(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-27
(45)【発行日】2022-06-06
(54)【発明の名称】化合物
(51)【国際特許分類】
C08G 77/388 20060101AFI20220530BHJP
C08G 73/06 20060101ALI20220530BHJP
C08G 77/26 20060101ALI20220530BHJP
C08L 83/08 20060101ALI20220530BHJP
【FI】
C08G77/388
C08G73/06
C08G77/26
C08L83/08
(21)【出願番号】P 2019519697
(86)(22)【出願日】2017-10-31
(86)【国際出願番号】 KR2017012138
(87)【国際公開番号】W WO2018097496
(87)【国際公開日】2018-05-31
【審査請求日】2019-04-11
(31)【優先権主張番号】10-2016-0158399
(32)【優先日】2016-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】スン・ヒ・イ
(72)【発明者】
【氏名】サン・ウ・キム
(72)【発明者】
【氏名】キ・ホ・アン
(72)【発明者】
【氏名】ユリアナ・キム
【審査官】前田 孝泰
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-517618(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 77/00- 77/62
C07F 7/02- 7/21
C08G 73/00- 73/26
C08L 1/00-101/16
C09D 1/00-201/10
C09J 1/00-201/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1の平均組成式で表示され、重量平均分子量が1,000~50,000の範囲内であり、下記化学式3の置換基
が結合している下記化学式2の置換基を少なくとも1個以上有する化合物:
[化学式1]
[R
1R
2
2SiO
1/2]
a[R
1R
2SiO
2/2]
b[R
2
2SiO
2/2]
c[R
1SiO
3/2]
d[R
2SiO
3/2]
e[SiO
4/2]
f
化学式1でR
1は、下記化学式2の置換基であり、R
2は、水素原子、アルキル基、アルケニル基またはアルコキシ基であり、a、bおよびcは、正の数であり、d、eおよびfは、0または正の数であり、(b+d)/(b+c+d+e)は、0.05~0.35であり、b/(b+c)は、0.05~0.35であり、(b+c)/(a+b+c+d+e+f)は、0.5以上1未満であり、a+b+c+d+e+fは、1である:
【化1】
化学式2でXは、単結合、酸素原子、硫黄原子、-S(=O)
2-、カルボニル基、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、-C(=O)-X
1-またはX
1-C(=O)-であり、前記X
1は、酸素原子、硫黄原子、-S(=O)
2-、アルキレン基、アルケニレン基またはアルキニレン基であり、R
1~R
5は、それぞれ独立して、水素、アルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシ基または下記化学式3の置換基であ
り、且つ、R
1
~R
5
のうち少なくとも1個はヒドロキシ基または下記化学式3の置換基である:
【化2】
化学式3でYは
、酸素原
子であり
、R
6~R
10は、それぞれ独立して、水素、アルキル基、アルコキシ基、またはシアノ基であり、且つ、R
6~R
10のうち少なくとも2個は、シアノ基である。
【請求項2】
化学式1の平均組成式で表示される化合物が下記化学式4で表される、請求項1に記載の化合物:
【化3】
化学式4でnは、2~80の範囲内の数であり、mは、1~80の範囲内の数であり、m+nは、3~100であり、R
1およびR
2は、請求項1に記載の化学式1で定義された通りである。
【請求項3】
融点が常温未満である、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
下記化学式1の平均組成で表され、
重量平均分子量が1,000~50,000の範囲内であり、下記化学式3の置換基
が結合している下記化学式2の置換基を少なくとも1個以上有する化合物由来の重合単位を含むフタロニトリル樹脂:
[化学式1]
[R
1R
2
2SiO
1/2]
a[R
1R
2SiO
2/2]
b[R
2
2SiO
2/2]
c[R
1SiO
3/2]
d[R
2SiO
3/2]
e[SiO
4/2]
f
化学式1でR
1は、下記化学式2の置換基であり、R
2は、水素原子、アルキル基、アルケニル基またはアルコキシ基であり、a、bおよびcは、正の数であり、d、eおよびfは、0または正の数であり、(b+d)/(b+c+d+e)は、0.05~0.35であり、b/(b+c)は、0.05~0.35であり、(b+c)/(a+b+c+d+e+f)は、0.5以上1未満であり、a+b+c+d+e+fは、1である:
【化4】
化学式2でXは、単結合、酸素原子、硫黄原子、-S(=O)
2-、カルボニル基、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、-C(=O)-X
1-またはX
1-C(=O)-であり、前記X
1は、酸素原子、硫黄原子、-S(=O)
2-、アルキレン基、アルケニレン基またはアルキニレン基であり、R
1~R
5は、それぞれ独立して、水素、アルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシ基または下記化学式3の置換基であ
り、且つ、R
1
~R
5
のうち少なくとも1個はヒドロキシ基または下記化学式3の置換基である:
【化5】
化学式3でYは
、酸素原
子であり
、R
6~R
10は、それぞれ独立して、水素、アルキル基、アルコキシ基、またはシアノ基であり、且つ、R
6~R
10のうち少なくとも2個は、シアノ基である。
【請求項5】
化学式1の平均組成を有する化合物が下記化学式4で表される、請求項4に記載のフタロニトリル樹脂:
