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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-27
(45)【発行日】2022-06-06
(54)【発明の名称】光学装置及び形状測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/24 20060101AFI20220530BHJP
【FI】
G01B11/24 D
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018090219
(22)【出願日】2018-05-08
(65)【公開番号】P2019196947
(43)【公開日】2019-11-14
【審査請求日】2021-04-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000137694
【氏名又は名称】株式会社ミツトヨ
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【弁理士】
【氏名又は名称】泉 通博
(74)【代理人】
【識別番号】100154070
【弁理士】
【氏名又は名称】久恒 京範
(74)【代理人】
【識別番号】100153280
【弁理士】
【氏名又は名称】寺川 賢祐
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 和彦
【審査官】飯村 悠斗
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-053832(JP,A)
【文献】特開2010-002244(JP,A)
【文献】特開2012-112705(JP,A)
【文献】特開2013-044689(JP,A)
【文献】特開2005-274304(JP,A)
【文献】特表2015-534134(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00-11/30
G01B 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
参照面から反射した反射光と、測定対象物から反射した測定光とが干渉したそれぞれ位相が異なる複数の干渉光の第1干渉光群と、前記第1干渉光群の位相をオフセットした第2干渉光群とを取得する取得部と、
前記第1干渉光群を位相シフト法により解析して前記測定対象物の複数の位置それぞれにおける位相である第1位相を決定し、前記第2干渉光群を前記位相シフト法により解析して前記測定対象物の複数の位置それぞれにおける位相である第2位相を決定する位相決定部と、
前記測定対象物の複数の位置それぞれについて、前記位相決定部により決定された前記位相が所定の区間内である場合、前記位相が区間外である場合より重みを大きくして前記第1位相と前記第2位相とを合成する合成部と、
を備える光学装置。
【請求項2】
前記合成部は、前記第1位相と前記第2位相とのうち、一方の位相が所定の区間内であり、もう一方の位相が所定の区間外である場合、前記区間内である位相の重みを1にするとともに、前記区間外である位相の重みを0にする、
請求項1に記載の光学装置。
【請求項3】
前記合成部は、前記測定対象物の複数の位置それぞれについて、前記位相決定部により決定された前記第1位相と前記第2位相とのうち、前記位相を変数とする正接関数の値の絶対値が大きい方の重みを、前記位相を変数とする正接関数の値の絶対値が小さい方の重みより小さくして、前記第1位相と前記第2位相とを合成する、
請求項1に記載の光学装置。
【請求項4】
前記合成部は、前記第1位相と前記第2位相との重みを等しくして合成する、
請求項1に記載の光学装置。
【請求項5】
前記位相決定部が決定した前記第1位相と前記第2位相とのそれぞれに周期的に発生する位相解析誤差が反転するように、前記第1干渉光群と前記第2干渉光群との位相差を調整する位相調整部をさらに備える、
請求項4に記載の光学装置。
【請求項6】
前記合成部は、前記第1位相と前記第2位相とのそれぞれの重みを予め前記第1位相と前記第2位相とのそれぞれに設定された補正値を用いて補正して前記第1位相と前記第2位相とを合成する、
請求項1から5のいずれか一項に記載の光学装置。
【請求項7】
前記参照面及び前記測定対象物に光を照射する光源と、
前記複数の干渉光の位相それぞれが異なるように前記光源が照射する光の波長を変更させる波長変更部と、をさらに備える請求項1から6のいずれか一項に記載の光学装置。
【請求項8】
コンピュータが実行する、
参照面から反射した反射光と、測定対象物から反射した測定光とが干渉したそれぞれ位相が異なる複数の干渉光の第1干渉光群と、前記第1干渉光群の位相をオフセットした第2干渉光群とを取得するステップと、
前記第1干渉光群を位相シフト法により解析して前記測定対象物の複数の位置それぞれにおける位相である第1位相を決定し、前記第2干渉光群を前記位相シフト法により解析して前記測定対象物の複数の位置それぞれにおける位相である第2位相を決定するステップと、
前記測定対象物の複数の位置それぞれについて、前記決定するステップで決定された前記位相が所定の区間内である場合、前記位相が区間外である場合より重みを大きくして、前記第1位相と前記第2位相とを合成するステップと、
を有する形状測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学装置及び形状測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光の照射により被検面で反射された試料光と参照面で反射された参照光による干渉縞画像を光学的位相の異なる状態で複数枚撮像し、複数の干渉縞画像を解析して被検面の形状を計測する位相シフト干渉計が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-108417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の干渉計においては、干渉強度の四則演算の逆正接によって測定対象物の形状成分に相当する位相を算出する測定原理上、干渉光の位相を変数とした正接関数の値が発散部分において、測定値の繰り返し性が悪くなる傾向がある。また、測定システムに起因する誤差要因によって、位相に応じて偏りをもった固定の誤差が発生する場合がある。これらが原因で、被検面の形状を計測するときの誤差が増大してしまうことがあった。
