(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-27
(45)【発行日】2022-06-06
(54)【発明の名称】印刷物の製造方法及び印刷装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20220530BHJP
B41J 2/21 20060101ALI20220530BHJP
【FI】
B41J2/01 123
B41J2/21
B41J2/01 125
B41J2/01 501
(21)【出願番号】P 2020562961
(86)(22)【出願日】2019-11-27
(86)【国際出願番号】 JP2019046365
(87)【国際公開番号】W WO2020137323
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-06-17
(31)【優先権主張番号】P 2018242817
(32)【優先日】2018-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【氏名又は名称】松浦 憲三
(74)【代理人】
【識別番号】100170069
【氏名又は名称】大原 一樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128635
【氏名又は名称】松村 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100140992
【氏名又は名称】松浦 憲政
(72)【発明者】
【氏名】又木 裕司
【審査官】加藤 昌伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-147405(JP,A)
【文献】特開2006-212881(JP,A)
【文献】特開2009-143146(JP,A)
【文献】特開2013-159100(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0029259(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01 - 2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カラーインク及びホワイトインクを凝集させる凝集剤を含む第1処理液を印刷物とする透明な非浸透媒体に付与する第1処理液付与工程と、
前記第1処理液が付与された前記非浸透媒体にインクジェット方式で前記カラーインクを付与して画像を印刷するカラーインク付与工程と、
前記カラーインクが付与された前記非浸透媒体にインクジェット方式で前記ホワイトインクを付与するホワイトインク付与工程と、
前記カラーインクの付与量と前記ホワイトインクの付与量との合計量を算出する算出工程と、
前記合計量が閾値を超える場合に、前記カラーインク付与後かつ前記ホワイトインク付与前に少なくとも前記ホワイトインクを凝集させる凝集剤を含む第2処理液を前記非浸透媒体にインクジェット方式で付与する第2処理液付与工程と、
を備えた印刷物の製造方法。
【請求項2】
前記画像を示す画像データを取得する画像取得工程を備え、
前記算出工程は、前記画像データから前記合計量を算出する請求項1に記載の印刷物の製造方法。
【請求項3】
前記画像を複数の領域に分割する分割工程を備え、
前記算出工程は、前記分割した領域毎に前記合計量を算出し、
前記第2処理液付与工程は、前記合計量が閾値を超える前記領域に対応する前記非浸透媒体の印刷領域に前記第2処理液を付与する請求項2に記載の印刷物の製造方法。
【請求項4】
前記カラーインクが付与された前記非浸透媒体を乾燥させる第1乾燥工程を備えた請求項1から3のいずれか1項に記載の印刷物の製造方法。
【請求項5】
前記ホワイトインクが付与された前記非浸透媒体を乾燥させる第2乾燥工程を備えた請求項1から4のいずれか1項に記載の印刷物の製造方法。
【請求項6】
前記第1処理液付与工程は、塗布ローラを用いて前記第1処理液を前記非浸透媒体に塗布する請求項1から5のいずれか1項に記載の印刷物の製造方法。
【請求項7】
前記第1処理液及び前記第2処理液は酸を含む請求項1から6のいずれか1項に記載の印刷物の製造方法。
【請求項8】
前記非浸透媒体に付与される前記第1処理液の単位面積当たりの前記酸の量と前記第2処理液の単位面積当たりの前記酸の量とは等しい請求項7に記載の印刷物の製造方法。
【請求項9】
カラーインク及びホワイトインクを凝集させる凝集剤を含む第1処理液を非浸透媒体に付与する第1処理液付与部と、
前記第1処理液が付与された前記非浸透媒体にインクジェット方式で前記カラーインクを付与して画像を印刷するカラーインク付与部と、
前記カラーインクが付与された前記非浸透媒体にインクジェット方式で前記ホワイトインクを付与するホワイトインク付与部と、
前記カラーインクの付与量と前記ホワイトインクの付与量との合計である合計量を算出する算出部と、
前記合計量が閾値を超える場合に、前記カラーインク付与後かつ前記ホワイトインク付与前に少なくとも前記ホワイトインクを凝集させる凝集剤を含む第2処理液を前記非浸透媒体にインクジェット方式で付与する第2処理液付与部と、
を備えた印刷装置。
【請求項10】
前記非浸透媒体を前記第1処理液付与部、前記カラーインク付与部、前記第2処理液付与部、前記ホワイトインク付与部の順に搬送する搬送部を備えた請求項9に記載の印刷装置。
【請求項11】
前記搬送部は、ロール状に巻かれた長尺の前記非浸透媒体を引き出して搬送し、印刷済みの前記非浸透媒体をロール状に巻き取る請求項10に記載の印刷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は印刷物の製造方法及び印刷装置に係り、特に裏刷りの印刷物を製造する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
透明な媒体に印刷された画像を、媒体のインクが付与された面とは反対側の面から媒体を通して視認する、いわゆる裏刷りの印刷物が知られている。特許文献1には、透明フィルムにカラー画像を裏刷りする場合に、カラーインクを付与して画像を印刷した後にホワイトインクを付与して背景を印刷するインクジェットプリンタが記載されている。
【0003】
また、処理液によってインクを凝集させて印刷する方式が知られている。特許文献2には、色材凝集剤を含む処理液を記録媒体に塗布し、処理液が塗布された記録媒体にインクジェットヘッドによって各色インクを吐出して画像を記録するインクジェット記録装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-161756号公報
【文献】特開2001-353861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
インクを凝集させる処理液を付与した後にカラーインクを付与し、さらにホワイトインクを付与して軟包装の裏刷りを行うと、カラーインクとホワイトインクの合計インク量が多い場合に、処理液の凝集性が不足することがある。処理液の凝集性が不足すると、印刷物に裏写りが発生する等の問題があった。
【0006】
これを防止するためには、カラーインク付与前に付与する処理液の量を増加させることが考えられる。しかしながら、処理液の量が多すぎるとカラーインクのドット径が小さくなり、所望の画質及び濃度が得られないという問題があった。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、高画質な裏刷りの印刷物を得る印刷物の製造方法及び印刷装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために印刷物の製造方法の一の態様は、カラーインク及びホワイトインクを凝集させる凝集剤を含む第1処理液を印刷物とする透明な非浸透媒体に付与する第1処理液付与工程と、第1処理液が付与された非浸透媒体にインクジェット方式でカラーインクを付与して画像を印刷するカラーインク付与工程と、カラーインクが付与された非浸透媒体にインクジェット方式でホワイトインクを付与するホワイトインク付与工程と、カラーインクの付与量とホワイトインクの付与量との合計量を算出する算出工程と、合計量が閾値を超える場合に、カラーインク付与後かつホワイトインク付与前に少なくともホワイトインクを凝集させる凝集剤を含む第2処理液を非浸透媒体にインクジェット方式で付与する第2処理液付与工程と、を備えた印刷物の製造方法である。
【0009】
本態様によれば、カラーインクの付与量とホワイトインクの付与量との合計量が閾値を超える場合に、カラーインク付与後かつホワイトインク付与前に少なくともホワイトインクを凝集させる凝集剤を含む第2処理液を非浸透媒体にインクジェット方式で付与するようにしたので、高画質な裏刷りの印刷物を得ることができる。
【0010】
画像を示す画像データを取得する画像取得工程を備え、算出工程は、画像データから合計量を算出することが好ましい。これにより、合計量を適切に算出することができる。
【0011】
画像を複数の領域に分割する分割工程を備え、算出工程は、分割した領域毎に合計量を算出し、第2処理液付与工程は、合計量が閾値を超える領域に対応する非浸透媒体の印刷領域に第2処理液を付与することが好ましい。これにより、非浸透媒体の印刷領域に付与される合計量に応じて第2処理液を適切に付与することができる。
【0012】
カラーインクが付与された非浸透媒体を乾燥させる第1乾燥工程を備えることが好ましい。これにより、カラーインクを適切に乾燥させることができる。
【0013】
