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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-30
(45)【発行日】2022-06-07
(54)【発明の名称】シリコーンゴム成形体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 25/20 20060101AFI20220531BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20220531BHJP
   B32B 7/06 20190101ALI20220531BHJP
【FI】
B32B25/20
B32B27/00 101
B32B7/06
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018038841
(22)【出願日】2018-03-05
(65)【公開番号】P2019151043
(43)【公開日】2019-09-12
【審査請求日】2021-02-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松井 純
(72)【発明者】
【氏名】澤井 泰徳
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 秀次
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 隆信
【審査官】千葉 直紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-246519(JP,A)
【文献】特開2007-045102(JP,A)
【文献】特開2004-250487(JP,A)
【文献】特開2014-070192(JP,A)
【文献】特開2014-148599(JP,A)
【文献】特開2010-247413(JP,A)
【文献】特開平09-207275(JP,A)
【文献】特開2015-108147(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーンゴムシートの少なくとも片面に薄膜層を備えたシリコーンゴム成形体であって、
JIS K6253-3:2012に基づいて測定される該シリコーンゴムシートのタイプAデュロメータ硬さが1~50であり、かつ、該シリコーンゴム成形体の薄膜層を備えた側の表面の粘着力が、接触圧2.16kgf/cm、圧着速度10mm/秒、接触時間10秒、剥離速度10mm/秒の条件で測定したプローブタック強度において50~180gfであることを特徴とするシリコーンゴム成形体。
【請求項2】
前記薄膜層が、アルケニル基及びアルキル基を有するシリコーン樹脂を含む、請求項1に記載のシリコーンゴム成形体。
【請求項3】
前記薄膜層が、アルケニル基を有するシリコーン樹脂(a)及びアルキル基を有するシリコーン樹脂(b)を含む、請求項1又は2に記載のシリコーンゴム成形体。
【請求項4】
前記薄膜層の表面に保護フィルムを有する、請求項1~3のいずれか1項に記載のシリコーンゴム成形体。
【請求項5】
前記保護フィルムがポリエチレンテレフタレートフィルムである、請求項4に記載のシリコーンゴム成形体。
【請求項6】
前記シリコーンゴムシートの少なくとも片面に薄膜層を形成する工程を備え、該薄膜層を形成する工程を、前記保護フィルムに形成された薄膜層を該シリコーンゴムシートに転写することにより行うことを特徴とする、請求項4又は5に記載のシリコーンゴム成形体の製造方法。
【請求項7】
前記薄膜層を形成する工程後に、前記シリコーンゴム成形体から前記保護フィルムを剥離する工程を備える、請求項6に記載のシリコーンゴム成形体の製造方法。
【請求項8】
電子機器内のクッション材やパッキン材、液晶ディスプレイやフレームの固定、液晶パネルと保護パネルとの層間充填材、タッチパネル用貼り合わせ材、液晶テレビやモニターのフレーム内クッション材、固定材のいずれかに用いる、請求項1~5のいずれか1項に記載のシリコーンゴム成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、クッション材やスペーサーとして使用する際の追従性に優れ、かつ、保護フィルムに対する剥離性が改良されたシリコーンゴム成形体及びその製造方法に関し、より詳しくは、シリコーンゴムシート表面の粘着力が適宜調整されたシリコーンゴム成形体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、シリコーンゴム成形体は、耐熱性、耐候性、電気絶縁性に優れていることから、電気機器や電子機器又は液晶関連機器等の分野において、ゴム本来の弾性、高い摩擦係数及び柔らかな触感が望まれる部品の構成材料に利用されており、具体的には、クッション材、スペーサー、滑り止め、パッキング材、タッチパネルの表面材等に、例えばシート状の形態のものが適用される。