【化6】
化学式4でnは、2~80の範囲内の数であり、mは、1~80の範囲内の数であり、m+nは、3~100であり、R
1およびR
2は、請求項4に記載の化学式1で定義された通りである。
【請求項6】
化学式1の平均組成で表される化合物とは異なる構造を有するフタロニトリル化合物由来の重合単位をさらに含む、請求項4に記載のフタロニトリル樹脂。
【請求項7】
芳香族アミン化合物の重合単位をさらに含む、請求項4に記載のフタロニトリル樹脂。
【請求項8】
下記化学式1の平均組成を有し、
重量平均分子量が1,000~50,000の範囲内であり、下記化学式3の置換基
が結合している下記化学式2の置換基を少なくとも1個以上有する化合物および硬化剤を含む重合性組成物:
[化学式1]
[R
1R
2
2SiO
1/2]
a[R
1R
2SiO
2/2]
b[R
2
2SiO
2/2]
c[R
1SiO
3/2]
d[R
2SiO
3/2]
e[SiO
4/2]
f
化学式1でR
1は、下記化学式2の置換基であり、R
2は、水素原子、アルキル基、アルケニル基またはアルコキシ基であり、a、bおよびcは、正の数であり、d、eおよびfは、0または正の数であり、(b+d)/(b+c+d+e)は、0.05~0.35であり、b/(b+c)は、0.05~0.35であり、(b+c)/(a+b+c+d+e+f)は、0.5以上1未満であり、a+b+c+d+e+fは、1である:
【化7】
化学式2でXは、単結合、酸素原子、硫黄原子、-S(=O)
2-、カルボニル基、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、-C(=O)-X
1-またはX
1-C(=O)-であり、前記X
1は、酸素原子、硫黄原子、-S(=O)
2-、アルキレン基、アルケニレン基またはアルキニレン基であり、R
1~R
5は、それぞれ独立して、水素、アルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシ基または下記化学式3の置換基であ
り、且つ、R
1
~R
5
のうち少なくとも1個はヒドロキシ基または下記化学式3の置換基である:
【化8】
化学式3でYは
、酸素原
子であり
、R
6~R
10は、それぞれ独立して、水素、アルキル基、アルコキシ基、またはシアノ基であり、且つ、R
6~R
10のうち少なくとも2個は、シアノ基である。
【請求項9】
化学式1の平均組成を有する化合物が下記化学式4で表される、請求項8に記載の重合性組成物:
【化9】
化学式4でnは、2~80の範囲内の数であり、mは、1~80の範囲内の数であり、m+nは、3~100であり、R
1およびR
2は、請求項8に記載の化学式1で定義された通りである。
【請求項10】
化学式1の平均組成で表される化合物とは異なる構造を有するフタロニトリル化合物をさらに含む、請求項8に記載の重合性組成物。
【請求項11】
硬化剤は、芳香族アミン化合物、フェノール化合物、無機酸、有機酸、金属または金属塩である、請求項8に記載の重合性組成物。
【請求項12】
請求項4に記載のフタロニトリル樹脂と、充填剤とを含む複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、化合物、フタロニトリル樹脂、重合性組成物、プレポリマー、複合体、その製造方法および用途に関する。
【背景技術】
【0002】
関連出願との相互引用
本出願は、2016年11月25日付けの韓国特許出願第10-2016-0158399号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示されたすべての内容は、本明細書の一部として含まれる。
【0003】
背景技術
フタロニトリル樹脂は、多様な用途に使用され得る。例えば、フタロニトリル樹脂をガラス繊維や炭素繊維などのような充填剤に含浸させて形成される複合体(composite)は、自動車、飛行機または船舶などの素材に使用され得る。前記複合体の製造過程は、例えば、フタロニトリルと硬化剤の混合物または該混合物の反応により形成されるプレポリマーと充填剤を混合した後に硬化させる過程を含むことができる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本出願は、化合物、フタロニトリル樹脂、重合性組成物、プレポリマー、複合体、その製造方法および用途を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本出願で用語「アルキル基またはアルコキシ基」は、特に別途規定しない限り、炭素数1~20、炭素数1~16、炭素数1~12、炭素数1~8または炭素数1~4のアルキル基またはアルコキシ基であり得る。前記アルキル基またはアルコキシ基は、直鎖状、分岐鎖状または環状であってもよく、必要な場合に一つ以上の置換基により置換されていてもよい。また、本出願で用語「アルキル基の範囲」には、後述するハロアルキル基も含まれ得る。
【0007】
本出願で用語「アルケニル基またはアルキニル基」は、特に別途規定しない限り、炭素数2~20、炭素数2~16、炭素数2~12、炭素数2~8または炭素数2~4のアルケニル基またはアルキニル基であり得る。前記アルケニル基またはアルキニル基は、直鎖状、分岐鎖状または環状であってもよく、必要な場合に一つ以上の置換基により置換されていてもよい。
【0008】
本出願で用語「アリール基」は、特に別途規定しない限り、ベンゼン、ベンゼン構造を含む化合物または前記のうちいずれか一つの誘導体に由来する1価残基を意味する。アリール基は、例えば、6個~25個、6個~20個、6個~15個または6個~12個の炭素原子を含むことができる。アリール基の具体的な種類としては、フェニル基、ベンジル基、ビフェニル基またはナフタレニル基などが例示できるが、これに限らない。また、本出願でアリール基の範疇には、通常アリール基と呼ばれる官能基はもちろん、いわゆるアラルキル基またはアリールアルキル基なども含まれ得る。
【0009】
本出願で用語「単結合」は、当該部位に原子が存在しない場合を意味する。例えば、X-Y-Zの構造においてYが単結合である場合に、XおよびZは直接連結されてX-Zの構造を形成する。
【0010】