ホワイトインクが付与された非浸透媒体を乾燥させる第2乾燥工程を備えることが好ましい。これにより、ホワイトインクを適切に乾燥させることができる。
【0014】
第1処理液付与工程は、塗布ローラを用いて第1処理液を非浸透媒体に塗布することが好ましい。これにより、第1処理液を適切に付与することができる。
【0015】
第1処理液及び第2処理液は酸を含むことが好ましい。これにより、カラーインク及びホワイトインクを適切に凝集させることができる。
【0016】
非浸透媒体に付与される第1処理液の単位面積当たりの酸の量と第2処理液の単位面積当たりの酸の量とは等しいことが好ましい。これにより、カラーインク及びホワイトインクを適切に凝集させることができる。
【0017】
上記目的を達成するために印刷装置の一の態様は、カラーインク及びホワイトインクを凝集させる凝集剤を含む第1処理液を非浸透媒体に付与する第1処理液付与部と、第1処理液が付与された非浸透媒体にインクジェット方式でカラーインクを付与して画像を印刷するカラーインク付与部と、カラーインクが付与された非浸透媒体にインクジェット方式でホワイトインクを付与するホワイトインク付与部と、カラーインクの付与量とホワイトインクの付与量との合計である合計量を算出する算出部と、合計量が閾値を超える場合に、カラーインク付与後かつホワイトインク付与前に少なくともホワイトインクを凝集させる凝集剤を含む第2処理液を非浸透媒体にインクジェット方式で付与する第2処理液付与部と、を備えた印刷装置である。
【0018】
本態様によれば、カラーインクの付与量とホワイトインクの付与量との合計量が閾値を超える場合に、カラーインク付与後かつホワイトインク付与前に少なくともホワイトインクを凝集させる凝集剤を含む第2処理液を非浸透媒体にインクジェット方式で付与するようにしたので、高画質な裏刷りの印刷物を得ることができる。
【0019】
非浸透媒体を第1処理液付与部、カラーインク付与部、第2処理液付与部、ホワイトインク付与部の順に搬送する搬送部を備えることが好ましい。これにより、非浸透媒体に適切に印刷することができる。
【0020】
搬送部は、ロール状に巻かれた長尺の非浸透媒体を引き出して搬送し、印刷済みの非浸透媒体をロール状に巻き取ることが好ましい。これにより、軟包装等の非浸透媒体に適切に印刷することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、高画質な裏刷りの印刷物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図2】インクジェット記録装置の電気的構成を示すブロック図
【
図3】第1実施形態に係る印刷物の製造方法の処理を示すフローチャート
【
図4】第2実施形態に係る印刷物の製造方法の処理を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面に従って本発明の好ましい実施形態について詳説する。なお、本明細書中で、数値範囲を“ ~ ”を用いて表す場合は、“ ~ ”で示される上限、下限の数値も数値範囲に含むものとする。
【0024】
<インクジェット記録装置の構成>
図1は、本実施形態に係るインクジェット記録装置10の概略を示す模式図である。インクジェット記録装置10は、長尺の非浸透媒体12にシングルパス方式で画像を印刷する印刷装置である。本実施形態に係る非浸透媒体12は、軟包装に用いられる透明の媒体である。インクジェット記録装置10は、非浸透媒体12に対して印刷対象が印刷面とは反対側の面から視認される裏刷りの印刷物を製造することができる。
【0025】
なお、非浸透とは、後述する処理液及びインクに対して非浸透性を有することをいう。軟包装とは、包装される物品の形状により変形する材料による包装をいう。透明とは、可視光の透過率が30%以上であることをいい、好ましくは70%以上であることをいう。
【0026】
図1に示すように、インクジェット記録装置10は、送出ロール14、巻取ロール16、搬送部18、第1処理液付与部30、第1処理液乾燥部32、カラーインク付与部34、カラーインク乾燥部38、第2処理液付与部40、第2処理液乾燥部44、ホワイトインク付与部46、及びホワイトインク乾燥部50を備えている。
【0027】
送出ロール14は、回転可能に支持された不図示のリールを備えている。リールには、画像が印刷される前の非浸透媒体12がロール状に巻かれている。
【0028】
巻取ロール16は、回転可能に支持された不図示のリールを備えている。リールには、非浸透媒体12の一端が接続されている。
【0029】
搬送部18は、ガイドローラ20、22、24、26、及び28を備えている。また、搬送部18は、送出ロール14のリールを回転駆動させる不図示の送出モータ、及び巻取ロール16のリールを回転駆動させる不図示の巻取モータを備えている。
【0030】
搬送部18は、送出モータにより送出ロール14のリールを回転駆動させ、送出ロール14から非浸透媒体12を送出させる。また、搬送部18は、巻取モータにより巻取ロール16のリールを回転駆動させ、印刷済みの非浸透媒体12を巻取ロール16に巻き取らせる。
【0031】
搬送部18は、送出ロール14から送出された非浸透媒体12をガイドローラ20、22、24、26、及び28によって案内し、第1処理液付与部30、第1処理液乾燥部32、カラーインク付与部34、カラーインク乾燥部38、第2処理液付与部40、第2処理液乾燥部44、ホワイトインク付与部46、及びホワイトインク乾燥部50の順に搬送する。このように、非浸透媒体12は、送出ロール14から巻取ロール16までの搬送経路を、ガイドローラ20、22、24、26、及び28に案内されてロール・ツー・ロール方式で搬送される。
【0032】
非浸透媒体12の搬送経路の送出ロール14の下流側には、ガイドローラ20及び22が配置されている。送出ロール14から送出された非浸透媒体12は、ガイドローラ20及び22によって案内されて、第1処理液付与部30に搬送される。
【0033】
第1処理液付与部30は、非浸透媒体12の印刷面に第1処理液を付与する。第1処理液は、カラーインク及びホワイトインクに含有される成分を凝集させる作用を有する凝集剤を含む。凝集剤は、例えば酸性化合物、多価金属塩、カチオン性ポリマー等を挙げることができる。本実施形態の第1処理液は、凝集剤として酸を含む酸性液である。
【0034】
第1処理液付与部30は、不図示の塗布ローラを用いて非浸透媒体12の印刷面に第1処理液を一様に塗布する。第1処理液の塗布量は、カラーインク付与部34で付与されるカラーインクを適切に凝集させる量であればよい。第1処理液付与部30は、インクジェット方式で第1処理液を吐出するヘッドを用いて第1処理液を一様に付与してもよい。
【0035】
第1処理液の付与前に非浸透媒体12を加熱してもよい。加熱温度としては、非浸透媒体12の種類及び第1処理液の組成に応じて適宜設定すればよいが、非浸透媒体12の温度を20℃~50℃とすることが好ましく、25℃~40℃とすることがより好ましい。
【0036】
非浸透媒体12の搬送経路の第1処理液付与部30の下流側には、第1処理液乾燥部32が配置されている。第1処理液乾燥部32は、非浸透媒体12の印刷面に付与された第1処理液を乾燥させる。
【0037】
第1処理液乾燥部32は、ヒータ等の公知の加熱手段、又はドライヤ等の送風を利用した送風手段、あるいはこれらを組み合わせた手段を用いて構成することができる。加熱手段は、非浸透媒体12の印刷面とは反対側にヒータ等の発熱体を配置する方法、非浸透媒体12の印刷面に温風又は熱風をあてる方法、又は赤外線ヒータを用いた加熱法などが挙げられ、これらの複数を組み合わせて加熱してもよい。
【0038】
また、非浸透媒体12の種類(材質、厚み等)及び環境温度等によって、非浸透媒体12の印刷面の温度は変化する。したがって、非浸透媒体12の印刷面の温度を計測する計測部と計測部で計測された温度の値を第1処理液乾燥部32にフィードバックする制御機構を設け、温度制御しながら第1処理液を乾燥させることが好ましい。非浸透媒体12の印刷面の温度を計測する計測部としては、接触又は非接触の温度計が好ましい。
【0039】
また、溶媒除去ローラ等を用いて溶媒除去を行ってもよい。他の態様として、エアナイフで余剰な溶媒を非浸透媒体12から取り除く方式も用いられる。
【0040】
非浸透媒体12の搬送経路の第1処理液乾燥部32の下流側には、カラーインク付与部34が配置されている。カラーインク付与部34は、第1処理液が付与された非浸透媒体12の印刷面にインクジェット方式でカラーインクを付与して画像を印刷する。カラーインクとは、着色剤を含むインクである。インクは、インク組成物ともいう。ここでは、ブラックインク、シアンインク、マゼンタインク、及びイエローインクの4色のカラーインクを付与する。
【0041】
カラーインク付与部34は、インクジェットヘッド36K、36C、36M、及び36Yを備えている。インクジェットヘッド36K、36C、36M、及び36Yは、非浸透媒体12の搬送経路に沿って一定の間隔で配置される。インクジェットヘッド36K、36C、36M、及び36Yは、非浸透媒体12に対してシングルパスで画像記録が可能なラインヘッドである。ラインヘッドとは、液滴を吐出する不図示の複数のノズルが非浸透媒体12の進行方向に直交する方向の幅以上の長さに渡って配置されたヘッドである。ラインヘッドは、不図示の複数のヘッドモジュールを繋ぎ合わせて構成してもよい。
【0042】
インクジェットヘッド36K、36C、36M、及び36Yは、それぞれブラック、シアン、マゼンタ、及びイエローの着色剤を含む水性のブラックインク、シアンインク、マゼンタインク、及びイエローインクの液滴を吐出して、非浸透媒体12の印刷面にカラー画像を印刷する。非浸透媒体12の印刷面に吐出されたカラーインクは、予め印刷面に付与された第1処理液によって凝集する。