【0003】
このように、多くの用途があるシリコーンゴム成形体は、装着される機器の小型・軽量化の要請及び製造コスト低減の要請に応じて、様々な機器を密着・接着固定させるための部品となることが多い。
【0004】
シリコーンゴム成形体を用いて様々な機器を密着・接着固定する場合、シリコーンゴム成形体は各部品に対する追従性が求められる。また、シリコーンゴム成形体は通常、使用されるまで保護フィルムで保護されているが、この保護フィルムに対する易剥離性も求められる。
【0005】
ここで、特許文献1には、仮着用支持体の表面に極性基を含有するオルガノポリシロキサンの薄膜層を重ねて接着し、この薄膜層に未架橋状態のシリコーンゴムを重ねた状態で架橋することにより薄膜層を一体に接着した架橋シリコーンゴム成形体を形成し、次いで架橋シリコーンゴム成形体から仮着用支持体を剥離することによりシリコーンゴム成形体表面の極性を高めることからなるシリコーンゴム成形体の表面処理方法が開示されている。
【0006】
【文献】特開2004-250487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に開示された方法で得られるシリコーンゴム基材接着フィルムは、架橋シリコーンゴムから仮着用支持体を剥離した際に、該シリコーンゴム層の表面に極性の高い処理面を形成し、そこに種々の接着剤を確実に接着させることを目的としており、仮着用支持体を剥離してそのまま使用することを前提としたものではない。従って、仮着用支持体とシリコーンゴム層を剥離する際の剥離性に乏しい場合があり、作業性に問題が発生する場合があった。また、近年の部品の小型化に伴い、特許文献1のように接着剤を使用しなくても様々なより小型の部品・機器を密着固定できる部材が求められており、各部品に対するさらなる追従性が求められつつある。
【0008】
そこで、本発明は、シリコーンゴムシートの少なくとも片面に薄膜層を備えたシリコーンゴム成形体に関し、各部品への追従性と保護フィルムに対する剥離性を同時に高めることができ、それでいて扱い易い、新たな成形体を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上述した課題を解決すべく鋭意検討したところ、シリコーンゴムシートと薄膜層を備えたシリコーンゴム成形体において、シリコーンゴムシートの硬さと薄膜層側の表面粘着力を特定の範囲とすることにより、追従性と保護フィルムに対する剥離性を同時に高めることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は以下を要旨とする。
【0011】
[1] シリコーンゴムシートの少なくとも片面に薄膜層を備えたシリコーンゴム成形体であって、JIS K6253-3:2012に基づいて測定される前記シリコーンゴムシートのタイプAデュロメータ硬さが1~50であり、かつ、前記シリコーンゴム成形体の薄膜層を備えた側の表面の粘着力が、接触圧2.16kgf/cm、圧着速度10mm/秒、接触時間10秒、剥離速度10mm/秒の条件で測定したプローブタック強度において50~180gfであることを特徴とするシリコーンゴム成形体。
【0012】
[2] 前記薄膜層が、アルケニル基及びアルキル基を有するシリコーン樹脂を含む、[1]に記載のシリコーンゴム成形体。
【0013】
[3] 前記薄膜層が、アルケニル基を有するシリコーン樹脂(a)及びアルキル基を有するシリコーン樹脂(b)を含む、[1]又は[2]に記載のシリコーンゴム成形体。
【0014】
[4] 前記薄膜層の表面に保護フィルムを有する、[1]~[3]のいずれかに記載のシリコーンゴム成形体。
【0015】
[5] 前記保護フィルムがポリエチレンテレフタレートフィルムである、[4]に記載のシリコーンゴム成形体。
【0016】
[6] 前記シリコーンゴムシートの少なくとも片面に薄膜層を形成する工程を備え、該薄膜層を形成する工程を、前記保護フィルムに形成された薄膜層を該シリコーンゴムシートに転写することにより行うことを特徴とする、[4]又は[5]に記載のシリコーンゴム成形体の製造方法。
【0017】