本出願で用語「アルキレン基またはアルキリデン基」は、特に別途規定しない限り、炭素数1~20、炭素数1~16、炭素数1~12、炭素数1~8または炭素数1~4のアルキレン基またはアルキリデン基を意味する。前記アルキレン基またはアルキリデン基は、直鎖状、分岐鎖状または環状であってもよい。また、前記アルキレン基またはアルキリデン基は、任意に一つ以上の置換基で置換されていてもよい。
【0011】
本出願で用語「アルケニル基またはアルキニレン基」は、特に別途規定しない限り、炭素数2~20、炭素数2~16、炭素数2~12、炭素数2~8または炭素数2~4のアルケニル基またはアルキニレン基を意味する。前記アルケニル基またはアルキニレン基は、直鎖状、分岐鎖状または環状であってもよい。また、前記アルケニル基またはアルキニレン基は、任意に一つ以上の置換基で置換されていてもよい。
【0012】
本出願で前記アルキル基などに任意に置換されていてもよい置換基としては、塩素またはフッ素などのハロゲン、ハロアルキル基、グリシジル基、グリシジルアルキル基、グリシドキシアルキル基または脂環式エポキシ基などのエポキシ基、アクリロイル基、メタクリロイル基、イソシアネート基、チオール基、アルキル基、アルコキシ基またはアリール基などが例示できるが、これに限らない。
【0013】
本出願は、フタロニトリル化合物に関する。本出願の化合物は、高分子またはオリゴマーであるシロキサン骨格に少なくとも1個または2個以上のフタロニトリル基が結合された形態を有し、特に前記高分子またはオリゴマーであるシロキサン骨格の主鎖に少なくとも1個または2個以上のフタロニトリル基が結合された形態を有する。
【0014】
本出願の化合物は、前記のようなシロキサン骨格により低い融点を有する。したがって、前記化合物は、単独でまたは高い融点を有し、加工性が良くないフタロニトリル単量体とブレンドされて、加工性に優れたフタロニトリル樹脂またはそのプレポリマーを形成できる。また、前記化合物は、前記シロキサン骨格により他のフタロニトリル単量体との混溶性および硬化密度を高めることができる。また、前記化合物は、前記シロキサン骨格により優れた柔軟性および耐熱性を有する。これにより、前記化合物は、既存のフタロニトリル樹脂の短所である不十分な衝撃強度、特に低温における衝撃強度を改善させることができる。前記化合物を単独で使用したり、ブレンド内に適正量含ませる場合に、液状のフタロニトリル樹脂またはそのプレポリマーの製造が可能である。このような化合物は、フタロニトリル樹脂の応用度をきわめて高めることができ、例えば、前記のような特性によってフタロニトリル樹脂が高耐熱グリースまたはシーリング材料などに応用され得、ラバー(rubber)形態で製作されたり、エポキシなど適切な添加剤と混合されて、接着剤などに活用され得る。
【0015】
このような本出願の化合物は、下記化学式1の平均組成式で表示され得る。本明細書で化合物が特定の平均組成式で表示されるというのは、当該化合物が平均組成式で表示される単一の化合物であることを意味することはもちろんであり、2個以上の化合物の混合物でありながら、前記混合物の成分の組成の平均を取ると、その平均組成式で示されることを意味する。
【0016】
[化学式1]
[R1R2
2SiO1/2]a[R1R2SiO2/2]b[R2
2SiO2/2]c[R1SiO3/2]d[R2SiO3/2]e[SiO4/2]f
【0017】
化学式1でR1は、後述する化学式2の置換基であり、R2は、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基またはアルコキシ基であり、a、bおよびcは、正の数であり、d、eおよびfは、0または正の数であり、a+b+c+d+e+fは、1である。
【0018】
化学式1でR2は、他の例として、水素原子、アルキル基またはアリール基であり得る。
【0019】
また、化学式1で(b+d)/(b+c+d+e)は、0.05~0.35、0.10~0.30または0.10~0.20の範囲内であってもよく、b/(b+c)は、0.05~0.35、0.10~0.30または0.10~0.20の範囲内であってもよく、(b+c)/(a+b+c+d+e+f)は、0.5~1、0.6~1または078~1であってもよい。
【0020】
一例として、d、eおよびfが0であり得る。d、eおよびfが0である場合、化学式1の平均組成式で表示される化合物が線状構造を有するようになり、それから製造されたフタロニトリル樹脂が低い摩擦特性を有し得る。
【0021】
化学式1でR1は、下記化学式2の置換基であり得る。下記化学式2でXが化学式1のケイ素原子に連結され得る。
【0022】
【0023】
化学式2でXは、単結合、酸素原子、硫黄原子、-S(=O)2-、カルボニル基、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、-C(=O)-X1-またはX1-C(=O)-であり、前記X1は、酸素原子、硫黄原子、-S(=O)2-、アルキレン基、アルケニレン基またはアルキニレン基である。また、R1~R5は、それぞれ独立して、水素、アルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシ基または下記化学式3の置換基である。
【0024】
前記化学式3の置換基は、化学式2のXを基準としてオルト、メタまたはパラ位置に存在し得る。
【0025】
【0026】
化学式3でYは、単結合、酸素原子、硫黄原子、-S(=O)2-、カルボニル基、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、-C(=O)-X2-またはX2-C(=O)-であり、前記X2は、酸素原子、硫黄原子、-S(=O)2-、アルキレン基、アルケニレン基またはアルキニレン基であり、R6~R10は、それぞれ独立して、水素、アルキル基、アルコキシ基、またはシアノ基であり、且つ、R6~R10のうち2個以上または2個は、シアノ基である。
【0027】
化学式3でR6~R10のうち2個以上のシアノ基は、化学式3のYを基準としてそれぞれオルト、メタまたはパラ位置に存在し得る。一例として、R6~R10のうち2個がシアノ基であってもよく、化学式3のYを基準としてそれぞれメタまたはパラ位置であり、互いにオルトである位置に存在し得る。
【0028】