【0043】
なお、カラーインク付与部34は、短尺のシリアルヘッドを非浸透媒体12の幅方向に走査させながらインクを吐出するシャトル方式によってカラー画像を印刷してもよい。
【0044】
非浸透媒体12の搬送経路のカラーインク付与部34の下流側には、カラーインク乾燥部38が配置されている。カラーインク乾燥部38は、画像が印刷された非浸透媒体12を加熱して、カラーインクを乾燥させる。カラーインク乾燥部38は、第1処理液乾燥部32と同様に構成することができる。
【0045】
非浸透媒体12の搬送経路のカラーインク乾燥部38の下流側には、第2処理液付与部40が配置されている。第2処理液付与部40は、カラーインク付与後かつホワイトインク付与前の非浸透媒体12の印刷面にインクジェット方式で第2処理液を付与する。
【0046】
第2処理液は、少なくともホワイトインクに含有される成分を凝集させる作用を有する凝集剤を含む。凝集剤は、例えば酸性化合物、多価金属塩、カチオン性ポリマー等を挙げることができる。本実施形態の第2処理液は、第1処理液とは粘度が異なる酸性液である。したがって、第2処理液は、カラーインク及びホワイトインクに含有される成分を凝集させる作用を有する。また、第2処理液は、インクジェット方式の吐出に適した粘度を有している。
【0047】
第2処理液付与部40は、インクジェット方式で第2処理液を吐出する第2処理液吐出ヘッド42を備えている。第2処理液吐出ヘッド42は、非浸透媒体12に対してシングルパスで第2処理液の付与が可能なラインヘッドである。第2処理液付与部40は、第2処理液吐出ヘッド42から第2処理液を吐出させて非浸透媒体12の印刷面に付与する。第2処理液付与部40は、短尺のシリアルヘッドを用いたシャトル方式によって第2処理液を付与してもよい。第2処理液の付与量は、例えばホワイトインク付与部46で付与されるホワイトインクを適切に凝集させる量であればよい。
【0048】
カラーインクを付与した後に接触式による方法で第2処理液を付与すると、接触部にカラーインクが転写するおそれがある。第2処理液付与部40は、インクジェット方式で第2処理液を吐出するため、接触部への転写が発生せず、第2処理液を適切に付与することができる。
【0049】
非浸透媒体12の搬送経路の第2処理液付与部40の下流側には、第2処理液乾燥部44が配置されている。第2処理液乾燥部44は、非浸透媒体12の印刷面に付与された第2処理液を乾燥させる。第2処理液乾燥部44は、第1処理液乾燥部32と同様に構成することができる。
【0050】
非浸透媒体12の搬送経路の第2処理液乾燥部44の下流側には、ホワイトインク付与部46が配置されている。ホワイトインク付与部46は、カラーインクが付与された非浸透媒体12にインクジェット方式でホワイトインクを付与する。ホワイトインクは、純粋な白色のインクに限定されず、透明な非浸透媒体12の裏刷りの背景用インクとして使用可能な淡色のインクを含む。
【0051】
インクジェットヘッド48Wは、非浸透媒体12に対してシングルパスでホワイトの着色剤を含む水性のホワイトインクの付与が可能なラインヘッドである。インクジェットヘッド48Wは、ホワイトインクの液滴を吐出して、非浸透媒体12の印刷面にホワイトインクを付与する。ホワイトインク付与部46は、短尺のシリアルヘッドを用いたシャトル方式によってホワイトインクを付与してもよい。非浸透媒体12の印刷面に付与されたホワイトインクは、予め印刷面に付与された第1処理液及び第2処理液によって凝集する。
【0052】
非浸透媒体12の搬送経路のホワイトインク付与部46の下流側には、ガイドローラ24が配置され、非浸透媒体12の進行方向が折り返される。非浸透媒体12の搬送経路のガイドローラ24の下流側には、ホワイトインク乾燥部50が配置されている。
【0053】
ホワイトインク乾燥部50は、ホワイトインクが付与された非浸透媒体12を加熱して、非浸透媒体12を最終的に乾燥させる。ホワイトインク乾燥部50は、第1処理液乾燥部32と同様に構成することができる。
【0054】
なお、インクジェット記録装置10は、ガイドローラ24によって非浸透媒体12の進行方向を折り返すことで省スペース化が図られているが、非浸透媒体12を送出ロール14から巻取ロール16まで一定方向に搬送してもよい。
【0055】
非浸透媒体12の搬送経路のホワイトインク乾燥部50の下流側には、ガイドローラ26及び28が配置されている。
【0056】
非浸透媒体12は、ガイドローラ26及び28により巻取ロール16に案内される。巻取ロール16は、裏刷りの印刷物である非浸透媒体12をリールに巻き取る。
【0057】
<インクジェット記録装置の電気的構成>
図2は、インクジェット記録装置10の電気的構成を示すブロック図である。
図2に示すように、インクジェット記録装置10は、インクジェット記録装置10を統括制御する制御部60を備えている。
【0058】
制御部60は、画像取得部62、画像処理部64、インク付与制御部66、搬送制御部68、画像分割部70、インク量算出部72、処理液付与制御部74、及び乾燥制御部76を備えている。
【0059】
画像取得部62は、不図示の入力部からインクジェット記録装置10が印刷する画像を示す画像データを取得する。
【0060】
画像処理部64は、取得した画像データに対して分版処理、ハーフトーン処理等を行い、ドットデータを生成する。分版処理は、画像データの各画素の表色系をブラック、シアン、マゼンタ、イエロー、及びホワイト毎の階調値に変換する。ハーフトーン処理は、画像データの色毎の階調値から画素毎にドットの有無を規定する2値化されたドットデータを生成する。
【0061】
画像処理部64は、画像データに基づいて背景画像データを生成し、画素毎にホワイトのドットの有無を規定する2値化されたドットデータを生成してもよい。また、画像処理部64は、印刷面の全面にホワイトインクのドットを配置するいわゆるベタ画像の背景画像データを生成してもよい。
【0062】
インク付与制御部66は、インクジェットヘッド36K、36C、36M、及び36Yを制御する。インク付与制御部66は、搬送部18による非浸透媒体12の搬送に同期させてインクジェットヘッド36K、36C、36M、及び36Yから色毎のドットデータに基づく液滴を吐出させ、非浸透媒体12の印刷面にカラー画像を印刷する。また、インク付与制御部66は、搬送部18による非浸透媒体12の搬送に同期させてインクジェットヘッド48Wからホワイトのドットデータに基づく液滴を吐出させ、非浸透媒体12の印刷面に背景画像を印刷する。
【0063】
搬送制御部68は、搬送部18を制御する。搬送制御部68は、搬送部18の不図示の送出モータ及び巻取モータを回転駆動させ、非浸透媒体12を搬送させる。また、搬送部18は、不図示のエンコーダを備えている。搬送部18は、エンコーダから出力されるエンコーダ信号をインク付与制御部66及び処理液付与制御部74に出力する。
【0064】
画像分割部70は、画像データが示す画像を複数の領域に分割する。画像分割部70は、例えば画像を縦にm個、横にn個の計m×n個の矩形領域に分割する。m及びnはそれぞれ自然数であり、少なくとも一方は2以上の自然数である。画像分割部70は、画像に含まれる輪郭、又は輝度分布等に応じて画像を分割してもよい。分割の最小単位は画素である。
【0065】
インク量算出部72は、画像処理部64による分版処理の結果に基づいて、カラーインクの付与量とホワイトインクの付与量との合計である合計インク量(合計量の一例)を算出する。インク量算出部72は、画像分割部70において分割された領域毎の合計インク量を算出してもよい。
【0066】
処理液付与制御部74は、第1処理液付与部30及び第2処理液付与部40を制御する。処理液付与制御部74は、第2処理液吐出ヘッド42を制御し、非浸透媒体12の印刷面への第2処理液の付与の有無を制御する。処理液付与制御部74は、非浸透媒体12の印刷面のうち画像分割部70において分割された領域に対応する非浸透媒体12の印刷領域に選択的に第2処理液を付与してもよい。第2処理液の付与の詳細については後述する。
【0067】
乾燥制御部76は、第1処理液乾燥部32、カラーインク乾燥部38、第2処理液乾燥部44、及びホワイトインク乾燥部50を制御する。
【0068】
<印刷物の製造方法:第1実施形態>
図3は、インクジェット記録装置10を用いた印刷物の製造方法の処理を示すフローチャートである。ここでは、非浸透媒体12に対して裏刷りを行って印刷物を製造する。
【0069】
図3に示すように、印刷物の製造方法は、画像取得工程(ステップS1)と、算出工程(ステップS3)と、第1処理液付与工程(ステップS4)と、カラーインク付与工程(ステップS5)と、ホワイトインク付与工程(ステップS7)と、第2処理液付与工程(ステップS6)と、を備えている。
【0070】
ステップS1では、画像取得部62は、インクジェット記録装置10が印刷する画像を示す画像データを取得する。
【0071】
ステップS2では、画像処理部64は、取得した画像データに対して分版処理、ハーフトーン処理等を行い、ブラック、シアン、マゼンタ、イエロー、及びホワイトのドットデータを生成する。
【0072】
ステップS3では、インク量算出部72は、画像処理部64の分版処理の結果に基づいて、カラーインクの付与量とホワイトインクの付与量との合計である合計インク量を算出する。
【0073】