【0005】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、形状の測定誤差を低減する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様においては、参照面から反射した反射光と、測定対象物から反射した測定光とが干渉したそれぞれ位相が異なる複数の干渉光の第1干渉光群と、前記第1干渉光群の位相をオフセットした第2干渉光群とを取得する取得部と、前記第1干渉光群を位相シフト法により解析して前記測定対象物の複数の位置それぞれにおける位相である第1位相を決定し、前記第2干渉光群を前記位相シフト法により解析して前記測定対象物の複数の位置それぞれにおける位相である第2位相を決定する位相決定部と、前記測定対象物の複数の位置それぞれについて、前記位相決定部により決定された前記位相が所定の区間内である場合、前記位相が区間外である場合より重みを大きくして前記第1位相と前記第2位相とを合成する合成部と、を備える光学装置を提供する。
【0007】
前記合成部は、前記第1位相と前記第2位相とのうち、一方の位相が所定の区間内であり、もう一方の位相が所定の区間外である場合、前記区間内である位相の重みを1にするとともに、前記区間外である位相の重みを0にしてもよい。
【0008】
例えば、前記合成部は、前記測定対象物の複数の位置それぞれについて、前記位相決定部により決定された前記第1位相と前記第2位相とのうち、前記位相を変数とする正接関数の値の絶対値が大きい方の重みを、前記位相を変数とする正接関数の値の絶対値が小さい方の重みより小さくして、前記第1位相と前記第2位相とを合成する。
【0009】
前記合成部は、前記第1位相と前記第2位相との重みを等しくして合成してもよい。
【0010】
前記光学装置は、前記位相決定部が決定した前記第1位相と前記第2位相とのそれぞれに周期的に発生する位相解析誤差が反転するように、前記第1干渉光群と前記第2干渉光群との位相差を調整する位相調整部をさらに備えていてもよい。
【0011】
前記合成部は、前記第1位相と前記第2位相とのそれぞれの重みを予め前記第1位相と前記第2位相とのそれぞれに設定された補正値を用いて補正して前記第1位相と前記第2位相とを合成してもよい。
【0012】
前記光学装置は、前記参照面及び前記測定対象物に光を照射する光源と、前記複数の干渉光の位相それぞれが異なるように前記光源が照射する光の波長を変更させる波長変更部と、をさらに備えていてもよい。
【0013】
本発明の第2の態様においては、コンピュータが実行する、参照面から反射した反射光と、測定対象物から反射した測定光とが干渉したそれぞれ位相が異なる複数の干渉光の第1干渉光群と、前記第1干渉光群の位相をオフセットした第2干渉光群とを取得するステップと、前記第1干渉光群を位相シフト法により解析して前記測定対象物の複数の位置それぞれにおける位相である第1位相を決定し、前記第2干渉光群を前記位相シフト法により解析して前記測定対象物の複数の位置それぞれにおける位相である第2位相を決定するステップと、前記測定対象物の複数の位置それぞれについて、前記位相決定部により決定された前記位相が所定の区間内である場合、前記位相が区間外である場合より重みを大きくして、前記第1位相と前記第2位相とを合成するステップと、を有する形状測定方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、形状の測定誤差を低減できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】従来の光学装置の構成を示す図である。
図2】正接関数の絶対値が大きくなると誤差が増大することを説明するための図である。
図3】位相をオフセットすることを説明するための図である。
図4】光学装置の構成を説明するための図である。
図5】光学装置の機能構成を示す図である。
図6】光学装置の制御部が実行する処理を説明するための図である。
図7】光学装置が実行する処理のフローチャートである。
図8】区間に基づいて位相の重みを決定することを説明するための図である。
図9】位相解析誤差について説明するための図である。
図10】変形例2に係る光学装置の制御部が実行する処理のフローチャートである。
図11】設定された補正値を用いて重みを補正することを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(従来の光学装置5の概要)
まず、従来の光学装置5の概要、及び従来の位相シフト法の課題について説明する。図1は、従来の光学装置5の構成を示す図である。光学装置5は、光源11と、光学系12と、カメラ13、記憶部14と、制御部15と、参照面3と、測定対象物4とを備える。
【0017】
光源11は、参照面3及び測定対象物4に光を照射する。光源11は、例えば、半導体レーザーであり、光源11に入力する注入電流を変更することにより出力する光の波長を変更することができる。
【0018】
光学系12は、ピンホール120、複数のレンズ121(121a及び121b)、ビームスプリッタ122、光源11から照射された光は、拡大光学系(ピンホール120、レンズ121a、ピンホール120、ビームスプリッタ122、及びレンズ121b)によって拡大され、参照面3と測定対象物4とに照射される。
【0019】
測定対象物4から反射した測定光と、参照面3から反射した参照光とは、ビームスプリッタ122に再度入射する。ビームスプリッタ122に入射した測定光及び参照光は、ビームスプリッタ122で反射されて、カメラ13に入射する。カメラ13aは、照射された干渉光の強度を検出する。カメラ13は、検出した干渉光の強度を干渉光画像(以下、干渉縞ということがある)として制御部15に送信する。
