(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-26
(45)【発行日】2022-06-03
(54)【発明の名称】成膜装置
(51)【国際特許分類】
C23C 14/52 20060101AFI20220527BHJP
H03H 9/19 20060101ALI20220527BHJP
【FI】
C23C14/52
H03H9/19 A
(21)【出願番号】P 2020568564
(86)(22)【出願日】2020-08-06
(86)【国際出願番号】 JP2020030210
(87)【国際公開番号】W WO2021079589
(87)【国際公開日】2021-04-29
【審査請求日】2020-12-09
(31)【優先権主張番号】P 2019192061
(32)【優先日】2019-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】特許業務法人南青山国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100144211
【氏名又は名称】日比野 幸信
(72)【発明者】
【氏名】関根 元気
(72)【発明者】
【氏名】中尾 裕利
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-070238(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1097593(KR,B1)
【文献】特開2016-069694(JP,A)
【文献】国際公開第2015/082022(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第103361606(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/52
H03H 9/19
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器と、
前記真空容器に収容された成膜源と、
前記真空容器に収容され、前記真空容器内の圧力よりも高い圧力に維持することが可能な収容容器と、
前記真空容器に収容され、アームを介して前記収容容器に設置され、共振周波数を有する振動子を含み、前記振動子に前記成膜源から放出する成膜材料が堆積する膜厚センサと、
前記収容容器に収容され、前記成膜材料の堆積による前記
共振周波数の変化に基づいて、前記成膜源からの前記成膜材料の放出量を算出する膜厚コントローラと
、
前記収容容器の内部に配設されるとともに、前記真空容器の内部においては前記アームの内部または外部に引き回され、前記膜厚センサと前記膜厚コントローラとの間のデータ通信を行う配線と、
を具備
し、
前記成膜源は、前記真空容器の内部で前記収容容器に連動して移動する成膜装置。
【請求項2】
請求項1に記載された成膜装置であって、
前記膜厚コントローラが算出する前記放出量に基づいて、前記成膜源から放出する前記成膜材料の
前記放出量を制御する主コントローラをさらに具備する
成膜装置。
【請求項3】
請求項2に記載された成膜装置であって、
互いに連結された複数の配管を有し、隣り合う配管同士が屈曲可能に連結されたリンク配管と、
前記膜厚コントローラと、前記主コントローラとの間を通信させる通信配線と
をさらに具備し、
前記主コントローラは、前記真空容器外に設けられ、
前記リンク配管は、前記真空容器の内部で前記収容容器に連結され、
前記リンク配管の内部に、前記通信配線が配設された
成膜装置。
【請求項4】
請求項3に記載された成膜装置であって、
前記膜厚コントローラと前記主コントローラとが前記通信配線を通じてデジタル通信により通信をする
成膜装置。
【請求項5】
請求項2に記載された成膜装置であって、
前記主コントローラが前記収容容器に収容された
成膜装置。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1つに記載された成膜装置であって、
前記収容容器の圧力が大気圧である
成膜装置。
【請求項7】
請求項
2に記載された成膜装置であって、
前記膜厚コントローラと前記主コントローラとは、前記収容容器の内部にコントローラモジュールとして一体となって構成されている
成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