化学式2および3でXおよびYは、それぞれ独立して、アルキレン基、アルキリデン基、酸素原子または硫黄原子であってもよく、適切な例としては、アルキレン基、アルキリデン基または酸素原子;または酸素原子が挙げられるが、これに限らない。
【0029】
化学式2でR1~R5は、それぞれ独立して、水素、アルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシ基または前記化学式3の置換基であり、且つ、R1~R5のうち少なくとも1個または1個は、前記化学式3の置換基である。化学式3の置換基でないR1~R5の適切な例としては、水素、アルキル基またはアルコキシ基;または水素またはアルキル基が挙げられるが、これに限らない。
【0030】
化学式3でR6~R10は、それぞれ独立して、水素、アルキル基、アルコキシ基、またはシアノ基であり、且つ、R6~R10のうち少なくとも2個は、シアノ基である。シアノ基でないR6~R10の適切な例としては、水素、アルキル基またはアルコキシ基;または水素またはアルキル基が挙げられるが、これに限らない。
【0031】
前記化学式1の平均組成式で表示される化合物は、前記化学式3の置換基を少なくとも1個以上有するので、フタロニトリル樹脂やその複合体を製造する用途に適用され得る。
【0032】
前記化学式1の化合物は、高分子またはオリゴマー形態の化合物であり、例えば、その重量平均分子量(Mw)が1,000~50,000、2,500~35,000、4,000~20,000または6,000~9,000の範囲内にあり得る。本明細書で用語「重量平均分子量」は、GPC(Gel Permeation Chromatograph)を使用して測定した標準ポリスチレンに対する換算数値であり、本明細書で用語「分子量」は、特に別途規定しない限り、重量平均分子量を意味する。
【0033】
化学式1の平均組成の化合物は、一例として下記化学式4で表され得る。
【0034】
【0035】
前記化学式4でnは、1~100の範囲内の数であり、mは、1~100の範囲内の数であり、m+nは、2~100であり、R1およびR2は、それぞれ、前記化学式1でR1およびR2に対して定義されたことと同一である。
【0036】
一例として、化学式4のm+nは、2~100、2~80または2~50である。m+nが前記範囲を満たす場合、加工性に優れた重合性組成物を提供できる化合物を製造することができる。
【0037】
前記化学式4でnおよびmは、m+nが前述した範囲を満たす限り、特に限定されるものではないが、一例として、nは、1~100、1~80または1~50であり得、mは、1~100、1~80または1~50であり得る。
【0038】
前記化合物は、常温で液状で存在し得る。したがって、前記化合物は、その融点が常温未満であり得る。本出願における用語「常温」は、加温されたり減温されない自然そのままの温度であり、例えば、約10℃~30℃、約15℃~30℃、約20℃~30℃、25℃または23℃程度の温度を意味する。前記化合物の融点は、例えば、-20℃~25℃の範囲内であり得る。
【0039】
前記化合物は、低い融点と優れた柔軟性および耐熱性を示すことで、フタロニトリル樹脂またはそのプレポリマーの製造に適用される場合に、前記フタロニトリル樹脂の加工性と衝撃強度などの短所を改善させることができ、液状の樹脂またはそのプレポリマー、ラバー形態の樹脂またはそのプレポリマーを形成したり、高温のグリース、シーリング材料または接着剤などの多様な用途に活用され得る。
【0040】
前記化合物は、いわゆるフタロニトリル化合物が適用され得るものと公知となっている多様な用途に効果的に使用され得る。例えば、前記フタロニトリル化合物は、いわゆるフタロニトリル樹脂を製造できる原料乃至前駆体として効果的に使用され得る。前記化合物は、前記用途の他にも、フタロシアニン染料などのような染料の前駆体、蛍光増白剤、写真増感剤または酸無水物の前駆体乃至原料などに適用され得る。前記化合物は、公知の有機化合物の合成法により合成し得る。
【0041】
また、本出願は、前記化合物の用途に関する。前記化合物の用途としては、前述したように、フタロニトリル樹脂、フタロシアニン染料、蛍光増白剤、写真増感剤または酸無水物の原料乃至前駆体が例示できる。前記用途の一例として、例えば、本出願は、フタロニトリル樹脂に関する。前記フタロニトリル樹脂は、前記化学式1の平均組成の化合物または化学式4の化合物由来の重合単位を含むことができる。本出願で用語「所定の化合物由来の重合単位」は、その化合物の重合乃至硬化により形成されたポリマーの骨格を意味する。
【0042】
前記フタロニトリル樹脂は、前記化合物の重合単位にさらに他のフタロニトリル化合物、すなわち前記化合物とは異なる化学構造を有するフタロニトリル化合物の重合単位を含むこともできる。このような場合に選択および使用され得るフタロニトリル化合物の種類は、特に限定されず、フタロニトリル樹脂の形成およびその物性の調節に有用なものと知られている化合物が適用され得る。このような化合物の例としては、米国特許第4,408,035号、米国特許第5,003,039号、米国特許第5,003,078号、米国特許第5,004,801号、米国特許第5,132,396号、米国特許第5,139,054号、米国特許第5,208,318号、米国特許第5,237,045号、米国特許第5,292,854号または米国特許第5,350,828号などに公知となっている化合物が例示できるが、これに限らない。
【0043】
フタロニトリル樹脂において前記化合物にさらに重合単位として含まれ得るフタロニトリル化合物としては、下記化学式5で表される化合物が例示できるが、これに限らない。
【0044】
【0045】
化学式5でR11~R16は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリール基、下記化学式6または7の置換基である。化学式5でR11~R16のうち少なくとも2個、または2個~3個は、下記化学式6または7の置換基であり得る。
【0046】
化学式5で少なくとも2個または2個~3個存在する前記化学式6または7の置換基は、相互に対してオルト、メタまたはパラ位置に存在し得る。
【0047】
【0048】