【0020】
制御部15は、カメラ13が検出した干渉光の強度を干渉光画像として取得する。そして、制御部15は、干渉光の強度を位相シフト法により解析して、測定対象物4の複数の位置それぞれにおける位相を決定する。
【0021】
(光の波長を変更することによる位相シフト法)
ここで、参照面及び測定対象物に照射する光の波長を変更することによる位相シフト法について説明する。参照面3から反射した参照光と、測定対象物4から反射した測定光とを光路長差Δl(x、y)で干渉させた干渉光は、式(1)で表される。
【数1】
【0022】
照射する光の波長を波長変化量Δλだけ動かした場合の干渉光は、式(2)で表される。
【数2】
【0023】
波長λに対する波長変化量Δλが小さい場合、式(2)は、式(3)に近似できる。
【数3】
式(3)において、余弦関数内の第2項は、照射する光の波長を変化させた場合の位相シフト量Δφ(x、y)に相当する。位相シフト量Δφ(x、y)は、光路長差Δl(x、y)の関数である。
【0024】
光路長差Δl(x、y)に含まれる測定対象物4の形状の起伏に対して参照面3と測定対象物4との距離が十分に大きい場合、位相シフト量Δφ(x、y)は面内一様な量とみなせる。位相シフト量Δφ(x、y)を面内一様な量とみなせる場合、位相シフト量Δφは、式(4)で表される。
【数4】
【0025】
照射する光の波長λを1000nm、光路長差Δlを10mmとすると、照射する光の波長を25pmずつ変更することで、90度(=π/2)ずつ位相をシフトした干渉光を取得できる。
【0026】
参照面3及び測定対象物4に照射する光の波長を変更して位相をシフトしたi枚の干渉光画像を取得する場合、式(3)は、式(4)を用いて、式(5)に書き換えられる。
【数5】
【0027】
例えば、干渉光の1周期を4分割して90度(π/2)ずつ位相をシフトさせる4ステップ位相シフト法の場合、複数の干渉光の強度I(x、y)を式(6)に代入することで、測定対象物4の複数の位置それぞれにおける位相φ(x、y)を求めることができる。
【数6】
【0028】
(従来の位相シフト法の課題)
ここで、位相を変数とする正接関数の絶対値が大きくなる場合、誤差が増大することについて説明する。図2は、正接関数の絶対値が大きくなると誤差が増大することを説明するための図である。図2(A)は、(I-I/I-I)=tanφのグラフの模式図である。なお、W=(I-I/I-I)である。図2(A)に示すように、φがπ/2に近づくほど、|tanφ|は大きくなる。
【0029】
このように、|tanφ|が大きくなる場合、I-Iの値が変化しても、φ(x、y)が変化しづらくなる。図2(B)は、φ(x、y)=tan-1(W)のグラフの模式図である。例えば、tan-1(W)の絶対値が大きい領域においては、WがW1からW1´に変化した場合の、φからφ´への変化量が小さくなる。このように、φからφ´への変化量が小さくなると、実際の測定対象物4の形状には差があるのに、差がないものとみなされることが懸念される。
【0030】
また、IとIとがほぼ等しい場合、I-Iの計算結果は0に近くなる。浮動小数点演算において、浮動小数点数は、有効数字の桁数を一定として扱われる。そのため、計算結果が0に近くなる加減算を行った場合、不足した有効数字の桁数は、自動的に0で補完される。例えば、「1.23456789×10-1.23456780×10」のような計算を行うと、計算結果は「9×10-6」となり、有効数字の桁数が少なくなる。なお、この場合、有効数字の桁数は、9桁から1桁に減少する。このように、浮動小数点演算において計算結果が0に近くなる加減算を行うと、計算結果と真の値との間に誤差が発生する。このような誤差を含む値に対し、大きな数をかけるなどの計算を行うと、誤差を含む桁が上の桁に上がるので、誤差が大きくなる。
【0031】
そこで、実施の形態に係る光学装置は、参照光と測定光とが干渉した干渉光を2つに分割し、分割した干渉光の位相を、分割した数に対応して光学的に位相をオフセットする。次に、光学装置は、それぞれ位相が異なる複数の干渉光の第1干渉光群を取得し、第1干渉光群の位相に対して位相をオフセットした第2干渉光群を取得する。続いて、光学装置は、第1干渉光群を位相シフト法により解析して測定対象物4の複数の位置それぞれにおける位相である第1位相を決定する。また、光学装置は、第2干渉光群を位相シフト法により解析して測定対象物4の複数の位置それぞれにおける位相である第2位相を決定する。
【0032】
図3は、位相をオフセットすることを説明するための図である。図3において、実線で示すグラフg1は、第1位相φを変数φとした正接関数のグラフg1(φ)である。また、破線で示すグラフg2は、第2位相φを、変数φを使って表した正接関数のグラフg2(φ+φoffset)である。図3に示すように、グラフg1の元になった第1干渉光群の第1位相φと、グラフg2(φ+φoffset)の元になった第2干渉光群の第2位相φとが異なっているため、グラフg1の値とグラフg2の値とは異なっている。言い換えると、グラフg1とグラフg2とにおいて、正接関数の値が大きくなることにより誤差が大きくなる区間がそれぞれ異なる。
【0033】
このように、2つの位相において、誤差が大きくなる区間がそれぞれ異なる場合、誤差が小さくなる区間内の位相の重みを大きくし、誤差が大きくなる区間の位相の重みを小さくして、2つの位相を合成すると、誤差の大きな位相の寄与率を小さくすることができる。そこで、光学装置は、測定対象物4の複数の位置それぞれについて、位相が所定の区間内である場合、位相が区間外である場合より重みを大きくして、第1位相と第2位相とを合成する。所定の区間は、正接関数に位相を代入したときの値が所定値より小さくなる区間である。所定値は、第1位相φ=φを変数とする第1正接関数g(φ)の絶対値を取った関数と、第2位相φ=φ+φoffsetを変数とする第2正接関数g(φ+φoffset)の絶対値を取った関数との交点における位相の値である。このようにすることで、光学装置は、位相に基づいて測定対象物4の形状を作成する場合に、位相に含まれる誤差が大きい方の寄与率を小さくできる。そのため、光学装置は、位相に基づく測定対象物4の形状の測定誤差を低減することができる。