ステップS4では、処理液付与制御部74は、第1処理液付与部30によって非浸透媒体12の印刷面に第1処理液を付与する。第1処理液の付与量としては、カラーインクを凝集可能であれば特に制限はないが、本実施形態では1.5g/m2とした。乾燥制御部76は、第1処理液乾燥部32によって非浸透媒体12の印刷面に付与された第1処理液を乾燥させる。
【0074】
ステップS5では、インク付与制御部66は、インクジェットヘッド36K、36C、36M、及び36Yによって非浸透媒体12の印刷面に画像データに基づくカラー画像を印刷する。また、乾燥制御部76は、カラーインク乾燥部38によって非浸透媒体12の印刷面に付与されたカラーインクを乾燥させる(第1乾燥工程の一例)。
【0075】
ステップS6では、処理液付与制御部74は、ステップS3でインク量算出部72が算出した合計インク量が閾値を超える場合に、第2処理液付与部40によって非浸透媒体12の印刷面に第2処理液を付与する。また、処理液付与制御部74は、合計インク量が閾値を超えない場合は、第2処理液を付与しない。閾値は、予め不図示のメモリに記憶しておいてもよいし、不図示の入力部から取得してもよい。
【0076】
第2処理液の付与量は、本実施形態では2.6g/m2とした。なお、第1処理液付与部30における第1処理液の付与量と第2処理液付与部40における第2処理液の付与量とは異なっているが、酸の付与量は等しい。即ち、非浸透媒体12に付与される第1処理液の単位面積当たりの酸の量と第2処理液の単位面積当たりの酸の量とは等しい。
【0077】
第2処理液を付与した場合は、乾燥制御部76は、第2処理液乾燥部44によって非浸透媒体12の印刷面の第2処理液を乾燥させる。第2処理液を付与しない場合は、乾燥制御部76は、第2処理液乾燥部44を停止させる。
【0078】
ステップS7では、インク付与制御部66は、インクジェットヘッド48Wによって非浸透媒体12の印刷面にホワイトインクを付与する。また、乾燥制御部76は、ホワイトインク乾燥部50によって非浸透媒体12の印刷面のホワイトインクを乾燥させる(第2乾燥工程の一例)。
【0079】
ホワイトインク乾燥部50による加熱温度は、60℃以上が好ましく、65℃以上がより好ましく、70℃以上が特に好ましい。加熱温度の上限には特に制限はないが、上限としては、例えば100℃が挙げられ、90℃が好ましい。加熱の時間には特に制限はないが、3秒~60秒が好ましく、5秒~30秒がより好ましく、5秒~20秒が特に好ましい。
【0080】
以上のように、インクジェット記録装置10は、非浸透媒体12を裏刷りの印刷物とすることができる。
【0081】
本実施形態によれば、カラーインク付与前に付与した第1処理液によりカラーインクを凝集させることができ、高画質なカラー画像を印刷することができる。また、合計インク量が閾値より多い場合はカラーインク付与後かつホワイトインク付与前に非浸透媒体12に第2処理液を付与することで、合計インク量が閾値より多い場合であってもホワイトインクを適切に凝集させることができる。これにより、高画質な裏刷りの印刷物を得ることができる。
【0082】
本実施形態では、非浸透媒体12の印刷面へのカラーインクの付与後に、カラーインク乾燥部38によってカラーインクを乾燥させているが、カラーインクを乾燥させることは必須ではない。通常、カラーインクの乾燥を行うのは、カラーインクを乾燥させずにホワイトインクを付与すると、予め印刷面に付与されたカラーインクがホワイトインクによって滲んでしまうためである。しかしながら、本実施形態では、カラーインク付与後に第2処理液を付与することで、印刷面に付与されたカラーインクが第2処理液によって凝集する。このため、カラーインクを乾燥させずにホワイトインクを付与した場合であっても、カラーインクが滲むことがない。したがって、カラーインク乾燥部38を省略する態様も可能である。
【0083】
<印刷物の製造方法:第2実施形態>
第2実施形態に係るインクジェット記録装置10は、非浸透媒体12の印刷面のうち第2処理液が必要と判断された領域にのみ第2処理液を付与する。
図4は、第2実施形態に係る印刷物の製造方法の処理を示すフローチャートである。第1実施形態と同様に、非浸透媒体12に対して裏刷りを行って印刷物を製造する例を説明する。なお、
図3に示すフローチャートと共通する部分には同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0084】
ステップS1では、画像取得部62は、インクジェット記録装置10で印刷する画像を示す画像データを取得する。また、ステップS2では、画像処理部64は、取得した画像データに対して分版処理、ハーフトーン処理等を行い、カラーインク及びホワイトインクのドットデータを生成する。
【0085】
ステップS11(分割工程の一例)では、画像分割部70は、画像を複数の領域に分割する。ここでは、N個の領域に分割する。
【0086】
ステップS12では、インク量算出部72は、画像処理部64の分版処理の結果に基づいて、ステップS11で分割されたN個の領域のうちの1つの領域のカラーインクの付与量とホワイトインクの付与量との合計である合計インク量を算出する。
【0087】
ステップS13では、ステップS12でインク量算出部72が算出した合計インク量が予め設定された閾値を超えたか否かを判定する。合計インク量が閾値を超えた場合はステップS14へ移行し、合計インク量が閾値を超えていない場合はステップS15へ移行する。
【0088】
ステップS14では、処理液付与制御部74は、選択した領域に対応する非浸透媒体12の印刷領域を、第2処理液を付与する領域に決定する。また、ステップS15では、処理液付与制御部74は、選択した領域に対応する非浸透媒体12の印刷領域を、第2処理液を付与しない領域に決定する。
【0089】
続くステップS16では、インク量算出部72は、ステップS11で分割されたN個の領域の全ての領域について合計インク量を算出したか否かを判定する。合計インク量を算出していない領域が存在する場合は、ステップS12に戻り、同様の処理を行う。全ての領域の合計インク量を算出した場合は、ステップS4に移行する。
【0090】
ステップS4では、処理液付与制御部74は、第1処理液付与部30によって非浸透媒体12の印刷面に第1処理液を付与する。また、乾燥制御部76は、第1処理液乾燥部32によって非浸透媒体12の印刷面に付与された第1処理液を乾燥させる。
【0091】
ステップS5では、インク付与制御部66は、インクジェットヘッド36K、36C、36M、及び36Yによって非浸透媒体12の印刷面にドットデータに基づくカラー画像を印刷する。また、乾燥制御部76は、カラーインク乾燥部38によって非浸透媒体12の印刷面に付与されたカラーインクを乾燥させる。
【0092】
ステップS17では、処理液付与制御部74は、非浸透媒体12の印刷面のうち、ステップS14で処理液付与制御部74が第2処理液を付与する領域に決定した印刷領域にのみ、第2処理液付与部40によって第2処理液を付与する。また、乾燥制御部76は、第2処理液乾燥部44によって非浸透媒体12の印刷面の第2処理液を乾燥させる。全ての印刷領域が第2処理液を付与しない領域に決定されている場合は、乾燥制御部76は、第2処理液乾燥部44の不図示のヒータ等を停止する。
【0093】
ステップS7では、インク付与制御部66は、インクジェットヘッド48Wによって非浸透媒体12の印刷面にドットデータに基づく背景画像を印刷する。また、乾燥制御部76は、ホワイトインク乾燥部50によって非浸透媒体12の印刷面のホワイトインクを乾燥させ、本フローチャートの処理を終了する。
【0094】
本実施形態によれば、合計インク量が閾値より多い印刷領域のみ第2処理液を付与するようにしたので、各印刷領域においてカラーインク及びホワイトインクを適切に凝集させることができる。これにより、高画質な裏刷りの印刷物を得ることができる。
【0095】
ホワイトインク付与部46は、非浸透媒体12にインクジェット方式でホワイトインクを付与するため、合計インク量が閾値より多い印刷領域のみ第2処理液を適切に付与することができる。
【0096】
<閾値の決定>
処理液付与をカラーインクの印刷前にのみ実施すると、カラーインクの付与量とホワイトインクの付与量の合計である合計インク量が多い場合には、印刷後の印刷面と接触する被接触体、例えば巻取ロール16への巻き取り後の非浸透媒体12の裏面に、インクの裏写りが発生する。ここでは、合計インク量と裏写りの関係について評価を行った。
【0097】
評価の条件として、インクジェットヘッド36K、36C、36M、36Y、及び48Wの記録解像度を1200dpi(dot per inch)、非浸透媒体12の巻き取り時の単位断面積当たりの張力を49N/m2、巻取ロール16の巻き取り径を50mmとした。また、乾燥条件は、非浸透媒体12のカラーインクを付与せずにホワイトインクを付与した領域における巻き取り前の表面含有水分量の指標であるカウント値が92~98となる条件とした。カウント値は、ケツト科学研究所社製の紙水分計HK-300-2のカウントモードを用いて測定した。
【0098】
この条件において、1画素あたりに付与する合計インク量が4.0pl、4.1pl、4.2pl、4.3pl、4.4pl、及び4.5plの場合について、それぞれ裏写り性を評価した。評価の結果を表1に示す。裏写りの判定は、目視にてインクが非浸透媒体12の裏面に付着していることが可視できるか否かによって判断し、裏面にインクが付着していない場合をA、付着していた場合をBと判定した。
【0099】
【0100】
表1に示すように、1画素あたりの合計インク量が4.3pl以下では裏写りは発生しなかった。また、1画素あたりの合計インク量が4.4pl以上において、裏写りが発生した。この結果から、1画素あたりの合計インク量が4.4pl以上の場合に第2処理液を付与すればよいことがわかった。