化学式6でL1は、単結合、酸素原子、硫黄原子、-S(=O)2-、カルボニル基、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、-C(=O)-X3-またはX3-C(=O)-であり、前記X3は、酸素原子、硫黄原子、-S(=O)2-、アルキレン基、アルケニレン基またはアルキニレン基であり、R17およびR21は、それぞれ独立して、水素、アルキル基、アルコキシ基、アリール基またはシアノ基であり、且つ、R17~R21のうち2個以上または2個は、シアノ基である。化学式6で少なくとも2個存在するシアノ基は、相互に対してオルト、メタまたはパラ位置に存在し得る。一例として、化学式6で2個のシアノ基が存在し得、それぞれのシアノ基は、L1に対してメタまたはパラであり、互いにオルトである位置に存在し得る。
【0049】
【0050】
化学式7でL2は、単結合、酸素原子、硫黄原子、-S(=O)2-、カルボニル基、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、-C(=O)-X4-またはX4-C(=O)-であり、前記X4は、酸素原子、硫黄原子、-S(=O)2-、アルキレン基、アルケニレン基またはアルキニレン基であり、R22およびR26は、それぞれ独立して、水素、アルキル基、アルコキシ基、アリール基または前記化学式6の置換基であり、且つ、R22~R26のうち1個以上または1個は、前記化学式6の置換基である。化学式7で少なくとも1個存在する前記化学式6の置換基は、L2を基準としてオルト、メタまたはパラ位置に存在し得る。
【0051】
フタロニトリル樹脂において前記化学式1または4の化合物の重合単位は、前記化合物と硬化剤の反応により形成される重合単位であり得る。このような場合に使用され得る硬化剤の種類は、化学式1または4の化合物と反応して高分子を形成できるものであれば、特に限定されず、例えば、いわゆるフタロニトリル樹脂の形成に有用なものと知られている化合物であれば、いずれの化合物も使用できる。このような硬化剤は、前記に記述した米国特許を含む多様な文献に知られている。
【0052】
一例としては、硬化剤として芳香族アミン化合物のようなアミン化合物またはヒドロキシ化合物が使用できる。本出願でヒドロキシ化合物は、分子内に少なくとも一つまたは二つのヒドロキシ基を含む化合物を意味する。フタロニトリル化合物を硬化させて樹脂を形成できる硬化剤は、多様に公知となっており、このような硬化剤は、本出願で大部分適用され得る。
【0053】
一例として、硬化剤としては、下記化学式8の化合物が使用され得る。
【0054】
【0055】
化学式8でR27~R32は、それぞれ独立して、水素、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アミン基または下記化学式9の置換基であり、但し、R27~R32のうち2個以上は、アミン基または下記化学式9の置換基である。
【0056】
【0057】
化学式9でL3は、アルキレン基、アルキリデン基、酸素原子または硫黄原子であり、R33~R37は、水素、アルキル基、アルコキシ基、アリール基またはアミン基であり、且つ、R33~R37のうち少なくとも一つは、アミン基である。
【0058】
化学式9の置換基が存在する場合、前記構造でL3が化学式8のベンゼン環に連結され得る。
【0059】
一例として、前記硬化剤は、化学式8でR27~R32のうち2個が前記化学式9の置換基である化合物であり得る。このような場合に化学式8で前記2個の化学式9の置換基は、そのうちいずれか一つを基準として他の一つがオルト、メタまたはパラ位置に存在する構造であり得る。また、このような場合に前記化学式9の置換基でR33~R37のうちいずれか一つがアミン基であり得る。
【0060】
また、本出願は、重合性組成物に関する。重合性組成物は、前記記述した化学式1または4の化合物を含むことができる。本出願の重合性組成物の化学式1または化学式4の化合物に対する事項は、前述した本出願の化合物に対して説明したのと同一であるので、省略することとする。重合性組成物は、前記化学式1または4の化合物と共に硬化剤をさらに含むことができる。
【0061】
重合性組成物には、前記化学式1または4の化合物にさらに他のフタロニトリル化合物が含まれ得る。前記他のフタロニトリル化合物や硬化剤としては、例えば、既に記述したもののような硬化剤が使用できる。
【0062】
重合性組成物において硬化剤の比率は、特に限定されない。前記比率は、例えば、組成物に含まれている化学式1または4の化合物または他のフタロニトリル化合物などの硬化性成分の比率や種類などを考慮して目的とする硬化性が確保され得るように調節され得る。例えば、硬化剤は、重合性組成物に含まれている化学式1または4の化合物または前記化合物および他のフタロニトリル化合物1モル当たり約0.02モル~2.5モル、約0.02モル~2.0モルまたは約0.02モル~1.5モル程度で含まれていてもよい。しかし、前記比率は、本出願の例示に過ぎない。通常、重合性組成物において硬化剤の比率が高くなると、プロセスウィンドウが狭くなる傾向にあり、硬化剤の比率が低くなると、硬化性が不充分になる傾向にあるので、このような点などを考慮して適切な硬化剤の比率が選択され得る。
【0063】
本出願の重合性組成物は、硬化性に優れていると共に、適切な加工温度と広いプロセスウィンドウを示すことができる。
【0064】
一例として、前記重合性組成物の加工温度は、-20℃~150℃、-20℃~100℃または10℃~100℃の範囲内にあり得る。このような場合に前記重合性組成物のプロセスウィンドウ、すなわち前記加工温度Tpと前記化学式1または4の化合物と硬化剤の硬化開始温度Tonsetとの差Tonset-Tpの絶対値は、110℃以上、140℃以上または170℃以上であり得る。一例として、前記硬化温度Tonsetが前記加工温度Tpに比べて高い。このような範囲は、重合性組成物を使用して、例えば後述する複合体を製造する過程で適切な加工性を確保するのに有利である。前記でプロセスウィンドウの上限は、特に限定されるものではないが、例えば、前記加工温度Tpと硬化温度Tonsetとの差Tonset-Tpの絶対値は、400℃、330℃以下または270℃以下であり得る。
【0065】
本明細書で用語「加工温度Tp」は、当該高分子またはオリゴマー成分の融点、軟化点またはガラス転移温度を意味し、硬化温度Tonsetは、硬化開始温度を意味する。
【0066】