[7] 前記薄膜層を形成する工程後に、前記シリコーンゴム成形体から前記保護フィルムを剥離する工程を備える、[6]に記載のシリコーンゴム成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明が提案するシリコーンゴム成形体は、JIS K6253-3:2012に基づいて測定される前記シリコーンゴムシートのタイプAデュロメータ硬さが1~50であり、かつ、前記シリコーンゴム成形体の薄膜層を備えた側の粘着力が、接触圧2.16kgf/cm、圧着速度10mm/秒、接触時間10秒、剥離速度10mm/秒の条件で測定したプローブタック強度において50~180gfであるため、部品に対する追従性と保護フィルムからの剥離性の両方を優れたものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】シリコーンゴム成形体の一例である。
図2】プローブタックテスターを用いた粘着力の測定方法を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0021】
本発明のシリコーンゴム成形体(「本成形体」と称することがある)は、シリコーンゴムシート(「本シリコーンゴムシート」と称することがある)と薄膜層とを備えた成形体である。
【0022】
[シリコーンゴム成形体]
本成形体は、シリコーンゴムシートの少なくとも片面に薄膜層を備える。薄膜層を設ける方法は特に限定されず、従来公知の方法を採用すればよいが、例えば、シリコーンゴムシートに塗布して設ける方法や、後述する保護フィルムから転写する転写法により設けることができる。工程の簡便性や保護フィルムを積層した形でのハンドリング性等の観点から、転写法によることが好ましい。
【0023】
<シリコーンゴムシート>
本発明のシリコーンゴムシートは、JIS K6253-3:2012に基づいて測定されるタイプAデュロメータ硬さが1~50である。硬さが1以上であることにより、本シリコーンゴムシートに、取扱い性及び保護フィルムに対する剥離性を付与することができる。かかる観点から、硬さは5以上であることがより好ましく、10以上であることがさらに好ましい。一方、硬さが50以下であれば、部品に対する追従性及び密着性を付与することができる。かかる観点から、硬さは40以下であることが好ましく、30以下であることがより好ましく、20以下であることがさらに好ましい。
【0024】
本発明のシリコーンゴムシートに用いるシリコーンゴムは、特に限定されるものではないが、例えば、下記式(1)で示されるシロキサン骨格を有するシリコーンエラストマー樹脂が好ましく使用でき、これを硬化してシリコーンゴムシートとすることがより好ましい。下記式(1)において、式中のRの全てがメチル基であるポリジメチルシロキサンの他に、メチル基の一部が他のアルキル基、ビニル基、フェニル基、フルオロアルキル基等の1種又は2種以上で置換された各種ポリジメチルシロキサンを適宜選択することもできる。
【0025】
【化1】
【0026】
シリコーンエラストマー樹脂を硬化する手段は、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を採用できる。例えば、硬化触媒を添加する方法、高温加熱する方法、架橋剤を添加する方法、そして、放射線照射による架橋方法等が挙げられ、中でも、タイプAデュロメータ硬さを1~50の範囲に調整しやすいという観点から、放射線照射による方法を採用することが好ましい。
シリコーンゴムシートのタイプAデュロメータ硬さを1~50に調整する方法としては、例えば、放射線の照射量を調整する方法、シリコーンゴムに補強材として配合するシリカ等のフィラーの充填量を調整する方法、原料のシリコーンエラストマー樹脂の種類を適宜選択する方法、具体的には、フェニル基を有する樹脂を採用しフェニル基の含有量を調整する方法等が好ましく挙げられるが、上述したように、放射線照射量を調整する方法が簡便でより好ましい。
【0027】
さらに、上記シリコーンエラストマー樹脂は、フュームドシリカ、沈殿シリカ、ケイソウ土、石英粉等の補強性充填材や各種加工助剤、耐熱性向上剤等の他、エラストマーとしての機能性を持たせる各種添加剤を含有していてもよい。この機能性添加剤としては、難燃性付与剤、放熱性フィラー、導電性フィラー等が挙げられる。
【0028】
本シリコーンゴムシートの厚さは、30μm以上2000μm以下であることが好ましい。シリコーンゴムシートの厚さが30μm以上であることにより、クッション性や追従性を発揮しやすいため好ましい。一方、2000μm以下であることにより、厚み精度のよいシリコーンゴムシートとなりやすく好ましい。かかる観点から、シリコーンゴムシートの厚さは、より好ましくは50μm以上、さらに好ましくは100μm以上であり、より好ましくは1000μm以下、さらに好ましくは500μm以下である。
【0029】
<薄膜層>