【0101】
<非浸透媒体用前処理液>
本開示に係る第1処理液及び第2処理液は、非浸透媒体用前処理液(以下、単に「前処理液」ともいう。)である。前処理液は、水と、樹脂と、有機酸と、を含み、上記有機酸の含有量に対する上記樹脂の含有量の比が、質量基準で0超4未満であり、上記有機酸が下記一般式1で表される化合物である。
【0102】
【0103】
一般式1中、lは1以上であり、mは0又は1であり、nは1以上であり、l+m+nは2以上である。R1~R4は、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、カルボキシ基、アミノ基又は炭素数1~4のアルキル基を表す。
【0104】
前処理液に凝集剤として有機酸を含むことで、得られる画像記録物の画像の精細さを向上させることができる。
【0105】
本開示の前処理液は、樹脂と、有機酸と、を含み、有機酸の含有量に対する樹脂の含有量の比を質量基準で0超4未満とし、かつ、有機酸の構造を上記一般式1に特定する。これによって、樹脂と有機酸の親和性を向上させることができ、前処理液の転写を抑制することができる。また、上記一般式1はカルボキシ基を少なくとも2つ有することで、インクの凝集速度に優れるため、より画質を向上させることができる。
【0106】
〔有機酸〕
本開示における有機酸は、下記一般式1で表される化合物である。
【0107】
【0108】
一般式1中、lは1以上であり、mは0又は1であり、nは1以上であり、l+m+nは2以上である。R1~R4は、それぞれ独立に、水素原子、水酸基(OH)、カルボキシ基(COOH)、アミノ基(NH2)又は炭素数1~4のアルキル基を表す。
【0109】
R1~R4における炭素数1~4のアルキル基は、メチル基、エチル基、プロピル基及びブチル基等が挙げられる。
【0110】
上記R1~R4は、それぞれ独立に、インクの凝集性の観点から、水素原子又はカルボキシ基が好ましく、水素原子がより好ましい。
【0111】
l及びnは、1~3が好ましく、mは、0が好ましい。l+m+nは3~8であることが好ましい。l+m+nが3以上であることで、有機酸をより疎水的にすることができ、転写抑制性がより良好となる。l+m+nが8以下であることで、有機酸が疎水的になりすぎず、前処理液の保存安定性を良好に保つことができる。
【0112】
上記同様の観点からl+m+nは、3~5であることがより好ましい。また、mは0であることが好ましく、mが0である場合にl+nは3~5であることが好ましい。
【0113】
一般式1としては、mが0であり、かつ、R1~R4が水素原子であることが好ましい。
【0114】
なお、上記一般式1中のカルボキシ基は、前処理液中において、少なくとも一部が解離していることが好ましい。
【0115】
本開示で用いることができる有機酸としては、コハク酸、メチルコハク酸、ジメチルコハク酸、オキサル酢酸、リンゴ酸、酒石酸、グルタル酸、クエン酸、1,2,3-プロパントリカルボン酸、1,3-アセトンジカルボン酸、メチルグルタル酸、ジメチルグルタル酸、2-オキソグルタル酸、アジピン酸、ブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸、ピメリン酸、1,3,5-ペンタントリカルボン酸、4-オキソオクタン二酸等が挙げられる。
【0116】
中でも、画質、転写抑制性及び前処理液の保存安定性の観点からグルタル酸、ピメリン酸、プロパントリカルボン酸、1,2,3-プロパントリカルボン酸、1,3-アセトンジカルボン酸が好ましく、グルタル酸、ピメリン酸、プロパントリカルボン酸がより好ましく、グルタル酸、ピメリン酸がさらに好ましく、グルタル酸が特に好ましい。これらの化合物は、1種類で使用されてもよく、2種類以上併用されてもよい。
【0117】
前処理液に含まれる有機酸は、水に対する溶解度が高く、価数が2価以上であることが好ましく、インク中の粒子を分散安定化させている官能基(例えば、カルボキシ基等)のpKaよりも低いpH領域に高い緩衝能を有する2価又は3価の有機酸であることがより好ましい。
【0118】
有機酸のpKaは、2.5~6.0であることが好ましい。有機酸のpKaが2.5以上であることで、前処理液の保存安定性を良好に保持することができ、かつ、転写抑制性を向上させることができる。また、有機酸のpKaが6.0以下であることで、インクに含まれる顔料の凝集性に優れ、より画質を良好にすることができる。
【0119】
上記の観点から、有機酸のpKaは3.5以上であることがより好ましく、4.0以上であることがさらに好ましい。
【0120】
本開示において、pKaは、分子構造からソフトウェア又は既知の値を用いて算出される値である。たとえば、MarvinSketch(Chem Axon社製)を用いた計算値として算出することができる。なお、MarvinSketchでは算出が不可能な場合は、“pKa Data Compiled by R. Williams”に記載の値を用いて部分構造の値を割り当てて算出することができる。
【0121】
有機酸の含有量は、特に制限はないが、インク凝集速度の観点から、前処理液の全質量に対して、1質量%~20質量%が好ましい。有機酸の含有量としては、前処理液の全質量に対して、1.5質量%~10質量%がより好ましく、2質量%~5質量%がさらに好ましい。
【0122】
〔樹脂〕
本開示の前処理液は、樹脂を含む。これによって、前処理液の付与によって形成される層と非浸透媒体との密着性を向上することができる。
【0123】
本開示における樹脂は、水溶性樹脂又は水不溶性樹脂のいずれでもよく、水不溶性であることが好ましい。また、本開示における樹脂は、粒子であることが好ましい。
【0124】
本明細書中において、「水不溶性」とは、25℃の水100gに対する溶解量が1.0g未満(好ましくは0.5g未満)である性質を指す。また、「水溶性」とは、25℃の水100gに対して5g以上(好ましくは10g以上)溶解する性質を指す。樹脂は、1種類の樹脂のみを含んでもよいし、複数の樹脂を含んでもよい。
【0125】
(ガラス転移温度)
本開示において用いられる樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が30℃以上であることが好ましく、40℃~60℃であることがより好ましい。これによって、樹脂による膜の硬さが向上し、前処理液に含まれる成分(例えば有機酸)の転写を抑制することができる。
【0126】
本開示において、種類の異なる複数の樹脂が前処理液に含有される場合には、後述するFOX式により求められた値を、樹脂のガラス転移温度という。
【0127】
本開示において、樹脂のガラス転移温度は、示差走査熱量測定(DSC:Differential Scanning Calorimetry)を用いて測定することができる。具体的な測定方法は、JISK 7121(1987年)又はJIS K 6240(2011年)に記載の方法に準じて行う。本明細書におけるガラス転移温度は、補外ガラス転移開始温度(以下、Tigと称することがある)を用いている。
【0128】
ガラス転移温度の測定方法をより具体的に説明する。ガラス転移温度を求める場合、予想される樹脂のTgより約50℃低い温度にて装置が安定するまで保持した後、加熱速度:20℃/分で、ガラス転移が終了した温度よりも約30℃高い温度まで加熱し,示差熱分析(DTA:Differential Thermal Analysis)曲線又はDSC曲線を作成する。
【0129】
補外ガラス転移開始温度(Tig)、すなわち、本明細書におけるガラス転移温度Tgは、DTA曲線又はDSC曲線における低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線の勾配が最大になる点で引いた接線との交点の温度として求める。
【0130】
本開示において、種類の異なる複数の樹脂が前処理液に含有される場合、樹脂のTgは下記の方法により求められる。
【0131】
1つ目の樹脂のTgをTg1(K)、樹脂における樹脂成分の合計質量に対する1つ目の樹脂の質量分率をW1とし、2つ目のTgをTg2(K)とし、樹脂における樹脂成分の合計質量に対する2つ目の樹脂の質量分率をW2とした場合に、樹脂のTg0(K)は、以下のFOX式に従って推定することが可能である。
【0132】
FOX式:1/Tg0=(W1/Tg1)+(W2/Tg2)
また、樹脂が3種の樹脂を含むか、含まれる樹脂種の異なる3種の樹脂が前処理液に含有される場合、樹脂のTgは、n個目の樹脂のTgをTgn(K)、樹脂における樹脂成分の合計質量に対するn個目の樹脂の質量分率をWnとした場合に、上記と同様、以下の式に従って推定することが可能である。
【0133】
FOX式:1/Tg0=(W1/Tg1)+(W2/Tg2)+(W3/Tg3)・・・+(Wn/Tgn)
(水接触角)
本開示において用いられる樹脂は、水接触角が20°以上であることが好ましい。これによって、樹脂を疎水的な樹脂に特定することができるため、有機酸との親和性がより向上し、前処理液の転写をより抑制させることができる。上記の観点から、樹脂は水接触角が25°~45°であることがより好ましい。
【0134】
樹脂の水接触角は、下記の方法により測定する。
【0135】
測定対象である樹脂を用い、下記組成の水接触角測定用溶液(樹脂が水不溶性である場合は、水接触角測定用分散液)を調製する。その後、調製した水接触角測定用溶液をポリエチレンテレフタレート(PET、FE2001厚み12μm フタムラ化学(株)製)に液体塗布量で1.7μmになるように塗布し、80℃30秒間乾燥し膜を作製する。作製した膜に対し接触角計ドロップマスターDM700(協和界面科学(株)製)を用いて、JISR3257に記載の方法に準拠し、1分後の接触角を測定する。液滴量は2μLとする。
