21は細長形状に形成され、基本構成が同一である、水平方向に延びる水平収容凹部21hと、鉛直方向に延びる鉛直収容凹部21vとを有している。
【0054】
水平収容凹部21hは、保持部材20の第1枠部11及び第2枠部12において、それぞれの長手方向(X軸方向)に沿って直線状に例えば一列に並べて設けられている。
【0055】
一方、鉛直収容凹部21vは、保持部材20の第3枠部13及び第4枠部14において、それぞれの長手方向(Z軸方向)に沿って直線状に例えば一列に並べて設けられている。
【0056】
本発明の場合、特に限定されることはないが、防着部材30の反りを防止する観点からは、水平収容凹部21h及び鉛直収容凹部21vは、保持部材20において、第1~第4枠部11~14の長手方向に対して直交する直線に関して線対称となるようにそれぞれ複数の水平収容凹部21h及び鉛直収容凹部21vを設けることが好ましい。
【0057】
図6(a)、(c)及び(d)に示すように、本例の保持部材20の収容凹部21は、保持部材20の表側面20Fに細長形状の凹部21aが設けられ、この凹部21aの内側に孔部21bが設けられて構成されている。
【0058】
ここで、保持部材20の収容凹部21の凹部21aは、防着本体部材10の保持部15に取り付けた締結保持部材16が収容される大きさで形成され、防着本体部材10を保持部材20に保持させた場合に、防着本体部材10の裏側面10Rが保持部材20の表側面20Fと密着するように構成されている(
図8(c)(d)参照)。
【0059】
一方、
図5(b)に示すように、保持部材20の
図1に示す放電空間9と反対側の面即ち裏側面20Rには、開口部20aを取り囲むとともに、防着本体部材10の複数の保持部15に対応する位置に複数の収容孔部22が設けられている。
【0060】
ここで、各収容孔部22は長穴形状に形成され、基本構成が同一である、水平方向に延びる水平孔部22hと、鉛直方向に延びる鉛直孔部22vとを有している。
【0061】
水平孔部22hは、保持部材20の第1枠部11及び第2枠部12において、それぞれの長手方向(X軸方向)に沿って直線状に例えば一列に並べて設けられている。
【0062】
一方、鉛直孔部22vは、保持部材20の第3枠部13及び第4枠部14において、それぞれの長手方向(Z軸方向)に沿って直線状に例えば一列に並べて設けられている。
【0063】
さらに、保持部材20の表側面20Fの縁部には、上述した防着本体部材10の取付部5を後述するボルト24を用いて保持部材20の表側面20Fに取り付けるための複数のねじ穴25が設けられている。
【0064】
図6(b)~(d)に示すように、本例の保持部材20の裏側面20Rに設けられた各収容孔部22は、保持部材20の表側面20Fに設けられた収容凹部21の孔部21bと同方向に延びるように形成されている。
【0065】
そして、各収容孔部22は、保持部材20の表側面20Fの収容凹部21の孔部21bと連続するように形成されている。
【0066】
図5(a)(b)に示すように、保持部材20の表側面20F側の内部には、防着部材30を冷却する冷却部26が設けられている。
【0067】
この冷却部26は、例えば保持部材20の表側面20Fに溝を設けて蓋をすることにより構成することができ、本例では、保持部材20の開口部20aの周囲において、保持部材20の下部と上部との間を巡るように形成されている。
【0068】
本例の冷却部26は、保持部材20の中心部を通るZ軸と平行な直線を挟んで線対称となるように形成された一対の冷却部26a、26bを有している。
【0069】
この冷却部26は、保持部材20の裏側面20R側の第2枠部12に設けられた冷媒(例えば水)を導入する冷媒導入口26cから、保持部材20の表側面20F側の第2枠部12の一対の冷却部26a、26bの一方の端部26eに対してそれぞれ冷媒を導入するように構成されている。
【0070】