薄膜層としては、付加型シリコーン樹脂、縮合型シリコーン樹脂、UV硬化型シリコーン樹脂等のシリコーン樹脂であって、塗布後、加熱あるいはUV照射等で架橋被膜を形成するものや、前述のシリコーンゴムシート架橋時に同時に架橋被膜を形成するもの等が挙げられる。中でも、前述のシリコーンゴムシートと親和性を有し、また、保護フィルムに対する剥離性を向上させる観点から、アルケニル基及びアルキル基を有するシリコーン樹脂を含むことが好ましい。アルケニル基及びアルキル基を有するシリコーン樹脂としては、官能基としてアルケニル基及びアルキル基の両方を含むシリコーン樹脂を1種類用いてもよいし、官能基としてアルケニル基を有するシリコーン樹脂(a)とアルキル基を有するシリコーン樹脂(b)をそれぞれ別々に含むことも好ましい。本発明においては、薄膜層は、アルケニル基を有するシリコーン樹脂(a)とアルキル基を有するシリコーン樹脂(b)を両方含むことがより好ましい。
【0030】
アルケニル基を有するシリコーン樹脂(a)としては、ジオルガノポリシロキサンが好ましく、例えば、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルヘキセニルシロキサン共重合体(例えば、ジメチルシロキサン単位96モル%、メチルヘキセニルシロキサン単位4モル%)、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルヘキセニルシロキサン共重合体(例えば、ジメチルシロキサン単位97モル%、メチルヘキセニルシロキサン単位3モル%)、分子鎖両末端ジメチルヘキセニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルヘキセニルシロキサン共重合体(例えば、ジメチルシロキサン単位95モル%、メチルヘキセニルシロキサン単位5モル%)等が挙げられる。
【0031】
アルキル基を有するシリコーン樹脂(b)としては、オルガノハイドロジェンポリシロキサンが好ましく、例えば、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体等が挙げられる。
【0032】
アルケニル基を有するシリコーン樹脂(a)とアルキル基を有するシリコーン樹脂(b)を併用する場合は、その含有質量比率(b)/(a)が、20/80~80/20であることが好ましい。当該比率が上記範囲であることにより、シリコーンゴムシートの保護フィルムに対する剥離性をより良好にすることができる。かかる観点から、含有質量比率は、25/75~75/25であることがより好ましく、30/70~70/30であることがさらに好ましい。
【0033】
本発明で好適に使用し得るシリコーン樹脂(a)、シリコーン樹脂(b)の具体例としては、信越化学工業(株)製のKS-774、KS-775、KS-778、KS-779H、KS-847H、K-856、X-62-2422、X-62-2461;東レ・ダウコーニング(株)製のDKQ3-202、DKQ3-203、DKQ3-204、DKQ3-205、DKQ3-210;モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製のYSR-3022、TPR-6700、TPR-6720、TPR-6721;東レ・ダウコーニング(株)製のLTC300B、LTC303E、LTC310、LTC314、SRX357、BY24-749、SD7333、BY24-179、SP7015、SP7259、SD7220、SD7226、SD7229等が挙げられる。
【0034】
薄膜層は、さらに剥離性等を調整するために、剥離コントロール剤を併用してもよい。本発明で用いられる剥離コントロール剤としては、RSiO1/2単位(式中、Rは1価の炭化水素基)及びSiO4/2単位を含むシリコーンレジンを挙げることができる。このシリコーンレジン中におけるRSiO1/2単位とSiO4/2単位の比(モル比)は、RSiO1/2単位:SiO4/2単位=0.1:1.0~1.3:1.0であることが好ましく、0.5:1.0~1.0:1.0であることがより好ましい。
【0035】
さらに上記シリコーンレジン中に、RSiO2/2単位(式中、Rは1価の炭化水素基)やRSiO3/2単位(式中、Rは1価の炭化水素基)を含んでいてもよい。また、分子中にアルケニル基などの官能基を有していても良い。
【0036】
上記剥離コントロール剤の市販品としては、例えば、商品名「KS-3800」(信越化学工業(株)製)、商品名「X-92-183」(信越化学工業(株)製)、商品名「SD7292」(東レ・ダウコーニング(株)製)、「BY24-843」(東レ・ダウコーニング(株)製)等が挙げられる。
【0037】