【0034】
[光学装置1の構成及び機能]
図4及び図5を参照しながら、光学装置1の構成及び機能について説明する。図4は、光学装置1の構成を説明するための図である。図5は、光学装置1の機能構成を示す図である。光学装置1は、光源11と、光学系12と、カメラ13aと、カメラ13bと、記憶部14と、制御部15と、表示部16と、参照面3と、測定対象物4とを備える。
【0035】
光源11は、参照面3及び測定対象物4に光を照射する。光源11は、例えば、半導体レーザーであり、光源11に入力する注入電流を変更することにより出力する光の波長を変更することができる。
【0036】
光学系12は、複数のレンズ121(121a及び121b)、複数のビームスプリッタ122(122a及び122b)、複数のλ/4板123(123a及び123b)、及び複数の偏光板124(124a及び124b)を有する。光源11から照射された光は、拡大光学系(レンズ121a、ピンホール120、ビームスプリッタ122a、レンズ121b)によって拡大され、参照面3と測定対象物4とに照射される。
【0037】
測定対象物4から反射した測定光は、参照面3と測定対象物4との間に配置されたλ/4板123aにより、参照面3から反射した参照光と偏光面が直交するように変換される。そして、参照光と測定光とは、非干渉状態の光として重ね合わされた状態で、ビームスプリッタ122aに入射する。
【0038】
ビームスプリッタ122aで反射された非干渉状態の光は、λ/4板123bに入射すると、参照光と測定光とが左右逆回りの円偏光に変換される。左右逆回りの円偏光に変換された光は、ビームスプリッタ122bに入射し、2つに分割される。
【0039】
2つに分割された光の一方は、ビームスプリッタ122bとカメラ13aとの間に配置された偏光板124aを通過すると、参照光と測定光とが干渉するように変換され、カメラ13aに入射する。また、2つに分割された光のもう一方は、ビームスプリッタ122bとカメラ13bとの間に配置された偏光板124bを通過すると、参照光と測定光とが干渉するように変換され、カメラ13bに入射する。
【0040】
このとき、偏光板124aの透過軸と偏光板124bの透過軸とを光軸に垂直な面内において異なる角度に設置する。このようにすることで、偏光板124aを通過した参照光及び測定光と、偏光板124bを通過した参照光及び測定光とは、異なる位相で干渉する。例えば、偏光板124aに対して偏光板124bの透過軸を光軸に垂直な面内において45度回転させて設置すると、相対的に90度位相がオフセットした状態で干渉する。
【0041】
カメラ13a及びカメラ13bのそれぞれは、入射した干渉光の強度を検出する。カメラ13a及びカメラ13bのそれぞれは、検出した干渉光の強度を干渉光画像(以下、干渉縞ということがある)として制御部15に送信する。
【0042】
記憶部14は、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等を含む記憶媒体である。記憶部14は、制御部15が実行するプログラムを記憶する。
【0043】
制御部15は、例えばCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサを含む計算リソースである。制御部15は、記憶部14に記憶されたプログラムを実行することにより、波長変更部150、取得部151、位相決定部152、合成部153、及び形状作成部154としての機能を実現する。
【0044】
(制御部が実行する処理の概要)
以下、図5及び図6を参照しながら、光学装置1の制御部15が実行する処理について説明する。図6は、光学装置1の制御部15が実行する処理を説明するための図である。なお、以下の説明において、xは、カメラ13の画素のx座標を示し、yは、カメラ13の画素のy座標を示す。
【0045】
波長変更部150は、複数の干渉光の位相それぞれが異なるように光源11が照射する光の波長を変更させる。例えば、波長変更部150は、上記の4ステップ位相シフト法の場合、90度(π/2)ずつ位相がシフトするように光源11の波長を変更させる。
【0046】
次に、取得部151は、参照面3から反射した反射光と、測定対象物4から反射した測定光とが干渉したそれぞれ位相が異なる複数の干渉光の第1干渉光群I1j(x、y)をカメラ13aから取得する(図6の(A))。また、取得部151は、反射光と測定光とが、第1干渉光群I1j(x、y)の位相をオフセットした第2干渉光群をカメラ13bから取得する(図6の(B))。具体的には、取得部151は、反射光と測定光とが、第1干渉光群I1j(x、y)の位相に対して相対的に90度位相がオフセットした状態で干渉したそれぞれ位相が異なる複数の干渉光の第2干渉光群I2j(x、y)を取得する。取得部151は、波長変更部150により光源11が照射する光の波長を変更される度に、カメラ13a及びカメラ13bのそれぞれから第1干渉光群I1j(x、y)及び第2干渉光群I2j(x、y)を取得する。
【0047】
位相決定部152は、取得部151が取得した第1干渉光群I1j(x、y)を位相シフト法により解析して測定対象物4の複数の位置それぞれにおける位相である第1位相φ(x、y)を決定する(図6の(C))。また、位相決定部152は、取得部151が取得した第2干渉光群I2j(x、y)を位相シフト法により解析して測定対象物4の複数の位置それぞれにおける位相である第2位相φ(x、y)を決定する(図6の(D))。
【0048】
合成部153は、位相φ(x、y)(=φ(x、y))とφ(x、y)=(φ(x、y)+φoffset)とが所定の区間内か否かを判定する(図6の(E))。そして、合成部153は、位相が所定の区間内である場合、位相が区間外である場合より重みを大きくして、第1位相φ(x、y)と第2位相φ(x、y)とを合成する(図6の(F))。
【0049】