そして、一対の冷却部26a、26bは、保持部材20の表側面20F側の第2枠部12の一対の冷却部26a、26bの他方の端部26f同士が、保持部材20の裏側面20R側の第2枠部12に設けられた接続管26dによって接続されている。
【0071】
図7(a)(b)は、本発明に係る防着部材の例を示す概略構成図で、
図7(a)は、放電空間側から見た正面図、
図7(b)は、放電空間の反対側から見た正面図である。
【0072】
上述した構成を有する本実施の形態において、防着本体部材10を保持部材20に保持させる場合には、保持部材20の第1~第4枠部11~14を防着本体部材10に対してそれぞれ位置決めした状態で、締結部材である突っ張りボルト23を、保持部材20の裏側面20R側から水平孔部22h及び鉛直孔部22v内にそれぞれ挿入し、これら突っ張りボルト23を防着本体部材10の保持部15にそれぞれ締結することにより、防着本体部材10を保持部材20に密着させた状態で固定する。
【0073】
また、この位置決め状態で、防着本体部材10の表側面10F側から防着本体部材10の取付部5のねじ孔50にボルト24をそれぞれ挿入し、これらボルト24を保持部材20のねじ穴25(
図5(a)参照)にそれぞれ締結することにより、防着本体部材10を保持部材20に取り付ける。
【0074】
図8(a)~(d)は、本例の防着部材における防着本体部材と保持部材との固定部分を示す図で、
図8(a)は、保持部材の裏側面側から見た状態を示す正面図、
図8(b)は、防着本体部材の表側面側から見た状態を示す正面図、
図8(c)は、
図8(a)のG-G線断面図、
図8(d)は、
図8(a)のH-H線断面図である。
【0075】
図8(a)及び
図8(d)に示すように、本例に用いる突っ張りボルト23は、例えば、その頭部23aの外径(直径)が、保持部材20の裏側面20Rに設けた収容孔部22の幅より大きく、かつ、その胴部23bの直径が、保持部材20の収容孔部22の幅より若干小さいものを用いる。
【0076】
そして、突っ張りボルト23のねじ部23cを保持部材20の収容孔部22に挿入して保持部15の締結保持部材16のねじ部16bに噛み合わせて突っ張りボルト23を締めることにより、突っ張りボルト23の頭部23aの座面が保持部材20の裏側面20Rに押し付けられて締結が完了した状態において、突っ張りボルト23の胴部23bの先端部が締結保持部材16の保持部材20側の面に押し付けられ、かつ、突っ張りボルト23のねじ先端部23dと防着本体部材10の凹部10bの底面との間に所定の隙間が形成されるように、突っ張りボルト23の胴部23b及びねじ部23cの寸法、並びに、防着本体部材10の凹部10b及び締結保持部材16のねじ部16bの寸法が設定されている。
【0077】
そして、このような構成を有する本実施の形態では、防着部材30を組み立てた際に防着本体部材10及び保持部材20を固定する突っ張りボルト23のねじ先端部23dが防着本体部材10の表側面10Fから放電空間9側に露出しないように構成されている。
【0078】
図9(a)(b)は、本例の防着部材における防着本体部材の取付部と保持部材との取付部分を示す図で、
図9(a)は、保持部材の表側面側から見た状態を示す正面図、
図9(b)は、
図9(a)のI-I線断面図である。
【0079】
図9(a)(b)に示すように、本例では、防着本体部材10の表側面10F側から防着本体部材10の取付部5のねじ孔50(
図2(a)参照)を介してボルト24のねじ部24bを保持部材20のねじ穴25のねじ部25aに締結することにより、防着本体部材10を保持部材20に取り付ける。
【0080】
本発明の場合、特に限定されることはないが、防着部材30の必要な強度を確保し、かつ、その反りを確実に防止する観点からは、ボルト24の頭部24aと防着本体部材10の表側面10Fとの間に、若干のクリアランスcを設けることが好ましい。
【0081】
具体的には、ボルト24の頭部24aと防着本体部材10の表側面10Fとの間のクリアランスcを、0.1~1mm程度に設定することが好ましい。
【0082】