剥離コントロール剤の含有量(固形分)は、薄膜層を形成する樹脂成分(例えば、シリコーン樹脂)と剥離コントロール剤の合計量に対して10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることがさらに好ましい。一方上限は、70質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがさらに好ましい。剥離コントロール剤の含有量が上記範囲であることにより、本シリコーンゴムシートにおいて、粘着性と保護フィルムとの剥離性を同時に高めやすくすることができる。
【0038】
薄膜層には上述した剥離コントロール剤の他に、触媒や架橋剤等のその他の添加剤を含んでいてもよい。
【0039】
薄膜層の厚さは、シリコーンゴムシートの厚さよりも薄ければよく、特に限定はされないが、0.01μm以上10μm以下であることが好ましい。薄膜層の厚さが0.01μm以上であることにより、シリコーンゴムシートを保持しやすくなり、かつ、保護フィルムに対するシリコーンゴムシートの剥離性をより向上させることができる。一方、10μm以下であることにより、シリコーンゴムシートの粘着力を保持し、部材への密着性及び追従性の両方を維持しやすくなる。
かかる観点から、薄膜層の厚さは、より好ましくは0.015μm以上、さらに好ましくは0.05μm以上であり、より好ましくは2μm以下、さらに好ましくは1μm以下、特に好ましくは0.5μm以下である。
【0040】
本成形体において、薄膜層はシリコーンゴムシートの少なくとも片面に設けられる。本成形体を貼り合わせ材や固定材として設ける場合には、薄膜層はシリコーンゴムシートの両面に設けられることがより好ましい。
【0041】
[保護フィルム]
本発明において、保護フィルムは、薄膜層の表面に設けられ、シリコーンゴム成形体を保護する役割を担う。また、シリコーンゴムシートに薄膜層を転写して設ける場合には、転写する前の薄膜層の支持体としての役割も担う。
【0042】
上記保護フィルムは、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等を主成分とするポリエステル樹脂からなる2軸延伸フィルム、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリメチルメタアクリレート、ポリイミド等からなるフィルム状のもの等が挙げられる。このうち、ポリエチレンテレフタレートの2軸延伸フィルムは、強靱で耐熱性及び剛性が優れており、入手も一般に容易であることから好ましいものである。
【0043】
保護フィルムは、必要に応じてさらに上述した薄膜層を形成させることにより、薄膜層の転写用フィルムとして使用することもできる。
【0044】
[本成形体の製造方法]
本成形体の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、以下のような方法を用いることができる。
【0045】
例えば、シリコーンゴムシート上に薄膜層を形成させ、その後に、薄膜層上に保護フィルムを、例えばラミネートすることにより、製造することができる。シリコーンゴムシート上に薄膜層を形成させる方法としては、公知の方法を適宜採用することができる。例えば、シリコーンゴムシート上に吹き付け塗装、浸漬コーティング、スピンコーティング、ナイフコーティング、キスコーティング、グラビアコーティング、スクリーン印刷、インクジェット印刷、パッド印刷及びロールコーティング等を施すことにより、薄膜層を設けることができる。その後、上述した保護フィルムをラミネートすることにより本成形体を得ることができる。
【0046】
また、シリコーンゴムシートの少なくとも片面に薄膜層を形成する工程を備え、薄膜層を形成する工程を、保護フィルムに形成された薄膜層をシリコーンゴムシートに転写することにより行う方法がより好ましく挙げられる。この方法により、シリコーンゴムシート上に薄膜層をより簡便に設けることができ、かつ、保護フィルムも同時に形成することができる。
【0047】
後者の方法について、より具体的に説明する。
まず、保護フィルムの表面に薄膜層を形成させる。薄膜層の形成方法としては、シリコーンゴムシート上に薄膜層を形成させる方法と同様に公知の方法を適宜採用することができる。また、保護フィルムと薄膜層との密着性を調整する目的で、保護フィルム表面にコロナ処理等の表面処理を行ってもよいし、保護フィルムと薄膜層との間に下塗り層等の他の層を適宜設けてもよい。
【0048】
次に、保護フィルムに形成された薄膜層上に、例えば、未硬化のシリコーンエラストマー樹脂を重ね、両者を同時に架橋して薄膜層とシリコーンゴムシートを一体的に成形することにより、シリコーンゴムシートに薄膜層が転写された本成形体を得ることができる。
【0049】