真空中で基板に形成される膜の蒸着速度を制御する方法の1つに、膜厚モニタを使用する方法がある。例えば、真空容器内で基板の近傍に水晶振動子型の膜厚モニタを設置し、膜厚モニタで検知した値から帰還制御を行って所望の蒸着速度を得る方法である(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、成膜装置に帰還制御を乱す急峻な外的要因が発生した場合、帰還制御が外的要因に追従できず、安定した蒸着速度が得られなくなる場合がある。成膜装置においては、このような外的要因に影響を受けない構成を構築することが望ましい。
【0005】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、蒸着速度をより安定して制御できる、成膜装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る成膜装置は、真空容器と、成膜源と、収容容器と、膜厚センサと、膜厚コントローラとを具備する。
上記成膜源は、上記真空容器に収容される。
上記収容容器は、上記真空容器に収容され、上記真空容器内の圧力よりも高い圧力に維持することができる。
上記膜厚センサは、共振周波数を有する振動子を含み、上記膜厚センサには、上記振動子に上記成膜源から放出する成膜材料が堆積する。
上記膜厚コントローラは、上記収容容器に収容され、上記成膜材料の堆積による上記発振周波数の変化に基づいて、上記成膜源からの上記成膜材料の放出量を算出する。
【0007】
このような成膜装置であれば、膜厚コントローラが真空容器内の収容容器に収容されることから、成膜装置における蒸着速度がより安定して制御される。
【0008】
上記の成膜装置においては、上記膜厚コントローラが算出する上記放出量に基づいて、上記成膜源から放出する上記成膜材料の放出量を制御する主コントローラをさらに具備してもよい。
【0009】
このような成膜装置であれば、主コントローラによって成膜装置における蒸着速度がより安定して制御される。
【0010】
上記の成膜装置においては、互いに連結された複数の配管を有し、隣り合う配管同士が屈曲可能に連結されたリンク配管と、上記膜厚コントローラと、上記主コントローラとの間を通信させる通信配線とをさらに具備してもよい。
上記主コントローラは、上記真空容器外に設けられ、上記リンク配管は、上記真空容器の内部で上記収容容器に連結され、上記リンク配管の内部に、上記通信配線が配設されてもよい。
【0011】
このような成膜装置であれば、リンク配管の内部に、膜厚コントローラと、主コントローラとの間を通信させる通信配線を配設したとしても、成膜装置における蒸着速度がより安定して制御される。
【0012】
上記の成膜装置においては、上記膜厚コントローラと上記主コントローラとが上記通信配線を通じてデジタル通信により通信をしてもよい。
【0013】
このような成膜装置であれば、デジタル通信の利用により成膜装置における蒸着速度がより安定して制御される。
【0014】
上記の成膜装置においては、上記主コントローラが上記収容容器に収容されてもよい。
【0015】
このような成膜装置であれば、主コントローラが収容容器に収容され、成膜装置における蒸着速度がより安定して制御される。
【0016】
上記の成膜装置においては、上記収容容器の圧力が大気圧であってもよい。
【0017】
このような成膜装置であれば、収容容器の圧力が大気圧なので、装置構成が簡便になる。
【0018】
上記の成膜装置においては、上記成膜源は、上記真空容器の内部で上記収容容器に連動して移動してもよい。
【0019】
このような成膜装置であれば、成膜装置の大型化が回避される。
【0020】
上記の成膜装置においては、上記膜厚コントローラと上記主コントローラとは、上記収容容器の内部にコントローラモジュールとして一体となって構成されてもよい。
【0021】
このような成膜装置であれば、成膜装置における蒸着速度がより安定して制御され、収容容器の小型化が実現する。
【発明の効果】
【0022】
以上述べたように、本発明によれば、蒸着速度をより安定して制御できる、成膜装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本実施形態の成膜装置の模式的上面図である。
【
図2】本実施形態の成膜装置の模式的正面図である。
【
図3】本実施形態の成膜装置の模式的上面図である。
【
図4】比較例に係る成膜装置の模式的正面図である。
【
図6】本実施形態の変形例1に係る成膜装置の模式的正面図である。
【
図7】本実施形態の変形例2に係る成膜装置の模式的正面図である。
【
図8】本実施形態の変形例3に係る成膜装置の模式的正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。各図面には、XYZ軸座標が導入される場合がある。また、同一の部材または同一の機能を有する部材には同一の符号を付す場合があり、その部材を説明した後には適宜説明を省略する場合がある。