【0136】
-水接触角測定用溶液(水接触角測定用分散液)-
・樹脂:固形分として15質量%
・界面活性剤:テイカパワーBN2070M0.7質量%
・プロピレングリコール:10質量%
・水:残部
また、本開示において、固形分とは、各成分の水、有機溶剤等の溶媒を除いた残部をいう。
【0137】
種類の異なる複数の樹脂が前処理液に含有される場合、上記水接触角測定用溶液中の各樹脂の含有量は、樹脂の全質量が、上記の固形分として15質量%となるように、前処理液中の各樹脂の含有質量分率に従って決定される。
【0138】
例えば、前処理液中の樹脂の全質量に対し、第1の樹脂が20質量%、第2の樹脂が80質量%含まれる場合には、上記水接触角測定用溶液には、第1の樹脂を固形分として3質量%、第2の樹脂を固形分として12質量%含有させて測定する。
【0139】
(脂環式構造又は芳香環式構造)
本開示において用いられる樹脂は、ガラス転移温度及び水接触角を向上させる観点から、構造中に脂環式構造又は芳香環式構造を有することが好ましく、芳香環式構造を有することがより好ましい。
【0140】
上記脂環式構造としては、炭素数5~10の脂環式炭化水素構造が好ましく、シクロヘキサン環構造、ジシクロペンタニル環構造、ジシクロペンテニル環構造、又は、アダマンタン環構造が好ましい。
【0141】
上記芳香環式構造としては、ナフタレン環又はベンゼン環が好ましく、ベンゼン環がより好ましい。
【0142】
脂環式構造又は芳香環式構造の量としては、特に限定されず、樹脂のガラス転移温度及び水接触角が上記範囲内となる量であることが好ましい。中でも、例えば、樹脂100gあたり0.01mol~1.5molであることが好ましく、0.1mol~1molであることがより好ましい。
【0143】
(イオン性基)
本開示に用いられる樹脂は、後述する水分散性を有する樹脂粒子とすることが好ましい観点から、構造中にイオン性基を有することが好ましい。
【0144】
イオン性基としては、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基、ボロン酸基、アミノ基、第四級アンモニウム基、又はこれらの塩等が挙げられる。中でも、好ましくは、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基、又はこれらの塩であり、より好ましくは、カルボキシ基、スルホン酸基、又はこれらの塩であり、さらに好ましくは、スルホン酸基又はその塩である。
【0145】
イオン性基としては、アニオン性基であってもカチオン性基であってもよいが、導入の容易性、画質、密着性及び転写抑制性の観点から、アニオン性基が好ましい。アニオン性基としては、スルホン酸基又はその塩が好ましい。
【0146】
イオン性基の量としては、特に限定されず、樹脂が水分散性を有する樹脂粒子となる量であれば好ましく使用可能であるが、例えば樹脂100gあたり0.001mol~1.0molであることが好ましく、0.01mol~0.5molであることがより好ましい。
【0147】
(含有量)
本開示において用いられる前処理液は、樹脂を、前処理液の全質量に対し、1質量%~25質量%含有することが好ましく、2質量%~20質量%含有することがより好ましく、3質量%~15質量%含有することがさらに好ましい。
【0148】
本開示において、有機酸の含有量に対する樹脂の含有量の比は、質量基準で0超4未満である。有機酸の含有量に対する樹脂の含有量の比が質量基準で0超であることで、樹脂の含有量に対する有機酸の含有量が過大になりすぎず、転写抑制性及び前処理液の保存安定性を向上させることができる。
【0149】
有機酸の含有量に対する樹脂の含有量の比が質量基準で4未満であることで、樹脂の含有量に対する有機酸の含有量が少なくなりすぎず、良好な画質を保持することができる。上記の観点から、有機酸の含有量に対する樹脂の含有量の比が、質量基準で0超2未満であることが好ましい。
【0150】
(樹脂粒子)
樹脂としては、水溶性の樹脂又は樹脂粒子のいずれも用いることができるが、樹脂粒子であることが好ましい。また、水分散性を有する樹脂粒子がより好ましい。本開示において、水分散性とは、20℃の水に撹拌後、20℃で60分間放置しても沈殿が確認されないことをいう。
【0151】
本開示で用いられる樹脂粒子に含まれる樹脂としては、特に制限はないが、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレア樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂等が挙げられ、ポリエステル樹脂又はアクリル樹脂が好ましく、ポリエステル樹脂がより好ましい。樹脂として、上記の樹脂から選ばれる複数の樹脂の複合粒子であってもよい。中でも、ポリエステル樹脂とアクリル樹脂の複合粒子が好ましい。
【0152】
-体積平均粒径-
樹脂粒子の体積平均粒径は、1nm~300nmであることが好ましく、3nm~200nmであることがより好ましく、5nm~150nmであることがさらに好ましい。
【0153】
本開示において、体積平均粒径は、レーザー回折・散乱式粒度分布計により測定する。測定装置としては、例えば、粒度分布測定装置「マイクロトラックMT-3300II」(日機装(株)製)が挙げられる。
【0154】
-重量平均分子量-
樹脂粒子の重量平均分子量(Mw)は、1000~300000であることが好ましく、2000~200000であることがより好ましく、5000~100000であることがさらに好ましい。
【0155】
本開示において、重量平均分子量は、特別な記載がない限り、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC:Gel Permeation Chromatography)で測定される。GPCは、HLC-8020GPC(東ソー(株)製)を用い、カラムとして、TSKgel(登録商標)Super Multipore HZ-H(東ソー(株)製、4.6mmID×15cm)を3本用い、溶離液としてTHF(テトラヒドロフラン)を用いる。また、条件としては、試料濃度を0.45質量%、流速を0.35ml/min、サンプル注入量を10μl、測定温度を40℃とし、RI(Refractive Index)検出器を用いて行う。また、検量線は、東ソー(株)製「標準試料TSKstandard,polystyrene」:「F-40」、「F-20」、「F-4」、「F-1」、「A-5000」、「A-2500」、「A-1000」、「n-プロピルベンゼン」の8サンプルから作製する。
【0156】
-具体例-
樹脂粒子の具体例としては、ペスレジンA124GP、ペスレジンA645GH、ペスレジンA615GE(以上、高松油脂(株)製)、Eastek1100、Eastek1200(以上、EastmanChemical社製)、プラスコートRZ570、プラスコートZ687、プラスコートZ565、プラスコートRZ570、プラスコートZ690(以上、互応化学工業(株)製)、バイロナール(登録商標)MD1200(東洋紡(株)製)、EM57DOC(ダイセルファインケム社製)、スーパーフレックス300(第一工業製薬株式会社製)等が挙げられる。
【0157】
(水溶性樹脂)
樹脂は、水溶性樹脂であってもよい。水溶性樹脂としては特に限定はなく、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸、ポリエステル等の公知の水溶性樹脂を用いることができる。また、水溶性樹脂としては、合成品を用いることができる。
【0158】
また、水溶性樹脂としては、特開2013-001854号公報の段落0026~0080に記載された水溶性樹脂も好適である。
【0159】
水溶性樹脂の重量平均分子量には特に限定はないが、例えば10,000~100,000とすることができ、好ましくは20,000~80,000であり、より好ましくは30,000~80,000である。なお、水溶性樹脂の重量平均分子量は上記の方法により測定することができる。
【0160】
〔水〕
前処理液は、水を含有する。水としては、例えば、イオン交換水、蒸留水等を用いることができる。水の含有量は、前処理液の全質量に対して、好ましくは50質量%~90質量%であり、より好ましくは60質量%~80質量%である。
【0161】
〔水溶性溶剤〕
前処理液は、水溶性溶剤の少なくとも1種を含むことが好ましい。水溶性溶剤としては、公知のものを特に制限なく用いることができる。水溶性溶剤としては、例えば、グリセリン、1,2,6-ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、ジプロピレングリコール等のグリコール類;2-ブテン-1,4-ジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、1,2-オクタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,2-ペンタンジオール、4-メチル-1,2-ペンタンジオール等のアルカンジオールなどの多価アルコール類;特開2011-42150号公報の段落0116に記載の、糖類又は糖アルコール類、ヒアルロン酸類、炭素原子数1~4のアルキルアルコール類、グリコールエーテル類、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン;等が挙げられる。
【0162】