重合性組成物は、多様な添加剤をさらに含むことができる。このような添加剤の例としては、多様な充填剤が例示できる。充填剤として使用され得る物質の種類は、特に限定されず、目的とする用途に応じて好適な公知の充填剤が全部使用され得る。例示的な充填剤としては、金属物質、セラミック物質、ガラス、金属酸化物、金属窒化物または炭素系物質などが例示できるが、これに限らない。また、前記充填剤の形態も特に限定されず、アラミド繊維、ガラス繊維またはセラミック繊維などのような繊維状物質、またはその物質により形成された織布、不織布、ひもまたはロープ、ナノ粒子を含む粒子状、多角形またはその他無定形など多様な形態であり得る。前記で炭素系物質としては、グラファイト、グラフェンまたはカーボンナノチューブなどやそれらの酸化物などのような誘導体乃至異性体などが例示できる。しかし、重合性組成物がさらに含むことができる成分は、前記に制限されるものではなく、例えば、ポリイミド、ポリアミドまたはポリスチレンなどのようないわゆるエンジニアリングプラスチックの製造に適用され得ると知られている多様な単量体やその他の添加剤も、目的に応じて制限なしに含むことができる。
【0067】
また、本出願は、前記重合性組成物、すなわち前記化学式1または4の化合物および硬化剤を含む重合性組成物の反応により形成されるプレポリマーに関する。
【0068】
本出願で用語「プレポリマー状態」は、前記重合性組成物内で化学式1または4の化合物と硬化剤がある程度起こった状態(例えば、いわゆるAまたはBステージ段階の重合が起こった状態)や、完全に重合された状態には至らず、適切な流動性を示して、例えば、後述するような複合体の加工が可能な状態を意味する。一例として、前記プレポリマー状態は、前記重合性組成物の重合がある程度進行された状態であり、その組成物の常温における粉末またはパウダーなどのような固体状態であり得る。
【0069】
前記プレポリマーもやはり、優れた硬化性、適切な加工温度および広いプロセスウィンドウを示すことができる。
【0070】
例えば、前記プレポリマーの加工温度は、-20℃~150℃、-20℃~100℃または10℃~100℃の範囲内にあり得る。このような場合に前記プレポリマーのプロセスウィンドウ、すなわち前記加工温度Tpと前記プレポリマーの硬化温度Tonsetとの差Tonset-Tpの絶対値は、110℃以上、140℃以上または170℃以上であり得る。一例として、前記硬化温度Tonsetが前記加工温度Tpに比べて高い。このような範囲は、プレポリマーを使用して、例えば後述する複合体を製造する過程で適切な加工性を確保するのに有利である。前記でプロセスウィンドウの上限は、特に限定されるものではないが、例えば、前記加工温度Tpと硬化温度Tonsetとの差Tonset-Tpの絶対値は、400℃以下、330℃以下または270℃以下であり得る。
【0071】
プレポリマーは、前記成分の他に公知の任意の添加剤をさらに含むことができる。このような添加剤の例としては、前述した充填剤などが例示できるが、これに限らない。
【0072】
また、本出願は、複合体に関する。前記複合体は、前記記述したフタロニトリル樹脂および充填剤を含むことができる。前記に記述したように、本出願の化学式1または4の化合物を通じて優れた硬化性、適切な加工温度と広いプロセスウィンドウの達成が可能であり、これにより、多様な充填剤を含む優れた物性のいわゆる強化樹脂複合体(reinforced polymer composite)を容易に形成できる。このように形成された複合体は、前記フタロニトリル樹脂と充填剤を含むことができ、例えば、自動車、飛行機または船舶などの耐久材などを含む多様な用途に適用され得る。
【0073】
充填剤の種類は、特に限定されず、目的とする用途を考慮して適宜に選択され得る。充填剤の具体的な例示は、前述した通りであるが、これに限らない。
【0074】
充填剤の比率も特に限定されるものではなく、目的とする用途に応じて適正範囲で設定され得る。
【0075】
また、本出願は、前記複合体を製造するための前駆体に関し、前記前駆体は、例えば、前記に記述した重合性組成物と前記充填剤を含んだり、あるいは、前記に記述したプレポリマーと前記充填剤を含むことができる。
【0076】
複合体は、前記前駆体を使用した公知の方式で製造することができる。例えば、前記複合体は、前記前駆体を硬化させて形成することができる。
【0077】
一例として、前記前駆体は、前記に記述した化学式1または4の化合物を溶融状態で硬化剤と配合して製造された重合性組成物乃至前記プレポリマーを加熱などにより溶融させた状態で前記充填剤と配合して製造することができる。例えば、上記のように製造された前駆体を目的とする形状で成形した後に硬化させて、前述した複合体の製造が可能である。前記重合性組成物またはプレポリマーは、適切な加工温度と広いプロセス温度を有し、硬化性に顕著に優れていて、前記過程で成形および硬化が効率的に行われ得る。
【0078】
前記過程でプレポリマーなどを形成する方法、このようなプレポリマーなどと充填剤を配合し、加工および硬化させて複合体を製造する方法などは、公知の方式により進行され得る。
【0079】
また、本出願は、前記化合物を含むフタロシアニン染料の前駆体、蛍光増白剤の前駆体または写真増感剤の前駆体に関し、または、前記化合物に由来する酸無水物に関する。前記化合物を使用して前記前駆体を製造する方法または前記酸無水物を製造する方法は、特に限定されず、フタロニトリル化合物を使用して前記前駆体乃至酸無水物を製造できると知られている公知の方式が全部適用され得る。
【発明の効果】
【0080】
本出願の化合物は、低い融点と優れた柔軟性などを有していて、フタロニトリル樹脂またはそのプレポリマーやそれを形成する重合性組成物が、優れた加工性と広いプロセスウィンドウを示し、改善された衝撃強度が確保され得るようにし得る。前記化合物は、前記フタロニトリル樹脂などを液状で形成したり、ラバー形態で形成することができる。このようなフタロニトリル樹脂などは、多様な用途に適用され得、例えば、いわゆるエンジニアリングプラスチックが適用されるすべての分野、耐熱性高分子が使用されるすべての分野、高耐熱部品、高耐熱部品として使用されるレジンおよびレジン複合体、自動車産業および電子産業用高耐熱部品、耐熱性グリース、シーリング材、接着剤、粘着剤、緩衝剤またはLEDやOLEDなどの封止材などに適用され得る。また、前記化合物は、低い摩擦特性を有するフタロニトリル樹脂または複合体を形成できるので、低い摩擦特性が必要な各種機械部品にも適用され得る。また、前記化合物は、フタロシアニン染料の前駆体、蛍光増白剤の前駆体または写真増感剤の前駆体、または酸無水物の製造などの用途にも適用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【