【0025】
図1は、本実施形態の成膜装置の模式的上面図である。
図2は、本実施形態の成膜装置の模式的正面図である。
図1では、
図2のB1-B2線に沿った断面を矢印方向に見た状態が示され、
図2では、
図1のA1-A2線に沿った断面を矢印方向に見た状態が示されている。また、
図2では、成膜源20が位置する領域の成膜装置1が示されている。
【0026】
図1、2に示す成膜装置1は、真空容器10と、成膜源20と、加熱機構30と、膜厚センサ40と、温度センサ50と、主コントローラ60と、収容容器70と、リンク配管80と、基板支持機構92と、搬送機構95と、搬送機構96と、排気機構98とを具備する。
【0027】
真空容器10は、減圧状態が維持できる容器である。真空容器10は、排気機構98によって、内部の気体が排気される。真空容器10を基板支持機構92から成膜源20に向かう方向(以下、Z軸方向)に目視したときの平面形状は、例えば、矩形状である。
【0028】
真空容器10は、成膜源20、膜厚センサ40、膜厚コントローラ41、温度センサ50、温度コントローラ51、主コントローラ60、収容容器70、リンク配管80、基板支持機構92、及び搬送機構95、96等を収容する。真空容器10には、ガスを供給することが可能なガス供給機構が取り付けられてもよい。また、真空容器10には、その内部の圧力を計測する圧力計が取り付けられてもよい。
【0029】
成膜源20には、成膜材料が充填されている。成膜源20は、成膜材料20mが基板90に向かって蒸発する蒸着源である。成膜源20は、一軸方向(図では、Y軸方向)を長手方向として延在する。成膜源20をZ軸方向から上面視した場合、その外形は、例えば、長方形である。成膜材料20mは、例えば、有機材料、金属等である。
【0030】
成膜源20には、複数の噴出ノズル21が設けられている。複数の噴出ノズル21のそれぞれは、所定の間隔を隔てて、成膜源20の長手方向(X軸方向)に列状に並んでいる。複数の噴出ノズル21のそれぞれからは、成膜材料20mが噴出する。例えば、加熱機構30によって成膜源20が温められると、成膜材料20mの蒸気が噴出ノズル21から基板90に向かって蒸発する。
【0031】
加熱機構30は、成膜源20を加熱する。加熱機構30は、成膜源20の側部に対向する。加熱機構30をZ軸方向から見た場合、加熱機構30は、成膜源20を囲む。加熱機構30は、例えば、誘導加熱方式または抵抗加熱方式の加熱機構である。加熱機構30は、主コントローラ60によって制御される。例えば、主コントローラ60からは加熱機構30にまで配線(導線)602が引き回されている。配線602は、リンク配管80の内部及び収容容器70の内部に配設されている。
【0032】
収容容器70は、金属製であり、真空容器10の内部において、真空容器10内の圧力よりも高い圧力を維持することができる。例えば、収容容器70の内部の圧力は、大気圧である。収容容器70の内部を大気開放することで、収容容器70を真空容器10内で真空排気する排気系が不要になる。
【0033】
収容容器70は、Z軸方向において、成膜源20に並び、例えば、成膜源20の下に設けられている。収容容器70と成膜源20とをZ軸方向に並べることによって、X軸方向またはY軸方向における装置の大型化が抑えられ、コンパクトな構成になる。収容容器70と成膜源20との間には、スペーサ75が設けられている。
【0034】
収容容器70は、一軸方向(図では、Y軸方向)を長手方向として延在する。収容容器70をZ軸方向から上面視した場合、その外形は、例えば、長方形である。
図2の例では、収容容器70は、例えば、膜厚コントローラ41と、温度コントローラ51とを収容している。
【0035】
収容容器70の下には、一対の搬送機構95が設けられている。一対の搬送機構95は、X軸方向に延在する。一対の搬送機構95のそれぞれは、例えば、ローラ機構、牽引機構等の移動機構を備える。これにより、収容容器70は、搬送機構95が延在する方向(X軸方向)にスライド移動する。この結果、成膜源20も真空容器10の内部で収容容器70に連動するように、X軸方向にスライド移動する。つまり、成膜装置1においては、基板10と成膜源20とをX軸方向に相対移動しながら、基板90に成膜材料20mが蒸着される。なお、基板90と成膜源20との間には、成膜材料20mの基板90へ入射を遮蔽するシャッタ機構が設けられてもよい。
【0036】
例えば、
図3は、本実施形態の成膜装置の模式的上面図であり、この
図3には、成膜源20及び収容容器70が
図1の位置とは反対側に移動した後の状態が示されている。
【0037】