薄膜層と未架橋のシリコーンエラストマー樹脂を同時に架橋して薄膜層とシリコーンゴムシートを一体的に成形するためには、放射線を用いて硬化させることが好ましい。放射線による硬化は、触媒や架橋剤の残渣等による耐熱、耐光信頼性を損なう懸念が少ない。また、硬化時に熱が加わらないため、熱劣化の懸念も少なく好ましい。
【0050】
放射線としては、例えば、電子線、X線、γ線等が挙げられる。これらの放射線は工業的にも広く利用されているものであり、容易に利用可能であり、エネルギー効率の良い方法である。これらの中でも、吸収損失がほとんどなく、透過性が高いという観点から、γ線を利用することが好ましい。
【0051】
γ線の照射線量としては、樹脂種や架橋基の量、そして線源の種類により、適宜選択して決定することができる。本成形体において、例えば、γ線の照射線量は、20~150kGyであることが好ましい。照射線量が20kGy以上であれば、シリコーンゴムシートを十分に硬化させることができる。一方、照射線量が150kGy以下でれば、シリコーンゴムシートが過剰に硬化することを防ぐことができ、それに伴うシリコーンゴムシートの粘着力の低下を抑制することができる。特に、シリコーンゴムシートのタイプAデュロメータ硬さを1~50に調整しやすい観点から、照射線量はより好ましくは30kGy以上、さらに好ましくは40kGy以上であり、より好ましくは120kGy以下、さらに好ましくは100kGy以下である。
【0052】
このように、保護フィルム上に形成した薄膜層をシリコーンゴムシートに転写することによりシリコーンゴム成形体と保護フィルムとの積層体を得た後、該積層体から保護フィルムを剥離することにより、本発明のシリコーンゴム成形体を得ることができ、このようにして得られたシリコーンゴム成形体は、各種用途に適宜使用することができる。
【0053】
[用途]
本成形体の用途は特に限定されないが、部品への適度な密着性と追従性を活かして様々な用途に使用することができる。例えば、携帯電話やデジタルカメラ等の電子機器内のクッション材やパッキン材、液晶ディスプレイやフレームの固定、液晶パネルと保護パネルとの層間充填材、タッチパネル用貼り合わせ材、液晶テレビやモニターのフレーム内クッション材、固定材等に使用できる。
これらの中でも、部品への密着性及び透明性に優れるものは光学用途に好適に使用することができる。
【0054】
[本成形体の物性]
(粘着力)
本成形体は、薄膜層を備えた側の表面の粘着力が、接触圧2.16kgf/cm、圧着速度10mm/秒、接触時間10秒、剥離速度10mm/秒で測定したプローブタック強度において50~180gfである。なお、後述の通り、本発明におけるプローブタック強度とは、厚み100μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムをプローブに貼り付けて測定を行った際のプローブタック強度をいう。
【0055】
図1及び図2に従い、本発明の粘着力の測定方法をより具体的に説明する。まず、図1に本成形体1の一例を示す。粘着力の測定にあたり、シリコーンゴムシート(1a)と薄膜層(1b)と保護フィルム(1c)とを備えた積層体(1)について、保護フィルム(1c)を剥離した後のシリコーンゴム成形体(2)を準備する。
図2は、プローブタックテスターを用いた粘着力の測定方法を示す。あらかじめ、プローブ(10)に、保護フィルム(1c)の代替となる厚み100μmのPETフィルム(1c)(三菱ケミカル(株)製二軸延伸PET:T-100)を、両面テープ(日東電工(株)製 No.501F)で貼り付けておく。次に、先端にPETフィルム(1c)が貼着されたプローブ(10)を、接触圧2.16kgf/cm、圧着速度10mm/秒、接触時間10秒の条件でシリコーンゴム成形体(2)と接触させる。その後、ただちに10mm/秒の速度でプローブを粘着面から垂直方向に引きはがし、引きはがす際の最大荷重をシリコーンゴム成形体の粘着力とした。
【0056】
プローブタック強度が50gf以上180gf以下であれば、例えば、密着固定する部材等への密着性を確保しつつ、かつ、本成形体から保護フィルムを容易に剥がすことができ、作業性に優れるため好ましい。かかる観点から、プローブタック強度はより好ましくは70gf以上、さらに好ましくは100gf以上であり、より好ましくは170gf以下、さらに好ましくは160gf以下である。
本発明においては、シリコーンゴムシートの硬さが1~50と比較的低硬度であるにもかかわらず、プローブタック強度を50~180gfの適切な範囲に調整することにより、部品に対する追従性と保護フィルムからの剥離性の相反する2つの特性をバランスよく優れたものとすることができる。
【0057】