以上述べた本実施の形態にあっては、防着本体部材10が、保持部材20の放電空間9側の面と反対側の面から複数の突っ張りボルト23によって固定されるとともに、各突っ張りボルト23は、それぞれのねじ先端部23dが防着本体部材10の放電空間9側の面から放電空間9側に露出しないように構成されていることから、防着本体部材10を保持部材20に保持させるために従来技術のように多数のカバー付きのボルトを用いる必要がない。
【0083】
その結果、本実施の形態によれば、防着部材30の放電空間9側の面の凹凸部を減らしてその表面積を小さくすることができるので、真空処理の際に付着した成膜材料等の防着部材の表面からの剥離に起因するパーティクルの発生を抑制することができる。
【0084】
また、本実施の形態によれば、防着本体部材10と保持部材20とを確実に密着させることができるので、例えば防着部材30を鉛直方向に向けて配置した場合であっても、防着部材30の反りに起因する防着本体部材10と保持部材20との間に隙間を生じさせることがない。
【0085】
また、本実施の形態においては、保持部材20の前記防着本体部材10側の面に、防着本体部材10を冷却する冷却部26が設けられていることから、防着本体部材10と保持部材20とが確実に密着することと相俟って、防着部材30を確実に冷却することができる。その結果、本実施の形態によれば、放電の際の熱による防着部材30の伸びに起因する擦れによるパーティクルの発生を確実に防止することができる。
【0086】
さらに、本実施の形態においては、防着本体部材10の第1~第4構成部材1~4の周縁部に、真空槽6の放電空間9に対向する面側に延びるプラズマ遮蔽壁1c~4cが設けられていることから、防着部材30の放電空間9側の面に付着する成膜材料等の物質の量を更に減少させることができるので、当該物質の防着部材30の表面からの剥離に起因するパーティクルの発生をより抑制することができる。
【0087】
さらにまた、本実施の形態においては、防着本体部材10の第1~第4構成部材1~4の周縁部に、プラズマ遮蔽壁1c~4cから外方側に延びるように、保持部材20に対する取付部5が設けられていることから、ボルト24を用いて放電空間9側から防着本体部材10を保持部材20に取り付けた場合であっても、真空処理の際に生ずる物質が防着本体部材10に設けたプラズマ遮蔽壁1c~4cによって遮られ、防着本体部材10の取付部5への付着を防止することができるので、当該物質の防着部材30の表面からの剥離に起因するパーティクルの発生をより抑制することができる。
【0088】
なお、本発明は上記実施の形態に限られず、種々の変更を行うことができる。例えば、上記実施の形態では、防着本体部材を保持部材に締結する締結部材として突っ張りボルトを用いたが、本発明はこれに限られず、保持部材の放電空間側の面と反対側の面から固定することができ、かつ、それぞれの先端部分が防着本体部材の放電空間側の面から当該放電空間内に露出しないように構成されているものであれば、種々の締結部材を用いて防着本体部材を保持部材に締結することができる。
【0089】
さらに、上記実施の形態はスパッタリング装置に適用した場合を例にとって説明したが、本発明はこれに限られず、種々の真空処理装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0090】
1……第1構成部材
1c…プラズマ遮蔽壁(プラズマ遮蔽用の壁部)
2……第2構成部材
2c…プラズマ遮蔽壁
3……第3構成部材
3c…プラズマ遮蔽壁
4……第4構成部材
4c…プラズマ遮蔽壁
5……取付部
6……真空槽
7……スパッタリングターゲット
8……基板(処理対象物)
10…防着本体部材
11…第1枠部
12…第2枠部
13…第3枠部
14…第4枠部
20…保持部材
21…収容凹部
21h…水平収容凹部
21v…鉛直収容凹部
22…収容孔部
22h…水平孔部
22v…鉛直孔部
23…突っ張りボルト(締結部材)
24…ボルト
25…ねじ穴
26…冷却部
40…スパッタリング装置(真空処理装置)
50…ねじ孔