また、一対の搬送機構95の下には、一対の搬送機構96が設けられている。一対の搬送機構96は、X軸方向と交差するY軸方向に延在する。一対の搬送機構96のそれぞれは、例えば、ローラ機構、牽引機構等の移動機構を備える。これにより、収容容器70は、X軸方向のほか、搬送機構96が延在する方向(Y軸方向)にスライド移動させることができる。
【0038】
例えば、真空容器10内には、基板90とは別の基板が搬入される領域90aが設けられている。基板90への成膜処理が終了した後には、領域90aにおいて、別の基板に成膜を行うことができる。この場合も、別の基板と成膜源20とがX軸方向に相対移動しながら、この別の基板にも成膜材料20mが蒸着される。
【0039】
リンク配管80は、金属製であり、互いに連結された複数の配管801~805を有する。配管801~805は、この順に互いに連結している。配管801~805の中、アーム状の配管802は、配管801の中心軸を中心に回転可能であり、アーム状の配管802、804のそれぞれは、配管803の中心軸を中心に回転可能であり、アーム状の配管804は、配管805の中心軸を中心に回転可能になっている。また、配管801~805の中、隣り合うアーム状の配管802、804同士は、配管803を介して屈曲可能に連結されている。配管805は、収容容器70の下部に連結されている。
【0040】
例えば、成膜中に、Z軸方向から成膜源20を見た場合(
図1、3)、成膜源20と基板90とがX軸方向に相対移動すると、この移動に応じて、アーム状の配管802と、アーム状の804とが成す角度が変化する。さらに、配管802は、配管801の中心軸を中心に回転し、配管802、804のそれぞれは、配管803の中心軸を中心に回転し、配管804は、配管805の中心軸を中心に回転する。
【0041】
成膜装置1は、リンク配管80を駆動する駆動系を有さず、リンク配管80は、成膜源20及び収容容器70のスライド移動に応じて受動的に駆動する。あるいは、成膜装置1にリンク配管80を強制的に駆動する駆動系を付設させ、リンク配管80の駆動により、成膜源20及び収容容器70をX軸方向またはY軸方向に移動させてもよい。この場合、搬送機構95、96は、収容容器70をスライドするレールとして機能する。
【0042】
配管801の内部は、真空容器10の開口10hを介して、例えば、大気開放されている。これにより、配管801に連結する配管802~805のそれぞれも大気開放されている。さらに、リンク配管80は、真空容器10の内部で収容容器70に連結されていることから、リンク配管80に連結された収容容器70も大気開放されている。
【0043】
膜厚センサ40は、共振周波数(f0:基本周波数)を有する水晶振動子を含む。膜厚センサ40は、アーム401を介して、収容容器70に設置されている。膜厚センサ40は、基板90と成膜源20との間を回避するように、例えば、成膜源20よりも上の位置に設けられる。水晶振動子には、成膜源20から放出する成膜材料20mが堆積する。これにより、膜付きの水晶振動子の共振周波数は、f0から変化する。水晶振動子は、1個に限らず、複数配置されてもよい。この場合、膜厚センサ40には、複数の水晶振動子の中から特定の水晶振動子を選択するチョッパ(シャッター)が取り付けられてもよい。
【0044】
膜厚コントローラ41は、いわゆる膜厚モニタである。膜厚コントローラ41は、膜が堆積することによる水晶振動子の発振周波数(f0)の変化に基づいて、成膜源20からの成膜材料20mの放出量を算出する。ここで、放出量とは、例えば、基板90に堆積する膜の成膜速度、基板90に堆積した膜の厚み等が該当する。
【0045】
膜厚コントローラ41が算出した基板90に堆積する膜の成膜速度、膜厚は、主コントローラ60に送信される。膜厚センサ40と膜厚コントローラ41との間のデータ通信は、例えば、収容容器70の内部に配設された配線411を通じて行われる。さらに、膜厚コントローラ41と、主コントローラ60との間のデータ通信は、例えば、リンク配管80の内部及び収容容器70の内部に配設された配線(通信配線)601を通じて行われる。
【0046】
アーム401は、膜厚センサ40に冷却水を循環させる冷却機構を有してもよい。これにより、水晶振動子が加熱機構30からの熱輻射の影響を受けにくくなる。配線411は、アーム401の内部に引き回されてもよく、アーム401の外部に引き回されてもよい。配線411がアーム401の外部に引き回された場合、配線411及びアーム401を囲むシールド箔(例えば、アルミニウム箔)がアーム401の外部に設けられてもよい。
【0047】
温度センサ50は、いわゆる熱電対である。ゼーベック効果によって熱電対に生じた起電力は、温度コントローラ51によって温度に変換され、成膜源20の温度が測定される。温度コントローラ51が算出した成膜源20の温度は、主コントローラ60に送信される。温度コントローラ51と主コントローラ60との間のデータ通信は、例えば、リンク配管80の内部及び収容容器70の内部に配設された配線(通信配線)603を通じて行われる。