合成部153は、位相が区間内である場合にかける係数kを、位相が区間外である場合にかける係数kより大きくして合成する。係数kは、位相φ(x、y)の関数であり、第1位相φ(x、y)には係数k(φ(x、y))をかけ、第2位相φ(x、y)には係数k(φ(x、y))をかける。より具体的には、合成部153は、式(7)を用いて第1位相φ(x、y)と第2位相φ(x、y)とを合成する。
φsynth=k(φ(x、y))・φ(x、y)+k(φ(x、y))・φ(x、y) 式(7)
そして、合成部153は、第1位相φ(x、y)と第2位相φ(x、y)とを合成した合成位相φsynth(x、y)を形状作成部154に送信する。
【0050】
形状作成部154は、合成部153により合成された合成位相φsynth(x、y)に基づいて、測定対象物4の形状を作成する(図6の(G))。形状作成部154は、各種情報を表示する表示部16に作成した測定対象物4の形状を表示させる。表示部16は、例えば液晶ディスプレイであるが、これに限定するものではない。また、形状作成部154は、作成した測定対象物4の形状を記憶部14に記憶させてもよく、図示しない通信部を介して他の装置に送信してもよい。
【0051】
図7は、光学装置が実行する処理のフローチャートである。まず、取得部151は、第1干渉光群及び第2干渉光群を取得する(ステップS1)。次に、位相決定部152は、第1干渉光群の第1位相と、第2干渉光群の第2位相とを決定する(ステップS2)。
【0052】
合成部153は、φ(x、y)が所定の区間内か否かを判定する(ステップS3)。合成部153は、位相が所定の区間内である場合位相が区間外である場合より重みを大きくして、第1位相φ(x、y)と第2位相φ(x、y)とを合成し(ステップS4)、合成位相φsynth(x、y)を形状作成部154に送信する。そして、形状作成部154は、合成部153により合成された合成位相φsynth(x、y)に基づいて、測定対象物4の形状を作成し(ステップS5)、作成した測定対象物4の形状を出力する(ステップS6)。
【0053】
このように、光学装置1は、位相をオフセットした二つの干渉光群に基づいて二つの位相を決定し、決定した位相が所定の区間内である場合、所定の区間外である場合より重みを重くして合成する。そして、光学装置1は、合成した位相を用いて測定対象物4の形状を作成する。このようにすることで、光学装置1は、測定原理上、干渉光の位相を変数とする正接関数の値が大きくなる場合においても、計算上の誤差を低減することができる。そのため、光学装置1は、測定対象物4の形状の測定誤差を低減できる。
【0054】
合成部153は、一方の重みを大きくしてもう一方の重みを小さくする場合の最たるものとして、一方の重みを1にして、もう一方の重みを0にしてもよい。例えば、合成部153は、第1位相と第2位相とのうち、一方の位相が所定の区間内であり、もう一方の位相が所定の区間外である場合、区間内である位相の重みを1にするとともに、区間外である位相の重みを0にする。言い換えると、合成部153は、区間内である位相を選択し、区間外である位相を選択しないで、第1位相と第2位相とを合成する。
【0055】
以下、光学装置1の制御部15が実行する処理について説明する。図8は、区間に基づいて位相の重みを決定することを説明するための図である。まず、位相決定部152は、第1位相φと第2位相φとを決定する。続いて、合成部153は、第1位相φと第2位相φとのそれぞれの平均位相を算出する。具体的には、合成部153は、第1位相φに対する平均位相A1と、第2位相φに対する平均位相A2とをそれぞれ算出する。そして、合成部153は、平均位相A1と平均位相A2との差であるφoffsetを算出する。図8(A)に、位相決定部152が決定した第1位相φ及び第2位相φと、合成部153が算出した平均位相A1、平均位相A2、及びφoffsetとを示す。
【0056】
次に、合成部153は、第1位相φの絶対値と、第2位相φの絶対値とのうち、絶対値が小さい位相にφoffsetを加算する。ここでは、合成部153が位相φにφoffsetを加算する(図8(B))ものとして説明するが、位相φにφoffsetを加算してもよい。
【0057】
そして、合成部153は、位相φの値が所定の区間内の位相の重みを1にする。具体的には、合成部153は、下記の式(9)及び上記の式(7)を用いて、第1位相φと第2位相φとを合成する。
α≦φ<β ⇒ k(φ)=1、k(φ)=0
φ<α、β≦φ、 ⇒ k(φ)=0、k(φ)=0 式(8)
図8(C)は、位相φの値が所定の区間内の位相の重みを1にし、区間外の位相の重みを0にして合成した合成関数φsynthをプロットしたグラフである。
【0058】
なお、上記のα及びβは、光学装置1を製造する事業者が適宜設定すればよいが、例えば、α=π/2、β=3π/2に設定すると、二分の一の周期で発生する位相解析誤差を低減することができる。また、上記のα及びβは、それぞれ複数設定してもよい。例えば、αとβとの間隔をπ/4に設定した場合、合成部153は、位相を変数とする正接関数の値が無限大に発散する方の重みを0にして、無限大に発散しない方の重みを1にする。このようにすることで、光学装置1は、誤差が大きくなる位相を用いずに、測定対象物4の形状を測定できるので、誤差を低減できる。
【0059】
なお、本実施の形態において、光学系12が干渉光を2つに分割する場合について説明したが、干渉光を分割する数はこれに限らず3以上であってもよい。また、本実施の形態において、偏光板124を回転させる角度が45度である場合について説明したが、偏光板124を回転させる角度はこれにかぎらない。偏光板124aと偏光板124bとが同一の角度でなければ、正接関数の絶対値が大きくなる位相を異ならせることができる。
【0060】
(変形例1)
光学装置1は、第1位相と第2位相とがともに所定の区間内である場合、位相を変数とする正接関数の値に基づいて決定した重みで、第1位相と第2位相とを合成する。以下、変形例1に係る光学装置1の合成部153について説明する。
【0061】