中でも、前処理液に含まれる成分の転写の抑制の観点から、ポリアルキレングリコール又はその誘導体であることが好ましく、ジエチレングリコールモノアルキルエーテル、トリエチレングリコールモノアルキルエーテル、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコールモノアルキルエーテル、ポリオキシプロピレングリセリルエーテル、及びポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールから選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。
【0163】
水溶性溶剤の前処理液における含有量としては、塗布性などの観点から、前処理液全体に対して3質量%~20質量%であることが好ましく、5質量%~15質量%であることがより好ましい。
【0164】
また、本開示において用いられる前処理液は、基材との密着性の観点から、溶解パラメータ(SP値:Solubility Parameter値)が13以下の水溶性有機溶剤を含まないか、又は、前処理液の全質量に対し、SP値が13以下の水溶性有機溶剤の含有量が0質量%を超え10質量%未満であることが好ましく、SP値が13以下の水溶性有機溶剤を含まないか、又は、前処理液の全質量に対し、SP値が13以下の水溶性有機溶剤の含有量が0質量%を超え5質量%未満であることがより好ましく、SP値が13以下の水溶性有機溶剤を含まないか、又は、前処理液の全質量に対し、SP値が13以下の水溶性有機溶剤の含有量が0質量%を超え2質量%未満であることがさらに好ましく、SP値が13以下の水溶性有機溶剤を含まないことが特に好ましい。
【0165】
本開示におけるSP値は、沖津法(沖津俊直著「日本接着学会誌」29(5)(1993))によって算出するものとする。具体的には、SP値は以下の式で計算されるものである。なお、ΔFは文献記載の値である。
SP値(δ)=ΣΔF(MolarAttraction Constants)/V(モル容積)
また、本開示におけるSP値の単位は(cal/cm3)1/2である。
【0166】
〔界面活性剤〕
前処理液は、界面活性剤の少なくとも1種を含んでもよい。界面活性剤は、表面張力調整剤又は消泡剤として用いることができる。表面張力調整剤又は消泡剤としては、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、ベタイン界面活性剤等が挙げられる。中でも、インクの凝集速度の観点から、ノニオン性界面活性剤又はアニオン性界面活性剤が好ましい。
【0167】
界面活性剤としては、特開昭59-157636号公報の第37~38頁及びリサーチディスクロージャーNo.308119(1989年)に界面活性剤として挙げた化合物も挙げられる。また、特開2003-322926号、特開2004-325707号、特開2004-309806号の各公報に記載のフッ素(フッ化アルキル系)系界面活性剤又はシリコーン系界面活性剤等も挙げられる。
【0168】
前処理液における界面活性剤の含有量としては特に制限はないが、前処理液の表面張力が50mN/m以下となるような含有量であることが好ましく、20mN/m~50mN/mとなるような含有量であることがより好ましく、30mN/m~45mN/mとなるような含有量であることがさらに好ましい。
【0169】
〔その他の添加剤〕
前処理液は、必要に応じ、上記以外のその他の成分を含んでいてもよい。前処理液に含有され得るその他の成分としては、固体湿潤剤、コロイダルシリカ、無機塩、褪色防止剤、乳化安定剤、浸透促進剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、粘度調整剤、防錆剤、キレート剤等の公知の添加剤が挙げられる。
【0170】
〔前処理液の物性〕
前処理液は、インクの凝集速度の観点から、25℃におけるpHが2~4であることが好ましい。前処理液のpHが2以上であると、非浸透媒体のザラツキがより低減され、画像部の密着性がより向上する。前処理液のpHが4以下であると、凝集速度がより向上し、非浸透媒体上におけるインクによるドット(インクドット)の合一がより抑制され、画像のザラツキがより低減される。前処理液のpH(25℃)は、2.5~3.5がより好ましい。
【0171】
本開示において、pHはpHメーター(型番:HM-31、東亜ディーケーケー(株)製)を用いて25℃で測定される値である。
【0172】
前処理液の粘度としては、インクの凝集速度の観点から、0.5mPa・s~10mPa・sの範囲が好ましく、1mPa・s~5mPa・sの範囲がより好ましい。粘度は、VISCOMETERTV-22(TOKI SANGYO CO.LTD製)を用いて25℃の条件下で測定されるものである。
【0173】
前処理液の25℃における表面張力としては、60mN/m以下であることが好ましく、20mN/m~50mN/mであることがより好ましく、30mN/m~45mN/mであることがさらに好ましい。前処理液の表面張力が範囲内であると、非浸透媒体と前処理液との密着性が向上する。前処理液の表面張力は、AutomaticSurfaceTensiometer CBVP-Z(協和界面科学(株)製)を用い、プレート法によって測定されるものである。
【0174】
<非浸透媒体>
本開示に係る前処理液は、非浸透媒体に付与することにより用いられる。本開示において非浸透媒体とは、ブリストー法による、接触時間900ms(ミリ秒)における水の吸収量(「900ms吸水量」ともいう。)が4ml/m2未満である媒体をいう。非浸透媒体は、紙を含まない媒体であり、樹脂基材であることが好ましい。
【0175】
〔樹脂基材〕
非浸透媒体として使用される樹脂基材としては、特に限定されないが、例えば熱可塑性樹脂からなる基材が挙げられる。樹脂基材としては、例えば、上記熱可塑性樹脂をシート状に成形した基材が挙げられる。
【0176】
上記樹脂基材は、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ポリエチレン、ポリイミド又はポリ塩化ビニルを含むことが好ましい。
【0177】
樹脂基材は、透明な樹脂基材であっても、着色された樹脂基材であってもよいし、少なくとも一部に金属蒸着処理等がなされていてもよい。
【0178】
本開示に係る樹脂基材の形状は、特に限定されないが、シート状の樹脂基材であることが好ましく、画像記録物の生産性の観点から、シート状の樹脂基材を巻き取ることによりロールが形成可能な樹脂基材であることがより好ましい。シート状の樹脂基材は、長尺の連続基材に限らず、枚葉基材であってもよい。
【0179】
また、本開示に係る前処理液は、前処理液に含まれる成分の転写が抑制される等の観点から、特に、軟包装用の樹脂基材に対する画像記録において好適に使用可能である。
【0180】
上記樹脂基材は、表面処理がなされていてもよい。表面処理としては、コロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理、熱処理、摩耗処理、光照射処理(UV処理:Ultra Violet処理)、火炎処理等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0181】
例えば、インクを付与して画像を印刷する前に、予め樹脂基材の表面にコロナ処理を施すと、樹脂基材の表面エネルギーが増大し、樹脂基材の表面の湿潤及び樹脂基材へのインクの接着が促進される。コロナ処理は、例えば、コロナマスター(信光電気計社製、PS-10S)等を用いて行うことができる。コロナ処理の条件は、樹脂基材の種類、インクの組成等、場合に応じて適宜選択すればよい。例えば、下記の処理条件としてもよい。
・処理電圧:10~15.6kV
・処理速度:30~100mm/s
樹脂基材の前処理液が付与される面の水接触角は、10°~150°であることが好ましく、30°~100°であることがより好ましい。
【0182】
樹脂基材の前処理液が付与される面の表面自由エネルギーは、10mNm-1以上であることが好ましく、30mNm-1以上であることがより好ましい。
【0183】
<インク組成物>
以下、本開示において用いられるインク組成物について説明する。本開示において用いられるインク組成物は、着色剤及び水を含むことが好ましく、水性インク組成物であることが好ましい。本開示において、水性インク組成物とは、水を、インクの全質量に対し、50質量%以上含むインク組成物をいう。
【0184】
また、本開示におけるインク組成物は、有機溶剤の含有量が、インク組成物の全質量に対し、50質量%未満であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましい。
【0185】
さらに、本開示におけるインク組成物は、重合性化合物を含まないか、重合性化合物の含有量が0質量%を超え、10質量%以下であることが好ましく、重合性化合物を含まないことがより好ましい。
【0186】
重合性化合物としては、カチオン性重合性化合物及びラジカル重合性化合物が挙げられる。
【0187】
〔着色剤〕
着色剤としては、特に限定されず、インクジェット用インクの分野で公知の着色剤が使用可能であるが、有機顔料又は無機顔料が好ましい。
【0188】
有機顔料としては、例えば、アゾ顔料、多環式顔料、染料キレート、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、などが挙げられる。これらの中でも、アゾ顔料、多環式顔料などがより好ましい。
【0189】
無機顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化鉄、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、バリウムイエロー、カドミウムレッド、クロムイエロー、カーボンブラック、などが挙げられる。これらの中でも、カーボンブラックが特に好ましい。