図1】製造例で製造された化合物に対するNMR分析結果である。
【
図2】製造例で製造された化合物に対するNMR分析結果である。
【
図3】製造例で製造された化合物に対するNMR分析結果である。
【
図4】製造例で製造された化合物に対するNMR分析結果である。
【
図5】製造例で製造された化合物に対するNMR分析結果である。
【
図6】製造例で製造された化合物に対するNMR分析結果である。
【発明を実施するための形態】
【0082】
以下、実施例および比較例により本出願のフタロニトリル樹脂などを具体的に説明するが、前記樹脂などの範囲が下記実施例に限定されるものではない。
【0083】
1.核磁気共鳴(Nuclear magnetic resonance、NMR)分析
NMR分析は、Agilent社の500MHzのNMR装備を使用して製造社のマニュアルに沿って行った。NMRの測定のためのサンプルは、測定対象である化合物をDMSO(ジメチルスルホキシド)-d6およびアセトン-d6に溶解させて製造した。
【0084】
2.示差走査熱量測定(Differential scanning calorimetry、DSC)分析
DSC分析は、TAインスツルメント社のQ20システムを使用して35℃から400℃または450℃まで10℃/分の昇温速度で昇温しつつ、N2フロー雰囲気で行った。
【0085】
3.GPC(Gel Permeation Chromatography)分析
GPC分析は、Agilent社の1200シリーズを使用して製造社のマニュアルに沿って行った。GPCの測定のためのサンプルは、測定対象である化合物をテトラヒドロフラン(THF)に溶解させて製造し、検出器はG1362RID、G1315BDADを使用し、スタンダードはポリスチレンを使用した。
【0086】
製造例1.化合物PN1の合成
下記化学式Aの平均組成式を有する化合物PN1は、次の方式で合成した。下記化学式Bの平均組成式を有し、重量平均分子量が6,700である化合物110gおよび200gのジメチルホルムアミド(DMF)を三口丸底フラスコに投入し、常温で撹拌して溶解させた。次に、下記化学式Cの化合物25gを追加し、DMF60gを追加した後に撹拌して溶解させた。次に、炭酸カリウム29gおよびDMF50gを共に投入し、撹拌しながら温度を85℃まで昇温させた。前記状態で約5時間程度反応させた後に常温まで冷却させた。冷却された反応溶液に0.2N濃度の塩酸水溶液を注入した。前記混合溶液にクロロホルムを投入して生成物を抽出し、抽出した生成物を水洗した。真空蒸留にてクロロホルムと反応溶液であるDMFを除去した。水と残留溶媒を除去した後、下記化学式Aの平均組成式を有し、重量平均分子量が7,190である化合物PN1を約88重量%の収率で収得した。前記化合物に対するNMR結果は、
図1に示した。
【0087】
[化学式A]
[R1Me2SiO1/2]0.065[R1MeSiO2/2]0.161[Me2SiO2/2]0.774
【0088】
化学式Aで、Meは、メチル基であり、R1は、化学式2で表される置換基である2-(2-ヒドロキシフェニル)エチル基または4-(2-エチルフェノキシ)フタロニトリルである。
【0089】
[化学式B]
[R1Me2SiO1/2]0.065[R1MeSiO2/2]0.161[Me2SiO2/2]0.774
【0090】
化学式Bで、Meは、メチル基であり、R1は、2-(2-ヒドロキシフェニル)エチル基である。
【0091】
【0092】
製造例2.化合物PN2の合成
下記化学式Dの平均組成式を有する化合物PN2は、次の方式で合成した。前記化学式Bの平均組成式を有し、重量平均分子量が6,700である化合物95gおよび200gのDMFを三口丸底フラスコに投入し、常温で撹拌して溶解させた。次に、前記化学式Cの化合物36.5gを追加し、DMF100gを追加した後に撹拌して溶解させた。次に、炭酸カリウム44gおよびDMF50gを共に投入し、撹拌しながら温度を85℃まで昇温させた。前記状態で約5時間程度反応させた後に常温まで冷却させた。冷却された反応溶液を0.2N濃度の塩酸水溶液に注入した。前記混合溶液にクロロホルムを投入して生成物を抽出し、抽出した生成物を水洗した。真空蒸留にてクロロホルムと反応溶液であるDMFを除去した。水と残留溶媒を除去した後、下記化学式Dの平均組成式を有し、重量平均分子量が7,660である化合物PN2を約85重量%の収率で収得した。化学式Dの化合物に対するNMR結果は、
図2に記載した。
【0093】
[化学式D]
[R1Me2SiO1/2]0.065[R1MeSiO2/2]0.161[Me2SiO2/2]0.774
【0094】
化学式Dで、Meは、メチル基であり、R1は、化学式2で表される置換基である4-(2-エチルフェノキシ)フタロニトリル基である。
【0095】
製造例3.化合物PN3の合成
下記化学式Eの化合物PN3を次の方式で合成した。4、4’-ビス(ヒドロキシフェニル)メタン28.0gおよび150mlのDMFを三口丸底フラスコに投入し、常温で撹拌して溶解させた。次に、前記化学式Cの化合物48.5gを追加し、DMF50gを追加した後に撹拌して溶解させた。次に、炭酸カリウム58.1gおよびDMF50gを共に投入し、撹拌しながら温度を85℃まで昇温させた。前記状態で約5時間程度反応させた後に常温まで冷却させた。冷却された反応溶液を0.2N濃度の塩酸水溶液に注入して中和沈殿させ、フィルタリングした後に水洗した。その後、フィルタリングされた反応物を100℃の真空オーブンで一日間乾燥させ、水と残留溶媒を除去した後、下記化学式Eの化合物PN3を約83重量%の収率で収得した。化学式
Eの化合物に対するNMR結果は、
図3に示した。
【0096】
【0097】
製造例4.化合物PN4の合成