合成部153は、位相決定部152により決定された第1位相と第2位相とのうち、位相を変数とする正接関数の値の絶対値が大きい方の重みを、位相を変数とする正接関数の値の絶対値が小さい方の重みより小さくして、第1位相と第2位相とを合成する。具体的には、合成部153は、|tan(φ(x、y))|と|tan(φ(x、y))|とを比較して(図6の(E))、位相決定部152により決定された第1位相φ(x、y)と第2位相φ(x、y)とのうち、位相を変数とする正接関数の値の絶対値が大きい方を決定する。そして、合成部153は、位相を変数とする正接関数の値の絶対値が大きい方の重みを、位相を変数とする正接関数の値の絶対値が小さい方の重みより小さくして、第1位相φ(x、y)と第2位相φ(x、y)とを合成する。
【0062】
合成部153は、位相を変数とする正接関数の値の絶対値が大きい方にかける係数kを、位相を変数とする正接関数の値の絶対値が小さい方にかける係数kより小さくして合成する。係数kは、位相φ(x、y)の関数であり、第1位相φ(x、y)には係数k(φ(x、y))をかけ、第2位相φ(x、y)には係数k(φ(x、y))をかける。より具体的には、合成部153は、式(7)を用いて第1位相φ(x、y)と第2位相φ(x、y)とを合成する。そして、合成部153は、第1位相φ(x、y)と第2位相φ(x、y)とを合成した合成位相φsynth(x、y)を形状作成部154に送信する。
【0063】
このように、光学装置1は、位相をオフセットした二つの干渉光群に基づいて二つの位相を決定し、二つの位相のうち、位相を変数とする正接関数の絶対値が大きい方の重みを、位相を変数とする正接関数の絶対値が小さい方の重みより小さくして合成する。そして、光学装置1は、合成した位相を用いて測定対象物4の形状を作成する。このようにすることで、光学装置1は、測定原理上、干渉光の位相を変数とする正接関数の値が大きくなる場合においても、計算上の誤差を低減することができる。そのため、光学装置1は、測定対象物4の形状の測定誤差を低減できる。
【0064】
なお、合成部153は、第1位相と第2位相とがともに所定の区間内である場合、重みを重くする位相を予め定めていてもよい。重みを重くする位相の定め方は、光学装置1を製造する事業者が適宜定めればよいが、光学装置1が定めてもよい。例えば、光学装置1は、測定対象物4の形状を複数回測定し、複数回の測定により得られる複数の第1位相に基づき定まるばらつきσ1と、複数の第2位相に基づき定まるばらつきσ2とのうち、ばらつきが小さい位相の重みを重くする。具体的には、光学装置1は、ばらつきσ1とばらつきσ2との比に基づいて、第1位相の重み及び第2位相の重みを定める。このようにすることで、光学装置1は、位相のばらつきがより小さい方の重みを重くして第1位相と第2位相とを合成するので、測定対象物4の形状の測定誤差を低減できる。
【0065】
合成部153は、第1位相と第2位相とがともに所定の区間内である場合、第1位相の重みと第2位相の重みとを等しくしてもよい。例えば、合成部153は、第1位相と第2位相とがともに所定の区間内であり、かつ、ばらつきσ1とばらつきσ2との差が所定の差以下である場合、第1位相の重みと第2位相の重みとを等しくする。例えば、合成部153は、測定対象物4の凹凸の大きさにより要求される測定精度に基づいて所定の差を定める。
【0066】
(変形例2)
光源11が照射する光の波長を変更する場合、設定した波長変化量Δλに対し、実際に変更される波長の変化量が異なってしまう場合がある。この場合、カメラ13で検出される光の強度Iは、設定した波長変化量Δλと、実際に変更される波長の変化量との差に比例する誤差が含まれる。誤差Erを含む場合の干渉光は、式(8)で表される。
【数7】
【0067】
式(8)における誤差Erは、位相決定部152が決定した位相に周期的に発生する三位相解析誤差として計算結果に表れる。位相解析誤差は、それぞれ位相が異なる複数の干渉光の強度により定まる三角関数の周期に対し、2分の1の周期(2倍の周波数)で増減して発生する。以下、2分の1の周期で発生する位相解析誤差について説明する。
【0068】
図9は、位相解析誤差について説明するための図である。図9(A)は、x軸方向の所定の長さにおいて、それぞれ位相が異なる複数の干渉光の強度により定まる三角関数の1周期が収まるように傾けた測定対象物4を模式的に示す図である。なお、ここでは、測定対象物4は、表面が平滑な理想平面であることを想定している。
【0069】
図9(B)は、横軸をx座標、縦軸を干渉光の強度として、図9(A)に示す理想平面から反射した測定光と参照光とが干渉した干渉光の強度をプロットしたグラフである。図9(C)は、横軸をx座標、縦軸を誤差の大きさとして、図9(B)の干渉光を解析することにより生じる位相解析誤差をプロットしたグラフである。
【0070】
図9(D)は、図9(B)の干渉光の位相を90度オフセットした干渉光の強度をプロットしたグラフである。図9(E)は、図9(D)の干渉光を解析することにより生じる位相解析誤差をプロットしたグラフである。
【0071】
図9(C)に示す位相解析誤差と、図9(E)に示す位相解析誤差とは、位相が反転した状態である。位相解析誤差が反転した状態の二つの位相を合成すると、位相解析誤差をキャンセルすることができる。図9(F)は、位相解析誤差が反転した状態の二つの位相を合成することにより打ち消された位相解析誤差をプロットしたグラフである。
【0072】
このように、位相解析誤差が、それぞれ位相が異なる複数の干渉光の強度により定まる三角関数の周期に対し、整数分の1の周期で生じることを利用して、光学装置1は、位相解析誤差が反転した状態の二つの位相を合成する。このようにすることで、光学装置1は、位相解析誤差を打ち消すことができる。そのため、光学装置1は、位相解析誤差の影響を低減した状態で測定対象物4の形状を測定できる。以下、変形例1に係る光学装置1の機能構成について説明する。変形例1に係る光学装置1の制御部15は、記憶部14に記憶されたプログラムを実行することにより、位相調整部156としての機能を実現する。
【0073】