【0190】
着色剤としては、特開2009-241586号公報の段落0096~0100に記載の着色剤が好ましく挙げられる。
【0191】
着色剤の含有量としては、インク組成物の全質量に対して、1質量%~25質量%が好ましく、2質量%~20質量%がより好ましく、5質量%~20質量%がさらに好ましく、5質量%~15質量%が特に好ましい。
【0192】
〔水〕
インク組成物は、水を含有することが好ましい。水の含有量は、インク組成物の全質量に対して、好ましくは50質量%~90質量%であり、より好ましくは60質量%~80質量%である。
【0193】
〔分散剤〕
本開示において用いられるインク組成物は、上記着色剤を分散するための分散剤を含有してもよい。分散剤としては、ポリマー分散剤、又は低分子の界面活性剤型分散剤のいずれでもよい。また、ポリマー分散剤は、水溶性の分散剤、又は非水溶性の分散剤のいずれでもよい。
【0194】
分散剤としては、例えば、特開2016-145312号公報の段落0080~0096に記載の分散剤が好ましく挙げられる。
【0195】
着色剤(p)と分散剤(s)との混合質量比(p:s)としては、1:0.06~1:3の範囲が好ましく、1:0.125~1:2の範囲がより好ましく、さらに好ましくは1:0.125~1:1.5である。
【0196】
〔樹脂粒子〕
本開示におけるインク組成物は、樹脂粒子の少なくとも1種を含有してもよい。樹脂粒子を含有することにより、主にインク組成物の非浸透媒体への定着性及び耐擦過性をより向上させることができる。また、樹脂粒子は、上記の有機酸と接触した際に凝集又は分散不安定化してインク組成物を増粘させることにより、インク組成物、すなわち画像を固定化させる機能を有する。このような樹脂粒子は、水及び含水有機溶媒に分散されているものが好ましい。
【0197】
樹脂粒子としては、例えば、特開2016-188345号公報の段落0062~0076に記載の樹脂粒子が好ましく挙げられる。
【0198】
得られる画像の耐擦性の観点から、インク組成物に含まれる樹脂粒子のTgは、上記の樹脂のTgよりも高いことが好ましい。
【0199】
〔水溶性有機溶媒〕
本開示に用いられるインク組成物は、水溶性有機溶媒の少なくとも1種を含有することが好ましい。水溶性有機溶媒は、乾燥防止又は湿潤の効果を得ることができる。乾燥防止には、噴射ノズルのインク吐出口においてインクが付着乾燥して凝集体ができ、目詰まりするのを防止する乾燥防止剤として用いられ、乾燥防止又は湿潤のためには、水より蒸気圧の低い水溶性有機溶媒が好ましい。
【0200】
また、上記水溶性有機溶媒の1気圧(1013.25hPa)における沸点は、80℃~300℃が好ましく、120℃~250℃がより好ましい。
【0201】
乾燥防止剤としては、水より蒸気圧の低い水溶性有機溶媒であることが好ましい。このような水溶性有機溶媒の具体例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、チオジグリコール、ジチオジグリコール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,2,6-ヘキサントリオール、アセチレングリコール誘導体、グリセリン、トリメチロールプロパン等に代表される多価アルコール類が挙げられる。
【0202】
このうち、乾燥防止剤としては、グリセリン、ジエチレングリコール等の多価アルコールが好ましい。
【0203】
乾燥防止剤は、1種単独で用いても2種以上併用してもよい。乾燥防止剤の含有量は、インク組成物中に10~50質量%の範囲とするのが好ましい。
【0204】
水溶性有機溶媒は、上記以外にも粘度の調整のために用いられる。粘度の調整に用いることができる水溶性有機溶媒の具体例としては、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、sec-ブタノール、t-ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール)、多価アルコール類(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ペンタンジオール、グリセリン、ヘキサントリオール、チオジグリコール)、グリコール誘導体(例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル)、アミン(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、モルホリン、N-エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ポリエチレンイミン、テトラメチルプロピレンジアミン)、及びその他の極性溶媒(例えば、ホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、N-ビニル-2-ピロリドン、2-オキサゾリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、アセトニトリル、アセトン)が含まれる。この場合も、水溶性有機溶媒は1種単独で用いるほか、2種以上を併用してもよい。
【0205】
〔その他の添加剤〕
本開示において用いられるインク組成物は、上記成分以外にその他の添加剤を用いて構成することができる。その他の添加剤としては、例えば、乾燥防止剤(湿潤剤)、褪色防止剤、乳化安定剤、浸透促進剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、表面張力調整剤、消泡剤、粘度調整剤、分散剤、分散安定剤、防錆剤、キレート剤等の公知の添加剤が挙げられる。
【0206】
<その他>
上記の印刷物の製造方法は、各工程をコンピュータに実現させるためのプログラムとして構成し、このプログラムを記憶したCD-ROM(Compact Disk-Read Only Memory)等の非一時的な記憶媒体を構成することも可能である。
【0207】
ここまで説明した実施形態において、例えば、制御部60の各種の処理を実行する処理部(processing unit)のハードウェア的な構造は、次に示すような各種のプロセッサ(processor)である。各種のプロセッサには、ソフトウェア(プログラム)を実行して各種の処理部として機能する汎用的なプロセッサであるCPU(Central Processing Unit)、画像処理に特化したプロセッサであるGPU(Graphics Processing Unit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)等の製造後に回路構成を変更可能なプロセッサであるプログラマブルロジックデバイス(Programmable Logic Device:PLD)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の特定の処理を実行させるために専用に設計された回路構成を有するプロセッサである専用電気回路等が含まれる。
【0208】
1つの処理部は、これら各種のプロセッサのうちの1つで構成されていてもよいし、同種又は異種の2つ以上のプロセッサ(例えば、複数のFPGA、或いはCPUとFPGAの組み合わせ、又はCPUとGPUの組み合わせ)で構成されてもよい。また、複数の処理部を1つのプロセッサで構成してもよい。複数の処理部を1つのプロセッサで構成する例としては、第1に、サーバ及びクライアント等のコンピュータに代表されるように、1つ以上のCPUとソフトウェアの組合せで1つのプロセッサを構成し、このプロセッサが複数の処理部として機能する形態がある。第2に、システムオンチップ(System On Chip:SoC)等に代表されるように、複数の処理部を含むシステム全体の機能を1つのIC(Integrated Circuit)チップで実現するプロセッサを使用する形態がある。このように、各種の処理部は、ハードウェア的な構造として、各種のプロセッサを1つ以上用いて構成される。
【0209】
さらに、これらの各種のプロセッサのハードウェア的な構造は、より具体的には、半導体素子等の回路素子を組み合わせた電気回路(circuitry)である。
【0210】
本発明の技術的範囲は、上記の実施形態に記載の範囲には限定されない。各実施形態における構成等は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、各実施形態間で適宜組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0211】
10…インクジェット記録装置
12…非浸透媒体
14…送出ロール
16…巻取ロール
18…搬送部
20…ガイドローラ
22…ガイドローラ
24…ガイドローラ
26…ガイドローラ
28…ガイドローラ
30…第1処理液付与部
32…第1処理液乾燥部
34…カラーインク付与部
36C…インクジェットヘッド
36K…インクジェットヘッド
36M…インクジェットヘッド
36Y…インクジェットヘッド
38…カラーインク乾燥部
40…第2処理液付与部
42…第2処理液吐出ヘッド
44…第2処理液乾燥部
46…ホワイトインク付与部
48W…インクジェットヘッド
50…ホワイトインク乾燥部
60…制御部
62…画像取得部
64…画像処理部
66…インク付与制御部
68…搬送制御部
70…画像分割部
72…インク量算出部
74…処理液付与制御部
76…乾燥制御部
S1~S17…印刷物の製造方法の各工程