プローブタック強度を上述の範囲に調整する方法としては、例えば、薄膜層に適当な表面粗さを付与する方法、薄膜層の材料(例えば、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、オレフィン樹脂等)を調整する方法、薄膜層の表面を改質(コロナ処理、下塗り層を設ける等)する方法、シリコーンゴムシートのゴム硬度を調整する方法、剥離コントロール剤を適宜配合する方法等が挙げられるが、シリコーンゴムシートとの親和性の観点から、薄膜層に用いる樹脂種を調整する方法、具体的には、上述したように、アルケニル基及びアルキル基を有するシリコーン樹脂、特に、アルケニル基を有するシリコーン樹脂(a)及びアルキル基を有するシリコーン樹脂(b)を併用する方法が特に好ましい。
また、薄膜層を形成させるにあたり、薄膜層と未架橋のシリコーンエラストマー樹脂を同時に架橋する際のγ線の照射量を適宜調整することもまた好ましい。粘着力を調整しやすい観点から、γ線の照射量は20kGy以上であることが好ましく、40kGy以上であることがより好ましく、50kGy以上であることがさらに好ましい。照射量の上限は150kGyであることが好ましく、120kGyであることがより好ましく、100kGyであることがさらに好ましい。
【0058】
(全光線透過率)
本成形体が光学用途に適用される場合、厚み300μmにおける全光線透過率が85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることがさらに好ましい。全光線透過率が85%以上であれば、シートの透明性が十分であるために光学用途に好ましく適用することができる。なお、全光線透過率は、JIS K7361-1:1997に準じて分光光度計を用いて測定することができる。
【0059】
[用語の説明]
一般的に「フィルム」とは、長さ及び幅に比べて厚みが極めて小さく、最大厚みが任意に限定されている薄い平らな製品で、通常、ロールの形で供給されるものをいい(日本工業規格JIS K6900:1994)、一般的に「シート」とは、JISにおける定義上、薄く、一般にその厚みが長さと幅のわりには小さく平らな製品をいう。しかし、シートとフィルムの境界は定かでなく、本発明において文言上両者を区別する必要がないので、本発明においては、「フィルム」と称する場合でも「シート」を含むものとし、「シート」と称する場合でも「フィルム」を含むものとする。
【0060】
本発明において、「主成分」と表現した場合には、特に記載しない限り、当該主成分の機能を妨げない範囲で他の成分を含有することを許容する意を包含する。また、当該主成分の含有割合を特定するものではないが、特に記載しない限り、主成分は対象物中の50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上(100質量%含む)を占める意を包含するものである。また、2種類以上の樹脂が主成分を構成する場合、各樹脂の対象物中の割合は10質量%以上、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上である。
【0061】
また、本発明において「X~Y」(X、Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」或いは「好ましくはYより小さい」の意も包含する。
さらにまた、「X以上」(Xは任意の数字)或いは「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、「Xより大きいことが好ましい」或いは「Y未満であることが好ましい」旨の意図も包含する。
【実施例
【0062】
以下に実施例を示し、本発明を更に具体的に説明する。但し、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で種々の応用が可能である。
【0063】
<測定及び評価方法>
先ずは、実施例・比較例で得たサンプルの各種物性値の測定方法及び評価方法について説明する。
【0064】
(シリコーンゴムシートの硬さ(タイプAデュロメータ硬さ))
JIS K6253-3:2012に基づき、タイプAデュロメータ(高分子計器(株)製)を用い、後述の方法で得られたシリコーンゴム成形体のシリコーンゴムシート側から測定した。得られた結果を表1に示す。
【0065】
(プローブタック強度(粘着力の評価))
ニチバン(株)製 NS PROBE TACK TESTERを用いて、上述の方法に従い測定した。得られた結果を表1に示す。
【0066】
(剥離性評価)
後述の方法で得られたシリコーンゴム成形体と保護フィルムとの剥離性について、以下の基準により評価した。得られた結果を表1に示す。
○:剥離が軽く、作業に問題のないレベル。
△:剥離がやや重く、作業性は問題のあるレベル。
×:剥離が重く、作業に支障をきたすレベル。
【0067】
(追従性評価)