位相調整部156は、位相決定部152が決定した第1位相φと第2位相φとのそれぞれに周期的に発生する位相解析誤差が反転するように、第1干渉光群I1j(x、y)と第2干渉光群I2j(x、y)との位相差を調整する。例えば、位相調整部156は、光学系12の偏光板124bを回転させることにより、第1干渉光群I1j(x、y)と第2干渉光群I2j(x、y)との位相差を調整する。より具体的には、位相調整部156は、偏光板124aに対して、偏光板124bの透過軸を光軸に垂直な面内において45度回転させる。このようにすることで、位相調整部156は、、第1干渉光群I1j(x、y)と第2干渉光群I2j(x、y)との位相差を90度にできる。
【0074】
次に、第1干渉光群I1j(x、y)と第2干渉光群I2j(x、y)との位相差が90度である状態において、位相決定部152は、第1位相及び第2位相を決定する。続いて、合成部153は、第1干渉光群I1j(x、y)と第2干渉光群I2j(x、y)との位相差が90度である状態における第1位相の重みと第2位相の重みとを等しくして、第1位相と第2位相とを合成する。そして、形状作成部154は、位相差が90度である状態における第1位相及び第2位相を合成した合成位相に基づいて、測定対象物4の形状を作成する。このようにすることで、光学装置1は、位相解析誤差を打ち消すことができる。
【0075】
なお、光学装置1は、上記の処理を、他の装置から位相解析誤差を打ち消す指示を受信した場合に実行してもよい。この場合、光学装置1の制御部15は、記憶部14に記憶されたプログラムを実行することにより、指示受信部155としての機能を実現する。
【0076】
指示受信部155は、他の装置から図示しない通信部を介して位相解析誤差を打ち消す処理を実行する指示を受信する。具体的には、指示受信部155は、位相解析誤差を打ち消す指示を受信する。例えば、指示受信部155は、所定の整数として、複数の位相解析誤差のうち、位相シフト法による位相解析誤差として支配的な整数を示す情報を受信する。具体的には、指示受信部155は、位相解析誤差として支配的な整数として、位相解析誤差の大きさが、他の位相解析誤差の大きさより大きな整数を受信してもよい。また、指示受信部155は、第1位相φと第2位相φとのそれぞれに周期的に発生する位相解析誤差を反転させる位相差を受信してもよい。そして、合成部153は、指示受信部155が指示を受信したことを条件として、第1位相と第2位相との重みを等しくして合成する。
【0077】
以下、図10を参照しながら、変形例1に係る光学装置1の制御部15が実行する処理について説明する。図10は、変形例1に係る光学装置1の制御部15が実行する処理のフローチャートである。まず、指示受信部155は、他の装置から位相解析誤差を打ち消す処理を実行する指示を受信する(ステップS11)。
【0078】
次に、位相調整部156は、指示受信部155が指示を受信したことを条件として、第1干渉光群と、第2干渉光群との間の位相差を調整する(ステップS12)。例えば、位相調整部156は、第1干渉光群I1j(x、y)と第2干渉光群I2j(x、y)との位相差が90度になるように、偏光板124aに対して、偏光板124bの透過軸を光軸に垂直な面内において45度回転させる。
【0079】
取得部151は、第1干渉光群により定まる第1初期位相と、第2干渉光群により定まる第2初期位相との差を、第1干渉光群と第2干渉光群との位相差として取得する(ステップS13)。
【0080】
合成部153は、指示に示される位相差と取得部151により取得された位相差とが対応するか否かを判定する(ステップS14)。例えば、合成部153は、指示に示される位相差と、取得部151により取得された位相差との差が、所定の値以下の場合に対応すると判定し、所定の値より大きい場合に対応しないと判定する。所定の値は、例えば、取得部151が取得した位相差の誤差より大きくする。
【0081】
合成部153は、指示に示される位相差と取得部151により取得された位相差とが対応しないと判定すると(ステップS14でNo)、ステップS12に移行し、指示に示される位相差と取得部により取得された位相差とが対応すると判定するまで、ステップS12からステップS14までを繰り返す。合成部153は、指示に示される位相差と取得部により取得された位相差とが対応すると判定すると(ステップS14でYes)、第1位相と第2位相との重みを等しくして合成する(ステップS15)。
【0082】
このように、変形例1に係る光学装置1は、位相解析誤差が反転するように第1干渉光群と第2干渉光群との位相差を調整し、第1位相と第2位相との重みを等しくして合成する。このようにすることで、変形例1に係る光学装置1は、位相解析誤差を打ち消すことができる。
【0083】
(変形例3)
第1干渉光を取得するカメラと、第2干渉光を取得するカメラとは、それぞれ異なっているため、カメラが検出した干渉光の強度のばらつきが異なることがある。例えば、カメラ13aで取得した第1干渉光の強度のばらつきより、カメラ13bで取得した第2干渉光の強度のばらつきの方が小さい場合、第2干渉光の強度の方が、強度の値の信頼性が高いといえる。このように、強度の値の信頼性が異なる場合、信頼性に基づいて位相の重みを補正すると、測定対象物4の形状の測定誤差を低減できる。
【0084】
そこで、合成部153は、予め設定された補正値を用いて重みを補正する。例えば、合成部153は、予め第1位相と第2位相とのそれぞれに設定された補正値を用いて、第1位相と第2位相とのそれぞれの重みを補正して第1位相と第2位相とを合成する。補正値は、光学装置1を製造する事業者が適宜設定すればよいが、光学装置1の制御部15が補正値を決定する処理を実行することにより定めてもよい。
【0085】
(補正値を決定する処理)
まず、取得部151は、第1干渉光群及び第2干渉光群を取得する。続いて、位相決定部152は、第1干渉光群の第1位相と、第2干渉光群の第2位相とをそれぞれ決定する。
【0086】
次に、取得部151は、先に取得した第1干渉光群及び第2干渉光群と同一の測定対象物4における第1干渉光群及び第2干渉光群を再度取得する。続いて、位相決定部152は、再度取得された第1干渉光群の第1位相と、再度取得された第2干渉光群の第2位相とをそれぞれ決定する。このようにすることで、位相決定部152は、同一の測定対象物4について、複数の第1位相と、複数の第2位相とを決定する。