【0048】
主コントローラ60は、真空容器10外に設けられる。主コントローラ60は、膜厚コントローラ41が算出する成膜材料20mの放出量に基づいて、成膜源20から放出する成膜材料20mの放出量を制御する。
【0049】
なお、リンク配管80の内部には、配線601~603以外にも、例えば、図示はされていないが、搬送機構95、96を駆動するためのモータに電力を供給する配線、膜厚センサ40に電力を供給したり、膜厚センサ40から信号を受けたりする配線、チョッパを駆動するモータに電力を供給する配線、シャッタ機構を駆動するモータに電力を供給する配線等を引き回すことも可能である。さらに、リンク配管80の内部には、水冷管、圧空管等を配置してもよい。
【0050】
図4は、比較例に係る成膜装置の模式的正面図である。
【0051】
比較例では、膜厚コントローラ41が収容容器70の内部ではなく、真空容器10の外側に設けられている。また、膜厚コントローラ41と膜厚センサ40とを繋ぐ配線411は、リンク配管80の内部に引き回されている。このようなリンク配管80に引き回された配線は、その長さが数m~10mに及ぶ場合がある。
【0052】
配線411には、膜付きの水晶振動子の共振周波数に共鳴させるための高周波電圧が重畳される。また、この高周波電圧は、アナログ量である。このため、配線411の長さが長くなるほど、配線411が外的要因(ノイズ)の影響を受けやすくなる。これは、リンク配管80の内部に配線411以外の配線が複数引き回されていることに起因する。
【0053】
また、成膜装置の作動中には、リンク配管80が屈曲したり、X軸方向に振動したりする。これにより、高周波電圧にとっては、配線411のインピーダンスが一定にならない場合がある。
【0054】
例えば、
図5は、成膜源の帰還制御の一例を示す図である。
【0055】
図中のSV rateは、蒸着速度の目的値(設定値)であり、MV rateは、成膜速度の制御値であり、PV rateは、成膜速度の測定値である。P1は、例えば、外的要因としてのノイズが発生した場合、ノイズが配線411に重畳する合流点を示す。
【0056】
成膜速度の目的値(SVrate)が設定されると、加熱機構30に目的値(SVrate)が制御信号(MVrate)として送られ、制御信号に基づいて加熱機構30が加熱される。そして、加熱機構30から受けた熱量によって成膜源20が加熱される。また、成膜源20から放出された成膜材料20mは、水晶振動子に堆積し、膜厚センサ40から信号を得た膜厚コントローラ41は、成膜速度(PVrate)を算出する。
【0057】
この際、目的値(SVrate)と成膜速度(PVrate)とに差が生じた場合は、PID(Proportional Integral Differential)制御によって、制御信号(MVrate)が目的値(SVrate)に漸近するように補正される。これらの帰還制御は、主コントローラ60により行われる。
【0058】
しかし、比較例のように、成膜装置の作動中に配線411に他の配線からのノイズが重畳したり、配線411のインピーダンスが変動したりすると、膜厚コントローラ41が算出する成膜速度(PVrate)が変動する可能性がある。この結果、PID制御された制御信号(MVrate)も変動し、結局のところ、成膜源20から放出される成膜材料20mの放出量を精度よく制御されない状況が起きてしまう。
【0059】
これに対して、本実施形態の成膜装置1では、膜厚コントローラ41が収容容器70の内部に配置されているため、配線411がリンク配管80の内部に引き回されていない。この結果、成膜装置の作動中には配線411にノイズが重畳しにくく、または、配線411のインピーダンスが変動しにくくなる。これにより、膜厚コントローラ41が算出する成膜速度(PVrate)が安定し、PID制御された制御信号(MVrate)が安定する。この結果、成膜源20から放出される成膜材料20mの放出量は、主コントローラ60によって精度よく制御される。
【0060】
また、成膜装置1では、温度コントローラ51が収容容器70に収容されているため、熱電対がリンク配管80の内部に引き回されていない。この結果、成膜装置の作動中には熱電対にノイズが重畳しにくくなる。これにより、熱電対に生じる起電力が安定し、成膜源20の温度を精度よく計測することができる。これは、温度を目的値(SVrate)とする帰還制御に有効に働く。
【0061】