保護フィルム剥離後のシリコーンゴム成形体の薄膜層側を、段差500μmの凹面に押し込むことにより、追従性を以下基準により目視評価した。
○:シリコーンゴム成形体が凹面に追従して段差に押し込まれている。
×:シリコーンゴム成形体が凹面に追従して段差に押し込まれておらず、シワ、隙間がある。
【0068】
<実施例1>
まず、二軸延伸PETフィルム(厚み75μm)の表面に、下記薄膜層の組成物をバーコート法により塗布し、120℃で乾燥、固化して、下記組成の薄膜層(厚み0.1μm)を予め備えた保護フィルムを準備した。
シリコーンゴムシートの原料として、ミラブル型シリコーンエラストマー樹脂(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製 TSE-200A)を使用し、直径100mmの2本カレンダに沿って供給された上記保護フィルムの薄膜層間に上記シリコーンエラストマー樹脂を投入し、ロール温度80℃の条件でロールにバンクを形成させ、保護フィルムとシリコーンゴムシートの積層体を作製した。得られた積層体に、吸収線量が50kGyとなるようにγ線を照射し、シリコーンゴムを架橋させることにより保護フィルムとシリコーンゴムシートとの積層体を得た。シリコーンゴムシートの厚みは1000μmであった。得られた積層体から保護フィルムを剥離する際の剥離性と、剥離した後のシリコーンゴムシートと薄膜層の一体成形体について、上記方法で評価した結果を表1に示す。
(薄膜層組成)
硬化型シリコーン樹脂(X-62-5039:信越化学工業(株)製)14質量部
剥離コントロール剤(KS-3800:信越化学工業(株)製)6.0質量部
架橋剤(X-92-185:信越化学工業(株)製)0.4質量部
触媒(PL-5000:信越化学工業(株)製)1.0質量部
MEK/トルエン/n-ヘプタン混合溶媒(混合比率は1:1:1(体積比))で希釈
【0069】
<実施例2>
実施例1において、シリコーンエラストマー樹脂をモメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製 TSE-2913Uに変更した以外は実施例1と同様にして、保護フィルムとシリコーンゴム成形体との積層体を得た。得られた積層体から保護フィルムを剥離した後のシリコーンゴム成形体について評価した結果を表1に示す。
【0070】
<比較例1>
実施例1において、薄膜層を有しない保護フィルム(三菱ケミカル(株)製二軸延伸PET T-100、厚み100μm)を用いた以外は、実施例1と同様にして保護フィルムとシリコーンゴム成形体との積層体を得た。得られた積層体から保護フィルムを剥離した後のシリコーンゴム成形体について評価した結果を表1に示す。
【0071】
<比較例2>
実施例1において、シリコーンエラストマー樹脂を、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製 TES-2571-5Uに変更した以外は実施例1と同様にして、保護フィルムとシリコーンゴム成形体との積層体を得た。得られた積層体から保護フィルムを剥離した後のシリコーンゴム成形体について評価した結果を表1に示す。
【0072】
<比較例3>
実施例1において、保護フィルムをダイセルバリューコーティング(株)製 T788(薄膜層としてシリコーン樹脂を含有しないもの)に変更した以外は、実施例1と同様にして、保護フィルムとシリコーンゴム成形体との積層体を得た。得られた積層体から保護フィルムを剥離した後のシリコーンゴム成形体について評価した結果を表1に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
(考察)
片面に薄膜層を備えた実施例1、2のシリコーンゴム成形体は、低硬度ゴムであるにも関わらず保護フィルムに対する剥離性が高く、段差への追従性も良好であった。
一方、薄膜層を備えない比較例1のシリコーンゴム成形体は、プローブタック強度が180gfを超え、追従性は良好であるものの、保護フィルムの剥離が重く作業上支障をきたすものであった。
シリコーンゴムシートの硬さが高い比較例2のシリコーンゴム成形体は、プローブタック強度が180gfを超え保護フィルムの剥離がやや重く、段差への追従性にも劣るものであった。
シリコーン樹脂を有しない薄膜層を備えた比較例3のシリコーンゴム成形体は、追従性は良好であるものの、プローブタック強度が180gfを超え保護フィルムの剥離性がやや重く、作業性が問題のあるレベルであった。
【符号の説明】
【0075】
1 積層体
1a シリコーンゴムシート
1b 薄膜層
1c 保護フィルム(PETフィルム)
2 シリコーンゴム成形体
10 プローブ
11 SUS製枠体
12 調整スペーサー
13 サンプル固定錘
図1
図2