下記化学式Fの化合物PN4を次の方式で合成した。下記化学式Gの化合物32.7gおよび120gのDMFを三口丸底フラスコに投入し、常温で撹拌して溶解させた。次に、前記化学式Cの化合物51.9gを追加し、DMF50gを追加した後に撹拌して溶解させた。次に、炭酸カリウム62.2gおよびDMF 50gを共に投入し、撹拌しながら温度を85℃まで昇温させた。前記状態で約5時間程度反応させた後に常温まで冷却させた。冷却された反応溶液を0.2N濃度の塩酸水溶液に注入して中和沈殿させ、フィルタリングした後に水洗した。その後、フィルタリングされた反応物を100℃の真空オーブンで一日間乾燥させ、水と残留溶媒を除去した後、下記化学式Fの化合物PN4を約80重量%の収率で収得した。化学式Fの化合物に対するNMR結果は、
図4に示した。
【0098】
【0099】
【0100】
製造例5.化合物PN5の合成
下記化学式Hの化合物PN5を次の方式で合成した。下記化学式Iの化合物27.9gおよび100gのDMFを三口丸底フラスコに投入し、常温で撹拌して溶解させた。次に、前記化学式Cの化合物51.9gを追加し、DMF50gを追加した後に撹拌して溶解させた。次に、炭酸カリウム62.2gおよびDMF50gを共に投入し、撹拌しながら温度を85℃まで昇温させた。前記状態で約5時間程度反応させた後に常温まで冷却させた。冷却された反応溶液を0.2N濃度の塩酸水溶液に注入して中和沈殿させ、フィルタリングした後に水洗した。その後、フィルタリングされた反応物を100℃の真空オーブンで一日間乾燥させ、水と残留溶媒を除去した後、下記化学式Hの化合物PN5を約83重量%の収率で収得した。化学式Hの化合物に対するNMR結果は、
図5に示した。
【0101】
【0102】
【0103】
製造例6.化合物PN6の合成
下記化学式Jの化合物PN6を次の方式で合成した。下記化学式Kの化合物50.4gおよび150gのDMFを三口丸底フラスコに投入し、常温で撹拌して溶解させた。その後、前記化学式Cの化合物51.9gを添加し、DMF50gを添加した後、撹拌して溶かした。次に、炭酸カリウム62.2gおよびDMF50gを共に投入し、撹拌しながら温度を85℃まで昇温させた。前記状態で約5時間程度反応させた後に常温まで冷却させた。冷却された反応溶液を0.2N濃度の塩酸水溶液に注入して中和沈殿させ、フィルタリングした後に水洗した。その後、フィルタリングされた反応物を100℃の真空オーブンで一日間乾燥させ、水と残留溶媒を除去した後、下記化学式Jの化合物PN6を約87重量%の収率で収得した。化学式Jの化合物に対するNMR結果は、
図6に示した。
【0104】
【0105】
【0106】
製造例7.化合物CA1の合成
下記化学式Lの化合物は、東京化成工業(TCI)社の市販製品を入手して、追加精製することなく使用した。
【0107】
【0108】
実施例1
製造例1の化合物PN1に製造例7の硬化剤CA1を前記化合物PN1の1モル当たり約0.12モルが存在するように配合して重合性組成物を製造し、物性を評価した。
【0109】
実施例2
製造例2の化合物PN2に製造例7の硬化剤CA1を前記化合物PN2の1モル当たり約0.12モルが存在するように配合して重合性組成物を製造し、物性を評価した。
【0110】
実施例3
製造例1の化合物PN1および製造例3の化合物PN3の混合物(PN1:PN3(重量比)=20:80)に製造例7の硬化剤CA1を前記混合物1モル当たり約0.12モルが存在するように配合して重合性組成物を製造し、物性を評価した。
【0111】
実施例4
製造例1の化合物PN1および製造例4の化合物PN4の混合物(PN1:PN4(重量比)=20:80)に製造例7の硬化剤CA1を前記混合物1モル当たり約0.12モルが存在するように配合して重合性組成物を製造し、物性を評価した。
【0112】
実施例5
製造例1の化合物PN1および製造例5の化合物PN5の混合物(PN1:PN5(重量比)=20:80)に製造例7の硬化剤CA1を前記混合物1モル当たり約0.12モルが存在するように配合して重合性組成物を製造し、物性を評価した。
【0113】
実施例6
製造例1の化合物PN1および製造例6の化合物PN6の混合物(PN1:PN6(重量比)=20:80)に製造例7の硬化剤CA1を前記混合物1モル当たり約0.12モルが存在するように配合して重合性組成物を製造し、物性を評価した。
【0114】
実施例7
製造例2の化合物PN2および製造例3の化合物PN3の混合物(PN2:PN3(重量比)=20:80)に製造例7の硬化剤CA1を前記混合物1モル当たり約0.12モルが存在するように配合して重合性組成物を製造し、物性を評価した。
【0115】
実施例8
製造例2の化合物PN2および製造例5の化合物PN5の混合物(PN2:PN5(重量比)=20:80)に製造例7の硬化剤CA1を前記混合物1モル当たり約0.12モルが存在するように配合して重合性組成物を製造し、物性を評価した。
【0116】
実施例9
製造例2の化合物PN2および製造例3の化合物PN3の混合物(PN2:PN3(重量比)=50:50)に製造例7の硬化剤CA1を前記混合物1モル当たり約0.12モルが存在するように配合して重合性組成物を製造し、物性を評価した。
【0117】
実施例10
製造例2の化合物PN2および製造例5の化合物PN5の混合物(PN2:PN5(重量比)=50:50)に製造例7の硬化剤CA1を前記混合物1モル当たり約0.12モルが存在するように配合して重合性組成物を製造し、物性を評価した。
【0118】
比較例1
製造例3の化合物PN3に製造例7の硬化剤CA1を前記化合物PN3の1モル当たり約0.12モルが存在するように配合して重合性組成物を製造し、物性を評価した。
【0119】
比較例2
製造例4の化合物PN4に製造例7の硬化剤CA1を前記化合物PN4の1モル当たり約0.12モルが存在するように配合して重合性組成物を製造し、物性を評価した。
【0120】
比較例3
製造例5の化合物PN5に製造例7の硬化剤CA1を前記化合物PN5の1モル当たり約0.12モルが存在するように配合して重合性組成物を製造し、物性を評価した。
【0121】
比較例4
製造例6の化合物PN6に製造例7の硬化剤CA1を前記化合物PN6の1モル当たり約0.12モルが存在するように配合して重合性組成物を製造し、物性を評価した。
【0122】
実施例および比較例の組成物について分析を行った結果は、下記表1に記載されている。
【0123】