【0087】
合成部153は、複数の第1位相を統計的に解析し、第1位相の第1ばらつきσを算出する。同様に、合成部153は、複数の第2位相を統計的に解析し、第2位相の第2ばらつきσを算出する。そして、合成部153は、ばらつきσが大きい方の重みが、ばらつきσが小さい方の重みよりちいさくなるように、第1位相と第2位相とのそれぞれの補正値を設定する。
【0088】
図11は、設定された補正値を用いて重みを補正することを説明するための図である。図11において、第1ばらつきσが第2ばらつきσより大きく、σ=M・σの関係にあるものとして説明する。この場合、合成部153は、第1位相の重みの補正値Cを1/(1+M)と設定し、第2位相の重みの補正値CをM/(1+M)と設定する。
【0089】
まず、位相決定部152は、第1位相φと第2位相φとを決定する。図11(A)は、位相決定部152が決定した第1位相φと第2位相φとをプロットしたグラフである。
【0090】
次に、合成部153は、第1位相の重みの補正値Cを第1位相φに乗算し、第2位相の重みの補正値Cを第2位相φに乗算する。図11(B)は、第1位相の重みの補正値Cを第1位相φに乗算した第1補正後位相Cφと、第2位相の重みの補正値Cを第2位相φに乗算した第2補正後位相Cφとをプロットしたグラフである。
【0091】
続いて、合成部153は、第1位相φと第2位相φと差であるφoffsetを第2補正後位相Cφに加算する(図11(C))。そして、合成部153は、第1補正後位相Cφと、φoffsetを加算した第2補正後位相Cφとを合成する。図11(D)は、合成位相をプロットしたグラフである。
【0092】
このようにすることで、光学装置1は、ばらつきに応じた重みづけ平均を取ることができるので、合成位相φsynthの信頼性を高めることができる。なお、上記の説明において、合成部153は、干渉光の強度のばらつきを算出したが、これに限らず、カメラ13aとカメラ13bとの観測系固有の性質により発生する誤差の量に応じて、重み付け係数の補正値Cを設定してもよい。例えば、合成部153は、重み付けの係数の補正値を第1位相φ又は第2位相φの関数として、区間や値に応じて重み付け係数の補正値を設定してもよい。
【0093】
以上、合成部153が重みを補正する補正値を決めることを説明したが、これに限らず合成部153は、取得した干渉光の強度の値の信頼性に基づいて、重みを決定してもよい。この場合、合成部153は、第1干渉光群の信頼性と、第2干渉光群の信頼性とのうち、干渉光の強度の値の信頼性が高い干渉光群を解析した位相の重みを、干渉光の強度の値の信頼性が低い干渉光群を解析した位相の重みより重くする。また、合成部153は、信頼性が高い干渉光群を解析した位相の重みを1にして、信頼性が低い干渉光群を解析した位相の重みを0にしてもよい。
【0094】
[実施の形態に係る光学装置1の効果]
以上説明したように、光学装置1は、位相をオフセットした複数の干渉光群に基づいて複数の位相を決定し、複数の位相のうち、位相を変数とする正接関数の絶対値が大きい方の重みを、位相を変数とする正接関数の絶対値が小さい方の重みより小さくして合成する。そして、光学装置1は、合成した位相を用いて測定対象物4の形状を作成する。このようにすることで、光学装置1は、測定原理上、干渉光の位相を変数とする正接関数の値が大きくなる場合においても、計算上の誤差を低減することができる。そのため、光学装置1は、測定対象物4の形状の測定誤差を低減できる。
【0095】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。また、装置の分散・統合の具体的な実施の形態は、以上の実施の形態に限られず、その全部又は一部について、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を合わせ持つ。
【0096】
上記の実施の形態において、各カメラで得られる干渉光に位相差を付与するための光学系として、直交偏光の参照光と測定光からなる非干渉状態の光をλ/4板により左右逆回りの円偏光にして分割した後に、偏光板の透過軸の設置角度により位相差を付与する方法を示した。これに限らず、非干渉状態の光を直線偏光のまま分割して参照光と測定光との共通偏光成分を偏光板で取り出して干渉させる方法を用いてもよい。この場合、分割した光路上に波長板を配置して参照光と測定光との間に位相差を与えて、所定の位相差で干渉した干渉光を得てもよい。また、ビームスプリッタと偏光板とを、双方の機能を兼ね備える偏光ビームスプリッタで代用してもよい。また、これら方法に限らず、非干渉状態の被検光束から干渉信号を得るための一般的な方法であれば、いずれの方法を用いてもよい。さらに、上記の説明においては、光の波長を変更することによる位相シフト法を用いたが、位相をシフトさせる方法はこれに限らない。例えば、参照面又は測定対象物を光軸方向に移動させることにより、光路長差を変更し、干渉光の位相をシフトさせてもよく、他の方法で干渉光の位相をシフトさせてもよい。
【0097】
また、実施の形態に係る光学装置1は、測定対象物4の複数の位置それぞれについて、所定の区間内であるか否かに基づいて位相の重みを決定した。これに限らず、光学装置1は、所定の区間内であるか否かにかかわらず、測定対象物4の複数の位置それぞれについて、第1位相と第2位相とのうち、位相を変数とする正接関数の絶対値が大きい方の重みを、位相を変数とする正接関数の絶対値が小さい方の重みより小さくして第1位相と第2位相とを合成してもよい。
【符号の説明】
【0098】
1 光学装置
3 参照面
4 測定対象物
5 光学装置
11 光源
12 光学系
13 カメラ
14 記憶部
15 制御部
16 表示部
120 ピンホール
121 レンズ
122 ビームスプリッタ
123 λ/4板
124 偏光板
150 波長変更部
151 取得部
152 位相決定部
153 合成部
154 形状作成部
155 指示受信部
156 位相調整部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11