また、膜厚コントローラ41と主コントローラ60との配線601を通じての通信は、デジタル通信により行ってもよい。また、温度コントローラ51と主コントローラ60との配線603を通じて通信は、デジタル通信によりにより行ってもよい。これにより、配線601または配線603がリンク配管80に引き回されたとしても、膜厚コントローラ41と主コントローラ60との間の通信、または、温度コントローラ51と主コントローラ60との間の通信は、ノイズの影響を受けにくく、成膜源20から放出される成膜材料20mの放出量がより精度よく制御される。
【0062】
また、真空容器10の内部に収容容器70を配置しても、収容容器70は、成膜源20の下方に置かれ、収容容器70が成膜源20と連動するよう構成されている。このため、成膜装置の大型化が回避され、コンパクトな構成になる。
【0063】
(変形例1)
【0064】
図6は、本実施形態の変形例1に係る成膜装置の模式的正面図である。
【0065】
成膜装置2においては、主コントローラ60が収容容器70に収容されている。配線601、603についても収容容器70に収容されている。
【0066】
このような構成あれば、配線601、603は、リンク配管80に引き回す必要がなくなり、さらに、配線601、603の長さがより短くなるため、膜厚コントローラ41と主コントローラ60との間の通信、または、温度コントローラ51と主コントローラ60との間の通信がよりノイズの影響を受けにくくなる。この結果、成膜源20から放出される成膜材料20mの放出量は、より精度よく制御される。
【0067】
(変形例2)
【0068】
図7は、本実施形態の変形例2に係る成膜装置の模式的正面図である。
【0069】
成膜装置3においては、膜厚コントローラ41が膜厚コントローラユニット41u、主コントローラ60が主コントローラユニット60u、温度コントローラ51が温度コントローラユニット51uとして、それぞれの回路ユニットが一体となったコントローラモジュール71が収容容器70の内部に配置されている。
【0070】
コントローラモジュール71は、膜厚コントローラユニット41u、主コントローラユニット60u、及び温度コントローラユニット51uのそれぞれの回路ユニットがマザーボード上に集約された回路基板である。
【0071】
このような構成によれば、配線601、603は、マザーボード内でラインパターンとして形成される。さらに、コントローラモジュール71の外周が収容容器70で囲まれていることから、コントローラモジュール71は、収容容器70のシールド効果によって収容容器70外からのノイズの影響を受けにくくなる。さらには、コントローラモジュール71は回路基板であることから、それを収容する収容容器70の小型化を図ることができる。
【0072】
(変形例3)
【0073】
図8は、本実施形態の変形例3に係る成膜装置の模式的正面図である。
【0074】
成膜装置4においては、膜厚コントローラ41が膜厚センサ40に隣接するように配置される。例えば、膜厚コントローラ41は、膜厚センサ40の下方に設けられた収容容器73に収容されている。収容容器73は、例えば、アーム401の内部に設けられた通路(不図示)を通じて収容容器70に連通し、収容容器70と同じ圧力(例えば、大気圧)になっている。すなわち、収容容器70、73で、真空容器10よりも圧力が高い収容容器を構成される。
【0075】
このような構成によれば、配線411がさらに短くなり、または、膜厚センサ40を膜厚コントローラ41に直接的に付設させた場合には、配線411を略すことができる。これにより、配線411は、配線411外からのノイズの影響を受けにくくなり、成膜源20から放出される成膜材料20mの放出量がより精度よく制御される。なお、成膜装置4において、配線601をデジタル配線としてもよい。
【0076】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、成膜装置1、2、3は、蒸着装置に限らず、スパッタリング装置、CVD装置にも適用され得る。各実施形態は、独立の形態とは限らず、技術的に可能な限り複合することができる。
【符号の説明】
【0077】
1、2、3、4…成膜装置
10…真空容器
10h…開口
10…基板
20…成膜源
20m…成膜材料
21…噴出ノズル
30…加熱機構
40…膜厚センサ
41…膜厚コントローラ
41u…膜厚コントローラユニット
50…温度センサ
51…温度コントローラ
51u…温度コントローラユニット
60…主コントローラ
60u…主コントローラユニット
70、73…収容容器
71…コントローラモジュール
75…スペーサ
80…リンク配管
90…基板
90a…領域
92…基板支持機構
95、96…搬送機構
98…排気機構
401…アーム
411…配線
601、602、603…配線
801、802、803、804、805…配管